(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023103881
(43)【公開日】2023-07-27
(54)【発明の名称】表示装置及び信号処理方法
(51)【国際特許分類】
G09G 3/3233 20160101AFI20230720BHJP
G09G 3/20 20060101ALI20230720BHJP
H10K 50/10 20230101ALI20230720BHJP
H10K 59/10 20230101ALI20230720BHJP
G09F 9/30 20060101ALI20230720BHJP
【FI】
G09G3/3233
G09G3/20 611H
G09G3/20 612T
G09G3/20 642A
G09G3/20 670J
H05B33/14 A
H01L27/32
G09F9/30 338
G09F9/30 365
G09G3/20 624B
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022004665
(22)【出願日】2022-01-14
(71)【出願人】
【識別番号】000004352
【氏名又は名称】日本放送協会
(71)【出願人】
【識別番号】591053926
【氏名又は名称】一般財団法人NHKエンジニアリングシステム
(74)【代理人】
【識別番号】100106002
【弁理士】
【氏名又は名称】正林 真之
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【弁理士】
【氏名又は名称】林 一好
(72)【発明者】
【氏名】薄井 武順
(72)【発明者】
【氏名】岡田 拓也
(72)【発明者】
【氏名】中田 充
(72)【発明者】
【氏名】清水 直樹
(72)【発明者】
【氏名】山本 敏裕
【テーマコード(参考)】
3K107
5C080
5C094
5C380
【Fターム(参考)】
3K107AA01
3K107BB01
3K107CC33
3K107CC34
3K107CC45
3K107EE03
3K107HH04
5C080AA05
5C080AA06
5C080BB05
5C080DD05
5C080FF11
5C080GG12
5C080JJ02
5C080JJ03
5C080JJ05
5C080JJ07
5C094BA03
5C094BA27
5C094CA19
5C094DB01
5C094DB04
5C380AA01
5C380AB06
5C380BA38
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5C380BD04
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5C380CC27
5C380CC33
5C380CC37
5C380CC63
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5C380CF01
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5C380EA01
5C380FA02
5C380FA03
5C380FA24
5C380HA03
5C380HA05
(57)【要約】
【課題】より少ないセンシング動作、少ないメモリ使用量により補償データを求めることが可能となる。
【解決手段】各画素が、電流駆動型表示素子と、電流駆動型表示素子に接続された駆動用TFTとを含む表示装置において、各画素の駆動用TFTの制御電極に、測定電圧を印加する駆動部と、制御電極に測定電圧を印加することで、駆動用TFTを流れる電流量をサンプリングしてセンシングするためのセンシング部と、駆動用TFTの電気的特性の劣化によって変わる変動パラメータを含む電気的特性の近似式と、各駆動用TFTを流れた電流量及び測定電圧とを用いて変動パラメータの値を求め、求められた変動パラメータの値を含む近似式を用いて電気的特性を求める計算部と、電気的特性の初期から、求められた電気的特性までの変化に基づいて、画素についての画像データを変換するためのデータ補償部と、を備える。
【選択図】
図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
映像を表示する複数の画素を含み、各画素は、電流駆動型表示素子、該電流駆動型表示素子に接続された駆動用薄膜トランジスタ、及び該駆動用薄膜トランジスタに流れる電流量を制御するためのスイッチ用薄膜トランジスタを含む表示装置において、
各画素の駆動用薄膜トランジスタの制御電極に、前記スイッチ用薄膜トランジスタを介して測定電圧を印加する駆動部と、
