(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023104454
(43)【公開日】2023-07-28
(54)【発明の名称】硬帆を備えた船舶
(51)【国際特許分類】
B63B 15/02 20060101AFI20230721BHJP
B63H 9/061 20200101ALI20230721BHJP
B63H 9/06 20200101ALI20230721BHJP
B63H 9/08 20060101ALI20230721BHJP
【FI】
B63B15/02 B
B63H9/061
B63H9/06 Z
B63H9/08
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022005449
(22)【出願日】2022-01-18
(71)【出願人】
【識別番号】391058082
【氏名又は名称】株式会社名村造船所
(74)【代理人】
【識別番号】100091443
【弁理士】
【氏名又は名称】西浦 ▲嗣▼晴
(74)【代理人】
【識別番号】100130432
【弁理士】
【氏名又は名称】出山 匡
(74)【代理人】
【識別番号】100091649
【弁理士】
【氏名又は名称】初瀬 俊哉
(72)【発明者】
【氏名】徳留 祐二
(57)【要約】
【課題】迅速に硬帆を格納することができる硬帆を備えた船舶を提供する。
【解決手段】硬帆27を備えた装置本体45の昇降機構59,59´は、非常時に装置本体45との連携関係を解除する連係解除機構を備えている。ブレーキ機構115は、側面方向の両側面間の距離が、船底に近づくに従って連続的に大きくなる輪郭形状を有するガイドフレーム板119と、作動時にガイドフレーム板119との間に摩擦力を発生させるブレーキシュー121と、複数のコイルスプリング125がブレーキシュー121の間に配置された支持体127を備え、装置本体45が船底に近づくに従って落下速度を機械的に減速することができる。
【選択図】
図12
【特許請求の範囲】
【請求項1】
甲板下に設けられ、進行方向に複数並んだ船倉と、
使用時には前記甲板上において垂直方向に延び、不使用時には前記甲板下に設けられた硬帆格納庫に格納される硬帆を含む風力推進装置と、前記風力推進装置を上下方向に昇降させる硬帆昇降装置を有する1以上の硬帆装置を備えた硬帆を備えた船舶であって、
前記硬帆装置の前記硬帆格納庫は、前記進行方向に並ぶ2つの前記船倉の間に配置されており、
前記硬帆装置は、前記硬帆を回転可能に支持する軸部と、該軸部を回動させる回動駆動源を含んだ回転駆動装置を備えた装置本体を備え、
前記硬帆昇降装置は、前記進行方向と直交する幅方向に位置する前記装置本体の両端部を同期した状態で一緒に昇降させる一対の昇降機構を備えており、
前記一対の昇降機構は、緊急時に前記装置本体との連携関係を解除する連携解除機構を備えており、
前記硬帆格納庫を囲む複数の壁部のうち前記進行方向に対向する一対の壁部または前記幅方向に対向する一対の壁部と前記装置本体との間には、前記昇降機構の前記連携解除機構が前記装置本体と前記昇降機構の連携関係を解除すると、前記硬帆を備えた前記装置本体の自由落下を許容するが、前記装置本体が船体の船底に近づくに従って前記装置本体の落下速度を機械的に減速する1以上のブレーキ機構が配置されていることを特徴とする硬帆を備えた船舶。
【請求項2】
前記1以上のブレーキ機構は、前記幅方向に間隔を開けて配置された複数のブレーキ機構からなる請求項1に記載の硬帆を備えた船舶。
【請求項3】
前記ブレーキ機構は、
前記一対の壁部に設けられて前記垂直方向に延び且つ前記進行方向に対向する一対のガイドフレーム板と、
前記一対のガイドフレーム板に対応して前記装置本体に設けられて、対応する前記ガイドフレーム板との間に摩擦力を発生させる1以上のブレーキシューと、
前記装置本体に設けられて前記装置本体が船体の船底に近づくに従って前記1以上のブレーキシューを前記ガイドフレーム板に押し付ける力を機械的に強くする押圧力増強機構を備えている請求項1または2に記載の硬帆を備えた船舶。
【請求項4】
前記ブレーキ機構は、
前記一対の壁部に設けられて前記垂直方向に延び且つ前記進行方向に対向する一対のガイドフレーム板と、
前記一対のガイドフレーム板に対応して前記装置本体に設けられて、対応する前記ガイドフレーム板を間にして前記ガイドフレーム板の側面方向から挟むように配置されて前記ガイドフレーム板との間に摩擦力を発生させる一対の1以上のブレーキシューと、
前記装置本体に設けられて前記装置本体が船体の船底に近づくに従って前記一対の1以上のブレーキシューを前記ガイドフレーム板の前記側面方向の両側面に押し付ける力を機械的に強くする押圧力増強機構を備えている請求項1または2に記載の硬帆を備えた船舶。
【請求項5】
前記一対のガイドフレーム板は、前記ガイドフレーム板の前記側面方向の両側面間の距離が、前記船底に近づくに従って連続的に大きくなる輪郭形状を有しており、
前記押圧力増強機構は、前記ガイドフレーム板との間に前記幅方向に間隔をあけて前記ガイドフレーム板を間に挟むように前記装置本体に設けられた一対の支持体と、該一対の支持体と前記一対の1以上のブレーキシューとの間に配置され、前記一対の1以上のブレーキシューが前記ガイドフレーム板の前記両側面に沿って前記船底側に移動するにつれて前記一対の1以上のブレーキシューが前記支持体に近付く過程で蓄勢される1以上の弾性部材とを備えている請求項4に記載の硬帆を備えた船舶。
【請求項6】
前記一対の支持体と前記1以上の弾性部材と前記ブレーキシューは、1つのアッセンブリを構成しており、
前記アッセンブリは、前記ガイドフレーム板から前記ブレーキシューが前記側面方向に離れた退避位置と前記ガイドフレーム板の前記側面に前記ブレーキシューを接触させる作動位置との間を変位可能に設けられており、
前記アッセンブリは、定常時には、前記退避位置にあり、非常には前記作動位置にあることを特徴とする硬帆を備えた請求項5に記載の硬帆を備えた船舶。
【請求項7】
前記アッセンブリは、特別な動力源を用いることなく前記退避位置から前記作動位置に移動可能である請求項6に記載の硬帆を備えた船舶。
【請求項8】
複数組の前記一対のガイドフレーム板が、前記一対の壁部に対して前記幅方向に間隔をあけて設けられており、
各組の前記一対のガイドフレーム板に対して、前記ブレーキ機構が設けられている請求項3に記載の硬帆を備えた船舶。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は硬帆を備えた船舶に関するものである。
【背景技術】
【0002】
バルク船等の大型船舶は、大量の化石燃料を消費するため、CO
2の排出源となっている。化石燃料の消費を抑えるため、大型船舶に硬帆を設け、推進力を補助して、CO
2の排出を削減する試みが進められている。特許第5828409号公報(特許文献1)に開示の船舶では、甲板上に複数の硬帆を設置し、風力を用いて、補助的に推進力を得るようにしている。複数の硬帆は、舷(船の側面)側に配置されている。各硬帆は、船体中心に向かって倒して甲板下に配置された帆格納庫に収納可能な可倒式になっている。またこの公報の
図17には、甲板の下に配置された上下方向に延びる昇降装置によって硬帆が上下動して帆格納庫に収納される収納構造が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
硬帆は重量が重く、硬帆を収納するには時間がかかる。そのため天候の急変などで、できるだけ早く硬帆を収納したい場合(非常時)に、従来の構造では、迅速に硬帆を格納することができない問題がある。
【0005】
本発明の目的は、迅速に硬帆を格納することができる硬帆を備えた船舶を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明が対象とする船舶は、甲板下に設けられ、進行方向に複数並んだ船倉と、使用時には甲板上において垂直方向に延び、不使用時には甲板下に設けられた硬帆格納庫に格納される硬帆を含む風力推進装置と、風力推進装置を上下方向に昇降させる硬帆昇降装置を有する1以上の硬帆装置を備えた硬帆を備えた船舶である。硬帆を含む風力推進装置は、風力推進装置の風力推進力の発生部として、ローター帆を採用するものでもよい。「ローター帆」は、甲板上に垂直方向に立てた柱状のローター帆を垂直方向に延びる軸を中心にして回転させて、マグヌス効果により推進力を得る帆のことである。本明細書中の硬帆の語には、ローター帆も含まれる。
【0007】
本発明では、硬帆装置の硬帆格納庫は、進行方向に並ぶ2つの船倉の間に配置されている。硬帆装置は、硬帆を回転可能に支持する軸部と、該軸部を回動させる回動駆動源を含んだ回転駆動装置を備えた装置本体を備えている。また硬帆昇降装置は、進行方向と直交する幅方向に位置する装置本体の両端部を同期した状態で一緒に昇降させる一対の昇降機構を備えており、一対の昇降機構は、緊急時に装置本体との連携関係を解除する連携解除機構を備えている。そして硬帆格納庫を囲む複数の壁部のうち進行方向に対向する一対の壁部または幅方向に対向する一対の壁部と装置本体との間には、昇降機構の連携解除機構が装置本体と昇降機構の連携関係を解除すると、硬帆を備えた装置本体の自由落下を許容するが、装置本体が船体の船底に近づくに従って装置本体の落下速度を機械的に減速する1以上のブレーキ機構が配置されている。
【0008】
本発明によれば、至急に硬帆を下げなければならない状況が発生した際には、連結解除機構により昇降機構と装置本体との連携関係を解除すると、ブレーキ機構が硬帆を備えた装置本体の自由落下を許容するとともに、装置本体が船体の船底に近づくに従って装置本体の落下速度を機械的に減速する動作を行う。その結果、本発明によれば、特別に動力を用いることなく、自重を利用した自由落下により硬帆を硬帆格納庫に収納することができる。その上、本発明によれば、ブレーキ機構により、装置本体が船体の船底に近づくに従って装置本体の落下速度を機械的に減速するので、落下する硬帆を備えた装置本体が、硬帆格納庫の底壁と大きな加速度を持って衝突することを防止できる。その結果、急速に硬帆を収納しても、船舶の姿勢や運航に支障を生じさせることがない。
【0009】
上記機能を発揮するブレーキ機構の構成は任意である。例えば、1以上のブレーキ機構それぞれは、硬帆格納庫を囲む複数の壁部のうち進行方向に対向する一対の壁部及び/又は幅方向に対向する一対の壁部に設けられて垂直方向に延び且つ進行方向に対向する一対のガイドフレーム板と、一対のガイドフレーム板に対応して装置本体に設けられて、対応するガイドフレーム板との間に摩擦力を発生させる1以上のブレーキシューと、装置本体に設けられて装置本体が船体の船底に近づくに従って1以上のブレーキシューをガイドフレーム板に押し付ける力を機械的に強くする押圧力増強機構を備えた構造にすることができる。このような構造を採用すると、装置本体の落下移動と一緒に移動する1以上のブレーキシューをガイドフレーム板に押し付ける力が強くなって、制動力を機械的に増大させることができる。その結果、電動力を必要とすることなく、必要な制動力を得ることができ、ブレーキ機構の信頼性を高めることができる。
【0010】
なおブレーキ機構は、一対のガイドフレーム板に対応して前記装置本体に設けられて、対応するガイドフレーム板を間にガイドフレーム板の側面方向から挟むように配置されてガイドフレーム板との間に摩擦力を発生させる少なくとも一対の1以上のブレーキシューを備える構造でもよい。この場合には、押圧力増強機構は、装置本体に設けられて装置本体が船体の船底に近づくに従って少なくとも一対の1以上のブレーキシューをガイドフレーム板の幅方向又は進行方向の両側面に押し付ける力を機械的に強くする構造を備えればよい。
