(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023010383
(43)【公開日】2023-01-20
(54)【発明の名称】浸出水処理システム及び浸出水処理方法
(51)【国際特許分類】
C02F 5/00 20230101AFI20230113BHJP
C02F 3/34 20230101ALI20230113BHJP
C02F 1/52 20230101ALI20230113BHJP
C02F 5/08 20230101ALI20230113BHJP
【FI】
C02F5/00 610E
C02F3/34 101B
C02F1/52 K
C02F5/08 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021114476
(22)【出願日】2021-07-09
(71)【出願人】
【識別番号】507036050
【氏名又は名称】住友重機械エンバイロメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002826
【氏名又は名称】弁理士法人雄渾
(72)【発明者】
【氏名】栗栖 治夫
(72)【発明者】
【氏名】布施 達雄
【テーマコード(参考)】
4D015
4D040
【Fターム(参考)】
4D015BA19
4D015BA23
4D015BB05
4D015BB12
4D015CA20
4D015DA04
4D015DA05
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4D015DB15
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4D015DB24
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4D015DB32
4D015DC06
4D015DC07
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4D015FA01
4D015FA02
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4D015FA15
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4D015FA25
4D015FA26
4D015FA28
4D040BB02
4D040BB22
4D040BB24
4D040BB25
4D040BB52
(57)【要約】
【課題】本発明の課題は、浸出水処理において、炭酸ナトリウムのようにカルシウムと反応する薬品を添加することなく、円滑な処理を可能とする浸出水処理システム及び浸出水処理方法を提供することである。
【解決手段】上記課題を解決するために、浸出水のランゲリア指数を1.5以下に調整する反応槽を備える浸出水処理システム及びこのシステムを用いた浸出水処理方法を提供する。
これによれば、浸出水のランゲリア指数を特定の範囲内に調整することで、浸出水中のカルシウム析出(スケール発生)が抑制された条件下とし、浸出水処理においてカルシウムと反応する薬品(炭酸ナトリウム等)の添加によるカルシウム化合物の生成・除去を行うことなく、スケール対策を行って、浸出水に対する処理を円滑に進行させるとともに、浸出水処理におけるランニングコストを大幅に低減することが可能となる。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
浸出水を処理する浸出水処理システムであって、
前記浸出水のランゲリア指数を1.5以下に調整する反応槽を備えることを特徴とする、浸出水処理システム。
【請求項2】
前記浸出水のpHを調整するpH調整手段を備え、
前記pH調整手段は、前記反応槽におけるpHが6.0より大きくなるよう調整することを特徴とする、請求項1に記載の浸出水処理システム。
【請求項3】
前記浸出水は、カルシウム及び懸濁物質を含有し、
前記反応槽の後段に、凝集沈殿槽を備えることを特徴とする、請求項1又は2に記載の浸出水処理システム。
【請求項4】
前記反応槽又は前記凝集沈殿槽の後段に、生物処理槽を備えることを特徴とする、請求項1~3のいずれか一項に記載の浸出水処理システム。
【請求項5】
浸出水を処理する浸出水処理方法であって、
前記浸出水のランゲリア指数を1.5以下に調整するランゲリア指数調整工程を備えることを特徴とする、浸出水処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、浸出水処理システム及び浸出水処理方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
