(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023104264
(43)【公開日】2023-07-28
(54)【発明の名称】チーズ風味付与剤
(51)【国際特許分類】
A23L 27/20 20160101AFI20230721BHJP
A23C 9/127 20060101ALI20230721BHJP
A23C 20/00 20060101ALN20230721BHJP
A23C 20/02 20210101ALN20230721BHJP
【FI】
A23L27/20 A
A23C9/127
A23C20/00
A23C20/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022005142
(22)【出願日】2022-01-17
(71)【出願人】
【識別番号】000208086
【氏名又は名称】大洋香料株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【弁理士】
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100122301
【弁理士】
【氏名又は名称】冨田 憲史
(72)【発明者】
【氏名】山岡 優
(72)【発明者】
【氏名】青石 晃宏
【テーマコード(参考)】
4B001
4B047
【Fターム(参考)】
4B001AC05
4B001AC26
4B001AC31
4B001BC14
4B001EC01
4B047LB07
4B047LF05
4B047LG18
4B047LG56
4B047LG57
4B047LP18
4B047LP19
(57)【要約】
【課題】熟成チーズ風味を付与する風味改善剤製造方法の提供。
【解決手段】原料をプロテアーゼ処理する工程、リモシラクトバチルス・ロイテリによる発酵処理を行う工程を含む、チーズ風味付与剤の製造方法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
たんぱく質を含有する原料をプロテアーゼ処理する工程、およびリモシラクトバチルス・ロイテリによる発酵処理を行う工程を含む、チーズ風味付与剤の製造方法。
【請求項2】
付与する風味がチーズの熟成風味であることを特徴とする請求項1に記載のチーズ風味付与剤の製造方法。
【請求項3】
酵母エキスが原料に含まれていることを特徴とする請求項1または2に記載のチーズ風味付与剤の製造方法。
【請求項4】
たんぱく質を含有する原料が、乳たんぱく質、大豆たんぱく質、酵母たんぱく質を含む原料であることを特徴とする請求項1~3のいずれか1項に記載のチーズ風味付与剤の製造方法。
【請求項5】
発酵処理を行う工程で増加するD-グルタミン酸、D-アスパラギン酸の合計濃度が500ppm以上であることを特徴とする請求項1~4のいずれか1項に記載のチーズ風味付与剤の製造方法。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか1項に記載の方法により得られたチーズ風味付与剤を食品に添加することを含む、チーズ風味が付与された食品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、チーズ風味付与剤の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
チーズは、新鮮なミルクに乳酸菌を加え、乳を固める酵素(レンネット)を加えて固形状とし、そこから余分な水分やホエー(乳清)を除いたものである。日本では、チーズとしてナチュラルチーズ、プロセスチーズ、及びチーズフードが定義されている(乳及び乳製品の成分規格等に関する省令(昭和26年12月27日厚生省令第52号、以下乳等省令))。ナチュラルチーズは、乳、クリーム、バターミルクまたはこれらを混合したものを凝固させたあと、乳清(ホエー)を除去して得られる生鮮のものまたは熟成したものである。プロセスチーズは、ナチュラルチーズを粉砕し、混合、加熱溶融、乳化したものである。チーズフードは、ナチュラルチーズまたはプロセスチーズを粉砕し、混合、加熱溶融、乳化したもので、製品中にチーズ分を51%以上含むものである。なお、乳に由来しない脂肪、たんぱく質または炭水化物を加える場合は最終製品重量の10%以内とされている。チーズ様食品とは、本来的にチーズではないが食感、風味、物性等がチーズと同等であるもの、または一成分としてチーズを配合し加工された食品を指す。
【0003】
前記のナチュラルチーズは、熟成工程の有無により非熟成型と熟成型に大別される。非熟成型にはクリームチーズ、マスカルポーネ等があり、熟成型にはチェダー、ゴーダ、エダム、エメンタール、パルメザン、カマンベール、ブルー等がある。熟成型チーズでは主に、熟成中の酵素反応により風味が形成される。そして、この酵素反応には次のような酵素が関与している。
【0004】
(1)生乳に由来する酵素(生乳を殺菌しても残存している耐熱性菌などに由来する酵素)
(2)乳酸菌に由来する酵素(ペプチダーゼ、アミノペプチダーゼなど)
(3)レンネットに由来する酵素
(4)カビなどの乳酸菌以外の微生物に由来する酵素(カビなどを使用したチーズの場合)
ここで、カビなどを使用したチーズの場合には、前記(4)のカビなどの微生物に由来する酵素が風味の生成に最も影響するが、それ以外のチーズの場合には通常、前記(2)の乳酸菌に由来する酵素が熟成中の風味の生成に大きく影響する。
【0005】
ナチュラルチーズの熟成は主にスターター乳酸菌の産生する酵素によって進行する。旨味やテクスチャーに関係するのはたんぱく質分解酵素(プロテアーゼ)である。プロテアーゼはその作用機作からエンドプロテアーゼとエキソプロテアーゼに分けられる。エンドプロテアーゼはたんぱく質分子の内部に位置するペプチド結合を切断する。エキソプロテアーゼは低分子ペプチドのN末端側やC末端側から作用してアミノ酸やジペプチドに切断する。乳酸菌は生残しているときは菌体外に酵素を放出し(菌体外酵素、主にエンドプロテアーゼ)、熟成中に死滅したときは溶菌によって菌体内酵素(主にエキソプロテアーゼ)を放出する。旨味(アミノ酸)を産生するのは主にエキソプロテアーゼである。
【0006】
一般に、熟成チーズは熟成期間が長い方が、乳由来のたんぱく質、脂肪、炭水化物等の分解がより進み、その特徴的な風味が強くなる。特に、熟成工程中で多様な風味を呈する遊離アミノ酸やジペプチドが生じることで、熟成チーズ特有の多様な風味やコクが強まると考えられる。
【0007】
日本では近年、チーズの需要が増加している。特に、熟成型チーズは前記の通り熟成工程にて生じるアミノ酸等が含まれ、多様な風味と特有のコクを有しているため、熟成型チーズそのものを喫食するのみでなく、熟成型チーズを原料として風味を付与したプロセスチーズも需要が高まってきている。一方、熟成チーズの製造には長い期間(多くの日数)を要し、その保管設備(熟成庫)の設置費や運転費などが必要となる。このため、短期間、低コストで熟成チーズの風味を付与する方法が望まれている。
【0008】
また、酵素処理チーズ(Enzyme Modified Cheese:EMC)という原料がチーズ風味付与剤として一般に用いられている。一般に酵素処理チーズとは、原料チーズに対してプロテアーゼ処理やリパーゼ処理を行ったもので、比較的安価にナチュラルチーズの風味を付与する目的で使用される。しかし、チーズの熟成工程においてはプロテアーゼやリパーゼの他、微生物の有する他の酵素も機能して多様な成分が生じている。このため、熟成チーズ特有の多様な風味、コクを付与するためには、一般的な酵素処理チーズのみでは難しいと考えられる。
【0009】
