(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023104482
(43)【公開日】2023-07-28
(54)【発明の名称】損傷状況診断方法、損傷状況診断プログラム、損傷状況診断システム及び学習済みモデル作成方法
(51)【国際特許分類】
G06Q 10/04 20230101AFI20230721BHJP
G06Q 50/08 20120101ALI20230721BHJP
【FI】
G06Q10/04
G06Q50/08
【審査請求】未請求
【請求項の数】15
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022005485
(22)【出願日】2022-01-18
(71)【出願人】
【識別番号】391021710
【氏名又は名称】株式会社インテック
(71)【出願人】
【識別番号】515196539
【氏名又は名称】株式会社フルテック
(74)【代理人】
【識別番号】100095430
【弁理士】
【氏名又は名称】廣澤 勲
(72)【発明者】
【氏名】金山 健一
(72)【発明者】
【氏名】大屋 由香里
(72)【発明者】
【氏名】橋本 洋一
(72)【発明者】
【氏名】古村 崇
(72)【発明者】
【氏名】四津 敬子
【テーマコード(参考)】
5L049
【Fターム(参考)】
5L049AA04
5L049CC07
(57)【要約】
【課題】診断対象構造物の損傷原因等をより的確に診断できる損傷状況診断方法等を提供する。
【解決手段】任意の構造物についての構造物情報(設計情報/環境情報/損傷情報)であって、損傷が発生している場合にその損傷原因がラベリングされた複数の構造物情報を学習データとし、当該学習データに基づく機械学習によって作成された損傷原因推定用学習済みモデル12を取得する学習済みモデル準備ステップS11を備える。診断対象構造物14についての構造物情報を損傷原因推定用学習済みモデル12に入力することによって、診断対象構造物14に発生している損傷の原因である可能性が高い推定損傷原因を特定し、診断対象構造物14の構造物情報の中の、推定損傷原因を特定する根拠となった根拠情報を添えて出力する診断ステップS12を備える。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
適宜の環境に設置された診断対象構造物についての情報を基に当該診断対象構造物の損傷状況を診断する方法であって、前記診断対象構造物についての情報が入力されたコンピュータシステムにより実行される損傷状況診断方法において、
構造物の構造上の特徴を表したテキストデータで成る設計情報と、当該構造物の設置環境を表したテキストデータで成る環境情報と、当該構造物の表面の観測結果を表したテキストデータで成る損傷情報とで構成される情報の集合体を構造物情報と定義し、
任意の構造物についての前記構造物情報であって、損傷が発生している場合にその損傷原因がラベリングされた複数の前記構造物情報を学習データとし、当該学習データに基づく機械学習によって損傷原因推定用学習済みモデルを作成する、又は作成された前記損傷原因推定用学習済みモデルを取得する学習済みモデル準備ステップと、
前記診断対象構造物についての前記構造物情報を前記損傷原因推定用学習済みモデルに入力することによって、当該診断対象構造物に発生している損傷の原因である可能性が高い推定損傷原因を特定し、当該診断対象構造物の前記構造物情報の中の、前記推定損傷原因を特定する根拠となった根拠情報を添えて出力する診断ステップとを備えることを特徴とする損傷状況診断方法。
【請求項2】
前記環境情報には、構造物の所在地を示す位置情報と、当該構造物が設置されている地域の特徴を示す地域情報とが含まれ、前記地域情報には、当該地域の過去の気候に関する情報、当該地域に設置された構造物で過去に発生した損傷に関する情報、及び当該地域の地理的な特徴を示す情報の中の少なくとも1つが含まれており、
前記診断ステップでは、前記診断対象構造物の前記位置情報を基に、あらかじめ前記コンピュータシステム内に設けたデータベースを能動的に参照し、又はインターネット上に存在するWebサイトに能動的にアクセスし、当該診断対象構造物に対応する前記地域情報を取得する請求項1記載の損傷状況診断方法。
【請求項3】
前記診断ステップでは、前記学習データにラベリングされた複数種類の損傷原因の中の一部又は全部を原因類型とし、前記診断対象構造物について、前記原因類型毎に、当該原因類型による損傷が発生している可能性の高低を推定する請求項1又は2記載の損傷状況診断方法。
【請求項4】
前記学習済みモデル準備ステップでは、任意の構造物についての前記構造物情報を説明変数とし、前記原因類型毎に、当該原因類型による損傷が発生している可能性の高低を目的変数としたロジスティック回帰分析の手法を用いて前記損傷原因推定用学習済みモデルを作成し、又は前記原因類型毎に作成された前記損傷原因推定用学習済みモデルを取得し、前記診断ステップでは、前記診断対象構造物についての前記構造物情報を説明変数とし、前記原因類型毎の前記損傷原因推定用学習済みモデルに入力することによって、前記原因類型毎に、当該原因類型による損傷が発生している可能性の高低を推定する請求項3記載の損傷状況診断方法。
【請求項5】
前記学習済みモデル準備ステップでは、任意の構造物の部位毎又は部材毎に前記損傷原因推定用学習済みモデルを作成し、又は、部位毎又は部材毎に作成された前記損傷原因推定用学習済みモデルを取得し、前記診断ステップでは、前記診断対象構造物についての前記構造物情報を部位毎又は部材毎の前記損傷原因推定用学習済みモデルに入力し、部位毎又は部材毎に前記推定損傷原因を特定する請求項1乃至4のいずれか記載の損傷状況診断方法。
【請求項6】
前記学習済みモデル準備ステップでは、任意の構造物についての前記構造物情報であって、損傷の程度を示す健全度がラベリングされた複数の前記構造物情報を学習データとし、当該学習データに基づく機械学習によって健全度推定用学習済みモデルを作成し、又は作成された前記健全度推定用学習済みモデルを取得し、前記診断ステップでは、前記診断対象構造物についての前記構造物情報を前記健全度推定用学習済みモデルに入力することによって、当該診断対象構造物の推定健全度を特定し、当該診断対象構造物の前記構造物情報の中の、前記推定健全度を特定する根拠となった根拠情報を添えて出力する請求項1乃至5のいずれか記載の損傷状況診断方法。
