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  • 特開-排ガス浄化用触媒 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023104344
(43)【公開日】2023-07-28
(54)【発明の名称】排ガス浄化用触媒
(51)【国際特許分類】
   B01J 35/04 20060101AFI20230721BHJP
   B01J 23/60 20060101ALI20230721BHJP
   B01D 53/94 20060101ALI20230721BHJP
   F01N 3/10 20060101ALI20230721BHJP
   F01N 3/28 20060101ALI20230721BHJP
   F01N 3/36 20060101ALI20230721BHJP
【FI】
B01J35/04 301L
B01J23/60 A ZAB
B01D53/94 222
B01D53/94 245
B01D53/94 280
B01D53/94 400
F01N3/10 A
F01N3/28 301Q
F01N3/36 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022005271
(22)【出願日】2022-01-17
(71)【出願人】
【識別番号】000104607
【氏名又は名称】株式会社キャタラー
(74)【代理人】
【識別番号】100117606
【弁理士】
【氏名又は名称】安部 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100130605
【弁理士】
【氏名又は名称】天野 浩治
(72)【発明者】
【氏名】堀 恵悟
(72)【発明者】
【氏名】今井 啓人
(72)【発明者】
【氏名】小林 慎太郎
(72)【発明者】
【氏名】岡▲崎▼ 巧
(72)【発明者】
【氏名】アヴェリノ・コルマ・カノス
【テーマコード(参考)】
3G091
4D148
4G169
【Fターム(参考)】
3G091AA18
3G091AB02
3G091AB04
3G091AB06
3G091AB13
3G091BA02
3G091BA14
3G091CA18
3G091GA06
3G091GA18
3G091GB01W
3G091GB03X
3G091GB04X
3G091GB05W
3G091GB06W
3G091GB07W
3G091GB10X
3G091GB16X
3G091GB17X
4D148AA06
4D148AA13
4D148AA18
4D148AB01
4D148AB02
4D148AB09
4D148AC02
4D148BA01Y
4D148BA03X
4D148BA06Y
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4D148BA15Y
4D148BA16X
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4D148BA33Y
4D148BA35Y
4D148BA36Y
4D148BA37Y
4D148BA38Y
4D148BA41X
4D148BA42Y
4D148BB01
4D148BB02
4D148BB05
4D148BB08
4D148BB16
4D148BB17
4D148CC32
4D148CC47
4D148CD05
4D148DA01
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4D148DA03
4D148DA06
4D148DA07
4D148DA11
4D148DA20
4G169AA03
4G169BA01A
4G169BA01B
4G169BB06B
4G169BC32A
4G169BC32B
4G169BC35B
4G169CA03
4G169CA08
4G169CA13
4G169DA06
4G169EA19
4G169EB14Y
4G169EC22Y
4G169EC28
4G169EC29
4G169EE09
(57)【要約】
【課題】低温環境下および高温環境下におけるNOx浄化性能が向上した排ガス浄化用触媒を提供する。
【解決手段】ここに開示される排ガス浄化用触媒10は、内燃機関の排気管に配置され、該内燃機関から排出される排ガスを浄化する。排ガス浄化用触媒10は、排ガスの流動方向の上流側から第1領域11、第2領域12、第3領域13、および第4領域14を有している。第1領域11、第2領域12、第3領域13、および第4領域14は、それぞれ、基材21~24と、基材の表面に形成される触媒層と、を備えている。触媒層は、触媒金属としての銀と、銀を担持している担体と、を少なくとも含んでいる。第3領域13の触媒層における銀の担持量は、第2領域12の触媒層における銀の担持量よりも少なく、かつ、第4領域14の触媒層における銀の担持量よりも少ない。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関の排気管に配置され、該内燃機関から排出される排ガスを浄化する排ガス浄化用触媒であって、
排ガスの流動方向の上流側から第1領域、第2領域、第3領域、および第4領域を有しており、
前記第1領域、前記第2領域、前記第3領域、および前記第4領域は、それぞれ、基材と、前記基材の表面に形成される触媒層と、を備え、
前記触媒層は、触媒金属としての銀と、前記銀を担持している担体と、を少なくとも含んでおり、
前記第3領域の前記触媒層における前記銀の担持量は、前記第2領域の前記触媒層における前記銀の担持量よりも少なく、かつ、前記第4領域の前記触媒層における前記銀の担持量よりも少ない、排ガス浄化用触媒。
【請求項2】
前記第3領域の前記触媒層における前記銀の担持量は、前記第1領域の前記触媒層における前記銀の担持量と同等、または、前記第1領域の前記触媒層における前記銀の担持量よりも少ない、請求項1に記載の排ガス浄化用触媒。
【請求項3】
前記第1領域の前記触媒層における前記銀の担持量は、前記第2領域の前記触媒層における前記銀の担持量よりも少ない、請求項1または2に記載の排ガス浄化用触媒。
【請求項4】
前記第1領域の前記触媒層における前記銀の担持量は、前記第4領域の前記触媒層における前記銀の担持量よりも少ない、請求項1~3のいずれか一項に記載の排ガス浄化用触媒。
【請求項5】
前記担体としてアルミナを含む、請求項1~4のいずれか一項に記載の排ガス浄化用触媒。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか一項に記載の排ガス浄化用触媒と、
前記排ガス浄化用触媒よりも排ガス流動方向の上流側で前記排ガスに対して炭化水素を供給する供給機構と、
を備えた、排ガス浄化システム。
【請求項7】
前記内燃機関が、ディーゼルエンジンである、