【0011】
例えば、一対のガイドフレーム板は、ガイドフレーム板の側面方向の両側面間の距離が、船底に近づくに従って連続的に大きくなる輪郭形状を有しているのが好ましい。そして押圧力増強機構は、ガイドフレーム板との間に側面方向に間隔をあけてガイドフレーム板を間に挟むように装置本体に設けられた一対の支持体と、該一対の支持体と一対のブレーキシューとの間に配置され、一対の1以上のブレーキシューがガイドフレーム板の両側面に沿って船底側に移動するにつれてブレーキシューが支持体に近付く過程で蓄勢される1以上の弾性部材とを備えているのが好ましい。このような構成であれば、1以上の弾性部材をスムーズに蓄勢することにより、ブレーキシューの押付力を徐々に増大させることができる。
【0012】
一対の支持体と1以上の弾性部材とブレーキシューは、1つのアッセンブリ(組み物)を構成しているのが好ましい。このアッセンブリは、ガイドフレーム板からブレーキシューが側面方向に離れた退避位置とガイドフレーム板の側面にブレーキシューを接触させる作動位置との間を変位可能に設けられている。そしてアッセンブリは、定常時には、退避位置にあり、迅速に硬帆を下げたい非常時には作動位置にある構造を有している。その結果、定常時には、ブレーキ機構は硬帆の上げ下げに影響を与えることがなく、非常時にのみ、ブレーキ機構が動作状態になる。
アッセンブリは、特別な動力源を用いることなく退避位置から作動位置に移動可能であるのが好ましい。特別な動力源を必要としなければ、硬帆を収納する作業を短時間で実行できる。
【0013】
また硬帆の幅寸法が大きくなる場合や硬帆の重量が重くなる場合には、複数組の一対のガイドフレーム板を、一対の壁部に対して幅方向に間隔をあけて設け、各組の一対のガイドフレーム板に対して、それぞれブレーキ機構を設けるようにしてもよい。このようにすれば、硬帆の幅寸法と重量に応じた適切な減速力を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本発明を適用することができる硬帆を備えた船舶の一例である、ばら積み貨物船の斜視図である。
【
図2】
図1のばら積み貨物船の左側面図(右舷側から見た側面図)である。
【
図4】第7船倉~第9船倉が設けられた船体の後方部分を示した図である。
【
図5】格納庫及び硬帆装置の部分を船体から切り出した状態で示した斜視図である。
【
図6】格納庫の入り口の近傍部と、硬帆装置の装置本体を模式的に示した平面図である。
【
図7】同期駆動装置の詳細を説明するための模式図である。
【
図8】格納庫内に硬帆を格納した状態を示す模式図であり、(A)は正面図、(B)は平面図である。
【
図9】硬帆を格納庫から出して使用状態にした状態を示す模式図であり、(A)は正面図、(B)は平面図である。
【
図10(A)】幅方向寸法が可変になる構造を有した硬帆の例を示す図である。
【
図10(B)】幅方向寸法が可変になる構造を有した硬帆の例を示す図である。
【
図11】本発明の一つの実施の形態が適用された硬帆装置の装置本体と、ブレーキアッセンブリと、ガイドフレーム板との関係を示す概略指図である。
【
図12】(A)は硬帆を使用する位置に装置本体が上昇した状態を示す平面図、(B)は硬帆使用位置にある装置本体と硬帆格納位置にある装置本体との両方を示す正面図、(C)は硬帆を格納する位置に降下した状態を示す平面図である。
【
図13】一対のブレーキアッセンブリとガイドフレーム板を拡大して示す拡大正面図であり、(A)は一対のブレーキアッセンブリが退避位置にある状態を示し、(B)は退避位置から作動位置に移動する寸前の状態を示す図である。
【
図14】作動位置にある一対のブレーキアッセンブリとガイドフレーム板を拡大して示す拡大正面図である。
【
図15】
図12に示したものとは別の実施の形態における装置本体とガイドフレーム板との関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、図面を参照して、本発明の船舶の実施の形態を詳細に説明する。
図1乃至
図11を用いて本発明が適用可能な船舶の一例の構成を説明する。
図1乃至
図11に示した構造では、本発明の構成において必須要件である連結解除機構及びブレーキ機構は図に示されていない。
図2は、
図1のばら積み貨物船の左側面図(右舷側から見た側面図)であり、
図3は、平面図である。また
図4は、後述する第7船倉~第9船倉が設けられた船体の後方部分の一部切り欠き斜視図である。
【0016】
<全体構成>
図1の本実施の形態のばら積み貨物船1は、船舶の安全性確保のための規則を定める多国間条約「海上における人命の安全のための国際条約(International Convention for the Safety of Life at Sea)(SOLAS条約)」の対象となる、全長55m以上の大型船舶である。ばら積み貨物船1は、船体3の進行方向FDの一方の端部に船首5を有し、他方の端部に船尾7を有し、船体3上に甲板(上甲板)9を有している。ばら積み貨物船1は、船体3内が複数の区画に区切られており、甲板9の下に、
図4に一部を示すように、貨物を積載する船倉11(第1船倉11A~第9船倉11I)が形成されている。なお、
図1には、第1船倉~第9船倉が内部に存在する位置に、符号11A~11Iを付してある。第1船倉11A~第9船倉11Iのそれぞれは、甲板9に開口した開口部13A~13Iと、開口部13A~13Iの周囲を取り囲む縁材(ハッチコーミング)15A~15Iと、船体の幅方向にスライドし、開口部13A~13Iを閉じるハッチカバー17A~17Iを備えている。船尾7には、船橋19と、レーダーマスト21と、煙突23が設けられている。
【0017】
本実施の形態のばら積み貨物船1は、8台の風力推進装置25として硬帆装置を備えている。本実施の形態では、具体的には、8台の風力推進装置25は、8台の硬帆装置25A~25Hである。8台の硬帆装置25A~25Hは、それぞれ風力推進力発生部である硬帆27A~27Hを備えている。
図1乃至
図3では、硬帆装置25A~25Hは、使用状態にあり、甲板9上において垂直方向に硬帆27A~27Hが延びた状態になっている。8台の硬帆装置25A~25Hは、船舶の進行方向FDに並ぶ2つの船倉11の間(例えば、第1船倉11Aと第2船倉11Bの間、第2船倉11Bと第3船倉11Cの間・・・)に配置された格納庫(29A~29H)とセットになっている。なお
図1には、格納庫が存在する位置に符号29A~29Hを付してある。後述のように、硬帆27A~27Hは、甲板9下に設けられた格納庫29A~29H内に格納可能な構成となっている。
【0018】
<硬帆装置の昇降機構>
図4には、第7船倉11G~第9船倉11Iが設けられた船体3の後方部分を示してある。図示したように、第7船倉11Gと第8船倉11Hの間や、第8船倉11Hと第9船倉11Iの間には、船倉同士を隔てる隔壁(30A~30H)が設けられている。なお
図4には、隔壁30Gと隔壁30Hを示してあり、その他の図には隔壁30A~30Fは図示していない。この隔壁30A~30Hは、船舶の進行方向に間隔をあけて並ぶ2枚の隔壁板によって構成されている。この2枚の隔壁板の間に硬帆を収納する格納庫29が設けられている。
【0019】
図4には全ては図示していないが、第1船倉11Aと第2船倉11Bの間には格納庫29A、第2船倉11Bと第3船倉11Cの間には格納庫29B・・・というように、船体3には計8個の格納庫29A~29H(
図1参照)が設けられており、それぞれが硬帆装置25A~25Hとセットになっている。
図4に示した例では、硬帆27Gは、格納庫29Gから出された使用状態であり、硬帆27Hは、格納庫29H内に格納された不使用状態である。必要に応じて硬帆を格納庫内に収納することができるため、風力が航行の妨げになる場合は全ての硬帆を格納庫に格納する事で通常の船舶として航行可能であり、また港にて硬帆を格納庫に格納すれば、硬帆が荷役クレーンの妨げにならない。
【0020】
図5は、格納庫29H及び硬帆装置25Hの部分を船体3から切り出した状態で示した斜視図である。他の格納庫及び硬帆装置も、基本的な構造は同一であるため、以下では、説明の便宜上、区別することなく、格納庫は符号29、硬帆装置は符号25として説明し、他の格納庫及び硬帆装置については、説明を省略する。
図6は、格納庫29の入り口31の近傍部と、硬帆装置25の装置本体45を模式的に示した平面図である。
【0021】
格納庫29は、船体3の幅方向WD、上下方向VD及び進行方向FDに延びる形状をしており、その入り口31を塞ぐ蓋部材33が、甲板9上に開放位置と閉鎖位置との間で移動可能に配置されている。本実施の形態では、蓋部材33は、入り口31を開放する開放位置と入り口31を閉じる閉鎖位置との間で移動させる蓋移動機構を更に備えている。
【0022】
格納庫29内には、複数のリブフレーム35が進行方向FD両側に配置されている。複数のリブフレーム35のうちのいくつかは、後述の装置本体45が昇降する際に振動を抑制するために使用され、その他のリブフレーム35のうちのいくつかは、後述する本発明の一つの実施形態におけるブレーキ機構を構成するガイドフレーム板として利用するように設けられている。複数のリブフレーム35が、進行方向FD両側に配置されている。複数のリブフレーム35は、前述の隔壁30A~30Hを構成する2枚の隔壁板30a及び30b(
図4参照))の内面に。垂直方向に延びるように溶接されている。
【0023】
格納庫29の周囲には、二重底37と、船舷側下部に設けられた一対の下部ホッパータンク39,39´と、船舷側上部に設けられた一対の上部ホッパータンク41,41´とが設けられている。格納庫29の入り口31の近傍部には、後述の装置本体45の固定装置を構成する複数の(本実施の形態では一例として計8本の)ピストン43が配置されている(
図6参照)。
【0024】
硬帆装置25は、風力推進力発生部である硬帆27と、硬帆27が固定された装置本体45と、硬帆27を上下方向に昇降させる昇降装置47とを備えている。装置本体45は、硬帆27を回転可能に支持する軸部49と、該軸部49を回動させる回動駆動源を含んだ駆動装置51を備えている。また、装置本体45の側面には、ピストン43の延伸部分を受け入れる計8つのシリンダ53(
図6では、破線で示してある)と、格納庫29の壁面に接触する4つの第1のローラ55と、リブフレーム35に接触する4つの第2のローラ57が設けられている(
図6参照)。昇降装置47は、幅方向WDに位置する装置本体45の両端部を同期した状態で一緒に昇降させる一対の昇降機構59,59´を備えている。
【0025】
なおピストン43とシリンダ53の組み合わせは、本発明の一つの実施の形態の連結解除機構には含まれないが、昇降機構59,59´に備えた連結解除機構を作動する前又は後に、ピストン43をシリンダ53内から引っ込めて装置本体45が降下できるようにする。
【0026】
[昇降機構の詳細]
