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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023104002
(43)【公開日】2023-07-27
(54)【発明の名称】エクソンヒト化マウス
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/63 20060101AFI20230720BHJP
   C12N 15/12 20060101ALI20230720BHJP
   C12N 5/10 20060101ALI20230720BHJP
   A01K 67/027 20060101ALI20230720BHJP
   C12N 15/09 20060101ALN20230720BHJP
   C12N 5/0735 20100101ALN20230720BHJP
【FI】
C12N15/63 Z
C12N15/12
C12N5/10
A01K67/027
C12N15/09 110
C12N5/0735
【審査請求】有
【請求項の数】1
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023075475
(22)【出願日】2023-05-01
(62)【分割の表示】P 2021522610の分割
【原出願日】2019-05-27
(71)【出願人】
【識別番号】598081621
【氏名又は名称】株式会社トランスジェニック
(74)【代理人】
【識別番号】100092783
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 浩
(74)【代理人】
【識別番号】100120134
【弁理士】
【氏名又は名称】大森 規雄
(74)【代理人】
【識別番号】100196966
【弁理士】
【氏名又は名称】植田 渉
(72)【発明者】
【氏名】山村 研一
(72)【発明者】
【氏名】李 正花
【テーマコード(参考)】
4B065
【Fターム(参考)】
4B065AA91X
4B065AA93Y
4B065AB01
4B065AC14
4B065AC20
4B065BA02
4B065CA24
4B065CA46
4B065CA60
(57)【要約】      (修正有)
【課題】マウス遺伝子の中でエクソンだけがヒト化されたマウスを提供する。
【解決手段】標的遺伝子をトランスサイレチン遺伝子とした、マウス遺伝子のエクソン塩基配列だけが、ヒトエクソンの塩基配列に置換されたエクソンヒト化遺伝子を持つドナーベクター、マウス内在性遺伝子をそのドナーベクターで置換したES細胞、並びに当該ES細胞を用いて作出されたマウスを提供する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
マウスのゲノムに含まれるn個のエクソンにより構成される標的遺伝子の当該n個のエクソンを含む断片のうち、前記n個のエクソンが、対応するヒト標的遺伝子のエクソンにそれぞれ置換された断片を含む、ドナーベクター。
【請求項2】
標的遺伝子がトランスサイレチン遺伝子である、請求項1に記載のドナーベクター。
【請求項3】
第1番目のエクソンの直ぐ上流でゲノムを切断するためのガイドRNAを発現するベクターであって、切断の標的配列、tracrRNA、及びDNA切断酵素をコードするDNAを含む前記ベクター。
【請求項4】
第n番目のエクソンの直ぐ下流でゲノムを切断するためのガイドRNAを発現するベクターであって、切断の標的配列、tracrRNA、及びDNA切断酵素をコードするDNAを含む前記ベクター。
【請求項5】
請求項1又は2に記載のドナーベクター、並びに請求項3及び4に記載のベクターをES細胞に導入することにより、イントロン部分はマウス遺伝子の塩基配列、エクソン部分はヒト遺伝子の塩基配列で置換された、エクソンヒト化ES細胞。
【請求項6】
請求項5に記載のES細胞を用いて作出されたエクソンヒト化マウス。
【請求項7】
マウス遺伝子のエクソンをヒト遺伝子のエクソンで置換したエクソンヒト化マウスの作製方法であって、以下の工程:
(a)請求項1又は2に記載のドナーベクター、並びに請求項3及び4に記載のベクターをES細胞に導入する工程、
(b)工程(a)で得られたES細胞からキメラ胚を作出し、当該キメラ胚を仮親に移植することによりキメラマウスを作出する工程、並びに
(c)工程(b)で得られたキメラマウスのうち雄マウスを雌マウスと交配し、子マウスを出産させる工程
を含む、前記方法。
【請求項8】
請求項6に記載のエクソンヒト化マウスのエクソンに、疾患に関与する遺伝子変異を導入することを特徴とする、疾患モデルマウスを作製する方法。
【請求項9】
請求項6に記載のエクソンヒト化マウス、又は請求項8に記載の方法により作製された疾患モデルマウスを含む、遺伝子治療用実験動物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マウス遺伝子のイントロンはマウスのままで、エクソンだけをヒトの塩基配列に置き換えた遺伝子を有するベクター、そのエクソンヒト化遺伝子を持つ胚性幹細胞(以下「ES細胞」という)及びそれを用いて樹立されたエクソンヒト化マウスに関する。
【背景技術】
【0002】
1980年にGordonらにより単離した外来遺伝子を受精卵へ注入することにより、トランスジェニックマウスが作製された(Gordon et al. Proc. Natl. Acad. Sci. USA. 77:7380-7384, 1980)。以来、ヒト遺伝子をマウスに導入し発現させるため、単離したヒト遺伝子のゲノム遺伝子(一例を挙げると、Nagata et al. J. Biochem. 117:169-175, 1995)、ミニ遺伝子(一例を挙げると、Khiallan et al. J. Biol. Chem. 266:23373-23379, 1991)、人工細菌染色体(一例を挙げると、Nieelsen et al. J. Biol. Chem. 272:29752-29758, 1997). 等をマウス受精卵に注入してトランスジェニックマウスを作製する方法が用いられ多くの実施例がある。
【0003】
1989年には、マウスES細胞を用いた相同組換え法により、特定の遺伝子を狙って破壊できる方法が開発された(Zijlstra et al. Nature 342:435-438, 1989:Schwartzberg et al. Science 246:799-803, 1989)。この相同組換え法を利用して、マウス遺伝子座にヒト遺伝子のcDNA(Zhao et al. Gene Cells 13:1257-1268, 2008:Liu et al. Lab. Invest. 97:395-408, 2017)やミニ遺伝子(Lewis et al. Matrix Biol 31:214-226, 2012)等をノックインし、発現を起こす方法が知られている。しかし、導入されたヒト遺伝子の発現量は、必ずしも正常ではなく、高値であったり、低値であったり、また、発現の組織特異性も異なるなど、多くの欠点があった。
【0004】
上記から、上記の方法で作製したトランスジェニックマウスは、例えばヒト疾患モデルとして病態解析には使用できるものの、治療法の開発と有効性の検証に使用するには、正常な発現量と発現パターンが求められるため、この点からはモデルとしての限界があった。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Gordon et al. Proc. Natl. Acad. Sci. USA. 77:7380-7384, 1980