ところで、アミノ酸にはD型(D-アミノ酸)とL型(L-アミノ酸)の2種類が存在することが知られているが、生体中のたんぱく質を構成するアミノ酸がL型であることや、L型とD型を精度良く分析する技術が確立されていなかったことから、D型は研究対象となっていなかった。しかし近年、分析技術の進歩により、いくつかのD-アミノ酸が生体内に存在することが明らかとなり、脳やホルモン分泌などで重要な生理機能を担っていることが報告されている。
【0010】
D-アミノ酸は味の面からも注目を集めており、遊離のアミノ酸は、D型とL型で大きく異なる風味を呈することが報告されている。例えば、D-アスパラギン酸は酸味や苦味の抑制作用、D-グルタミン酸は塩味の抑制作用、D-プロリンは甘味や旨味の持続作用を有し、食品が有する味質を修飾する効果があることが明らかとなっている。醤油、味噌、そしてチーズ等の発酵食品にはD-アミノ酸が豊富に含まれており、発酵食品の風味の一役を担っていると考えられている(非特許文献1)。また、昔ながらの作り方(生もと造り)の日本酒は、含有されるD-アミノ酸濃度が高い傾向があり、それらD-アミノ酸は日本酒のうま味や総合評価を高める(非特許文献2)。
【0011】
D-アミノ酸は、発酵食品の中でも乳酸菌発酵工程を含むものに多く含有されるが、乳酸菌種によってD-アミノ酸の産生能が異なることも明らかとなっている。例えば、D-アラニン、D-グルタミン酸、D-アスパラギン酸は幅広い乳酸菌種での産生が見られ、特にD-アラニンは比較的幅広い菌種にて高濃度で産生されやすい一方で、D-グルタミン酸やD-アスパラギン酸の産生能は菌種によって大きな差があるという傾向が明らかとなっている(非特許文献3)。
【0012】
以上の情報から、本発明者らはチーズ熟成にはL-アミノ酸のみでなくD-アミノ酸も関与すると考え、検討を行った。結果、同種のチーズでも熟成期間が長い方がより高濃度のD-アミノ酸が含有され、D-アミノ酸を含有する乳酸菌発酵物を添加することでチーズの熟成風味が付与可能であることを見出した。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特開2020-188724
【特許文献2】特許第6449418号
【特許文献3】特許第6576611号
【特許文献4】特表2005-510254
【非特許文献】
【0014】
【非特許文献1】Trace Nutrients Research 31, 59-65 (2014)
【非特許文献2】Trace Nutrients Research 29, 1-6 (2012)
【非特許文献3】SpringerPlus 2(1), 691 (2013)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
短期間、低コストで実施可能な、熟成チーズ風味を付与可能な方法が求められている。
【課題を解決するための手段】
【0016】
まず、本発明者らは、熟成チーズの風味に関して検証を行った。具体的には、熟成期間別の同種チーズ(ゴーダ:1ヶ月熟成と500日熟成、ミモレット:3ヶ月熟成と6ヶ月熟成、マンチェゴ:3ヶ月熟成と12ヶ月熟成)を官能評価し、結果を比較することで熟成に伴って増強する風味の絞り込みを行った。結果、3種のチーズいずれでも、熟成後には旨味、塩味、苦味、乳脂肪感の全てが強まること、かつ前記の風味それぞれが強く感じとられることで複雑さが大きく強まることを確認した。この評価結果を元に、先行文献に記載されている内容を詳細に検証した。特許文献1では、乳たんぱく質をプロテアーゼ処理後、乳酸菌発酵する乳原料発酵品の製造方法が記載されている。しかし、乳風味付与剤という用途しか記載がなく、実際に調製しチーズに付与しても風味が弱く、熟成チーズで見られる複雑さの付与効果は見られなかった。特許文献2では、D-アラニン、D-アスパラギン酸、D-グルタミン酸、D-プロリンの混合物により、濃厚さや持続性が向上することが示されている。本発明者らは実際にD-アラニン、D-アスパラギン酸、D-グルタミン酸、D-プロリン混合物の添加による風味付与効果を検証した結果、風味の持続感は強まった一方、塩味や乳脂肪感は強まらず、熟成チーズ的な風味の付与にはつながらなかった。特許文献3では、D-プロリン、D-グルタミン酸、D-アスパラギン酸からなる1種または2種以上とL-グルタミン酸を共存させることによる、旨味の持続性向上方法が記載されている。しかし、この内容では旨味の持続は向上するが、熟成チーズで見られる他の風味(塩味、苦味等)の増強にはつながらないと考えられた。特許文献4では、タンパク質をプロテアーゼ処理後、エンテロコッカス属、スタフィロコッカス属、及びシュードモナス属の細菌で発酵させるチーズ風味成分の製造方法が記載されている。しかしながら、この方法では「汚れた靴下の臭いとして説明される、強烈なスメア臭、塩っぽい、硫黄質の特徴を有する」風味が付与されるとされているが、チーズの熟成風味へは記載がなく、熟成後に感じられる旨味、塩味、苦味、乳脂肪感、複雑さにはつながらないと考えられた。
【0017】
本発明者らは、上記課題を解決するため更に鋭意検討を重ねた。結果、原料をプロテアーゼ処理した後、特定の乳酸菌種にて発酵させることで、高濃度のD-アミノ酸が産生され、かつこの発酵液を添加することで熟成チーズ風味が付与可能となることを見出し、本開示を完成された。
【0018】
即ち、前記課題を解決する手段は、以下のとおりである。
〔1〕たんぱく質を含有する原料をプロテアーゼ処理する工程、およびリモシラクトバチルス・ロイテリによる発酵処理を行う工程を含む、チーズ風味付与剤の製造方法。
〔2〕付与する風味がチーズの熟成風味であることを特徴とする〔1〕に記載のチーズ風味付与剤の製造方法。
〔3〕酵母エキスが原料に含まれていることを特徴とする〔1〕または〔2〕に記載のチーズ風味付与剤の製造方法。
〔4〕たんぱく質を含有する原料が、乳たんぱく質、大豆たんぱく質、酵母たんぱく質を含む原料であることを特徴とする〔1〕~〔3〕のいずれかに記載のチーズ風味付与剤の製造方法。
〔5〕発酵処理を行う工程で増加するD-グルタミン酸、D-アスパラギン酸の合計濃度が500ppm以上であることを特徴とする〔1〕~〔4〕のいずれかに記載のチーズ風味付与剤の製造方法。
〔6〕前記〔1〕~〔5〕のいずれか1項に記載の方法により得られたチーズ風味付与剤を食品に添加することを含む、チーズ風味が付与された食品の製造方法。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、高濃度のD-アミノ酸を含有する熟成チーズ風味付与剤を効率よく製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0021】
本開示は、D-アミノ酸を含有するチーズ風味付与剤の製造方法に関する。
【0022】
本開示に係る発酵処理に使用される乳酸菌としては、D-グルタミン酸、D-アスパラギン酸の産生能が高いことが好ましい。乳酸菌の発酵においては、幅広い菌種にてD-グルタミン酸、D-アスパラギン酸、D-アラニンが生じる。D-グルタミン酸はL-グルタミン酸から、D-アスパラギン酸はL-アスパラギン酸から、D-アラニンはL-アラニンから変換され生じると考えられている。これらのうち、D-アラニンはDL-アラニンとして食品添加物での使用が可能であり、比較的安価かつ簡易に高濃度で添加することが可能となっている。一方、D-グルタミン酸とD-アスパラギン酸は食品添加物での使用は認められておらず、D-アラニンと比較して高濃度での配合が困難となっている。このため。D-アラニンよりも、D-グルタミン酸やD-アスパラギン酸を高濃度で含有する食品素材がより好ましい。当業者は必要に応じて発酵試験等によりこれらの産生能が高い乳酸菌を選択し、使用できる。
