(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023104572
(43)【公開日】2023-07-28
(54)【発明の名称】空気調和機の室内機
(51)【国際特許分類】
F24F 1/0011 20190101AFI20230721BHJP
F24F 1/0022 20190101ALI20230721BHJP
F24F 13/08 20060101ALI20230721BHJP
【FI】
F24F1/0011
F24F1/0022
F24F13/08 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022005641
(22)【出願日】2022-01-18
(71)【出願人】
【識別番号】314012076
【氏名又は名称】パナソニックIPマネジメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001081
【氏名又は名称】弁理士法人クシブチ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】松永 健吾
(72)【発明者】
【氏名】中村 優斗
(72)【発明者】
【氏名】松井 大
【テーマコード(参考)】
3L049
3L081
【Fターム(参考)】
3L049BB05
3L049BD01
3L081AA02
3L081AB03
(57)【要約】
【課題】空力騒音を低減できる空気調和機の室内機を提供する。
【解決手段】空気調和機1の室内機10は、吸入した空気を径方向に送り出すシロッコファン52と、シロッコファン52が収められるケーシングと、を備え、ケーシングには、シロッコファン52によって送り出される空気が吹き出される矩形の吹出口58と、吹出口58の下縁を形成する舌部62とが設けられ、舌部62の上面81には、シロッコファン52から吹出口58に向かうにつれて低くなる段差を備える複数の平面が設けられ、少なくとも1つの平面の吹出口58の側に位置する縁部には、平面視で凹凸形状が設けられる。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
吸入した空気を径方向に送り出すシロッコファンと、
前記シロッコファンが収められるケーシングと、を備え、
前記ケーシングには、前記シロッコファンによって送り出される空気が吹き出される吹出口と、
前記吹出口の下縁を形成する舌部とが設けられ、
前記舌部の上面には、前記シロッコファンから前記吹出口に向かうにつれて低くなる段差を備える複数の平面が設けられ、
少なくとも1つの前記平面の前記吹出口の側に位置する縁部には、平面視で凹凸形状が設けられる
ことを特徴とする空気調和機の室内機。
【請求項2】
前記凹凸形状は、V字状である
ことを特徴とする請求項1に記載の空気調和機の室内機。
【請求項3】
複数の前記平面のうち、
前記凹凸形状が設けられる平面である高段面と、前記高段面の前記吹出口の側で隣り合う平面である低段面との高低差の寸法をHとし、
前記吹出口から前記シロッコファンに向かう方向に沿う前記低段面の幅寸法をL1とするとき、
それぞれが次の関係を満たす
ことを特徴とする請求項1または請求項2に記載の空気調和機の室内機。
0<H/L1≦1.5
【請求項4】
前記凹凸形状によって設けられる少なくとも一つの凹部の前記舌部が延びる方向に沿う幅寸法をWとし、
前記吹出口から前記シロッコファンに向かう方向に沿う前記凹部の幅寸法をL2とするとき、
それぞれが次の関係を満たす
ことを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の空気調和機の室内機。
0<L2/W≦4
