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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023103859
(43)【公開日】2023-07-27
(54)【発明の名称】パネル材
(51)【国際特許分類】
   E04C 2/292 20060101AFI20230720BHJP
   E04C 2/288 20060101ALI20230720BHJP
   E04B 1/76 20060101ALI20230720BHJP
   E04B 1/80 20060101ALI20230720BHJP
【FI】
E04C2/292
E04C2/288
E04B1/76 500F
E04B1/80 100F
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022004631
(22)【出願日】2022-01-14
(71)【出願人】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】久積 綾那
(72)【発明者】
【氏名】中安 誠明
(72)【発明者】
【氏名】長津 朋幸
【テーマコード(参考)】
2E001
2E162
【Fターム(参考)】
2E001DD01
2E001FA04
2E001FA11
2E001GA12
2E001HA33
2E001HB02
2E001HC14
2E162BA02
2E162BB03
2E162CA16
2E162DA00
2E162FA14
2E162FC02
(57)【要約】
【課題】低伝熱形鋼として有孔のウェブを有し、板厚が2.3mm以下であるリップ溝形鋼が用いられることによって断熱性能が高められたパネル材であって、低伝熱形鋼特有の座屈による耐力の低下を抑制できるパネル材を提供する。
【解決手段】パネル材10は、ウェブ12Aと一対のフランジ12Bと一対のリップ12Cとを有し、溝形鋼の断熱性能を向上させる孔(スリット16)がウェブ12Aに設けられ、板厚が2.3mm以下であるリップ溝形鋼12と、少なくとも一方のフランジ12Bの板面に接合された面材14と、を有し、面材14が接合されたフランジ12Bに連続するリップ12Cの長さは、リップ溝形鋼12のF値[N/mm]をFとすると共にリップ溝形鋼12の板厚[mm]をtとしたとき、(240/√F)×tの式で定義される有効リップ長さ[mm]以上である。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ウェブと一対のフランジと一対のリップとを有し、溝形鋼の断熱性能を向上させる孔が前記ウェブに設けられ、板厚が2.3mm以下であるリップ溝形鋼と、
少なくとも一方の前記フランジの板面に接合された面材と、を有し、
前記面材が接合された前記フランジに連続する前記リップの長さは、リップ溝形鋼のF値[N/mm]をFとすると共にリップ溝形鋼の板厚[mm]をtとしたとき、(240/√F)×tの式で定義される有効リップ長さ[mm]以上である、
パネル材。
【請求項2】
一対の前記リップの長さが互いに等しい、
請求項1に記載のパネル材。
【請求項3】
前記孔は、スリットであり、
前記ウェブの材軸方向における前記スリットの間隔の和を前記スリットの長さの和で除して定義されるスリット率は、5%以上、20%以下である、
請求項1又は2に記載のパネル材。
【請求項4】
前記ウェブの板面を正面から見て、複数の前記スリットは、千鳥配置される、
請求項3に記載のパネル材。
【請求項5】
前記リップ溝形鋼は、F値が500MPa以上である高強度鋼板を用いて形成される、
請求項1~4のいずれか一項に記載のパネル材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、パネル材に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、外壁や床材等のパネル材に用いられる鋼材としての低伝熱形鋼が知られている。低伝熱形鋼は、例えば外壁において熱橋となるスタッドの溝形鋼のウェブに、1個以上の孔を空けることによって作製できる。
【0003】
