(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023104143
(43)【公開日】2023-07-28
(54)【発明の名称】筒型リニアモータ
(51)【国際特許分類】
H02K 41/03 20060101AFI20230721BHJP
【FI】
H02K41/03 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022004961
(22)【出願日】2022-01-17
(71)【出願人】
【識別番号】000000929
【氏名又は名称】KYB株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】391002487
【氏名又は名称】学校法人大同学園
(74)【代理人】
【識別番号】100122323
【弁理士】
【氏名又は名称】石川 憲
(72)【発明者】
【氏名】加納 善明
(72)【発明者】
【氏名】永溝 喜也
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 浩介
(72)【発明者】
【氏名】袴田 眞一郎
(72)【発明者】
【氏名】芝原 大智
【テーマコード(参考)】
5H641
【Fターム(参考)】
5H641BB06
5H641BB14
5H641GG03
5H641GG04
5H641GG06
5H641HH02
5H641HH05
5H641HH08
5H641HH09
5H641HH17
5H641JA02
(57)【要約】
【課題】コギング推力のより一層の低減を可能とする筒型リニアモータの提供する。
【解決手段】本発明の筒型リニアモータ1は、軸方向にN極とS極とが交互に配置される界磁6と、界磁6に対して軸方向へ移動可能な電機子Eとを備え、電機子Eは、磁性体であって筒状のコア2と、コア2に装着される巻線3とを有し、コア2は、軸方向の断面が台形状の複数のティース2bと、巻線3が装着されるスロット2cと、軸方向の両端のティース2b1,2b2の端側に設けた補助突極2e1,2e2と、補助突極2e1,2e2の端側の界磁側の周囲に設けられた面取り部2d1,2d2とを有し、両端のティース2b1,2b2および補助突極2e1,2e2の界磁6に対向する端面2b11,2b21,2e11,2e21の軸方向長さXは、コア2によるコギング推力をコア2の補助突極2e1,2e2によるコギング推力で低減するように設定される。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸方向にN極とS極とが交互に配置される界磁と、
前記界磁に対して軸方向へ移動可能な電機子とを備え、
前記電機子は、
磁性体であって筒状のコアと、
前記コアに装着される巻線とを有し、
前記コアは、
円筒状のヨークと、
前記ヨークの内周或いは外周のうち界磁側に周方向に沿って環状に設けられて軸方向の断面が台形状の複数のティースと、
前記ティース間の空隙で形成された前記巻線が装着されるスロットと、
軸方向の両端のティースの端側に設けられた補助突極と、
前記補助突極の端側であって界磁側の周囲に亘って設けられ、端側に向かうほど界磁から離間する面取り部とを有し、
前記両端のティースおよび前記補助突極の前記界磁に一定の間隔で対向する端面の軸方向長さは、前記コアによるコギング推力を前記コアの補助突極によるコギング推力で低減するように設定される
ことを特徴とする筒型リニアモータ。
【請求項2】
前記コアは、
前記軸方向の両端のティースを含む中央コア分割体と、
環状であって、前記中央コア分割体の軸方向の両端にそれぞれ積層される一対のスペーサと、
環状であって、前記スペーサの軸方向で反中央コア分割体側にそれぞれ積層されて前記面取り部を具備する一対の端部側コア分割体とを有し、
前記スペーサと前記端部側コア分割体とは前記補助突極として機能する
ことを特徴とする請求項1に記載の筒型リニアモータ。
【請求項3】
前記コアは、
前記軸方向の両端のティースを含む中央コア分割体と、
環状であって、前記中央コア分割体の軸方向の両端にそれぞれ積層されて前記面取り部を具備して前記補助突極として機能する一対の端部側コア分割体とを有する
ことを特徴とする請求項1に記載の筒型リニアモータ。
【請求項4】
