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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023010380
(43)【公開日】2023-01-20
(54)【発明の名称】鋳造方法並びにこれを用いた鋳物
(51)【国際特許分類】
   B22D 19/14 20060101AFI20230113BHJP
   B22D 19/00 20060101ALI20230113BHJP
   B22C 9/08 20060101ALI20230113BHJP
   B22D 27/20 20060101ALI20230113BHJP
【FI】
B22D19/14 A
B22D19/00 E
B22D19/00 W
B22C9/08 102B
B22C9/08 E
B22D19/00 V
B22D27/20 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021114471
(22)【出願日】2021-07-09
(71)【出願人】
【識別番号】000155366
【氏名又は名称】株式会社木村鋳造所
(74)【代理人】
【識別番号】100102048
【弁理士】
【氏名又は名称】北村 光司
(74)【代理人】
【識別番号】100146503
【弁理士】
【氏名又は名称】高尾 俊雄
(72)【発明者】
【氏名】菅野 利猛
(72)【発明者】
【氏名】岩見 祐貴
(72)【発明者】
【氏名】菅野 龍馬
【テーマコード(参考)】
4E093
【Fターム(参考)】
4E093PA03
(57)【要約】
【課題】 硬質粒子間に溶湯をより円滑に含浸させることで硬質部分の硬度を向上させると共に、硬質分と他の鋳物部分との一体化の程度を向上させた鋳物を製作する鋳造方法並びにこれを用いた鋳物を提供すること。
【解決手段】 硬質粒子及びバインダーよりなる粒子成形体6を鋳型1内にセットした後に注湯を行い、硬質粒子間に溶湯を含浸させて形成した硬質部分を他の鋳物部分と一体化させた鋳物を製作する。発熱剤及びバインダーよりなる発熱成形体7を硬質部分の表面に相当する部位の粒子成形体6に接当させた状態で鋳型1内にセットすると共に、注湯用の主湯道9とは別の副湯道10を発熱成形体7に対して形成し、主湯道への注湯とは別に副湯道10への注湯により発熱剤を発熱させる。
【選択図】 図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
硬質粒子及びバインダーよりなる粒子成形体を鋳型内にセットした後に注湯を行い、前記硬質粒子間に溶湯を含浸させて形成した硬質部分を他の鋳物部分と一体化させた鋳物を製作する鋳造方法であって、
発熱剤及びバインダーよりなる発熱成形体を前記硬質部分の表面に相当する部位の前記粒子成形体に接当させた状態で鋳型内にセットすると共に、前記注湯用の主湯道とは別の副湯道を前記発熱成形体に対して形成し、
前記主湯道への注湯とは別に前記副湯道への注湯により前記発熱剤を発熱させる鋳造方法。
【請求項2】
前記主湯道への注湯より先に前記副湯道へ注湯する請求項1記載の鋳造方法。
【請求項3】
前記硬質粒子は、平均粒径の異なるものを2種類以上混合したものである請求項1または2記載の鋳造方法。
【請求項4】
前記硬質粒子は、平均粒径の異なるものを3種類以上混合したものである請求項1~3のいずれかに記載の鋳造方法。
【請求項5】
前記硬質粒子が、重量比率において、大粒子50~88%と大粒子の平均粒径の1/10~1/4である中粒子12%~50%より構成される請求項1~3のいずれかに記載の鋳造方法。
【請求項6】
前記硬質粒子が、重量比率において、大粒子50~88%と大粒子の平均粒径の1/10~1/4である中粒子8%~46%と中粒子の平均粒径の1/10~1/4である小粒子4%~25%とより構成される請求項1~4のいずれかに記載の鋳造方法。
【請求項7】
前記粒子成形体にTeを添加してある請求項1~6のいずれかに記載の鋳造方法。
