(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023103963
(43)【公開日】2023-07-27
(54)【発明の名称】ガスセンサ
(51)【国際特許分類】
G01N 27/416 20060101AFI20230720BHJP
G01N 27/419 20060101ALI20230720BHJP
【FI】
G01N27/416 331
G01N27/419 327Q
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022196271
(22)【出願日】2022-12-08
(31)【優先権主張番号】P 2022004225
(32)【優先日】2022-01-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000004064
【氏名又は名称】日本碍子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100124039
【弁理士】
【氏名又は名称】立花 顕治
(72)【発明者】
【氏名】渡邉 悠介
(72)【発明者】
【氏名】藤岡 靖昌
(72)【発明者】
【氏名】後呂 洋平
(72)【発明者】
【氏名】中島 章裕
(72)【発明者】
【氏名】新妻 匠太郎
(57)【要約】
【課題】被測定ガスにおける特定ガスの濃度が高い環境下での高精度な濃度測定と、濃度が低い環境下での高精度な濃度測定とを両立可能なガスセンサ素子を提供する。
【解決手段】本発明の一側面に係るガスセンサは、主ポンプセルのセル抵抗の値が所定値となるよう、センサ素子駆動温度を調整する。また、本発明の一側面に係るガスセンサにおいて、主ポンプセルのセル抵抗の傾きは、測定用ポンプセルのセル抵抗の傾きよりも大きい。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸素イオン伝導性の固体電解質層を複数積層してなるセンサ素子であって、
被測定ガスが導入される内部空所と、
前記内部空所に設けられてなる測定電極と、前記内部空所と異なる部位に設けられた外側ポンプ電極と、前記測定電極と前記外側ポンプ電極との間に存在する前記固体電解質層と、から構成される電気化学的ポンプセルである測定用ポンプセルと、
前記内部空所に面して形成された内側ポンプ電極と、前記外側ポンプ電極または前記固体電解質層に接して外部空間に露出する態様にて設けられた第3電極と、前記内側ポンプ電極と前記外側ポンプ電極または前記第3電極との間に存在する前記固体電解質層と、から構成される電気化学的ポンプセルである調整用ポンプセルと、
前記センサ素子の内部に埋設されてなり、前記センサ素子を所定の温度に加熱するヒータ部と、
を含むセンサ素子と、
前記調整用ポンプセルのセル抵抗の値を検出する検出部と、
前記検出部により検出される前記調整用ポンプセルのセル抵抗の値が所定の値となるよう、前記所定の温度を調整する調整部と、
を備え、
前記ヒータ部への投入パワーに対する、前記調整用ポンプセルのセル抵抗の傾きは、前記ヒータ部への投入パワーに対する、前記測定用ポンプセルのセル抵抗の傾きよりも大きい、
ガスセンサ。
【請求項2】
前記ヒータ部への投入パワーに対する、前記調整用ポンプセルのセル抵抗の傾きは、前記ヒータ部への投入パワーに対する、前記測定用ポンプセルのセル抵抗の傾きの1.5倍から1000倍である、
請求項1に記載のガスセンサ。
【請求項3】
前記測定電極の面積は、前記内側ポンプ電極の面積よりも大きい、
請求項1または2に記載のガスセンサ。
【請求項4】
前記測定電極の厚みは、前記内側ポンプ電極の厚みよりも厚い、
請求項1または2に記載のガスセンサ。
【請求項5】
前記測定電極の気孔率は、前記内側ポンプ電極の気孔率よりも低い、
請求項1または2に記載のガスセンサ。
【請求項6】
前記測定電極および前記内側ポンプ電極は、ジルコニアと貴金属とのサーメット電極であり、
前記測定電極における、ジルコニアに対する貴金属の比率は、前記内側ポンプ電極における、ジルコニアに対する貴金属の比率よりも高い、
請求項1または2に記載のガスセンサ。
【請求項7】
前記測定電極のAuの含有率は、前記内側ポンプ電極のAuの含有率よりも低い、
請求項1または2に記載のガスセンサ。
【請求項8】
前記測定電極と前記外側ポンプ電極との間の距離は、前記内側ポンプ電極と前記外側ポンプ電極または前記第3電極との間の距離よりも小さい、
請求項1または2に記載のガスセンサ。
【請求項9】
酸素イオン伝導性の固体電解質層を複数積層してなるセンサ素子であって、
被測定ガスが導入される内部空所と、
前記内部空所に設けられてなる測定電極と、前記内部空所と異なる部位に設けられた外側ポンプ電極と、前記測定電極と前記外側ポンプ電極との間に存在する前記固体電解質層と、から構成される電気化学的ポンプセルである測定用ポンプセルと、
前記内部空所に面して形成された内側ポンプ電極と、前記外側ポンプ電極または前記固体電解質層に接して外部空間に露出する態様にて設けられた第3電極と、前記内側ポンプ電極と前記外側ポンプ電極または前記第3電極との間に存在する前記固体電解質層と、から構成される電気化学的ポンプセルである調整用ポンプセルと、
前記センサ素子の内部に埋設されてなり、前記センサ素子を所定の温度に加熱するヒータ部と、
を含むセンサ素子を備えるガスセンサの制御方法において、
前記調整用ポンプセルのセル抵抗の値を検出する検出ステップと、
前記検出ステップにて検出される前記調整用ポンプセルのセル抵抗の値が所定の値となるよう、前記所定の温度を調整する調整ステップと、
を含み、
前記ヒータ部への投入パワーに対する、前記調整用ポンプセルのセル抵抗の傾きは、前記ヒータ部への投入パワーに対する、前記測定用ポンプセルのセル抵抗の傾きよりも大きい、
ガスセンサの制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガスセンサに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、自動車の排気ガス等の被測定ガスにおける酸素やNOxなどの特定ガス濃度を検出するガスセンサについて、センサ素子を構成する酸素イオン伝導性の固体電解質を活性化させるべく、内部にヒータを埋設したセンサ素子を備えるガスセンサが知られている。例えば、下掲の特許文献1には、内部にヒータを埋設し、測定用ポンプセルのインピーダンスが一定になるようにヒータの電力を制御するセンサ素子を備えるガスセンサが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
今後、自動車の排気ガス規制の強化等に伴い、ガスセンサには、被測定ガスにおける特定ガスの濃度が高い環境下での高精度な濃度測定だけでなく、特定ガスの濃度が低い環境下においても高精度な濃度測定が求められると予測される。このような観点から検討を進めたところ、本件発明者は、上述のような構造を有する従来のガスセンサには、被測定ガスにおける特定ガスの濃度が高い環境下での高精度な濃度測定と、濃度が低い環境下での高精度な濃度測定とを両立することが困難であるとの問題点を見出した。以下、詳細を説明する。
【0005】
本件発明者は、先ず、被測定ガスにおける特定ガスの濃度を測定するガスセンサにおいては、一般に、濃度が低い環境下においては、測定精度にオフセット値の変動が大きく影響してしまうとの問題点があることを見出した。すなわち、測定される濃度は、オフセット値の変動によって数ppm変化するため、オフセット値の変動が一定であったとしても、被測定ガスにおける特定ガスの濃度が低ければ低いほど、測定精度に対するオフセット値の変動の影響は大きくなる。例えば、被測定ガスにおける特定ガスの濃度が500ppmである場合、オフセット値が5ppm変動しても、オフセット値の変動による誤差は1%にとどまる。これに対して、被測定ガスにおける特定ガスの濃度が50ppmである場合、オフセット値が5ppm変動すると、オフセット値の変動による誤差は10%となり、オフセット値の変動は、測定精度に大きく影響する。
【0006】
ここで、オフセット値の変動の一因として、ヒータの設定温度、被測定ガスの温度等によるセンサ素子(特に、測定電極などの電極)の温度の変動が考えられる。そこで、本件発明者は、センサ素子の温度を下げることによって、つまり、ヒータの温度を下げることによって、オフセット値の変動を抑えることを検討した。
【0007】
その結果、本件発明者は、単純にセンサ素子(電極)の温度を下げただけでは、測定精度が低下してしまう恐れがあるとの問題点があることを見出した。すなわち、センサ素子の温度を下げると、酸素濃度を調整する電気化学的ポンプセルである調整用ポンプセルの反応に対する抵抗が増加するため、調整用ポンプセルに印加するポンプ電圧を大きくする必要がある。しかしながら、調整用ポンプセルに印加するポンプ電圧を大きくすると、調整用ポンプセルで被測定ガス中の特定ガスが分解される結果、特定ガスに対する感度が下がってしまう恐れがあり、特に、特定ガスの濃度が高い場合に測定精度が悪化する恐れがある。
【0008】
本発明は、一側面では、このような事情を鑑みてなされたものであり、その目的は、被測定ガスにおける特定ガスの濃度が高い環境下での高精度な濃度測定と、濃度が低い環境下での高精度な濃度測定とを両立可能なガスセンサ素子を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、上述した課題を解決するために、以下の構成を採用する。
【0010】
第1の観点に係るガスセンサは、酸素イオン伝導性の固体電解質層を複数積層してなるセンサ素子であって、被測定ガスが導入される内部空所と、前記内部空所に設けられてなる測定電極と、前記内部空所と異なる部位に設けられた外側ポンプ電極と、前記測定電極と前記外側ポンプ電極との間に存在する前記固体電解質層と、から構成される電気化学的ポンプセルである測定用ポンプセルと、前記内部空所に面して形成された内側ポンプ電極と、前記外側ポンプ電極または前記固体電解質層に接して外部空間に露出する態様にて設けられた第3電極と、前記内側ポンプ電極と前記外側ポンプ電極または前記第3電極との間に存在する前記固体電解質層と、から構成される電気化学的ポンプセルである調整用ポンプセルと、前記センサ素子の内部に埋設されてなり、前記センサ素子を所定の温度に加熱するヒータ部と、を含むセンサ素子と、前記調整用ポンプセルのセル抵抗の値を検出する検出部と、前記検出部により検出される前記調整用ポンプセルのセル抵抗の値が所定の値となるよう、前記所定の温度を調整する調整部と、を備え、前記ヒータ部への投入パワーに対する、前記調整用ポンプセルのセル抵抗の傾きは、前記ヒータ部への投入パワーに対する、前記測定用ポンプセルのセル抵抗の傾きよりも大きい。
【0011】
当該構成では、前記検出部により検出される前記調整用ポンプセルのセル抵抗の値が前記所定の値となるよう、前記所定の温度は調整され、つまり、前記所定の温度は制御される。また、前記ヒータ部への投入パワーに対する、前記調整用ポンプセルのセル抵抗の傾きは、前記ヒータ部への投入パワーに対する、前記測定用ポンプセルのセル抵抗の傾きよりも大きい。つまり、この構成において、前記ヒータ部への投入パワーに対するセル抵抗の傾きは、前記調整用ポンプセルの傾きの方が、前記測定用ポンプセルの傾きよりも大きい。
【0012】
前記所定の温度を制御して、前記調整用ポンプセルのセル抵抗の値を前記所定の値にすることによって、以下の効果を奏する。すなわち、前記調整用ポンプセルのセル抵抗の値は前記所定の値に保たれるため、前記調整用ポンプセルの反応に対する抵抗が増加することはなく、前記調整用ポンプセルに印加するポンプ電圧を大きくする必要もない。そのため、「前記調整用ポンプセルに印加するポンプ電圧を大きくした結果、前記調整用ポンプセルで前記被測定ガス中の特定ガスが分解され、特定ガスの濃度の測定精度が悪化し、特に、特定ガスの濃度が高い場合に測定精度が悪化する」という事態を回避することができる。
【0013】
また、前記投入パワーに対するセル抵抗の傾きについて、前記調整用ポンプセルの傾きは、前記測定用ポンプセルの傾きよりも大きいので、小さな前記投入パワーによって、前記調整用ポンプセルのセル抵抗の値が前記所定の値になるよう、制御することができる。
【0014】
さらに、前記投入パワーに対する前記調整用ポンプセルのセル抵抗の傾きは大きいため、前記調整用ポンプセルのセル抵抗の値が所定の値となるよう前記投入パワー(つまり、前記所定の温度)を変動させる際に、前記所定の温度の変動を小さくすることができる。前記所定の温度の変動を小さくすることで、オフセット値の変動を抑制することができ、前記被測定ガスにおける特定ガスの濃度が低い場合であっても、高精度な濃度測定を実現することができる。
【0015】
加えて、前記投入パワーに対するセル抵抗の傾きについて、前記測定用ポンプセルの傾きは、前記調整用ポンプセルの傾きよりも小さい。そのため、温度(例えば、前記測定用ポンプセルの温度)が変動したとしても、前記測定用ポンプセルのセル抵抗の変化は小さく、オフセット値の変動を抑制することができる。
【0016】
以上に説明したように、上記第1の観点に係るガスセンサは、前記被測定ガスにおける特定ガスの濃度が高い場合に測定精度が悪化する事態を回避し、また、前記被測定ガスにおける特定ガスの濃度が低い場合にも、高精度な濃度測定を実現することができる。つまり、上記第1の観点に係るガスセンサは、被測定ガスにおける特定ガスの濃度が高い環境下での高精度な濃度測定と、濃度が低い環境下での高精度な濃度測定とを両立することができる。なお、「ヒータ部への投入パワーに対する、セル抵抗の傾き」は、例えば、「大気中での、ヒータ部への投入パワーに対する、セル抵抗の傾き」である。
【0017】
第2の観点に係るガスセンサは、上記第1の観点に係るガスセンサにおいて、前記ヒータ部への投入パワーに対する、前記調整用ポンプセルのセル抵抗の傾きは、前記ヒータ部への投入パワーに対する、前記測定用ポンプセルのセル抵抗の傾きの1.5倍から1000倍であってもよい。当該構成では、前記ヒータ部への投入パワーに対する、前記調整用ポンプセルのセル抵抗の傾きは、前記ヒータ部への投入パワーに対する、前記測定用ポンプセルのセル抵抗の傾きの1.5倍から1000倍である。前述の通り、高濃度下での高精度な濃度測定と低濃度下での高精度な濃度測定とを両立するには、前記投入パワーに対する前記調整用ポンプセルのセル抵抗の傾きを、前記投入パワーに対する前記測定用ポンプセルのセル抵抗の傾きよりも大きくするのが望ましい。本件発明者は、実験により、前記投入パワーに対する前記調整用ポンプセルのセル抵抗の傾きを、前記投入パワーに対する前記測定用ポンプセルのセル抵抗の傾きの、1.5倍から1000倍とするのが望ましいことを確認した。したがって、上記第2の観点に係るガスセンサは、前記投入パワーに対するセル抵抗の傾きについて、前記調整用ポンプセルと前記測定用ポンプセルとが上述の関係を満たすことで、高濃度下でも低濃度下でも、高精度な濃度測定を実現することができる。
【0018】
第3の観点に係るガスセンサは、上記第1または上記第2の観点に係るガスセンサにおいて、前記測定電極の面積は、前記内側ポンプ電極の面積よりも大きくてもよい。当該構成では、前記測定電極の面積は、前記内側ポンプ電極の面積よりも大きい。前述の通り、高濃度下での高精度な濃度測定と低濃度下での高精度な濃度測定とを両立するには、前記投入パワーに対する前記調整用ポンプセルのセル抵抗の傾きを、前記投入パワーに対する前記測定用ポンプセルのセル抵抗の傾きよりも大きくするのが望ましい。本件発明者は、実験により、前記投入パワーに対する前記調整用ポンプセルのセル抵抗の傾きを、前記投入パワーに対する前記測定用ポンプセルのセル抵抗の傾きよりも大きくするのには、前記測定電極の面積を前記内側ポンプ電極の面積よりも大きくすることが有用であることを確認した。したがって、上記第3の観点に係るガスセンサは、前記測定電極の面積を前記内側ポンプ電極の面積よりも大きくすることで、高濃度下でも低濃度下でも、高精度な濃度測定を実現することができる。
【0019】
第4の観点に係るガスセンサは、上記第1または上記第2の観点に係るガスセンサにおいて、前記測定電極の厚みは、前記内側ポンプ電極の厚みよりも厚くてもよい。当該構成では、前記測定電極の厚みは、前記内側ポンプ電極の厚みよりも厚い。前述の通り、高濃度下での高精度な濃度測定と低濃度下での高精度な濃度測定とを両立するには、前記投入パワーに対する前記調整用ポンプセルのセル抵抗の傾きを、前記投入パワーに対する前記測定用ポンプセルのセル抵抗の傾きよりも大きくするのが望ましい。本件発明者は、実験により、前記投入パワーに対する前記調整用ポンプセルのセル抵抗の傾きを、前記投入パワーに対する前記測定用ポンプセルのセル抵抗の傾きよりも大きくするのには、前記測定電極の厚みを、前記内側ポンプ電極の厚みよりも厚くすることが有用であることを確認した。したがって、上記第4の観点に係るガスセンサは、前記測定電極の厚みを、前記内側ポンプ電極の厚みよりも厚くすることで、高濃度下でも低濃度下でも、高精度な濃度測定を実現することができる。
【0020】
第5の観点に係るガスセンサは、上記第1から上記第4の何れかの観点に係るガスセンサにおいて、前記測定電極の気孔率は、前記内側ポンプ電極の気孔率よりも低くてもよい。当該構成では、前記測定電極の気孔率は、前記内側ポンプ電極の気孔率よりも低い。前述の通り、高濃度下での高精度な濃度測定と低濃度下での高精度な濃度測定とを両立するには、前記投入パワーに対する前記調整用ポンプセルのセル抵抗の傾きを、前記投入パワーに対する前記測定用ポンプセルのセル抵抗の傾きよりも大きくするのが望ましい。本件発明者は、実験により、前記投入パワーに対する前記調整用ポンプセルのセル抵抗の傾きを、前記投入パワーに対する前記測定用ポンプセルのセル抵抗の傾きよりも大きくするのには、前記測定電極の気孔率を、前記内側ポンプ電極の気孔率よりも低くすることが有用であることを確認した。したがって、上記第5の観点に係るガスセンサは、前記測定電極の気孔率を、前記内側ポンプ電極の気孔率よりも低くすることで、高濃度下でも低濃度下でも、高精度な濃度測定を実現することができる。
【0021】
第6の観点に係るガスセンサは、上記第1から上記第5の何れかの観点に係るガスセンサにおいて、前記測定電極および前記内側ポンプ電極は、ジルコニアと貴金属とのサーメット電極であり、前記測定電極における、ジルコニアに対する貴金属の比率は、前記内側ポンプ電極における、ジルコニアに対する貴金属の比率よりも高くてもよい。当該構成では、前記測定電極および前記内側ポンプ電極は、ジルコニアと貴金属とのサーメット電極であり、ジルコニアに対する貴金属の比率は、前記測定電極の方が前記内側ポンプ電極よりも高い。前述の通り、高濃度下での高精度な濃度測定と低濃度下での高精度な濃度測定とを両立するには、前記投入パワーに対する前記調整用ポンプセルのセル抵抗の傾きを、前記投入パワーに対する前記測定用ポンプセルのセル抵抗の傾きよりも大きくするのが望ましい。本件発明者は、実験により、前記投入パワーに対する前記調整用ポンプセルのセル抵抗の傾きを、前記投入パワーに対する前記測定用ポンプセルのセル抵抗の傾きよりも大きくするのには、ジルコニアに対する貴金属の比率について、前記測定電極における比率を前記内側ポンプ電極における比率よりも高くすることが有用であることを確認した。したがって、上記第6の観点に係るガスセンサは、ジルコニアに対する貴金属の比率について、前記測定電極における比率を前記内側ポンプ電極における比率よりも高くすることで、高濃度下でも低濃度下でも、高精度な濃度測定を実現することができる。
【0022】
第7の観点に係るガスセンサは、上記第1から上記第6の何れかの観点に係るガスセンサにおいて、前記測定電極のAuの含有率は、前記内側ポンプ電極のAuの含有率よりも低くてもよい。当該構成では、前記測定電極のAuの含有率は、前記内側ポンプ電極のAuの含有率よりも低く、例えば、前記測定電極のAuの含有率は0%であってもよく、つまり、前記測定電極はAuを含んでいなくてもよい。前記測定電極がAuを含む場合であっても前記測定電極のAuの含有率は前記内側ポンプ電極のAuの含有率よりも低い。前述の通り、高濃度下での高精度な濃度測定と低濃度下での高精度な濃度測定とを両立するには、前記投入パワーに対する前記調整用ポンプセルのセル抵抗の傾きを、前記投入パワーに対する前記測定用ポンプセルのセル抵抗の傾きよりも大きくするのが望ましい。本件発明者は、実験により、前記投入パワーに対する前記調整用ポンプセルのセル抵抗の傾きを、前記投入パワーに対する前記測定用ポンプセルのセル抵抗の傾きよりも大きくするのには、前記測定電極を以下のように構成することが有用であることを確認した。すなわち、前記測定電極のAuの含有率を、前記内側ポンプ電極のAuの含有率よりも低くすることが有用であることを確認した。すなわち、前記内側ポンプ電極にはAuを含めるのに対して、前記測定電極にAuを含めないことが有用であることを確認した。また、前記測定電極がAuを含む場合であっても、前記測定電極のAuの含有率を、前記内側ポンプ電極のAuの含有率よりも低くすることが有用であることを確認した。したがって、上記第7の観点に係るガスセンサは、前記測定電極のAuの含有率を前記内側ポンプ電極のAuの含有率よりも低くすることで、高濃度下でも低濃度下でも、高精度な濃度測定を実現することができる。
【0023】
第8の観点に係るガスセンサは、上記第1から上記第7の何れかの観点に係るガスセンサにおいて、前記測定電極と前記外側ポンプ電極との間の距離は、前記内側ポンプ電極と前記外側ポンプ電極または前記第3電極との間の距離よりも小さくてもよい。当該構成では、前記測定電極と前記外側ポンプ電極との間の距離は、前記内側ポンプ電極と前記外側ポンプ電極または前記第3電極との間の距離よりも小さい。前述の通り、高濃度下での高精度な濃度測定と低濃度下での高精度な濃度測定とを両立するには、前記投入パワーに対する前記調整用ポンプセルのセル抵抗の傾きを、前記投入パワーに対する前記測定用ポンプセルのセル抵抗の傾きよりも大きくするのが望ましい。本件発明者は、実験により、前記投入パワーに対する前記調整用ポンプセルのセル抵抗の傾きを、前記投入パワーに対する前記測定用ポンプセルのセル抵抗の傾きよりも大きくするのには、前記測定電極と前記外側ポンプ電極との間の距離を、前記内側ポンプ電極と前記外側ポンプ電極または前記第3電極との間の距離よりも小さくすることが有用であることを確認した。したがって、上記第8の観点に係るガスセンサは、前記測定電極と前記外側ポンプ電極との間の距離を、前記内側ポンプ電極と前記外側ポンプ電極または前記第3電極との間の距離よりも小さくすることで、高濃度下でも低濃度下でも、高精度な濃度測定を実現することができる。
