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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023103822
(43)【公開日】2023-07-27
(54)【発明の名称】ズームレンズ
(51)【国際特許分類】
   G02B 15/20 20060101AFI20230720BHJP
【FI】
G02B15/20
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022004575
(22)【出願日】2022-01-14
(71)【出願人】
【識別番号】391044915
【氏名又は名称】株式会社コシナ
(74)【代理人】
【識別番号】100088579
【弁理士】
【氏名又は名称】下田 茂
(72)【発明者】
【氏名】菊地 苗穂都
【テーマコード(参考)】
2H087
【Fターム(参考)】
2H087KA06
2H087MA12
2H087PA13
2H087PA16
2H087PB17
2H087QA02
2H087QA06
2H087QA14
2H087QA22
2H087QA25
2H087QA32
2H087QA41
2H087QA45
2H087RA32
2H087RA41
2H087RA45
2H087SA57
2H087SA63
2H087SA64
2H087SA65
2H087SA66
2H087SA72
2H087SB05
2H087SB13
2H087SB22
2H087SB33
2H087SB41
(57)【要約】
【課題】 必要な明るさを確保しつつ、各種諸収差及び像面湾曲に対する必要な補正により良好な画質を得、かつ全体の小型化,軽量化及び低廉化を図ることができるなど、各性能を良好かつ合理的にバランスさせる。
【解決手段】 拡大側Eから、負の屈折力を有する第1レンズ群G1,正の屈折力を有する第2レンズ群G2,負の屈折力を有する第3レンズ群G3,正の屈折力を有する第4レンズ群G4,少なくとも二つの接合レンズJ1,J2を有する第5レンズ群G5,正の屈折力を有する第6レンズ群G6,を順次配してなるレンズ光学系100と、第1レンズ群G1と第6レンズ群G6を不動とし、第2レンズ群G2乃至第5レンズ群G5を独立して光軸Dc方向へ移動させるズーミング調整部Mcz,及び第1レンズ群G1を光軸Dc方向へ移動させるフォーカシング調整部Mcfを含む光学調整系200とを有し、〔条件式1〕を満たす。
【選択図】 図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
拡大側から縮小側へ順に、第1レンズ群から第6レンズ群までの六つのレンズ群を配してなるズームレンズにおいて、拡大側から縮小側へ、負の屈折力を有する第1レンズ群,正の屈折力を有する第2レンズ群,負の屈折力を有する第3レンズ群,正の屈折力を有する第4レンズ群,少なくとも二つの接合レンズを有する第5レンズ群,正の屈折力を有する第6レンズ群,を順次配してなるレンズ光学系と、前記第1レンズ群と第6レンズ群を不動とし、前記第2レンズ群乃至第5レンズ群を独立して光軸方向へ移動させるズーミング調整部,及び前記第1レンズ群を光軸方向へ移動させるフォーカシング調整部を含む光学調整系とを有し、かつ前記レンズ光学系の全長をTとし、広角側の全系焦点距離をfwとしたとき、以下の〔条件式1〕を満たすことを特徴とするズームレンズ。
5.0<[T/fw]<8.0 … 〔条件式1〕
【請求項2】
前記第1レンズ群は、二枚の正レンズ及び二枚の負レンズにより構成することを特徴とする請求項1記載のズームレンズ。
【請求項3】
前記第1レンズ群は、当該第1レンズ群の焦点距離をf1としたとき、以下の〔条件式2〕を満たすことを特徴とする請求項1又は2記載のズームレンズ。
-70<f1<-45 … 〔条件式2〕
【請求項4】
前記第5レンズ群は、d線に対するアッベ数をνdとしたとき、以下の〔条件式3〕を満たす正レンズを、少なくとも二枚含めて構成することを特徴とする請求項1,2又は3記載のズームレンズ。
νd>70 … 〔条件式3〕
【請求項5】
前記第6レンズ群は、一枚の単レンズにより構成することを特徴とする請求項1-4のいずれかに記載のズームレンズ。
【請求項6】