開けられた孔によって、一対のフランジの間に位置するウェブを経由する熱の移動経路の長さが延長されると共に、移動経路の断面積が縮小する。結果、ウェブの熱伝導率が小さくなるので、有孔のウェブを有する溝形鋼が用いられた低伝熱形鋼の断熱性能が高まる。有孔のウェブを有する溝形鋼が用いられた低伝熱形鋼の断熱性能は、例えば同形状及び同寸法の溝形鋼で比較すると、無孔のウェブを有する溝形鋼が用いられた場合より向上する。
【0004】
なお、本明細書では、以下、説明の便宜上、有孔のウェブを有するリップ溝形鋼を「低伝熱形鋼」と称すると共に、無孔のウェブを有するリップ溝形鋼を「通常形鋼」とも称する。
【0005】
低伝熱形鋼に関する技術として、例えば特許文献1には、建物の壁材等のパネル材に用いられる、フレーム材としてのリップ溝形鋼が開示されている。特許文献1のリップ溝形鋼では、材軸方向に直交する面で切断した場合のウェブの断面積に関し、ウェブ高さ方向の中央位置の断面積を両端のフランジ近傍位置の断面積より小さくすることによって、ウェブの熱伝導率が低下する。特許文献1では、断面積を小さくする方法の例として、ウェブの板面に孔を空ける技術が開示されている。
【0006】
また、特許文献2には、建築用金属板である溝形鋼のウェブの板面を側傍として切り起こすことによって、熱伝導率を小さくするための切れ目がウェブに形成された低伝熱形鋼が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2000-87505号公報
【特許文献2】特開2002-146936号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ここで、低伝熱形鋼の溝形鋼では、ウェブに開けられた孔が、ウェブの断面欠損として作用する。このため、パネル材の断熱性能が高められる。一方、構造性能の面では、有孔のウェブを有する溝形鋼の曲げ耐力は、無孔のウェブを有する溝形鋼の曲げ耐力より低くなる。特に、板厚が2.3mm以下であるリップ溝形鋼の低伝熱形鋼では、風圧等による曲げ荷重が、フランジに接合された面材からフランジに加わった際、低伝熱形鋼特有の歪み座屈、すなわち、ウェブの局所変形が発生し易いことが分かった。
【0009】
この点、特許文献1には、溝形鋼に曲げ荷重が加えられた際、低伝熱形鋼に特有の座屈を抑制し、強度を向上させる技術に関して何ら開示されていない。このため、特許文献1の技術だけでは、板厚が2.3mm以下であるリップ溝形鋼の低伝熱形鋼に特有の座屈に起因する強度低下の問題を解決できない。
【0010】
また、特許文献2は、低伝熱形鋼に関する技術ではあるが、本発明者らが検討した結果、側傍が設けられた場合であっても、低伝熱形鋼のリップ溝形鋼に特有の座屈に起因する強度低下の問題を必ずしも十分に解決できない場合があることが分かった。このため、低伝熱形鋼のリップ溝形鋼において、座屈による耐力の低下を抑制可能な新規な技術が求められている。
【0011】
本開示は、上記の問題に鑑み、低伝熱形鋼として有孔のウェブを有し、板厚が2.3mm以下であるリップ溝形鋼が用いられることによって断熱性能が高められたパネル材であって、低伝熱形鋼特有の座屈による耐力の低下を抑制できるパネル材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本開示の一態様に係るパネル材は、ウェブと一対のフランジと一対のリップとを有し、溝形鋼の断熱性能を向上させる孔がウェブに設けられ、板厚が2.3mm以下であるリップ溝形鋼と、少なくとも一方のフランジの板面に接合された面材と、を有し、面材が接合されたフランジに連続するリップの長さは、リップ溝形鋼のF値[N/mm]をFとすると共にリップ溝形鋼の板厚[mm]をtとしたとき、(240/√F)×tの式で定義される有効リップ長さ[mm]以上である。
【0013】
本発明者らは、有孔のウェブを有し、板厚が2.3mm以下であるリップ溝形鋼を用いた低伝熱形鋼では、面材が接合されたフランジに対して外部から曲げ荷重が加わるときの、面材が接合され圧縮を受ける側であるフランジに連続するリップの長さを検討した。検討の結果、リップの長さが、有効リップ長さ[mm]以上である場合、リップの長さが必要リップ長さであること以外、同じ仕様のリップ溝形鋼と比べ、曲げ応力が上昇することが分かった。
【0014】
