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  • 特開-土質改良方法 図1
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  • 特開-土質改良方法 図4
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023104032
(43)【公開日】2023-07-28
(54)【発明の名称】土質改良方法
(51)【国際特許分類】
   E02D 3/12 20060101AFI20230721BHJP
   E02D 3/00 20060101ALI20230721BHJP
   C09K 17/02 20060101ALI20230721BHJP
   C09K 103/00 20060101ALN20230721BHJP
【FI】
E02D3/12 102
E02D3/00 101
C09K17/02 H
C09K103:00
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022004780
(22)【出願日】2022-01-17
(71)【出願人】
【識別番号】504233100
【氏名又は名称】協材砕石株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001977
【氏名又は名称】弁理士法人クスノキ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】上原 彰夫
(72)【発明者】
【氏名】雨宮 寛司
(72)【発明者】
【氏名】安藤 徹明
(72)【発明者】
【氏名】橋山 和生
【テーマコード(参考)】
2D040
2D043
4H026
【Fターム(参考)】
2D040AA01
2D040AB07
2D040AC04
2D040CA04
2D040CA10
2D040CB02
2D040CD07
2D043CA01
2D043DD20
2D043EA05
4H026CA05
4H026CC02
(57)【要約】
【課題】作業環境の問題がなく、低コストで施工することができる土質改良方法を提供する。
【課題手段】軟弱土又は軟泥土に、製鋼スラグ砕石を混合することにより、土質強度を向上させる。製鋼スラグ砕石として、吸水率が3%以上の多孔質の製鋼スラグ砕石、あるいは塩基度が3以上の製鋼スラグ砕石を用いる。混合率を、容積比で1/4~1/2とすることが好ましい。粒度改善効果、吸水効果、ポゾラン反応による強度発現効果により、路床支持力の評価に用いられるCBRを大幅に向上させることができる。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
軟弱土又は軟泥土に、製鋼スラグ砕石を混合することにより、土質強度を向上させる土質改良方法であって、前記製鋼スラグ砕石として、吸水率が3%以上の多孔質の製鋼スラグ砕石を用いることを特徴とする土質改良方法。
【請求項2】
軟弱土又は軟泥土に、製鋼スラグ砕石を混合することにより、土質強度を向上させる土質改良方法であって、前記製鋼スラグ砕石として、塩基度が3以上の製鋼スラグ砕石を用いることを特徴とする土質改良方法。
【請求項3】
製鋼スラグ砕石の混合率を、容積比で1/4~1/2としたことを特徴とする請求項1または2に記載の土質改良方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、軟弱土、軟泥土などの地盤の土質改良方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
現在の社会情勢に目を向ければ、建設事業からの発生土や廃棄物などの建設副産物の処理が大きな社会問題になっている。建設事業からの発生土はこれまで、余剰土や不良土として処理されることが多かった。このような建設発生土を積極的かつ有効的に利用することは、経済性、施工性といった観点のみならず、環境面からも社会的な要請となっている。例えば我が国には火山灰質粘性土をはじめとして、軟弱な粘性土が多く分布しており、このような場所での建設工事の多くは、これらの軟弱な粘性土を取り扱うことが多くなる。これらの軟弱土の改良や建設発生土の有効利用を積極的に図るために、有効かつ経済的な土質改良方法が求められている。
【0003】
地盤の改良方法としては、石灰系材料(生石灰、消石灰、ドロマイトなど)を主体とする改良材を、軟弱土と混合する方法(非特許文献1)や、SPC(Sand Compaction Pile)と称する杭打ちを基本とした地盤改良方法(非特許文献2)が一般的である。
【0004】
しかし、石灰系材料による軟弱土の改良方法では、改良材が粉状であるため、粘性土との均一混合が難しいうえ、改良材の混合作業の際に粉状の改良材が大気中に逸散して粉塵が発生するため、周辺の住宅地の住民からの苦情対象になるという難点があった。また、改良材は粉状であるため、軟泥土との混合が十分にできた場合であっても、石灰と水分との消化反応による土質改善効果しか発揮されず、粒分の添加による粒度改善効果は全く期待できず、十分な粒度改善効果を得ることはできなかった。
