(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023104093
(43)【公開日】2023-07-28
(54)【発明の名称】プラズマ処理装置
(51)【国際特許分類】
H05H 1/46 20060101AFI20230721BHJP
H01L 21/3065 20060101ALI20230721BHJP
H01L 21/31 20060101ALI20230721BHJP
C23C 16/505 20060101ALI20230721BHJP
【FI】
H05H1/46 L
H01L21/302 101C
H01L21/31 C
C23C16/505
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022004886
(22)【出願日】2022-01-17
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.テフロン
(71)【出願人】
【識別番号】000003942
【氏名又は名称】日新電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100121441
【弁理士】
【氏名又は名称】西村 竜平
(74)【代理人】
【識別番号】100154704
【弁理士】
【氏名又は名称】齊藤 真大
(74)【代理人】
【識別番号】100206151
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 惇志
(74)【代理人】
【識別番号】100218187
【弁理士】
【氏名又は名称】前田 治子
(72)【発明者】
【氏名】安東 靖典
【テーマコード(参考)】
2G084
4K030
5F004
5F045
【Fターム(参考)】
2G084AA02
2G084AA03
2G084AA04
2G084AA05
2G084BB27
2G084BB32
2G084CC13
2G084CC33
2G084DD03
2G084DD13
2G084DD38
2G084DD40
2G084DD55
2G084DD62
2G084FF04
2G084FF38
4K030AA06
4K030AA13
4K030AA14
4K030BA40
4K030BA44
4K030FA04
4K030KA12
4K030KA26
4K030KA30
5F004AA13
5F004BB13
5F004BD01
5F004BD04
5F045AA08
5F045AB32
5F045AB33
5F045AC01
5F045AC11
5F045AC12
5F045BB14
5F045EH02
5F045EH11
5F045EJ05
5F045EJ09
(57)【要約】
【課題】真空容器の外部にアンテナを配置し、誘電体板とスリット板とを重ねて磁場透過窓を構成したプラズマ処理装置において、誘電体板の汚染を防止して高周波磁場の透過率の低下及び誘導電流による発熱を抑制するとともに、プラズマによる誘電体板の温度上昇を抑える。
【解決手段】真空容器の外部に設けられたアンテナに高周波電流を流して前記真空容器内にプラズマを発生させるプラズマ処理装置であって、前記真空容器の前記アンテナに臨む位置に形成された開口を塞ぐスリット板と、前記スリット板に形成されたスリットを前記真空容器の外側から塞ぐ誘電体板と、前記スリットを前記真空容器の内側から間隙を空けて覆うマスク板とを備えるプラズマ処理装置。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
真空容器の外部に設けられたアンテナに高周波電流を流して前記真空容器内にプラズマを発生させるプラズマ処理装置であって、
前記真空容器の前記アンテナに臨む位置に形成された開口を塞ぐスリット板と、
前記スリット板に形成されたスリットを前記真空容器の外側から塞ぐ誘電体板と、
前記スリットを前記真空容器の内側から間隙を空けて覆うマスク板とを備えるプラズマ処理装置。
