(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023103945
(43)【公開日】2023-07-27
(54)【発明の名称】構造多型変異検出法
(51)【国際特許分類】
C12Q 1/6853 20180101AFI20230720BHJP
C12Q 1/6876 20180101ALN20230720BHJP
C12N 15/09 20060101ALN20230720BHJP
【FI】
C12Q1/6853 ZNA
C12Q1/6876 Z
C12N15/09 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022101921
(22)【出願日】2022-06-24
(31)【優先権主張番号】P 2022004599
(32)【優先日】2022-01-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TWEEN
(71)【出願人】
【識別番号】000005108
【氏名又は名称】株式会社日立製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】弁理士法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】万里 千裕
(72)【発明者】
【氏名】横井 崇秀
(72)【発明者】
【氏名】安藤 貴洋
【テーマコード(参考)】
4B063
【Fターム(参考)】
4B063QA12
4B063QQ42
4B063QR32
4B063QR56
4B063QR62
4B063QS25
4B063QS34
4B063QS36
(57)【要約】
【課題】キャピラリー電気泳動における構造多型変異の多項目同時検出を改善するための方法および手段を提供すること。
【解決手段】被検核酸の変異を検出する方法であって、標識されている第1のプライマーを少なくとも1つ含む、第1の変異の核酸を増幅するための第1のプライマーセットを準備する工程、標識されている第2のプライマーを少なくとも1つ含む、第2の変異の核酸を増幅するための第2のプライマーセットを準備する工程、第1のプライマーセットおよび第2のプライマーセットを用いて、被検核酸を増幅する工程、得られた増幅産物をキャピラリー電気泳動に供して、被検核酸の変異を解析する工程を含み、第1のプライマーおよび第2のプライマーが、数および/または種類が異なる蛍光色素の組み合わせで標識されていることを特徴とする、方法。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
被検核酸の変異を検出する方法であって、
標識されている第1のプライマーを少なくとも1つ含む、第1の変異の核酸を増幅するための第1のプライマーセットを準備する工程、
標識されている第2のプライマーを少なくとも1つ含む、第2の変異の核酸を増幅するための第2のプライマーセットを準備する工程、
第1のプライマーセットおよび第2のプライマーセットを用いて、被検核酸を増幅する工程、
得られた増幅産物をキャピラリー電気泳動に供して、被検核酸の変異を解析する工程
を含み、第1のプライマーおよび第2のプライマーが、数および/または種類が異なる蛍光色素の組み合わせで標識されていることを特徴とする、方法。
【請求項2】
第1のプライマーセットが、標識されている第1’のプライマーをさらに含む、および/または
第2のプライマーセットが、標識されている第2’のプライマーをさらに含む、
請求項1に記載の方法。
【請求項3】
第1のプライマーおよび第1’のプライマーが、数および/もしくは種類が同じ蛍光色素の組み合わせで、または数および/もしくは種類が異なる蛍光色素の組み合わせで標識されている、ならびに/あるいは
第2のプライマーおよび第2’のプライマーが、数および/もしくは種類が同じ蛍光色素の組み合わせで、または数および/もしくは種類が異なる蛍光色素の組み合わせで標識されている、
請求項2に記載の方法。
【請求項4】
標識されている第nのプライマーを少なくとも1つ含む、第1の変異および第2の変異とは異なる変異の核酸を増幅するための第nのプライマーセットを準備する工程をさらに含み、ここでnは3~100の整数であり、第nのプライマーが、第1のプライマーおよび第2のプライマーとは異なる数および/または種類の蛍光色素の組み合わせで標識されている、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
第1のプライマーおよび/または第2のプライマーの5’末端が蛍光色素で標識されている、ならびに/あるいは
第1のプライマーおよび/または第2のプライマーの配列内部の塩基が蛍光色素で標識されている、
請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記変異が構造多型変異を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記被検核酸を増幅する工程の後、得られた増幅産物を一本鎖核酸にしてから、前記キャピラリー電気泳動に供する工程を行う、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
標識されている第1のプライマーを少なくとも1つ含む、第1の変異の核酸を増幅するための第1のプライマーセット、および
標識されている第2のプライマーを少なくとも1つ含む、第2の変異の核酸を増幅するための第2のプライマーセット
を含み、第1のプライマーおよび第2のプライマーが、数および/または種類が異なる蛍光色素の組み合わせで標識されていることを特徴とする、キャピラリー電気泳動法により核酸の変異を検出するためのキット。
【請求項9】
第1のプライマーセットが、標識されている第1’のプライマーをさらに含む、および/または
第2のプライマーセットが、標識されている第2’のプライマーをさらに含む、
請求項8に記載のキット。
【請求項10】
第1のプライマーおよび第1’のプライマーが、数および/もしくは種類が同じ蛍光色素の組み合わせで、または数および/もしくは種類が異なる蛍光色素の組み合わせで標識されている、ならびに/あるいは
第2のプライマーおよび第2’のプライマーが、数および/もしくは種類が同じ蛍光色素の組み合わせで、または数および/もしくは種類が異なる蛍光色素の組み合わせで標識されている、
請求項9に記載のキット。
【請求項11】
標識されている第nのプライマーを少なくとも1つ含む、第1の変異および第2の変異とは異なる変異の核酸を増幅するための第nのプライマーセットをさらに含み、ここでnは3~100の整数であり、第nのプライマーが、第1のプライマーおよび第2のプライマーとは異なる数および/または種類の蛍光色素の組み合わせで標識されている、請求項8に記載のキット。
