(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023104411
(43)【公開日】2023-07-28
(54)【発明の名称】既存建物の解体方法
(51)【国際特許分類】
E04G 23/08 20060101AFI20230721BHJP
E04G 21/32 20060101ALI20230721BHJP
【FI】
E04G23/08 Z
E04G21/32 B
【審査請求】有
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022005378
(22)【出願日】2022-01-17
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2023-02-09
(71)【出願人】
【識別番号】000206211
【氏名又は名称】大成建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100124084
【弁理士】
【氏名又は名称】黒岩 久人
(72)【発明者】
【氏名】杉村 隆広
(72)【発明者】
【氏名】石橋 定真
(72)【発明者】
【氏名】平石 晃将
(72)【発明者】
【氏名】澤田 大介
(72)【発明者】
【氏名】中平 貴
【テーマコード(参考)】
2E176
【Fターム(参考)】
2E176AA01
2E176DD61
(57)【要約】
【課題】既存建物の解体時に強風が作用した場合でも、破砕物の飛散を確実に防止できる飛散防止システムを提供すること。
【解決手段】飛散防止ステム1は、既存建物2の解体時の破砕物の飛散を防止する。この飛散防止システム1は、既存建物2の互いに向かい合わせとなる二側面に仮固定された第1支柱20Aおよび第2支柱20Bと、第1支柱20Aの頂部と第2支柱20Bの頂部との間に張られたワイヤ21と、ワイヤ21に支持される飛散防止ネット22と、第1支柱20Aに取り付けられてワイヤ21に張力を導入する張力導入装置23と、を備える。第1支柱20Aおよび第2支柱20Bは、地盤面3から解体対象階の上方まで延びている。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
既存建物の解体時の破砕物の飛散を防止する飛散防止システムであって、
前記既存建物の互いに向かい合わせとなる二側面に仮固定された第1支柱および第2支柱と、
前記第1支柱と前記第2支柱との間に張られたワイヤと、
前記ワイヤに支持される飛散防止ネットと、
前記第1支柱または前記第2支柱に取り付けられて前記ワイヤに張力を導入する張力導入装置と、を備え、
前記第1支柱および前記第2支柱は、地盤面または地下階から解体対象階の上方まで延びていることを特徴とする飛散防止システム。
【請求項2】
前記第1支柱および前記第2支柱の少なくとも一方は、前記既存建物の各階の床スラブに設けた貫通孔に挿通されて、前記各階の床スラブに固定されることを特徴とする請求項1に記載の飛散防止システム。
【請求項3】
請求項1または2に記載の飛散防止システムを用いて、既存建物を解体する方法であって、
前記第1支柱および前記第2支柱を、地盤面または地下階から前記既存建物の解体対象階の上方まで突出して設置する第1工程と、
前記第1支柱と前記第2支柱との間に前記解体対象階を跨ぐようにワイヤを架け渡すとともに、前記ワイヤに飛散防止ネットを展張する第2工程と、
前記張力導入装置により前記ワイヤに張力を導入することで、前記飛散防止ネットで前記既存建物の解体対象階を覆う第3工程と、
前記飛散防止ネットの直下で、前記既存建物を所定フロア分解体する第4工程と、
前記張力導入装置により前記ワイヤの張力を緩めて、前記ワイヤを前記第1支柱および前記第2支柱から取り外し、その後、前記第1支柱および前記第2支柱の上端部を切断して撤去し、次に、再度、前記ワイヤを前記第1支柱および前記第2支柱に取り付ける第5工程と、
