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特開2023-103885制御設計装置、方法、及びプログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023103885
(43)【公開日】2023-07-27
(54)【発明の名称】制御設計装置、方法、及びプログラム
(51)【国際特許分類】
   B60G 99/00 20100101AFI20230720BHJP
   B61F 5/10 20060101ALI20230720BHJP
   B61F 5/22 20060101ALI20230720BHJP
   B60G 17/015 20060101ALI20230720BHJP
【FI】
B60G99/00
B61F5/10 D
B61F5/22 F
B60G17/015 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022004672
(22)【出願日】2022-01-14
(71)【出願人】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山尾 仁志
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 星太
【テーマコード(参考)】
3D301
【Fターム(参考)】
3D301AA04
3D301AB23
3D301BA09
3D301EA05
3D301EA14
3D301EA17
3D301EA31
3D301EA34
3D301EA85
3D301EB04
3D301EB09
3D301EB34
3D301EC01
3D301EC05
3D301EC07
3D301EC19
3D301EC30
3D301EC53
3D301EC56
3D301EC61
3D301EC65
(57)【要約】
【課題】鉄道車両の車体の傾斜角を目標角へ追従させるように気体ばねへの給排気を制御するコントローラを設計する際に用いる車体運動モデルのパラメータを精度よく同定する。
【解決手段】波形取得部が、左右の何れか一方の前記気体ばねへ一定の給排気を繰り返す給排気指令を出力したときの、車体の運動を表す時系列波形を取得する。伝達関数推定部が、取得された時系列波形と給排気指令との組み合わせに基づいて、伝達関数を推定する。周波数伝達特性計算部が、推定された伝達関数についての周波数伝達特性を計算する。モデルパラメータ同定部が、鉄道車両の前記車体の運動をモデル化した車体運動モデルの周波数伝達特性と、計算された周波数伝達特性とが対応するように、車体運動モデルのパラメータを同定する。制御設計部が、同定されたパラメータを有する車体運動モデルを用いて、制御装置が制御指令を計算する際に用いるコントローラを設計する。
【選択図】図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
車体を台車の上に支持する左右の気体ばねを有する鉄道車両の前記車体の傾斜角を目標角へ追従させる制御指令を出力する制御装置を設計するための制御設計装置であって、
前記制御指令として前記気体ばねへの給排気指令であって、左右の何れか一方の前記気体ばねへ一定の給排気を繰り返す給排気指令を出力したときの、前記車体の運動を表す時系列波形を取得する波形取得部と、
前記波形取得部によって取得された前記時系列波形と前記給排気指令との組み合わせに基づいて、前記給排気指令を入力とし、前記時系列波形を出力する伝達関数を推定する伝達関数推定部と、
前記推定された伝達関数についての周波数伝達特性を計算する周波数伝達特性計算部と、
前記鉄道車両の前記車体の運動をモデル化した車体運動モデルの前記周波数伝達特性と、前記計算された前記周波数伝達特性とが対応するように、前記車体運動モデルのパラメータを同定するモデルパラメータ同定部と、
前記同定されたパラメータを有する前記車体運動モデルを用いて、前記制御装置が前記制御指令を計算する際に用いるコントローラを設計する制御設計部と、
を含む制御設計装置。
【請求項2】
前記鉄道車両は、前記気体ばねへの給気を制御するための複数の電磁弁と、前記気体ばねの排気を制御するための複数の電磁弁と、を有し、
前記給排気指令は、前記複数の電磁弁の各々の開閉を制御するためのものである請求項1記載の制御設計装置。
【請求項3】
前記時系列波形は、前記車体の傾斜角の変化及び前記車体の左右加速度の変化を表し、
