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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023104345
(43)【公開日】2023-07-28
(54)【発明の名称】異物付着抑制剤
(51)【国際特許分類】
   C09K 3/00 20060101AFI20230721BHJP
   C08F 265/06 20060101ALI20230721BHJP
   A61K 8/81 20060101ALI20230721BHJP
   A61L 31/10 20060101ALI20230721BHJP
【FI】
C09K3/00 R
C08F265/06
A61K8/81
A61L31/10
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022005272
(22)【出願日】2022-01-17
(71)【出願人】
【識別番号】000002901
【氏名又は名称】株式会社ダイセル
(74)【代理人】
【識別番号】110002239
【氏名又は名称】弁理士法人G-chemical
(72)【発明者】
【氏名】清水 邦雄
(72)【発明者】
【氏名】浅田 健史
(72)【発明者】
【氏名】加賀 彬
【テーマコード(参考)】
4C081
4C083
4J026
【Fターム(参考)】
4C081AC16
4C081BA14
4C081CA082
4C081CC01
4C081DC03
4C081EA06
4C083AD091
4C083AD092
4C083CC01
4C083FF01
4J026AA48
4J026BB02
4J026DA02
4J026DA08
4J026DA20
4J026DB02
4J026DB12
4J026EA05
4J026FA06
4J026GA01
(57)【要約】      (修正有)
【課題】異物に対して優れた付着抑制効果を有する異物付着抑制剤を提供する。
【解決手段】末端水酸基含有(ポリ)C1-5アルキレングリコールモノ(メタ)アクリレート、グリセリンモノ(メタ)アクリル酸エステルモノC1-5アルキルエーテルの様な、特定の構成単位を有する親水性ポリマーアームAと、(メタ)アクリル酸C1-18アルキルエステルの様な、特定の構成単位を有する疎水性ポリマーアームBと、を同一分子内に有する星形ポリマーを含有する、異物付着抑制剤である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記星形ポリマーを含有する、異物付着抑制剤。
星形ポリマー:下記式(1)で表される構成単位を有する親水性ポリマーアームAと、下記式(2)で表される構成単位を有する疎水性ポリマーアームBと、を同一分子内に有する星形ポリマー
【化1】
(式(1)中、nは1以上の整数を示す。n個のR1は、同一又は異なって、置換基を有していても良い炭素数1~5のアルキレン基を示す。R2は水素原子又はメチル基を示す。但し、n=1の場合、R1は、置換基として酸素含有基を有する炭素数1~5のアルキレン基である)
【化2】
(式(2)中、R3は炭素数1~18のアルキル基を示し、R4は水素原子又はメチル基を示す)
【請求項2】
前記親水性ポリマーアームAと前記疎水性ポリマーアームBのモル比(前者/後者)が50/50~90/10である、請求項1に記載の異物付着抑制剤。
【請求項3】
前記星形ポリマーのGPCによるポリスチレン換算数平均分子量が1万~50万である、請求項1又は2に記載の異物付着抑制剤。
【請求項4】
前記星形ポリマーのGPCによるポリスチレン換算分子量分布(Mw/Mn)が1.1~1.5である、請求項1~3の何れか1項に記載の異物付着抑制剤。
【請求項5】
前記親水性ポリマーアームAのポリスチレン換算数平均分子量が5千~10万である、請求項1~4の何れか1項に記載の異物付着抑制剤。
【請求項6】
前記疎水性ポリマーアームBのポリスチレン換算数平均分子量が5千~10万である、請求項1~5の何れか1項に記載の異物付着抑制剤。
【請求項7】
前記星形ポリマーが下記特性を有する星形ポリマーである、請求項1~6の何れか1項に記載の異物付着抑制剤。
特性:
前記星形ポリマーのメタノール溶液(星形ポリマー濃度:1重量%)をポリスチレンシートに塗布、乾燥して得られたコート面への、25℃、60%RH条件下における超純水の接触角が50度以下である。
【請求項8】
繊維製品用異物付着抑制剤である、請求項1~7の何れか1項に記載の異物付着抑制剤。
【請求項9】
プラスチック製、セラミック製、ガラス製、若しくは金属製物品用の異物付着抑制剤である、請求項1~7の何れか1項に記載の異物付着抑制剤。
【請求項10】
請求項1~7の何れか1項に記載の異物付着抑制剤を含むコート層を表面に有する医療用材料又は機器。
【請求項11】
請求項1~7の何れか1項に記載の異物付着抑制剤を含むコート層を表面に有する繊維製、プラスチック製、セラミック製、ガラス製、又は金属製物品。
【請求項12】
請求項1~7の何れか1項に記載の異物付着抑制剤を含む化粧品材料。
【請求項13】
請求項12記載の化粧品材料を含有する化粧品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、異物付着抑制剤、前記異物付着抑制剤を含むコート層を表面に有する医療用材料、医療機器、及び前記異物付着抑制剤を含む化粧品材料若しくは化粧品に関する。
【背景技術】
【0002】
医療用材料や医療機器に異物(血液・唾液・体液成分、細菌、ウィルス等の異物)が付着していると、感染やアレルギー反応が引き起こされる場合がある。また、人工心臓弁に血液成分等が付着すると、血栓の原因となりやすい。そのため、医療用材料や医療機器には、安全且つ質の高い医療を提供する観点から、異物の付着を防止することが求められている。
【0003】
また、ヒトの肌に、花粉、PM2.5、煙成分等が付着すると、アレルギー等の疾患を引き起こしたり、不快な臭いを発する場合がある。そのため、これらが肌に付着するのを防止する効果を有する化粧品が求められている。
【0004】
特許文献1には、血小板、バクテリア、タンパク質等の付着を抑制する効果を有するポリマーとして、親水性ポリマーアームであるポリ(メタクリル酸ヒドロキシエチル)と、疎水性ポリマーアームであるポリ(メタクリル酸ブチル)等を同一分子内に有する星形ポリマーが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2018-28029号公報