【0023】
本開示に係る発酵処理に使用される乳酸菌としては、前記のD-グルタミン酸、D-アスパラギン酸の産生能を有するものであれば特に限定されないが、リモシラクトバチルス・ロイテリ、リモシラクトバチルス・パニス、ラクトバチルス・デルブルッキー・サブスピーシーズ・ブルガリカス、ラクトバチルス・アシドフィラス、レビラクトバチルス・ブレビス、ラクチカゼイバチルス・パラカゼイ・サブスピーシーズ・パラカゼイ、ラクトバチルス・ガセリ、ラクチプランチバチルス・プランタラム・サブスピーシーズ・プランタラム、リモシラクトバチルス・ファーメンタム、ラクトコッカス・ラクティス・サブスピーシーズ・ラクティス、ラクトバチルス・ヘルベティカス、ストレプトコッカス・サーモフィラスなどが挙げられ、特にリモシラクトバチルス・ロイテリが好ましい。当業者はこれらから選ばれる1種以上を使用することができる。
【0024】
菌種の菌株としては、リモシラクトバチルス・ロイテリとしては、リモシラクトバチルス・ロイテリJCM1112、リモシラクトバチルス・ロイテリJCM1081、リモシラクトバチルス・ロイテリJCM1084等の菌株が挙げられる。また、リモシラクトバチルス・パニスとしてはリモシラクトバチルス・パニスJCM11053等が挙げられる。ラクトバチルス・デルブルッキー・サブスピーシーズ・ブルガリカスとしては、ラクトバチルス・デルブルッキー・サブスピーシーズ・ブルガリカスJCM1002等が挙げられ、ラクトバチルス・アシドフィラスとしては、ラクトバチルス・アシドフィラスJCM1034等の菌株が挙げられる。レビラクトバチルス・ブレビスとしてはレビラクトバチルス・ブレビスJCM1061等の菌株が挙げられ、ラクチカゼイバチルス・パラカゼイ・サブスピーシーズ・パラカゼイとしては、ラクチカゼイバチルス・パラカゼイ・サブスピーシーズ・パラカゼイJCM1109等が挙げられる。ラクトバチルス・ガセリとしては、ラクトバチルス・ガセリJCM1131等の菌株が挙げられ、ラクチプランチバチルス・プランタラム・サブスピーシーズ・プランタラムとしてはラクチプランチバチルス・プランタラム・サブスピーシーズ・プランタラムJCM1149等の菌株が挙げられる。リモシラクトバチルス・ファーメンタムとしては、リモシラクトバチルス・ファーメンタムJCM1173等の菌株が挙げられ、ラクトコッカス・ラクティス・サブスピーシーズ・ラクティスとしては、ラクトコッカス・ラクティス・サブスピーシーズ・ラクティスJCM5805等が挙げられる。ラクトバチルス・ヘルベティカスとしては、ラクトバチルス・ヘルベティカスFL-65株等が、ストレプトコッカス・サーモフィラスとしては、ストレプトコッカス・サーモフィラスFL-176株等が挙げられる。以上の菌株は、独立行政法人理化学研究所バイオリソースセンター、独立行政法人製品評価技術基盤機構特許微生物寄託センターなど国内外の公的微生物保存機関から分譲を受けることが可能である。
【0025】
本開示で使用する原料としては、少なくともたんぱく質を含んでいればよく、特にその種類や形状などは制限されない。他の成分を含んでいてもよく、動物性たんぱく質や植物性たんぱく質など、市販されているものを使用することができる。
【0026】
本開示で使用する乳酸菌発酵の培地としては、前記原料そのものであってもよく、前記原料のみを含むものであってもよく、前記原料に加えて、酵母エキス、糖、pH調整剤、香料、および乳酸菌が生育に必要とする他の栄養素のうちいずれか1種以上を含むものであってもよいし、これらに加えてその他の成分を含んでもよい。また、たんぱく質を含む原料をプロテアーゼ処理した後、前記の酵母エキス、糖、pH調整剤等を混合して培地としてもよく、たんぱく質を含む原料と酵母エキス、糖、pH調整剤などを混合した後、プロテアーゼ処理を行ったものを培地としてもよい。
【0027】
本開示で使用する乳酸菌発酵の培地には、酵母エキスを使用することが好ましい。酵母エキスの種類は特に指定されないが、D-アミノ酸の基質となるL-グルタミン酸、L-アスパラギン酸を多く含有し、かつ乳酸菌の発酵を十分に促進できるものが好ましい。このような酵母エキスとしては、例えばアジトップ(三菱商事ライフサイエンス株式会社)や、酵母エキスSL-W(三菱商事ライフサイエンス株式会社)、ハイパーミーストHG-Pd D20(アサヒフードアンドヘルスケア株式会社)、SK酵母エキスHi-KC(T)(日本製紙株式会社)、YP-21CM(富士食品工業株式会社)等が挙げられる。酵母エキスの配合量は、0.5~12%、好ましくは1~10%、より好ましくは2~8%、またはこれらの間の任意の数となるように配合することが可能である。具体的な酵母エキスの配合量は、例えば、約0.5、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、および12%である。
【0028】
本開示で使用する乳酸菌発酵の培地に用いられるたんぱく質を含有する原料としては、例えば乳たんぱく質、大豆たんぱく質、酵母たんぱく質、小麦たんぱく質、えんどう豆たんぱく質を含む原料等が挙げられる。たんぱく質を含む原料では、分解されていない状態のたんぱく質、部分的に分解された状態のたんぱく質(ペプトン、ペプチド)のいずれを含んでもよい。特に、チーズ自体が乳たんぱく質を含み、風味の相性が良いと考えられることから乳たんぱく質を含む原料が好ましい。また、豆乳等を原料とした、乳アレルゲンフリーのチーズ風味チーズ様食品等に対しては、乳たんぱく質以外を用いることが好ましい。
【0029】
乳たんぱく質を含む原料としては、例えば、牛乳、山羊乳、および羊乳等の動物由来の液状乳、脱脂粉乳、全粉乳もしくは粉乳、ならびに濃縮乳から還元した乳が挙げられる。特に、乳酸発酵を行った後の処理が容易であること、管理が容易であること等から脱脂乳、若しくは脱脂粉乳が好ましい。
乳を含む原料の添加量は特に指定されないが、無脂乳固形分として3.0~22.0%、好ましくは5.0~20.0%、より好ましくは8.0~18.0%、またはこれらの間の任意の数となるように配合することが可能だが、これらに限定されない。具体的な無脂乳固形分は、例えば、約3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16,17、18、19、20、21、および22%である。
【0030】
大豆たんぱく質を含む原料としては、例えば、豆乳、粉末状大豆たんぱく質、大豆ペプチド等が挙げられる。大豆たんぱく質を含む原料の添加量は特に指定されないが、たんぱく質として0.5~10.0%、好ましくは1.0~8.0%、より好ましくは1.5%~6.0%、またはこれらの間の任意の数となるように配合することが可能だが、これらに限定されない。具体的な大豆たんぱく質量は、例えば、約0.5、1、2、3、4、5、6、7、8、9、および10%である。
【0031】
酵母たんぱく質を含む原料としては、例えば、酵母ペプトン、酵母菌体等が挙げられる。酵母たんぱく質を含む原料の添加量は特に指定されないが、たんぱく質として0.5~10.0%、好ましくは1.0~8.0%、より好ましくは1.5%~6.0%、またはこれらの間の任意の数となるように配合することが可能だが、これらに限定されない。具体的な酵母たんぱく質量は、例えば、約0.5、1、2、3、4、5、6、7、8、9、および10%である。
【0032】
本開示で使用する乳酸菌発酵の培地には、糖を加えることが好ましい。糖の種類、及び量は特に限定されず、また混合されたものを用いてもよく、ぶどう糖、果糖ぶどう糖液糖、果糖、麦芽糖、乳糖等を添加することができる。また、たんぱく質を含有する原料に糖が含まれる場合、これを乳酸菌に資化させることもできる。例えば、脱脂粉乳には乳糖が含まれるため、乳糖を資化可能な乳酸菌を用いる場合は脱脂粉乳由来の糖で発酵させることができる。