【請求項12】
第1のプライマーおよび/または第2のプライマーの5’末端が蛍光色素で標識されている、ならびに/あるいは
第1のプライマーおよび/または第2のプライマーの内部の塩基が蛍光色素で標識されている、
請求項8に記載のキット。
【請求項13】
前記変異が構造多型変異を含む、請求項8に記載のキット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、遺伝子の変異を検出するための方法および手段に関する。より具体的には、キャピラリー電気泳動により、遺伝子の構造多型変異を検出するための方法および手段に関する。
【背景技術】
【0002】
ゲノムには多様な個体差が存在しており、それらゲノム配列の違い(ゲノム変異)は疾患や薬剤応答の指標として有用なバイオマーカとなる。ゲノム変異の検出方法には主として、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)による検出、シーケンサを用いた塩基配列解析、電気泳動法を用いたフラグメント解析などが用いられている。
【0003】
近年のゲノム科学の進展により、大規模な解析が可能な超並列シーケンサを利用したゲノム変異のパネル検査が利用可能となった。多数の遺伝子変異を同時に解析することにより、多くの疾患や治療法選択の判断を同時に可能となり、なかでも液体生検によるがん検診は今後大きな進展が期待されている。液体生検は血液を利用した検査であることから、侵襲性が低いこと、全身のがんを検査対象にできること、から新しいがん検診として研究が進められている(非特許文献1)。一方、これらの液体生検を用いたがん検診技術の社会実装を想定するとその解析コストが課題である。高額な超並列シーケンサに代替する低コストな多変異検査技術の開発が液体生検によるがん検診の社会実装に必要である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】米国特許出願公開US2014/0213471
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Cohen, J.D. et al., Science 第359巻第926-930頁 (2018)
【非特許文献2】Pereira, R. et al., PLOS ONE 第7巻第1号 e29684 (2012)
【非特許文献3】Ren, X. et al., Nucleic Acids Research 第44巻第8号 e79 (2016)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
低コストで多種類の遺伝子変異を検出可能な技術の一例として、キャピラリー電気泳動法(CE)を用いたフラグメント解析法がある(
図1)。この方法では検出対象である変異を含む標的核酸100の配列に相補的となるように設計されたフォワードプライマー102およびリバースプライマー103を用いる。いずれかのプライマーの5′末端に標的核酸ごとに区別可能な蛍光色素101を予め標識しておく。このようなプライマーセットを用いてPCRを行うと、正常な標的核酸(野生型)のみならず、変異(欠失、挿入、融合といった構造的な変異。
図1では欠失変異を示す。)のある核酸(変異型)が存在した場合も同時に増幅される。増幅後、一本鎖DNA化した後に、キャピラリー電気泳動法を用いて泳動分離し、5′末端の蛍光色素を蛍光検出することで、最終的に変異型の標的核酸が検出される。欠失変異の場合は増幅産物が短くなるので、野生型核酸と比較して泳動が早く進む。挿入変異の場合は増幅産物が長くなるので、野生型核酸と比較して泳動が遅く進む。融合変異の場合は、増幅産物の長さは、長くなる場合と短くなる場合のどちらも可能性があるが、野生型と異なる移動度を示す。以上のように、変異型が含まれる場合、野生型と比較して泳動移動度が異なるので、変異型の核酸を検出することが可能となる。
【0007】
この手法はプライマーの5′末端に標識した蛍光色素に基づいて検出するため、使用する蛍光色素を変更することにより、多項目同時検出が可能である。例えば、Pereiraらの文献(非特許文献2)では4種類の蛍光色素を用いた構造多型同時検出が示されている。しかし、同時に検出可能な遺伝子数は蛍光色素数に限定されてしまうため、数個程度に留まっている。
【0008】
また、液体生検に用いられるヒト体液中に含まれる変異遺伝子の出現頻度は野生型と比較して数パーセント(およそ0.1~1.0%)と低いことが分かっているため、キャピラリー電気泳動で確実に検出するのは容易ではない。
【0009】
更に、構造多型変異の場合、変異遺伝子の塩基長(サイズ)は様々であるため、キャピラリー電気泳動で検出された信号が標的核酸由来であるのかどうかを判定することが困難となることもある。
【0010】
加えて、融合変異の場合、融合相手であるペア遺伝子により治療法が変わるため、融合変異を検出するだけでは十分ではない(ペア遺伝子の特定が求められる)。
【0011】
つまり構造多型変異の多項目同時検出能を拡張するには、現存蛍光色素数に限定されることなく、存在割合の少ない変異型を検出できること、が要求される。更に、取得信号が標的遺伝子由来であることが保証されること、も重要である。したがって、本発明の課題は、キャピラリー電気泳動における構造多型変異の多項目同時検出を改善するための方法および手段を提供することである。
【0012】
なお、プローブを複数の蛍光色素により多重に標識して細胞内または組織内の変異型遺伝子を検出する方法が報告されている(非特許文献3)が、プライマーに関する記載はない。また、蛍光色素で標識したプライマーを用いて分析対象のポリヌクレオチドを検出する方法が報告されている(特許文献1)が、多重標識に関する記載はない。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者は、キャピラリー電気泳動(CE)を使用した遺伝子解析において、異なる数および/または組み合わせの蛍光色素で標識したプライマーを使用することにより、異なる種類の変異(特に構造多型変異)を同時に解析して検出可能であることを見い出した。また、複数の蛍光色素の組み合わせによって蛍光強度が増強し、頻度の少ない変異であってもCEにおいて区別して検出可能であることも見い出した。本発明は、これらの知見に基づいてなされたものである。
【0014】
一態様において、本発明は、被検核酸の変異を検出する方法であって、
標識されている第1のプライマーを少なくとも1つ含む、第1の変異の核酸を増幅するための第1のプライマーセットを準備する工程、