前記制御電極に前記測定電圧を印加することで、前記駆動用薄膜トランジスタを流れる電流量をサンプリングしてセンシングするためのセンシング部と、
前記駆動用薄膜トランジスタの電気的特性の劣化によって変わる変動パラメータを含む前記電気的特性の近似式と、前記複数の画素の各駆動用薄膜トランジスタを流れた電流量及び前記測定電圧とを用いて前記変動パラメータの値を求め、求められた変動パラメータの値を含む前記近似式を用いて前記電気的特性を求める計算部と、
各駆動用薄膜トランジスタの電気的特性の初期から、求められた前記電気的特性までの変化に基づいて、各画素についての画像データを変換するためのデータ補償部と、
を備えた表示装置。
【請求項2】
前記近似式は、前記変動パラメータと、前記電気的特性の劣化によって変わらない定常パラメータとを備え、
前記定常パラメータは、基準となる他の表示装置の、初期及び変動後の駆動用薄膜トランジスタの電気的特性によって求められる、請求項1に記載の表示装置。
【請求項3】
前記測定電圧は、基準となる他の表示装置の、複数の画素の駆動用薄膜トランジスタの制御電極に印加される所定電圧ごとの電流分布の標準偏差と平均値とから求められる変動係数から算出される、請求項1に記載の表示装置。
【請求項4】
前記近似式は、下記数1で示される電流Iと電圧VのI-V特性を示す近似式であり、下記数2、下記数3及び下記数4のa
1、a
2、a
3、b
1、b
2、b
3、c
1、c
2、c
3は前記定常パラメータであり、数2、数3及び数4のV
n(nは0又は正の整数、V
0は初期値)は変動パラメータである、請求項2に記載の表示装置。
【数1】
【数2】
【数3】
【数4】
【請求項5】
前記近似式は、電流Iと電圧VのI-V特性を示す近似式であり、
前記データ補償部は、各画素について、前記I-V特性を示す近似式を求め、各画素についてのターゲット電流値を、前記駆動用薄膜トランジスタの初期の前記近似式から求め、求めた前記ターゲット電流値を用いて各画素についての画像データを変換する、請求項1から4のいずれかに記載の表示装置。
【請求項6】
前記近似式は、電流Iと電圧VのI-V特性を示す近似式であり、
前記データ補償部は、各画素について、前記I-V特性を示す近似式を求め、各画素についてのターゲット電流値を、複数の画素について求めた複数の近似式から求められる複数の電流値を平滑化することで求め、求めた前記ターゲット電流値を用いて各画素についての画像データを変換する、請求項1から4のいずれかに記載の表示装置。
【請求項7】
請求項1から6のいずれか1項に記載の表示装置において、一定期間で映像の表示位置をずらしながら、前記センシング部によってセンシングする、表示装置。
【請求項8】
映像を表示する複数の画素を含み、各画素は、電流駆動型表示素子、該電流駆動型表示素子に接続された駆動用薄膜トランジスタ、及び該駆動用薄膜トランジスタに流れる電流量を制御するためのスイッチ用薄膜トランジスタを含む表示装置の信号処理方法において、
各画素の駆動用薄膜トランジスタの制御電極に、前記スイッチ用薄膜トランジスタを介して測定電圧を印加し、
前記制御電極に前記測定電圧を印加することで、前記駆動用薄膜トランジスタを流れる電流量をサンプリングしてセンシングし、
前記駆動用薄膜トランジスタの電気的特性の劣化によって変わる変動パラメータを含む前記電気的特性の近似式と、前記複数の画素の各駆動用薄膜トランジスタを流れた電流量及び前記測定電圧とを用いて前記変動パラメータの値を求め、求められた変動パラメータの値を含む前記近似式を用いて前記電気的特性を求め、
各駆動用薄膜トランジスタの電気的特性の初期から、求められた前記電気的特性までの変化に基づいて、各画素についての画像データを変換する、
信号処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、表示装置及び信号処理方法に関わり、特に、電流駆動型表示素子がマトリックス状に配列された、アクティブマトリックス型の表示装置及びその画質補償のための信号処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、アクティブマトリックス型の有機EL表示装置の開発が盛んに行われている。有機EL表示装置に用いられる自発光の有機EL素子は、応答速度が速く、コントラストが良く、視野角が大きいという長所を有している。
アクティブマトリックス型の有機EL表示装置は、有機EL素子を含む画素がマトリックス状に配列されており、映像信号レベルに応じた電圧を画素に印加し、駆動電流を制御することで輝度を調節する。
【0003】
各画素には、有機EL素子に流れる駆動電流を制御するための駆動用薄膜トランジスタ(駆動用TFT)が含まれる。しきい値電圧や移動度など、駆動用TFTの電気的特性は、駆動環境等により時間的に変動してしまう問題がある。