廃棄物の埋立最終処分場から発生する浸出水は、廃棄物自体や廃棄物の処理過程で添加された添加物に起因する各種化学物質(塩類、有機物、重金属等)を含むことが多く、公共水域に排出する前に適切な処理を行う必要がある。このとき、浸出水に含まれるカルシウムが、スケールとして装置に付着し、処理システムの安全運転が阻害されるという問題が生じることが知られている。このため、浸出水の処理においては、カルシウムによるスケール対策が検討されている。
【0003】
例えば、特許文献1には、浸出水に対して炭酸ナトリウムを添加し、析出した炭酸カルシウムを分離した後、pH調整を行うことで、析出したカルシウムの再溶解を防止し、浸出水からカルシウムを除去することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載されるように、浸出水に対して炭酸ナトリウムのような薬品を添加し、炭酸カルシウムとして析出・沈殿させることでカルシウムを除去し、スケール対策を行うことは知られている。しかし、浸出水中のカルシウムを炭酸カルシウムとして析出させるには、カルシウムに対して当量の炭酸ナトリウムを添加する必要がある。このため、浸出水に含有されるカルシウム濃度が高いほど、必要となる炭酸ナトリウムが増加し、薬品のコストが増大することに加え、薬品添加により生成した沈殿物の処理にもコストがかかるという問題がある。
【0006】
そこで、本発明の課題は、浸出水処理において、炭酸ナトリウムのようにカルシウムと反応する薬品を添加することなく、円滑な処理を可能とする浸出水処理システム及び浸出水処理方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、上記の課題について鋭意検討した結果、浸出水を処理する際に、水の腐食性の指標として知られているランゲリア指数を調整することで、炭酸ナトリウムのようにカルシウムと反応する薬品を添加することなく、スケール対策を行い、円滑な処理が可能となることを見出した。
すなわち、本発明は、以下の浸出水処理システム及び浸出水処理方法である。
【0008】
上記課題を解決するための本発明の浸出水処理システムは、浸出水を処理する浸出水処理システムであって、浸出水のランゲリア指数を1.5以下に調整する反応槽を備えることを特徴とする。
この浸出水処理システムによれば、浸出水のランゲリア指数を特定の範囲内に調整することで、浸出水中のカルシウム析出(スケール発生)が抑制された条件下とし、浸出水中のカルシウムイオンを除去することなく、浸出水に対する処理を円滑に進行することが可能となる。すなわち、浸出水処理においてカルシウムと反応する薬品(炭酸ナトリウム等)の添加によるカルシウム化合物の生成・除去を行うことなく、スケール対策を行うことができ、浸出水処理におけるランニングコストを大幅に低減することが可能となるという効果を奏する。
【0009】
また、本発明の浸出水処理システムの一実施態様としては、浸出水のpHを調整するpH調整手段を備え、pH調整手段は、反応槽におけるpHが6.0より大きくなるよう調整することを特徴とする。
この特徴によれば、ランゲリア指数に大きな寄与度を有するpHを調整する手段を設けることで、適切な数値範囲内に収まるようランゲリア指数を調整することが容易となる。また、pHが6.0より大きくなるように調整することで、ランゲリア指数が大きく負の値となることを抑制し、スケール対策と腐食傾向抑制の両方を可能とする状態を維持することができるとともに、pH調整に係るコストを抑制することも可能となるという効果を奏する。
【0010】
また、本発明の浸出水処理システムの一実施態様としては、浸出水は、カルシウム及び懸濁物質を含有し、反応槽の後段に、凝集沈殿槽を備えることを特徴とする。
この特徴によれば、カルシウムと反応する薬品の添加によりカルシウム化合物(炭酸カルシウム)を析出させていた従来の浸出水処理とは異なり、カルシウム化合物に係る凝集沈殿処理を行う必要がない。したがって、カルシウムと反応する薬品添加が不要になることに加え、添加する凝集剤の量を低減させることも可能となる。これにより、浸出水処理におけるスケール対策と凝集沈殿処理について、ランニングコストをかけずに円滑に進行させることが可能となるという効果を奏する。
【0011】
また、本発明の浸出水処理システムの一実施態様としては、反応槽又は凝集沈殿槽の後段に、生物処理槽を備えることを特徴とする。