【特許文献2】特開2021-185980号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、特許文献1に記載の星形ポリマーでは、微粒子や有機物等の異物付着抑制効果は未だ不十分であった。
【0007】
従って、本開示の目的は、異物に対して優れた付着抑制効果を有する異物付着抑制剤を提供することにある。
本開示の他の目的は、前記異物付着抑制剤を含むコート層を表面に有する医療用材料、医療機器を提供することにある。
本開示の他の目的は、前記異物付着抑制剤を含むコート層を表面に有するプラスチック製、セラミック製、ガラス製、又は金属製物品を提供することにある。
本開示の他の目的は、前記異物付着抑制剤を含む化粧品材料及び化粧品を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者等は、上記課題を解決するため鋭意検討した結果、親水性ポリマーアームAと疎水性ポリマーアームBとを有する星形ポリマーにおいて、親水性ポリマーアームAとして下記式(1)で表される構成単位を有するポリマーを有する星形ポリマーによれば、異物が付着するのを防止する効果に優れることを見出した。本開示に係る発明はこれらの知見に基づき、さらに検討を重ねて完成させたものである。
【0009】
すなわち、本開示は、下記星形ポリマーを含有する異物付着抑制剤を提供する。
星形ポリマー:下記式(1)で表される構成単位を有する親水性ポリマーアームAと、下記式(2)で表される構成単位を有する疎水性ポリマーアームBと、を同一分子内に有する星形ポリマー
【化1】
(式(1)中、nは1以上の整数を示す。n個のR1は、同一又は異なって、置換基を有していても良い炭素数1~5のアルキレン基を示す。R2は水素原子又はメチル基を示す。但し、n=1の場合、R1は、置換基として酸素含有基を有する炭素数1~5のアルキレン基である)
【化2】
(式(2)中、R3は炭素数1~18のアルキル基を示し、R4は水素原子又はメチル基を示す)
【0010】
本開示は、また、前記親水性ポリマーアームAと前記疎水性ポリマーアームBのモル比(前者/後者)が50/50~90/10である前記異物付着抑制剤を提供する。
【0011】
本開示は、また、前記星形ポリマーのGPCによるポリスチレン換算数平均分子量が1万~50万である前記異物付着抑制剤を提供する。
【0012】
本開示は、また、前記星形ポリマーのGPCによるポリスチレン換算分子量分布(Mw/Mn)が1.1~1.5である前記異物付着抑制剤を提供する。
【0013】
本開示は、また、前記親水性ポリマーアームAのポリスチレン換算数平均分子量が5千~10万である前記異物付着抑制剤を提供する。
【0014】
本開示は、また、前記疎水性ポリマーアームBのポリスチレン換算数平均分子量が5千~10万である前記異物付着抑制剤を提供する。
【0015】
本開示は、また、前記星形ポリマーが下記特性を有する星形ポリマーである前記異物付着抑制剤を提供する。
特性:
前記星形ポリマーのメタノール溶液(星形ポリマー濃度:1重量%)をポリスチレンシートに塗布、乾燥して得られたコート面への、25℃、60%RH条件下における超純水の接触角が50度以下である。
【0016】
本開示は、また、繊維製品用異物付着抑制剤である前記異物付着抑制剤を提供する。
【0017】
本開示は、また、プラスチック製、セラミック製、ガラス製、若しくは金属製物品用の異物付着抑制剤である前記異物付着抑制剤を提供する。
【0018】
本開示は、また、前記異物付着抑制剤を含むコート層を表面に有する医療用材料又は機器を提供する。
【0019】
本開示は、また、前記異物付着抑制剤を含むコート層を表面に有する繊維製、プラスチック製、セラミック製、ガラス製、又は金属製物品を提供する。
【0020】
本開示は、また、前記異物付着抑制剤を含む化粧品材料を提供する。
【0021】
本開示は、また、前記化粧品材料を含有する化粧品を提供する。
【発明の効果】
【0022】
本開示の異物付着抑制剤を部材表面に噴霧或いは塗布すると、タンパク質や花粉等の微粒子や有機物などが部材表面に付着するのを高度に抑制することができる。
そのため、前記異物付着抑制剤で表面をコートした医療用材料又は機器を用いれば、感染やアレルギー反応のリスクを低減することができ、安全且つ質の高い医療を提供することができる。
更に、前記異物付着抑制剤を含む化粧品を使用すれば、肌に塗布するだけで、花粉などの微粒子が肌に付着するのを防止することができ、微粒子によって引き起こされる種々の症状(例えば、花粉症)を軽減又は解消することができる。
【発明を実施するための形態】
【0023】
[異物付着抑制剤]
本開示の異物付着抑制剤は、異物の付着を抑制する効果を有するものであり、少なくとも下記星形ポリマーを含む。
【0024】
前記異物には、例えば、微粒子や有機物等の疎水性の異物が含まれる。
【0025】
また、前記微粒子には、例えば、花粉、ハウスダスト等のアレルゲン、PM2.5、黄砂、アスベスト等の、空気中に浮遊している微小な粒子全般が含まれる。
【0026】
前記前記有機物には、例えば、血液成分、唾液成分、体液成分、タンパク質、バクテリア、細菌、ウィルス等が含まれる。
【0027】
(星形ポリマー)
星形ポリマーは、中央のコアから複数のポリマーアームが、放射状に結合した分岐高分子である。本開示の異物付着抑制剤が含有する星形ポリマーは、下記式(1)で表される構成単位を有する親水性ポリマーアームAと、下記式(2)で表される構成単位を有する疎水性ポリマーアームBとを有する。
【化3】
(式(1)中、nは1以上の整数を示す。n個のR1は、同一又は異なって、置換基を有していても良い炭素数1~5のアルキレン基を示す。R2は水素原子又はメチル基を示す但し、n=1の場合、R1は、置換基として酸素含有基を有する炭素数1~5のアルキレン基である)
【化4】
(式(2)中、R3は炭素数1~18のアルキル基を示し、R4は水素原子又はメチル基を示す)
【0028】
式(1)中、nは1以上の整数を示し、例えば1~18の整数である。前記範囲の上限値は、好ましくは12、特に好ましくは10、最も好ましくは8である。前記範囲の下限値は、好ましくは2、特に好ましくは3、最も好ましくは4である。
【0029】
1における炭素数1~5のアルキレン基としては、例えば、メチレン基、メチルメチレン基、ジメチルメチレン基、エチレン基、プロピレン基、トリメチレン基、テトラメチレン基、ペンタメチレン基等の直鎖又は分岐鎖状のアルキレン基が挙げられる。R1としては、親水性に特に優れる点で、炭素数2~4のアルキレン基が特に好ましく、炭素数2~3のアルキレン基が最も好ましい。
【0030】