【請求項2】
前記マスク板が厚さ方向から視て前記アンテナに交差する複数のスリットが形成されたものであり、当該複数のスリット間に形成された梁状領域により前記スリット板のスリットが覆われている請求項1に記載のプラズマ処理装置。
【請求項3】
前記マスク板をその厚さ方向に沿って間隙を空けて複数枚備え、
前記各マスク板の前記梁状領域が前記アンテナの長手方向に沿って互いにずれて前記スリット板のスリットを覆っている請求項2に記載のプラズマ処理装置。
【請求項4】
前記マスク板の各梁状領域の幅が10mm以下であり、好ましくは5mm以下である請求項2又は3に記載のプラズマ処理装置。
【請求項5】
前記マスク板が、前記スリット板の内向き面における前記スリットの延在方向外側に設定された接続領域に接続されている請求項1~4のいずれか一項に記載のプラズマ処理装置。
【請求項6】
前記スリット板における接続領域の近傍に、冷却媒体が流れる流路が形成されている請求項5に記載のプラズマ処理装置。
【請求項7】
前記マスク板が、前記開口が形成された前記真空容器の側壁、又は当該側壁と前記スリット板との間に介在するフランジ部材に取り付けられている請求項1~4のいずれか一項に記載のプラズマ処理装置。
【請求項8】
前記マスク板と前記スリット板との間隙の厚み方向に沿った長さが5mm以下である請求項1~7のいずれか一項に記載のプラズマ処理装置。
【請求項9】
前記スリット板と前記マスク板との間隙内に、前記アンテナの長手方向に沿って運動する荷電粒子を遮蔽する遮蔽壁が設けられている請求項1~8のいずれか一項に記載のプラズマ処理装置。
【請求項10】
前記スリット板及び前記マスク板が接地電位である、又は交流電圧が印加されている請求項1~9のいずれか一項に記載のプラズマ処理装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プラズマを用いて被処理物を処理するプラズマ処理装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
アンテナに高周波電流を流し、それによって生じる誘導電界によって誘導結合型のプラズマ(略称ICP)を発生させ、この誘導結合型のプラズマを用いて基板等の被処理物に処理を施すプラズマ処理装置が従来から提案されている。このようなプラズマ処理装置として、特許文献1には、アンテナを真空容器の外部に配置し、真空容器の側壁の開口を塞ぐように設けた磁場透過窓を通じてアンテナから生じた高周波磁場を真空容器内に透過させることで、真空容器内にプラズマを発生させるものが開示されている。
【0003】
この特許文献1のプラズマ処理装置は、真空容器の開口を塞ぐ金属製のスリット板と、スリット板に形成されたスリットを真空容器の外側から塞ぐ誘電体板とを備えるようにしている。このプラズマ処理装置では、金属製のスリット板と、このスリット板に重ね合わせた誘電体板とに磁場透過窓としての機能を担わせているので、誘電体板のみに磁場透過窓としての機能を担わせる場合に比べて磁場透過窓の厚みを小さくすることができる。これにより、アンテナから真空容器内までの距離を短くすることができ、アンテナから生じた高周波磁場を効率良く真空容器内に供給することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開2020-188809号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記特許文献1のプラズマ処理装置の構成では、スリット近傍に生成されたプラズマによる堆積物やスパッタ等による粒子の回り込みによる堆積物が誘電体板に堆積してしまい、そうした堆積物が導電性であると、スリットを形成する内側面が堆積物を介して導電してしまう。そうすると、アンテナから生じる高周波磁場により、スリット板にもアンテナの長手方向に沿った高周波電流が流れてしまい、スリット板や堆積物の発熱により誘電体板が加熱される。その結果、誘電体板の熱歪みが生じたり、誘電体板と堆積物との化学反応による強度低下が生じたりして、誘電体板が破損する恐れなどが生じる。