【非特許文献2】Nagata et al. J. Biochem. 117:169-1175, 1995
【非特許文献3】Khillan et al. J. Biol. Chem. 266:23373-23379, 1991
【非特許文献4】Nielsen et al. J. Biol. Chem. 272:29752-29758, 1997
【非特許文献5】Zijlstra et al. Nature 342:435-438, 1989
【非特許文献6】Schwartzberg et al. Science 246:799-803, 1989
【非特許文献7】Zhao et al. Gene Cells 13:1257-1268, 2008
【非特許文献8】Liu et al. Lab. Invest. 97:395-408, 2017
【非特許文献9】Lewis et al. Matrix Biol 31:214-226, 2012
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、マウス遺伝子の中でエクソンだけがヒト化されたマウスを提供することを目的とする。より詳細には、遺伝子発現量、発現の組織特異性から見て正常の発現パターンを得るため、遺伝子のイントロンはマウスの塩基配列のままで、エクソンだけがヒトの塩基配列を持つエクソンヒト化マウスを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、上記課題を解決するためトランスサイレチン(transthyretin: TTR)遺伝子を代表例として取り上げ、鋭意研究を行った結果、マウスTtr遺伝子のうちイントロンはマウスの塩基配列ままで、エクソン部分だけがヒトの塩基配列で置換したマウスES細胞を作製し、キメラマウス作製を通して、Ttr遺伝子のエクソンだけがヒト化されたマウスを作出することに成功した。
このマウスにおけるエクソンヒト化Ttr遺伝子の発現の組織特異性を解析したところ、マウスTtr遺伝子の発現パターンと同じであること、また、血中のTTR量も、野生型マウスのマウスTTRのレベルと同じであることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明は、以下の通りである。
(1)マウスのゲノムに含まれるn個のエクソンにより構成される標的遺伝子の当該n個のエクソンを含む断片のうち、前記n個のエクソンが、対応するヒト標的遺伝子のエクソンにそれぞれ置換された断片を含む、ドナーベクター。
(2)標的遺伝子がトランスサイレチン遺伝子である、(1)に記載のドナーベクター。
(3)第1番目のエクソンの直ぐ上流でゲノムを切断するためのガイドRNAを発現するベクターであって、切断の標的配列、tracrRNA、及びDNA切断酵素をコードするDNAを含む前記ベクター。
(4)第n番目のエクソンの直ぐ下流でゲノムを切断するためのガイドRNAを発現するベクターであって、切断の標的配列、tracrRNA、及びDNA切断酵素をコードするDNAを含む前記ベクター。
(5)(1)又は(2)に記載のドナーベクター、並びに(3)及び(4)に記載のベクターをES細胞に導入することにより、イントロン部分はマウス遺伝子の塩基配列、エクソン部分はヒト遺伝子の塩基配列で置換された、エクソンヒト化ES細胞。
(6)(5)に記載のES細胞を用いて作出されたエクソンヒト化マウス。
(7)マウス遺伝子のエクソンをヒト遺伝子のエクソンで置換したエクソンヒト化マウスの作製方法であって、以下の工程:
(a)(1)又は(2)に記載のドナーベクター、並びに(3)及び(4)に記載のベクターをES細胞に導入する工程、
(b)工程(a)で得られたES細胞からキメラ胚を作出し、当該キメラ胚を仮親に移植することによりキメラマウスを作出する工程、並びに
(c)工程(b)で得られたキメラマウスのうち雄マウスを雌マウスと交配し、子マウスを出産させる工程
を含む、前記方法。
(8)(6)に記載のエクソンヒト化マウスのエクソンに、疾患に関与する遺伝子変異を導入することを特徴とする、疾患モデルマウスを作製する方法。
(9)(6)に記載のエクソンヒト化マウス、又は(8)に記載の方法により作製された疾患モデルマウスを含む、遺伝子治療用実験動物。
[発明の効果]
【0009】
本発明により、イントロン部分はマウス遺伝子の塩基配列で、エクソン部分はヒト遺伝子の塩基配列で置換された遺伝子を持つES細胞が提供される。本発明のES細胞は、ヒトTTRタンパクを正常な量、正常な組織特異性で発現するエクソンヒト化マウスを樹立させることができる。本発明のエクソンヒト化マウスは、発現パターンが、量的にも、組織特異的にも正常であり、ヒト疾患モデルマウス作製や薬剤及び遺伝子治療の効果をみる上で極めて有用である。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1図1は、ドナーベクターの作製の概略を示す図である。
図2図2は、pBSK-TTR-all-in-one donor vectorの制限酵素地図を示す図である。
図3図3は、Ex1-gRNAの図である。
図4図4は、エクソン1のgRNAの評価を示す図である。
図5図5は、Ex4-gRNAの図である。
図6図6は、エクソン4のgRNAの評価を示す図である。
図7図7は、遺伝子判定用プライマーを示す図である。
図8図8は、F1マウスのPCR解析を示す図である。
図9図9は、エクソン12の増幅を示す図である。
図10図10は、エクソン1の塩基配列を示す図である。
図11図11は、エクソン2の塩基配列を示す図である。
図12図12は、エクソン3の増幅を示す図である。
図13図13は、エクソン3の塩基配列を示す図である。
図14図14は、エクソン4の増幅を示す図である。
図15図15はエクソン4の塩基配列を示す図である。
図16図16は、5’側のサザンブロット解析を示す図である。
図17図17は、3’側のサザンブロット解析を示す図である。
図18図18は、発現の組織特異性の解析を示す図である。
図19図19は、血中のヒトTTR及びマウスTTRのレベルを示す図である。
図20図20は、変異型アレルを持つマウスの作製法を示す図である。
図21図21は、crRNA, tracrRNA, ドナーオリゴの塩基配列を示す図である。
図22図22は、pX330-ATGを示す図である。
図23図23は、pX330-Met30を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明を詳細に説明する。
1.概要
本発明は、遺伝子のイントロン部分はマウスの塩基配列で、エクソン部分はヒトの塩基配列で置換した遺伝子で置換されたES細胞であり、ES細胞から、ヒトタンパクが正常の発現パターンを示すマウスを確立したというものである。
一般に、ヒト遺伝子を導入したトランスジェニックマウスでは、受精卵に注入したヒト遺伝子は、ランダムな染色体上の位置に組み込まれるため、遺伝子発現は個体ごとに異なり、正常な発現パターンを示すことは稀である。また、マウス遺伝子の中に、cDNAやミニ遺伝子を挿入しても、ゲノム構造の変化をもたらし、正常な発現パターンを示すことは稀である。
【0012】
そこで本発明においては、ヒトタンパクが正常な発現パターンを示すマウスを樹立するため、エクソンのみがヒト化されたマウスを樹立する。このエクソンヒト化マウスを樹立するため、イントロンはマウスの塩基配列、エクソンはヒト塩基配列をもつ遺伝子を含むドナーベクターを構築し、それを本来のマウス遺伝子座で置換したES細胞を樹立することに成功した。そのES細胞を用いてキメラマウスを作製し、生殖系列に伝わる生殖キメラマウスの作製にも成功した。
【0013】
本発明のマウスは、マウスの標的遺伝子のエクソンだけが、ヒトエクソンに置換されたマウスである。