前記単レンズは、屈折率をndとしたとき、以下の〔条件式4〕を満たすことを特徴とする請求項5記載のズームレンズ。
nd>1.8 … 〔条件式4〕
【請求項7】
ズーム比は、1.45〔倍〕以上に設定することを特徴とする請求項1-6のいずれかに記載のズームレンズ。
【請求項8】
広角側の全画角は、36〔゜〕以下に設定することを特徴とする請求項1-7のいずれかに記載のズームレンズ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プロジェクタ等の投射光学系を備える光学機器に用いて好適なズームレンズに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、プロジェクタからスクリーン等に画像を投射する投射光学系に備えるズームレンズとしては、特許文献1に記載される投射用ズームレンズ及び特許文献2に記載される投射光学系が知られている。
【0003】
特許文献1の投射用ズームレンズは、高いズーム比、小さいFナンバを持ち、倍率の色収差が小さく押さえられ、高いMTF特性、解像力特性を備え、表示デバイス側がテレセントリックである投射用ズームレンズの実現を目的としたものであり、具体的には、拡大側から順に、負の第1レンズ群,正の第2レンズ群,第3レンズ群,第4レンズ群,負の第5レンズ群,正または負の第6レンズ群,正の第7レンズ群を配し、第4,第5レンズ群間に開口絞りを配してなり、変倍に際して第2~第6レンズ群が移動し、広角端から望遠端への変倍時に、第1・第2レンズ群間隔、第1・第3レンズ群間隔、第1・第4レンズ群間隔が、何れも減少するように移動が行なわれ、広角端における全系の焦点距離:fw,第1レンズ群の焦点距離:fl,第2レンズ群の焦点距離:f2,第3レンズ群の焦点距離:f3,第4レンズ群の焦点距離:f4が、1.3<|f|/fw<1.9,0.6<f2/f3<3.5,0.4<f4/f3<3.7を満足するように構成したものである。
【0004】
また、特許文献2の投射光学系は、簡易な構成で、適切な像面湾曲を調整可能な投射光学系の提供を目的としたものであり、具体的には、投射光学系を構成するに際し、光軸上のパワーと最周辺部の子午断面のパワーとが互いに異なる第1レンズと、第1レンズに隣接する第2レンズと、軸外主光線と光軸とが交わる位置に配置された絞りとを有し、第1レンズと第2レンズとの光軸方向における間隔の変化により、投射像の像面湾曲を調整することが可能に構成するとともに、さらに、所定の条件式を満たすように構成したものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2013-200454号公報
【特許文献2】特開2017-126036号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、上述した投射用ズームレンズ及び投射光学系をはじめ従来のズームレンズは、次のような解決すべき課題も存在した。
【0007】
即ち、この種のズームレンズを装着したプロジェクタの場合、光学画像を遠方のスクリーンに拡大投射するため、使用するズームレンズには、必要な明るさを確保しつつ、必要なズーム比や画角が要求されるとともに、非点収差,歪曲収差,色収差等の諸収差や像面湾曲等に対する必要な補正による良好な画質が要求される。また、ズームレンズは、プロジェクタ本体の前面から前方に突出した状態で支持されるとともに、複数のレンズ群を有するレンズ光学系及びズーミング調整部等の各種調整部を有する光学調整系を備えるため、ズームレンズ全体の小型化,軽量化及び低廉化も要請される。
【0008】
一方、このように要請される各性能は、一部の性能項目を高めれば、他の性能項目が損なわれるなど、相互に相反する関係にもあるため、要請される各性能を高めることに加え、各要請項目を如何に良好にバランスさせるかは、この種のズームレンズにとって重要な課題となるが、従来、これらの課題に対して合理的に解決したズームレンズは必ずしも提供されていないのが実情である。
【0009】