ここで、曲げ応力とはリップ溝形鋼のゆがみ座屈耐力を示している。なお、有効リップ長さを定義する式は、「薄板軽量形鋼造建築物設計の手引き 第2版」(一般社団法人 日本鉄鋼連盟)P.56の表3.4.4.中に記載のリップの有効幅を算出する計算式と同じである。また、本発明者らの検討の結果、無孔の通常形鋼の場合、通常形鋼の曲げ応力は、リップの長さが有効リップ長さ以上に延長されても、リップの長さが必要リップ長さである場合の曲げ応力と比較して、上昇しないことが分かった。
【0015】
このため、本開示の一態様に係るパネル材では、断熱性能が高められた低伝熱形鋼のリップ溝形鋼における、低伝熱形鋼特有の座屈による耐力の低下を抑制できる。
【発明の効果】
【0016】
よって、本開示によれば、低伝熱形鋼として有孔のウェブを有し、板厚が2.3mm以下であるリップ溝形鋼が用いられることによって断熱性能が高められたパネル材であって、低伝熱形鋼特有の座屈による耐力の低下を抑制できるパネル材を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本開示の実施形態に係るパネル材を説明する斜視図である。
図2図2(A)は、本実施形態に係るフレーム部材のリップ溝形鋼のウェブの外面を正面から見た図であり、図2(B)は、図2(A)中の2B-2B線断面図である。
図3】スリットの結合部が直列配置である場合のウェブの外面を正面側から見た図である。
図4】スリット率と熱貫流率低下率との関係を、スリットの配置パターンを異ならせて説明するグラフである。
図5】実施例1に係る低伝熱形鋼のリップ溝形鋼の解析モデルの概要を説明する図である。
図6図6(A)は、実施例1に係る解析モデルの材軸方向中央部の断面変形を説明する図であり、図6(B)は、第1比較例に係る解析モデルの材軸方向中央部の断面変形を説明する図であり、図6(C)は、第2比較例に係る解析モデルの材軸方向中央部の断面変形を説明する図である。
図7】実施例1と第1比較例と第2比較例とのそれぞれの解析モデルの中央部における変位と荷重との関係を説明する図である。
図8】実施例2の解析モデルにおける対有効リップ長さ比と短期曲げ耐力との関係を説明するグラフである。
図9】実施例2の解析モデルにおける対有効リップ長さ比と最大曲げ耐力との関係を説明するグラフである。
図10】第2比較例の解析モデルにおける対有効リップ長さ比と短期曲げ耐力との関係を説明するグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下に本開示の実施形態を説明する。以下の図面の記載において、同一の部分及び類似の部分には、同一の符号又は類似の符号を付している。ただし、図面における厚みと平面寸法との関係、各装置や各部材の厚みの比率等は現実のものとは異なる。したがって、具体的な厚みや寸法は以下の説明を参酌して判定すべきものである。また、図面相互間においても互いの寸法の関係や比率が異なる部分が含まれている。
【0019】
<パネル材>
まず、本実施形態に係るパネル材を、図1図4を参照して説明する。図1に示すように、本実施形態に係るパネル材10は、フレーム材としてのリップ溝形鋼12と、上側のフランジ12Bに接合された面材14と、下側のフランジ12Bに接合された面材22と、を有する。上側の面材14と下側の面材22との間には、充填部材24が配置されている。なお、図1中では、リップ溝形鋼12の見易さのため、面材14,22の一部が例示的に分断されている。
【0020】
(リップ溝形鋼)
リップ溝形鋼12は、ウェブ12Aと一対のフランジ12Bと一対のリップ12Cとを有する。リップ溝形鋼12は、一枚の鋼板から、例えば折り曲げ成形によって作製できる。本開示では、鋼板の板厚は、2.3mm以下である。
【0021】
本実施形態では、リップ溝形鋼12は、500MPa以上の高強度鋼板を用いて形成されてもよい。本明細書では、「高強度鋼板」とは、強度としてのF値が、500MPa以上、1000MPa以下である鋼板(鋼材)を意味する。また、「高強度鋼板」との対比において、F値が500MPa未満の鋼板を「通常鋼板」と称する場合がある。本実施形態では、例えば、通常鋼板としての400材のF値は、280MPaであると共に、高強度鋼板のF値は、500MPaである鋼材を使用しても良いし、高強度鋼板のF値が、500MPaの鋼材を使用しても良い。
【0022】
鋼板の強度としてのF値が1000MPaを超える場合、強度が高くなり過ぎるため、例えばロールフォーミング成形等、鋼板をリップ溝形鋼12へ成形する際の加工性が低下する。このため、本実施形態では、高強度鋼板の強度が1000MPa以下に特定されている。なお、本開示では、高強度鋼板の強度は、これに限定されず、適宜変更できる。