前記伝達関数推定部は、
前記給排気指令を入力とし、前記車体の傾斜角の変化を出力する伝達関数と、
前記給排気指令を入力とし、前記車体の左右加速度の変化を出力する伝達関数と、を推定し、
前記周波数伝達特性計算部は、前記車体の傾斜角の変化を出力する伝達関数についての周波数伝達特性、及び前記車体の左右加速度の変化を出力する伝達関数についての周波数伝達特性を計算する請求項1又は2記載の制御設計装置。
【請求項4】
車体を台車の上に支持する左右の気体ばねを有する鉄道車両の前記車体の傾斜角を目標角へ追従させる制御指令を出力する制御装置を設計するための制御設計装置における制御設計方法であって、
波形取得部が、前記制御指令として前記気体ばねへの給排気指令であって、左右の何れか一方の前記気体ばねへ一定の給排気を繰り返す給排気指令を出力したときの、前記車体の運動を表す時系列波形を取得し、
伝達関数推定部が、前記波形取得部によって取得された前記時系列波形と前記給排気指令との組み合わせに基づいて、前記給排気指令を入力とし、前記時系列波形を出力する伝達関数を推定し、
周波数伝達特性計算部が、前記推定された伝達関数についての周波数伝達特性を計算し、
モデルパラメータ同定部が、前記鉄道車両の前記車体の運動をモデル化した車体運動モデルの前記周波数伝達特性と、前記計算された前記周波数伝達特性とが対応するように、前記車体運動モデルのパラメータを同定し、
制御設計部が、前記同定されたパラメータを有する前記車体運動モデルを用いて、前記制御装置が前記制御指令を計算する際に用いるコントローラを設計する
制御設計方法。
【請求項5】
車体を台車の上に支持する左右の気体ばねを有する鉄道車両の前記車体の傾斜角を目標角へ追従させる制御指令を出力する制御装置を設計するためのプログラムであって、
コンピュータを、
前記制御指令として前記気体ばねへの給排気指令であって、左右の何れか一方の前記気体ばねへ一定の給排気を繰り返す給排気指令を出力したときの、前記車体の運動を表す時系列波形を取得する波形取得部、
前記波形取得部によって取得された前記時系列波形と前記給排気指令との組み合わせに基づいて、前記給排気指令を入力とし、前記時系列波形を出力する伝達関数を推定する伝達関数推定部、
前記推定された伝達関数についての周波数伝達特性を計算する周波数伝達特性計算部、
前記鉄道車両の前記車体の運動をモデル化した車体運動モデルの前記周波数伝達特性と、前記計算された前記周波数伝達特性とが対応するように、前記車体運動モデルのパラメータを同定するモデルパラメータ同定部、及び
前記同定されたパラメータを有する前記車体運動モデルを用いて、前記制御装置が前記制御指令を計算する際に用いるコントローラを設計する制御設計部
として機能させるためのプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、制御設計装置、方法、及びプログラムに関する。特に、本発明は、鉄道車両のコントローラを設計するための制御設計装置、方法、及びプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、車体傾斜制御装置の制御系に含まれるコントローラを設計するために必要な周波数特性を把握する方法が知られている(特許文献1、2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2006-315519号公報
【特許文献2】特開2009-40078号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、従来技術では、鉄道車両の車体の傾斜角を目標角へ追従させるように気体ばねへの給排気を制御するコントローラの設計において改善の余地がある。
【0005】