【0033】
本開示で使用する乳酸菌発酵の培地には、pH調整、および香料添加などを行うことも可能である。pH調整の範囲、および使用する物質は特に限定されず、水酸化ナトリウムおよび炭酸カリウム、クエン酸三ナトリウム等の無機塩の他、乳酸、クエン酸、リンゴ酸、および酢酸等の有機酸を使用し、乳酸菌発酵に適したpH帯に調整することができる。使用する香料の種類や量も特に限定されず、必要な風味に合わせて調整することができる。
【0034】
培地には、一部の乳酸菌が生育に必要とするL-システイン、マンガン、およびオレイン酸等の栄養素を添加することも可能である。これらはそのまま用いることも、これらを含有する食品を添加することも可能である。
【0035】
本開示では、発酵処理の前にプロテアーゼによるたんぱく質分解処理を行うことが好ましい。チーズでは熟成に伴いたんぱく質の分解が進むため、その変化を再現することが可能となる。また、たんぱく質を分解することでD-アミノ酸の基質となるL-アミノ酸が供給され、よりD-アミノ酸濃度を高めることが可能となる。本開示で使用するプロテアーゼは特に指定されないが、L-アミノ酸供給効果が高いエキソプロテアーゼ活性を有するものが好ましい。このようなプロテアーゼとしては、例えばスミチームFP-G(新日本化学工業株式会社)や、プロテアーゼM「アマノ」SD(天野エンザイム株式会社)、ペプチダーゼR(天野エンザイム株式会社)などが好ましい。また、必要に応じて、プロテアーゼ以外の酵素を添加することも可能であり、例えばラクターゼやリパーゼを併用することも可能である。
【0036】
本開示における酵素処理時間は、原料、使用酵素、処理温度、および目的とする風味などにより適宜選択することができ、通常は約0.5~約12時間、好ましくは約1時間~約6時間、より好ましくは約1.5時間~約4時間またはこれらの間の任意の数であるが、これらの時間に限定されない。具体的な酵素処理時間は、例えば、約0.5、1、1.5、2、2.5、3、3.5、4、4.5、5、5.5、6、7、8、9、10、11、および12時間である。
【0037】
本開示における酵素処理温度は、原料、使用酵素、処理時間、および目的とする風味などにより適宜選択することができ、通常は約20~約65℃、好ましくは約25~約60℃、より好ましくは約30~約55℃またはこれらの間の任意の数であるが、これらの温度に限定されない。具体的な酵素処理時間は、例えば、約20、25、30、35、40、45、50、55、60、および65℃である。
【0038】
本開示における酵素処理開始時のpHは、原料、使用酵素、処理温度、および目的とする風味などにより適宜選択することができ、通常は約pH3~9、好ましくは約pH4~8、より好ましくは約pH5~7またはこれらの間の任意の数であるが、これらのpHに限定されない。具体的なpHは、例えば、約3.0、3.5、4.0、4.5、5.0、5.5、6.0、6.5、7.0、7.5、8.0、8.5、および9.0である。
【0039】
前記酵素処理にて作製された酵素処理物は、加熱処理により酵素を失活した状態にすることが好ましい。加熱処理条件は使用酵素、及び目的とする風味などにより適宜選択することができる。加熱処理の温度としては、通常は約70~150℃、好ましくは約75~145℃、より好ましくは約80~140℃またはこれらの間の任意の数であるが、これらの温度に限定されない。具体的な温度は、例えば、70、75、80、85、90、95、100、105、110、115、120、125、130、135、140、145、および150℃である。同様に、加熱処理の時間としても、加熱温度と使用酵素、目的とする風味などにより適宜選択することができ、例えば通常は10~1200秒、好ましくは15-900秒、より好ましくは20~600秒またはこれらの間の任意の数であるが、これらの時間に限定されない。
【0040】
本開示における発酵処理の前に当業者は適宜スターターを作製することができる。スターターを作製する培養時間は、原料、使用微生物、発酵温度、および目的とする風味などにより適宜選択することができ、通常は約8時間~約108時間、好ましくは約12時間~約96時間、より好ましくは約16時間~約72時間またはこれらの間の任意の数であるが、これらの時間に限定されない。具体的な発酵時間は、例えば、約8、10、12、14、16、20、22、24、26、28、30、32、34、36、38、40、48、60、72、84、96、および108時間である。
【0041】
本開示における発酵処理時間は、原料、使用微生物、発酵温度、および目的とする風味などにより適宜選択することができ、通常は約8時間~約108時間、好ましくは約12時間~約96時間、より好ましくは約16時間~約72時間またはこれらの間の任意の数であるが、これらの時間に限定されない。具体的な発酵時間は、例えば、約8、10、12、14、16、20、22、24、26、28、30、32、34、36、38、40、48、60、72、84、96、および108時間である。
【0042】
本開示における発酵処理温度は、原料、使用微生物、発酵時間、および目的とする風味などにより適宜選択することができ、通常は約20~約45℃、好ましくは約25~約43℃、より好ましくは約30~約40℃またはこれらの間の任意の数であるが、これらの温度に限定されない。具体的な発酵時間は、例えば、約20、25、30、35、37、40、43、および45℃である。
【0043】
本開示における発酵処理開始時のpHは、原料、使用微生物、発酵温度、および目的とする風味などにより適宜選択することができ、通常は約pH3~9、好ましくは約pH4~8、より好ましくは約pH5~7またはこれらの間の任意の数であるが、これらのpHに限定されない。具体的なpHは、例えば、約3.0、3.5、4.0、4.5、5.0、5.5、6.0、6.5、7.0、7.5、8.0、8.5、および9.0である。
【0044】
本開示における発酵処理終了時のpHは、原料、使用微生物、発酵温度、発酵時間、および目的とする風味などにより適宜選択することができ、通常は約pH2.5~6、好ましくは約pH3~5.5、より好ましくは約pH3.5~5またはこれらの間の任意の数であるが、これらのpHに限定されない。具体的なpHは、例えば、約2.5、3.0、3.5、4.0、4.5、5.0、5.5、および6.0である。
【0045】
本開示における発酵処理物は、必要に応じて、pH調整、および香料添加などを行うことも可能である。pH調整の範囲、および使用する物質は特に限定されず、例えば乳酸、クエン酸、リンゴ酸、酢酸等の有機酸を使用し、pHを酸性域に調整することも、水酸化ナトリウム、炭酸カリウム等の無機塩にてpHを中性域に調整することもできる。使用する香料の種類や量も特に限定されず、必要な風味に合わせて調整することができる。
【0046】
本開示における発酵処理物は、必要に応じて、殺菌前にペクチンなどの安定剤や糖を添加することで安定化させることも可能である。安定剤や糖の種類、及び添加量は特に限定されず、必要に応じて調整することが可能である。安定剤は、一般に酸性乳飲料の安定化に用いられるHMペクチンや大豆多糖類等を用いることが好ましい。糖は、一般に酸性飲料の安定化に用いられる砂糖(スクロース)を用いることが好ましい。
【0047】
