(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023104047
(43)【公開日】2023-07-28
(54)【発明の名称】膜電極接合体の製造方法並びに膜電極接合体及び水電解装置
(51)【国際特許分類】
C25B 9/00 20210101AFI20230721BHJP
C25B 9/23 20210101ALI20230721BHJP
C25B 1/04 20210101ALI20230721BHJP
C25B 9/65 20210101ALI20230721BHJP
H01M 8/0656 20160101ALN20230721BHJP
【FI】
C25B9/00 A
C25B9/23
C25B1/04
C25B9/65
H01M8/0656
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022004801
(22)【出願日】2022-01-17
(71)【出願人】
【識別番号】314012076
【氏名又は名称】パナソニックIPマネジメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106116
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 健司
(74)【代理人】
【識別番号】100131495
【弁理士】
【氏名又は名称】前田 健児
(72)【発明者】
【氏名】山本 雅夫
(72)【発明者】
【氏名】古賀 功一
(72)【発明者】
【氏名】引地 巧
(72)【発明者】
【氏名】山内 将樹
【テーマコード(参考)】
4K021
5H127
【Fターム(参考)】
4K021AA01
4K021BA02
4K021BC01
4K021CA08
4K021DB28
4K021DB36
4K021DB49
4K021DC01
4K021DC03
4K021EA05
5H127AB04
5H127BA14
5H127FF20
(57)【要約】
【課題】本開示は、アニオン交換膜からなる電解質膜の熱分解を抑えることによって、抵抗の小さい水電解用の膜電極接合体の製造方法を提供する。
【解決手段】触媒及びアニオン性アイオノマーを含む触媒層とアニオン交換膜からなる電解質膜とを熱圧着して接合する水電解用の膜電極接合体の製造方法において、導電性基材上に生成した触媒層を溶媒で濡らして湿潤触媒層を生成し、導電性基材上の湿潤触媒層と電解質膜とを電解質膜のガラス転移温度以上の温度であって熱分解温度より低い温度で熱圧着することで接合する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
アニオン交換膜からなる電解質膜を準備する電解質膜準備工程と、
触媒と第1の溶媒とを含む混合物に、ガラス転移温度が前記電解質膜の熱分解温度以上のアニオン性アイオノマーを加えて、触媒インクを生成する触媒インク生成工程と、
前記触媒インクを導電性基材上に塗布して乾燥させて、前記導電性基材上に触媒層を生成する触媒層生成工程と、
前記導電性基材上の前記触媒層を第2の溶媒で濡らして、前記導電性基材上に湿潤触媒層を生成する湿潤触媒層生成工程と、
前記導電性基材上の前記湿潤触媒層と前記電解質膜とを熱圧着により接合する接合工程と、を有する、水電解装置に用いられる膜電極接合体の製造方法であって、
前記第2の溶媒は、前記アニオン性アイオノマーの少なくとも一部を膨潤または溶解させて流動性を持たせた溶媒であり、
前記熱圧着の温度は、前記電解質膜のガラス転移温度以上の温度であって前記電解質膜の熱分解温度より低い温度である、膜電極接合体の製造方法。
【請求項2】
前記第2の溶媒は、親水性の溶媒である、請求項1に記載の膜電極接合体の製造方法。
【請求項3】
アニオン交換膜からなる電解質膜と、
前記電解質膜の両面にそれぞれ配置された触媒層と、
前記触媒層における前記電解質膜と対向する面とは反対側の面に積層された導電性基材と、を含み、水電解装置に用いられる膜電極接合体であって、
前記触媒層は、触媒と、アニオン性アイオノマーと、を含み、前記アニオン性アイオノマーの少なくとも一部が、前記電解質膜に入り込んだ状態で、前記電解質膜と接触しており、前記触媒層と前記電解質膜との境界の近傍に、前記アニオン性アイオノマーと前記電解質膜とが混在してなる混在領域を有する、膜電極接合体。
【請求項4】
請求項1若しくは2に記載の製造方法により製造された膜電極接合体、または請求項3に記載の膜電極接合体と、
前記膜電極接合体の前記導電性基材と当接する面にアルカリ水溶液を通流させるための流路が形成されたセパレータと、
前記膜電極接合体の一対の触媒層間に電圧を印加する電圧印加器と、を備える水電解装置。
【請求項5】
請求項1または2に記載の製造方法により製造された膜電極接合体、または請求項3に記載の膜電極接合体の触媒層に、導電性基材を介して、アルカリ水溶液を供給するステップと、
アルカリ水溶液が供給された膜電極接合体の一対の触媒層間に電圧を印加するステップと、を有する水電解方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、膜電極接合体の製造方法並びに膜電極接合体及び水電解装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1は、水を電気分解し水素を製造する水電解装置に用いる膜電極接合体を開示する。この膜電極接合体は、アニオン交換膜と、金属酸化物を担持したとカーボンとアニオン性アイオノマーからなるバインダーとを含んで構成される触媒層と、を備える。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】米国特許出願公開第2021/0028465号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本開示は、抵抗の小さい水電解装置用の膜電極接合体と、その製造方法を提供する。また、本開示の膜電極接合体を用いたエネルギー効率の高い水電解装置を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本開示の膜電極接合体の製造方法は、アニオン交換膜からなる電解質膜を準備する電解質膜準備工程と、触媒インクを生成する触媒インク生成工程と、導電性基材上に触媒層を生成する触媒層生成工程と、湿潤触媒層生成工程と、導電性基材上の湿潤触媒層と電解質膜とを熱圧着により接合する接合工程と、を有する水電解装置用の膜電極接合体の製造方法である。
【0006】
触媒インク生成工程では、触媒と第1の溶媒とを含む混合物に、ガラス転移温度が電解質膜の熱分解温度以上のアニオン性アイオノマーを加えて、触媒インクを生成する。