前記第3工程から前記第5工程を、前記既存建物の上層階から下層階に向かって繰り返す第6工程と、を備えることを特徴とする既存建物の解体方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、既存建物の解体時の破砕物の飛散を防止する飛散防止システム、および、この飛散防止システムを用いた既存建物の解体方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、既存建物の解体時に、破砕物が飛散するのを防止する飛散防止システムが知られている(特許文献1~2参照)。
特許文献1の飛散防止装置は、建物の梁に支持されて建物の側面に沿って建物の上端よりも上方に突出するように配置される4体のネット保持部と、建物の上端よりも上方の位置において4体のネット保持部に保持され、建物の上面を覆う防護ネットと、を備えている。4体のネット保持部は、互いに独立して建物に対して鉛直方向に移動可能である。
特許文献2の瓦礫飛散防止構造は、建物の最上階の床材および階下の床材に固定されて最上階の床材よりも上方へ延在する支柱と、この支柱の上端に取り付けられて建物を覆う飛散防止用ネットと、を備えている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2011-17230号公報
【特許文献2】特開2019-127809号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、既存建物の解体時に強風が作用した場合でも、破砕物の飛散を確実に防止できる飛散防止システムおよび既存建物の解体方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、既存建物の解体時の破砕物の飛散を防止する飛散防止システムとして、既存建物の各階の床スラブに第1支柱および第2支柱を貫通させ、各支柱を最下階の1階床(地盤面)または地下階から解体対象階の上方まで突出して設置するとともに、第1支柱と第2支柱との間にワイヤで支持される飛散防止ネットを張ることで、飛散防止ネットに強風が作用する場合であっても、第1支柱および第2支柱が既存建物に強固に固定されているために支柱同士の間のワイヤが弛むのを防止でき、飛散防止ネットが張られた状態を維持可能な点に着眼して、本発明に至った。
第1の発明の飛散防止システム(例えば、後述の飛散防止ステム1)は、既存建物(例えば、後述の既存建物2)の解体時の破砕物の飛散を防止する飛散防止システムであって、前記既存建物の互いに向かい合わせとなる二側面に仮固定された第1支柱(例えば、後述の第1支柱20A)および第2支柱(例えば、後述の第2支柱20B)と、前記第1支柱と前記第2支柱との間に張られたワイヤ(例えば、後述のワイヤ21)と、前記ワイヤに支持される飛散防止ネット(例えば、後述の飛散防止ネット22)と、前記第1支柱または前記第2支柱に取り付けられて前記ワイヤに張力を導入する張力導入装置(例えば、後述の張力導入装置23)と、を備え、前記第1支柱および前記第2支柱は、地盤面(例えば、後述の地盤面3)または地下階から解体対象階の上方まで延びていることを特徴とする。
【0006】
ここで、ワイヤは、例えば、第1支柱の頂部と第2支柱の頂部との間、第1支柱の中間高さ位置と第2支柱の中間高さ位置との間、あるいは、一方の支柱の中間高さ位置と他方の支柱の頂部との間に張られる。
この発明によれば、既存建物の解体対象階の上を飛散防止ネットで覆うことで、既存建物を解体する際に、飛散防止ネットの外側に破砕物が飛散するのを防止することができる。また、張力導入装置により、ワイヤに張力を適宜与えることで、飛散防止ネットを保持することができる。
また、第1支柱および第2支柱を地盤面または地下階から解体対象階の上方まで延びる構成としたので、第1支柱および第2支柱が既存建物に強固に固定される。よって、飛散防止ネットに強風が作用した場合でも、支柱同士の間のワイヤが弛むのを防止して、飛散防止ネットが張られた状態を維持し、破砕物が飛散するのを確実に防止できる。
また、各支柱の下端を地盤面に限定することなく、地下階としてもよい。すなわち、既存建物が地下階を有する場合は、各支柱を地下階から解体対象階の上方まで延びる構成とする。これにより、既存建物の1階部分を解体する場合であっても、各支柱の下部が地下階で支持されるため、1階部分の上に飛散防止ネットを容易に設置することができる。