請求項6に記載の排ガス浄化システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、排ガス浄化用触媒に関する。詳しくは、内燃機関の排気管に配置され、該内燃機関から排出される排ガスを浄化する排ガス浄化用触媒に関する。
【背景技術】
【0002】
車両などの内燃機関から排出される排ガスには、窒素酸化物(NOx)、炭化水素(HC:Hydro-Carbon)、一酸化炭素(CO)などの有害成分が含まれる。これら有害成分を排ガス中から効率よく反応・除去するために、従来から排ガス浄化用触媒が利用されている。排ガス浄化に関連する従来技術文献として、例えば特許文献1~3が挙げられる。
【0003】
例えば特許文献3には、炭化水素(HC)を還元剤として利用するNO還元触媒を3つ以上備える排ガス浄化装置が開示されている。かかる排ガス浄化装置は、炭化水素に対するNOx還元触媒の酸化力が排ガス流路の上流から下流側に向けて段階的に大きいことを特徴としており、これによって多種の炭化水素が酸素と反応することを抑制しつつ、多種の炭化水素をNOxと効率よく反応させ得ることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平9-70536号公報
【特許文献2】国際公開第2012/029188号
【特許文献3】特開2009-281192号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、近年では、コンパクトで装置コストが低いHC(炭化水素)-SCR(選択式触媒還元)方式によって、排ガス中のNOxを浄化する排ガス浄化システムが提案されている。かかるHC-SCR方式の排ガス浄化用触媒では、SCR触媒よりも上流側に排ガスに対して霧状の燃料(HC)を噴霧する燃料添加装置が設けられており、当該噴霧された燃料(HC)からHCの部分酸化物(例えばHCO)を生成する。そして生成した部分酸化物は、NOxを浄化する還元剤として機能する。しかしながら、高温環境下(例えば400℃以上、特には450℃以上の環境下)では、完全に酸化される燃料が増加するため、高温環境下におけるNOx浄化性能が低下しがちである。一方で、高温環境下におけるNOx浄化性能の低下を考慮して、燃料を酸化させる能力が低い触媒を用いることも検討されているが、このような触媒を用いた場合には、低温環境下におけるNOx浄化性能が低下し得る。したがって、低温環境下におけるNOx浄化性能を低下させることなく、高温環境下におけるNOx浄化性能が向上する排ガス浄化用触媒が望まれている。
【0006】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、低温環境下および高温環境下におけるNOx浄化性能が向上した排ガス浄化用触媒を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
ここに開示される技術により、内燃機関の排気管に配置され、該内燃機関から排出される排ガスを浄化する排ガス浄化用触媒が提供される。上記排ガス浄化用触媒は、排ガスの流動方向の上流側から第1領域、第2領域、第3領域、および第4領域を有している。上記第1領域、上記第2領域、上記第3領域、および上記第4領域は、それぞれ、基材と、上記基材の表面に形成される触媒層と、を備えている。上記触媒層は、触媒金属としての銀と、上記銀を担持している担体と、を少なくとも含んでいる。上記第3領域の上記触媒層における上記銀の担持量は、上記第2領域の上記触媒層における上記銀の担持量よりも少なく、かつ、上記第4領域の上記触媒層における上記銀の担持量よりも少ない。
【0008】
上記排ガス浄化用触媒では、触媒金属として銀(Ag)が担体に担持されている。触媒層におけるAgの担持量が多い場合には、低温環境下でのNO浄化率が高い一方で、高温環境下でのNO浄化率が低下し得る。また、触媒層におけるAgの担持量が少ない場合には、高温環境下でのNO浄化率が高い一方で、低温環境下でのNO浄化率が低下し得る。排ガス浄化用触媒において、Agの担持量を異ならせた領域を設けることにより、燃料から還元剤として機能する部分酸化物をより効率よく生成することができる。その結果、低温環境下(例えば300℃以下、特には280℃以下)および、高温環境下(例えば400℃以上、特には450℃以上の環境下)におけるNOx浄化性能を向上することができる。
【0009】
好ましい一態様では、上記第3領域の上記触媒層における上記銀の担持量は、上記第1領域の上記触媒層における上記銀の担持量と同等、または、上記第1領域の上記触媒層における上記銀の担持量よりも少ない。これにより、高温環境下におけるNOx浄化性能をさらに向上することができる。
【0010】
好ましい一態様では、上記第1領域の上記触媒層における上記銀の担持量は、上記第2領域の上記触媒層における上記銀の担持量よりも少ない。また、他の好ましい一態様では、上記第1領域の上記触媒層における上記銀の担持量は、上記第4領域の上記触媒層における上記銀の担持量よりも少ない。これにより、高温環境下におけるNOx浄化性能をさらに向上することができる。
【0011】
好ましい一態様では、上記担体としてアルミナを含む。これにより、触媒層の熱安定性や耐久性を好適に向上させることができる。
【0012】
また、ここに開示される技術により、上記排ガス浄化用触媒と、上記排ガス浄化用触媒よりも排ガス流動方向の上流側で上記排ガスに対して炭化水素を供給する供給機構と、を備えた、排ガス浄化システムが提供される。上記内燃機関は、ディーゼルエンジンでありうる。この排ガス浄化システムは、低温環境下および高温環境下においても優れたNOxの浄化性能を発揮することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明の一実施形態に係る排ガス浄化システムの模式図である。
図2】第2触媒を模式的に示す斜視図である。
図3】第2触媒を筒軸方向に切断した部分断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図面を参照しつつ本発明の好適な実施形態を説明する。なお、本明細書において特に言及している事項以外の事柄であって本発明の実施に必要な事柄は、当該分野における従来技術に基づく当業者の設計事項として把握され得る。本発明は、本明細書に開示されている内容と当該分野における技術常識とに基づいて実施することができる。また、以下の図面において、同じ作用を奏する部材・部位には同じ符号を付し、重複する説明は省略または簡略化することがある。各図における寸法関係(長さ、幅、厚みなど)は、実際の寸法関係を必ずしも反映するものではない。また、本明細書において範囲を示す「A~B」(A,Bは任意の数値)の表記は、A以上B以下の意と共に、「好ましくはAより大きい」および「好ましくはBより小さい」の意を包含する。
【0015】
1.排ガス浄化システム