【0005】
また、杭打ち施工を主体とするSPC工法は広範囲かつ深層の土質改良方法であり、大規模な工業団地、臨海飛行場、港湾工事などの地盤改良に適している。しかし、道路工事の路床や路体の改良には、工事費用や杭打機の準備などの点で適していない。また住宅地の基礎工事に伴う狭地の浅層改良にも適していない。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】「石灰による地盤改良マニュアル」日本石灰協会(2009)
【非特許文献2】「港湾工事用製鋼スラグ利用手引書」鉄鋼スラグ協会(2000)、19頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記したように、従来の土質改良方法は粉塵発生などの作業環境の問題、施工費用などのコスト面の問題が内在していた。従って本発明の目的はこのような従来技術の問題を解決し、作業環境の問題がなく、低コストで施工することができる土質改良方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は上記の課題を解決するために検討を重ねた結果、CaOを含みかつ粒状である製鋼スラグ砕石のうち、特定の性状のものを改良材として用いることにより、優れた土質改良効果が得られることを発見した。本発明はこの知見に基づいて完成されたものであって、第1の発明は、軟弱土又は軟泥土に、製鋼スラグ砕石を混合することにより、土質強度を向上させる土質改良方法であって、前記製鋼スラグ砕石として、吸水率が3%以上の多孔質の製鋼スラグ砕石を用いることを特徴とするものである。また第2の発明は、軟弱土又は軟泥土に、製鋼スラグ砕石を混合することにより、土質強度を向上させる土質改良方法であって、前記製鋼スラグ砕石として、塩基度が3以上の製鋼スラグ砕石を用いることを特徴とするものである。何れの発明においても、製鋼スラグ砕石の混合率を、容積比で1/4~1/2とすることが好ましい。
【0009】
なお、軟泥土は生物の遺骸を重量の30%以上含み、水分が多く、見た目で泥が多いと感じられる土である。また、軟弱土は火山灰質粘性土をはじめとする土質強度が低い軟弱な粘性土である。しかし何れも軟弱地盤を構成するものであり、本発明においては軟弱土と軟泥土を区別する必要はない。
【発明の効果】
【0010】
本発明においては、軟弱土又は軟泥土に、吸水率が3%以上の多孔質の製鋼スラグ砕石、あるいは塩基度が3以上の製鋼スラグ砕石を混合することにより、土質強度を向上させることができる。製鋼スラグ砕石による土質を改質するメカニズムとしては、(1)製鋼スラグ砕石中の石灰分と軟弱土又は軟泥土中の水分とが反応して土質全体としても水分が減少し、疎水化することによる強度発現、(2)粒、礫分を混合することによる粒度改善効果による強度発現、(3)混合後、養生することにより土質中の各種イオン成分のポゾラン反応(製鋼スラグ中のCaOと土質中の可溶性シリカとの反応)が進行し、新しい硬化鉱物が生成されることによる強度発現、などを挙げることができる。また、従来の粉状の改良材とは異なり、製鋼スラグ砕石は粒状や礫状であるため、混合時に粉塵が発生することもなく、作業環境の問題がない。しかも製鋼スラグ砕石は製鋼工程から発生する副産物であって安価であり、コストの引き下げを図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】製鋼スラグ砕石による強度発現メカニズムを示すグラフである。
図2】CBR試験の結果を示すグラフである。
図3】製鋼スラグ砕石の吸水率とCBR値との関係を示すグラフである。
図4】製鋼スラグ砕石の塩基度を示す三元図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下に本発明の実施形態を説明する。
製鋼スラグは溶銑を製鋼する工程から発生するスラグであり、CaO、SiO、AlOを主成分とし、さらにMnO、FeO、MgOなどが含まれている。特にCaOは30-60%程含有されていて、その一部はスラグ中に熔融しきれず、未熔融の遊離生石灰(Free Lime)として数%存在している。製鋼スラグは破砕、篩分け後、粒径を0~25mmに調整(30mm以下、40mm以下の場合もある)して製鋼スラグ砕石とし、従来から道路路盤材などの土木用資材として用いられている。
【0013】
本発明ではこのような製鋼スラグ砕石を、軟弱土又は軟泥土に混合する。製鋼スラグ砕石の混合率は多すぎると土量が過多となり施工現場から搬出する残土が増えて、手数とコストが嵩むデメリットが生じる。このため事前配合試験に依る適正混合率の見極めが重要である。施工現場の状況や施工現場の工事前後の地盤高さの変化にもよるが、現土に対する製鋼スラグ砕石の混合率は1/2から1/4程度が好ましく、1/3前後が更に好ましい。
【0014】