【請求項7】
前記学習済みモデル準備ステップでは、任意の構造物についての前記構造物情報を説明変数とし、損傷の程度を示す健全度を目的変数としたロジスティック回帰分析の手法を用いて前記健全度推定用学習済みモデルを作成し、又は作成された前記健全度推定用学習済みモデルを取得し、前記診断ステップでは、当該診断対象構造物についての前記構造物情報を説明変数として前記健全度推定用学習済みモデルに入力することによって、当該診断対象構造物の前記推定健全度を特定する請求項6記載の損傷状況診断方法。
【請求項8】
前記学習済みモデル準備ステップでは、任意の構造物の部位毎又は部材毎に前記健全度推定用学習済みモデルを作成し、又は、部位毎又は部材毎に作成された前記健全度推定用学習済みモデルを取得し、前記診断ステップでは、前記診断対象構造物についての前記構造物情報を部位毎又は部材毎の前記健全度推定用学習済みモデルに入力し、部位毎又は部材毎に前記推定健全度を特定する請求項6又は7記載の損傷状況診断方法。
【請求項9】
前記診断対象構造物は、コンクリート製の部材又は鋼製の部材又はその両方を備えた構造物である請求項1乃至8のいずれか記載の損傷状況診断方法。
【請求項10】
請求項1乃至9のいずれか記載の損傷状況診断方法をコンピュータシステムに実行させるための、各ステップ実行用プログラムから成る損傷状況診断プログラム。
【請求項11】
適宜の環境に設置された診断対象構造物についての情報を基に当該診断対象構造物の損傷状況を診断するコンピュータで成る損傷状況診断システムにおいて、
構造物の構造上の特徴を表したテキストデータで成る設計情報と、当該構造物の設置環境を表したテキストデータで成る環境情報と、当該構造物の表面の観測結果を表したテキストデータで成る損傷情報とで構成される情報の集合体を構造物情報と定義し、
任意の構造物についての前記構造物情報であって、損傷が発生している場合にその損傷原因がラベリングされた複数の前記構造物情報を学習データとし、当該学習データに基づく機械学習によって作成された損傷原因推定用学習済みモデルを有し、
前記診断対象構造物についての前記構造物情報を前記損傷原因推定用学習済みモデルに入力することによって、当該診断対象構造物に発生している損傷の原因である可能性が高い推定損傷原因を特定し、当該診断対象構造物の前記構造物情報の中の、前記推定損傷原因を特定する根拠となった根拠情報を添えて出力することを特徴とする損傷状況診断システム。
【請求項12】
任意の構造物についての前記構造物情報であって、損傷の程度を示す健全度がラベリングされた複数の前記構造物情報を学習データとし、当該学習データに基づく機械学習によって作成された健全度推定用学習済みモデルを有し、前記診断対象構造物についての前記構造物情報を前記健全度推定用学習済みモデルに入力することによって、当該診断対象構造物の推定健全度を特定し、当該診断対象構造物の前記構造物情報の中の、前記推定健全度を特定する根拠となった根拠情報を添えて出力する請求項11記載の損傷状況診断システム。
【請求項13】
前記診断対象構造物の表面状態を示す画像データを解析する画像解析部を設け、前記画像解析部が、前記診断対象構造物についての前記構造物情報の中の一部又は全部を作成する請求項11又は12記載の損傷状況診断システム。
【請求項14】
適宜の環境に設置された診断対象構造物の損傷状況の診断に使用される学習済みモデルの作成方法であって、コンピュータシステムにより実行される学習済みモデル作成方法において、
構造物の構造上の特徴を表したテキストデータで成る設計情報と、当該構造物の設置環境を表したテキストデータで成る環境情報と、当該構造物の表面の観測結果を表したテキストデータで成る損傷情報とで構成される情報の集合体を構造物情報と定義し、
任意の構造物についての前記構造物情報であって、損傷が発生している場合にその損傷原因がラベリングされた複数の前記構造物情報を学習データとし、
前記学習データに基づく機械学習により、前記診断対象構造物の前記構造物情報が入力された場合に、当該診断対象構造物に発生している損傷の原因である可能性が高い推定損傷原因を特定し、当該診断対象構造物の前記構造物情報の中の、前記推定損傷原因を特定する根拠となった根拠情報を添えて出力する損傷原因推定用の学習済みモデルを作成することを特徴とする学習済みモデル作成方法。
【請求項15】
適宜の環境に設置された診断対象構造物の損傷状況の診断に使用される学習済みモデルの作成方法であって、コンピュータシステムにより実行される学習済みモデル作成方法において、
構造物の構造上の特徴を表したテキストデータで成る設計情報と、当該構造物の設置環境を表したテキストデータで成る環境情報と、当該構造物の表面の観測結果を表したテキストデータで成る損傷情報とで構成される情報の集合体を構造物情報と定義し、
任意の構造物についての前記構造物情報であって、損傷の程度を示す健全度がラベリングされた複数の前記構造物情報を学習データとし、
前記学習データに基づく機械学習により、前記診断対象構造物の前記構造物情報が入力された場合に、当該診断対象構造物の前記構造物情報の中の推定健全度を特定し、当該診断対象構造物の前記構造物情報の中の、前記推定健全度を特定する根拠となった根拠情報を添えて出力する健全度推定用の学習済みモデルを作成することを特徴とする学習済みモデル作成方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、橋梁やトンネル等の診断対象構造物についての情報を基に当該診断対象構造物の損傷状況を診断する損傷状況診断方法、損傷状況診断プログラム、損傷状況診断システム、及びこれらの診断に使用される学習済みモデルの作成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、例えば特許文献1に開示されているように、構造物の所定エリア内の画像から所定サイズの小片画像を複数抽出し、抽出した各小片画像を所定の学習モデル[小片画像を入力した場合に該小片画像に対応する箇所の損傷原因(劣化要因)を識別した識別結果を出力する学習モデル]に入力し、出力された各小片画像の識別結果に基づき、エリア内の損傷原因を特定して出力する診断方法(情報処理方法)があった。