標識されている第2のプライマーを少なくとも1つ含む、第2の変異の核酸を増幅するための第2のプライマーセットを準備する工程、
第1のプライマーセットおよび第2のプライマーセットを用いて、被検核酸を増幅する工程、
得られた増幅産物をキャピラリー電気泳動に供して、被検核酸の変異を解析する工程
を含み、第1のプライマーおよび第2のプライマーが、数および/または種類が異なる蛍光色素の組み合わせで標識されていることを特徴とする、方法を提供する。
【0015】
別の態様において、本発明は、標識されている第1のプライマーを少なくとも1つ含む、第1の変異の核酸を増幅するための第1のプライマーセット、および
標識されている第2のプライマーを少なくとも1つ含む、第2の変異の核酸を増幅するための第2のプライマーセット
を含み、第1のプライマーおよび第2のプライマーが、数および/または種類が異なる蛍光色素の組み合わせで標識されていることを特徴とする、キャピラリー電気泳動法により核酸の変異を検出するためのキットを提供する。
【発明の効果】
【0016】
本発明により、複数種の構造多型変異を同時に検出することができる方法および手段が提供される。また、存在頻度の少ない変異であってもCEにおいて区別して検出することができる。したがって、本発明により、より多くの構造多型変異を同時にかつ高感度に検出することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】キャピラリー電気泳動法を用いたフラグメント解析手法の概略図である。
【
図2】実施例1に係るキャピラリー電気泳動法を用いたフラグメント解析手法の概略を示す図である。
【
図3】1または複数の蛍光色素で標識したプライマーを示す表(A)と、これらのプライマーを使用して得られる蛍光スペクトル(B)である。
【
図4】プライマーを複数の蛍光色素で多重標識することにより、蛍光強度を増強することができることを示すグラフである。
【
図5】異なる標的核酸に対して異なる蛍光色素の組み合わせで標識したプライマーを示す表(A)と、これらのプライマーを使用して得られた増幅産物の泳動後の蛍光スペクトル(B)である。
【
図6】実施例2に係るキャピラリー電気泳動法を用いたフラグメント解析手法の概略を示す図である。
【
図7】キャピラリー電気泳動法を用いたフラグメント解析手法の従来法の概略を示す図である。
【
図8】実施例3に係るキャピラリー電気泳動法を用いたフラグメント解析手法の概略を示す図である。
【
図9A】標的配列として遺伝子融合変異であるROS1-SLC34A2遺伝子の検出のためのプライマーセットおよび標識を示す表である。
【
図9B】フォワードプライマーおよびリバースプライマーのどちらも蛍光で標識する多重標識により融合変異を検出する効果を示すグラフ(増幅産物の泳動後の蛍光スペクトル)である。
【
図10】実施例4に係るキャピラリー電気泳動法を用いたフラグメント解析手法の概略を示す図である。
【
図11A】フォワードプライマーおよびリバースプライマーのどちらも蛍光で標識する多重標識により融合変異を検出する効果を示すグラフである。
【
図11B】フォワードプライマーおよびリバースプライマーのどちらも蛍光で標識する多重標識により融合変異を検出する効果を示すグラフ(増幅産物の非変性条件での泳動後の蛍光スペクトル)である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明は、キャピラリー電気泳動法を用いたフラグメント解析手法の遺伝子変異検出において、異なる遺伝子変異を検出するために、異なる数および/または種類の蛍光色素の組み合わせで標識したプライマーを使用することに基づく。
【0019】
一態様において、本発明は、
被検核酸の変異を検出する方法であって、
標識されている第1のプライマーを少なくとも1つ含む、第1の変異の核酸を増幅するための第1のプライマーセットを準備する工程、
標識されている第2のプライマーを少なくとも1つ含む、第2の変異の核酸を増幅するための第2のプライマーセットを準備する工程、
第1のプライマーセットおよび第2のプライマーセットを用いて、被検核酸を増幅する工程、
得られた増幅産物をキャピラリー電気泳動に供して、被検核酸の変異を解析する工程
を含み、第1のプライマーおよび第2のプライマーが、数および/または種類が異なる蛍光色素の組み合わせで標識されていることを特徴とする、方法に関する。
【0020】
本発明において、被検核酸の変異の検出とは、被検核酸に検出対象の変異が存在するか否かを判定すること、変異が存在する場合には、変異の内容(野生型、変異型など)や存在比率を判定することを意味する。
【0021】
本発明において検出対象となる変異は、遺伝子の変異であれば特に限定されるものではないが、本発明は、特に、遺伝子の構造多型変異(塩基長が変化する変異)の検出に適している。構造多型変異には、たとえば、欠失(Deletion:塩基が欠失することから塩基長は短くなる)、挿入(Insertion:塩基が挿入されることから塩基長は長くなる)、融合(Fusion:他の遺伝子と融合するが、その融合の仕方によって塩基長は異なる)がある。変異の例として、例えば限定されるものではないが、EGFR遺伝子の変異(exon19の746~750位置の塩基が欠失する変異、exon20の769~770位置に塩基が挿入される変異など)、ROS1遺伝子の変異(ROS1が別の遺伝子(SLC34A2、CD74、SDC4など)と融合する変異など)などが挙げられる。本明細書中、変異の内容について、便宜的に野生型および変異型と呼ぶ場合があるが、野生型がない変異や、複数の変異型が存在する変異があり、1つの変異に2以上の多型が存在し得るため、野生型および変異型という名称に拘束されるものではない。
【0022】
本発明では、検出対象の変異を含む核酸を増幅するためのプライマーセットを準備し、各プライマーセットは標識されているプライマーを少なくとも1つ含む。一実施形態において、2つの異なる変異の検出を目的とする場合、標識されている第1のプライマーを含む、第1の変異の核酸を増幅するための第1のプライマーセット、および標識されている第2のプライマーを含む、第2の変異の核酸を増幅するための第2のプライマーセットを使用する。
【0023】
別の実施形態において、3つの異なる変異の検出を目的とする場合、標識されている第1のプライマーを含む、第1の変異の核酸を増幅するための第1のプライマーセット、標識されている第2のプライマーを含む、第2の変異の核酸を増幅するための第2のプライマーセット、および標識されている第3のプライマーを含む、第3の変異の核酸を増幅するための第3のプライマーセットを使用する。
【0024】
