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特開2023-104421車両用ステアリング装置のインターミディエートシャフト用スペーサ及び車両用ステアリング装置のインターミディエートシャフト
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  • 特開-車両用ステアリング装置のインターミディエートシャフト用スペーサ及び車両用ステアリング装置のインターミディエートシャフト 図1
  • 特開-車両用ステアリング装置のインターミディエートシャフト用スペーサ及び車両用ステアリング装置のインターミディエートシャフト 図2
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023104421
(43)【公開日】2023-07-28
(54)【発明の名称】車両用ステアリング装置のインターミディエートシャフト用スペーサ及び車両用ステアリング装置のインターミディエートシャフト
(51)【国際特許分類】
   B62D 1/20 20060101AFI20230721BHJP
【FI】
B62D1/20
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022005396
(22)【出願日】2022-01-18
(71)【出願人】
【識別番号】000004204
【氏名又は名称】日本精工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100183357
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 義美
(72)【発明者】
【氏名】矢部 俊一
(72)【発明者】
【氏名】渕上 伸一
(72)【発明者】
【氏名】豊田 俊郎
(72)【発明者】
【氏名】横山 景介
(72)【発明者】
【氏名】本多 信太郎
(72)【発明者】
【氏名】相原 成明
【テーマコード(参考)】
3D030
【Fターム(参考)】
3D030DC40
(57)【要約】
【課題】高い耐熱性を有し、かつ環境にやさしいスペーサ、及び前記スペーサを備えた車両用ステアリング装置のインターミディエートシャフトを提供する。
【解決手段】内軸7と外軸9が軸方向に相対的に伸縮可能に構成された車両用ステアリング装置1のインターミディエートシャフト5で、その内軸7の外周部にはスペーサ27が嵌合されており、前記スペーサ27は、ポリアミド410を主成分とするポリアミド樹脂組成物で形成した。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両用ステアリング装置のインターミディエートシャフトの外周部に嵌合されるスペーサであって、
前記スペーサは、ポリアミド410を主成分とするポリアミド樹脂組成物で形成したことを特徴とする車両用ステアリング装置のインターミディエートシャフト用スペーサ。
【請求項2】
前記ポリアミド410のバイオ度が100%であることを特徴とする請求項1に記載の車両用ステアリング装置のインターミディエートシャフト用スペーサ。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のスペーサを、内軸と外軸を軸方向で相対的に伸縮可能に連結してなるインターミディエートシャフトの内軸の外周部に嵌合して備えたことを特徴とする車両用ステアリング装置のインターミディエートシャフト。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用ステアリング装置のインターミディエートシャフトの外周に嵌合されるスペーサ、及び前記スペーサを備えたインターミディエートシャフトに関する。
【背景技術】
【0002】
車両用ステアリング装置は、ステアリングコラムとインターミディエートシャフトとによって構成されている。
インターミディエートシャフトは、一端側が、ユニバーサルジョイントを介してステアリングコラムと連結され、他端側が、ユニバーサルジョイントを介して車輪の転舵装置に連結されている。
インターミディエートシャフトは、例えば、内軸と外軸をスプライン嵌合によって軸方向で相対的に伸縮可能に連結して構成されている(特許文献1参照。)。
【0003】
そして、車両用ステアリング装置のインターミディエートシャフトの外周部には、車両への組付け、取り外し時に、軸が過度に縮むことを防止するため、スペーサを嵌合して取り付けている。また、スペーサは、衝突時に割れることで、シャフトが多く縮み衝撃を吸収する役割も果たしているため、合成樹脂にて形成されている。
【0004】
昨今、様々な企業が、SDGs(Sustainable Development Goals:持続可能な開発目標)に向けた取り組みを進めている。この種のスペーサを構成する樹脂材料にあっても生産時や廃棄時などに環境への負荷が少ないものが好ましい。
【0005】
しかし、従来この種のスペーサを形成している合成樹脂としては、非強化のポリプロピレンを最も多く使用しているが、ポリプロピレンは、石油由来のものであり、環境に考慮したものではなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2019-038309