本発明は、上記の事情を考慮してなされたものであり、鉄道車両の車体の傾斜角を目標角へ追従させるように気体ばねへの給排気を制御するコントローラを設計する際に用いる車体運動モデルのパラメータを精度よく同定することができる制御設計装置、方法、及びプログラムを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る制御設計装置は、車体を台車の上に支持する左右の気体ばねを有する鉄道車両の前記車体の傾斜角を目標角へ追従させる制御指令を出力する制御装置を設計するための制御設計装置であって、前記制御指令として前記気体ばねへの給排気指令であって、左右の何れか一方の前記気体ばねへ一定の給排気を繰り返す給排気指令を出力したときの、前記車体の運動を表す時系列波形を取得する波形取得部と、前記波形取得部によって取得された前記時系列波形と前記給排気指令との組み合わせに基づいて、前記給排気指令を入力とし、前記時系列波形を出力する伝達関数を推定する伝達関数推定部と、前記推定された伝達関数についての周波数伝達特性を計算する周波数伝達特性計算部と、前記鉄道車両の前記車体の運動をモデル化した車体運動モデルの前記周波数伝達特性と、前記計算された前記周波数伝達特性とが対応するように、前記車体運動モデルのパラメータを同定するモデルパラメータ同定部と、前記同定されたパラメータを有する前記車体運動モデルを用いて、前記制御装置が前記制御指令を計算する際に用いるコントローラを設計する制御設計部と、を含んで構成されている。
【0007】
本発明に係る制御設計方法は、車体を台車の上に支持する左右の気体ばねを有する鉄道車両の前記車体の傾斜角を目標角へ追従させる制御指令を出力する制御装置を設計するための制御設計装置における制御設計方法であって、波形取得部が、前記制御指令として前記気体ばねへの給排気指令であって、左右の何れか一方の前記気体ばねへ一定の給排気を繰り返す給排気指令を出力したときの、前記車体の運動を表す時系列波形を取得し、伝達関数推定部が、前記波形取得部によって取得された前記時系列波形と前記給排気指令との組み合わせに基づいて、前記給排気指令を入力とし、前記時系列波形を出力する伝達関数を推定し、周波数伝達特性計算部が、前記推定された伝達関数についての周波数伝達特性を計算し、モデルパラメータ同定部が、前記鉄道車両の前記車体の運動をモデル化した車体運動モデルの前記周波数伝達特性と、前記計算された前記周波数伝達特性とが対応するように、前記車体運動モデルのパラメータを同定し、制御設計部が、前記同定されたパラメータを有する前記車体運動モデルを用いて、前記制御装置が前記制御指令を計算する際に用いるコントローラを設計する。
【0008】
本発明に係るプログラムは、車体を台車の上に支持する左右の気体ばねを有する鉄道車両の前記車体の傾斜角を目標角へ追従させる制御指令を出力する制御装置を設計するためのプログラムであって、コンピュータを、前記制御指令として前記気体ばねへの給排気指令であって、左右の何れか一方の前記気体ばねへ一定の給排気を繰り返す給排気指令を出力したときの、前記車体の運動を表す時系列波形を取得する波形取得部、前記波形取得部によって取得された前記時系列波形と前記給排気指令との組み合わせに基づいて、前記給排気指令を入力とし、前記時系列波形を出力する伝達関数を推定する伝達関数推定部、前記推定された伝達関数についての周波数伝達特性を計算する周波数伝達特性計算部、前記鉄道車両の前記車体の運動をモデル化した車体運動モデルの前記周波数伝達特性と、前記計算された前記周波数伝達特性とが対応するように、前記車体運動モデルのパラメータを同定するモデルパラメータ同定部、及び前記同定されたパラメータを有する前記車体運動モデルを用いて、前記制御装置が前記制御指令を計算する際に用いるコントローラを設計する制御設計部として機能させるためのプログラムである。
【発明の効果】
【0009】
本発明の一態様である制御設計装置、方法、及びプログラムによれば、鉄道車両の車体の傾斜角を目標角へ追従させるように気体ばねへの給排気を制御するコントローラを設計する際に用いる車体運動モデルのパラメータを精度よく同定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明の実施の形態に係る鉄道車両の概略構成を示す模式図である。
図2】本発明の実施の形態に係る鉄道車両の給排気装置の概略構成を示す模式図である。
図3】本発明の実施の形態に係る鉄道車両の制御装置の概略構成を示す模式図である。
図4】本発明の実施の形態に係る制御設計装置の概略構成を示す模式図である。
図5】左右の空気ばねに対する給排気指令の一例を示す図である。
図6】伝達関数を推定する方法を説明するための図である。
図7】車体運動モデルを説明するための図である。
図8】車体運動モデルを説明するための図である。
図9】車体運動モデルを説明するための図である。
図10】車体運動モデルを説明するための図である。
図11】制御設計装置として機能するコンピュータの一例の概略ブロック図である。
図12】本発明の実施の形態における制御設計処理の一例のフローチャートである。