【0007】
触媒層生成工程では、触媒インクを導電性基材上に塗布して乾燥させて、導電性基材上に触媒層を生成する。
【0008】
湿潤触媒層生成工程では、導電性基材上の触媒層を第2の溶媒で濡らして、導電性基材上に湿潤触媒層を生成する。
【0009】
第2の溶媒は、アニオン性アイオノマーの少なくとも一部を膨潤または溶解させて流動性を持たせた溶媒である。
【0010】
熱圧着の温度は、電解質膜のガラス転移温度以上の温度であって電解質膜の熱分解温度より低い温度である。
【0011】
本開示の膜電極接合体は、アニオン交換膜からなる電解質膜と、電解質膜の両面にそれぞれ配置された触媒層と、触媒層における電解質膜と対向する面とは反対側の面に積層された導電性基材と、を含み、水電解装置に用いられる膜電極接合体である。
【0012】
そして、触媒層は、触媒と、アニオン性アイオノマーと、を含み、アニオン性アイオノマーの少なくとも一部が、電解質膜に入り込んだ状態で、電解質膜と接触しており、触媒層と電解質膜との境界の近傍に、アニオン性アイオノマーと電解質膜とが混在してなる混在領域を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本開示における膜電極接合体の製造方法は、膜電極接合体の製造時における電解質膜の熱分解を抑制することができる。そのため、電解質膜の水酸化物イオン伝導性の低下を抑制し、抵抗の小さい膜電極接合体を製造することができる。
【0014】
また、本開示における膜電極接合体は、電解質膜と触媒層の密着力を高めることができる。そのため、電解質膜と触媒層の界面における水酸化物イオンの移動抵抗を小さくし、膜電極接合体の抵抗を小さくすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】実施の形態1における膜電極接合体の製造方法を示すフローチャート
【
図2A】実施の形態1における膜電極接合体の製造方法のうちの電解質膜準備工程で準備した電解質膜の断面を示す模式図
【
図2B】実施の形態1における膜電極接合体の製造方法のうちの触媒インク生成工程で、容器に触媒インクの材料を入れる様子を示す模式図
【
図2C】実施の形態1における膜電極接合体の製造方法のうちの触媒層生成工程で導電性基材上に塗布した触媒インクを乾燥させることにより、導電性基材上に触媒層を生成する様子を示す模式図
【
図2D】実施の形態1おける膜電極接合体の製造方法のうちの湿潤触媒層生成工程で、導電性基材上の触媒層に第2の溶媒を滴下し静置することでより、導電性基材上に湿潤触媒層を生成する様子を示す模式図
【
図2E】実施の形態1おける膜電極接合体の製造方法のうちの接合工程で、電解質膜の両主面に、導電性基材上の湿潤触媒層をそれぞれ重ね合わせて積層し、その積層物を熱圧着することにより、膜電極接合体を作製する様子を示す模式図
【
図3】実施の形態1における膜電極接合体の概略構成を示す模式図
【
図6】実施の形態2における水電解装置の概略構成を示す模式図
【発明を実施するための形態】
【0016】
(本開示の基礎となった知見等)
発明者らが本開示に想到するに至った当時、アニオン交換膜の両面に触媒層で構成されるアノードとカソードを配置した膜電極接合体と、セパレータと、電圧印加器とを具備して水電解装置を構成し、水電解装置にアルカリ水溶液を供給してアノードとカソードとの間に電圧を印加することで、水を電気分解し水素を製造する技術があった。
【0017】
これにより、太陽光、風力などの出力変動が大きい再生可能エネルギー由来の余剰電力を水素に変換することができる。
【0018】
水電解装置に用いられる膜電極接合体は、酸化マンガンなどの金属酸化物をカーボンなどの担体に担持した触媒と、アニオン性アイオノマーからなるバインダーと、で構成される触媒インクをガス透過性の導電性基材上に塗布することでアノードとカソードを製造した後、アノードとカソードでアニオン交換膜を挟持し加圧した状態で、アニオン交換膜及びアノードとカソードに含まれるバインダーのガラス転移温度以上の温度で加熱し熱圧着することで、アニオン交換膜とアノード及びカソードを接合して、製造設計するのが一般的であった。
【0019】
しかし、従来の方法で製造される膜電極接合体では、熱圧着時にアニオン交換膜が熱分解するため、水酸化物イオン伝導性が低下し、抵抗が大きくなるという欠点があった。
【0020】
これは、アニオン交換膜は、水酸化物イオン伝導性を発現するためには、第4級アンモニウム基などの熱的安定性に乏しい化学構造を有するイオン交換基を備える必要があるため、アニオン交換膜の熱分解温度が、触媒層に用いるアニオン性アイオノマーからなるバインダーのガラス転移温度に比べて低くなり、熱圧着時に、アニオン交換膜が熱分解温度以上の温度で加熱されるためである。
【0021】
また、アニオン交換膜の熱分解を抑制するために、熱圧着時の加熱温度を低くすると、アニオン交換膜と触媒層とが十分に密着されず、アニオン交換膜と触媒層の界面における水酸化物イオンの移動抵抗が大きくなるため、膜電極接合体の抵抗が大きくなるという欠点があった。
【0022】
このため、アニオン交換膜の熱分解抑制とアニオン交換膜と触媒層の高い密着性発現とを両立することが困難で、抵抗の小さい膜電極接合体を製造することができないという問題があった。
【0023】
そこで、本開示は、膜電極接合体の製造時におけるアニオン交換膜の熱分解抑制とアニオン交換膜と触媒層の高い密着性発現の両立を可能とし、抵抗の小さい膜電極接合体の製造方法を提供する。また、この製造方法を使用して製造した膜電極接合体を用いて、エネルギー効率の高い水電解装置を提供する。
【0024】
以下、図面を参照しながら実施の形態を詳細に説明する。但し、必要以上に詳細な説明は省略する場合がある。例えば、既によく知られた事項の詳細説明、または、実質的に同一の構成に対する重複説明を省略する場合がある。
【0025】
なお、添付図面及び以下の説明は、当業者が本開示を十分に理解するために提供されるのであって、これらにより、特許請求の範囲に記載の主題を限定することを意図していない。
【0026】
【0027】
[1-1.構成]
[1-1-1.膜電極接合体の製造]
図1に示すように、膜電極接合体の製造方法は、電解質膜準備工程(S11)と、触媒インク生成工程(S12)と、触媒層生成工程(S13)と、湿潤触媒層生成工程(S14)と、接合工程(S15)と、を含んでいる。
【0028】
電解質膜準備工程(S11)は、アニオン交換膜からなる電解質膜を準備する工程である。
【0029】
触媒インク生成工程(S12)は、触媒と第1の溶媒とを含む混合物に、アニオン性アイオノマーを加えて、触媒インクを生成する工程である。