本発明の好ましい態様では、本発明のマウスは、マウスのタンパクは発現せず、ヒトタンパクだけが発現するマウスである。この態様では、イントロンだけは、マウスの塩基配列を持つため、発現調節に関与する配列はマウス由来配列のままであり、マウスの転写因子等が正常に結合し機能する。その結果、正常な発現量、組織特異的発現パターンを得ることができる。
【0014】
2.ドナーベクターの作製
本発明のマウス作製においては、まず正常のES細胞に、CRISPR/Cas9法に基づいて作製したガイドRNAと、イントロンはマウスの塩基配列、エクソンはヒトの塩基配列を持つドナーベクターとを電気穿孔法で導入し、相同組換えを起こしてマウス内在性遺伝子がドナーベクターで置換されることにより、マウスゲノムのうちエクソンがヒト遺伝子に置換されたES細胞を作出する。
本発明において、ドナーベクターは、マウスのゲノムに含まれるn個のエクソンにより構成される標的遺伝子の当該n個のエクソンを含む断片のうち、前記n個のエクソンが対応のヒト標的遺伝子のエクソンにそれぞれ置換された断片を含む。nは、ゲノムに含まれるエクソンの数を表す。
【0015】
図1上パネルは、ゲノム上にヒト化の標的となるエクソン、及びヒト化の標的とはならないイントロンを含むゲノム地図を示す。図1はトランスサイレチン遺伝子のエクソンを例示しており、エクソンの数は4(エクソン数:n=4)である(図1において数字1~4で示されたボックス)。以下、このトランスサイレチン遺伝子を例に本発明を説明する。なお、マウスのトランスサイレチン遺伝子を「Ttr遺伝子」、ヒトのトランスサイレチン遺伝子を「TTR遺伝子」と表記する。
【0016】
エクソンだけがヒトの塩基配列で、イントロンはマウスの塩基配列である遺伝子を作製するには、いくつかの方法がある。
例えば、ヒトのエクソンとマウスのイントロンをそれぞれクローニングし、最後につなぎ合わせる方法がある。しかし、つなぐための制限酵素部位が必ずしも一致せず、操作が困難である。
効率の良い方法として、図1に示すように、ヒトエクソンとその上流及び下流のマウスのイントロン部分を一括してDNA合成し、これをベクターに挿入する方法である。すなわち、図1において、「pUC57-Donor-Ex1-Ex2」、「pUC57-Donor-Ex3」及び「pUC57-Donor-Ex4」と表示された領域はDNA合成し、他の領域(イントロン領域)はクローニングする。この方法によれば、つなぐための制限酵素部位を自由に選択できる。イントロン部分は、周知の方法でマウスゲノムから容易にクローニングできる。最後に、これらのDNA断片を連結すれば良い。
【0017】
サイズの大きな遺伝子の中には、1つのベクターに収めることが困難な数のエクソンを有する場合がある。その場合は、一つのドナーベクターではなく、いくつかのドナーベクターに分割して作製することもできる。すなわち、全部でn個のエクソンをk個(n、n、・・・n個)のサブクラス(kは、ドナーベクターの数を意味する。)に分けて、上記と同様にして、それぞれのサブクラスのエクソンごとにドナーベクターを作製すればよい。例えば、10個のエクソン(n=10)がある場合は、例えば4個(n=4)、3個(n=3)、3個(n=3)のエクソンを有する3つのサブクラス(k=3)のエクソンごとにドナーベクターを作製する。
【0018】
3.ガイドRNAの作製
本発明のガイドRNAを発現ベクターは、第1番目のエクソンの直ぐ上流でゲノムを切断するためのガイドRNAを発現するベクター、及び第n番目(マウスTtr遺伝子の場合は第4番目)のエクソンの直ぐ下流でゲノムを切断するためのガイドRNAを発現するベクターであり、それぞれのベクターは、切断の標的配列、tracrRNA、及びDNA切断酵素をコードするDNAを含む。「直ぐ上流」とは、第1番目のエクソンの5’末端の1~20塩基上流のことを意味し、「直ぐ下流」とは、第n番目のエクソンの3’末端の1~20塩基下流のことを意味する。n個のエクソンをn、n、・・・n個のサブクラスに分割した場合は、サブクラスに分割しない場合と同様に定義される。例えば、それぞれのサブクラスにおいて、第1番目のエクソンの5’末端の1~20塩基上流、あるいはn、n、・・・n番目のエクソンの3’末端の1~20塩基下流と定義される。
【0019】
CRISPR/Cas9システムは、細菌等が、侵入してきたウイルスやプラスミドのDNAを選択的に破壊する防御機構である。この機構の発現には、基本的には、crRNA、tracrRNAそしてDNA2本鎖切断活性のあるCas9という分子が必要である。crRNAの中にウイルス等のDNAと相補的に結合する配列があり、別の部分でtracrRNAと結合する。tracrRNAはCas9と結合しており、結果的にcrRNAが結合したウイルスのDNA部位にCas9を運んでくる。そして、Cas9はその部位でウイルスDNAを切断することにより、ウイルスを破壊する(Jinek et al. Science 337:816-821, 2012)。この3つを発現させれば、哺乳類細胞でも特定の配列部分でDNAを切断できること、すなわち遺伝子を破壊できることが明らかとなった(Ran et al. Nat Protoc. 8:2281-2308, 2013)。さらに、これら3つを一つのベクターで発現させることのできるベクター(例:pX330)も開発されている (Sakuma et al. Sci. Rep. 4:5400, 2014)。
【0020】
遺伝子の中のどの塩基配列が、最も破壊しやすいかを検索できるホームページも公開されている。現在では、例えばCCTop - CRISPR/Cas9 target online predictor(https://crispr.cos.uni-heidelberg.de)を使い、破壊したい付近の塩基配列を検索すれば、候補となる20bpの配列を示し、同時に似たような配列のある場所、いわゆるoff target siteも表示される。この中から、優先順に3ヶ所程度を選択し、pX330に組み込み、培養細胞を使用して、2本鎖DNA切断の効率を調べることができる(Mashiko et al. Sci. Report 3:3355, 2013)。
【0021】
4.ノックインES細胞の単離
エクソンヒト化マウスを樹立するには、成体になったマウスではなく、ES細胞の段階で内在遺伝子をエクソンヒト化遺伝子で置換する必要がある。
【0022】
そこで本発明においては、ES細胞に内在する遺伝子をエクソンヒト化遺伝子で置き換えるため、通常の相同組換え法又はCRISPR/Cas9法を利用することができる。CRISPR/Cas9法では、特定の塩基配列を特異的に切断することができ、これを利用して効率的にノックアウトマウスが作製できる(Wang et al. Cell 153:910-918, 2013)。この時、細胞内ではDNA修復系が誘導され、相同組換えも高率に起こり、ノックインも可能であることが示されている(Yang et al. Cell 154:1370-1379, 2013)。
【0023】
ES細胞の培養培地としては、例えばGMEM培地(Glasgow's Minimal Essential Medium)、DMEM(ダルベッコの改変イーグル培地)、RPMI1640培地培地などが挙げられる。培養培地には、KSR(Knockout Serum Replacement)、ウシ胎児血清(FBS)、塩基性繊維芽細胞増殖因子(bFGF)、β-メルカプトエタノール、非必須アミノ酸、グルタミン酸、ピルビン酸ナトリウム及び抗生物質(例えばペニシリン、ストレプトマイシン等)などから選択し、適宜添加することができる。