【0024】
なお、上記各観点に係るガスセンサの別の態様として、本発明の一側面は、以上の各構成の全部又はその一部を実現する情報処理方法であってもよいし、プログラムであってもよいし、このようなプログラムを記憶した、コンピュータその他装置、機械等が読み取り可能な記憶媒体であってもよい。ここで、コンピュータ等が読み取り可能な記憶媒体とは、プログラム等の情報を、電気的、磁気的、光学的、機械的、又は、化学的作用によって蓄積する媒体である。以上の各構成の全部又はその一部を実現する情報処理方法は、含む演算内容に応じて、例えば、ガスセンサの制御方法等と称されてよい。同様に、以上の各構成の全部又はその一部を実現するプログラムは、例えば、ガスセンサの制御プログラム等と称されてよい。
【0025】
例えば、第9の観点に係るガスセンサの制御方法は、酸素イオン伝導性の固体電解質層を複数積層してなるセンサ素子であって、被測定ガスが導入される内部空所と、前記内部空所に設けられてなる測定電極と、前記内部空所と異なる部位に設けられた外側ポンプ電極と、前記測定電極と前記外側ポンプ電極との間に存在する前記固体電解質層と、から構成される電気化学的ポンプセルである測定用ポンプセルと、前記内部空所に面して形成された内側ポンプ電極と、前記外側ポンプ電極または前記固体電解質層に接して外部空間に露出する態様にて設けられた第3電極と、前記内側ポンプ電極と前記外側ポンプ電極または前記第3電極との間に存在する前記固体電解質層と、から構成される電気化学的ポンプセルである調整用ポンプセルと、前記センサ素子の内部に埋設されてなり、前記センサ素子を所定の温度に加熱するヒータ部と、を含むセンサ素子を備えるガスセンサの制御方法であって、前記調整用ポンプセルのセル抵抗の値を検出する検出ステップと、前記検出ステップにて検出される前記調整用ポンプセルのセル抵抗の値が所定の値となるよう、前記所定の温度を調整する調整ステップと、を実行する、情報処理方法であり、前記ヒータ部への投入パワーに対する、前記調整用ポンプセルのセル抵抗の傾きは、前記ヒータ部への投入パワーに対する、前記測定用ポンプセルのセル抵抗の傾きよりも大きい。
【発明の効果】
【0026】
本発明によれば、被測定ガスにおける特定ガスの濃度が高い環境下での高精度な濃度測定と、濃度が低い環境下での高精度な濃度測定とを両立可能なガスセンサ素子を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【
図1】
図1は、センサ素子の長手方向に沿った垂直断面図を含む、ガスセンサの構成の一例を概略的に示す図である。
【
図2】
図2は、
図1のセンサが備えるコントローラの機能的構成の一例を示す図である。
【
図3】
図3は、
図1のセンサについて、ヒータ部への投入パワーに対する、主ポンプセルおよび測定用ポンプセルの各々のセル抵抗の傾き等を示す図である。
【
図4】
図4は、
図1のセンサの主ポンプセルと測定用ポンプセルとについて、電極の面積、厚み、気孔率、ジルコニアに対する貴金属の比率、Auの含有率、および、電極間距離の各々についての数値の一例を示す図である。
【
図5】
図5は、変形例に係るセンサの主ポンプセルと測定用ポンプセルとについて、電極の面積、厚み、気孔率、ジルコニアに対する貴金属の比率、Auの含有率、および、電極間距離の各々についての数値の一例を示す図である。
【
図6】
図6は、本件発明者が行なった実験の概要を整理して示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、本発明の一側面に係る実施の形態(以下、「本実施形態」とも表記する)を、図面に基づいて説明する。ただし、以下で説明する本実施形態は、あらゆる点において本発明の例示に過ぎない。本発明の範囲を逸脱することなく種々の改良や変形を行うことができることは言うまでもない。つまり、本発明の実施にあたって、実施形態に応じた具体的構成が適宜採用されてもよい。
【0029】
本実施形態に係るガスセンサは、センサ素子を所定の温度に加熱するヒータ部が内部に埋設されたセンサ素子によってNOxを検知し、その濃度を測定するセンサである。前記センサ素子は、電気化学的ポンプセルである調整用ポンプセルと、前記調整用ポンプセルにおいて被測定ガスに含まれる酸素がポンピング処理された後の被測定ガスが導入される、電気化学的ポンプセルである測定用ポンプセルとを備える。本実施形態に係るガスセンサは、前記調整用ポンプセルのセル抵抗の値を検出し、検出したセル抵抗の値が所定の値となるよう、前記所定の温度を調整する。そして、前記ヒータ部への投入パワーに対する、前記調整用ポンプセルのセル抵抗の傾きは、前記ヒータ部への投入パワーに対する、前記測定用ポンプセルのセル抵抗の傾きよりも大きい。
【0030】
本実施形態に係るガスセンサは、前記所定の温度を制御して、前記調整用ポンプセルのセル抵抗の値を所定の値にするため、前記調整用ポンプセルの反応に対する抵抗が増加することはなく、前記調整用ポンプセルに印加するポンプ電圧を大きくする必要もない。そのため、本実施形態に係るガスセンサは、「前記調整用ポンプセルに印加するポンプ電圧を大きくした結果、前記調整用ポンプセルで被測定ガス中のNOxが分解され、NOxの濃度の測定精度が悪化し、特に、NOxの濃度が高い場合に測定精度が悪化する」という事態を回避できる。また、投入パワーに対する前記調整用ポンプセルのセル抵抗の傾きは、(投入パワーに対する前記測定用ポンプセルのセル抵抗の傾きよりも)大きいので、小さな投入パワーで、前記調整用ポンプセルのセル抵抗の値が所定の値になるように制御することができる。さらに、投入パワーに対する前記調整用ポンプセルのセル抵抗の傾きは大きいため、前記調整用ポンプセルのセル抵抗の値が所定の値となるよう投入パワー(つまり、前記所定の温度)を変動させる際に、前記所定の温度の変動を小さくできる。前記所定の温度の変動を小さくすることで、オフセット値の変動を抑制することができ、被測定ガスにおけるNOxの濃度が低い場合であっても、高精度な濃度測定を実現することができる。
【0031】
以上に説明したように、本発明の一側面に係るガスセンサは、被測定ガスにおけるNOxの濃度が高い場合に測定精度が悪化するという事態を回避し、また、被測定ガスにおけるNOxの濃度が低い場合にも、高精度な濃度測定を実現することができる。つまり、本発明の一側面に係るガスセンサは、被測定ガスにおけるNOxの濃度が高い環境下での高精度な濃度測定と、濃度が低い環境下での高精度な濃度測定とを両立することができる。以下、これらの構成を有するガスセンサの一例を説明する。
【0032】
[構成例]
図1は、本実施形態に係るガスセンサ素子100の長手方向に沿った垂直断面図を含む、ガスセンサSの構成の一例を概略的に示す図である。ガスセンサSは、
図1に示すように、ガスセンサ素子100と、コントローラ110とを備える。ガスセンサ素子100は、例えば、長手方向(軸方向)に沿って延びる細長な長尺の板状体形状を呈し、また、例えば、直方体状に形成される。
図1に例示するガスセンサ素子100は、長手方向それぞれの端部として先端部及び後端部を有しており、以下の説明においては、先端部を
図1の左側の端部(つまり、前側の端部)とし、後端部を
図1の右側の端部(つまり、後側の端部)とする。しかしながら、ガスセンサ素子100の形状は、このような例に限定されなくてよく、実施の形態に応じて適宜選択されてよい。なお、以下の説明においては、
図1の紙面奥側をガスセンサ素子100の右側とし、紙面手前側をガスセンサ素子100の左側とする。また、コントローラ110は、機能的構成として、検出部111と、温度設定部112と、ヒータ制御部113とを備える。以下、ガスセンサ素子100およびコントローラ110について、各々の詳細を説明する。
【0033】
<ガスセンサ素子>
図1に例示するように、ガスセンサ素子100は、第1基板層1、第2基板層2、第3基板層3、第1固体電解質層4、スペーサ層5、及び第2固体電解質層6を下側から順に積層することで構成される積層体を備える。各層1-6は、ジルコニア(ZrO2)等の酸素イオン伝導性を有する固体電解質層により構成される。各層1-6を形成する固体電解質は、緻密質なものであってよい。緻密質は、気孔率が5%以下であることを指す。
【0034】
ガスセンサ素子100は、例えば、各層に対応するセラミックスグリーンシートに、所定の加工、配線パターンの印刷等の工程を実行した後にそれらを積層し、更に、焼成して一体化させることで製造される。一例として、ガスセンサ素子100は、複数のセラミックス層の積層体である。本実施形態では、第2固体電解質層6の上面が、ガスセンサ素子100の上面を構成し、第1基板層1の下面が、ガスセンサ素子100の下面を構成し、各層1~6の各側面が、ガスセンサ素子100の各側面を構成する。
【0035】
本実施形態では、ガスセンサ素子100の一先端部であって、第2固体電解質層6の下面62及び第1固体電解質層4の上面の間には、被測定ガスを外部の空間から受け入れるように構成される内部空間が設けられる。本実施形態に係る内部空間は、ガス導入口10、第1拡散律速部11、緩衝空間12、第2拡散律速部13、第1内部空所15、第3拡散律速部16、第2内部空所17、第4拡散律速部18、及び第3内部空所19が、この順に連通する態様にて隣接形成されるように構成される。すなわち、本実施形態に係る内部空間は、3室構造(第1内部空所15、第2内部空所17及び第3内部空所19)を有する。
【0036】
一例では、この内部空間は、スペーサ層5をくり抜いた態様にて設けられる。内部空間の上部は、第2固体電解質層6の下面62で区画される。内部空間の下部は、第1固体電解質層4の上面で区画される。内部空間の側部は、スペーサ層5の側面で区画される。
【0037】
第1拡散律速部11は、2本の横長の(図面に垂直な方向に開口が長辺方向を有する)スリットとして設けられる。また、第2拡散律速部13、第3拡散律速部16、及び第4拡散律速部18のそれぞれは、図面に垂直な方向に延びる長さが、第1内部空所15、第2内部空所17、及び第3内部空所19のそれぞれよりも短い孔として設けられる。
【0038】
図1に例示するように、第2拡散律速部13および第3拡散律速部16は、いずれも、第1拡散律速部11と同様に、2本の横長(図面に垂直な方向に開口が長辺方向を有する)のスリットとして設けられてもよい。これに対して、第4拡散律速部18は、第2固体電解質層6の下面との隙間として形成された1本の横長の(図面に垂直な方向に開口が長手方向を有する)スリットとして設けられてもよい。すなわち、第4拡散律速部18は、第1固体電解質層4の上面に接していてもよい。第2拡散律速部13、第3拡散律速部16、及び第4拡散律速部18のそれぞれについては、後ほど詳細に説明する。ガス導入口10から第3内部空所19に至る部位(内部空間)を被測定ガス流通部7と称する。
【0039】
被測定ガス流通部7よりも先端側(ガスセンサ素子100の前側)から遠い位置には、第3基板層3の上面及びスペーサ層5の下面の間であって、第1固体電解質層4の側面で側部を区画される位置に基準ガス導入空間43が設けられる。基準ガス導入空間43には、例えば、大気等の基準ガスが導入される。ただし、ガスセンサ素子100の構成は、このような例に限定されなくてよい。他の一例として、第1固体電解質層4は、ガスセンサ素子100の後端まで延びるように構成されてよく、基準ガス導入空間43は省略されてよい。この場合、大気導入層48が、ガスセンサ素子100の後端まで延びるように構成されてよい。
【0040】
基準ガス導入空間43に隣接する第3基板層3の上面の一部には、大気導入層48が設けられる。大気導入層48は、多孔質アルミナから成り、基準ガス導入空間43を介して基準ガスが導入されるように構成される。加えて、大気導入層48は、基準電極42を被覆するように形成されている。
【0041】
基準電極42は、第3基板層3の上面及び第1固体電解質層4の間に挟まれるように形成され、その周囲には、上記基準ガス導入空間43に接続する大気導入層48が設けられている。基準電極42は、第1内部空所15内及び第2内部空所17内の酸素濃度(酸素分圧)の測定に使用される。詳細は後述する。
【0042】
ガス導入口10は、被測定ガス流通部7において、外部空間に対して開口してなる部位である。ガスセンサ素子100は、当該ガス導入口10を通じて外部空間から内部に被測定ガスを取り込むように構成される。本実施形態では、
図1に例示されるとおり、ガス導入口10は、ガスセンサ素子100の先端面(前面)に配置される。つまり、被測定ガス流通部7は、ガスセンサ素子100の先端面において開口を有するように構成される。ただし、被測定ガス流通部7が、ガスセンサ素子100の先端面において開口を有するように構成されること、つまり、ガス導入口10をガスセンサ素子100の先端面に配置することは、必須ではない。ガスセンサ素子100は、外部空間から被測定ガス流通部7の内部に被測定ガスを取り込むことができればよく、ガス導入口10を、例えば、ガスセンサ素子100の右面に配置したり、左面に配置したりしてもよい。
【0043】
第1拡散律速部11は、ガス導入口10から取り込まれた被測定ガスに対して、所定の拡散抵抗を付与する部位である。
【0044】
緩衝空間12は、第1拡散律速部11より導入された被測定ガスを第2拡散律速部13へと導くために設けられた空間である。
【0045】
第2拡散律速部13は、緩衝空間12から第1内部空所15に導入される被測定ガスに対して、所定の拡散抵抗を付与する部位である。
【0046】
被測定ガスは、ガスセンサ素子100の外部空間から第1内部空所15内まで導入されるにあたり、外部空間における被測定ガスの圧力変動(被測定ガスが自動車の排気ガスの場合であれば排気圧の脈動)によって、ガス導入口10からガスセンサ素子100内部に急激に取り込まれる場合がある。この場合であっても、当該構成では、取り込まれる被測定ガスは、直接第1内部空所15へ導入されるのではなく、第1拡散律速部11、緩衝空間12、第2拡散律速部13を通じて被測定ガスの濃度変動が打ち消された後、第1内部空所15へ導入される。これにより、第1内部空所15へ導入される被測定ガスの濃度変動はほとんど無視できる程度のものとなる。
【0047】
第1内部空所15は、第2拡散律速部13を通じて導入された被測定ガス中の酸素分圧を調整するための空間として設けられている。係る酸素分圧は、主ポンプセル21が作動することによって調整される。
【0048】
主ポンプセル21は、内側ポンプ電極22、外側ポンプ電極23、及びこれらの電極に挟まれた第2固体電解質層6によって構成されてなる電気化学的ポンプセルである。内側ポンプ電極22は、第1内部空所15に隣接する(面する)第2固体電解質層6の下面62のほぼ全面に設けられる天井電極部22aを有する。外側ポンプ電極23は、第2固体電解質層6の上面63の天井電極部22aに対応する領域に外部空間に隣接する態様にて設けられる。主ポンプセル21は、「調整用ポンプセル」の一例である。
【0049】
内側ポンプ電極22は、第1内部空所15を区画する上下の固体電解質層(第2固体電解質層6及び第1固体電解質層4)、及び側壁を与えるスペーサ層5にまたがって形成されている。具体的には、第1内部空所15の天井面を与える第2固体電解質層6の下面62には天井電極部22aが形成され、また、底面を与える第1固体電解質層4の上面には底部電極部22bが形成される。そして、それら天井電極部22a及び底部電極部22bに接続するように、側部電極部(図示省略)が、第1内部空所15の両側壁部を構成するスペーサ層5の側壁面(内面)に形成されている。つまり、内側ポンプ電極22は、該側部電極部の配設部位においてトンネル形態の構造で配設されている。内側ポンプ電極22は、「内部空所(被測定ガス流通部7)に面して形成された内側ポンプ電極」の一例である。
【0050】
内側ポンプ電極22及び外側ポンプ電極23は、多孔質サーメット電極(例えば、Auを1%含むPt及びZrO2により構成されるサーメット電極)として形成される。なお、被測定ガスに接触する内側ポンプ電極22は、被測定ガス中の窒素酸化物(NOx)成分に対する還元能力を弱めた材料を用いて形成される。
【0051】
ガスセンサ素子100は、主ポンプセル21において、内側ポンプ電極22及び外側ポンプ電極23の間に所望のポンプ電圧Vp0を印加して、内側ポンプ電極22及び外側ポンプ電極23の間に正方向又は負方向にポンプ電流Ip0を流すことにより、第1内部空所15内の酸素を外部空間に汲み出し、又は外部空間の酸素を第1内部空所15に汲み入れ可能に構成される。
【0052】
また、第1内部空所15における雰囲気中の酸素濃度(酸素分圧)を検出するために、内側ポンプ電極22、第2固体電解質層6、スペーサ層5、第1固体電解質層4、第3基板層3、及び基準電極42により、主ポンプ制御用酸素分圧検出センサセル80(すなわち、電気化学的なセンサセル)が構成されている。
【0053】
ガスセンサ素子100は、主ポンプ制御用酸素分圧検出センサセル80における起電力V0を測定することで第1内部空所15内の酸素濃度(酸素分圧)を特定可能に構成される。更に、起電力V0が一定となるようにVp0をフィードバック制御することでポンプ電流Ip0が制御されている。これにより、第1内部空所15内の酸素濃度は所定の一定値に保つことができる。
【0054】
第3拡散律速部16は、第1内部空所15で主ポンプセル21の動作により酸素濃度(酸素分圧)が制御された被測定ガスに所定の拡散抵抗を付与して、該被測定ガスを第2内部空所17に導く部位である。
【0055】
第2内部空所17は、第3拡散律速部16を通じて導入された被測定ガス中の酸素分圧を更に調整するための空間として設けられている。係る酸素分圧は、補助ポンプセル50が作動することによって調整される。
【0056】
補助ポンプセル50は、補助ポンプ電極51、外側ポンプ電極23(外側ポンプ電極23に限られるものではなく、ガスセンサ素子100の外側の適当な電極であれば足りる)、及び第2固体電解質層6により構成される補助的な電気化学的ポンプセルである。補助ポンプ電極51は、第2内部空所17に面する第2固体電解質層6の下面の略全体に設けられた天井電極部51aを有する。補助ポンプセル50は、「調整用ポンプセル」の一例である。また、上述の「ガスセンサ素子100の外側の適当な電極」は、「固体電解質層に接して外部空間に露出する態様にて設けられた第3電極」の一例である。
【0057】
係る補助ポンプ電極51は、先の第1内部空所15内に設けられた内側ポンプ電極22と同様なトンネル形態の構造で、第2内部空所17内に配設されている。つまり、第2内部空所17の天井面を与える第2固体電解質層6の下面62に対して天井電極部51aが形成され、また、第2内部空所17の底面を与える第1固体電解質層4の上面には、底部電極部51bが形成される。そして、それらの天井電極部51aと底部電極部51bとを連結する側部電極部(図示省略)が、第2内部空所17の側壁を与えるスペーサ層5の両壁面にそれぞれ形成される。これにより、補助ポンプ電極51は、トンネル形態の構造を有している。補助ポンプ電極51は、「内部空所(被測定ガス流通部7)に面して形成された内側ポンプ電極」の一例である。
【0058】
なお、補助ポンプ電極51も、内側ポンプ電極22と同様に、被測定ガス中の窒素酸化物成分に対する還元能力を弱めた材料を用いて形成される。
【0059】
ガスセンサ素子100は、補助ポンプセル50において、補助ポンプ電極51及び外側ポンプ電極23の間に所望の電圧Vp1を印加することにより、第2内部空所17内の雰囲気中の酸素を外部空間に汲み出し、又は外部空間から第2内部空所17内に汲み入れ可能に構成される。
【0060】
また、第2内部空所17内における雰囲気中の酸素分圧を制御するために、補助ポンプ電極51、基準電極42、第2固体電解質層6、スペーサ層5、第1固体電解質層4、及び第3基板層3により、補助ポンプ制御用酸素分圧検出センサセル81(すなわち、電気化学的なセンサセル)が構成されている。
【0061】
なお、この補助ポンプ制御用酸素分圧検出センサセル81にて検出される起電力V1に基づいて電圧制御される可変電源52にて、補助ポンプセル50がポンピングを行う。これにより、第2内部空所17内の雰囲気中の酸素分圧は、NOxの測定に実質的に影響がない低い分圧にまで制御されるようになっている。
【0062】
また、これと共に、そのポンプ電流Ip1が、主ポンプ制御用酸素分圧検出センサセル80の起電力の制御に用いられるようになっている。具体的には、ポンプ電流Ip1は、制御信号として主ポンプ制御用酸素分圧検出センサセル80に入力され、その起電力V0が制御されることにより、第3拡散律速部16から第2内部空所17内に導入される被測定ガス中の酸素分圧の勾配が常に一定となるように制御されている。NOxセンサとして使用する際は、主ポンプセル21と補助ポンプセル50との働きによって、第2内部空所17内での酸素濃度は約0.001ppm程度の一定の値に保たれる。
【0063】
第4拡散律速部18は、第2内部空所17で補助ポンプセル50の動作により酸素濃度(酸素分圧)が制御された被測定ガスに所定の拡散抵抗を付与して、該被測定ガスを第3内部空所19に導く部位である。
【0064】
第3内部空所19は、第4拡散律速部18を通じて導入された被測定ガス中の窒素酸化物(NOx)濃度の測定に係る処理を行うための空間として設けられている。NOx濃度は、測定用ポンプセル41の動作により測定される。本実施形態では、第1内部空所15において酸素濃度(酸素分圧)が予め調整された後、第2内部空所17において、第3拡散律速部を通じて導入された被測定ガスに対して、補助ポンプセル50による酸素分圧の調整が更に行われる。これにより、第2内部空所17から第3内部空所19に導入される被測定ガスの酸素濃度を高精度に一定に保つことができる。そのため、本実施形態に係るガスセンサ素子100は、精度の高いNOx濃度の測定が可能となる。
【0065】