【0030】
触媒層生成工程(S13)は、触媒インクを導電性基材上に塗布して乾燥させて、導電性基材上に触媒層を生成する工程である。
【0031】
湿潤触媒層生成工程(S14)は、導電性基材上の触媒層を第2の溶媒で濡らして、導電性基材上に湿潤触媒層を生成する工程である。
【0032】
接合工程(S15)は、導電性基材上の湿潤触媒層と電解質膜とを、熱圧着により接合する工程である。
【0033】
以下、上記した本実施の形態の膜電極接合体の製造方法について、各工程を、順を追って、詳細に説明する。
【0034】
<電解質膜準備工程(S11)>
この工程では、トリメチルアンモニウム基などの第4級アミンを有する高分子で構成されるアニオン交換膜からなる電解質膜21を準備する(
図2A参照)。
【0035】
<触媒インク生成工程(S12)>
この工程では、まず、触媒(酸化イリジウムまたは白金を担持した炭素粉末)と、第1の溶媒(純水と1-プロピルアルコールの混合溶媒)とを容器23に入れ、容器23内の触媒と第1の溶媒とを攪拌して、触媒と第1の溶媒の混合物を得る。
【0036】
続いて、ガラス転移温度が電解質膜21の熱分解温度以上のアニオン性アイオノマー(スルホン酸基を有するパーフルオロスルホン酸樹脂(例えば、Nafion(登録商標))を、容器23内の混合物に加えて、分散機と超音波ホモジナイザーを用いて、室温において数時間、これらの材料を混練することにより、触媒とアニオン性アイオノマーが第1の溶媒に均一に分散した触媒インク22を生成する(
図2B参照)。
【0037】
なお、S12の触媒インク生成工程は、アノード用とカソード用のそれぞれについて行う。
【0038】
<触媒層生成工程(S13)>
この工程では、まず、導電性基材24(カーボン繊維からなる多孔質基材)の一方の主面(上面)に、触媒インク生成工程(S12)で生成した触媒インク22を、スクリーン印刷法により塗布する。続いて、触媒インク22を塗布した導電性基材24を高温環境下に放置することにより、触媒インク22から第1の溶媒を加熱乾燥により除去して、導電性基材24の一方の主面上に触媒層25を生成する(
図2C参照)。
【0039】
なお、S13の触媒層生成工程は、アノード用とカソード用のそれぞれについて行う。ここで、「主面」は、最も広い面積を有する面を意味する。
【0040】
<湿潤触媒層生成工程(S14)>
この工程では、触媒層生成工程(S13)で触媒層25を一方の主面(上面)に生成した導電性基材24を固定し、触媒層25の面上に第2の溶媒26(エタノール)を滴下し静置することで、触媒層25の全面を第2の溶媒26で濡らして、導電性基材24の上に湿潤触媒層27を生成する(
図2D参照)。なお、S14の湿潤触媒層生成工程は、アノード用とカソード用のそれぞれについて行う。
【0041】
<接合工程(S15)>
この工程では、電解質膜準備工程(S11)で準備した電解質膜21の両主面の略中央部に、湿潤触媒層生成工程(S14)で得た導電性基材24上の湿潤触媒層27を、それぞれ重ね合わせて積層し、その積層物を、電解質膜21のガラス転移温度以上の温度であって、電解質膜21の熱分解温度より低い温度で、熱プレス機によって熱圧着して接合することにより、膜電極接合体20を得る(
図2E参照)。
【0042】
なお、
図2Eには、電解質膜21の上面に積層された湿潤触媒層27が、熱圧着後にアノード触媒層28になり、電解質膜21の下面に積層された湿潤触媒層27が、熱圧着後にカソード触媒層29になり、アノード触媒層28の上面とカソード触媒層29の下面にそれぞれ導電性基材24を有する膜電極接合体20が得られることを図示している。
【0043】
[1-1-2.膜電極接合体の構成]
図3は、実施の形態1における膜電極接合体20の概略構成(膜電極接合体20の主面の中央部を厚み方向に平行に切断した場合の断面)を示す模式図である。
図4Aは、
図3のA部の部分拡大図である。
図4Bは、
図3のB部の部分拡大図である。
図5Aは、
図4AのC部の部分拡大図である。
図5Bは、
図4BのD部の部分拡大図である。
【0044】
【0045】
図3において、膜電極接合体20は、アニオン交換膜からなる電解質膜21と、アノード触媒層28と導電性基材24とで構成されるアノード31と、カソード触媒層29と導電性基材24とで構成されるカソード32と、を備える。
【0046】
アノード触媒層28は、電解質膜21の一方の主面の略中央部に生成されており、カソード触媒層29は、電解質膜21の他方の主面の略中央部に生成されている。また、導電性基材24は、アノード触媒層28、カソード触媒層29と接して、電解質膜21とは反対側の面に配置されている。
【0047】
アノード触媒層28は、酸化イリジウムからなるアノード触媒とスルホン酸基を有するパーフルオロスルホン酸樹脂(例えば、Nafion(登録商標))からなるアニオン性アイオノマーを含んで構成されており、アノード触媒層28に供給されるアルカリ水溶液に含まれる水の電気分解を促進する機能を果たしている。
【0048】
カソード触媒層29は、白金を担持した炭素粒子からなるカソード触媒とスルホン酸基を有するパーフルオロスルホン酸樹脂(例えば、Nafion(登録商標))からなるアニオン性アイオノマーを含んで構成されており、カソード触媒層29に供給されるアルカリ水溶液に含まれる水の電気分解を促進する機能を果たしている。
【0049】
導電性基材24は、アノード触媒層28、カソード触媒層29と略同じ大きさである。導電性基材24は、ガス通気性と電子伝導性を併せ持つ炭素繊維を主成分とする導電性素材から構成されている。
【0050】
導電性基材24は、膜電極接合体20に供給されるアルカリ水溶液をアノード触媒層28及びカソード触媒層29に送る機能と、アノード触媒層28において水電解により生成する酸素及び水、カソード触媒層29において水電解により生成する酸素を膜電極接合体20の外部に取り出す機能を果たしている。
【0051】
アノード触媒層28は、
図4Aに示すように、一部が電解質膜21に入り込み、電解質膜21の内部にアノード触媒層28と電解質膜21が混在する混在領域41を形成している。
【0052】
カソード触媒層29は、
図4Bに示すように、一部が電解質膜21に入り込み、電解質
膜21の内部にカソード触媒層29と電解質膜21が混在する混在領域42を形成している。
【0053】
上記した混在領域41及び混在領域42は、アノード触媒層28またはカソード触媒層29に含まれるアニオン性アイオノマーと電解質膜21とが混在してなる領域である。具体的には、混在領域41及び混在領域42では、アニオン性アイオノマーと電解質膜21とが、ナノレベルで三次元的に相互に入り込んだ状態で接触している。
【0054】