本発明者らは、表1に示す成分と特徴を有する製鋼スラグ砕石を、CBR=2%の軟泥土と混合して、1週間養生後のCBRを測定し、土質改良効果を調査した。いずれの実験例の混合比も、容積比で、現土:製鋼スラグ砕石=2:1(混合比:33%)とした。CBR試験は路床支持力比の試験であり、直径5cmのピストンを1mm/minで貫入させながら、貫入量2.5mm及び5.0mmにおける荷重を読み取る方法で行われる。詳細はJIS A 1211「CBR試験方法」に規定されており、これに準拠して測定を行った。
【0015】
【表1】
【0016】
現土はCBR=2%の粘土質で支持力がなく、現土単味の上部では人が自立できない状態であった。この現土に比較例として示した緻密質の製鋼スラグ砕石を混合、養生した後のCBRは15%であった。現土に比べてCBRは顕著に増加して土質改良が認められたが、通常の客土はCBR=20%を目途に行われており、そのレベルには達していなかった。
【0017】
次に実施例1では、吸水率が4.9%の多孔質の製鋼スラグ砕石をCBR=2%の現土に混合、養生した。その結果、混合直後のCBRは25%まで向上し、さらに7日間の養生を行った後のCBRは40%まで増加し、大幅な土質改良効果が認められた。図1はこのCBR値の変化を示すグラフである。混合直後のCBRが上昇したのは、製鋼スラグ砕石を混合したことによる粒度改善効果と、多孔質の製鋼スラグ砕石を混合したことによる吸水効果による。更に7日間の養生を行うことによりポゾラン反応が進行し、CBRは40%まで増加した。
【0018】
次に実施例2では、塩基度(CaO/SiO2)が3以上の高塩基度の製鋼スラグ砕石(吸水率:5~7%)を現土に混合、養生した。混合、養生した後のCBRは100%まで増加し、更に大幅な土質改良効果が認められた。これらの比較例、実施例1、実施例2の混合、養生後のCBR値を図2に示した。
【0019】
本発明者らは、同様の調査を種々の水準の製鋼スラグ砕石を用いて行い、土質改良効果を確認した。その結果、製鋼スラグ砕石は軟弱土や軟泥土の土質改良に効果があるが、特に多孔質で吸水率が3%以上のもの、または塩基度(CaO/SiO2)が3以上のものが有効であることを確認した。これらは前記した製鋼スラグ砕石による土質を改質するメカニズムのうち、疎水化することによる強度発現、土質中の各種イオン成分のポゾラン反応による強度発現が顕著であるためと考えられる。これに対して緻密質の製鋼スラグ砕石を用いた場合には、粒度改善効果による強度発現にとどまり、疎水化やポゾラン反応が十分に発現されなかったと考えられる。
【0020】
図3は、多くの調査の結果得られた製鋼スラグ砕石の吸水率と混合、養生後のCBR値との関係を示すグラフである。吸水率が3%を超えるとCBR値が目標値である20%以上となることが確認された。
【0021】
図4は、SiO-CaO-AlOの三元図であり、比較例と実施例1は塩基度が3よりも小さく、実施例2は塩基度が3を超えていることを示している。実施例2は吸水率が3%を超えるうえ、塩基度も4.6と大きいため、吸水効果及びポゾラン反応による強度発現効果が大きく、最も優れた土質改良効果が発揮された。
【0022】
実際の施行現場での混合方法としては、現地での現土(軟弱土や軟泥土)と製鋼スラグ砕石とを別山にそれぞれ仮置きし、パワーショベルのバケットの回数で混合することが好ましい。例えば混合率が1/3の場合には、現土2杯に対して製鋼スラグ砕石を1杯の要領で混合すればよい。なお、土質が強い粘性を呈する軟泥土であるような場合には、混合を促進するため、パワーショベルのバケット内にインペラーを内装した特殊バケットを用いることも可能である。
【0023】
一方、量販店の駐車場や港湾周辺のコンテナ・ヤードなどの広範囲の領域を浅層地盤改良する場合には、軟弱土や軟泥土の上部に適量の製鋼スラグ砕石(改良材)を敷き均した後に、スタビライザーと称する表層土混合・撹拌機を用いて両者を一気に混合する工法を用いることができる。この場合にも十分に土質改良効果を得ることができる。例えば、製鋼スラグ砕石の混合率が30%である場合には、現土表層部分を掘り起こした後、スタビライザーの混合深さを1mに調整し、スタビライザーにより表層部を混合・撹拌することで、表層部の地盤改良が可能である。なお、施工後約1週間ほど養生することで、改良効果が向上するとともに安定化することができる。
【0024】
以上に説明したように、本発明によれば、軟弱な地盤を製鋼スラグ砕石の混合により改良できるため、地盤の土質強度が規定以上となり、地盤改良の効率化と低コスト化が図られる。また、混合時に粉塵を発生させることもなく、作業環境を悪化させるおそれもない。加えて、軟弱な現土の系外搬出費用や良質の客土購入・入替工事費用が不要となり、地盤改良の効率化と低コスト化が図られる。さらに、製鋼工程で副産物として発生する製鋼スラグを軟弱な地盤の施工時に有効活用することができ、従来用途以外の土木用資材として有効利用することができる。このため製鋼スラグの販路拡大が図られ、スラグを最終処分場へ排出する費用も大幅に減少させることができるなど、多くの実用的な利点がある。
図1
図2
図3
図4