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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023104141
(43)【公開日】2023-07-28
(54)【発明の名称】支保工設置方法および環状支保工
(51)【国際特許分類】
   E02B 17/00 20060101AFI20230721BHJP
   B63B 77/00 20200101ALI20230721BHJP
   B63B 73/30 20200101ALI20230721BHJP
【FI】
E02B17/00 Z
B63B77/00
B63B73/30
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022004958
(22)【出願日】2022-01-17
(71)【出願人】
【識別番号】000005119
【氏名又は名称】日立造船株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000001373
【氏名又は名称】鹿島建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100110847
【弁理士】
【氏名又は名称】松阪 正弘
(74)【代理人】
【識別番号】100136526
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 勉
(74)【代理人】
【識別番号】100136755
【弁理士】
【氏名又は名称】井田 正道
(72)【発明者】
【氏名】宮本 卓次郎
(72)【発明者】
【氏名】正木 洋二
(72)【発明者】
【氏名】松野 進
(72)【発明者】
【氏名】根本 佳明
(72)【発明者】
【氏名】吉原 知佳
(72)【発明者】
【氏名】合樂 将三
(72)【発明者】
【氏名】田中 秀夫
(72)【発明者】
【氏名】秋山 完幸
(57)【要約】
【課題】トラス構造を有する環状支保工を設置水域に容易に移送する。
【解決手段】支保工設置方法は、トラス構造を有する環状の支保工本体をドック内にて製造する工程(ステップS11)と、当該ドック内にて、支保工本体を下方から覆う底板と、支保工本体を外側方から覆う外側壁と、支保工本体を内側方から覆う内側壁とを設けて、外側壁と内側壁との間に浮力室を形成する工程(ステップS12)と、ドックに注水して当該浮力室の浮力によって環状支保工を水面に浮かせる工程(ステップS13)と、水面に浮かんだ状態の環状支保工を設置水域へと曳航する工程(ステップS14)と、環状矢板構造体の内側に環状支保工を配置する工程(ステップS15)と、を備える。これにより、トラス構造を有する環状支保工を設置水域に容易に移送することができる。
【選択図】図4A
【特許請求の範囲】
【請求項1】
水中構造物が建造される予定の水域を囲む環状矢板構造体の内側に環状支保工を設置する支保工設置方法であって、
前記環状支保工は、
トラス構造を有するとともに平面視における形状が環状である支保工本体と、
前記支保工本体の周方向の少なくとも一部に設けられた浮力室と、
を備え、
前記支保工設置方法は、
a)前記支保工本体をドック内にて製造する工程と、
b)前記ドック内にて、前記支保工本体の周方向の前記少なくとも一部において、前記支保工本体を下方から覆う底板と、前記支保工本体を外側方から覆う外側壁と、前記支保工本体を内側方から覆う内側壁とを設けて、前記外側壁と前記内側壁との間に前記浮力室を形成する工程と、
c)前記ドックに注水して前記浮力室の浮力によって前記環状支保工を水面に浮かせる工程と、
d)水面に浮かんだ状態の前記環状支保工を設置水域へと曳航する工程と、
e)前記環状矢板構造体の内側に前記環状支保工を配置する工程と、
を備えることを特徴とする支保工設置方法。
【請求項2】
請求項1に記載の支保工設置方法であって、
前記支保工本体の平面視における形状は矩形枠状であり、
前記支保工本体は、
前記d)工程における曳航方向に平行に延びる一対の第1部位と、
前記曳航方向の前側および後側において前記一対の第1部位の端部同士を接続するとともに前記曳航方向に垂直な左右方向に延びる一対の第2部位と、
を備え、
前記一対の第1部位のそれぞれに前記浮力室が設けられ、
前記一対の第2部位のそれぞれの前面および後面において前記トラス構造が露出していることを特徴とする支保工設置方法。
【請求項3】
請求項1または2に記載の支保工設置方法であって、
前記b)工程において、前記浮力室の上方が天板にて覆われることを特徴とする支保工設置方法。
【請求項4】
請求項1ないし3のいずれか1つに記載の支保工設置方法であって、
前記浮力室の内部空間が、水密隔壁によって複数の浮力区画に分割されていることを特徴とする支保工設置方法。
【請求項5】
請求項1ないし4のいずれか1つに記載の支保工設置方法であって、
前記浮力室は、
前記底板に設けられた底部開口と、
前記底板に対して着脱自在に取り付けられて前記底部開口を閉塞する底蓋と、
を備えることを特徴とする支保工設置方法。
【請求項6】
請求項1ないし5のいずれか1つに記載の支保工設置方法であって、
前記d)工程よりも前に、前記d)工程における曳航方向の前側において前記環状支保工の前面を覆うとともに前記環状支保工の抗力係数を低減する前部付加物が、前記環状支保工に取り付けられることを特徴とする支保工設置方法。
【請求項7】
請求項1ないし6のいずれか1つに記載の支保工設置方法であって、
前記d)工程よりも前に、前記浮力室への注排水が可能なポンプが準備されることを特徴とする支保工設置方法。
【請求項8】
請求項1ないし7のいずれか1つに記載の支保工設置方法であって、
前記e)工程は、
e1)前記環状矢板構造体の一部となる予定の構造物であって、平面視における形状が開口部を有する部分環状である部分矢板構造体が前記設置水域に準備された状態で、水面に浮かんだ状態の前記環状支保工を、前記開口部から前記部分矢板構造体の内側に進入させる工程と、
e2)前記開口部に矢板を設置して、前記環状支保工の周囲を全周に亘って囲む前記環状矢板構造体を形成する工程と、
を備えることを特徴とする支保工設置方法。
【請求項9】
請求項1ないし8のいずれか1つに記載の支保工設置方法であって、
f)前記e)工程よりも後に、前記環状支保工の内側に前記水中構造物を建造する工程と、
g)前記f)工程よりも後に、前記水中構造物の周囲から前記環状支保工を撤去する工程と、
をさらに備え、
前記g)工程は、
g1)前記環状支保工を周方向において複数の分割体に分割する工程と、
g2)前記環状矢板構造体の周方向の一部において矢板を除去して撤去用開口部を形成する工程と、
g3)前記複数の分割体のうち前記浮力室を含む第1の分割体を、前記浮力室の浮力によって水面に浮かんだ状態で、前記撤去用開口部を介して前記環状矢板構造体の外側へと移動させる工程と、
を備えることを特徴とする支保工設置方法。
【請求項10】
請求項9に記載の支保工設置方法であって、
前記g)工程は、
g4)前記g2)工程よりも前に、前記環状支保工のうち前記浮力室を含まない第2の分割体となる予定の部位に浮力体を設ける工程と、
g5)前記g2)工程よりも後に、前記第2の分割体を、前記浮力体の浮力によって水面に浮かんだ状態で、前記撤去用開口部を介して前記環状矢板構造体の外側へと移動させる工程と、
をさらに備えることを特徴とする支保工設置方法。
【請求項11】
水中構造物が建造される予定の水域を囲む環状矢板構造体の内側に設置される環状支保工であって、
トラス構造を有するとともに平面視における形状が環状である支保工本体と、
前記支保工本体の周方向の少なくとも一部に設けられた浮力室と、
を備え、
前記支保工本体の周方向の前記少なくとも一部において、前記支保工本体を下方から覆う底板と、前記支保工本体を外側方から覆う外側壁と、前記支保工本体を内側方から覆う内側壁とが設けられ、前記外側壁と前記内側壁との間に前記浮力室が形成されることを特徴とする環状支保工。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水中構造物が建造される予定の水域を囲む環状矢板構造体の内側に設置される環状支保工、および、当該環状支保工を設置する支保工設置方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、橋脚等の水中構造物を建造する際には、当該水中構造物が建造される予定の水域を囲む環状の矢板構造体が設置され、当該矢板構造体の内側に支保工が設置される。支保工は、矢板構造体の内側の空間から水を抜いた際に、矢板構造体の外側から加わる水圧を支持する仮設構造物である。