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、空気調和機の室内機に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1は、ダクト形の空気調和機の室内機を開示する。この空気調和機の室内機は、空気調和機本体の吹出口に接続されたダクト接続フランジを自在に移動させることを可能にし、吹出口の開口寸法を自由に変化させる。これにより、この空気調和装置の室内機は、吹出口の開口面積を自由に変えることで一定した風速を確保することができ、快適な空気調和を行う。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本開示は、空力騒音を低減できる空気調和の室内機を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本開示における空気調和機の室内機は、吸入した空気を径方向に送り出すシロッコファンと、前記シロッコファンが収められるケーシングと、を備え、前記ケーシングには、前記シロッコファンによって送り出される空気が吹き出される吹出口と、前記吹出口の下縁を形成する舌部とが設けられ、前記舌部の上面には、前記シロッコファンから前記吹出口に向かうにつれて低くなる段差を備える複数の平面が設けられ、少なくとも1つの前記平面の前記吹出口の側に位置する縁部には、平面視で凹凸形状が設けられることを特徴とする。
【発明の効果】
【0006】
本開示によれば、空力騒音を低減できる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】本開示の実施の形態1における空気調和機が備える室内ユニットのシロッコファンの回転軸に沿った横断面図
【
図6】送風機が駆動した場合の吹出口における気流を模式的に示す図
【
図7】送風機が駆動した場合の吹出口における気流を模式的に示す図
【
図8】高段面と低段面との高低差の寸法と低段面の幅寸法との比率と、送風機の風量との関係を示す散布図
【
図9】舌部が延びる方向に沿う凹部の幅寸法と吹出口からシロッコファンに向かう方向に沿う凹部の幅寸法との比率と、送風機の風量との関係を示す散布図
【発明を実施するための形態】
【0008】
(本開示の基礎となった知見等)
発明者らが本開示に想到するに至った当時、快適な空気調和を行うダクト形の空気調和機の室内機に関する技術があった。この空気調和機の室内機では、空気調和機本体の吹出口に接続されたダクト接続フランジを自在に移動させることを可能にし、吹出口の開口寸法を自由に変化させる。これによって、この空気調和装置の室内機は、吹出口の開口面積を自由に変えることで一定した風速を確保することができる。
この空気調和機の室内機には、シロッコファンを備える送風機が用いられる。このような送風機には、シロッコファンを収めるケーシングを備え、当該ケーシングに設けられた吹出口からシロッコファンによって送り出された空気を吹き出すものが知られている。
【0009】
ところで、上述のような送風機では、シロッコファンによって送り出された空気が吹出口の下縁にぶつかることで、渦が発生する場合がある。送風機や、当該送風機を備える空気調和機では、この渦が発生した状態で、吹出口から当該空気が吹き出されることで、所謂空力騒音が生じることがある、という課題を発明者らは発見し、その課題を解決するために、本開示の主題を構成するに至った。
そこで本開示は、空力騒音を低減できる空気調和機、及び送風機を提供する。
【0010】
以下、図面を参照しながら、実施の形態を詳細に説明する。但し、必要以上に詳細な説明は省略する場合がある。例えば、既によく知られた事項の詳細説明、または、実質的に同一の構成に対する重複説明を省略する場合がある。これは、以下の説明が必要以上に冗長になるのを避け、当業者の理解を容易にするためである。
なお、添付図面および以下の説明は、当業者が本開示を十分に理解するために提供されるのであって、これらにより特許請求の範囲に記載の主題を限定することを意図していない。
【0011】
(実施の形態1)
以下、
図1~
図4を用いて、実施の形態1を説明する。なお、各図に示す符号FRは、平吊り状態における室内ユニットの前方を示し、符号UPは、室内ユニットの上方を示し、符号LHは、室内ユニットの左方を示す。以下の説明において、各方向は、これらの室内ユニットの各方向に沿った方向である。
[1-1.構成]
[1-1-1.空気調和機の構成]
図1は、空気調和機1が備える室内機10のシロッコファン52の回転軸78に沿った横断面図である。この
図1は、シロッコファン52の回転軸78を通り、且つ室内機10の前後方向、及び左右方向に沿った断面を平面視した図である。
【0012】