このような理由から、同じデータ電圧を与えても、電流量が異なることで輝度が不均一となってしまい、輝度むら、焼き付きなどの画質劣化が視認されてしまう。この問題を解決するために、各画素のTFTの電流量をセンシングし、センシング結果に基づいて入力データにフィードバックすることで、輝度の不均一性を抑制する画質補償技術が知られている(特許文献1及び2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2015-108828号公報
【特許文献2】国際公開2015/093100号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来のセンシングによる画質補償技術では、駆動用TFTのしきい値電圧の変化量と、駆動用TFTの移動度の変化量をセンシングし、センシング結果に基づいて補償データを作成する。そのためには、1つの画素において、複数の電圧-電流の関係を測定し、駆動用TFTの特性変動を推定する必要が生じるため、フィードバックに要する時間が長くなってしまう問題があり、リアルタイムでの高精度のフィードバックは難しかった。
【0006】
本発明の目的は、センシングに必要な時間、及び使用メモリを削減しつつ、リアルタイムに画質補償可能な表示装置及び信号処理方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
(1) 本発明に係る表示装置は、映像を表示する複数の画素を含み、各画素は、電流駆動型表示素子、該電流駆動型表示素子に接続された駆動用薄膜トランジスタ、及び該駆動用薄膜トランジスタに流れる電流量を制御するためのスイッチ用薄膜トランジスタを含む表示装置において、
各画素の駆動用薄膜トランジスタの制御電極に、前記スイッチ用薄膜トランジスタを介して測定電圧を印加する駆動部と、
前記制御電極に前記測定電圧を印加することで、前記駆動用薄膜トランジスタを流れる電流量をサンプリングしてセンシングするためのセンシング部と、
前記駆動用薄膜トランジスタの電気的特性の劣化によって変わる変動パラメータを含む前記電気的特性の近似式と、前記複数の画素の各駆動用薄膜トランジスタを流れた電流量及び前記測定電圧とを用いて前記変動パラメータの値を求め、求められた変動パラメータの値を含む前記近似式を用いて前記電気的特性を求める計算部と、
各駆動用薄膜トランジスタの電気的特性の初期から、求められた前記電気的特性までの変化に基づいて、各画素についての画像データを変換するためのデータ補償部と、
を備えた表示装置である。
【0008】
(2) 上記(1)に記載の表示装置は、前記近似式が、前記変動パラメータと、前記電気的特性の劣化によって変わらない定常パラメータとを備え、
前記定常パラメータが、基準となる他の表示装置の、初期及び変動後の駆動用薄膜トランジスタの電気的特性によって求められるようにできる。
【0009】
(3) 上記(1)に記載の表示装置は、前記測定電圧が、基準となる他の表示装置の、複数の画素の駆動用薄膜トランジスタの制御電極に印加される所定電圧ごとの電流分布の標準偏差と平均値とから求められる変動係数から算出されるようにできる。
【0010】
(4) 上記(2)に記載の表示装置は、前記近似式が、下記数1で示される電流Iと電圧VのI-V特性であり、下記数2、下記数3及び下記数4のa
1、a
2、a
3、b
1、b
2、b
3、c
1、c
2、c
3は前記定常パラメータであり、数2、数3及び数4のV
n(nは0又は正の整数、V
0は初期値)は変動パラメータであるようにできる。
【数1】
【数2】
【数3】
【数4】
【0011】
(5) 上記(1)から(4)のいずれかに記載の表示装置は、前記近似式が、電流Iと電圧VのI-V特性を示す近似式であり、
前記データ補償部が、各画素について、前記I-V特性を示す近似式を求め、各画素についてのターゲット電流値を、前記駆動用薄膜トランジスタの初期の前記近似式から求め、求めた前記ターゲット電流値を用いて各画素についての画像データを変換するようにできる。
【0012】
(6) 上記(1)から(4)のいずれかに記載の表示装置は、前記近似式が、電流Iと電圧VのI-V特性を示す近似式であり、
前記データ補償部が、各画素について、前記I-V特性を示す近似式を求め、各画素についてのターゲット電流値を、複数の画素について求めた複数の近似式から求められる複数の電流値を平滑化することで求め、求めた前記ターゲット電流値を用いて各画素についての画像データを変換するようにできる。
【0013】
(7) 上記(1)から(6)のいずれかに記載の表示装置は、一定期間で映像の表示位置をずらしながら、前記センシング部によってセンシングすることができる。
【0014】
