(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023103833
(43)【公開日】2023-07-27
(54)【発明の名称】半導体スイッチング素子の駆動装置および電力変換装置
(51)【国際特許分類】
H02M 1/08 20060101AFI20230720BHJP
H03K 17/16 20060101ALI20230720BHJP
【FI】
H02M1/08 A
H03K17/16 F
【審査請求】未請求
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022004593
(22)【出願日】2022-01-14
(71)【出願人】
【識別番号】000005108
【氏名又は名称】株式会社日立製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】弁理士法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】高 杭賢
(72)【発明者】
【氏名】渡邉 聡
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 弘
【テーマコード(参考)】
5H740
5J055
【Fターム(参考)】
5H740BA11
5H740BC01
5H740BC02
5H740HH06
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5J055AX12
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5J055GX06
(57)【要約】
【課題】スイッチング素子のサージ電圧を規定値以下に調整しつつ、動作条件に応じてスイッチング損失を低減する。
【解決手段】半導体スイッチング素子101を駆動するゲート駆動回路部11と、ゲート駆動回路部11が半導体スイッチング素子101に印加する電気の変化率に所定の利得を乗じて算出した帰還電流を半導体スイッチング素子101のゲートGに印加する帰還電流制御部12と、を備え、電気の変化率は半導体スイッチング素子101に印加される電圧又は電流の少なくとも一方の時間変化率であり、帰還電流制御部12は、利得を半導体スイッチング素子101の動作条件に応じて変化させることによって半導体スイッチング素子101のサージ電圧を調整する。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
半導体スイッチング素子を駆動するゲート駆動回路部と、
前記ゲート駆動回路部が前記半導体スイッチング素子に印加する電気の変化率に所定の利得を乗じて算出した帰還電流を前記半導体スイッチング素子のゲートに印加する帰還電流制御部と、を備え、
前記電気の変化率は前記半導体スイッチング素子に印加される電圧又は電流の少なくとも一方の時間変化率であり、
前記帰還電流制御部は、前記利得を前記半導体スイッチング素子の動作条件に応じて変化させることによって前記半導体スイッチング素子のサージ電圧を調整する、
ことを特徴とする半導体スイッチング素子の駆動装置。
【請求項2】
請求項1に記載の半導体スイッチング素子の駆動装置であって、
前記帰還電流制御部は、
前記電気の変化率を検知する電気変化率検知回路部と、
前記動作条件に基づいて利得制御信号を生成する利得制御回路部と、
前記利得制御信号に基づいて前記利得を算出し、前記電気の変化率に該利得を乗じる可変利得増幅回路部と、
前記可変利得増幅回路部からの出力を前記帰還電流に変換する電圧制御電流源回路部と、を有する、
ことを特徴とする半導体スイッチング素子の駆動装置。
【請求項3】
請求項2に記載の半導体スイッチング素子の駆動装置であって、
前記可変利得増幅回路部は、前記半導体スイッチング素子の定格電圧から所定の設計マージンを差し引いた主電圧基準値を前記サージ電圧の最大値として設定し、
前記可変利得増幅回路部は、前記動作条件が、前記サージ電圧が前記主電圧基準値を超える領域にある場合に、前記サージ電圧の増加に応じて前記利得を単調増加させる、
ことを特徴とする半導体スイッチング素子の駆動装置。
【請求項4】
請求項3に記載の半導体スイッチング素子の駆動装置であって、
前記可変利得増幅回路部は、前記動作条件が、前記サージ電圧が前記主電圧基準値以下となる領域にある場合に、前記利得をゼロにする、
ことを特徴とする半導体スイッチング素子の駆動装置。
【請求項5】
請求項2に記載の半導体スイッチング素子の駆動装置であって、
前記可変利得増幅回路部は電圧制御増幅回路によって構成される、
ことを特徴とする半導体スイッチング素子の駆動装置。
【請求項6】
請求項5に記載の半導体スイッチング素子の駆動装置であって、
前記電圧制御増幅回路は電圧制御抵抗によって構成される、
ことを特徴とする半導体スイッチング素子の駆動装置。
【請求項7】
請求項1に記載の半導体スイッチング素子の駆動装置であって、
前記動作条件は前記半導体スイッチング素子に印加されるバス電圧であり、前記バス電圧の最大値が前記半導体スイッチング素子の定格電圧の50~80%の範囲内の値である、
ことを特徴とする半導体スイッチング素子の駆動装置。
【請求項8】
請求項1に記載の半導体スイッチング素子の駆動装置であって、
前記動作条件は前記半導体スイッチング素子に印加される主電流であり、前記主電流の最大値が前記半導体スイッチング素子における定格電流の1~2倍の範囲内の値である、
ことを特徴とする半導体スイッチング素子の駆動装置。
【請求項9】
請求項1に記載の半導体スイッチング素子の駆動装置であって、
前記動作条件は前記半導体スイッチング素子の接合温度であり、前記接合温度の範囲が前記半導体スイッチング素子における定格接合温度の範囲である、
ことを特徴とする半導体スイッチング素子の駆動装置。
【請求項10】
請求項7に記載の半導体スイッチング素子の駆動装置であって、
前記利得は、前記バス電圧が境界電圧以下で不感帯領域であり、前記バス電圧が前記境界電圧以上で単調増加領域であり、前記境界電圧は前記定格電圧の30~50%の範囲内の値である、
ことを特徴とする半導体スイッチング素子の駆動装置。
【請求項11】
請求項8に記載の半導体スイッチング素子の駆動装置であって、
前記利得は、前記主電流が境界電流以下で不感帯領域であり、前記主電流が前記境界電流以上で単調増加領域であり、前記境界電流は前記定格電流の20~80%の範囲内の値である、
ことを特徴とする半導体スイッチング素子の駆動装置。
【請求項12】
請求項9記載の半導体スイッチング素子の駆動装置であって、
前記帰還電流制御部は、前記半導体スイッチング素子の接合温度の上昇に応じて、前記利得の絶対値を単調に減少させる、
ことを特徴とする半導体スイッチング素子の駆動装置。
【請求項13】
請求項3に記載の半導体スイッチング素子の駆動装置であって、
前記主電圧基準値は定格電圧の70~90%の範囲内の値である、
ことを特徴とする半導体スイッチング素子の駆動装置。
【請求項14】
請求項1の半導体スイッチング素子の駆動装置と、複数の前記半導体スイッチング素子と、を有する
ことを特徴とする電力変換装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体スイッチング素子の駆動装置および電力変換装置に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体スイッチング素子は、スイッチング動作を行わせることによって印加される電流を遮断することができ、インバータのアームスイッチなど、電力変換装置の重要な構成部品として使われている。このような半導体スイッチング素子の場合、ON/OFFの切替時のスイッチング損失が問題となる。スイッチング損失を低減させるためには、素子を高速で駆動すればよいが、この場合、今度は素子の耐圧を超えるサージ電圧(ターンオフサージ電圧またはリカバリサージ電圧)が生じ、素子が損傷してしまう恐れがある。そこで、従来より半導体スイッチング素子のサージ電圧の抑制とスイッチング損失の低減を両立させるための技術として、スイッチング中にゲート駆動条件を変化させるアクティブゲート駆動方式が知られている。
【0003】
上記技術に関して、特許文献1には、「高電源電位部と低電源電位部との間に接続されるスイッチング素子のオンオフを指令する入力信号に応じて、前記スイッチング素子のゲートを駆動する駆動回路と、前記入力信号がオン指令に切り替わってから、前記スイッチング素子に対向するダイオードにより発生するリカバリサージ電圧が検出されるまでの時間を記憶する時間記憶回路と、前記高電源電位部と前記低電源電位部との間の電源電圧の検出値に応じて、前記スイッチング素子のゲート駆動条件を切り替えるか否かを判定する切替判定回路と、前記切替判定回路の判定結果に応じて、今回のターンオン時において、前記時間記憶回路に記憶された前回のターンオン時における前記時間と同じ時間、前記ゲート駆動条件を変更する駆動条件変更回路とを備える、ゲート駆動装置」が記載されている。
【0004】