この特徴によれば、カルシウムと反応する薬品の添加によりカルシウム化合物(炭酸カルシウム)を析出させていた従来の浸出水処理とは異なり、カルシウムを除去することなく、かつスケール対策を行った上で、浸出水を公共水域に放流するための浸出水処理を円滑に行うことが可能となる。特に、カルシウムと反応する薬品添加が不要になること及びカルシウム化合物に係る処理を行う必要がないことから、従来の浸出水処理に比べ、ランニングコストを大幅に低減させることが可能となるという効果を奏する。
【0012】
また、上記課題を解決するための本発明の浸出水処理方法は、浸出水を処理する浸出水処理方法であって、浸出水のランゲリア指数を1.5以下に調整するランゲリア指数調整工程を備えることを特徴とする。
この浸出水処理方法によれば、浸出水のランゲリア指数を特定の範囲内に調整することで、浸出水中のカルシウム析出(スケール発生)が抑制された条件下とし、浸出水中のカルシウムイオンを除去することなく、浸出水に対する処理を円滑に進行することが可能となる。すなわち、浸出水処理においてカルシウムと反応する薬品(炭酸ナトリウム等)の添加によるカルシウム化合物の生成・除去を行うことなく、スケール対策を行うことができ、浸出水処理におけるランニングコストを大幅に低減することが可能となるという効果を奏する。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、浸出水処理において、炭酸ナトリウムのようにカルシウムと反応する薬品を添加することなく、円滑な処理を可能とする浸出水処理システム及び浸出水処理方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本発明の第1の実施態様に係る浸出水処理システムの構成を示す概略図である。
【
図2】標準浸出水におけるランゲリア指数の算出結果の一例を示すグラフである。
【
図3】本発明の第1の実施態様に係る浸出水処理システムにより、標準浸出水のランゲリア指数を調整した結果の一例を示すグラフである。
【
図4】本発明の第1の実施態様に係る浸出水処理システムの別態様により、標準浸出水のランゲリア指数を調整した結果の一例を示すグラフである。
【
図5】本発明の第2の実施態様に係る浸出水処理システムの構成を示す概略図である。
【
図6】本発明の第3の実施態様に係る浸出水処理システムの構成を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の好適な実施態様について図面を参照しながら説明する。なお、本発明の浸出水処理方法については、以下の浸出水処理システムの構成並びに作動の説明に置き換えるものとする。また、この実施態様は、本発明を限定するものではない。
【0016】
本発明の浸出水処理システムは、廃棄物の埋立最終処分場からの浸出水処理に利用するためのものである。
ここで、本発明における「浸出水」とは、廃棄物の埋立最終処分場に埋め立てられた廃棄物由来の水分や、埋立最終処分場内に降水した雨水等が廃棄物層を通過したものを指しており、特にスケールの要因となるカルシウム(カルシウムイオン)を含有するものを指している。本発明で処理対象とする浸出水としては、カルシウム濃度が1mg/L以上であるものが挙げられる。これにより、スケール発生による浸出水処理への影響を抑制するという本発明の効果を十分に発揮することが可能となる。
また、浸出水に含まれる他の成分は、特に限定されないが、例えば、懸濁物質(以下、「SS」と呼ぶ)、重金属等が挙げられる。
なお、後述するように、本発明の浸出水処理システムの一態様は、カルシウム及びSSを含む浸出水の処理において、特に有用なものである。
【0017】
〔第1の実施態様〕
図1は、本発明の第1の実施態様に係る浸出水処理システムの構成を示す概略図である。
本実施態様の浸出水処理システム1Aは、浸出水Wを処理するものであり、
図1に示すように、反応槽2と、反応槽2内のランゲリア指数を調整するランゲリア指数調整手段3と、を備えている。また、反応槽2に浸出水Wを供給するラインL1及び反応槽2からランゲリア指数を調整した浸出水W1を排出するラインL2を備えている。なお、
図1において、矢印は水の流れを示すものである。
【0018】
反応槽2は、浸出水Wを貯留する槽であり、浸出水Wのランゲリア指数が特定の範囲内となるように調整を行うための槽である。また、反応槽2は、浸出水Wのランゲリア指数を調整するためのランゲリア指数調整手段3を備える。そして、
図1に示すように、ラインL1を介し、浸出水Wが反応槽2内に供給される。
なお、反応槽2としては、浸出水Wを貯留し、ランゲリア指数調整手段3によるランゲリア指数の調整が可能となるものであればよく、特に限定されない。また、
図1では、反応槽2として一つの槽を示しているが、複数の槽を組み合わせたものとしてもよい。
【0019】