より詳細には、混在領域41及び混在領域42では、アニオン性アイオノマーの一部が架橋構造を失ってアモルファス化して鎖状の分子鎖となり、電解質膜21の三次元網目構造内に入り込んだ状態で、アニオン性アイオノマーと電解質膜21とが共存した構造を形成している(
図5A及び
図5B参照)。
【0055】
このように、アノード触媒層28及びカソード触媒層29に含まれるアニオン性アイオノマーの一部が電解質膜21に三次元的に入り込んだ状態で接触し、混在してなる混在領域を形成すると、アニオン性アイオノマーが架橋構造を維持し、電解質膜21の表面にのみ付着している場合に比べて、電解質膜21とアノード触媒層28及びカソード触媒層29の密着力を高めることができる。
【0056】
混在領域41及び混在領域42の厚みとしては、電解質膜21とアノード触媒層28及びカソード触媒層29の密着力を付与する為に、電解質膜21の厚みの1/100以上が好ましい。より好ましくは、混在領域41及び混在領域42の厚みは、電解質膜21の厚さの1/50以上であり、1/10程度にまで及ぶ場合もある。
【0057】
混在領域41及び混在領域42の厚みが、電解質膜21の厚みの1/100以下では、アニオン性アイオノマーの電解質膜21への入り込みが充分でなく、電解質膜21とアノード触媒層28及びカソード触媒層29の密着力が付与できない。
【0058】
[1-2.動作]
以上のように構成された膜電極接合体20について、
図3、
図4A及び
図4Bを用いて以下その動作、作用を説明する。
【0059】
まず、アルカリ水溶液が膜電極接合体20の導電性基材24を通ってカソード触媒層29に送られる。カソード触媒層29に送られたアルカリ水溶液に含まれる水は電気化学反応を受け、水素と水酸化物イオンを生成する。
【0060】
カソード触媒層29において生成した水酸化物イオンは、電解質膜21を通って、膜電極接合体20のアノード触媒層28に透過する。膜電極接合体20のアノード触媒層28に透過した水酸化物イオンは電気化学反応を受け、酸素と水を生成する。
【0061】
[1-3.効果等]
以上のように、本実施の形態において、膜電極接合体20の製造方法は、アニオン交換膜からなる電解質膜21を準備する電解質膜準備工程(S11)と、触媒インク22を生成する触媒インク生成工程(S12)と、導電性基材24上に触媒層25を生成する触媒層生成工程(S13)と、湿潤触媒層生成工程(S14)と、導電性基材24上の湿潤触媒層27と電解質膜21とを熱圧着により接合する接合工程(S15)と、を有する水電解装置用の膜電極接合体20の製造方法である。
【0062】
触媒インク生成工程(S12)では、触媒と第1の溶媒とを含む混合物に、ガラス転移温度が電解質膜21の熱分解温度以上のアニオン性アイオノマーを加えて、触媒インク2
2を生成する。
【0063】
触媒層生成工程(S13)では、触媒インク22を導電性基材24上に塗布して乾燥させて、導電性基材24上に触媒層25を生成する。
【0064】
湿潤触媒層生成工程(S14)では、導電性基材24上の触媒層25を第2の溶媒26で濡らして、導電性基材24上に湿潤触媒層27を生成する。
【0065】
第2の溶媒26は、アニオン性アイオノマーの少なくとも一部を膨潤または溶解させて流動性を持たせた溶媒である。
【0066】
接合工程(S15)の熱圧着の温度は、電解質膜21のガラス転移温度以上の温度であって電解質膜21の熱分解温度より低い温度である。
【0067】
これにより、第2の溶媒26により触媒層25に含まれるアニオン性アイオノマーが膨潤または溶解してアモルファス化することで、流動性が増し、電解質膜21と触媒層25の接合工程を電解質膜21の熱分解温度より低い温度で行うことができるために、膜電極接合体20の製造時における電解質膜21の熱分解を抑制することができる。
【0068】
また、電解質膜21の三次元網目構造内に、触媒層25に含まれるアニオン性アイオノマーが架橋構造を失ってアモルファス化した鎖状の分子鎖が入り込み、アニオン性アイオノマーと電解質膜21とが、ナノレベルで三次元的に相互に入り込んだ状態で接触した混在領域を形成するために、電解質膜21と触媒層25の密着力を高めることができる。
【0069】
そのため、電解質膜21の水酸化物イオン伝導性の低下を抑制し、また、電解質膜21と触媒層25の界面における水酸化物イオンの移動抵抗を小さくし、抵抗の小さい膜電極接合体20を製造することができる。
【0070】
また、本実施の形態において、湿潤触媒層生成工程(S14)における第2の溶媒26は、親水性の溶媒としてもよい。
【0071】
これにより、第2の溶媒26の極性が増し、第2の溶媒26と触媒層25に含まれるアニオン性アイオノマーの親和性が向上するために、アニオン性アイオノマーの流動性の増大効果を高めることができる。そのため、電解質膜21と触媒層25の接合工程が簡便になり、抵抗の小さい膜電極接合体20の量産化が容易になる。
【0072】
また、本実施の形態において、膜電極接合体20は、アニオン交換膜からなる電解質膜21と、電解質膜21の両面にそれぞれ配置された触媒層(アノード触媒層28とカソード触媒層29)と、触媒層(アノード触媒層28とカソード触媒層29)における電解質膜21と対向する面とは反対側の面に積層された導電性基材24と、を含み、水電解装置に用いられる膜電極接合体20である。
【0073】
そして、触媒層(アノード触媒層28とカソード触媒層29)は、触媒と、アニオン性アイオノマーと、を含み、アニオン性アイオノマーの少なくとも一部が、電解質膜21に入り込んだ状態で、電解質膜21と接触しており、触媒層と電解質膜21との境界の近傍に、アニオン性アイオノマーと電解質膜21とが混在してなる混在領域41を有することを特徴とする。
【0074】
これにより、電解質膜21と触媒層(アノード触媒層28とカソード触媒層29)の密着力を高めることができる。そのため、電解質膜21と触媒層の界面における水酸化物イ
オンの移動抵抗を小さくし、膜電極接合体20の抵抗を小さくすることができる。
【0075】
(実施の形態2)
以下、
図6を用いて、実施の形態2を説明する。なお、
図6に示す水電解装置60において、
図3に示す実施の形態1の膜電極接合体20と同一の構成要素については、同一の符号を付して、重複する説明は省略する場合もある。
【0076】
[2-1.水電解装置の構成]
図6に示すように、水電解装置60は、
図3に示した実施の形態1に係る膜電極接合体20と、シール部材としてのガスケット61と、アノードセパレータ62と、カソードセパレータ65と、電源69と、を備える。
【0077】
膜電極接合体20は、締結部材(図示せず)により、ガスケット61を介してアノードセパレータ62及びカソードセパレータ65と固定されている。