図1に示すように、本実施の形態の空気調和機1は、室内機10を備える。空気調和機1は、室内機10に収められた熱交換器69と、室外ユニットに収められた圧縮機や電子膨張弁等の減圧装置、室外熱交換器等で形成された空気調和機1の冷凍サイクルを備える。そして、空気調和機1では、この冷凍サイクルに冷媒を流通させることで、所定の被調和空間の空調を行う。
【0013】
室内機10は、天井空間や壁内、あるいは床下等に設置されるダクト式の空気調和機1の室内機である。室内機10は、設置個所に応じて送風方向を変更可能となるように、配置方向を変更可能に設けられる。例えば、水平方向に送風する場合には、室内機10は、調和空気を吹き出す吐出口18が側方に位置する、所謂平吊り状態で設置される。また、上方に送風する場合には、室内機10は、送風口が上方に位置する、所謂縦吊り状態で設置される。
以下の説明において、上下方向は、室内機10を平吊り状態で設置した場合における上下方向を意味するものとする。
【0014】
図2は、室内機10の縦断面図である。この
図2は、複数の送風機35を避けた位置を通り、且つ室内機10の前後方向、及び上下方向に沿った断面を当該室内機10の左方から視た図である。
図1、
図2に示すように、室内機10は、前面板11、背面板12、一対の側板である右側板13及び左側板14、底板15、天板16により構成される筐体19を有する。前面板11には、左右方向全体に亘って、開口部である吐出口18が設けられる。また、背面板12には、開口部である吸込口59が設けられる。
【0015】
筐体19の内部空間は、仕切板21によって送風室22と熱交換室23に区画される。
仕切板21は、所定の長さ寸法を有した平板状部材である。この仕切板21は、長手方向の両端が右側板13、及び左側板14のそれぞれの略中央に連結される。
【0016】
送風室22には、複数の送風機35と、電動機54とが室内機10の左右方向に沿って並べて配置される。
各送風機35は、シロッコファン52とスクロールケーシング56とを備える。シロッコファン52は、空気を送り出す所謂遠心ファンである。これらのシロッコファン52は、室内機10の左右方向に沿って延びる回転軸78によって軸支される。すなわち、各送風機35のそれぞれが備えるシロッコファン52は、回転軸78を介して互いに連結される。スクロールケーシング56は、シロッコファン52を収めるケーシングである。このスクロールケーシング56には、シロッコファン52の回転によって空気を取り込む開口部57と、取り込まれた後にシロッコファン52によって送り出される空気を所定方向にガイドするダクト状の送風部65とが設けられる。
【0017】
電動機54は、シロッコファン52の回転軸78に連結され、この回転軸78を介してシロッコファン52を回転駆動させる。
図1に示すように、本実施の形態では、送風室22には、3台の送風機35が配置される。なお、
図1の構成は、一例であって、室内機10には、任意の数の電動機54、及び送風機35を設けてもよい。
【0018】
仕切板21には、送風室22と熱交換室23とに連通する複数の連通開口25が設けられ、この連通開口25のそれぞれに送風機35の送風部65が接合される。また、送風機35の開口部57は、送風室22に開口する。
【0019】
送風機35が動作すると、送風室22から送風機35が吸込口59を介して吸気を行うことで、送風室22に外気が流入する。この外気が送風機35により、仕切板21に形成された連通開口25を介して熱交換室23に送られる。
すなわち、室内機10では、送風室22が送風機35の一次側の空間であり、熱交換室23が二次側の空間である。
【0020】
熱交換室23には、熱交換器69が配置される。熱交換器69は、室外ユニットから供給される冷媒を蒸発させる蒸発器、或いは、冷媒を凝縮させるコンデンサ(凝縮器)として機能する利用側熱交換器である。
【0021】
本実施の形態の熱交換器69は、所謂フィン・チューブ型の熱交換器であり、当該熱交換器69は、銅製の冷媒管に金属製の複数のフィンが接合され、全体として長尺の板状に形成される。
この冷媒管の一方の端部には、室外ユニットから送られた冷媒が流入する。流入した冷媒は、冷媒管によって熱交換器69の全体を流れ、当該冷媒管の他方の端部から再度室外ユニットへと流出する。
【0022】