前記両端のティースおよび前記補助突極の界磁に対向する端面の軸方向長さは、コアによるコギング推力の位相と前記コアの補助突極によるコギング推力の位相とが180度となるように設定される
ことを特徴とする請求項1から3のいずれか一項に記載の筒型リニアモータ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、筒型リニアモータに関する。
【背景技術】
【0002】
筒型リニアモータは、たとえば、筒状の固定子ケースと固定子ケースの内周に装着されて内周に軸方向に並べて配置される複数のティースを備えたコアとティース間のスロットに装着されるU相、V相およびW相の巻線を有する固定子と、電機子の内周に移動自在に挿入されて複数の永久磁石を外周に設けられた可動子とを備えるものがある。
【0003】
このように構成された筒型リニアモータでは、コアの両端における磁束の変化を滑らかにして、可動子が固定子に対して軸方向へ移動する際に生じるコギング推力を低減するために、コアの軸方向両端に補助突極を備えている(たとえば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
このような筒型リニアモータでは、補助突極を設けることで端効果によるコギング推力を低減できるのであるが、コアによるコギングに高調波成分が含まれているために、コギング推力を十分に低減できないことから、更なるコギング推力の低減が要望されている。なお、コアによるコギング推力とは、コア端部のティース形状がコア中間部のティース形状と異なるために発生する不均等力を指し、コアによるコギング推力の周期は電気角1周期当たり2N(Nは自然数)である。
【0006】
そこで、本発明は、コギング推力のより一層の低減を可能とする筒型リニアモータの提供を目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の目的を達成するため、本発明の筒型リニアモータは、軸方向にN極とS極とが交互に配置される界磁と、界磁に対して軸方向へ移動可能な電機子とを備え、電機子は、磁性体であって筒状のコアと、コアに装着される巻線とを有し、コアは、円筒状のヨークと、ヨークの内周或いは外周のうち界磁側に周方向に沿って環状に設けられて軸方向の断面が台形状の複数のティースと、ティース間の空隙で形成された巻線が装着されるスロットと、軸方向の両端のティースの端側に設けられた補助突極と、補助突極の端側であって界磁側の周囲に亘って設けられて端側へ向かうほど界磁から離間する面取り部とを有し、両端のティースおよび補助突極の界磁に一定の間隔で対向する端面の軸方向長さは、コアによるコギング推力をコアの補助突極によるコギング推力で低減するように設定されている。
【0008】
このように構成された筒型リニアモータでは、コアが断面台形状のティースを備えており、コアが軸方向の両端の補助突極に面取り部を備えているので、コアによるコギング推力とコアの補助突極によるコギング推力の波形が歪みの少ない正弦波形となる。また、両端のティースと補助突極の界磁に対向する端面の軸方向長さは、コアによるコギング推力をコアの補助突極によるコギング推力で低減するように設定されているので、歪みの少ない正弦波形のコアによるコギング推力とコアの補助突極によるコギング推力との位相を前記長さの設定によって互いの推力同士を相殺するように調整できる。
【0009】
また、筒型リニアモータにおけるコアは、軸方向の両端のティースを含む中央コア分割体と、環状であって中央コア分割体の軸方向の両端にそれぞれ積層される一対のスペーサと、環状であってスペーサの軸方向で反中央コア分割体側にそれぞれ積層されて前記面取り部を具備する一対の端部側コア分割体とを備え、スペーサと端部側コア分割体とを補助突極として機能させてもよい。このように構成された筒型リニアモータによれば、スペーサの交換によって、コアによるコギング推力とコアの補助突極によるコギング推力とが効率よく打ち消せるように、中央コア分割体に対して端部側コア分割体の軸方向の位置を調整できる。
【0010】
さらに、筒型リニアモータにおけるコアは、軸方向の両端のティースを含む中央コア分割体と、環状であって中央コア分割体の軸方向の両端にそれぞれ積層されて面取り部を具備する一対の端部側コア分割体とを備え、端部側コア分割体を補助突極として機能させてもよい。このように構成された筒型リニアモータによれば、筒型リニアモータの極スロット数に応じて最適な軸方向長さをもつ端部側コア分割体を用いれば、中央コア分割体を設計変更することなく、コアによるコギング推力とコアの補助突極によるコギング推力とが効率よく打ち消せるようになる。