【0007】
第2の発明の飛散防止システムは、前記第1支柱および前記第2支柱の少なくとも一方は、前記既存建物の各階の床スラブ(例えば、後述の床スラブ15)に設けた貫通孔(例えば、後述の貫通孔30)に挿通されて、前記各階の床スラブに固定されることを特徴とする。
この発明によれば、ワイヤを支持する第1支柱や第2支柱を既存建物の各階の床スラブに固定したので、第1支柱や第2支柱の転倒を防止して、第1支柱や第2支柱を既存建物に強固に固定することができる。
【0008】
第3の発明の既存建物の解体方法は、上述の飛散防止システムを用いて、既存建物を解体する方法であって、前記第1支柱および前記第2支柱を、地盤面から前記既存建物の解体対象階の上方まで突出して設置する第1工程(例えば、後述のステップS2)と、前記第1支柱と前記第2支柱との間に前記解体対象階を跨ぐようにワイヤを架け渡すとともに、前記ワイヤに飛散防止ネットを展張する第2工程(例えば、後述のステップS3)と、前記張力導入装置により前記ワイヤに張力を導入することで、前記飛散防止ネットで前記既存建物の解体対象階を覆う第3工程(例えば、後述のステップS4)と、前記飛散防止ネットの直下で、前記既存建物を所定フロア分解体する第4工程(例えば、後述のステップS5)と、前記張力導入装置により前記ワイヤの張力を緩めて、前記ワイヤを前記第1支柱および前記第2支柱から取り外し、その後、前記第1支柱および前記第2支柱の上端部を切断して撤去し、次に、再度、前記ワイヤを前記第1支柱および前記第2支柱に取り付ける第5工程(例えば、後述のステップS6)と、前記第3工程から前記第5工程を、前記既存建物の上層階から下層階に向かって繰り返す第6工程(例えば、後述のステップS7)と、を備えることを特徴とする。
【0009】
この発明によれば、既存建物の解体対象階の上を飛散防止ネットで覆うことで、既存建物を解体する際に、飛散防止ネットの外側に破砕物が飛散するのを防止することができる。また、張力導入装置により、ワイヤに張力を適宜与えることで、飛散防止ネットを保持することができる。
また、第1支柱および第2支柱を地盤面または地下階から解体対象階の上方まで延びる構成としたので、第1支柱および第2支柱が既存建物に強固に固定される。よって、飛散防止ネットに強風が作用した場合でも、支柱同士の間のワイヤが弛むのを防止して、飛散防止ネットが張られた状態を維持し、破砕物が飛散するのを確実に防止できる。
また、既存建物が地下階を有する場合は、各支柱を地下階から解体対象階の上方まで延びる構成とする。これにより、既存建物の1階部分を解体する場合であっても、各支柱の下部が地下階で支持されるため、1階部分の上に飛散防止ネットを容易に設置することができる。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、既存建物の解体時に強風が作用した場合でも、破砕物の飛散を確実に防止できる飛散防止システムおよび既存建物の解体方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明の一実施形態に係る飛散防止システムが適用された解体対象となる既存建物の縦断面図である。
【
図3】
図2の既存建物の破線Aで囲んだ部分の拡大図である。
【
図5】
図1の既存建物の破線Bおよび破線Cで囲んだ部分の拡大図である。
【
図6】
図1の既存建物の破線Dで囲んだ部分の拡大図である。
【
図7】
図1の既存建物の破線Eで囲んだ部分の拡大図である。
【
図8】飛散防止システムを用いて既存建物を解体する手順のフローチャートである。
【
図9】既存建物の解体手順の説明図(その1、既存建物を1層分解体した状態)である。
【
