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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023104554
(43)【公開日】2023-07-28
(54)【発明の名称】接合構造および接合構造の設計方法
(51)【国際特許分類】
   E04B 1/58 20060101AFI20230721BHJP
   E04B 1/24 20060101ALI20230721BHJP
【FI】
E04B1/58 506F
E04B1/24 Q
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022005608
(22)【出願日】2022-01-18
(71)【出願人】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000637
【氏名又は名称】弁理士法人樹之下知的財産事務所
(72)【発明者】
【氏名】後藤 天志郎
(72)【発明者】
【氏名】小橋 知季
(72)【発明者】
【氏名】中安 誠明
【テーマコード(参考)】
2E125
【Fターム(参考)】
2E125AA13
2E125AB01
2E125AC15
2E125AG03
2E125AG12
2E125AG45
2E125AG57
2E125BB02
2E125CA06
(57)【要約】
【課題】組立H形鋼を用いたピン接合部において、ウェブの局部座屈を効果的に防止する。
【解決手段】上フランジおよび下フランジとウェブとの間がそれぞれ溶接された組立H形鋼の材軸方向端部を被接合部材に接合する接合構造であって、上記ウェブは、上記被接合部材に高力ボルト摩擦接合され、上記上フランジの上面から最も近い上記高力ボルト摩擦接合のボルト中心までの距離d、上記組立H形鋼の材軸方向端部から最も遠い上記高力ボルト摩擦接合のボルト中心までの距離wおよび上記上フランジの上面から上記下フランジの下面までの距離Hが、d/H-0.19w/H≦0.20の関係を満たす接合構造が提供される。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
上フランジおよび下フランジとウェブとの間がそれぞれ溶接された組立H形鋼の材軸方向端部を被接合部材に接合する接合構造であって、
前記ウェブは、前記被接合部材に高力ボルト摩擦接合され、
前記上フランジの上面から最も近い前記高力ボルト摩擦接合のボルト中心までの距離d、前記組立H形鋼の材軸方向端部から最も遠い前記高力ボルト摩擦接合のボルト中心までの距離wおよび前記上フランジの上面から前記下フランジの下面までの距離Hが、
d/H-0.19w/H≦0.20
の関係を満たす接合構造。
【請求項2】
上フランジおよび下フランジとウェブとの間がそれぞれ溶接された組立H形鋼の材軸方向端部を被接合部材に接合する接合構造であって、
前記ウェブは、前記被接合部材に高力ボルト摩擦接合され、
前記上フランジの上面から最も近い前記高力ボルト摩擦接合のボルト中心までの距離d、前記上フランジの上面から前記下フランジの下面までの距離Hおよび前記ウェブの断面積Aw(mm)が、
d/H≦-2.35×10-5Aw+0.29、または
d/H≦0.13
の関係を満たす、請求項1に記載の接合構造。
【請求項3】
上フランジおよび下フランジとウェブとの間がそれぞれ溶接された組立H形鋼の材軸方向端部を被接合部材に接合する接合構造の設計方法であって、
前記ウェブは、前記被接合部材に高力ボルト摩擦接合され、
前記上フランジの上面から最も近い前記高力ボルト摩擦接合のボルト中心までの距離d、前記組立H形鋼の材軸方向端部から最も遠い前記高力ボルト摩擦接合のボルト中心までの距離wおよび前記上フランジの上面から前記下フランジの下面までの距離Hを、
d/H+αw/H≦β
の条件式で表現し、係数α(-1<α<0)および定数βの値を設定することによって距離dまたは距離wの少なくともいずれかを最適化する、接合構造の設計方法。
【請求項4】