【0011】
そして、筒型リニアモータにおいて、両端のティースと補助突極の界磁に対向する端面の軸方向長さは、コアによるコギング推力の位相とコアの補助突極によるコギング推力の位相とが180度となるように設定されてもよい。このように構成された筒型リニアモータによれば、コアによるコギング推力の波形とコアの補助突極によるコギング推力の波形とが丁度逆位相となって効率よく互いを打ち消し合って、筒型リニアモータの全体のコギング推力を最小にできる。
【発明の効果】
【0012】
本発明の筒型リニアモータによれば、より一層コギング推力を低減できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】一実施の形態における筒型リニアモータの縦断面図である。
【
図2】一実施の形態の筒型リニアモータの電機子の部分拡大図である。
【
図3】コアによるコギング推力の波形、コアの補助突極によるコギング推力の波形、および筒型リニアモータの全体のコギング推力の波形を示した図である。
【
図4】一実施の形態の第1変形例における筒型リニアモータのコアの縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図に示した実施の形態に基づき、本発明を説明する。一実施の形態における筒型リニアモータ1は、
図1に示すように、筒状であって軸方向にN極とS極とが交互に配置される界磁6と、筒状のコア2とコア2に装着される巻線3とを有する電機子Eを備えて構成されている。
【0015】
以下、筒型リニアモータ1の各部について詳細に説明する。本実施の形態では、界磁6は、軸方向に交互に積層されて挿入される環状の主磁極の永久磁石6aと環状の副磁極の永久磁石6bとを備えて構成されて筒状とされている。また、界磁6の外周には筒状のバックヨーク8が装着されている。界磁6とバックヨーク8は、円筒状の非磁性体のアウターチューブ7と、アウターチューブ7内に挿入される円筒状の非磁性体のインナーチューブ9との間に形成される環状隙間に収容されている。
【0016】
なお、
図1中で主磁極の永久磁石6aと副磁極の永久磁石6bに記載されている三角の印は、着磁方向を示しており、主磁極の永久磁石6aの着磁方向は径方向となっており、副磁極の永久磁石6bの着磁方向は軸方向となっている。主磁極の永久磁石6aと副磁極の永久磁石6bは、ハルバッハ配列で配置されており、界磁6の内周側では、軸方向にS極とN極が交互に現れるように配置されている。
【0017】
また、主磁極の永久磁石6aの軸方向長さL1は、副磁極の永久磁石6bの軸方向長さL2よりも長くなっており、本実施の形態では、0.2≦L2/L1≦0.5を満たすように、主磁極の永久磁石6aの軸方向長さL1と副磁極の永久磁石6bの軸方向長さL2が設定されている。主磁極の永久磁石6aの軸方向長さL1を長くすればコア2との間の主磁極の永久磁石6aとの間の磁気抵抗を小さくできコア2へ作用させる磁界を大きくできるので筒型リニアモータ1の質量推力密度を向上できる。
【0018】
また、本実施の形態の筒型リニアモータ1では、永久磁石6a,6bの外周にバックヨーク8を設けている。バックヨーク8を設けない場合、副磁極の永久磁石6bの軸方向長さL2が短くなると主磁極の永久磁石6aの軸方向中央部分における磁石外部の磁気抵抗が増大し、界磁磁束が小さくなるため、主磁極の永久磁石6aの軸方向長さL1を長くする際の筒型リニアモータ1の推力向上度合が小さくなる。これに対して、永久磁石6a,6bの外周にバックヨーク8を設けると、磁気抵抗の低い磁路を確保できるので副磁極の永久磁石6bの軸方向長さL2の短縮に起因する磁気抵抗の増大が抑制される。よって、主磁極の永久磁石6aの軸方向長さL1を副磁極の永久磁石6bの軸方向長さL2よりも長くするとともに永久磁石6a,6bの外周に筒状のバックヨーク8を設けると筒型リニアモータ1の質量推力密度を大きく向上させ得る。バックヨーク8の肉厚は、主磁極の永久磁石6aの外部磁気抵抗の増大を抑制に適する肉厚に設定されればよい。
【0019】