この熱交換器69は、
図1に示すように、長手方向が熱交換室23の左右方向に沿うように配置される。このように配置された熱交換器69は、一方の平面が仕切板21、及び各送風部65に対向し、他方の平面が吐出口18に対向して配置される。これによって、熱交換器69の冷媒管が仕切板21の長手方向に沿って延び、各フィンの板厚方向が仕切板21の長手方向に沿うように、各フィンが並べられる。
【0023】
送風機35により送風室22に送られた空気は、主に各フィン同士の隙間を介して熱交換器69を通過するときに冷媒管を流れる冷媒と熱交換し、前面板11に形成された吐出口18から吹き出される。
なお、室内機10は、複数の熱交換器を備えてもよい。またこれらの熱交換器は、熱交換室23において、任意に配置してもよい。
【0024】
[1-1-2.送風機の構成]
図3は、送風機35の斜視図である。
次いで、送風機35の構成について詳述する。
図3に示すように、送風機35は、空気を径方向に排気するシロッコファン52と、当該シロッコファン52を収容するスクロールケーシング56とを備える。
シロッコファン52は、円板状の主板71を備え、当該主板71の周縁に多数の羽根が起立して設けられたドラム状、あるいは円筒状に形成された羽根車である。主板71の略中央には、回転軸78が挿通される。
【0025】
スクロールケーシング56は、シロッコファン52を格納するケーシング本体60と、当該ケーシング本体60から一方向に突出する送風部65とが設けられる。
ケーシング本体60は、シロッコファン52の回転軸方向に位置する一対の側板72を備える。各側板72には、上述の通り、シロッコファン52の回転軸方向に開口する開口部57が設けられる。送風機35は、シロッコファン52の回転によって、開口部57から空気を吸入する。
【0026】
送風部65は、ダクト状に形成され、当該送風部65の上面を形成する上面部61と、下面を形成する舌部62と、左右の側面を形成する一対の側面部63を備える。各側面部63は、各側板72に連続した平板部である。
【0027】
送風部65のケーシング本体60と反対側に位置する端部には、吹出口58が設けられる。この吹出口58は、上面部61と、舌部62と、一対の側面部63とがそれぞれ備える室内機10の前面側に位置する端部によって形成される矩形の開口部である。
送風部65、及び吹出口58は、シロッコファン52の側周面に対向して設けられる。換言すれば、送風部65、及び吹出口58は、シロッコファン52の遠心方向に配置される。シロッコファン52によって送り出された空気は、吹出口58を介してスクロールケーシング56の内部から外部に吹き出される。
【0028】
[1-1-3.舌部の構成]
舌部62は、送風部65において、上面部61の平面に対向して配置され、吹出口58の下縁を形成する。この舌部62は、一方の側面部63から他方の側面部63まで延びる。舌部62は、室内機10の上下方向と、前後方向のそれぞれに沿って所定の幅寸法を備える。この舌部62の上面81は、平面視で矩形に形成される。
【0029】
図4は、舌部62を正面から視た斜視図である。
図5は、舌部62の斜視図である。
図5では、室内機10の左右方向における舌部62の一部を省略して示す。
図4、
図5に示すように、上面81には、シロッコファン52から吹出口58に向かうにつれて、所謂階段状に低くなる複数の平面83が設けられる。本実施の形態では、2つの平面83が設けられる。これら2つの平面83が設けられることで、上面81には、段部80が設けられる。段部80は、室内機10の上下方向に沿って延び、2つの平面83は、上面部61に平行である。
以下、2つの平面83のうち、上面81において、シロッコファン52側に位置する平面83を高段面82とし、吹出口58側に位置する、換言すれば吹出口58の側で高段面82に隣り合う平面83を低段面84とする。
【0030】
高段面82と低段面84とは、互いに隣接し、室内機10の上下方向において、高段面82の位置する高さ寸法が低段面84の位置する高さ寸法よりも相対的に高く形成される。平面83と上面85とは、いずれも上面部61に略平行な平坦面である。
【0031】