【0003】
海上橋の橋脚等を建造する場合、通常、工場にて製造された支保工は、フローティングクレーン等によって吊り上げられて海上の台船上に載置される。そして、当該台船をタグボート等で曳航することにより、橋脚等が建造される予定の海域へと支保工が海上輸送される。当該海域に台船が到着すると、支保工は、フローティングクレーン等によって吊り上げられ、矢板構造体の内側の空間に設置される。
【0004】
一方、特許文献1では、水中に打設された基礎杭群の頂部に桟橋等のコンクリート製の水上構造物を構築するために使用される浮遊式型枠支保工が提案されている。当該浮遊式型枠支保工は、水平方向に延びる梯子状支保工と、梯子状支保工上に固定された型枠(すなわち、板状型枠およびスラブ型枠)と、箱状のスラブ型枠の内部に配置された発泡スチロール等の浮遊材と、を備えている。当該浮遊式型枠支保工は、水面に浮遊した状態で曳航され、水上から突出する基礎杭群の間に配置される。そして、浮遊式型枠支保工が空中に吊り上げられて杭頭吊金物に固定され、型枠上にコンクリートが打設される。コンクリートの打設後、所定の養生期間が経過すると、型枠を脱型して浮遊式型枠支保工を水上へと降下させ、次の施工区間へと移動させる。
【0005】
また、特許文献2では、水中に打設された基礎杭群の頂部に桟橋等のコンクリート製の水上構造物を構築するために使用される梯子状支保工が提案されている。当該梯子状支保工は、縦材である複数の大型支保工と、複数の大型支保工を連結する小型支保工と、を備えている。大型支保工は円筒状の鋼管であり、水面に浮遊した状態で曳航され、水上から突出する基礎杭群の間に配置される。当該大型支保工は、内部に水を出し入れすることによって浮力を調整し、必要に応じた姿勢に調整される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2002-146760号公報
【特許文献2】特開平4-97008号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
近年、水中構造物の建造予定水域を囲む環状矢板構造体の内側に設置される支保工として、環状矢板構造体の内側面に沿って設けられる環状支保工が用いられることがある。この場合、水中構造物は環状支保工の内側の空間に建造されるため、支保工が水中構造物と干渉することが防止され、また、建造後の支保工の撤去も容易とされる。当該環状支保工は、強度確保と軽量化との両立のため、鋼材がトラス状に組まれたトラス構造を有する。
【0008】
本発明は、トラス構造を有する環状支保工を設置水域に容易に移送することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
請求項1に記載の発明は、水中構造物が建造される予定の水域を囲む環状矢板構造体の内側に環状支保工を設置する支保工設置方法であって、前記環状支保工は、トラス構造を有するとともに平面視における形状が環状である支保工本体と、前記支保工本体の周方向の少なくとも一部に設けられた浮力室とを備え、前記支保工設置方法は、a)前記支保工本体をドック内にて製造する工程と、b)前記ドック内にて、前記支保工本体の周方向の前記少なくとも一部において、前記支保工本体を下方から覆う底板と、前記支保工本体を外側方から覆う外側壁と、前記支保工本体を内側方から覆う内側壁とを設けて、前記外側壁と前記内側壁との間に前記浮力室を形成する工程と、c)前記ドックに注水して前記浮力室の浮力によって前記環状支保工を水面に浮かせる工程と、d)水面に浮かんだ状態の前記環状支保工を設置水域へと曳航する工程と、e)前記環状矢板構造体の内側に前記環状支保工を配置する工程とを備える。
【0010】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の支保工設置方法であって、前記支保工本体の平面視における形状は矩形枠状であり、前記支保工本体は、前記d)工程における曳航方向に平行に延びる一対の第1部位と、前記曳航方向の前側および後側において前記一対の第1部位の端部同士を接続するとともに前記曳航方向に垂直な左右方向に延びる一対の第2部位とを備え、前記一対の第1部位のそれぞれに前記浮力室が設けられ、前記一対の第2部位のそれぞれの前面および後面において前記トラス構造が露出している。
【0011】
請求項3に記載の発明は、請求項1または2に記載の支保工設置方法であって、前記b)工程において、前記浮力室の上方が天板にて覆われる。
【0012】
請求項4に記載の発明は、請求項1ないし3のいずれか1つに記載の支保工設置方法であって、前記浮力室の内部空間が、水密隔壁によって複数の浮力区画に分割されている。
【0013】
請求項5に記載の発明は、請求項1ないし4のいずれか1つに記載の支保工設置方法であって、前記浮力室は、前記底板に設けられた底部開口と、前記底板に対して着脱自在に取り付けられて前記底部開口を閉塞する底蓋とを備える。
【0014】
請求項6に記載の発明は、請求項1ないし5のいずれか1つに記載の支保工設置方法であって、前記d)工程よりも前に、前記d)工程における曳航方向の前側において前記環状支保工の前面を覆うとともに前記環状支保工の抗力係数を低減する前部付加物が、前記環状支保工に取り付けられる。
【0015】
請求項7に記載の発明は、請求項1ないし6のいずれか1つに記載の支保工設置方法であって、前記d)工程よりも前に、前記浮力室への注排水が可能なポンプが準備される。
【0016】
請求項8に記載の発明は、請求項1ないし7のいずれか1つに記載の支保工設置方法であって、前記e)工程は、e1)前記環状矢板構造体の一部となる予定の構造物であって、平面視における形状が開口部を有する部分環状である部分矢板構造体が前記設置水域に準備された状態で、水面に浮かんだ状態の前記環状支保工を、前記開口部から前記部分矢板構造体の内側に進入させる工程と、e2)前記開口部に矢板を設置して、前記環状支保工の周囲を全周に亘って囲む前記環状矢板構造体を形成する工程とを備える。
【0017】
請求項9に記載の発明は、請求項1ないし8のいずれか1つに記載の支保工設置方法であって、f)前記e)工程よりも後に、前記環状支保工の内側に前記水中構造物を建造する工程と、g)前記f)工程よりも後に、前記水中構造物の周囲から前記環状支保工を撤去する工程とをさらに備え、前記g)工程は、g1)前記環状支保工を周方向において複数の分割体に分割する工程と、g2)前記環状矢板構造体の周方向の一部において矢板を除去して撤去用開口部を形成する工程と、g3)前記複数の分割体のうち前記浮力室を含む第1の分割体を、前記浮力室の浮力によって水面に浮かんだ状態で、前記撤去用開口部を介して前記環状矢板構造体の外側へと移動させる工程とを備える。
【0018】
請求項10に記載の発明は、請求項9に記載の支保工設置方法であって、前記g)工程は、g4)前記g2)工程よりも前に、前記環状支保工のうち前記浮力室を含まない第2の分割体となる予定の部位に浮力体を設ける工程と、g5)前記g2)工程よりも後に、前記第2の分割体を、前記浮力体の浮力によって水面に浮かんだ状態で、前記撤去用開口部を介して前記環状矢板構造体の外側へと移動させる工程とをさらに備える。
【0019】
請求項11に記載の発明は、水中構造物が建造される予定の水域を囲む環状矢板構造体の内側に設置される環状支保工であって、トラス構造を有するとともに平面視における形状が環状である支保工本体と、前記支保工本体の周方向の少なくとも一部に設けられた浮力室とを備え、前記支保工本体の周方向の前記少なくとも一部において、前記支保工本体を下方から覆う底板と、前記支保工本体を外側方から覆う外側壁と、前記支保工本体を内側方から覆う内側壁とが設けられ、前記外側壁と前記内側壁との間に前記浮力室が形成される。
【発明の効果】
【0020】