なお、副磁極の永久磁石6bは、主磁極の永久磁石6aより高い保磁力を有する永久磁石とされている。永久磁石における残留磁束密度と保磁力は、互いに密接に関係しており、一般的に残留磁束密度を高めると保磁力は低くなり、保磁力を高めると残留磁束密度が低くなるという、互いに背反する関係にある。ハルバッハ配列では、副磁極の永久磁石6bには減磁方向に大きな磁界が印加されるため、副磁極の永久磁石6bの保磁力を高くして減磁を抑制し、大きな磁界をコア2に作用させ得るようにしている。対して、コア2に対して作用する磁界の強さは、主磁極の永久磁石6aの磁力線数に左右される。そのため、主磁極の永久磁石6aに高い残留磁束密度の永久磁石を使用して大きな磁界をコア2に作用させるようにしている。本実施の形態では、副磁極の永久磁石6bを主磁極の永久磁石6aよりも保磁力を高くするのに際して、副磁極の永久磁石6bの材料を主磁極の永久磁石6aの材料よりも保磁力が高い材料としている。よって、材料の選定によって、主磁極の永久磁石6aと副磁極の永久磁石6bの組合せを簡単に実現できる。なお、本実施の形態では、主磁極の永久磁石6aは、ネオジム、鉄、ボロンを主成分とする残留磁束密度が高い材料で構成され、副磁極の永久磁石6bは、前記材料にジスプロシウムやテリビウム等の重希土類元素の添加量を増やした減磁しにくい磁石で構成されている。
【0020】
また、固定子の内周側には、コア2が挿入されており、界磁6は、コア2に磁界を作用させている。なお、界磁6は、コア2の可動範囲に対して磁界を作用させればよいので、コア2の可動範囲に応じて永久磁石6a,6bの設置範囲を決定すればよい。したがって、アウターチューブ7とインナーチューブ9との環状隙間のうち、コア2に対向し得ない範囲には、永久磁石6a,6bを設置しなくともよい。なお、界磁6は、本実施の形態ではハルバッハ配列で積層される永久磁石6a,6bで構成されているが、内周にN極とS極とが交互に現れればよいので、ハルバッハ配列以外の配列で積層される永久磁石で構成されてもよい。
【0021】
また、アウターチューブ7、バックヨーク8およびインナーチューブ9の
図1中左端はキャップ14によって閉塞されており、アウターチューブ7、バックヨーク8およびインナーチューブ9の
図1中右端は環状のヘッドキャップ15によって閉塞されている。
【0022】
電機子Eは、筒状のコア2と、コア2に装着される巻線3とを備えて構成されて、インナーチューブ9内に軸方向移動自在に挿入されている。つまり、本実施の形態では、電機子Eは、界磁6の内周側に配置されており、界磁6に対して軸方向に相対移動できる。
【0023】
コア2は、本実施の形態では、材料をパーメンジュールとして形成されており、円筒状のヨーク2aと、環状であってヨーク2aの界磁側となる外周に周方向に沿ってかつ軸方向に間隔を空けて設けられる軸方向の断面が台形状の複数のティース2bと、ティース2b,2b間の空隙で形成されて巻線3が装着されるスロット2cと、ティース2bのうちコア2の軸方向の両端のティース2b1,2b2の軸方向の端側にそれぞれ設けられた補助突極2e1,2e2と、補助突極2e1,2e2の界磁側となる外周の周囲に設けられた面取り部2d1,2d2とを備えて構成されている。
【0024】
ヨーク2aは、前述の通り円筒状であって、その横断面積はコア2の軸線を中心とした円筒でティース2bの内周から外周までのどこを切っても、ティース2bを前記筒で切断した際にできる断面の面積以上となるように肉厚が確保されている。
【0025】
本実施の形態では、
図1および
図2に示すように、ヨーク2aの外周に13個のティース2bが、軸方向に等間隔に並べて設けられており、コア2の界磁6側となる外周側であって、ティース2b,2b間に巻線3が装着される環状溝でなるスロット2cが形成されている。なお、本実施の形態では、ティース2bは、断面形状を台形にして外周となる先端側の幅よりも内周となる基端側の幅を大きくして基端側の磁路断面積を大きく確保している。より詳細には、各ティース2bは断面台形状となっているが、コア2の軸方向の両端に配置されたティース2b1,2b2以外のティース2bは、等脚台形状となっている。本実施の形態では、コア2の軸方向の両端に配置されたティース2b1,2b2は、ティース2bを軸方向の中央で半分にした断面形状をしており、ティース2b1,2b2の外周の軸方向幅は、ティース2bの外周の軸方向幅Yの1/2の長さとなっている。よって、本実施の形態では、補助突極2e1,2e2は、コア2の末端のティース2b1,2b2のスロット2c側の端からY/2の地点からコア2の両端の部分で形成されており、末端のティース2b1,2b2と一体不可分とされている。なお、末端のティース2bの外周における軸方向幅は、Y/2に設定されているが、任意に変更可能である。