同様に、n個の異なる変異の検出を目的とする場合には、それぞれ、標識されている第nのプライマーを少なくとも含む、第nの変異の核酸を増幅するための第nのプライマーセットをnセット含む。ここで、nは、3~100の整数であり、キャピラリー電気泳動(CE)に使用する機器の検出能力に応じて、その最大値は異なる。したがって、一実施形態において、本発明に係る方法は、標識されている第nのプライマーを少なくとも1つ含む、第1の変異および第2の変異とは異なる変異の核酸を増幅するための第nのプライマーセットを準備する工程をさらに含み、ここでnは3~100の整数であり、第nのプライマーが、第1のプライマーおよび第2のプライマーとは異なる数および/または種類の蛍光色素の組み合わせで標識されている。
【0025】
本発明において、プライマー(本明細書中、フォワードプライマー、リバースプライマーともいう)は、DNAまたはRNAのいずれでもよく、被検核酸の種類、PCRに使用されるポリメラーゼの種類に応じて決定される。好ましくは、プライマーはDNAであり、被検核酸としてDNAまたはmRNAを鋳型としたPCRが行われる。
【0026】
プライマーは、変異を含む標的核酸に特異的に結合して増幅することができるように、すなわち標的核酸に対して相補的な配列を有するように設計される。プライマーの設計手法は当技術分野で周知であり、本発明において使用可能なプライマーは、特異的なアニーリングが可能な条件を満たす。例えば特異的なアニーリングが可能な長さおよび塩基組成(融解温度)を有するように設計される。例えば、プライマーとしての機能を有する長さとしては、10塩基以上が好ましく、さらに好ましくは15~50塩基である。また設計の際には、プライマーのGC含量とプライマーの融解温度(Tm)を確認することが好ましい。Tmとは、任意の核酸鎖の50%がその相補鎖とハイブリッドを形成する温度を意味し、鋳型となる標的核酸とプライマーとが二本鎖を形成してアニーリングするためには、アニーリングの温度を最適化する必要がある。一方、この温度を下げすぎると非特異的な反応が起こるため、温度は可能な限り高いことが望ましい。Tmの確認には、公知のプライマー設計用ソフトウエアを利用することができる。設計されたプライマーは、公知のオリゴヌクレオチド合成手法により化学合成することができるが、通常は、市販の化学合成装置を使用して合成される。
【0027】
1のプライマーセットに含まれる少なくともプライマーは、1つまたは2つ以上の蛍光色素で標識される。そのような蛍光色素としては、例えば限定されるものではないが、フルオレセン(FITC)、Cy系(例えば、Cy6)、ローダミン6G(R6G)、スルホローダミン(TR)、テトラメチルローダミン(TRITC)、カルボキシ-X-ローダミン(ROX)、カルボキシテトラメチルローダミン(TAMRA)、NED、5-カルボキシフルオレセイン(5-FAM)、6-カルボキシフルオレセイン(6-FAM)、5′-ヘキサクロロフルオレセインCE-ホスホロアミダイト(HEX)、6-カルボキシ-4′,5′-ジクロロ-2′,7′-ジメトキシフルオレセイン(JOE)、5-テトラクロロフルオレセインCE-ホスホロアミダイト(TET)、ローダミン110(R110)、VIC(登録商標)、ATTO系、Alexa Fluor(登録商標)系などが挙げられ、また泳動サイズにずれ(変化)を生じない蛍光色素として、dR110(carboxy-dichloro rhodamine 110)、dR6G(dihydro rhodamine 6G)、dTAMRA(Tetramethyl rhodamine)、dROX(carboxy-X-rhodamine)などが挙げられる。
【0028】
本発明では、異なる変異を検出するためのプライマーを、数および/または種類が異なる蛍光色素の組み合わせで標識する。蛍光色素の組み合わせは、キャピラリー電気泳動において、蛍光色素が結合した増幅産物の移動度に差が生じるように選択する。また、例えば複数の異なる標的核酸(変異)を検出する場合には、異なる波長で励起かつ検出される複数の蛍光色素を組み合わせて使用することができる。
【0029】
蛍光の信号強度を強くしたい場合には、複数個の蛍光色素でプライマーを標識して使用することができる。好ましくは同じ種類の蛍光色素を複数個使用する。
【0030】
蛍光色素は、プライマーの5′末端および/またはプライマーの配列内部(Internal)の塩基に標識する。例えば、プライマーは、5′末端において蛍光色素で標識される。あるいは、プライマーは、5′末端およびプライマーの配列内部(Internal)の1塩基において、蛍光色素で標識される。あるいは、プライマーは、5′末端およびプライマーの配列内部(Internal)の2以上の塩基において、蛍光色素で標識される。あるいは、プライマーは、プライマーの配列内部(Internal)の1以上の塩基において、蛍光色素で標識される。
【0031】
更に、蛍光の検出信号が標的核酸(変異)由来であることを確実にするために、フォワードプライマーおよびリバースプライマーのいずれも標識して使用することができる。その場合の蛍光色素は同じ種類でも異なる種類でもよい。また、フォワードプライマーおよびリバースプライマーの一方または両方を複数の蛍光色素で標識してもよい。したがって、一実施形態において、第1のプライマーセットは、(標識されている第1のプライマーに加えて)標識されている第1’のプライマーをさらに含む、および/または第2のプライマーセットは、(標識されている第2のプライマーに加えて)標識されている第2’のプライマーをさらに含む。また一実施形態において、第1のプライマーおよび第1’のプライマーは、数および/もしくは種類が同じ蛍光色素の組み合わせで、または数および/もしくは種類が異なる蛍光色素の組み合わせで標識されていてもよい。一実施形態において、第2のプライマーおよび第2’のプライマーは、数および/もしくは種類が同じ蛍光色素の組み合わせで、または数および/もしくは種類が異なる蛍光色素の組み合わせで標識されていてもよい。
【0032】
標識方法は特に限定されることはなく、従来公知の各種手段を用いればよい。
【0033】
なお、被検核酸は、核酸を含む試料であれば特に限定されるものではなく、生体由来試料(例えば細胞試料、組織試料、液体試料など)、および合成試料(例えばcDNAライブラリなどの核酸ライブラリなど)の任意の試料を用いることができる。生体由来試料の場合、試料の由来となる生体も特に限定されるものではなく、脊椎動物(例えば哺乳類、鳥類、爬虫類、魚類、両生類など)、無脊椎動物(例えば昆虫、線虫、甲殻類など)、原生生物、植物、真菌、細菌、ウイルスなどの任意の生体に由来する試料を用いることができる。例えば、ヒトにおけるがん検査を想定する場合には、検査対象のヒトから得られる核酸含有試料、例えば全血、血清、血漿、唾液、尿、糞便、皮膚組織、がん組織などを準備する。一例として、被検核酸は、標的核酸(変異)を含むかまたは含むことが疑われる核酸の試料である。