前記炭素数1~5のアルキレン基が有していても良い置換基としては、例えば、ヒドロキシル基、置換オキシ基(例えば、C1-5アルコキシ基、C6-10アリールオキシ基、C7-11アラルキルオキシ基、C1-5アシルオキシ基等)等の酸素含有基が挙げられる。
【0031】
3における炭素数1~18のアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、s-ブチル基、t-ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、デシル基、ドデシル基等の直鎖又は分岐鎖状アルキル基が挙げられる。R3の炭素数は、なかでも炭素数1~5のアルキル基が好ましい。
【0032】
本開示の星形ポリマーの親水性ポリマーアームAと疎水性ポリマーアームBのモル比(前者/後者)は、例えば50/50~90/10、好ましくは60/40~85/15、更に好ましくは65/35~85/15、特に好ましくは70/30~85/15、最も好ましくは75/25~85/15である。親水性ポリマーアームAの結合量が前記範囲を下回ると、異物付着抑制効果が低下する傾向がある。一方、疎水性ポリマーアームBの結合量が前記範囲を下回ると、部材表面への密着性が低下して、異物付着効果が低下する傾向がある。なお、星形ポリマーにおける前記親水性ポリマーアームAのポリマーに対する前記疎水性ポリマーアームBのポリマーの割合は、例えば1H-NMRスペクトルにより求めることができる。
【0033】
前記親水性ポリマーアームAの数平均分子量(Mn)は、例えば5千~10万である。前記数平均分子量の下限値は、好ましくは1万である。前記数平均分子量の上限値は、好ましくは7万、より好ましくは5万、更に好ましくは4万、特に好ましくは3万、最も好ましくは2.5万である。また、分子量分布(Mw/Mn)は、例えば1.1~1.5である。
【0034】
前記疎水性ポリマーアームBの数平均分子量(Mn)は、例えば5千~10万である。前記数平均分子量の上限値は、好ましくは5万、より好ましくは3万、更に好ましくは2.5万、特に好ましくは2万、最も好ましくは1.5万である。前記数平均分子量の下限値は、好ましくは7千である。また、分子量分布(Mw/Mn)は、例えば1.1~1.5である。
【0035】
星形ポリマーの数平均分子量(Mn)は、例えば1万~50万である。前記数平均分子量の下限値は、好ましくは3万、更に好ましくは4万、特に好ましくは4.5万、最も好ましくは5万である。前記数平均分子量の上限値は、好ましくは30万、より好ましくは20万、更に好ましくは9万、特に好ましくは8万、最も好ましくは7.5万である。また、分子量分布(Mw/Mn)は、例えば1.1~1.5である。
【0036】
前記数平均分子量及び分子量分布は、GPCを用いて、ポリスチレン換算として測定することができる。
【0037】
前記星形ポリマーは、部材の疎水性表面に親水性層を形成する効果を有する。そして、前記星型ポリマーのメタノール溶液(星形ポリマー濃度:1重量%)0.12mLを、ポリスチレンシート(3cm×3cm×0.25cm)に塗布、乾燥して得られたコート面を水平に静置し、ここに、25℃、60%RH条件下で超純水の水滴を接触させ、前記水滴表面とポリスチレンシート表面との成す角を測定した場合、超純水の接触角は、例えば50度以下、好ましくは45度以下、特に好ましくは40度以下である。
【0038】
(星形ポリマーの製造方法)
前記星形ポリマーは、例えばリビングラジカル重合法により合成できる。リビングラジカル重合法には、ニトロキシド媒介重合法(NMP重合法)、原子移動ラジカル重合法(ATRP重合法)、及び可逆的付加-開裂型連鎖移動重合法(RAFT重合法)が含まれる。前記方法のなかでも、RAFT法を用いることが、分子量分布の狭い星形ポリマーを、分子量を制御しつつ合成できる点で好ましい。
【0039】
RAFT重合法による前記星形ポリマーの製造方法は、例えば下記工程1~3を含む。
工程1:下記式(a)
【化5】
(式(a)中、R1、R2、nは前記式(1)中のR1、R2、nに同じ)
で表される化合物を、RAFT剤(若しくは、連鎖移動剤)及びラジカル重合開始剤の存在下、通常溶剤中でRAFT重合に付して、上記式(1)で表される構成単位を有し、末端に反応性を有するポリマーa(以後、「反応性ポリマーa」と称する場合がある)を得る。
工程2:下記式(b)
【化6】
(式(b)中、R3、R4は前記式(2)中のR3、R4に同じ)
で表される化合物を、RAFT剤及びラジカル重合開始剤の存在下、通常溶剤中でRAFT重合に付して、上記式(2)で表される構成単位を有し、末端に反応性を有するポリマーb(以後、「反応性ポリマーb」と称する場合がある)を得る。
工程3:工程1,2で得られた反応性ポリマーaと反応性ポリマーbを、架橋剤及びラジカル重合開始剤の存在下、通常溶剤中でRAFT重合に付して、前記星形ポリマーを得る。
【0040】
(工程1)
工程1は、重合性化合物(或いは、モノマー)である上記式(a)で表される化合物をRAFT重合に付して、反応性ポリマーaを得る工程である。前記RAFT重合反応は、RAFT剤及びラジカル重合開始剤の存在下、通常溶剤中にて行われる。
【0041】
上記式(a)で表される化合物としては、例えば、ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、(ポリ)エチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、(ポリ)プロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート、(ポリ)エチレングリコール(ポリ)プロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート(=(ポリ)オキシエチレン(ポリ)オキシプロピレンモノ(メタ)アクリレート)、(ポリ)エチレングリコール(ポリ)ブチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、(ポリ)プロピレングリコール(ポリ)ブチレングリコールモノ(メタ)アクリレート等の末端水酸基含有(ポリ)C1-5アルキレングリコールモノ(メタ)アクリレート;グリセリンモノ(メタ)アクリレート;グリセリンモノ(メタ)アクリル酸エステルモノC1-5アルキルエーテル等が挙げられる。これらは1種を単独で、又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0042】