【0003】
さらに特許文献1には、抽出した各小片画像を第2学習モデル[小片画像を入力した場合に該小片画像に対応する箇所の健全度を推定した推定結果を出力する学習モデル]に入力し、出力された個々の推定結果により、各小片画像に対応する箇所の健全度を特定して出力することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1の診断方法は、診断対象構造物の損傷原因を特定して出力するが、特定した根拠を示す情報は出力しない。例えば、コンクリート構造物の診断を行った時に、「損傷原因は塩害の可能性が高い」という診断結果は出力しても、「塩害の可能性が高い」と特定した根拠を示す情報は出力しない。そのため、診断結果を見た担当者は、診断結果の確からしさを容易に認識することができず、診断結果を安心して取り扱うことができない。
【0006】
また、特許文献1の診断方法では、診断対象構造物を撮像した画像のみを学習済みモデルに入力して分析しているが、損傷原因をより的確に特定するためには、診断対象構造物の表面を観測して分析するだけでなく、構造物の構造上の特徴や設置環境等も加味して分析することが好ましい。
【0007】
本発明は、上記背景技術に鑑みて成されたものであり、診断対象構造物の損傷原因等をより的確に診断できる損傷状況診断方法、損傷状況診断プログラム、損傷状況診断システム、及びこれらの診断に使用される学習済みモデルの作成方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、適宜の環境に設置された診断対象構造物についての情報を基に当該診断対象構造物の損傷状況を診断する方法であって、前記診断対象構造物についての情報が入力されたコンピュータシステムにより実行される損傷状況診断方法において、
構造物の構造上の特徴を表したテキストデータで成る設計情報と、当該構造物の設置環境を表したテキストデータで成る環境情報と、当該構造物の表面の観測結果を表したテキストデータで成る損傷情報とで構成される情報の集合体を構造物情報と定義し、
任意の構造物についての前記構造物情報であって、損傷が発生している場合にその損傷原因がラベリングされた複数の前記構造物情報を学習データとし、当該学習データに基づく機械学習によって損傷原因推定用学習済みモデルを作成する、又は作成された前記損傷原因推定用学習済みモデルを取得する学習済みモデル準備ステップと、
前記診断対象構造物についての前記構造物情報を前記損傷原因推定用学習済みモデルに入力することによって、当該診断対象構造物に発生している損傷の原因である可能性が高い推定損傷原因を特定し、当該診断対象構造物の前記構造物情報の中の、前記推定損傷原因を特定する根拠となった根拠情報を添えて出力する診断ステップとを備える損傷状況診断方法である。
【0009】
前記環境情報には、構造物の所在地を示す位置情報と、当該構造物が設置されている地域の特徴を示す地域情報とが含まれ、前記地域情報には、当該地域の過去の気候に関する情報、当該地域に設置された構造物で過去に発生した損傷に関する情報、及び当該地域の地理的な特徴を示す情報の中の少なくとも1つが含まれており、前記診断ステップでは、前記診断対象構造物の前記位置情報を基に、あらかじめ前記コンピュータシステム内に設けたデータベースを能動的に参照し、又はインターネット上に存在するWebサイトに能動的にアクセスし、当該診断対象構造物に対応する前記地域情報を取得する構成にすることができる。
【0010】
前記診断ステップでは、前記学習データにラベリングされた複数種類の損傷原因の中の一部又は全部を原因類型とし、前記診断対象構造物について、前記原因類型毎に、当該原因類型による損傷が発生している可能性の高低を推定する構成にすることができる。
【0011】
この場合、前記学習済みモデル準備ステップでは、任意の構造物についての前記構造物情報を説明変数とし、前記原因類型毎に、当該原因類型による損傷が発生している可能性の高低を目的変数としたロジスティック回帰分析の手法を用いて前記損傷原因推定用学習済みモデルを作成し、又は前記原因類型毎に作成された前記損傷原因推定用学習済みモデルを取得し、前記診断ステップでは、前記診断対象構造物についての前記構造物情報を説明変数とし、前記原因類型毎の前記損傷原因推定用学習済みモデルに入力することによって、前記原因類型毎に、当該原因類型による損傷が発生している可能性の高低を推定する構成にしてもよい。
【0012】
前記学習済みモデル準備ステップでは、任意の構造物の部位毎又は部材毎に前記損傷原因推定用学習済みモデルを作成し、又は部位毎又は部材毎に作成された前記損傷原因推定用学習済みモデルを取得し、前記診断ステップでは、前記診断対象構造物についての前記構造物情報を部位毎又は部材毎の前記損傷原因推定用学習済みモデルに入力し、部位毎又は部材毎に前記推定損傷原因を特定する構成にしてもよい。
【0013】
さらに、前記学習済みモデル準備ステップでは、任意の構造物についての前記構造物情報であって、損傷の程度を示す健全度がラベリングされた複数の前記構造物情報を学習データとし、当該学習データに基づく機械学習によって健全度推定用学習済みモデルを作成し、又は作成された前記健全度推定用学習済みモデルを取得し、前記診断ステップでは、前記診断対象構造物についての前記構造物情報を前記健全度推定用学習済みモデルに入力することによって、当該診断対象構造物の推定健全度を特定し、当該診断対象構造物の前記構造物情報の中の、前記推定健全度を特定する根拠となった根拠情報を添えて出力する構成にすることができる。
【0014】