【0034】
被検核酸は、検出しようとする変異を含む核酸であれば特に限定されるものではなく、デオキシリボ核酸(DNA)、例えばゲノムDNA、cDNA、およびリボ核酸(RNA)、例えばメッセンジャーRNA(mRNA)、ならびにそれらの断片が含まれる。本発明においては、被検核酸として、例えばセルフリーDNA(cfDNA、血中を遊離しているDNA)、循環腫瘍DNA(ctDNA)を使用することが好ましい。試料からの核酸の調製は、当技術分野で公知の方法により行うことができる。例えば、血液や細胞から被検核酸を調製する場合には、Proteinase Kのようなタンパク質分解酵素、チオシアン酸グアニジン・グアニジン塩酸といったカオトロピック塩、TweenおよびSDSといった界面活性剤、あるいは市販の細胞溶解用試薬を用いて、細胞を溶解し、それに含まれる核酸、すなわちDNAおよびRNAを溶出することができる。RNAを調製する場合には、上記の細胞溶解により溶出された核酸のうち、DNAをDNA分解酵素(DNase)により分解し、核酸としてRNAのみを含む試料が得られる。mRNAを調製する場合には、mRNAはポリA配列を含むことから、上記のように調製したRNA試料から、ポリT配列を含むDNAプローブを用いてmRNAのみを捕捉することができる。このような核酸の調製を行うために、多数のメーカーからキットが販売されており、目的とする核酸を簡便に精製することが可能である。
【0035】
続いて、第1のプライマーセットおよび第2のプライマーセットを用いて、被検核酸を増幅する。すなわち、被検核酸を鋳型として、プライマーセットを用いた増幅反応、好ましくはポリメラーゼ連鎖反応(PCR)を行う。PCRは当技術分野で公知であり、使用するポリメラーゼは、鋳型(被検核酸)の種類および使用するプライマーの種類によって選択される。例えば、DNAまたはRNAを鋳型としたDNAプライマーを用いたPCRには、それぞれDNA依存性またはRNA依存性DNAポリメラーゼが使用される。
【0036】
被検核酸が存在する場合には、この被検核酸に特異的に結合するプライマーがハイブリダイゼーションし、プライマーの3'末端部分からポリメラーゼの合成反応によって塩基が基質として取り込まれ伸長される。伸長が繰り返されることにより、被検核酸が増幅される。被検核酸の有無は、この増幅反応が生じるか否かで判定することができ、被検核酸の変異の種類は、プライマーの標識の種類(組み合わせ)に基づいて判定することができる。また、変異の有無は、キャピラリー電気泳動での泳動移動度に基づいて検出することができる。
【0037】
PCRによる増幅後、得られた反応物をキャピラリー電気泳動(CE)に供して解析する。なお、被検核酸を増幅する工程の後、得られた増幅産物を一本鎖核酸にしてから、CEに供する工程を行ってもよい。増幅産物(二本鎖核酸)を一本鎖化する方法は、当技術分野で公知であり、例えばアルカリ変性処理、高温処理などにより行うことができる。
【0038】
キャピラリー電気泳動(CE)は、導入された成分を荷電、大きさおよび形状などに基づく移動度の差異で分離し、標識物質に基づいて検出する手法である。本方法では、標識色素の数および/または種類が異なる多重標識プライマーを利用するため、検出対象の変異の有無または特定の標識の種類(1つもしくは複数の蛍光色素で標識した多重標識プライマーに基づく)と、移動度から被検核酸の変異の種類(核酸の構造多型に基づく)と、から目的の変異を含む核酸を検出し、および/または被検核酸における変異の有無を決定することができる。
【0039】
本発明に係る方法により、複数種(例えば1~100種)の変異を、その存在および種類について同時に検出することができ、また存在頻度の少ない変異であっても高感度に検出することができる。
【0040】
本発明に係る方法は、数および/または種類が異なる蛍光色素の組み合わせで標識された複数のプライマーを備えたキットを用いることによって、より容易かつ簡便に行うことができる。すなわち、さらなる態様において、本発明は、
標識されている第1のプライマーを少なくとも1つ含む、第1の変異の核酸を増幅するための第1のプライマーセット、および
標識されている第2のプライマーを少なくとも1つ含む、第2の変異の核酸を増幅するための第2のプライマーセット
を含み、第1のプライマーおよび第2のプライマーが、数および/または種類が異なる蛍光色素の組み合わせで標識されていることを特徴とする、キャピラリー電気泳動法により核酸の変異を検出するためのキットに関する。
【0041】
一実施形態において、第1のプライマーセットは、標識されている第1’のプライマーをさらに含んでもよく、および/または第2のプライマーセットは、標識されている第2’のプライマーをさらに含んでもよい。この場合、第1のプライマーおよび第1’のプライマーは、数および/もしくは種類が同じ蛍光色素の組み合わせで、または数および/もしくは種類が異なる蛍光色素の組み合わせで標識されている。さらに/あるいは、第2のプライマーおよび第2’のプライマーは、数および/もしくは種類が同じ蛍光色素の組み合わせで、または数および/もしくは種類が異なる蛍光色素の組み合わせで標識されている。
【0042】
一実施形態において、第1のプライマーおよび/または第2のプライマーの5’末端が蛍光色素で標識されていてもよいし、ならびに/あるいは第1のプライマーおよび/または第2のプライマーの内部の塩基が蛍光色素で標識されていてもよい。
【0043】
本発明に係るキットは、標識されている第nのプライマーを少なくとも1つ含む、第1の変異および第2の変異とは異なる変異の核酸を増幅するための第nのプライマーセットをさらに含んでもよく、ここでnは3~100の整数であり、第nのプライマーが、第1のプライマーおよび第2のプライマーとは異なる数および/または種類の蛍光色素の組み合わせで標識されている。
【0044】
本発明に係るキットは、プライマーまたはプライマーセットに加えて、反応液を構成するバッファー、dNTP若しくはddNTP混合物(標識されていてもよい)、酵素類(ポリメラーゼ、逆転写酵素など)、校正用の標準試料などを含んでもよい。プライマーをキットとして提供することにより、遺伝子変異の検出をより迅速かつ簡便に行うことが可能となる。
【0045】
本明細書において単数形で表される構成要素は、特段文脈で明らかに示されない限り、複数形を含むものとする。
【0046】
本発明は以下に示す実施例の記載内容に限定して解釈されるものではない。本発明の思想ないし趣旨から逸脱しない範囲で、その具体的構成を変更し得ることは当業者であれば容易に理解される。
【0047】
