(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023104251
(43)【公開日】2023-07-28
(54)【発明の名称】アルカリ性の地盤の中和方法
(51)【国際特許分類】
C09K 17/42 20060101AFI20230721BHJP
B09C 1/02 20060101ALI20230721BHJP
B09C 1/08 20060101ALI20230721BHJP
C12N 1/00 20060101ALI20230721BHJP
C09K 17/50 20060101ALI20230721BHJP
B09C 1/10 20060101ALI20230721BHJP
【FI】
C09K17/42 H
B09B3/00 304K
B09C1/08 ZAB
C12N1/00 P
C09K17/50 H
B09C1/10
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022005127
(22)【出願日】2022-01-17
(71)【出願人】
【識別番号】000001373
【氏名又は名称】鹿島建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【弁理士】
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100122781
【弁理士】
【氏名又は名称】近藤 寛
(74)【代理人】
【識別番号】100167597
【弁理士】
【氏名又は名称】福山 尚志
(72)【発明者】
【氏名】篠原 智志
(72)【発明者】
【氏名】リン ブーンケン
(72)【発明者】
【氏名】河合 達司
(72)【発明者】
【氏名】田中 真弓
(72)【発明者】
【氏名】大野 貴子
(72)【発明者】
【氏名】柴田 晴佳
(72)【発明者】
【氏名】中村 華子
【テーマコード(参考)】
4B065
4D004
4H026
【Fターム(参考)】
4B065AA01X
4B065CA54
4D004AA41
4D004AB03
4D004AB05
4D004AC07
4D004CA18
4D004CA35
4D004CC01
4D004CC07
4D004CC12
4D004CC15
4H026AA01
4H026AA05
4H026AA07
4H026AA08
4H026AA15
4H026AB04
(57)【要約】
【課題】様々な条件下でもアルカリ性の地盤を中和することが可能な方法を提供する。
【解決手段】アルカリ性の地盤の中和方法として、酸性の無機資材と微生物活性剤とを、地盤に注入する、又は、地盤を構成する土壌へ混合する。この中和方法では、酸性の無機資材が短期的に地盤中のアルカリ成分を中和して地盤のpHを低下させる。地盤のpHが低下すると、土着の従属栄養細菌が活性化し始め、微生物活性剤を代謝してこれを有機酸や二酸化炭素へと分解する。有機酸や二酸化炭素は酸性であるので、これらによって長期的に地盤中のアルカリ成分が中和される。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルカリ性の地盤の中和方法であって、
酸性の無機資材と微生物活性剤とを、前記地盤に注入する、又は、前記地盤を構成する土壌へ混合する、中和方法。
【請求項2】
従属栄養細菌を前記地盤に注入する、又は、前記地盤を構成する土壌へ混合する、請求項1記載の中和方法。
【請求項3】
前記無機資材は、二酸化炭素、炭酸塩、硫酸塩、リン酸塩、硝酸塩、及びアルミニウム塩からなる群から選ばれる少なくとも一種の物質を含有している、請求項1又は2記載の中和方法。
【請求項4】
前記微生物活性剤は、アルコール、糖、及び有機酸からなる群から選ばれる少なくとも一種の物質を含有している、請求項1~3のいずれか一項記載の中和方法。
【請求項5】
前記地盤は、前記地盤に埋められたアルカリ性物質に起因してアルカリ性化したものである、請求項1~4のいずれか一項記載の中和方法。
【請求項6】
前記アルカリ性物質は、建設発生土もしくは焼却残渣を改質する改質剤、又は、スラグ残渣に含まれている物質である、請求項5記載の中和方法。
【請求項7】
前記地盤の重量100重量部に対して前記無機資材を1重量部以上添加する、請求項1~6のいずれか一項記載の中和方法。
【請求項8】
前記地盤を通過する地下水の下流側において前記地下水のpHを測定し、
前記pHに基づいて前記無機資材又は前記微生物活性剤の追加の要否を決定する、請求項1~7のいずれか一項記載の中和方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルカリ性の地盤の中和方法に関する。