(8) 本発明に係る信号処理方法は、映像を表示する複数の画素を含み、各画素は、電流駆動型表示素子、該電流駆動型表示素子に接続された駆動用薄膜トランジスタ、及び該駆動用薄膜トランジスタに流れる電流量を制御するためのスイッチ用薄膜トランジスタを含む表示装置の信号処理方法において、
各画素の駆動用薄膜トランジスタの制御電極に、前記スイッチ用薄膜トランジスタを介して測定電圧を印加し、
前記制御電極に前記測定電圧を印加することで、前記駆動用薄膜トランジスタを流れる電流量をサンプリングしてセンシングし、
前記駆動用薄膜トランジスタの電気的特性の劣化によって変わる変動パラメータを含む前記電気的特性の近似式と、前記複数の画素の各駆動用薄膜トランジスタを流れた電流量及び前記測定電圧とを用いて前記変動パラメータの値を求め、求められた変動パラメータの値を含む前記近似式を用いて前記電気的特性を求め、
各駆動用薄膜トランジスタの電気的特性の初期から、求められた前記電気的特性までの変化に基づいて、各画素についての画像データを変換する、
信号処理方法である。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、リアルタイムに得られるセンシングデータを用いて、駆動用TFTの電気的特性を取得することができ、リアルタイムに高精度の画像データを補償することが可能になり、より少ないセンシング動作、少ないメモリ使用量により補償データを求めることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本発明の表示装置の第1実施形態となる有機EL表示装置の構成を示すブロック図である。
【
図3】表示パネル部の一つの画素Pの画素回路を示す図である。
【
図4】駆動用薄膜トラジスタのI-V特性の初期特性からの変動を示す特性図である。
【
図5】信号処理部の画像データの補償に係る構成部を示すブロック図である。
【
図6】駆動用薄膜トラジスタの立ち上がり電圧V
nを含むI-V特性の初期特性からの変動を示す特性図である。
【
図8】通常有機EL表示装置の画質補償のための信号処理方法を示すフローチャートである。
【
図9】本発明の表示装置の第3実施形態となる、ウォブリング制御部を含む有機EL表示装置の構成を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施形態について図面を用いて詳細に説明する。以下、表示装置の一実施形態として、電流駆動型表示素子である有機EL表示素子がマトリックス状に配置された、アクティブマトリックス型の有機EL表示装置において、画質補償する例について説明する。
【0018】
(第1実施形態)
図1は本発明の表示装置の第1実施形態となる有機EL表示装置の構成を示すブロック図である。
図2は表示パネル部の一構成例を示す図である。
図3は表示パネル部の一つの画素Pの画素回路を示す図である。
図1に示すように、有機EL表示装置1は、映像入力部11と、信号処理部12、列駆動ドライバ部13、行駆動ドライバ部14、及び表示パネル部15を備えている。
映像入力部11は、映像信号が入力されると、この映像信号に含まれる画像データを入力バッファに一時的に格納し、処理タイミングに合わせて順次、画像データを後段の信号処理部12へ出力する。
信号処理部12では、パネル駆動タイミングを制御するためのパネル制御信号を生成して行駆動ドライバ部14へ出力するとともに、映像入力部11から入力された画像データと、列駆動ドライバ部13から入力されるセンシングデータとを用いて計算された駆動用TFTのパラメータから、輝度むらを補償するための画像データを作成し、列駆動ドライバ部13へ出力する。
【0019】
列駆動ドライバ部13は、垂直方向に配される、複数のデータ信号線DL及び複数のセンシング信号線SLが接続される。データ信号線DL及びセンシング信号線SLは、表示パネル部15のマトリックス状に配列された画素Pの各列に接続される。列駆動ドライバ部13は、複数のデータ信号線DLのそれぞれに、表示動作時には各画素Pの画像データ信号(電圧Vda)を供給し、センシング動作時には測定電圧Vdbを供給する。列駆動ドライバ部13には、各画素Pからセンシング信号線SLを介してセンシングデータが入力される。
【0020】
行駆動ドライバ部14は、水平方向に配される複数の行選択信号線RL1と複数の行選択信号線RL2が接続される。行駆動ドライバ部14は、画像データ信号を画素Pに供給するために、パネル制御信号に基づいて、マトリックス状に配列された画素Pの画素行を選択するための選択信号を複数の行選択信号線RL1に順次供給する。また、行駆動ドライバ部14は、センシングデータを画素Pから読み出すために、マトリックス状に配列された画素Pの画素行を選択するための選択信号を複数の行選択信号線RL2に順次供給する。