前記発酵処理にて作製された発酵処理物は、加熱処理により乳酸菌を失活した状態にすることもできる。加熱処理条件は使用微生物、目的とする風味などにより適宜選択することができる。加熱処理の温度としては、通常は約70~150℃、好ましくは約75~145℃、より好ましくは約80~140℃またはこれらの間の任意の数であるが、これらの温度に限定されない。具体的な温度は、例えば、70、75、80、85、90、95、100、105、110、115、120、125、130、135、140、145、および150℃である。同様に、加熱処理の時間としても、加熱温度と使用酵微生物、目的とする風味などにより適宜選択することができ、例えば通常は10~1200秒、好ましくは15~900秒、より好ましくは20~600秒またはこれらの間の任意の数であるが、これらの時間に限定されない。
【0048】
前記発酵処理にて作製された発酵処理物は、容器に充填されて冷蔵庫等において冷却された状態で保存することができる。あるいは、冷凍庫等で冷凍された状態でも保存することができる。
【0049】
本開示の発酵乳は、乳酸、酢酸、リンゴ酸およびクエン酸などの有機酸、ジアセチル、アセトイン、アセトアルデヒド、エタノールおよび2-メチルアルコールなどの香気成分を含んでもよいし、含まなくてもよい。
【0050】
本開示のチーズ風味付与剤の製造において、上記の発酵処理以外に、当業者が適宜追加の工程を単独、または組み合わせて実施してもよい。このような追加の工程の例として、他原料の添加、均質化処理、ろ過、透析、加熱、冷却、加圧、および減圧等が挙げられる。
【0051】
本開示のチーズ風味付与剤は、食品に添加して使用することができる。本開示において、食品とはすべての飲食物をいい、特に限定されないが固形、半固形、または液体のものが含まれ、特にチーズ風味を有するものが好ましい。
【0052】
上記のような飲食品としては、液状、ペースト状、カプセル状、ゼリー状、ゲル状固体、粉末等の形態を問わず、錠菓、流動食等のほか、例えば、パン類、めん類、ケーキミックス、から揚げ粉、パン粉等の小麦粉製品;即席めん、カップめん、レトルト・調理食品、調理缶詰め、電子レンジ食品、即席スープ・シチュー、即席みそ汁・吸い物、スープ缶詰め、フリーズ・ドライ食品、その他の即席食品等の即席食品類;農産缶詰め、果実缶詰め、ジャム・マーマレード類、漬物、煮豆類、農産乾物類、シリアル(穀物加工品)等の農産加工品;水産缶詰め、魚肉ハム・ソーセージ、水産練り製品、水産珍味類、つくだ煮類等の水産加工品;畜産缶詰め・ペースト類、畜肉ハム・ソーセージ等の畜産加工品;加工乳、乳飲料、ヨーグルト類、乳酸菌飲料類、チーズ、アイスクリーム類、調製粉乳類、クリーム、その他の乳製品等の乳・乳製品;バター、マーガリン類、植物油等の油脂類;しょうゆ、みそ、ソース類、トマト加工調味料、みりん類、食酢類等の基礎調味料;調理ミックス、カレーの素類、たれ類、ドレッシング類、めんつゆ類、スパイス類、その他の複合調味料等の複合調味料・食品類;素材冷凍食品、半調理冷凍食品、調理済冷凍食品等の冷凍食品;キャラメル、キャンディー、チューインガム、チョコレート、クッキー、ビスケット、ケーキ、パイ、スナック、クラッカー、和菓子、米菓子、豆菓子、デザート菓子、ゼリー、その他の菓子などの菓子類;炭酸飲料、天然果汁、果汁飲料、果汁入り清涼飲料、果肉飲料、果粒入り果実飲料、野菜系飲料、豆乳、豆乳飲料、コーヒー飲料、お茶飲料、粉末飲料、濃縮飲料、スポーツ飲料、栄養飲料、アルコール飲料、その他の嗜好飲料等の嗜好飲料類、ベビーフード、ふりかけ、お茶漬けのり等のその他の市販食品等;育児用調製粉乳;経腸栄養食;機能性食品(特定保健用食品、栄養機能食品)等が挙げられる。
【0053】
本開示のチーズ風味付与剤は、減圧濃縮、膜濃縮、ドラムドライ、エアードライ、噴霧乾燥、真空乾燥もしくは凍結乾燥、またはそれらの組み合わせ等により、濃縮品または乾燥品とすることができる。
【0054】
本明細書において「約」とは記載の数値の±10%、好ましくは±5%の範囲を意味する。
【0055】
以下、本開示に係る実施例を説明するが、本開示の技術的範囲はこの説明に限定されるものではない。
【実施例0056】
<遊離アミノ酸の分析方法>
以下の市販チーズ、実施例、比較例中の遊離アミノ酸の含有量は、次に示すオルトフタルアルデヒド・N-アセチル-L-システインキラル誘導体化法(OPA-NACキラル誘導体化法)を用いたアミノ酸定量分析により測定した。分析に供した市販チーズは以下の通りである。ゴーダ1ヶ月熟成(原産国:オランダ)、ゴーダ500日熟成(原産国:オランダ)、ミモレット3ヶ月熟成(原産国:フランス)、ミモレット6ヶ月熟成(原産国:フランス)、マンチェゴ3ヶ月熟成(原産国:スペイン)、マンチェゴ12ヶ月熟成(原産国:スペイン)。尚、各アミノ酸は以下の略号で記載した。
D-アスパラギン酸:D-Asp
L-アスパラギン酸:L-Asp
D-グルタミン酸:D-Glu
L-グルタミン酸:L-Glu
D-アラニン:D-Ala
L-アラニン:L-Ala
L-セリン:L-Ser
L-ヒスチジン:L-His
L-アルギニン:L-Arg
L-チロシン:L-Tyr
L-バリン:L-Val
L-メチオニン:L-Met
L-フェニルアラニン:L-Phe
L-イソロイシン:L-Ile
L-ロイシン:L-Leu
L-リジン:L-Lys
【0057】
それぞれの実施例に係る液体状の発酵物に対し、2倍量のメタノールを加え撹拌後、遠心分離機にかけて得られる上清を蒸留水で3倍に希釈したものをキラル誘導体化用試料とした。市販チーズは、細かく破砕した後、10倍量の水を加えて撹拌しホモジナイザーにて均質化後、遠心分離機をかけて得られる上清を蒸留水で3倍に希釈したものをキラル誘導体化用試料とした。なお、含まれるアミノ酸量に応じ、上清を直接もしくは、蒸留水にて2倍から100倍に希釈したものをキラル誘導体化用試料とした。
【0058】
<キラル誘導体化手順>
キラル誘導体化用試料60μlに1%四ホウ酸ナトリウム水溶液40μl(富士フィルム和光純薬株式会社社製)、1%N-アセチル-L-システイン水溶液20μl(富士フィルム和光純薬株式会社社製)、1.6%オルトフタルアルデヒドメタノール溶液20μl(シグマアルドリッチ社製)を添加し、0.45μmセルロースアセテート製メンブレンフィルター(アドバンテック東洋株式会社製)でろ過したものをキラル誘導体化処理液とした。キラル誘導体化処理液を分析用試料として、高速液体クロマトグラフィー(HPLC、株式会社島津製作所製、検出限界値:0.5ppm)によるアミノ酸分析を行った。
【0059】
また、キラル誘導体化処理液を分析用試料としたHPLCによるアミノ酸分析にあたり、分析条件としては、次の表1に示す条件を選択した。
【0060】
【0061】
<pHの分析>
以下の実施例、比較例、ならびに各プロテアーゼ処理前培地、プロテアーゼ処理後培地サンプルのpHは、卓上pHメーターLAQUA(株式会社堀場製作所)を用いて分析を行った。
【0062】
<乳酸菌スターターの調製例>
MRS(de Man Rogosa Sharpe)培地(Difco(登録商標)製品、日本ベクトン・ディッキンソン)5.53重量部からなる培養基を調製し、121℃で15分間殺菌し、その後37℃まで冷却した。次いで、冷却後の培養基にリモシラクトバチルス・ロイテリJCM1112株0.02重量部を接種して生菌数1.0×105~1.0×107cfu/ml程度とし、37℃で20時間培養させた。その後、発酵物を遠心分離して菌体を回収し、更に同量の滅菌生理食塩水にて懸濁し再度遠心分離して菌体を洗浄した。最終的に得られた菌体を滅菌生理食塩水にて再度懸濁し、生菌数1.0×108~2.0×109cfu/ml程度に調整したものをJCM1112スターターとした。
【0063】
前記JCM1112スターター調製例から、接種する乳酸菌をリモシラクトバチルス・ロイテリJCM1081に置き換え、その他は同様の工程を取ることで、JCM1081スターターを調製した。
【0064】