【請求項8】
前記溶湯が、FC100~FC350、FCD350~FCD800または高Cr鋳鉄のいずれかの一である請求項1~7のいずれかに記載の鋳造方法。
【請求項9】
フルモールド鋳造法に適用されるものであり、消失模型の一部に前記粒子成形体及び前記発熱成形体を積み重ねた状態で鋳型を形成する請求項1~8のいずれかに記載の鋳造方法。
【請求項10】
請求項1~8のいずれかに記載の鋳造方法により鋳造され、前記発熱剤の発熱により前記硬質粒子間に溶湯を含浸させて形成した硬質部分を他の鋳物部分と一体化させた鋳物。
【請求項11】
前記硬質粒子間に溶湯を含浸させて形成した硬質部分をプレス金型の切り刃若しくは曲げ刃または工作機械の摺動部または耐摩耗性管等に配置した請求項10記載の鋳物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鋳造方法並びにこれを用いた鋳物に関する。さらに詳しくは、硬質粒子及びバインダーよりなる粒子成形体を鋳型内にセットした後に注湯を行い、前記硬質粒子間に溶湯を含浸させて形成した硬質部分を他の鋳物部分と一体化させた鋳物を製作する鋳造方法並びにこれを用いた鋳物に関する。
【背景技術】
【0002】
鋳物の特定部位における耐摩耗性や硬度等を向上させる方法として、鋳型の特定部位に硬質粒子及びバインダーの混錬物を塗布し、鋳込みの金属との複合化により、同目的を達成する方法が知られている(例えば特許文献1)。しかし、当該方法では、改質用表面層が直接鋳物の地鉄と接合されているために、これらの界面に大きな残留応力が生じて剥離や亀裂が生じやすいという問題があった。その点を、特許文献2では溶着用の裏地層の介在により解決している。
【0003】
しかし特許文献2の技術では、裏地層の厚さが大きくなるにつれ、裏地層内のカーボニル鉄粉を溶かすために必要な熱量が多くなり、カーボニル鉄粉と溶湯の混合金属の温度が低下し、改質用表面層の昇温が困難となり、端部まで溶湯が十分に含浸しにくくなる。これは改質用表面層内の硬質粒子の粒径が小さくなるにつれて顕著となる。また、改質用表面層にカーボニル鉄粉と溶湯の混合金属が含浸するため、硬度が極端に下がる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第3061332号公報
【特許文献2】特開2003-220462号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
かかる従来の実情を鑑みて、本発明は、硬質粒子間に溶湯をより円滑に含浸させることで硬質部分の硬度を向上させると共に、硬質分と他の鋳物部分との一体化の程度を向上させた鋳物を製作する鋳造方法並びにこれを用いた鋳物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この目的を達成するため、本発明にかかる鋳造方法の特徴は、硬質粒子及びバインダーよりなる粒子成形体を鋳型内にセットした後に注湯を行い、前記硬質粒子間に溶湯を含浸させて形成した硬質部分を他の鋳物部分と一体化させた鋳物を製作する方法において、発熱剤及びバインダーよりなる発熱成形体を前記硬質部分の表面に相当する部位の前記粒子成形体に接当させた状態で鋳型内にセットすると共に、前記注湯用の主湯道とは別の副湯道を前記発熱成形体に対して形成し、前記主湯道への注湯とは別に前記副湯道への注湯により前記発熱剤を発熱させることにある。
【0007】
同方法によれば、主湯道への注湯とは別に副湯道への注湯により発熱剤を発熱させることで、主湯道の注湯前に発熱剤が着火されて加温されている状態となる。粒子成形体には発熱成形体が接当しているため、粒子成形体が予熱加温された状態で、主湯道から注湯された溶湯は粒子成形体に接するため、粒子成形体の粒子間に溶湯が容易に含浸することとなる。仮に、粒子成形体が入り組んだ他の鋳物部分の先に配置されていても、別途発熱成形体の着火による加温で熱の供給がなされるため、入り組みを原因とした溶湯温度の低下に伴う粒子成形体と他の鋳物部分との間の含浸不良や密着不良は発生しにくく、成型品の品質を向上させうる。