前記RAFT剤には、ジチオベンゾエート型、トリチオカルボネート型、ジチオカルバマート型、及びジチオカルボナート型が含まれる。なかでも、式(a)で表される化合物等の共役モノマーのリビングラジカル重合反応を効率よく促進することができる点で、ジチオベンゾアート型、又はトリチオカルボネート型が好ましい。これらは1種を単独で、又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0043】
ジチオベンゾエート型RAFT剤としては、例えば、ベンゾジチオ酸2-シアノプロパン-2-イル、4-シアノ-4-[(チオベンゾイル)スルファニル]ペンタン酸等が挙げられる。
【0044】
トリチオカルボネート型RAFT剤としては、例えば、4-シアノ-4-[(ドデシルスルファニルチオカルボニル)スルファニル]ペンタン酸、2-シアノ-2-[(ドデシルスルファニルチオカルボニル)スルファニル]プロパン、S,S-ジベンジルトリチオ炭酸、4-シアノ-4-[(ドデシルスルファニルチオカルボニル)スルファニル]ペンタン酸メチル等が挙げられる。
【0045】
重合性化合物の使用量(2種以上を含有する場合はその合計使用量)と前記RAFT剤の使用量の比([重合性化合物]/[RAFT剤]:モル比)は、例えば10~500である。前記比を、前記範囲内で調整することで、得られる反応性ポリマーaの重合度をコントロールすることができる。そして、前記比を小さくすると、得られる反応性ポリマーaの重合度が小さくなり、前記比を大きくすると、得られる反応性ポリマーaの重合度が大きくなる傾向がある。前記比が10を下回ると、星形ポリマーの異物付着抑制効果が低下する傾向があり、前記比が500を上回ると、増粘により製造効率が低下する傾向がある。
【0046】
前記ラジカル重合開始剤としては、例えば、アゾ化合物や有機過酸化物類を挙げることができる。
【0047】
前記アゾ化合物としては、例えば、アゾビスイソブチロニトリル、2,2’-アゾビス(イソ酪酸)ジメチル、4,4’-アゾビス(4-シアノ吉草酸)、1,1’-アゾビス(シクロヘキサン-1-カルボニトリル)、2,2’-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)、2,2’-アゾビス(2-メチルブチロニトリル)、2,2’-アゾビス(4-メトキシ-2,4-ジメチルバレロニトリル)等が挙げられる。これらは1種を単独で、又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0048】
前記有機過酸化物類としては、例えば、ハイドロパーオキサイド、ジアルキルパーオキサイド、パーオキシエステル、ジアシルパーオキサイド、パーオキシジカーボネート、パーオキシケタール、ケトンパーオキサイド等(具体的には、ベンゾイルパーオキサイド、t-ブチルパーオキシ-2-エチルヘキサノエート、2,5-ジメチル-2,5-ジ(2-エチルヘキサノイル)パーオキシヘキサン、t-ブチルパーオキシベンゾエート、t-ブチルパーオキサイド、クメンハイドロパーオキサイド、ジクミルパーオキサイド、ジ-t-ブチルパーオキサイド、2,5-ジメチル-2,5-ジブチルパーオキシヘキサン、2,4-ジクロロベンゾイルパーオキサイド、1,4-ジ(2-t-ブチルパーオキシイソプロピル)ベンゼン、1,1-ビス(t-ブチルパーオキシ)-3,3,5-トリメチルシクロヘキサン、メチルエチルケトンパーオキサイド、1,1,3,3-テトラメチルブチルパーオキシ-2-エチルヘキサノエート等)が含まれる。これらは1種を単独で、又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0049】
また、前記ラジカル重合開始剤の使用量は、RAFT剤の使用量の、例えば0.5モル倍以下である。前記ラジカル重合開始剤の使用量の下限値は、重合性化合物中に含まれる重合禁止剤や不純物の影響を受けずにラジカル重合が開始される量が下限値となるが、RAFT剤の使用量の、例えば0.001モル倍である。
【0050】
前記溶剤としては、反応に不活性な溶剤であればよく、例えば、トルエン、キシレン、ベンゼン、エチルベンゼンなどの芳香族炭化水素;シクロヘキサノン、2-ヘプタノン、メチルエチルケトン、アセトン等のケトン;メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール等のアルコール;1-メトキシ-2-プロパノール、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、1-メトキシ-2-プロピルアセテート等のグリコールエーテル及びそのエステル;酢酸エチル、乳酸メチル、乳酸エチル等のエステル;N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、N-メチルピロリドン等のアミドが挙げられる。これらは1種を単独で、又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0051】
前記溶媒の使用量としては、重合性化合物(2種以上を含有する場合はその総量)に対して、例えば0.1~10重量倍である。
【0052】
反応温度は、適宜設定できるが、例えば40~150℃、好ましくは50~110℃である。リビング重合は、アルゴン、窒素などの不活性ガス雰囲気下で行うことが好ましい。重合反応は、例えば、氷冷等により温度を下げることで反応を停止することができる。
【0053】
この反応終了後、得られた反応生成物は、一般的な、沈殿・洗浄・濾過により分離精製できる。
【0054】
この工程を経て、反応性ポリマーaが得られる。前記反応性ポリマーaの末端には前記RAFT剤が結合している。このRAFT剤は容易に外れ、それによりラジカルが生じて反応性が発現する。
【0055】
前記反応性ポリマーaの数平均分子量(Mn)は、例えば5千~10万である。前記数平均分子量の下限値は、好ましくは1万である。前記数平均分子量の上限値は、好ましくは7万、より好ましくは5万、更に好ましくは4万、特に好ましくは3万、最も好ましくは2.5万である。また、分子量分布(Mw/Mn)は、例えば1.1~1.5である。
【0056】
尚、本開示のポリマーの数平均分子量及び分子量分布は、GPCを用いて測定された、ポリスチレン換算値である。
【0057】
(工程2)
工程2は、重合性化合物(或いは、モノマー)である上記式(b)で表される化合物をRAFT重合に付して、反応性ポリマーbを得る工程である。
【0058】
上記式(b)で表される化合物としては、例えば、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸プロピル、(メタ)アクリル酸ブチル等の、(メタ)アクリル酸C1-18アルキルエステルが挙げられる。これらは1種を単独で、又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0059】