また、特許文献2で開示される駆動方式は特許文献1と類似で、ターンオフサージを抑制するためのアクティブゲート駆動方式である。特許文献2は、「高電源電位部と低電源電位部との間に接続されるスイッチング素子のオンオフを指令する入力信号に応じて、前記スイッチング素子のゲートを駆動する駆動回路と、前記スイッチング素子に発生するオフサージを検出するオフサージ検出回路と、前記入力信号がオフ指令に切り替わってから前記オフサージが検出されるまでの時間幅を記憶する時間記憶回路と、前記高電源電位部と前記低電源電位部との間の電源電圧の検出値に応じて、前記スイッチング素子のゲート駆動条件を切り替えるか否かを判定する切替判定回路と、前記切替判定回路の判定結果に応じて、今回のターンオフ時において、前記時間記憶回路に記憶された前回のターンオフ時における前記時間幅の経過以後に、前記ゲート駆動条件を変更する駆動条件変更回路とを備える、ゲート駆動装置」が記載されている。
【0005】
また、非特許文献1には、スイッチング中の主電流または主電圧に基づいて帰還電流を生成し、帰還電流をスイッチング素子のゲート電流に帰還させることでスイッチング速度を変化させるアクティブゲート駆動方式が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2021-078309号公報
【特許文献2】特開2021-013259号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Shu、L.、Zhang、J.、Peng、F.&Chen、Z.、“Active current source IGBT gate drive with closed-loop di/dt and dv/dt control”、IEEE TRANSACTIONS ON POWER ELECTRONICS、VOL.sc-32、NO.5、MAY 2017
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
スイッチング素子のサージ電圧はスイッチング素子の動作条件によって変化する。ここで動作条件は、直流電源から供給される電圧(以下、バス電圧)、スイッチング素子に流れる主電流(例えばMOSFETのドレイン電流、ソース電流又はIGBTのコレクタ電流、エミッタ電流)、スイッチング素子の接合温度などが挙げられる。
【0009】
半導体スイッチング素子の設計においてゲートの駆動条件を決める際、ワースト動作条件(サージ電圧が最大値になる条件。詳しくは後述する)において、サージ電圧が素子の定格電圧から一定のマージンを差し引いた電圧(以下、主電圧基準値)を超過しないように設計することが求められる。そのため、従来のアクティブゲート駆動方式(例えば、非特許文献1)は、ワースト動作条件において、ゲートへ流す帰還電流の適正量を決め、ゲートの駆動速度を遅らせ、サージ電圧を主電圧基準値以下まで抑制していた。しかしながら、従来のアクティブゲート駆動方式においては帰還電流の制御量が固定されており、ゲート電流を動作条件に応じて調整することが難しかった。そのため、サージ電圧の小さい領域であっても、帰還電流の制御量がワースト動作条件の場合の高い値のままであり、ゲートの駆動速度を過剰に遅らせ、スイッチング損失が増加してしまうおそれがある。
【0010】
また、特許文献1および特許文献2では、バス電圧または温度に応じて、事前に用意したゲートの駆動条件を選択的に変更できるが、選択可能な駆動条件の数に限りがあるため、段階的な変更しかできない。そのため、動作条件によっては十分にスイッチング損失を低減することができない場合がある。選択可能な駆動条件の数を増やし、動作条件に応じで細かく駆動条件を変更することでスイッチング損失を低減することは可能であるが、その場合、回路の数が増えるため駆動装置のサイズやコストが増加する問題がある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題に鑑み、本発明による半導体スイッチング素子の駆動装置は、半導体スイッチング素子を駆動するゲート駆動回路部と、ゲート駆動回路部が半導体スイッチング素子に印加する電気の変化率に所定の利得を乗じて算出した帰還電流を半導体スイッチング素子のゲートに印加する帰還電流制御部と、を備え、電気の変化率は半導体スイッチング素子に印加される電圧又は電流の少なくとも一方の時間変化率であり、帰還電流制御部は、利得を半導体スイッチング素子の動作条件に応じて変化させることによって半導体スイッチング素子のサージ電圧を調整する。
また、本発明に係る電力変換装置は、上記の半導体スイッチング素子の駆動装置と、複数の半導体スイッチング素子と、を有する。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、半導体スイッチング素子のサージ電圧を規定値以下に調整しつつ、動作条件に応じてスイッチング損失を低減させることができる。
本発明に関連する更なる特徴は、本明細書の記述、添付図面から明らかになるものである。また、上記した以外の課題、構成及び効果は、以下の実施例の説明により明らかにされる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明が適用される電動機制御システムの一例を示す構成図。
【
図2】実施例1に係るゲート駆動装置の基本回路構成図。
【
図3】実施例1に係るゲート駆動装置の回路構成の一例を示す図。
【
図4】実施例1に係るゲート駆動装置の回路構成の別例を示す図。
【
図5】従来例1に係るゲート駆動装置の基本回路構成図。
【
図6】従来例2に係るゲート駆動装置の基本回路構成図。
【
図7】実施例1に係る半導体スイッチング素子のワースト動作条件におけるターンオフ時の波形例を示す図。
【
図8】実施例1に係る半導体スイッチング素子の一般動作条件におけるターンオフ時の波形例を示す図。
【
図9】実施例1の利得設定、半導体スイッチング素子のサージ電圧、半導体スイッチング素子のスイッチング損失のバス電圧依存性の例を示す図。
【
図10】実施例1の利得設定、半導体スイッチング素子のサージ電圧、半導体スイッチング素子のスイッチング損失の主電流依存性の例を示す図。
【
図11】変形例1の半導体スイッチング素子のサージ電圧、実施例1の利得設定の主電流依存性の例を示す図。
【
図12】実施例1の利得設定、半導体スイッチング素子のサージ電圧、半導体スイッチング素子のスイッチング損失の接合温度依存性の例を示す図。
【
図13】変形例2の半導体スイッチング素子のサージ電圧、第1の実施形態の利得設定の温度依存性の例を示す図。
【
図14】変形例3の半導体スイッチング素子のサージ電圧、第1の実施形態の利得設定の温度依存性の例を示す図。
【
図15】実施例1の変形例に係るゲート駆動装置の基本回路構成図。
【
図16】実施例2に係るゲート駆動装置の基本回路構成図。
【
図17】従来例3に係るゲート駆動装置の基本回路構成図。
【
図18】実施例2に係る半導体スイッチング素子の一般動作条件におけるターンオフ時の波形例を示す図。
【
図19】実施例3に係るゲート駆動装置の基本回路構成図。
【発明を実施するための形態】
【0014】
[第1実施形態]
図1は、本発明が適用される電動機制御システムの一例を示す構成図である。なお、ここでは車載用のシステムを例にして説明するが、車載用以外に使用してもよい。
図1で示すように、電動機制御システム1000はパルス発生部400、バッテリ100、インバータ回路200、及び電動機300を有する。インバータ回路200は、バッテリ100より供給された直流電力を、電動機300を駆動するための交流電流に変換するものである。
【0015】
インバータ回路200は、平滑コンデンサ110、及び三相のスイッチングアーム(U相500、V相500、W相500)を備えている。平滑コンデンサ110と三相のスイッチングアーム間は主回路寄生インダクタンス107を有する。バッテリ100および三相のスイッチングアームの間には、平滑コンデンサ110が、並列に接続される。三相の中の一相、例えば、U相500の上下アームはそれぞれ半導体スイッチング素子101、フリーホイーリング素子102、及びゲート駆動装置600を有する。尚、V相500、W相500の構成も同様である。
【0016】
半導体スイッチング素子101は、例えば、IGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)で構成されている。尚、MOSFETなどの電圧駆動型の半導体スイッチング素子で構成してもよい。また、半導体スイッチング素子101を構成する半導体は、シリコン(Si)でもよいし、ワイドギャップ半導体(炭化シリコン(SiC)や窒化ガリウム(GaN)や酸化ガリウム(Ga2O3)など)でもよい。フリーホイーリング素子102は、例えばダイオードで構成されている。ダイオードしては、pn接合ダイオード、ショットキーバリアダイオード、pn接合とショットキー接合を併用するダイオードなど、各種のダイオードを用いることができる。なお、半導体スイッチング素子101がSiC‐MOSFETの場合、フリーホイーリング素子102はSiC‐MOSFETのボディダイオードとして半導体スイッチング素子101に内蔵されてもよい。以下の説明では、半導体スイッチング素子101がIGBTである場合を例に説明する。IGBTにおいて、高電位側端子はコレクタCであり、低電位側端子はエミッタE、入力端子はゲートGである。
【0017】