【0008】
上記構成において、前記主湯道への注湯より先に前記副湯道へ注湯することが望ましい。同方法によれば、主湯道への注湯前に発熱成形体が副湯道への注湯によりすでに発熱することになり、上記含浸の程度が向上しやすいからである。発明者らの実験によれば、前記硬質粒子は、平均粒径の異なるものを2種類以上混合したものが望ましい。同構成によれば、硬質粒子間にさらに粒径の小さな硬質粒子が配置され、硬質粒子の充填度の向上により、硬質部分の硬度が向上するからである。しかも、上記発熱成形体による予熱加温で硬質粒子間への含浸も十分に維持されていることが判明した。
【0009】
発明者らの実験によれば、前記硬質粒子は、平均粒径の異なるものを3種類以上混合したものが望ましい。理由は先の特徴に同じである。
【0010】
ところで、平均粒径の異なるものを2種類以上混合したものが望ましいとは、さらに具体的には、前記硬質粒子が、重量比率において、大粒子50~88%と大粒子の平均粒径の1/10~1/4である中粒子12%~50%より構成されることである。
【0011】
また、平均粒径の異なるものを3種類以上混合したものが望ましいとは、さらに具体的には、前記硬質粒子が、重量比率において、大粒子50~88%と大粒子の平均粒径の1/10~1/4である中粒子8%~46%と中粒子の平均粒径の1/10~1/4である小粒子4%~25%とより構成されることである。
【0012】
さらに、前記粒子成形体にTeを添加するとよい。
【0013】
前記溶湯としては、FC100~FC350、FCD350~FCD800または高Cr鋳鉄のいずれかの一つを用いることができる。
【0014】
実施にあたっては、フルモールド鋳造法に適用し、消失模型の一部に前記粒子成形体及び前記発熱成形体を積み重ねた状態で鋳型を形成するとよい。
【0015】
一方、本発明にかかる鋳物は、上記特徴のいずれかに記載の鋳造方法により鋳造され、前記発熱剤の発熱により前記硬質粒子間に溶湯を含浸させて形成した硬質部分を他の鋳物部分と一体化させた鋳物である。
【0016】
この鋳物は、前記硬質粒子間に溶湯を含浸させて形成した硬質部分をプレス金型の切り刃若しくは曲げ刃または工作機械の摺動部または耐摩耗性管等に配置するとよい。
【発明の効果】
【0017】
このように、上記本発明の特徴によれば、硬質粒子間に溶湯をより円滑に含浸させることで硬質部分の硬度を向上させると共に、硬質分と他の鋳物部分との一体化の程度を向上させた鋳物を製作する鋳造方法並びにこれを用いた鋳物を提供することが可能となった。
【0018】
本発明の他の目的、構成及び効果については、以下の発明の実施の形態の項から明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】造形時(注湯前)の鋳型の概略断面図である。
図2】粒子成形体と発泡模型の外観である。
図3】実験例1で製造した複合材の製品外観であり、(a)は発熱成形体を利用したもの、(b)は発熱成形体を利用していないものである。
図4】実験例2~8における硬度を示したグラフである。
図5】実験例4で製造した複合部の組織写真である。
図6】実験例2~9における硬度を示したグラフである。
図7】実験例4、9~12における硬度を示したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
次に、適宜添付図面を参照しながら、本発明をさらに詳しく説明する。図1にフルモールド鋳造法に本発明を適用した例の鋳型1の概略図を示す。鋳型枠2内には、粒子を粘結材で結合して成形した粒子成形体6を角の切り欠き部5aにセットした消失模型5が設けられている。一方、粘結材で発熱剤を結合して成形した発熱成形体7の角の切り欠き部7aに粒子成形体6の他の面を接当させて配置している。発熱材は鋳造用発熱剤を使用する。
【0021】