【0023】
(リップ)
本実施形態では、一対のリップ12Cのリップ長さLは、互いに等しいが、本開示では、一対のリップのリップ長さが、互いに異なってもよい。「リップ長さL」は、図2(B)に示すように、リップ溝形鋼12の材軸方向Dに直交する断面中で測ったリップ12Cの最大長さである。
【0024】
ここで、本実施形態では、面材14と接合するフランジ12Bが、外部から、面材14の面外方向に沿った圧縮力、すなわち曲げを受けるものと仮定する。
【0025】
(面材)
図1に示すように、面材14は、板面を正面から見て、矩形状の建築部材である。面材14は、例えば、板状の下地部材や石膏ボード等である。本実施形態では、面材14は、外壁材であるが、本開示では、これに限定されず、例えば床材等の他のパネル材であってよい。また、本実施形態では、面材は、一対のフランジ12Bの両方に接合された場合が例示されたが、本開示では、これに限定されず、図1中の上側のフランジ12Bのみに接合されてもよいし、下側のフランジ12Bのみに接合されてもよい。
【0026】
また、図1中の上側の面材14と下側の面材22とは、同様の機能を有する部材であってもよいし、異なる機能を有する部材であってもよい。面材14は、接合部材20によって、少なくとも一方のフランジ12Bの板面に接合されればよい。
【0027】
(充填部材)
本実施形態では、充填部材24は、例えばグラスウールやセルロースファイバー等の断熱材であるが、本開示では、これに限定されず、適宜変更できる。また、本開示では、充填部材は、必須ではない。
【0028】
(接合部材)
接合部材20は、例えばビス等であって、フランジ12Bと面材14とを接合する建築部材である。図1中には、面材14の壁面を正面から見て、複数の接合部材20がリップ溝形鋼12の材軸方向に沿って直線状に配置されている。なお、本開示では、接合部材20の列の個数は、1列、又は2列以上、任意に設定できる。
【0029】
(ウェブ)
図2(A)に示すように、本実施形態では、ウェブ12Aに、材軸方向Dに沿ってほぼ等しい間隔Gで直線状に配置された複数のスリット16が含まれる列が設けられる。複数のスリット16は、溝形鋼の断熱性能を向上させる孔である。複数のスリット16が含まれる列は、図2(A)中の上下方向に沿ってほぼ等しい間隔Gで3列形成される。なお、「材軸方向D」は、リップ溝形鋼12のウェブ12Aとフランジ12Bとが、図2(A)中の左右方向に沿って延びる方向である。すなわち、材軸方向Dは、長手方向と等しい。
【0030】
図2(B)に示すように、「ウェブ高さHW」は、一方のフランジ12B側の端部から他方のフランジ12B側の端部までの間の上下方向の直線距離である。また、「フランジ幅WF」は、図2(B)中で、ウェブ12A側の端部からリップ12C側の端部までの間の左右方向の直線距離である。また、「リップ長さL」は、図2(B)中のリップ12Cにおける一方のフランジ12B側の端部から他方のリップ12Cの端部までの間の上下方向の直線距離である。例えば、図2(B)中の上側のリップ12Cのリップ長さLは、上側のフランジ12Bの上面と同じ高さに位置する上端部の上面と、この上側のリップ12Cの下端部の下面との間の直線距離である。
【0031】
また、本開示では、スリット16が含まれる列の個数は、3列に限定されず、1列であってもよいし、或いは5列等、2列以上の任意の複数列であってよい。なお、断熱性能の向上の観点から、3つ以上のスリット16の列が形成されることが望ましい。
【0032】
また、本開示では、1つの列中で隣接するスリット16同士の材軸方向Dの間隔Gが等しい場合に限定されず、それぞれ異なってよい。また、ウェブ高さ方向で隣接する列と列との間隔Gも、等しい場合に限定されず、それぞれ異なってよい。また、スリット16の長手方向の端部の形状は、応力集中を避けるため、図1中に例示したように、円弧状が好ましい。
【0033】
(結合部)
本実施形態では、ウェブ12Aにおいて、1つの列中で隣接する、一定の長さMを有する直線状のスリット16同士の材軸方向Dの間隔Gが形成される部分に、ウェブ12Aの板部材を高さ方向に結合する結合部18が構成される。
【0034】