一個のIGBT101と一個のダイオード102により一個のパワー素子が構成される。ダイオードはIGBTに逆並列に接続されている。各相の上アームのパワー素子と下アームのパワー素子は直列接続されている。各相の上アームのパワー素子の高電位側端子には、平滑コンデンサ110の正極に接続されている。各相の下アームのパワー素子の低電圧端子側には、平滑コンデンサ110の負極に接続されている。各相において、上アームのパワー素子の低電位側端子と、下アームのパワー素子の高電位側端子との共通接続点は、電動機300の固定子巻線(不図示)に接続されている。
【0018】
パルス発生部400は、ゲート駆動装置600を介して半導体スイッチング素子101のゲート端子に信号を入力し、スイッチングを制御する。パルス発生部400はオン指令信号(指令信号Pが高電位)、又はオフ指令信号(指令信号Pが低電位)をゲート駆動装置600に入力する。ゲート駆動装置600は指令信号Pに応じて半導体スイッチング素子101をオン状態、またはオフ状態にする。これにより、上下アームの半導体スイッチング素子101は交互にスイッチングし、電動機300に流れる交流電力を制御する。
【0019】
[実施例1]
図2は本発明の実施例1に係るゲート駆動装置600の基本回路構成図であり、
図3及び
図4は実施例1に係るゲート駆動装置600のより具体的な回路構成の例を示す図である。
図2から
図4において、参照番号が同一のものは、同一の構成あるいは類似の機能を持つ構成である。以下、ゲート駆動装置600の実施例1について、
図2から
図4に基づいて説明する。
【0020】
図2は、インバータ回路200におけるU相500の下アームにおける半導体スイッチング素子101とそのゲート駆動装置600を図示している。なお、U相の上アーム、V相およびW相の上・下アームの各半導体スイッチング素子の構成および動作も同様である。
【0021】
ゲート駆動装置600はゲート駆動回路部11と帰還電流制御部12と、を有する。ゲート駆動回路部11は、駆動信号生成回路部6、正側電源4、第1のMOSFET7、オン側ゲート抵抗9、負側電源5、第2のMOSFET8およびオフ側ゲート抵抗10を備えている。帰還電流制御部12は、電気変化率検知回路部13、減算器14、可変利得増幅回路部15、電圧制御電流源回路部16および利得制御回路部21を備えている。なお、ゲート駆動回路部11は電流源駆動回路の構成であってもよい。後述するが、電気変化率検知回路部13はパワー半導体モジュールまたはインバータの一部(例えば
図2におけるエミッタ側寄生インダクタンスL
eE)を含んでもよい。
【0022】
ゲート駆動装置600の入力端3はパルス発生部400に接続される。ゲート駆動装置600の出力部1は半導体スイッチング素子101のゲート端子に接続される。ゲート駆動装置600の基準電位2は半導体スイッチング素子101のケルビンエミッタeに接続される。
【0023】
ゲート駆動回路部11において、正側電源4には、Pch型である第1のMOSFET7のソースが接続される。第1のMOSFET7のドレインには、オン側ゲート抵抗9の一端が接続される。オン側ゲート抵抗9の他端には、オフ側ゲート抵抗10の一端が接続される。オフ側ゲート抵抗10の他端には、Nch型である第2のMOSFET8のドレインが接続される。第2のMOSFET8のソースは負側電源に接続される。第1のMOSFET7のゲートと第2のMOSFET8のゲートとは共に駆動信号生成回路部6に接続される。オン側ゲート抵抗とオフ側ゲート抵抗の中間接続点はゲート駆動装置600の出力部1に接続される。
【0024】
帰還電流制御部12において、電気変化率検知回路部13は減算器14に接続される。減算器14の出力端は可変利得増幅回路部15に接続され、電気変化率検知回路部13の出力電圧Vsと参照電圧Vrefの差分を出力する。また、利得制御回路部21は半導体スイッチング素子の動作条件に応じた制御信号sを可変利得増幅回路部15の制御端子へ出力する。可変利得増幅回路部15の出力端は電圧制御電流源回路部16の入力端に接続される。そして、可変利得増幅回路部15は、受信した制御信号sの値に応じた利得を出力電圧Vsと参照電圧Vrefの差分に乗じて電圧信号Vfbを算出する。電圧制御電流源回路部16の出力端はゲート駆動装置600の出力部1と接続される。そして、電圧信号Vfbを帰還電流Ifbに変換し、半導体スイッチング素子101のゲートGに出力する。
【0025】
ゲート駆動回路部11の動作について説明する。まずパルス発生部400からの指令信号Pがゲート駆動装置600に入力される。指令信号Pが高電位(オン)となる期間、駆動信号生成回路部6が動作し、第1のMOSFET7をオン状態にし、第2のMOSFET8をオフ状態にする。これにより、ゲート電流Igが正側電源4から、オン側ゲート抵抗9を介して、半導体スイッチング素子101のゲートGに流れ、ゲート-エミッタ間の容量が正側電源4の電圧(たとえば+15V)まで充電される。このときゲート電圧が閾値電圧(たとえば6.5V)を超えるまで上昇すると、半導体スイッチング素子101がターンオンし、コレクタ-エミッタ間に電流が流れる。
【0026】
オン側ゲート抵抗9の抵抗値、または正側電源4の電圧値を調整することで、ターンオンのスイッチング速度を制御できる。一方、駆動指令信号Pが低電位となる間、駆動信号生成回路部6が動作し、第1のMOSFET7をオフ状態にし、第2のMOSFET8をオン状態にする。これにより、電流が半導体スイッチング素子101のゲートGから、オフ側ゲート抵抗10を介して、負側電源5に流れる。負側電源5の電圧値は例えば、基準電位と同じ0Vとする。半導体スイッチング素子101のゲート-エミッタ間の容量が放電され、ゲート電圧が閾値電圧より下がる。半導体スイッチング素子101がターンオフし、コレクタ-エミッタ間の電流が止まる。オフ側ゲート抵抗10の抵抗値、または負側電源5の電圧値を調整することで、ターンオンのスイッチング速度を制御できる。
【0027】
次に、帰還電流制御部12の基本的動作について説明する。半導体スイッチング素子101のターンオフ時の動作を例として説明するが、ターンオン時の動作も同様である。ターンオフ時、半導体スイッチング素子101の主電流Icが変化すると、エミッタ側寄生インダクタンスLeE103上に、ケルビンエミッタe-エミッタE間に変動電圧VeEが生じる。変動電圧VeEは下記する式1で表せる。
VeE=-LeE×dIc/dt ・・・式1
ここで、dIc/dtは主電流Icの時間変化率(ターンオフ時は負の値)である。電気変化率検知回路部13は変動電圧VeEを検出し、整流してから検出信号(出力電圧)Vsとして減算器14に入力する。ターンオフ時、検出信号Vsと変動電圧VeEとの関係は下記する式2で表せる。
Vs=VeE ・・・式2
減算器14は受信した検出信号Vsを参照電圧Vrefと比較して、差電圧を可変利得増幅回路部15に入力する。
【0028】
また、利得制御回路部21には半導体スイッチング素子101のバス電圧(VDC)、温度(Tj)及び主電流(Ic)のうちいずれかのセンシング値が入力される。利得制御回路部21は、半導体スイッチング素子101の上記したセンシング値に基づいて、利得制御信号sを生成し、可変利得増幅回路部15の制御端子へ出力する。可変利得増幅回路部15は、利得を制御信号sに応じて変更する。可変利得増幅回路部15は、減算器14から入力されるVsとVrefの差電圧に利得をかけて増幅し、電圧信号Vfbを生成する。
【0029】
電圧信号Vfbは電圧制御電流源回路部16に入力される。電圧制御電流源回路部16は、電圧信号Vfbを帰還電流Ifbに変換し、ゲート駆動装置600の出力部1に帰還させる。帰還電流Ifbは下記の式3で表せる。
Ifb=G(s)×g×(Vs-Vref) ・・・式3
ここで、G(s)は可変利得増幅回路部15の電圧利得であり、gは電圧制御電流源回路部16の増幅率である。Vrefは参照電圧である。Vrefの値は、例えば、0である。G(s)は利得制御信号sに応じて調整できる。gは固定値である。なお、後述する
図4で示すように、増幅率gをsに依存するg(s)に変更してもよいし、電圧利得G(s)を固定値Gに変更してもよい。
【0030】
ここで、半導体スイッチング素子101の動作条件のセンシングについて説明する。バス電圧(VDC)は、例えば平滑コンデンサ110の両端に接続される電圧センサーより取得することができる。または半導体スイッチング素子101のコレクタ-エミッタ間に接続された電圧センサーにより、半導体スイッチング素子101のオフ期間中の電圧を計測することで取得することができる。半導体スイッチング素子101の主電流(Ic)は、例えば
図1のU、V、W相の出力にホール素子などの電流センサーを挿入することで取得することができる。半導体スイッチング素子101の接合温度(Tj)は、例えば図示省略した内蔵感温ダイオードなどの温度センサーより取得することができる。
【0031】
式1~式3から明らかな通り、帰還電流Ifbは半導体スイッチング素子101の主電流の時間変化率dIc/dtに比例するため、時間変化率の絶対値が大きくなるほど、帰還電流Ifbも大きくなる。
【0032】
ここで、ターンオフサージ電圧と主電流の時間変化率との関係は以下の式で表すことができる。
Vsurge=-Ls×dIc/dt+VDC ・・・式4
ここで、Vsurgeはサージ電圧で、Lsは寄生インダクタンス(例えば、