掛けゼキ8に注湯した溶湯を消失模型5まで流す主湯道9を形成するように、陶管9aとエルボ材9bが設けられている。一方、注湯用の主湯道9とは別の着火用の副湯道10を鋳型上部から発熱成形体7に至るまでに形成するように、陶管10aとエルボ材10bが設けられている。そして、これらの各要素の外面には鋳物砂3が充填されている。消失模型5の周囲には、塗型材11の層が、先の切り欠き部5a、主湯道9及び副湯道10を除き設けられている。
【0022】
鋳型1の造形後、発熱剤着火用の副湯道10に溶湯が入れられて発熱剤が着火して予熱加熱が行われる。そして、掛けゼキ8に注湯が行われて、主湯道9より消失模型5部分に注湯される。発熱成形体7は着火により予熱加熱を粒子成形体6に対して行い、粒子成形体の粒子間に溶湯が含浸し、金属と粒子成形体が複合した鋳物製品となる。
【0023】
フルモールド鋳造法は、非量産物や大物鋳物の製造に向いている鋳造法である。発泡スチロールで消失模型5を作成し、この発泡スチロールと鋳鉄溶湯を置換して鋳物をつくる方法である。鋳物の任意の場所に粒子成形体を設置するための空間を、上述の角の切り欠き部5aのように作成でき、鋳物の設計を容易に行えるため、本発明を適用しやすい。また、木型法と異なり、造形作業前に発泡模型5上に、例えば切り欠き部5aを介して粒子成形体6を設置し、その後、切り欠き部7aを有する発熱成形体7を設置することができ、製造効率が高い。
【0024】
硬質粒子としてはWCを使用するが、SiC(シリコンカーバイド)やアルミナ等を用いても良い。これにより注湯金属よりも硬度が高い複合部を製造することができ、製品指定箇所の耐摩耗性等を向上させることができる。
【0025】
後述の実験例によれば、前記硬質粒子は、平均粒径の異なるものを2種類以上混合したものが望ましい。同構成によれば、硬質粒子間にさらに粒径の小さな硬質粒子が配置され、硬質粒子の充填度の向上により、硬質部分の硬度が向上するからである。しかも、上記発熱成形体による予熱加温で硬質粒子間への含浸も十分に維持されていることが判明した。また、後述の実験例によれば、前記硬質粒子は、平均粒径の異なるものを3種類以上混合したものが望ましい。理由は2種以上混合の場合に同じである。
【0026】
ところで、平均粒径の異なるものを2種類以上混合したものが望ましいとは、さらに具体的には、前記硬質粒子が、重量比率において、大粒子50~88%と大粒子の平均粒径(以下、「粒径」は「平均粒径を意味する」)の1/10~1/4である中粒子12%~50%より構成されることである。3種類以上混合の場合も同様であるが、この範囲に収まらなくても硬質粒子の充実度の向上がなされ、当発明の効果増強に寄与しうることは言うまでもない。
【0027】
硬質粒子は同材質である場合、粒径が異なっても比重自体は変わらない。したがって、本明細書では、重量比率と体積比率とは同等の意味で解釈し、さらに、計量は重量比率で行っているものとする。
【0028】
中粒子の粒径は大粒子の粒径の1/10~1/4が好ましく、さらに好ましくは1/7が良い。中粒子の粒径を大粒子の粒径の1/7とした場合、大粒子を最密充填した場合の大粒子同士の間隙にも粒子が入り込むことができ、充填率が向上する。中粒子の平均粒径が大粒子径の1/4より大きい場合は中粒子の径が大きく、大粒子間の間隙に入りにくいため充填率の向上が期待しにくくなる。1/10より小さい場合は大粒子間の間隙に粒子が入るが、粒子同士を結合させるために必要な粘結材の使用量が徒に増え、溶湯含浸後の硬質粒子成形体に粘結材の残留物が増加する。
【0029】
発明者らは理想的な1/7粒径比の2種類の粒子効果確認のため、粒径70μmの大粒子、粒径10μmの中粒子を混合した際の充填率を計算した。2ピークの粒度分布を持つ粒子成形体では、2粒子の重量(体積)比率の内、中粒子の重量(体積)比率を12~50%にすると充填率が69%を超えて良好になることが分かった。また、重量(体積)比が大粒子:中粒子が3:1(すなわち中粒子比率25%)の時に最も充填率が良いことが確認できた。これは大粒子の間隙に中粒子が入り込み、粒子成形体の空隙率が減少したためと考えられる。
【0030】