測定用ポンプセル41は、第3内部空所19内において、被測定ガス中の窒素酸化物濃度の測定を行う。測定用ポンプセル41は、測定電極44、外側ポンプ電極23、第2固体電解質層6、スペーサ層5、及び第1固体電解質層4により構成される電気化学的ポンプセルである。
図1の一例では、測定電極44は、第3内部空所19に隣接する(面する)第1固体電解質層4の上面に設けられる。
【0066】
測定電極44は、多孔質サーメット電極である。測定電極44は、第3内部空所19内の雰囲気中に存在するNO
xを還元するNO
x還元触媒としても機能する。
図1の一例では、測定電極44は、第3内部空所19内で露出している。他の一例では、測定電極44は、拡散律速部により被覆されていてよい。該拡散律速部は、アルミナ(Al
2O
3)を主成分とする多孔体の膜により構成されてよい。該拡散律速部は、測定電極44に流入するNO
xの量を制限する役割を担うと共に、測定電極44の保護膜としても作用する。
【0067】
ガスセンサ素子100は、測定用ポンプセル41において、測定電極44の周囲の雰囲気中における窒素酸化物の分解によって生じた酸素を汲み出して、その発生量をポンプ電流Ip2として検出可能に構成される。
【0068】
また、測定電極44の周囲の酸素分圧を検出するために、第2固体電解質層6、スペーサ層5、第1固体電解質層4、第3基板層3、測定電極44、及び基準電極42により、測定用ポンプ制御用酸素分圧検出センサセル82(すなわち、電気化学的なセンサセル)が構成されている。測定用ポンプ制御用酸素分圧検出センサセル82にて検出される電圧(起電力)V2に基づいて可変電源46が制御される。
【0069】
第3内部空所19内に導かれた被測定ガスは、酸素分圧が制御された状況下で測定電極44に到達することとなる。測定電極44の周囲の被測定ガス中の窒素酸化物は還元されて(2NO→N2+O2)酸素を発生する。そして、この発生した酸素は測定用ポンプセル41によってポンピングされることとなるが、その際、測定用ポンプ制御用酸素分圧検出センサセル82にて検出される制御電圧V2が一定となるように可変電源の電圧Vp2が制御される。測定電極44の周囲において発生する酸素の量は、被測定ガス中の窒素酸化物の濃度に比例するものであるから、測定用ポンプセル41におけるポンプ電流Ip2を用いて被測定ガス中の窒素酸化物濃度が算出されることとなる。
【0070】
また、測定電極44、第1固体電解質層4、第3基板層3、及び基準電極42を組み合わせて、電気化学的センサセルとして酸素分圧検出手段を構成するようにすることで、測定電極44の周りの雰囲気中のNOx成分の還元によって発生した酸素の量と基準大気に含まれる酸素の量との差に応じた起電力を検出することができる。これにより、被測定ガス中の窒素酸化物成分の濃度を求めることも可能である。
【0071】
また、第2固体電解質層6、スペーサ層5、第1固体電解質層4、第3基板層3、外側ポンプ電極23、及び基準電極42から電気化学的なセンサセル83が構成されている。ガスセンサ素子100は、このセンサセル83によって得られる起電力Vrefによりセンサ外部の被測定ガス中の酸素分圧を検出可能に構成されている。
【0072】
以上の構成を有するガスセンサ素子100において、主ポンプセル21及び補助ポンプセル50を作動させることにより、酸素分圧が常に一定の低い値(NOxの測定に実質的に影響がない値)に保たれた被測定ガスを測定用ポンプセル41に与えることができる。したがって、ガスセンサ素子100は、被測定ガス中の窒素酸化物の濃度に略比例して、NOxの還元によって発生する酸素が測定用ポンプセル41より汲み出されることで流れるポンプ電流Ip2に基づいて、被測定ガス中の窒素酸化物濃度を特定可能に構成されている。
【0073】
更に、ガスセンサ素子100は、固体電解質の酸素イオン伝導性を高めるために、ガスセンサ素子100を加熱して保温する温度調整の役割を担うヒータ70を備えている。ヒータ70は、ヒータ電極71(例えば、不図示の71a、71b、71c)と、ヒータエレメント72と、ヒータリード72a(例えば、不図示の72a1、72a2)と、スルーホール73と、ヒータ絶縁層74と、
図1においては図示を省略するヒータ抵抗検出リード76(
図2)とを、主として備えている。また、
図1の一例では、ヒータ70は、さらに、圧力放散孔75を備えている。
【0074】
ヒータ70は、ヒータ電極71を除いて、ガスセンサ素子100の基体部に埋設されてなる。本実施形態では、ヒータ70は、ガスセンサ素子100の厚み方向(鉛直方向/積層方向)において、ガスセンサ素子100の上面よりもガスセンサ素子100の下面に近い位置に配置されている。ただし、ヒータ70の配置は、このような例に限定されなくてよく、実施の形態に応じて適宜選択されてよい。
【0075】
ヒータ電極71は、第1基板層1の下面(ガスセンサ素子100の下面)に接する態様にて形成されてなる電極である。ヒータ電極71を外部電源と接続することにより、外部からヒータ70へ給電することができるようになっている。
【0076】
ヒータエレメント72は、第2基板層2及び第3基板層3に上下から挟まれた態様にて形成される電気抵抗体であり、つまり、第2基板層2と第3基板層3との間に設けられた抵抗発熱体である。ヒータエレメント72は、
図1においては図示を省略する、ガスセンサ素子100の外部に備わるヒータ電源77(
図2)から、通電経路であるヒータ電極71、スルーホール73、およびヒータリード72aを通じて給電されることにより、発熱し、ガスセンサ素子100を形成する固体電解質の加熱と保温を行う。ヒータエレメント72は、Ptにて、あるいはPtを主成分として、形成されてなる。ヒータエレメント72は、ガスセンサ素子100の被測定ガス流通部7が備わる側の所定範囲に、素子厚み方向において被測定ガス流通部7と対向するように埋設されている。ヒータエレメント72は、例えば、10μm~20μm程度の厚みを有するように設けられる。
【0077】
ヒータエレメント72の両端に接続された1対のヒータリード(例えば、不図示のヒータリード72a1とヒータリード72a2)は、略同一の形状を有するように、つまりは、両者の抵抗値が同じであるように、設けられる。ヒータリード72a1、72a2はそれぞれ、対応するスルーホール73を介して異なるヒータ電極71a、71b(不図示)と接続されている。
【0078】
さらに、ヒータエレメント72と一方のヒータリード72a2との接続部から引き出される態様にて、ヒータ抵抗検出リード76が設けられている。なお、ヒータ抵抗検出リード76の抵抗値は無視できるものとする。ヒータ抵抗検出リード76は、対応するスルーホール73を介してヒータ電極71c(不図示)と接続されている。
【0079】
また、ヒータエレメント72は、ガスセンサ素子100全体を上記固体電解質が活性化する温度に調整することが可能となっている。すなわち、ガスセンサ素子100においては、ヒータ電極71を通じてヒータエレメント72に電流を流すことにより、ヒータエレメント72を発熱させることで、ガスセンサ素子100の各部を所定の温度に加熱、保温することができるようになっている。具体的には、ガスセンサ素子100は、被測定ガス流通部7付近の固体電解質および電極の温度が、例えば、700℃~900℃程度(または、750℃~950℃)になるように加熱される。係る加熱によって、ガスセンサ素子100において基体部を構成する固体電解質の酸素イオン伝導性が高められる。なお、ガスセンサSが使用される際の(ガスセンサ素子100が駆動される際の)ヒータエレメント72による加熱温度を、センサ素子駆動温度と称することがある。
【0080】
ヒータエレメント72による発熱の程度は、ヒータエレメント72の抵抗値の大きさ(ヒータ抵抗)によって把握される。ヒータ抵抗検出リード76は、係るヒータ抵抗の測定のために、設けられてなる。
【0081】
ヒータ絶縁層74は、ヒータエレメント72を覆う態様にて形成されてなる絶縁層であり、例えば、ヒータエレメント72の上下面に、アルミナ等の絶縁体によって形成されてなる絶縁層である。ヒータ絶縁層74は、第2基板層2及びヒータエレメント72の間の電気的絶縁性、並びに第3基板層3及びヒータエレメント72の間の電気的絶縁性を得る目的で形成されている。ヒータ絶縁層74は、70μm~110μm程度の厚みにて、ガスセンサ素子100の先端面および側面から200μm~700μm程度離隔させた位置に設けられる。ただし、ヒータ絶縁層74の厚みは一定である必要はなく、ヒータエレメント72が存在する箇所としない箇所とで異なっていてもよい。
【0082】
圧力放散孔75は、第3基板層3を貫通し、基準ガス導入空間43に連通するように設けられてなる部位であり、ヒータ絶縁層74内の温度上昇に伴う内圧上昇を緩和する目的で形成されてなる。ただし、圧力放散孔75を設けることは必須ではなく、圧力放散孔75を設けなくてもよい。
【0083】
<コントローラ>
次に、コントローラ110の機能について詳細に説明する。コントローラ110は、ガスセンサSの各部の動作を制御するとともに、ガスセンサ素子100を流れるポンプ電流Ip2に基づいてNO
x濃度を特定し、また、ヒータ70によってガスセンサ素子100を「所定の温度(センサ素子駆動温度)」に加熱する。コントローラ110は、汎用のあるいは専用のコンピュータによって実現されるものであり、そのCPU、メモリなどにより実現される機能的構成要素として、
図1に例示するように、検出部111と、温度設定部112(調整部)と、ヒータ制御部113とを備える。なお、ガスセンサSが自動車のエンジンからの排気に含まれるNO
xを検知および測定の対象とし、ガスセンサ素子100が排気経路に取り付けられるものである場合、コントローラ110の一部あるいは全部の機能が、当該自動車に搭載されてなるECU(電子制御装置)により実現されてもよい。
【0084】
また、
図1等では、コントローラ110が備える機能ブロックとして、検出部111と、温度設定部112と、ヒータ制御部113とを挙げたが、コントローラ110は、これらの機能ブロック以外の機能ブロックを備えていてもよい。コントローラ110は、例えば、NO
xの検知、濃度演算、その他のための機能ブロックを備えていてもよい。具体的には、コントローラ110は、各ポンプセルの動作を制御する機能ブロック、NO
x濃度を演算する機能ブロック、コントローラ110の備える各部の動作を統括的に制御する機能ブロック等をさらに備えていてもよい。
【0085】
検出部111は、主ポンプセル21のセル抵抗(インピーダンス)の値を測定(検出)し、測定した主ポンプセル21のセル抵抗の値を温度設定部112に通知する。検出部111は、例えば、主ポンプセル21の内側ポンプ電極22と外側ポンプ電極23との間に交流を供給し、両者の間に発生する交流信号を、両者の間のインピーダンスに応じたレベルの電圧信号に変換してもよい。
【0086】
具体的には、検出部111は、主ポンプセル21の内側ポンプ電極22と外側ポンプ電極23との間に挿入接続され、かつ、内側ポンプ電極22と外側ポンプ電極23との間のインピーダンスを検出するインピーダンス検出回路であってもよい。検出部111は、内側ポンプ電極22と外側ポンプ電極23との間に交流を供給する交流発生回路と、両者の間への交流供給によって両者の間に発生するインピーダンスに応じたレベルの電圧信号を検出する信号検出回路とを備えていてもよい。検出部111の備える信号検出回路は、内側ポンプ電極22と外側ポンプ電極23との間に発生する交流信号を、内側ポンプ電極22と外側ポンプ電極23との間のインピーダンスに応じたレベルの電圧信号に変換するフィルタ回路(例えばローパスフィルタ、バンドパスフィルタなど)にて構成されてもよい。なお、検出部111は、セル抵抗を、以下のようにして検出してもよい。すなわち、例えば、検出部111は、大気中にてI-Vカーブを測定し、0~50mVの間で、電圧を5mV/sでスイープさせた時の電流値から、傾きを算出して、セル抵抗を求めてもよい。
【0087】
温度設定部112(調整部)は、ヒータ70によって加熱されることでガスセンサ素子100が至る「所定の温度(センサ素子駆動温度)」を設定する。特に、温度設定部112は、検出部111によって検出される「主ポンプセル21のセル抵抗の値」に基づいて、センサ素子駆動温度を設定する。具体的には、温度設定部112は、検出部111から「主ポンプセル21のセル抵抗の値」を通知されると、記憶部114を参照して、基準インピーダンス115を取得する。そして、温度設定部112は、取得した基準インピーダンス115と、検出部111から通知された主ポンプセル21のセル抵抗の値との差を算出する。基準インピーダンス115は、例えば、ガスセンサSにおいて主ポンプセル21が示すべきセル抵抗の値として、予め設定された値である。温度設定部112は、算出した「基準インピーダンス115と主ポンプセル21のセル抵抗の値との差」に基づいて、センサ素子駆動温度を設定する。具体的には、温度設定部112は、「基準インピーダンス115と主ポンプセル21のセル抵抗の値との差」が小さくなるように、センサ素子駆動温度を設定する。つまり、温度設定部112は、基準インピーダンス115と主ポンプセル21のセル抵抗の値とが等しくなるように、センサ素子駆動温度を設定する。
【0088】
例えば、主ポンプセル21のセル抵抗の値が基準インピーダンス115よりも小さいと、温度設定部112は、主ポンプセル21のセル抵抗の値を大きくして基準インピーダンス115と等しくなるよう、その時点までに設定していたセンサ素子駆動温度を下げる。温度設定部112は、主ポンプセル21のセル抵抗の値が基準インピーダンス115と等しくなるように下げた、新たなセンサ素子駆動温度を、ヒータ制御部113に通知する。
【0089】
例えば、主ポンプセル21のセル抵抗の値が基準インピーダンス115よりも大きいと、温度設定部112は、主ポンプセル21のセル抵抗の値を小さくして基準インピーダンス115と等しくなるよう、その時点までに設定していたセンサ素子駆動温度を上げる。温度設定部112は、主ポンプセル21のセル抵抗の値が基準インピーダンス115と等しくなるように上げた、新たなセンサ素子駆動温度を、ヒータ制御部113に通知する。
【0090】
ヒータ制御部113は、温度設定部112から通知されたセンサ素子駆動温度に基づいて、ヒータ70の動作を制御する。例えば、ヒータ制御部113は、ヒータ抵抗検出リード76とヒータリード72aとの間の抵抗値として得られるヒータ抵抗(ヒータエレメント72の抵抗)の値が、温度設定部112によって設定された所定の温度に応じた値となるよう、ヒータ電源77に印加されるヒータ電圧を制御する。これによって、ヒータ制御部113は、ヒータ70への給電を制御し、つまり、ヒータ70への投入パワーを制御する。ヒータエレメント72は係る態様にて制御されたヒータ抵抗に応じた発熱量にて発熱する。ヒータ制御部113が係るヒータ抵抗の値を「温度設定部112によって設定された所定の温度」に応じて制御することにより、ガスセンサ素子100は、ヒータ70によって加熱され、「温度設定部112によって設定された所定の温度」に至る。ヒータ70への投入パワーとは、ヒータ70へ印加する電圧(つまり、ヒータ間へ印加する電圧)と、ヒータ70に流れる電流(つまり、ヒータ間に流れる電流)との積をいう。
【0091】
<補助ポンプセルのインピーダンス一定制御>
図2は、ガスセンサSにおけるインピーダンス一定制御の概要を示す図である。インピーダンス一定制御は、補助ポンプセル(例えば、
図2に示す例では、主ポンプセル21)のセル抵抗(インピーダンス)を一定に保つ制御(処理)である。
図2に例示するように、インピーダンス一定制御においては、先ず、検出部111が、主ポンプセル21のセル抵抗(インピーダンス)の値を測定(検出)し、例えば、内側ポンプ電極22と外側ポンプ電極23との間のインピーダンスを検出する(検出ステップ)。検出部111は、検出した「主ポンプセル21のセル抵抗の値」を、温度設定部112に通知する。
【0092】
温度設定部112は、検出部111から通知された「主ポンプセル21のセル抵抗の値」に基づいて、ヒータ70によって加熱されることでガスセンサ素子100が至る「所定の温度」を、つまり、センサ素子駆動温度を、設定する。特に、温度設定部112は、基準インピーダンス115と主ポンプセル21のセル抵抗の値とが等しくなるように、センサ素子駆動温度を設定する(調整ステップ)。
【0093】
なお、検出部111によって検出された主ポンプセル21のセル抵抗の値が、基準インピーダンス115に等しい場合、温度設定部112は、その時点で設定しているセンサ素子駆動温度と同じ温度のセンサ素子駆動温度を設定してもよい。温度設定部112は、設定したセンサ素子駆動温度を、ヒータ制御部113に通知する。
【0094】
ヒータ制御部113は、温度設定部112から通知されたセンサ素子駆動温度に基づいて、ヒータ70の動作を制御する。例えば、ヒータ制御部113は、ヒータ抵抗(ヒータエレメント72の抵抗)の値が、温度設定部112から通知されたセンサ素子駆動温度に応じた値となるよう、ヒータ電源77に印加されるヒータ電圧を制御する。ヒータ制御部113によって、ヒータ電源77からヒータ70への投入パワー(給電)は制御され、ヒータ70は、ガスセンサ素子100の温度が温度設定部112によって設定されたセンサ素子駆動温度になるよう、ガスセンサ素子100を加熱する。
【0095】
なお、これまで検出部111によってセル抵抗(インピーダンス)の値が検出される調整用ポンプセルが、主ポンプセル21である例について説明したが、検出部111によってセル抵抗の値が検出される調整用ポンプセルは、補助ポンプセル50であってもよい。すなわち、検出部111は、調整用ポンプセルのセル抵抗(インピーダンス)の値として、補助ポンプセル50のセル抵抗の値を測定(検出)し、測定した補助ポンプセル50のセル抵抗の値を温度設定部112に通知してもよい。検出部111は、例えば、補助ポンプセル50の補助ポンプ電極51と外側ポンプ電極23(または第3電極)との間に交流を供給し、両者の間に発生する交流信号を、両者の間のインピーダンスに応じたレベルの電圧信号に変換してもよい。具体的には、検出部111は、補助ポンプセル50の補助ポンプ電極51と外側ポンプ電極23との間に挿入接続され、かつ、補助ポンプ電極51と外側ポンプ電極23との間のインピーダンスを検出するインピーダンス検出回路であってもよい。検出部111によって補助ポンプセル50のセル抵抗の値を検出する方法は、検出部111によって主ポンプセル21のセル抵抗の値を検出する方法と同様であるから、詳細は略記する。
【0096】
同様に、温度設定部112によってセンサ素子駆動温度が調整(制御)されることで、セル抵抗の値が基準インピーダンス115と等しくなる調整用ポンプセルは、補助ポンプセル50であってもよい。すなわち、温度設定部112は、基準インピーダンス115と補助ポンプセル50のセル抵抗の値とが等しくなるように、センサ素子駆動温度を設定してもよい。この場合、基準インピーダンス115は、例えば、ガスセンサSにおいて補助ポンプセル50が示すべきセル抵抗の値として、予め設定された値である。
【0097】
さらに、検出部111は、調整用ポンプセルのセル抵抗(インピーダンス)の値として、主ポンプセル21および補助ポンプセル50の各々のセル抵抗の値を測定(検出)してもよい。その場合、検出部111は、測定した主ポンプセル21および補助ポンプセル50の各々のセル抵抗の値を温度設定部112に通知する。そして、温度設定部112は、「ガスセンサSにおいて主ポンプセル21が示すべきセル抵抗の値として、予め設定された基準インピーダンス115」と主ポンプセル21のセル抵抗の値とが等しくなるように、かつ、「ガスセンサSにおいて補助ポンプセル50が示すべきセル抵抗の値として、予め設定された基準インピーダンス115」と補助ポンプセル50のセル抵抗の値とが等しくなるように、センサ素子駆動温度を設定してもよい。
【0098】
すなわち、ガスセンサSにおいては、調整用ポンプセルのセル抵抗の値として、主ポンプセル21および補助ポンプセル50の少なくとも一方のセル抵抗の値が検出される。そして、検出された調整用ポンプセルのセル抵抗の値が、「ガスセンサSにおいて調整用ポンプセルが示すべきセル抵抗の値として、予め設定された基準インピーダンス115」に等しくなるように、センサ素子駆動温度が設定される。
【0099】
<投入パワーに対する、測定用ポンプセルおよび調整用ポンプセルのセル抵抗の傾き>
図3は、ガスセンサSについて、ヒータ70への投入パワー(給電)に対する、測定用ポンプセル41および主ポンプセル21の各々のセル抵抗の傾き等のイメージについて、一例を示す図である。なお、「ヒータ70への投入パワーに対する、セル抵抗の傾き」は、例えば、「大気中での、ヒータ70への投入パワーに対する、セル抵抗の傾き」である。
【0100】
図3に例示するように、ガスセンサSにおいて、ヒータ70への投入パワー[W]に対する測定用ポンプセル41のセル抵抗(インピーダンス)[ohm]の傾きは、ヒータ70への投入パワーが「11.5」から「13.5」までの範囲において、「10[ohm/W]」程度である。すなわち、ヒータ70への投入パワーに対する、測定電極44と外側ポンプ電極23との間のインピーダンスは、投入パワーが「11.5」から「13.5」までの範囲において、約「10[ohm/W]」である。
【0101】
これに対して、ガスセンサSにおいて、ヒータ70への投入パワー[W]に対する主ポンプセル21のセル抵抗(インピーダンス)[ohm]の傾きは、ヒータ70への投入パワーが「11.5」から「13.5」までの範囲において、「600[ohm/W]」程度である。すなわち、ヒータ70への投入パワーに対する、内側ポンプ電極22と外側ポンプ電極23との間のインピーダンスは、投入パワーが「11.5」から「13.5」までの範囲において、約「600[ohm/W]」である。
【0102】
そのため、ガスセンサSにおいて、ヒータ70への投入パワーに対する主ポンプセル21のセル抵抗の傾きは、ヒータ70への投入パワーに対する測定用ポンプセル41のセル抵抗の傾きよりも大きい。
【0103】