ES細胞を所定期間培養後、EDTA又はコラゲナーゼIVを含む培地でインキュベートすることによりES細胞を回収する。回収されたES細胞は、必要によりフィーダー細胞の存在又は非存在下で培養することにより複数回継代することもできる。なお、フィーダー不含条件での内部細胞塊の培養は、MEFで馴化された培地中で行なうことができる。
【0024】
培養されたES細胞は、一般にそれらのマーカー遺伝子を用いて同定することができる。ES細胞のマーカー遺伝子としては、例えばOct3/4、アルカリ性ホスファターゼ、Sox2、Nanog、GDF3、REX1、FGF4などが挙げられる。マーカー遺伝子又は遺伝子産物の存在は、PCRやウエスタンブロッティング等の任意の手法により検出すればよい。
【0025】
マウス遺伝子から上記エクソンヒト化遺伝子への置換は、CRISPR/Cas9法に準じて行うことができる。まず、上記のドナーベクターとガイドRNAをES細胞に電気穿孔法で導入する。
【0026】
ドナーベクターとガイドRNAをES細胞に導入すると、ガイドRNAの中に含まれる特異的な配列とゲノム上の相補的な配列が結合し、その部位でCas9によりDNAの2本鎖切断が起こる。その結果、いわゆるhomology directed repairの系が誘導され、ドナーベクターに含まれるマウスの塩基配列とマウスゲノム上の相同配列の間で相同組換えが起こり、エクソンヒト化遺伝子が挿入される(図7)。
【0027】
この方法によれば、内在性マウス遺伝子をエクソンヒト化遺伝子で置換することができる。図7に置換アレルの図を示す。
ここで、図7において、「Ttr wild allele」の図の1~4の数字は、マウストランスサイレチン遺伝子のエクソン1~4を表し、「Humanized allele」の図の1~4の数字はヒトのエクソン1~4を表す。
【0028】
Ttr遺伝子以外の他の遺伝子の場合も、上記トランスサイレチンの場合と同様である。すなわち、エクソン部分はヒトの塩基配列、イントロン部分はマウスの塩基配列をもつ遺伝子を作製し、この遺伝子とガイドRNAを、CRISPR/Cas9方によりES細胞に導入すればよい。
【0029】
例えばRbp4遺伝子のエクソンだけがヒト化されたマウスを作製する場合は、4つのエクソンはヒトの塩基配列、イントロンはマウスの塩基配列となるエクソンヒト化Rbp4hRBP4exon遺伝子を作製し、この遺伝子をガイドRNAとともにES細胞に導入すれば、Rbp4hRBP4exonマウスを作製できる。
【0030】
5.キメラマウス作製
キメラマウスの作製は、標準的な方法で行うことができる。
まず、上記樹立されたES細胞を、8細胞期胚と凝集させるか、あるいは胚盤法に注入する。このようにして作製された胚をキメラ胚というが、このキメラ胚を偽妊娠仮親の子宮内に移植して出産させることによりキメラマウスを作製する。
例えば、キメラ胚の作製は、まず、ホルモン剤により過排卵処理を施した雌マウスを、雄マウスと交配させる。その後、所定日数後に卵管又は子宮から初期発生胚を回収する。回収した胚に、ES細胞を凝集または注入し、キメラ胚を作製する。
【0031】
ここで、「胚」とは、個体発生における受精から出生までの段階の個体を意味し、2細胞期胚、4細胞期胚、8細胞期胚、桑実期胚、胚盤胞などを包含する。8細胞期胚を用いる場合には受精から2.5日目に、胚盤胞を用いる場合には受精から3.5日目にそれぞれ卵管又は子宮から初期発生胚を回収することができる。
ES細胞と胚を用いて集合体を作製する方法として、マイクロインジェクション法、凝集法などの公知手法を用いることができる。「集合体」とは、ES細胞及び胚が同一空間内に集まって形成する集合体を意味し、ES細胞が胚に注入された形態、胚を個々の細胞にばらして、ES細胞とともに凝集する形態のいずれをも意味する。
【0032】
マイクロインジェクション法を採用する場合は、回収した胚に、ES細胞を注入して細胞の集合体を作製する。また、凝集法を採用する場合は、ES細胞を、透明帯を除去した正常胚にふりかけて凝集させればよい。
一方、仮親にするための偽妊娠雌マウスは、正常性周期の雌マウスを、精管結紮などにより去勢した雄マウスと交配することにより得ることができる。作出した偽妊娠マウスに対して、上述の方法により作製したキメラ胚を子宮内に移植し、その後出産させることによりキメラマウスを作製することができる。
【0033】
6.エクソンヒト化マウスの作製
このようなキメラマウスの中から、ES細胞移植胚由来の雄マウスを選択する。選択した雄のキメラマウスが成熟した後、このマウスを近交系マウス系統の雌マウスと交配させる。そして、誕生した子マウスに、ES細胞に由来するマウスの被毛色が現れることにより、ES細胞がキメラマウスの生殖系列へ導入されたことを確認することができる。
【0034】
誕生した子マウスがエクソンヒト化遺伝子を持つかどうか、正常な配列を持つかどうかは、DNAを制限酵素で切断し目的のサイズのDNA断片が検出されるかどうか、及びDNAの塩基配列を解析することにより同定できる。一旦正常な配列を持つことが確認できれば、それ以降の世代では、ヒトエクソンとマウスイントロンの配列をプライマーとした、PCR解析によりエクソンヒト化マウスを同定できる。
【0035】
7.エクソンヒト化マウスの評価
エクソンがヒト化されたことは、血清中のトランスサイレチンをELISAやウエスタンブロット法により、マウストランスサイレチンとは区別して測定することにより確認することができる。他の遺伝子をヒト化した場合も当該他の遺伝子の発現タンパクをELISAやウエスタンブロット法により確認することができる。
【0036】
8.エクソンヒト化マウスを用いた変異エクソンヒト化マウスの作製
単一の遺伝子異常により発症するヒトの遺伝性疾患は多数存在する。例えば、TTR遺伝子の点突然変異によって優性遺伝病である家族性アミロイドポリニューロパチーが発症する。野生型のヒトTTRエクソンを持つマウス(野生型エクソンヒト化マウス)の受精卵に、crRNA、tracrRNA、Cas9、それにドナーオリゴを注入することにより、30番目のバリンをコードするGTGを、ATGの配列に置換することができる(Yang et al. Cell 154:1370-1379, 2013)。このように、ヒト野生型のエクソン配列を用いてマウス遺伝子のエクソンを置換して、野生型エクソンヒト化マウスを作製すれば、そのマウスが有するヒトエクソンを変異させることにより、変異型のエクソンを持つマウス、すなわちヒト患者と同じ変異遺伝子を持つ疾患モデルマウスを作製できる。
【0037】
9.野生型エクソンヒト化および変異エクソンヒト化マウスを用いた遺伝子治療実験
野生型エクソンヒト化および変異エクソンヒト化マウスを交配すれば、野生型と変異型の遺伝子を持つヘテロマウスが得られる。このマウスの遺伝子型はヒト患者と同じである。このエクソンヒト化ヘテロマウスを用いれば、治療法の検証に使用できる。特に、近年注目されている肝臓で発現する遺伝子の異常による遺伝性疾患の遺伝子治療実験を行うことができる。
従来は、マウス遺伝子に変異を起こし、それをモデルとして治療実験が行われている(Yin et al. Nat Biotechnol.32:551-553, 2014; Pankowicz et al. Nat Commun<https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/?term=Reprogramming+metabolic+pathways+in+vivo+with+CRISPR%2FCas9+genome+editing+to+treat+hereditary+tyrosinaemia.> 7:12642, 2016; Yang et al. Nat Biotechnol 34: 334-338, 2016;Yin et al. Nat Biotechnol. 34:328-333, 2016;Jarrett et al. Sci Rep. 7:44624, 2017;Villiger et al. Nat Med. 24:1519-1525,2018)。しかし、ヒトの遺伝子とは塩基配列が同じではなく、実際にヒトで行う際には、参考とはなっても、必ずしも正確に治療効果を予測できるわけではない。エクソンヒト化マウスでは、エクソンがヒトと同じ配列であり、治療効果を確実に予測できるため、その有用性は高い。