本実施の形態では、低段面84の吹出口58側に位置する縁部97には、R形状が設けられる。これにより、シロッコファン52に送り出された空気が吹出口58から吹き出されるときに、当該R形状に沿って、下方に緩やかに偏向しながら吹き出される。このため、スクロールケーシング56の内部と外部との空気の圧力勾配によって生じる空気の渦を低減することが可能である。
【0032】
高段面82と低段面84との高低差の寸法は、吹出口58からシロッコファン52に向かう方向における低段面84の幅寸法よりも長く、且つ高段面82の幅寸法の1.5倍以下に形成される。
これによって、シロッコファン52から送り出された空気は、高段面82に沿って流れた後に、降段して低段面84に沿って流れる。このため、当該空気は、段部80と、低段面84とによって囲まれる空間において、圧力勾配の大きいスクロールケーシング56の外部の空気と段階的に合流することで渦を低減させることができる。
【0033】
以下、高段面82と低段面84との高低差の寸法を高さ寸法Hとし、吹出口58からシロッコファン52に向かう方向に沿う低段面84の幅寸法を幅寸法L1とする(
図6)。また、説明の便宜上、段部80と、低段面84とによって囲まれ、且つ吹出口58に面する空間を空間Sとする。
【0034】
高段面82には、平面視で、吹出口58側に位置する縁部87からシロッコファン52に向かって窪む複数の凹部89が設けられる。複数の凹部89は、舌部62の長手方向全体に亘って複数が設けられ、且つ段部80の高さ方向全体に亘って設けられる。各凹部89は、平面83において、縁部87からシロッコファン52に向かうにつれて幅寸法が狭くなる略V字状に形成される。複数の凹部89が設けられることで、縁部87には、上面81の平面視で、凹凸形状が形成される。
【0035】
縁部87において、縁部87からシロッコファン52に向かう各凹部89の幅寸法は、舌部62の長手方向に沿う各凹部89の幅寸法よりも長く、且つ舌部62の長手方向に沿う各凹部89の幅寸法の4倍以下に形成される。
これによって、凹部89は、シロッコファン52から送り出される空気を分割可能な幅寸法を備えることができる。このため、当該空気は、舌部62において連なることが抑制され、当該空気に発生した渦を微細化することができる。
【0036】
以下、舌部62が延びる方向に沿う凹部89の幅寸法を幅寸法Wとし、吹出口58からシロッコファン52に向かう方向に沿う凹部89の長さ寸法を長さ寸法L2とする(
図6)。
【0037】
これらの凹部89が設けられることによって、縁部87には、シロッコファン52側から先端91が低段面84、及び吹出口58に向かって突出する凸部86が設けられる。この凸部86は、シロッコファン52から吹出口58に向かうにつれて幅寸法が狭くなる略V字状に形成される。当該凸部86の先端91と、当該先端91の両側に位置する一対の辺である突出部辺95は、縁部87の一部を形成する。
【0038】
突出部辺95は、縁部87の一部であると共に、平面83の一辺である。これらの突出部辺95は、先端91の両側に位置する上端の辺を形成すると共に、凹部89の両側に位置する辺に相当する。これらの突出部辺95は、凸部86が略V字状に形成されるため、舌部62の平面視で、斜辺となっている。
【0039】
[1-2.動作]
[1-2-1.空気調和機の動作]
以上のように構成された空気調和機1について、その動作を以下説明する。
空気調和機1では、送風機35の運転により、吸込口59から吸気された空気が開口部57から回転軸方向に沿ってスクロールケーシング56に流入する。送風機35は、流入した空気を送風部65から熱交換器69へ吹き出す。吹き出された空気は、熱交換器69で熱交換されて調和空気となり、吐出口18から被調和空間に吐出される。
【0040】
図6は、送風機35が駆動した場合の吹出口58における気流Aを模式的に示す図である。
図6では、室内機10の前後方向に沿った送風部65の縦断面の一部を模式的に示す。この
図6では、説明の便宜上、送風機35によって送り出される空気の流れである気流Aを一点鎖線で示す。また、
図6では、空間Sを2点鎖線で示す。
送風機35によって吹き出される空気は、シロッコファン52によって当該シロッコファン52の径方向に送り出され、送風部65を通って吹出口58に向かう。このとき、当該空気の一部は、
図6に示すように、上面部61側から上面81に向かって、斜めに吹き下ろされる。