図1で示す主回路寄生インダクタンス107)である。式4で示すように、サージ電圧と主電流の時間変化率とは比例する関係であり、サージ電圧が大きいほど、帰還電流Ifbの絶対値も大きくなる。半導体スイッチング素子101のターンオフ時のゲート電流Igはマイナスの値(ゲートから電荷を引き抜く方向)に対して、帰還電流Ifbはプラスの値(ゲートに電荷を注入する方向)となるようにG(s)またはgを設定する。このようにして、帰還電流Ifbが流れる期間、ゲート電流Igの絶対値を小さくすることができる。
【0033】
これにより、半導体スイッチング素子101のスイッチングが減速され、半導体スイッチング素子101のターンオフ時のサージ電圧が抑制される。半導体スイッチング素子101の動作条件に応じて利得G(s)を変更することによって、帰還電流Ifbを柔軟に調整できる。これにより、半導体スイッチング素子101の動作条件に応じてターンオフ時のサージ電圧値を素子の耐圧を超えないように調整しつつスイッチング速度を高速化できる。したがって、サージ電圧の抑制とスイッチング損失の低減とを両立させることが可能になる。
【0034】
ここではターンオフを例に述べたが、ターンオン時も同様にゲート電流Igと逆向きの帰還電流Ifbが流れるように整流方式、電圧利得G(s)、及び増幅率gを設定することによりターンオン速度を減少させ、対アーム(下アームでターンオンした場合は上アーム)で発生するリカバリサージ電圧の抑制量を調整しつつスイッチング損失を低減させることができる。後述する変形例や他の実施形態などでも同様である。
【0035】
可変利得増幅回路部15は、本実施例においては一例として、入力される電圧に応じて利得を連続的に変更可能な電圧制御増幅器(VCA)を使用した回路である。なお、トランスコンダクタンス増幅器(OTA)を有する可変増幅器または光依存性抵抗(LDR)を用いてオペアンプの増幅率を変化させる可変増幅器でもよい。
【0036】
帰還電流制御部12において、減算器14を省略する構成であってもよい。この場合には、電気変化率検知回路部13は直接に可変利得増幅回路部15と接続される。減算器14と可変利得増幅回路部15とを一体化してもよい。または、可変利得増幅回路部15と電圧制御電流源回路部16とを一体化する構成であってもよい。
【0037】
図3と
図4とは第1の実施形態に係るゲート駆動装置600の回路構成の具体例を示す図であり、半導体スイッチング素子101のターンオフを制御する回路である。
図3と
図4とは、主に、帰還電流制御部12における電気変化率検知回路部13、減算器14、可変利得増幅回路部15および電圧制御電流源回路部16の構成を具体化した回路例である。
【0038】
図3で示すように、電気変化率検知回路部13は整流ダイオードD1及びエミッタ側寄生インダクタンス103を有する。減算器14と可変利得増幅回路部15とは一体化され、オペアンプ差動増幅回路14&15で構成される。オペアンプ差動増幅回路14&15はオペアンプOP1、分圧用の抵抗R1とR2、及び電圧制御抵抗(VCR)R3とR4を備えている。電圧制御電流源回路部16は、トランジスタTr1及びTr2からなる電流バッファ回路と、Tr3、Tr4、Tr5、及びTr6からなるカレントミラー回路と、電圧調整用抵抗R5と、整流ダイオードD2と、を備えている。
【0039】
電気変化率検知回路部13における整流ダイオードD1のアノードはエミッタEに接続され、カソードは抵抗R1に接続される。エミッタEで検知される変動電圧VeEは整流ダイオードD1によって整流され、負の電圧をブロックし、正の出力電圧Vsを抵抗R1へと印加する。
【0040】
オペアンプ差動増幅回路14&15は、電圧制御電流源回路部16の駆動電圧を生成する回路である。オペアンプOP1は、非反転入力端子が抵抗R1と電圧制御抵抗R4との間のノード、すなわち、電気変化率検知回路部13と接続されている。また、反転入力端子には抵抗R2と電圧制御抵抗R3との間のノード、すなわち、参照電圧Vrefが印加される。オペアンプ差動増幅回路14&15の出力はトランジスタTr1、Tr2のゲートと接続される。オペアンプ差動増幅回路14&15は、参照電圧Vrefと、検知した出力電圧Vsとの差を増幅し、フィードバック電圧Vfbを生成してトランジスタTr1、Tr2へと印加する。
【0041】
電圧制御電流源回路部16において、トランジスタTr1、Tr2は、正側電源4(
図2参照)と基準電位2との間に直列に接続されている。本実施形態のトランジスタTr1はNPN BJT(Bipolar Junction Transistor)であり、トランジスタT2はPNP BJTである。トランジスタTr1、Tr2のゲートには、フィードバック電圧Vfbが入力される。トランジスタTr1、Tr2の間のノードは、抵抗R5の一端に接続されている。トランジスタTr3、Tr4はカレントミラーCM1を構成している。抵抗R5の他端はカレントミラーCM1の入力端に接続される。
【0042】
カレントミラーCM1は、抵抗R5と基準電位2との間に配置されている。よって、トランジスタTr1、Tr2の中間点から抵抗R5を介してカレントミラーCM1の入力端子に向かってフィードバック電圧Vfbに応じた帰還電流Ifbが流れる。さらに、トランジスタTr5、Tr6はカレントミラーCM2を構成している。カレントミラーCM2は、カレントミラーCM1と正側電源4との間に配置されている。
【0043】
カレントミラーCM2の入力端子はカレントミラーCM1の出力端子に接続される。帰還電流IfbはカレントミラーCM1でコピーされ、カレントミラーCM2の入力端子からカレントミラーCM1の出力端子に向かって流す。カレントミラーCM2の出力端子は、整流ダイオードD2を介して半導体スイッチング素子101のゲートに接続される。これにより、帰還電流Ifbが再びコピーされ、半導体スイッチング素子101のゲートGに注入される。
【0044】
ここで、抵抗R1と抵抗R2とを同じ抵抗値に設定し、電圧制御抵抗R3と電圧制御抵抗R4とも同じ抵抗値に設定してよい。整流ダイオード、トランジスタのオン電圧は小さいため、その影響を略して、本回路例における帰還電流Ifbを下記の式で表すことができる。
Ifb=R4×(Vs-Vref)/(R1×R5) ・・・式5
ここで、R4/R1は可変利得増幅回路部15の利得であり、すなわち、式3のG(s)である。1/R5は電圧制御電流源回路部16の増幅率であり、すなわち、式3のgである。Vrefは参照電圧であり、例えば0である。電圧制御抵抗R4の抵抗値は電圧制御信号sに応じて変更することができる。電圧制御信号sは半導体スイッチング素子の動作条件に基づいて決定することができるため、帰還電流Ifbを半導体スイッチング素子101の動作条件に応じて調整することができる。これにより、半導体スイッチング素子101の動作条件に応じてサージ電圧の抑制量を調整しつつスイッチング損失を低減させることができる。
【0045】
また、電圧制御抵抗R4は、制御端子に入力される電圧制御信号に応じて抵抗値を変化させる電界効果トランジスタであってよい。電界効果トランジスタはJFET(接合FET)でもよいし、MOSFETでもよい。電圧制御抵抗は、電界効果トランジスタに並列または直列接続された抵抗を組み合わせた回路であってもよい。ここで、R4を電圧制御抵抗として説明するが、R1またはR2が電圧制御抵抗であってもよい。
【0046】
図4は実施例1に係るゲート駆動装置600の回路構成の別例を示す図である。
図3で示された回路と同一構成には同一番号を付けてその説明を省略する。
【0047】
図4で示す構成では、減算器14が省略される。また、可変利得増幅回路部15と電圧制御電流源回路部16とが一体化され、可変利得電圧制御電流源回路部15&16として構成される。電気変化率検知回路部13は、抵抗R1、R4で構成される分圧回路を介して、可変利得電圧制御電流源回路部15&16と接続される。本回路例では、R1とR4は固定抵抗であり、R5は電圧制御抵抗である。この例における帰還電流Ifbは下記の式で表すことができる。
Ifb=R4×Vs/((R1+R4)×R5) ・・・式6
【0048】
ここで、R4/(R1+R4)は分圧回路の分圧であり、式3における電圧利得を固定値Gとしたものである。1/R5は電圧制御電流源回路部16の増幅率である。電圧制御抵抗R5の抵抗値は電圧制御信号sに応じて変更することができるため、1/R5は式3の増幅率を電圧制御信号sに依存するg(s)としたものである。この回路例によっても、電圧制御信号sに応じて帰還電流Ifbを柔軟に調整できる。これにより、半導体スイッチング素子101の動作条件に応じてサージ電圧の抑制量を調整しつつスイッチング損失を低減させることができる。
【0049】
図5は、従来例1に係るゲート駆動装置600の基本回路構成図である。従来例1は非特許文献1に記載されている構成を基に、本発明の実施例に係るゲート駆動装置600と比較しやすいように一部変形した例である。従来例1に係るゲート駆動装置600は、
図2で示された実施例に係るゲート駆動装置600から、利得制御回路部21を取り除き、可変利得増幅回路部15を固定利得増幅回路部18に変更した構成である。
【0050】
本実施例による回路例を参考にして、従来例1の帰還電流制御部12から出力する帰還電流Ifbは下記する式で表せる。
Ifb=G×g×(Vs-Vref) ・・・式7