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明する。但し、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。なお、これらの実験等に関して、動物実験委員会、第2種組換えDNA実験安全委員会に申請し、すべて認可された。
【実施例0038】
ドナーベクター
4つの各exonに対してコーディング領域の配列をマウスからヒトに置換したドナーベクターを、以下の方法で作製した(図1)。
Exon 1とExon 2は近傍にあるため、1つのドナーDNA (pUC57-DonorEx1-Ex2)として合成した。これは、AvrII siteからATGの直前まではマウスの塩基配列、ATGから始まるexon 1はヒトの塩基配列、intron 1はマウスの塩基配列、exon 2はヒトの塩基配列、intron 2はスプライスドナーからSacI siteまでマウスの塩基配列を含んでいる。Exon 3 のドナーDNA(pUC57-Donor-Ex3)は、マウス intron 2のXbaI siteからスプライスアクセプターまでをマウスの塩基配列、exon 3はヒトの塩基配列、intron 3はスプライスドナーからBclIまでマウスの塩基配列として合成した。Exon 4のドナーDNA(pUC57-Donorr-Ex4)は、intron 3のSspI siteからスプライスアクセプターまでをマウスの塩基配列、exon 4はヒトの塩基配列、3’ non-coding regionの終止コドンの後ろからEcoRI siteまでがマウスの塩基配列として合成した。これ以外に、5’ homologous arm (2.8kb)、intron 2 (3.4kb)、intron 3 (3.5kb)、3’homologous arm (2.9kb)は、C57BL/6系統のES細胞RENKA株のゲノムDNAを鋳型としてDNA断片を増幅した。上記7つのDNA断片をつなぎ、ドナーベクター(pBSK-TTR-all-in-one donor vector)を作製した(配列番号1)
配列番号1に示す塩基配列において、ドナーベクター(pBSK-TTR-all-in-one donor vector)を構成する配列と配列番号との関係を表1に示す。
【表1】
【0039】
作製したドナーベクターの構造を確認するため、制限酵素で消化し、電気泳動パターンを解析した。観察されたDNA 切断パターンは、ベクターのデザインから予想されたものと一致した(図2)。また、各PCRで増幅したDNA全域の塩基配列を決定して、NCBJ に
登録されているC57BL/6Jマウスのゲノム塩基配列と比較したところ、全く同じであった。上記の方法で、エクソンだけをヒト化した遺伝子を作製できることが証明された。
【0040】
ガイドRNA
ガイドRNAの作製に必要な塩基配列等は、すでに詳細に報告されている(Ran et al. Nat. Protoc. 8:2281-2308, 2013)。また、crRNA、tracrRNA、Cas9を一つのベクターで発現させることのできるベクター(例:pX330)も開発され(Sakuma et al. Sci. Rep. 4:5400, 2014)、Addgene等から入手できる。
【0041】
上記の論文等に基づき、エクソン1を効率よく破壊できる20 bpの塩基配列を、検索ソフト(Crispr design tool)で解析した。ガイドRNA を選定するにあたり、Scoreが高いもののなかから、ヒト化した後のコーディング領域がgRNAで切断されないように、ミスマッチが多いものを選定した。その結果、以下に示す2つの候補配列を選択した(図3)。
Ex1-gRNA1: CTGCTCCTCCTCTGCCTTGC TGG(配列番号13)
Ex1-gRNA2: GCAGAGGAGGAGCAGACGAT GAG(配列番号14)
【0042】
この2つの配列を挿入したガイドRNAの効率を評価するために、Mashikoらの手法を利用した(Mashiko et al. Sci. Rep. 3: 3355, 2013)。まず、CMV promoter下流にあるDasherGFP遺伝子(DNA2.0 lnc.) の5'側と3'側配列の問に、Cas9のターゲット配列(配列番号15、16)を含むTtrゲノム約500 bpの各断片を挿入し、蛍光を発しないDasherGXXFP発現ベクター(pDGXXFP-ex1、pDGXXFP-ex4) を構築した。これらを、対応する領域をターゲットとするガイドRNA-Cas9発現ベクター(pX330-Exl-gRNA1,pX330-Ex1-gRNA2,pX330-Ex4-gRNA1, pX330-Ex4-gRNA2) と共にHEK293T細胞に導入した。gRNA により導かれたCas9 タンパク質がターゲット配列を切断し、生じた末端がhomology-directed repairにより修復されると、DasherGXXFPの塩基配列がDasherGFPに再構築され、発現したタンパク質が蛍光を発する。蛍光を発する細胞数の割合がより高く、Cas9の切断活性が高いと判断されたものは、pX330-Ex1-gRNA2であった(図4)。
【0043】
エクソン4についても、同様の方法で検索し、以下に示す2つの候補配列を選定した(図5)。
Ex4-gRNA1: CTGCGATGGTGTAGTGGCGA TGG(配列番号17)
Ex4-gRNA2: GTGGCGATGGCCAGAGTCGT TGG(配列番号18)
なお、Cas9の標的配列を配列番号19、20に示す(図5)。
【0044】
この2つの配列を挿入したガイドRNAの効率を同様の方法で評価した。結果を図6に示す。蛍光を発する細胞数の割合がより高く、Cas9の切断活性が高いと判断されたものは、pX330-Ex4-gRNA2であった(図6)。
【0045】
ES細胞の樹立
本実施例では、エクソンヒト化マウスの確立のため、ドナーベクターとガイドRNA(pX330-Ex1-gRNA2とpX330-Ex4-gRNA2)を用い、ES細胞の樹立を行った。ドナーDNA、ベクター(pBSK-TTR-all-in-one donor vector)とpuro発現ベクターを電気穿孔法によりES細胞(C57BL/6N 系統由来 RENKA株)へ共導入した。その結果、4つのエクソン全てがヒトTTR遺伝子エクソンに置換されたクローンが10クローン得られた(表2)。しかし、制限酵素切断で想定されるDNA断片のみが検出されたのは3クローン(a6221,a6226,a6232)のみであり、それ以外は想定外の変異や欠失が起こっていた。
【0046】
上記の3クローンについて塩基配列を解析した。解析の結果、a6221は、全てのエクソンがヒトTTR遺伝子に置換されたアレルの他、exon 1,exon 2, exon 4のみがヒトTTR遺伝子に置換されたアレル、全てのエクソンがヒトTTR遺伝子に置換されているが、exon 2のl塩基だけヒト化していない配列をもつアレル、全てのエクソンがヒトTTR遺伝子に置換されているが、intron 1にl塩基の変異をもつアレルもあり、いわゆるモザイクであった。