本開示では、ウェブ12Aに開けられる孔の形状及び寸法は、スリットに限定されず、適宜変更できる。また、本開示では、1つの列に含まれるスリットの個数は、2つ以上であれば任意である。本開示では、部材としての必要な強度が確保できる限り、少なくとも1つの結合部が形成されればよい。
【0035】
本実施形態では、ウェブ12Aの板面を正面から見た平面視で、3つのスリット16の列に含まれる複数の結合部18の配置パターンは、千鳥配置である。具体的には、3つの列にそれぞれ含まれるスリット16は、ウェブ高さ方向に沿った直線上で重ならないようにずれて配置される。
【0036】
換言すると、スリット16が千鳥配置である場合、ウェブ12Aの板面を正面から見て、一方のフランジ12B側から他方のフランジ12B側に向かって熱が移動する経路が、ウェブ高さHWと同じ最短距離である状態の形成が阻害される。なお、「スリット16が千鳥配置である」場合には、「結合部18が千鳥配置である」場合が生じ得る。
【0037】
また、本開示では「スリットが千鳥配置である状態」とは、ウェブ12Aに形成されたスリット16の列のすべてにおいて、スリットが千鳥配置である場合に限定されない。本開示では、スリットが千鳥配置である状態が、材軸方向D及びウェブ高さ方向の少なくとも一方において部分的に形成された場合も「スリットが千鳥配置である状態」に含まれ得る。
【0038】
なお、本開示では、複数のスリットの配置パターンは、千鳥配置に限定されない。図3に示すように、スリット16同士が、ウェブ高さ方向(図3中の上下方向)に沿った直線上で重なるように配置された直列配置であってもよい。
【0039】
(スリット率)
本開示では、スリット率は、ウェブ12Aにおける材軸方向Dで隣接するスリット16の間隔Gの和をスリット16の長さMの和で除して定義される。なお、本開示では、「スリットの間隔」には、2つのスリットに挟まれた位置に形成される間隔と、材軸方向のウェブの端部で1つのスリットと端部との間に形成される間隔との両方が含まれる。
【0040】
(熱貫流率低下率の解析試験)
図4中には、有限要素数値解析(FEM)を用いて、異なるスリット率を有するリップ溝形鋼12の低伝熱形鋼を用いたパネル材の熱貫流率を解析した結果から算出された熱貫流率低下率が例示されている。具体的には、結合部18の配置パターンが直列配置であるリップ溝形鋼12の解析モデルの熱貫流率低下率と、結合部18の配置パターンが千鳥配置であるリップ溝形鋼12の解析モデルの熱貫流率低下率とが、それぞれ例示されている。
【0041】
図4中の2つの解析モデルで用いられたリップ溝形鋼12は、結合部18の配置パターン以外は、互いに同形状及び同寸法である。また、図4中では、結合部18の配置パターンが千鳥配置である場合のデータ点が、5つの黒丸で例示されると共に、結合部18の配置パターンが直列配置である場合のデータ点が、7つの白丸で例示されている。
【0042】
解析試験1では、解析用モデルとして、スタッド材であるリップ溝形鋼12の低伝熱形鋼に、構造用の一方側の面材14、充填部材24としての断熱材、及び他方側の面材22としての石膏ボードが取り付けられた外壁部材を、スリット率を異ならせて5つ設定した。具体的には、図2(A)中に例示された3列のスリット16の列を有するリップ溝形鋼12の形状において、スリット16の長さMと間隔Gとを変更することによって、それぞれのスリット率を異ならせた。設定された5つの結合部18の配置パターンは、いずれも千鳥配置である。そして、設定された解析用モデルを対象として解析を実行することによって、それぞれの熱貫流率を解析した。
【0043】
また、対比用の基準モデルとして、解析用モデルと同形状及び同寸法であって、無孔のウェブ12Aを有するリップ溝形鋼12を設定した。そして、設定された基準モデルを対象として解析を実行することによって、基準モデルの熱貫流率を解析した。
【0044】
図4中のグラフの縦軸の「熱貫流率低下率」は、スリット16を有する解析モデルの熱貫流率を、基準モデルの熱貫流率で除して得た値である。熱貫流率低下率の値が大きい、すなわち、熱貫流率低下率の値が1に近い程、低下の度合いが小さいため、断熱性能が改善されないことを意味する。一方、熱貫流率低下率の値が小さい程、低下の度合いが大きいため、断熱性能が改善されることを意味する。
【0045】
図4中の黒丸のデータ点から分かるように、結合部18が千鳥配置であると、スリット率が20%以下の場合、熱貫流率低下率が85%以下になる。換言すると、断熱性能を15%以上改善することが可能になる。一方、スリット率が20%を超える場合、断熱性能の改善率が15%未満になる。