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は従来技術の有するこのような問題点を解決するためになされたものであり、その課題とするところは、高い耐熱性を有し、かつ環境にやさしいスペーサ、及び前記スペーサを備えた車両用ステアリング装置のインターミディエートシャフトを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この目的を達成するために、第1の本発明は、車両用ステアリング装置のインターミディエートシャフトの外周部に嵌合されるスペーサであって、
前記スペーサは、ポリアミド410を主成分とするポリアミド樹脂組成物で形成したことを特徴とする車両用ステアリング装置のインターミディエートシャフト用スペーサとしたことである。
【0009】
第2の本発明は、第1の本発明において、前記ポリアミド410のバイオ度が100%であることを特徴とする車両用ステアリング装置のインターミディエートシャフト用スペーサとしたことである。
【0010】
第1の本発明又は第2の本発明のスペーサを、内軸と外軸を軸方向で相対的に伸縮可能に連結してなるインターミディエートシャフトの内軸の外周部に嵌合して備えたことを特徴とする車両用ステアリング装置のインターミディエートシャフトとしたことである。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、一定レベルの耐熱性を有し、ポリプロピレンに比べて高い耐熱性を有するポリアミド410を、車両用ステアリング装置のインターミディエートシャフトの外周部に嵌合されるスペーサの樹脂材料に適用することで、様々な環境での使用が可能となった高信頼性と低コストを両立させた車両用ステアリング装置を提供することができる。また、ポリアミド410はバイオ度が100%で、カーボンニュートラルであることから、従来の石油由来成分のみでバイオ度が0%であったポリプロピレン等に比べて、環境にやさしい車両用ステアリング装置とすることとすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明の車両用ステアリング装置のインターミディエートシャフトを含む一実施形態を示す概略斜視図である。
図2】(a)は、本発明の車両用ステアリング装置のインターミディエートシャフトの一実施形態を示す概略斜視図、(b)は、本発明のスペーサの一実施形態を示す概略斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明車両用ステアリング装置のインターミディエートシャフト(以下、単にインターミディエートシャフトとも称する。)の一実施形態について説明する。なお、本実施形態は本発明の一実施形態に過ぎず何等限定解釈されるものではなく本発明の範囲内で適宜設計変更可能である。
【0014】
図1に示す車両用ステアリング装置1は、ステアリングコラム3とインターミディエートシャフト5とによって構成されている。このような構成によって、ステアリングホイール(不図示)の操舵力が、ステアリングコラム3、インターミディエートシャフト5などを介して転舵装置6に伝達され、左右の操舵輪(不図示)が転舵するようになっている。
【0015】
インターミディエートシャフト5は、例えばロアーシャフトである内軸7と、例えばアッパーシャフトである筒状の外軸9とを含み、そして、内軸7の外周にはスペーサ27が嵌合されている。なお、本発明は、スペーサ27に特徴的な技術的手段を有しているため、以下、スペーサ27について詳述し、その他の構成については簡単に述べることとする(図2参照。)。
【0016】
外軸9は、開放端である第一端部(下端部)11および閉塞端である第二端部(上端部)13を有している。第二端部13は、ステアリングコラム3側と連結されたユニバーサルジョイント15のヨーク17の端部に連結されて閉塞されている。
外軸9の内周には軸方向X1に平行な内スプラインが設けられている。
【0017】
内軸7の外周には軸方向X1に平行でかつ内スプラインと嵌合する外スプラインが設けられている。なお、図面では外スプラインを省略している。
内軸7は、上端部19が、外軸9の第一端部11側から外軸9内に挿入され、外スプラインと内スプラインとのスプライン嵌合により、外軸9と軸方向X1に相対的に摺動可能で、かつ共周り可能に構成されている。内軸7の下端部21は、ユニバーサルジョイント23のヨーク25に連結され、転舵装置6側と連結されている。
【0018】
スペーサ27は、内軸7の外径に嵌合可能な内径を有する所定長さの円筒状に形成されるとともに、円筒の一端29側から他端31側にわたり、筒軸方向(軸方向X1と同じ方向)に切欠いた切り欠き領域33を設けている。本実施形態では、外軸9に内軸7をスプライン嵌合させた非伸縮状態において、露出している内軸7の軸方向長さの半分程度の長さとしている。
切り欠き領域33は、スペーサ27における円筒の内径の最大径D1及び内軸7の外径の最大径D2よりも小径な幅厚さ(径方向幅厚さ)W1を有する略矩形状に形成されている。
また、本実施形態では、外周面の一部を所定領域で切り欠いてなる窓部35が形成されている。この窓部35は、スペーサの弾性を高めるために構成しているが窓部35を設けなくてもよい。