本発明では、トラス構造を有する環状支保工を設置水域に容易に移送することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】一の実施の形態に係る環状支保工を示す平面図である。
図2】環状支保工の断面図である。
図3】環状支保工の断面図である。
図4A】環状支保工の設置の流れを示す図である。
図4B】環状支保工の設置の流れを示す図である。
図4C】環状支保工の設置の流れを示す図である。
図5】環状支保工の設置の様子を示す図である。
図6】環状支保工の設置の様子を示す図である。
図7】環状支保工の設置の様子を示す図である。
図8】環状支保工の撤去の様子を示す図である。
図9】環状支保工の撤去の様子を示す図である。
図10】環状支保工の撤去の様子を示す図である。
図11】環状支保工の撤去の様子を示す図である。
図12】環状支保工の撤去の様子を示す図である。
図13】環状支保工の平面図である。
図14】環状支保工の平面図である。
図15】環状支保工の平面図である。
図16】環状支保工の平面図である。
図17】環状支保工の平面図である。
図18】環状支保工の平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
図1は、本発明の一の実施の形態に係る環状支保工1を示す平面図である。図2は、環状支保工1を図1中のII-IIの位置で切断した断面図である。図3は、環状支保工1を図1中のIII-IIIの位置で切断した断面図である。
【0023】
環状支保工1は、水中構造物(例えば、海上橋の橋脚基礎部)が建造される予定の水域を囲む環状矢板構造体の内側に設置され、環状矢板構造体の内側の空間から水を抜いた際に、環状矢板構造体の外側から加わる水圧を支持する環状の仮設構造物である。本明細書では、環状とは、輪のような円環状のみならず、内側に空間が存在する多角形の枠状(例えば、矩形枠状)も含む概念である。図1に示す例では、環状支保工1の平面視における形状は、外周縁の各辺が数十mの略矩形枠状である。また、環状支保工1の上下方向の高さは、例えば数mである。
【0024】
環状支保工1は、支保工本体2と、浮力室(後述する、左浮力室31および右浮力室32)とを備える。支保工本体2は、トラス構造(すなわち、鋼材がトラス状に組まれた構造)を有する環状の構造体である。本実施の形態では、支保工本体2の略全体がトラス構造により構成される。支保工本体2の平面視における形状は環状であり、図1に示す例では、略矩形枠状である。以下の説明では、図1中における左右方向を、単に「左右方向」とも呼び、図1中における上下方向(すなわち、左右方向に垂直な方向)を「前後方向」とも呼ぶ。また、図1中の上側および下側を「前側」および「後側」とも呼ぶ。さらに、平面視における支保工本体2の外周縁よりも外側を単に「外側」とも呼び、支保工本体2について当該外側とは反対側を「内側」とも呼ぶ。
【0025】
以下の説明では、支保工本体2のうち、図1中の左側において前後方向に略平行に延びる略長方形状の部位を「左レーン21」と呼び、図1中の右側において前後方向に略平行に延びる略長方形状の部位を「右レーン22」と呼ぶ。また、支保工本体2のうち、左レーン21の前側の端部と右レーン22の前側の端部と接続する部位を「前接続部23」と呼び、左レーン21の後側の端部と右レーン22の後側の端部と接続する部位を「後接続部24」と呼ぶ。前接続部23および後接続部24はそれぞれ、左レーン21と右レーン22との間に配置され、図1中において左右方向に略平行に延びる略長方形状の部位である。
【0026】
左レーン21と右レーン22とは略同形状であり、図1中において支保工本体2の左右方向の中心を通って前後方向に延びる仮想的な直線に対して略線対称である。前接続部23と後接続部24とは略同形状であり、図1中において支保工本体2の前後方向の中心を通って左右方向に延びる仮想的な直線に対して略線対称である。図1に示す例では、左レーン21および右レーン22のそれぞれの左右方向の幅は、前接続部23および後接続部24のそれぞれの前後方向の幅よりも大きい。なお、左レーン21および右レーン22のそれぞれの左右方向の幅は、前接続部23および後接続部24のそれぞれの前後方向の幅よりも小さくでもよく、同じであってもよい。
【0027】
左レーン21の下面には、左レーン21を下方から覆う底板511が設けられる。図2および図3では、底板511を太線にて示す。底板511は、左レーン21の下面を略全面に亘って覆う鋼板等の略平板状の部材であり、平面視において左レーン21と略同形状の略長方形状である。底板511は、左レーン21の下端部に固定されている。底板511の上面には、リブ等の補強部材が設けられており、左レーン21を構成する鋼材を避けて配置される。
【0028】
左レーン21の前面、後面、外側面および内側面には、左レーン21を前方、後方、左方および右方から覆う前側壁512、後側壁513、外側壁514および内側壁515が設けられる。図1ないし図3では、前側壁512、後側壁513、外側壁514および内側壁515を太線にて示す。前側壁512、後側壁513、外側壁514および内側壁515はそれぞれ、左レーン21の前面、後面、外側面および内側面を略全面に亘って覆う鋼板等の略平板状の部材であり、それぞれの法線方向から見た状態において左レーン21と略同形状の略長方形状である。前側壁512、後側壁513、外側壁514および内側壁515はそれぞれ、左レーン21の前面、後面、外側面および内側面に固定され、平面視において略矩形筒状の構造を形成する。前側壁512、後側壁513、外側壁514および内側壁515の左レーン21と対向する面にはそれぞれ、リブ等の補強部材が設けられており、左レーン21を構成する鋼材を避けて配置される。
【0029】
なお、上述の左レーン21の下面とは、左レーン21において下端に位置する鋼材群に沿う仮想的な面であり、平面視において左レーン21と略同形状の略長方形状である。また、左レーン21の前面、後面、外側面および内側面とは、左レーン21において前側、後側、外側(すなわち、左側)、および、内側(すなわち、右側)のそれぞれの端部に位置する鋼材群に沿う仮想的な面である。左レーン21の内側面は、左レーン21のうち支保工本体2の内側の空間に対向する面に加えて、左レーン21と前接続部23との境界面、および、左レーン21と後接続部24との境界面を含む。右レーン22の下面、前面、後面、外側面および内側面については、左レーン21と左右反対である点を除いて、左レーン21と同様である。また、前接続部23および後接続部24のそれぞれの下面、前面および後面についても、左レーン21と同様である。
【0030】
左レーン21に固定された前側壁512および後側壁513のそれぞれの左右方向の端部は、外側壁514および内側壁515のそれぞれの前後方向の端部と水密に接続される。また、前側壁512、後側壁513、外側壁514および内側壁515のそれぞれの下端部は、底板511の外周縁部と水密に接続される。これにより、左レーン21を内部に収容するとともに、上方を除き水密な空間が形成される。以下の説明では、底板511、前側壁512、後側壁513、外側壁514および内側壁515をまとめて「左外装板510」とも呼び、左外装板510により囲まれる水密な空間を「左浮力室31」とも呼ぶ。
【0031】
左浮力室31の内部には、左浮力室31を前後方向に区画する水密隔壁517が設けられる。図1および図2では、水密隔壁517を太線にて示す。図1および図2に示す例では、前後方向に離間して配置される2つの水密隔壁517が左浮力室31の内部に設けられる。これにより、左浮力室31の内部空間が3つの浮力区画311に分割される。2つの水密隔壁517のうち、前側の水密隔壁517は、前接続部23の後面と略同じ位置に位置し、後側の水密隔壁517は、後接続部24の前面と略同じ位置に位置する。なお、水密隔壁517の数は、1であってもよく、3以上の範囲で適宜変更されてもよい。また、左浮力室31内における水密隔壁517の配置も様々に変更されてよい。いずれの場合であっても、水密隔壁517が設けられることにより、左浮力室31が、互いに水密な複数の浮力区画311に分割される。
【0032】
各水密隔壁517は、外側壁514と内側壁515との間にて左右方向に略平行に延びる鋼板等の略平板状の部材である。水密隔壁517の左右方向の両端部は、外側壁514および内側壁515のそれぞれの左レーン21と対向する面に水密に接続される。水密隔壁517の下端部は、底板511の上面と水密に接続される。これにより、水密隔壁517は、左浮力室31を前後に水密に分割する。