α=-0.19である、請求項3に記載の接合構造の設計方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、接合構造およびその設計方法に関し、特に、組立H形鋼の材軸方向端部を被接合部材にピン接合する接合構造およびその設計方法に関する。
【背景技術】
【0002】
小梁を構成するH形鋼のウェブを大梁や柱に取り付けられたシアプレートなどの被接合部材にボルト接合し、フランジは接合しない、いわゆるピン接合部の構造が知られている。例えば、特許文献1には、シアプレートが大梁のフランジおよびウェブに溶接される溶接部が、上部溶接部と下部溶接部とに分離して形成される梁接合構造が記載されている。特許文献2には、大梁のウェブおよび小梁のウェブにそれぞれ沿うプレート部を有するガセット金物の各プレート部を大梁および小梁のウェブにボルト接合し、さらにガセット金物に小梁の下フランジの下面側に沿う受けプレート部を設け、受けプレート部と小梁の下フランジおよび床水平ブレースをボルト接合する技術が記載されている。
【0003】
上記のような接合構造において小梁を構成するH形鋼として一般的には圧延加工によって一体成形される圧延H形鋼が用いられるが、フランジおよびウェブを構成する鋼板を互いに溶接した組立H形鋼も知られている。特許文献3には、組立H形鋼における仮付け溶接もしくは隅肉溶接をその材軸方向端部から若干離間した位置までとするとともに、フランジに形成する開先の先端をウェブの隅肉溶接の脚長程度となるように加工し、この組立H形鋼と被接合部材とを接合するときに、組立H形鋼のウェブ両側において開先加工したフランジを被接合部材に溶接し、さらに被接合部材とウェブとを隅肉溶接して、いわゆる剛接合部を形成する技術が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2018-104960号公報
【特許文献2】特開2006-200273号公報
【特許文献3】特開平06-126444号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
一般的なH形鋼、つまり圧延H形鋼の場合、一体的にロール成形されるという制約が存在するため、フランジおよびウェブの板厚が応力などの条件に対して必ずしも最適化できるとは限らない。一方、組立H形鋼では別々に成形されたフランジおよびウェブが溶接されるため、板厚を最適化することが容易である。従って、組立H形鋼ではフランジおよびウェブの板厚が圧延H形鋼に比べて薄くなることが多い。板厚を薄くすることで鋼重量が削減できるのは大きな利点であるが、局部座屈も生じやすくなるため、例えば接合部の設計にあたっては注意が必要である。
【0006】
上記の特許文献1,2に記載されているように、一般的なH形鋼、つまり圧延H形鋼を用いたピン接合部の構成は知られている。また、特許文献3に記載されているように、組立H形鋼を用いた剛接合部の構成も知られている。しかしながら、組立H形鋼を用いたピン接合部の構成や設計手法については、あまり知られていない。例えば、上記のように組立H形鋼ではウェブの板厚が薄いことを考慮し、局部座屈を防止することを考慮した接合部の構成についても、未だ知られていない。
【0007】
そこで、本発明は、組立H形鋼を用いたピン接合部において、ウェブの局部座屈を効果的に防止することが可能な接合構造およびその設計方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
[1]上フランジおよび下フランジとウェブとの間がそれぞれ溶接された組立H形鋼の材軸方向端部を被接合部材に接合する接合構造であって、上記ウェブは、上記被接合部材に高力ボルト摩擦接合され、上記上フランジの上面から最も近い上記高力ボルト摩擦接合のボルト中心までの距離d、上記組立H形鋼の材軸方向端部から最も遠い上記高力ボルト摩擦接合のボルト中心までの距離wおよび上記上フランジの上面から上記下フランジの下面までの距離Hが、d/H-0.19w/H≦0.20の関係を満たす接合構造。