前記JCM1112スターター調製例から、接種する乳酸菌をリモシラクトバチルス・ロイテリJCM1084に置き換え、その他は同様の工程を取ることで、JCM1084スターターを調製した。
【0065】
前記JCM1112スターター調製例から、接種する乳酸菌をラクトバチルス・デルブルッキー・サブスピーシーズ・ブルガリカスJCM1002に置き換え、その他は同様の工程を取ることで、JCM1002スターターを調製した。
【0066】
前記JCM1112スターター調製例から、接種する乳酸菌をラクトバチルス・アシドフィラスJCM1034に置き換え、その他は同様の工程を取ることで、JCM1034スターターを調製した。
【0067】
前記JCM1112スターター調製例から、接種する乳酸菌をレビラクトバチルス・ブレビスJCM1061に置き換え、培養温度を30℃とし、その他は同様の工程を取ることで、JCM1061スターターを調製した。
【0068】
前記JCM1112スターター調製例から、接種する乳酸菌をラクチカゼイバチルス・パラカゼイ・サブスピーシーズ・パラカゼイJCM1109に置き換え、その他は同様の工程を取ることで、JCM1109スターターを調製した。
【0069】
前記JCM1112スターター調製例から、接種する乳酸菌をラクトバチルス・ガセリJCM1131に置き換え、その他は同様の工程を取ることで、JCM1131スターターを調製した。
【0070】
前記JCM1112スターター調製例から、接種する乳酸菌をラクチプランチバチルス・プランタラム・サブスピーシーズ・プランタラムJCM1149に置き換え、培養温度を30℃とし、その他は同様の工程を取ることで、JCM1149スターターを調製した。
【0071】
前記JCM1112スターター調製例から、接種する乳酸菌をリモシラクトバチルス・ファーメンタムJCM1173に置き換え、その他は同様の工程を取ることで、JCM1173スターターを調製した。
【0072】
前記JCM1112スターター調製例から、接種する乳酸菌をリモシラクトバチルス・パニスJCM11053に置き換え、その他は同様の工程を取ることで、JCM11053スターターを調製した。
【0073】
前記JCM1112スターター調製例から、接種する乳酸菌をラクトコッカス・ラクティス・サブスピーシーズ・ラクティスJCM5805に置き換え、培養温度を30℃とし、その他は同様の工程を取ることで、JCM5805スターターを調製した。
【0074】
前記JCM1112スターター調製例から、接種する乳酸菌をラクトバチルス・ヘルベティカスFL-65に置き換え、その他は同様の工程を取ることで、FL-65スターターを調製した。
【0075】
前記JCM1112スターター調製例から、接種する乳酸菌をストレプトコッカス・サーモフィラスFL-176に置き換え、その他は同様の工程を取ることで、FL-176スターターを調製した。
【0076】
<実施例1-1:発酵乳の調製例>
脱脂粉乳(森永乳業株式会社)10重量部、アジトップ(三菱商事ライフサイエンス株式会社)5重量部、水83.5重量部を混合し、分析用サンプルを回収した(比較例1―1とした)。その後、湯煎にて50℃に温調し、スミチームFP-G(新日本化学工業株式会社)0.5重量部を添加し、スターラーにて撹拌しつつ50℃で2時間保持しプロテアーゼ処理を行った。プロテアーゼ処理後、湯煎にて90℃で20分間殺菌し、37℃まで冷却し、分析用サンプルを無菌的に回収した(比較例1-2とした)。殺菌後の培地に、上記で調製したJCM1112スターターを1重量部接種し、37℃で24時間発酵させた。発酵の停止は80℃で1分間加熱することで行い、得られた発酵物を実施例1-1とした。
【0077】
<実施例1-2:発酵乳の調製例>
前記実施例1-1のうち、スターターJCM1112をスターターJCM1081に置き換え、その他は同様の工程を取ることで実施例1-2を調製した。
【0078】
<実施例1-3:発酵乳の調製例>
前記実施例1-1のうち、スターターJCM1112をスターターJCM1084に置き換え、その他は同様の工程を取ることで実施例1-3を調製した。
【0079】
<比較例1-3:発酵乳の調製例>
前記実施例1-1のうち、スミチームFP-Gを水に置き換え、プロテアーゼ処理工程を省略し、その他は同様の工程を取ることで比較例1-3を調製した。
【0080】
<比較例1-4:発酵乳の調製例>
前記実施例1-1のうち、スターターJCM1112をスターターJCM1002に置き換え、その他は同様の工程を取ることで比較例1-4を調製した。
【0081】
<比較例1-5:発酵乳の調製例>
前記実施例1-1のうち、スターターJCM1112をスターターJCM1034に置き換え、その他は同様の工程を取ることで比較例1-5を調製した。
【0082】
<比較例1-6:発酵乳の調製例>
前記実施例1-1のうち、スターターJCM1112をスターターJCM1061に置き換え、培養温度を30℃とし、その他は同様の工程を取ることで比較例1-6を調製した。
【0083】
<比較例1-7:発酵乳の調製例>
前記実施例1-1のうち、スターターJCM1112をスターターJCM1109に置き換え、その他は同様の工程を取ることで比較例1-7を調製した。
【0084】
<比較例1-8:発酵乳の調製例>
前記実施例1-1のうち、スターターJCM1112をスターターJCM1131に置き換え、その他は同様の工程を取ることで比較例1-8を調製した。
【0085】
<比較例1-9:発酵乳の調製例>
前記実施例1-1のうち、スターターJCM1112をスターターJCM1149に置き換え、培養温度を30℃とし、その他は同様の工程を取ることで比較例1-9を調製した。
【0086】
<比較例1-10:発酵乳の調製例>
前記実施例1-1のうち、スターターJCM1112をスターターJCM1173に置き換え、その他は同様の工程を取ることで比較例1-10を調製した。
<比較例1-11:発酵乳の調製例>
前記実施例1-1のうち、スターターJCM1112をスターターJCM11053に置き換え、その他は同様の工程を取ることで比較例1-11を調製した。
【0087】
<比較例1-12:発酵乳の調製例>
前記実施例1-1のうち、スターターJCM1112をスターターJCM5805に置き換え、培養温度を30℃とし、その他は同様の工程を取ることで比較例1-12を調製した。
【0088】
<比較例1-13:発酵乳の調製例>
前記実施例1-1のうち、スターターJCM1112 1重量部をスターターFL-65 0.5重量部とスターターFL-176 0.5重量部に置き換え、その他は同様の工程を取ることで比較例1-13を調製した。
【0089】
<比較例1-14~1-17:比較用発酵乳の調製例>
脱脂粉乳10重量部、水88.5重量部を混合し、分析用サンプルを回収した(比較例1―14とした)。その後、湯煎にて50℃に温調し、スミチームFP-G(新日本化学工業株式会社)0.5重量部を添加し、スターラーにて撹拌しつつ50℃で2時間保持しプロテアーゼ処理を行った。プロテアーゼ処理後、湯煎にて90℃で20分間殺菌し、37℃まで冷却し、分析用サンプルを無菌的に回収した(比較例1-15とした)。殺菌後の培地に、上記で調製したJCM1112スターターを1重量部接種し、37℃で24時間発酵させた。発酵の停止は80℃で1分間加熱することで行い、得られた発酵物を比較例1-17とした。一方、前記比較例1-17のうち、スミチームFP-Gを水に置き換え、プロテアーゼ処理工程を省略し、その他は同様の工程を取ることで比較例1-15を調製した。
【0090】
<実施例2:大豆たんぱく発酵液の調製例>