ランゲリア指数とは、水の腐食性に係る指標として用いられる指数であり、水中の炭酸カルシウムの析出(被膜形成)傾向を示す数値である。なお、ランゲリア指数が正の値かつ絶対値が大きくなるほど、炭酸カルシウムの析出が生じやすい傾向となる一方、ランゲリア指数が負の値では炭酸カルシウムの析出が生じず、その絶対値が大きくなるほど水の腐食傾向が強くなる。
【0020】
以下の式1に示すように、ランゲリア指数(LI)は、水の実際のpHと、水中の炭酸カルシウムが溶解も析出もしない平衡状態にある時のpH(理論的pH:以下、「pHs」と呼ぶ)との差から求められるものであり、水温(T(単位:℃))による影響を受けるものである。
【数1】
【0021】
なお、pHsは、以下の式2により求められる。
【数2】
ここで、[Ca
2+]はカルシウムイオン濃度(単位:meq/L)、[A]は総アルカリ濃度(単位:meq/L)を示す。なお、[Ca
2+](meq/L)=[Ca
2+](mg/L)÷(40.1÷2)、[A](meq/L)=[A](mg/L)÷(100÷2)が成り立つ。
また、Sは補正値で、以下の式3により求められる。
【数3】
ここで、Sdは蒸発残渣濃度(単位:mg/L)を示す。
【0022】
上記式1~式3に基づくランゲリア指数の算出について、具体例を用い、以下説明を行う。
ここで、ランゲリア指数の算出対象として、高アルカリ、かつカルシウムイオンを一定程度含有するという、一般的な性質を有する浸出水(以下、「標準浸出水」と呼ぶ)を例にとって説明する。
【0023】
図2は、標準浸出水におけるランゲリア指数の算出結果に係るグラフである。より詳細には、
図2は、標準浸出水におけるランゲリア指数に係る各パラメータの寄与度を示すグラフである。
図2における標準浸出水の性質は、pHが11.0、カルシウムイオン濃度が1,500mg/L(=74.8meq/L)、総アルカリ量が63mg/L(=1.3meq/L)、蒸発残渣濃度が14,600mg/L、水温が20℃である。
図2に示すように、標準浸出水の各パラメータに基づき、式1~式3による算出を行った結果、例にとった標準浸出水のランゲリア指数は3.83となる。なお、本発明者らは、このランゲリア指数では、浸出水処理においてスケールが発生することを確認している。
【0024】
一方、本実施態様における反応槽2では、ランゲリア指数が特定の範囲内となるように調整する。
より具体的には、反応槽2における浸出水Wのランゲリア指数としては、1.5以下となるように調整することが好ましい。これにより、浸出水W中のカルシウム析出(スケール発生)を抑制した条件下とすることができ、浸出水W中のカルシウムイオンを除去することなく、浸出水Wに対する処理を円滑に進行することが可能となる。すなわち、浸出水処理においてカルシウムと反応する薬品(炭酸ナトリウム等)の添加によるカルシウム化合物の生成・除去を行うことなく、スケール対策を行うことができ、浸出水処理におけるランニングコストを大幅に低減することが可能となる。
【0025】
さらに、反応槽2における浸出水Wのランゲリア指数の上限値としては、1.0以下となるようにすることがより好ましく、0.5以下とすることが更に好ましい。これにより、スケール発生の抑制効果をより高めることが可能となる。
一方、ランゲリア指数が負の値となると、水の腐食傾向が高まるため、反応槽2における浸出水Wのランゲリア指数の下限値としては、-1.0以上となるようにすることが好ましい。これにより、浸出水処理システム1Aの腐食防止を行うことができる。
特に、ランゲリア指数を0近傍とすることで、スケール発生及び腐食傾向の両方を抑制することが可能となる。
【0026】
ランゲリア指数調整手段3は、反応槽2内の浸出水Wのランゲリア指数を調整するランゲリア指数調整工程を行うためのものである。
ここで、式1~式3に示すように、ランゲリア指数においては、水のpH値、カルシウムイオン濃度、総アルカリ濃度、蒸発残渣濃度、水温がパラメータとなる。また、
図2に示すように、ランゲリア指数については、水のpH値が特に大きく寄与することになる。
このため、本実施態様におけるランゲリア指数調整手段3としては、上記式1~式3に基づくランゲリア指数に関するパラメータを調整する各種手段を設けることが挙げられる。
【0027】
本実施態様におけるランゲリア指数調整手段3の一例としては、ランゲリア指数への寄与度が高いパラメータである水のpH値を調整する手段を設けることが挙げられる。すなわち、反応槽2内の浸出水WのpH値を調整するpH調整手段30を設けることが挙げられる。
【0028】
pH調整手段30としては、浸出水WのpH値を調整することができるものであればよく、特に限定されない。
pH調整手段30の一例としては、例えば、