[2]上フランジおよび下フランジとウェブとの間がそれぞれ溶接された組立H形鋼の材軸方向端部を被接合部材に接合する接合構造であって、上記ウェブは、上記被接合部材に高力ボルト摩擦接合され、上記上フランジの上面から最も近い上記高力ボルト摩擦接合のボルト中心までの距離d、上記上フランジの上面から上記下フランジの下面までの距離Hおよび上記ウェブの断面積Aw(mm)が、d/H≦-2.35×10-5Aw+0.29、またはd/H≦0.13の関係を満たす、請求項1に記載の接合構造。
[3]上フランジおよび下フランジとウェブとの間がそれぞれ溶接された組立H形鋼の材軸方向端部を被接合部材に接合する接合構造の設計方法であって、上記ウェブは、上記被接合部材に高力ボルト摩擦接合され、上記上フランジの上面から最も近い上記高力ボルト摩擦接合のボルト中心までの距離d、上記組立H形鋼の材軸方向端部から最も遠い上記高力ボルト摩擦接合のボルト中心までの距離wおよび上記上フランジの上面から上記下フランジの下面までの距離Hを、d/H+αw/H≦βの条件式で表現し、係数αおよび定数βの値を設定することによって距離dまたは距離wの少なくともいずれかを最適化する、接合構造の設計方法。
[4]α=-0.19である、[3]に記載の接合構造の設計方法。
【発明の効果】
【0009】
上記の構成によれば、組立H形鋼を用いたピン接合部において、小梁を構成する組立H形鋼の上フランジに最も近いボルトと上フランジとの間の距離dを梁せいHに対して所定の範囲以下に設定し、さらに組立H形鋼の材軸方向端部から最も遠いボルトまでの距離を考慮することによって、ウェブの局部座屈を効果的に防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明の一実施形態に係る接合構造の例を示す図である。
図2図1に示された接合構造における寸法を示す拡大図である。
図3】組立H形鋼を用いたピン接合部におけるウェブの局部座屈について検証するための実験および解析の条件について説明するための図である。
図4図3に示した条件で実施した4点曲げ試験の結果を示す写真である。
図5】解析結果における最大耐力と指標d/Hの関係を示すグラフである。
図6】解析結果における最大耐力と指標d/Hの関係を示すグラフである。
図7】解析結果における最大耐力と指標d/Hの関係を示すグラフである。
図8】解析結果における最大耐力と指標d/Hの関係を示すグラフである。
図9】解析結果における最大耐力と指標w/Hの関係を示すグラフである。
図10】指標d/H+αw/Hと解析結果における最大耐力との相関係数の係数αの値による変化を示すグラフである。
図11】解析結果における最大耐力と指標d/H+αw/Hとの関係を示すグラフである。
図12】従来の圧延H形鋼を用いた梁接合構造の設計基準における指標d/Hの値をウェブ断面積ごとに示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。なお、本明細書および図面において、実質的に同一の機能構成を有する構成要素については、同一の符号を付することにより重複した説明を省略する。
【0012】
図1は、本発明の一実施形態に係る接合構造の例を示す図である。図示された接合構造の例では、組立H形鋼である小梁1の材軸方向端部が、大梁2にシアプレート31を介して接合される。小梁1は、上フランジ11、下フランジ12およびウェブ13を含み、上フランジ11とウェブ13との間、および下フランジ12とウェブ13との間はそれぞれ隅肉溶接によって溶接される。シアプレート31は、大梁2の上フランジ21、下フランジ22およびウェブ23にそれぞれ溶接される。本実施形態では、大梁2およびシアプレート31が被接合部材を構成する。小梁1のウェブ13は、ボルト32を用いてシアプレート31に高力ボルト摩擦接合される。これによって、小梁1と大梁2との間にはピン接合部が形成される。
【0013】
図2は、図1に示された接合構造における寸法を示す拡大図である。図2には、図1に示された接合構造の構成要素のうち、小梁1およびシアプレート31が示されている。以下では、小梁1の上フランジ11の上面から最も近いボルト32までの距離d、小梁1の材軸方向端部から最も遠いボルト32までの距離w、および小梁1の梁せい、すなわち上フランジ11の上面から下フランジ12の下面までの距離Hを用いて、ピン接合部で小梁1のウェブ13の局部座屈を効果的に防止する条件について検討する。この他、図2には、上下方向に配列されたボルト列におけるボルト32の間隔pn、および2列以上のボルト列が存在する場合の小梁1の材軸方向におけるボルト列の間隔pmが図示されている。