【0006】
しかも、上述したようにスリット間が堆積物により導電すると、誘電体板の表面が導電化されることになるので、アンテナから生じる高周波磁場がシールドされてしまい、真空容器内に透過する高周波磁場が低下し、プラズマ密度の低下や不安定性を引き起こす。
【0007】
さらには、生成したプラズマの熱やプラズマによる被処理物からの輻射により誘電体板が温度上昇して破損してしまう恐れもある。
【0008】
本発明は、かかる問題を一挙に解決するべくなされたものであり、真空容器の外部にアンテナを配置し、誘電体板とスリット板とを重ねて磁場透過窓を構成したプラズマ処理装置において、誘電体板の汚染を防止して高周波磁場の透過率の低下及び誘導電流による発熱を抑制するとともに、プラズマによる誘電体板の温度上昇を抑えることをその主たる課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
すなわち本発明に係るプラズマ処理装置は、真空容器の外部に設けられたアンテナに高周波電流を流して前記真空容器内にプラズマを発生させるものであって、前記真空容器の前記アンテナに臨む位置に形成された開口を塞ぐスリット板と、前記スリット板に形成されたスリットを前記真空容器の外側から塞ぐ誘電体板と、前記スリットを前記真空容器の内側から間隙を空けて覆うマスク板とを備えることを特徴とする。
【0010】
このような構成であれば、スリット板に形成されたスリットをマスク板によって真空容器の内側から覆うことで、真空容器の内側から視て誘電体板が隠れるようにしているので、導電性の飛来物等が誘電体板に付着して汚染するのを防止できる。これにより、誘電体板の表面が導電化されるのを防ぎ、高周波磁場の透過率の低下を抑制できるとともに、誘電体板の表面に誘導電流が流れることによる発熱も防止することができる。しかも、マスク板とスリット板との間に間隙を設けているので、アンテナに沿ってマスク板及びスリット板に生じる誘導電流を小さくでき、高周波磁場の透過率の低下を効率よく抑制できる。
また、マスク板によりスリットを覆っているので、スリットから露出する誘電体板がプラズマや被処理物に直接晒されないので、輻射等による誘電体板の温度上昇を抑えて破損を防止できる。
【0011】
また前記プラズマ処理装置は、前記マスク板が厚さ方向から視て前記アンテナに交差する複数のスリットが形成されたものであり、当該複数のスリット間に形成された梁状領域により前記スリット板のスリットが覆われているのが好ましい。
このようにすれば、マスク板に複数のスリットを形成することにより、高周波磁場を真空容器の内側に効率よく透過させることができる。さらには、アンテナに交差するように複数のスリットを形成しているので、アンテナに沿ってマスク板に流れる誘導電流を小さくできる。これにより、マスク板における高周波磁場の透過率の低下を抑制し、またマスク板の温度上昇及びこれに伴う輻射による誘電体板の温度上昇を抑制できる。
【0012】
また前記プラズマ処理装置は、前記マスク板をその厚さ方向に沿って間隙を空けて複数枚備え、前記各マスク板の前記梁状領域がアンテナの長手方向に沿って互いにずれて前記スリット板のスリットを覆っているのが好ましい。
このようにすれば、複数のマスク板の梁状領域によりスリット板のスリットを覆うようにすることで、単一のマスク板によりスリットをスリット板のスリットを覆う場合に比べて、各マスク板の梁状領域の幅(アンテナに沿った長さ)を小さくすることができる。これにより、各マスク板に生じる誘導電流を小さくでき、高周波磁場の透過率の低下をより抑えることができる。また各マスク板に起因する高周波磁場の透過率の低下を抑えられるので、スリット板における各スリット幅を広くし、またそのスリット間の幅を狭くすることができ、高周波場の透過率をより一層大きくすることができる。