図1は、排ガス浄化システム1の模式図である。排ガス浄化システム1は、内燃機関(エンジン)2と、排ガス浄化装置3と、エンジンコントロールユニット(Engine Control Unit:ECU)4と、を備えている。本実施形態に係る排ガス浄化システム1は、主に、HC(炭化水素)-SCR(選択式触媒還元)方式によって、排ガス中のNOxを浄化するように構成されている。本実施形態に係る排ガス浄化システム1は、尿素SCR方式とは異なり、例えば、アンモニアや尿素水等の還元剤を貯留するタンクは有していない。このため、コンパクトであり、架装性や搭載性に優れている。なお、図1の矢印は、排ガスの流動方向を示している。また、以下の説明では、排ガスの流れに沿って、内燃機関2に近い側を上流側、内燃機関2から遠ざかる側を下流側という。
【0016】
本実施形態の内燃機関2は、車両のディーゼルエンジンを主体として構成されている。ただし、内燃機関2は、車両のディーゼルエンジン以外のエンジン(例えば、車両のガソリンエンジンやハイブリッド車に搭載されるエンジン等)であってもよい。内燃機関2は、複数の燃焼室(図示せず)を備えている。それぞれの燃焼室は、図示されない燃料タンクに接続されており、燃料タンクから供給された燃料が燃焼室において燃焼される。本実施形態の燃料タンクには、ディーゼル燃料(軽油)が貯留されている。ただし、燃料タンクに貯留される燃料は、ガソリン等であってもよい。また、それぞれの燃焼室は、排気ポート2aに連通している。排気ポート2aは、排ガス浄化装置3に連通している。燃焼された燃料ガスは、排ガスとなって排ガス浄化装置3に排出される。
【0017】
排ガス浄化装置3は、内燃機関2と連通する排気経路5と、燃料供給機構6と、圧力センサ8と、第1触媒9と、第2触媒10と、を備えている。排気経路5は、排ガスが流通する排ガス流路である。本実施形態の排気経路5は、エキゾーストマニホールド5aと、排気管5bと、を備えている。エキゾーストマニホールド5aの上流側の端部は、内燃機関2の排気ポート2aに連結されている。エキゾーストマニホールド5aの下流側の端部は、排気管5bに連結されている。排気管5bの途中には、上流側から順に第1触媒9と第2触媒10とが配置されている。
【0018】
第1触媒9については従来と同様でよく、特に限定されない。第1触媒9は、例えば、排ガスに含まれるPMを除去するディーゼルパティキュレートフィルタ(DPF:Diesel Particulate Filter);排ガスに含まれるHCやCOを浄化するディーゼル酸化触媒(DOC:Diesel Oxidation Catalyst);排ガスに含まれるNOx、HC、COを同時に浄化する3元触媒;通常運転時に(リーン条件下の時に)NOxを吸蔵し、燃料を多めに噴射した時に(リッチ条件下の時に)HC、COを還元剤としてNOxを浄化するNOx吸着還元(NSR:NOx Storage-Reduction)触媒;などであってもよい。第1触媒9は、例えば、第2触媒10に流入する排ガスの温度を上昇させる機能を有していてもよい。なお、第1触媒9は必須の構成ではなく、省略することもできる。
【0019】
第2触媒10は、SCR触媒である。第2触媒10は、ここに開示される排ガス浄化用触媒の一例である。第2触媒10の構成については、後述する。なお、第1触媒9と第2触媒10との配置は、任意に可変であってもよい。また、第1触媒9と第2触媒10との個数は特に限定されず、それぞれ複数個が設けられていてもよい。例えば第1触媒9として、上流側から順にDOCとDFPとを備えていてもよい。また、第2触媒10の下流側には、さらに図示しない第3触媒が配置されていてもよい。
【0020】
燃料供給機構6は、排ガスに対してディーゼル燃料を直接噴射する機構である。燃料供給機構6は、加圧部6aと流路6bと吐出部6cとを備えている。加圧部6aは、ディーゼル燃料を加圧して、吐出部6cに供給する。加圧部6aは、例えば加圧ポンプである。加圧部6aは、内燃機関2で用いられるディーゼル燃料の燃料タンク(図示せず)に連結されている。また、加圧部6aは、ECU4に電気的に接続されている。流路6bは、ディーゼル燃料のタンクと吐出部6cとを連通する。流路6bは、例えば変形容易なチューブである。吐出部6cは、第2触媒10よりも上流側に設けられている。吐出部6cは、ECU4に電気的に接続されている。吐出部6cは、加圧部6aで加圧されたディーゼル燃料を霧状に噴射する。これにより、排ガスにディーゼル燃料が混合される。排気経路の吐出部6cよりも下流側に位置する第2触媒10には、ディーゼル燃料の混合した排ガスが流通される。
【0021】
ECU4は、内燃機関2と排ガス浄化装置3とを制御する。ECU4は、内燃機関2と、排ガス浄化装置3と、電気的に接続されている。例えば、燃料供給機構6の加圧部6aおよび吐出部6cと、電気的に接続されている。また、排ガス浄化装置3の各部位に設置されているセンサ(例えば、圧力センサ8や、図示されない酸素センサ、温度センサ等)と、電気的に接続されている。なお、ECU4の構成については従来と同様でよく、特に限定されない。ECU4は、例えば、プロセッサや集積回路である。ECU4は図示されない入力ポートおよび出力ポートを備え得る。ECU4は、例えば、車両の運転状態や、内燃機関2から排出される排ガスの量や、排ガスの温度、排ガスの圧力等の情報を、入力ポートを介して受信する。ECU4は、センサで検知された情報(例えば、圧力センサ8で計測された圧力)を、入力ポートを介して受信する。
また、ECU4は、例えば受信した情報に基づいて、出力ポートを介して制御信号を送信する。ECU4は、例えば内燃機関2の燃料噴射制御や、点火制御、吸入空気量調節制御等の運転を制御する。ECU4は、例えば内燃機関2から排出される排ガスの量などの情報に基づいて、加圧部6aおよび吐出部6cを制御し、ディーゼル燃料の吐出(例えば吐出量や吐出のタイミング)を調整する。
【0022】
2.排ガス浄化用触媒
図2は、第2触媒10を模式的に示す斜視図である。図3は、第2触媒10を筒軸方向Xに沿って切断した断面の一部を模式的に示す図である。なお、図2の矢印は、排ガスの流れを示している。すなわち、図2では、左側が相対的に内燃機関2に近い排気経路5の上流側であり、右側が相対的に内燃機関2から遠い排気経路の下流側である。また、図2および図3において、符号Xは、第2触媒10の筒軸方向を表している。第2触媒10は、筒軸方向Xが排ガスの流動方向に沿うように排気経路5に設置されている。以下では、筒軸方向Xにうち、一の方向X1を上流側(排ガス流入側、フロント側ともいう。)といい、他の方向X2を下流側(排ガス流出側、リア側ともいう。)という。
【0023】
第2触媒10は、排ガス中のNOxを浄化する機能を有する。第2触媒10は、ストレートフロー構造の基材と、触媒層と、を備えている。第2触媒10の一の方向X1の端部は、排ガスの流入口10aであり、他の方向X2の端部は、排ガスの流出口10bである。本実施形態の第2触媒10の外形は、円筒形状である。ただし、第2触媒10の外形は特に限定されず、例えば、楕円筒形状、多角筒形状、パイプ状、フォーム上、ペレット形状、繊維状等であってもよい。
【0024】
