(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023104553
(43)【公開日】2023-07-28
(54)【発明の名称】カムクラッチユニット
(51)【国際特許分類】
F16D 41/07 20060101AFI20230721BHJP
【FI】
F16D41/07 A
F16D41/07 B
F16D41/07 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022005605
(22)【出願日】2022-01-18
(71)【出願人】
【識別番号】000003355
【氏名又は名称】株式会社椿本チエイン
(74)【代理人】
【識別番号】100153497
【弁理士】
【氏名又は名称】藤本 信男
(72)【発明者】
【氏名】福田 明大
(72)【発明者】
【氏名】経田 宏和
(72)【発明者】
【氏名】榑松 勇二
(57)【要約】
【課題】カムクラッチ製造時の加工工数が少なく難度が低くなるとともに、ローラによる回転抵抗を低減化できるカムクラッチユニットを提供すること。
【解決手段】同軸上に相対回転可能に設けられている内輪と外輪の間において周方向に並ぶように配置された複数のカム130及び複数のローラ140と、カム130及びローラ140の周方向の相対的な移動を規制する複数のポケット部151、152を有するケージリング150と、カム130を付勢する環状のスプリング160を備え、カム130は、軸方向の一方の端面にスプリング160と係合可能な係合段部132を有し、ケージリング150は、環状のスプリング160の軸方向への移動を規制する複数のフック部153を有すること。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
同軸上に相対回転可能に設けられている内輪及び外輪の間に配置される複数のカム及び複数のローラと、前記カム及び前記ローラの周方向の相対的な移動を規制する複数のポケット部を有するケージリングと、前記カムを付勢する環状のスプリングを備えたカムクラッチユニットであって、
前記カムは、軸方向の一方の端面に前記スプリングと係合可能な係合段部を有し、
前記ケージリングは、前記環状のスプリングの軸方向への移動を規制する複数のフック部を有することを特徴とするカムクラッチユニット。
【請求項2】
前記フック部は、前記環状のスプリングの半径方向への移動を規制するフック底部を有することを特徴とする請求項1に記載のカムクラッチユニット。
【請求項3】
前記ケージリングのポケット部は、周方向で前記ローラに隣接する面が前記ローラの外輪側及び内輪側への移動を規制する形状に形成されていることを特徴とする請求項1または請求項2のいずれかに記載のカムクラッチユニット。
【請求項4】
前記カムは、係合段部と反対側の端面に規制段部を有し、
前記ケージリングのポケット部は、軸方向で前記カムの規制段部と隣接する面に前記カムの傾きを規制する規制凸部を有することを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれかに記載のカムクラッチユニット。
【請求項5】
前記ローラは、中空形状であることを特徴とする請求項1乃至請求項4のいずれかに記載のカムクラッチユニット。
【請求項6】
前記ローラの中空部に遊嵌され、軸方向寸法が前記ローラより長いローラ軸を有することを特徴とする請求項5に記載のカムクラッチユニット。
【請求項7】
前記ローラは、軸方向寸法が前記カムの係合段部を除いた軸方向寸法以下であることを特徴とする請求項1乃至請求項6のいずれかに記載のカムクラッチユニット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、入力軸と出力軸との間でトルクの伝達及び遮断を行うカムクラッチユニットに関する。
【背景技術】
【0002】
カムクラッチユニットとして、同軸上に相対回転可能に設けられている内輪と外輪の間に配置される複数のカム及び複数のローラと、カム及びローラの周方向の相対的な移動を規制する複数のポケット部を有するケージリングと、カムを付勢する環状のスプリングを備えたものが公知である。
カム及びローラを備えたカムクラッチユニット500は、例えば
図11乃至