ここで、複数のマスク板が互いに接触している場合には、実効的な梁状領域の幅が大きくなることでマスク板に誘導電流が流れやすくなるが、上記した構成では複数のマスク板を互いに接触しないように間隙を空けて設けるようにしているので、実効的な梁用領域の幅を小さくでき、これにより各マスク板に生じる誘導電流を小さくして、高周波磁場の透過率を効果的に抑制することができる。
さらには、複数のマスク板を互いに間隙を空けて設けることで、複数のマスク板が互いに接触することによりアンテナに沿って生じ得るプラズマ密度のムラも抑制できる。
【0013】
スリット板とマスク板とを備える上記した構成では、全体としての高周波磁場の透過率は、各板を積層することなく単体だけで用いた場合の透過率の積となる。そのため、高周波磁場の透過率の低下を抑制する観点から、マスク板の各梁状領域の幅は、マスク板を有しない場合におけるスリット板の梁状領域の幅よりも狭くすることが好ましく、具体的には、例えば10mm以下が好ましく、5mm以下がより好ましい。同様の理由で、スリット板における各スリット間の幅は、例えば10mm以下が好ましく、5mm以下がより好ましい。
マスク板の各梁状領域の幅をこのような範囲にすれば、スリット板をマスク板で覆う構成としても、マスク板に流れる誘導電流を十分に小さくし、高周波磁場の透過率の低下を効果的に抑制できる。
【0014】
また前記プラズマ処理装置は、前記マスク板が、前記スリット板の内向き面における前記スリットの延在方向外側に設定された接続領域に接続されているのが好ましい。
マスク板とスリット板の接続箇所は誘導電流が特に流れやすいが、このような構成にすれば、スリット板の内向き面においてアンテナから遠い位置でマスク板を接続するので、高周波磁場の透過率の低下を効率よく抑制できる。
【0015】
また前記プラズマ処理装置は、前記スリット板における接続領域の近傍に、冷却媒体が流れる流路が形成されているのが好ましい。
このようにすれば、スリット板を冷却しながらマスク板も冷却することができ、輻射による誘電体板への熱の流れを抑えることができる。
【0016】
また前記プラズマ処理装置は、前記マスク板が、前記開口が形成された前記真空容器の側壁、又は当該側壁と前記スリット板との間に介在するフランジ部材に取り付けられていてもよい。
このようにすれば、マスク板とスリット板とを分離して設けることができるので、作業性を向上することができる。
【0017】
マスク板からの輻射による誘電体板の温度上昇を抑える観点から、マスク板とスリット板との間隙は広い方が好ましい。その一方で、間隙が広すぎると間隙内でプラズマが生成し、被処理物の周辺でのプラズマ密度が低下する可能性がある。そのため、マスク板とスリット板との間隙の厚み方向に沿った長さは5mm以下が好ましい。
【0018】
また、使用するガス種、ガス圧又はアンテナに印加する電流の大きさによっては、マスク板とスリット板との間隙においてプラズマが発生する可能性がある。
そのため、前記プラズマ処理装置は、前記スリット板と前記マスク板との間隙内に、前記アンテナの長手方向に沿って運動する荷電粒子を遮蔽する遮蔽壁が設けられているのが好ましい。
このようにすれば、間隙内におけるアンテナの長手方向に沿った荷電粒子の運動を遮蔽壁により抑制でき、間隙内での放電発生を防止できる。
【0019】
また前記プラズマ処理装置は、前記スリット板及び前記マスク板が接地電位である、又は交流電圧が印加されているのが好ましい。
このようにすれば、マスク板により高周波電場を遮蔽した上で、必要な電圧を印加することで、プラズマに電位を任意に付与することで、対向する基板等の被処理物への荷電粒子の入射エネルギーを制御することができる。
【発明の効果】
【0020】
このように構成した本発明によれば、真空容器の外部にアンテナを配置し、誘電体板とスリット板とを重ねて磁場透過窓を構成したプラズマ処理装置において、誘電体板の汚染を防止して高周波磁場の透過率の低下及び誘導電流による発熱を抑制するとともに、プラズマによる誘電体板の温度上昇を抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】一実施形態のプラズマ処理装置の構成を模式的に示す縦断面図。