ここに開示される技術において、第2触媒10は、第1領域11、第2領域12、第3領域13、および第4領域14から構成されている。図3に示すように、第1領域11は、基材21と、基材の表面に形成される触媒層31と、を備えている。また、第2領域12、第3領域13および、第4領域14も同様にして、それぞれ、基材22~24と、各基材の表面に形成される触媒層32~34と、を備えている。以下、各構成について説明する。
【0025】
基材21~24は、第2触媒10の骨組みを構成するものである。基材21~24としては特に限定されず、従来この種の用途に用いられる種々の素材および形態のものが使用可能である。基材21~24は、例えば、コージェライト、チタン酸アルミニウム、炭化ケイ素等のセラミックスで構成されるセラミックス担体であってもよいし、ステンレス鋼(SUS)、Fe-Cr-Al系合金、Ni-Cr-Al系合金等で構成されるメタル担体であってもよい。基材21~24は、同じ材料から構成されていてもよいし、それぞれ異なる材料から構成されていてもよい。好ましくは、基材21~24の全てが同じ材料から構成されているとよい。
【0026】
図2に示すように、本実施形態の基材21~24は、ハニカム構造を有している。基材21~24は、筒軸方向Xに規則的に配列された複数のセル(空洞)16と、複数のセル16を仕切る隔壁(リブ)18と、を備えている。特に限定されるものではないが、基材21~24の筒軸方向Xに沿う長さ(全長)は、概ね10mm~500mm、例えば50mm~300mmであってもよい。また、基材21~24の体積は、概ね0.1L~10L、例えば1L~5Lであってもよい。なお、本明細書において、「基材の体積」とは、基材21~24自体の体積(純体積)に加えて、内部のセル16の容積を含んだ見かけの体積(嵩容積)をいう。
【0027】
セル16は、排ガスの流路となる。セル16は、筒軸方向Xに延びている。セル16は、基材21~24を筒軸方向Xに貫通する貫通孔である。セル16の形状、大きさ、数などは、例えば、第2触媒10に供給される排ガスの流量や成分などを考慮して設計すればよい。セル16の筒軸方向Xに直交する断面の形状は特に限定されない。セル16の断面形状は、例えば、正方形、平行四辺形、長方形、台形等の矩形や、その他の多角形(例えば三角形、六角形、八角形等)、波形、円形など種々の幾何学形状であってもよい。隔壁18は、セル16に面し、隣り合うセル16を区切っている。特に限定されるものではないが、隔壁18の厚み(表面に直交する方向の寸法。以下同じ。)は、機械的強度を向上したり、圧損を低減したりする観点から、概ね10μm~500μm、例えば20μm~100μmであってもよい。
【0028】
本実施形態の触媒層31~34は、各基材21~24の表面、具体的には隔壁18の上に設けられている。ただし、触媒層31~34は、その一部またはその全部が、触媒層31~34の内部に浸透していてもよい。本実施形態の触媒層31~34は、単層構造である。触媒層31~34は、連通した多数の空隙を有する多孔質体である。触媒層31~34は、排ガスを浄化する場である。第2触媒10に流入した排ガスは、第2触媒10の流路内(セル16)を流動している間に触媒層31~34と接触する。これにより、排ガス中のNOxが浄化される。例えば、吐出部6cから噴射された燃料から、HCの部分酸化物(例えばHCO)が生成される。当該部分酸化物が、触媒層31~34上で、排ガス中のNOxと反応することにより、NOxが還元され、窒素に転換される。
【0029】
触媒層31~34は、上述したように排ガス中のNOxを浄化する反応場である。本実施形態の触媒層31~34は、還元触媒として機能する触媒金属としての銀(Ag)と、該銀を担持する担体と、を少なくとも含有している。そして、ここに開示される排ガス浄化用触媒においては、第3領域13の触媒層33におけるAgの担持量は、第2領域12の触媒層32におけるAgの担持量よりも少なく、かつ、第4領域14の触媒層34におけるAgの担持量よりも少ないことを特徴とする。これにより、低温環境下(例えば300℃以下、特には280℃以下)および、高温環境下(例えば400℃以上、特には450℃以上の環境下)におけるNO浄化率が向上する。ここに開示される技術を限定する意図はないが、かかる効果が得られる理由は、以下のように推測される。
【0030】
HC-SCR方式の排ガス浄化システムでは、上述したように還元剤として燃料(例えばディーゼル燃料)を用いており、該燃料から還元剤として機能する部分酸化物を効率よく生成することにより、HC-SCR方式の排ガス浄化システムのNO浄化率を向上させることができる。本発明者らの知見によれば、触媒金属としてAgを用いた場合には、触媒層におけるAgの担持量が多い場合には低温環境下でのNO浄化率が高いものの、高温環境下でのNO浄化率が低下する。これは、高温環境下において触媒層におけるAgの担持量が多い場合には、完全に酸化されるまたは過酸化状態となる燃料が増加し、還元剤として機能する部分酸化物の生成量が減少するためと推測される。一方で、触媒層におけるAgの担持量が少ない場合には高温環境下でのNO浄化率が高いものの、低温環境下でのNO浄化率が低下する。これは、低温環境下において触媒層におけるAgの担持量が少ない場合には、燃料の多くが好適に酸化されないことにより、還元剤として機能する部分酸化物の生成量が減少したためと推測される。したがって、触媒において、Agの担持量を異ならせた領域を設けることにより、燃料から還元剤として機能する部分酸化物を効率よく生成することができ、低温環境下および高温環境下の両方におけるNO浄化率の向上が実現される。
特に、第3領域の触媒層におけるAgの担持量を、第2領域および第4領域の触媒層におけるAgの担持量よりも少なくすることで、従来よりもさらに効率よく部分酸化物の生成することができ、低温環境下および高温環境下におけるNO浄化率を向上させることができる。これは、Agの担持量が相対的に多い第2領域において過酸化状態となった燃料を、Agの担持量が相対的に少ない第3領域において部分酸化物とすることができ、特に高温環境下におけるNO浄化率を向上させることができるためと推測される。さらに、第1領域および第2領域を流動した際には液滴として存在していた燃料が、第3領域および第4領域を流動する際には気化されていることにより、添加された燃料のほとんどを還元剤として効率よく利用することができるためと推測される。
【0031】
好ましい一態様では、第3領域13の触媒層33におけるAgの担持量は、第1領域11の触媒層31におけるAgの担持量と同等、または、第1領域11の触媒層31におけるAgの担持量よりも少ない。すなわち、第3領域13の触媒層33におけるAgの担持量は、第2触媒10の中で相対的に少なくなっている。これにより、上記したように、Agの担持量が相対的に高い第2領域12において過酸化状態となったディーゼル燃料も利用して部分酸化物を生成することができるため、特に高温環境下におけるNO浄化率を向上させ得る。したがって、第3領域13の触媒層33におけるAgの担持量が第2触媒10において相対的に低いことにより、低温環境下および高温環境下の両方におけるHC-SCR方式の排ガス浄化システムのパフォーマンスを最大化することができる。