前述の通り、ガスセンサSにおいて、検出部111により検出される主ポンプセル21(調整用ポンプセル)のセル抵抗の値が所定の値(基準インピーダンス115)となるよう、センサ素子駆動温度は調整され、つまり、センサ素子駆動温度は制御される。また、ヒータ70への投入パワーに対する、主ポンプセル21のセル抵抗の傾きは、ヒータ70への投入パワーに対する、測定用ポンプセル41のセル抵抗の傾きよりも大きい。つまり、この構成において、ヒータ70への投入パワーに対するセル抵抗の傾きは、主ポンプセル21の傾きの方が、測定用ポンプセル41の傾きよりも大きい。
【0104】
センサ素子駆動温度を制御して、主ポンプセル21のセル抵抗の値を所定の値にすることによって、以下の効果を奏する。すなわち、主ポンプセル21のセル抵抗の値は所定の値に保たれるため、主ポンプセル21の反応に対する抵抗が増加することはなく、主ポンプセル21に印加するポンプ電圧を大きくする必要もない。そのため、「主ポンプセル21に印加するポンプ電圧(ポンプ電圧Vp0)を大きくした結果、主ポンプセル21で被測定ガス中のNOxが分解され、NOxの濃度の測定精度が悪化し、特に、NOxの濃度が高い場合に測定精度が悪化する」という事態を回避することができる。
【0105】
また、ヒータ70への投入パワーに対するセル抵抗の傾きについて、主ポンプセル21の傾きは、(測定用ポンプセル41の傾きよりも)大きいので、小さな投入パワーによって、主ポンプセル21のセル抵抗の値が所定の値になるよう、制御することができる。
【0106】
さらに、ヒータ70への投入パワーに対する主ポンプセル21のセル抵抗の傾きは大きいため、主ポンプセル21のセル抵抗の値が所定の値となるよう投入パワー(つまり、センサ素子駆動温度)を変動させる際に、センサ素子駆動温度の変動を小さくすることができる。センサ素子駆動温度の変動を小さくすることで、オフセット値の変動を抑制することができ、被測定ガスにおけるNOxの濃度が低い場合であっても、高精度な濃度測定を実現することができる。
【0107】
以上に説明したように、ガスセンサSは、被測定ガスにおけるNOxの濃度が高い場合に測定精度が悪化する事態を回避し、また、被測定ガスにおけるNOxの濃度が低い場合にも、高精度な濃度測定を実現することができる。つまり、ガスセンサSは、被測定ガスにおけるNOxの濃度が高い環境下での高精度な濃度測定と、濃度が低い環境下での高精度な濃度測定とを両立することができる。
【0108】
なお、測定用ポンプセル41のセル抵抗の値は、例えば、以下のインピーダンス検出回路を用いて測定されてもよい。すなわち、測定用ポンプセル41の測定電極44と外側ポンプ電極23との間に挿入接続され、かつ、測定電極44と外側ポンプ電極23との間のインピーダンスを検出するインピーダンス検出回路を用いて、測定用ポンプセル41のセル抵抗の値を測定してもよい。このようなインピーダンス検出回路は、測定電極44と外側ポンプ電極23との間に交流を供給する交流発生回路と、両者の間への交流供給によって両者の間に発生するインピーダンスに応じたレベルの電圧信号を検出する信号検出回路とを備えていてもよい。このような信号検出回路は、測定電極44と外側ポンプ電極23との間に発生する交流信号を、測定電極44と外側ポンプ電極23との間のインピーダンスに応じたレベルの電圧信号に変換するフィルタ回路(例えばローパスフィルタ、バンドパスフィルタなど)にて構成することができる。
【0109】
これまでヒータ70への投入パワーに対するセル抵抗(インピーダンス)の傾きが測定用ポンプセル41よりも大きい調整用ポンプセルとして、調整用ポンプセルが主ポンプセル21である例を説明してきた。しかしながら、測定用ポンプセル41よりも大きなセル抵抗の傾き(ヒータ70への投入パワーに対するセル抵抗の傾き)を示す調整用ポンプセルは、補助ポンプセル50であってもよい。すなわち、ヒータ70への投入パワーに対する補助ポンプセル50のセル抵抗の傾きが、ヒータ70への投入パワーに対する測定用ポンプセル41のセル抵抗の傾きよりも大きくてもよい。
【0110】
また、ヒータ70への投入パワーに対するセル抵抗(インピーダンス)の傾きについて、主ポンプセル21および補助ポンプセル50のいずれもが、測定用ポンプセル41よりも大きくてもよい。すなわち、ヒータ70への投入パワーに対する主ポンプセル21のセル抵抗の傾きも、ヒータ70への投入パワーに対する補助ポンプセル50のセル抵抗の傾きも、共に、ヒータ70への投入パワーに対する測定用ポンプセル41のセル抵抗の傾きよりも大きくてもよい。
【0111】
ガスセンサSにおいては、主ポンプセル21および補助ポンプセル50の少なくとも一方のセル抵抗の傾き(ヒータ70への投入パワーに対するセル抵抗の傾き)が、測定用ポンプセル41のセル抵抗の傾きよりも大きければよい。
【0112】
<測定用ポンプセルのセル抵抗の傾きと調整用ポンプセルのセル抵抗の傾きとの比率>
上述の通り、ガスセンサSにおいて、ヒータ70への投入パワー[W]に対する測定用ポンプセル41のセル抵抗[ohm]の傾きは、ヒータ70への投入パワーが「11.5」から「13.5」までの範囲において、約「10[ohm/W]」である。また、ヒータ70への投入パワー[W]に対する主ポンプセル21のセル抵抗[ohm]の傾きは、ヒータ70への投入パワーが「11.5」から「13.5」までの範囲において、約「600[ohm/W]」である。
【0113】
したがって、ガスセンサSにおいて、ヒータ70への投入パワーに対する主ポンプセル21のセル抵抗の傾きは、ヒータ70への投入パワーに対する測定用ポンプセル41のセル抵抗の傾きの約「60」倍となっている。つまり、ガスセンサSにおいて、ヒータ70への投入パワーに対する、主ポンプセル21のセル抵抗の傾きは、ヒータ70への投入パワーに対する、測定用ポンプセル41のセル抵抗の傾きの1.5倍から1000倍の値となっている。
【0114】
前述の通り、被測定ガスにおけるNOxの濃度が高い環境下での高精度な濃度測定と濃度が低い環境下での高精度な濃度測定とを両立するには、ヒータ70への投入パワーに対する調整用ポンプセル(例えば、主ポンプセル21)のセル抵抗の傾きを、投入パワーに対する測定用ポンプセル41のセル抵抗の傾きよりも大きくするのが望ましい。特に、本件発明者は、実験により、ヒータ70への投入パワーに対する調整用ポンプセルのセル抵抗の傾きを、ヒータ70への投入パワーに対する測定用ポンプセル41のセル抵抗の傾きの、1.5倍から1000倍とするのが望ましいことを確認した。例えば、ヒータ70への投入パワーに対する主ポンプセル21のセル抵抗の傾きを、ヒータ70への投入パワーに対する測定用ポンプセル41のセル抵抗の傾きの、1.5倍から1000倍とするのが望ましいことを確認した。
【0115】
前述の通り、ガスセンサSにおいて、ヒータ70への投入パワーに対する主ポンプセル21のセル抵抗の傾きは、ヒータ70への投入パワーに対する測定用ポンプセル41のセル抵抗の傾きの約「60」倍となっている。したがって、ガスセンサSは、主ポンプセル21のセル抵抗の傾きは、ヒータ70への投入パワーに対する、測定用ポンプセル41のセル抵抗の傾きの1.5倍から1000倍の値となっており、高濃度下でも低濃度下でも、高精度な濃度測定を実現することができる。
【0116】
なお、これまで『「測定用ポンプセル41のセル抵抗の傾き(ヒータ70への投入パワーに対するセル抵抗の傾き)」の1.5倍から1000倍の値のセル抵抗の傾きを示す』調整用ポンプセルとして、調整用ポンプセルが主ポンプセル21である例を説明してきた。しかしながら、『「測定用ポンプセル41のセル抵抗の傾き」の1.5倍から1000倍の値のセル抵抗の傾きを示す』調整用ポンプセルは、補助ポンプセル50であってもよい。すなわち、ヒータ70への投入パワーに対する補助ポンプセル50のセル抵抗の傾きが、ヒータ70への投入パワーに対する測定用ポンプセル41のセル抵抗の傾きの、1.5倍から1000倍であってもよい。
【0117】
また、主ポンプセル21および補助ポンプセル50のいずれのセル抵抗の傾き(ヒータ70への投入パワーに対するセル抵抗の傾き)も、測定用ポンプセル41のセル抵抗の傾きの、1.5倍から1000倍であってもよい。すなわち、ヒータ70への投入パワーに対する主ポンプセル21のセル抵抗の傾きの値も、ヒータ70への投入パワーに対する補助ポンプセル50のセル抵抗の傾きの値も、共に、ヒータ70への投入パワーに対する測定用ポンプセル41のセル抵抗の傾きの、1.5倍から1000倍の値であってもよい。
【0118】
ガスセンサSにおいては、主ポンプセル21および補助ポンプセル50の少なくとも一方のセル抵抗の傾き(ヒータ70への投入パワーに対するセル抵抗の傾き)が、測定用ポンプセル41のセル抵抗の傾きの、1.5倍から1000倍の値であればよい。
<測定用ポンプセルおよび調整用ポンプセルに係る各種パラメータ>
図4は、ガスセンサSについて、測定用ポンプセル41および主ポンプセル21について、電極の面積、厚み、気孔率、ジルコニアに対する貴金属の比率、Auの含有率、および、電極間距離の各々についての数値の一例を示す図である。
【0119】
(電極の面積について)
図4に例示するように、ガスセンサSにおいて、主ポンプセル21の電極面積、すなわち、内側ポンプ電極22の(特に、被測定ガスに晒される面の)面積[mm
2]は、「1.5」である。これに対して、測定用ポンプセル41の電極面積、すなわち、測定電極44の(特に、被測定ガスに晒される面の)面積[mm
2]は、「7.5」である。そのため、ガスセンサSにおいて、測定電極44の(被測定ガスに晒される面の)面積は、内側ポンプ電極22の(被測定ガスに晒される面の)面積より大きい。
【0120】
前述の通り、被測定ガスにおけるNOxの濃度が高い環境下での高精度な濃度測定と濃度が低い環境下での高精度な濃度測定とを両立するには、ヒータ70への投入パワーに対する調整用ポンプセル(例えば、主ポンプセル21)のセル抵抗の傾きを、投入パワーに対する測定用ポンプセル41のセル抵抗の傾きよりも大きくするのが望ましい。本件発明者は、実験により、ヒータ70への投入パワーに対する主ポンプセル21のセル抵抗の傾きを、投入パワーに対する測定用ポンプセル41のセル抵抗の傾きよりも大きくするのには、測定電極44の面積を内側ポンプ電極22の面積よりも大きくすることが有用であることを確認した。したがって、ガスセンサSは、測定電極44の面積が内側ポンプ電極22の面積よりも大きいので、高濃度下でも低濃度下でも、高精度な濃度測定を実現することができる。
【0121】
(電極の厚みについて)
図4に例示するように、ガスセンサSにおいて、主ポンプセル21の電極の厚み、すなわち、内側ポンプ電極22の厚み[μm]は、「15」である。これに対して、測定用ポンプセル41の電極の厚み、すなわち、測定電極44の厚み[μm]は、「25」である。そのため、ガスセンサSにおいて、測定電極44の厚みは、内側ポンプ電極22の厚みより厚い。
【0122】
前述の通り、被測定ガスにおけるNOxの濃度が高い環境下での高精度な濃度測定と濃度が低い環境下での高精度な濃度測定とを両立するには、ヒータ70への投入パワーに対する調整用ポンプセル(例えば、主ポンプセル21)のセル抵抗の傾きを、投入パワーに対する測定用ポンプセル41のセル抵抗の傾きよりも大きくするのが望ましい。本件発明者は、実験により、ヒータ70への投入パワーに対する主ポンプセル21のセル抵抗の傾きを、投入パワーに対する測定用ポンプセル41のセル抵抗の傾きよりも大きくするのには、測定電極44の厚みを、内側ポンプ電極22の厚みよりも厚くすることが有用であることを確認した。したがって、ガスセンサSは、測定電極44の厚みが内側ポンプ電極22の厚みよりも厚いので、高濃度下でも低濃度下でも、高精度な濃度測定を実現することができる。
【0123】
(電極の気孔率について)
図4に例示するように、ガスセンサSにおいて、主ポンプセル21の電極の気孔率、すなわち、内側ポンプ電極22の気孔率[%]は、「10」である。これに対して、測定用ポンプセル41の電極の気孔率、すなわち、測定電極44の気孔率[%]は、「5」である。そのため、ガスセンサSにおいて、測定電極44の気孔率は、内側ポンプ電極22の気孔率より低い。
【0124】
前述の通り、被測定ガスにおけるNOxの濃度が高い環境下での高精度な濃度測定と濃度が低い環境下での高精度な濃度測定とを両立するには、ヒータ70への投入パワーに対する調整用ポンプセル(例えば、主ポンプセル21)のセル抵抗の傾きを、投入パワーに対する測定用ポンプセル41のセル抵抗の傾きよりも大きくするのが望ましい。本件発明者は、実験により、ヒータ70への投入パワーに対する主ポンプセル21のセル抵抗の傾きを、投入パワーに対する測定用ポンプセル41のセル抵抗の傾きよりも大きくするのには、測定電極44の気孔率を、内側ポンプ電極22の気孔率よりも低くすることが有用であることを確認した。したがって、ガスセンサSは、測定電極44の気孔率が内側ポンプ電極22の気孔率より低いので、高濃度下でも低濃度下でも、高精度な濃度測定を実現することができる。
【0125】
なお、ガスセンサSにおける内側ポンプ電極22、測定電極44、および、補助ポンプ電極51等の気孔率は、内側ポンプ電極22、測定電極44、および、補助ポンプ電極51等を走査型電子顕微鏡(SEM)にて観察して得たSEM画像を解析して測定した値である。
【0126】
(電極における貴金属とジルコニアとの比について)
ガスセンサSにおいて、内側ポンプ電極22および測定電極44は、共に、ジルコニアと貴金属とのサーメット電極である。
図4に例示するように、ガスセンサSにおいて、主ポンプセル21の電極における貴金属とジルコニアとの比は、すなわち、内側ポンプ電極22における貴金属とジルコニアとの比は、「(貴金属)85対(ジルコニア)15」である。これに対して、測定用ポンプセル41の電極における貴金属とジルコニアとの比は、すなわち、測定電極44における貴金属とジルコニアとの比は、「(貴金属)85対(ジルコニア)15」である。そのため、ガスセンサSにおいて、測定電極44における、ジルコニアに対する貴金属の比率は、内側ポンプ電極22における、ジルコニアに対する貴金属の比率と同じである。
【0127】
前述の通り、被測定ガスにおけるNOxの濃度が高い環境下での高精度な濃度測定と濃度が低い環境下での高精度な濃度測定とを両立するには、ヒータ70への投入パワーに対する調整用ポンプセル(例えば、主ポンプセル21)のセル抵抗の傾きを、投入パワーに対する測定用ポンプセル41のセル抵抗の傾きよりも大きくするのが望ましい。本件発明者は、実験により、ヒータ70への投入パワーに対する主ポンプセル21のセル抵抗の傾きを、投入パワーに対する測定用ポンプセル41のセル抵抗の傾きよりも大きくするのには、ジルコニアに対する貴金属の比率について、測定電極44における比率を内側ポンプ電極22における比率よりも高くすることが有用であることを確認した。したがって、ガスセンサSは、ジルコニアに対する貴金属の比率について、測定電極44における比率を内側ポンプ電極22における比率より高くした場合、高濃度下でも低濃度下でも、高精度な濃度測定を実現することができる。
【0128】
(電極のAu含有率について)
図4に例示するように、ガスセンサSにおいて、主ポンプセル21の電極のAuの含有率、すなわち、内側ポンプ電極22のAuの含有率[wt%]は、「0」である。これに対して、測定用ポンプセル41の電極のAuの含有率、すなわち、測定電極44のAuの含有率[wt%]は、「0」である。そのため、ガスセンサSにおいて、測定電極44のAuの含有率は、内側ポンプ電極22のAuの含有率と同じである。
【0129】
前述の通り、被測定ガスにおけるNOxの濃度が高い環境下での高精度な濃度測定と濃度が低い環境下での高精度な濃度測定とを両立するには、ヒータ70への投入パワーに対する調整用ポンプセル(例えば、主ポンプセル21)のセル抵抗の傾きを、投入パワーに対する測定用ポンプセル41のセル抵抗の傾きよりも大きくするのが望ましい。本件発明者は、実験により、ヒータ70への投入パワーに対する主ポンプセル21のセル抵抗の傾きを、投入パワーに対する測定用ポンプセル41のセル抵抗の傾きよりも大きくするのには、測定電極44を以下のように構成することが有用であることを確認した。すなわち、測定電極44のAuの含有率を、内側ポンプ電極22のAuの含有率よりも低くすることが有用であることを確認した。すなわち、内側ポンプ電極22にはAuを含めるのに対して、測定電極44にAuを含めないことが有用であることを確認した。また、測定電極44がAuを含む場合であっても、測定電極44のAuの含有率を、内側ポンプ電極22のAuの含有率よりも低くすることが有用であることを確認した。したがって、ガスセンサSは、測定電極44のAuの含有率を、内側ポンプ電極22のAuの含有率より低くした場合、高濃度下でも低濃度下でも、高精度な濃度測定を実現することができる。
【0130】
(電極間距離について)
図4に例示するように、ガスセンサSにおいて、主ポンプセル21の電極間距離、すなわち、内側ポンプ電極22と外側ポンプ電極23との間の距離[μm]は、「0.4」である。これに対して、測定用ポンプセル41の電極間距離、すなわち、測定電極44と外側ポンプ電極23との間の距離[μm]は、「0.2」である。そのため、ガスセンサSにおいて、測定用ポンプセル41の電極間距離(測定電極44と外側ポンプ電極23との間の距離)は、主ポンプセル21の電極間距離(内側ポンプ電極22と外側ポンプ電極23との間の距離)よりも小さい(短い)。
【0131】
前述の通り、被測定ガスにおけるNOxの濃度が高い環境下での高精度な濃度測定と濃度が低い環境下での高精度な濃度測定とを両立するには、ヒータ70への投入パワーに対する調整用ポンプセル(例えば、主ポンプセル21)のセル抵抗の傾きを、投入パワーに対する測定用ポンプセル41のセル抵抗の傾きよりも大きくするのが望ましい。本件発明者は、実験により、ヒータ70への投入パワーに対する主ポンプセル21のセル抵抗の傾きを、投入パワーに対する測定用ポンプセル41のセル抵抗の傾きよりも大きくするのには、測定用ポンプセル41の電極間距離を、主ポンプセル21の電極間距離よりも小さく(短く)することが有用であることを確認した。したがって、ガスセンサSは、測定用ポンプセル41の電極間距離が主ポンプセル21の電極間距離より小さいので、高濃度下でも低濃度下でも、高精度な濃度測定を実現することができる。
【0132】
[特徴]
以上のとおり、本実施形態に係るガスセンサSは、ガスセンサ素子100と、検出部111と、温度設定部112とを備えている。ガスセンサ素子100は、酸素イオン伝導性の6層の固体電解質層により構成されるセンサ素子である。ガスセンサ素子100は、被測定ガスが導入される内部空間(被測定ガス流通部7)と、測定用ポンプセル41と、ヒータ70(ヒータ部)とを含み、さらに、調整用ポンプセルとして、主ポンプセル21および補助ポンプセル50の少なくとも一方を含む。測定用ポンプセル41は、被測定ガス流通部7に設けられてなる測定電極44と、被測定ガス流通部7と異なる部位に設けられた外側ポンプ電極23と、測定電極44と外側ポンプ電極23との間に存在する固体電解質層(第2固体電解質層6、スペーサ層5、及び第1固体電解質層4)と、から構成される電気化学的ポンプセルである。ヒータ70は、ガスセンサ素子100の内部に埋設されてなり、ガスセンサ素子100を所定の温度(センサ素子駆動温度)に加熱する。
【0133】
ガスセンサ素子100の備える調整用ポンプセルは、ガスセンサ素子100の内部空間(すなわち、被測定ガス流通部7)に面して形成された内側ポンプ電極(内側ポンプ電極22または補助ポンプ電極51)と、外側ポンプ電極23または固体電解質層1-6の少なくとも1つに接して外部空間に露出する態様にて設けられた第3電極と、前記内側ポンプ電極と外側ポンプ電極23または前記第3電極との間に存在する固体電解質層と、から構成される電気化学的ポンプセルである。
【0134】
具体的には、主ポンプセル21は、被測定ガス流通部7に面して形成された内側ポンプ電極22と、外側ポンプ電極23と、内側ポンプ電極22と外側ポンプ電極23とに挟まれた第2固体電解質層6によって構成されてなる電気化学的ポンプセルである。補助ポンプセル50は、補助ポンプ電極51と、外側ポンプ電極23(または、固体電解質層1-6の少なくとも1つに接する、ガスセンサ素子100の外側の適当な電極)と、両者に挟まれた固体電解質層(例えば、第2固体電解質層6)によって構成されてなる電気化学的ポンプセルである。「固体電解質層1-6の少なくとも1つに接する、ガスセンサ素子100の外側の適当な電極」は、第3電極とも称する。
【0135】
検出部111は、ガスセンサ素子100の備える調整用ポンプセルのセル抵抗(インピーダンス)の値を検出する。すなわち、検出部111は、主ポンプセル21および補助ポンプセル50の少なくとも一方のセル抵抗の値を検出する。
【0136】
温度設定部112(調整部)は、検出部111により検出される調整用ポンプセルのセル抵抗(インピーダンス)の値が基準インピーダンス115(所定の値)となるよう、前記所定の温度(センサ素子駆動温度)を調整(設定)する。すなわち、温度設定部112は、主ポンプセル21および補助ポンプセル50の少なくとも一方のセル抵抗の値が、基準インピーダンス115に等しくなるように、センサ素子駆動温度を設定する。
【0137】
ガスセンサSにおいて、調整用ポンプセルのセル抵抗の傾き(ヒータ70への投入パワーに対するセル抵抗の傾き)は、測定用ポンプセル41のセル抵抗の傾きよりも大きい。すなわち、ガスセンサSにおいて、主ポンプセル21および補助ポンプセル50の少なくとも一方のセル抵抗の傾き(ヒータ70への投入パワーに対するセル抵抗の傾き)は、測定用ポンプセル41のセル抵抗の傾きよりも大きい。
【0138】
また、本実施形態に係るガスセンサの制御方法は、ガスセンサ素子100を備えるガスセンサの制御方法であって、検出ステップと調整ステップとを実行する情報処理方法である。
【0139】
検出ステップは、ガスセンサ素子100の備える調整用ポンプセルのセル抵抗(インピーダンス)の値を検出する。すなわち、検出ステップは、主ポンプセル21および補助ポンプセル50の少なくとも一方のセル抵抗の値を検出する。
【0140】
調整ステップは、検出ステップにて検出される調整用ポンプセルのセル抵抗(インピーダンス)の値が基準インピーダンス115(所定の値)となるよう、所定の温度(センサ素子駆動温度)を調整(設定)する。すなわち、調整ステップは、主ポンプセル21および補助ポンプセル50の少なくとも一方のセル抵抗の値が、基準インピーダンス115に等しくなるように、センサ素子駆動温度を設定する。