【
図2】同実施形態のプラズマ処理装置の構成を模式的に示す横断面図。
【
図3】同実施形態における磁場透過窓付近の構成を模式的に示す断面図。
【
図4】同実施形態における磁場透過窓付近の構成を真空容器の内側から視た平面図。
【
図5】同実施形態における磁場透過窓付近の構成を真空容器の内側から視た斜視図。
【
図6】その他の実施形態における磁場透過窓付近の構成を模式的に示す縦断面図。
【
図7】その他の実施形態における磁場透過窓付近の構成を模式的に示す横断面図。
【
図8】その他の実施形態における磁場透過窓付近の構成を模式的に示す横断面図。
【
図9】その他の実施形態における磁場透過窓付近の構成を模式的に示す横断面図。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下に、本発明に係るプラズマ処理装置の一実施形態について、図面を参照して説明する。
【0023】
<装置構成>
本実施形態のプラズマ処理装置100は、誘導結合型のプラズマPを用いて基板Oに処理を施すものである。ここで、基板Oは、例えば、液晶ディスプレイや有機ELディスプレイ等のフラットパネルディスプレイ(FPD)用の基板、フレキシブルディスプレイ用のフレキシブル基板等である。また、基板Oに施す処理は、例えば、プラズマCVD法による膜形成、エッチング、アッシング、スパッタリング等である。
【0024】
なお、このプラズマ処理装置100は、プラズマCVD法によって膜形成を行う場合はプラズマCVD装置、エッチングを行う場合はプラズマエッチング装置、アッシングを行う場合はプラズマアッシング装置、スパッタリングを行う場合はプラズマスパッタリング装置とも呼ばれる。
【0025】
具体的にプラズマ処理装置100は、
図1及び
図2に示すように、真空排気され且つガスが導入される真空容器1と、真空容器1の外部に設けられたアンテナ2と、アンテナ2に高周波を印加する高周波電源3とを備えたものである。かかる構成において、アンテナ2に高周波電源3から高周波を印加することによりアンテナ2には高周波電流IRが流れて、真空容器1内に誘導電界が発生して誘導結合型のプラズマPが生成される。
【0026】
真空容器1は、例えば金属製の容器であり、その壁(ここでは上壁1a)には、厚さ方向に貫通する開口1xが形成されている。この真空容器1は、ここでは電気的に接地されており、その内部は真空排気装置4によって真空排気される。
【0027】
また、真空容器1内には、例えば流量調整器(図示省略)や真空容器1に設けられた1又は複数のガス導入口11を経由して、ガスが導入される。ガスは、基板Oに施す処理内容に応じたものにすれば良い。例えば、プラズマCVD法によって基板に膜形成を行う場合には、ガスは、原料ガス又はそれを希釈ガス(例えばH2)で希釈したガスである。より具体例を挙げると、原料ガスがSiH4の場合はSi膜を、SiH4+NH3の場合はSiN膜を、SiH4+O2の場合はSiO2膜を、SiF4+N2の場合はSiN:F膜(フッ素化シリコン窒化膜)を、それぞれ基板上に形成することができる。
【0028】
この真空容器1の内部には、基板Oを保持する基板ホルダ5が設けられている。この例のように、基板ホルダ5にバイアス電源6からバイアス電圧を印加するようにしても良い。バイアス電圧は、例えば負の直流電圧、負のバイアス電圧等であるが、これに限られるものではない。このようなバイアス電圧によって、例えば、プラズマP中の正イオンが基板Oに入射する時のエネルギーを制御して、基板Oの表面に形成される膜の結晶化度の制御等を行うことができる。基板ホルダ5内に、基板Oを加熱するヒータ51を設けておいても良い。
【0029】
アンテナ2は、
図1及び
図2に示すように、真空容器1に形成された開口1xに臨むように配置されている。なお、アンテナ2の本数は1本に限らず、複数本のアンテナ2を設けても良い。