<スペーサの樹脂材料等構成>
【0019】
スペーサ27は、ベース樹脂としてポリアミド410樹脂が用いられ、ポリアミド410樹脂は、当初、石油由来のテトラメチレンジアミン(1,4-ジアミノブタン、ブタンジアミン)と、植物由来のひまし油から誘導されるセバシン酸の重縮合物であったが、テトラメチレンジアミンも木片チップから作られる植物由来へと進化した。
【0020】
2つの植物由来原材料であるテトラメチレンジアミンとセバシン酸は、1:1で反応することで、ポリアミド410が合成されており、当初70%であったバイオ度は、100%となり、環境にやさしい材料(カーボンニュートラル)となる。従来から用いられているポリプロピレンに比べて、分子構造中にアミド結合を有するために、耐熱性が高くなっていることで、ステアリング装置での使用において、信頼性が高くなっている。
【0021】
ポリアミド410の分子量は、ガラス繊維等の強化材含有状態で射出成形できる範囲、具体的には数平均分子量で13000~28000、より好ましくは、耐疲労性、成形性を考慮すると、数平均分子量で18000~26000の範囲である。
数平均分子量が13000未満の場合は分子量が低すぎて耐疲労性が悪く、実用性が低い。それに対して数平均分子量が28000を越える場合は、ガラス繊維等の強化材を含ませると、溶融粘度が高くなりすぎ、スペーサを精度良く射出成形で製造することが難しくなり、好ましくない。
【0022】
ベース樹脂は、樹脂単独(非強化)でも一定以上の耐久性を示し、スペーサとして十分に機能する。
しかしながら、より過酷な使用条件で使用されると、スペーサが破損、変形、摩耗することも想定されるため、信頼性をより高めるために、強化材を配合することが好ましい。
【0023】
強化材としては、ガラス繊維、炭素繊維、アラミド繊維、チタン酸カリウムウィスカー、ホウ酸アルミニウムウィスカー等が好ましく、上記に挙げたポリアミド樹脂との接着性を考慮してシランカップリング剤等で表面処理したものが更に好ましい。
また、これらの強化材は複数種を組み合わせて使用することができる。
衝撃強度を考慮すると、ガラス繊維や炭素繊維等の繊維状物を配合することが好ましく、更に相手材の損傷を考慮するとウィスカー状物を繊維状物と組み合わせて配合することが好ましい。混合使用する場合の混合比は、繊維状物及びウィスカー状物の種類により異なり、衝撃強度や相手材の損傷等を考慮して適宜選択される。
【0024】
ガラス繊維としては、一般的な平均繊維径である10~13μmのものの他、少ない含有量で高強度化と耐摩耗性の改善が可能な平均繊維径が5~7μmのもの、あるいは異形断面のものがより好適である。
【0025】
炭素繊維としては、強度を優先するのであれば、PAN系のものが好適であるが、コスト面で有利なピッチ系のものも使用可能である。平均繊維径としては、5~15μmのものが好適である。炭素繊維は、繊維自体の強度、弾性率が高いため、ガラス繊維に比べて、スペーサの高強度化、高弾性率化が可能である。
【0026】
アラミド繊維としては、強化性に優れるパラ系アラミド繊維を好適に使用することが可能である。平均繊維径としては、5~15μmのものが好適である。アラミド繊維は、ガラス繊維及び炭素繊維のように、鉄鋼材料を傷つけることはないので、スペーサが接触する相手部材(内軸)の表面状態を悪くすることがないので、ステアリングの音響特性等を重視する場合は、更に好適である。
【0027】
これらの強化材は、全体の10~40重量%、特に15~30重量%の割合で配合することが好ましい。強化材の配合量が10重量%未満の場合には、機械的強度の改善が少なく好ましくない。強化材の配合量が40重量%を超える場合には、成形性が低下すると共に、強化材の種類によっては、相手材への傷つけ性が高くなるので好ましくない。
【0028】
更に、成形時及び使用時の熱による劣化を防止するために、ヨウ化物系熱安定剤やアミン系酸化防止剤を添加剤として、それぞれ単独あるいは併用して樹脂に添加することが好ましい。
【0029】
このように、本実施形態では、スペーサのベース樹脂として、バイオ度が100%でカーボンニュートラルであるポリアミド410を用いたため、石油由来構成のみでバイオ度が0%であるポリプロピレン等に比べて生産時や廃棄時等において環境にやさしい。
【0030】
<スペーサの作製>
具体的な実施の形態を以下に示す。
表1のように、非強化のポリアミド樹脂組成物(樹脂ペレット)を調製し、射出成形(インサート成形)により、図2及び図3に示すようなスペーサ27を作製することができる。
本実施の形態の例と比較の形態の例におけるスペーサの樹脂組成を表1に示す。
【0031】
【表1】
・実施の形態の例:非強化ポリアミド410樹脂(DSM製EcoPaXX(エコパックス 登録商標)Q170E-H、熱安定剤含有グレード、平均分子量不明)
・比較の形態の例:非強化ポリプロピレン樹脂(ホモタイプ、プライムポリマー製プライムポリプロ(登録商標)J137G)
【産業上の利用可能性】
【0032】
本発明は、車両用ステアリング装置のインターミディエートシャフトに用いられる種々のスペーサに利用可能である。
【符号の説明】
【0033】
1 車両用ステアリング装置
5 インターミディエート
7 内軸
9 外軸
27 スペーサ
図1
図2