図5に示すように、一対の昇降機構59,59´は、一対の線状体群61,61´と、一対のウインチ63,63´と、一対の滑車装置65,65´と、一対の線状体導出部66,66´と、同期駆動装置67を備えている。一対の線状体群61,61´は、装置本体45の両端部にそれぞれ連結された吊り上げ用の複数本の線状体(本実施の形態では複数本のチェーン)からなる。一対のウインチ63,63´は、甲板9上の入り口31の幅方向WDの両側に配置されて、一対の線状体群61,61´に含まれる複数本の線状体を巻き上げ又は巻き下げる。一対の滑車装置65,65´は、複数本の線状体を対応するウインチ63,63´に案内する。一対の線状体導出部66,66´は、複数本の線状体を格納庫内から対応する滑車装置に導出する。同期駆動装置67は、一対のウインチ63,63´を同期して相反する方向に回転駆動する。
【0027】
図7は、同期駆動装置67の詳細を説明するための模式図である。
図7では、一対のウインチ63,63´は回転軸69,69´のみを図示している。回転軸69,69´は一対の端部69a,69b及び69´a,69´bを有している。本実施の形態では、同期駆動装置67は、同期運転される2台の原動機(2つの電動機71及び73)と、第1の力伝達機構75、第2の力伝達機構77、第3の力伝達機構79及び第4の力伝達機構81の計4つの力伝達機構によって構成されている。軸の回転方向は、矢印で明示した通りである。
【0028】
具体的には、第1の原動機71は、第1の駆動軸71aを有しており、第1の力伝達機構75は、第1の原動機71の第1の駆動軸71aとウインチ63の回転軸69の一方の端部69aとの間に設けられて、第1の駆動軸71aの回転を、ウインチ63の回転軸69が、第1の駆動軸71aと同じ方向に回転するように伝達する。第2の力伝達機構77は、第1の原動機71の第1の駆動軸71aとウインチ63´の回転軸69´の一方の端部69´aとの間に設けられて、第1の駆動軸71aの回転を、ウインチ63´の回転軸69´が、第1の駆動軸71aと逆方向に回転するように伝達する。
【0029】
より詳細には、第1の力伝達機構75は、第1の駆動軸71aに設けられた第1の駆動スプロケット83と、回転軸69の一方の端部69aに設けられた第1の被駆動スプロケット85と、第1の駆動スプロケット83と第1の被駆動スプロケット85との間に張り渡された第1のチェーン87とを備えており、第2の力伝達機構77は、第1の駆動軸71aに設けられた第2の駆動スプロケット89と、回転軸69´の一方の端部69´aの近傍に配置された第1の被駆動軸91に設けられた第2の被駆動スプロケット93と、第2の駆動スプロケット89と第2の被駆動スプロケット93との間に張り渡された第2のチェーン95と、回転軸69´と第1の被駆動軸との間に設けられて、第1の被駆動軸91の回転力で第1の被駆動軸91の回転方向とは逆方向に回転軸69´を回転させる第1の逆転機構97とを備えている。
【0030】
また、第2の原動機73は、第2の駆動軸73aを有しており、第3の力伝達機構79は、第2の原動機73の第2の駆動軸73aとウインチ63´の回転軸69´の他方の端部69´bとの間に設けられて、第2の駆動軸73aの回転を、ウインチ63´の回転軸69´が、第2の駆動軸73aと同じ方向に回転するように伝達する。第4の力伝達機構81は、第2の原動機73の第2の駆動軸73aとウインチ63の回転軸69の他方の端部69bとの間に設けられて、第2の駆動軸73aの回転を、ウインチ63の回転軸69が、第2の駆動軸73aと逆方向に回転するように伝達する。
【0031】
より詳細には、第3の力伝達機構79は、第2の駆動軸73aに設けられた第3の駆動スプロケット99と、回転軸69´の他方の端部69´bに設けられた第3の被駆動スプロケット101と、第3の駆動スプロケット99と第3の被駆動スプロケット101との間に張り渡された第3のチェーン103とを備えており、第4の力伝達機構81は、第2の駆動軸73aに設けられた第4の駆動スプロケット105と、回転軸69の他方の端部69bの近傍に配置された第2の被駆動軸107に設けられた第4の被駆動スプロケット109と、第4の駆動スプロケット105と第4の被駆動スプロケット109との間に張り渡された第4のチェーン111と、回転軸69と第2の被駆動軸107との間に設けられて、第2の被駆動軸107の回転力で第2の被駆動軸107の回転方向とは逆方向に回転軸69を回転させる第2の逆転機構113とを備えている。
【0032】
このようにすることで、2台の原動機71及び73を用いて同期駆動装置67を実現することができ、負荷の分散が可能である。また、原動機を2台にすることで、2台のうち、1台の原動機が故障等したとしても、同期駆動装置を駆動させることができ、冗長化することもできる。
【0033】
[昇降機構の動作]
図8は、格納庫29内に硬帆27を格納した状態を示す模式図であり、(A)は正面図、(B)は平面図であり、
図9は、硬帆27を格納庫29から出して使用状態にした状態を示す模式図であり、(A)は正面図、(B)は平面図である。
図8(B)及び
図9(B)では、蓋部材33は省略してあり、また、硬帆部分については、説明の便宜上、一部透明なものとして図示してある。なお
図8及び
図9には、
図1乃至
図7に示した部材と同一の部材には、
図1乃至
図7に付した符号と同じ符号を付してある。
【0034】
格納庫29内に硬帆27を格納した状態(
図8A及び
図8B)では、蓋部材33は入り口31を閉じる閉鎖位置に存在する。硬帆を使用状態にする場合は、蓋部材33を開放位置に移動させてから、第1及び第2の電動機71,73を駆動させる。第1及び第2の電動機71,73を駆動させると、一対のウインチ63,63´が一対の線状体群61,61´を巻き取ることで、装置本体45の両端部が同期した状態で上昇する。そして装置本体45が入り口31の近傍部まで上昇したところで、ピストン43を作動させ、ピストン43の延伸部分をシリンダ53内に挿入し、装置本体45を固定し、硬帆を使用状態にする(
図9A及び
図9B)。
【0035】
[硬帆の拡張]
本実施の形態では、
図1に示した硬帆27D~27Hは、それぞれ幅方向寸法が可変になる構造も有している。具体的には、
図10(A)及び
図10(B)に示すように、内側に第1の拡張部27a及び第2の拡張部27bを収納している。甲板9上に硬帆27を出した状態で、第1の拡張部27a及び第2の拡張部27bを繰り出すことにより、風を受ける硬帆27の面積を拡張させることが可能である。
【0036】
<連結解除機構及びブレーキ機構の構成>
以下
図1乃至
図10(B)で説明した、ばら積み貨物船に本発明を適用するために用いる連結解除機構及びブレーキ機構の一例について説明する。
【0037】
本発明の一実施の形態における硬帆を迅速に収納する構成は、上記のように、甲板9の下に設けられ、進行方向FDに複数並んだ船倉11A~11Iと、使用時には甲板9上において垂直方向VDに延び、不使用時には甲板9の下に設けられた硬帆の格納庫29A~29Hに格納される硬帆(風力推進装置)27A~27Hと、硬帆27A~27Hを上下方向に昇降させる硬帆の昇降装置47を有する硬帆装置25A~25Hを備えた硬帆を備えた船舶に適用される。
【0038】
硬帆装置25A~25Hの硬帆格納庫29A~29Hは、進行方向FDに並ぶ2つの船倉11A~11Iの間に配置されている。硬帆装置25A~25Hは、硬帆27A~27Hを回転可能に支持する軸部49と、該軸部49を回動させる回動駆動源を含んだ回転駆動装置を備えた装置本体45を備えている。また
図5に示すように、硬帆の昇降装置47は、進行方向FDと直交する幅方向WDに位置する装置本体45の両端部を同期した状態で一緒に昇降させる一対の昇降機構59,59´を備えている。
【0039】
本実施の形態では、
図5に示した一対の昇降機構59,59´が、緊急時に装置本体45との連携関係を解除する連携解除機構を備えている。具体的な連携解除機構は、一対のウインチ63,63´の図示しない減速機の内部に備えられたクラッチであり、一対のウインチ63,63´への通電を遮断すると、クラッチが開放状態になり、ウインチ63,63´の駆動軸がフリーになって、装置本体45は硬帆使用位置から下降できるようになる。また
図5に示す同期駆動装置67も、電力供給を停止しても、第1の電動機71及び第2の電動機73が硬帆27の格納庫29への降下を妨げることはない。
【0040】
図4に示す硬帆の格納庫29A~29Hを囲む隔壁30A~30Hを構成する複数の隔壁板のうち進行方向FDに対向する一対の隔壁板30a,30b(
図4,
図11)と装置本体45との間のスペースには複数のブレーキ機構115が移動可能に配置されている。複数のブレーキ機構115は、装置本体45に固定されて、装置本体4と一緒に移動する。
図5に示す昇降機構59,59´の連携解除機構である一対のウインチ63,63´のクラッチが切れてウインチ63,63´の駆動軸がフリーになって、装置本体45と昇降機構59,59´の線条体群61,61´との連携関係が解除されると、硬帆27A~27Hを備えた装置本体45は落下を開始する。このとき複数のブレーキ機構115は、装置本体45が船体3の船底に近づくに従って装置本体45の落下速度を機械的に減速する。
【0041】
以下、本実施の形態で用いるブレーキ機構115について詳しく説明する。
図12(A)乃至(C)は硬帆装置25A~25Hの装置本体45とガイドフレーム板119との関係を示す図である。
図12(A)は硬帆27を使用する位置に装置本体45が上昇した状態を示す概略平面図であり、
図12(B)は硬帆27が使用位置にある装置本体45と硬帆27が格納位置にある装置本体45との両方を説明のために便宜的に示す概略正面図である。
図12(C)は硬帆27を格納する位置に降下した状態を示す平面図である。
図13は一対のブレーキアッセンブリ117とガイドフレーム板119とからなるブレーキ機構115を拡大して示す拡大正面図であり、
図13(A)は一対のブレーキアッセンブリ117が退避位置にある状態を示し、
図13(B)は退避位置から作動位置に移動する寸前の状態を示す。
図14は
図12に示した実施の形態に含まれる一つのブレーキアッセンブリ117とガイドフレーム板119を拡大して示す拡大正面図である。
【0042】
各図において、1つのブレーキ機構115は、ガイドフレーム板119と、ガイドフレーム板119に対応して装置本体45に設けられる一対のブレーキアッセンブリ117とから構成される。1つのブレーキアッセンブリ117は、ブレーキシュー121、押圧力増強機構を構成する複数のコイルスプリング125及び支持体127を備えている。本実施の形態では、硬帆27の幅寸法が大きく、硬帆27の重量が重いため、6個のブレーキ機構115が設けられている。3組の一対のブレーキ機構115,115が、一対の隔壁板30a,30bに対して幅方向WDに間隔をあけて設けられて進行方向FDに対向する3組の一対のガイドフレーム板119,119にそれぞれ対応している。言い換えると一組の一対のブレーキ機構115が、進行方向FDに並ぶ一組の一対のガイドフレーム板119,119に対応して、装置本体45の両側に固定されている。一対のガイドフレーム板119,119と一対のブレーキ機構115,115の数は、硬帆27の幅寸法と重量に応じた適切な減速力を得ることができるように定められる。硬帆27の幅寸法や重量が小さい場合には、
図15の他の実施の形態に示すように、2組の一対のガイドフレーム板119,119を設け、これに対応する2組の一対のブレーキ機構115,115を装置本体45´に備えた構成としてもよい。ブレーキ機構115の数は、幅寸法や重量に応じて1組のみでも4組以上でもよい。
【0043】