図15に示すように、同軸上に相対回転可能に設けられている内輪及び外輪の間に複数のカム530及び複数のローラ540が周方向に配置されるように、カム530及びローラ540がケージリング550のポケット部551に収容され、カム530及びローラ540の周方向の相対的な移動が規制されている。
また、カム530及びローラ540には、それぞれ周方向の溝部535、545を有しており、溝部535、545内に環状のスプリング560が収容されてカム530及びローラ540を内輪側に付勢するように構成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
公知のカムクラッチユニットでは、摩耗や衝撃に強い材料が要求されるカム530及びローラ540の中央に環状のスプリング560が収容される周方向の溝部535、545を有していることから、カム530及びローラ540の製造時の加工工数が大きく難度が高く、加工上、幅寸法に制限があり薄幅化できないという問題があった。
また、ローラ540は、軸方向の拘束のみされて自由に回転する必要があるが、溝部5545の底部とスプリング560との間に摩擦摺動が生じることから高速回転時に無視できない回転抵抗を生じるという問題があるとともに、スプリング560が摩耗により劣化することで、カムクラッチ自体の寿命に影響を及ぼす虞があった。
例えば、許文献1に示すように、カム及びローラの軸方向の両端側にスプリングによる付勢部を設けたものも公知であるが、カムにはスプリングの軸方向の抜け落ちを防止するための係止構造が必要であり、カム及びローラの加工の難度は多少軽減するものの、加工工数は減らすことはできない。
【0005】
本発明は、以上のような課題を解決することを目的とするものであり、カムクラッチ製造時の加工工数が少なく難度が低くなるとともに薄幅化が可能で、ローラによる回転抵抗を低減化できるカムクラッチユニットを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、同軸上に相対回転可能に設けられている内輪及び外輪の間に配置される複数のカム及び複数のローラと、前記カム及び前記ローラの周方向の相対的な移動を規制する複数のポケット部を有するケージリングと、前記カムを付勢する環状のスプリングを備えたカムクラッチユニットであって、前記カムは、軸方向の一方の端面に前記スプリングと係合可能な係合段部を有し、前記ケージリングは、前記環状のスプリングの軸方向への移動を規制する複数のフック部を有するように構成することにより、前記課題を解決するものである。
【発明の効果】
【0007】
本請求項1に記載のカムクラッチユニットによれば、カムが軸方向の一方の端面にスプリングと係合可能な係合段部を有することで、構造がシンプルで製造時の加工工数が少なく難度が低くなるとともに、薄幅化が可能となる。
また、ケージリングが環状のスプリングの軸方向への移動を規制する複数のフック部を有することにより、カム及びローラの一方の端面の係合段部をスプリングの軸方向の移動を規制する形状に加工する必要がなく、さらに加工工数が少なく難度が低くなる。
【0008】
本請求項2に記載の構成によれば、フック部が環状のスプリングの半径方向への移動を規制するフック底部を有することで、各カムの両端でのスプリングの半径が規定されて各カムの押圧力の他のカムの姿勢の変化による影響が抑制され、隣り合うカムを均等に加圧することができ精度の高いカムクラッチを提供することができる。
本請求項3に記載の構成によれば、ケージリングのポケット部が周方向でローラに隣接する面がローラの外輪側及び内輪側への移動を規制する形状に形成されていることにより、カムクラッチの製造過程においてローラの外周側への脱落が防止される。
本請求項4に記載の構成によれば、カムが係合段部と反対側の端面に規制段部を有し、ケージリングのポケット部が軸方向でカムの規制段部と隣接する面にカムの傾きを規制する規制凸部を有することにより、カムの姿勢を規制することが可能となり、スプリングの加圧力をカムの適切な自転力に変換し応答性を阻害しないとともに、精度と応答性の高いカムクラッチを提供することができる。
また、カムクラッチの製造過程においてカムの外周側への脱落が防止され、カムの傾きを抑制しスムーズに挿入できる。
【0009】
本請求項5に記載の構成によれば、ローラが中空形状であることにより、軽量化することができる。