図13】(A)実施例における給排気指令を示す図、(B)車体運動モデルが出力する傾斜角の変化と、推定された伝達関数が出力する傾斜角の変化とを示す図、及び(C)車体運動モデルが出力する車体床面左右加速度の変化と、推定された伝達関数が出力する車体床面左右加速度の変化とを示す図である。
図14】(A)傾斜角と給排気流量指令電圧との振幅比であるゲインについての周波数伝達特性を示す図、(B)傾斜角と給排気流量指令電圧との位相差についての周波数伝達特性を示す図、(C)車体床面左右加速度と給排気流量指令電圧との振幅比であるゲインについての周波数伝達特性を示す図、及び(D)車体床面左右加速度と給排気流量指令電圧との位相差についての周波数伝達特性を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、添付図面を適宜参照しつつ、本発明の一実施形態に係る制御設計装置について説明する。
【0012】
<本発明の実施の形態の概要>
まず、鉄道車両の車体及び制御装置について説明する。
【0013】
鉄道車両の車体の制御系を図1に示す。車体1は、制御装置10と、台車12と、車体1を台車12の上に支持する左右の空気ばね14A、14Bと、左右の給排気装置16A、16B、左右の高さセンサ18A、18Bと、左右加速度センサ30と、速度センサ32とを備えている。
【0014】
図2に示すように、左右の給排気装置16A、16Bは、圧縮空気を空気ばね14A、14Bに給気することを制御するための複数の給気用の電磁弁34と、空気ばね14A、14Bの空気を排気させることを制御するための複数の排気用の電磁弁36と、を備えている。
【0015】
図3に示すように、制御装置10は、路線データ記憶部20、情報取得部22、目標傾斜角算出部24、及びコントローラ26を備えている。
【0016】
路線データ記憶部20は、路線上の各位置の路線情報(曲率、傾きなど)を記憶している。
【0017】
情報取得部22は、左右の高さセンサ18A、18Bから、左右の空気ばね14A、14Bのばね高さを取得する。情報取得部22は、左右加速度センサ30から、車体床面の左右加速度を取得する。情報取得部22は、速度センサ32から、走行速度を取得する。情報取得部22は、地上子33から受信した情報に基づいて、走行地点を取得する。
【0018】
目標傾斜角算出部24は、現在の走行地点の路線情報と、走行速度とから、予め定められた、路線情報及び走行速度と、目標傾斜角との関係を用いて、目標傾斜角を算出する。
【0019】
コントローラ26は、目標傾斜角、空気ばね高さ、及び車体床面左右加速度に基づいて、車体1の傾斜角を目標角へ追従させるように、左右の給排気装置16A、16Bに対する給排気指令を計算する。給排気指令は、複数の電磁弁34、36の各々の開閉を制御するためのものである
【0020】
ここで、従来手法でのコントローラの設計手順1~4を以下に説明する。
【0021】
まず、設計手順1では、正弦波加振試験を行い、正弦波を給排気指令として給排気装置に与え車体を加振する。その際、車体に設置したセンサで計測される傾斜角の波形、及び車体床面左右加速度の波形を記憶する。この従来手法では、空気ばねに対する給排気装置として、流量比例弁方式を用いることを想定している。この流量比例弁方式では、モータでスプールの変位を制御することにより弁開度、及び給排気流量を無段階で制御可能である。
【0022】
設計手順2では、上記設計手順1の給排気指令を入力とし、傾斜角及び車体床面左右加速度を出力として、入力から出力までの周波数伝達特性を計算する。具体的にはゲイン(入力波形と出力波形の振幅比)に関する周波数伝達特性と、位相(入力波形と出力波形の位相差)に関する周波数伝達特性とを計算する。
【0023】
設計手順3では、車体運動モデルのパラメータを同定する。車体運動モデルから計算した周波数伝達特性と、設計手順2で計算した周波数伝達特性が一致するように、車体運動モデルのパラメータを調整する。
【0024】
設計手順4では、設計手順3で調整した車体運動モデルのパラメータを用いてコントローラを設計する。
【0025】
本実施形態では、上述したように電磁弁方式の給排気装置16A、16Bを用いる。電磁弁方式では、開/閉動作のみ可能な電磁弁を用いるため、開く弁の数で給排気流量を制御する。流量比例弁方式を使用する場合は、従来のコントローラ設計手順で実現できるが、電磁弁方式を使用する場合は正弦波のように連続的に値が変化する給排気が難しく、従来のコントローラ設計手順では実現不可能であることが課題である。