【0032】
第1領域11の触媒層31におけるAgの担持量は、第2領域12の触媒層32におけるAgの担持量よりも少ないことが好ましい。また、第1領域11の触媒層31におけるAgの担持量は、第4領域14の触媒層34におけるAgの担持量よりも少ないことが好ましい。これにより、特に高温環境下におけるNO浄化率を向上させ得る。
【0033】
上記した第1領域11~第4領域14は、各領域の各触媒層におけるAgの担持量が上記した関係を満たすように構成されていればよい。例えば、同一の基材上にAgの担持量が異なる触媒層を4領域設けることによって構成されていてもよいし、それぞれの基材上にAgの担持量が異なる触媒層が設けられた触媒を4つ用意して連結することによって構成されていてもよい。
【0034】
銀(Ag)は、排ガス中のNOxを浄化するための触媒金属である。Agは、典型的には、担体の表面に担持されている。Agは、粒子状であり得る。Agは、排ガスや還元剤との接触面積を高める観点から、平均粒子径が、概ね1nm~15nm、例えば10nm以下、さらには5nm以下であるとよい。なお、本明細書において、「平均粒子径」とは、透過電子顕微鏡(TEM:Transmission Electron Microscope)観察で求められる粒径の個数基準の平均値である。Ag粒子は、凝集しやすい性質を有しており、単純にAgの担持量を増やすだけでは、活性点数を増加させることは困難であった。このため、上述したように触媒においてAgの担持量が異なる領域それぞれ設計することにより、低温環境下および高温環境下におけるNO浄化率を向上させることができる。
【0035】
触媒層31~34は、例えば、上記触媒金属としてのAgを担体に担持させることによって形成されている。典型的には、Agを担持した触媒付担体の多孔質焼結体により構成することができる。かかる担体としては、アルミナ(Al)、ジルコニア(ZrO)、セリア(CeO)、シリカ(SiO)、マグネシア(MgO)、酸化チタン(チタニア:TiO)等の金属酸化物、もしくは、これらの固溶体、例えば、セリアとジルコニアとを含むCeO-ZrO系複合酸化物等が挙げられる。これらは1種を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。なかでも、担体としてアルミナを含むことが好ましい。アルミナは、従来この種の用途に用いられているそのほかの金属酸化物に比べて、耐熱性が高いことが知られている。このため、触媒層31~34の熱安定性や耐久性を好適に向上させることができる。
【0036】
なお、上記担体には副成分として他の材料が添加されていてもよい。一例として、マグネシウム(Mg)、カルシウム(Ca)等のアルカリ土類金属元素、亜鉛(Zn)、チタン(Ti)等の遷移金属元素、ランタン(La)等の希土類金属元素、ケイ素(Si)等が挙げられる。なかでも、担体としてアルミナを含む場合においては、ZnおよびTiが好適に用いられ得る。これにより、高温環境下においてもディーゼル燃料から十分に部分酸化物を生成することができ、NO浄化率を向上させ得る。
【0037】
単体の形状(外形)は特に限定されないが、より大きい比表面積を確保できるという観点から、粉末状のものが好ましく用いられ得る。例えば、担体として用いる粉末の平均粒子径は、例えば20μm以下、典型的には10μm以下、7μm以下であることが好ましい。上記担体の平均粒子径が大きすぎる場合には、該担体に担持された触媒金属の分散性が低下する傾向がある。これにより、触媒の浄化性能が低下するため好ましくない。一方で、担体として用いる粉末の平均粒子径が小さすぎる場合には、該担体からなる担体自体の耐熱性が低下するため触媒の耐熱性が低下し得る。よって、担体として用いる粉末の平均粒子径は、概ね0.1μm以上であって、0.5μm以上が好ましく、1μm以上であってもよい。
【0038】
各領域の各触媒層におけるAgの担持量(g/L)は、上記したような関係を満たすように調整されていればよく、特に限定されない。例えば、第1領域11の触媒層31におけるAgの担持量は、第1領域11の体積(基材21の体積)1Lあたり、例えば5g~20gであることが好ましく、7.2g~16gであることがより好ましい。
第2領域12の触媒層32におけるAgの担持量は、第2領域12の体積(基材22の体積)1Lあたり、例えば5g~20gであることが好ましく、7.2g~16gであることがより好ましい。第2領域12の触媒層32におけるAgの担持量(g/L)は、上記した範囲の中から、第1領域11の触媒層31におけるAgの担持量(g/L)よりも多くなるように選択することが好ましい。
第3領域13の触媒層33におけるAgの担持量は、第3領域13の体積(基材23の体積)1Lあたり、例えば5g~20gであることが好ましく、7.2g~16gであることがより好ましい。第3領域13の触媒層33におけるAgの担持量(g/L)は、上記した範囲の中から、第2領域12の触媒層32および第4領域14の触媒層34におけるAgの担持量(g/L)よりも少なくなるように選択すればよい。
第4領域14の触媒層34におけるAgの担持量は、第4領域14の体積(基材24の体積)1Lあたり、例えば5g~20gであることが好ましく、7.2g~16gであることがより好ましい。第4領域14の触媒層34におけるAgの担持量(g/L)は、上記した範囲の中から、第3領域13の触媒層33におけるAgの担持量(g/L)よりも多くなるように選択すればよい。これらにより、上記したような効果が好適に発揮されるため、低温環境下および高温環境下におけるNO浄化率を向上させ得る。
【0039】
また、各領域の各触媒層の全体を100wt%としたときの触媒金属としてのAgの重量比率(wt%)は、Agの担持量が上記した関係を満たすように調整されていればよく、特に限定されない。例えば、第1領域11の触媒層31全体を100wt%としたときに、Agの重量比率は、概ね0.1wt%以上であって、典型的には0.5wt%以上、例えば1wt%以上、2wt%以上、3wt%以上であって、概ね10wt%以下、典型的には7wt%以下、例えば5wt%以下であるとよい。第2領域12の触媒層32全体を100wt%としたときに、Agの重量比率は、概ね0.1wt%以上であって、典型的には0.5wt%以上、例えば1wt%以上、4wt%以上であって、概ね10wt%以下、典型的には7wt%以下、例えば5wt%以下であるとよい。第3領域13の触媒層33全体を100wt%としたときに、Agの重量比率は、概ね0.1wt%以上であって、典型的には0.5wt%以上、例えば1wt%以上、2wt%以上、3wt%以上であって、概ね10wt%以下、典型的には7wt%以下、例えば5wt%以下であるとよい。第4領域14の触媒層34全体を100wt%としたときに、Agの重量比率は、概ね0.1wt%以上であって、典型的には0.5wt%以上、例えば1wt%以上、4wt%以上であって、概ね10wt%以下、典型的には7wt%以下、例えば5wt%以下であるとよい。