【0021】
表示パネル部15には、複数のデータ信号線DLと複数のセンシング信号線SLとが垂直方向に配されるとともに、複数の行選択信号線RL1と複数の行選択信号線RL2とが水平方向に配され、それらの交差領域には画素Pがマトリックス状に配置される。複数の画素Pによって映像が表示される。
データ信号線DLとセンシング信号線SL、及び行選択信号線RL1と行選択信号線RL2は、それぞれ画素Pに接続される。
図2で図示されていないが、画素Pは電源供給のための電圧Vdd(陽極電圧)及び電圧Vss(陰極電圧)の供給を受けている。
【0022】
画素Pは、
図3に示すように、有機EL表示素子Del、駆動用薄膜トランジスタ(駆動用TFT)Tr1(以下、トランジスタTr1という)、第1スイッチ用薄膜トランジスタ(第1スイッチ用TFT)Tr2(以下、トランジスタTr2という)、第2スイッチ用薄膜トランジスタ(第2スイッチ用TFT)Tr3(以下、トランジスタTr3という)、及びストレージキャパシタC1を備えている。トランジスタTr2は、トランジスタTr1に流れる電流量を制御する。
【0023】
トランジスタTr2のドレインは、データ信号線DLに接続され、ソースはトランジスタTr1の制御電極となるゲート及びストレージキャパシタC1の一方の端子に接続され、トランジスタTr2のゲートは行選択信号線RL1に接続される。
トランジスタTr1のドレインは、電圧Vddが供給され、ソースはストレージキャパシタC1の他方の端子、トランジスタTr3のドレイン及び有機EL表示素子Delの陽極に接続される。有機EL表示素子Delの陰極は電圧Vssが供給される。
トランジスタTr3のゲートは、行選択信号線RL2に接続され、ソースはセンシング信号線SLに接続される。
【0024】
以下、画素Pの画素回路動作について説明する。
表示動作時には、行選択信号線RL1に選択信号となる電圧Vscnが印加され、トランジスタTr2がONしている期間に、画像データに応じた電圧Vdaがデータ信号線DLを介してストレージキャパシタC1に充電される。ストレージキャパシタC1に充電された電圧Vdaに応じて、トランジスタTr1を流れる電流が調整され、有機EL表示素子Delに流れる電流が制御される。
【0025】
センシング動作時には、行選択信号線RL1に選択信号となる電圧Vscnが印加され、トランジスタTr2がONしている期間に、測定電圧VdbがストレージキャパシタC1に充電される。測定電圧Vdbについては後述する。この時、行選択信号線RL2に電圧Vsenが印加され、トランジスタTr3をONにすることで、ストレージキャパシタC1に充電された測定電圧Vdbに応じて、トランジスタTr1を流れる電流をセンシング信号線SLから読み出すことができる。信号処理部12の後述するセンシング部121は、測定電圧Vdbに対する電流値Idsをセンシングし、トランジスタTr1の電気的特性(I-V特性)を取得することができる。なお、トランジスタTr3がONすると、有機EL表示素子Delの陽極の電位は低下し、有機EL表示素子Delには電流は流れない。有機EL表示素子Delの陽極にスイッチトランジスタを設けて、センシング動作時に有機EL表示素子Delに電流が流れないようにしてもよい。
【0026】
図4において、破線はトランジスタTr1の初期のlog(Ids)-Vgs特性を示し、実線はトランジスタTr1の変動後のlog(Ids)-Vgs特性を示している。ここで、駆動用TFTとなるトランジスタTr1のI-V特性は、
図4のlog(Ids)-Vgs特性に示すように、駆動電流による熱、及び有機EL表示素子Delから発せられる光などにより、時間とともに変動する。そのため、画面の輝度が変動してしまい、この輝度変動により、焼き付きや輝度むらなどの画質劣化が生じてしまう。
【0027】
そこで、信号処理部12が、変動後のトランジスタTr1の電流Idsをセンシングにより取得し、取得したセンシングデータ(電流Ids)から、各画素の駆動用TFTの電気的特性(I-V特性)を求める。初期の電気的特性(I-V特性)から、取得した電気的特性(I-V特性)までの電圧の変化(ΔV)に基づいて、入力される映像信号の画像データを補償することで、輝度の変動を抑制することが可能となる。
【0028】
しかし、有機EL表示装置のマトリックス状に配置された画素ごとに、測定電圧を変えて駆動用TFTとなるトランジスタTr1のI-V特性を求めるには、時間を要し、リアルタイムで、入力される映像信号の画像データを補償することは困難であった。
【0029】
本実施形態では、同一ロットの複数の有機EL表示装置は同等の特性を有することに着目した。