【0041】
従来の空気調和機は、上面81が平坦面であり、吹き下ろされた空気の流れである気流Aは、当該上面81に衝突して偏向し、当該上面81に略平行、且つ吹出口58に向かって流れる。このとき、従来の空気調和機では、この気流Aに複数の渦が発生し、当該渦が上面81に沿って流れることで増大することがあった。
さらに、上面81の吹出口58側に位置する縁部97が線状である場合、上面81の長手方向に沿って、複数の渦が連なることで増大することがあった。
【0042】
ここで、駆動する送風機35において、スクロールケーシング56の内部、特に送風部65の内部と、熱交換室23等のスクロールケーシング56の外部とでは、送風部65の内部の方がスクロールケーシング56の外部よりも気流Aの速度が速い。このため、空気調和機1では、スクロールケーシング56の外部よりも送風部65の内部の方が高圧となる圧力勾配が生じる。これによって、従来の空気調和機では、高圧の送風部65の内部から、吹出口58を介してスクロールケーシング56の外部に空気が吹き出されるときに、当該圧力勾配によって、気流Aに発生した渦がさらに増大することがあった。
このように、送風機35の駆動に伴って発生して増大した渦は、例えば熱交換器69に接触する等によって、所謂空力騒音を増大させることがあった。
【0043】
本実施の形態では、
図6に示すように、上面81には、高段面82と低段面84とが設けられる。これらの高段面82と低段面84とが設けられることによって、気流Aの一部は、高段面82と低段面84とを降段するように流れる。これによって、当該気流Aは、上面81に衝突することなく、すなわち偏向することなく吹出口58から吹き出される。これによって、送風機35では、上面81に気流Aが衝突することに伴う渦が発生することが抑制される。
【0044】
さらに、上面81には、空間Sが設けられる。この空間Sにおける圧力は、相対的に高圧である送風部65の内部の厚力と、相対的に低圧であるスクロールケーシング56の外部の圧力との中間の圧力となる。このため、気流Aの一部は、各段部80を降段すると共に、この空間Sを流れることで、段階的にスクロールケーシング56の外部の圧力を備える空気と合流する。すなわち、送風機35では、空間Sによって、送風部65の内部とスクロールケーシング56の外部との圧力勾配が緩和される。
これによって、送風機35では、気流Aに生じた渦の発生が抑制される。加えて、送風機35では、上面81に気流Aが衝突した場合であっても、高段面82と低段面84とを降段すると共に、この空間Sを流れることで、当該渦の増大が抑制される。
【0045】
図7は、送風機35が駆動した場合の吹出口58における気流Aを模式的に示す図である。この
図7は、舌部62を平面視した模式図である。
図7では、説明の便宜上、送風機35によって送り出される空気の流れである気流Aを一点鎖線で示す。
図7に示すように、上面81に沿って流れる気流Aは、高段面82と低段面84とを降段するときに、突出部辺95によって分割される。これに伴って、上面81に気流Aが衝突することで生じた渦も同様に、突出部辺95によって切り分けられ、低減されつつ微細化される。これによって、送風機35では、当該渦の増大が抑制される。
【0046】
さらに、本実施の形態では、凹部89は、略V字状に形成されるため、シロッコファン52側から低段面84側、及び吹出口58側に向かうにつれて、舌部62の長手方向に沿った幅寸法が大きくなる。この凹部89は、空間Sに連続するため、突出部辺95によって分割された気流Aは、凹部89の当該幅寸法が大きくなるにつれて高段面82と低段面84とを降段しつつ、段階的に空間Sに流れ込む。これによって、送風機35では、送風部65の内部とスクロールケーシング56の外部との圧力勾配による渦の増大が抑制される。
【0047】
加えて、送風機35では、高段面82と、低段面84と、各凹部89とによって、気流Aをより下方に誘導することで、吹出口58の下方の風量を増加させることができ、吹出口58の上下方向における風量の分布の改善を図ることができる。そして、室内機10では、熱交換器69の上下方向における空気の流速の偏りが抑制され、熱交換効率を向上させることが可能である。
【0048】