【0046】
また、断熱性能の観点では、スリット率は小さい方が好ましいものの、スリット率が小さ過ぎると、リップ溝形鋼12の構造部材としての強度、すなわち、構造性能が不安定になる。このため、本実施形態では、構造性能と断熱性能とをバランスよく両立可能な範囲として、スリット率は、5%以上、20%以下の範囲で設定される。なお、本開示では、スリット率の範囲は、これに限定されず、リップ溝形鋼12の所望の仕様に応じて適宜変更できる。
【0047】
また、図4中の白丸のデータ点から分かるように、結合部18が直列配置であっても、スリット率が、5%以上、20%以下の範囲内で設定される場合、断熱性能を有効に改善できる。ただし、同じスリット率であっても、結合部18が千鳥配置であるリップ溝形鋼12の解析モデルの方が、結合部18が直列配置であるリップ溝形鋼12の解析モデルより、熱貫流率低下率が小さいため、断熱性能がより改善される。
【0048】
(リップの長さ)
次に、本実施形態に係るリップ12Cのリップ長さLについて、具体的に説明する。まず、低伝熱形鋼でない通常形鋼のリップ溝形鋼においては、通常、リップ長さLとして、必要リップ長さが確保されれば済む。しかし、本実施形態では、面材14が接合されたフランジ12Bに連続するリップ長さLが、必要リップ長さより長い、有効リップ長さ以上に設定される。
【0049】
(必要リップ長さ)
必要リップ長さは、「薄板軽量形鋼造建築物設計の手引き 第2版」(一般社団法人 日本鉄鋼連盟)P.83の記載に基づき、以下の計算式によって定義される。

【数1】

min:必要リップ長さ[mm]
b:リップ溝形鋼等のフランジの板要素の幅[mm]
F: リップ溝形鋼のF値[N/mm
t:リップ溝形鋼の板厚[mm]
【0050】
(有効リップ長さ)
また、有効リップ長さは、「薄板軽量形鋼造建築物設計の手引き 第2版」(一般社団法人 日本鉄鋼連盟)P.56の表3.4.4.中に記載の「リップの有効幅」と同じである。具体的には、下記の計算式によって定義される。

有効リップ長さ[mm]=(240/√F)×t
【0051】
なお、板厚tは、「薄板軽量形鋼造建築物設計の手引き 第2版」P.52の有効断面の構造計算に関する「(1)鋼材の板厚」に記載された設計板厚に従って設定される。すなわち、原則として、公称板厚90%の板厚が用いられる。
【0052】
また、曲げ材の有効断面の配置は、「薄板軽量形鋼造建築物設計の手引き 第2版」P.55の図3.4.5.中に記載の配置、及び、P.56の「(6)曲げ材の有効断面係数Ze」の記載に従って設定される。すなわち、曲げ材の許容応力度の算出では、強軸曲げを受けるリップ溝形鋼12の圧縮側のフランジ12Bについて、圧縮側と同等の無効部分を設けて評価する場合と、板要素全体を有効とみなす場合とに応じて、曲げ材の有効断面の配置は異なる。
【実施例0053】
次に、リップ長さLが有効リップ長さ以上に設定された、本実施形態に係るパネル材10のリップ溝形鋼12について行われた実施例1及び実施例2を、図5図9を参照して説明する。
【0054】
<実施例1:変位と荷重との関係>
実施例1では、FEMを用いて、リップ溝形鋼12の面外方向に沿って作用する圧縮力に対する耐力を測定する解析を実行した。なお、低伝熱形鋼に作用する荷重としては曲げが支配的となるため、ここでは、低伝熱形鋼のリップ溝形鋼12に作用する力には、材軸方向Dに沿った圧縮力、すなわち軸力は、含まれないものと仮定する。
【0055】
具体的には、図5に示すように、解析モデルを設定した。解析モデルの材軸方向Dの長さは、3900mmであり、ウェブ高さは、100mmであり、フランジ幅WFは、50mmであり、板厚は、1.6mmである。実施例1では、リップ長さLを、10mm、20mm、30mm、及び40mmの4種類のパラメータとして設定した。
【0056】
解析では、図5中の解析モデルのリップ溝形鋼の上フランジ側に面材14が接合されると仮定した。また、リップ溝形鋼を材軸方向Dに4等分し、両端側の2点の位置に、図7中で上側から下側に向かう鉛直方向の強制変位を設定することによって、中央側の2点間に挟まれた中央部に力を加える4点曲げ試験を実行した。また、横座屈が生じないように、中央部のフランジ幅方向の変位は拘束した。また、境界条件として、リップ溝形鋼の材軸方向Dの一端はピン支持であり、かつ、他端はローラー支持であるように設定した。