この場合、前記学習済みモデル準備ステップでは、任意の構造物についての前記構造物情報を説明変数とし、損傷の程度を示す健全度を目的変数としたロジスティック回帰分析の手法を用いて前記健全度推定用学習済みモデルを作成し、又は作成された前記健全度推定用学習済みモデルを取得し、前記診断ステップでは、当該診断対象構造物についての前記構造物情報を説明変数として前記健全度推定用学習済みモデルに入力することによって、当該診断対象構造物の前記推定健全度を特定する構成にしてもよい
【0015】
前記学習済みモデル準備ステップでは、任意の構造物を構成する部位毎又は部材毎に前記健全度推定用学習済みモデルを作成し、又は部位毎又は部材毎に作成された前記健全度推定用学習済みモデルを取得し、前記診断ステップでは、前記診断対象構造物についての前記構造物情報を部位毎又は部材毎の前記健全度推定用学習済みモデルに入力し、部位毎又は部材毎に前記推定健全度を特定する構成にしてもよい。
【0016】
前記診断対象構造物は、コンクリート製の部材又は鋼製の部材又はその両方を備えた構造物である。
【0017】
また、本発明は、上記の損傷状況診断方法をコンピュータシステムに実行させるための、各ステップ実行用プログラムから成る損傷状況診断プログラムである。
【0018】
また、本発明は、適宜の環境に設置された診断対象構造物についての情報を基に当該診断対象構造物の損傷状況を診断するコンピュータで成る損傷状況診断システムであって、
構造物の構造上の特徴を表したテキストデータで成る設計情報と、当該構造物の設置環境を表したテキストデータで成る環境情報と、当該構造物の表面の観測結果を表したテキストデータで成る損傷情報とで構成される情報の集合体を構造物情報と定義し、
任意の構造物についての前記構造物情報であって、損傷が発生している場合にその損傷原因がラベリングされた複数の前記構造物情報を学習データとし、当該学習データに基づく機械学習によって作成された損傷原因推定用学習済みモデルを有し、
前記診断対象構造物についての前記構造物情報を前記損傷原因推定用学習済みモデルに入力することによって、当該診断対象構造物に発生している損傷の原因である可能性が高い推定損傷原因を特定し、当該診断対象構造物の前記構造物情報の中の、前記推定損傷原因を特定する根拠となった根拠情報を添えて出力する損傷状況診断システムである。
【0019】
任意の構造物についての前記構造物情報であって、損傷の程度を示す健全度がラベリングされた複数の前記構造物情報を学習データとし、当該学習データに基づく機械学習によって作成された健全度推定用学習済みモデルを有し、前記診断対象構造物についての前記構造物情報を前記健全度推定用学習済みモデルに入力することによって、当該診断対象構造物の推定健全度を特定し、当該診断対象構造物の前記構造物情報の中の、前記推定健全度を特定する根拠となった根拠情報を添えて出力する構成にすることができる。
さらに、前記診断対象構造物の表面状態を示す画像データを解析する画像解析部を設け、前記画像解析部が、前記診断対象構造物についての前記構造物情報の中の一部又は全部を作成する構成にしてもよい。
【0020】
また、本発明は、適宜の環境に設置された診断対象構造物の損傷状況の診断に使用される学習済みモデルの作成方法であって、コンピュータシステムにより実行される学習済みモデル作成方法において、
構造物の構造上の特徴を表したテキストデータで成る設計情報と、当該構造物の設置環境を表したテキストデータで成る環境情報と、当該構造物の表面の観測結果を表したテキストデータで成る損傷情報とで構成される情報の集合体を構造物情報と定義し、
任意の構造物についての前記構造物情報であって、損傷が発生している場合にその損傷原因がラベリングされた複数の前記構造物情報を学習データとし、
前記学習データに基づく機械学習により、前記診断対象構造物の前記構造物情報が入力された場合に、当該診断対象構造物に発生している損傷の原因である可能性が高い推定損傷原因を特定し、当該診断対象構造物の前記構造物情報の中の、前記推定損傷原因を特定する根拠となった根拠情報を添えて出力する損傷原因推定用の学習済みモデルを作成する学習済みモデル作成方法である。
【0021】
また、本発明は、適宜の環境に設置された診断対象構造物の損傷状況の診断に使用される学習済みモデルの作成方法であって、コンピュータシステムにより実行される学習済みモデル作成方法において、
構造物の構造上の特徴を表したテキストデータで成る設計情報と、当該構造物の設置環境を表したテキストデータで成る環境情報と、当該構造物の表面の観測結果を表したテキストデータで成る損傷情報とで構成される情報の集合体を構造物情報と定義し、
任意の構造物についての前記構造物情報であって、損傷の程度を示す健全度がラベリングされた複数の前記構造物情報を学習データとし、
前記学習データに基づく機械学習により、前記診断対象構造物の前記構造物情報が入力された場合に、当該診断対象構造物の前記構造物情報の中の推定健全度を特定し、当該診断対象構造物の前記構造物情報の中の、前記推定健全度を特定する根拠となった根拠情報を添えて出力する健全度推定用の学習済みモデルを作成する学習済みモデル作成方法である。
【発明の効果】
【0022】
本発明の損傷状況診断方法、損傷状況診断プログラム及び損傷状況診断システムは、診断対象構造物の構造物情報(設計情報/環境情報/損傷情報)を基に、当該診断対象構造物の損傷状況を多角的に診断するので、損傷が発生していると判定された場合、その損傷原因(推定損傷原因)を従来よりも的確に特定することができる。また、推定損傷原因に、特定する根拠となった情報(根拠情報)を添えて出力するので、診断結果を見た担当者は、診断結果の確からしさを容易に認識することができ、診断結果を安心して取り扱うことができる。
【0023】
また、本発明の学習済みモデル作成方法を用いて作成した学習済みモデルは、テキストデータで成る構造物情報が入力されて分析を行うものなので、シンプルに構成にすることができる。例えば、ロジスティック回帰分析の手法を用いることにより、診断内容毎に、その診断内容に適した複数の学習済みモデルを容易に作成することができ、1つの診断対象構造物に複数種類の損傷が重複発生している場合でも的確に診断することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1】本発明の損傷状況診断システムの第一の実施形態の構成を示すブロック図(a)、損傷原因推定用学習済みモデル12の構成を示すブロック図(b)、本発明の損傷状況診断方法の第一の実施形態の流れを示すフローチャート(c)である。