一対のガイドフレーム板119は、硬帆27の格納庫29を囲む隔壁30の進行方向FDに対向する一対の隔壁板30a,30bに設けられて、垂直方向VDに延び且つ進行方向FDに対向している。各ガイドフレーム板119は、ガイドフレーム板119の幅方向WDの両側面間の距離が、船底に近づくに従って連続的に大きくなる輪郭形状を有している。
【0044】
一対のブレーキ機構115,115は進行方向FDに対向する装置本体45の両側面に設けられている。そして1つのブレーキ機構115に含まれる一対のブレーキアッセンブリ117は、対応するガイドフレーム板119を側面方向(幅方向)から一対のブレーキシュー121で挟むように配置されている。一対のブレーキシュー121は、ブレーキ機構115の作動時には、対向するガイドフレーム板119との間に摩擦力を発生させることができる。各ブレーキシュー121は、ホルダ123に固定されている。ブレーキシュー121は通常、複合材料で作成されるが、硬帆27をスムーズに降下させるために、静止摩擦が動摩擦になるべく近い大きさで、動摩擦が適当な大きさである材料から選択することが望ましい。またブレーキシュー121に限らず、ブレーキ機構115を構成する各部材は、材料の選択及び/又は表面加工により、十分な耐海水腐食性を備えていることが好ましい。
【0045】
図13(A)及び(B)に示すように、一対のブレーキアッセンブリ117の支持体127は、それぞれ装置本体45にリンク機構128を介して支持されている。支持体127とブレーキシュー121を保持するホルダ123との間には、それぞれ複数のコイルスプリング125が配置されている。複数のコイルスプリング125により、押圧力増強機構が構成されている。
【0046】
複数のコイルスプリング125は、両側面間の距離が船底に近づくに従って連続的に大きくなる輪郭形状を有するガイドフレーム板119の両側面に沿って、一対のブレーキシュー121が船底側に移動するにつれて、ブレーキシュー121が支持体127に近付く過程で蓄勢される。このような構成であれば、複数のコイルスプリング125をスムーズに蓄勢することにより、ブレーキシュー121の押付力を徐々に増大させることができる。押圧力の増強のために蓄勢する手段としては、コイルスプリング125の他に、例えば重ね板ばねやトーションバーなども用いることができる。
【0047】
支持体127の四隅近くには、リンク機構128を構成する4本の揺動リンク129の一端が進行方向FD向きの軸を中心に回動可能に取り付けられており、揺動リンク129の他端は装置本体45から進行方向FDに延びる固定棒(図示していない)を中心に回動可能に設けられている。このリンク機構128により、支持体127及びブレーキシュー121の側面が垂直な姿勢を保持しつつ、ガイドフレーム板119に対し側面方向に変位することができる。
【0048】
支持体127と複数のコイルスプリング125とブレーキシュー121は、1つのブレーキアッセンブリ117を構成している。上記のようなリンク機構128によって、ブレーキアッセンブリ117は、ガイドフレーム板119からブレーキシュー121が側面方向に離れた退避位置と、ガイドフレーム板119の側面にブレーキシュー121を接触させる作動位置との間を移動するように構成されている。ブレーキアッセンブリ117は、定常時は、退避位置にあり、非常時には作動位置に移動する。その結果、定常時には、ブレーキ機構115は硬帆27の上げ下げに影響を与えることがなく、非常時にのみ、ブレーキ機構115が動作状態になる。ブレーキアッセンブリ117は、特別な動力源を用いることなく退避位置から作動位置に移動可能である。特別な動力源を必要としなければ、硬帆収納作業を短時間で実行できる。
【0049】
リンク機構128は、ブレーキアッセンブリ117が退避位置にあるときは、各揺動リンク129が垂直に近い姿勢となり(
図13(A)参照)、ブレーキアッセンブリ117が作動位置にあるときは、各揺動リンク129が水平に近い姿勢になるように変形する(
図14参照)。ブレーキアッセンブリ117を退避位置から作動位置に移動させるために、装置本体45の進行方向FDに対向する側面には係止具131が進行方向FDに沿った軸132に回動可能に保持され、対応する被係止具133は支持体127に固定されている。そして係止具131の一端には下向きのフックが形成され、被係止具133には上向きのフックが形成されていて、相互に係合することにより、定常時は装置本体45に対しブレーキアッセンブリ117を固定して、
図13(A)に示すようにブレーキアッセンブリ117が退避位置にある状態を維持することができる。
【0050】
図13(A)及び(B)に示すように、硬帆27が使用位置に上昇した状態では、係止具131の他端の上面には、船体側の隔壁板(
図13に示されていない)から突出したブレーキ作動ピン135の下面が接している。この状態から、装置本体45をさらに僅かに上昇させると、ブレーキ作動ピン135が係止具131の他端を押し下げ、係止具131が軸132を中心として回動して、係止具131の一端のフックと被係止具133のフックとの係合が外れ、ブレーキアッセンブリ117が退避位置から移動可能な状態に変化する。
【0051】
係止具131と被係止具133との係合の外れたブレーキアッセンブリ117は、自重により、リンク機構128によってガイドフレーム板119とほぼ平行な姿勢を維持しつつ、退避位置から作動位置へと移動し、ガイドフレーム板119の両側面と、ブレーキシュー121の表面とが接触する位置で停止する。装置本体45には、ブレーキアッセンブリ117が作動位置に達したときにブレーキアッセンブリ117をストップし、作動位置から動かないようにロックする機構が備えられている(図示していない)。従って、硬帆27が降下するにつれ、ブレーキアッセンブリ117がブレーキシュー121とガイドフレーム板119との間の摩擦で引きずられた場合でも、各揺動リンク129が回動して、制動力が失われたり、押圧力の増強ができなくなったりする不具合が生ずることはない。
【0052】
ブレーキ作動ピン135は、作業者が手動のハンドルで両舷のウインチを回転させることで装置本体45を上昇させることにより、手動により動作させてもよいが、電動で動作するようにしてもよい。
【0053】
[本実施の形態の動作]
次に本実施の形態を用いると、硬帆27を補助動力として航行していた船舶に、強風が吹き付けられ始めた場合に、硬帆27を可及的速やかに降ろさなければならない事情が生じたとき(即ち非常時)に、迅速に硬帆27を格納することができる。
【0054】
まず、もしも硬帆27の第1の拡張部27a及び第2の拡張部27bが拡張されていた場合には、これらを収納して硬帆27を格納可能な形状にする。
【0055】
続いて、前述のように手動または電動で装置本体45を少し上昇させてブレーキ作動ピン135が係止具131を回動させることにより、係止具131と被係止具133との係止を解除し、ブレーキシュー121がガイドフレーム板119の側面に接触する作動位置までブレーキアッセンブリ117を移動させる。
【0056】
ブレーキ機構115が作動可能な状態になった後に、装置本体45を下降可能にする。すなわち、ピストン43の延伸部分をシリンダ53内から引っ込めて、装置本体45を解放し、第1の原動機71及び第2の原動機73への電力供給を停止し、フリーに回転できるようにし、ウインチ63、63´のアクチュエータへの電力供給を停止して、連結解除機構であるクラッチを切断することにより、昇降機構47と装置本体45との連携関係を解除する。これらの動作は一つのスイッチの切り換えにより同時に実行されるが、事故防止のために、ブレーキ機構115が作動状態になければスイッチが動作しないように機械的及び/又は電気的なインターロックが設けられている。
【0057】
昇降機構との連携関係が解除された装置本体45は、自重により降下するが、ブレーキ機構115が硬帆27を備えた装置本体45の落下を許容すると同時に、装置本体45が船体3の船底に近づくに従って装置本体45の落下速度を機械的に減速する。
【0058】
すなわち、ブレーキ機構115の一部を構成するガイドフレーム板119の側面方向の両側面の距離が、船底に近づく従って連続的に大きくなる輪郭形状を有しているので、支持体127とブレーキシュー121との間に配置された複数のコイルスプリング125が、船底側に移動するにつれて、ブレーキシュー121がガイドフレーム板119に押されて支持体127に近づく過程で蓄勢され、押圧力が増強される。これにより、ブレーキシュー121のガイドフレーム板119への押付力が徐々に増大し、制動力を機械的に増大させる。
図12及び14に示すように、装置本体45が上昇位置にあるときには、ブレーキシュー121はガイドフレーム板119に弱い押付力で接し、装置本体45が下降していくと、コイルスプリング125の蓄勢により、ブレーキシュー121はガイドフレーム板119により強く押し付けられる。
【0059】
このようなブレーキ機構115と連係解除機構を利用した至急の硬帆27の格納過程は、例えば一対の昇降機構59,59´を利用した通常の格納過程が2時間を要するとすれば、例えば40分で終了させることができる。再度硬帆27を上昇させて補助動力として利用する場合には、一対のブレーキアッセンブリ117を退避状態に保持するために、装置本体45が下降した位置にある間に、ブレーキシュー121を外力によって上昇させ(例えば油圧ジャッキを用いる)、係止具131の一端のフックと被係止具133とのフックを再度係合する。その後、昇降機構47及び同期駆動装置67への給電を開始する。
【0060】
以上のように本実施の形態によると、自重を利用した自由落下により硬帆27を格納庫29に収納することができる上で、ブレーキ機構115により、装置本体45が船体3の船底に近づくに従って装置本体45の落下速度を機械的に減速するので、落下する硬帆27を備えた装置本体45が、硬帆の格納庫29の底壁と大きな加速度を持って衝突することを防止できる。その結果、急速に硬帆27を収納しても、船舶の姿勢や運航に支障を生じさせることがない。
【0061】
上記実施の形態は、一例として記載したものであり、その要旨を逸脱しない限り、本発明は本実施の形態に限定されるものではない。
【産業上の利用可能性】
【0062】
本発明によれば、特にできるだけ早く硬帆を格納したい非常時に、自重を利用した自由落下による格納動作を、硬帆を備えた装置本体が船底に近づくに従って落下速度を機械的に減速することにより、装置本体が格納庫の底壁と大きな速度で衝突することを防止して、船舶の姿勢や運航に支障が生じない、硬帆を備えた船舶を提供することができる。
【符号の説明】
【0063】
1 ばら積み貨物船
3 船体
5 船首
7 船尾
9 甲板(上甲板)
11(11A~11I) 船倉
13(13A~13I) 開口部
15(15A~15I) 縁材
17(17A~17I) ハッチカバー
19 船橋
21 レーダーマスト
23 煙突
25(25A~25H) 風力推進装置(硬帆装置)
27(27A~27H) 風力推進力発生部(硬帆)
29(29A~29H) 格納庫
31 入り口
33 蓋部材
35 リブフレーム
37 二重底
39,39´ 一対の下部ホッパータンク
41,41´ 一対の上部ホッパータンク
43 ピストン
45 装置本体
47 昇降装置
49 軸部
51 駆動装置
53 シリンダ
55 第1のローラ
57 第2のローラ
59,59´ 一対の昇降機構
61,61´ 一対の線状体群
63,63´ 一対のウインチ
65,65´ 一対の滑車装置
67 同期駆動装置
69,69´ 回転軸
71 第1の電動機