複数の有機EL表示装置のうちの任意の一つの有機EL表示装置を基準表示装置とし、初期および一定時間表示後の駆動用TFTとなるトランジスタTr1のI-V特性を測定し、その値からI-V特性の近似式の特性パラメータを取得する。なお、別ロットであっても特性が同等であれば、別ロットの有機EL表示装置の一つを基準表示装置としてもよい。
基準表示装置以外の有機EL表示装置は、基準表示装置となる有機EL表示装置から取得された近似式の特性パラメータを取得し、この特性パラメータと、センシングにより得られた電流Ids及びVgsとから、画素ごとのトランジスタTr1のI-V特性を推定し、補償する電圧を取得する。
【0030】
図5は信号処理部の映像信号補償に係る構成部を示すブロック図である。
図5に示すように、信号処理部12は、センシング部121、パラメータ計算部122、パラメータ記憶部123、及びデータ補償部124を備えている。パラメータ計算部122は計算部となる。
基準表示装置となる有機EL表示装置(以下、基準有機EL表示装置という)と、基準有機表示装置以外の有機EL表示装置(以下、通常有機EL表示装置という)とでは、信号処理部12の構成は同じであるが、以下に説明するように、センシング部121、パラメータ計算部122の動作が異なる。センシング部121、パラメータ計算部122以外のその他の構成及び動作は、基準有機EL表示装置と、通常有機EL表示装置とで同じである。
センシング部121、パラメータ計算部122の動作について、通常有機EL表示装置の説明に先立って基準有機EL表示装置について説明する。
【0031】
(基準有機EL表示装置)
基準有機EL表示装置のセンシング部121は、センシング期間に、各画素において、複数の異なる測定用データを列駆動ドライバ部13に出力する。列駆動ドライバ部13は、複数の異なる測定用データに応じた複数の異なる測定電圧Vdbを画素Pに出力し、上述した画素Pの画素回路のセンシング動作により、センシング部121は、各測定電圧Vdbに対するトランジスタTr1の電流値Idsをセンシングデータとして、画素Pから取得する。センシング期間は、例えば、映像表示期間中の垂直ブランキング期間に設定される。複数の測定電圧Vdbの電圧値は、トランジスタTr1のしきい値電圧より高い電圧値に設定される。
【0032】
基準有機EL表示装置のパラメータ計算部122は、各測定用データに基づいて求められる各測定電圧VdbからトランジスタTr1のゲート・ソース電圧Vgsを求め、複数の電圧Vgsとセンシング信号線SLを流れる複数の電流Idsとから、一つの画素についてのトランジスタTr1のトランジスタTr1のI-V特性を求める。
【0033】
初期状態において、センシング部121は上述したように、画素ごとに、複数の測定電圧Vdbを画素ごとに出力し、複数の測定電圧Vdbに対するトランジスタTr1の複数の電流値Idsをセンシングデータとして取得する。パラメータ計算部122は、複数の電圧Vgsとセンシング信号線SLを流れる複数の電流Idsとから、画素ごとに、初期状態のトランジスタTr1のトランジスタTr1のI-V特性を数式1(以下の数1)の近似式で近似し、n=0の時の特性パラメータα
0、β
0、γ
0を求めて、メモリ等のパラメータ記憶部123に保存しておく。
る。
【数1】
さらに、基準有機EL表示装置で一定時間表示し、初期状態と同様にして、画素ごとのトランジスタTr1の複数の電流値Idsをセンシングデータとして取得し、複数の電圧Vgsを求めて、トランジスタTr1のI-V特性を得る。表示時間の経過とともに画素ごとのI-V特性は、
図4に示すように高電圧側へシフトする。ある電圧での画素ごとの電流分布特性は正規分布となる。一連のI-V特性の変動データを対数表示すると、立ち上がり電圧V
nをもとにしたI-V特性に近似することができる。
このI-V特性は、上記数式1及び特性パラメータα
n、β
n、γ
nを示す数式2(以下の数2)、数式3(以下の数3)、数式4(以下の数4)で表すことができる。
センシングにより得られた画素ごとのトランジスタTr1のI-V特性から、特性パラメータα
n、β
n、γ
n、立ち上がり電圧V
nを変数として、数式2、数式3、数式4で基準有機EL表示装置の特性パラメータa
1、a
2、a
3、b
1、b
2、b
3、c
1、c
2、c
3を求め、テーブルデータとして、メモリ等のパラメータ記憶部123に保存する。一定時間の表示後には、複数の画素のI-V特性は正規分布するので、いくつかのI-V特性を用いて特性パラメータa
1、a
2、a
3、b
1、b
2、b
3、c
1、c
2、c
3を求めることができる。数式2、数式3、数式4のnは0及び正の整数であり、n=0は初期値を示す。立ち上がり電圧V
nは、トランジスタTr1のI-V特性の変動(劣化)によって変わる変動パラメータとなり、特性パラメータa
1、a
2、a
3、b
1、b
2、b
3、c
1、c
2、c