【0033】
左外装板510の底板511には、複数の浮力区画311に対応する複数の底部開口518が設けられる。左浮力室31では、各浮力区画311に1つの底部開口518が設けられる。各底部開口518は底蓋519により水密に閉塞される。底蓋519は、底板511に着脱自在に取り付けられる。なお、底部開口518は、1つの浮力区画311に2つ以上設けられてもよい。また、底部開口518は、必ずしも各浮力区画311に設けられる必要はなく、複数の浮力区画311のうち一部の浮力区画311のみに設けられてもよい。後述する右浮力室32の底部開口528についても同様である。
【0034】
右レーン22の下面には、右レーン22を下方から覆う底板521が設けられる。右レーン22の前面、後面、外側面および内側面には、右レーン22を前方、後方、右方および左方から覆う前側壁522、後側壁523、外側壁524および内側壁525が設けられる。以下の説明では、底板521、前側壁522、後側壁523、外側壁524および内側壁525をまとめて「右外装板520」とも呼ぶ。図1および図3では、右外装板520を太線にて示す。右外装板520は、左外装板510と略同じ形状および構造を有し、左外装板510の左レーン21への固定態様と略同様に、右レーン22に固定される。左外装板510と右外装板520とは、図1中において支保工本体2の左右方向の中心を通って前後方向に延びる仮想的な直線に対して略線対称である。
【0035】
右外装板520により囲まれる空間は、上方を除き水密な空間であり、以下の説明では「右浮力室32」とも呼ぶ。右浮力室32の内部には、右浮力室32を前後方向に区画する水密隔壁527が設けられる。図1では、水密隔壁527を太線にて示す。右浮力室32内の水密隔壁527の数、配置および構造は、例えば、左浮力室31内の水密隔壁517の数、配置および構造と略同じである。図1に示す例では、前後方向に離間して配置される2つの水密隔壁527により、右浮力室32の内部空間が3つの浮力区画321に分割される。なお、左浮力室31の水密隔壁517と同様に、右浮力室32の水密隔壁527の数および配置は様々に変更されてよい。水密隔壁527の数および配置に関わらず、水密隔壁527が設けられることにより、右浮力室32が、互いに水密な複数の浮力区画321に分割される。
【0036】
右外装板520の底板521には、複数の浮力区画321に対応する複数の底部開口528が設けられる。右浮力室32では、左浮力室31と同様に、各浮力区画321に1つの底部開口528が設けられる。各底部開口528は底蓋529により閉塞されている。底蓋529は、底板521に着脱自在に取り付けられる。
【0037】
前接続部23の下面、前面、後面および上面は、板材等によって覆われてはおらず、前接続部23を構成する鋼材はむき出しである。後接続部24の下面、前面、後面および上面も、前接続部23と同様に、板材等によって覆われてはおらず、後接続部24を構成する鋼材はむき出しである。換言すれば、前接続部23および後接続部24には浮力室は設けられず、前接続部23および後接続部24では、下面、前面、後面および上面のそれぞれにおいて、支保工本体2のトラス構造が露出している。したがって、前接続部23および後接続部24のそれぞれの下部が水中に位置する状態では、当該下部において鋼材間に水が満たされる。
【0038】
以上のように、図1に例示する環状支保工1では、支保工本体2の左側および右側に左浮力室31および右浮力室32が設けられ、前接続部23および後接続部24には浮力室は設けられない。なお、環状支保工1に設けられる浮力室の数は、2つには限定されず、3つ以上であってもよい。また、環状支保工1では、環状の支保工本体2の全周に亘る1つの浮力室が設けられてもよい。換言すれば、環状支保工1では、支保工本体2の周方向の少なくとも一部に浮力室が設けられる。
【0039】
次に、図4Aないし図4C、および、図5ないし図12を参照しつつ、環状支保工1の設置方法について説明する。図4Aないし図4Cは、環状支保工1の製造、設置および撤去の流れを示す図である。図5ないし図12は、図4Aないし図4Cに示す流れにおける環状支保工1の様子を示す図である。
【0040】
まず、船舶や海洋構造物等の建造に使用されるドック(すなわち、船渠)内において、トラス構造を有する環状の支保工本体2が製造される(ステップS11)。当該ドックは、ゲートが閉じられて排水された状態(すなわち、ドライな状態であり、以下、「排水状態」とも呼ぶ。)である。
【0041】
続いて、排水状態のドック内において、左浮力室31および右浮力室32が形成されることにより、環状支保工1が製造される(ステップS12)。具体的には、支保工本体2の左レーン21および右レーン22において、支保工本体2を下方、前方、後方、外側方および内側方からそれぞれ覆う底板511,521と、前側壁512,522と、後側壁513,523と、外側壁514,524と、内側壁515,525とが設けられる。これにより、左右方向にて対向する外側壁514と内側壁515との間に左浮力室31が形成される。また、左右方向にて対向する外側壁524と内側壁525との間に右浮力室32が形成される。なお、左浮力室31の各底部開口518は、底蓋519により水密に閉塞されている。また、右浮力室32の各底部開口528は、底蓋529により水密に閉塞されている。
【0042】
環状支保工1の製造が終了すると、ドックに対する注水が行われる。環状支保工1は、左浮力室31および右浮力室32の浮力により浮上し、水面に浮かぶ(ステップS13)。そして、図5に示すように、水面に浮かんだ状態の環状支保工1が、タグボート81等によりドックから曳き出され、水中構造物が建造される予定の水域(以下、「設置水域」とも呼ぶ。)へと曳航される(ステップS14)。
【0043】
図5に示す例では、環状支保工1の前方にタグボート81等が係船され、環状支保工1が前方へと曳航される。換言すれば、ステップS14における環状支保工1の曳航方向は、環状支保工1の前後方向に略平行である。ここで、支保工本体2の左レーン21および右レーン22をそれぞれ「第1部位」と呼ぶと、一対の第1部位は上記曳航方向に平行に延び、一対の第1部位のそれぞれに浮力室(すなわち、左浮力室31および右浮力室32)が設けられる。また、支保工本体2の前接続部23および後接続部24をそれぞれ「第2部位」と呼ぶと、一対の第2部位は曳航方向に略垂直な左右方向に延びる。
【0044】
設置水域まで曳航された環状支保工1は、環状矢板構造体91の内側に配置される(ステップS15)。ステップS15では、図6に示すように、環状矢板構造体91の一部となる予定の構造物である部分矢板構造体92が、設置水域に建造されて準備される(ステップS151)。部分矢板構造体92は、環状支保工1の設置水域への到着よりも前に建造されることが好ましい。例えば、ステップS151は、ステップS11~S14のいずれか1つ以上と並行して行われてもよく、ステップS11よりも前に行われてもよい。なお、ステップS151は、環状支保工1の設置水域への到着後に行われてもよい。
【0045】
環状矢板構造体91は、図7に示すように、複数の矢板を水底に環状に打設することにより形成される構造物である。本実施の形態では、矢板として鋼管矢板が用いられるが、これには限定されない。環状矢板構造体91の平面視における形状は略矩形枠状である。図6に示す部分矢板構造体92は、当該複数の矢板のうち、一部の矢板群を除いた矢板群を水底に打設することにより形成される構造物である。部分矢板構造体92の平面視における形状は、開口部93を有する部分環状である。図6に示す例では、部分矢板構造体92の平面視における形状は、環状矢板構造体91の4つの辺のうち3つの辺により構成される略コの字状である。
【0046】
部分矢板構造体92が準備された設置水域に到着した環状支保工1は、タグボート81等により、部分矢板構造体92の開口部93に向かって押される。そして、水上(すなわち、海面)に浮かんだ状態の環状支保工1が、開口部93から部分矢板構造体92の内側の空間(すなわち、環状矢板構造体91の内側となる予定の空間)に進入する(ステップS152)。環状支保工1が部分矢板構造体92の内側に進入する際には、部分矢板構造体92上に設けられたウインチ等を利用して、環状支保工1の移動方向がワイヤ等によりガイドされてもよい。