図10】既存建物の解体手順の説明図(その2、ワイヤおよび飛散防止ネットを1層分下方に盛り替えた状態)である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明は、既存建物2の解体対象階を飛散防止ネット22で覆う飛散防止システムおよびこの飛散防止システム1を用いた既存建物の解体方法である。具体的には、飛散防止システム1は、既存建物2の解体対象階を覆うように、既存建物2の床スラブ15に設けられた貫通孔30に第1支柱20Aおよび第2支柱20Bを挿通し、各支柱20A、20Bを最下階となる1階床(地盤面)または地下階から解体対象階の上方まで突出して設置するとともに、第1支柱20Aと第2支柱20Bとの間にワイヤ21で支持された飛散防止ネット22を張っている。
以下、本発明の一実施形態について、図面を参照しながら説明する。
図1は、本発明の一実施形態に係る飛散防止システム1が適用された解体対象となる既存建物2の縦断面図である。
図2は、既存建物2の横断面図である。
既存建物2は、7階建てであり、外周に沿って設けられた外周柱10と、外周柱10の内側に設けられた内周柱11と、外周柱10および内周柱11同士の間に設けられた大梁12と、外周柱10から外側に向かって延びる片持ち梁13と、片持ち梁13の先端部同士の間に設けられた小梁14と、大梁12、片持ち梁13、小梁14に支持された床スラブ15と、床スラブ15の外周に沿って設けられた外壁16と、を備える。
【0013】
既存建物2には、既存建物2の解体時の破砕物の飛散を防止する飛散防止システム1が設けられている。この飛散防止システム1は、既存建物2の互いに向かい合わせとなる二側面に仮固定された複数の第1支柱20Aおよび第2支柱20Bと、第1支柱20Aの頂部と第2支柱20Bの頂部との間に張られたワイヤ21と、ワイヤ21に支持された飛散防止ネット22と、第1支柱20Aに取り付けられてワイヤ21に張力を導入する張力導入装置23(
図7参照)と、を備える。
また、既存建物2の外側には、既存建物2を囲んで外部足場24が架設されており、外部足場24の外側側面には、防音パネル25が取り付けられている。
【0014】
第1支柱20Aおよび第2支柱20Bは、各階の床スラブ15を貫通して、地盤面3(1階床レベル)から解体対象階である屋上階の上方まで延びている。第1支柱20Aは、既存建物2の一側面に沿って複数設けられ、第2支柱20Bは、既存建物2の第1支柱20Aが設けられた側面とは向かい合わせの側面に沿って複数設けられている。
ワイヤ21は、互いに対向する第1支柱20Aと第2支柱20Bとの間に、既存建物2の屋上階を跨ぐように張られている。したがって、
図2に示すように、ワイヤ21は、既存建物2の上方で互いに略平行に複数設けられている。各ワイヤ21の第1支柱20A側の端部は、第1支柱20Aの中間高さに取り付けられた張力導入装置23(
図7参照)に連結されている。一方、各ワイヤ21の第2支柱20B側の端部は、第2支柱20Bの中間の高さ位置に連結されている。
飛散防止ネット22は、複数のワイヤ21および外部足場24の上端部同士の間に、展張されて取り付けられている。すなわち、飛散防止ネット22の周縁部は、外部足場24の上端部に仮固定されており、飛散防止ネット22の周縁部以外の部分は、ワイヤ21に支持されている。
【0015】
図3は、
図2の既存建物2の破線Aで囲んだ部分の拡大図である。
図4は、
図3の既存建物2のI-I断面図である。
各階の床スラブ15うち第1支柱20Aが設けられる部分は、斫られて撤去されており、貫通孔30が形成されている。第1支柱20Aは、H形鋼であり、貫通孔30に挿通されて、山形鋼31を介して床スラブ15に固定される。具体的には、山形鋼31は、床スラブ15にあと施工アンカーにボルト固定されており、この山形鋼31と第1支柱20Aとは、図示しない株式会社リキマン製のリキマンなどの挟締金具で仮固定されている。
なお、第2支柱20Bについても、第1支柱20Aと同様の構成であり、山形鋼31を介して床スラブ15に固定されている。
【0016】
図5(a)は、
図1の既存建物2の破線Bで囲んだ部分の拡大図であり、
図5(b)は、
図1の既存建物2の破線Cで囲んだ部分の拡大図である。
図6は、
図1の既存建物2の破線Dで囲んだ部分の拡大図であり、
図7は、
図1の既存建物2の破線Eで囲んだ部分の拡大図である。