【
図2】
図1(c)の学習済みモデル準備ステップで準備する損傷原因推定用学習済みモデルの基になる学習データの一例[任意の構造物についての構造物情報]を示す図表である。
【
図3】
図1(c)の学習済みモデル準備ステップで準備する損傷原因推定用学習済みモデルの基になる学習データの一例[任意の構造物毎にラベリングされた損傷原因(発生確率)]を示す図表である。
【
図4】
図2、
図3に示す学習データを基に、ASRについての原因類型別学習済みモデルを作成する手順の一例を示すフローチャートである。
【
図5】
図4に示す原因類型別学習済みモデルを使用し、診断対象構造物のASRについての診断を行った時の診断内容の一例を示す図表である。
【
図6】第一の実施形態の損傷状況診断システム及び診断方法によって出力される、診断対象構造物についての損傷状況の診断結果の一例を示す図表である。
【
図7】本発明の損傷状況診断システムの第二の実施形態の構成を示すブロック図(a)、本発明の損傷状況診断方法の第二の実施形態の流れを示すフローチャート(b)である。
【
図8】
図7(b)の学習済みモデル準備ステップで使用する学習データの一例[任意の構造物毎にラベリングされた損傷原因(発生確率)及び健全度]を示す図表である。
【
図9】第二の実施形態の損傷状況診断システム及び診断方法によって出力される診断対象構造物についての診断結果の一例を示す図表である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明の損傷状況診断方法、損傷状況診断プログラム、損傷状況診断システム及び学習済みモデル作成方法の第一の実施形態について、
図1~
図6に基づいて説明する。
【0026】
第一の実施形態の損傷状況診断システム10は、適宜の環境に設置された診断対象構造物14についての情報を基に、診断対象構造物14の損傷状況を診断するコンピュータシステムである。損傷状況診断システム10は、
図1(a)に示すように、所定の損傷原因推定用学習済みモデル12を有しており、診断対象構造物14についての構造物情報(設計情報/環境情報/損傷情報)を取得すると、その構造物情報を損傷原因推定用学習モデル12に入力することによって診断対象構造物14の損傷状況を分析し、損傷が発生していると判定された場合、その損傷の原因である可能性が高い推定損傷原因を特定し、診断対象構造物14の構造物情報の中の、推定損傷原因を特定する根拠となった根拠情報を添えて出力する処理を行う。
【0027】
構造物情報を構成する設計情報は、構造物の構造上の特徴を表したテキストデータであり、環境情報は、当該構造物の設置環境を表したテキストデータであり、損傷情報は、当該構造物の表面の観測結果を表したテキストデータである。また、損傷原因推定用学習済みモデル12は、
図1(b)に示すように、複数の原因類型別学習済みモデル12(k)により構成される。構造物情報(設計情報/環境情報/損傷情報)及び損傷原因推定用学習済みモデル12の具体的な内容については、後で説明する。
【0028】
第一の実施形態の損傷状況診断方法は、
図1(c)に示すように、学習済みモデル準備工程S11と診断ステップS12とで構成され、損傷状況診断システム10により実行される。また、第一の実施形態の損傷状況診断プログラムは、この損傷状況診断方法を損傷状況診断システム10に実行させるための、各ステップ実行用プログラムから成る。また、第一の実施形態の学習済みモデル作成方法は、上記の損傷原因推定用学習済みモデル12(原因類型別学習済みモデル12(k))を作成する時に実行される。
【0029】
以下、損傷状況診断システム10が実行する各ステップS11、S12の内容を、診断対象構造物14がコンクリート製の道路橋だと想定して、順に説明する。コンクリート製の構造物の場合、代表的な損傷原因(原因類型)として、ASR、応力ひび割れ、塩害、凍害、中性化等が挙げられる。ASRとは、アルカリ骨材反応のことである。
【0030】
<学習済みモデル準備ステップS11>
学習済みモデル準備ステップS11では、あらかじめ所定の学習データを基に作成された損傷原因推定用学習済みモデル12(複数の原因類型別学習済みモデル12(k))を取得する。「取得」とは、他の装置や記憶媒体に格納されているデータを取りに行くこと、他の装置から送信さられたデータを受信すること等を意味し、既に取得して記憶しているデータを読み出して使用可能な状態にすることも含む。
【0031】
各原因類型別学習済みモデル12(k)は、任意の構造物の構造物情報を説明変数Xとし、原因類型毎に、当該原因類型による損傷が発生している可能性の高低を目的変数Pとしたロジスティック回帰分析の手法を用いて作成される。
【0032】
図2は、学習データを構成する構造物情報(設計情報/環境情報/損傷情報)の例を示している。ここでは、設計情報の項目を「部材(説明変数X1)」「材料(説明変数X2)」「床版厚(説明変数X3)」等とし、環境情報の項目を「桁下条件(説明変数X9)」「海からの距離(説明変数X10)」「交通量(説明変数X11)」等とし、損傷情報の項目を「亀甲状のひびの有無(説明変数X17)」「最大ひび割れ密度(説明変数X23)」「ひび割れ(損傷程度d)の割合(説明変数X31)」等としている。損傷情報は、診断担当者が診断対象構造物14の表面を観察して作成した損傷図の文字や絵柄から抽出された情報や、損傷図の絵柄や診断対象構造物14の表面を撮像した画像データを解析することによって抽出された情報等である。
【0033】
例えば、任意の構造物の1つである構造物No.1の場合、部材が主桁であることが「X1=1」という数値で表され、海からの距離が15kmであることが「X10=15」という数値で表され、亀甲状のひびが有ることが「X17=1」という数値で表されている。
【0034】
図3は、学習データにラベリングされた損傷原因の例を示している。ここでは、損傷原因の項目を、「ASR発生の可能性(目的変数P1)」「応力ひび割れ発生の可能性(目的変数P2)」「塩害発生の可能性(目的変数P3)」等としている。学習データにラベリングされる損傷原因の中には、原因類型(代表的な損傷原因)以外の損傷原因が含まれていてもよい。