【0014】
図3は、組立H形鋼を用いたピン接合部におけるウェブの局部座屈について検証するための実験および解析の条件について説明するための図である。実験では、長さ7000mm、梁せいH=700mm、フランジ幅175mm、ウェブ板厚4.5mm、フランジ板厚9mmの組立H形鋼梁について、材軸方向両端部を図2に示したようなピン接合部として4点曲げ試験を実施した。図3では、梁の一方の材軸方向端部から中央までが図示されている。梁の中央から反対側の材軸方向端部までは図示された範囲と対称である。載荷点Pは梁長さの1/4の位置であるため、梁の長さが7000mmの場合、シアスパンL=1750mmになる。載荷点Pではウェブの面外変位を拘束し、ピン接合部はシアプレート側で各方向の変位および回転が固定されている。シアプレートの板厚は9mmである。
【0015】
図4は、図3に示した条件で実施した4点曲げ試験の結果を示す写真である。実験では、F10T-M20の高力ボルト1列を、図2に示したd=110mm、w=40mm、pn=120mmとなるように配置して標準ボルト張力相当(182kN)を導入した。その結果、梁の材軸方向端部のピン接合部付近でウェブの局部座屈(せん断座屈)が発生した。写真に示されるように、ウェブのせん断座屈は、シアプレート上端と上フランジとの間を起点として、斜め方向に発生した。
【0016】
表1に、図3に示した条件で実施した解析のパラメータおよび結果を示す。解析では、ピン接合部におけるボルトの配置と、ボルトの配置によって定まるシアプレートの形状とをパラメータとして、ピン接合部の最大耐力を算出した。高力ボルト摩擦接合における摩擦係数は0.45とした。上記で図2および図3に示した寸法の他、表1において、ボルト本数nは上下方向に配列されたボルトの本数、mは材軸方向に配列されるボルト列の数である。m=1の場合は、ボルト列の間隔pm=0としている。解析結果におけるmaxは最大荷重であり、max/Pcrは最大荷重maxをウェブ板要素の弾性座屈荷重Pcrで正規化した値である。なお、指標のd/H、w/Hおよびd/H+αw/Hについては後述する。
【0017】
【表1】
【0018】
図5から図8は、解析結果におけるmax/Pcr(最大荷重をウェブ板要素の弾性座屈荷重で正規化した値。以下、最大耐力ともいう)と指標d/Hの関係を示すグラフである。上述のように、距離dは小梁の上フランジの上面から最も近いボルトまでの距離であり、梁せいHは上フランジの上面から下フランジの下面までの距離である。
【0019】
図5には、梁せいH=700mm、フランジ幅175mm、ウェブ板厚4.5mm、フランジ板厚9mm、シアスパンL=1750mm(実験と同条件)のケース、具体的には
Case1(ボルト6本×1列、No.1-1~1-6)、
Case2(ボルト3本×2列、pm=60mm、No.2-1~2-6)、
Case3(ボルト3本×2列、pm=120mm、No.3-1~3-6)、および
Case4(ボルト3本×2列、pm=240mm、No.4-1~4-6)
が示されている。なお、すべてのケースについて、No.x-1~x-6(またはNo.x-1~x-4)では上下方向に配列されたボルト列におけるボルト間隔pnが異なり、それに伴って距離dも異なっている。また、各列のボルトは小梁の中立軸を中心にして上下方向に対称配置されている。
【0020】
図6には、小梁の断面がCase1~Case4と同じで、シアスパンL=875mmのCase5(ボルト6本×1列、No.5-1~5-4)が示されている。
【0021】
図7には、梁せいH=500mm、フランジ幅125mm、ウェブ板厚4.5mm、フランジ板厚6mm、ボルト4本×1列のケース、具体的には
Case6(シアスパンL=1750mm、No.6-1~6-4)、および
Case7(シアスパンL=875mm、No.7-1~7-4)が示されている。
【0022】
図8には、梁せいH=350mm、フランジ幅100mm、ウェブ板厚3.2mm、フランジ板厚6mm、シアスパンL=1750mm、ボルト3本×1列のCase8(No.8-1~8-4)が示されている。