図5(a)および
図5(b)に示すように、第1支柱20Aおよび第2支柱20Bの頂部には、貫通孔40が形成されており、この貫通孔40に長シャックル41が取り付けられている。ワイヤ21は、この長シャックル41に挿通されている。
図6に示すように、第2支柱20Bの中間高さには、貫通孔50が形成されており、この貫通孔50に長シャックル51が取り付けられている。ワイヤ21の第2支柱20B側の端部は、この長シャックル51に挿通されて、この状態で、ワイヤークリップ52で固定されて環状となっている。これにより、ワイヤ21の第2支柱20B側の端部は、第2支柱20Bの中間の高さ位置に連結される。
【0017】
図7に示すように、張力導入装置23は、例えば、株式会社キトー製のレバーブロック(登録商標)である。この張力導入装置23は、レバー60を操作することにより、フック61が取り付けられたチェーン62を巻き取ったり巻き出したりするものである。第1支柱20Aの中間高さには、貫通孔63が形成されており、この貫通孔63に長シャックル64が取り付けられている。張力導入装置23は、長シャックル64に取り付けられている。
ワイヤ21の第1支柱20A側の端部には、株式会社キトー製のキトークリップ(登録商標)65が取り付けられており、張力導入装置23のチェーン62の先端のフック61は、このキトークリップ65に連結されている。張力導入装置23によれば、レバー60を操作することにより、チェーン62を巻き取ってワイヤ21に張力を導入したり、チェーン62を巻き出してワイヤ21に導入した張力を緩めたりできる。
【0018】
以下、飛散防止システム1を用いて既存建物2を解体する手順について、
図8のフローチャートを参照しながら説明する。
ステップS1では、
図1に示すように、既存建物2の外側に外部足場24を架設し、この外部足場24に防音パネル25を取り付ける。
ステップS2では、
図1に示すように、第1支柱20Aおよび第2支柱20Bを、地盤面3から既存建物2の解体対象階である屋上階の上方まで突出して設置する。具体的には、各階の床スラブ15に貫通孔30を形成し、この貫通孔30に第1支柱20Aおよび第2支柱20Bを挿通して、山形鋼31を介して第1支柱20Aおよび第2支柱20Bを床スラブ15に固定する。
【0019】
ステップS3では、
図1に示すように、第1支柱20Aと第2支柱20Bとの間に、既存建物2の屋上階を跨ぐようにワイヤ21を架け渡すとともに、ワイヤ21間に飛散防止ネット22を展張する。
ステップS4では、
図1に示すように、張力導入装置23によりワイヤ21に張力を導入することで、飛散防止ネット22で既存建物2の屋上階を覆う。
ステップS5では、
図9に示すように、飛散防止ネット22の直下で、既存建物2を1層分解体する。
【0020】
ステップS6では、
図10に示すように、ワイヤ21および飛散防止ネット22を1層分下方に盛り替える。すなわち、張力導入装置23によりワイヤ21の張力を緩めて、ワイヤ21を第1支柱20Aおよび第2支柱20Bの頂部から取り外し、その後、第1支柱20Aおよび第2支柱20Bの上端部を切断して撤去し、次に、再度、ワイヤ21を第1支柱20Aおよび第2支柱20Bの頂部に取り付ける。また、外部足場24の上部について、防音パネル25を取り外して解体する。
ステップS7では、ステップS4からステップS6を、既存建物2の上層階から下層階に向かって繰り返す。
【0021】
本実施形態によれば、以下のような効果がある。
(1)既存建物2の解体対象階の上を飛散防止ネット22で覆うことで、既存建物2を解体する際に、飛散防止ネットの外側に破砕物が飛散するのを防止することができる。また、張力導入装置23により、ワイヤ21に張力を適宜与えることで、飛散防止ネット22を保持することができる。
また、第1支柱20Aおよび第2支柱20Bを地盤面3から解体対象階の上方まで延びる構成としたので、第1支柱20Aおよび第2支柱20Bが既存建物2に強固に固定される。よって、飛散防止ネット22に強風が作用した場合でも、支柱20A、20B同士の間のワイヤ21が弛むのを防止して、飛散防止ネット22が張られた状態を維持し、破砕物が飛散するのを確実に防止できる。