RAFT剤、ラジカル重合開始剤、及び溶剤としては、工程1と同様の例が挙げられる。また、RAFT剤、ラジカル重合開始剤、及び溶媒の使用量や、反応温度・反応雰囲気も工程1と同様である。
【0060】
この工程を経て、反応性ポリマーbが得られる。前記反応性ポリマーbの末端には前記RAFT剤が結合している。このRAFT剤は容易に外れ、それによりラジカルが生じて反応性が発現する。
【0061】
前記反応性ポリマーbの数平均分子量(Mn)は、例えば5千~10万である。前記数平均分子量の上限値は、好ましくは5万、より好ましくは3万、更に好ましくは2.5万、特に好ましくは2万、最も好ましくは1.5万である。前記数平均分子量の下限値は、好ましくは7千である。また、分子量分布(Mw/Mn)は、例えば1.1~1.5である。
【0062】
(工程3)
工程3は、反応性ポリマーaと反応性ポリマーbをRAFT重合に付して、前記星形ポリマーを得る工程である。前記RAFT重合反応は、架橋剤及びラジカル重合開始剤の存在下、通常溶剤中にて行われる。
【0063】
尚、反応性ポリマーa、反応性ポリマーbは、それぞれ1種を単独で使用しても良く、分子量や構造が異なる2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0064】
反応に付す反応性ポリマーaと反応性ポリマーbのモル比(前者/後者)は、例えば50/50~90/10、好ましくは60/40~85/15、更に好ましくは65/35~85/15、特に好ましくは70/30~85/15、最も好ましくは75/25~85/15である。前記モル比を調整することで、得られる星形ポリマーの親水性ポリマーアームAと疎水性ポリマーアームBのモル比をコントロールすることができる。
【0065】
前記架橋剤としては、リビング重合(リビングラジカル重合)の際に通常用いられる架橋剤を使用することができ、例えば、エチレングリコールジメタクリレート等の多官能(メタ)アクリレートなどのジビニル化合物が挙げられる。
【0066】
反応性ポリマーaと反応性ポリマーbの合計使用量に対する前記架橋剤の使用量の比[[架橋剤]/([反応性ポリマーa]+[反応性ポリマーb]):モル比]は、例えば1~100、好ましくは3~50、更に好ましくは5~30、特に好ましくは5~20、最も好ましくは8~15である。
【0067】
前記ラジカル重合開始剤及び溶剤としては、工程1と同様の例が挙げられる。また、反応温度・反応雰囲気も工程1と同様である。
【0068】
前記ラジカル重合開始剤の使用量は、反応性ポリマーaと反応性ポリマーbの合計使用量の0.5モル倍以下である。前記ラジカル重合開始剤の使用量の下限値は、架橋剤中に含まれる重合禁止剤や不純物の影響を受けずにラジカル重合が開始される量が下限値となるが、反応性ポリマーaと反応性ポリマーbの合計使用量の、例えば0.01モル倍である。
【0069】
前記溶媒の使用量としては、反応性ポリマーaと反応性ポリマーbと架橋剤の総和に対して、例えば0.1~99重量倍である。
【0070】
この反応終了後、得られた反応生成物は、一般的な、沈殿・洗浄・濾過により分離精製できる。この工程を経て星形ポリマーが得られる。
【0071】
(他の成分)
前記異物付着抑制剤は、星形ポリマー以外にも他の成分を含有していてもよい。他の成分としては、例えば、溶媒、界面活性剤、増粘剤、紫外線吸収剤、粉体、抗菌剤などが挙げられる。これらは1種を単独で又は2種以上を組み合わせて含有することができる。
【0072】
前記溶媒としては、星形ポリマーが有する親水性ポリマーアームA及び疎水性ポリマーアームBの種類によって適宜選択することができ、例えば、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素;塩化メチレン、クロロホルム等のハロゲン化炭化水素;メタノール、エタノール等のアルコール;テトラヒドロフラン、ジオキサン等のエーテル;アセトン、エチルメチルケトン等のケトン;酢酸エチル、酢酸ブチル等のエステル;水;これらの混合溶媒などが挙げられる。
【0073】
前記異物付着抑制剤に含まれる不揮発分全量(100重量%)において、星形ポリマーの占める割合は、例えば50重量%以上、好ましくは60重量%以上、より好ましくは70重量%以上、更に好ましくは80重量%以上、特に好ましくは90重量%以上、最も好ましくは95重量%以上である。前記割合の上限値は100重量%である。
【0074】
前記異物付着抑制剤に含まれる星形ポリマーの濃度は、星形ポリマーの溶解度、塗工性等に応じて適宜設定でき、例えば0.001~50重量%、好ましくは0.01~40重量%、より好ましくは0.02~30重量%である。
【0075】
ある部材の表面が疎水性である場合、その表面には疎水性の異物が付着しやすい。しかし、前記異物付着抑制剤は、優れた親水性のポリマーアームAと疎水性ポリマーアームBを備える、上記星形ポリマーを含有するため、疎水性異物の付着抑制効果を所望する部材の疎水性表面に前記異物付着抑制剤を塗布すれば、疎水性ポリマーアームBが前記部材表面に密着或いは吸着することにより、親水性ポリマーアームAは前記部材の表面を覆い、親水性層を形成する。そのため、疎水性の異物が部材の疎水性表面に近づき、部材表面に付着するのを防止することができる。
【0076】
前記異物付着抑制剤の、下記測定方法による水接触角は、例えば50度以下、好ましくは45度以下、特に好ましくは40度以下である。
水接触角の測定方法:
前記異物付着抑制剤を、ポリスチレンシート(3cm×3cm×0.25cm)に塗布、乾燥して得られたコート面を水平に静置し、ここに、25℃、60%RH条件下で超純水の水滴を接触させ、前記水滴表面とポリスチレンシート表面との成す角を測定する
【0077】
前記異物付着抑制剤の剤形は特に制限がなく、用途に応じて適宜選択することができるが、例えば、液状、ジェル状、粉末状、クリーム状、不織布等に含浸させたシートあるいはゲルパック状、スプレー状、泡状等である。
【0078】
前記異物付着抑制剤の適用対象としては、異物の付着抑制効果を所望する部材であれば特に制限がなく、種々の形状、種々の素材からなる部材に適用することができる。
【0079】
例えば、前記異物付着抑制剤は繊維製品に良好に付着して、繊維製品(木綿や麻等の天然植物繊維、ウールや絹等の天然動物繊維、レーヨンやキュプラ等の再生繊維、ポリエステル、ナイロン、アクリル、ポリウレタン等の合成繊維などの種々の素材から成る繊維製品であって、例えば、衣類、帽子、靴、マスク、カーテン等)に異物が付着するのを抑制することができる。そのため、例えば、繊維製品用花粉異物付着抑制剤等として好適に使用することができる。