【0078】
ガスケット61は、樹脂を主成分として構成される。ガスケット61は、電解質膜21の一部を保持することで、膜電極接合体20の四辺の端部に封止部を形成する。これにより、膜電極接合体20からアルカリ水溶液及び水電解により生成するガスの漏洩を防止している。
【0079】
アノード31側のガスケット61は、電解質膜21の一方(アノード31側)の主面の周縁部と、アノードセパレータ62における膜電極接合体20と対向する面の周縁部との間をシールし、カソード32側のガスケット61は、電解質膜21の他方(カソード32側)の主面の周縁部と、カソードセパレータ65における膜電極接合体20と対向する面の周縁部との間をシールする。
【0080】
アノードセパレータ62は、樹脂を含浸した黒鉛板から構成される。アノードセパレータ62には、アノード入口63と、アノード出口64と、流路68が形成されている。
【0081】
アノードセパレータ62の流路68は、アノードセパレータ62における膜電極接合体20のアノード31の導電性基材24と当接する面に溝状に形成された、アルカリ水溶液を通流させるための流路68である。
【0082】
アノード入口63は、アノードセパレータ62における膜電極接合体20と当接する面とは反対側の面から流路68の一端と連通するように形成された貫通孔であって、アノード31にアルカリ水溶液を供給するための孔である。
【0083】
アノード出口64は、アノードセパレータ62における膜電極接合体20と当接する面とは反対側の面から流路68の他端と連通するように形成された貫通孔であって、水電解で利用されなかったアルカリ水溶液及び水電解により生成した酸素と水を排出するための孔である。
【0084】
カソードセパレータ65は、樹脂を含浸した黒鉛板から構成される。カソードセパレータ65には、カソード入口66と、カソード出口67と、流路68が形成されている。
【0085】
カソードセパレータ65の流路68は、カソードセパレータ65における膜電極接合体20のカソード32の導電性基材24と当接する面に溝状に形成された、アルカリ水溶液を通流させるための流路68である。
【0086】
カソード入口66は、カソードセパレータ65における膜電極接合体20と当接する面
とは反対側の面から流路68の一端と連通するように形成された貫通孔であって、カソード32にアルカリ水溶液を供給するための孔である。
【0087】
カソード出口67は、カソードセパレータ65における膜電極接合体20と当接する面とは反対側の面から流路68の他端と連通するように形成された貫通孔であって、水電解で利用されなかったアルカリ水溶液及び水電解により生成した水素を排出するための孔である。
【0088】
電源69は、膜電極接合体20のアノード31の電位がカソード32の電位よりも高くなるように、アノード31とカソード32との間に電圧を印加して、膜電極接合体20のアノード31から電解質膜21を介してカソード32へ電流を流す電圧印加器としての直流電源であって、電源69のプラス側出力端子がアノード31に電気的に接続され、電源69のマイナス側出力端子がカソード32に電気的に接続されている。
【0089】
[2-2.動作]
以上のように構成された水電解装置60について、
図6を用いて、以下その動作、作用を説明する。
【0090】
まず、アルカリ水溶液供給源(図示せず)から、アノードセパレータ62のアノード入口63とカソードセパレータ65のカソード入口66を介して、60℃に加温されたアルカリ水溶液を水電解装置60に供給する。
【0091】
水電解装置60に供給されたアルカリ水溶液は、アノードセパレータ62とカソードセパレータ65の流路68を通流し、導電性基材24を介して、アノード触媒層28及びカソード触媒層29に送られる。
【0092】
そして、水電解装置60は、制御器(図示せず)に制御される温度調節器(図示せず)によって運転時の温度が60℃となるように温度調節され、電源69により、水電解装置60のアノード31とカソード32との間に電圧が印加されて、膜電極接合体20のアノード31から電解質膜21を介してカソード32へ電流が流れる。
【0093】
この動作により、アノード31では、(化1)に示す、水酸化物イオンから酸素と水が生成する酸化反応が起こり、カソード32では、(化2)に示す、水が水素と水酸化物イオンになる還元反応が起こる。
【0094】
【0095】
【0096】
(化1)と(化2)に示す電気化学反応により、水電解装置60のカソード32において水素が得られ、アノード31において酸素が得られる。
【0097】
[2-3.効果等]
以上のように、本実施の形態において、水電解装置60は、実施の形態1の膜電極接合体20と、シール部材としてのガスケット61と、膜電極接合体20の導電性基材24と当接する面にアルカリ水溶液を通流させるための流路68が形成されたアノードセパレー
タ62及びカソードセパレータ65と、膜電極接合体20のアノード触媒層28とカソード触媒層29との間に電圧を印加する電圧印加器(電源69)と、を備える。
【0098】
なお、膜電極接合体20は、実施の形態1で説明したS11からS15の工程を経て作製する。
【0099】
これにより、電解質膜21の熱分解が抑制され、また、電解質膜21とアノード触媒層28及びカソード触媒層29の界面における水酸化物イオンの移動抵抗が小さくなるために、膜電極接合体20の抵抗を小さくすることができる。そのため、膜電極接合体20における電気化学反応の進行を円滑にし、水電解装置60のエネルギー効率を高めることができる。
【0100】
本実施の形態において、水電解装置60の水電解方法は、実施の形態1の膜電極接合体20のアノード触媒層28及びカソード触媒層29に、導電性基材24を介して、アルカリ水溶液を供給するステップと、アルカリ水溶液が供給された膜電極接合体20のアノード触媒層28とカソード触媒層29との間に電圧を印加するステップと、を有する。
【0101】
これにより、電解質膜21の熱分解が抑制され、また、電解質膜21とアノード触媒層28及びカソード触媒層29の界面における水酸化物イオンの移動抵抗が小さくなるために、膜電極接合体20の抵抗を小さくすることができる。そのため、膜電極接合体20における電気化学反応の進行を円滑にし、水電解のエネルギー効率を高めることができる。
【0102】
(他の実施の形態)
以上のように、本出願において開示する技術の例示として、実施の形態1及び2を説明した。
【0103】
しかしながら、本開示における技術は、これに限定されず、変更、置き換え、付加、省略などを行った実施の形態にも適用できる。また、上記実施の形態1及び2で説明した各構成要素を組み合わせて、新たな実施の形態とすることも可能である。
【0104】
そこで、以下、他の実施の形態を例示する。