a6226は、全てのエクソンがヒトTTR遺伝子に置換されたアレルの他、全てのエクソンがヒトTTR遺伝子に置換されているが、intron 2にl塩基の変異をもつアレルであり、やはりモザイクであった。
a6232は、全てのエクソンがヒトTTR遺伝子に置換されたアレルのみであった。
また、これらES細胞クローンからは、野生型のアレルは認められなかった。
以上の結果、a6221,a6226,a6232は、全てのエクソンがヒトTTR遺伝子のエクソンに置換されたアレルを持つことが明らかとなった。
【表2】
【0047】
マウス系統(TtrhTTRexon)の樹立
上記の相同組換えES細胞クローン(a6221,a6226,a6232) と、ICR系統の8細胞期胚を用い、アグリゲーション法でキメラ胚を作製した。これらのキメラ胚を移植した受容雌マウスの出産予定日に、出産を確認し、出産していない妊娠マウスについては帝王切開した。得られたキメラマウスは離乳まで飼育し、離乳時に毛色によりキメラ率を判定した。なお、キメラ率は、体全体の毛色率を目視によって判定した。a6221由来のES細胞からは、100%キメラマウスが5匹得られたが、それ以外はキメラ率が低かった(表3)。
【表3】
【0048】
上記のa6211から得られた100%キメラマウスと野生型マウスとの交配でF1産子を作製した。その結果、全てのキメラからES由来の個体が得られた。Fl産子の体組織よりDNA抽出後、ヒト化アレルに特異的なprimer(図7)を用いたPCR条件により、ヒト化されたexonを検出した。その結果、exon1 、exon2 、exon4 については、全ての個体についてexonがヒト化されており、exon3では、16 匹( 8 匹、♀8 匹)についてexonがヒト化されていることが確認された(図8)。次に、全てのexonがヒト化された16個体(No.Fl-l, Fl-3,Fl-5,FI-6,Fl-7,Fl-8,Fl-9,Fl-12,Fl-14,Fl-15,Fl-19,Fl-20,FI-25,Fl-28,Fl-30,Fl-33)の各exon について、ヒト化された配列に想定外の変異がないことを確認するため、direct sequenceにより塩基配列を解析した。
【0049】
まず、エクソン1、エクソン2を含む2.9 kbpのDNA領域を図9上に示したプライマーを用い、図9左に示したPCR条件により増幅した。
scF1: ggattgtggagttcagtagtgtgg(配列番号21)
R34072:ctgagcaggcacttcactt(配列番号22)
ex1-GXXFP-F1:agcgagtgttccgatactctaatctc(配列番号23)
ex2-GXXFP-F1:atggctctcagagggcctattttc(配列番号24)
【0050】
いずれも2.9 kbのバンドが検出された(図9右)。これらのPCR産物をBamHIで処理することでマウス配列を消化(l.8kbp,1.1kbp)し(図9右下)、BamHIで切断されなかったヒト化配列(2.9 kbp)を精製した後、direct sequenceした。その結果、ヒト化された16個体について、エクソン1(図10)及びエクソン2(図11)とも想定された配列と相違ないことが確認された。図10において、マウスエクソン1の塩基配列を配列番号25、ヒトエクソン1の塩基配列を配列番号26に示す。図11において、マウスエクソン2の塩基配列を配列番号27、ヒトエクソン2の塩基配列を配列番号28に示す。
【0051】
なお、ES細胞クローン(a622l)で確認されたintron 1の変異は認められなかった。よってこの変異は、PCR増福時のエラーと考えられる。同様に、エクソン3を含む1096 bpのDNA領域を、図12上に示したプライマー(下記)を用い、図12左に示したPCR条件により増幅した。
ex3-GXXFP-F2:aacaggtgaccccacacgcctag(配列番号29)
R37221:actggctaaggcacactaac(配列番号30)
ex3-GXXFP-F1:tatgcgcacgcttgtgtgatctatc(配列番号31)
【0052】
これらのPCR産物をEcoRIで処理することでマウス配列を消化(659bp,437bp)し(図12右下)、EcoRIで切断されなかったヒト化配列(1096 bp)を精製した後、direct sequenceした。その結果、全てのexonがヒト化された16個体について、想定された配列と相違ないことが確認された(図13)。図13において、マウスエクソン3の塩基配列を配列番号32、ヒトエクソン3の塩基配列を配列番号33に示す。
【0053】
さらに、エクソン4を含む1543 bpのDNA領域を、図14上に示したプライマー(下記)を用い、図14左に示したPCR条件により増幅した(図14右)。
F39272:gtatccaaaacctgtccacc(配列番号34)
scR1:gcagccacagttagtctcttag(配列番号35)
ex4-GXXFP-F1:ccacacagctccaaagacttagg(配列番号36)
【0054】
これらのPCR産物をMscIで処理することでマウス配列を消化(863bp, 680bp)し(図14右下)、MscIで切断されなかったヒト化配列(1543 bp)を精製した後、direct sequenceした。その結果、全てのexonがヒト化された16個体について、想定された配列と相違ないことが確認された(図15) 。図15において、マウスエクソン4の塩基配列を配列番号37、ヒトエクソン4の塩基配列を配列番号38に示す。
【0055】
また、配列決定だけでは解析できない大きなゲノムの以上の有無を解析するため、全てのexonがヒト化された16個体について、サザン・ハイブリダイゼーションにより解析した。この解析によって、いずれの制限酵素においても、5’側(図16)及び3’側(図17)とも、想定されるDNA断片のみ(5'probeは11.4kb, 3'側は8.6 kb) が検出された。以上の結果、16匹(8匹、8 匹)のFlマウスが、ヘテロ接合体マウスであると判定した。表4に解析結果をまとめた。
【表4】
【0056】
エクソンヒト化マウス(TtrhTTRexon)の評価
エクソンヒト化遺伝子の発現は、以下の事項を単独で又は適宜組み合わせて検査することで確認することができる。
【0057】
エクソンヒト化遺伝子の発現の組織特性は、各臓器・組織から抽出したRNAを用いてのノザンブロット法により解析した。野生型マウス (Ttr+/+) およびTTR遺伝子エクソンヒト化マウス (TtrhTTRexon/hTTRexon) について、生後12週齢マウスから脳、眼球、心臓、肺、肝臓、腎臓、脾臓、骨格筋を摘出・RNA抽出し、total RNA を2μgあるいは10μg となるように調製した。そこに等量のNorthernMax(登録商標)-Gly Sample Loading Dye (Thermo Fisher Scientific Inc., #AM8551)を加え混合し、1% ホルマリン変性ゲルにて電気泳動を行った。泳動後、20ラSSCを使用しキャピラリー法にてナイロンメンブレンにブロッティングした。ブロッティング後、メンブレンを風乾しUVクロスリンカーにてメンブレン上にRNAを固定した。このメンブレンのうち、2μgのRNAを使用したものをbeta-actinプローブ、10μgのRNAを使用したものをTtrプローブに使用することとした。
【0058】