プロリーナHD101R(不二製油(株))5重量部、アジトップ5重量部、全糖ぶどう糖グル・ファイナル(塩水港精糖(株))5重量部、水83.5重量部を混合し、サンプルを回収した(比較例2-1とした)。その後、湯煎にて50℃に温調し、スミチームFP-G0.5重量部を添加し、スターラーにて撹拌しつつ50℃で2時間保持しプロテアーゼ処理を行った。プロテアーゼ処理後、湯煎にて90℃で20分間殺菌し、37℃まで冷却し、サンプルを無菌的に回収した(比較例2-2とした)。殺菌後の培地に、上記で調製したJCM1112スターターを1重量部接種し、37℃で24時間発酵させた。発酵の停止は80℃で1分間加熱することで行い、得られた発酵物を実施例2とした。
【0091】
<比較例2-3:大豆たんぱく発酵液の調製例>
前記実施例2のうち、スミチームFP-Gを水に置き換え、プロテアーゼ処理工程を省略し、その他は同様の工程を取ることで比較例2-3を調製した。
【0092】
<実施例3:酵母ペプトン発酵液の調製例>
イーストペプトンHYP-A581(オリエンタル酵母工業(株))5重量部、アジトップ5重量部、全糖ぶどう糖グル・ファイナル5重量部、水83.5重量部を混合し、サンプルを回収した(比較例3-1とした)。その後、湯煎にて50℃に温調し、スミチームFP-G0.5重量部を添加し、スターラーにて撹拌しつつ50℃で2時間保持しプロテアーゼ処理を行った。プロテアーゼ処理後、湯煎にて90℃で20分間殺菌し、37℃まで冷却し、サンプルを無菌的に回収した(比較例3-2とした)。殺菌後の培地に、上記で調製したJCM1112スターターを1重量部接種し、37℃で24時間発酵させた。発酵の停止は80℃で1分間加熱することで行い、得られた発酵物を実施例3とした。
【0093】
<比較例3-3:酵母ペプトン発酵液の調製例>
前記実施例3のうち、スミチームFP-Gを水に置き換え、プロテアーゼ処理工程を省略し、その他は同様の工程を取ることで比較例3-3を調製した。
【0094】
前記の市販チーズについての遊離アミノ酸分析結果を表2に示す。
【0095】
【0096】
表2にてゴーダ、ミモレット、マンチェゴそれぞれの熟成期間別での遊離アミノ酸濃度を比較すると、3種のチーズ全てで熟成期間が長いサンプルにて遊離アミノ酸濃度全般が高くなる傾向が見られた。さらに、L-体のみでなく、3種のD-体(D-Asp、D-Glu、D-Ala)の遊離アミノ酸も熟成期間が長いサンプルにて濃度が増加することが示された。この結果より、熟成チーズでは遊離L-アミノ酸と遊離D-アミノ酸の両方が増加していることが確認され、これらの濃度を補うことで熟成チーズへ遊離アミノ酸組成を近づけられ、かつアミノ酸に由来する風味も近づけられることが考えられた。
【0097】
前記実施例1-1~1-3、比較例1-1~1-13の遊離アミノ酸分析結果を表3に示す。
【0098】
【0099】
表3にて比較例1-1と1-2を比較すると、全ての遊離アミノ酸にて濃度が向上していることが示された。これは、培地中のたんぱく質がプロテアーゼ処理によって分解され、遊離状態のアミノ酸が増加したためと考えられた。表2にて、チーズは熟成に伴い全ての遊離アミノ酸濃度が増加することが確認されているため、培地へのプロテアーゼ処理によりチーズの熟成と同様に遊離アミノ酸濃度増加が起こせることが示された。
【0100】
実施例1-3、比較例1-1~1-3を比較すると、実施例1-1~1-3にて明確に2種のD-アミノ酸(D-Asp、D-Glu)濃度が高くなっていることが示された。実施例1-1~1-3では、いずれもプロテアーゼ処理後の培地をリモシラクトバチルス・ロイテリで発酵している。一方、比較例1-1と1-2では乳酸菌発酵がされておらず、D-アミノ酸はほとんど含有されていなかった。また、比較例1-3では、プロテアーゼ処理を行っていない培地をリモシラクトバチルス・ロイテリJCM1112で発酵しているが、プロテアーゼ処理後に発酵した実施例1-1~1-3と比較してD-Asp、D-Gluの濃度は低くなっていた。このことから、プロテアーゼ処理後に乳酸菌発酵を行うことで、発酵で生じるD-Asp、D-Glu濃度を向上させることが可能であると示された。
【0101】
実施例1-1~1-3と比較例1-4~1-13を比較すると、実施例1-1~1-3にて明確に2種のD-アミノ酸(D-Asp、D-Glu)濃度が高くなっていることが示された。実施例1-1~1-3では、いずれもリモシラクトバチルス・ロイテリを、比較例1-4~1-13ではリモシラクトバチルス・ロイテリ以外の乳酸菌種を使用しており、培地配合やプロテアーゼ処理、発酵時間といった他の条件は同様であった。この結果より、プロテアーゼ処理後にリモシラクトバチルス・ロイテリにて発酵することで、他の乳酸菌を用いた場合よりも顕著に高い濃度のD-Asp、D-Gluを得られることが示された。
【0102】
前記比較例1-14~1-17の遊離アミノ酸分析結果を表4に示す。
【0103】
【0104】
比較例1-14~1-17と、表3に記載の比較例1-1~1-3、実施例1-1を比較すると、比較例1-1~1-3、実施例1-1にて、全てのアミノ酸が高濃度となる傾向が見られた。更に、比較例1-16、及び比較例1-17と、比較例1-3、実施例1-1を比較すると、比較例1-3、実施例1-1の方が明確に3種のD-アミノ酸(D-Asp、D-Glu、D-Ala)濃度が高くなっていることが示された。比較例1-14~1-17と比較例1-1~1-3、実施例1-1では、培地への酵母エキス添加の有無のみ異なっている。このため、酵母エキスの添加によりリモシラクトバチルス・ロイテリの発酵が促進され、D-アミノ酸の変換が促進されたことが考えられた。
【0105】
前記実施例2、比較例2-1~2-3の遊離アミノ酸分析結果を表5に示す。
【0106】
【0107】
表5に記載の実施例2、比較例2-1~2-3では、培地原料に脱脂粉乳と酵母エキスではなく、大豆たんぱく質と酵母エキス、ぶどう糖を用いている。比較例2-1と2-2を比較すると、全ての遊離アミノ酸にて濃度が向上しており、大豆たんぱく質を用いた場合でも乳と同様にプロテアーゼ処理により遊離アミノ酸濃度増加が可能と示された。また、比較例2-3と実施例2ではD-Asp、D-Glu濃度が増加しており、特にプロテアーゼ処理後にリモシラクトバチルス・ロイテリにて発酵を行った実施例2でより高濃度のD-Asp、D-Gluが検出された。この結果から、大豆たんぱく質を培地に用いた場合でも、プロテアーゼ処理後にリモシラクトバチルス・ロイテリにて発酵することで顕著に高い濃度のD-Asp、D-Gluを得られることが示された。
【0108】
前記実施例3、比較例3-1~3-3の遊離アミノ酸分析結果を表5に示す。
【0109】
【0110】
表6に記載の実施例3、比較例3-1~3-3では、培地原料に脱脂粉乳と酵母エキスではなく、酵母ペプトンと酵母エキス、ぶどう糖を用いている。比較例3-1と3-2を比較すると、全ての遊離アミノ酸にて濃度が向上しており、酵母ペプトンを用いた場合でも乳と同様にプロテアーゼ処理により遊離アミノ酸濃度増加が可能と示された。また、比較例3-3と実施例3ではD-Asp、D-Glu濃度が増加しており、プロテアーゼ処理後にリモシラクトバチルス・ロイテリにて発酵を行った実施例3でより高濃度のD-Asp、D-Gluが検出された。この結果から、酵母ペプトンを培地に用いた場合でも、プロテアーゼ処理後にリモシラクトバチルス・ロイテリにて発酵することで高い濃度のD-Asp、D-Gluを得られることが示された。
【0111】
以上より、種々の原料を用いつつ、高濃度のD-Asp、D-Gluを含有するチーズ風味改善剤を作成することができた。
【0112】
<チーズ風味改善剤を添加した飲食品の呈味官能試験>
【0113】
前記実施例1-1~1-3、実施例2、及び実施例3に係るチーズ風味改善剤を添加した飲食品の呈味について、前記比較例1-1~1-17、比較例2-1~2-3、及び比較例3-1~3-3を添加した飲食品の呈味と比較しつつ、官能試験を行った。