【0035】
例えば、構造物No.1の場合、ASRが発生している可能性が高いことが「P1=1」という数値で表され、応力ひび割れ及び塩害が発生している可能性が低いことが「P2=0」「P3=0」という数値で表されている。学習データの目的変数Pの値は、例えば、ベテランの診断担当者の技術的知見を基に決定される。あるいは、技術的知見を有しないオペレータが、各構造物が実際に診断された時の診断結果を入手し、その診断結果を目的変数Pの定義に合うように変換して目的変数Pの値を決めてもよい。
【0036】
図4は、
図2、
図3に示す学習データを用いて原因類型別学習済みモデル12(k)を作成する手順の一例を示している。まず、ステップS111で、構造物情報(説明変数X1~Xn)の中から、その原因類型に強く関連するものを選択する。例えば、原因類型「ASR」の場合、「亀甲状のひびの有無(説明変数X17)」や「鉄筋露出の有無(説明変数X19)」を含むが複数の構造物情報(説明変数X17,X19,X23,X24,X25)が選択される。
【0037】
次にステップS112に進み、ステップS111で選択した説明変数X17,X19,X23,X24,X25を、式(1)に示すロジスティックシグモイド関数に当てはめる。このとき、説明変数X17,X19,X23,X24,X25以外の説明変数Xに掛かる係数Bはすべてゼロ(B=0)として、式(2)を得る。
P(X)=[1+exp{-(B0+B1・X1+B2・X2+・・・+Bn・Xn)}]-1 (1)
P(X)=[1+exp{-(B0+B17・X17+B19・X19+・・・+B25・B25)}]-1 (2)
【0038】
次にステップS113に進み、
図2、
図3の学習データ(構造物No.1,No.2,・・・)の中の説明変数X17,X19,X23,X24,X25及び目的変数P1を基に、式(2)の係数B17,B19,B23,B24,B25の値を算出する。
【0039】
そして、ステップS114に進み、ステップS113で算出した係数B17,B19,B23,B24,B25の値を式(2)に代入して得られる計算式を、原因類型「ASR」についての原因類型別学習済みモデル12(k)とする。
【0040】
原因類型「ASR」以外の原因類型別学習済みモデル12(k)を作成する手順も同様である。通常は、ステップS111で選択する構造物情報(説明変数X)が原因類型毎に変更され、ステップS113で係数Bを算出する時の目的変数Pの値が原因類型毎に違った値になるので、原因類型「ASR」とは内容が異なる原因類型別学習済みモデル12(k)が作成されることになる。
【0041】
なお、ステップS111における、その原因類型に強く関連する構造物情報を選択する作業は、技術的知見を有したオペレータが行うようにしてもよいが、あらかじめ、原因類型毎に選択すべき構造物情報を決めておけば、すべてのステップS111~S114をコンピュータシステムに実行させることが可能になる。
【0042】
<診断ステップS12>
診断ステップS12では、診断対象構造物14の構造物情報(設計情報/環境情報/損傷情報)を取得し、損傷原因推定用学習済みモデル12に入力することによって、診断対象構造物14に発生している損傷の原因である可能性が高い推定損傷原因を特定し、診断対象構造物14の構造物情報の中の、推定損傷原因を特定する根拠となった根拠情報を添えて出力する。
【0043】
この診断ステップS12は、診断対象構造物14の構造物情報を基に、原因類型毎に診断を行う構成になっており、以下、一例として、原因類型「ASR」についての診断の流れを説明する。原因類型「ASR」の診断は、
図4の最下段の計算式で成るASR用の原因類型別学習済みモデル12(k)を使用するので、診断対象構造物14の構造物情報の中から、対応する構造物情報(説明変数X17,X19,X23,X24,X25)を抽出する。そして、
図5に示すように、例えば「X17=1」「X19=1」「X23=0.3」「X24=0」「X25=0」とすれば、これらをASR用の原因類型別学習済みモデル12(k)に代入することによって、診断対象構造物14にASRが発生している確率P(X)が0.80757≒81%と算出される。
【0044】
ASRの発生確率が81%(>50%)とすれば、「診断対象構造物14に損傷が発生しており、ASRが損傷原因の1つである可能性が高い(ASRが推定損傷原因の1つである)。」と結論付けることができる。なお、「可能性が高い」と判定する閾値は50%に限定されず、状況に応じて適宜変更することができる。
【0045】
診断結果をどのような表現で出力するかは、システム管理者等が自由に決めることができ、
図5の例では、右下の吹き出しに示すように、ASR発生の可能性の程度を「ASR発生の可能性が高い」や「ASRの発生確率≒81%」と表現している。
【0046】
さらに、積算値(=B・X)に着眼することで、各構造物情報の、P(X)の値に対する影響度を評価することができる。つまり、積算値が大きい構造物情報ほど、他の構造物情報よりも確率P(X)を高くすることに寄与していると言えるので、例えば、積算値が最も大きい2~3つの構造物情報を、「ASR発生の可能性が高い」とする根拠になった根拠情報として出力することができる。
図5の例では、積算値が最も大きい「亀甲状のひび有り」と「鉄筋露出が有る」の2つが根拠情報として抽出され、これらを診断結果に添えている。
【0047】
その他、原因類型「ASR」以外の原因類型についても同様の診断を行う。そして、診断対象構造物14についての各原因類型についての診断結果をリストにまとめて出力する。例えば
図6に示すリストでは、ASR以外の診断結果として、「応力ひび割れが発生している可能性は低い。」ということや、「塩害が発生している可能性が高く、その根拠は、海からの距離が近い(2km)ことと、鉄筋露出が有ることである。」ということを表している。
【0048】