ここで、Gは固定利得増幅回路部18の電圧利得であり、gは電圧制御電流源回路部16の増幅率である。Vrefは参照電圧である(値は例えば、0とする)。Gもgも固定値である。式7で表される帰還電流Ifbにおいても、本実施例と同様にゲート電流Igの絶対値を小さくするように電圧利得G及び増幅率gを設定する。これにより、半導体スイッチング素子101のスイッチングが減速され、半導体スイッチング素子101のサージ電圧が抑制される。しかしながら、従来例1においては電圧利得Gも増幅率gも固定値のため、帰還電流Ifbの値を調整することができない。よって、サージ電圧の抑制量を半導体スイッチング素子101の動作条件に応じて調整することができない。
【0051】
図6は、従来例2に係るゲート駆動装置600の回路図である。従来例2に係るゲート駆動装置600は、
図2で示された本実施形態に係るゲート駆動装置600から、帰還電流制御部12を取り除いた構成である。
図2に示された構成要素と同一の構成要素には、同一の符号を付して、その説明を簡略にする。
【0052】
従来例2に係るゲート駆動装置600の動作を説明する。まずパルス発生部400からの駆動指令信号Pが高電位(オン)となる間、駆動信号生成回路部6が動作し、第1のMOSFET7をオン状態にし、第2のMOSFET8をオフ状態にする。これにより、半導体スイッチング素子101のコレクタ-エミッタ間に電流が流れる(ターンオン)。また、駆動指令信号Pが低電位(オフ)となる間、駆動信号生成回路部6を介して、第1のMOSFET7をオフ状態にし、第2のMOSFET8をオン状態にする。これにより、半導体スイッチング素子101のコレクタ-エミッタ間の電流が止まる(ターンオフ)。
図13で説明する別例2においては、そもそも本実施例や
図11で説明する別例1における帰還電流制御部が存在しないため、サージ電圧を一切抑制することができない。
【0053】
次に、本実施例に係るゲート駆動装置600によって行われる動作と、上記従来例1及び2に係るゲート駆動装置600によって行われる動作との違いについて
図7及び
図8を用いて説明する。具体的には、半導体スイッチング素子のワースト条件及び一般条件それぞれの場合のターンオフ時の波形の違いについて説明する。
【0054】
図7の各図は半導体スイッチング素子101のワースト動作条件(サージ電圧のピークが最大になる動作条件、例えば、主電流及び/またはバス電圧が最大値である条件、素子の接合温度が最低値である条件)におけるターンオフ時の波形例を示す図である。
【0055】
図7の各図の実線は実施例1および従来例1に係るゲート駆動装置600によるターンオフ波形である。また、破線は従来例2に係るゲート駆動装置600によるターンオフ波形である。ワースト動作条件においては本発明の実施例1と、従来例1のどちらも同等に駆動条件を最適化することができるため、同じ波形になる。そのため、以下のワースト動作条件の動作説明では従来例1についての説明は省略し、実施例1と、従来例2との違いを説明する。
【0056】
図7(A)は、半導体スイッチング素子101のターンオフ中のゲート-エミッタ間電圧Vge(以下、Vge)を示す。
図7(B)は、半導体スイッチング素子101のエミッタに流れる主電流Ic(以下、Ic)を示す。
図7(C)は、半導体スイッチング素子101のコレクタとエミッタ間にかかる主電圧Vce(以下、Vce)を示す。
図7(D)は、半導体スイッチング素子101の主電流の時間変化率dIc/dtの検知結果であるVs(以下、Vs)を示す。この例ではVs∝-dIc/dtの関係である。
図7(E)は、帰還電流制御部12の帰還電流Ifb(以下、Ifb)を示す。
図7(F)は、半導体スイッチング素子101のゲート電流Ig(以下、Ig)を示す。
【0057】
図7の各図の波形を参照しながら、本実施例のターンオフ動作を具体的に説明する。
図7(A)に示すように、時刻t0においてターンオフ動作が開示されると、半導体スイッチング素子101のVgeが下がり始める。同時に、
図7(F)で示すように、半導体スイッチング素子101のゲートから電流が流れ始める。すなわち、負のゲート電流Igが流れ始める。時刻t1から、
図7(C)に示すように、主電圧Vceが上昇し始める。このときVgeとIgはミラー効果によりほぼ一定値になる期間(ミラー期間)に入る。ミラー期間は時刻t2において終了する。
【0058】
同時に、
図7(B)で示すように、主電流Icが減少し始める。そうすると、
図7(D)で示すようにVsが上昇し始める。時刻t3において、Vsが最大値になる。そうすると、
図7(C)で示すように、主電圧Vceのサージ電圧も最大値に達する。すると、
図7(C)の破線に示したように、従来例2においては、主電圧Vceのサージ電圧が主電圧基準値(Main voltage criteria)を超えてしまう。
【0059】
ここで、主電圧基準値はパワー素子の定格電圧から所定の設計マージンを差し引いた主電圧Vceの設計基準値を表す。一般に、サージ電圧が主電圧基準値を超えないようにゲート駆動条件が設計される。したがって、従来例2の実用的な設計においては
図7(C)に示す破線よりもスイッチング速度が遅く(すなわちサージ電圧が低く、スイッチング損失が大きく)なるようにゲート駆動条件(
図6のオフ側ゲート抵抗10など)が調整されるが、ここでは比較のために実施例1のゲート駆動回路部11と同じゲート駆動条件で従来例2に係るゲート駆動装置600を駆動した場合のターンオフ波形を示している。
【0060】
時刻t4まで、主電流Icが減少し続ける。時刻t2~t4の期間、
図7(E)で示すように、本実施例の帰還電流制御部12より帰還電流Ifbが出力される。帰還電流Ifbが半導体スイッチング素子101のゲートにIgとは逆方向に加算されるため、
図7(F)で示すように、従来例2に比べて、本実施例のゲート電流Igの絶対値が帰還電流Ifbの絶対値の分だけ減少する。また、時刻t3において、
図7(E)で示すように、帰還電流Ifbが極大値に達する。これとともに、
図7(F)で示すように、従来の例2に比べ、本実施例のゲート電流Igの絶対値の減少分も極大値に達する。
【0061】
これにより、時刻t2~t4の期間、
図7(B)で示すように、本実施例(実線)の主電流のスイッチング速度(Icの減少速度)は帰還電流の無い従来例2(破線)より遅くなる。これとともに、
図7(D)で示すように、本実施例(実線)のVsは従来例2(破線)より小さくなる。これにより、
図7(C)で示すように、本実施例(実線)のサージ電圧は主電圧基準値以下に抑制される。
【0062】
図8の各図は半導体スイッチング素子101の一般動作条件(上記したワースト条件以外の動作条件、例えば、主電流及び/または主電圧が最大値ではない条件、または素子の接合温度が最低値ではない条件)におけるターンオフ時の波形の一例を示す図である。一般条件の場合には、ワースト条件の場合と異なり、帰還電流を採用していた従来例1の波形にも違いが生じるため、本図においては本実施例と従来例1との違いについて説明する。なお、
図8各図の実線は本実施例のターンオフ波形であり、点線は、従来例1のターンオフ波形である。
【0063】
図8(A)から
図8(F)の各図は、それぞれ
図7(A)から
図7(F)の各図と対応している。
図8(G)は、半導体スイッチング素子101の発熱Pwrを示す。Pwrを時間積分したもの(すなわちPwr波形の面積)がスイッチング損失を表す。
【0064】
図8の各図を参照しながら、半導体スイッチング素子101の一般条件における動作を具体的に説明する。上述のようにワースト動作条件においては、本実施例と従来例1のターンオフ波形は同等である。しかしながら、一般条件においては、
図8(A)から
図8(G)までの各図で示すように、時刻t2~t4の期間、本実施例による波形と従来例1による波形が異なる。以下、この異なる点を中心に説明する。
【0065】
時刻t2~t4の期間の基本的な動作は
図7と同様であるが、帰還電流Ifbの大きさが異なる。ここで、式7で示された従来例1の利得Gは動作条件に依らず固定値のため、ワースト条件と同じ高い値である。そのため
図8(C)の点線に示すようにサージ電圧が過剰に抑制され、主電圧基準値より必要以上に小さくなる。すなわちスイッチング速度が過剰に遅くなる。これにより
図8(G)に示すように発熱Pwrが大きくなりターンオフ時のスイッチング損失が増加する。
【0066】
これに対して、式3で示された本実施例の利得G(s)は動作条件に応じて変更することができるため、式3の利得G(s)をワースト条件の場合よりも小さくすることができる。これにより、
図8(E)で示すように、本実施例の帰還電流Ifb(実線)が従来例1の帰還電流Ifb(点線)より小さくなり、
図8(F)で示すように、従来例1と比較して、本実施例のゲート電流の絶対値の減少分も小さくなる。これにより、
図8(B)に示すように、本実施例においては従来例1よりスイッチング速度(Icの減少速度)を速くすることができ、
図8(G)に示すように発熱Pwrを低減することができる。すなわち、ターンオフ時のスイッチング損失を低減することができる。このように、本実施例のG(s)を動作条件に応じて適切に変更することで、サージ電圧が主電圧基準値を超えない範囲でスイッチング速度を調整し、サージ電圧の抑制とスイッチング損失の低減とを両立することができる。
【0067】