【0030】
アンテナ2は、
図2に示すように、その一端部である給電端部2aが、整合回路31を介して高周波電源3が接続されており、他端部である終端部2bが、直接接地されている。なお、終端部2bは、コンデンサ又はコイル等を介して接地されてもよい。
【0031】
高周波電源3は、整合回路31を介してアンテナ2に高周波電流IRを流すことができる。高周波の周波数は例えば一般的な13.56MHzであるが、これに限られるものではなく適宜変更してもよい。
【0032】
このプラズマ処理装置100は、真空容器1の壁(上壁1a)に形成された開口1xを真空容器1の外側から塞ぐスリット板7と、スリット板7に形成されたスリット7xを真空容器1の外側から塞ぐ誘電体板8とをさらに備えている。
【0033】
スリット板7は、アンテナ2から生じた高周波磁場を真空容器1内に透過させるとともに、真空容器1の外部から真空容器1の内部への電界の入り込みを防ぐものである。具体的にこのスリット板7は、その厚さ方向に貫通してなるスリット7xがアンテナ2の長手方向に沿って複数形成された平板状のものである。このスリット板7は、後述する誘電体板8よりも機械強度が高いことが好ましく、誘電体板8よりも厚み寸法が大きいことが好ましい。そして複数のスリット7xは、厚さ方向から視て、互いに平行であって、且つアンテナ2に交差するように(具体的には直交するように)形成されている。複数のスリット7xはいずれも同形状(具体的には平面視矩形状)であり、アンテナ2の長手方向に沿った長さ(幅)は、例えば5mm以上30mm以下であるがこれに限らない。
【0034】
より具体的に説明すると、スリット板7は、例えばCu、Al、Zn、Ni、Sn、Si、Ti、Fe、Cr、Nb、C、Mo、W又はCoを含む群から選択される1種の金属又はそれらの合金(例えばステンレス合金、アルミニウム合金等)等の金属材料を圧延加工(例えば冷間圧延や熱間圧延)などにより製造したものであり、例えば厚みが約5mmのものである。ただし、製造方法や厚みはこれに限らず仕様に応じて適宜変更して構わない。
【0035】
このスリット板7は、平面視において真空容器の開口1xよりも大きいものであり、上壁1aに支持された状態で開口1xを塞いでいる。スリット板7と上壁1aとの間には、Oリングやガスケット等のシール部材S(
図1及び
図2参照)が介在しており、これらの間は真空シールされている。
【0036】
誘電体板8は、スリット板7において真空容器1の外側を向く外向き面71(真空容器1の内部を向く内向き面の裏面)に設けられて、スリット板7のスリット7xを塞ぐものである。
【0037】
誘電体板8は、全体が誘電体物質で構成された平板状をなすものであり、例えばアルミナ、炭化ケイ素、窒化ケイ素等のセラミックス、石英ガラス、無アルカリガラス等の無機材料、フッ素樹脂(例えばテフロン)等の樹脂材料等からなる。なお、誘電損を低減する観点から、誘電体板8を構成する材料は、誘電正接が0.01以下のものが好ましく、0.005以下のものがより好ましい。
【0038】
ここでは誘電体板8の板厚をスリット板7の板厚よりも小さくしているが、これに限定されず、例えば真空容器1を真空排気した状態において、スリット7xから受ける真空容器1の内外の差圧に耐え得る強度を備えれば良く、スリット7xの数や長さ等の仕様に応じて適宜設定されてよい。ただし、アンテナ2と真空容器1との間の距離を短くする観点からは薄い方が好ましい。
【0039】
かかる構成により、スリット板7及び誘電体板8は、アンテナ2から発生した磁場を透過させる磁場透過窓Wとして機能を担う。すなわち、高周波電源3からアンテナ2に高周波を印加すると、アンテナ2から発生した高周波磁場が、スリット板7及び誘電体板8からなる磁場透過窓Wを透過して真空容器1内に形成(供給)される。これにより、真空容器1内の空間に誘導電界が発生し、誘導結合型のプラズマPが生成される。
【0040】