本請求項6に記載の構成によれば、ローラの中空部に遊嵌され軸方向寸法がローラより長いローラ軸を有することにより、ローラとローラ軸の小さな摺動抵抗のみで、スプリングとの間に全く摩擦摺動が生じることなく回転抵抗を低減化しつつローラの外周方向への抜けを防止でき、カムクラッチ自体の寿命への影響を低減することができる。
本請求項7に記載の構成によれば、ローラの軸方向寸法がカムの係合段部を除いた軸方向寸法以下であることにより、ローラは軸方向の拘束のみされて自由に回転する事ができ、スプリングとの間にほとんど摩擦摺動が生じることなく回転抵抗を低減化できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明の一実施形態のカムクラッチユニットの斜視図。
【
図2】
図1に示すカムクラッチユニットの回転軸方向に見た側面図。
【
図3】
図1に示すカムクラッチユニットのカムの側面図及び正面図。
【
図4】
図1に示すカムクラッチユニットのローラの側面図及び正面図。
【
図5】
図1に示すカムクラッチユニットの一部側面図及び断面図。
【
図6】本発明の他の実施形態のカムクラッチユニットのカムの側面図及び正面図。
【
図7】本発明の他の実施形態のカムクラッチユニットのケージリングの一部側面図及び断面図。
【
図9】
図7の他の変形例のケージリングの一部側面図。
【
図10】本発明のさらに他の実施形態のカムクラッチユニットの概略一部拡大斜視図及び側面図。
【
図12】
図11に示すカムクラッチユニットの回転軸方向に見た側面図。
【
図13】
図11に示すカムクラッチユニットのカムの側面図及び正面図。
【
図14】
図11に示すカムクラッチユニットのローラの側面図及び正面図。
【
図15】
図11に示すカムクラッチユニットの一部側面図及び断面図。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の一実施形態に係るカムクラッチユニット100は、
図1乃至
図5に示すように、同一軸上に相対回転可能に設けられた内輪の軌道面と外輪の軌道面との間の環状空間において内輪と外輪との間でトルクの伝達及び遮断を行う係合子としての複数のカム130と、内輪と外輪を自由に回転させる複数のローラ140と、カム130及びローラ140の周方向の相対的な移動を規制する複数のポケット部151、152を有するケージリング150と、複数のカム130の各々を内輪及び外輪に対する噛み合い方向に付勢する環状のスプリング160を備えている。
【0012】
複数のカム130の各々は、
図3等に示すように、軸方向の一方の端面に環状のスプリング160と係合可能な係合段部131を有している。
本実施形態においては、係合段部131はカム130がフリーとなる状態で図示右側が外周側に位置する傾斜形状となっており、スプリング160が係合段部131の右側を押圧することで、カム130が内輪側に付勢されるとともに、カム130が作動する方向に揺動するよう付勢される。
複数のローラ140は、
図4等に示すように、溝や段部を有さず、本実施形態においては、ローラ140の軸方向寸法rwはカム130の係合段部131を除いた軸方向寸法cw以下である。
本実施形態においては、ローラ140の両端面の外周縁部は面取りされており、スプリング160との引っ掛かりを防止している。
【0013】
ケージリング150は、カム130を収容し周方向の相対的な移動を規制するポケット部151及びローラ140を収容し周方向の相対的な移動を規制するポケット部152と、環状のスプリング160の軸方向への移動を規制する複数のフック部153を有している。
本実施形態においては、ケージリング150のカム130を収容するポケット部151とローラ140を収容するポケット部152とが周方向交互に配置されている。
各ポケット部151、152は、軸方向の一方の端面側の面でカム130及びローラ140の軸方向の一方の移動が規制され、軸方向の他方への移動はスプリング160によって規制される。
また、本実施形態においては、ローラ140を収容するポケット部152のローラ140に隣接する面は、ローラ140の外輪側及び内輪側への移動を規制する形状に形成されている。
また、ローラ140の軸方向寸法rwをカム130の係合段部131を除いた軸方向寸法cwより大きい幅広のローラとし、ケージリング150のポケット部151、152をローラ140がカム130の係合段部131と反対側でカム130より突出するように構成することで、ローラ140がスプリング160により半径方向で押圧されることなく、より大きなアキシャル荷重を許容するようにしてもよい。