また、ワイヤ21で支持された飛散防止ネット22は、地盤面3から解体対象階の上方まで延びる第1支柱20Aおよび第2支柱20Bの間に張られるため、解体工事の進行に従って、各支柱20A、20Bの上部を切断して撤去し、ワイヤ21および飛散防止ネット22を張り直すことで、飛散防止ネットシステム1を容易に下層階側に移動させることが可能である。
【0022】
(2)ワイヤ21を支持する第1支柱20Aおよび第2支柱20Bを既存建物2の各階の床スラブ15に固定したので、第1支柱20Aおよび第2支柱20Bの転倒を防止して、第1支柱20Aおよび第2支柱20Bを既存建物2に強固に固定することができる。
また、第1支柱20Aに張力導入装置23を設けることで、ワイヤ21の張力が外部足場24に作用することはない。よって、ワイヤ21に支持させた飛散防止ネット22を、既存建物2の床スラブ15を貫通する第1支柱20Aおよび第2支柱20Bによって強固に固定することができる。
(3)張力導入装置23を第1支柱20Aの中間高さに設けたので、解体作業の進行に伴って、ワイヤ21および飛散防止ネット22を下方に盛り替える際に、張力導入装置23については盛り替える必要がなく、既存建物2の解体作業を円滑に行うことができる。
【0023】
なお、本発明は前記実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を達成できる範囲での変形、改良等は本発明に含まれるものである。
例えば、上述の実施形態では、ワイヤ21を第1支柱20Aの頂部と第2支柱20Bの頂部との間に張ったが、これに限らず、解体工事の方法によっては、ワイヤ21を、第1支柱20Aの中間高さ位置と第2支柱20Bの中間高さ位置との間や、一方の支柱の中間高さ位置と他方の支柱の頂部との間に張ってもよい。
また、上述の実施形態では、第1支柱20Aおよび第2支柱20Bを、地盤面3(1階床レベル)から解体対象階である屋上階の上方まで延ばしたが、これに限らない。すなわち、既存建物が地下階を有する場合は、各支柱の下端を地下階に設定し、第1支柱および第2支柱を、地下階から解体対象階の上方まで延ばしてもよい。
【符号の説明】
【0024】
1…飛散防止システム 2…既存建物 3…地盤面
10…外周柱 11…内周柱 12…大梁 13…片持ち梁
14…小梁 15…床スラブ 16…外壁
20A…第1支柱 20B…第2支柱 21…ワイヤ 22…飛散防止ネット
23…張力導入装置 24…外部足場 25…防音パネル
30…貫通孔 31…山形鋼 40…貫通孔 41…長シャックル
50…貫通孔 51…長シャックル 52…ワイヤークリップ
60…レバー 61…フック 62…チェーン 63…貫通孔
64…長シャックル 65…キトークリップ
【手続補正書】
【提出日】2022-11-10
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
既存建物の解体時の破砕物の飛散を防止する飛散防止システムであって、
前記既存建物の互いに向かい合わせとなる二側面に仮固定された第1支柱および第2支柱と、
前記第1支柱と前記第2支柱との間に張られたワイヤと、
前記ワイヤに支持される飛散防止ネットと、
前記第1支柱または前記第2支柱に取り付けられて前記ワイヤに張力を導入する張力導入装置と、を備え、
前記第1支柱および前記第2支柱は、地盤面または地下階から、前記既存建物の各階の床スラブに設けた貫通孔に挿通されて、解体対象階の上方まで延びており、
前記第1支柱および前記第2支柱は、H形鋼であり、前記H形鋼は、平面視で強軸が前記ワイヤの延びる方向に一致する向きに配置されるとともに、フランジ面で鋼材を介して前記各階の床スラブに固定されていることを特徴とする飛散防止システム。
【請求項2】
飛散防止システムを用いて、既存建物を解体する方法であって、
前記飛散防止システムは、前記既存建物の互いに向かい合わせとなる二側面に仮固定された第1支柱および第2支柱と、前記第1支柱と前記第2支柱との間に張られたワイヤと、前記ワイヤに支持される飛散防止ネットと、前記第1支柱または前記第2支柱に取り付けられて前記ワイヤに張力を導入する張力導入装置と、を備え、