【0047】
環状支保工1が部分矢板構造体92の内側に配置されると、環状矢板構造体91を構成する複数の矢板のうち未打設の残りの矢板群が、開口部93において水底に打設され、開口部93が閉塞される。当該残りの矢板群が開口部93に設置されることにより、図7に示すように、環状支保工1の周囲を全周に亘って囲む環状矢板構造体91が形成される(ステップS153)。このように、ステップS151~S153が行われることにより、環状矢板構造体91の内側に環状支保工1が配置される。
【0048】
環状支保工1が環状矢板構造体91の内側に配置されると、環状矢板構造体91に設置されたウインチ等を用いて環状支保工1が水面下の所定の位置まで沈降され、環状矢板構造体91の内側に仮固定される。環状支保工1を沈降させる際には、例えば、左浮力室31および右浮力室32において底部開口518,528が開放され、左浮力室31および右浮力室32に海水が導入される。これにより、環状支保工1の沈降が容易とされる。環状支保工1を沈降させる際には、複数の底部開口518,528のうち一部の底部開口518,528が開放されてもよく、全ての底部開口518,528が開放されてもよい。
【0049】
なお、環状矢板構造体91の内側に2つの環状支保工1が上下方向に離間して設置される場合、ステップS152とステップS153との間において、部分矢板構造体92の内側に配置されている1つめの環状支保工1が沈降されて水面下の所定の位置に仮固定される。続いて、水上に浮かんだ状態の2つめの環状支保工1が、環状矢板構造体91の内側に搬入される。そして、ステップS153において開口部93が閉塞され、環状矢板構造体91が形成される。
【0050】
環状矢板構造体91が形成されると、環状支保工1が環状矢板構造体91の内周面に固定される(ステップS16)。その後、環状矢板構造体91の内側の空間から海水が排出され、ドライアップされる。そして、上述の水中構造物が、環状支保工1の内側の空間に建造される(ステップS17)。
【0051】
水中構造物が建造されると、当該水中構造物の周囲から環状支保工1が撤去される(ステップS18)。具体的には、まず、環状支保工1と環状矢板構造体91との固定が解除され、環状支保工1が環状矢板構造体91の外側における水面と上下方向において略同じ位置に配置されて仮固定される。換言すれば、環状支保工1の下端部が当該水面よりも下側に位置し、環状支保工1の上端部が当該水面よりも上側に位置するように、環状支保工1が配置される。また、左浮力室31および右浮力室32において、底部開口518が閉塞される。なお、環状支保工1は、上記水面よりも上側に配置されてもよい。
【0052】
続いて、環状支保工1のうち浮力室が設けられていない前接続部23および後接続部24にそれぞれ、後付けの浮力体が設けられる(ステップS181)。例えば、図8に示すように、前接続部23および後接続部24のそれぞれにおけるトラス構造の隙間(すなわち、トラス構造を構成する鋼材の間の空間)に、浮力体33が挿入されて固定される。後接続部24は、後述するように、浮力室を含まない第2の分割体12となる予定の部位である。浮力体33は、例えば、内部にガスを注入して膨張させるバルーンであってもよく、発泡スチロール等で形成されたブロック状の部材であってもよい。浮力体33としてバルーンが用いられる場合、例えば、膨張していない状態のバルーンがトラス構造の隙間に配置され、その後、バルーンにガスが注入される。
【0053】
図8に示す例では、4つの浮力体33が、前接続部23の左右方向の両端部および中央部に互いに離間して配置される。また、4つの浮力体33が、後接続部24の左右方向の両端部および中央部に互いに離間して配置される。前接続部23および後接続部24のそれぞれにおいて、4つの浮力体33が配置される4つの領域間は、隔壁等で区画されてもよいが、特に区画される必要はない。なお、浮力体33の数、材料、形状および構造等は様々に変更されてよい。また、ステップS181では、後接続部24のみに浮力体33が設けられてもよい。
【0054】
次に、環状支保工1が、図9に示す切断面15にて複数の分割体に切断され、周方向に分割される(ステップS182)。切断面15は、上下方向に略平行な平面である。図9に示す例では、2つの切断面15が、左レーン21と後接続部24との境界面近傍、および、右レーン22と後接続部24との境界面近傍に位置する。詳細には、一方の切断面15は、左レーン21と後接続部24との境界面近傍において、左レーン21の内側面を覆う内側壁515から少し右側(すなわち、左レーン21とは反対側)に離れた位置に位置する。また、他方の切断面15は、右レーン22と後接続部24との境界面近傍において、右レーン22の内側面を覆う内側壁525から少し左側(すなわち、右レーン22とは反対側)に離れた位置に位置する。なお、切断面15の数および配置は様々に変更されてよい。例えば、環状支保工1は、上記例の後接続部24での切断に代えて、前接続部23で切断されてもよい。具体的には、左レーン21と前接続部23との境界面近傍、および、右レーン22と前接続部23との境界面近傍に、2つの切断面が形成されてもよい。
【0055】
当該2つの切断面15において環状支保工1が切断されることにより、環状支保工1は、平面視において略コの字状の第1の分割体11と、平面視において略直線状の第2の分割体12とに分割される。第1の分割体11には、環状支保工1のうち左レーン21、右レーン22および前接続部23が主に含まれる。第2の分割体12には、環状支保工1のうち後接続部24を主に含まれる。第1の分割体11は、左浮力室31および右浮力室32を含み、第2の分割体12は、環状支保工1の製造時に予め設けられる浮力室(すなわち、左浮力室31および右浮力室32)を含まない。なお、環状支保工1の分割(ステップS182)は、浮力体33の設置(ステップS181)と並行して行われてもよく、ステップS181よりも前に行われてもよい。いずれの場合も、ステップS181,S182は、後述する環状矢板構造体91の内側への注水(ステップS183)よりも前に行われることが好ましい。
【0056】
その後、環状矢板構造体91の内側の空間(すなわち、水中構造物90の周囲の空間)に、環状矢板構造体91の外側に存在する海水が注入され(ステップS183)、環状矢板構造体91の内側の水面と外側の水面とが略同じ高さとされる。上述のように、第1の分割体11は左浮力室31および右浮力室32を有しているため、主に左浮力室31および右浮力室32の浮力により、環状矢板構造体91の内側において水面に浮かぶ。図9に示す例では、前接続部23に設けられた浮力体33の浮力も、第1の分割体11の浮力の一部として働く。また、第2の分割体12は、主に浮力体33の浮力により環状矢板構造体91の内側において水面に浮かぶ。なお、ステップS183では、第1の分割体11および第2の分割体12にそれぞれワイヤ等が接続され、環状矢板構造体91上に設けられたウインチ等を利用して、水面に浮かぶ第1の分割体11および第2の分割体12が補助的に支持されてもよい。
【0057】
環状矢板構造体91の内側への注水が終了すると、環状矢板構造体91の周方向の一部において、環状矢板構造体91を構成する矢板が除去され、図10に示すように撤去用開口部94が形成される(ステップS184)。図10に示す例では、環状矢板構造体91のうち、環状支保工1の前接続部23と前後方向に対向する部位、および、その近傍において、矢板の略上半分が切断されて除去される。また、環状矢板構造体91のうち、環状支保工1の後接続部24と前後方向に対向する部位、および、その近傍において、矢板の略上半分が切断されて除去される。これにより、環状支保工1の前接続部23近傍、および、後接続部24近傍に、2つの撤去用開口部94が形成される。環状矢板構造体91の周方向における一方の撤去用開口部94の位置は、上述の開口部93の位置と略同じである。なお、環状矢板構造体91の周方向における撤去用開口部94の位置は、様々に変更されてよい。また、環状矢板構造体91では、1つまたは3つ以上の撤去用開口部94が設けられてもよい。
【0058】