この時、大粒子の重量(体積)比率が50%を下回ると大粒子同士の間隙が少なくなり、間隙外に充填される中粒子が増え、充填率が上がらない。88%を上回ると大粒子間の間隙に入る中粒子が少なくなり、粒子成形体内部の空隙が多くなる。また、中粒子の重量(体積)比率を50%より多くした場合は粘結材の使用量が徒に増えることは上述のとおりである。
【0031】
また、平均粒径の異なるものを3種類以上混合したものが望ましいとは、さらに具体的には、前記硬質粒子が、重量比率において、大粒子50~88%と大粒子の平均粒径の1/10~1/4である中粒子8%~46%と中粒子の平均粒径の1/10~1/4である小粒子4~25%とより構成されることである。
【0032】
3種類の粒径を用いる趣旨は、上述の如く大粒子と中粒子の採用により充填度が向上するのであれば、同様の関係を中粒子と小粒子の関係に適用することで、幾何学的相似関係により、さらに粒子充填度を向上させることにある。よって、大粒子の平均粒径の1/10~1/4である中粒子と、中粒子の平均粒径の1/10~1/4である小粒子とをさらに用いることとなる。また、中粒子、小粒子の粒径は、さらに好ましくは、それぞれ大粒子、中粒子径の1/7が良いことも同様である。そして、これらの範囲を超える場合の不都合についても上述のとおりである。
【0033】
発明者らは粒径の異なる3種類の粒子を混合した際の充填率を計算した。大粒子の粒径を互いに略1/7の関係となるように、大粒子を70μm、中粒子を10μm、小粒子を1.4μmとした。
【0034】
上記2種類の粒子配合の計算結果より、中粒子が重量(体積)比率において25%の時に充填率が最大となり、この条件下の空隙に小粒子を詰め込めばさらに充填率は向上すると考えられる。よって、中粒子の重量(体積)比率を25%と固定し、大粒子と小粒子の比率を変化させて計算を行った。同計算結果によれば、小粒子の重量(体積)比率を4~31%とすると充填率が80%を超えて良好になることが分かった。
【0035】
この時、小粒子の重量(体積)比率が4%を下回ると間隙に入る粒子が少なくなり、充填率の向上が期待しがたく、25%を上回ると粘結材の使用量が徒に増える不都合がある。小粒子は大粒子と中粒子の関係を幾何学的相似関係で補うものであるから、大粒子の重量(体積)比率は2ピーク粒度分布で採用された50~88%を用いるのが望ましい。また、小粒子の重量(体積)比率は4~25%を採用すると、中粒子の重量(体積)比率は8~46%となる。
【0036】
粒子成形体にTeを添加してもよく、粒子自体にTeを添加するか、粒子のバインダーにTeを添加してもよいが、前者がより望ましい。Teの添加により、後述の如く複合部含浸金属にチルが発生し、硬度が向上する。
【0037】
注湯金属は球状黒鉛鋳鉄や片状黒鉛鋳鉄や高Cr鋳鉄等を用いても良い。注湯金属を変えることで複合部の硬度を種々に選択できる。
【実施例0038】
以下、実施例及び比較例を実験例として示し、本発明を具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に制限されるものではない。
【0039】
本発明者らはまず粒子成形体に溶湯を効率よく含浸させるための実験を行った。
【0040】
(実験例1)
硬質粒子として、平均粒径81μmのWC(タングステンカーバイド)を使用し、これに硬質粒子の粘結材として水ガラスを3wt%添加し、粒子成形体を作成した。図2に実験に使用した粒子成形体と消失模型を示す。粒子成形体は□20mm×L120mmとなるように製造した。得られた粒子成形体を発泡模型に設置した後、粒子成形体の半分の周辺に水ガラスを10wt%添加して成形した発熱剤を設置し、もう一方には何も設置せずに鋳型枠内に配置した。その後、発熱剤着火用と注湯用の湯道を作成し、鋳型枠内に砂込めし、注湯用湯道の上部にカケゼキを設置して鋳型を作成した。作成した鋳型の着火用の湯道に溶湯を入れて発熱材を着火させ、片方の粒子成形体を加熱した後にカケゼキに注湯を行い、粒子成形体に溶湯を含浸させた。
【0041】