【0141】
本実施形態に係るガスセンサの制御方法において、調整用ポンプセルのセル抵抗の傾き(ヒータ70への投入パワーに対するセル抵抗の傾き)は、測定用ポンプセル41のセル抵抗の傾きよりも大きい。すなわち、本実施形態に係るガスセンサの制御方法において、主ポンプセル21および補助ポンプセル50の少なくとも一方のセル抵抗の傾き(ヒータ70への投入パワーに対するセル抵抗の傾き)は、測定用ポンプセル41のセル抵抗の傾きよりも大きい。
【0142】
当該構成では、検出部111(検出ステップ)により検出される調整用ポンプセル(主ポンプセル21および補助ポンプセル50の少なくとも一方)のセル抵抗の値が所定の値となるよう、センサ素子駆動温度は調整され、つまり、センサ素子駆動温度は制御される。また、ヒータ70への投入パワーに対する、調整用ポンプセルのセル抵抗の傾きは、ヒータ70への投入パワーに対する、測定用ポンプセル41のセル抵抗の傾きよりも大きい。つまり、この構成において、ヒータ70への投入パワーに対するセル抵抗の傾きは、調整用ポンプセルの傾きの方が、測定用ポンプセル41の傾きよりも大きい。
【0143】
センサ素子駆動温度を制御して、調整用ポンプセルのセル抵抗の値を所定の値にすることによって、以下の効果を奏する。すなわち、調整用ポンプセルのセル抵抗の値は所定の値に保たれるため、調整用ポンプセルの反応に対する抵抗が増加することはなく、調整用ポンプセルに印加するポンプ電圧(すなわち、ポンプ電圧Vp0および電圧Vp1の少なくとも一方)を大きくする必要もない。そのため、「調整用ポンプセルに印加するポンプ電圧を大きくした結果、調整用ポンプセルで被測定ガス中のNOx特定ガスが分解され、NOxの濃度の測定精度が悪化し、特に、NOxの濃度が高い場合に測定精度が悪化する」という事態を回避することができる。
【0144】
また、ヒータ70への投入パワーに対するセル抵抗の傾きについて、調整用ポンプセルの傾きは、測定用ポンプセル41の傾きよりも大きいので、小さな投入パワーによって、調整用ポンプセルのセル抵抗の値が所定の値になるよう、制御することができる。
【0145】
さらに、ヒータ70への投入パワーに対する調整用ポンプセルのセル抵抗の傾きは大きいため、調整用ポンプセルのセル抵抗の値が所定の値となるよう投入パワー(つまり、センサ素子駆動温度)を変動させる際に、センサ素子駆動温度の変動を小さくすることができる。センサ素子駆動温度の変動を小さくすることで、オフセット値の変動を抑制することができ、被測定ガスにおけるNOxの濃度が低い場合であっても、高精度な濃度測定を実現することができる。
【0146】
加えて、ヒータ70への投入パワーに対するセル抵抗の傾きについて、測定用ポンプセル41の傾きは、(調整用ポンプセルの傾きよりも)小さい。そのため、温度(例えば、測定用ポンプセル41の温度)が変動したとしても、測定用ポンプセル41のセル抵抗の変化は小さく、オフセット値の変動を抑制することができる。
【0147】
以上に説明したように、ガスセンサSは、被測定ガスにおけるNOxの濃度が高い場合に測定精度が悪化する事態を回避し、また、被測定ガスにおけるNOxの濃度が低い場合にも、高精度な濃度測定を実現することができる。つまり、ガスセンサSは、被測定ガスにおけるNOxの濃度が高い環境下での高精度な濃度測定と、濃度が低い環境下での高精度な濃度測定とを両立することができる。
【0148】
ガスセンサSにおいて、ヒータ70への投入パワーに対する、調整用ポンプセルのセル抵抗の傾きは、ヒータ70への投入パワーに対する、測定用ポンプセル41のセル抵抗の傾きの1.5倍から1000倍である。当該構成では、ヒータ70への投入パワーに対する、調整用ポンプセルのセル抵抗の傾きは、ヒータ70への投入パワーに対する、測定用ポンプセル41のセル抵抗の傾きの1.5倍から1000倍である。前述の通り、高濃度下での高精度な濃度測定と低濃度下での高精度な濃度測定とを両立するには、ヒータ70への投入パワーに対する調整用ポンプセルのセル抵抗の傾きを、ヒータ70への投入パワーに対する測定用ポンプセル41のセル抵抗の傾きよりも大きくするのが望ましい。本件発明者は、実験により、ヒータ70への投入パワーに対する調整用ポンプセルのセル抵抗の傾きを、ヒータ70への投入パワーに対する測定用ポンプセル41のセル抵抗の傾きの、1.5倍から1000倍とするのが望ましいことを確認した。したがって、ガスセンサSは、調整用ポンプセルのセル抵抗の傾き(ヒータ70への投入パワーに対するセル抵抗の傾き)を、測定用ポンプセル41のセル抵抗の傾きの1.5倍から1000倍の値とすることで、高濃度下でも低濃度下でも、高精度な濃度測定を実現することができる。
【0149】
[変形例]
以上、本発明の実施形態について説明したが、前述までの実施形態の説明は、あらゆる点において本発明の例示に過ぎない。上記実施形態には、種々の改良及び変形が行われてよい。上記実施形態の各構成要素に関して、適宜、構成要素の省略、置換及び追加が行われてもよい。また、上記実施形態の各構成要素の形状及び寸法は、実施の形態に応じて適宜変更されてよい。例えば、以下のような変更が可能である。なお、以下では、上記実施形態と同様の構成要素に関しては同様の符号を用い、上記実施形態と同様の点については、適宜説明を省略した。以下の変形例は適宜組み合わせ可能である。
【0150】
(I)測定用ポンプセルおよび主ポンプセルの構成
図5は、変形例に係るガスセンサS1について、測定用ポンプセル41および主ポンプセル21について、電極の面積、厚み、気孔率、ジルコニアに対する貴金属の比率、Auの含有率、および、電極間距離の各々についての数値の一例を示す図である。
【0151】
(電極の面積について)
図5に例示するように、ガスセンサS1において、主ポンプセル21の電極面積、すなわち、内側ポンプ電極22の(特に、被測定ガスに晒される面の)面積[mm
2]は、「1」である。これに対して、測定用ポンプセル41の電極面積、すなわち、測定電極44の(特に、被測定ガスに晒される面の)面積[mm
2]は、「12」である。そのため、ガスセンサS1において、測定電極44の(被測定ガスに晒される面の)面積は、内側ポンプ電極22の(被測定ガスに晒される面の)面積より大きい。
【0152】
前述の通り、測定電極44の面積を内側ポンプ電極22の面積よりも大きくすることで、主ポンプセル21のセル抵抗の傾き(ヒータ70への投入パワーに対するセル抵抗の傾き)を、測定用ポンプセル41のセル抵抗の傾きより大きくすることができる。そして、主ポンプセル21のセル抵抗の傾きを測定用ポンプセル41のセル抵抗の傾きよりも大きくすることで、被測定ガスにおけるNOxの濃度が高い環境下での高精度な濃度測定と、濃度が低い環境下での高精度な濃度測定とを両立することができる。
【0153】
したがって、ガスセンサS1は、測定電極44の面積が、内側ポンプ電極22の面積より大きいので、高濃度下でも低濃度下でも、高精度な濃度測定を実現することができる。
【0154】
(電極の厚みについて)
図5に例示するように、ガスセンサS1において、主ポンプセル21の電極の厚み、すなわち、内側ポンプ電極22の厚み[μm]は、「15」である。これに対して、測定用ポンプセル41の電極の厚み、すなわち、測定電極44の厚み[μm]は、「15」である。そのため、ガスセンサS1において、測定電極44の厚みは、内側ポンプ電極22の厚みと同じである。
【0155】
前述の通り、測定電極44の厚みを、内側ポンプ電極22の厚みよりも厚くすることで、主ポンプセル21のセル抵抗の傾き(ヒータ70への投入パワーに対するセル抵抗の傾き)を、測定用ポンプセル41のセル抵抗の傾きより大きくすることができる。そして、主ポンプセル21のセル抵抗の傾きを測定用ポンプセル41のセル抵抗の傾きよりも大きくすることで、被測定ガスにおけるNOxの濃度が高い環境下での高精度な濃度測定と、濃度が低い環境下での高精度な濃度測定とを両立することができる。
【0156】
したがって、ガスセンサS1は、測定電極44の厚みを、内側ポンプ電極22の厚みよりも厚くした場合、高濃度下でも低濃度下でも、高精度な濃度測定を実現することができる。
【0157】
(電極の気孔率について)
図5に例示するように、ガスセンサS1において、主ポンプセル21の電極の気孔率、すなわち、内側ポンプ電極22の気孔率[%]は、「20」である。これに対して、測定用ポンプセル41の電極の気孔率、すなわち、測定電極44の気孔率[%]は、「10」である。そのため、ガスセンサS1において、測定電極44の気孔率は、内側ポンプ電極22の気孔率より低い。
【0158】
前述の通り、測定電極44の気孔率を、内側ポンプ電極22の気孔率よりも低くすることで、主ポンプセル21のセル抵抗の傾き(ヒータ70への投入パワーに対するセル抵抗の傾き)を、測定用ポンプセル41のセル抵抗の傾きより大きくすることができる。そして、主ポンプセル21のセル抵抗の傾きを測定用ポンプセル41のセル抵抗の傾きよりも大きくすることで、被測定ガスにおけるNOxの濃度が高い環境下での高精度な濃度測定と、濃度が低い環境下での高精度な濃度測定とを両立することができる。
【0159】
したがって、ガスセンサS1は、測定電極44の気孔率が、内側ポンプ電極22の気孔率より低いので、高濃度下でも低濃度下でも、高精度な濃度測定を実現することができる。
【0160】
(電極における貴金属とジルコニアとの比について)
ガスセンサS1において、内側ポンプ電極22および測定電極44は、共に、ジルコニアと貴金属とのサーメット電極である。
図5に例示するように、ガスセンサS1において、主ポンプセル21の電極における貴金属とジルコニアとの比は、すなわち、内側ポンプ電極22における貴金属とジルコニアとの比は、「(貴金属)85対(ジルコニア)15」である。これに対して、測定用ポンプセル41の電極における貴金属とジルコニアとの比は、すなわち、測定電極44における貴金属とジルコニアとの比は、「(貴金属)85対(ジルコニア)15」である。そのため、ガスセンサS1において、測定電極44における、ジルコニアに対する貴金属の比率は、内側ポンプ電極22における、ジルコニアに対する貴金属の比率と同じである。
【0161】
前述の通り、ジルコニアに対する貴金属の比率について、測定電極44における比率を内側ポンプ電極22における比率よりも高くすることで、主ポンプセル21のセル抵抗の傾き(ヒータ70への投入パワーに対するセル抵抗の傾き)を、測定用ポンプセル41のセル抵抗の傾きより大きくすることができる。そして、主ポンプセル21のセル抵抗の傾きを測定用ポンプセル41のセル抵抗の傾きよりも大きくすることで、被測定ガスにおけるNOxの濃度が高い環境下での高精度な濃度測定と、濃度が低い環境下での高精度な濃度測定とを両立することができる。
【0162】
したがって、ガスセンサS1は、ジルコニアに対する貴金属の比率について、測定電極44における比率を内側ポンプ電極22における比率よりも高くした場合、高濃度下でも低濃度下でも、高精度な濃度測定を実現することができる。
【0163】
(電極のAu含有率について)
図5に例示するように、ガスセンサS1において、主ポンプセル21の電極のAuの含有率、すなわち、内側ポンプ電極22のAuの含有率[wt%]は、「0.5」である。これに対して、測定用ポンプセル41の電極のAuの含有率、すなわち、測定電極44のAuの含有率[wt%]は、「0」である。そのため、ガスセンサS1において、測定電極44のAuの含有率は、内側ポンプ電極22のAuの含有率より低い。
【0164】
前述の通り、測定電極44のAuの含有率を、内側ポンプ電極22のAuの含有率よりも低くすることで、主ポンプセル21のセル抵抗の傾き(ヒータ70への投入パワーに対するセル抵抗の傾き)を、測定用ポンプセル41のセル抵抗の傾きより大きくすることができる。そして、主ポンプセル21のセル抵抗の傾きを測定用ポンプセル41のセル抵抗の傾きよりも大きくすることで、被測定ガスにおけるNOxの濃度が高い環境下での高精度な濃度測定と、濃度が低い環境下での高精度な濃度測定とを両立することができる。
【0165】
したがって、ガスセンサS1は、測定電極44のAuの含有率が、内側ポンプ電極22のAuの含有率より低いので、高濃度下でも低濃度下でも、高精度な濃度測定を実現することができる。
【0166】
(電極間距離について)
図5に例示するように、ガスセンサS1において、主ポンプセル21の電極間距離、すなわち、内側ポンプ電極22と外側ポンプ電極23との間の距離[μm]は、「0.2」である。これに対して、測定用ポンプセル41の電極間距離、すなわち、測定電極44と外側ポンプ電極23との間の距離[μm]は、「0.2」である。そのため、ガスセンサS1において、測定用ポンプセル41の電極間距離(測定電極44と外側ポンプ電極23との間の距離)は、主ポンプセル21の電極間距離(内側ポンプ電極22と外側ポンプ電極23との間の距離)と同じである。
【0167】
前述の通り、測定用ポンプセル41の電極間距離を、主ポンプセル21の電極間距離よりも小さく(短く)することで、主ポンプセル21のセル抵抗の傾き(ヒータ70への投入パワーに対するセル抵抗の傾き)を、測定用ポンプセル41のセル抵抗の傾きより大きくすることができる。そして、主ポンプセル21のセル抵抗の傾きを測定用ポンプセル41のセル抵抗の傾きよりも大きくすることで、被測定ガスにおけるNOxの濃度が高い環境下での高精度な濃度測定と、濃度が低い環境下での高精度な濃度測定とを両立することができる。
【0168】
したがって、ガスセンサS1は、測定用ポンプセル41の電極間距離を主ポンプセル21の電極間距離よりも小さくした場合、高濃度下でも低濃度下でも、高精度な濃度測定を実現することができる。
【0169】
(電極の面積に係る注記)
これまで、測定用ポンプセル41の電極(測定電極44)の面積よりも小さい面積の電極を有する調整用ポンプセルとして、調整用ポンプセルが主ポンプセル21である例を説明してきた。すなわち、測定電極44の面積を、内側ポンプ電極22の面積よりも大きくすることで、調整用ポンプセルとしての主ポンプセル21のセル抵抗の傾きを、測定用ポンプセル41のセル抵抗の傾きよりも大きくすることができる例を、これまで説明してきた。しかしながら、測定用ポンプセル41の電極(測定電極44)の面積よりも小さい面積の電極を有する調整用ポンプセルは、補助ポンプセル50であってもよい。すなわち、測定電極44の面積は、補助ポンプセル50の補助ポンプ電極51の面積よりも大きくてもよい。
【0170】
また、主ポンプセル21および補助ポンプセル50のいずれの電極の面積も、測定用ポンプセル41の電極の面積よりも小さくてもよい。すなわち、内側ポンプ電極22の面積も、補助ポンプセル50の補助ポンプ電極51の面積も、共に、測定電極44の面積よりも小さくてもよい。
【0171】
本発明の一側面に係るガスセンサにおいて、測定電極44の面積は、主ポンプセル21および補助ポンプセル50の少なくとも一方の電極の面積(例えば、内側ポンプ電極22および補助ポンプ電極51の少なくとも一方の面積)よりも大きければよい。
【0172】
測定用ポンプセル41の電極の面積を、調整用ポンプセルの電極の面積よりも大きくすることで、調整用ポンプセルのセル抵抗の傾き(ヒータ70への投入パワーに対するセル抵抗の傾き)を、測定用ポンプセル41のセル抵抗の傾きより大きくすることができる。そして、調整用ポンプセルのセル抵抗の傾きを測定用ポンプセル41のセル抵抗の傾きよりも大きくすることで、被測定ガスにおけるNOxの濃度が高い環境下での高精度な濃度測定と、濃度が低い環境下での高精度な濃度測定とを両立することができる。
【0173】
(電極の厚みに係る注記)
これまでに、測定用ポンプセル41の電極(測定電極44)の厚みよりも薄い厚みの電極を有する調整用ポンプセルとして、調整用ポンプセルが主ポンプセル21である例を説明してきた。すなわち、測定電極44の厚みを、内側ポンプ電極22の厚みよりも厚くすることで、調整用ポンプセルとしての主ポンプセル21のセル抵抗の傾きを、測定用ポンプセル41のセル抵抗の傾きよりも大きくすることができる例を、これまで説明してきた。しかしながら、測定用ポンプセル41の電極(測定電極44)の厚みよりも薄い厚みの電極を有する調整用ポンプセルは、補助ポンプセル50であってもよい。すなわち、測定電極44の厚みは、補助ポンプセル50の補助ポンプ電極51の厚みよりも厚くてもよい。
【0174】
また、主ポンプセル21および補助ポンプセル50のいずれの電極の厚みも、測定用ポンプセル41の電極の厚みよりも薄くてもよい。すなわち、内側ポンプ電極22の厚みも、補助ポンプセル50の補助ポンプ電極51の厚みも、共に、測定電極44の厚みよりも薄くてもよい。
【0175】
本発明の一側面に係るガスセンサにおいて、測定電極44の厚みは、主ポンプセル21および補助ポンプセル50の少なくとも一方の電極の厚み(例えば、内側ポンプ電極22および補助ポンプ電極51の少なくとも一方の厚み)よりも厚ければよい。
【0176】
測定用ポンプセル41の電極の厚みを、調整用ポンプセルの電極の厚みよりも厚くすることで、調整用ポンプセルのセル抵抗の傾き(ヒータ70への投入パワーに対するセル抵抗の傾き)を、測定用ポンプセル41のセル抵抗の傾きより大きくすることができる。そして、調整用ポンプセルのセル抵抗の傾きを測定用ポンプセル41のセル抵抗の傾きよりも大きくすることで、被測定ガスにおけるNOxの濃度が高い環境下での高精度な濃度測定と、濃度が低い環境下での高精度な濃度測定とを両立することができる。
【0177】
(電極の気孔率に係る注記)
これまでに、測定用ポンプセル41の電極(測定電極44)の気孔率よりも高い気孔率の電極を有する調整用ポンプセルとして、調整用ポンプセルが主ポンプセル21である例を説明してきた。すなわち、測定電極44の気孔率を、内側ポンプ電極22の気孔率よりも低くすることで、調整用ポンプセルとしての主ポンプセル21のセル抵抗の傾きを、測定用ポンプセル41のセル抵抗の傾きよりも大きくすることができる例を、これまで説明してきた。しかしながら、測定用ポンプセル41の電極(測定電極44)の気孔率よりも高い気孔率の電極を有する調整用ポンプセルは、補助ポンプセル50であってもよい。すなわち、測定電極44の気孔率は、補助ポンプセル50の補助ポンプ電極51の気孔率よりも低くてもよい。
【0178】
また、主ポンプセル21および補助ポンプセル50のいずれの電極の気孔率も、測定用ポンプセル41の電極の気孔率よりも高くてもよい。すなわち、内側ポンプ電極22の気孔率も、補助ポンプセル50の補助ポンプ電極51の気孔率も、共に、測定電極44の気孔率よりも高くてもよい。
【0179】
本発明の一側面に係るガスセンサにおいて、測定電極44の気孔率は、主ポンプセル21および補助ポンプセル50の少なくとも一方の電極の気孔率(例えば、内側ポンプ電極22および補助ポンプ電極51の少なくとも一方の気孔率)よりも低ければよい。
【0180】
測定用ポンプセル41の電極の気孔率を、調整用ポンプセルの電極の気孔率よりも低くすることで、調整用ポンプセルのセル抵抗の傾き(ヒータ70への投入パワーに対するセル抵抗の傾き)を、測定用ポンプセル41のセル抵抗の傾きより大きくすることができる。そして、調整用ポンプセルのセル抵抗の傾きを測定用ポンプセル41のセル抵抗の傾きよりも大きくすることで、被測定ガスにおけるNOxの濃度が高い環境下での高精度な濃度測定と、濃度が低い環境下での高精度な濃度測定とを両立することができる。
【0181】
(貴金属とジルコニアとの比に係る注記)
これまでに、ジルコニアに対する貴金属の比率について、測定用ポンプセル41の電極(測定電極44)の比率よりも低い比率のサーメット電極を有する調整用ポンプセルとして、調整用ポンプセルが主ポンプセル21である例を説明してきた。すなわち、ジルコニアに対する貴金属の比率について、測定電極44における比率を内側ポンプ電極22における比率よりも高くすることで、調整用ポンプセルとしての主ポンプセル21のセル抵抗の傾きを、測定用ポンプセル41のセル抵抗の傾きよりも大きくすることができる例を、これまで説明してきた。しかしながら、ジルコニアに対する貴金属の比率について、測定用ポンプセル41の電極(測定電極44)の比率よりも低い比率のサーメット電極を有する調整用ポンプセルは、補助ポンプセル50であってもよい。すなわち、ジルコニアに対する貴金属の比率について、測定電極44の比率は、補助ポンプセル50の補助ポンプ電極51の比率よりも高くてもよい。
【0182】
また、ジルコニアに対する貴金属の比率について、主ポンプセル21および補助ポンプセル50のいずれの電極の比率も、測定用ポンプセル41の電極の比率よりも低くてもよい。すなわち、ジルコニアに対する貴金属の比率について、内側ポンプ電極22の比率も、補助ポンプセル50の補助ポンプ電極51の比率も、共に、測定電極44の比率よりも低くてもよい。
【0183】
本発明の一側面に係るガスセンサにおいて、ジルコニアに対する貴金属の比率について、測定電極44の比率は、主ポンプセル21および補助ポンプセル50の少なくとも一方の電極の比率(例えば、内側ポンプ電極22および補助ポンプ電極51の少なくとも一方の比率)よりも高ければよい。
【0184】
ジルコニアに対する貴金属の比率について、測定用ポンプセル41の電極における比率を、調整用ポンプセルの電極における比率よりも高くすることで、調整用ポンプセルのセル抵抗の傾き(ヒータ70への投入パワーに対するセル抵抗の傾き)を、測定用ポンプセル41のセル抵抗の傾きより大きくすることができる。そして、調整用ポンプセルのセル抵抗の傾きを測定用ポンプセル41のセル抵抗の傾きよりも大きくすることで、被測定ガスにおけるNOxの濃度が高い環境下での高精度な濃度測定と、濃度が低い環境下での高精度な濃度測定とを両立することができる。
【0185】
(Auの含有率に係る注記)
これまでに、測定用ポンプセル41の電極(測定電極44)のAuの含有率よりも高い含有率の電極を有する調整用ポンプセルとして、調整用ポンプセルが主ポンプセル21である例を説明してきた。すなわち、測定電極44のAu含有率を、内側ポンプ電極22のAu含有率よりも低くすることで、調整用ポンプセルとしての主ポンプセル21のセル抵抗の傾きを、測定用ポンプセル41のセル抵抗の傾きよりも大きくすることができる例を、これまで説明してきた。しかしながら、測定用ポンプセル41の電極(測定電極44)のAuの含有率よりも高い含有率の電極を有する調整用ポンプセルは、補助ポンプセル50であってもよい。すなわち、測定電極44のAuの含有率は、補助ポンプセル50の補助ポンプ電極51のAuの含有率よりも低くてもよい。