以上説明したように、第一の実施形態の損傷状況診断方法、損傷状況診断プログラム及び損傷状況診断システム10は、診断対象構造物14の構造物情報(設計情報/環境情報/損傷情報)を基に、診断対象構造物14の損傷状況を多角的に診断するので、損傷が発生していると判定された場合、その損傷原因(推定損傷原因)を従来よりも的確に特定することができる。また、推定損傷原因に、特定する根拠となった情報(根拠情報)を添えて出力するので、診断結果を見た担当者は、診断結果の確からしさを容易に確認することができ、診断結果を安心して取り扱うことができる。
【0049】
また、第一の実施形態の学習済みモデル作成方法を用いて作成した損傷原因推定用学習済みモデル12(原因類型別学習済みモデル12(k))は、テキストデータで成る構造物情報が入力されて分析を行うものなので、シンプルに構成にすることができる。また、ロジスティック回帰分析の手法を用いることにより、原因類型毎に、その原因類型の診断に適した原因類型別学習済みモデル12(k)を容易に作成することができ、1つの診断対象構造物14に複数種類の損傷が重複発生している場合でも的確に診断することができる。
【0050】
次に、本発明の損傷状況診断方法、損傷状況診断プログラム、損傷状況診断システム及び学習済みモデル作成方法の第二の実施形態について、
図7~
図9に基づいて説明する。ここで、第一の実施形態と同様の構成は、同様の符号を付して説明を省略する。
【0051】
第二の実施形態の損傷状況診断システム16は、適宜の環境に設置された診断対象構造物14についての情報を基に、診断対象構造物14の損傷状況を診断するコンピュータシステムであり、上記の損傷状況診断システム10と同様の構成及び機能を有している。損傷状況診断システム10と異なるのは、
図7(a)に示すように、上記の損傷原因推定用学習済みモデル12に加えて所定の健全度推定用学習済みモデル18を有し、診断対象構造物14の構造物情報(設計情報/環境情報/損傷情報)を取得すると、その構造物情報を健全度推定用学習モデル18に入力することによって、診断対象構造物14の推定健全度を特定し、診断対象構造物14の構造物情報の中の、推定健全度を特定する根拠となった根拠情報を添えて出力する機能が付加されている点である。
【0052】
第二の実施形態の損傷状況診断方法は、
図7(b)に示すように、学習済みモデル準備工程S21と診断ステップS22とで構成され、損傷状況診断システム16により実行される。また、第二の実施形態の損傷状況診断プログラムは、この損傷状況診断方法を損傷状況診断システム16に実行させるための、各ステップ実行用プログラムから成る。また、第二の実施形態の学習済みモデル作成方法は、上記の健全度推定用学習済みモデル18を作成する時に実行される。
【0053】
以下、損傷状況診断システム16が実行する各ステップS21、S22の内容について、上記の各ステップS11,S12と異なる点を中心に、順に説明する。
【0054】
<学習済みモデル準備ステップS21>
学習済みモデル準備ステップS21では、あらかじめ所定の学習データを用いて作成された損傷原因推定用学習済みモデル12(複数の原因類型別学習済みモデル12(k))及び健全度推定用学習済みモデル18を取得する。
【0055】
各原因類型別学習済みモデル12(k)は、上記のように、任意の構造物についての構造物情報を説明変数Xとし、原因類型毎に、当該原因類型による損傷が発生している可能性の高低を目的変数Pとしたロジスティック回帰分析の手法を用いて作成される。健全度推定用学習済みモデル18の場合は、任意の構造物の構造物情報を説明変数Xとし、損傷の程度を示す健全度を目的変数Pとしたロジスティック回帰分析の手法を用いて作成される。
【0056】
第一の実施形態で使用する学習データは、
図2及び
図3の内容を組み合わせたデータとであるが、第二の実施形態で使用する学習データは、
図2及び
図8の内容を組み合わせたデータとする。つまり、第二の実施形態では、
図8に示すように、学習データに損傷原因(目的変数P1,P2,・・・)をラベリングし、さらに健全度(目的変数Pa)もラベリングする。
【0057】
例えば、任意の構造物の1つである構造物No.1の場合、健全度がレベル3又はレベル4であることが「Pa=1」という数値で表され、構造物No.2の場合、健全度がレベル1又はレベル2であることが「Pa=0」という数値で表されている。
【0058】
健全度推定用学習済みモデル18を作成する時は、
図4に示すステップS111~S114を順に実行する。この時、ステップS111で選択する構造物情報(説明変数X)やステップS113で係数Bを算出する際に基にする目的変数Pの値は、原因類型別学習済みモデル12(k)を作成する時と違ったものになるので、健全度推定用学習済みモデル18は、上記の原因類型別学習済みモデル12(k)とは内容が異なるものになる。
【0059】
<診断ステップS22>
診断ステップS22では、上記の診断ステップS12と同様に、診断対象構造物14の構造物情報を損傷原因推定用学習済みモデル12(複数の原因類型別学習済みモデル12(k))に入力することによって、診断対象構造物14に発生している損傷の原因である可能性が高い推定損傷原因を特定し、診断対象構造物14の構造物情報の中の、推定損傷原因を特定する根拠となった根拠情報を添えて出力する。
【0060】
さらに、診断ステップS22では、診断対象構造物14の構造物情報を健全度推定用学習済みモデル18に入力することによって、診断対象構造物14の推定健全度を特定し、推定健全度を特定する根拠となった根拠情報を添えて出力する。
【0061】
例えば、健全度がレベル3又は4である確率P(X)が74%(>50%)と算出された場合、「診断対象構造物14の推定健全度はレベル3又は4である。」と結論付けることができ、
図9に示すように、この結論を診断結果として出力する。反対に、健全度がレベル3又は4である確率P(X)が13%とすれば、「診断対象構造物14の推定健全度はレベル1又は2である。」という結論を診断結果として出力する。そして、上記と同様のやり方で根拠情報を抽出し、推定健全度に添えて出力する。
【0062】