野生型マウスのマウスTtrとTTR遺伝子エクソンヒト化マウスのヒトTTRをノザンブロットで検出するため、双方に共通する配列である5’UTRにTtrプローブを設計した(図18左上)。Ttr遺伝子を検出するためのプローブは、プライマーTtr-5’UTR-F1 (5’- CTA ATC TCC CTA GGC AAG GTT CAT A-3’(配列番号39))およびTtr-5’UTR-R2 (5’-AAG CCA TCC TGT CAG GAG CTT GTG G-3’(配列番号40) を使用し、野生型マウスのcDNAをテンプレートにしてPCRを行い、増幅した196 bpのフラグメントを精製して調製した。フラグメント精製後、AlkPhos Direct Labelling and Detection System (GE Healthcare) を用いキットに付属するプロトコルに従いプローブのラベルを行った。これを野生型マウスの肝臓から抽出した10・のRNAを電気泳動後にブロッティングしたメンブレンとラベルしたTtrプローブを用いて、55℃で18時間ハイブリダイゼーションを行なった。その結果、TtrhTTRexon/hTTRexonおよびTtr+/+の脳、眼、肝臓において、特異的なシグナルが検出された(図18中)。エクソンヒト化遺伝子もマウス内在性Ttr遺伝子の発現パターンは同じであった。
【0059】
インターナルコントロールとしてbeta-actinをプローブとしてハイブリダイゼーションを行った。beta-actinプローブの位置を、図18右上に示した。プライマー5’-GGT CAG AAG GAC TCC TAT GTG GG-3’(配列番号41)および5’-ATG AGG TAG TCT GTC AGG TC-3’ (配列番号42)を使用し、マウス肝臓cDNAをテンプレートにしてPCRにより増幅し、このフラグメントをpBluescriptSKにクローニングした。プラスミドから制限酵素で切り出したプローブDNAを、Ttrプローブ調製と同様の手順でプローブをラベルし、55ーCで18時間ハイブリダイゼーションを行った。その結果、エクソンヒト化マウス及び野生型マウスにおいて同様のパターンで検出された(図18下)。
【0060】
TTRタンパクは、肝臓で生産され血液中に分泌される。そのため、血中のTTRを測定することで、発現量を正確に解析できる。ELISA(Enzyme-Linked Immuno Sorbent Assay)法あるいはウエスタンブロット法が用いられるが、ヒトTTRの場合は市販のELISA測定キットにより測定した。
ELlSA によるヒトTTRの濃度測定は、下記のTTR測定ELlSAキット(Human Prealbumin (Transthyretin, TTR) ELSIA kit、メーカー・型番: AssayPro・EP3010・l)を用いて、ヒトTTR濃度を、生後12週齢のTtrhTTRexon/hTTRexonマウスの雌雄各5匹の血清を用いて測定した。
各検体の測定濃度は、キット付属標準品を用いて得られた検量線(31.25, 7.81, 1.95,0.49,0.12,0 ng/ml) から決定した。各検体の血清濃度は測定濃度と希釈倍率より補正し算出した。その結果、TtrhTTRexon/hTTRexonの雌では 152.42±8.97 μg/ml、雄では 185.72±14.79 μg/mlであった(図19左)。
【0061】
マウスのTTRは、ウエスタンブロット法で測定した。生後12週齢の野生型マウスTtr+/+の血清を用い、ウエスタンブロット解析によるマウスTTR濃度測定を行った。マウスTTR検出抗体として、抗TTR抗体(Proteintech,11891-1-AP)を用い、検量線作成については、リコンビナントマウスTTR (mTTR: LifeSpan BioSciences, LS-G12719)を用いた。その結果、Ttr+/+の雌では 137.93±4.37 μg/ml、雄では 136.27±4.59 μg/mlであった(図19右)。
以上から、TtrhTTRexon/hTTRexonのヒトTTR量と、のマウスTTR量はほぼ同じであることが分かった。
【実施例0062】
野生型エクソンヒト化ヘテロマウス(Ttr+/hV30exon)からのホモマウス(TtrhV30exon/hV30exon)の作製
樹立済みの野生型エクソンヒト化ヘテロマウス(Ttr+/hV30exon)を交配し野生型エクソンヒト化ホモマウス(TtrhV30exon/hV30exon)を多数得ることができる。
【0063】
TtrhV30exon/hV30exonのからの変異型エクソンヒト化ヘテロマウス(TtrhV30exon/hM30exon)の作製
メスのTtrhV30exon/hV30exonの過剰排卵により得られた卵子と、オスのTtrhV30exon/hV30exoの精子を用いての体外受精により、多数のTtrhV30exon/hV30exonの受精卵を得る。受精卵に、crRNA, tracrRNA, Cas9 mRNA, single strand DNA (ssDNA)を、すでに確立されている電気穿孔法にて導入する(図20)。crRNA, tracrRNA, ssDNAの配列は図21に示した(配列番号43~47)。注入後の受精卵において、ドナーオリゴとゲノム上のヒトTTR遺伝子との間で相同組換えが起こり、30番目のGTGがATGに置換される。2細胞期胚になったところで仮親の卵管に移植し、産子を得る。生まれたマウスのジェノタイピングを行い、野生型と変異型のエクソンをヘテロで持つTtrhV30exon/hM30exonマウスを選別する。
【0064】
TtrhV30exon/hM30exonマウスからのTtrhM30exon/hM30exonおよびTtrhV30exon/hM30exonの増産
上記で得られたTtrhV30exon/hM30exonマウスを交配しただけでは、その1/2しかTtrhV30exon/hM30exonマウスにならないので、効率が悪い。そこで、まずはTtrhV30exon/hM30exonマウスの交配によりTtrhM30exon/hM30exonを多数得る。その後、TtrhV30exon/hV30exonとTtrhM30exon/hM30exonの卵子および精子を用いて体外受精を行うと、全てがTtrhV30exon/hM30exonの遺伝子型となる。これによりTtrhV30exon/hM30exonマウスを増産できる。TtrhV30exon/hM30exonマウスは、ヒト患者と同じ遺伝子型であり、次に述べる遺伝子治療実験に用いることができる。
【実施例0065】
ヒト野生型TTR遺伝子(TTRVal30)およびヒト変異型TTR遺伝子(TTRMet30)の同時破壊
TtrhV30exon/hM30exonマウスを用いて、野生型と変異型の遺伝子の両方とも破壊する実験、および変異型遺伝子だけを破壊する実験が可能である。まず、前者について述べる。
TtrhV30exon/hM30exonの肝臓内のTTR遺伝子を破壊するため、CRISPR/Cas9法を用いる。遺伝子発現を完全に抑制するためには、翻訳開始コドンであるATGを破壊するのが一番確実である。このため、CCTop(https://crispr.cos.uni-heidelberg.de)というネット上のサイトを用い、target配列を検索した。PAM配列の上流3bpのところで2本鎖切断が起こると言われているので(Jinek et al. Science 337:816-821, 2012)、ATGを含むTCCACTCATTCTTGGCAGGA(TGG)(配列番号48:右端のTGGがPAM配列となる。下線がATG)が一番良い配列であった。
【0066】