【0080】
その他、前記異物付着抑制剤は、プラスチック製物品、セラミック製物品、ガラス製物品、金属製物品等にも良好に付着して、前記物品に異物付着抑制効果を付与することができる。そのため、前記物品用の異物付着抑制剤としても好適に使用することができる。
【0081】
前記異物付着抑制剤の適用方法としては、特に限定されないが、例えば、噴霧器、容器等を用いて前記異物付着抑制剤を噴霧或いは塗布する方法が挙げられる。前記噴霧器としては、例えば、ポンプ式や蓄圧式のトリガー式のスプレー噴霧器や、エアゾール容器等が挙げられる。
【0082】
[医療用材料又は機器]
本開示の医療用材料又は機器は、その表面に上記組成物(或いは、上記異物付着抑制剤)によるコート層を有する。
【0083】
前記医療用材料及び機器には、プラスチック製、セラミック製、ガラス製、若しくは金属の医療用材料及び機器が含まれる。前記医療用材料及び機器の具体例としては、細胞培養器、人工心臓弁、人工血管等の人工臓器、留置カテーテル、縫合糸等が挙げられる。
【0084】
前記コート層の厚みは、例えば、0.001~100μm、好ましくは0.005~50μm、より好ましくは0.01~10μmである。
【0085】
前記医療用材料及び機器は前記コート層を有するため、血液成分、唾液成分、体液成分、タンパク質、バクテリア、細菌、ウィルス等がその表面に付着するのを防止することができ、安全性及び信頼性の高い医療の提供に資する。また、人工心臓弁等の人工臓器に血液成分等が付着すると、血栓の原因となりやすいが、前記コート層を有する本開示の医療用材料及び機器によれば、血液成分等が付着するのを高度に抑制することができるので、血栓の発生を顕著に抑制することができる。
【0086】
[物品]
本開示の繊維製、プラスチック製、セラミック製、ガラス製、及び金属製物品は、その表面に上記異物付着抑制剤を含むコート層を備える。言い換えると、前記物品は、上記星形ポリマーを含むコート層を備える。
【0087】
前記物品には種々の用途に使用される物品が含まれる。また、前記物品はその形状にも特に制限がない。
【0088】
前記コート層の厚みは、例えば、0.001~100μm、好ましくは0.005~50μm、より好ましくは0.01~10μmである。
【0089】
前記物品は前記コート層を有するため、花粉、ハウスダスト等のアレルゲン、PM2.5、黄砂、アスベスト等の、空気中に浮遊している微小な粒子や、血液成分、唾液成分、体液成分、タンパク質、バクテリア、細菌、ウィルス等の有機物がその表面に付着するのを防止することができる。
【0090】
[化粧品材料、化粧品]
本開示の化粧品材料や化粧品は、上記異物付着抑制剤(或いは、上記星形ポリマー)を含む。
【0091】
前記化粧品全量における上記星形ポリマーの含有割合は、用途に応じて適宜調整することができるが、例えば0.01~90重量%である。
【0092】
前記化粧品材料や化粧品は、上記星形ポリマー以外にも通常の化粧品材料や化粧品に含まれる成分(例えば、油剤、増粘剤、多価アルコール等の保湿剤、水、紫外線防御剤、抗酸化剤、消炎剤、防腐剤、顔料、染料、色材、香料、樹脂粉末、被膜剤、金属石けん等)を含む。
【0093】
前記化粧品としては、例えば、化粧水、乳液、クリーム、ジェル等の基礎化粧品;口紅、リップクリーム、リップグロス、頬紅、ファンデーション、マスカラ、アイブロウ(眉墨)等のメイクアップ化粧品;サンスクリーン剤等の日焼け止め化粧料;シャンプー、リンス、育毛剤等の頭髪化粧品等が挙げられる。
【0094】
前記化粧品の剤形としては、特に制限がなく、液状製剤、乳状製剤、ジェル状製剤、クリーム状製剤、粉末状製剤、不織布等に含浸させたシートあるいはゲルパック製剤、スプレー製剤、泡状製剤等が含まれる。
【0095】
前記化粧品は上記組成物を含有するため、肌に塗布するだけで、花粉、ハウスダスト等のアレルゲン、PM2.5、黄砂、アスベスト等の、空気中に浮遊している微小な粒子が肌に付着するのを防止することができ、微粒子によって引き起こされる種々の問題(アレルギー症状や、肌荒れなど)を軽減又は解消することができる。
【0096】
以上、本開示の各構成及びそれらの組み合わせ等は一例であって、本開示の主旨から逸脱しない範囲において、適宜、構成の付加、省略、置換、及び変更が可能である。また、本開示は、実施形態によって限定されることはなく、特許請求の範囲の記載によってのみ限定される。
【実施例0097】
以下、実施例により本開示をより具体的に説明するが、本開示はこれらの実施例により限定されるものではない。
【0098】
[調製例1](反応性ポリマー(a1)の合成)
窒素雰囲気下、四つ口フラスコに、式(a)で表される化合物としてポリオキシエチレンポリオキシプロピレンモノメタクリレート(PEGPPGMA)(26mmol、10.0g)[ポリオキシプロピレン部分の重合度:平均2.5、ポリオキシエチレン部分の重合度:平均3.5]、RAFT剤として4-シアノ-4-[(ドデシルスルファニルチオカルボニル)スルファニル]ペンタン酸(0.52mmol、210mg)、アゾビスイソブチロニトリル(0.26mmol、42.7mg)を1-メトキシ-2-プロピルアセテート(301mmol、39.8g)に溶解し、30分間窒素でバブリングした。70℃で8時間反応させた後、氷冷して反応を停止し、20重量%の反応性ポリマー(a1)(PEGPPGMAを構成単位とし、末端に前記RAFT剤が結合しているポリマー、Mn=22000、Mw/Mn=1.52、転化率84%)溶液を得た。
【0099】
[調製例2](反応性ポリマー(a2)の合成)
窒素雰囲気下、四つ口フラスコに、式(a)で表される化合物としてポリオキシエチレンポリオキシプロピレンモノメタクリレート(PEGPPGMA)(26mmol、10.0g)[ポリオキシプロピレン部分の重合度:平均2.5、ポリオキシエチレン部分の重合度:平均3.5]、RAFT剤として4-シアノ-4-[(ドデシルスルファニルチオカルボニル)スルファニル]ペンタン酸(1.04mmol、420mg)、アゾビスイソブチロニトリル(0.52mmol、85.4mg)を1-メトキシ-2-プロピルアセテート(301mmol、39.8g)に溶解し、30分間窒素でバブリングした。70℃で8時間反応させた後、氷冷して反応を停止し、20重量%の反応性ポリマー(a2)(PEGPPGMAを構成単位とし、末端に前記RAFT剤が結合しているポリマー、Mn=11000、Mw/Mn=1.57、転化率85%)溶液を得た。
【0100】
[調製例3](反応性ポリマー(b1)の合成)