73 第2の電動機
75 第1の力伝達機構
77 第2の力伝達機構
79 第3の力伝達機構
81 第4の力伝達機構
83 第1の駆動スプロケット
85 第1の被駆動スプロケット
87 第1のチェーン
89 第2の駆動スプロケット
91 第1の被駆動軸
93 第2の被駆動スプロケット
95 第2のチェーン
97 第1の逆転機構
99 第3の駆動スプロケット
101 第3の被駆動スプロケット
103 第3のチェーン
105 第4の駆動スプロケット
107 第2の被駆動軸
109 第4の被駆動スプロケット
111 第4のチェーン
113 第2の逆転機構
115 ブレーキ機構
117 ブレーキアッセンブリ
119 ガイドフレーム板
121 ブレーキシュー
123 ホルダ
125 コイルスプリング
127 支持体
128 リンク機構
129 揺動リンク
131 係止具
133 被係止具
135 ブレーキ作動ピン
【手続補正書】
【提出日】2023-01-31
【手続補正1】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は硬帆を備えた船舶に関するものである。
【背景技術】
【0002】
バルク船等の大型船舶は、大量の化石燃料を消費するため、CO
2の排出源となっている。化石燃料の消費を抑えるため、大型船舶に硬帆を設け、推進力を補助して、CO
2の排出を削減する試みが進められている。特許第5828409号公報(特許文献1)に開示の船舶では、甲板上に複数の硬帆を設置し、風力を用いて、補助的に推進力を得るようにしている。複数の硬帆は、舷(船の側面)側に配置されている。各硬帆は、船体中心に向かって倒して甲板下に配置された帆格納庫に収納可能な可倒式になっている。またこの公報の
図17には、甲板の下に配置された上下方向に延びる昇降装置によって硬帆が上下動して帆格納庫に収納される収納構造が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
硬帆は重量が重く、硬帆を収納するには時間がかかる。そのため天候の急変などで、できるだけ早く硬帆を収納したい場合(非常時)に、従来の構造では、迅速に硬帆を格納することができない問題がある。
【0005】
本発明の目的は、迅速に硬帆を格納することができる硬帆を備えた船舶を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明が対象とする船舶は、甲板下に設けられ、進行方向に複数並んだ船倉と、使用時には甲板上において垂直方向に延び、不使用時には甲板下に設けられた硬帆格納庫に格納される硬帆を含む風力推進装置と、風力推進装置を上下方向に昇降させる硬帆昇降装置を有する1以上の硬帆装置を備えた硬帆を備えた船舶である。硬帆を含む風力推進装置は、風力推進装置の風力推進力の発生部として、ローター帆を採用するものでもよい。「ローター帆」は、甲板上に垂直方向に立てた柱状のローター帆を垂直方向に延びる軸を中心にして回転させて、マグヌス効果により推進力を得る帆のことである。本明細書中の硬帆の語には、ローター帆も含まれる。
【0007】
本発明では、硬帆装置の硬帆格納庫は、進行方向に並ぶ2つの船倉の間に配置されている。硬帆装置は、硬帆を回転可能に支持する軸部と、該軸部を回動させる回動駆動源を含んだ回転駆動装置を備えた装置本体を備えている。また硬帆昇降装置は、進行方向と直交する幅方向に位置する装置本体の両端部を同期した状態で一緒に昇降させる一対の昇降機構を備えており、一対の昇降機構は、緊急時に装置本体との連携関係を解除する連携解除機構を備えている。そして硬帆格納庫を囲む複数の壁部のうち進行方向に対向する一対の壁部または幅方向に対向する一対の壁部と装置本体との間には、昇降機構の連携解除機構が装置本体と昇降機構の連携関係を解除すると、硬帆を備えた装置本体の自由落下を許容するが、装置本体が船体の船底に近づくに従って装置本体の落下速度を機械的に減速する1以上のブレーキ機構が配置されている。
【0008】
本発明によれば、至急に硬帆を下げなければならない状況が発生した際には、連携解除機構により昇降機構と装置本体との連携関係を解除すると、ブレーキ機構が硬帆を備えた装置本体の自由落下を許容するとともに、装置本体が船体の船底に近づくに従って装置本体の落下速度を機械的に減速する動作を行う。その結果、本発明によれば、特別に動力を用いることなく、自重を利用した自由落下により硬帆を硬帆格納庫に収納することができる。その上、本発明によれば、ブレーキ機構により、装置本体が船体の船底に近づくに従って装置本体の落下速度を機械的に減速するので、落下する硬帆を備えた装置本体が、硬帆格納庫の底壁と大きな加速度を持って衝突することを防止できる。その結果、急速に硬帆を収納しても、船舶の姿勢や運航に支障を生じさせることがない。
【0009】
上記機能を発揮するブレーキ機構の構成は任意である。例えば、1以上のブレーキ機構それぞれは、硬帆格納庫を囲む複数の壁部のうち進行方向に対向する一対の壁部及び/又は幅方向に対向する一対の壁部に設けられて垂直方向に延び且つ進行方向に対向する一対のガイドフレーム板と、一対のガイドフレーム板に対応して装置本体に設けられて、対応するガイドフレーム板との間に摩擦力を発生させる1以上のブレーキシューと、装置本体に設けられて装置本体が船体の船底に近づくに従って1以上のブレーキシューをガイドフレーム板に押し付ける力を機械的に強くする押圧力増強機構を備えた構造にすることができる。このような構造を採用すると、装置本体の落下移動と一緒に移動する1以上のブレーキシューをガイドフレーム板に押し付ける力が強くなって、制動力を機械的に増大させることができる。その結果、電動力を必要とすることなく、必要な制動力を得ることができ、ブレーキ機構の信頼性を高めることができる。
【0010】
なおブレーキ機構は、一対のガイドフレーム板に対応して前記装置本体に設けられて、対応するガイドフレーム板を間にガイドフレーム板の側面方向から挟むように配置されてガイドフレーム板との間に摩擦力を発生させる少なくとも一対の1以上のブレーキシューを備える構造でもよい。この場合には、押圧力増強機構は、装置本体に設けられて装置本体が船体の船底に近づくに従って少なくとも一対の1以上のブレーキシューをガイドフレーム板の幅方向又は進行方向の両側面に押し付ける力を機械的に強くする構造を備えればよい。
【0011】
例えば、一対のガイドフレーム板は、ガイドフレーム板の側面方向の両側面間の距離が、船底に近づくに従って連続的に大きくなる輪郭形状を有しているのが好ましい。そして押圧力増強機構は、ガイドフレーム板との間に側面方向に間隔をあけてガイドフレーム板を間に挟むように装置本体に設けられた一対の支持体と、該一対の支持体と一対のブレーキシューとの間に配置され、一対の1以上のブレーキシューがガイドフレーム板の両側面に沿って船底側に移動するにつれてブレーキシューが支持体に近付く過程で蓄勢される1以上の弾性部材とを備えているのが好ましい。このような構成であれば、1以上の弾性部材をスムーズに蓄勢することにより、ブレーキシューの押付力を徐々に増大させることができる。
【0012】
一対の支持体と1以上の弾性部材とブレーキシューは、1つのアッセンブリ(組み物)を構成しているのが好ましい。このアッセンブリは、ガイドフレーム板からブレーキシューが側面方向に離れた退避位置とガイドフレーム板の側面にブレーキシューを接触させる作動位置との間を変位可能に設けられている。そしてアッセンブリは、定常時には、退避位置にあり、迅速に硬帆を下げたい非常時には作動位置にある構造を有している。その結果、定常時には、ブレーキ機構は硬帆の上げ下げに影響を与えることがなく、非常時にのみ、ブレーキ機構が動作状態になる。
アッセンブリは、特別な動力源を用いることなく退避位置から作動位置に移動可能であるのが好ましい。特別な動力源を必要としなければ、硬帆を収納する作業を短時間で実行できる。
【0013】
また硬帆の幅寸法が大きくなる場合や硬帆の重量が重くなる場合には、複数組の一対のガイドフレーム板を、一対の壁部に対して幅方向に間隔をあけて設け、各組の一対のガイドフレーム板に対して、それぞれブレーキ機構を設けるようにしてもよい。このようにすれば、硬帆の幅寸法と重量に応じた適切な減速力を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本発明を適用することができる硬帆を備えた船舶の一例である、ばら積み貨物船の斜視図である。
【
図2】
図1のばら積み貨物船の左側面図(右舷側から見た側面図)である。
【
図4】第7船倉~第9船倉が設けられた船体の後方部分を示した図である。
【
図5】格納庫及び硬帆装置の部分を船体から切り出した状態で示した斜視図である。
【
図6】格納庫の入り口の近傍部と、硬帆装置の装置本体を模式的に示した平面図である。
【
図7】同期駆動装置の詳細を説明するための模式図である。
【
図8】格納庫内に硬帆を格納した状態を示す模式図であり、(A)は正面図、(B)は平面図である。
【
図9】硬帆を格納庫から出して使用状態にした状態を示す模式図であり、(A)は正面図、(B)は平面図である。
【
図10(A)】幅方向寸法が可変になる構造を有した硬帆の例を示す図である。
【
図10(B)】幅方向寸法が可変になる構造を有した硬帆の例を示す図である。
【
図11】本発明の一つの実施の形態が適用された硬帆装置の装置本体と、ブレーキアッセンブリと、ガイドフレーム板との関係を示す概略指図である。
【
図12】(A)は硬帆を使用する位置に装置本体が上昇した状態を示す平面図、(B)は硬帆使用位置にある装置本体と硬帆格納位置にある装置本体との両方を示す正面図、(C)は硬帆を格納する位置に降下した状態を示す平面図である。
【
図13】一対のブレーキアッセンブリとガイドフレーム板を拡大して示す拡大正面図であり、(A)は一対のブレーキアッセンブリが退避位置にある状態を示し、(B)は退避位置から作動位置に移動する寸前の状態を示す図である。
【
図14】作動位置にある一対のブレーキアッセンブリとガイドフレーム板を拡大して示す拡大正面図である。
【
図15】
図12に示したものとは別の実施の形態における装置本体とガイドフレーム板との関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、図面を参照して、本発明の船舶の実施の形態を詳細に説明する。
図1乃至
図11を用いて本発明が適用可能な船舶の一例の構成を説明する。
図1乃至
図11に示した構造では、本発明の構成において必須要件である
連携解除機構及びブレーキ機構は図に示されていない。
図2は、
図1のばら積み貨物船の左側面図(右舷側から見た側面図)であり、
図3は、平面図である。また
図4は、後述する第7船倉~第9船倉が設けられた船体の後方部分の一部切り欠き斜視図である。
【0016】
<全体構成>
図1の本実施の形態のばら積み貨物船1は、船舶の安全性確保のための規則を定める多国間条約「海上における人命の安全のための国際条約(International Convention for the Safety of Life at Sea)(SOLAS条約)」の対象となる、全長55m以上の大型船舶である。ばら積み貨物船1は、船体3の進行方向FDの一方の端部に船首5を有し、他方の端部に船尾7を有し、船体3上に甲板(上甲板)9を有している。ばら積み貨物船1は、船体3内が複数の区画に区切られており、甲板9の下に、
図4に一部を示すように、貨物を積載する船倉11(第1船倉11A~第9船倉11I)が形成されている。なお、