本発明は、このような背景技術に存在する課題を解決したズームレンズの提供を目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、上述した課題を解決するため、拡大側Eから縮小側Sへ順に、第1レンズ群G1から第6レンズ群G6までの六つのレンズ群を配してなるズームレンズ1を構成するに際して、拡大側Eから縮小側Sへ、負の屈折力を有する第1レンズ群G1,正の屈折力を有する第2レンズ群G2,負の屈折力を有する第3レンズ群G3,正の屈折力を有する第4レンズ群G4,少なくとも二つの接合レンズJ1,J2を有する第5レンズ群G5,正の屈折力を有する第6レンズ群G6,を順次配してなるレンズ光学系100と、第1レンズ群G1と第6レンズ群G6を不動とし、第2レンズ群G2乃至第5レンズ群G5を独立して光軸Dc方向へ移動させるズーミング調整部Mcz,及び第1レンズ群G1を光軸Dc方向へ移動させるフォーカシング調整部Mcfを含む光学調整系200とを有し、かつレンズ光学系全長(基準距離投射時における第1レンズ群G1の最も拡大側Eに配したレンズL1の拡大側Eのレンズ面(i=1)から縮小側Sの像面までの距離)をTとし、広角側の全系焦点距離をfwとしたとき、5.0<[T/fw]<8.0の〔条件式1〕を満たすように設定してなることを特徴とする。
【0011】
この場合、発明の好適な態様により、第1レンズ群G1は、二枚の正レンズLp1,Lp2及び二枚の負レンズLn1,Ln2により構成できるとともに、この第1レンズ群G1は、当該第1レンズ群G1の焦点距離をf1としたとき、-70<f1<-45の〔条件式2〕を満たすように設定することが望ましい。また、第5レンズ群G5は、d線に対するアッベ数をνdとしたとき、νd>70の〔条件式3〕を満たす正レンズLp6,Lp8を、少なくとも二枚含めて構成することができる。さらに、第6レンズ群G6は、一枚の単レンズLpeにより構成することができるとともに、この単レンズLpeは、屈折率をndとしたとき、nd>1.8の〔条件式4〕を満たすように設定することが望ましい。一方、ズームレンズ1は、ズーム比を、1.45〔倍〕以上に設定することができるとともに、広角側の全画角を、36〔゜〕以下に設定することができる。
【発明の効果】
【0012】
このような構成を有する本発明に係るズームレンズ1によれば、次のような顕著な効果を奏する。
【0013】
(1) 拡大側Eから縮小側Sへ、負の屈折力を有する第1レンズ群G1,正の屈折力を有する第2レンズ群G2,負の屈折力を有する第3レンズ群G3,正の屈折力を有する第4レンズ群G4,少なくとも二つの接合レンズJ1,J2を有する第5レンズ群G5,正の屈折力を有する第6レンズ群G6,を順次配してなるレンズ光学系100と、第1レンズ群G1と第6レンズ群G6を不動とし、第2レンズ群G2乃至第5レンズ群G5を独立して光軸Dc方向へ移動させるズーミング調整部Mcz,及び第1レンズ群G1を光軸Dc方向へ移動させるフォーカシング調整部Mcfを含む光学調整系200とを有し、かつ5.0<[T/fw]<8.0の〔条件式1〕を満たすように設定してなるため、必要な明るさを確保しつつ、各種諸収差及び像面湾曲に対する必要な補正により良好な画質を得、かつ全体の小型化,軽量化及び低廉化を図ることができるなど、各性能を良好かつ合理的にバランスさせることができる。
【0014】
(2) 好適な態様により、第1レンズ群G1を構成するに際し、二枚の正レンズLp1,Lp2及び二枚の負レンズLn1,Ln2により構成すれば、四枚のレンズにより第1レンズ群G1のみを移動させるフォーカシング調整部Mcfを構築することができるため、フォーカシング調整部Mcfのシンプル化及び小型化、更には、光軸Dc方向に比較的長くなるズームレンズ1の軽量化に寄与できる。
【0015】
(3) 好適な態様により、第1レンズ群G1を構成するに際し、この第1レンズ群G1の焦点距離をf1としたとき、-70<f1<-45の〔条件式2〕を満たすように設定すれば、フォーカシング調整時における第1レンズ群G1の移動ストロークを短くして、ズームレンズ1の小径化を図れるとともに、非点収差,歪曲収差等の諸収差をバランス良く補正して画質性能の向上に寄与できる。
【0016】
(4) 好適な態様により、第5レンズ群G5を構成するに際し、d線に対するアッベ数をνdとしたとき、νd>70の〔条件式3〕を満たす正レンズLp6,Lp8を、少なくとも二枚含めて構成すれば、適正なアッベ数νdの範囲を確保できるため、特に、軸上色収差と倍率色収差を良好に補正することができる。
【0017】
(5) 好適な態様により、第6レンズ群G6を構成するに際し、一枚の単レンズLp10により構成すれば、最小枚数により構成することにより、ズームレンズ1の全長を短くし、小型化に寄与できる。