以上説明したように、第二の実施形態の損傷状況診断方法、損傷状況診断プログラム及び、損傷状況診断システム16によれば、第一の実施形態と同様の効果を得ることができ、さらに、診断対象構造物の推定健全度も的確に特定して出力することができる。また、第二の実施形態の学習済みモデル作成方法によれば、上記の優れた健全度推定用学習済みモデル18を容易に作成することができる。
【0063】
なお、本発明の損傷状況診断方法、損傷状況診断プログラム及び損傷状況診断システムは、上記実施形態に限定されるものではない。例えば、上記実施形態の説明の中で、構造物情報(設計情報/環境情報/損傷情報)や原因類型の項目の具体例、説明変数Xや目的変数Pの数値の具体例を示しているが、これらは、あくまでも説明を分かりやすくするための例であり、実際には、診断対象構造物の種類、診断の目的、目標とする診断精度等に鑑みて個別具体的に設定される。
【0064】
上記実施形態では、損傷原因推定用学習済みモデル12を複数の原因類型別学習済みモデル12(1),12(2),・・・で構成しているが、原因類型別学習済みモデルの数を1つにして、特定の損傷原因のみを診断する構成にしてもよい。
【0065】
第二の実施形態で使用している健全度推定用学習済みモデル18は、損傷原因推定用学習済みモデル12の基にした学習データに、健全度のラベリングを追加したものを基に作成している。しかし、2つの学習済みモデル12,18を、全く別々の学習データを基に作成してもよい。
【0066】
第二の実施形態で使用している健全度推定用学習済みモデル18は、健全度が高い(レベル1又はレベル2)か低い(レベル3又はレベル4)かを特定する構成にしているが、例えば、多項ロジスティック回帰分析を用いたモデルに変更し、健全度をレベル1~4の中の1つに特定する構成にしてもよい。
【0067】
上記実施形態で使用している学習済みモデルは、多変量解析の一種であるロジスティック回帰分析の手法を用いたモデルであるが、多変量解析の中の他の手法を用いたモデルに変更してもよく、ほぼ同様の作用効果が得られる。その他、ニューラルネットワークの手法を用いた学習済みモデルを使用してもよいし、決定木分析、単純ベイズ法、その他の機械学習の手法を使用することも可能である。また、根拠情報を抽出する際に、SHAPやICE等の予測モデルを解釈する手法を用いて抽出してもよい。
【0068】
上記実施形態では、「損傷状況診断システム10,16は、あらかじめ作成された学習済みモデルを取得する。」と説明したが、「損傷状況診断システム10,16が、取得した学習データを基に学習済みモデルを自動作成する。」という構成にしてもよい。
【0069】
上記実施形態の説明では、診断対象構造物14を「コンクリート製の道路橋」と想定しているが、実際の道路橋は、コンクリート製の部材と鋼製の部材とを組み合わせたものである場合が少なくない。そのような場合は、例えば、「コンクリート製の橋脚」、「鋼製の主桁」、「コンクリート製の床版」等の部材毎に、当該部材の診断に適した学習済みモデルを準備して診断するとよい。この点は、1つの部材が複数の部品(部材)で構成される場合も同様である。
【0070】
また、診断対象構造物の部位毎に損傷発生の傾向が異なる場合、部位毎に、当該部位の診断に適した学習済みモデルを準備し、診断するようにしてもよい。例えば、「コンクリート製の橋脚」が一体物の部材だとしても、「柱部・壁部」と「梁部」と「隅角部」で発生しやすい損傷が異なるとすれば、部位毎に学習済みモデルを準備するとよい。また、例えば、「床版と主桁との接合部」という部位において、「床版の本体部」や「主桁の本体部」ではほとんど発生しない独特な損傷が発生する可能性がある場合は、「床版と主桁との接合部」の診断に適した学習済みモデルを準備するとよい。
【0071】
その他、診断対象構造物の種類は特に限定されず、道路橋やトンネル等のコンクリート部材を使用した構造物であってもよいし、鉄橋等のコンクリート部材を有しない構造物でもあってもよい。また、道路橋や鉄橋等を構成する個々の部材(橋脚、主桁、床版等)を診断対象構造物としてもよい。
【0072】
上記実施形態の説明の中では、損傷状況診断システム10,16が診断対象構造物14の構造物情報(テキストデータ)をどのように取得するかについて説明しなかったが、例えば、すべての構造物情報をオペレータが手入力する構成が考えられる。あるいは、一部の構造物情報を、損傷状況診断システム10,16が能動的に取得する構成にすることも可能である。
【0073】
例えば、環境情報の中に、構造物の所在地を示す位置情報と、当該構造物が設置されている地域の特徴を示す地域情報とが含まれる場合、あらかじめ、損傷状況診断システム10,16内に各地の地域情報を格納したデータベースを設けておき、診断対象構造物14の位置情報を基にデータベースを能動的に参照し、診断対象構造物14に対応した地域情報を取得する構成にすることが好ましい。位置情報とは、構造物の所在地の名称や呼称、あるいは緯度経度等であり、地域情報とは、例えば、構造物が設置された地域の過去の気候に関する情報(気温、降水量、積雪量、湿度等)、当該地域に設置された構造物で過去に発生した損傷に関する情報(損傷の種類、程度、原因等)、当該地域の地理的な情報(標高、海からの距離等)等である。
【0074】
このように、損傷状況診断システム10,16が一部の構造物情報を能動的に取得する構成にすることにより、オペレータの負担を軽減することができる。なお、地域情報の取得は、損傷状況診断システム10,16内のデータベースを参照するのではなく、インターネット上に存在するWebサイトに能動的にアクセスし、診断対象構造物14に対応した地域情報を取得するようにしてもよい。
【0075】
その他、損傷状況診断システム10,16内に、診断対象構造物14の表面状態を示す画像データを解析する画像解析部を設け、画像解析部が、診断対象構造物14についての構造物情報(テキストデータ)の中の一部又は全部を作成する構成にしてもよい。
【符号の説明】
【0076】
10,16 損傷状況診断システム
12 損傷原因推定用学習済みモデル
12(k) 原因類型別学習済みモデル(原因類型毎の損傷原因推定用学習済みモデル)
14 診断対象構造物
18 健全度推定用学習済みモデル
S11,S21 学習済みモデル準備ステップ
S12,S22 診断ステップ