撤去用開口部94の形成(ステップS184)は、環状矢板構造体91の内側への注水(ステップS183)と並行して行われてもよい。例えば、環状矢板構造体91の内側への注水を行うことなく、環状矢板構造体91を構成する矢板を徐々に除去し、矢板が除去された部分から環状矢板構造体91の内側に徐々に注水が行われてもよい。この場合、上述のステップS181,S182は、ステップS183,S184よりも前に行われることが好ましい。
【0059】
撤去用開口部94の形成が終了すると、図11に示すように、第1の分割体11にタグボート81等が接続される。そして、水面に浮かんだ状態の第1の分割体11が、タグボート81等により環状支保工1における前方へと曳航され、一方の撤去用開口部94(すなわち、図11中の上側の撤去用開口部94)を介して環状矢板構造体91の外側へと移動される(ステップS185)。これにより、第1の分割体11が水中構造物90の周囲から撤去される。
【0060】
第1の分割体11の撤去が終了すると、図12に示すように、第2の分割体12にタグボート81等が接続される。そして、水面に浮かんだ状態の第2の分割体12が、タグボート81等により環状支保工1における後方へと曳航され、他方の撤去用開口部94(すなわち、図12中の下側の撤去用開口部94)を介して環状矢板構造体91の外側へと移動される(ステップS186)。これにより、第2の分割体12が水中構造物90の周囲から撤去される。なお、ステップS185およびステップS186は、ステップS184よりも後に行われるのであれば、どちらが先に行われてもよく、並行して行われてもよい。
【0061】
なお、上述のように、環状矢板構造体91の内側に2つの環状支保工1が上下方向に離間して設置されている場合、ステップS185,S186において、上側の環状支保工1が分割されて形成された第1の分割体11および第2の分割体12が撤去された後、下側の環状支保工1が分割されて形成された第1の分割体11および第2の分割体12が、環状矢板構造体91に設置されたウインチ等により、水面上まで引き上げられる。あるいは、下側の環状支保工1がウインチ等により水面上まで引き上げられた後、第1の分割体11および第2の分割体12に分割される。その後、下側の環状支保工1が分割されて形成された第1の分割体11は、左浮力室31および右浮力室32の浮力によって水面に浮かんだ状態で曳航され、環状矢板構造体91の外側へと移動される。また、下側の環状支保工1が分割されて形成された第2の分割体12は、浮力体33の浮力によって水面に浮かんだ状態で曳航され、環状矢板構造体91の外側へと移動される。
【0062】
第1の分割体11および第2の分割体12が撤去されると、環状矢板構造体91の残りの部分が水中構造物90の周囲から除去される。また、第1の分割体11および第2の分割体12は、例えば、水面に浮かんだ状態で上述のドック等へと曳航されて分解等される。ドック等への曳航の際には、例えば、第1の分割体11と第2の分割体12とが、元の環状支保工1と略同形状(すなわち、略矩形枠状)となるように接合されてから曳航される。なお、第1の分割体11と第2の分割体12とは接合されず、個別に搬送されてもよい。
【0063】
以上に説明したように、水中構造物90が建造される予定の水域を囲む環状矢板構造体91の内側に設置される環状支保工1は、トラス構造を有するとともに平面視における形状が環状である支保工本体2と、支保工本体2の周方向の少なくとも一部に設けられた浮力室(例えば、左浮力室31)と、を備える。そして、環状支保工1を設置する支保工設置方法は、支保工本体2をドック内にて製造する工程(ステップS11)と、当該ドック内にて、支保工本体2の周方向の少なくとも一部において、支保工本体2を下方から覆う底板(例えば、底板511)と、支保工本体2を外側方から覆う外側壁(例えば、外側壁514)と、支保工本体2を内側方から覆う内側壁(例えば、内側壁515)とを設けて、当該外側壁と内側壁との間に上記浮力室を形成する工程(ステップS12)と、ドックに注水して当該浮力室の浮力によって環状支保工1を水面に浮かせる工程(ステップS13)と、水面に浮かんだ状態の環状支保工1を設置水域へと曳航する工程(ステップS14)と、環状矢板構造体91の内側に環状支保工1を配置する工程(ステップS15)と、を備える。
【0064】
このように、支保工本体2に浮力室を設けることにより、トラス構造を有する環状支保工1を容易に水面に浮かべることができる。また、水面に浮かべた環状支保工1を設置水域へと曳航することにより、台船等に環状支保工1を積載して搬送する場合に必要となるフローティングクレーンや台船等が不要となるため、環状支保工1の搬送に要するコストを低減することができる。さらに、ドック内において環状支保工1を製造して浮上させることにより、環状支保工1を陸上の建屋等で建造した場合に必要となる浜出し用のフローティングクレーン等が不要となるため、環状支保工1の搬送に要するコストをさらに低減することができる。したがって、上述の環状支保工1の設置方法により、トラス構造を有する環状支保工1を設置水域に容易に移送することができる。
【0065】
上述の例では、支保工本体2の平面視における形状は矩形枠状である。支保工本体2は、ステップS14における曳航方向に平行に延びる一対の第1部位(すなわち、左レーン21および右レーン22)と、曳航方向の前側および後側において当該一対の第1部位の端部同士を接続するとともに曳航方向に垂直な左右方向に延びる一対の第2部位(すなわち、前接続部23および後接続部24)と、を備える。好ましくは、当該一対の第1部位のそれぞれに浮力室(すなわち、左浮力室31および右浮力室32)が設けられ、当該一対の第2部位のそれぞれの前面および後面においてトラス構造が露出している。
【0066】
このように、側壁に囲まれた左浮力室31および右浮力室32が、曳航方向に長く左右方向に短い形状とされることにより、環状支保工1の曳航時における造波抵抗等の水の抵抗を低減することができる。また、前接続部23および後接続部24において、水が曳航方向に通過可能とすることにより、環状支保工1の曳航時における水の抵抗をさらに低減することができる。
【0067】
上述のように、左浮力室31の内部空間は、水密隔壁517によって複数の浮力区画311に分割されていることが好ましい。これにより、左浮力室31の上部開口等から水が流入した場合であっても、左浮力室31に対する水の流入量を低減して環状支保工1の復原性を確保することができる。また、右浮力室32の内部空間は、水密隔壁527によって複数の浮力区画321に分割されていることが好ましい。これにより、右浮力室32の上部開口等から水が流入した場合であっても、右浮力室32に対する水の流入量を低減して環状支保工1の復原性を確保することができる。さらに、左浮力室31および右浮力室32において、前接続部23の後面と略同じ位置に水密隔壁517,527が設けられることにより、環状支保工1の曳航時に生じる波等により環状支保工1の上部開口の前端部から左浮力室31および右浮力室32に水が流入した場合に、水の流入量を好適に低減することができる。
【0068】
上述のように、左浮力室31は、底板511に設けられた底部開口518と、底板511に対して着脱自在に取り付けられて底部開口518を閉塞する底蓋519と、を備える。これにより、環状矢板構造体91の内側において環状支保工1を沈降させて設置する際に、底部開口518を開口して左浮力室31に容易に水を導入することができるため、環状支保工1の沈降を容易とすることができる。また、環状矢板構造体91の内側の空間をドライアップする際に、底部開口518を開口して左浮力室31から容易に水を排出することができるため、環状支保工1から環状矢板構造体91に加わる荷重を低減することができる。さらには、ステップS183において環状矢板構造体91の内側に注水が行われて水位が上昇する際に、底部開口518を開口しておくことにより、左浮力室31の浮力による環状支保工1の意図しない移動や環状矢板構造体91に対する意図しない荷重の発生を抑制することも可能である。なお、この場合、環状矢板構造体91の内側への注水が完了した後、左浮力室31から水が排出される。
【0069】