【0018】
(6) 好適な態様により、第6レンズ群G6における一枚の単レンズLpeを、nd>1.8の〔条件式4〕を満たすように形成すれば、適正な屈折率ndの範囲を確保できるため、テレセントリック光学系のバランスを良好に保つことができることに加え、像面湾曲を良好に補正し、画質性能の向上に寄与できる。
【0019】
(7) 好適な態様により、ズームレンズ1を構成するに際し、ズーム比を、1.45〔倍〕以上に設定すれば、各性能をバランス良く確保しつつ、ズームレンズ1における必要なズーム比を確保できる。
【0020】
(8) 好適な態様により、ズームレンズ1を構成するに際し、広角側の全画角を、36〔゜〕以下に設定すれば、各性能をバランス良く合理的に確保しつつ、ズームレンズ1における必要な画角を確保できるとともに、ズーム比の確保と併せ、特に、スクリーンに投射するプロジェクタ等の十分な光学性能を確保できる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】本発明の好適実施形態に係る実施例1のズームレンズのTELE側における全体のレンズ構成図、
図2】同実施例1のズームレンズにおける光学調整系の原理構成図、
図3】同実施例1のズームレンズのWIDE側における全体のレンズ構成図、
図4】同実施例1のズームレンズのWIDE側の縦収差図、
図5】同実施例1のズームレンズのTELE側の縦収差図、
図6】同実施例2のズームレンズのTELE側における全体のレンズ構成図、
図7】同実施例2のズームレンズにおける光学調整系の原理構成図、
図8】同実施例2のズームレンズのWIDE側における全体のレンズ構成図、
図9】同実施例2のズームレンズのWIDE側の縦収差図、
図10】同実施例2のズームレンズのTELE側の縦収差図、
図11】同実施形態に係るズームレンズの光学特性表
【発明を実施するための形態】
【0022】
次に、本発明に係る好適実施形態を挙げ、図面に基づき詳細に説明する。
【実施例0023】
まず、本実施形態の実施例1に係るズームレンズ1のレンズ光学系100の構成について図1図3を参照して説明する。
【0024】
なお、このズームレンズ1は、プロジェクタに用いる投射レンズ(ズームレンズ)、即ち、投射ズーム光学系に適用することを想定している。
【0025】
図1中、Eはスクリーン等の拡大側を示し、Sは液晶パネル等の画像表示素子となる縮小側(縮小共役側)を示している。したがって、拡大側Eが光軸Dc方向の前方となり、縮小側Sが光軸Dc方向の後方となる。
【0026】
レンズ光学系100は、図1に示すように、拡大側Eから縮小側Sへ順に配した、第1レンズ群G1から第6レンズ群G6までの六つのレンズ群G1,G2,G3,G4,G5,G6を備えるとともに、第6レンズ群G6に対する縮小側Sには、模式図で示したプリズムPrを備える。
【0027】
第1レンズ群G1は、全体で負の屈折力を有し、拡大側Eから順に、両凸レンズを用いた正レンズLp1,拡大側Eに凸面を有する負メニスカスレンズを用いた負レンズLn1,拡大側Eに凸面を有する正メニスカスレンズを用いた正レンズLp2,両凹レンズを用いた負レンズLn2を配して構成する。各レンズLp1,Ln1,Lp2,Ln2はいずれも単レンズである。
【0028】
このように、第1レンズ群G1を構成するに際し、二枚の正レンズLp1,Lp2及び二枚の負レンズLn1,Ln2により構成すれば、四枚のレンズにより第1レンズ群G1のみを移動させる、後述のフォーカシング調整部Mcfを構築できるため、フォーカシング調整部Mcfのシンプル化及び小型化、更には、光軸Dc方向に比較的長くなるズームレンズ1の軽量化に寄与できる利点がある。
【0029】
また、第1レンズ群G1を構成するに際しては、この第1レンズ群G1の焦点距離をf1としたとき、以下の〔条件式2〕を満たすように構成する。
-70<f1<-45 … 〔条件式2〕
【0030】
〔条件式2〕を満たすように設定すれば、フォーカシング調整時における第1レンズ群G1の移動ストロークを短くして、ズームレンズ1の小径化を図れるとともに、非点収差,歪曲収差等の諸収差をバランス良く補正して画質性能の向上に寄与できる利点がある。したがって、f1の大きさが「-70」を下回る場合には、フォーカシング調整時における第1レンズ群G1の移動ストロークが長くなり、結果的に、ズームレンズ1の全長が長くなるとともに、外径も大きくなるため、ズームレンズ1の大型化を招く。他方、f1の大きさが「-45」を上回る場合には、上述した非点収差,歪曲収差等の諸収差をバランス良く補正できないため、画質性能の劣化を招いてしまう。