【0114】
表7~10に官能評価の対象とした評価試験区の処方の一覧を示す。なお、表7~10においては、ブランクとなる食品100重量部に対して、実施例1-1~1-3、実施例2、及び実施例3、並びに比較例1-1~1-17、比較例2-1~2-3、及び比較例3-1~3-3のいずれかを0.5重量部添加して調製した。
【0115】
【0116】
【0117】
【0118】
【0119】
各評価試験区を官能評価試験に供した。具体的には良く訓練され、日常飲食品の評価を行っているパネラー5人(n=5)が飲食品を評価した。熟成期間別チーズの市販品評価結果より、熟成期間が長くなるに伴い、旨味、塩味、苦味、乳脂肪感、複雑味(感じられる風味の多様さ)が強まったことから、熟成期間が長くなると全体の風味の強さが強くなり、かつ複雑になっていくと判断した。そこで各評価試験区について、熟成チーズ感を以下項目にて評価した。即ち、旨味、塩味、苦味、乳脂肪感については、各風味の強度を採点し、10人がつけた点数の平均値を評価として採用した。複雑味は感じられる風味の多様さ(例えば、旨味や苦味といった単体の味が強いのではなく、様々な風味がまじりあって感じられる程度)にて評価した。また、前記5項目の平均を総合評価とした。この評価方法にて、総合評価が高い場合にて、熟成チーズ調の風味が強い、と判断した。なお、評価点は、対象となる飲食品そのもの(ブランク1~3)の各項目の評価点を一律に2.0とし、この2.0点を基準として各比較例及び実施例における各項目の呈味や風味の多様さが強い評価であれば大きい点をつけることとして、「1、2、3、4、5」のいずれかの点数をつけることによって採点した。
【0120】
表11、及び表12には、チーズに係るブランクとしてプロセスチーズ(六甲バター株式会社製 ベビーチーズ(プレーン))を使用したもの(以下、ブランク1という。)の前記評価項目を2.0とした場合の、ブランク1に実施例1-1~1-3に係る発酵乳を添加したものを表7の処方に従って作製して実施例4-1~4-3としたもの、及び、ブランク1に比較例1-1~1-17に係る発酵乳を添加したものを表7、及び表8の処方に従って作製して比較例4-1~4-17としたものの官能評価結果を示す。尚、各発酵乳は、ブランク1を電子レンジで加温溶解した後に加え、十分に混合することで添加した。
【0121】
【0122】
【0123】
表11の結果より、実施例4-1~4-3は、いずれの評価項目においても評価基準としたブランク1の評価点2.0を上回り、かつ比較例4-1~4-13以上の結果を得た。実施例4-1~4-3はいずれも発酵乳にリモシラクトバチルス・ロイテリを使用しており、比較例4-4~4-13では他の乳酸菌を用いていることから、リモシラクトバチルス・ロイテリを用いた発酵乳を添加することでチーズの熟成風味を強く向上させることが明らかとなった。また、実施例4-1と比較例4-3を比較すると、実施例4-1はいずれの評価項目においても比較例4-3を上回っていた。実施例4-1と比較例4-3は発酵乳のプロテアーゼ処理の有無のみが異なっていることから、原料のプロテアーゼ処理を実施した後、リモシラクトバチルス・ロイテリを用いることで、それぞれいずれかのみを実施した場合よりも強いチーズ熟成風味付与が可能であることが示された。
【0124】
表12の結果より、比較例4-14~4-17は、いずれの評価項目においても、表11の比較例4-1~4-3、及び実施例4-1を下回る結果となった。比較例4-14~4-17と、比較例4-1~4-3、及び実施例4-1の間では、いずれも発酵乳の原料への酵母エキス添加有無のみ異なっており、その他は全て同一の工程、菌株を使用している。このため、原料へ酵母エキスを添加することにより、リモシラクトバチルス・ロイテリの発酵が促進されD-アミノ酸量が大きく増加することに加え、添加時のチーズ熟成風味付与においても大きく効果が向上することが示された。更に、リモシラクトバチルス・ロイテリでの発酵を行わずプロテアーゼ処理のみ実施している比較例4-2、及び比較例4-15を比べると、原料へ酵母エキスを添加している比較例4-2において、酵母エキスを添加していない比較例4-15を、いずれの評価項目においても上回っていた。このため、リモシラクトバチルス・ロイテリの発酵促進に加え、酵母エキス自体へプロテアーゼ処理を行うことで、チーズ熟成風味の増強への寄与が強まることが示唆された。
【0125】
表13には、冷菓に係るブランクとしてアイスクリーム(森永乳業株式会社製 エクセレントマスカルポーネ)を使用したもの(以下、ブランク2という。)の前記評価項目を2.0とした場合の、ブランク2に実施例1-1に係る発酵乳を添加したものを表9の処方に従って作製して実施例5としたもの、及び、ブランク2に比較例1-1~1-3に係る発酵乳を添加したものを表9の処方に従って作製して比較例5-1~5-3としたものの官能評価結果を示す。
【0126】
【0127】
表13の結果より、実施例5は、いずれの評価項目においても評価基準としたブランク2の評価点2.0を上回り、かつ比較例5-1~5-3以上の結果を得た。ここで、実施例5と比較例5-3を比較すると、実施例5はいずれの評価項目においても比較例5-3を上回っていた。実施例5と比較例5-3は発酵乳のプロテアーゼ処理の有無のみが異なっていることから、原料のプロテアーゼ処理を実施した後、リモシラクトバチルス・ロイテリを用いることで、チーズ味の冷菓に対しても、強いチーズ熟成風味付与が可能であることが示された。
【0128】
表14には、乳を含まないブランクとしてチーズ風食品(マルサンアイ株式会社製 豆乳シュレッド)を使用したもの(以下、ブランク3という。)の前記評価項目を2.0とした場合の、ブランク3に実施例2に係る大豆たんぱく発酵液、実施例3に係る酵母ペプトン発酵液を添加したものを表10の処方に従って作製して実施例6-1~6-3としたもの、及び、ブランク3に比較例2-1~2-3に係る大豆たんぱく発酵液、比較例3-1~3-3に係る酵母ペプトン発酵液を添加したものを表10の処方に従って作製して比較例6-1~6-9としたものの官能評価結果を示す。
【0129】
【0130】
表14の結果より、実施例6-1、及び実施例6-2は、いずれの評価項目においても評価基準としたブランク3の評価点2.0を上回り、かつ比較例6-1~6-6以上の結果を得た。表14の結果より、大豆たんぱく、及び酵母ペプトンを用いた場合であっても、プロテアーゼ処理とリモシラクトバチルス・ロイテリによる発酵を併用することで、強いチーズ熟成風味を付与できることが示された。この大豆たんぱく発酵液や酵母ペプトン発酵液は乳原料を含まないため、乳アレルゲンフリーのチーズ風味食品に対しても、熟成風味の付与目的で使用できると考えられる。
【0131】
本開示にて、熟成チーズでは遊離状態のL-アミノ酸とD-アミノ酸が増加しており、同様にL-アミノ酸とD-アミノ酸を増加させたチーズ風味改良剤の添加により、チーズの熟成風味を再現できることが明らかとなった。L-アミノ酸は種類によって旨味、苦味などを呈することが知られている。同様に、単体のD-アミノ酸も主に甘味を呈すると知られており、かつD-アミノ酸は他の風味の感じ方にも影響を及ぼすことが明らかとなっている。これらより、L-アミノ酸とD―アミノ酸の組成を熟成チーズへ近づけることにより、各アミノ酸自体に由来する多様な風味を増強しつつD-アミノ酸による風味への影響も強めることができ、結果として熟成チーズの様な、様々な風味を強く感じる状態が再現されたと考えられた。
本開示に係るチーズ風味改善剤を添加することによって、幅広い飲食品に対して、旨味、塩味、苦味、乳脂肪感、複雑味を増強させ、チーズの熟成風味を付与させることができる。