また、右浮力室32は、底板521に設けられた底部開口528と、底板521に対して着脱自在に取り付けられて底部開口528を閉塞する底蓋529と、を備える。これにより、環状矢板構造体91の内側において環状支保工1を沈降させて設置する際に、底部開口528を開口して右浮力室32に容易に水を導入することができるため、環状支保工1の沈降を容易とすることができる。また、環状矢板構造体91の内側の空間をドライアップする際に、底部開口528を開口して右浮力室32から容易に水を排出することができるため、環状支保工1から環状矢板構造体91に加わる荷重を低減することができる。さらには、ステップS183において環状矢板構造体91の内側に注水が行われて水位が上昇する際に、底部開口528を開口しておくことにより、右浮力室32の浮力による環状支保工1の意図しない移動や環状矢板構造体91に対する意図しない荷重の発生を抑制することができる。なお、この場合、環状矢板構造体91の内側への注水が完了した後、右浮力室32から水が排出される。
【0070】
上述のように、ステップS15は、環状矢板構造体91の一部となる予定の構造物であって、平面視における形状が開口部93を有する部分環状である部分矢板構造体92が設置水域に準備された状態で、水面に浮かんだ状態の環状支保工1を、開口部93から部分矢板構造体92の内側に進入させる工程(ステップS152)と、開口部93に矢板を設置して、環状支保工1の周囲を全周に亘って囲む環状矢板構造体91を形成する工程(ステップS153)と、を備えることが好ましい。これにより、環状支保工1をフローティングクレーン等で吊り上げることなく、環状矢板構造体91の内側に容易に配置することができる。
【0071】
上述の支保工設置方法は、ステップS15よりも後に、環状支保工1の内側に水中構造物90を建造する工程(ステップS17)と、ステップS17よりも後に、水中構造物90の周囲から環状支保工1を撤去する工程(ステップS18)と、を備えることが好ましい。また、ステップS18は、環状支保工1を周方向において複数の分割体(上記例では、第1の分割体11および第2の分割体12)に分割する工程(ステップS182)と、環状矢板構造体91の周方向の一部において矢板を除去して撤去用開口部94を形成する工程(ステップS184)と、上記複数の分割体のうち浮力室(上記例では、左浮力室31および右浮力室32)を含む第1の分割体11を、当該浮力室の浮力によって水面に浮かんだ状態で、撤去用開口部94を介して環状矢板構造体91の外側へと移動させる工程(ステップS185)と、を備えることが好ましい。これにより、第1の分割体11をフローティングクレーン等で吊り上げることなく、環状矢板構造体91の外側に容易に移動させることができる。その結果、環状支保工1の撤去作業を容易とすることができる。
【0072】
上述のように、ステップS18は、ステップS184よりも前に、環状支保工1のうち浮力室(上記例では、左浮力室31および右浮力室32)を含まない第2の分割体12となる予定の部位(上記例では、後接続部24)に浮力体33を設ける工程(ステップS181)と、ステップS184よりも後に、第2の分割体12を、浮力体33の浮力によって水面に浮かんだ状態で、撤去用開口部94を介して環状矢板構造体91の外側へと移動させる工程(ステップS186)と、をさらに備えることが好ましい。これにより、上記浮力室を含んでいない第2の分割体12も、水面に浮かんだ状態で撤去可能となるため、環状支保工1の撤去作業をさらに容易とすることができる。また、環状矢板構造体91に設置したウインチ等により、第1の分割体11または第2の分割体12を引き上げるようにしてもよい。
【0073】
なお、ステップS182において形成される複数の分割体において、浮力室を含んでいても浮力が不足する分割体が存在する場合、ステップS182よりも前に、当該分割体となる予定の部位に、上述の浮力体33と略同様の浮力体が設けられることが好ましい。これにより、当該分割体も水面に浮かんだ状態で撤去可能となるため、環状支保工1の撤去作業をさらに容易とすることができる。
【0074】
上述のように、環状支保工1は、トラス構造を有するとともに平面視における形状が環状である支保工本体2と、支保工本体2の周方向の少なくとも一部に設けられた浮力室(例えば、左浮力室31)と、を備える。また、当該支保工本体2の周方向の少なくとも一部において、支保工本体2を下方から覆う底板(例えば、底板511)と、支保工本体2を外側方から覆う外側壁(例えば、外側壁514)と、支保工本体2を内側方から覆う内側壁(例えば、内側壁515)とが設けられ、当該外側壁と内側壁との間に上記浮力室が形成される。これにより、上述のように、トラス構造を有する環状支保工1を容易に水面に浮かべることができる。また、水面に浮かべた環状支保工1を設置水域へと曳航することができるため、トラス構造を有する環状支保工1を設置水域に容易に移送することができる。
【0075】
上述の支保工設置方法では、ステップS14よりも前に、図13に示すように、ステップS14における曳航方向の前側において環状支保工1の前面を覆うとともに環状支保工1の抗力係数を低減する前部付加物41が、環状支保工1に取り付けられてもよい。これにより、環状支保工1の曳航時における水の抵抗を低減することができる。図13に示す例では、左レーン21の前側壁512の前面、および、右レーン22の前側壁522の前面にそれぞれ、前部付加物41が取り付けられる。前部付加物41は略三角柱状の中空部材であり、前部付加物41の平面視における形状は、曳航方向の前端に1つの頂点を有するとともに後端(すなわち、環状支保工1の前面)に2つの頂点を有する略二等辺三角形である。
【0076】
左レーン21の前側に取り付けられる前部付加物41は、左レーン21の略全幅に亘って広がり、前側壁512の前面の略全体を覆う。右レーン22の前側に取り付けられる前部付加物41は、右レーン22の略全幅に亘って広がり、前側壁522の前面の略全体を覆う。これにより、タグボート81等による環状支保工1の曳航時における水の抵抗をさらに低減することができる。なお、前部付加物41の大きさや形状等は様々に変更されてよい。例えば、前部付加物41は、前側に凸となる略半円柱状の中空部材であってもよい。また、前部付加物41は、環状支保工1の前側において環状支保工1の略全幅に亘って広がり、支保工本体2の前面の略全体を覆っていてもよい。なお、前部付加物41は、環状支保工1が設置水域に到着した後、部分矢板構造体92の内側に環状支保工1が配置されるよりも前に取り外されることが好ましい。
【0077】
上述の支保工設置方法では、ステップS14よりも前に、図14に示すように、浮力室(上記例では、左浮力室31および/または右浮力室32)への注排水が可能なポンプ42が準備されてもよい。これにより、環状支保工1の喫水および姿勢を好適に制御することができる。図14に示す例では、2つのポンプ42が設けられ、左浮力室31および右浮力室32のそれぞれに、独立して注排水することが可能とされる。また、各ポンプ42から複数の浮力区画311,321へと延びる配管に切替弁43が設けられ、複数の浮力区画311,321に対して個別に注排水することが可能とされる。これにより、環状支保工1の喫水および姿勢をさらに好適に制御することができる。当該喫水および姿勢の制御は、例えば、環状支保工1の曳航前または曳航中に、作業者が環状支保工1の喫水および姿勢を目視し、必要に応じてポンプ42を駆動することにより行われる。あるいは、環状支保工1の喫水および姿勢を測定する測定装置が環状支保工1に設けられ、当該測定装置による測定値に基づいてポンプ42が自動制御されることにより、タグボート81等により曳航される環状支保工1の喫水および姿勢が自動制御されてもよい。なお、各ポンプ42の設置位置は様々に変更されてよい。
【0078】
図15は、環状支保工の他の好ましい例を示す平面図である。図15に示す環状支保工1aは、環状支保工1と同様の構成に加えて、左浮力室31および右浮力室32のそれぞれの上方を覆う天板516,526をさらに備える。天板516,526は、略矩形平板状の部材である。天板516,526の下面には、リブ等の補強部材が設けられており、左レーン21および右レーン22を構成する鋼材を避けて配置される。天板516,526は、例えば、作業員の滑り止め用の凹凸が上面に形成されたチェッカープレートである。天板516,526はそれぞれ、左浮力室31および右浮力室32の上部開口を全面に亘って水密に閉塞する。具体的には、天板516の周縁部は、左浮力室31の周囲を囲む前側壁512、後側壁513、外側壁514および内側壁515のそれぞれの上端部と略全長に亘って水密に接続される。天板526の周縁部は、右浮力室32の周囲を囲む前側壁522、後側壁523、外側壁524および内側壁525のそれぞれの上端部と略全長に亘って水密に接続される。