【0040】
各領域の触媒層31~34は、触媒金属としての銀と、当該銀を担持する担体と、で構成されていてもよく、例えば用途などによって、銀と担体とに加えて、他の任意成分を含んでいてもよい。各領域の触媒層31~34は、担体を主体(質量比率で最も多くの割合を占める成分、好ましくは50質量%以上を占める成分。以下同じ。)として構成されていてもよい。各領域の触媒層31~34は、排ガスの浄化にあたって、酸化触媒および/または還元触媒として機能し得ることが知られている銀以外の触媒金属を含んでいてもよい。一例として、ロジウム(Rh)、パラジウム(Pd)、白金(Pt)等の白金族金属、チタン(Ti)、鉄(Fe)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)、銅(Cu)等の遷移金属、が挙げられる。これらは1種を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0041】
また、他の一例として、各領域の触媒層31~34は、例えば上記触媒金属を担持する担体のほか、触媒金属を担持していない任意材料を含んでいてもよい。これら任意材料の一例として、CeO-ZrO系複合酸化物や、アルミナ(Al2O3)、シリカ(SiO2)等が挙げられる。
【0042】
特に限定されるものではないが、各領域の触媒層31~34のコート量(成形量)は、各領域の体積(基材の体積)1Lあたり、例えば50g以上、好ましくは100g以上、より好ましくは200g以上であって、概ね350g以下、好ましくは300g以下、例えば250g以下であってもよい。上記範囲を満たすことにより、高温環境下におけるNO浄化性能の向上と圧損の低減とを高いレベルで兼ね備えることができる。また、各領域の触媒層31~34のコート量は、各触媒層におけるAgの担持量が上述した関係を満たすように調整されていればよい。例えば、各領域の触媒層31~34のコート量は、同じであってもよいし、異なっていてもよい。好ましくは、各領域の触媒層31~34のコート量が概ね同じとなるように調整するとよい。
【0043】
各領域の触媒層31~34の厚みや長さは、例えば、各基材21~24のセルの大きさや第2触媒10に供給される排ガスの流量などを考慮して設計すればよい。いくつかの態様において、各領域の触媒層31~34の厚みは、概ね1μm~500μm、例えば5μm~200μm、10μm~100μmである。また、各領域の触媒層31~34は、それぞれの基材21~24の筒軸方向Xの全長にわたって設けられていてもよいし、筒軸方向Xにおいて連続的にあるいは断続的に、それぞれの基材21~24の全長の概ね20%以上、例えば50%以上、好ましくは80%以上にあたる部分に設けられていてもよい。なお、各領域の触媒層31~34の厚みや長さについても、各触媒層におけるAgの担持量が上述した関係を満たすように調整されていればよく、特に限定されない。すなわち、各領域の触媒層31~34の厚みや長さは、例えば同じであってもよいし、異なっていてもよい。
【0044】
第2触媒10は、上述した各領域の触媒層31~34以外にも組成や性状の異なる触媒層を複数備えていてもよい。例えば、触媒層ではない層(例えば触媒金属を含まない層)等を備えていてもよい。また、図3に示す各領域の触媒層31~34は単層構造であるが、第2触媒10は、各領域の触媒層31~34の上または下に、各領域の触媒層31~34とは異なる他の触媒層を備える2層以上の構造であってもよい。また、第2触媒10は、例えば筒軸方向Xに各領域の触媒層31~34とは異なる他の触媒層を備えていてもよい。いくつかの態様において、第2触媒10は、基材の部分ごと、例えば筒軸方向Xの上流側X1と下流側X2とに異なる組成の触媒層が設けられていてもよい。
【0045】
3.排ガス浄化用触媒の製造方法
上記した第1領域11~第4領域14を有する第2触媒10は、例えば以下の手順によって作製することができる。特に限定されないが、上述した第1領域11~第4領域14の触媒層31~34は、異なる触媒層形成用スラリーをもとに形成するとよい。例えば、第1領域11の触媒層31を形成するための第1領域触媒層形成用スラリー、第2領域12の触媒層32を形成するための第2領域触媒層形成用スラリー、第3領域13の触媒層33を形成するための第3領域触媒層形成用スラリー、および、第4領域14の触媒層34を形成するための第4領域触媒層形成用スラリーを、それぞれ用意する。各触媒層形成用スラリーには、各領域の各触媒層を構成する成分、例えば銀元素源(例えば銀イオンを含む溶液)と、担体(金属酸化物)と、を少なくとも含んでいる。各触媒層形成用スラリーは、その他の任意成分として、例えばバインダ、各種添加剤等を含み得る。各触媒層形成用スラリーは、銀元素源と、担体と、任意成分とを分散媒に分散させることにより、調整することができる。ここで、バインダとしては、例えばアルミナゾル、シリカゾル等が挙げられる。また、分散媒としては、例えば水や水系溶媒等が挙げられる。スラリーの性状、例えば粘度や固形分率等は、使用する基材のサイズやセルの形態等によって適宜調整するとよい。
【0046】
触媒層形成用スラリーに用いる銀元素源としては、銀元素を含む各種化合物を用いることができる。例えば、硝酸銀(AgNO)、酸化銀(AgO)、炭酸銀(AgCO)、シュウ酸銀(CAgO)等が挙げられる。また、担体としては、上述したような金属酸化物が好ましく用いられ得る。なかでも、アルミニウム元素および酸素原子を含む各種のアルミニウム化合物を好ましく用いることができる。例えば、θ-アルミナ、δ-アルミナ、γ-アルミナなどのアルミナをそのまま使用してもよいし、後述する工程においてアルミナが形成されるようなアルミニウム化合物、例えば、ベーマイト、水酸化アルミニウム、バイヤライト等を使用してもよい。各触媒層形成用スラリーに含まれる銀元素源や担体の混合比率を異ならせることにより、第1領域11~第4領域14の触媒層31~34におけるAgの担持量をそれぞれ調整することができる。
【0047】
一例においては、後述する工程においてアルミナが形成されるようなアルミニウム化合物として、アルコキシド法によって製造されたベーマイトを用意する。かかるアルコキシド法によって製造されたベーマイトは、以下の手順によって製造することができる。まず、アルミニウムアルコキシド(例えば、アルミニウムトリエトキシド、アルミニウムトリn-プロポキシド、アルミニウムトリイソプロポキシド、アルミニウムトリn-ブトキシド、アルミニウムトリイソブトキシド等)と、疎水性溶媒(例えば、ベンゼン、シクロヘキサン、トルエン、クロロホルム、四塩化炭素、1,2-ジクロロエタン等)と、を用意する。当該溶媒中にアルミニウムアルコキシドと、水とをそれぞれ連続的に供給しながら撹拌する。溶媒中では、アルコキシドと水とが反応して、アルコキシドが加水分解される。これにより、加水分解生成物として、ベーマイト(アルミナ1水和物、AlOOH)を析出させることができる。そして、析出したベーマイトを溶媒中から分離し、乾燥させることで、アルコキシド法によって製造されたベーマイトを得ることができる。なお、ベーマイトは、アルコキシド法によって製造されたものであれば、市販品を購入してもよい。