前記第1支柱および前記第2支柱は、地盤面または地下階から解体対象階の上方まで延びており、
前記第1支柱および前記第2支柱を、地盤面または地下階から前記既存建物の解体対象階の上方まで突出して設置する第1工程と、
前記第1支柱と前記第2支柱との間に前記解体対象階を跨ぐようにワイヤを架け渡すとともに、前記ワイヤに飛散防止ネットを展張する第2工程と、
前記張力導入装置により前記ワイヤに張力を導入することで、前記飛散防止ネットで前記既存建物の解体対象階を覆う第3工程と、
前記飛散防止ネットの直下で、前記既存建物を所定フロア分解体する第4工程と、
前記張力導入装置により前記ワイヤの張力を緩めて、前記ワイヤを前記第1支柱および前記第2支柱から取り外し、その後、前記第1支柱および前記第2支柱の上端部を切断して撤去し、次に、再度、前記ワイヤを前記第1支柱および前記第2支柱に取り付ける第5工程と、
前記第3工程から前記第5工程を、前記既存建物の上層階から下層階に向かって繰り返す第6工程と、を備えることを特徴とする既存建物の解体方法。
【請求項3】
前記第1支柱および前記第2支柱の少なくとも一方は、前記既存建物の各階の床スラブに設けた貫通孔に挿通されて、前記各階の床スラブに固定されることを特徴とする請求項2に記載の既存建物の解体方法。
【手続補正書】
【提出日】2022-12-14
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
飛散防止システムを用いて、既存建物を解体する方法であって、
前記飛散防止システムは、前記既存建物の互いに向かい合わせとなる二側面に仮固定された第1支柱および第2支柱と、前記第1支柱と前記第2支柱との間に張られたワイヤと、前記ワイヤに支持される飛散防止ネットと、前記第1支柱または前記第2支柱に取り付けられて前記ワイヤに張力を導入する張力導入装置と、を備え、
前記第1支柱および前記第2支柱は、地盤面または地下階から解体対象階の上方まで延びており、
前記第1支柱および前記第2支柱を、地盤面または地下階から前記既存建物の解体対象階の上方まで突出して設置する第1工程と、
前記第1支柱と前記第2支柱との間に前記解体対象階を跨ぐようにワイヤを架け渡すとともに、前記ワイヤに飛散防止ネットを展張する第2工程と、
前記張力導入装置により前記ワイヤに張力を導入することで、前記飛散防止ネットで前記既存建物の解体対象階を覆う第3工程と、
前記飛散防止ネットの直下で、前記既存建物を所定フロア分解体する第4工程と、
前記張力導入装置により前記ワイヤの張力を緩めて、前記ワイヤを前記第1支柱および前記第2支柱から取り外し、その後、前記第1支柱および前記第2支柱の上端部を切断して撤去し、次に、再度、前記ワイヤを前記第1支柱および前記第2支柱に取り付ける第5工程と、
前記第3工程から前記第5工程を、前記既存建物の上層階から下層階に向かって繰り返す第6工程と、を備えることを特徴とする既存建物の解体方法。
【請求項2】
前記第1支柱および前記第2支柱の少なくとも一方は、前記既存建物の各階の床スラブに設けた貫通孔に挿通されて、前記各階の床スラブに固定されることを特徴とする請求項1に記載の既存建物の解体方法。
【手続補正3】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0004
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0004】
本発明は、既存建物の解体時に強風が作用した場合でも、破砕物の飛散を確実に防止できる既存建物の解体方法を提供することを課題とする。
【手続補正4】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0010
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0010】
本発明によれば、既存建物の解体時に強風が作用した場合でも、破砕物の飛散を確実に防止できる既存建物の解体方法を提供できる。