次に、利得G(s)の調整方法について説明する。利得G(s)は動作条件に応じて変更し、サージ電圧が主電圧基準値を超えない範囲でスイッチング速度が最大となるように決めることが望ましい。動作条件を示す各センシング値は利得制御回路部21に入力される。利得制御回路部21は、センシング値を中間値としての電圧制御信号sに変換し、可変利得増幅回路部15に出力する。可変利得増幅回路部15は、電圧制御信号sの値に応じて利得G(s)を決定する。利得制御回路部21と可変利得増幅回路部15は多様な回路の組み合わせで実現可能であるため、利得G(s)の電圧制御信号sに対する関数も多様な実現方法が考えられる。例えば利得G(s)はsに比例して変更する構成でもよいし、sに反比例して変更する構成でもよい。一方、利得G(s)を動作条件に対して変化(調整)する方法は以下のように決めることが効果的である。
【0068】
G(s)の調整方法は、帰還電流が無いと仮定した場合(例えばG(s)=0となるように利得制御回路部21の入力を強制的に調整した場合)の半導体スイッチング素子101のサージ電圧が主電圧基準値を超える超過分に基づいて決定する。超過分が大きい動作条件ではG(s)が大きく、超過分が小さい動作条件では、G(s)が小さくなるように変更する。すなわち、利得G(s)はサージ電圧が主電圧基準値を超過する領域においては単調増加する。一方で、サージ電圧が主電圧基準値を超過しない領域においては、サージ電圧を抑制する必要がないため、利得G(s)がゼロである。すなわち、不感帯である。ここで、不感帯は利得G(s)が微小値であってもゼロと見なす。微小値は、例えば、利得G(s)をかけた帰還電流の絶対値がゲート電流(ミラー期間)の絶対値の5%以下になるような値である。
【0069】
以下、
図9~
図14を参照し、具体的な利得G(s)の調整方法を説明する。
図9(A)、
図9(B)、
図9(C)は、それぞれ、実施例1および従来例1の利得設定、半導体スイッチング素子101のサージ電圧、半導体スイッチング素子101のスイッチング損失のバス電圧VDC依存性の例を示す図である。
図9の各図において、実線が実施例1、破線が従来例1の特性である。また、
図9(B)の点線は帰還電流無しの従来例2の特性を示す。
【0070】
バス電圧VDCが実使用上想定する最大バス電圧V2となる場合、半導体スイッチング素子101の動作条件は
図7で示すワースト動作条件である。この場合には、
図9(A)及び
図9(B)で示すように、サージ電圧を主電圧基準値内に抑制できるように利得を設定する。ワースト条件においてはサージ電圧の抑制量が同じであるため、実施例1の利得G(s)と従来例1の利得Gの設定値が同じである。
【0071】
次に、バス電圧VDCが最大バス電圧V2より小さくなる場合、半導体スイッチング素子101の動作条件は
図8の各図で示す一般動作条件(バス電圧VDCがV2未満の領域)である。この場合、
図9(B)に示すように、バス電圧VDCがV2から減少するにつれて、帰還電流無し(No Feedback)の従来例2におけるサージ電圧も単調減少する。なお、本実施例において最大バス電圧V2は例えば半導体スイッチング素子の定格電圧の50~80%の範囲内の値である。
【0072】
実施例1の利得G(s)の調整方法は、バス電圧VDCがV1以上V2未満である領域Bと、バス電圧VDCが0以上V1未満である領域Aと、で異なる。バス電圧V1は、サージ電圧の主電圧基準値に対する超過分が0となる電圧である。帰還電流がないと仮定した場合にサージ電圧が主電圧基準値を超過する領域Bにおいては、バス電圧VDCが減少するにつれてサージ電圧の超過分も減少するため、実施例1の利得G(s)の設定値も単調に減少する。領域Aにおいては、帰還電流制御部12から出力する帰還電流が流されなくても、半導体スイッチング素子101のサージ電圧が主電圧基準値以下になる。つまり、この領域では、サージ電圧を抑制する必要が無いため、実施例1の利得G(s)の設定値をゼロにするのが好ましい。すなわち、領域Aは、実施例1の帰還電流制御部12の帰還制御が無効化する不感帯である。なお、領域Aと領域Bとの境界における境界電圧V1は、本実施例では例えば上記した定格電圧の30~50%の範囲内の値である。
【0073】
上記のように利得G(s)を調整することによって、
図9(C)に示すように、ワースト条件、すなわちバス電圧VDC値が最大バス電圧V2の場合、実施例1と従来例1のターンオフ時のスイッチング損失は同じであるが、バス電圧VDC値が最大バス電圧V2未満の場合、実施例1におけるスイッチング損失は従来例1におけるスイッチング損失よりが小さい。すなわち、実施例1の帰還電流制御部12における利得G(s)を半導体スイッチング素子の動作条件に応じて調整することで、半導体スイッチング素子101のスイッチング損失を低減することができる。
【0074】
図9においては、利得G(s)をバス電圧に基づいて調整する方法について説明したが、主電圧に基づいて調整することも可能である。
図10(A)、(B)、(C)は、それぞれ、実施例1および従来例1の利得設定、半導体スイッチング素子101のサージ電圧、半導体スイッチング素子のスイッチング損失の主電流依存性の例を示す図である。
図10の各図において、実線が実施例1の波形で、破線が従来例1の波形である。また、
図10(B)の点線は帰還電流無しの従来例2の波形を示す。
図10と
図9は類似のため、簡略に説明をする。
【0075】
図10(A)に示すように、実施例1の利得G(s)は、主電流Icの変化に応じて不感帯(所定電流I1以下の領域A)と単調増加領域(所定電流I1~I2の領域B)二つの領域を有する。これにより、
図10(B)で示されるように、実施例1においては、主電流Icの変化に応じてサージ電圧の抑制量を変化できる。これにより、
図10(C)に示すように、
図9(C)の場合と同様に、半導体スイッチング素子101の一般動作条件において、実施例1は従来例1よりスイッチング損失を減らすことができる。なお本実施例において、
図10における主電流の最大値I2は、例えば半導体スイッチング素子101の定格電流の1~2倍の範囲内の値である。また、領域Aと領域Bとの境界における境界電流I1は、例えば上記した定格電流の20~80%の範囲内の値である。
【0076】
なお、半導体スイッチング素子101がIGBTの場合、IGBTのチップの設計によって、ターンオン時に、主電流Icの小さい領域においてターンオン速度が速くなり、対アーム(例えば下アームでターンオンした場合の上アーム)のリカバリサージ電圧が主電圧基準値を超えるケースがある。
【0077】
図11(A)はこのような別例1の半導体スイッチング素子を帰還電流無し(No Feedback)で駆動した場合のリカバリサージ電圧の主電流依存性を示す。
図11(B)は別例1の半導体スイッチング素子を使用した実施例1において、利得G(s)の主電流依存性を示す図である。リカバリサージ電圧の主電圧基準値に対する超過分が正の領域C、Bにおいては超過分の大きさに応じて利得G(s)を調整する。リカバリサージ電圧が主電圧基準値を超過しない領域Aにおいては利得G(s)を0に設定する。
【0078】
図12(A)、
図12(B)、
図12(C)はそれぞれ、実施例1および従来例1の利得設定、半導体スイッチング素子101のターンオフ時のサージ電圧、半導体スイッチング素子のスイッチング損失の接合温度依存性の例を示す図である。
図12の各図において、実線が実施例1の波形で、破線が従来例1の波形である。また、
図12(B)の点線は帰還電流無しの従来例2の波形を示す。
【0079】
本例では、
図12(B)に示されるように、接合温度Tjの上昇につれて、帰還電流無しの場合(点線)、半導体スイッチング素子101のターンオフサージ電圧が減少していく特性を示す。すなわち、接合温度Tjが大きくなるほど、主電圧基準値を超えるサージ電圧の超過分も小さくなる。よって、
図12(A)に示されるように、本実施形態の利得G(s)は、接合温度Tjの上昇に応じて単調に減少させることが好ましい。また、本実施例では、帰還電流がないと仮定した場合にすべての接合温度範囲においてサージ電圧が主電圧基準値を超過するため、G(s)が不感帯を持たない。このように超過分に応じてG(s)を設定することにより、
図12(B)の実線に示されるように、本実施形態のサージ電圧を一定値に保つことができ、
図12(C)に示されるようにスイッチング損失を従来例1より小さくすることができる。
【0080】
図13は別例2の半導体スイッチング素子のサージ電圧、及び実施例1の利得設定の温度依存性の例を示す図である。
図13(A)で示されるように、IGBTの特性や主回路寄生インダクタンス107によっては、接合温度Tjが低温領域に入るにつれて、半導体スイッチング素子101のサージ電圧が急峻に増加するケースがある。このようなケースにおいては、
図13(B)に示されるように、低温領域での利得G(s)を急峻に引き上げて、接合温度Tの上昇に対して下に凸になるように単調減少させることが好ましい。
【0081】
図14は別例3の半導体スイッチング素子のサージ電圧、実施例1の利得設定の温度依存性を示す図である。
図14(A)に示されるように、半導体スイッチング素子がSiC MOSFETである場合、接合温度Tjが大きくなるほど、ターンオン時の対アームのリカバリサージ電圧が大きくなることがある。すなわち、帰還電流がないと仮定した場合にサージ電圧が主電圧基準値を超える超過分も大きくなる。よって、SiC MOSFETのターンオンスイッチングの場合、