【0079】
環状支保工1aの設置方法は、上述のステップS11~S18と略同様である。環状支保工1aに関する支保工設置方法では、上述のステップS12において、左浮力室31の上方が天板516にて覆われる。これにより、環状支保工1aの曳航時等における左浮力室31への水の流入を抑制することができる。また、上述のステップS12において、右浮力室32の上方が天板526にて覆われる。これにより、環状支保工1aの曳航時等における右浮力室32への水の流入を抑制することができる。さらに、天板516,526は、環状支保工1a上の作業足場として利用可能であるため、環状支保工1a上における作業を容易とすることができる。
【0080】
環状支保工1aでは、上述のように、左浮力室31および右浮力室32の上部開口が、天板516,526により全面に亘って水密に閉塞されることが好ましい。これにより、環状支保工1aの曳航時等における左浮力室31および右浮力室32への水の流入を防止することができる。
【0081】
上述の支保工設置方法では、様々な変更が可能である。
【0082】
例えば、上述のように、ステップS181で後接続部24に設けられる浮力体33は、必ずしも、バルーンやブロック状の部材である必要はない。例えば、後接続部24に設けられる浮力体33は、後接続部24の少なくとも一部を鋼板等にて水密に囲むことにより形成された1つまたは2つ以上の後付けの浮力室であってもよい。あるいは、浮力体33として、上述のバルーンやブロック状の部材と、当該後付けの浮力室とが併用されてもよい。前接続部23に設けられる浮力体33についても同様である。なお、浮力体33が上記浮力室である場合、当該浮力室は、必ずしもステップS181にて設けられる必要はなく、ステップS12における左浮力室31および右浮力室32の形成時に、ドック内にて形成されてもよい。
【0083】
ステップS182では、前接続部23と左レーン21との境界面近傍、および、前接続部23と右レーン22との境界面近傍において環状支保工1が切断されてもよい。この場合、左レーン21、後接続部24および右レーン22が第1の分割体11となり、前接続部23が第2の分割体12となる。上述のように、ステップS181において、前接続部23および後接続部24の双方に後付けの浮力体33が設けられているため、前接続部23および後接続部24のどちらが第2の分割体12になる場合であっても、ステップS183の注水時に第2の分割体12は水面に浮かぶ。なお、前接続部23および後接続部24のうち、左レーン21および右レーン22と共に第1の分割体11となる予定の部位には、浮力体33は設けられなくてもよい。
【0084】
また、ステップS182では、左レーン21の中央の浮力区画311と後側の浮力区画311との境界、および、右レーン22の中央の浮力区画321と後側の浮力区画321との境界にて環状支保工1が切断されてもよい。この場合、後接続部24、および、後接続部24の左右両側に位置する2つの浮力区画が第2の分割体12となる。当該第2の分割体12が上記2つの浮力区画の浮力にて水面に浮かぶことが可能である場合、後接続部24に浮力体33は設けられなくてもよい。
【0085】
あるいは、ステップS182では、左レーン21の中央の浮力区画311と前側の浮力区画311との境界、および、右レーン22の中央の浮力区画321と前側の浮力区画321との境界にて環状支保工1が切断されてもよい。この場合、前接続部23、および、前接続部23の左右両側に位置する2つの浮力区画が第2の分割体12となる。当該第2の分割体12が上記2つの浮力区画の浮力にて水面に浮かぶことが可能である場合、前接続部23に浮力体33は設けられなくてもよい。
【0086】
ステップS18では、例えば、浮力室を含まない第2の分割体12に予め浮力体33を設けることなく、フローティングクレーン等により第2の分割体12を吊り上げて撤去してもよい。また、第1の分割体11も、必ずしも曳航して撤去する必要はなく、フローティングクレーン等により吊り上げて撤去してもよい。あるいは、フローティングクレーンでなく、環状矢板構造体91に設置したウインチ等により、第1の分割体11および/または第2の分割体12を吊り上げて撤去してもよい。
【0087】
ステップS15では、環状矢板構造体91の全体が設置水域に建造された後、環状支保工1をフローティングクレーン等により吊り上げて、環状矢板構造体91の内側へと吊り下げることにより配置してもよい。環状支保工1aについても同様である。
【0088】
環状支保工1では、必ずしも、左浮力室31および右浮力室32の底板511,521に底部開口518,528が設けられる必要はない。
【0089】
環状支保工1では、必ずしも、左浮力室31および右浮力室32に水密隔壁517,527が設けられる必要はない。
【0090】
環状支保工1の形状および構造は、上記例には限定されず、様々に変更されてよい。支保工本体2の形状および構造も、トラス構造を有する環状であれば上記例には限定されず、様々に変更されてよい。浮力室の形状および構造も、上記例には限定されず、様々に変更されてよい。
【0091】
例えば、図16に例示する環状支保工1bのように、略矩形枠状の支保工本体2において、前接続部23および後接続部24のそれぞれの底面、前面および後面を覆う底板および側壁が形成され、前接続部23および後接続部24が浮力室34内に収容されてもよい。図16に示す例では、前接続部23と左レーン21との境界面、前接続部23と右レーン22との境界面、後接続部24と左レーン21との境界面、および、後接続部24と右レーン22との境界面には側壁は設けられない。これにより、環状支保工1bの周方向の全周に亘って連続する1つの浮力室34が形成される。
【0092】
浮力室34は、上述のステップS12において、支保工本体2の周方向の全周に亘って、支保工本体2を下方から覆う底板531と、支保工本体2を外側方から覆う外側壁534と、支保工本体2を内側方から覆う内側壁535とを設けることにより、外側壁534と内側壁535との間に形成される。外側壁534および内側壁535の平面視における形状は、それぞれ略矩形状である。なお、浮力室34には、浮力室34を複数の浮力区画に分割する1つ以上の水密隔壁が設けられてもよい。
【0093】
上述のステップS14におけるタグボート81等による環状支保工1bの曳航では、曳航方向は様々に変更されてよい。当該曳航方向は、例えば、図16に示すように、環状支保工1bの前後方向と略平行であってもよく、図17に示すように、環状支保工1bの前後方向に対して約45°傾斜した方向であってもよい。
【0094】
図18は、他の好ましい環状支保工1cを示す平面図である。環状支保工1cの平面視における形状は、略円環状である。環状支保工1cでは、環状支保工1bと略同様に、環状支保工1cの周方向の全周に亘って連続する1つの浮力室35が設けられる。上述のステップS14における環状支保工1cの曳航では、タグボート81等による環状支保工1cの曳航方向は、例えば、平面視における環状支保工1cの1つの径方向と重なる。
【0095】
上記実施の形態および各変形例における構成は、相互に矛盾しない限り適宜組み合わされてよい。
【符号の説明】
【0096】
1,1a~1c 環状支保工
2 支保工本体
11 第1の分割体
12 第2の分割体
21 左レーン
22 右レーン
23 前接続部
24 後接続部
31 左浮力室
32 右浮力室
33 浮力体
34,35 浮力室
41 前部付加物
42 ポンプ
90 水中構造物
91 環状矢板構造体
92 部分矢板構造体
93 開口部
94 撤去用開口部
311,321 浮力区画
511,521,531 底板
514,524,534 外側壁
515,525,535 内側壁
516,526 天板
517,527 水密隔壁
518,528 底部開口
519,529 底蓋
S11~S18,S151~S153,S181~S186 ステップ
図1
図2
図3
図4A
図4B
図4C
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18