【0057】
そして、設定された解析モデルのそれぞれに対して荷重を負荷し、材軸方向Dの中央部の変形状態を解析した。また、解析結果から、それぞれの曲げ耐力を測定した。以下、リップ長さLが有効リップ長さ以上であるリップ溝形鋼12の解析結果を実施例1として説明する。また、リップ長さLが有効リップ長さ未満であるリップ溝形鋼12の解析結果を第1比較例として説明する。
【0058】
また、無孔のウェブ12Aを有するリップ溝形鋼である通常形鋼についても、第2比較例として、実施例1及び第1比較例と同様の解析及び測定を実施した。なお、第2比較例にかかるリップ溝形鋼の仕様は、無孔である点とリップ長さLが12mmである点以外の仕様は、実施例1に係るリップ溝形鋼12の仕様と同様である。
【0059】
図6(A)~図6(C)中には、上側から圧縮力が作用する前の材軸方向Dの中央部の断面形状が破線で例示されていると共に、上側から圧縮力が作用した後の最大耐力時に、下側にたわみ、かつ、変形した断面形状の状態が、実線で例示されている。図6(A)中には、有効リップ長さ以上のリップ長さLを有する実施例1に係る解析モデルの断面形状が例示されている。また、図6(B)中には、有効リップ長さ未満のリップ長さLを有する第1比較例に係る解析モデルの断面形状が例示されている。また、図6(C)中には、通常形鋼の第2比較例に係る解析モデルの断面形状が例示されている。
【0060】
図6(A)及び図6(B)に示すように、実施例1の座屈変形は、第1比較例の場合より抑制された。なお、図6(C)中に例示された第2比較例に係る解析モデルでは、材軸方向Dの中央部は下側にたわんでいるものの、全体の断面形状は大きく変形せず、結果、実施例1及び第1比較例のような座屈変形は、ほとんど生じなかった。
【0061】
また、図7中には、実施例1と第1比較例と第2比較例とについて、材軸方向Dの中央部の鉛直方向の変位δyと荷重Pとの関係を示すそれぞれの軌跡が例示されている。図7中に点線で例示されたリップ長さLが10mmの低伝熱形鋼は、第1比較例に係るリップ溝形鋼である。図7中に一点鎖線で例示されたリップ長さLが20mmの低伝熱形鋼と、細い実線で例示されたリップ長さLが30mmの低伝熱形鋼と、太い実線で例示されたリップ長さLが40mmの低伝熱形鋼とは、実施例1に係るリップ溝形鋼12である。また、図7中に破線で例示されたリップ溝形鋼は、第2比較例に係る通常形鋼のリップ溝形鋼である。
【0062】
図7に示すように、実施例1に係るリップ長さLが20mmの低伝熱形鋼では、通常形鋼の最大荷重の約85%程度の最大荷重まで耐えることができたことが分かる。また、実施例1に係るリップ長さLが30mmの低伝熱形鋼の場合の最大荷重と、実施例1に係るリップ長さLが40mmの低伝熱形鋼の最大荷重は、いずれも通常形鋼の最大荷重以上であった。実施例1に係るリップ溝形鋼12では、有孔のウェブ12Aを有する低伝熱形鋼であっても、断面欠損による耐力低下を抑制できることが分かった。
【0063】
<実施例2:短期曲げ耐力上昇率とリップ長さとの関係>
次に、実施例2では、リップ長さLを変化させた場合のリップ溝形鋼12の短期曲げ耐力について、FSM(有限帯板法)を用いて解析した。解析モデルは、リップ長さL以外の仕様は、実施例1の場合と同様に設定した。また、図8に示すように、実施例2では、解析モデルの板厚を、1.2mm、1.6mm、及び2.3mmの3種類に異ならせて設定した。
【0064】
図8中のグラフの縦軸には、短期曲げ耐力上昇率が設定されている。短期曲げ耐力上昇率としては、まず、FSMによって算出された座屈耐力から、許容曲げ応力度を算出する。そして、算出された許容曲げ応力度に、有効断面積の断面係数を掛け合わせて算出された短期曲げ耐力を、有効リップ長さを有する解析モデルから算出された短期曲げ耐力で除すことによって得られた値を、短期曲げ耐力上昇率として算出できる。また、図8中のグラフの横軸に設定された対有効リップ長さ比は、リップ長さLを有効リップ長さで除した値である。
【0065】
図8に示すように、実施例2では、板厚tが1.2mm、1.6mm、及び2.3mmのいずれにおいても、リップ長さLが有効リップ長さ以上に長くなる程、短期曲げ耐力上昇率が大きくなることが分かった。すなわち、本実施形態に係るリップ溝形鋼12の低伝熱形鋼においては、板厚tが、1.2mm以上、2.3mm以下である場合、曲げ耐力を増加できるという効果が得られることが分かる。