【0026】
本実施の形態では、
図1中で隣り合うティース2b,2b同士の間には、環状溝でなるスロット2cが合計で12個設けられている。スロット2cは、コア2の周方向に沿って複数設けられており、コア2の外周に軸方向に等ピッチで並べて設けられている。
【0027】
そして、このスロット2cには、巻線3が巻き回されて装着されている。巻線3は、U相、V相およびW相の三相巻線とされている。各相の巻線3は、12個のスロット2cに界磁6の磁極配置に応じて適した配置となるように装着される。
【0028】
また、
図1および
図2において、コア2は、軸方向両端に設けられたティース2b1,2b2の端側に設けられた補助突極2e1,2e2の端側であって界磁側となる外周側の周囲がR形状に面取りされて設けられた面取り部2d1,2d2を備えている。
【0029】
このように構成された電機子Eは、出力軸である非磁性体で形成されたロッド11の先端の外周に装着され、ロッド11とともに界磁6内に移動自在に挿入される。本実施の形態の筒型リニアモータ1では、前述のように構成された界磁6と電機子Eとで8極9スロットのリニアモータを構成している。なお、極数とスロット数の組み合わせは、適宜変更可能である。
【0030】
ロッド11は、アウターチューブ7の
図1中右端に取り付けられたヘッドキャップ15内を通して筒型リニアモータ1外へ突出している。また、ロッド11の電機子Eの
図1中左右にはインナーチューブ9の内周に摺接するスライダ12,13が装着されている。電機子Eは、スライダ12,13によって挟持されてコア2がロッド11に固定される。また、スライダ12,13がインナーチューブ9の内周に摺接しているので、電機子Eは、界磁6に対して軸ぶれしないので、インナーチューブ9に干渉することなく軸方向に移動できる。
【0031】
このように、インナーチューブ9は、コア2の外周と界磁6の内周との間の磁気抵抗の高いギャップを形成するとともに、スライダ12,13と協働して電機子Eの軸方向移動を案内する役割を果たしている。コア2の外径は、インナーチューブ9の内径よりも小さく、インナーチューブ9に干渉することはなく、筒型リニアモータ1は円滑に伸縮できるが、インナーチューブ9の内周に摺接してもよい。なお、インナーチューブ9は、非磁性体で形成されればよいが、合成樹脂で形成されると筒型リニアモータ1の推力密度向上効果が高くなる。インナーチューブ9を非磁性体の金属で製造すると、電機子Eが軸方向へ移動する際にインナーチューブ9の内部に渦電流が生じて、電機子Eの移動を妨げる力が発生してしまう。これに対して、インナーチューブ9を合成樹脂とすれば渦電流が生じないので筒型リニアモータ1の推力をより効果的に向上できるとともに、筒型リニアモータ1の質量を低減できる。なお、インナーチューブ9を合成樹脂とする場合、フッ素樹脂で製造すればスライダ12,13との間の摩擦および摩耗を低減できる。また、インナーチューブ9を他の合成樹脂で形成してもよく、また、摩擦および摩耗を低減するべく他の合成樹脂で形成されたインナーチューブ9の内周をフッ素樹脂でコーティングしてもよい。
【0032】
なお、ロッド11は、図示はしないが、筒状とされており、ロッド11内に通される図外の電線を通じて筒型リニアモータ1の外方に設置される外部電源から巻線3へ電力供給できる。
【0033】
そして、たとえば、巻線3の界磁6に対する電気角をセンシングし、前記電気角に基づいて通電位相切換を行うとともにPWM制御により、各巻線3の電流量を制御すれば、筒型リニアモータ1における推力と電機子Eの移動方向とを制御できる。なお、前述の制御方法は、一例でありこれに限られない。また、電機子Eと界磁6とを軸方向に相対変位させる外力が作用する場合、巻線3への通電、あるいは、巻線3に発生する誘導起電力によって、前記相対変位を抑制する推力を発生させて筒型リニアモータ1に前記外力による機器の振動や運動をダンピングさせ得るし、外力から電力を生むエネルギ回生も可能である。
【0034】
本実施の形態の筒型リニアモータ1では、コア2は、断面台形状のティース2bを備えておりいる。このように、コア2が断面台形状のティース2bを備えていると、界磁6側からの磁力線がティース2bの外周端のみならず軸方向の両端の側面にも回り込むので、