【背景技術】
【0002】
建設発生土や、災害廃棄物の焼却残渣等の廃棄物を造成工事等に再利用する際、強度やトラフィカビリティの向上のためにセメントや生石灰等の改質剤を添加する場合がある。この場合、改質後の建設発生土や廃棄物はアルカリ性になり、その利用地の地盤の地下水がアルカリ性になる。また、スラグ残渣を造成工事等に利用する際は、スラグ残渣自体がアルカリ性であるので、その利用地の地盤の地下水がアルカリ性化する。地下水がアルカリ性になると、植物の生育に悪影響を及ぼす。また、例えば臨海部ではその地下水が海に流れ出し、海水の白濁化を引き起こす。このような事態を防止するものとして、例えば特許文献1にはアルカリ性の地盤を中和する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載された中和剤及び中和方法では、硫黄酸化細菌を利用するので、好気性下であること、かつ、硫黄の添加が必要である等、汎用性に欠ける点がある。本発明では、様々な条件下でもアルカリ性の地盤を中和することが可能な方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、アルカリ性の地盤の中和方法であって、酸性の無機資材と微生物活性剤とを、地盤に注入する、又は、地盤を構成する土壌へ混合する、中和方法を提供する。
【0006】
この中和方法では、酸性の無機資材が短期的に地盤中のアルカリ成分を中和して地盤のpHを低下させる。地盤のpHが低下すると、土着の従属栄養細菌が活性化し始め、微生物活性剤を代謝してこれを有機酸や二酸化炭素へと分解する。有機酸や二酸化炭素は酸性であるので、これらによって長期的に地盤中のアルカリ成分が中和される。
【0007】
この中和方法において、従属栄養細菌を地盤に注入してもよく、又は、地盤を構成する土壌へ混合してもよい。この添加は、土着の従属栄養細菌が少ない場合にこれを補うという主旨である。
【0008】
無機資材は、二酸化炭素、炭酸塩、硫酸塩、リン酸塩、硝酸塩、及びアルミニウム塩からなる群から選ばれる少なくとも一種の物質を含有していてもよい。また、微生物活性剤は、アルコール、糖、及び有機酸からなる群から選ばれる少なくとも一種の物質を含有していてもよい。これらの物質が本発明の中和方法に特に適している。
【0009】
地盤は、地盤に埋められたアルカリ性物質に起因してアルカリ性化したものであってもよい。このアルカリ性物質は、建設発生土もしくは焼却残渣を改質する改質剤、又は、スラグ残渣に含まれている物質であってもよい。
【0010】
無機資材の添加量に関し、地盤の重量100重量部に対して無機資材を1重量部以上添加してもよい。
【0011】
また、本発明では、地盤を通過する地下水の下流側において地下水のpHを測定し、pHに基づいて無機資材又は微生物活性剤の追加の要否を決定してもよい。これにより、本発明を再度適用する時期を適切に判断することができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、様々な条件下でもアルカリ性の地盤を中和することが可能な方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】実施例及び比較例の結果(経過時間とpHとの関係)を示すグラフである。
【
図2】実施例及び比較例の結果(経過時間とpHとの関係)を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明であるアルカリ性の地盤の中和方法に関する好適な実施形態について詳細に説明する。この中和方法は酸性の無機資材と微生物活性剤とを、地盤に注入する、又は、地盤を構成する土壌へ混合する工程を有するものである。
【0015】
地盤がアルカリ性になる原因としては様々なことが考えられるところ、本実施形態では、地盤に埋められたアルカリ性物質に起因してアルカリ性化した地盤を対象とする。例えば、建設発生土や災害廃棄物の焼却残渣(焼却灰等)等の廃棄物にセメントや生石灰等のアルカリ性物質を改質剤として添加混合したものが挙げられる。また、地盤に埋め立てるスラグ残渣もアルカリ性である。
【0016】
地盤がアルカリ性であると、そこを流れる地下水もアルカリ性になる。地下水がアルカリ性になると植物の生育に悪影響を及ぼすほか、例えば臨海部では、その地下水が海に流れ出すことで海水の白濁化が起こる。本実施形態の中和方法は、このような事態が生じることを防止する。なお、本実施形態において「地盤」とは、地盤に埋められた建設発生土や廃棄物やスラグ等を含むものを意味する。
【0017】