【0186】
また、主ポンプセル21および補助ポンプセル50のいずれの電極のAuの含有率も、測定用ポンプセル41の電極のAuの含有率よりも高くてもよい。すなわち、内側ポンプ電極22のAuの含有率も、補助ポンプセル50の補助ポンプ電極51のAuの含有率も、共に、測定電極44のAuの含有率よりも高くてもよい。
【0187】
本発明の一側面に係るガスセンサにおいて、測定電極44のAuの含有率は、主ポンプセル21および補助ポンプセル50の少なくとも一方の電極のAuの含有率(例えば、内側ポンプ電極22および補助ポンプ電極51の少なくとも一方のAuの含有率)よりも低ければよい。
【0188】
測定用ポンプセル41の電極のAu含有率を、調整用ポンプセルの電極のAu含有率よりも低くすることで、調整用ポンプセルのセル抵抗の傾き(ヒータ70への投入パワーに対するセル抵抗の傾き)を、測定用ポンプセル41のセル抵抗の傾きより大きくすることができる。そして、調整用ポンプセルのセル抵抗の傾きを測定用ポンプセル41のセル抵抗の傾きよりも大きくすることで、被測定ガスにおけるNOxの濃度が高い環境下での高精度な濃度測定と、濃度が低い環境下での高精度な濃度測定とを両立することができる。
【0189】
(電極間距離に係る注記)
これまでに、測定用ポンプセル41の電極間距離よりも大きい(長い)電極間距離を有する調整用ポンプセルとして、調整用ポンプセルが主ポンプセル21である例を説明してきた。すなわち、測定用ポンプセル41の電極間距離(測定電極44と外側ポンプ電極23との間の距離)を、主ポンプセル21の電極間距離(内側ポンプ電極22と外側ポンプ電極23との間の距離)よりも小さく(短く)することで、調整用ポンプセルとしての主ポンプセル21のセル抵抗の傾きを、測定用ポンプセル41のセル抵抗の傾きよりも大きくすることができる例を、これまで説明してきた。しかしながら、測定用ポンプセル41の電極間距離よりも大きい電極間距離を有する調整用ポンプセルは、補助ポンプセル50であってもよい。すなわち、測定用ポンプセル41の電極間距離は、補助ポンプセル50の電極間距離(補助ポンプセル50の補助ポンプ電極51と外側ポンプ電極23または第3電極との間の距離)よりも小さくてもよい。
【0190】
また、主ポンプセル21および補助ポンプセル50のいずれの電極間距離も、測定用ポンプセル41の電極間距離よりも大きくてもよい。すなわち、内側ポンプ電極22と外側ポンプ電極23との間の距離も、補助ポンプ電極51と外側ポンプ電極23または第3電極との間の距離も、共に、測定電極44と外側ポンプ電極23との間の距離よりも大きくてもよい。
【0191】
本発明の一側面に係るガスセンサにおいて、測定用ポンプセル41の電極間距離は、主ポンプセル21および補助ポンプセル50の少なくとも一方の電極間距離よりも小さければよい。
【0192】
測定用ポンプセル41の電極間距離を、調整用ポンプセルの電極間距離よりも小さくすることで、調整用ポンプセルのセル抵抗の傾き(ヒータ70への投入パワーに対するセル抵抗の傾き)を、測定用ポンプセル41のセル抵抗の傾きより大きくすることができる。そして、調整用ポンプセルのセル抵抗の傾きを測定用ポンプセル41のセル抵抗の傾きよりも大きくすることで、被測定ガスにおけるNOxの濃度が高い環境下での高精度な濃度測定と、濃度が低い環境下での高精度な濃度測定とを両立することができる。
【0193】
これまで、調整用ポンプセルのセル抵抗の傾き(ヒータ70への投入パワーに対するセル抵抗の傾き)を、測定用ポンプセル41のセル抵抗の傾きより大きくするための、測定用ポンプセル41および調整用ポンプセルの構成についての条件として、以下の条件1-条件6を説明してきた。すなわち、条件1は、測定用ポンプセル41の電極面積が、調整用ポンプセルの電極面積よりも大きいことである。条件2は、測定用ポンプセル41の電極の厚みが、調整用ポンプセルの電極の厚みよりも厚いことである。条件3は、測定用ポンプセル41の電極の気孔率が、調整用ポンプセルの電極の気孔率よりも低いことである。条件4は、測定用ポンプセル41の電極におけるジルコニアに対する貴金属の比率が、調整用ポンプセルの電極におけるジルコニアに対する貴金属の比率よりも高いことである。条件5は、測定用ポンプセル41の電極のAuの含有率が、調整用ポンプセルの電極のAuの含有率よりも低いことである。条件6は、測定用ポンプセル41の電極間距離が、調整用ポンプセルの電極間距離よりも小さい(短い)ことである。
【0194】
調整用ポンプセルのセル抵抗の傾き(ヒータ70への投入パワーに対するセル抵抗の傾き)を、測定用ポンプセル41のセル抵抗の傾きより大きくするためには、条件1-条件6の全てが満たされることは必須ではない。本件発明者は、調整用ポンプセルのセル抵抗の傾き(ヒータ70への投入パワーに対するセル抵抗の傾き)を、測定用ポンプセル41のセル抵抗の傾きより大きくするのには、条件1-条件6の少なくとも1つが満たされるように調整用ポンプセルおよび測定用ポンプセル41を構成することが有用であることを実験により確認した。なお、上述の実験にて、本件発明者は、測定精度に影響するオフセット値の変動を抑制するには、調整用ポンプセルのセル抵抗の傾き(ヒータ70への投入パワーに対するセル抵抗の傾き)を、測定用ポンプセル41のセル抵抗の傾きの、1.5倍から1000倍の値とするのが望ましいことについても確認している。実験について詳細は後述する。
【0195】
(II)その他
上記実施形態では、ガスセンサ素子100の積層体は、6層の固体電解質層により構成されている。しかしながら、積層体を構成する固体電解質層の数は、このような例に限定されなくてよく、実施の形態に応じて適宜選択されてよい。
【0196】
また、上記実施形態では、被測定ガスを導入する内部空間(すなわち、被測定ガス流通部7)は、第1固体電解質層4、スペーサ層5、及び第2固体電解質層6により区画される位置に設けられる。しかしながら、被測定ガス流通部7の配置は、このような例に限定されなくてよく、実施の形態に応じて適宜選択されてよい。第1面、第2面、第1ポンプ電極、第2ポンプ電極、第1リード、及び第2リードの配置は、積層体及び内部空間の構成に応じて適宜選択されてよい。
【0197】
また、上記実施形態では、被測定ガス流通部7は、3室構造を有するように構成されている。しかしながら、被測定ガス流通部7の構成は、このような例に限定されなくてよく、実施の形態に応じて適宜選択されてよい。他の一例では、第4拡散律速部18及び第3内部空所19が省略されてよく、これにより、被測定ガス流通部7は、2室構造を有するように構成されてよい。この場合、測定電極44は、第2内部空所17に隣接する第1固体電解質層4の上面における、第3拡散律速部16から離れた位置に設けられてよい。
すなわち、被測定ガス流通部7は、酸素の汲み出しまたは汲み入れが行なわれる空室を2つ含んでもよいし、1つだけ含んでいてもよい。また、ガスセンサ素子100にとって、1つ以上の拡散律速部を備えることも必須ではない。
【0198】
また、
図1では、内側ポンプ電極22及び外側ポンプ電極23は共に空間に対して露出している。しかしながら、空間に隣接することは、このような形態に限定されなくてよく、被覆等を介して間接的に隣接してもよい。他の一例として、外側ポンプ電極23は、保護部材等によって被覆されていてよい。
【0199】
また、上記実施形態では、基準ガス導入空間43が設けられている。しかしながら、ガスセンサ素子100の構成は、このような例に限定されなくてよい。他の一例では、第1固体電解質層4は、ガスセンサ素子100の後端まで延びるように構成されてよく、基準ガス導入空間43は省略されてよい。この場合、大気導入層48が、ガスセンサ素子100の後端まで延びるように構成されてよい。
【0200】
また、上記実施形態では、ガスセンサ素子100は、窒素酸化物(NOx)の濃度を測定するように構成されている。しかしながら、本発明のガスセンサ素子は、このようなNOxの濃度を測定するように構成されるガスセンサ素子に限られなくてよい。他の一例では、本発明のガスセンサ素子は、例えば、酸素の濃度を測定するように構成されたガスセンサ素子等の他のガスセンサ素子であってよい。例えば、上記実施形態に係るガスセンサ素子100について、補助ポンプセル、測定ポンプセルを省略し、基準電極を主ポンプ電極の下に配置することで、酸素濃度を測定するためのガスセンサ素子を構成することができる。この場合、ガスセンサ素子は、主ポンプセルにより酸素を汲み出すことで、被測定ガス中の酸素濃度を測定することができる。
【0201】
[実施例]
図6は、本件発明者が行なった実験の概要を整理して示す図である。具体的には、
図6は、本件発明者が「オフセット値の変動量(オフセット変動率)」を確認した、実施例1から実施例12、比較例1、および、比較例2に係るガスセンサの各々について、各種のパラメータの数値、および、確認結果を示している。以下に説明するとおり、本件発明者は、実施例1から実施例12、比較例1、および、比較例2に係るガスセンサの各々のオフセット値の変動量について、評価1(オフセット変動評価1)および評価2(オフセット変動評価2)を確認した。そして、前述の通り、「オフセット値の変動」は、ガスセンサの測定精度に影響し、これが小さい程、ガスセンサの測定精度への影響も小さく、測定精度が悪化する可能性も小さい。なお、実施例1から実施例12、比較例1、および、比較例2に係るガスセンサは、いずれも、上記
図1に示される構成を採用している。
【0202】
図6に示すように、調整用ポンプセルのセル抵抗の傾きが、測定用ポンプセル41のセル抵抗の傾きの、1.5倍から1000倍の値である実施例1-10のガスセンサについて、そのオフセット変動評価1は「A」であった。詳細は後述するが、「オフセット変動評価1」は、ガス温度の変化の前後でのオフセット値の変動量に対する評価を表しており、また、「A」は、「著しく良好であった」との評価結果を表している。実施例1-10のガスセンサについては、耐久試験(詳細は後述する)の実施の前後でのオフセット値の変動量を表すオフセット変動評価2も、「A」であった。また、調整用ポンプセルのセル抵抗の傾きが、測定用ポンプセル41のセル抵抗の傾きの、1.5倍から1000倍の範囲にはないが、前者が後者よりも大きい実施例11-12のガスセンサについて、そのオフセット変動評価1は「B」であった。「B」は、「A」の次に良好であったとの評価結果を表しており、つまり、「良好であった」との評価結果を表している。実施例11-12のガスセンサについては、オフセット変動評価2も、「B」であった。これに対して、調整用ポンプセルのセル抵抗の傾きが、測定用ポンプセル41のセル抵抗の傾きよりも小さい、または、両者が同じである比較例1-2のガスセンサについて、そのオフセット変動評価1は「F」であった。「F」は、最も低い評価を示しており、つまり、「良好ではなかった」との評価結果を表している。比較例1-2のガスセンサについては、オフセット変動評価2も、「B」であった。
【0203】
そのため、
図6に示す実験により、本件発明者は、調整用ポンプセルのセル抵抗の傾きを測定用ポンプセル41のセル抵抗の傾きより大きくすることで、オフセット値の変動を抑制することができることを確認した。特に、
図6に示す実験により、本件発明者は、調整用ポンプセルのセル抵抗の傾きを、測定用ポンプセル41のセル抵抗の傾きの、1.5倍から1000倍の値とすることで、オフセット値の変動を効果的に抑制することができることを確認した。また、
図6に示す実験により、本件発明者は、ヒータ70への投入パワーに対する調整用ポンプセルのセル抵抗の傾きを、ヒータ70への投入パワーに対する測定用ポンプセル41のセル抵抗の傾きよりも大きくするには、上述の条件1-条件6の少なくとも1つを満たすように、測定用ポンプセル41と調整用ポンプセルとを構成することが望ましいことを確認した。以下、
図6に示す内容の詳細を説明していく。
【0204】
なお、
図6には、調整用ポンプセルが主ポンプセル21である例が示されている。すなわち、
図6において条件1は、「測定電極44の面積が、内側ポンプ電極22の面積よりも大きい」との条件を意味する。条件2は、「測定電極44の厚みが、内側ポンプ電極22の厚みよりも厚い」との条件を意味する。条件3は、「測定電極44の気孔率が、内側ポンプ電極22の気孔率よりも低い」との条件を意味する。条件4は、「測定電極44におけるジルコニアに対する貴金属の比率が、内側ポンプ電極22におけるジルコニアに対する貴金属の比率よりも高い」との条件を意味する。条件5は、「測定電極44のAuの含有率が、内側ポンプ電極22のAuの含有率よりも低い」との条件を意味する。条件6は、「測定電極44と外側ポンプ電極23との間の距離が、内側ポンプ電極22と外側ポンプ電極23との間の距離よりも小さい(短い)」との条件を意味する。
【0205】
図6に示す図において、「ヒータへの投入パワーに対するセル抵抗の傾きの比(主/測定用)」とは、「ヒータ70への投入パワーに対する測定用ポンプセル41のセル抵抗の傾き」に対する、「ヒータ70への投入パワーに対する主ポンプセル21のセル抵抗の傾き」の比率(倍率)を示している。「面積[mm
2]」の「主」とは、主ポンプセル21の電極面積、すなわち、内側ポンプ電極22の(特に、被測定ガスに晒される面の)面積[mm
2]を示している。「面積[mm
2]」の「測定用」とは、測定用ポンプセル41の電極面積、すなわち、測定電極44の(特に、被測定ガスに晒される面の)面積[mm
2]を示している。「厚み[μm]」の「主」とは、主ポンプセル21の電極の厚み、すなわち、内側ポンプ電極22の厚み[μm]を示している。「厚み[μm]」の「測定用」とは、測定用ポンプセル41の電極の厚み、すなわち、測定電極44の厚み[μm]を示している。「気孔率[%]」の「主」とは、主ポンプセル21の電極の気孔率、すなわち、内側ポンプ電極22の気孔率[%]を示している。「気孔率[%]」の「測定用」とは、測定用ポンプセル41の電極の気孔率、すなわち、測定電極44の気孔率[%]を示している。「Auの含有率[wt%]」の「主」とは、主ポンプセル21の電極のAuの含有率、すなわち、内側ポンプ電極22のAuの含有率[wt%]を示している。「Auの含有率[wt%]」の「測定用」とは、測定用ポンプセル41の電極のAuの含有率、すなわち、測定電極44のAuの含有率[wt%]を示している。「電極間距離[μm]」の「主」とは、主ポンプセル21の電極間距離、すなわち、内側ポンプ電極22と外側ポンプ電極23との間の距離[μm]を示している。「電極間距離[μm]」の「測定用」とは、測定用ポンプセル41の電極間距離、すなわち、測定電極44と外側ポンプ電極23との間の距離[μm]を示している。「貴金属/ジルコニア比」の「主」とは、主ポンプセル21の電極における貴金属とジルコニアとの比(比率)、すなわち、内側ポンプ電極22における貴金属とジルコニアとの比を示している。「貴金属/ジルコニア比」の「測定用」とは、測定用ポンプセル41の電極における貴金属とジルコニアとの比(比率)、すなわち、測定電極44における貴金属とジルコニアとの比を示している。
【0206】
また、「オフセット変動評価1」および「オフセット変動評価2」は、それぞれ、実施例1から実施例12、比較例1、および、比較例2の各々に係るガスセンサの「オフセット値の変動(オフセット変動)」の大きさを示している。
【0207】
具体的には、オフセット変動評価1は、NOxが「0」ppm、かつ、O2が「18」%の環境下で、ガス温度を「100」℃から「400」℃まで変動させたときの、ガスセンサのNOx出力(例えば、ポンプ電流Ip2)のオフセット変動の大きさを示している。オフセット変動評価1の「A」は、ガス温度の変化の前後でのNOx出力のオフセット変動が「±7」ppm以内であることを示している。オフセット変動評価1の「B」は、ガス温度の変化の前後でのNOx出力のオフセット変動が「±7」ppmよりも大きく、「±15」ppm以内であることを示している。オフセット変動評価1の「F」は、ガス温度の変化の前後でのNOx出力のオフセット変動が「±15」ppmよりも大きいことを示している。
【0208】
また、オフセット変動評価2は、以下の耐久試験の実施の前後での、実施例1から実施例12、比較例1、および、比較例2の各々に係るガスセンサのオフセット変動の大きさ(オフセット値の変化量)を示している。すなわち、本件発明者らは、上述の耐久試験として、各ガスセンサを自動車の排ガス管の配管に取り付け、エンジン回転数1500~3500rpm、負荷トルク0~350N・mの範囲で構成した40分間の運転パターンを、2000時間繰り返す試験を行なった。なお、係る耐久試験において、ガス温度は摂氏200度~摂氏600度、NOx濃度は「0」~「1500」ppmとした。そして、各ガスセンサについて、上述の耐久試験の実施の前と後とのそれぞれで、NOx濃度が「0」ppm、O2濃度が「0」%、H2O濃度が「3」%であるモデルガスを流した時のオフセット値を計測し、その変化量を調査した。オフセット変動評価2の「A」は、上述の耐久試験の実施の前後でのNOx出力のオフセット変動が「±7」ppm以内であったことを示している。オフセット変動評価2の「B」は、上述の耐久試験の実施の前後でのNOx出力のオフセット変動が「±7」ppmよりも大きく、「±15」ppm以内であったことを示している。オフセット変動評価2の「F」は、上述の耐久試験の実施の前後でのNOx出力のオフセット変動が「±15」ppmよりも大きかったことを示している。
【0209】
上述のとおり、NOx出力のオフセット変動が小さい程、ガスセンサの測定精度への影響も小さく、測定精度が悪化する可能性も小さい。そして、オフセット変動評価1およびオフセット変動評価2は、それぞれ、条件(ガス温度、耐久試験の実施の有無)を変化させた前後での、実施例1から実施例12、比較例1、および、比較例2に係るガスセンサの各々のオフセット値の変動量を評価するものである。このような条件の変化の前後においては、「或る時間毎に決まった値を補正する方法」を、つまり、時間補正を、利用することができる。そのため、条件の変化の前後におけるオフセット値の変動量が-15%~+15%の範囲に収まっている場合には、上述の時間補正を有効に利用することができ、「オフセット値の変動を抑えることができている」と評価できる。そこで、オフセット変動評価1およびオフセット変動評価2のそれぞれにおいて、条件の変化の前後におけるオフセット値の変動量が「±7」ppm以内であった場合、係る結果は、「A(著しく良好であった)」と評価した。同様に、条件の変化の前後におけるオフセット値の変動量が「±7」ppmよりも大きく、「±15」ppm以内であった場合、係る結果は、「B(良好であった)」と評価した。また、条件の変化の前後におけるオフセット値の変動量が「±15」ppmよりも大きかった場合、係る結果は、「F(良好ではなかった)」と評価した。なお、以下の説明においては、記載の簡略化のため、単位は省略している。
【0210】
(実施例1について)
実施例1の主ポンプセル21の電極面積(「面積」の「主」)は、「1.5」であり、測定用ポンプセル41の電極面積(「面積」の「測定用」)は、「7.5」である。つまり、実施例1において、測定用ポンプセル41の電極面積(測定電極44の面積)は、主ポンプセル21の電極面積(内側ポンプ電極22の面積)よりも大きく、条件1を満たしている。実施例1の主ポンプセル21の電極の厚み(「厚み」の「主」)は、「15」であり、測定用ポンプセル41の電極の厚み(「厚み」の「測定用」)は、「25」である。つまり、実施例1において、測定用ポンプセル41の電極の厚み(測定電極44の厚み)は、主ポンプセル21の電極の厚み(内側ポンプ電極22の厚み)よりも厚く、条件2を満たしている。実施例1の主ポンプセル21の電極の気孔率(「気孔率」の「主」)は、「10」であり、測定用ポンプセル41の電極の気孔率(「気孔率」の「測定用」)は、「5」である。つまり、実施例1において、測定用ポンプセル41の電極の気孔率(測定電極44の気孔率)は、主ポンプセル21の電極の気孔率(内側ポンプ電極22の気孔率)よりも低く、条件3を満たしている。実施例1の主ポンプセル21の電極のAuの含有率(「Auの含有率」の「主」)は、「0.0」であり、測定用ポンプセル41の電極のAuの含有率(「Auの含有率」の「測定用」)は、「0.0」である。つまり、実施例1において、測定用ポンプセル41の電極のAuの含有率(測定電極44のAuの含有率)は、主ポンプセル21の電極のAuの含有率(内側ポンプ電極22のAuの含有率)と等しく、条件5を満たしていない。実施例1の主ポンプセル21の電極間距離(「電極間距離」の「主」)は、「0.4」であり、測定用ポンプセル41の電極間距離(「電極間距離」の「測定用」)は、「0.2」である。つまり、実施例1において、測定用ポンプセル41の電極間距離(測定電極44と外側ポンプ電極23との間の距離)は、主ポンプセル21の電極間距離(内側ポンプ電極22と外側ポンプ電極23との間の距離)よりも小さく、条件6を満たしている。実施例1の主ポンプセル21の電極における貴金属とジルコニアとの比(「貴金属/ジルコニア比」の「主」)は、「85:15」であり、測定用ポンプセル41の電極における貴金属とジルコニアとの比(「貴金属/ジルコニア比」の「測定用」)は、「85:15」である。つまり、実施例1において、測定用ポンプセル41の電極におけるジルコニアに対する貴金属の比率(測定電極44におけるジルコニアに対する貴金属の比率)は、主ポンプセル21の電極におけるジルコニアに対する貴金属の比率(内側ポンプ電極22におけるジルコニアに対する貴金属の比率)と等しく、条件4を満たしていない。
【0211】
そのため、実施例1において、上述の条件1-条件6のうち、条件4および条件5は満たされていないが、条件1、条件2、条件3、および、条件6は満たされている。そして、実施例1の「ヒータへの投入パワーに対するセル抵抗の傾きの比(主/測定用)」は、「250」である。つまり、実施例1に係るガスセンサは、主ポンプセル21のセル抵抗の傾き(ヒータ70への投入パワーに対するセル抵抗の傾き)が、測定用ポンプセル41のセル抵抗の傾きの、1.5倍から1000倍の値となっている。そして、実施例1に係るガスセンサの「オフセット変動評価1」および「オフセット変動評価2」は、共に、最高評価の「A」であった。