【0031】
第2レンズ群G2は、全体で正の屈折力を有し、拡大側Eから順に、両凸レンズを用いた正レンズLp3,拡大側Eに凸面を有する正メニスカスレンズを用いた正レンズLp4を配して構成する。各レンズLp3,Lp4はいずれも単レンズである。また、第3レンズ群G3は、負の屈折力を有する一枚の単レンズ、即ち、両凹レンズを用いた負レンズLn3を備える。さらに、第4レンズ群G4は、全体で正の屈折力を有し、拡大側Eから順に、拡大側Eに凸面を有する負メニスカスレンズを用いた負レンズLn4と両凸レンズを用いた正レンズLp5を接合した接合レンズJ1により構成する。
【0032】
第5レンズ群G5は、少なくとも二つ(実施例1は三つ)の接合レンズJ2,J3,J4を有するとともに、d線に対するアッベ数をνdとしたとき、以下の〔条件式3〕を満たす正レンズLp6,Lp8を、少なくとも二枚含めて構成する。
νd>70 … 〔条件式3〕
【0033】
〔条件式3〕を満たす正レンズLp6,Lp8を、少なくとも二枚含めて構成すれば、アッベ数νdの適性範囲を確保できるため、特に、軸上色収差と倍率色収差を良好に補正することができる。したがって、アッベ数νdが70よりも小さい場合には、軸上色収差と倍率色収差を十分に補正できない虞れがある。
【0034】
第5レンズ群G5の具体的なレンズ構成は、拡大側Eから順に、接合レンズJ2,接合レンズJ3,接合レンズJ4,両凸レンズを用いた正レンズLp9を備える。このうち、接合レンズJ2は、両凸レンズを用いた正レンズLp6と両凹レンズを用いた負レンズLn5を接合した接合レンズにより構成し、接合レンズJ3は、両凸レンズを用いた正レンズLp7と両凹レンズを用いた負レンズLn6を接合した接合レンズにより構成し、接合レンズJ4は、両凹レンズを用いた負レンズLn7と両凸レンズを用いた正レンズLp8を接合した接合レンズにより構成する。
【0035】
第6レンズ群G6は、正の屈折力を有する一枚の単レンズ、即ち、拡大側Eに凸面を有する正メニスカスレンズを用いた正レンズLp10を備える、第6レンズ群G6を構成するに際し、一枚の単レンズLpeにより構成すれば、最小枚数により構成することにより、ズームレンズ1の全長を短くし、小型化に寄与できる。また、この単レンズLpeは、屈折率をndとしたとき、以下の〔条件式4〕を満たすように形成する。
nd>1.8 … 〔条件式4〕
【0036】
〔条件式4〕を満たすように形成すれば、屈折率ndの適性範囲を確保できるため、テレセントリック光学系のバランスを良好に保持できるとともに、像面湾曲を良好に補正し、画質性能の向上に寄与できる。したがって、屈折率ndが「1.8」を下回る場合には、テレセントリック光学系のバランスを損なう虞れがあるとともに、像面湾曲に対する十分な補正を行うことができない。
【0037】
他方、ズームレンズ1は、図2に原理構成図で示すズーミング調整部Mcz及びフォーカシング調整部Mcfを含む光学調整系200を備える。この場合、ズーミング調整部Mczは、第1レンズ群G1と第6レンズ群G6を不動とし、第2レンズ群G2乃至第5レンズ群G5、即ち、第2レンズ群G2,第3レンズ群G3,第4レンズ群G4,第5レンズ群G5を独立して光軸Dc方向へ移動させる機能を備える。また、フォーカシング調整部Mcfは、第1レンズ群G1を光軸Dc方向へ移動させる機能を備える。
【0038】
さらに、全系において、レンズ光学系全長(基準距離投射時における第1レンズ群G1の最も拡大側Eに配したレンズL1の拡大側Eのレンズ面(i=1)から縮小側Sの像面までの距離)をTとし、広角側の全系焦点距離をfwとしたとき、以下の〔条件式1〕を満たすように構成する。
5.0<[T/fw]<8.0 … 〔条件式1〕
【0039】
〔条件式1〕を満たすことにより、各種諸収差及び像面湾曲に対する必要な補正により良好な画質を得ることができるとともに、全体の小型化,軽量化及び低廉化を図ることができる。したがって、[T/fw]の大きさが「8.0」を上回る場合には、全長が長くなり、さらに、外径も大きくなるため、ズームレンズ1の大型化を招くとともに、[T/fw]の大きさが「5.0」を下回る場合には、全長を短くできるものの、色収差を含む諸収差の性能が損なわれてしまう。