[1-2-2.空気調和機の実験]
次いで、発明者らが本実施形態における送風機35の舌部62の構造と、風量との関係を解析するために行った実験について説明する。
図8は、高段面82と低段面84との高低差の高さ寸法Hと低段面84の幅寸法L1との比率と、送風機35の風量との関係を示す図である。
図8では、横軸X1がH/L1の比率を示し、縦軸Yが送風機35の風量を示す。
発明者らは、高さ寸法Hと、幅寸法L1との比率を変化させ、送風機35の所定の回転数における当該比率ごとの風量を計測した。
【0049】
上述した計測によって得られた結果を
図8の各プロットに示す。
図8において、曲線e2は、各プロットの近似曲線であり、破線e1は、従来の送風機の風量である。
図8に示す結果から、発明者らは、高さ寸法Hと幅寸法L1との比率が次式(1)を満たすときに、送風機35は、従来の送風機よりも同一回転数でより大きな風量を送り出すことが可能である、との知見を得た。
0<H/L1≦1.5 (1)
【0050】
上記の式(1)が満たされることで、送風機35に送り出された気流Aの一部は、低段面84を越えて吹出口58から吹き出さずに、高段面82と低段面84とを降段した後に吹出口58から吹き出す。そして、当該気流Aは、空間Sを流れ、当該空間Sによって、送風部65の内部とスクロールケーシング56の外部との圧力勾配が緩和されて、気流Aの渦の増大が抑制される。
なお、発明者らは、上述した計測に基づいて、高さ寸法Hが5mm、幅寸法L1が平均6.5mmであることが望ましいとの知見を得た。
【0051】
図9は、舌部62が延びる方向に沿う凹部89の幅寸法Wと吹出口58からシロッコファン52に向かう方向に沿う凹部89の長さ寸法L2との比率と、送風機35の風量との関係を示す図である。
図8では、横軸X2がL2/Wの比率を示し、縦軸Yが送風機35の風量を示す。
発明者らは、舌部62が延びる方向に沿う凹部89の幅寸法Wと、吹出口58からシロッコファン52に向かう方向に沿う凹部89の長さ寸法L2との比率を変化させ、送風機35の所定の回転数における当該比率ごとの風量を計測した。
【0052】
上述した計測によって得られた結果を
図9の各プロットに示す。
図9において、曲線e3は、各プロットの近似曲線であり、破線e1は、従来の送風機の風量である。この結果から、発明者らは、幅寸法Wと長さ寸法L2との比率が次式(2)を満たすときに、送風機35は、従来の送風機よりも同一回転数でより大きな風量を送り出すことが可能である、との知見を得た。
0<L2/W≦4 (2)
【0053】
上記の式(2)が満たされることで、送風機35では、高段面82と低段面84とを降段するにつれて、突出部辺95によって気流Aに発生した渦が分割されると共に、当該渦が連なって吹出口58から吹き出されることが抑制される。
なお、発明者らは、上述した計測に基づいて、幅寸法Wが24mm、長さ寸法L2が6mmであること望ましいとの知見を得た。
【0054】
このように、上記の式(1)(2)が満たされることで、略同一の風量を送り出す場合に、送風機35では、従来の送風機よりも空力騒音が低減される。換言すれば、上記の式(1)(2)が満たされることで、送風機35では、従来の送風機よりも空力騒音を抑制しつつ、より低い入力でより大きな風量を送り出すことができる。
【0055】
[1-3.効果等]
【0056】
以上のように、本実施の形態において、空気調和機1は、吸入した空気を径方向に送り出すシロッコファン52と、シロッコファン52が収められるスクロールケーシング56と、を備える。スクロールケーシング56には、シロッコファン52によって送り出される空気が吹き出される矩形の吹出口58と、吹出口58の下縁を形成する舌部62とが設けられる。舌部62の上面81には、シロッコファン52から吹出口58に向かうにつれて低くなる段差を備える複数の平面83が設けられる。複数の平面83のうち、シロッコファン52の側に位置する平面83の少なくとも一つの縁部87には、平面視で凹凸形状が設けられる。
【0057】
これにより、送風機35では、舌部62に衝突した空気が高段面82と低段面84とを降りながら、圧力勾配の大きいスクロールケーシング56の外部の空気と段階的に合流する。そのため、送風機35では、圧力勾配により発生、及び増大する空気の渦を低減できる。