【0212】
(実施例2について)
実施例2の主ポンプセル21の電極面積は、「1.0」であり、測定用ポンプセル41の電極面積は、「12.0」である。つまり、実施例2において、測定用ポンプセル41の電極面積(測定電極44の面積)は、主ポンプセル21の電極面積(内側ポンプ電極22の面積)よりも大きく、条件1を満たしている。実施例2の主ポンプセル21の電極の厚みは、「15」であり、測定用ポンプセル41の電極の厚みは、「15」である。つまり、実施例2において、測定用ポンプセル41の電極の厚み(測定電極44の厚み)は、主ポンプセル21の電極の厚み(内側ポンプ電極22の厚み)と等しく、条件2を満たしていない。実施例2の主ポンプセル21の電極の気孔率は、「20」であり、測定用ポンプセル41の電極の気孔率は、「10」である。つまり、実施例2において、測定用ポンプセル41の電極の気孔率(測定電極44の気孔率)は、主ポンプセル21の電極の気孔率(内側ポンプ電極22の気孔率)よりも低く、条件3を満たしている。実施例2の主ポンプセル21の電極のAuの含有率は、「0.5」であり、測定用ポンプセル41の電極のAuの含有率は、「0.0」である。つまり、実施例2において、測定用ポンプセル41の電極のAuの含有率(測定電極44のAuの含有率)は、主ポンプセル21の電極のAuの含有率(内側ポンプ電極22のAuの含有率)よりも低く、条件5を満たしている。実施例2の主ポンプセル21の電極間距離は、「0.2」であり、測定用ポンプセル41の電極間距離は、「0.2」である。つまり、実施例2において、測定用ポンプセル41の電極間距離(測定電極44と外側ポンプ電極23との間の距離)は、主ポンプセル21の電極間距離(内側ポンプ電極22と外側ポンプ電極23との間の距離)と等しく、条件6を満たしていない。実施例2の主ポンプセル21の電極における貴金属とジルコニアとの比は、「85:15」であり、測定用ポンプセル41の電極における貴金属とジルコニアとの比は、「85:15」である。つまり、実施例2において、測定用ポンプセル41の電極におけるジルコニアに対する貴金属の比率(測定電極44におけるジルコニアに対する貴金属の比率)は、主ポンプセル21の電極におけるジルコニアに対する貴金属の比率(内側ポンプ電極22におけるジルコニアに対する貴金属の比率)と等しく、条件4を満たしていない。
【0213】
そのため、実施例2において、上述の条件1-条件6のうち、条件2、条件4、および、条件6は満たされていないが、条件1、条件3、および、条件5は満たされている。そして、実施例2の「ヒータへの投入パワーに対するセル抵抗の傾きの比(主/測定用)」は、「30」である。つまり、実施例2に係るガスセンサは、主ポンプセル21のセル抵抗の傾き(ヒータ70への投入パワーに対するセル抵抗の傾き)が、測定用ポンプセル41のセル抵抗の傾きの、1.5倍から1000倍の値となっている。そして、実施例2に係るガスセンサの「オフセット変動評価1」および「オフセット変動評価2」は、共に、最高評価の「A」であった。
【0214】
(実施例3について)
実施例3の主ポンプセル21の電極面積は、「5.0」であり、測定用ポンプセル41の電極面積は、「5.0」である。つまり、実施例3において、測定用ポンプセル41の電極面積(測定電極44の面積)は、主ポンプセル21の電極面積(内側ポンプ電極22の面積)と等しく、条件1を満たしていない。実施例3の主ポンプセル21の電極の厚みは、「15」であり、測定用ポンプセル41の電極の厚みは、「15」である。つまり、実施例3において、測定用ポンプセル41の電極の厚み(測定電極44の厚み)は、主ポンプセル21の電極の厚み(内側ポンプ電極22の厚み)と等しく、条件2を満たしていない。実施例3の主ポンプセル21の電極の気孔率は、「15」であり、測定用ポンプセル41の電極の気孔率は、「15」である。つまり、実施例3において、測定用ポンプセル41の電極の気孔率(測定電極44の気孔率)は、主ポンプセル21の電極の気孔率(内側ポンプ電極22の気孔率)と等しく、条件3を満たしていない。実施例3の主ポンプセル21の電極のAuの含有率は、「1.0」であり、測定用ポンプセル41の電極のAuの含有率は、「0.0」である。つまり、実施例3において、測定用ポンプセル41の電極のAuの含有率(測定電極44のAuの含有率)は、主ポンプセル21の電極のAuの含有率(内側ポンプ電極22のAuの含有率)よりも低く、条件5を満たしている。実施例3の主ポンプセル21の電極間距離は、「0.2」であり、測定用ポンプセル41の電極間距離は、「0.2」である。つまり、実施例3において、測定用ポンプセル41の電極間距離(測定電極44と外側ポンプ電極23との間の距離)は、主ポンプセル21の電極間距離(内側ポンプ電極22と外側ポンプ電極23との間の距離)と等しく、条件6を満たしていない。実施例3の主ポンプセル21の電極における貴金属とジルコニアとの比は、「85:15」であり、測定用ポンプセル41の電極における貴金属とジルコニアとの比は、「85:15」である。つまり、実施例3において、測定用ポンプセル41の電極におけるジルコニアに対する貴金属の比率(測定電極44におけるジルコニアに対する貴金属の比率)は、主ポンプセル21の電極におけるジルコニアに対する貴金属の比率(内側ポンプ電極22におけるジルコニアに対する貴金属の比率)と等しく、条件4を満たしていない。
【0215】
そのため、実施例3において、上述の条件1-条件6のうち、条件1、条件2、条件3、条件4、および、条件6は満たされていないが、条件5は満たされている。そして、実施例3の「ヒータへの投入パワーに対するセル抵抗の傾きの比(主/測定用)」は、「2」である。つまり、実施例3に係るガスセンサは、主ポンプセル21のセル抵抗の傾き(ヒータ70への投入パワーに対するセル抵抗の傾き)が、測定用ポンプセル41のセル抵抗の傾きの、1.5倍から1000倍の値となっている。そして、実施例3に係るガスセンサの「オフセット変動評価1」および「オフセット変動評価2」は、共に、最高評価の「A」であった。
【0216】
(実施例4について)
実施例4の主ポンプセル21の電極面積は、「5.0」であり、測定用ポンプセル41の電極面積は、「12.0」である。つまり、実施例4において、測定用ポンプセル41の電極面積(測定電極44の面積)は、主ポンプセル21の電極面積(内側ポンプ電極22の面積)よりも大きく、条件1を満たしている。実施例4の主ポンプセル21の電極の厚みは、「15」であり、測定用ポンプセル41の電極の厚みは、「15」である。つまり、実施例4において、測定用ポンプセル41の電極の厚み(測定電極44の厚み)は、主ポンプセル21の電極の厚み(内側ポンプ電極22の厚み)と等しく、条件2を満たしていない。実施例4の主ポンプセル21の電極の気孔率は、「20」であり、測定用ポンプセル41の電極の気孔率は、「20」である。つまり、実施例4において、測定用ポンプセル41の電極の気孔率(測定電極44の気孔率)は、主ポンプセル21の電極の気孔率(内側ポンプ電極22の気孔率)と等しく、条件3を満たしていない。実施例4の主ポンプセル21の電極のAuの含有率は、「0.0」であり、測定用ポンプセル41の電極のAuの含有率は、「0.0」である。つまり、実施例4において、測定用ポンプセル41の電極のAuの含有率(測定電極44のAuの含有率)は、主ポンプセル21の電極のAuの含有率(内側ポンプ電極22のAuの含有率)と等しく、条件5を満たしていない。実施例4の主ポンプセル21の電極間距離は、「0.2」であり、測定用ポンプセル41の電極間距離は、「0.2」である。つまり、実施例4において、測定用ポンプセル41の電極間距離(測定電極44と外側ポンプ電極23との間の距離)は、主ポンプセル21の電極間距離(内側ポンプ電極22と外側ポンプ電極23との間の距離)と等しく、条件6を満たしていない。実施例4の主ポンプセル21の電極における貴金属とジルコニアとの比は、「85:15」であり、測定用ポンプセル41の電極における貴金属とジルコニアとの比は、「85:15」である。つまり、実施例4において、測定用ポンプセル41の電極におけるジルコニアに対する貴金属の比率(測定電極44におけるジルコニアに対する貴金属の比率)は、主ポンプセル21の電極におけるジルコニアに対する貴金属の比率(内側ポンプ電極22におけるジルコニアに対する貴金属の比率)と等しく、条件4を満たしていない。
【0217】
そのため、実施例4において、上述の条件1-条件6のうち、条件2、条件3、条件4、条件5、および、条件6は満たされていないが、条件1は満たされている。そして、実施例4の「ヒータへの投入パワーに対するセル抵抗の傾きの比(主/測定用)」は、「2」である。つまり、実施例4に係るガスセンサは、主ポンプセル21のセル抵抗の傾き(ヒータ70への投入パワーに対するセル抵抗の傾き)が、測定用ポンプセル41のセル抵抗の傾きの、1.5倍から1000倍の値となっている。そして、実施例4に係るガスセンサの「オフセット変動評価1」および「オフセット変動評価2」は、共に、最高評価の「A」であった。
【0218】
(実施例5について)
実施例5の主ポンプセル21の電極面積は、「10.0」であり、測定用ポンプセル41の電極面積は、「10.0」である。つまり、実施例5において、測定用ポンプセル41の電極面積(測定電極44の面積)は、主ポンプセル21の電極面積(内側ポンプ電極22の面積)と等しく、条件1を満たしていない。実施例5の主ポンプセル21の電極の厚みは、「10」であり、測定用ポンプセル41の電極の厚みは、「25」である。つまり、実施例5において、測定用ポンプセル41の電極の厚み(測定電極44の厚み)は、主ポンプセル21の電極の厚み(内側ポンプ電極22の厚み)よりも厚く、条件2を満たしている。実施例5の主ポンプセル21の電極の気孔率は、「20」であり、測定用ポンプセル41の電極の気孔率は、「20」である。つまり、実施例5において、測定用ポンプセル41の電極の気孔率(測定電極44の気孔率)は、主ポンプセル21の電極の気孔率(内側ポンプ電極22の気孔率)と等しく、条件3を満たしていない。実施例5の主ポンプセル21の電極のAuの含有率は、「0.0」であり、測定用ポンプセル41の電極のAuの含有率は、「0.0」である。つまり、実施例5において、測定用ポンプセル41の電極のAuの含有率(測定電極44のAuの含有率)は、主ポンプセル21の電極のAuの含有率(内側ポンプ電極22のAuの含有率)と等しく、条件5を満たしていない。実施例5の主ポンプセル21の電極間距離は、「0.2」であり、測定用ポンプセル41の電極間距離は、「0.2」である。つまり、実施例5において、測定用ポンプセル41の電極間距離(測定電極44と外側ポンプ電極23との間の距離)は、主ポンプセル21の電極間距離(内側ポンプ電極22と外側ポンプ電極23との間の距離)と等しく、条件6を満たしていない。実施例5の主ポンプセル21の電極における貴金属とジルコニアとの比は、「85:15」であり、測定用ポンプセル41の電極における貴金属とジルコニアとの比は、「85:15」である。つまり、実施例5において、測定用ポンプセル41の電極におけるジルコニアに対する貴金属の比率(測定電極44におけるジルコニアに対する貴金属の比率)は、主ポンプセル21の電極におけるジルコニアに対する貴金属の比率(内側ポンプ電極22におけるジルコニアに対する貴金属の比率)と等しく、条件4を満たしていない。
【0219】
そのため、実施例5において、上述の条件1-条件6のうち、条件1、条件3、条件4、条件5、および、条件6は満たされていないが、条件2は満たされている。そして、実施例5の「ヒータへの投入パワーに対するセル抵抗の傾きの比(主/測定用)」は、「1.5」である。つまり、実施例5に係るガスセンサは、主ポンプセル21のセル抵抗の傾き(ヒータ70への投入パワーに対するセル抵抗の傾き)が、測定用ポンプセル41のセル抵抗の傾きの、1.5倍から1000倍の値となっている。そして、実施例5に係るガスセンサの「オフセット変動評価1」および「オフセット変動評価2」は、共に、最高評価の「A」であった。
【0220】
(実施例6について)
実施例6の主ポンプセル21の電極面積は、「10.0」であり、測定用ポンプセル41の電極面積は、「10.0」である。つまり、実施例6において、測定用ポンプセル41の電極面積(測定電極44の面積)は、主ポンプセル21の電極面積(内側ポンプ電極22の面積)と等しく、条件1を満たしていない。実施例6の主ポンプセル21の電極の厚みは、「15」であり、測定用ポンプセル41の電極の厚みは、「15」である。つまり、実施例6において、測定用ポンプセル41の電極の厚み(測定電極44の厚み)は、主ポンプセル21の電極の厚み(内側ポンプ電極22の厚み)と等しく、条件2を満たしていない。実施例6の主ポンプセル21の電極の気孔率は、「15」であり、測定用ポンプセル41の電極の気孔率は、「15」である。つまり、実施例6において、測定用ポンプセル41の電極の気孔率(測定電極44の気孔率)は、主ポンプセル21の電極の気孔率(内側ポンプ電極22の気孔率)と等しく、条件3を満たしていない。実施例6の主ポンプセル21の電極のAuの含有率は、「0.0」であり、測定用ポンプセル41の電極のAuの含有率は、「0.0」である。つまり、実施例6において、測定用ポンプセル41の電極のAuの含有率(測定電極44のAuの含有率)は、主ポンプセル21の電極のAuの含有率(内側ポンプ電極22のAuの含有率)と等しく、条件5を満たしていない。実施例6の主ポンプセル21の電極間距離は、「0.4」であり、測定用ポンプセル41の電極間距離は、「0.2」である。つまり、実施例6において、測定用ポンプセル41の電極間距離(測定電極44と外側ポンプ電極23との間の距離)は、主ポンプセル21の電極間距離(内側ポンプ電極22と外側ポンプ電極23との間の距離)よりも小さく、条件6を満たしている。実施例6の主ポンプセル21の電極における貴金属とジルコニアとの比は、「85:15」であり、測定用ポンプセル41の電極における貴金属とジルコニアとの比は、「85:15」である。つまり、実施例6において、測定用ポンプセル41の電極におけるジルコニアに対する貴金属の比率(測定電極44におけるジルコニアに対する貴金属の比率)は、主ポンプセル21の電極におけるジルコニアに対する貴金属の比率(内側ポンプ電極22におけるジルコニアに対する貴金属の比率)と等しく、条件4を満たしていない。
【0221】
そのため、実施例6において、上述の条件1-条件6のうち、条件1、条件2、条件3、条件4、および、条件5は満たされていないが、条件6は満たされている。そして、実施例6の「ヒータへの投入パワーに対するセル抵抗の傾きの比(主/測定用)」は、「1.8」である。つまり、実施例6に係るガスセンサは、主ポンプセル21のセル抵抗の傾き(ヒータ70への投入パワーに対するセル抵抗の傾き)が、測定用ポンプセル41のセル抵抗の傾きの、1.5倍から1000倍の値となっている。そして、実施例6に係るガスセンサの「オフセット変動評価1」および「オフセット変動評価2」は、共に、最高評価の「A」であった。
【0222】
(実施例7について)
実施例7の主ポンプセル21の電極面積は、「10.0」であり、測定用ポンプセル41の電極面積は、「10.0」である。つまり、実施例7において、測定用ポンプセル41の電極面積(測定電極44の面積)は、主ポンプセル21の電極面積(内側ポンプ電極22の面積)と等しく、条件1を満たしていない。実施例7の主ポンプセル21の電極の厚みは、「15」であり、測定用ポンプセル41の電極の厚みは、「15」である。つまり、実施例7において、測定用ポンプセル41の電極の厚み(測定電極44の厚み)は、主ポンプセル21の電極の厚み(内側ポンプ電極22の厚み)と等しく、条件2を満たしていない。実施例7の主ポンプセル21の電極の気孔率は、「15」であり、測定用ポンプセル41の電極の気孔率は、「15」である。つまり、実施例7において、測定用ポンプセル41の電極の気孔率(測定電極44の気孔率)は、主ポンプセル21の電極の気孔率(内側ポンプ電極22の気孔率)と等しく、条件3を満たしていない。実施例7の主ポンプセル21の電極のAuの含有率は、「0.0」であり、測定用ポンプセル41の電極のAuの含有率は、「0.0」である。つまり、実施例7において、測定用ポンプセル41の電極のAuの含有率(測定電極44のAuの含有率)は、主ポンプセル21の電極のAuの含有率(内側ポンプ電極22のAuの含有率)と等しく、条件5を満たしていない。実施例7の主ポンプセル21の電極間距離は、「0.2」であり、測定用ポンプセル41の電極間距離は、「0.2」である。つまり、実施例7において、測定用ポンプセル41の電極間距離(測定電極44と外側ポンプ電極23との間の距離)は、主ポンプセル21の電極間距離(内側ポンプ電極22と外側ポンプ電極23との間の距離)と等しく、条件6を満たしていない。実施例7の主ポンプセル21の電極における貴金属とジルコニアとの比は、「70:30」であり、測定用ポンプセル41の電極における貴金属とジルコニアとの比は、「85:15」である。つまり、実施例7において、測定用ポンプセル41の電極におけるジルコニアに対する貴金属の比率(測定電極44におけるジルコニアに対する貴金属の比率)は、主ポンプセル21の電極におけるジルコニアに対する貴金属の比率(内側ポンプ電極22におけるジルコニアに対する貴金属の比率)よりも高く、条件4を満たしている。
【0223】
そのため、実施例7において、上述の条件1-条件6のうち、条件1、条件2、条件3、条件5、および、条件6は満たされていないが、条件4は満たされている。そして、実施例7の「ヒータへの投入パワーに対するセル抵抗の傾きの比(主/測定用)」は、「2.5」である。つまり、実施例7に係るガスセンサは、主ポンプセル21のセル抵抗の傾き(ヒータ70への投入パワーに対するセル抵抗の傾き)が、測定用ポンプセル41のセル抵抗の傾きの、1.5倍から1000倍の値となっている。そして、実施例7に係るガスセンサの「オフセット変動評価1」および「オフセット変動評価2」は、共に、最高評価の「A」であった。
【0224】
(実施例8について)
実施例8の主ポンプセル21の電極面積は、「10.0」であり、測定用ポンプセル41の電極面積は、「10.0」である。つまり、実施例8において、測定用ポンプセル41の電極面積(測定電極44の面積)は、主ポンプセル21の電極面積(内側ポンプ電極22の面積)と等しく、条件1を満たしていない。実施例8の主ポンプセル21の電極の厚みは、「15」であり、測定用ポンプセル41の電極の厚みは、「15」である。つまり、実施例8において、測定用ポンプセル41の電極の厚み(測定電極44の厚み)は、主ポンプセル21の電極の厚み(内側ポンプ電極22の厚み)と等しく、条件2を満たしていない。実施例8の主ポンプセル21の電極の気孔率は、「50」であり、測定用ポンプセル41の電極の気孔率は、「10」である。つまり、実施例8において、測定用ポンプセル41の電極の気孔率(測定電極44の気孔率)は、主ポンプセル21の電極の気孔率(内側ポンプ電極22の気孔率)よりも低く、条件3を満たしている。実施例8の主ポンプセル21の電極のAuの含有率は、「0.0」であり、測定用ポンプセル41の電極のAuの含有率は、「0.0」である。つまり、実施例8において、測定用ポンプセル41の電極のAuの含有率(測定電極44のAuの含有率)は、主ポンプセル21の電極のAuの含有率(内側ポンプ電極22のAuの含有率)と等しく、条件5を満たしていない。実施例8の主ポンプセル21の電極間距離は、「0.2」であり、測定用ポンプセル41の電極間距離は、「0.2」である。つまり、実施例8において、測定用ポンプセル41の電極間距離(測定電極44と外側ポンプ電極23との間の距離)は、主ポンプセル21の電極間距離(内側ポンプ電極22と外側ポンプ電極23との間の距離)と等しく、条件6を満たしていない。実施例8の主ポンプセル21の電極における貴金属とジルコニアとの比は、「85:15」であり、測定用ポンプセル41の電極における貴金属とジルコニアとの比は、「85:15」である。つまり、実施例8において、測定用ポンプセル41の電極におけるジルコニアに対する貴金属の比率(測定電極44におけるジルコニアに対する貴金属の比率)は、主ポンプセル21の電極におけるジルコニアに対する貴金属の比率(内側ポンプ電極22におけるジルコニアに対する貴金属の比率)と等しく、条件4を満たしていない。
【0225】
そのため、実施例8において、上述の条件1-条件6のうち、条件1、条件2、条件4、条件5、および、条件6は満たされていないが、条件3は満たされている。そして、実施例8の「ヒータへの投入パワーに対するセル抵抗の傾きの比(主/測定用)」は、「1.8」である。つまり、実施例8に係るガスセンサは、主ポンプセル21のセル抵抗の傾き(ヒータ70への投入パワーに対するセル抵抗の傾き)が、測定用ポンプセル41のセル抵抗の傾きの、1.5倍から1000倍の値となっている。そして、実施例8に係るガスセンサの「オフセット変動評価1」および「オフセット変動評価2」は、共に、最高評価の「A」であった。
【0226】
(実施例9について)
実施例9の主ポンプセル21の電極面積は、「7.5」であり、測定用ポンプセル41の電極面積は、「10.0」である。つまり、実施例9において、測定用ポンプセル41の電極面積(測定電極44の面積)は、主ポンプセル21の電極面積(内側ポンプ電極22の面積)よりも大きく、条件1を満たしている。実施例9の主ポンプセル21の電極の厚みは、「15」であり、測定用ポンプセル41の電極の厚みは、「40」である。つまり、実施例9において、測定用ポンプセル41の電極の厚み(測定電極44の厚み)は、主ポンプセル21の電極の厚み(内側ポンプ電極22の厚み)よりも厚く、条件2を満たしている。実施例9の主ポンプセル21の電極の気孔率は、「15」であり、測定用ポンプセル41の電極の気孔率は、「5」である。つまり、実施例9において、測定用ポンプセル41の電極の気孔率(測定電極44の気孔率)は、主ポンプセル21の電極の気孔率(内側ポンプ電極22の気孔率)よりも低く、条件3を満たしている。実施例9の主ポンプセル21の電極のAuの含有率は、「1.0」であり、測定用ポンプセル41の電極のAuの含有率は、「0.0」である。つまり、実施例9において、測定用ポンプセル41の電極のAuの含有率(測定電極44のAuの含有率)は、主ポンプセル21の電極のAuの含有率(内側ポンプ電極22のAuの含有率)よりも低く、条件5を満たしている。実施例9の主ポンプセル21の電極間距離は、「0.4」であり、測定用ポンプセル41の電極間距離は、「0.2」である。つまり、実施例9において、測定用ポンプセル41の電極間距離(測定電極44と外側ポンプ電極23との間の距離)は、主ポンプセル21の電極間距離(内側ポンプ電極22と外側ポンプ電極23との間の距離)よりも小さく、条件6を満たしている。実施例9の主ポンプセル21の電極における貴金属とジルコニアとの比は、「85:15」であり、測定用ポンプセル41の電極における貴金属とジルコニアとの比は、「85:15」である。つまり、実施例9において、測定用ポンプセル41の電極におけるジルコニアに対する貴金属の比率(測定電極44におけるジルコニアに対する貴金属の比率)は、主ポンプセル21の電極におけるジルコニアに対する貴金属の比率(内側ポンプ電極22におけるジルコニアに対する貴金属の比率)と等しく、条件4を満たしていない。