【0040】
[表1]は実施例1に係るズームレンズ1のレンズデータ(面データ)を示す。
【0041】
【表1】
【0042】
[表1]の面データは、拡大側Eから数えたレンズ面の面番号をiで示し、この面番号iは、図1に示した符号(数字)に一致する。これに対応して、レンズ面の曲率半径R(i)、軸上面間隔D(i)、レンズの屈折率nd(i)、レンズのアッベ数νd(i)をそれぞれ示す。nd(i)及びνd(i)はd線(587.56〔nm〕)に対する数値である。軸上面間隔D(i)は相対向する面と面間のレンズ厚或いは空気空間を示す。なお、曲率半径R(i)と面間隔D(i)の単位は〔mm〕である。曲率半径R(i)のINFINITYは平面である。屈折率nd(i)とアッベ数νd(i)の空欄は空気であることを示す。
【0043】
図11に、実施例1に係るズームレンズ1の(a)光学特性条件,(b)Fナンバ,(c)レンズ特性を示す。(a)光学特性条件に示すように、実施例1に係るズームレンズ1のレンズ光学系全長Tは、「263.25〔mm〕」であり、広角側の全系焦点距離fwは、「38.04〔mm〕」であるため、[T/fw]は、「6.92」となり、「5.0<[T/fw]<8.0」の〔条件式1〕を満たす。また、第1レンズ群G1の焦点距離f1は、「-62.07〔mm〕」となり、「-70<f1<-45」の〔条件式2〕を満たす。一方、正レンズLp6のアッベ数νdは、「70.4362」,正レンズLp8のアッベ数νdは、「81.6087」となるため、各正レンズLp6及びLp8は、「νd>70」の〔条件式3〕を満たす。さらに、単レンズLpeの屈折率ndは、「1.80810」となり、「nd>1.8」の〔条件式4〕を満たす。
【0044】
他方、(b)Fナンバは、WIDE側で「1.85」、TELE側で「2.32」となり、十分な明るさを確保できるとともに、(c)レンズ特性において、ズーム比は、「1.491」、全画角(WIDE側)は、「34.9〔゜〕」となり、目標とする必要なレンズ特性(レンズ性能)を得ている。
【0045】
なお、図1及び図2は、実施例1に係るズームレンズ1をTELE側に調整した際における各レンズLp1,Ln1…Lp10の光軸Dc方向位置を示すとともに、図3は、WIDE側に調整した際における各レンズLp1,Ln1…Lp10の光軸Dc方向位置を示す。
【0046】
また、図4及び図5は、実施例1に係るズームレンズ1の縦収差図を示す。図4は、WIDE側における縦収差図であり、(a)基準距離OBJ(E)=5645mm、(b)近距離OBJ(E)=2650mm、(c)遠距離OBJ(E)=35000mmを示す。図5は、TELE側における縦収差図であり、(a)基準距離OBJ(E)=5645mm、(b)近距離OBJ(E)=4050mm、(c)遠距離OBJ(E)=52000mmを示す。各縦収差図は、左側から、球面収差(610nm,550nm,460nm),非点収差(550nm),歪曲収差(550nm)を示す。各スケール目盛(1目盛)は、±0.1mm,±0.10mm,±1.0%である。
【0047】
実施例1に係るズームレンズ1は、図4及び図5に示すように、いずれの縦収差も、大きな乱れがなく良好な収差特性、即ち、投射性能(光学性能)が得られていることを確認できる。
【0048】
このように、本実施形態(実施例1)に係るズームレンズ1は、基本的な構成として、拡大側Eから縮小側Sへ、負の屈折力を有する第1レンズ群G1,正の屈折力を有する第2レンズ群G2,負の屈折力を有する第3レンズ群G3,正の屈折力を有する第4レンズ群G4,少なくとも二つの接合レンズJ1,J2を有する第5レンズ群G5,正の屈折力を有する第6レンズ群G6,を順次配してなるレンズ光学系100と、第1レンズ群G1と第6レンズ群G6を不動とし、第2レンズ群G2乃至第5レンズ群G5を独立して光軸Dc方向へ移動させるズーミング調整部Mcz,及び第1レンズ群G1を光軸Dc方向へ移動させるフォーカシング調整部Mcfを含む光学調整系200とを有し、かつレンズ光学系全長(基準距離投射時における第1レンズ群G1の最も拡大側Eに配したレンズL1の拡大側Eのレンズ面(i=1)から縮小側Sの像面までの距離)をTとし、広角側の全系焦点距離をfwとしたとき、5.0<[T/fw]<8.0の〔条件式1〕を満たすように設定してなるため、必要な明るさを確保しつつ、各種諸収差及び像面湾曲に対する必要な補正により良好な画質を得、かつ全体の小型化,軽量化及び低廉化を図ることができるとともに、各性能をバランス良く合理的に満たすことができるズームレンズ1を提供することができる。