【0023】
図5から図8に示されたそれぞれのケースでは、指標d/Hの値が小さいほど最大耐力が大きくなる。つまり、指標d/Hと最大耐力との間には負の相関関係が見られる。これは、最大耐力の決定要因として、上フランジに最も近いボルトと上フランジとの間のウェブの局部座屈の寄与が大きいためと考えられる。なお、各ケースにおける最大耐力max/Pcrはウェブ板要素の弾性座屈荷重Pcrで正規化された値であり、Pcrは梁せいHやシアスパンLによって変化するため、グラフにおける近似直線の傾きの大きさが必ずしも最大耐力に対する指標d/Hの影響の強さを示すわけではない。
【0024】
図9は、解析結果におけるmax/Pcr(最大耐力)と指標w/Hとの関係を示すグラフである。上述のように、距離wは小梁の材軸方向端部から最も遠いボルトまでの距離であり、梁せいHは上フランジの上面から下フランジの下面までの距離である。具体的には、図9には、上記のCase1~Case4(梁せいH=700mm、フランジ幅175mm、ウェブ板厚4.5mm、フランジ板厚9mm、シアスパンL=1750mm、ボルト列数mまたはボルト列間隔pmがそれぞれ異なる)で、d=100mmのケース(No.1-5,2-5,3-5,4-5、梁せいHが同じであるため指標d/Hも同じ値になる)について、最大耐力と指標w/Hとの関係が示されている。
【0025】
図9に示されたそれぞれのケースでは、指標w/Hの値が大きいほど最大耐力が大きくなる。つまり、指標w/Hと最大耐力との間には正の相関関係が見られる。ここで、図5および図9のグラフに示された各ケースでは、ウェブ板要素の弾性座屈荷重Pcrは各例で共通であり最大耐力が同じ基準で正規化されている。従って、図5および図9のグラフにおける近似直線の傾きの大きさから、最大耐力に対する指標w/Hの影響の強さが指標d/Hに比べると小さいことがわかる。
【0026】
以上の結果から、本発明者らは、組立H形鋼を用いたピン接合部においてウェブの局部座屈を効果的に防止する条件を、上記の指標d/H,w/Hを組み合わせた指標d/H+αw/Hで表すことに想到した。ここで、係数αは、最大耐力に対する指標w/Hの影響の、指標d/Hの影響を1とした場合の比率であり、図5図9のグラフに示されるように指標d/Hと最大耐力との間には負の相関関係があり、指標w/Hと最大耐力との間には正の相関関係があることから、-1<α<0である。
【0027】
図10は、指標d/H+αw/Hと解析結果における最大耐力max/Pcrとの相関係数の係数αの値による変化を示すグラフである。最大耐力max/Pcrが同じ基準で正規化されているCase1~Case4について、係数αを変化させながら、指標d/H+αw/Hと解析結果における最大耐力max/Pcrとの相関係数を算出した。上述のように、より影響の強い指標である指標d/Hが最大耐力との間に負の相関関係を有するため、指標w/Hと組み合わせた指標d/H+αw/Hについても相関係数は負の値になる。計算の結果、係数α=-0.19のときに、相関係数の値が極小になった。従って、上記の解析の範囲内では指標d/H-0.19w/Hが、ピン接合部の寸法と最大耐力との間の負の相関関係を最もよく表す指標と考えられる。
【0028】
図11は、解析結果におけるmax/Pcr(最大耐力)と指標d/H+αw/Hとの関係を示すグラフである。図10における検討の結果より、α=-0.19としている。指標d/H+αw/Hについて、係数αの算出に用いられたCase1~Case4だけではなく、Case5~Case8でも、図6図9に示されたのと同様に指標d/H+αw/Hと最大耐力との間に相関関係が現れている。従って、指標d/H+αw/Hは、特定の梁せいHやシアスパンLに関わらず、ピン接合部においてウェブの局部座屈を効果的に防止する条件として適用可能であると考えられる。
【0029】
なお、上記の例ではCase1~Case4の結果を用いて係数αの値を算出したが、これらのケースとは異なる梁せいHやシアスパンLのケースで係数αの値を算出してもよい。この場合、係数αの値は上記の例とは異なる値になりうる。特定の梁せいHやシアスパンLのケースで係数αの値を算出することによって、同じ梁せいHやシアスパンLの場合にウェブの局部座屈を効果的に防止する条件をより高い精度で特定することができる。