図14(B)に示されるように、接合温度Tjが大きくなるほど、利得G(s)の設定値を単調に増加させることが好ましい。
【0082】
[実施例1の変形例]
実施例1において、帰還電流制御部12をターンオフ専用として使用することができる。しかし、この場合、ターンオン時において帰還電流制御部12に電流の時間変化率dIc/dtによる不要な帰還電流Ifbが生成され、半導体スイッチング素子101の動作に影響を与える可能性がある。したがって、帰還電流制御部12をターンオン時に無効化する機能を追加することが好ましい。実施例1の変形例はこの機能を追加した回路例である。ターンオフ専用の回路を例として説明するが、ターンオン専用の回路も同様である。
【0083】
図15は、実施例1の変形例に係るゲート駆動装置600の基本回路構成図である。実施例1の変形例に係る帰還電流制御部12は、
図2で示された実施例1に係る帰還電流制御部12に、マスク回路部20を追加した構成である。以下、
図2と異なる点について説明する。
【0084】
マスク回路部20は、可変利得増幅回路部15と電圧制御電流源回路部16の間に設置される。可変利得増幅回路部15の出力端はマスク回路部20の入力端に接続される。マスク回路部20の出力端は電圧制御電流源回路部16の入力端に接続される。さらに、マスク回路部20の制御入力端はパルス発生部400に接続され、パルス発生部400からの指令信号Pを受信する。
【0085】
マスク回路部20は、例えば、電圧制御スイッチで構成される。指令信号Pが高電圧(オン)の場合、マスク回路部20は、可変利得増幅回路部15の出力端を基準電位へと接続し、可変利得増幅回路部15からの帰還電圧Vfbをブロックする。指令信号Pが低電圧(オフ)の場合、マスク回路部20は可変利得増幅回路部15の出力端を電圧制御電流源回路部16へと接続し、帰還電圧Vfbを電圧制御電流源回路部16に出力する。これにより、ターンオン時に、帰還電流制御部12を無効化し、ターンオフ時に、帰還電流制御部12を有効化することができる。したがって、ターンオン時において帰還電流制御部12に電流の時間変化率dIc/dtによる不要な帰還電流Ifbが生成され、半導体スイッチング素子101の動作に影響が生じることを抑制できる。
【0086】
[実施例2]
図16は実施例2に係るゲート駆動装置の基本回路構成図である。実施例2に係るゲート駆動装置600は、
図2で示された実施例1に係るゲート駆動装置600の帰還電流制御部12から、電気の変化率検知回路部として電流変化率検知回路部13を電圧変化率検知回路部17に入れ替え、遅延回路部22を追加した構成である。以下、異なる点を中心に説明することとする。半導体スイッチング素子101のターンオフ時の動作について説明するが、ターンオン時の動作も同様である。
【0087】
電圧変化率検知回路部17は半導体スイッチング素子101のコレクタ端に接続する。電圧変化率検知回路部17は、例えば、キャパシタと抵抗からなる微分回路と整流回路を有する。電圧変化率検知回路部17の出力端は減算器14と接続される。電圧変化率検知回路部17は半導体スイッチング素子101の主電圧Vceの時間変化率を検知し、整流して検知電圧Vs(t)を生成する。時刻tのVs(t)は下記する式で表すことができる。
Vs(t)=RC×dv/dt(t)・・・式8
ここで、dv/dt(t)は半導体スイッチング素子の主電圧の時間変化率である。RCは電圧変化率検知回路部17における微分回路の時間定数である。
【0088】
遅延回路部22は、可変利得増幅回路部15と電圧制御電流源回路部16との間に設置される。遅延回路部22は、可変利得増幅回路部15から受信する帰還電圧Vfbに遅延dを加えて、電圧制御電流源回路部16に出力する。なお、回路構成によって適切な遅延dを確保できる場合、遅延回路部22を省略してもよい。この場合には、可変利得増幅回路部15は直接に電圧制御電流源回路部16と接続する。
【0089】
実施例2の帰還電流制御部12における帰還電流Ifbは下記する式で表せる。
Ifb(t+d)=G(s)×g×(Vs(t)-Vref) ・・・式9
ここで、Vs(t)は時刻tにおける電圧変化率検知回路部17の検知結果である。Ifb(t+d)は時刻t+dにおける帰還電流である。dは回路遅延である。G(s)は可変利得増幅回路部15の電圧利得であり、gは電圧制御電流源回路部16の増幅率である。Vrefは参照電圧である。Vrefの値は、例えば、0である。利得G(s)は利得制御信号sの値に応じて調整される。gは固定値である。なお、増幅率gを利得制御信号sに依存するg(s)としてもよく、利得G(s)を固定値Gとしてもよい。
【0090】
実施例1と同様で、帰還電流Ifbは半導体スイッチング素子101のゲート電流の絶対値を低減することができる。これにより、半導体スイッチング素子101のスイッチングが減速され、サージ電圧が抑制される。また、実施例2の利得の調整方法は実施例1と同じである。半導体スイッチング素子101の動作条件に応じて利得G(s)を変更することによって、帰還電流Ifbを柔軟に調整できる。これにより、半導体スイッチング素子101の動作条件に応じてサージ電圧を主電圧基準値以下に抑制しつつスイッチング損失を低減させることができる。
【0091】
図17は従来例3に係るゲート駆動装置600の基本回路構成図である。従来例3は非特許文献1に記載されている構成を基に、本発明の実施例2と比較しやすいように一部変形した例である。従来例3に係るゲート駆動装置600は、
図16で示された実施例2に係るゲート駆動装置600から、利得制御回路部21を取り除き、可変利得増幅回路部15を固定利得増幅回路部18に変更した構成である。以下、実施例2と異なる点について説明する。
【0092】
従来例3の帰還電流制御部12の帰還電流Ifbは下記する式で表せる。
Ifb(t+d)=G×g×(Vs(t)-Vref) ・・・式10
ここで、Vs(t)は時刻tにおける電圧変化率検知回路部17の検知結果である。Ifb(t+d)は時刻t+dにおける帰還電流である。dは回路遅延である。Gは固定利得増幅回路部18の電圧利得であり、gは電圧制御電流源回路部16の増幅率である。Vrefは参照電圧である(値は例えば、0とする)。従来例3においても、利得G及び増幅率gは、ゲート電流Igの絶対値を減少させるように設定される。これにより、半導体スイッチング素子101のスイッチングが減速され、サージ電圧が抑制される。しかしながら、従来例3においても、Gもgも固定値のため、帰還電流Ifbを半導体スイッチング素子101の動作条件に応じて調整することができない。
【0093】
図18の各図は半導体スイッチング素子101の一般動作条件におけるターンオフ時の波形の一例を示す図である。
図18各図の実線は実施例2のゲート駆動装置600の波形である。また、
図18各図の点線は、従来例3である
図17のゲート駆動装置600の波形である。
【0094】
図18(A)は、半導体スイッチング素子101のターンオフ中のゲート-エミッタ間電圧Vgeを示す。
図18(B)は、半導体スイッチング素子101のエミッタEに流れる主電流Icを示す。
図18(C)は、半導体スイッチング素子101のコレクタCとエミッタE間にかかる主電圧Vceを示す。
図18(D)は、半導体スイッチング素子101の主電圧の時間変化率dVce/dtの検知結果であるVsを示す。
図18(E)は、帰還電流制御部12が生成する帰還電流Ifbを示す。
図18(F)は、半導体スイッチング素子101のゲートGに印加されるゲート電流Igを示す。
図18(G)は、半導体スイッチング素子101の発熱Pwrを示す。
【0095】
図18の各図を参照しながら、半導体スイッチング素子101の一般条件における実施例2の動作を具体的に説明する。
図8に示した波形と同様の波形については説明を省略する。
【0096】
図18の基本的な動作は
図8と同様であり、違いは時刻t1~t5の期間における帰還電流Ifbの生成過程である。時刻t1~t5の期間、
図18(D)で示すように、実施例2の帰還電流制御部12は、Vsを検知する。ここで、式9で示されたように、時間tの検知電圧Vs(t)に応じて、時間dだけ遅延した帰還電流Ifbを生成する。帰還電流Ifbは
図18(E)で示される。帰還電流Ifbのピークとサージ電圧のピークと合わせるため、遅延時間dはサージ電圧ピーク時t4とVsピーク時t3の差分t4-t3とすることが好ましい。
【0097】
従来例3の利得Gは固定値のため、動作条件に応じて調整されることはなく、ワースト条件の場合と同じ高い値のままである。そのため、
図18(C)の点線に示すように、サージ電圧が過剰に抑制され、主電圧基準値より必要以上に低下する。すなわち、スイッチング速度が過剰に遅くなる。これにより
図18(G)に示すように発熱Pwrが大きくなりターンオフ損失が増加する。
【0098】
これに対して、実施例2の利得G(s)は動作条件に応じて電気的に調整できるため、式8の利得G(s)をワースト条件の場合よりも小さくすることができる。これにより、
図18(E)で示すように、実施例2の帰還電流Ifb(実線)が従来例3の帰還電流Ifb(点線)より小さくなり、
図18(F)で示すように、従来例3と比較して、本実施例のゲート電流絶対値の減少分も小さくなる。
【0099】
これにより、本実施形態は従来例1よりスイッチング速度を速くすることができ、