窒素雰囲気下、四つ口フラスコに、式(b)で表される化合物としてメチルメタクリレート(MMA)(100mmol、10.0g)、RAFT剤として4-シアノ-4-[(ドデシルスルファニルチオカルボニル)スルファニル]ペンタン酸(0.50mmol、201mg)、アゾビスイソブチロニトリル(0.25mmol、41mg)を1-メトキシ-2-プロピルアセテート(172mmol、22.8g)に溶解し、30分間窒素でバブリングした。70℃で8時間反応させた後、氷冷して反応を停止した。反応液を大量のヘキサンに滴下し、沈殿精製することで反応性ポリマー(b1)(MMAを構成単位とし、末端に前記RAFT剤が結合しているポリマー、Mn=14000、Mw/Mn=1.15)を得た。
【0101】
[調製例4](反応性ポリマー(b2)の合成)
窒素雰囲気下、四つ口フラスコに、式(b)で表される化合物としてメチルメタクリレート(MMA)(100mmol、10.0g)、RAFT剤として4-シアノ-4-[(ドデシルスルファニルチオカルボニル)スルファニル]ペンタン酸(1.00mmol、403mg)、アゾビスイソブチロニトリル(0.50mmol、82.1mg)を1-メトキシ-2-プロピルアセテート(172mmol、22.8g)に溶解し、30分間窒素でバブリングした。70℃で8時間反応させた後、氷冷して反応を停止した。反応液を大量のヘキサンに滴下し、沈殿精製することで反応性ポリマー(a2)(MMAを構成単位とし、末端に前記RAFT剤が結合しているポリマー、Mn=8600、Mw/Mn=1.24)を得た。
【0102】
[比較調製例1](反応性ポリマー(c)の合成)
窒素雰囲気下、四つ口フラスコに、ポリエチレングリコールモノメチルエーテルメタクリレート(PEGMA)(20mmol、10.0g)[ポリエチレングリコール部分の重合度:平均9]、RAFT剤として4-シアノ-4-[(ドデシルスルファニルチオカルボニル)スルファニル]ペンタン酸(0.98mmol、400mg)、アゾビスイソブチロニトリル(0.50mmol、81.1mg)を1-メトキシ-2-プロピルアセテート(173mmol、22.8g)に溶解し、30分間窒素でバブリングした。70℃で8時間反応させた後、氷冷して反応を停止し、反応液を大量のヘキサンに滴下し、沈殿精製することで反応性ポリマー(c)(PEGMAを構成単位とし、末端に前記RAFT剤が結合しているポリマー、Mn=8800、Mw/Mn=1.20、転化率89%)溶液を得た。
【0103】
[実施例1](星形ポリマー(1)を含む異物付着抑制剤の合成)
窒素雰囲気下、四つ口フラスコに、調製例1で得られた反応性ポリマー(a1)(20重量%1-メトキシ-2-プロピルアセテート溶液、0.073mmol、8.0g)、調製例4で得られた反応性ポリマー(b2)(0.049mmol、0.421g)、エチレングリコールジメタクリレート(1.22mmol、0.242g)、アゾビスイソブチロニトリル(0.06mmol、9.9mg)、1-メトキシ-2-プロピルアセテート(16.2mmol、2.15g)を加え、30分間窒素でバブリングし、70℃で8時間反応させた後、氷冷して反応を停止した。反応液を大量のヘキサンに滴下し、沈殿精製することで星形ポリマー(1)[PEGPPGMA/MMA(仕込みモル比)=60/40、Mn=61000(分子量は高分子量体のピークのみで算出)、Mw/Mn=1.33、転化率93%]を得た。これを異物付着抑制剤(1)とする。
【0104】
[実施例2](星形ポリマー(2)を含む異物付着抑制剤の合成)
窒素雰囲気下、四つ口フラスコに、調製例1で得られた反応性ポリマー(a1)(20重量%1-メトキシ-2-プロピルアセテート溶液、0.097mmol、10.7g)、調製例4で得られた反応性ポリマー(b2)(0.024mmol、0.206g)、エチレングリコールジメタクリレート(1.22mmol、0.242g)、アゾビスイソブチロニトリル(0.06mmol、9.9mg)、1-メトキシ-2-プロピルアセテート(7.16mmol、0.95g)を加え、30分間窒素でバブリングし、70℃で8時間反応させた後、氷冷して反応を停止した。反応液を大量のヘキサンに滴下し、沈殿精製することで星形ポリマー(2)[PEGPPGMA/MMA(仕込みモル比)=80/20、Mn=63000(分子量は高分子量体のピークのみで算出)、Mw/Mn=1.48、転化率98%]を得た。これを異物付着抑制剤(2)とする。
【0105】
[実施例3](星形ポリマー(3)を含む異物付着抑制剤の合成)
窒素雰囲気下、四つ口フラスコに、調製例1で得られた反応性ポリマー(a1)(20重量%1-メトキシ-2-プロピルアセテート溶液、0.085mmol、9.4g)、調製例4で得られた反応性ポリマー(b2)(0.037mmol、0.318g)、エチレングリコールジメタクリレート(1.22mmol、0.242g)、アゾビスイソブチロニトリル(0.06mmol、9.9mg)、1-メトキシ-2-プロピルアセテート(11.7mmol、1.55g)を加え、30分間窒素でバブリングし、70℃で8時間反応させた後、氷冷して反応を停止した。反応液を大量のヘキサンに滴下し、沈殿精製することで星形ポリマー(3)[PEGPPGMA/MMA(仕込みモル比)=70/30、Mn=59000(分子量は高分子量体のピークのみで算出)、Mw/Mn=1.41、転化率95%]を得た。これを異物付着抑制剤(3)とする。
【0106】
[実施例4](星形ポリマー(4)を含む異物付着抑制剤の合成)
窒素雰囲気下、四つ口フラスコに、調製例2で得られた反応性ポリマー(a2)(20重量%1-メトキシ-2-プロピルアセテート溶液、0.097mmol、5.3g)、調製例4で得られた反応性ポリマー(b2)(0.024mmol、0.206g)、エチレングリコールジメタクリレート(1.22mmol、0.242g)、アゾビスイソブチロニトリル(0.06mmol、9.9mg)、1-メトキシ-2-プロピルアセテート(7.16mmol、0.95g)を加え、30分間窒素でバブリングし、70℃で8時間反応させた後、氷冷して反応を停止した。反応液を大量のヘキサンに滴下し、沈殿精製することで星形ポリマー(4)[PEGPPGMA/MMA(仕込みモル比)=80/20、Mn=54000(分子量は高分子量体のピークのみで算出)、Mw/Mn=1.23、転化率91%]を得た。これを異物付着抑制剤(4)とする。
【0107】
[実施例5](星形ポリマー(5)を含む異物付着抑制剤の合成)