図1には、第1船倉~第9船倉が内部に存在する位置に、符号11A~11Iを付してある。第1船倉11A~第9船倉11Iのそれぞれは、甲板9に開口した開口部13A~13Iと、開口部13A~13Iの周囲を取り囲む縁材(ハッチコーミング)15A~15Iと、船体の幅方向にスライドし、開口部13A~13Iを閉じるハッチカバー17A~17Iを備えている。船尾7には、船橋19と、レーダーマスト21と、煙突23が設けられている。
【0017】
本実施の形態のばら積み貨物船1は、8台の風力推進装置25として硬帆装置を備えている。本実施の形態では、具体的には、8台の風力推進装置25は、8台の硬帆装置25A~25Hである。8台の硬帆装置25A~25Hは、それぞれ風力推進力発生部である硬帆27A~27Hを備えている。
図1乃至
図3では、硬帆装置25A~25Hは、使用状態にあり、甲板9上において垂直方向に硬帆27A~27Hが延びた状態になっている。8台の硬帆装置25A~25Hは、船舶の進行方向FDに並ぶ2つの船倉11の間(例えば、第1船倉11Aと第2船倉11Bの間、第2船倉11Bと第3船倉11Cの間・・・)に配置された格納庫(29A~29H)とセットになっている。なお
図1には、格納庫が存在する位置に符号29A~29Hを付してある。後述のように、硬帆27A~27Hは、甲板9下に設けられた格納庫29A~29H内に格納可能な構成となっている。
【0018】
<硬帆装置の昇降機構>
図4には、第7船倉11G~第9船倉11Iが設けられた船体3の後方部分を示してある。図示したように、第7船倉11Gと第8船倉11Hの間や、第8船倉11Hと第9船倉11Iの間には、船倉同士を隔てる隔壁(30A~30H)が設けられている。なお
図4には、隔壁30Gと隔壁30Hを示してあり、その他の図には隔壁30A~30Fは図示していない。この隔壁30A~30Hは、船舶の進行方向に間隔をあけて並ぶ2枚の隔壁板によって構成されている。この2枚の隔壁板の間に硬帆を収納する格納庫29が設けられている。
【0019】
図4には全ては図示していないが、第1船倉11Aと第2船倉11Bの間には格納庫29A、第2船倉11Bと第3船倉11Cの間には格納庫29B・・・というように、船体3には計8個の格納庫29A~29H(
図1参照)が設けられており、それぞれが硬帆装置25A~25Hとセットになっている。
図4に示した例では、硬帆27Gは、格納庫29Gから出された使用状態であり、硬帆27Hは、格納庫29H内に格納された不使用状態である。必要に応じて硬帆を格納庫内に収納することができるため、風力が航行の妨げになる場合は全ての硬帆を格納庫に格納する事で通常の船舶として航行可能であり、また港にて硬帆を格納庫に格納すれば、硬帆が荷役クレーンの妨げにならない。
【0020】
図5は、格納庫29H及び硬帆装置25Hの部分を船体3から切り出した状態で示した斜視図である。他の格納庫及び硬帆装置も、基本的な構造は同一であるため、以下では、説明の便宜上、区別することなく、格納庫は符号29、硬帆装置は符号25として説明し、他の格納庫及び硬帆装置については、説明を省略する。
図6は、格納庫29の入り口31の近傍部と、硬帆装置25の装置本体45を模式的に示した平面図である。
【0021】
格納庫29は、船体3の幅方向WD、上下方向VD及び進行方向FDに延びる形状をしており、その入り口31を塞ぐ蓋部材33が、甲板9上に開放位置と閉鎖位置との間で移動可能に配置されている。本実施の形態では、蓋部材33は、入り口31を開放する開放位置と入り口31を閉じる閉鎖位置との間で移動させる蓋移動機構を更に備えている。
【0022】
格納庫29内には、複数のリブフレーム35が進行方向FD両側に配置されている。複数のリブフレーム35のうちのいくつかは、後述の装置本体45が昇降する際に振動を抑制するために使用され、その他のリブフレーム35のうちのいくつかは、後述する本発明の一つの実施形態におけるブレーキ機構を構成するガイドフレーム板として利用するように設けられている。複数のリブフレーム35が、進行方向FD両側に配置されている。複数のリブフレーム35は、前述の隔壁30A~30Hを構成する2枚の隔壁板30a及び30b(
図4参照))の内面に。垂直方向に延びるように溶接されている。
【0023】
格納庫29の周囲には、二重底37と、船舷側下部に設けられた一対の下部ホッパータンク39,39´と、船舷側上部に設けられた一対の上部ホッパータンク41,41´とが設けられている。格納庫29の入り口31の近傍部には、後述の装置本体45の固定装置を構成する複数の(本実施の形態では一例として計8本の)ピストン43が配置されている(
図6参照)。
【0024】
硬帆装置25は、風力推進力発生部である硬帆27と、硬帆27が固定された装置本体45と、硬帆27を上下方向に昇降させる昇降装置47とを備えている。装置本体45は、硬帆27を回転可能に支持する軸部49と、該軸部49を回動させる回動駆動源を含んだ駆動装置51を備えている。また、装置本体45の側面には、ピストン43の延伸部分を受け入れる計8つのシリンダ53(
図6では、破線で示してある)と、格納庫29の壁面に接触する4つの第1のローラ55と、リブフレーム35に接触する4つの第2のローラ57が設けられている(
図6参照)。昇降装置47は、幅方向WDに位置する装置本体45の両端部を同期した状態で一緒に昇降させる一対の昇降機構59,59´を備えている。
【0025】
なおピストン43とシリンダ53の組み合わせは、本発明の一つの実施の形態の連携解除機構には含まれないが、昇降機構59,59´に備えた連携解除機構を作動する前又は後に、ピストン43をシリンダ53内から引っ込めて装置本体45が降下できるようにする。
【0026】
[昇降機構の詳細]
図5に示すように、一対の昇降機構59,59´は、一対の線状体群61,61´と、一対のウインチ63,63´と、一対の滑車装置65,65´と、一対の線状体導出部66,66´と、同期駆動装置67を備えている。一対の線状体群61,61´は、装置本体45の両端部にそれぞれ連結された吊り上げ用の複数本の線状体(本実施の形態では複数本のチェーン)からなる。一対のウインチ63,63´は、甲板9上の入り口31の幅方向WDの両側に配置されて、一対の線状体群61,61´に含まれる複数本の線状体を巻き上げ又は巻き下げる。一対の滑車装置65,65´は、複数本の線状体を対応するウインチ63,63´に案内する。一対の線状体導出部66,66´は、複数本の線状体を格納庫内から対応する滑車装置に導出する。同期駆動装置67は、一対のウインチ63,63´を同期して相反する方向に回転駆動する。
【0027】
図7は、同期駆動装置67の詳細を説明するための模式図である。
図7では、一対のウインチ63,63´は回転軸69,69´のみを図示している。回転軸69,69´は一対の端部69a,69b及び69´a,69´bを有している。本実施の形態では、同期駆動装置67は、同期運転される2台の原動機(2つの電動機71及び73)と、第1の力伝達機構75、第2の力伝達機構77、第3の力伝達機構79及び第4の力伝達機構81の計4つの力伝達機構によって構成されている。軸の回転方向は、矢印で明示した通りである。
【0028】
具体的には、第1の原動機71は、第1の駆動軸71aを有しており、第1の力伝達機構75は、第1の原動機71の第1の駆動軸71aとウインチ63の回転軸69の一方の端部69aとの間に設けられて、第1の駆動軸71aの回転を、ウインチ63の回転軸69が、第1の駆動軸71aと同じ方向に回転するように伝達する。第2の力伝達機構77は、第1の原動機71の第1の駆動軸71aとウインチ63´の回転軸69´の一方の端部69´aとの間に設けられて、第1の駆動軸71aの回転を、ウインチ63´の回転軸69´が、第1の駆動軸71aと逆方向に回転するように伝達する。
【0029】
より詳細には、第1の力伝達機構75は、第1の駆動軸71aに設けられた第1の駆動スプロケット83と、回転軸69の一方の端部69aに設けられた第1の被駆動スプロケット85と、第1の駆動スプロケット83と第1の被駆動スプロケット85との間に張り渡された第1のチェーン87とを備えており、第2の力伝達機構77は、第1の駆動軸71aに設けられた第2の駆動スプロケット89と、回転軸69´の一方の端部69´aの近傍に配置された第1の被駆動軸91に設けられた第2の被駆動スプロケット93と、第2の駆動スプロケット89と第2の被駆動スプロケット93との間に張り渡された第2のチェーン95と、回転軸69´と第1の被駆動軸との間に設けられて、第1の被駆動軸91の回転力で第1の被駆動軸91の回転方向とは逆方向に回転軸69´を回転させる第1の逆転機構97とを備えている。
【0030】
また、第2の原動機73は、第2の駆動軸73aを有しており、第3の力伝達機構79は、第2の原動機73の第2の駆動軸73aとウインチ63´の回転軸69´の他方の端部69´bとの間に設けられて、第2の駆動軸73aの回転を、ウインチ63´の回転軸69´が、第2の駆動軸73aと同じ方向に回転するように伝達する。第4の力伝達機構81は、第2の原動機73の第2の駆動軸73aとウインチ63の回転軸69の他方の端部69bとの間に設けられて、第2の駆動軸73aの回転を、ウインチ63の回転軸69が、第2の駆動軸73aと逆方向に回転するように伝達する。
【0031】
より詳細には、第3の力伝達機構79は、第2の駆動軸73aに設けられた第3の駆動スプロケット99と、回転軸69´の他方の端部69´bに設けられた第3の被駆動スプロケット101と、第3の駆動スプロケット99と第3の被駆動スプロケット101との間に張り渡された第3のチェーン103とを備えており、第4の力伝達機構81は、第2の駆動軸73aに設けられた第4の駆動スプロケット105と、回転軸69の他方の端部69bの近傍に配置された第2の被駆動軸107に設けられた第4の被駆動スプロケット109と、第4の駆動スプロケット105と第4の被駆動スプロケット109との間に張り渡された第4のチェーン111と、回転軸69と第2の被駆動軸107との間に設けられて、第2の被駆動軸107の回転力で第2の被駆動軸107の回転方向とは逆方向に回転軸69を回転させる第2の逆転機構113とを備えている。
【0032】
このようにすることで、2台の原動機71及び73を用いて同期駆動装置67を実現することができ、負荷の分散が可能である。また、原動機を2台にすることで、2台のうち、1台の原動機が故障等したとしても、同期駆動装置を駆動させることができ、冗長化することもできる。
【0033】
[昇降機構の動作]
図8は、格納庫29内に硬帆27を格納した状態を示す模式図であり、(A)は正面図、(B)は平面図であり、
図9は、硬帆27を格納庫29から出して使用状態にした状態を示す模式図であり、(A)は正面図、(B)は平面図である。
図8(B)及び
図9(B)では、蓋部材33は省略してあり、また、硬帆部分については、説明の便宜上、一部透明なものとして図示してある。なお
図8及び
図9には、
図1乃至
図7に示した部材と同一の部材には、
図1乃至
図7に付した符号と同じ符号を付してある。
【0034】
格納庫29内に硬帆27を格納した状態(
図8A及び