【0105】
実施の形態1では、電解質膜の具体例として、トリメチルアンモニウム基などの第4級アミンを有する高分子で構成されるアニオン交換膜からなる電解質膜を用いる膜電極接合体の製造方法を説明した。
【0106】
電解質膜は、水酸化物イオンを伝導するものであればよい。したがって、電解質膜は、トリメチルアンモニウム基などの第4級アミンを有する高分子で構成されるアニオン交換膜を用いるものに限定されず、例えば、水酸化物イオン交換基としてジメチルアミンなどの第3級アミンを有する高分子や、第1級アミンを有する高分子から構成されるアニオン交換膜などを用いてもよい。
【0107】
ただし、電解質膜として、トリメチルアンモニウム基などの第4級アミンを有する高分子から構成されるアニオン交換膜を用いれば、水酸化物イオンの移動抵抗が小さくなり、膜電極接合体及び水電解装置の性能を向上することができる。
【0108】
実施の形態1では、膜電極接合体のアノード触媒層を形成するためのアノード触媒の具体例として、酸化イリジウムからなるアノード触媒を用いる膜電極接合体の製造方法を説明した。
【0109】
アノード触媒は、水を電気分解して、酸素と水を生成するものであればよい。したがって、アノード触媒は、酸化イリジウムに限定されず、例えば、アノード触媒として、酸化イリジウム被覆チタン、イリジウムルテニウムコバルト酸化物、イリジウムルテニウムスズ酸化物、イリジウムルテニウム鉄酸化物、イリジウムルテニウムニッケル酸化物、イリジウムスズ酸化物、イリジウムジルコニウム酸化物、ルテニウムチタン酸化物、ルテニウムジルコニウム酸化物、ルテニウムタンタル酸化物、ルテニウムチタンセリウム酸化物などを用いてもよい。
【0110】
ただし、アノード触媒として、酸化イリジウムからなるアノード触媒を用いれば、アノードにおける電気化学反応の活性化エネルギーを下げることができるので、膜電極接合体を用いた水電解装置のエネルギー効率を高めることができる。
【0111】
実施の形態1では、膜電極接合体のカソード触媒層を形成するためのカソード触媒の具体例として、白金を担持した炭素粒子からなるカソード触媒を用いる膜電極接合体の製造方法を説明した。
【0112】
カソード触媒は、水を電気分解し、水素を生成するものであればよい。したがって、カソード触媒は、白金を担持した炭素粒子からなるカソード触媒に限定されず、例えば、カソード触媒として、白金被覆チタン、パラジウム担持カーボン、コバルトグリオキシム、ニッケルグリオキシムなどを用いてもよい。
【0113】
ただし、カソード触媒として、白金を担持した炭素粒子からなるカソード触媒を用いれば、カソードにおける電気化学反応の活性化エネルギーを下げることができるので、膜電極接合体を用いた水電解装置のエネルギー効率を高めることができる。
【0114】
実施の形態1では、膜電極接合体のアノード触媒層及びカソード触媒層を生成するためのアニオン性アイオノマーの具体例として、パーフルオロスルホン酸樹脂材料(例えばNafion(登録商標))用いる膜電極接合体の製造方法を説明した。
【0115】
アニオン性アイオノマーは、バインダーとして機能し、アノード触媒及びカソード触媒を固定できるものであればよい。したがって、アニオン性アイオノマーは、パーフルオロスルホン酸樹脂材料(例えばNafion(登録商標))に限定されず、例えば、アニオン性アイオノマーとして、スルホン化ポリエーテルケトン、スルホン化ポリエーテルスルホン、スルホン化ポリエーテルエーテルスルホン、スルホン化ポリスルホン、スルホン化ポリスルフィド、スルホン化ポリフェニレンなどのスルホン化プラスチック系電解質、スルホアルキル化ポリエーテルエーテルケトン、スルホアルキル化ポリエーテルスルホン、スルホアルキル化ポリエーテルエーテルスルホン、スルホアルキル化ポリスルホン、スルホアルキル化ポリスルフィド、スルホアルキル化ポリフェニレンなどのスルホアルキル化プラスチック系電解質などを用いてもよい。
【0116】
ただし、アニオン性アイオノマーとして、パーフルオロスルホン酸樹脂材料(例えばNafion(登録商標))からなるアニオン性アイオノマーを用いれば、バインダーの化学的安定性を向上することができるので、膜電極接合体の耐久性を高めることができる。
【0117】
実施の形態1では、第2の溶媒の具体例として、エタノールを用いて、触媒層に滴下することにより触媒層を濡らして、湿潤触媒層を生成する膜電極接合体の製造方法を説明した。
【0118】
第2の溶媒は、アニオン性アイオノマーの少なくとも一部を膨潤または溶解させて流動性を持たせることができるものであればよい。
【0119】
したがって、第2の溶媒は、例えば、メタノール、1-プロパノール、2-プロパノール、エチレングリコール、グリセリンオクチルアルコール、ドデシルアルコール、1-テトラデカノール、オクタデシルアルコールなどのアルコールなどを用いてもよく、これらと水との混合溶媒を用いてもよい。
【0120】
また、触媒層を第2の溶媒で濡らす方法としては、触媒層の全面が濡れればどのような方法であってもよい。したがって、滴下以外に、浸漬、噴霧などであってもよい。
【0121】
なお、上記の実施の形態は、本開示における技術を例示するためのものであるから、特許請求の範囲またはその均等の範囲において種々の変更、置き換え、付加、省略などを行うことができる。
【実施例0122】
(実施例1)
以下の方法によって、実施例1の膜電極接合体を作製した。
【0123】
[電解質膜準備工程(S11)]
アニオン交換膜からなる電解質膜として、一辺の長さが50mmの正方形に裁断した、厚み25μmの炭化水素系の電解質膜(IONOMER社製、商品名:AEMION)(以下、電解質膜Aという)を準備した。
【0124】
こうして準備した電解質膜Aのガラス転移温度及び熱分解温度を、示差走査熱量計((株)日立ハイテクサイエンス製、品番:DSC7000X)を用いて、示差走査熱量測定(DSC)により評価したところ、電解質膜Aのガラス転移温度は70℃であり、熱分解温度は90℃であった。
【0125】
[触媒インク生成工程(S12)]
触媒インクは、以下のように生成した。
【0126】
<アノード触媒インク>
アノード触媒として、酸化イリジウム(AlfaAesar社製)20重量部、第1の溶媒として、純水75重量部と1-プロピルアルコール25重量部からなる混合溶媒を容器に入れ、続いて、アニオン性アイオノマーとして、Nafion(登録商標)分散液(デュポン社製、Nafion20重量%含有)30重量部を容器に更に加えた。
【0127】
得られた混合物を室温で2時間混練し、アノード触媒インクを生成した。混錬には、分散機((株)セイワ技研製、製品名:RS-05W)及び超音波ホモジナイザー((株)日本精機製作所、製品名:US-150E)を用いた。