図3中の波形Aに示したように、コア2によるコギング推力の波形は、断面矩形のティースのコアを利用した従来の筒型リニアモータに比較して、高調波の歪みが抑制されて正弦波形に近い波形となる。なお、コア2によるコギング推力の周期は、スロット数と極数とで決まり、本実施の形態の筒型リニアモータ1は、8極9スロットのリニアモータであるので、360度を8と9の最小公倍数で割った値である5度となっている。
【0035】
また、本実施の形態の筒型リニアモータ1では、コア2の軸方向の両端のティース2b1,2b2の端側に設けられた補助突極2e1,2e2の端側の界磁側となる外周の周囲に端側へ向かうほど界磁6から離間する面取り部2d1,2d2を備えている。このように、コア2が軸方向の両端の補助突極2e1,2e2に界磁6から遠ざかるような面取り部2d1,2d2を備えていると、電機子Eの軸方向の両端部における磁束の変化が滑らかになり、
図3中の波形Bに示すように、コア2の補助突極2e1,2e2によるコギング推力の波形は、面取り部を備えていない従来の筒型リニアモータに比較して、高調波の歪みが抑制されて正弦波形に近い波形となる。ここで、コア2の補助突極によるコギング推力とは、補助突極2e1,2e2の開放面に作用する力であり、補助突極2e1,2e2の面取り部2d1,2d2の形状によって波形歪を低減でき、ティース2b1,2b2のスロット2c側の端部から補助突極2e1,2e2の面取り部2d1,2d2までの軸方向長さ(厚み)の設定によって位相を調整できる。
【0036】
このように、本実施の形態の筒型リニアモータ1では、コア2が断面台形状のティース2bを備えているのでコア2によるコギング推力の波形が歪みの少ない正弦波形となり、コア2が軸方向の両端の補助突極2e1,2e2に面取り部2d1,2d2を備えているのでコア2の補助突極2e1,2e2によるコギング推力の波形が歪みの少ない正弦波形となる。
【0037】
このように、コア2によるコギング推力とコア2の補助突極2e1,2e2によるコギング推力との双方の波形が正弦波形に近い波形となるため、コア2によるコギング推力とコア2の補助突極2e1,2e2によるコギング推力とを打ち消すように位相を調整すれば、筒型リニアモータ1の全体のコギング推力を抑制できる。
【0038】
そこで、本実施の形態の筒型リニアモータ1では、両端のティース2b1,2b2の界磁6に正対する端面2b11,2b21および補助突極2e1,2e2の界磁6に正対する端面2e11,2e21における軸方向長さXをコア2によるコギング推力をコア2の補助突極2e1,2e2によるコギング推力で低減できるように設定している。具体的には、ティース2b1(2b2)のスロット2c側の端部から補助突極2e1(2e2)の面取り部2d1(2d2)までのコア2の界磁6との距離が最も短く界磁6に対して一定の間隔で対向する端面2b11(2b21)および端面2e11(2e21)の合計の軸方向長さXを変化させると、コア2の補助突極2e1,2e2によるコギング推力の波形の位相をコア2によるコギング推力の波形の位相と差を調整できる。よって、本実施の形態の筒型リニアモータ1では、前記長さXをコア2によるコギング推力の波形の位相と、コア2の補助突極2e1,2e2によるコギング推力の波形の位相との差が180度となるように設定して、コア2によるコギング推力とがコア2の補助突極2e1,2e2によるコギング推力とが互い相殺しあって打ち消す合うようにしている。より詳細には、本実施の形態の筒型リニアモータ1では、前記長さXを磁極ピッチの2分の1の長さに設定しており、
図3中に示すように、コア2によるコギング推力の波形Aとコア2の補助突極2e1,2e2によるコギング推力の波形Bとが180度位相差をもって出現して互いに打ち消し合って、筒型リニアモータ1の全体のコギング推力の波形Cを極小さくすることができる。
【0039】
なお、筒型リニアモータ1の全体のコギング推力を最小にするには、コア2によるコギング推力の波形Aの位相とコア2の補助突極2e1,2e2によるコギング推力の波形Bの位相との差が180度となるように、ティース2b1,2b2の界磁6側の最も界磁6に対向する端面2b11,2b21および補助突極2e1,2e2の端面2e11,2e21の軸方向長さXを設定するとよいが、筒型リニアモータ1の全体のコギング推力を低減できる限りにおいて前記長さXを自由に設定できる。