図面等において示す各構成の位置、大きさ、形状、範囲などは、発明の理解を容易にするため、実際の位置、大きさ、形状、範囲などを表していない場合がある。このため、本発明は、必ずしも、図面等に開示された位置、大きさ、形状、範囲などに限定されない。
【0048】
[実施例1]
図2は、本発明の実施例1に係るキャピラリー電気泳動法を用いたフラグメント解析手法の概略を示す図である。図では標的核酸AおよびBの2種類が同一試料内に含まれる場合を示す。なお、標的核酸数は2種類に限られない。
【0049】
検出対象である変異を含む標的核酸A 200に相補的となるように設計されたフォワードプライマー202およびリバースプライマー207、別の検出対象である変異を含む標的核酸B 203に相補的となるように設計されたフォワードプライマー206およびリバースプライマー208を用いる。フォワードプライマー202の5′末端には蛍光色素201が、フォワードプライマー206の5′末端には蛍光色素204およびプライマー内(Internal)にもう1つの蛍光色素205が、標識されている。リバースプライマーは未標識である。このようなプライマーを用いてPCRを行い、増幅後、一本鎖DNA化した後に、キャピラリー電気泳動法(CE)を用いて泳動分離する。キャピラリー電気泳動のキャピラリーにはポリマーが充填されており、例えばThermo Fisher Scientific社のPOP4等を用いればよい。泳動分離しながら蛍光検出すると、最終的に異なる標的核酸とそれぞれに対応する遺伝子変異が同時に検出される。図では標的核酸Aの変異は欠失変異を、標的核酸Bの変異は挿入変異を示した。なお、フォワードプライマーを未標識にして、リバースプライマーを標識してもよい。また、蛍光色素201、204、205は同じ種類の蛍光色素でもよいし、全て異なる種類の蛍光色素でもよい。蛍光色素の組み合わせは限定されない。ただし、5′末端とInternalに標識する蛍光色素について、同じ励起波長に対して蛍光波長が異なる組合せの方が好ましい。
【0050】
図3は、プライマーを多重に標識することにより、異なる蛍光スペクトルが得られる効果を示す例を示した。標的配列として大腸がんおよび肺がんで頻出する遺伝子変異であるEGFR遺伝子を標的核酸とし、746~750位置が欠失する遺伝子変異を検出するフォワードプライマーに対して、5′末端にフルオレセン(a)もしくはCy3(b)を標識したもの、および5′末端にフルオレセン、プライマー内部にCy3を1つ(c)もしくは2つ(d)標識したもの、の4種類を用意した(
図3のA)。リバースプライマーは未標識で、全てのフォワードプライマーとセットでPCRに用いる(共通)。なお、プライマー内(Internal)の標識箇所は太字Tで示したが、標識箇所および塩基は限定されない。また、蛍光色素の組み合わせも限定されない。ただし、5′末端とInternalに標識する蛍光色素について、同じ励起波長に対して蛍光波長が異なる組合せの方が好ましい。
【0051】
EGFR遺伝子の塩基配列を標的鋳型としたPCRは、5μLの10×ExTaq buffer(タカラバイオ社)、0.25μLのExTaq(タカラバイオ社)、4μLのdNTP(10mM)、1.25μLの鋳型DNA(100 fmol/uL)、1.5μLの上記プライマー、36.5μLのD.W.を混合組成とし、サーマルライクラーを用いた94℃×5分→(94℃×10秒→55℃×30秒→72℃×1分)×25サイクル→72℃×7分によって行った。反応後の試料溶液をアルカリフォスファターゼ(タカラバイオ社)にて精製処理を行った後、キャピラリー電気泳動(CE)シーケンサであるDS3000(日立ハイテク社)を用いて分析した。
【0052】
各プライマーでPCRを行った後、CEで泳動した結果、得られた蛍光強度から、ピーク値を100%として、相対蛍光強度を算出し、蛍光スペクトルを比較した結果を
図3のBに示す。図より、プライマーに蛍光色素を多重標識することにより異なる蛍光スペクトルを得られたことから、現存する蛍光色素を組み合せて標識した多重標識プライマーにより、現存蛍光色素とは異なる、蛍光色素の種類増加を実現し、効果を確認した。
【0053】
図4は、実施例1のプライマーを複数の蛍光色素で多重標識することにより、蛍光強度を増強することができる効果を示す例を示した。プライマーは
図3のAに示した表のInternalにCy3を1つ(c)もしくは2つ(d)標識したものを用いた。上記と同じPCRおよびCEシーケンサによる分析をし、蛍光強度を比較した結果、プライマー内部に蛍光を1つ標識した(c)ものと比較して、2つ標識した(d)ものの方が蛍光強度が約2倍強くなることが示され、多重標識プライマーの効果を確認した。
【0054】
図5は、多重標識プライマーを用いて2種類の異なる標的核酸を同時に検出した例を示す。どちらもEGFR遺伝子であるが、標的核酸として、1つはexon19、もう1つはexon20であり、異なる配列(変異)を検出対象としている。EGFR exon19の746~750位置が欠失する遺伝子変異を検出するフォワードプライマーに対して、5′末端にフルオレセンを標識したもの(a)、EGFR exon20の769~770位置に塩基が挿入される遺伝子変異を検出するフォワードプライマーに対して、5′末端にフルオレセン、InternalにCy3を標識したもの(e)、とそれぞれに対応する未標識のリバースプライマーを用意した(
図5のA)。なお、Internalの標識箇所は太字Tで示したが、標識箇所および塩基は限定されない。また、蛍光色素の組み合わせも限定されない。
【0055】
各遺伝子配列を標的鋳型としたPCRは、5μLの10×ExTaq buffer(タカラバイオ社)、0.25μLのExTaq(タカラバイオ社)、4μLのdNTP(10mM)、1.25μLの鋳型DNA混合液(各野生型100fmol/uL+各変異型10fmol/uL)、1.5μLの上記プライマー混合液、36.5μLのD.W.を混合組成とし、サーマルライクラーを用いた94℃×5分→(94℃×10秒→55℃×30秒→72℃×1分)×25サイクル→72℃×7分によって行った。反応後の試料溶液をアルカリフォスファターゼ(タカラバイオ社)にて精製処理を行った後、CEシーケンサであるDS3000(日立ハイテク社)を用いて分析した。その結果、多重標識プライマーを用いることで、複数種の標的核酸の各々の野生型および変異型を異なる蛍光色素として同時に検出できることが分かり、多重標識プライマーの効果を確認した。
【0056】
[実施例2]
図6は、本発明の実施例2に係るキャピラリー電気泳動法を用いたフラグメント解析手法の概略を示す図である。図では標的核酸AおよびBの2種類が同一試料内に含まれる場合を示す。なお、標的核酸数は2種類に限られない。
【0057】