図3に注湯後の製品形状を示すが、同図(a)は発熱成形体を利用したもの、(b)は発熱成形体を利用していないものである。同図(a)の発熱剤を使用した例は、母材鋳物(他の鋳物部分)25と硬質粒子成形体複合部(硬質部分)26とがそれぞれ美しく成形され、箇所の粒子成形体は端部まで溶湯が含浸していることが確認できた。これに対し、同図(b)では、硬質粒子成形体複合部(硬質部分)26の角が丸くなっており、隅まで溶湯が含浸していないことが伺える。WCと溶湯金属は温度差がある場合に濡れ性が無くなる。また、粒子空隙に含浸する溶湯の熱が粒子に伝導して温度が次第に下がり、凝固して含浸しなくなる。発熱剤を使用した場合は、注湯前に粒子成形体の昇温を十分に行えるため、溶湯と粒子成形体の温度差を少なくしつつ含浸する溶湯の温度が下がりにくくできるため含浸効率が向上した。
【0042】
次に、本発明者らは複合部の硬度を向上させるため種々の実験を行った。
【0043】
(実験例2)
硬質粒子として、平均粒径81μmのWCを使用し、これに硬質粒子の粘結材として水ガラスを0.3wt%添加し、粒子成形体を作成した。発熱材は水ガラスを10wt%添加し成形を行った。注湯材質はFCD700とした。
【0044】
(実験例3)
硬質粒子として、平均粒径26μmのWCを使用し、これに硬質粒子の粘結材として水ガラスを0.3wt%添加し、粒子成形体を作成した。発熱材は水ガラスを10wt%添加し成形を行った。注湯材質はFCD700とした。
【0045】
(実験例4)
硬質粒子として、平均粒径8μmのWCを使用した。平均粒径8μmのみで成形体を作る際は水ガラスの量が少ないと成形が困難なため、水ガラスは1.2wt%添加し、粒子成形体を作成した。発熱材は水ガラスを10wt%添加し成形を行った。注湯材質はFCD700とした。
【0046】
(実験例5)
硬質粒子として、平均粒径81μmのWCと平均粒径8μmのWCを体積比で70:30になるように混錬した少なくとも2ピークの粒度分布を持つ粒子を使用し、これに硬質粒子の粘結材として水ガラスを0.6wt%添加し、粒子成形体を作成した。発熱材は水ガラスを10wt%添加し成形を行った。注湯材質はFCD700とした。
【0047】
(実験例6)
硬質粒子として、平均粒径26μmのWCと平均粒径3.17μmのWCを体積比で70:30になるように混錬した少なくとも2ピークの粒度分布を持つ粒子を使用し、これに硬質粒子の粘結材として水ガラスを1.2wt%添加し、粒子成形体を作成した。発熱材は水ガラスを10wt%添加し成形を行った。注湯材質はFCD700とした。
【0048】
(実験例7)
硬質粒子として、平均粒径81μmのWCと平均粒径8μmのWC、平均粒径1.50μmのWCを体積比で65:25:10になるように混錬した少なくとも3ピークの粒度分布を持つ粒子を使用し、これに硬質粒子の粘結材として水ガラスを0.9wt%添加し、粒子成形体を作成した。発熱材は水ガラスを10wt%添加し成形を行った。注湯材質はFCD700とした。
【0049】
(実験例8)
硬質粒子として、平均粒径26μmのWCと平均粒径3.17μmのWC、平均粒径0.72μmのWCを体積比で65:25:10になるように混錬した少なくとも3ピークの粒度分布を持つ粒子を使用し、これに硬質粒子の粘結材として水ガラスを1.5wt%添加し、粒子成形体を作成した。発熱材は水ガラスを10wt%添加し成形を行った。注湯材質はFCD700とした。
【0050】
上記実験例では図2と同様のサイズの粒子成形体と消失模型を使用した。本実験では上記条件で複合材を製造した後、粒子成形体と母材の複合部を切り出して試験片を作成し、組織観察を行い複合部内の粒子成形体の割れを確認した。各実験例の試験条件と割れの有無を表1に示す。また、ロックウェル硬さ試験を行い、粒子成形体の9点の硬度を測定し、平均値を算出した。平均値と最大硬度、最小硬度を表したグラフを図4に示す。
【0051】
【表1】
【0052】
まず、実験例2~4の実験結果を比較する。硬度は実験例4>実験例3>実験例2の順番に高いことが分かる。このことから、粒子径を小さくすることで、粒子成形体内の空隙が狭まり、粒子成形体の密度が上がるため硬度が高くなったと考えられる。しかし、粒径8μmの粒子のみでは水ガラスの添加量が少ないと粒子成形体の作製が他と比べ困難である。