図8B)では、蓋部材33は入り口31を閉じる閉鎖位置に存在する。硬帆を使用状態にする場合は、蓋部材33を開放位置に移動させてから、第1及び第2の電動機71,73を駆動させる。第1及び第2の電動機71,73を駆動させると、一対のウインチ63,63´が一対の線状体群61,61´を巻き取ることで、装置本体45の両端部が同期した状態で上昇する。そして装置本体45が入り口31の近傍部まで上昇したところで、ピストン43を作動させ、ピストン43の延伸部分をシリンダ53内に挿入し、装置本体45を固定し、硬帆を使用状態にする(
図9A及び
図9B)。
【0035】
[硬帆の拡張]
本実施の形態では、
図1に示した硬帆27D~27Hは、それぞれ幅方向寸法が可変になる構造も有している。具体的には、
図10(A)及び
図10(B)に示すように、内側に第1の拡張部27a及び第2の拡張部27bを収納している。甲板9上に硬帆27を出した状態で、第1の拡張部27a及び第2の拡張部27bを繰り出すことにより、風を受ける硬帆27の面積を拡張させることが可能である。
【0036】
<
連携解除機構及びブレーキ機構の構成>
以下
図1乃至
図10(B)で説明した、ばら積み貨物船に本発明を適用するために用いる
連携解除機構及びブレーキ機構の一例について説明する。
【0037】
本発明の一実施の形態における硬帆を迅速に収納する構成は、上記のように、甲板9の下に設けられ、進行方向FDに複数並んだ船倉11A~11Iと、使用時には甲板9上において垂直方向VDに延び、不使用時には甲板9の下に設けられた硬帆の格納庫29A~29Hに格納される硬帆(風力推進装置)27A~27Hと、硬帆27A~27Hを上下方向に昇降させる硬帆の昇降装置47を有する硬帆装置25A~25Hを備えた硬帆を備えた船舶に適用される。
【0038】
硬帆装置25A~25Hの硬帆格納庫29A~29Hは、進行方向FDに並ぶ2つの船倉11A~11Iの間に配置されている。硬帆装置25A~25Hは、硬帆27A~27Hを回転可能に支持する軸部49と、該軸部49を回動させる回動駆動源を含んだ回転駆動装置を備えた装置本体45を備えている。また
図5に示すように、硬帆の昇降装置47は、進行方向FDと直交する幅方向WDに位置する装置本体45の両端部を同期した状態で一緒に昇降させる一対の昇降機構59,59´を備えている。
【0039】
本実施の形態では、
図5に示した一対の昇降機構59,59´が、緊急時に装置本体45との連携関係を解除する連携解除機構を備えている。具体的な連携解除機構は、一対のウインチ63,63´の図示しない減速機の内部に備えられたクラッチであり、一対のウインチ63,63´への通電を遮断すると、クラッチが開放状態になり、ウインチ63,63´の駆動軸がフリーになって、装置本体45は硬帆使用位置から下降できるようになる。また
図5に示す同期駆動装置67も、電力供給を停止しても、第1の電動機71及び第2の電動機73が硬帆27の格納庫29への降下を妨げることはない。
【0040】
図4に示す硬帆の格納庫29A~29Hを囲む隔壁30A~30Hを構成する複数の隔壁板のうち進行方向FDに対向する一対の隔壁板30a,30b(
図4,
図11)と装置本体45との間のスペースには複数のブレーキ機構115が移動可能に配置されている。複数のブレーキ機構115は、装置本体45に固定されて、装置本体4と一緒に移動する。
図5に示す昇降機構59,59´の連携解除機構である一対のウインチ63,63´のクラッチが切れてウインチ63,63´の駆動軸がフリーになって、装置本体45と昇降機構59,59´の線条体群61,61´との連携関係が解除されると、硬帆27A~27Hを備えた装置本体45は落下を開始する。このとき複数のブレーキ機構115は、装置本体45が船体3の船底に近づくに従って装置本体45の落下速度を機械的に減速する。
【0041】
以下、本実施の形態で用いるブレーキ機構115について詳しく説明する。
図12(A)乃至(C)は硬帆装置25A~25Hの装置本体45とガイドフレーム板119との関係を示す図である。
図12(A)は硬帆27を使用する位置に装置本体45が上昇した状態を示す概略平面図であり、
図12(B)は硬帆27が使用位置にある装置本体45と硬帆27が格納位置にある装置本体45との両方を説明のために便宜的に示す概略正面図である。
図12(C)は硬帆27を格納する位置に降下した状態を示す平面図である。
図13は一対のブレーキアッセンブリ117とガイドフレーム板119とからなるブレーキ機構115を拡大して示す拡大正面図であり、
図13(A)は一対のブレーキアッセンブリ117が退避位置にある状態を示し、
図13(B)は退避位置から作動位置に移動する寸前の状態を示す。
図14は
図12に示した実施の形態に含まれる一つのブレーキアッセンブリ117とガイドフレーム板119を拡大して示す拡大正面図である。
【0042】
各図において、1つのブレーキ機構115は、ガイドフレーム板119と、ガイドフレーム板119に対応して装置本体45に設けられる一対のブレーキアッセンブリ117とから構成される。1つのブレーキアッセンブリ117は、ブレーキシュー121、押圧力増強機構を構成する複数のコイルスプリング125及び支持体127を備えている。本実施の形態では、硬帆27の幅寸法が大きく、硬帆27の重量が重いため、6個のブレーキ機構115が設けられている。3組の一対のブレーキ機構115,115が、一対の隔壁板30a,30bに対して幅方向WDに間隔をあけて設けられて進行方向FDに対向する3組の一対のガイドフレーム板119,119にそれぞれ対応している。言い換えると一組の一対のブレーキ機構115が、進行方向FDに並ぶ一組の一対のガイドフレーム板119,119に対応して、装置本体45の両側に固定されている。一対のガイドフレーム板119,119と一対のブレーキ機構115,115の数は、硬帆27の幅寸法と重量に応じた適切な減速力を得ることができるように定められる。硬帆27の幅寸法や重量が小さい場合には、
図15の他の実施の形態に示すように、2組の一対のガイドフレーム板119,119を設け、これに対応する2組の一対のブレーキ機構115,115を装置本体45´に備えた構成としてもよい。ブレーキ機構115の数は、幅寸法や重量に応じて1組のみでも4組以上でもよい。
【0043】
一対のガイドフレーム板119は、硬帆27の格納庫29を囲む隔壁30の進行方向FDに対向する一対の隔壁板30a,30bに設けられて、垂直方向VDに延び且つ進行方向FDに対向している。各ガイドフレーム板119は、ガイドフレーム板119の幅方向WDの両側面間の距離が、船底に近づくに従って連続的に大きくなる輪郭形状を有している。
【0044】
一対のブレーキ機構115,115は進行方向FDに対向する装置本体45の両側面に設けられている。そして1つのブレーキ機構115に含まれる一対のブレーキアッセンブリ117は、対応するガイドフレーム板119を側面方向(幅方向)から一対のブレーキシュー121で挟むように配置されている。一対のブレーキシュー121は、ブレーキ機構115の作動時には、対向するガイドフレーム板119との間に摩擦力を発生させることができる。各ブレーキシュー121は、ホルダ123に固定されている。ブレーキシュー121は通常、複合材料で作成されるが、硬帆27をスムーズに降下させるために、静止摩擦が動摩擦になるべく近い大きさで、動摩擦が適当な大きさである材料から選択することが望ましい。またブレーキシュー121に限らず、ブレーキ機構115を構成する各部材は、材料の選択及び/又は表面加工により、十分な耐海水腐食性を備えていることが好ましい。
【0045】
図13(A)及び(B)に示すように、一対のブレーキアッセンブリ117の支持体127は、それぞれ装置本体45にリンク機構128を介して支持されている。支持体127とブレーキシュー121を保持するホルダ123との間には、それぞれ複数のコイルスプリング125が配置されている。複数のコイルスプリング125により、押圧力増強機構が構成されている。
【0046】
複数のコイルスプリング125は、両側面間の距離が船底に近づくに従って連続的に大きくなる輪郭形状を有するガイドフレーム板119の両側面に沿って、一対のブレーキシュー121が船底側に移動するにつれて、ブレーキシュー121が支持体127に近付く過程で蓄勢される。このような構成であれば、複数のコイルスプリング125をスムーズに蓄勢することにより、ブレーキシュー121の押付力を徐々に増大させることができる。押圧力の増強のために蓄勢する手段としては、コイルスプリング125の他に、例えば重ね板ばねやトーションバーなども用いることができる。
【0047】
支持体127の四隅近くには、リンク機構128を構成する4本の揺動リンク129の一端が進行方向FD向きの軸を中心に回動可能に取り付けられており、揺動リンク129の他端は装置本体45から進行方向FDに延びる固定棒(図示していない)を中心に回動可能に設けられている。このリンク機構128により、支持体127及びブレーキシュー121の側面が垂直な姿勢を保持しつつ、ガイドフレーム板119に対し側面方向に変位することができる。
【0048】
支持体127と複数のコイルスプリング125とブレーキシュー121は、1つのブレーキアッセンブリ117を構成している。上記のようなリンク機構128によって、ブレーキアッセンブリ117は、ガイドフレーム板119からブレーキシュー121が側面方向に離れた退避位置と、ガイドフレーム板119の側面にブレーキシュー121を接触させる作動位置との間を移動するように構成されている。ブレーキアッセンブリ117は、定常時は、退避位置にあり、非常時には作動位置に移動する。その結果、定常時には、ブレーキ機構115は硬帆27の上げ下げに影響を与えることがなく、非常時にのみ、ブレーキ機構115が動作状態になる。ブレーキアッセンブリ117は、特別な動力源を用いることなく退避位置から作動位置に移動可能である。特別な動力源を必要としなければ、硬帆収納作業を短時間で実行できる。
【0049】
リンク機構128は、ブレーキアッセンブリ117が退避位置にあるときは、各揺動リンク129が垂直に近い姿勢となり(
図13(A)参照)、ブレーキアッセンブリ117が作動位置にあるときは、各揺動リンク129が水平に近い姿勢になるように変形する(
図14参照)。ブレーキアッセンブリ117を退避位置から作動位置に移動させるために、装置本体45の進行方向FDに対向する側面には係止具131が進行方向FDに沿った軸132に回動可能に保持され、対応する被係止具133は支持体127に固定されている。そして係止具131の一端には下向きのフックが形成され、被係止具133には上向きのフックが形成されていて、相互に係合することにより、定常時は装置本体45に対しブレーキアッセンブリ117を固定して、
図13(A)に示すようにブレーキアッセンブリ117が退避位置にある状態を維持することができる。
【0050】
図13(A)及び(B)に示すように、硬帆27が使用位置に上昇した状態では、係止具131の他端の上面には、船体側の隔壁板(
図13に示されていない)から突出したブレーキ作動ピン135の下面が接している。この状態から、装置本体45をさらに僅かに上昇させると、ブレーキ作動ピン135が係止具131の他端を押し下げ、係止具131が軸132を中心として回動して、係止具131の一端のフックと被係止具133のフックとの係合が外れ、ブレーキアッセンブリ117が退避位置から移動可能な状態に変化する。
【0051】