3は、トランジスタTr1のI-V特性の変動(劣化)によって変わらない定常パラメータとなる。
【数2】
【数3】
【数4】
【0034】
(通常有機EL表示装置)
通常有機EL表示装置は、基準有機EL表示装置から、特性パラメータα
0、β
0、γ
0及び特性パラメータa
1、a
2、a
3、b
1、b
2、b
3、c
1、c
2、c
3を取得して、テーブルデータとしてメモリ等のパラメータ記憶部123に保存する。通常有機EL表示装置への特性パラメータの保存は、例えば、通常有機EL表示装置と基準有機EL表示装置と通信ネットワークで接続しておき、基準有機EL表示装置のメモリから特性パラメータを読み出して行うことができる。
通常有機EL表示装置は、センシングによってある測定電圧Vxの時の電流Idsxと電圧Vgsxを取得する。電流Idsx、電圧Vgsx、及び特性パラメータa
1、a
2、a
3、b
1、b
2、b
3、c
1、c
2、c
3を用いると、数式5(以下の数5)及び数式6(以下の数6)から導かれる、数式7(以下の数7)及び数式8(以下の数8)より、立ち上がり電圧V
nを求めることができる。数式5は数式2~数式4を数式1に挿入した式であり、数式6は数式5を変形した式である。数式7及び数式8は数式6から求められる。
立ち上がり電圧V
nが決まることで、数式5の近似式のI-V特性が得られる。これは、
図6の立ち上がり電圧V
nのときの近似式のI-V特性である。
【数5】
【数6】
【数7】
【数8】
【0035】
測定電圧Vxは任意に決めてよいが、例えば、以下の統計的な手法を用いることができる。
基準有機EL表示装置で、複数の画素(全画素の場合を含む)のある電圧(所定電圧)ごとの電流分布を求め、その標準偏差σと平均値avから変動係数(σ/av)を算出する。
図7は電圧-変動係数の特性図である。
図7に示す変動係数が大きく変化し始める電圧を測定電圧とすると、安定した測定が可能となる。
通常有機EL表示装置は、基準有機EL表示装置から
図7に示した測定電圧を取得して、測定電圧Vxとすることができる。
【0036】
次に、データ補償部124は、求めた数式5の近似I-V特性から、画像データを補償する。
既に説明したように、映像信号が映像入力部11に入力されると、映像信号に含まれる画像データが入力バッファに保存される。
データ補償部124は、パネルの駆動タイミングに合わせて、保存された画像データを画素ごとに読み出し、画像データの信号レベルに応じた電圧値Vから初期パラメータα
0、β
0、γ
0を用いて、以下の数式9(数9と記す)に示したターゲット電流値Itargetを計算する。このターゲット電流値Itargetは、温度など外部状況に応じて補正をしても良い。電流値Itargetと画素毎に画素毎にメモリに保存されているパラメータa
1、a
2、a
3、b
1、b
2、b
3、c
1、c
2、c
3を用いて、以下の数式10(数10と記す)により電圧V′を求める。数式10の電圧V′を求める式は、数式1の近似式を解いた式である。
【数9】
【数10】
【0037】
この電圧V´に応じた画像データが列駆動ドライバ部13に出力される。出力された画像データに基づいて表示パネル部15のパネル駆動を行うことで、各画素の駆動用TFTとなるトランジスタTr1を流れる電流量が補正され、輝度の均一性が向上し、パネルの焼き付きを抑制した表示が可能となる。この補償動作をリアルタイムに連続的に行うことで、常に均一な映像表示が可能となる。
【0038】
そして、通常有機EL表示装置では、画素について1つの測定電圧で測定すればよく、画素ごとに、複数の異なる測定電圧を用いて駆動用TFTとなるトランジスタTr1のI-V特性を求める必要がなく、大幅に計算量を減らすことができ、リアルタイムで、入力される映像信号の画像データを補償することができる。
【0039】
次に、通常有機EL表示装置の画質補償のための信号処理方法を
図8に示すフローチャートを用いて説明する。
ステップS11において、センシング部121は、列駆動ドライバ部13が各画素に、順次測定電圧Vdbをかけていくように測定用データを列駆動ドライバ部13に出力する。行駆動ドライバ部14は各画素行を走査し、列駆動ドライバ部13は測定電圧Vdbを印加する。測定電圧Vdbは、例えば
図7に示した測定電圧とする。センシング部121は、測定電圧Vdbの電圧値に対する電流値Idsを、表示パネル部15の画素から取得する電流センシングを行う。このようにして、センシング部121は電流センシングを行う。
【0040】
ステップS12において、パラメータ計算部122は、測定用データに基づいて求められる測定電圧Vdbから各画素のトランジスタTr1のVgsを求める。
【0041】