図1に示すように、反応槽2内に空気による曝気装置31を設けることが挙げられる。なお、この曝気装置31は反応槽2内の撹拌手段としての機能を兼ね備えるものとしてもよい。
【0029】
曝気装置31による空気曝気を行うことで、空気中に含まれる成分(特に二酸化炭素)が浸出水Wに溶解する。このとき、浸出水Wに溶解した二酸化炭素は酸性を示すことになる。そして、上述したように、浸出水Wは主に高アルカリであり、二酸化炭素の溶解による中和反応が生じ、浸出水WのpHは低下する。これにより、浸出水WのpH値を調整することが可能となる。なお、曝気装置31によるpH調整範囲は、浸出水Wへの二酸化炭素の溶解度に依存し、浸出水WのpHは約7~9の範囲となる。
【0030】
また、曝気装置31によるpH調整を行うに当たり、曝気装置31による曝気量を調整する制御手段を設けるものとしてもよい。このとき、反応槽2にpH計(pHセンサー)を設け、pH監視を行いながら曝気量を調整する制御を行うものとすることが好ましい。これにより、所定のランゲリア指数を満たすように、浸出水WのpH値を調整することが容易となる。
【0031】
図3は、
図2に示した標準浸出水に対し、曝気装置31によるpH調整を行ったことによるランゲリア指数の調整結果に係るグラフである。より詳細には、
図3は、pH調整を行った浸出水におけるランゲリア指数に係る各パラメータの寄与度を示すグラフである。
図3に示すように、曝気装置31により、標準浸出水(浸出水W)のpH値を8.0とした場合、ランゲリア指数は0.83まで低下する。なお、本発明者らは、このランゲリア指数では、浸出水処理におけるスケール発生が抑制されることを確認している。これにより、カルシウムと反応する薬品を用いることなく、浸出水処理システム1Aにおけるカルシウム析出(スケール発生)を抑制し、浸出水処理を円滑に行うことが可能となる。
【0032】
また、pH調整手段30の他の例としては、
図1に示すように、反応槽2に対してpH調整剤を添加するpH調整剤添加部32を設けることが挙げられる。
pH調整剤添加部32は、pH調整剤を反応槽2に添加することができるものであればよく、具体的な構造については特に限定されない。例えば、pH調整剤を貯留する貯留槽32aと、貯留槽32aから反応槽2に対してpH調整剤を添加するための配管32bとを備えるものが挙げられる。なお、配管32bには、pH調整剤の添加量を調整するため、バルブ等の添加量調整機構を設けることが好ましい。
【0033】
pH調整剤としては、浸出水WのpHを調整することができるものであればよく、特に限定されない。なお、浸出水Wは主に高アルカリであり、ランゲリア指数を所定範囲に調整するためには、浸出水WのpHを低下させる必要がある。このため、本実施態様におけるpH調整剤としては、酸を用いることが好ましいが、浸出水Wの性質によってはアルカリを用いるものとしてもよい。
本実施態様におけるpH調整剤の一例としては、浸出水処理に対する影響や、入手及び取り扱いの容易性を鑑み、無機酸を用いることが挙げられる。より具体的には、硫酸などが挙げられる。
【0034】
図4は、
図2に示した標準浸出水に対し、pH調整剤添加部32によるpH調整を行ったことによるランゲリア指数の調整結果に係るグラフである。より詳細には、
図4は、pH調整を行った浸出水におけるランゲリア指数に係る各パラメータの寄与度を示すグラフである。
図4に示すように、pH調整剤添加部32により、pH調整剤として無機酸(硫酸)を添加し、標準浸出水(浸出水W)のpH値を7.1とした。このとき、無機酸の添加によって総アルカリ濃度の値も変化し(0.4meq/L(=22mg/L))、ランゲリア指数は-0.52まで低下する。なお、本発明者らは、このランゲリア指数では、浸出水処理におけるスケール発生が抑制されることを確認している。これにより、カルシウムと反応する薬品を用いることなく、浸出水処理システム1Aにおけるカルシウム析出(スケール発生)を抑制し、浸出水処理を円滑に行うことが可能となる。
【0035】
なお、pH調整手段30として、pH調整剤添加部32を設け、pH調整剤による浸出水WのpH調整を行う場合、浸出水WのpHを酸性寄りにすることが容易となる。しかしながら、上述したように、浸出水WのpHを酸性寄りとすることで、ランゲリア指数が大きな負の値となることは、腐食傾向の観点から好ましくない。また、必要以上にpH調整剤を用いることは、ランニングコストの観点から好ましくない。
したがって、pH調整手段30によるpH調整においては、好ましくは、浸出水WのpHが6.0よりも大きくなるように調整することが挙げられる。また、より好ましくは、浸出水WのpHが7.0以上となるように調整することが挙げられる。
【0036】
また、