窒素雰囲気下、四つ口フラスコに、調製例2で得られた反応性ポリマー(a2)(20重量%1-メトキシ-2-プロピルアセテート溶液、0.097mmol、5.3g)、調製例3で得られた反応性ポリマー(b1)(0.024mmol、0.336g)、エチレングリコールジメタクリレート(1.22mmol、0.242g)、アゾビスイソブチロニトリル(0.06mmol、9.9mg)、1-メトキシ-2-プロピルアセテート(7.16mmol、0.95g)を加え、30分間窒素でバブリングし、70℃で8時間反応させた後、氷冷して反応を停止した。反応液を大量のヘキサンに滴下し、沈殿精製することで星形ポリマー(5)[PEGPPGMA/MMA(仕込みモル比)=80/20、Mn=79000(分子量は高分子量体のピークのみで算出)、Mw/Mn=1.40、転化率90%]を得た。これを異物付着抑制剤(5)とする。
【0108】
[比較例1](星形ポリマー(6)を含む異物付着抑制剤の合成)
窒素雰囲気下、四つ口フラスコに、比較調製例1で得られた反応性ポリマー(c)(0.17mmol、1.500g)、調製例4で得られた反応性ポリマー(b2)(0.040mmol、0.344g)、エチレングリコールジメタクリレート(1.65mmol、0.327g)、アゾビスイソブチロニトリル(0.07mmol、11.5mg)、1-メトキシ-2-プロピルアセテート(43.9mmol、5.80g)を加え、30分間窒素でバブリングし、70℃で8時間反応させた後、氷冷して反応を停止した。反応液を大量のヘキサンに滴下し、沈殿精製することで星形ポリマー(6)[PEGMA/MMA(仕込みモル比)=80/20、Mn=117000、Mw/Mn=1.58]を得た。これを異物付着抑制剤(6)とする。
【0109】
<試薬>
MMA:メチルメタクリレート、(株)TCI製
PEGPPGMA:ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンモノメタクリレート、商品名「ブレンマー50PEP-300」、(株)日油製
PEGMA:ポリエチレングリコールモノメチルエーテルメタクリレート、(株)TCI製
エチレングリコールジメタクリレート:富士フイルム和光純薬(株)製
4-シアノ-4-[(ドデシルスルファニルチオカルボニル)スルファニル]ペンタン酸:富士フイルム和光純薬(株)製
アゾビスイソブチロニトリル:富士フイルム和光純薬(株)製
1-メトキシ-2-プロピルアセテート:富士フイルム和光純薬(株)製
【0110】
<NMR測定>
測定装置:JEOL ECA500
測定溶剤:重クロロホルム
化学シフト:TMSを規準とした
【0111】
<GPC測定>
ポンプ:「LC-20AD」、(株)島津製作所製
検出器(RI):「RID-10A」、(株)島津製作所製
検出器(UV300nm):「SPD-20A」、(株)島津製作所製
カラムオーブン:「CTO-20A」、(株)島津製作所製
溶剤:THF
カラム:Shodex K-806L×3
流速:0.8mL/min
温度:40℃
試料濃度:0.5重量%
標準ポリスチレン換算
【0112】
【表1】
【0113】
※表中の略号を以下に説明する。
PA-Aは、反応性ポリマーaを示す。
PA-Bは、反応性ポリマーbを示す。
[CL]は架橋剤のモル濃度を示す。
[PA-A]は反応性ポリマーaのモル濃度を示す。
[PA-B]は反応性ポリマーbのモル濃度を示す。
[PA-A+PA-B]は反応性ポリマーaと反応性ポリマーbのモル濃度の総和を示す。
【0114】
実施例及び比較例で得られた異物付着抑制剤の異物付着抑制効果と親水性付与効果を下記方法で測定した。
【0115】
(異物付着抑制効果)
実施例及び比較例で得られた異物付着抑制剤による花粉の付着抑制効果を、花粉の代替物質として石松子を用いて評価した。
1)実施例及び比較例で得られた異物付着抑制剤のメタノール溶液(星形ポリマー濃度:1重量%)をサンプルとした。前記サンプルを下記条件で透明ポリスチレンシート(3cm×3cm×0.25cm)に塗布し、50℃で3時間防爆乾燥機を用いて乾燥して前記サンプルで前記シート表面をコートした。
2)コートした透明ポリスチレンシートをアルミ板に貼り付け、これを蓋付きステンレス容器(20cm×20cm×20cm)の側面に固定した。
3)上記のステンレス容器に0.1gの石松子(ヒゲノカズラの胞子、シグマアルドリッチ社製)を入れ、蓋をした。
4)石松子がサンプルをコートした透明ポリスチレンシートに直接降りかからない方向に1分間に60回の速度でステンレス容器を回転させた。
5)デジタルマイクロスコープ(HiROX製、KH-5700)を用いて、石松子が付着した透明ポリスチレンシートの中央付近の外観を、対物レンズ35倍で撮影した。
6)画像解析ソフト(ImageJ)を用いて得られた画像を解析し、付着した石松子の個数を計測した。
7)以下の計算式で相対付着数を算出した。
相対付着数=[サンプルをコートした透明ポリスチレンシートに付着した石松子の個数/サンプルをコートしていない透明ポリスチレンシートに付着した石松子の個数]×100
<サンプル塗布条件>
スピンコーター:ミカサ製Opticoat Spincoater MS-A150
塗布量:0.12mL
回転数:1000rpm
時間:3秒待機→30秒回転→停止
【0116】
結果を下記表に示す。
【表2】
【0117】
表2より、式(1)で表される構成単位を有する親水性ポリマーアームAと、式(2)で表される構成単位を有する疎水性ポリマーアームBとを有する星形ポリマーを用いた本開示の異物付着抑制剤は、極めて優れた花粉付着抑制効果を示すことがわかる。
【0118】
(親水性付与効果)
実施例及び比較例で得られた異物付着抑制剤による親水性付与効果を、下記方法により水接触角を測定することで評価した。尚、親水性付与効果が高いと、水接触角は小さくなる。
1)実施例4及び比較例1で得られた各異物付着抑制剤のメタノール溶液(星形ポリマー濃度:1重量%)をサンプルとして使用し、前記サンプル0.12mLを(異物付着試験)と同様の方法で透明ポリスチレンシート(3cm×3cm×0.25cm)に塗布、乾燥して、前記シート表面をコートした。
2)超純水を用いて、コートした透明ポリスチレンシートの水接触角を下記方法で測定した。また、ブランクとして、未コートの透明ポリスチレンシートについても同様に水接触角を測定した。
<水接触角測定条件>
測定装置:協和界面化学製 Dropmastre700
測定環境:25℃、60%RH
【0119】
結果を下記表に示す。
【表3】
【0120】
表3より、式(1)で表される構成単位を有する親水性ポリマーアームAと、式(2)で表される構成単位を有する疎水性ポリマーアームBとを有する星形ポリマーを用いた本開示の異物付着抑制剤で、透明ポリスチレンシートの表面をコートすれば、透明ポリスチレンシートの表面を高度に親水化できることがわかる。