本実施形態の中和方法では、酸性の無機資材と微生物活性剤とを用いる。酸性の無機資材としては、固体、液体、気体のいずれの形態であってもよく、具体的には、二酸化炭素、炭酸塩、硫酸塩、リン酸塩、硝酸塩、及びアルミニウム塩からなる群から選ばれる少なくとも一種の物質を含有していることが好ましい。なかでも、炭酸塩、リン酸塩等、硫黄分を含まないものが好ましい。無機資材として用いる成分が微生物活性剤として用いる成分と重複する場合は、本実施形態における無機資材としてのその成分の添加量としては、微生物活性剤に含有されているその成分の含有量を除いたものとする。
【0018】
微生物活性剤としては、従属栄養細菌がその生育に利用できるものを用いる。微生物活性剤としては、具体的には、アルコール、糖、及び有機酸からなる群から選ばれる少なくとも一種の物質を含有していることが好ましい。これらのほか、炭酸塩、硫酸塩、リン酸塩等の無機塩を含有していてもよい。微生物活性剤は、速効性が高い種類と、遅効性が高い種類とがある。速効性が高い微生物活性剤としては、乳酸、グルコース、エタノール、グリセロール、酢酸、酪酸、プロピオン酸、ギ酸、ソルビトール、オリゴ乳酸、スクロースが挙げられる。遅効性が高い微生物活性剤としては、ポリ乳酸、植物油、エマルジョン油、高級脂肪酸が挙げられる。速効性が高い微生物活性剤と遅効性が高い微生物活性剤は、いずれも複数種を併用してもよく、速効性が高い微生物活性剤と遅効性が高い微生物活性剤とを併用してもよい。
【0019】
微生物活性剤は、pHが中性領域の地盤において活動が最も活発になる従属栄養細菌に利用されるものであることが好ましい。これによれば、地盤のpHを長期間にわたって中性領域に維持されやすくなる。ここで「中性領域に維持される」とは、具体的にはpHが5.5~9.0の範囲内、又は、5.8~8.8の範囲内、または、6.0~8.5の範囲内に保たれることを意味している。
【0020】
対象地盤の選定のために、又は、無機資材と微生物活性剤とを添加する場所を特定するために、土壌をあらかじめ採取してそのpHを測定する。pHが8.6~14であるときに、本実施形態の適用対象とする。あるいは、アルカリ性物質を含む廃棄物等を埋め立てた場合は、現時点では地盤がアルカリ性になっていない場合であっても、今後の地盤のアルカリ性化が懸念されるときに、本実施形態の適用対象とする。採取した土壌のpHは、土壌重量に対して重量比5の量の蒸留水に土壌を浸漬させ、その懸濁水をpH電極によって測定することで求めることができる。
【0021】
対象地盤の選定又は添加場所の特定ができたら、無機資材と微生物活性剤とを、当該対象地盤に添加する。ここで「添加」とは、液体又は気体を注入する場合と、液体又は固体を土壌と混合する場合とを含む概念である。無機資材及び微生物活性剤の添加は、同時であってもよく、いずれか一方を先に添加してもよい。また、添加時は当該物質をそのまま添加してもよく、水に混合して液体状態としてから混合してもよい。
【0022】
無機資材及び微生物活性剤を対象地盤へ注入する方法としては、井戸を設けてその井戸の中に無機資材及び微生物活性剤を投入することが挙げられる。この場合、井戸を設ける場所としては、アルカリ性物質が埋められている箇所であってもよく、アルカリ性物質が埋められている箇所の近傍(例えば3m~10m離れた箇所)であってもよい。また、設ける井戸の数は複数であってもよく、複数の井戸の間隔は3m~10m間隔であってよい。その複数の井戸の配列としては、同一直線上に並べてもよく、アルカリ性物質が埋められている箇所を取り囲むように並べてもよい。複数の井戸を設けることにより、井戸間で地盤の中和効果を奏する領域が連続することになる。
【0023】
また、地盤に地下水が存在する場合は、複数の井戸を設け、隣り合う井戸同士で注水と揚水とを分担することによって当該井戸間で地下水の循環流を形成させ、その循環流を利用して注水井戸から無機資材及び微生物活性剤を注入して地盤にこれらを拡散させる態様としてもよい。
【0024】
また、無機資材及び微生物活性剤を対象地盤へ注入する方法としては、地盤を構成する土壌へ混合することが挙げられる。地盤をバックホウ等で掘削し、掘削土に無機資材及び微生物活性剤を直接混合し、埋め戻す。
【0025】
いずれの方法で添加するにしても、無機資材の添加量は、対象地盤の重量100重量部に対して1重量部以上であることが好ましい。この添加量は、3重量部以上であってもよく、5重量部以上であってもよい。上限としては、40重量部以下であってもよく30重量部以下であってもよく、20重量部以下であってもよい。無機資材の添加量、及び、微生物活性剤の添加量は、後述する実施例に記載したような室内試験を行って決定することが好ましい。なお、ここで「対象地盤の重量」とは、添加する無機資材の効果が奏される領域内における重量を指している。