【0026】
そこで、本実施形態では、電磁弁方式でもコントローラ設計が実現可能な手法を用いる。
【0027】
具体的には、電磁弁方式の給排気装置16A、16Bを制御するコントローラ26の設計方法であって以下の設計手順1~5で構成される。
【0028】
設計手順1では、片側の空気ばねに一定時間給気する給排気流量指令電圧を繰り返し入力し、車体を加振し、傾斜角及び車体床面左右加速度を取得する。
【0029】
設計手順2では、伝達関数の推定を行う。この際、設計手順1の結果として得られる傾斜角及び車体床面左右加速度を再現する伝達関数を推定する。
【0030】
設計手順3では、周波数伝達特性の計算を行う。この際、設計手順2で推定した伝達関数から周波数伝達特性を計算する。
【0031】
設計手順4では、従来の設計手順3と同様に、車体運動モデルのパラメータを同定する。
【0032】
設計手順5では、従来の設計手順4と同様に、コントローラの設計を行う。
【0033】
このように、設計手順4、5は、従来手法の設計手順と同様であるが、設計手順1~3が、従来手法の設計手順とは異なる。
【0034】
<制御設計装置の構成>
図4は、本発明の実施形態に係る制御設計装置の概略構成を示す模式図である。図4に示すように、本実施形態に係る制御設計装置100は、鉄道車両における制御装置10のコントローラ26を設計する装置であって、波形データ記憶部50と、波形取得部52と、伝達関数推定部54と、周波数伝達特性計算部56と、モデルパラメータ同定部58と、制御設計部60とを備えている。制御設計装置100は、鉄道車両内ではなく、別の場所に設置されている。
【0035】
本実施形態に係る制御設計装置100には、空気ばね14A、14Bへの給排気指令であって、空気ばね14A、14Bの何れか一方へ一定の給排気を繰り返す給排気指令を出力したときに左右の高さセンサ18A、18B、及び左右加速度センサ30から得られる、車体1の傾斜角の変化及び車体床面左右加速度の変化を含む時系列波形が入力される。具体的には、空気ばね14A、14Bの何れか一方に対して、一定数の給気用の電磁弁34を一定時間開いた後に閉じることを繰り返す給排気指令を出力し、空気ばね14A、14Bの何れか他方に対して、給気用の電磁弁34を閉じたままにする給排気指令を出力したときに左右の高さセンサ18A、18B、及び左右加速度センサ30から得られる、車体1の傾斜角の変化及び車体床面左右加速度の変化を含む時系列波形を、制御装置10に記憶しておき、この時系列波形を、制御設計装置100に入力する。また、制御設計装置100には、このときの、空気ばね14A、14Bの何れか一方へ一定の給排気を繰り返す給排気指令が入力される。
【0036】
例えば、図5に示すように、一方の空気ばね14Aに対する一定の給排気を繰り返す給排気指令を給排気装置16Aに出力し、他方の空気ばね14Bに対して給排気を行わない給排気指令を給排気装置16Bに出力する。図5では、左の空気ばねに対して一定の給気を行った後、給排気を行わないことを指令するための給排気流量指令電圧を1サイクルとして繰り返して出力し、右の空気ばねに対して給排気を行わないことを指令するための給排気流量指令電圧を出力する例を示している。
【0037】
波形データ記憶部50には、入力された、車体1の傾斜角の変化及び車体床面左右加速度の変化を含む時系列波形と、給排気指令とが記憶されている。
【0038】
波形取得部52は、波形データ記憶部50から、車体1の傾斜角の変化及び車体床面左右加速度の変化を含む時系列波形と、給排気指令とを取得する。
【0039】
伝達関数推定部54は、波形取得部52によって取得された、時系列波形と給排気指令との組み合わせに基づいて、給排気指令を入力とし、時系列波形を出力する伝達関数を推定する。具体的には、空気ばね14A、14Bの何れか一方へ一定の給排気を繰り返す給排気指令による、車体1の傾斜角の変化及び車体床面左右加速度の変化を含む時系列波形を再現する伝達関数を推定する。
【0040】
より具体的には、図6に示すように、空気ばね14A、14Bの何れか一方へ一定の給排気を繰り返す給排気指令による、車体1の傾斜角の変化を再現する伝達関数と、当該給排気指令による、車体1の車体床面左右加速度の変化を再現する伝達関数と、を推定する。
【0041】
傾斜角の推定に用いる伝達関数の一例を式(1)に示す。この例では、分母3次、分子1次の伝達関数とし、調整パラメータの数は3個とした。