検出対象である変異を含む標的核酸A 600に相補的となるように設計されたフォワードプライマー602およびリバースプライマー603、別の検出対象である変異を含む標的核酸B 601に相補的となるように設計されたフォワードプライマー604およびリバースプライマー605を用いる。フォワードプライマー602およびリバースプライマー603の5′末端にはそれぞれ蛍光色素610、611が、フォワードプライマー604およびリバースプライマー605の5′末端にはそれぞれ蛍光色素612、615が、更にプライマー内(Internal)にそれぞれもう1つの蛍光色素613、614が、標識されている。このようなプライマーを用いてPCRを行い、増幅後キャピラリー電気泳動法(CE)を用いて泳動分離する。キャピラリー電気泳動のキャピラリーには非変性用ポリマーが充填されており、例えばThermo Fisher Scientific社のConformational Analysis Polymer(CAP)等を用いればよい。泳動分離しながら蛍光検出すると、最終的に異なる標的核酸とそれぞれに対応する遺伝子変異が同時に検出される。
図6では、標的核酸Aの変異は欠失変異を、標的核酸Bの変異は挿入変異を示した。なお、図に示した蛍光色素は、同じ種類の蛍光色素でもよいし、全て異なる蛍光色素でもよい。蛍光色素の組み合わせは限定されない。ただし、5′末端とInternalに標識する蛍光色素について、同じ励起波長に対して蛍光波長が異なる組合せの方が好ましい。
【0058】
[実施例3]
図7は、キャピラリー電気泳動法を用いたフラグメント解析手法の従来法を示す図である。図では融合変異検出を示す。
【0059】
検出対象である融合変異を含む標的核酸CとDはどちらもリバースプライマー側が同じ遺伝子700由来で、融合変異のパートナー(フォワードプライマー側)がそれぞれ遺伝子701由来、遺伝子702由来である。融合変異のパートナー遺伝子は2種類とは限らないため、従来法では、共通する配列700に相補的に設計されたプライマー(図では703)を蛍光色素711で標識し、融合する遺伝子(図では701、702)側には未標識プライマー(配列701に相補的に設計された未標識プライマー704または配列702に相補的に設計された未標識プライマー705)を用いてPCRを行い、増幅後キャピラリー電気泳動を用いて泳動分離する。すると、融合変異を起こしていない野生型は増幅されず、融合を起こした変異型だけが検出される。本方法では、融合する遺伝子(図の701や702)の種類は、増幅産物の大きさ(核酸の長さ)で判断できる。
【0060】
しかしながら、従来の方法では、蛍光色素で標識されているのが片方の遺伝子由来のため、検出されたものが目的の融合変異なのか判定が困難である。また、試料によっては、PCRで増幅できる塩基長に制限があるため、増幅産物の大きさ(核酸の長さ)のみで、複数の融合変異を検出するには困難な場合がある。
【0061】
図8は、本発明の実施例3に係るキャピラリー電気泳動法を用いたフラグメント解析手法の概略を示す図である。フォワードプライマー、リバースプライマーのどちらも蛍光で標識する多重標識により、融合変異を検出する手法の概略を示した。
【0062】
検出対象である融合変異を含む標的核酸CとDはどちらもリバースプライマー側が同じ遺伝子800由来で、融合変異のパートナーがそれぞれ遺伝子801由来、もしくは遺伝子802由来である。共通遺伝子800に相補的となるように設計されたリバースプライマー803および配列801に相補的に設計されたフォワードプライマー804、配列802に相補的に設計されたフォワードプライマー805を用いる。リバースプライマー803の5′末端には蛍光色素811が、フォワードプライマー804、805の5′末端にはそれぞれ蛍光色素810、812が、標識されている。蛍光色素810、812は異なる蛍光色素を用いる。ただし、いずれかは803の蛍光色素811と同じでも構わない。また、各プライマーに標識する蛍光色素の数はひとつとは限らない。
【0063】
このようなプライマーを用いてPCRを行い、増幅後、一本鎖DNA化した後に、キャピラリー電気泳動法(CE)を用いて泳動分離する。キャピラリー電気泳動のキャピラリーにはポリマーが充填されており、例えばThermo Fisher Scientific社のPOP4等を用いればよい。泳動分離しながら蛍光検出すると、最終的にフォワードプライマーから伸長した標的核酸とリバースプライマーから伸長した標的核酸が同時に検出される。
【0064】
図9Aおよび
図9Bは、フォワードプライマー、リバースプライマーのどちらも蛍光で標識する多重標識により、融合変異を検出する効果を示す例を示した。標的配列として肺がんのドライバー遺伝子のひとつである遺伝子融合変異であるROS1-SLC34A2遺伝子の検出を示した。使用したプライマーとその標識について
図9Aにまとめる。リバースプライマーはROS1に相補的に設計されており、5’末端がフルオレセインで標識されている。フォワードプライマーa,bは融合変異のパートナー遺伝子がSLC34A2 exon4に相補的に設計されており、フォワードプライマーc,dは融合変異のパートナー遺伝子がSLC34A2 exon13に相補的に設計されている。フォワードプライマーb、dは5′末端にフルオレセン、InternalにCy3で標識して用意した。なお、Internalの標識箇所は太字Tで示したが、標識箇所および塩基は限定されない。また、蛍光色素の組み合わせも限定されない。
【0065】
ROS1-SLC34A2遺伝子の塩基配列を標的鋳型としたPCRは、5μLの10×ExTaq buffer(タカラバイオ社)、0.25μLのExTaq(タカラバイオ社)、4μLのdNTP(10mM)、1.25μLの鋳型DNA(100 fmol/uL)、1.5μLの上記プライマー(
図9A)、36.5μLのD.W.を混合組成とし、サーマルライクラーを用いた94℃×5分→(94℃×10秒→55℃×30秒→72℃×1分)×25サイクル→72℃×7分によって行った。反応後の試料溶液をアルカリフォスファターゼ(タカラバイオ社)にて精製処理を行った後、キャピラリー電気泳動(CE)シーケンサであるDS3000(日立ハイテク社)を用いて分析した。
【0066】
それぞれの増幅産物の大きさは、ROS1-SLC34A2 exon4が119base、exon13が118baseである。共通プライマー(リバースプライマー)のみ標識されている場合、
図9Bに示すように標的遺伝子を検出することは可能であるが塩基長がほぼ同じであるため、融合しているパートナー遺伝子を塩基長から判断するのは困難である(
図9Bの(a)と(c))。一方、フォワードプライマーとリバースプライマーのどちらも標識したプライマーを使用して増幅し、泳動した場合、