然して、本実施形態のプラズマ処理装置100は、
図1及び
図2に示すように、スリット板7に形成された各スリット7xを、真空容器1の内側から間隙Gを空けて覆うマスク板9をさらに備えている。
【0041】
より具体的に説明すると、
図3~
図5に示すように、マスク板9はその厚さ方向に貫通してなるスリット9xがアンテナ2の長手方向に沿って複数形成された平板状のものである。厚さ方向から視て、この複数のスリット9xは互いに平行であって、かつスリット板7に形成された複数のスリット7xと平行になるように形成されている。ここでは、各スリット9xは、アンテナ2に交差するように(具体的には直交するように)形成されている。複数のスリット9xはいずれも同形状(具体的には平面視矩形状)となるように形成されている。
【0042】
マスク板9における隣り合うスリット9x間には、各スリット9xに平行な梁状領域9zが形成されている。この梁状領域9zは、スリット板7に形成された複数のスリット7xに対応するように複数形成されており、各梁状領域9zによりスリット板7の各スリット7xが覆われている。ここでは、アンテナ2の長手方向に沿った梁状領域9zの長さ(幅)は、スリット板7のスリット7xの幅と略同一であり、各梁状領域9zがスリット板7の各スリット7xの略全部を覆っている。なお、磁場の透過率を向上させる観点から各梁状領域9zの幅は狭い程好ましく、例えば10mm以下が好ましく、5mm以下がより好ましい。また各梁状領域9zは、各スリット7xの一部のみを覆うように形成されてもよい。
【0043】
またマスク板9は、スリット板7の内向き面72に設定された接続領域7Rに接続されている。この接続領域7Rは、スリット板7の内向き面72における複数のスリット7xの延在方向の両外側に設定されたものであり、アンテナ2の長手方向に沿って延びる長尺状の領域である。マスク板9の外向き面91には、スリット板7の内向き面72に向かって突き出す突起部9aが形成されており、この突起部9aがスリット板7の内向き面72に設定された接続領域7Rに接続されている。突起部9aは、マスク板9の外向き面91における複数のスリット9xの延在方向に沿った両外側に形成されたものであり、アンテナ2の長手方向に沿ってマスク板9の一方の端部から他方の端部に亘って延びる棒状を成している。なおマスク板9は、スリット板7に電気的に接続されて共に接地電位とされている。
【0044】
さらにマスク板9は、その外向き面91とスリット板7の内向き面72とが略平行になる(すなわち、一定の間隙Gを空ける)ように設けられている。マスク板9の外向き面とスリット板7の内向き面72との間隙Gの寸法は、5mm以下の値に設定されているのが好ましい。
【0045】
具体的にマスク板9は、例えばCu、Al、Zn、Ni、Sn、Si、Ti、Fe、Cr、Nb、C、Mo、W又はCoを含む群から選択される1種の金属又はそれらの合金(例えばステンレス合金、アルミニウム合金等)等の金属材料により構成されている。マスク板9の厚みは、スリット板7の厚みより小さいことが好ましく、例えば約5mm以下のものである。ただし、マスク板9の厚みはこれに限らず仕様に応じて適宜変更して構わない。
【0046】
またこの実施形態では、スリット板7には水等の冷却媒体が流れる流路7cが形成されている(又は設けられている。)。この流路7cは、スリット板7における接続領域7Rの近傍にアンテナ2の長手方向に沿って形成されている。ここでは、流路7cは、スリット板7の厚み方向に沿って接続領域7Rの直上に位置するように形成されている。
【0047】
<本実施形態の効果>
このように構成した本実施形態のプラズマ処理装置100によれば、
スリット板7に形成されたスリット7xをマスク板9によって真空容器1の内側から覆うことで、真空容器1の内側から視て誘電体板8が隠れるようにしているので、導電性の飛来物等が誘電体板8に付着して汚染するのを防止できる。これにより、誘電体板8の表面が導電化されるのを防ぎ、高周波磁場の透過率の低下を抑制できるとともに、誘電体板8の表面に誘導電流が流れることによる発熱も防止することができる。しかも、マスク板9とスリット板7との間に間隙Gを設けているので、アンテナ2に沿ってマスク板9及びスリット板7に生じる誘導電流を小さくでき、高周波磁場の透過率の低下を効率よく抑制できる。