【0040】
以上、本実施の形態の筒型リニアモータ1は、軸方向にN極とS極とが交互に配置される界磁6と、界磁6に対して軸方向へ移動可能な電機子Eとを備え、電機子Eは、磁性体であって筒状のコア2と、コア2に装着される巻線3とを有し、コア2は、外周に周方向に沿って環状に設けられて軸方向の断面が台形状の複数のティース2bと、ティース2b,2b間の空隙で形成された巻線3が装着されるスロット2cと、軸方向の両端のティース2b1,2b2の端側に設けた補助突極2e1,2e2と、補助突極2e1,2e2の端側の界磁側の周囲に設けられ端側へ向かうほど界磁6から離間する面取り部2d1,2d2とを有し、両端のティース2b1,2b2および補助突極2e1,2e2の界磁6に一定の間隔で対向する端面2b11,2b21,2e11,2e21の軸方向長さXは、コア2によるコギング推力をコア2の補助突極2e1,2e2によるコギング推力で低減するように設定されている。
【0041】
このように構成された筒型リニアモータ1では、コア2が断面台形状のティース2bを備えており、コア2が軸方向の両端の補助突極2e1,2e2に面取り部2d1,2d2を備えているので、コア2によるコギング推力とコア2の補助突極2e1,2e2によるコギング推力の波形が歪みの少ない正弦波形となる。また、両端のティース2b1,2b2および補助突極2e1,2e2の界磁6に対向する端面2b11,2b21,2e11,2e21の軸方向長さXは、コア2によるコギング推力をコア2の補助突極2e1,2e2によるコギング推力で低減するように設定されているので、歪みの少ない正弦波形のコア2によるコギング推力とコア2の補助突極2e1,2e2によるコギング推力との位相を前記長さXの設定によって互いの推力同士を相殺するように調整できる。よって、本実施の形態の筒型リニアモータ1によれば、コア2によるコギング推力をコア2の補助突極2e1,2e2によるコギング推力で減殺させて筒型リニアモータ1の全体のコギング推力を低減できる。
【0042】
さらに、両端のティース2b1,2b2および補助突極2e1,2e2の界磁6に対向する端面2b11,2b21,2e11,2e21の軸方向長さXがコア2によるコギング推力の位相とコア2の補助突極2e1,2e2によるコギング推力の位相とが180度となるように設定される場合、コア2によるコギング推力の波形Aとコア2の補助突極2e1,2e2によるコギング推力の波形Bとが丁度逆位相となって効率よく互いを打ち消し合って、筒型リニアモータ1の全体のコギング推力を最小にできる。
【0043】
なお、
図4に示した一実施の形態の第1変形例の筒型リニアモータ1Aのように、電機子E1におけるコアを、軸方向の両端のティース2b1,2b2を含む中央コア分割体21と、環状であって中央コア分割体21の軸方向の両端にそれぞれ積層される一対のスペーサ22,22と、環状であってスペーサ22,22の軸方向で反中央コア分割体側にそれぞれ積層されて面取り部23a,23aを具備する一対の端部側コア分割体23,23とで構成して、スペーサ22および端部側コア分割体23を補助突極として機能させてもよい。これらの中央コア分割体21、スペーサ22,22および端部側コア分割体23,23は、磁性体で構成されている。
【0044】
中央コア分割体21は、円筒状のヨーク21aと、ヨーク21aの外周に設けた断面台形状であって環状のティース21bとを備えており、両端のティース21b1,21b2の軸方向の長さは、他のティース21bよりも短くなっている。巻線3は、ティース21b間の空隙でなるスロット21cに装着されている。スペーサ22,22は、環状であって、外周面を界磁6に正対させている。また、端部側コア分割体23は、外周面がR形状に面取りされてできる湾曲面とされていて、外周全体で面取り部23aを形成している。このように構成された中央コア分割体21の軸方向の両端にスペーサ22,22を重ね、さらに、スペーサ22,22の外側から端部側コア分割体23,23を積層させると、一実施の形態の筒型リニアモータ1におけるコア2と同じ形状のコア2を形成することができる。
【0045】