【0227】
そのため、実施例9において、上述の条件1-条件6のうち、条件4は満たされていないが、条件1、条件2、条件3、条件5、および、条件6は満たされている。そして、実施例9の「ヒータへの投入パワーに対するセル抵抗の傾きの比(主/測定用)」は、「10」である。つまり、実施例9に係るガスセンサは、主ポンプセル21のセル抵抗の傾き(ヒータ70への投入パワーに対するセル抵抗の傾き)が、測定用ポンプセル41のセル抵抗の傾きの、1.5倍から1000倍の値となっている。そして、実施例9に係るガスセンサの「オフセット変動評価1」および「オフセット変動評価2」は、共に、最高評価の「A」であった。
【0228】
(実施例10について)
実施例10の主ポンプセル21の電極面積(「面積」の「主」)は、「1.5」であり、測定用ポンプセル41の電極面積(「面積」の「測定用」)は、「7.5」である。つまり、実施例10において、測定用ポンプセル41の電極面積(測定電極44の面積)は、主ポンプセル21の電極面積(内側ポンプ電極22の面積)よりも大きく、条件1を満たしている。実施例10の主ポンプセル21の電極の厚み(「厚み」の「主」)は、「15」であり、測定用ポンプセル41の電極の厚み(「厚み」の「測定用」)は、「25」である。つまり、実施例10において、測定用ポンプセル41の電極の厚み(測定電極44の厚み)は、主ポンプセル21の電極の厚み(内側ポンプ電極22の厚み)よりも厚く、条件2を満たしている。実施例10の主ポンプセル21の電極の気孔率(「気孔率」の「主」)は、「10」であり、測定用ポンプセル41の電極の気孔率(「気孔率」の「測定用」)は、「5」である。つまり、実施例10において、測定用ポンプセル41の電極の気孔率(測定電極44の気孔率)は、主ポンプセル21の電極の気孔率(内側ポンプ電極22の気孔率)よりも低く、条件3を満たしている。実施例10の主ポンプセル21の電極のAuの含有率(「Auの含有率」の「主」)は、「1.0」であり、測定用ポンプセル41の電極のAuの含有率(「Auの含有率」の「測定用」)は、「0.0」である。つまり、実施例10において、測定用ポンプセル41の電極のAuの含有率(測定電極44のAuの含有率)は、主ポンプセル21の電極のAuの含有率(内側ポンプ電極22のAuの含有率)よりも低く、条件5を満たしている。実施例10の主ポンプセル21の電極間距離(「電極間距離」の「主」)は、「0.4」であり、測定用ポンプセル41の電極間距離(「電極間距離」の「測定用」)は、「0.2」である。つまり、実施例10において、測定用ポンプセル41の電極間距離(測定電極44と外側ポンプ電極23との間の距離)は、主ポンプセル21の電極間距離(内側ポンプ電極22と外側ポンプ電極23との間の距離)よりも小さく、条件6を満たしている。実施例10の主ポンプセル21の電極における貴金属とジルコニアとの比(「貴金属/ジルコニア比」の「主」)は、「70:30」であり、測定用ポンプセル41の電極における貴金属とジルコニアとの比(「貴金属/ジルコニア比」の「測定用」)は、「85:15」である。つまり、実施例10において、測定用ポンプセル41の電極におけるジルコニアに対する貴金属の比率(測定電極44におけるジルコニアに対する貴金属の比率)は、主ポンプセル21の電極におけるジルコニアに対する貴金属の比率(内側ポンプ電極22におけるジルコニアに対する貴金属の比率)よりも高く、条件4を満たしている。
【0229】
そのため、実施例10において、上述の条件1-条件6の全てが満たされている。そして、実施例10の「ヒータへの投入パワーに対するセル抵抗の傾きの比(主/測定用)」は、「1000」である。つまり、実施例10に係るガスセンサは、主ポンプセル21のセル抵抗の傾き(ヒータ70への投入パワーに対するセル抵抗の傾き)が、測定用ポンプセル41のセル抵抗の傾きの、1.5倍から1000倍の値となっている。そして、実施例10に係るガスセンサの「オフセット変動評価1」および「オフセット変動評価2」は、共に、最高評価の「A」であった。
【0230】
(実施例11について)
実施例11の主ポンプセル21の電極面積(「面積」の「主」)は、「6.0」であり、測定用ポンプセル41の電極面積(「面積」の「測定用」)は、「5.0」である。つまり、実施例11において、測定用ポンプセル41の電極面積(測定電極44の面積)は、主ポンプセル21の電極面積(内側ポンプ電極22の面積)よりも小さく、条件1を満たしていない。実施例11の主ポンプセル21の電極の厚み(「厚み」の「主」)は、「10」であり、測定用ポンプセル41の電極の厚み(「厚み」の「測定用」)は、「20」である。つまり、実施例11において、測定用ポンプセル41の電極の厚み(測定電極44の厚み)は、主ポンプセル21の電極の厚み(内側ポンプ電極22の厚み)よりも厚く、条件2を満たしている。実施例11の主ポンプセル21の電極の気孔率(「気孔率」の「主」)は、「20」であり、測定用ポンプセル41の電極の気孔率(「気孔率」の「測定用」)は、「20」である。つまり、実施例11において、測定用ポンプセル41の電極の気孔率(測定電極44の気孔率)は、主ポンプセル21の電極の気孔率(内側ポンプ電極22の気孔率)と等しく、条件3を満たしていない。実施例11の主ポンプセル21の電極のAuの含有率(「Auの含有率」の「主」)は、「0.0」であり、測定用ポンプセル41の電極のAuの含有率(「Auの含有率」の「測定用」)は、「0.0」である。つまり、実施例11において、測定用ポンプセル41の電極のAuの含有率(測定電極44のAuの含有率)は、主ポンプセル21の電極のAuの含有率(内側ポンプ電極22のAuの含有率)と等しく、条件5を満たしていない。実施例11の主ポンプセル21の電極間距離(「電極間距離」の「主」)は、「0.2」であり、測定用ポンプセル41の電極間距離(「電極間距離」の「測定用」)は、「0.2」である。つまり、実施例11において、測定用ポンプセル41の電極間距離(測定電極44と外側ポンプ電極23との間の距離)は、主ポンプセル21の電極間距離(内側ポンプ電極22と外側ポンプ電極23との間の距離)と等しく、条件6を満たしていない。実施例11の主ポンプセル21の電極における貴金属とジルコニアとの比(「貴金属/ジルコニア比」の「主」)は、「85:15」であり、測定用ポンプセル41の電極における貴金属とジルコニアとの比(「貴金属/ジルコニア比」の「測定用」)は、「85:15」である。つまり、実施例11において、測定用ポンプセル41の電極におけるジルコニアに対する貴金属の比率(測定電極44におけるジルコニアに対する貴金属の比率)は、主ポンプセル21の電極におけるジルコニアに対する貴金属の比率(内側ポンプ電極22におけるジルコニアに対する貴金属の比率)と等しく、条件4を満たしていない。
【0231】
そのため、実施例11において、上述の条件1-条件6のうち、条件2は満たされているが、条件1、条件3、条件4、条件5、および、条件6は満たされていない。そして、実施例11の「ヒータへの投入パワーに対するセル抵抗の傾きの比(主/測定用)」は、「1.2」である。つまり、実施例11に係るガスセンサは、主ポンプセル21のセル抵抗の傾き(ヒータ70への投入パワーに対するセル抵抗の傾き)が、測定用ポンプセル41のセル抵抗の傾きの、1.5倍から1000倍の値となっていない。ただし、実施例11において、調整用ポンプセル(主ポンプセル21)のセル抵抗の傾きは、測定用ポンプセル41のセル抵抗の傾きよりも大きい。そして、実施例11に係るガスセンサの「オフセット変動評価1」および「オフセット変動評価2」は、共に、最高評価の「A」よりも低いものの、「B」であった。
【0232】
(実施例12について)
実施例12の主ポンプセル21の電極面積(「面積」の「主」)は、「1.0」であり、測定用ポンプセル41の電極面積(「面積」の「測定用」)は、「10.0」である。つまり、実施例12において、測定用ポンプセル41の電極面積(測定電極44の面積)は、主ポンプセル21の電極面積(内側ポンプ電極22の面積)よりも大きく、条件1を満たしている。実施例12の主ポンプセル21の電極の厚み(「厚み」の「主」)は、「15」であり、測定用ポンプセル41の電極の厚み(「厚み」の「測定用」)は、「25」である。つまり、実施例12において、測定用ポンプセル41の電極の厚み(測定電極44の厚み)は、主ポンプセル21の電極の厚み(内側ポンプ電極22の厚み)よりも厚く、条件2を満たしている。実施例12の主ポンプセル21の電極の気孔率(「気孔率」の「主」)は、「10」であり、測定用ポンプセル41の電極の気孔率(「気孔率」の「測定用」)は、「5」である。つまり、実施例12において、測定用ポンプセル41の電極の気孔率(測定電極44の気孔率)は、主ポンプセル21の電極の気孔率(内側ポンプ電極22の気孔率)よりも低く、条件3を満たしている。実施例12の主ポンプセル21の電極のAuの含有率(「Auの含有率」の「主」)は、「1.0」であり、測定用ポンプセル41の電極のAuの含有率(「Auの含有率」の「測定用」)は、「0.0」である。つまり、実施例12において、測定用ポンプセル41の電極のAuの含有率(測定電極44のAuの含有率)は、主ポンプセル21の電極のAuの含有率(内側ポンプ電極22のAuの含有率)よりも低く、条件5を満たしている。実施例12の主ポンプセル21の電極間距離(「電極間距離」の「主」)は、「0.4」であり、測定用ポンプセル41の電極間距離(「電極間距離」の「測定用」)は、「0.2」である。つまり、実施例12において、測定用ポンプセル41の電極間距離(測定電極44と外側ポンプ電極23との間の距離)は、主ポンプセル21の電極間距離(内側ポンプ電極22と外側ポンプ電極23との間の距離)よりも小さく、条件6を満たしている。実施例12の主ポンプセル21の電極における貴金属とジルコニアとの比(「貴金属/ジルコニア比」の「主」)は、「70:30」であり、測定用ポンプセル41の電極における貴金属とジルコニアとの比(「貴金属/ジルコニア比」の「測定用」)は、「85:15」である。つまり、実施例12において、測定用ポンプセル41の電極におけるジルコニアに対する貴金属の比率(測定電極44におけるジルコニアに対する貴金属の比率)は、主ポンプセル21の電極におけるジルコニアに対する貴金属の比率(内側ポンプ電極22におけるジルコニアに対する貴金属の比率)よりも高く、条件4を満たしている。
【0233】
そのため、実施例12において、上述の条件1-条件6の全てが満たされている。ただし、実施例12の「ヒータへの投入パワーに対するセル抵抗の傾きの比(主/測定用)」は、「2000」である。つまり、実施例12に係るガスセンサは、主ポンプセル21のセル抵抗の傾き(ヒータ70への投入パワーに対するセル抵抗の傾き)が、測定用ポンプセル41のセル抵抗の傾きの、1.5倍から1000倍の値となっていない。ただし、実施例12において、調整用ポンプセル(主ポンプセル21)のセル抵抗の傾きは、測定用ポンプセル41のセル抵抗の傾きよりも大きい。そして、実施例12に係るガスセンサの「オフセット変動評価1」および「オフセット変動評価2」は、共に、最高評価の「A」よりも低いものの、「B」であった。
【0234】
(比較例1について)
比較例1の主ポンプセル21の電極面積(「面積」の「主」)は、「12.0」であり、測定用ポンプセル41の電極面積(「面積」の「測定用」)は、「1.0」である。つまり、比較例1において、測定用ポンプセル41の電極面積(測定電極44の面積)は、主ポンプセル21の電極面積(内側ポンプ電極22の面積)よりも小さく、条件1を満たしていない。比較例1の主ポンプセル21の電極の厚み(「厚み」の「主」)は、「15」であり、測定用ポンプセル41の電極の厚み(「厚み」の「測定用」)は、「15」である。つまり、比較例1において、測定用ポンプセル41の電極の厚み(測定電極44の厚み)は、主ポンプセル21の電極の厚み(内側ポンプ電極22の厚み)と等しく、条件2を満たしていない。比較例1の主ポンプセル21の電極の気孔率(「気孔率」の「主」)は、「10」であり、測定用ポンプセル41の電極の気孔率(「気孔率」の「測定用」)は、「20」である。つまり、比較例1において、測定用ポンプセル41の電極の気孔率(測定電極44の気孔率)は、主ポンプセル21の電極の気孔率(内側ポンプ電極22の気孔率)よりも高く、条件3を満たしていない。比較例1の主ポンプセル21の電極のAuの含有率(「Auの含有率」の「主」)は、「0.5」であり、測定用ポンプセル41の電極のAuの含有率(「Auの含有率」の「測定用」)は、「0.0」である。つまり、比較例1において、測定用ポンプセル41の電極のAuの含有率(測定電極44のAuの含有率)は、主ポンプセル21の電極のAuの含有率(内側ポンプ電極22のAuの含有率)よりも低く、条件5を満たしている。比較例1の主ポンプセル21の電極間距離(「電極間距離」の「主」)は、「0.2」であり、測定用ポンプセル41の電極間距離(「電極間距離」の「測定用」)は、「0.2」である。つまり、比較例1において、測定用ポンプセル41の電極間距離(測定電極44と外側ポンプ電極23との間の距離)は、主ポンプセル21の電極間距離(内側ポンプ電極22と外側ポンプ電極23との間の距離)と等しく、条件6を満たしていない。比較例1の主ポンプセル21の電極における貴金属とジルコニアとの比(「貴金属/ジルコニア比」の「主」)は、「85:15」であり、測定用ポンプセル41の電極における貴金属とジルコニアとの比(「貴金属/ジルコニア比」の「測定用」)は、「85:15」である。つまり、比較例1において、測定用ポンプセル41の電極におけるジルコニアに対する貴金属の比率(測定電極44におけるジルコニアに対する貴金属の比率)は、主ポンプセル21の電極におけるジルコニアに対する貴金属の比率(内側ポンプ電極22におけるジルコニアに対する貴金属の比率)と等しく、条件4を満たしていない。
【0235】
そのため、比較例1において、上述の条件1-条件6のうち、条件5は満たされているが、条件1、条件2、条件3、条件4、および、条件6は満たされていない。そして、比較例1の「ヒータへの投入パワーに対するセル抵抗の傾きの比(主/測定用)」は、「0.002」である。つまり、比較例1に係るガスセンサは、主ポンプセル21のセル抵抗の傾き(ヒータ70への投入パワーに対するセル抵抗の傾き)が、測定用ポンプセル41のセル抵抗の傾きの、1.5倍から1000倍の値となっていない。また、比較例1において、調整用ポンプセル(主ポンプセル21)のセル抵抗の傾きは、測定用ポンプセル41のセル抵抗の傾きよりも小さい。そして、比較例1に係るガスセンサの「オフセット変動評価1」および「オフセット変動評価2」は、共に、最低評価の「F」であった。
【0236】
(比較例2について)
比較例2の主ポンプセル21の電極面積(「面積」の「主」)は、「5.0」であり、測定用ポンプセル41の電極面積(「面積」の「測定用」)は、「5.0」である。つまり、比較例2において、測定用ポンプセル41の電極面積(測定電極44の面積)は、主ポンプセル21の電極面積(内側ポンプ電極22の面積)よりもと等しく、条件1を満たしていない。比較例2の主ポンプセル21の電極の厚み(「厚み」の「主」)は、「15」であり、測定用ポンプセル41の電極の厚み(「厚み」の「測定用」)は、「15」である。つまり、比較例2において、測定用ポンプセル41の電極の厚み(測定電極44の厚み)は、主ポンプセル21の電極の厚み(内側ポンプ電極22の厚み)と等しく、条件2を満たしていない。比較例2の主ポンプセル21の電極の気孔率(「気孔率」の「主」)は、「15」であり、測定用ポンプセル41の電極の気孔率(「気孔率」の「測定用」)は、「15」である。つまり、比較例2において、測定用ポンプセル41の電極の気孔率(測定電極44の気孔率)は、主ポンプセル21の電極の気孔率(内側ポンプ電極22の気孔率)と等しく、条件3を満たしていない。比較例2の主ポンプセル21の電極のAuの含有率(「Auの含有率」の「主」)は、「0.0」であり、測定用ポンプセル41の電極のAuの含有率(「Auの含有率」の「測定用」)は、「0.0」である。つまり、比較例2において、測定用ポンプセル41の電極のAuの含有率(測定電極44のAuの含有率)は、主ポンプセル21の電極のAuの含有率(内側ポンプ電極22のAuの含有率)と等しく、条件5を満たしていない。比較例2の主ポンプセル21の電極間距離(「電極間距離」の「主」)は、「0.2」であり、測定用ポンプセル41の電極間距離(「電極間距離」の「測定用」)は、「0.2」である。つまり、比較例2において、測定用ポンプセル41の電極間距離(測定電極44と外側ポンプ電極23との間の距離)は、主ポンプセル21の電極間距離(内側ポンプ電極22と外側ポンプ電極23との間の距離)と等しく、条件6を満たしていない。比較例2の主ポンプセル21の電極における貴金属とジルコニアとの比(「貴金属/ジルコニア比」の「主」)は、「85:15」であり、測定用ポンプセル41の電極における貴金属とジルコニアとの比(「貴金属/ジルコニア比」の「測定用」)は、「85:15」である。つまり、比較例2において、測定用ポンプセル41の電極におけるジルコニアに対する貴金属の比率(測定電極44におけるジルコニアに対する貴金属の比率)は、主ポンプセル21の電極におけるジルコニアに対する貴金属の比率(内側ポンプ電極22におけるジルコニアに対する貴金属の比率)と等しく、条件4を満たしていない。
【0237】
そのため、比較例2において、上述の条件1-条件6の全てが満たされていない。そして、比較例2の「ヒータへの投入パワーに対するセル抵抗の傾きの比(主/測定用)」は、「1.0」である。つまり、比較例2に係るガスセンサは、主ポンプセル21のセル抵抗の傾き(ヒータ70への投入パワーに対するセル抵抗の傾き)が、測定用ポンプセル41のセル抵抗の傾きの、1.5倍から1000倍の値となっていない。また、比較例2において、調整用ポンプセル(主ポンプセル21)のセル抵抗の傾きは、測定用ポンプセル41のセル抵抗の傾きと等しい。そして、比較例2に係るガスセンサの「オフセット変動評価1」および「オフセット変動評価2」は、共に、最低評価の「F」であった。
【0238】
実施例1-12と、比較例1-2との比較から分かるように、調整用ポンプセル(
図6の例では主ポンプセル21)のセル抵抗の傾きを測定用ポンプセル41のセル抵抗の傾きより大きくすることで、オフセット値の変動を抑制することができる。つまり、主ポンプセル21のセル抵抗の傾きを測定用ポンプセル41のセル抵抗の傾きよりも大きくすることで、被測定ガスにおけるNO
xの濃度が高い環境下での高精度な濃度測定と、濃度が低い環境下での高精度な濃度測定とを両立することができる。したがって、本実施形態に係るガスセンサは、高濃度下でも低濃度下でも、高精度な濃度測定を実現することができる。また、実施例1-10と、実施例11-12との比較から分かるように、調整用ポンプセルのセル抵抗の傾きを、測定用ポンプセル41のセル抵抗の傾きの、1.5倍から1000倍の値とすることで、オフセット値の変動を効果的に抑制することができる。また、実施例1から実施例12、および、比較例2から分かるように、調整用ポンプセルのセル抵抗の傾きを、測定用ポンプセル41のセル抵抗の傾きより大きくするのには、条件1-条件6の少なくとも1つが満たされるように調整用ポンプセルおよび測定用ポンプセル41を構成することが有用である。
【0239】
(調整用ポンプセルについての注記)
なお、本件発明者は、調整用ポンプセルとしての補助ポンプセル50のセル抵抗の傾きを、測定用ポンプセル41のセル抵抗の傾きより大きくするのには、条件1-条件6の少なくとも1つが満たされるように補助ポンプセル50および測定用ポンプセル41を構成することが有用であることも確認している。調整用ポンプセルとして補助ポンプセル50を用いる場合、条件1は、「測定電極44の面積が、補助ポンプ電極51の面積よりも大きい」との条件を意味する。条件2は、「測定電極44の厚みが、補助ポンプ電極51の厚みよりも厚い」との条件を意味する。条件3は、「測定電極44の気孔率が、補助ポンプ電極51の気孔率よりも低い」との条件を意味する。条件4は、「測定電極44におけるジルコニアに対する貴金属の比率が、補助ポンプ電極51におけるジルコニアに対する貴金属の比率よりも高い」との条件を意味する。条件5は、「測定電極44のAuの含有率が、補助ポンプ電極51のAuの含有率よりも低い」との条件を意味する。条件6は、「測定電極44と外側ポンプ電極23との間の距離が、補助ポンプ電極51と外側ポンプ電極23(または、第3電極)との間の距離よりも小さい(短い)」との条件を意味する。
【符号の説明】
【0240】
S、S1…ガスセンサ、100…センサ素子、111…検出部、
112…温度調整部(調整部)、1…第1基板層(固体電解質層)、
2…第2基板層(固体電解質層)、3…第3基板層(固体電解質層)、
4…第1固体電解質層(固体電解質層)、5…スペーサ層(固体電解質層)、
6…第2固体電解質層(固体電解質層)、7…被測定ガス流通部(内部空間)、
44…測定電極、23…外側ポンプ電極、41…測定用ポンプセル、
70…ヒータ(ヒータ部)、22…内側ポンプ電極、
51…補助ポンプ電極(内側ポンプ電極)、21…主ポンプセル(調整用ポンプセル)、
50…補助ポンプセル(調整用ポンプセル)