また、マスク板9によりスリット板7のスリット7xを覆っているので、スリット7xから露出する誘電体板8がプラズマや被処理物に直接晒されないので、輻射等による誘電体板8の温度上昇を抑えて破損を防止できる。
【0048】
マスク板9に複数のスリット9xを形成することにより、高周波磁場を真空容器1の内側に効率よく透過させることができる。さらには、アンテナ2に交差するように複数のスリット9xを形成しているので、アンテナ2に沿ってマスク板9に流れる誘導電流を小さくできる。これにより、マスク板9における高周波磁場の透過率の低下を抑制し、またマスク板9の温度上昇及びこれに伴う輻射による誘電体板8の温度上昇を抑制できる。
【0049】
<その他の変形実施形態>
なお、本発明は前記実施形態に限られるものではない。
【0050】
例えば、他の実施形態のプラズマ処理装置100は、
図6及び
図7に示すように、複数のマスク板9をその厚みに方向に沿って互いに間隙G’を空けて複数(2つ以上)備えており、当該複数のマスク板9により、スリット板7に形成されたスリット7xを覆うようにしてもよい。この場合、各マスク板9における梁状領域9zの幅をいずれもスリット板7のスリット7xの幅よりも狭くするとともに、各マスク板9における梁状領域9zをアンテナ2の長手方向に沿って互いにズレた位置に形成すればよい。この場合、各マスク板9における梁状領域9zの幅は、互いに等しくてもよく、異なっていてもよい。また各マスク板9における梁状領域9zは、厚さ方向から視て互いに重複していてもよく、重複してなくてもよい。また各マスク板9間の間隙G’の大きさは特に限定されず、例えば5mm以下が好ましい。
【0051】
また他の実施形態のプラズマ処理装置100では、スリット板7とマスク板9との間隙G内に、アンテナ2の長手方向に沿って運動する荷電粒子を遮蔽する遮蔽壁SWが設けられていてもよい。この遮蔽壁SWは、アンテナ2の長手方向に対して交差する(具体的には直交する)ように形成された壁面を有してよい。アンテナ2の長手方向から視て、遮蔽壁SWは間隙Gの全部又は一部を遮蔽するように形成されてよい。そしてこの遮蔽壁SWは、アンテナ2の長手方向に沿って複数設けられてもよい。複数の遮蔽壁SWは互いに平行であり、アンテナ2の長手方向に沿って一定の間隔(ピッチ)で設けられているのが好ましい。アンテナ2の長手方向に沿った複数の遮蔽壁SW間の間隔(ピッチ)は、スリット板7のスリット7x間の間隔と等しくてもよく、異なっていてもよい。
【0052】
具体的には、例えば
図8に示すように、スリット板7の内向き面72に、マスク板9の外向き面91に向かって間隙G内に突き出す突出部7pが形成されており、この突出部7pにより遮蔽壁SWが構成されてもよい。また
図9に示すように、マスク板9の外向き面91に、スリット板7の内向き面72に向かって間隙G内に突き出す突出部9pが形成されており、この突出部9pにより遮蔽壁SWが構成されてもよい。
【0053】
また前記実施形態では、マスク板9はスリット板7の内向き面72に接続されていたが、これに限らない。他の実施形態では、マスク板9は、開口1xが形成された真空容器1の側壁1a、又は側壁1aとスリット板7との間に介在するように設けたフランジ部材に取り付けられていてもよい。
【0054】
その他、本発明は前記実施形態に限られず、その趣旨を逸脱しない範囲で種々の変形が可能であるのは言うまでもない。
【符号の説明】
【0055】
100・・・プラズマ処理装置
O ・・・基板
P ・・・誘導結合プラズマ
2 ・・・真空容器
3 ・・・アンテナ
7 ・・・スリット部材
7x ・・・スリット
8 ・・・誘電体板
9 ・・・マスク板
W ・・・磁場透過窓
S ・・・シール