【0066】
また、図9に記載の通り、同様の効果が、FEM(有限要素法)を用いた解析でも確認された。図9に示すように、板厚tが1.2mm、1.6mm、及び2.3mmのいずれにおいても、リップ長さLが有効リップ長さ以上に長くなる程、最大曲げ耐力上昇率が大きくなる。このため、低伝熱形鋼のリップ溝形鋼12における板厚tが、1.2mm以上、2.3mm以下である場合、最大曲げ耐力を増加できることが分かる。
【0067】
一方、図10に示すように、無孔のウェブ12Aを有する通常形鋼の解析モデルを用いて、短期曲げ耐力について同様の解析を実行した。図10中に例示された実施例2における通常形鋼の解析モデルは、実施例1で説明した第2比較例と同様の仕様を有する。第2比較例に係る通常形鋼の場合、リップ長さLが有効リップ長さ以上に長くなる程、実施例2の場合とは反対に、短期曲げ耐力が小さくなることが分かった。
【0068】
具体的には、図10に示すように、通常形鋼においては、リップ長さLが有効リップ長さより短いときには、リップ長さLが長くなる程、短期曲げ耐力が増加する。しかし、リップ長さLが有効リップ長さに到達すると、リップ溝形鋼の耐力のピークが到来し、局部座屈が発生する。そして、リップ長さLが有効リップ長さを超えると、リップ長さLが有効リップ長さより長くなる程、短期曲げ耐力が減少する傾向が確認された。換言すると、通常形鋼の場合、リップ長さLを有効リップ長さ以上に延ばす必要が生じないことが分かる。
【0069】
(作用効果)
本実施形態に係るリップ溝形鋼12が用いられた低伝熱形鋼では、面材14が接合され圧縮を受ける側であるフランジ12Bに連続するリップ長さLが、有効リップ長さ以上である。このため、本実施形態では、リップ長さLが必要リップ長さであること以外、同じ仕様の低伝熱形鋼のリップ溝形鋼と比べて、曲げ耐力が上昇する。結果、本実施形態に係るパネル材10では、断熱性能が高められた低伝熱形鋼のリップ溝形鋼12における、低伝熱形鋼特有の座屈による耐力の低下を抑制できる。
【0070】
また、本実施形態では、一対のリップ12Cのリップ長さLが互いに等しいので、一対のリップ長さLが互いに異なる場合と比べ、リップ溝形鋼12の断面形状が対称性を有する。このため、リップ溝形鋼12を用いたパネル材10は、建築部材としてバランスがよく、設計及び施工性に優れる。
【0071】
また、本実施形態では、ウェブ12Aの材軸方向Dにおけるスリット16の間隔Gの和をスリット16の長さの和で除して定義されるスリット率は、5%以上、20%以下である。このため、断熱性能が確保された低伝熱形鋼のリップ溝形鋼12を実現できる。
【0072】
また、複数のスリット16が千鳥配置の場合、熱の経路を構成する結合部18と結合部18との離隔距離が、複数のスリット16が直列配置の場合より長くなるので、パネル材10の断熱性能が高い。このため、構造性能と断熱性能とをより好適に両立できる。
【0073】
また、本実施形態では、リップ溝形鋼12の低伝熱形鋼は、F値が500MPa以上である高強度鋼板を用いて形成される。低伝熱形鋼に高強度鋼板が用いられることによって、通常鋼板の場合より板厚を薄くしても、低伝熱形鋼において、通常鋼板と同等以上の耐力を実現できる。
【0074】
<その他の実施形態>
本開示は、上記の実施形態によって説明されたが、この説明は、本開示を限定するものではない。本開示から当業者には様々な代替実施の形態、実施例及び運用技術が明らかになると考えられるべきである。
【0075】
例えば、図1図10中に示された構成を部分的に組み合わせて、本開示を構成することもできる。本開示は、上記に記載していない様々な実施の形態等を含むと共に、本開示の技術的範囲は、上記の説明から妥当な特許請求の範囲の発明特定事項によってのみ定められるものである。
【符号の説明】
【0076】
10 パネル材
12 リップ溝形鋼
12A ウェブ
12B フランジ
12C リップ
14 面材
16 スリット
18 結合部
20 接合部材
22 面材
24 充填部材
D 材軸方向
G 間隔
HW ウェブ高さ
L リップ長さ
M スリットの長さ
WF フランジ幅
t 板厚
δy 変位
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10