ステップS13において、パラメータ計算部122は、基準有機EL表示装置から取得した、特性パラメータa1、a2、a3、b1、b2、b3、c1、c2、c3と、センシングデータとなる電流Idsと電圧Vgsとから、画素のトランジスタTr1の立ち上がり電圧VnのときのI-V特性の近似式を求める。
【0042】
ステップS14において、パラメータ計算部122が表示パネル部15の全画素について、画素のトランジスタTr1のI-V特性の近似式を求めたかを判断し、全画素について近似式が求められていない場合は、ステップS13に戻る。全画素について近似式が求められた場合はステップS15に移る。
【0043】
ステップS15において、データ補償部124は、求めた各画素の近似式を用いて、画像データを補償する。
【0044】
以上の内容により、リアルタイムに補償可能な有機EL表示装置の画質補償方法を提供することが可能である。
【0045】
(第2実施形態)
第1実施形態では、初期のパラメータ値α0、β0、γ0をメモリに保存しておき、画像データの信号レベルに応じた電圧値からターゲット電流値を計算した。しかし、この場合は、画素毎に初期パラメータα0、β0、γ0を保存しておく必要が生じるため、多くのメモリを必要とする。
【0046】
そこで、本実施形態では、ターゲットとなる電流値を以下のように求める。
焼き付きは、同様の信号レベルにもかかわらず、駆動用TFTの変動により電流量が変化し、輝度の段差が局所的に大きくなることで視認しやすくなる。そこで、視認されないようにするためには、同じ信号レベルに対して流れる電流を空間的に緩やかに変化させれば良い。
したがって、基準有機EL表示装置において、以下のように、数式11(以下、数11と記す)信号レベルに応じた電圧値を与えたときの変動後の電流値を、一つの画素とその周辺画素とのp×qの画素(例えば100×100画素程度、全画素であってもよい)で平滑化することにより、一つの画素のターゲット電流値Itargetを求める。数式11のs、tは平滑化する範囲を示す数(自然数)である。
【数11】
ここで、数式11のVはItargetを求めたい一つの画素の信号レベルに応じた電圧値であり、α
ij,β
ij,γ
ijは、周辺画素の変動後パラメータを表す。これにより、求める画素の周辺で電流値は緩やかに変化することから、表示される輝度の差は緩やかになり、焼き付きを抑制することが可能となる。
【0047】
(第3実施形態)
駆動用TFTの変動による焼き付きの視認性を低下させる手法として、有機EL表示素子と同様に自発光のディスプレイであるPDPなどではウォブリング(画面位置を僅かに移動)する手法が用いられている。ウォブリングを用いることで焼き付に生じる輝度段差を緩やかにすることが可能であり、本実施形態では、一定期間で映像の表示位置をずらしながら、リアルタイムにセンシングし、近傍画素の電気的特性の取得と同時に用いることで、相乗効果により、有効性を飛躍的に向上させることが可能である。
【0048】
図9は本発明の表示装置の第3実施形態となる、ウォブリング制御部を含む有機EL表示装置の構成を示すブロック図である。
図9に示す有機EL表示装置1Aの構成は、ウォブリング制御部を除いて
図1に示す有機EL表示装置1の構成と同じであり、第1実施形態又は第2実施形態の有機EL表示装置のいずれかに適用することができる。
ウォブリングについては、例えば、特開2007-304318号公報に記載されている。
図9のウォブリング制御部16は、焼付き視認抑制のために、画像の表示位置を所定の時間間隔で所定の移動量だけ移動させるように制御する。ウォブリング制御部16は、特開2007-304318号公報に記載された表示画面制御部と同一の構成を取ることができる。表示画面制御部は、画像を移動させる時間間隔を設定するための時間間隔設定部と、画像を移動させる移動間隔を設定する移動距離設定部と、画像を水平方向および垂直方向に移動させるための移動方向切替部を備えている。これらの動作の詳細については、特開2007-304318号公報に記載されている。
【0049】
以上説明した実施形態は、本発明の好適な実施形態ではあるが、上記実施形態及び実施例のみに本発明の範囲を限定するものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において種々の変更を施した形態での実施が可能である。
【符号の説明】
【0050】
1、1A 有機EL表示装置
11 映像入力部
12 信号処理部
13 列駆動ドライバ部
14 行駆動ドライバ部
15 表示パネル部
121 センシング部
122 パラメータ計算部
123 パラメータ記憶部
124 データ補償部
Del 有機EL表示素子
Tr1 駆動用薄膜トランジスタ
Tr2 第1スイッチ用薄膜トランジスタ
Tr3 第2スイッチ用薄膜トランジスタ
C1 ストレージキャパシタ