図18(G)に示すように発熱Pwrを低減することができる。すなわちターンオフ損失を低減することができる。実施例2の利得G(s)を動作条件に応じて適切に変更することで、サージ電圧が主電圧基準値を超えない範囲でスイッチング速度を調整することができる。
【0100】
[実施例3]
図19は実施例3に係るゲート駆動装置600の基本回路構成図である。実施例3に係るゲート駆動装置600は、
図2で示された実施例1に係るゲート駆動装置600の帰還電流制御部12に対して、電圧変化率検知回路部17、加算器19および遅延回路部22を追加した構成を有する。実施例3は実施例1と比べて、主に、検知結果V(s)生成までの部分が異なる。以下、実施例1と異なる点について説明する。ここで、ターンオフ時の動作について説明するが、ターンオン時の動作も同様である。
【0101】
電圧変化率検知回路部17は、例えば、抵抗とキャパシタからなるRC微分回路で構成される。電圧変化率検知回路部17は、半導体スイッチング素子101のコレクタ端に接続され、主電圧Vceの時間変化率を検知する。電圧変化率検知回路部17の出力端は遅延回路部22に接続される。遅延回路部22の出力端は加算器19に接続される。遅延回路部22は、電圧変化率検知回路部17から受信する検知信号に遅延dをつけて加算器19に出力する。なお、回路構成で適切な遅延dを確保できる場合、遅延回路部22を省略してもよい。電流変化率検知回路部13は主電流Icの時間変化率を検知し、検知信号を加算器19へ出力する。
【0102】
加算器19では、電圧の変化率検知信号と電流の変化率検知信号とを加算し、検知電圧Vs(t)を生成する。Vs(t)は下記する式で表すことができる。
Vs(t)=(RC×dv/dt(t-d)-Ls×dIc/dt(t))・・・式11
ここで、dv/dt(t-d)は、時刻t-dにおける半導体スイッチング素子101の主電圧時間変化率であり、dic/dt(t)は、時刻tにおける半導体スイッチング素子101の主電流時間変化率である。RCは電圧変化率検知回路部17の微分回路の時間定数である。
【0103】
実施例3の帰還電流制御部12において、V(s)生成以降の構成と動作について、実施例1と同様であるため、簡略に説明する。
実施例1と同様に、帰還電流Ifbは以下の式で表せる。
Ifb(t)=G(s)×g×(Vs(t)-Vref) ・・・式12
ここで、Vs(t)は時刻tにおける加算器19から出力される検知電圧である。G(s)は可変利得増幅回路部15の電圧利得であり、gは電圧制御電流源回路部16の増幅率である。Vrefは参照電圧である。Vrefの値は、例えば、0である。G(s)はsに応じて調整される。gは固定値である。なお、増幅率gを利得制御信号sの値に応じて調整できるg(s)に変更してもよいし、利得G(s)を固定値Gに変更してもよい。
【0104】
実施例1と同様に、帰還電流Ifbは半導体スイッチング素子101のゲート電流Igの絶対値を低減することができる。これにより、半導体スイッチング素子101のスイッチングが減速され、サージ電圧が抑制される。また、実施例3の利得の調整方法は実施例1と同様である。そのため、半導体スイッチング素子101の動作条件に応じて利得G(s)を調整することによって、帰還電流Ifbを柔軟に変更できる。これにより、実施例3においても、半導体スイッチング素子101の動作条件に応じてサージ電圧の抑制量を調整しつつスイッチング損失を低減させることができる。
【0105】
なお、上記の実施例および変形例では、可変利得増幅回路部15を他の回路部と独立に設置することを説明したが、減算器14、電圧制御電流源回路部16または電気変化率検知回路部13(または17)の内部に設置してもよい。ゲート駆動回路部11は電流源駆動回路部であってもよい。実施例1の変形例におけるマスク回路部20を同様に、実施例2または実施例3に追加してもよい。また、実施例2において、遅延回路部22の位置を変更して、可変利得増幅回路部15と減算器14の中間に位置してもよいし、減算器14と電気変化率検知回路部17の中間に位置してもよい。そして、上記の実施例では、可変利得増幅回路部の利得G(s)を連続的に変化させることとして説明したが、1または複数の閾値を用いて段階的、離散的に変化させてもよい。
【0106】
以上で説明した本発明の実施例によれば、以下の作用効果を奏する。
(1)本発明の一実施例に係る半導体スイッチング素子の駆動装置は、半導体スイッチング素子を駆動するゲート駆動回路部と、ゲート駆動回路部が半導体スイッチング素子に印加する電気の変化率に所定の利得を乗じて算出した帰還電流を半導体スイッチング素子のゲートに印加する帰還電流制御部と、を備え、電気の変化率は半導体スイッチング素子に印加される電圧又は電流の少なくとも一方の時間変化率であり、帰還電流制御部は、利得を半導体スイッチング素子の動作条件に応じて変化させることによって半導体スイッチング素子のサージ電圧を調整する。
【0107】
上記構成により、半導体スイッチング素子の動作条件に応じて帰還電流を生成し、サージ電圧を調整するため、サージ電圧が素子の耐圧を超えないように調整可能になる。さらには、動作条件を変更した場合でも利得を調整して帰還電流の値を調整することで、過剰にサージ電圧を抑制することなく、スイッチング損失の低減も抑制できる。
【0108】
(2)帰還電流制御部は、電気の変化率を検知する電気変化率検知回路部と、動作条件に基づいて利得制御信号を生成する利得制御回路部と、利得制御信号に基づいて利得を算出し、電気の変化率に該利得を乗じる可変利得増幅回路部と、可変利得増幅回路部からの出力を帰還電流に変換する電圧制御電流源回路部と、を有する。これにより、(1)の作用効果を、種々の回路構成を用いて実現することが可能になる。
【0109】
(3)可変利得増幅回路部は、半導体スイッチング素子の定格電圧から所定の設計マージンを差し引いた主電圧基準値をサージ電圧の最大値として設定し、動作条件が、サージ電圧が主電圧基準値を超える領域にある場合に、サージ電圧の増加に応じて利得を単調増加させる。これにより、サージ電圧が主電圧基準値を超えることによって素子が破壊されることを防止できるとともに、サージ電圧を過剰に抑制することも防止できる。
【0110】
(4)可変利得増幅回路部は、動作条件が、サージ電圧が主電圧基準値以下となる領域にある場合に、利得をゼロにする。これにより、(3)と同様に、サージ電圧を過剰に抑制することを防止できる。
【0111】
(5)可変利得増幅回路部は電圧制御増幅回路によって構成される。また、電圧制御増幅回路は電圧制御抵抗によって構成される。これにより、入力された電圧に応じた連続的な利得の算出が可能になる。
【0112】
(6)動作条件は半導体スイッチング素子に印加されるバス電圧であり、バス電圧の最大値が半導体スイッチング素子の定格電圧の50~80%の範囲内の値である。また、動作条件は半導体スイッチング素子に印加される主電流であり、主電流の最大値が半導体スイッチング素子における定格電流の1~2倍の範囲内の値である。また、動作条件は半導体スイッチング素子の接合温度であり、接合温度の範囲が半導体スイッチング素子における定格接合温度の範囲である。このように、動作条件を、実験的に求められたこれらの値に設定することで、本発明による効果をより好適に実現できる。
【0113】
(7)利得は、バス電圧が境界電圧以下で不感帯領域であり、バス電圧が境界電圧以上で単調増加領域であり、境界電圧は定格電圧の30~50%の範囲内の値である。また、利得は、主電流が境界電流以下で不感帯領域であり、主電流が境界電流以上で単調増加領域であり、境界電流は定格電流の20~80%の範囲内の値である。これにより、(6)の場合と同様に、利得の調整方法を実験的に求められたこれらの値とすることで、本発明による効果をより好適に実現できる。
【0114】
(8)帰還電流制御部は、半導体スイッチング素子の接合温度の上昇に応じて、利得の絶対値を単調に減少させる。これにより、接合温度の上昇に応じて減少するサージ電圧に対応させて帰還電流の大きさを調整できるようになる。
【0115】
(9)主電圧基準値は定格電圧の70~90%の範囲内の値である。これにより、許容されるサージ電圧の最大値を、素子の耐圧等と比較して適切に設定することが可能になる。
【0116】
(10)また、本発明の一実施例に係る電力変換装置は、上記した半導体スイッチング素子の駆動装置と、複数の半導体スイッチング素子と、を有する。これにより実現する電力変換装置は、上述した作用効果を好適に発揮することができる。
【0117】
本発明は、技術的範囲は上記実施の形態に記載の範囲には限定されるものではなく、本発明の主要な特徴から逸脱することなく、様々な変形例が含まれる。そのため、前述の実施例は単なる例示に過ぎず、限定的に解釈してはならない。また、各実施例の構成の一部について、他の構成の追加・削除・置換をすることが可能であって、すべて本発明の範囲内のものである。
【符号の説明】
【0118】
11・・・ゲート駆動回路部、12・・・帰還電流制御部、13・・・電気変化率検知回路部(電流変化率検知回路部)、15・・・可変利得増幅回路部、16・・・電圧制御電流源回路部、17・・・電気変化率検知回路部(電圧変化率検知回路部)、21・・・利得制御回路部、101・・・半導体スイッチング素子、600・・・ゲート駆動装置(半導体スイッチング素子101の駆動装置)