【0042】

(1)
【0043】
ただし、w、z、aは、調整パラメータであり、cは中間変数であり、c=2・w・zであり、dは中間変数であり、d=wである。
【0044】
また、車体床面左右加速度の推定に用いる伝達関数の一例を式(2)に示す。この例では、分母3次、分子2次の伝達関数とし、調整パラメータの数は4個とした。
【0045】

(2)
【0046】
ただし、w、z、a、bは、調整パラメータであり、cは中間変数であり、c=2・w・zであり、dは中間変数であり、d=wである。
【0047】
周波数伝達特性計算部56は、推定された伝達関数に基づいて、周波数伝達特性を計算する。具体的には、車体1の傾斜角の変化を再現する伝達関数の推定結果に基づいて、周波数毎の、当該周波数の給排気指令を入力したときの車体1の傾斜角と給排気指令との振幅比であるゲイン及び位相差についての周波数伝達特性を計算する。また、車体1の車体床面左右加速度の変化を再現する伝達関数の推定結果に基づいて、周波数毎の、当該周波数の給排気指令を入力したときの車体1の車体床面左右加速度と給排気指令との振幅比であるゲイン及び位相差についての周波数伝達特性を計算する。
【0048】
モデルパラメータ同定部58は、鉄道車両の車体1の運動をモデル化した車体運動モデルの周波数伝達特性と、計算された周波数伝達特性とが対応するように、車体運動モデルのパラメータを同定する。
【0049】
具体的には、図7図10、式(3)~式(11)に示す車体運動モデルのパラメータを同定する。図7では、車体重心の左右変位及び上下変位と、車体傾斜角を示している。図8では、車体重心と空気ばねの左右方向の間隔、上下方向の間隔、車体重心と床面の間隔、及び車体重心と左右動ダンパの間隔を示している。図9では、左の空気ばねのモデルを示しており、図10では、右の空気ばねのモデルを示している。空気ばねのモデルは、空気ばね左右剛性、空気ばね本体上下剛性1、空気ばね受圧面積変化率剛性、空気ばね本体上下剛性2、空気ばね減衰係数、空気ばね高さ、空気ばね内部変数1、及び空気ばね内部変数2を用いて表されている。
【0050】

(3)

(4)

(5)

(6)

(7)

(8)

(9)

(10)

(11)
【0051】
ただし、Mは、車体重量(半車体)[kg]であり、Iは、車体ロール方向慣性モーメント(半車体)[kg・m]であり、bは、車体重心と空気ばねとの左右方向の間隔[m]であり、hは、車体重心と空気ばねとの上下方向の間隔[m]であり、hは、車体重心と床面との間隔[m]であり、hは、車体重心と左右動ダンパとの間隔[m]であり、kは、空気ばねの左右剛性[N/m]であり、kは、空気ばね本体の上下剛性1[N/m]であり、kは、空気ばねの受圧面積変化率剛性[N/m]であり、kは、空気ばね本体の上下剛性2[N/m]であり、cは、左右動ダンパの減衰係数[N・s/m]であり、cは、空気ばねの減衰係数[N・s/m]であり、Aは、空気ばねの有効受圧面積[m]であり、ρは、空気密度[kg/m]であり、γは、電圧流量の変換係数である。これらが同定されるパラメータである。
【0052】
また、uは、左の空気ばねの給排気流量指令電圧[V]であり、uは、右の空気ばねの給排気流量指令電圧[V]である。これらが、車体運動モデルへの入力となる。
【0053】
また、yは、車体上下変位[m]であり、xは、車体左右変位[m]であり、φは、車体傾斜角(ロール角)[rad]であり、zは、左の空気ばね高さ[m]であり、zは、左の空気ばねの内部変数1[m]であり、zは、左の空気ばねの内部変数2[m]であり、wは、右の空気ばね高さ[m]であり、wは、右の空気ばねの内部変数1[m]であり、wは、右の空気ばねの内部変数2[m]である。これらが、車体運動モデルへ入力を与えたときに出力される変数である。
【0054】
より具体的には、波形取得部52によって取得した給排気指令を車体運動モデルへ入力したときに出力される変数から、伝達関数推定部54と同様に、給排気指令による、車体1の傾斜角の変化を再現する伝達関数と、給排気指令による、車体1の車体床面左右加速度の変化を再現する伝達関数と、を推定する。そして、周波数伝達特性計算部56と同様に、車体1の傾斜角の変化を再現する伝達関数の推定結果に基づいて、周波数毎の、当該周波数の給排気指令を入力したときの車体1の傾斜角と給排気指令との振幅比であるゲイン及び位相差についての周波数伝達特性を計算する。また、車体1の車体床面左右加速度の変化を再現する伝達関数の推定結果に基づいて、周波数毎の、当該周波数の給排気指令を入力したときの車体1の車体床面左右加速度と給排気指令との振幅比であるゲイン及び位相差についての周波数伝達特性を計算する。