【0026】
また、対象地盤に無機資材及び微生物活性剤を添加することに加え、従属栄養細菌を地盤に添加してもよい。事前に対象地盤を分析して、土着の従属栄養細菌の種類又は量が本実施形態の中和方法として不足していると考えられる場合は、従属栄養細菌を補うために地盤に添加する。菌源としては、従属栄養細菌が存在することが分かっている他の土壌を用いることができる。従属栄養細菌としては、pHが中性領域の地盤において活動が最も活発になる従属栄養細菌が好ましい。従属栄養細菌としては、例えばBacillus属やClostridium属が挙げられる。
【0027】
以上で説明した本実施形態の中和方法によれば、酸性の無機資材が短期的に地盤中のアルカリ成分を中和して地盤のpHを低下させる。地盤のpHが低下すると、土着の従属栄養細菌が活性化し始め、微生物活性剤を代謝してこれを有機酸や二酸化炭素へと分解する。有機酸や二酸化炭素は酸性であるので、これらによって長期的に地盤中のアルカリ成分が中和される。従属栄養細菌は一般に好気性下でも嫌気性下でも活動でき、更には酸化状態下でも還元状態下でも活動できるので、本実施形態の効果が保たれやすい。
【0028】
従来の中和方法では、酸性の無機資材を用いてpHを低下させたとしても、無機資材が中和で消費されたら地盤がアルカリ性に戻ることがあった。また、中和のために活動する細菌が独立栄養細菌であると、好気性下でしか効果を発揮しないことがあった。本実施形態の中和方法ではこれらが改善されている。
【0029】
本実施形態の中和方法によれば、対象地盤そのものだけでなく地下水も中和することができる。対象地盤を通過する地下水がある場合は、無機資材及び微生物活性剤を添加した箇所の下流側において地下水を採取し、そのpHを測定し、そのpHに基づいて無機資材又は微生物活性剤の追加の要否を決定することができる。本実施形態の中和方法を実施した後において、時間の経過とともに、何らかの要因により効果が減弱することも考えられるため、地盤のpHをこのようにモニタリングすることが好ましい。
【0030】
以上、本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に何ら限定されるものではない。
【実施例0031】
以下、実施例及び比較例を挙げて本発明の内容をより具体的に説明する。なお、本発明は下記実施例に限定されるものではない。
【0032】
<使用材料>
実験で使用した材料は以下のとおりである。
(対象試料)
・母材A…一般廃棄物焼却灰。固体である。
・母材B…焼却灰のセメント固化物。固体である。
(無機資材)
・過燐酸石灰
(基本液)
・蒸留水
・微生物活性剤液…イオン交換水400mLをビーカーに入れ、これに表1に示した微生物活性剤を当該添加量にて混合した。この混合液を「微生物活性剤液」として用いる。この処方は、従属栄養細菌を活性化するのに適したものである。なお、表1に示した処方において「ペプトン」とは、タンパク質の加水分解生成物である。
【0033】
【0034】
(菌源)
・関東ローム(多種多様の細菌が存在している。)
【0035】
<実施手順>
表2に示したとおり、中和の対象試料であるアルカリ性を示す母材A又は母材Bに対して基本液(蒸留水又は微生物活性剤液)を混合し、必要に応じて菌源や無機資材を添加した。その手順としては、母材A又は母材Bを20g、基本液(蒸留水又は微生物活性剤液)100g(つまり重量比で母材:基本液=1:5)を、容積が250mLのポリ瓶に入れて混合した。この混合液のpHは、母材Aを用いたときは11.6、母材Bを用いたときは11.7であった。次に、必要に応じて、菌源としての関東ロームを0.5g(つまり重量比で母材:菌源=1:0.025)、当該ポリ瓶に投入した。次に、必要に応じて、無機資材を2g(重量比で母材:無機資材=100:10)又は5g(重量比で母材:無機資材=100:25)、当該ポリ瓶に投入した。その後、室温(20℃)で静置養生しながら、所定の時間間隔で液体のpHを測定した。
【0036】
【0037】
経過時間と液体のpHとの関係を
図1及び
図2のグラフに示した。これらの結果によれば、無機資材と微生物活性剤液(菌源とともに)とを添加した場合に、長期的にみてpHが中性領域に維持されることが分かった。無機資材のみを添加した場合は、短期的にはpHを中性領域又は酸性領域に低下させることができたが、時間の経過に従ってpHがアルカリ性領域に戻った。微生物活性剤液(菌源とともに)のみを添加した場合は、短期的にも長期的にもpHが中性領域まで低下しなかった。