図1には、pH調整手段30として、曝気装置31及びpH調整剤添加部32を設けたものを示しているが、必要なpH調整を行うことができるものであればよく、これに限定されるものではない。例えば、曝気装置31及びpH調整剤添加部32のうち、いずれか一方を備えるものとしてもよい。これにより、浸出水処理システム1Aとして、構造の簡略化を図ることが可能となるとともに、ランニングコストを低減することが可能となる。
【0037】
本実施態様におけるランゲリア指数調整手段3は、pHを調整する手段を設けることに限定されるものではない。例えば、反応槽2内の水温を調整する水温調整手段や、カルシウムと反応し、沈殿物を生成する薬品を添加することによらないカルシウム濃度調整手段を設けることなどが挙げられる。より具体的には、反応槽2内の水温を低下させるための冷却装置や、反応槽2内への希釈水の導入手段を設けることなどが挙げられる。
【0038】
また、ランゲリア指数調整手段3の一つとして、ランゲリア指数を算出するための各パラメータに関する数値を取得するための測定機器を設けるものとしてもよい。例えば、上述したpH計(pHセンサー)のほか、温度計やカルシウム濃度計などが挙げられる。このとき、各測定機器による計測のタイミングは特に限定されず、常時(リアルタイム)計測のほか、定期的あるいは任意のタイミングでの計測を行うことが挙げられる。
この際、各測定機器による計測は、反応槽2内で行うものとしてもよく、反応槽2内の浸出水Wの一部をサンプリングしたものに対して行うものとしてもよい。
【0039】
反応槽2において、所定のランゲリア指数に調整した浸出水W1は、ラインL2を介して系外に排出される。
なお、浸出水W1に排水基準に関する成分(有機物質や重金属等)が含まれておらず、公共水域に放流可能な水質を満たす場合、ラインL2を介して、そのまま公共水域に放流することが可能となる。
【0040】
本実施態様における浸出水処理システム1Aにより、浸出水Wのランゲリア指数を特定の範囲内に調整することで、浸出水W中のカルシウム析出(スケール発生)が抑制された条件下とし、浸出水W中のカルシウムイオンを除去することなく、浸出水Wに対する処理を円滑に進行することが可能となる。
なお、本実施態様における浸出水処理システム1Aは、反応槽2内における浸出水Wのランゲリア指数が特定の範囲内にある結果として、カルシウム析出が抑制された状態になっているものであればよく、浸出水処理システム1Aにおける処理時にランゲリア指数の算出を行うことを必須の要件とするものではない。
【0041】
〔第2の実施態様〕
図5は、本発明の第2の実施態様に係る浸出水処理システムの構成を示す概略図である。
第2の実施態様の浸出水処理システム1Bは、
図5に示すように、第1の実施態様における反応槽2の後段に、凝集沈殿槽4を設けるものである。また、反応槽2と凝集沈殿槽4は、ラインL3で接続されており、ラインL3を介し、反応槽2からランゲリア指数を調整した浸出水W1が凝集沈殿槽4に供給される。さらに、凝集沈殿槽4は、分離された固形分S及び液体分(処理水W2)をそれぞれ系外に排出するラインL4及びラインL5を備えている。なお、第1の実施態様の構成と同じものについては、説明を省略する。
【0042】
浸出水Wがカルシウム及びSSを含有する場合、SSを含む状態のままでは公共水域に放流することができない。また、後述するように、浸出水処理の一つとして生物処理を適用する場合、SSが生物処理に対する阻害要因となることが知られている。このため、浸出水処理を円滑に行うためには、浸出水W中のカルシウムの析出を抑制するとともに、SSの分離処理を行う必要がある。
【0043】
ここで、本実施態様における浸出水処理システム1Bは、反応槽2と凝集沈殿槽4を分けて設け、かつ凝集沈殿槽4の上流に反応槽2を配置するものである。これにより、浸出水Wのランゲリア指数調整に係る処理を先行かつ独立して行うことが可能となり、カルシウム析出を抑制した状態を維持した浸出水W1に対し、凝集沈殿処理を行うこととなる。このため、カルシウムと反応する薬品の添加によりカルシウム化合物(炭酸カルシウム)を析出させていた従来の浸出水処理とは異なり、本実施態様における凝集沈殿槽4では、カルシウム化合物に係る凝集沈殿処理を行う必要がなく、SSの凝集沈殿処理のみを行うことになる。したがって、カルシウムと反応する薬品添加が不要になることに加え、添加する凝集剤の量を低減させることも可能となる。これにより、浸出水処理におけるスケール対策とSS処理について、ランニングコストをかけずに円滑に進行させることが可能となる。
【0044】
本実施態様に係る浸出水処理システム1Bで処理対象とする浸出水Wとしては、カルシウム濃度が1mg/L以上、かつSS濃度が100mg/L以上であるものが挙げられる。これにより、本実施態様による浸出水処理システム1Bの効果を十分に発揮することが可能となる。