【0048】
他の一例として、触媒層形成用スラリーは、必須の成分である銀元素源と、金属酸化物と、に加えて、各種金属元素を含んでいてもよい。例えば、Zn元素を含む添加物を添加するとよい。Znを添加する際には、硝酸亜鉛(Zn(NO)、塩化亜鉛(ZnCl)、硫酸亜鉛(ZnSO)等を用いることができる。
【0049】
各領域の触媒層の形成は、従来使用されている方法、例えば含侵法やウォッシュコート法等で行うことができる。一例では、上記調整した第1領域触媒層形成用スラリーを、第1領域11のハニカム型の基材21の端部からセル16に流入させ、筒軸方向Xに沿って所定の長さまで供給する。スラリーは、流入口10aと流出口10bのいずれから流入させてもよい。このとき、余分なスラリーをセル16から排出させてもよい。次いで、スラリーを供給した第1領域11のハニカム型の基材21を、所定の温度で乾燥、焼成することにより、第1領域11の基材21の隔壁18の表面に所望の性状の触媒層31を形成することができる。乾燥は、例えば、200℃~300℃程度の温度で、30分~2時間程度行うとよい。また、焼成は、酸素含有雰囲気下(例えば大気中)で、焼成温度が概ね450℃~1000℃程度、例えば500℃~700℃で行うとよい。これにより、ハニカム触媒化された第1領域11を得ることができる。同様にして、ハニカム触媒化された第2領域12~第4領域14を作製することができる。これらハニカム触媒化された第1領域11~第4領域14を連結させることにより、第1領域11~第4領域14を有する第2触媒10を得ることができる。
【0050】
排ガス浄化用触媒は、自動車やトラック等の車両や、自動二輪車や原動機付き自転車をはじめとして、船舶、タンカー、水上バイク、パーソナルウォータークラフト、船外機などのマリン用製品、草刈機、チェーンソー、トリマーなどのガーデニング用製品、ゴルフカート、四輪バギーなどのレジャー用製品、コージェネレーションシステムなどの発電設備、ゴミ焼却炉などの内燃機関から排出される排ガスの浄化に好適に用いることができる。なかでも、小型~中型のトラックに対して好適に用いることができる。
【0051】
以下、本発明に関する試験例を説明するが、本発明を以下の試験例に示すものに限定することを意図したものではない。
【0052】
<第1の試験>
第1領域~第4領域を有する排ガス浄化用触媒において、各領域の触媒層におけるAgの担持量(g/L)を異ならせたときに、低温環境下および高温環境下におけるNO浄化性能に及ぼす影響を確認するため、触媒A~触媒Dを作製し、以下の試験を行った。なお、触媒A~触媒Dのコート量は同じ量とした。
【0053】
1.触媒A~Dの作製
(1)触媒Aの作製
まず、硝酸銀(Agとして4.8g)と、硝酸亜鉛(Znとして9.6g)と、アルコキシド法で製造されたベーマイト(γ-アルミナとして224.8g)と、を混合して、触媒層形成用スラリーを調整した。この触媒層形成用スラリーを、基材としてのモノリスハニカム型の多孔質のストレートフロー基材(φ30mm×長さ125mm)の端部からセル内に導入して、隔壁の全長と同じ長さで、基材の表面にコートした。このときのコート量は240g/Lとした。そして、触媒層形成用スラリーをコートした基材を、250℃で1時間乾燥させた後、500℃で1時間焼成することによって触媒層を形成し、ハニカム触媒化した触媒Aを得た。なお、触媒Aの最終的な組成比は、当該触媒Aの触媒層全体を100wt%としたときにAgが2wt%、Znが4wt%、その他がアルミナである。
【0054】
(2)触媒Bの作製
まず、硝酸銀(Agとして7.2g)と、硝酸亜鉛(Znとして9.6g)と、アルコキシド法で製造されたベーマイト(γ-アルミナとして222.4g)と、を混合して、スラリーを調整したこと以外は、上記触媒Aと同様にして触媒層を形成し、ハニカム触媒化した触媒Bを得た。このときの触媒Bのコート量は240g/Lとした。なお、触媒Bの最終的な組成比は、当該触媒層Bの触媒層全体を100wt%としたときにAgが3wt%、Znが4wt%、その他がアルミナである。
【0055】
(3)触媒Cの作製
硝酸銀(Agとして9.6g)と、硝酸亜鉛(Znとして9.6g)と、アルコキシド法で製造されたベーマイト(γ-アルミナとして220g)と、を混合して、スラリーを調整したこと以外は、上記触媒Aと同様にして触媒層を形成し、ハニカム触媒化した触媒Cを得た。このときの触媒Cのコート量は240g/Lとした。なお、触媒Cの最終的な組成比は、当該触媒Cの触媒層全体を100wt%としたときにAgが4wt%、Znが4wt%、その他がアルミナである。
【0056】
(4)触媒Dの作製
硝酸銀(Agとして12.0g)と、硝酸亜鉛(Znとして9.6g)と、アルコキシド法で製造されたベーマイト(γ-アルミナとして217.6g)と、を混合して、スラリーを調整したこと以外は、上記触媒Aと同様にして、ハニカム触媒化した触媒Dを得た。このときの触媒Dのコート量は240g/Lとした。なお、触媒Dの最終的な組成比は、当該触媒Dの触媒層全体を100wt%としたときにAgが5wt%、Znが4wt%、その他がアルミナである。
【0057】
2.各試験例の作製
次いで、上記作製した触媒A~Dを用いて、表1に示すように各試験例を作製した。各試験例は、排ガスの流動方向の上流側から第1領域、第2領域、第3領域、第4領域とする。試験例1個あたりの触媒体積は0.035Lとした。また、各試験例1個あたりにおける触媒金属としてのAgの担持量(g/L)が同じとなるように調整した。なお、表1中のAgの重量比率(wt%)は、各領域の各触媒層全体を100wt%としたときのAgの重量比率(wt%)を示す。
【0058】
(1)実施例1の作製
実施例1では、第1領域として上記作製した触媒B(触媒Bの触媒層全体を100wt%としたときにAgの重量比率が3wt%)、第2領域として上記作製した触媒C(触媒Cの触媒層全体を100wt%としたときにAgの重量比率が4wt%)、第3領域として上記作製した触媒B、第4領域として上記作製した触媒Cを用いた。
【0059】
(2)比較例1の作製
比較例1では、第1領域として上記作製した触媒C、第2領域として上記作製した触媒B、第3領域として上記作製した触媒C、第4領域として上記作製した触媒Bを用いた。
【0060】
(3)比較例2の作製
比較例2では、第1領域として上記作製した触媒B、第2領域として上記作製した触媒B、第3領域として上記作製した触媒C、第4領域として上記作製した触媒Cを用いた。
【0061】
(4)比較例3の作製
比較例3では、第1領域として上記作製した触媒A(触媒Aの触媒層全体を100wt%としたときにAgが2wt%)、第2領域として上記作製した触媒A、第3領域として上記作製した触媒D(触媒Dの触媒層全体を100wt%としたときにAgの重量比率が5wt%)、第4領域として触媒Dを用いた。
【0062】
(5)比較例4の作製