【0053】
加えて、図4に示す通り、粒子径8μmでは硬度測定結果のばらつきが大きく、複合部の硬度が安定していないことが分かった。これは平均粒径の小さい粒子は混錬時の摩擦抵抗が大きく、水ガラスが成形体内に均一に分散せず、水ガラス周辺に粒子が集まり、粒子成形体内に間隙が生じ、含浸金属や残留物が多く粒子が少ない部分が発生してしまうためと考えられる。
【0054】
また、粒子全体にバインダーが均一に付着せず、粒子成形体が注湯時の衝撃で割れやすくなるといった問題点もあった。図5に実験条件3で製造した複合体の写真を示す。母材鋳物(他の鋳物部分)25に比較して、硬質粒子成形体複合部(硬質部分)26の内部で符号Cに示す割れが生じているのが確認できる。この問題を解決するために水ガラスの添加量をさらに増やすことも考えられるが、水ガラスの残留物の増加による硬度低下が考えられるため好ましくない。一般的に水ガラスを燃焼させるとSiやNa、Oを主成分とする残留物が発生する。残留物の硬度はWCや注湯金属と比べかなり低いため、粒子成形体内の残留物が増えると硬度が低下する。
【0055】
次に実験例2、3、5、6の実験結果を比較する。少なくとも2ピークの粒度分布を持つ粒子成形体の複合材の方が硬度は高くなった。これにより、大粒子に中粒子を配合した場合、大粒子間の隙間に中粒子が入り込み、粒子成形体の充填率が上がり、硬度が向上した複合材を得られることが分かった。また、充填率が上がり粒子同士の間隙が小さくなり、残留物が微細化され硬度が向上することも確認できた。
【0056】
次に実験例4と5、6の実験結果を比較する。図4に示す通り、実験例5、6は実験例4より硬度が高くなることが分かった。実験例5の水ガラス添加量は実験例4よりも少ないため、同じ添加量にした際に硬度は少し低下すると考えられるが、これを加味しても実験例5は実験例4と同程度の硬度があると考えられる。また、実験例5、6においては、実験例4にみられた粒子成形体の割れは確認できなかった。加えて、実験例5、6では硬度のばらつきが小さく、複合部の局所的な硬度低下も防げることが分かった。
【0057】
最後に実験例5~8の実験結果を比較する。図4に示す通り、少なくとも3ピークの粒度分布を持つ粒子成形体の複合材の方が硬度は高くなった。これにより、小粒子を配合した場合、大粒子と中粒子間の隙間に小粒子が入り込み、粒子成形体の充填率が上がり、硬度が向上した複合材を得られることが分かった。硬度のばらつきは実験例5、6より大きいが、実験例7、8の硬度測定結果の最低値はいずれも実験例2~6の平均硬度を上回っており、複合部全体の硬度が上昇していることが分かる。以上の結果から、少なくとも3ピークの粒度分布を持つ粒子成形体を使用した場合、より硬度が向上した複合材を得られることが分かった。
【0058】
本発明者らは複合部の硬度をさらに向上させるため、実験を行った。
【0059】
(実験例9)
硬質粒子として、平均粒径8μmのWCを450g使用した。WCに含浸する金属にチルを発生させるためTeを5.3g使用した。WC粒子とTeを混錬した後、水ガラスを1.2wt%添加し、粒子成形体を作成した。発熱材は水ガラスを10wt%添加し成形を行った。注湯材質はFCD700とした。
【0060】
実験例9においても図2と同様のサイズの粒子成形体と消失模型を使用した。試験条件を表2に示す。また、ロックウェル硬さ試験を行い、粒子成形体の3点の硬度を測定し、平均値を算出した。実験例2~9の平均値を表したグラフを図6に示す。
【0061】
【表2】
【0062】