【0128】
<カソード触媒インク>
カソード触媒として、白金を担持した炭素粉末(田中貴金属社製、品番:TEC10E50E)20重量部、第1の溶媒として、純水75重量部と1-プロピルアルコール25重量部からなる混合溶媒を容器に入れた。
【0129】
続いて、アニオン性アイオノマーとして、Nafion(登録商標)分散液(デュポン社製、Nafion20重量%含有)30重量部を容器に更に加えた。得られた混合物を室温で2時間混練し、カソード触媒インクを生成した。
【0130】
混錬には、分散機((株)セイワ技研製、製品名:RS-05W)及び超音波ホモジナ
イザー((株)日本精機製作所、製品名:US-150E)を用いた。
【0131】
アニオン性アイオノマーとして用いたNafion(登録商標)のガラス転移温度を示差走査熱量計((株)日立ハイテクサイエンス製、品番:DSC7000X)を用いて、示差走査熱量測定(DSC)により評価したところ、Nafion(登録商標)のガラス転移温度は120℃であった。
【0132】
[触媒層生成工程(S13)]
導電性基材として、一辺の長さが40mmの正方形の形状を有するカーボンペーパー(東レ社製、製品名:TGP-H-120)を2枚用意した。
【0133】
次に、スクリーン印刷法によって、一方の導電性基材には上記したアノード触媒インクを塗布し、他方の導電性基材には上記したカソード触媒インクを塗布した。
【0134】
続いて、恒温器にアノード触媒インクまたはカソード触媒インクを塗布した導電性基材を入れ、120℃、1時間の条件で導電性基材を加熱乾燥して、純水と1-プロピルアルコールからなる混合溶媒を除去した。
【0135】
その後、室温に2時間放置することで、導電性基材を冷却し、導電性基材上に触媒層を生成した。
【0136】
[湿潤触媒層生成工程(S14)]
湿潤触媒層生成工程(S14)における第2の溶媒として、エタノール(以下、溶媒Aという)を用意した。
【0137】
次に、導電性基材上に生成した触媒層の面上に溶媒Aを滴下して、10分間静置することで、導電性基材上に生成した触媒層の全面を溶媒Aで濡らし、導電性基材上に湿潤触媒層を生成した。
【0138】
[接合工程(S15)]
上記した湿潤触媒層を生成した2枚の導電性基材を、湿潤触媒層が電解質膜Aに当接するようにして、電解質膜Aの略中央部に重ね合わせて積層した後、電解質膜Aのガラス転移温度以上の温度であって、熱分解温度より低い温度である80℃の環境下で、2MPaの圧力を10分間付与して熱圧着することにより、電解質膜Aと湿潤触媒層を生成した2枚の導電性基材と、を接合し、膜電極接合体を得た(以下、膜電極接合体Aという)。
【0139】
なお、熱圧着には、圧縮成型機((株)神藤金属工業所製、製品名:AYS-5型)を用いた。
【0140】
こうして作製した膜電極接合体Aは、電解質膜と触媒層が密着しており、電解質膜と触媒層の剥離は確認されなかった。
【0141】
(実施例2)
湿潤触媒層生成工程(S14)における第2の溶媒として、エタノールと純水を9:1の容積比で混合して、エタノールと純水の混合溶媒(以下、溶媒Bという)を調整した。
【0142】
次に、第2の溶媒を溶媒Bに変更した以外は、実施例1と同様の方法により、実施例2の膜電極接合体(以下、膜電極接合体Bという)を得た。
【0143】
こうして作製した膜電極接合体Bは、電解質膜と触媒層が密着しており、電解質膜と触
媒層の剥離は確認されなかった。
【0144】
(実施例3)
湿潤触媒層生成工程(S14)における第2の溶媒として、メタノールと純水を8:2の容積比で混合して、メタノールと純水の混合溶媒(以下、溶媒Cという)を調整した。
【0145】
次に、第2の溶媒を溶媒Cに変更した以外は、実施例1と同様の方法により、実施例3の膜電極接合体(以下、膜電極接合体Cという)を得た。
【0146】
こうして作製した膜電極接合体Cは、電解質膜と触媒層が密着しており、電解質膜と触媒層の剥離は確認されなかった。
【0147】
(実施例4)
湿潤触媒層生成工程(S14)における第2の溶媒として、エチレングリコールと純水を8:2の容積比で混合して、エチレングリコールと純水の混合溶媒(以下、溶媒Dという)を調整した。
【0148】
次に、第2の溶媒を溶媒Dに変更した以外は、実施例1と同様の方法により、実施例4の膜電極接合体(以下、膜電極接合体Dという)を得た。
【0149】
こうして作製した膜電極接合体Dは、電解質膜と触媒層が密着しており、電解質膜と触媒層の剥離は確認されなかった。
【0150】
(実施例5)
湿潤触媒層生成工程(S14)における第2の溶媒として、エタノールとメタノール及び純水を5:4:1の容積比で混合して、エタノールとメタノール及び純水の混合溶媒(以下、溶媒Eという)を調整した。
【0151】
次に、第2の溶媒を溶媒Eに変更した以外は、実施例1と同様の方法により、実施例5の膜電極接合体(以下、膜電極接合体Eという)を得た。
【0152】
こうして作製した膜電極接合体Eは、電解質膜と触媒層が密着しており、電解質膜と触媒層の剥離は確認されなかった。
【0153】
(比較例1)
触媒層生成工程(S13)の後で、湿潤触媒層生成工程(S14)を実施しないこと以外は、実施例1と同様の方法により、比較例1の膜電極接合体(以下、膜電極接合体Fという)を得た。
【0154】
こうして作製した膜電極接合体Fは、電解質膜と触媒層の密着性が悪く、電解質膜と触媒層の剥離が確認された。
【0155】
(比較例2)
触媒層生成工程(S13)の後で、湿潤触媒層生成工程(S14)を実施しないこと、また、接合工程(S15)における熱圧着時の温度を120℃に変更したこと以外は、実施例1と同様の方法により、比較例2の膜電極接合体(以下、膜電極接合体Gという)を得た。
【0156】
こうして作製した膜電極接合体Gは、電解質膜と触媒層が密着しており、電解質膜と触媒層の剥離は確認されなかった。
【0157】
次に、実施例1~5に係る膜電極接合体(膜電極接合体A~E)、及び比較例1、2に係る膜電極接合体(膜電極接合体F、G)について、電界放出型電子プローブマイクロアナライザ(FE-EPMA)(日本電子(株)製、製品名:JXA-8500F)を用いて、膜電極接合体の断面のSEM画像の撮影及び波長分散型X線分析装置(WDX)による元素分析を行い、電解質膜内部における触媒層のアニオン性アイオノマーの入り込み状態から混在領域の形成の有無を調べ、併せて、混在領域の厚みを評価した。
【0158】
電解質膜内部への触媒層のアニオン性アイオノマー入り込み状態、及び混在領域の形成は、電解質膜内部における、アニオン性アイオノマー由来のフッ素元素または硫黄元素の有無により確認した。
【0159】