【0055】
ここで得られた周波数伝達特性と、周波数伝達特性計算部56で計算された周波数伝達特性とが対応するように、車体運動モデルのパラメータを同定する。具体的には、これらの周波数伝達特性が対応するまで、車体運動モデルのパラメータを調整することを繰り返す。
【0056】
制御設計部60は、同定されたパラメータを有する車体運動モデルを用いて、制御装置10が制御指令を計算する際に用いるコントローラ26を設計する。
【0057】
具体的には、目標傾斜角、空気ばね高さ、及び車体床面左右加速度の組み合わせの各々に対して車体運動モデルの出力である傾斜角が、目標角となるように、車体運動モデルの入力となる給排気指令を求める。このとき、傾斜角の振動が小さくなるように、車体運動モデルの入力となる給排気指令を求めてもよい。そして、目標傾斜角、空気ばね高さ、及び車体床面左右加速度の組み合わせの各々に対して求めた給排気指令が計算されるように、H∞制御理論を用いて、コントローラ26を設定する。
【0058】
制御設計装置100は、一例として、図11に示すコンピュータ64によって実現される。コンピュータ64は、CPU66、メモリ68、制御設計プログラム76を記憶した記憶部70、モニタを含む表示部27、及びキーボードやマウスを含む入力部28を含んでいる。CPU66、メモリ68、記憶部70、表示部27、及び入力部28はバス74を介して互いに接続されている。
【0059】
記憶部70はHDD、SSD、フラッシュメモリ等によって実現される。記憶部70には、コンピュータ64を制御設計装置100として機能させるための制御設計プログラム76が記憶されている。CPU66は、制御設計プログラム76を記憶部70から読み出してメモリ68に展開し、制御設計プログラム76を実行する。
【0060】
<制御設計装置の作用>
次に本実施形態の作用を、図12を参照して説明する。まず、オペレータが、空気ばね14A、14Bへの給排気指令であって、空気ばね14A、14Bの何れか一方へ一定の給排気を繰り返す給排気指令を左右の給排気装置16A、16Bに出力したときに得られた、車体1の傾斜角の変化及び車体床面左右加速度の変化を含む時系列波形を、制御設計装置100に入力する。また、オペレータが、このときの、空気ばね14A、14Bの何れか一方へ一定の給排気を繰り返す給排気指令を、制御設計装置100に入力する。そして、入力された時系列波形及び給排気指令が、波形データ記憶部50に格納される。
【0061】
また、制御設計処理の開始を指示する等の操作を行ったことを契機として制御設計装置100で実行される制御設計処理を説明する。
【0062】
制御設計処理のステップS100において、波形取得部52は、波形データ記憶部50から、車体1の傾斜角の変化及び車体床面左右加速度の変化を含む時系列波形と、給排気指令とを取得する。
【0063】
ステップS102において、伝達関数推定部54は、波形取得部52によって取得された、時系列波形と給排気指令との組み合わせに基づいて、給排気指令を入力とし、時系列波形を出力する伝達関数を推定する。
【0064】
ステップS104において、周波数伝達特性計算部56は、推定された伝達関数に基づいて、周波数伝達特性を計算する。
【0065】
ステップS106において、モデルパラメータ同定部58は、車体運動モデルの周波数伝達特性と、上記ステップS104で計算された周波数伝達特性とが対応するように、車体運動モデルのパラメータを同定する。
【0066】
ステップS108において、制御設計部60は、同定されたパラメータを有する車体運動モデルを用いて、コントローラ26を設計する。
【0067】
<実施例>
まず、伝達関数推定部54によって、空気ばね14A、14Bの何れか一方へ一定の給排気を繰り返す給排気指令による加振結果を再現する伝達関数を推定した例について説明する。本実施例では、鉄道車両の車体ではなく、車体運動モデルに、空気ばね14A、14Bの何れか一方へ一定の給排気を繰り返す給排気指令を入力し、車体傾斜角、車体床面左右加速度を計算し、その結果を再現する伝達関数を推定した。
【0068】
傾斜角の推定に用いる伝達関数の推定結果で得られた調整パラメータwの値は、0.8・2・πであり、zの値は、0.3であり、aの値は、0.55であった。