図6に示す通り、Teを添加した複合材は硬度が他の実験例と比べ高いことが分かった。組織観察を行うと、硬質粒子成形体への含浸金属のみが白銑になった。Teはチル化促進元素であり、FC溶湯に対し0.01wt%程度の添加で溶湯全てにチルが発生することが知られている。母材金属と粒子表面の間にあるTeは非常に少量であるため、溶湯内に含まれるMgと結合するため、母材金属にはチルが発生しない。粒子成形体内のTeは溶湯が含浸した際にガス化するが、溶湯よりも鋳型の方が通気度は良いため大半は鋳型から外部へ放出される。一部のガス化したTeや水ガラスに含まれる酸素は溶湯中のMgと反応し、球状化不良を引き起こす。その後、未反応のTeが含浸した溶湯と反応し、チルが発生する。上記より、Teを硬質粒子成形体に添加した際は粒子成形体の含浸金属のみ白銑となる。母材金属全てにチルが発生した際は凝固収縮した際の残留応力により製品表面に割れが生じやすい。これは製品のサイズが大きくなるごとに顕著となる。また、硬度が非常に高く、加工に多大なコストがかかるため、製品すべてにチルを発生させることは望ましくない。本発明は複合部の金属にのみチルを発生させることができるため、上記問題を発生させることなく製品の指定箇所の硬度を向上させることができる。
【0063】
次に本発明者らは異なる注湯金属を用いて複合部の硬度を変える実験を行った。
【0064】
(実験例10)
硬質粒子として、平均粒径8μmのWCを使用した。水ガラスは1.2wt%添加し、粒子成形体を作成した。発熱材は水ガラスを10wt%添加し成形を行った。注湯材質はFC300とした。
【0065】
(実験例11)
硬質粒子として、平均粒径8μmのWCを使用した。水ガラスは1.2wt%添加し、粒子成形体を作成した。発熱材は水ガラスを10wt%添加し成形を行った。注湯材質はFCD400とした。
【0066】
(実験例12)
硬質粒子として、平均粒径8μmのWCを使用した。水ガラスは1.2wt%添加し、粒子成形体を作成した。発熱材は水ガラスを10wt%添加し成形を行った。注湯材質は高Cr鋳鉄とした。
【0067】
粒子成形体と消失模型は図2と同様のサイズのものを使用した。実験例4と9~12をまとめた試験条件を表3に示す。また、実験例9と同様に硬さ試験を行い、平均値を算出した。実験例4と9~12の平均値を表したグラフを図7に示す。
【0068】
【表3】
【0069】
鋳鉄は主にフェライトやパーライト、セメンタイトの割合等によって硬度が異なる。今回使用した金属を硬度が高い順に並べると高Cr鋳鉄>白銑>FCD700>FCD400>FC300となる。実験例4、9~12の実験結果を比較すると実験例12>実験例9>実験例10>実験例4>実験例11の順に硬度が高いことが分かる。実験例10の注湯材質はFC300であり、実験例4の注湯材質であるFCD700や実施例11の注湯材質であるFCD400より硬度が低いが、複合部の硬度は実験例10の方が高いことが確認できた。FCD700やFCD400を注湯した際にはWCの粘結材である水ガラス内の酸素と溶湯中のMgが反応し、MgOが生成されて球状化不良が起こり、含浸部の金属のみ片状黒鉛鋳鉄になる。また、C値もFC300より高いため、片状黒鉛が粗大化した。加えて、基地組織中のフェライトの割合も高いため、硬度が低下した。注湯材質をFCD400にした場合はいずれの実験例よりも硬度が低くなったが、実用に足る硬度の複合材を得ることができた。また、注湯材質を高Cr鋳鉄にした場合は実験例9よりも硬度が向上しており、耐摩耗性がより要求される製品に適用できる複合材が得られた。これにより、注湯材質を変えることで複合部の硬度に幅をもたせることができ、機械的性質が異なる様々な製品に適用しやすいことが分かった。
【産業上の利用可能性】
【0070】
本発明の鋳造方法及び鋳物は、特定箇所の硬度や耐摩耗性を高める必要がある全ての製品に適応することができる。例えば、プレス金型の切り刃や曲げ刃、工作機械の摺動部、耐摩耗性管に用いることができる。
【符号の説明】
【0071】
1:鋳型、2:鋳型枠、3:鋳物砂、5:消失模型(発泡模型)、5a:切り欠き部、6:粒子成形体、7:発熱成形体、7a:切り欠き部、8:掛けゼキ、9:主湯道、9a:陶管、9b:エルボ材、10:副湯道、10a:陶管、10b:エルボ材、11:塗型材、25:母材鋳物(他の鋳物部分)、26:硬質粒子成形体複合部(硬質部分)、C:割れ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7