つまり、触媒層のアニオン性アイオノマーはパーフルオロスルホン酸樹脂材料であるところ、分子内にフッ素元素と硫黄元素を含み、電解質膜は炭化水素系のアニオン交換膜であるところ、分子内にフッ素元素及び硫黄元素を含まないため、電解質膜内部において、フッ素元素または硫黄元素が確認できれば、触媒層のアニオン性アイオノマーが電解質膜内部に入り込んでおり、混在領域が形成されていると判断した。
【0160】
一方、電解質内部にフッ素元素、硫黄元素が確認できないときは、触媒層のアニオン性アイオノマーの電解質膜内部への入り込みは無く、混在領域は形成されていないと判断した。
【0161】
評価基準は、次の通りとした。
○:電解質膜内部に触媒層のアニオン性アイオノマーが入り込み混在領域が形成されていた。
×:電解質膜内部への触媒層のアニオン性アイオノマーの入り込みが無く混在領域は形成されていなかった。
【0162】
また、混在領域の厚みは、電解質膜内部において、アニオン性アイオノマーに由来するフッ素元素または硫黄元素が確認できる領域と、フッ素元素、硫黄元素が確認できない領域との界面から、電解質膜の表面に至る垂直方向の距離を測定し、測定値のうちで最も大きい測定値を混在領域の厚みとした。
【0163】
結果を(表1)に示す。
【0164】
【0165】
膜電極接合体の電解質膜内部への触媒層のアニオン性アイオノマーの入り込み状態及び混在領域の形成に関して、本実施例に係る膜電極接合体(膜電極接合体A~E)は、電解質膜内部に触媒層のアニオン性アイオノマーの一部が入り込み、混在領域が形成されていた。
【0166】
これは、触媒層の全面を第2の溶媒で濡らすことで、触媒層に含まれるアニオン性アイオノマーの一部が膨潤または溶解することで、架橋構造を失ってアモルファス化し、流動性が増大して、ガラス転移温度以上の温度に加熱され流動性が向上した電解質膜内部に侵入したためであると考えられる。
【0167】
一方、比較例に係る膜電極接合体(膜電極接合体F、G)は、電解質膜内部への触媒層のアニオン性アイオノマーの入り込みは無く、混在領域は形成されていなかった。
【0168】
これは、触媒層のアニオン性アイオノマーは膨潤または溶解しないため、架橋構造を維持することで、流動性に欠け、電解質膜内部に侵入しなかったためであると考えられる。
【0169】
以上の膜電極接合体の断面のSEM画像の撮影及び波長分散型X線分析装置(WDX)による元素分析の結果から、本実施例で作製された膜電極接合体(膜電極接合体A~E)は、電解質膜内部に触媒層のアニオン性アイオノマーの一部の入り込んだ混在領域の形成が確認でき、本実施形態の膜電極接合体の製造方法により、電解質膜と触媒層の密着力が高い膜電極接合体を製造できることが確認できた。
【0170】
次に、上記した各膜電極接合体の性能を調べ、水電解装置のエネルギー効率に及ぼす影響を調べるために、膜電極接合体A~Gを用いて水電解装置を作製し、水電解試験を行った。
【0171】
膜電極接合体A~Gを用いた水電解装置の作製及び水電解試験は、以下の手順により行った。
【0172】
[水電解装置の作製]
膜電極接合体A~Gのアノードの外周部にシリコーン樹脂製のガスケットを接合した。アルカリ水溶液を通流する流路を有するアノードセパレータとカソードセパレータを膜電極接合体A~Gの導電性基材の外側に配置した。
【0173】
締結部材を用いて、ガスケットを介して、膜電極接合体A~Gとアノードセパレータ及びカソードセパレータを固定した。膜電極接合体A~Gのアノードとカソードに直流電源を接続し、水電解装置(以下、水電解装置A~Gという)を作製した。
【0174】
[水電解試験]
アルカリ水溶液供給源から、アルカリ水溶液として60℃に加温された5重量%の水酸化カリウム溶液を水電解装置A~Gのアノード入口及びカソード入口に供給した。温度調節器を制御器で制御し、水電解装置を60℃に加温した。水電解装置のアノードとカソードとの間に1.0A/cm2の電流密度で電流を流して、水電解運転を行った。
【0175】
アルカリ水溶液をアノードとカソードに供給しながら電流を流すことによって、上記した(化1)及び(化2)に示す電気化学反応が起こる。
【0176】
これにより、水電解装置のカソードにおいて水素が生成された。そして、電流密度1.0A/cm2における水電解運転を12時間継続した後、電流密度1.0A/cm2にお
いて、水電解運転させた時の水電解装置のエネルギー効率を測定した。
【0177】
結果を(表2)に示す。
【0178】
【0179】
膜電極接合体を用いた水電解装置のエネルギー効率に関し、本実施例に係る膜電極接合
体(膜電極接合体A~E)を用いた水電解装置(水電解装置A~E)は、比較例に係る膜電極接合体(膜電極接合体F、G)を用いた水電解装置(水電解装置F、G)に比べて、エネルギー効率が高いものであった。
【0180】
これは、本実施例に係る膜電極接合体(膜電極接合体A~E)は、電解質膜の熱分解が抑制されて電解質膜の水酸化物イオン伝導性の低下が抑制され、また、電解質膜と触媒層の密着力が高まって電解質膜と触媒層の界面における水酸化物イオンの移動抵抗が小さくなることで抵抗が小さくなり、膜電極接合体における電気化学反応の進行を円滑にすることができたためであると考えられる。
【0181】
一方、比較例に係る膜電極接合体(膜電極接合体F、G)を用いた水電解装置(水電解装置F、G)は、本実施例に係る膜電極接合体(膜電極接合体A~E)を用いた水電解装置(水電解装置A~E)に比べて、エネルギー効率が低いものであった。
【0182】
これは、比較例に係る膜電極接合体(膜電極接合体F)を用いた水電解装置(水電解装置F)は、電解質膜と触媒層の密着性が悪く、電解質膜と触媒層が剥離しているために、電解質膜と触媒層の界面における水酸化物イオンの移動抵抗が大きくなることで、膜電極接合体の抵抗が大きくなり、電気化学反応が阻害されたためであると考えられる。
【0183】
また、比較例に係る膜電極接合体(膜電極接合体G)を用いた水電解装置(水電解装置G)は、電解質膜が熱分解温度以上の温度に曝されて電解質膜が劣化したために、電解質膜の水酸化物イオン伝導性が低下することで、膜電極接合体の抵抗が大きくなり、電気化学反応が阻害されたためであると考えられる。
【0184】
以上の水電解試験の結果から、本実施形態の膜電極接合体の製造方法により、抵抗の小さい膜電極接合体を製造できることが確認できた。また、本実施形態の膜電極接合体の製造方法により製造した膜電極接合体を用いた場合、水電解装置のエネルギー効率を高めることができることが確認できた。
本開示は、高分子から構成される電解質膜を利用して高純度の水素を生成する水電解装置に適用可能である。具体的には、燃料電池車などの水素利用機器に水素を供給する水素供給システムなどに、本開示は適用可能である。