この切断活性をすでに述べたMashikoらの方法で評価できる (Mashiko et al. Sci. Rep. 3: 3355, 2013)。標的配列を中心付近に含む0.5 kb-1.0 kb程度の遺伝子断片をプラスミドpCAG-EGxxFP(addgeneより入手)のマルチクローニングサイトに導入する。pCAG-EGxxFPはEGFP遺伝子について約500bp ほどの重複配列を持ったN末端側とC末端側の配列であり、標的配列(0.5-1.0 kb)を挟むような構造になっている。ターゲット配列を導入したpCAG-EGxxFPとガイドRNA配列を導入したpX330 をHEK293細胞に共導入する。HEK293細胞内でgRNAとCAS9 が発現し、pCAG-EGxxFPに導入された標的配列に結合し二本鎖切断が起こる。するとN末側の EGFP と C 末側の EGFP 配列の重複部分が遺伝子相同組換えやシングルストランドアニーリングを起こし、完全なEGFP配列として組換えを起こし、EGFPが発現し、緑色の蛍光を発するようになる。つまり、緑色蛍光を発する細胞数を比較することにより、各標的配列に対する切断活性を相対的に評価し、最も効率の高い標的配列を決定することができる。上記の配列をpX330に組込み、pX330-ATGを作製した(図22)。図22において、Cas9のターゲット配列を配列番号49に示し、ターゲット配列の5’側に「cacc」、3’側に「caaa」配列を付加した配列を配列番号50に示す。
【0067】
pX330-ATGの肝臓への配送
6週齢前後のTtrhV30eon/hM30exon の尾静脈から、pX330-ATGを50μg含む溶液2ml(マウス体重20gとしてその1/10量)を、5-7秒以内に注入する(ハイドロダイナミック法:Lewis et al. Nat. Genet. 32: 107-108, 2002)。この方法で、最大80%の肝細胞へpX330-ATGを導入できる。
【0068】
TTR遺伝子破壊の評価
肝臓内のTTR遺伝子の破壊の程度を、以下の方法で評価できる。
(1)肝臓のDNA解析:8週齢ごろに、部分肝切除を行う。DNAを抽出し、ATG付近の塩基配列を解析し、残存する野生型TTR、変異型TTR、挿入や欠失変異の頻度を解析する。
(2)血中TTR濃度: 3ヶ月齢、6ヶ月齢、12ヶ月齢、18ヶ月齢、24ヶ月齢、の時点で、血清中のヒトTTRをELISA法で測定する。血中濃度測定によっても、TTR遺伝子がどの程度破壊されたかが推定できる。DNAの解析データと照合する。
(3)非線維性TTR沈着の解析:アミロイド沈着に先行して早ければ1ヶ月齢頃から非線維性TTRの沈着(non-fibrillar TTR deposit)が見られ、アミロイド沈着は、早くて生後1年後からである。そこで3ヶ月齢、6ヶ月齢、12ヶ月齢、18ヶ月齢、24ヶ月齢(各群10匹を目標とする)の時点で剖検を行い、消化管、腎臓、心臓、坐骨神経、脾臓を摘出し、固定したのち、組織切片を作製する。切片を用いて、抗TTR抗体及び抗血清アミロイドA (SAA)抗体による免疫染色を行う。抗SAA抗体を用いると、炎症等に伴うアミロイド沈着を解析でき、鑑別診断ができる。また、今後レッド染色を行い、アミロイド沈着も解析する。
(4)上記のデータを総合し、TTR遺伝子の破壊の比率と血中TTR濃度、非線維性TTR量との相関を解析し、遺伝子破壊による治療の可能性を明らかにする。
【実施例0069】
ヒト変異型TTR遺伝子(TTRMet30)のみの破壊
TtrhV30exon/hM30exonマウスを用いて、変異型の遺伝子のみ破壊する実験が可能である。
TtrhV30exon/hM30exonの肝臓内のTTR遺伝子を破壊するため、CRISPR/Cas9法を用いる。変異型のみを破壊するためには、30番目のアミノ酸であるメチオニンをコードするATGを持つ遺伝子のみを破壊する。このため、CCTop(https://crispr.cos.uni-heidelberg.de)というネット上のサイトを用い、target配列を検索した。PAM配列の上流3bpのところで2本鎖切断が起こると言われているので(Jinek et al. Science 337:816-821, 2012)、ATGを含むTCCACTCATTCTTGGCAGGA(TGG)(配列番号48:右端のTGGがPAM配列となる。下線がATG)が一番良い配列であった(図23)。図23において、Cas9のターゲット配列を配列番号51に示し、ターゲット配列の5’側に「cacc」、3’側に「caaa」配列を付加した配列を配列番号52に示す。この切断活性をすでに述べたMashikoらの方法で評価できる (Mashiko et al. Sci. Rep. 3: 3355, 2013)。
【0070】
pX330-MET30の肝臓への配送
6週齢前後のTtrhV30eon/hM30exon の尾静脈から、pX330-ATGを50ug含む溶液2ml(マウス体重20gとしてその1/10量)を、5-7秒以内に注入する(ハイドロダイナミック法:Lewin et al. Nat. Genet. 32: 107-108, 2002)。この方法で、最大80%の肝細胞へpS330-ATGを導入できる。
【0071】
TTR遺伝子破壊の評価
肝臓内のTTR遺伝子の破壊の程度を、以下の方法で評価できる。
(1)肝臓のDNA解析:8週齢ごろに、部分肝切除を行う。DNAを抽出し、30番目のATG付近の塩基配列を解析し、残存する野生型TTR、変異型TTR、挿入や欠失変異の頻度を解析する。
(2)血中TTR濃度: 3ヶ月齢、6ヶ月齢、12ヶ月齢、18ヶ月齢、24ヶ月齢、の時点で、血清中のヒトTTRをELISA法で測定する。血中濃度測定によっても、TTR遺伝子がどの程度破壊されたかが推定できる。DNAの解析データと照合する。
(3)非線維性TTR沈着の解析:アミロイド沈着に先行して早ければ1ヶ月齢頃から非線維性TTRの沈着(non-fibrillar TTR deposit)が見られ、アミロイド沈着は、早くて生後1年後からである。そこで3ヶ月齢、6ヶ月齢、12ヶ月齢、18ヶ月齢、24ヶ月齢(各群10匹を目標とする)の時点で剖検を行い、消化管、腎臓、心臓、坐骨神経、脾臓を摘出し、固定したのち、組織切片を作製する。切片を用いて、抗TTR抗体及び抗血清アミロイドA (SAA)抗体による免疫染色を行う。抗SAA抗体を用いると、炎症等に伴うアミロイド沈着を解析でき、鑑別診断ができる。また、今後レッド染色を行い、アミロイド沈着も解析する。
(4)上記のデータを総合し、TTR遺伝子の破壊の比率と血中TTR濃度、非線維性TTR量との相関を解析し、遺伝子破壊による治療の可能性を明らかにする。
【産業上の利用可能性】
【0072】
本発明により、Ttr遺伝子のエクソンをヒト化したエクソンヒト化TTR遺伝子それが挿入されたES細胞とその ES由来のエクソンヒト化マウスが提供される。ヒトTTR遺伝子の変異により優性遺伝病である家族性アミロイドポニューロパチーが発症する。本発明のマウスを用いて、ヒトTTR遺伝子に変異を導入し、ヒト疾患モデルマウスを作製できる。このマウスを用いて、ヒトTTR遺伝子を肝臓内で破壊する、いわゆる遺伝子治療実験が可能となり、治療効果を調べる非臨床試験を実施することができる。
【配列表フリーテキスト】
【0073】
配列番号1:合成DNA
配列番号2:合成DNA
配列番号12~24:合成DNA
配列番号29~31:合成DNA
配列番号34~36:合成DNA
配列番号39~44:合成DNA
配列番号45:合成DNA/RNA
配列番号46:合成RNA
配列番号47~52:合成DNA
図1
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【配列表】
2023104002000001.app
【手続補正書】
【提出日】2023-05-29
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
マウスのゲノムに含まれるn個のエクソンにより構成される標的遺伝子の当該n個のエクソンを含む断片のうち、前記n個のエクソンが、対応するヒト標的遺伝子のエクソンにそれぞれ置換された断片を含む、ドナーベクター。