係止具131と被係止具133との係合の外れたブレーキアッセンブリ117は、自重により、リンク機構128によってガイドフレーム板119とほぼ平行な姿勢を維持しつつ、退避位置から作動位置へと移動し、ガイドフレーム板119の両側面と、ブレーキシュー121の表面とが接触する位置で停止する。装置本体45には、ブレーキアッセンブリ117が作動位置に達したときにブレーキアッセンブリ117をストップし、作動位置から動かないようにロックする機構が備えられている(図示していない)。従って、硬帆27が降下するにつれ、ブレーキアッセンブリ117がブレーキシュー121とガイドフレーム板119との間の摩擦で引きずられた場合でも、各揺動リンク129が回動して、制動力が失われたり、押圧力の増強ができなくなったりする不具合が生ずることはない。
【0052】
ブレーキ作動ピン135は、作業者が手動のハンドルで両舷のウインチを回転させることで装置本体45を上昇させることにより、手動により動作させてもよいが、電動で動作するようにしてもよい。
【0053】
[本実施の形態の動作]
次に本実施の形態を用いると、硬帆27を補助動力として航行していた船舶に、強風が吹き付けられ始めた場合に、硬帆27を可及的速やかに降ろさなければならない事情が生じたとき(即ち非常時)に、迅速に硬帆27を格納することができる。
【0054】
まず、もしも硬帆27の第1の拡張部27a及び第2の拡張部27bが拡張されていた場合には、これらを収納して硬帆27を格納可能な形状にする。
【0055】
続いて、前述のように手動または電動で装置本体45を少し上昇させてブレーキ作動ピン135が係止具131を回動させることにより、係止具131と被係止具133との係止を解除し、ブレーキシュー121がガイドフレーム板119の側面に接触する作動位置までブレーキアッセンブリ117を移動させる。
【0056】
ブレーキ機構115が作動可能な状態になった後に、装置本体45を下降可能にする。すなわち、ピストン43の延伸部分をシリンダ53内から引っ込めて、装置本体45を解放し、第1の原動機71及び第2の原動機73への電力供給を停止し、フリーに回転できるようにし、ウインチ63,63´のアクチュエータへの電力供給を停止して、連携解除機構であるクラッチを切断することにより、昇降機構47と装置本体45との連携関係を解除する。これらの動作は一つのスイッチの切り換えにより同時に実行されるが、事故防止のために、ブレーキ機構115が作動状態になければスイッチが動作しないように機械的及び/又は電気的なインターロックが設けられている。
【0057】
昇降機構との連携関係が解除された装置本体45は、自重により降下するが、ブレーキ機構115が硬帆27を備えた装置本体45の落下を許容すると同時に、装置本体45が船体3の船底に近づくに従って装置本体45の落下速度を機械的に減速する。
【0058】
すなわち、ブレーキ機構115の一部を構成するガイドフレーム板119の側面方向の両側面の距離が、船底に
近づくに従って連続的に大きくなる輪郭形状を有しているので、支持体127とブレーキシュー121との間に配置された複数のコイルスプリング125が、船底側に移動するにつれて、ブレーキシュー121がガイドフレーム板119に押されて支持体127に近づく過程で蓄勢され、押圧力が増強される。これにより、ブレーキシュー121のガイドフレーム板119への押付力が徐々に増大し、制動力を機械的に増大させる。
図12及び14に示すように、装置本体45が上昇位置にあるときには、ブレーキシュー121はガイドフレーム板119に弱い押付力で接し、装置本体45が下降していくと、コイルスプリング125の蓄勢により、ブレーキシュー121はガイドフレーム板119により強く押し付けられる。
【0059】
このようなブレーキ機構115と連携解除機構を利用した至急の硬帆27の格納過程は、例えば一対の昇降機構59,59´を利用した通常の格納過程が2時間を要するとすれば、例えば40分で終了させることができる。再度硬帆27を上昇させて補助動力として利用する場合には、一対のブレーキアッセンブリ117を退避状態に保持するために、装置本体45が下降した位置にある間に、ブレーキシュー121を外力によって上昇させ(例えば油圧ジャッキを用いる)、係止具131の一端のフックと被係止具133とのフックを再度係合する。その後、昇降機構47及び同期駆動装置67への給電を開始する。
【0060】
以上のように本実施の形態によると、自重を利用した自由落下により硬帆27を格納庫29に収納することができる上で、ブレーキ機構115により、装置本体45が船体3の船底に近づくに従って装置本体45の落下速度を機械的に減速するので、落下する硬帆27を備えた装置本体45が、硬帆の格納庫29の底壁と大きな加速度を持って衝突することを防止できる。その結果、急速に硬帆27を収納しても、船舶の姿勢や運航に支障を生じさせることがない。
【0061】
上記実施の形態は、一例として記載したものであり、その要旨を逸脱しない限り、本発明は本実施の形態に限定されるものではない。
【産業上の利用可能性】
【0062】
本発明によれば、特にできるだけ早く硬帆を格納したい非常時に、自重を利用した自由落下による格納動作を、硬帆を備えた装置本体が船底に近づくに従って落下速度を機械的に減速することにより、装置本体が格納庫の底壁と大きな速度で衝突することを防止して、船舶の姿勢や運航に支障が生じない、硬帆を備えた船舶を提供することができる。
【符号の説明】
【0063】
1 ばら積み貨物船
3 船体
5 船首
7 船尾
9 甲板(上甲板)
11(11A~11I) 船倉
13(13A~13I) 開口部
15(15A~15I) 縁材
17(17A~17I) ハッチカバー
19 船橋
21 レーダーマスト
23 煙突
25(25A~25H) 風力推進装置(硬帆装置)
27(27A~27H) 風力推進力発生部(硬帆)
29(29A~29H) 格納庫
31 入り口
33 蓋部材
35 リブフレーム
37 二重底
39,39´ 一対の下部ホッパータンク
41,41´ 一対の上部ホッパータンク
43 ピストン
45 装置本体
47 昇降装置
49 軸部
51 駆動装置
53 シリンダ
55 第1のローラ
57 第2のローラ
59,59´ 一対の昇降機構
61,61´ 一対の線状体群
63,63´ 一対のウインチ
65,65´ 一対の滑車装置
67 同期駆動装置
69,69´ 回転軸
71 第1の電動機
73 第2の電動機
75 第1の力伝達機構
77 第2の力伝達機構
79 第3の力伝達機構
81 第4の力伝達機構
83 第1の駆動スプロケット
85 第1の被駆動スプロケット
87 第1のチェーン
89 第2の駆動スプロケット
91 第1の被駆動軸
93 第2の被駆動スプロケット
95 第2のチェーン
97 第1の逆転機構
99 第3の駆動スプロケット
101 第3の被駆動スプロケット
103 第3のチェーン
105 第4の駆動スプロケット
107 第2の被駆動軸
109 第4の被駆動スプロケット
111 第4のチェーン
113 第2の逆転機構
115 ブレーキ機構
117 ブレーキアッセンブリ
119 ガイドフレーム板
121 ブレーキシュー
123 ホルダ
125 コイルスプリング
127 支持体
128 リンク機構
129 揺動リンク
131 係止具
133 被係止具
135 ブレーキ作動ピン
【手続補正2】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
甲板下に設けられ、進行方向に複数並んだ船倉と、
使用時には前記甲板上において垂直方向に延び、不使用時には前記甲板下に設けられた硬帆格納庫に格納される硬帆を含む風力推進装置と、前記風力推進装置を上下方向に昇降させる硬帆昇降装置を有する1以上の硬帆装置を備えた硬帆を備えた船舶であって、
前記硬帆装置の前記硬帆格納庫は、前記進行方向に並ぶ2つの前記船倉の間に配置されており、
前記硬帆装置は、前記硬帆を回転可能に支持する軸部と、該軸部を回動させる回動駆動源を含んだ回転駆動装置を備えた装置本体を備え、
前記硬帆昇降装置は、前記進行方向と直交する幅方向に位置する前記装置本体の両端部を同期した状態で一緒に昇降させる一対の昇降機構を備えており、
前記一対の昇降機構は、緊急時に前記装置本体との連携関係を解除する連携解除機構を備えており、
前記硬帆格納庫を囲む複数の壁部のうち前記進行方向に対向する一対の壁部または前記幅方向に対向する一対の壁部と前記装置本体との間には、前記昇降機構の前記連携解除機構が前記装置本体と前記昇降機構の連携関係を解除すると、前記硬帆を備えた前記装置本体の自由落下を許容するが、前記装置本体が船体の船底に近づくに従って前記装置本体の落下速度を機械的に減速する1以上のブレーキ機構が配置されていることを特徴とする硬帆を備えた船舶。
【請求項2】
前記1以上のブレーキ機構は、前記幅方向に間隔を開けて配置された複数のブレーキ機構からなる請求項1に記載の硬帆を備えた船舶。
【請求項3】
前記ブレーキ機構は、
前記一対の壁部に設けられて前記垂直方向に延び且つ前記進行方向に対向する一対のガイドフレーム板と、
前記一対のガイドフレーム板に対応して前記装置本体に設けられて、対応する前記ガイドフレーム板との間に摩擦力を発生させる1以上のブレーキシューと、
前記装置本体に設けられて前記装置本体が船体の船底に近づくに従って前記1以上のブレーキシューを前記ガイドフレーム板に押し付ける力を機械的に強くする押圧力増強機構を備えている請求項1または2に記載の硬帆を備えた船舶。
【請求項4】
前記ブレーキ機構は、
前記一対の壁部に設けられて前記垂直方向に延び且つ前記進行方向に対向する一対のガイドフレーム板と、
前記一対のガイドフレーム板に対応して前記装置本体に設けられて、対応する前記ガイドフレーム板を間にして前記ガイドフレーム板の側面方向から挟むように配置されて前記ガイドフレーム板との間に摩擦力を発生させる一対の1以上のブレーキシューと、
前記装置本体に設けられて前記装置本体が船体の船底に近づくに従って前記一対の1以上のブレーキシューを前記ガイドフレーム板の前記側面方向の両側面に押し付ける力を機械的に強くする押圧力増強機構を備えている請求項1または2に記載の硬帆を備えた船舶。
【請求項5】
前記一対のガイドフレーム板は、前記ガイドフレーム板の前記側面方向の両側面間の距離が、前記船底に近づくに従って連続的に大きくなる輪郭形状を有しており、
前記押圧力増強機構は、前記ガイドフレーム板との間に前記幅方向に間隔をあけて前記ガイドフレーム板を間に挟むように前記装置本体に設けられた一対の支持体と、該一対の支持体と前記一対の1以上のブレーキシューとの間に配置され、前記一対の1以上のブレーキシューが前記ガイドフレーム板の前記両側面に沿って前記船底側に移動するにつれて前記一対の1以上のブレーキシューが前記支持体に近付く過程で蓄勢される1以上の弾性部材とを備えている請求項4に記載の硬帆を備えた船舶。
【請求項6】
前記一対の支持体と前記1以上の弾性部材と前記ブレーキシューは、1つのアッセンブリを構成しており、
前記アッセンブリは、前記ガイドフレーム板から前記ブレーキシューが前記側面方向に離れた退避位置と前記ガイドフレーム板の前記側面に前記ブレーキシューを接触させる作動位置との間を変位可能に設けられており、
前記アッセンブリは、定常時には、前記退避位置にあり、非常には前記作動位置にあることを特徴とする請求項5に記載の硬帆を備えた船舶。
【請求項7】
前記アッセンブリは、特別な動力源を用いることなく前記退避位置から前記作動位置に移動可能である請求項6に記載の硬帆を備えた船舶。
【請求項8】
複数組の前記一対のガイドフレーム板が、前記一対の壁部に対して前記幅方向に間隔をあけて設けられており、
各組の前記一対のガイドフレーム板に対して、前記ブレーキ機構が設けられている請求項3に記載の硬帆を備えた船舶。