図9Bに示すように、各プライマーで増幅された産物の信号が検出される(
図9Bの(a)~(d))。信号が分かれるのは、フォワードプライマーから増幅された配列とリバースプライマーから増幅された配列が異なるために、移動度が異なるためである。(GeneMapper(登録商標) Software Version 3.7 ユーザガイド)。フォワードプライマーとリバースプライマーのどちらにも蛍光を標識したプライマーを使用することにより、標的遺伝子を検出できるだけでなく、融合しているパートナー遺伝子の判定も容易になるという効果が得られる。
【0067】
[実施例4]
図10は、本発明の実施例4に係るキャピラリー電気泳動法を用いたフラグメント解析手法の概略を示す図である。フォワードプライマー、リバースプライマーのどちらも蛍光で標識する多重標識により、融合変異を検出する手法の概略を示した。
【0068】
検出対象である融合変異を含む標的核酸CとDはどちらもリバースプライマー側が同じ遺伝子1000由来で、融合変異のパートナーがそれぞれ遺伝子1001由来、もしくは遺伝子1002由来である。共通遺伝子1000に相補的となるように設計されたリバースプライマー1003および配列1001に相補的に設計されたフォワードプライマー1004、配列1002に相補的に設計されたフォワードプライマー1005を用いる。リバースプライマー1003の5′末端には蛍光色素1011が、フォワードプライマー1004、1005の5′末端にはそれぞれ蛍光色素1010、1012が、標識されている。蛍光色素1010、1012は異なる蛍光色素を用いる。ただし、いずれかは1003の蛍光色素1011と同じでも構わない。また、各プライマーに標識する蛍光色素の数はひとつとは限らない。
【0069】
このようなプライマーを用いてPCRを行い、増幅後、キャピラリー電気泳動法(CE)を用いて泳動分離する。キャピラリー電気泳動のキャピラリーにはポリマーが充填されており、例えばThermo Fisher Scientific社のConformational Analysis Polymer(CAP)等を用いればよい。泳動分離しながら蛍光検出すると、最終的に融合変異が検出される。融合するパートナーにより、異なる蛍光スペクトルを得られることから、融合変異であることと同時に、融合したパートナー遺伝子の特定が可能になる。なお、図に示した蛍光色素は、同じ種類の蛍光色素でもよいし、全て異なる蛍光色素でもよい。蛍光色素の組み合わせは限定されない。ただし、5′末端とInternalに標識する蛍光色素について、同じ励起波長に対して蛍光波長が異なる組合せの方が好ましい。
【0070】
図11Aおよび
図11Bは、フォワードプライマー、リバースプライマーのどちらも蛍光で標識する多重標識により、融合変異を検出する効果を示す例を示した。標的配列として肺がんのドライバー遺伝子のひとつである遺伝子融合変異であるROS1-SLC34A2遺伝子の検出を示した。使用したプライマーとその標識について
図9Aにまとめる。リバースプライマーはROS1に相補的に設計されており、5’末端がフルオレセインで標識されている。フォワードプライマーa,bは融合変異のパートナー遺伝子がSLC34A2 exon4に相補的に設計されており、フォワードプライマーc,dは融合変異のパートナー遺伝子がSLC34A2 exon13に相補的に設計されている。フォワードプライマーb、dは5′末端にフルオレセン、InternalにCy3で標識して用意した。なお、Internalの標識箇所は太字Tで示したが、標識箇所および塩基は限定されない。また、蛍光色素の組み合わせも限定されない。
【0071】
ROS1-SLC34A2遺伝子の塩基配列を標的鋳型としたPCRは、5μLの10×ExTaq buffer(タカラバイオ社)、0.25μLのExTaq(タカラバイオ社)、4μLのdNTP(10mM)、1.25μLの鋳型DNA(100 fmol/uL)、1.5μLの上記プライマー(
図9A)、36.5μLのD.W.を混合組成とし、サーマルライクラーを用いた94℃×5分→(94℃×10秒→55℃×30秒→72℃×1分)×25サイクル→72℃×7分によって行った。反応後の試料溶液をアルカリフォスファターゼ(タカラバイオ社)にて精製処理を行った後、キャピラリー電気泳動(CE)シーケンサであるDS3000(日立ハイテク社)を用いて非変性で分析した。
【0072】
それぞれの増幅産物の大きさは、ROS1-SLC34A2 exon4が119base、exon13が118baseである。共通プライマー(リバースプライマー)のみ標識されている場合、
図9Bに示したように標的遺伝子を検出することは可能であるが塩基長がほぼ同じであり、蛍光色素も同じであるため、融合しているパートナー遺伝子を塩基長から判断するのは困難である(
図9Bの(a)と(c))。
【0073】
一方、フォワードプライマーとリバースプライマーのどちらも標識したプライマーを使用して増幅し、CEで非変性で泳動した結果、得られた蛍光強度から、ピーク値を100%として、相対蛍光強度を算出し、蛍光スペクトルを比較した結果を
図11Aに示す。図より、フォワードプライマーとリバースプライマーのどちらも蛍光色素標識する多重標識により異なる蛍光スペクトルを得られたことから、現存する蛍光色素を組み合せて標識した多重標識プライマーにより、現存蛍光色素とは異なる、蛍光色素の種類増加を実現し、効果を確認した。
【0074】
図11Bは、多重標識プライマーを用いて増幅し、CEで非変性で泳動した結果を示す。リバースプライマーのみを蛍光標識した場合(a)と、フォワードプライマーとリバースプライマーのどちらも蛍光標識した場合(b)とで、異なる蛍光色素として検出できることから、融合遺伝子であることを判断できる。また、パートナーが異なる融合遺伝子であるが、塩基長がほぼ同じ変異の場合であっても((b)と(c))、異なる蛍光色素として検出できるので、融合しているパートナー遺伝子を区別できる。以上のことから、多重標識プライマーの効果を確認した。
【0075】
本明細書で引用した刊行物、特許公報は、そのまま本明細書の説明の一部を構成する。
【符号の説明】
【0076】
100、200、203、600、601…標的核酸
700、701、702、800、801、802、1000、1001、1002…遺伝子(融合変異)
101、201、204、205、610、611、612、613、614、615、711、810、811、812、1010、1011、1012…標識された蛍光色素
102、103、202、206、207、208、602、603、604、605、703、704、705、803、804、805、1003、1004、1005…プライマー
【配列表】