【0045】
本実施態様における凝集沈殿槽4は、浸出水W1中のSSに係る凝集沈殿処理を行うことができるものであればよく、特に限定されない。例えば、凝集沈殿槽4に対し、凝集剤を添加する凝集剤添加部や、凝集剤と浸出水W1の撹拌混合を行う撹拌部を備えるものなどが挙げられる。なお、凝集剤添加部を反応槽2に設けるものとし、反応槽2内でランゲリア指数の調整と、凝集剤の混合を併せて行うものとしてもよい。
【0046】
また、凝集沈殿槽4において添加される凝集剤についても特に限定されない。本実施態様で用いられる凝集剤としては、無機凝集剤、高分子凝集剤のいずれでもよく、また、浸出水W1中の成分や凝集状態に応じて、無機凝集剤と高分子凝集剤を併用してもよい。例えば、無機凝集剤としては、ポリ硫酸第二鉄、塩化第二鉄、ポリシリカ鉄、硫酸アルミニウム、ポリ塩化アルミニウム等が挙げられ、高分子凝集剤としては、ポリアミノアルキルメタクリレート、ポリエチレンイミン、ハロゲン化ポリジアリルアンモニウム、キトサン、尿素-ホルマリン樹脂等のカチオン性高分子凝集剤、ポリアクリル酸ナトリウム、ポリアクリルアミド部分加水分解物、部分スルホメチル化ポリアクリルアミド、ポリ(2-アクリルアミド)-2-メチルプロパン硫酸塩等のアニオン性高分子凝集剤、ポリアクリルアミド、ポリエチレンオキシド等のノニオン性高分子凝集剤、アクリルアミドとアミノアルキルメタクリレートとアクリル酸ナトリウムの共重合体等の両性高分子凝集剤が挙げられる。凝集状態を良好に維持することができることから、少なくとも無機凝集剤を使用することが好ましい。
【0047】
凝集沈殿槽4により分離された固形分Sと液体分(処理水W2)は、それぞれラインL4及びラインL5を介して系外に排出される。
【0048】
このとき、固形分Sは、主にSS由来のものであり、必要に応じて更に処理を行うことが好ましい。より具体的には、ラインL4を介し、固形分Sを脱水設備に供給することが挙げられる。なお、脱水設備としては、固形分Sの脱水処理に係る装置を一つ又は複数備えるものであればよく、このような装置の一例としては、濃縮槽、貯留槽、薬品導入装置、脱水機などが挙げられる。
上述したように、本実施態様における浸出水処理システム1Bでは、浸出水W中のカルシウムを析出させずに処理を行うものである。このため、カルシウムと反応する薬品の添加によりカルシウム化合物を析出させていた従来の浸出水処理と比べ、凝集沈殿槽4で沈殿させて排出する固形分Sの量を低減させることが可能となる。したがって、脱水設備に供給する固形分Sの量も低減するため、脱水に係る処理コストを低減させることが可能となるという効果を奏する。
【0049】
一方、液体分(処理水W2)は、浸出水W1に含まれていた成分のうち、SS以外の成分(カルシウム及びその他の成分)を含有することになる。このため、処理水W2に排水基準に関する成分(有機物質や重金属等)が含まれておらず、公共水域に放流可能な水質を満たす場合、ラインL5を介して、そのまま公共水域に放流することが可能となる。
【0050】
〔第3の実施態様〕
図6は、本発明の第3の実施態様に係る浸出水処理システムの構成を示す概略図である。
第3の実施態様の浸出水処理システム1Cは、
図6に示すように、第2の実施態様における凝集沈殿槽4の後段に、生物処理槽5を設けるものである。また、凝集沈殿槽4と生物処理槽5は、ラインL6で接続されており、ラインL6を介し、凝集沈殿槽4で分離された液体分(処理水W2)が生物処理槽5に供給される。さらに、生物処理槽5は、生物処理された処理水W3を系外に排出するラインL7を備えている。なお、第2の実施態様の構成と同じものについては、説明を省略する。
【0051】
浸出水Wがカルシウム及びSSに加え、排出基準対象となっている窒素含有化合物や有機物を含有する場合、凝集沈殿処理だけでは全てを処理することができないため、処理水W2をそのまま公共水域に放流することはできない。したがって、凝集沈殿処理に加え、処理水W2を公共水域に放流することができる水質にまで処理する処理手段を更に適用する必要がある。
【0052】
ここで、本実施態様における浸出水処理システム1Cは、反応槽2及び凝集沈殿槽4の後段に生物処理槽5を設けるものである。これにより、ランゲリア指数を調整した後、凝集沈殿処理された処理水W2について、生物処理を行うこととなる。
このため、カルシウムと反応する薬品の添加によりカルシウム化合物(炭酸カルシウム)を析出させていた従来の浸出水処理とは異なり、カルシウムを除去することなく、かつスケール対策を行った上で、浸出水処理全体を円滑に行うことが可能となる。特に、カルシウムと反応する薬品添加が不要になること及びカルシウム化合物に係る処理を行う必要がないことから、従来の浸出水処理に比べ、ランニングコストを大幅に低減させることが可能となる。