比較例2では、第1領域として上記作製した触媒C、第2領域として上記作製した触媒C、第3領域として上記作製した触媒B、第4領域として上記作製した触媒Bを用いた。
【0063】
3.評価試験
(1)モデルガスを用いたNO浄化性能の測定
上記作製した各試験例について、低温環境下および高温環境下におけるNO浄化性能を評価するために、280℃および450℃におけるNO浄化性能を測定した。具体的には、まず、内燃機関としてディーゼルエンジンを使用した試験用の排ガス発生装置を用意し、ディーゼルエンジンの排気経路に上記作製した各試験例(実施例1、比較例1~4)を接続し、モデルガス(NO=300ppm、O=10%、CO=5%、N=残部)を供給した。SV(空間速度)は、63000h-1とした。また、各試験例の第1領域よりも上流側で、還元剤として気化させた軽油を2000ppmCの濃度で噴霧した。そして、各試験例の第1領域~第4領域が280℃の低温条件で、第4領域よりも下流側におけるモデルガスの低温環境下におけるNO浄化率(%)を算出した。NO浄化率(%)は、触媒に流入するモデルガスのNO濃度P1と、触媒から流出するモデルガスのNO濃度P2とを測定し、次式:NO浄化率(%)=[(P1-P2)/P1]×100;により算出した。そして、低温環境下における比較例1のNO浄化率(%)を「1」としたときの各試験例の値を表1に示す。また、各試験例の第1領域~第4領域が450℃の高温条件で、同様にして第4領域よりも下流側におけるモデルガスの高温環境下におけるNO浄化率(%)を算出した。高温環境下における比較例1のNO浄化率(%)を「1」としたときの各試験例の値を表1に示す。
【0064】
【表1】
【0065】
表1に示すように、実施例1の排ガス浄化用触媒は、比較例1~比較例4の排ガス浄化用触媒と比べて、高温環境下(450℃)におけるNO浄化率の比が大きいことがわかる。これは、第3領域の触媒層におけるAgの担持量が、第2領域および第4領域の触媒層におけるAgの担持量よりも少ないため、Agの担持量が多い第2領域において過酸化状態となった燃料を、Agの担持量が少ない第3領域において部分酸化物とすることができ、さらに、第1領域および第2領域を流動した際には液状で存在していた燃料が、第3領域および第4領域を流動する際には気化されており、還元剤として機能する部分酸化物の生成量が増加させることができたため、NO浄化性能が向上したと推測される。
したがって、第3領域の触媒層におけるAgの担持量が、第2領域および第4領域の触媒層におけるAgの担持量よりも少ないことにより、低温環境下および高温環境下におけるNO浄化性能を向上させることができる。
【0066】
<第2の試験>
次いで、各試験例1個あたりにおける触媒金属としてのAgの担持量(g/L)が異なる場合にも、上記第1の試験のような効果が発揮されるか確認するために、以下の試験を行った。
【0067】
1.各試験例の作製
第1の試験において作製した触媒A~Dを用いて、表2に示すように各試験例を作製した。各試験例は、排ガスの流動方向の上流側から第1領域、第2領域、第3領域、第4領域とする。各試験例1個あたりの触媒体積は0.035Lとした。また、実施例2と比較例5が試験例1個あたりにおけるAgの担持量(g/L)が同じとなるように調整し、実施例3と比較例6が試験例1個あたりにおけるAgの担持量(g/L)が同じとなるように調整した。なお、表2中のAgの重量比率(wt%)は、各領域の各触媒層全体を100wt%としたときのAgの重量比率(wt%)を示す。
【0068】
(1)実施例2の作製
実施例2では、第1領域として上記作製した触媒C、第2領域として上記作製した触媒D、第3領域として上記作製した触媒C、第4領域として上記作製した触媒Dを用いた。
【0069】
(2)実施例3の作製
実施例3では、第1領域として上記作製した触媒A、第2領域として上記作製した触媒C、第3領域として上記作製した触媒A、第4領域として上記作製した触媒Cを用いた。
【0070】
(3)比較例5の作製
比較例5では、第1領域として上記作製した触媒D、第2領域として上記作製した触媒C、第3領域として上記作製した触媒D、第4領域として上記作製した触媒Cを用いた。
【0071】
(4)比較例6の作製
比較例6では、第1領域として上記作製した触媒C、第2領域として上記作製した触媒A、第3領域として上記作製した触媒C、第4領域として上記作製した触媒Aを用いた。
【0072】
2.評価試験
(1)モデルガスを用いたNO浄化性能の測定
上記作製した各試験例について、低温環境下および高温環境下におけるNO浄化性能を評価するために、280℃および450℃におけるNO浄化性能を上述した方法と同様にして測定した。結果を表2に示す。なお、表2には、比較のために実施例1および比較例1の結果も掲載している。また、表2の実施例1の低温環境下および高温環境下におけるNO浄化率の比の値は、比較例1の低温環境下および高温環境下におけるNO浄化率(%)を「1」としたときの値である。実施例2の低温環境下および高温環境下におけるNO浄化率の比の値は、比較例5の低温環境下および高温環境下におけるNO浄化率(%)を「1」としたときの値である。また、実施例3の低温環境下および高温環境下におけるNO浄化率の比の値は、比較例6の低温環境下および高温環境下におけるNO浄化率(%)を「1」としたときの値である。
【0073】
【表2】
【0074】
表2に示すように、実施例2の排ガス浄化用触媒は、比較例5の排ガス浄化用触媒と比べて、相対的に高温環境下(450℃)におけるNO浄化率の比が大きいことがわかる。また、実施例3の排ガス浄化用触媒は、比較例6の排ガス浄化用触媒と比べて、相対的に低温環境下(280℃)におけるNO浄化率の比がやや小さいものの、高温環境下(450℃)におけるNO浄化率の比は大きいことがわかる。
したがって、第2の試験においても、第3領域の触媒層におけるAgの担持量が、第2領域および第4領域の触媒層におけるAgの担持量よりも少ないことにより、低温環境下におけるNO浄化性能を著しく低減させることなく、高温環境下におけるNO浄化性能を向上させることができることがわかる。
【0075】
以上、本発明のいくつかの実施形態について説明したが、上記実施形態は一例に過ぎない。本発明は、他にも種々の形態にて実施することができる。本発明は、本明細書に開示されている内容と当該分野における技術常識とに基づいて実施することができる。請求の範囲に記載の技術には、上記に例示した実施形態を様々に変形、変更したものが含まれる。例えば、上記した実施形態の一部を、他の変形態様に置き換えることも可能であり、上記した実施形態に他の変形態様を追加することも可能である。また、その技術的特徴が必須なものとして説明されていなければ、適宜削除することも可能である。
【符号の説明】
【0076】
1 排ガス浄化システム
2 内燃機関
3 排ガス浄化装置
6 燃料供給機構
10 第2触媒(排ガス浄化用触媒)
11 第1領域
12 第2領域
13 第3領域
14 第4領域
16 セル
18 隔壁
21~24 基材
31~34 触媒層
図1
図2
図3