【0030】
図12は、従来の圧延H形鋼を用いた梁接合構造の設計基準における指標d/Hの値をウェブ断面積ごとに示すグラフである。「SCSS-H97 鉄骨構造標準接合部 H形鋼編」には、小梁を構成する圧延H形鋼の断面ごとに、梁接合構造におけるボルト本数(上記の説明におけるボルト本数n)およびボルト間隔(上記の説明におけるボルト間隔pn)が規定されており、これらの値に基づいて上記の説明における指標d/Hを算出することができる。具体的には、梁せいの1/2からボルト間隔×(ボルト本数-1)の1/2を差し引くことによって距離dが算出され、これを梁せいHで割ることで指標d/Hが算出される。
【0031】
図12のグラフを参照すると、従来の圧延H形鋼を用いた梁接合構造では、指標d/Hおよびウェブ断面積Awが以下の2つの式によって表される範囲にある。
d/H>-2.35×10-5Aw+0.29、かつ
d/H>0.13
【0032】
既に述べた通り、組立H形鋼を用いた梁接合構造について、梁接合構造におけるボルト本数やボルト間隔の設計手法は知られていないため、一般的には上記のような圧延H形鋼を用いた梁接合構造の設計基準に従ってボルト本数やボルト間隔が設定される。ただし、これらの設計基準では組立H形鋼で生じやすくなるウェブの局部座屈は考慮されていない。従って、上述のようにウェブの局部座屈を効果的に防止する条件を考慮した場合、指標d/Hが図12に示された範囲外、すなわち
d/H≦-2.35×10-5Aw+0.29、または
d/H≦0.13
になるようにボルト間隔が設定される場合がありうる。
【0033】
上記で図12を参照して説明したような検討の結果から、圧延H形鋼を用いた梁接合構造の設計基準では設定されない指標d/H+αw/Hの範囲が、図11において破線および矢印で示されている。この範囲は、具体的には以下の式で表される。
d/H-0.19w/H≦0.20
なお、同様に圧延H形鋼を用いた梁接合構造の設計基準では設定されない指標d/Hおよび指標w/Hの範囲が、図5から図9において破線および矢印で示されている。
【0034】
既に述べたように、図11の例において係数αはCase1~Case4の結果を用いて算出されている。この係数αはCase1~Case4とは梁せいHやシアスパンLが異なるケースにおいても適用可能であるものの、例えば実際に使用される小梁の梁せいHやシアスパンLのケースの結果を用いて係数αを算出した方が、ウェブの局部座屈を効果的に防止する条件をより高い精度で特定することができる。また、上記の条件式の右辺の値(0.20)についても、必ずしも圧延H形鋼を用いた梁接合構造の設計基準を基に決定される必要はなく、設計上必要とされる最大耐力が発揮される範囲で適切に設定することができる。従って、本発明の実施形態に係る接合構造の設計方法は、以下のような条件式において係数α(-1<α<0)および定数βの値を適切に設定して距離dまたは距離wの少なくともいずれかを最適化し、それらの距離が実現されるようにボルト間隔やボルト列間隔を設定する方法として一般化することができる。
d/H+αw/H≦β
【0035】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について詳細に説明したが、本発明はこれらの例に限定されない。本発明の属する技術の分野の当業者であれば、請求の範囲に記載された技術的思想の範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、これらについても、当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【符号の説明】
【0036】
1…小梁、11…上フランジ、12…下フランジ、13…ウェブ、2…大梁、21…上フランジ、22…下フランジ、23…ウェブ、31…シアプレート、32…ボルト。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12