また、凝集沈殿槽4の後段に生物処理槽5を設けることにより、生物処理における阻害要因となるSSをあらかじめ除去した処理水W2について生物処理を行うことができるため、浸出水処理全体に係る処理効率を低下させることなく、より円滑な処理進行が可能となる。
【0053】
本実施態様における生物処理槽5としては、浸出水W(処理水W2)中の窒素含有化合物や有機物を処理できるものであればよく、特に限定されない。例えば、硝化菌を含む活性汚泥が投入された硝化槽や、脱窒菌を含む活性汚泥が投入された脱窒槽などが挙げられる。硝化槽は、酸化性(好気性)雰囲気下において硝化菌によりアンモニア性窒素を酸化態窒素に酸化するものである。また、脱窒槽は、還元性(嫌気性)雰囲気下において脱窒菌により酸化態窒素を窒素ガスに還元するものである。これらの生物処理槽5は単独で用いてもよく、複数の槽を組み合わせたものとしてもよい。
【0054】
なお、処理対象となる浸出水WにおけるSS量が100mg/Lよりも少なく、SSに係る分離処理が不要である場合、
図6における凝集沈殿槽4を省略し、反応槽2の後段に生物処理槽5を接続するものとしてもよい。これにより、浸出水処理システム1Cとしての構成を簡略化することが可能となる。
【0055】
生物処理槽5で処理を行った後、処理水W3は、ラインL7を介して系外に排出される。処理水W3に排水基準に関する成分(重金属等)が含まれておらず、公共水域に放流可能な水質を満たす場合、ラインL7を介して、そのまま公共水域に放流することが可能となる
【0056】
一方、処理水W3が公共水域に放流可能な水質を満たさない場合、本実施態様における生物処理槽5の後段に、処理水W3を処理するための高度処理設備を更に設けるものとしてもよい。高度処理設備としては、凝集沈殿槽4による凝集沈殿処理や生物処理槽5による生物処理により処理し切れない物質を処理するための装置を一つ又は複数備えるものであればよく、このような装置の一例としては、例えば、濾過装置、活性炭吸着塔、重金属捕集のためのキレート吸着塔、オゾン処理装置、酸性凝集沈殿処理槽などが挙げられる。
【0057】
この際、高度処理設備から排出する処理水の一部を、pH調整剤として用いるものとしてもよい。例えば、酸性凝集沈殿処理槽における処理水は、そのpHが約4~5となる。したがって、本実施態様におけるランゲリア指数調整手段3として、pH調整剤添加部32に代えて、高度処理設備(酸性凝集沈殿処理槽)の処理水の一部を、本実施態様における反応槽2に供給するラインを設けるものとしてもよい。これにより、浸出水処理システム1Cのランニングコストをより一層低減させることが可能となる。
【0058】
なお、上述した実施態様は浸出水処理システム及びこのシステムを用いた浸出水処理方法の一例を示すものである。本発明に係る浸出水処理システム及び浸出水処理方法は、上述した実施態様に限られるものではなく、請求項に記載した要旨を変更しない範囲で、上述した実施態様に係る浸出水処理システム及び浸出水処理方法を変形してもよい。
【0059】
例えば、本発明における浸出水処理システム及び浸出水処理方法として、炭酸ナトリウムなどの薬品を添加する既設の浸出水処理システムに対して、本実施態様の浸出水処理システムに係る構成(反応槽2及びランゲリア指数調整手段3)を設け、既設及び本実施態様における浸出水処理システムに係る運用(浸出水処理方法)について、適時切り替え可能となるような構成としてもよい。これにより、浸出水に含まれるカルシウムから炭酸カルシウム等を回収し、浸出水に含まれるカルシウムを除去することと、浸出水に含まれるカルシウムを除去することなく放流可能とすることの両方の対応が可能となる。つまり、浸出水の性質(含有カルシウム濃度や、カルシウム以外に含まれる成分の種類等)に応じ、薬品使用に係るランニングコスト及び放流可能な水質とするための処理効率等を考慮し、より適切な処理システム及び処理方法を選択することが可能となる。
【産業上の利用可能性】
【0060】
本発明の浸出水処理システム及び浸出水処理方法は、浸出水処理に利用することができる。特に、カルシウムを含む浸出水のように、スケール対策を必要とする浸出水処理に対し、好適に利用される。
【符号の説明】
【0061】
1A,1B,1C…浸出水処理システム、2…反応槽、3…ランゲリア指数調整手段、30…pH調整手段、31…曝気装置、32…pH調整剤添加部、32a…貯留槽、32b…配管、4…凝集沈殿槽、5…生物処理槽、L1~L7…ライン、S…固形分、W…浸出水、W1…ランゲリア指数を調整した浸出水、W2,W3…処理水