【0069】
また、車体床面左右加速度の推定に用いる伝達関数の推定結果で得られた調整パラメータwの値は、0.8・2・πであり、zの値は、0.3であり、aの値は、0.09であり、bの値は、-2であった。
【0070】
伝達関数の推定結果を図13に示す。図13(A)では、左の空気ばねに対する一定の給排気を繰り返す給排気指令(実線参照)を入力し、右の空気ばねに対して給排気を行わない給排気指令(点線参照)を入力する例を示している。図13(B)では、上記図13(A)に示す給排気指令を入力したときの車体運動モデルが出力する傾斜角の変化(点線参照)と、上記図13(A)に示す給排気指令を入力したときの、推定された伝達関数が出力する傾斜角の変化(実線参照)とを示す。図13(C)では、上記図13(A)に示す給排気指令を入力したときの車体運動モデルが出力する車体床面左右加速度の変化(点線参照)と、上記図13(A)に示す給排気指令を入力したときの、推定された伝達関数が出力する車体床面左右加速度の変化(実線参照)とを示す。上記図13(A)、(B)に示すように、車体運動モデルの計算結果を伝達関数で精度良く再現できていることが分かる。
【0071】
次に、車体運動モデルの周波数伝達特性と、伝達関数推定部54によって推定した伝達関数の周波数伝達特性との比較を図14に示す。
【0072】
図14(A)では、傾斜角と給排気流量指令電圧との振幅比であるゲインについての周波数伝達特性であり、車体運動モデルに関する周波数伝達特性(点線参照)と推定された伝達関数に関する周波数伝達特性(実線参照)とを示している。図14(B)では、傾斜角と給排気流量指令電圧との位相差についての周波数伝達特性であり、車体運動モデルに関する周波数伝達特性(点線参照)と推定された伝達関数に関する周波数伝達特性(実線参照)とを示している。
【0073】
図14(C)では、車体床面左右加速度と給排気流量指令電圧との振幅比であるゲインについての周波数伝達特性であり、車体運動モデルに関する周波数伝達特性(点線参照)と推定された伝達関数に関する周波数伝達特性(実線参照)とを示している。図14(D)では、車体床面左右加速度と給排気流量指令電圧との位相差についての周波数伝達特性であり、車体運動モデルに関する周波数伝達特性(点線参照)と推定された伝達関数に関する周波数伝達特性(実線参照)とを示している。
【0074】
このように、1Hz未満の周波数帯域では車体運動モデルの特性を伝達関数で精度良く再現できていることが分かる。なお、1Hz以上では一致していないが、従来の流量比例弁を用いた正弦波加振においても特性の把握が困難であった周波数帯域である。
【0075】
以上に説明したように、本実施形態に係る制御設計装置100によれば、左右の何れか一方の気体ばねへ一定の給排気を繰り返す給排気指令を出力したときの、車体の運動を表す時系列波形を取得し、給排気指令を入力とし、時系列波形を出力する伝達関数を推定し、伝達関数についての周波数伝達特性を計算し、車体運動モデルの前記周波数伝達特性と、計算された前記周波数伝達特性とが対応するように、車体運動モデルのパラメータを同定する。これにより、鉄道車両の車体の傾斜角を目標角へ追従させるように空気ばねへの給排気を制御するコントローラを設計する際に用いる車体運動モデルのパラメータを精度よく同定することができる。
【0076】
また、左右の何れか一方の空気ばねへ一定の給排気を繰り返す給排気指令を出力したときの、車体の運動を表す時系列波形が得られれば、車体運動モデルのパラメータを同定でき、コントローラを設計することができる。
【0077】
なお、上記では、制御設計装置100を、鉄道車両とは別の場所に設定する場合を例に説明したが、これに限定されるものではない。制御設計装置100を、鉄道車両内に設置してもよい。
【符号の説明】
【0078】
1 車体
10 制御装置
12 台車
16A、16B 給排気装置
18A、18B 高さセンサ
20 路線データ記憶部
22 情報取得部
24 目標傾斜角算出部
26 コントローラ
30 左右加速度センサ
34、36 電磁弁
50 波形データ記憶部
52 波形取得部
54 伝達関数推定部
56 周波数伝達特性計算部
58 モデルパラメータ同定部
60 制御設計部
64 コンピュータ
76 制御設計プログラム
100 制御設計装置
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14