端部側コア分割体23,23は、コア2の補助突極によるコギング推力の波形の歪を低減させるために面取り部23a,23aを備えており、スペーサ22は、コア2のコギング推力の波形の位相に対してコア2の補助突極のコギング推力の波形の位相を調整するために設けられている。ここで、複数の軸方向長さが異なるスペーサ22を用意しておけば、スペーサ22の交換によって、コア2によるコギング推力を生じさせる中央コア分割体21に対して、コア2の補助突極によるコギング推力を生じさせる端部側コア分割体23の位置を調整できる。
【0046】
よって、このように、コア2が、軸方向の両端のティース2b1,2b2を含む中央コア分割体21と、環状であって中央コア分割体21の軸方向の両端にそれぞれ積層される一対のスペーサ22,22と、環状であってスペーサ22,22の軸方向で反中央コア分割体側にそれぞれ積層されて面取り部23a,23aを具備する端部側コア分割体23,23とで構成された筒型リニアモータ1Aによれば、スペーサ22の交換によって、コア2によるコギング推力とコア2の補助突極によるコギング推力とが効率よく打ち消せるように、中央コア分割体21に対して端部側コア分割体23,23の軸方向の位置を調整できる。
【0047】
なお、端部側コア分割体23の外周面を全て面取り部23aとするのではなく、端部側コア分割体23の外周面が前記した長さXの範囲内の一部を構成してもよい。また、スペーサ22は、コア2における軸方向の両側のティース2b1,2b2の最外周面の全部を含んで構成されてもよい。このように、スペーサ22と端部側コア分割体23のみで補助突極を構成してもよいし、スペーサ22と端部側コア分割体とで補助突極だけでなくコア2の両端のティースの一部または全部を構成してもよいし、スペーサ22と端部側コア分割体23とで補助突極の一部を構成してもよい。
【0048】
さらに、図示はしないが、コア2は、スペーサ22,23を省略して、中央コア分割体21と、軸方向で中央コア分割体21の両端に積層されて面取り部23a,23aを具備する端部側コア分割体23,23とで構成されてもよく、端部側コア分割体23を補助突極として機能させてもよい。この場合、端部側コア分割体23の外周面を全て面取り部23aとするのではなく、端部側コア分割体23の外周面が前記した長さXの範囲内の一部または全部を構成してもよい。また、端部側コア分割体23のみで補助突極を構成してもよいし、端部側コア分割体23で補助突極とコア2の両端のティース2b1,2b2の一部または全部を構成してもよし、端部側コア分割体23で補助突極の一部を構成してもよい。
このように構成された筒型リニアモータによれば、筒型リニアモータの極スロット数に応じて最適な軸方向長さをもつ端部側コア分割体23,23を用いれば、中央コア分割体21を設計変更することなく、コア2によるコギング推力とコア2の補助突極2e1,2e2によるコギング推力とが効率よく打ち消せるようになる。
【0049】
なお、各実施の形態の筒型リニアモータ1,1Aにおいて、面取り部2d1,2d2,23aは、断面R形状の湾曲面で形成されているが、ティース2b1,2b2或いは端部側コア分割体23の軸方向の両端側であって界磁側の周囲に形成されて界磁6から遠ざかるように面取りされて形成されていればよいので、C形状のテーパ面で形成されていてもよい。
【0050】
なお、本実施の形態の筒型リニアモータ1は、界磁6の内周に電機子Eを設ける構造となっているが、界磁6の外周に電機子Eを設ける構造を採用することも可能である。その場合、コア2の界磁側となる内周側にティースを設けて、ティース間に形成されるスロットに巻線3を装着するとともに、コア2の軸方向の両端の補助突極の内周となる界磁側の周囲に面取り部を設ければよい。そして、この場合、コアのティースのスロット側端から補助突極の面取り部までの界磁に対向する内周面の軸方向の長さをコア2によるコギング推力をコア2の補助突極によるコギング推力で低減するように設定すればよい。
【0051】
以上、本発明の好ましい実施の形態を詳細に説明したが、特許請求の範囲から逸脱しない限り、改造、変形、および変更が可能である。
【符号の説明】
【0052】
1,1A・・・筒型リニアモータ、2・・・コア、2a,21a・・・ヨーク、2b1,2b2・・・両端のティース、2b11,2b21,2e11,2e21・・・端面、2c,21c・・・スロット、2d1,2d2,23a・・・面取り部、2e1,2e2・・・補助突極、3・・・巻線、6・・・界磁、21・・・中央コア分割体、22・・・スペーサ、23・・・端側コア分割体、E,E1・・・電機子