【0014】
さらに、本実施形態においては、
図5に示すように、カム130を収容するポケット部151の図示左側に隣接するフック部153は、環状のスプリング160の半径方向への移動を規制するフック底部154を有する。
このことで、ローラ140がスプリング160の張りを一切拘束せず、スプリング160がカム130の係合段部131の右側を押圧することから、各カム130はそれぞれ独立して2つのフック底部154間に張られたスプリング160の中央で押圧されるため、他のカム130の姿勢の変化の影響を受けることなく均等に精度の高い動作を行うことができる。
【0015】
なお、本実施形態においては、カム130とローラ140が同数で交互に配置されているが、カム130とローラ140のそれぞれの数、配置はいかなるものであってもよい。
また、カム130の形状もいかなるものであってもよく、例えばスプラグ形状のものであってもよい。
また、フック底部154の配置もカム130とローラ140のそれぞれの数、配置に応じてどのような配置としてもよく、各フック底部154の半径方向の高さは一様であってもよく、周方向の位置によって高さが異なるものであってもよい。
カム130とローラ140のそれぞれの数、配置に応じてフック底部154の配置、高さを適宜設定することで、上記実施形態と同様に各カム130が均等に精度の高い動作を行うことができる。
【0016】
本発明の他の実施形態に係るカムクラッチユニットは、
図6に示すように、カム130aは、係合段部131aと反対側の端面に規制段部132を有し、ケージリング150aのポケット部は、軸方向でカム130aの規制段部132と隣接する面にカム130aの傾きを規制する規制凸部155を有している。
この規制凸部155により、カム130aの係合段部131aと反対側の端面側がずれて傾くことが防止されるとともに、カム130aの揺動範囲が規制され、抜け落ちが防止されるとともにカムクラッチの動作精度、動作速度を向上することができる。
【0017】
規制凸部の形状は、例えば、
図7に示すように、ケージリング150bの外周側全体が軸方向に突出して規制凸部155bを構成するもの、
図8に示すように、ケージリング150cの周方向前後及び半径方向外周を規定できる半月形の規制凸部155cを配置するもの、
図9に示すように、ケージリング150dの周方向前後及び半径方向外周よりの3箇所に規制凸部155dを配置するもの等、カムの傾きが防止され揺動範囲が規制されればいかなる形状であってもよい。
【0018】
本発明のさらに他の実施形態に係るカムクラッチユニットは、
図10に示すように、ローラ140eが中空形状であり、ローラ140eの中空部142には、軸方向寸法がローラ140eより長いローラ軸143が遊嵌されている。
このことで、ローラ140eが軽量化されるとともに、スプリング160が回転しないローラ軸143の半径方向の移動を規制することで、ポケットの形状に関わらず、ローラ140eの半径方向への脱落が防止される。
また、スプリング160自体の摩耗が抑制されカムクラッチ自体の寿命への影響を低減することができる。
【0019】
以上、本発明の実施形態を詳述したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明を逸脱することなく種々の設計変更を行なうことが可能である。
例えば、上記実施形態においては、カムの軸方向の一方の端面のみにスプリングと係合可能な係合段部を設けたが、カムの軸方向の両端面に設け、ケージリングの軸方向両側にフック部を設けて、2本の環状スプリングで付勢してもよい。
【符号の説明】
【0020】
100、500 ・・・ カムクラッチユニット
130、530 ・・・ カム
131 ・・・ 係合段部
132 ・・・ 規制段部
535 ・・・ 溝部
140、540 ・・・ ローラ
142 ・・・ 中空部
143 ・・・ ローラ軸
545 ・・・ 溝部
150、550 ・・・ ケージリング
151、551 ・・・ ポケット部(カム用)
152、552 ・・・ ポケット部(ローラ用)
153 ・・・ フック部
154 ・・・ フック底部
155 ・・・ 規制凸部
160、560 ・・・ スプリング