【0049】
また、ズーム比を、1.45〔倍〕以上に確保したため、各性能をバランス良く合理的に確保しつつ、ズームレンズ1における必要なズーム比を確保できるとともに、広角側の全画角を、36〔゜〕以下に設定したため、ズームレンズ1における必要な画角を確保できるとともに、ズーム比の確保と併せ、特に、スクリーンに投射するプロジェクタ等の十分な光学性能を確保することができる。
【実施例0050】
次に、本実施形態の実施例2に係るズームレンズ1のレンズ光学系100の構成について図6図8を参照して説明する。
【0051】
なお、図6図8において、図1図3と同一構成部分及び同一機能部分には同一符号を付してその構成を明確にした。したがって、実施例2の基本的な構成及び機能は、実施例1と同じである。
【0052】
実施例2に係るレンズ光学系100も実施例1と同様に、図6に示すように、拡大側Eから縮小側Sへ順に配した、第1レンズ群G1から第6レンズ群G6までの六つのレンズ群G1,G2,G3,G4,G5,G6を備えるとともに、第6レンズ群G6に対する縮小側Sには、模式図で示したプリズムPrを備える。
【0053】
第1レンズ群G1は、全体で負の屈折力を有し、基本的なレンズ構成、即ち、二枚の正レンズLp1,Lp2及び二枚の負レンズLn1,Ln2により構成する点は実施例1と同じである。異なる点は、拡大側Eから二番目の負レンズLn2を構成するに際し、実施例1では拡大側Eに凸面を有する負メニスカスレンズを用いたのに対して、実施例2は両凹レンズを用いた点のみである。また、第1レンズ群G1を構成するに際し、〔条件式2〕を満たすように構成する点も実施例1と同じである。
【0054】
第2レンズ群G2は、全体で正の屈折力を有し、二枚の正レンズLp3及びLp4を用いた点は実施例1と同じであるが、実施例1は、縮小側Sに位置する正レンズLp4を、拡大側Eに凸面を有する正メニスカスレンズを用いたのに対して、実施例2は、両凸レンズを用いた点が異なる。
【0055】
第3レンズ群G3は、負の屈折力を有する一枚の単レンズにより構成する点は、実施例1と同じであるが、実施例1は、両凹レンズによる負レンズLn3を用いたのに対して、実施例2は、縮小側Sに凸面を有する負メニスカスレンズを用いた点が異なる。また、第4レンズ群G4は、全体で正の屈折力を有し、基本的な構成は実施例1と同じであり、接合レンズJ1により構成する。
【0056】
第5レンズ群G5は、全体で正の屈折力を有し、基本的な構成は実施例1と同じであるが、接合レンズJ2を構成するに際し、実施例1は、両凸レンズを用いた正レンズLp6と両凹レンズを用いた負レンズLn5を接合した接合レンズにより構成するのに対して、実施例2は、拡大側Eに凸面を有する正メニスカスレンズを用いた正レンズLp6と拡大側Eに凸面を有する負メニスカスレンズを用いた負レンズLn5を接合した接合レンズにより構成する点が異なる。なお、少なくとも二つ(実施例1は三つ)の接合レンズJ2,J3,J4を有するとともに、〔条件式3〕を満たす点は、実施例1と同じである。また、第6レンズ群G6は、正の屈折力を有する一枚の単レンズLpeにより構成するとともに、〔条件式4〕を満たす点は、実施例1と同じである。
【0057】
他方、図7に原理構成図で示すズーミング調整部Mcz及びフォーカシング調整部Mcfを含む光学調整系200を備えるとともに、〔条件式1〕を満たす点も実施例1と同じである。
【0058】
[表2]は実施例2に係るズームレンズ1のレンズデータ(面データ)を示す。
【0059】
【表2】
【0060】
図11に、実施例2に係るズームレンズ1の(a)光学特性条件,(b)Fナンバ,(c)レンズ特性を示す。(a)光学特性条件に示すように、実施例2に係るズームレンズ1のレンズ光学系全長Tは、「225.00〔mm〕」であり、広角側の全系焦点距離fwは、「37.98〔mm〕」であるため、[T/fw]は、「5.92」となり、「5.0<[T/fw]<8.0」の〔条件式1〕を満たす。また、第1レンズ群G1の焦点距離f1は、「-46.56〔mm〕」となり、「-70<f1<-45」の〔条件式2〕を満たす。一方、正レンズLp6のアッベ数νdは、「70.4364」,正レンズLp8のアッベ数νdは、「81.6087」となるため、各正レンズLp6及びLp8は、「νd>70」の〔条件式3〕を満たす。さらに、単レンズLpeの屈折率ndは、「1.84666」となり、「nd>1.8」の〔条件式4〕を満たす。
【0061】
他方、(b)Fナンバは、WIDE側で「1.85」、TELE側で「1.94」となり、十分な明るさを確保できるとともに、(c)レンズ特性において、ズーム比は、「1.493」、全画角(WIDE側)は、「34.9〔゜〕」となり、目標とする必要なレンズ特性(レンズ性能)を得ている。
【0062】
なお、図6及び図7は、実施例2に係るズームレンズ1をTELE側に調整した際における各レンズLp1,Ln1…Lp10の光軸Dc方向位置を示すとともに、図8は、WIDE側に調整した際における各レンズLp1,Ln1…Lp10の光軸Dc方向位置を示す。また、図9及び図10は、実施例2に係るズームレンズ1の縦収差図を示し、図9は、図4に対応するとともに、図10は、図5に対応する。実施例2に係るズームレンズ1は、図9及び図10に示すように、いずれの縦収差も、大きな乱れがなく良好な収差特性、即ち、投射性能(光学性能)が得られていることを確認できる。
【0063】
実施例2に係るズームレンズ1も、基本的な構成は実施例1と同様の構成となるため、実施例1と同様に、必要な明るさを確保しつつ、各種諸収差及び像面湾曲に対する必要な補正により良好な画質を得、かつ全体の小型化,軽量化及び低廉化を図ることができるとともに、各性能をバランス良く合理的に満たすことができるズームレンズ1を提供することができる。また、実施例2においても、ズーム比を、1.45〔倍〕以上に確保したため、各性能をバランス良く合理的に確保しつつ、ズームレンズ1における必要なズーム比を確保できるとともに、広角側の全画角を、36〔゜〕以下に設定したため、ズームレンズ1における必要な画角を確保できるとともに、ズーム比の確保と併せ、特に、スクリーンに投射するプロジェクタ等の十分な光学性能を確保することができる。
【0064】
以上、好適実施形態について詳細に説明したが、本発明は、このような実施形態に限定されるものではなく、細部の構成,形状,素材,数量,数値等において、本発明の要旨を逸脱しない範囲で、任意に変更,追加,削除することができる。
【0065】
例えば、レンズ光学系100は、六つのレンズ群G1-G6を配して構成したが、追加のレンズ群を加えて七つ以上のレンズ群G1…を構成する場合を排除するものではない。また、第1レンズ群G1は、二枚の正レンズLp1,Lp2及び二枚の負レンズLn1,Ln2により構成することが望ましいが、例示の構成に限定されるものではない。さらに、〔条件式2〕(-70<f1<-45の),〔条件式3〕(νd>70),〔条件式4〕(nd>1.8)の各条件式を満たすことが望ましいが、必須の構成要件となるものではない。一方、各レンズ群G1-G5におけるレンズ枚数や接合レンズの枚数は、発明の構成要件として規定されている場合を除き、任意の枚数により実施可能である。同様に、ズーム比を、1.45〔倍〕以上に設定し、広角側の全画角を、36〔゜〕以下に設定することが望ましいが、この数値に限定されるものではない。
【産業上の利用可能性】
【0066】
本発明に係るズームレンズは、プロジェクタ等の各種光学機器における専用レンズ或いは交換レンズを含む投射レンズとして利用できる。
【符号の説明】
【0067】
1:ズームレンズ,100:レンズ光学系,200:光学調整系,E:拡大側,S:縮小側,G1:第1レンズ群,G2:第2レンズ群,G3:第3レンズ群,G4:第4レンズ群,G5:第5レンズ群,G6:第6レンズ群,J1:接合レンズ,J2:接合レンズ,Dc:光軸方向,Mcz:ズーミング調整部,Mcf:フォーカシング調整部,(i=1):レンズ面,T:レンズ光学系全長,fw:広角側の全系焦点距離,f1:第1レンズ群の焦点距離,Lp1:正レンズ,Lp2:正レンズ,Ln1:負レンズ,Ln2:負レンズ,Lp6:正レンズ,Lp8:正レンズ,Lpe:単レンズ,νd:アッベ数,nd:屈折率
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11