加えて、送風機35では、舌部62に衝突した空気が高段面82と低段面84とを降りながら、凹部89によって形成される突出部辺95によって分割される。そのため、送風機35では、空気が舌部62に衝突することで生じる渦が分割されて低減されると共に微細化され、空力騒音を低減させることができる。
【0058】
本実施の形態のように、送風機35では、平面83の少なくとも一つには、平面視で、V字状の凹部89が設けられる。
これにより、突出部辺95によって分割された気流Aは、凹部89の当該幅寸法が大きくなるにつれて高段面82と低段面84とを降段しつつ、段階的に空間Sに流れ込む。そのため、送風機35では、送風部65の内部とスクロールケーシング56の外部との圧力勾配による渦の増大が抑制される。
【0059】
本実施の形態のように、高段面82と低段面84とのそれぞれの高低差の寸法を高さ寸法Hとし、吹出口58からシロッコファン52に向かう方向に沿う低段面84の幅寸法を幅寸法L1とするとき、それぞれが次の関係を満たすようにしてもよい。
0<H/L1≦1.5
【0060】
これにより、送風機35に送り出された気流Aの一部は、高段面82と低段面84とを降段すると共に空間Sを流れ、当該空間Sによって、送風部65の内部とスクロールケーシング56の外部との圧力勾配が緩和される。そのため、送風機35では、気流Aの渦の増大が抑制され、空力騒音が低減される。
【0061】
本実施の形態のように、平面83の少なくとも一つには、吹出口58の下縁が延びる方向に沿って、複数の凹部89が設けられ、吹出口58の下縁が延びる方向に沿う凹部89の幅寸法を幅寸法Wとし、吹出口58からシロッコファン52に向かう方向に沿う凹部89の長さ寸法を長さ寸法L2とするとき、それぞれが次の関係を満たすようにしてもよい。
0<L2/W≦4
【0062】
これにより、送風機35では、各段部80を降段するにつれて、突出部辺95によって流Aに発生した渦が分割されると共に、当該渦が連なって吹出口58から吹き出されることが抑制される。そのため、送風機35では、空力騒音が低減される。
【0063】
(他の実施の形態)
以上のように、本出願において開示する技術の例示として、実施の形態1を説明した。しかしながら、本開示における技術は、これに限定されず、変更、置き換え、付加、省略などを行った実施の形態にも適用できる。また、上記実施の形態1で説明した各構成要素を組み合わせて、新たな実施の形態とすることも可能である。
そこで、以下、他の実施の形態を例示する。
【0064】
上記実施の形態1では、上面81には、2つの平面83が設けられるとしたが、これに限らず、吹出口58側に位置する平面83が当該平面83よりもシロッコファン52側に位置する平面83よりも相対的に低い位置にあれば、3つ以上の平面83が設けられもよい。
【0065】
上記実施の形態1では、凹部89は、V字状に限らず、矩形、円弧、曲線等の他の形状であってもよい。加えて、先端91には、Rまたは面取り等の加工を施してもよい。
【0066】
同様に、各凸部86は、上記の式(1)(2)が満たされ、且つ一対の突出部辺95を備えていれば、いかなる形状であってもよい。また、各凸部86は、上記の式(1)(2)が満たされれば、舌部62の長手方向における配置位置に応じて、互いに異なる形状や寸法を備えていてもよい。
【0067】
上記実施の形態1では、段部80は、室内機10の上下方向に沿って延び、各平面83は、上面部61に平行であるとした。しかしながらこれに限らず、吹出口58側に位置する平面83が当該平面83よりもシロッコファン52側に位置する平面83よりも相対的に低い位置にあれば、各平面83は、所定の角度の傾きや、R形状を備えていてもよい。
【0068】
例えば、平面83に、傾きまたはRを設けてもよい。これにより、シロッコファン52に送り出された空気は、当該平面83に沿って降段しながら流れることで、吹出口58から吹き出される空気が下方へ拡散される。そのため、室内機10では、熱交換器69の下部に送り出される空気の流速が増大し、熱交換器69の上下方向における空気の流速の偏りが抑制され、熱交換効率を向上させることが可能である。
【0069】
また例えば、吹出口58側に位置する平面83をシロッコファン52側に位置する平面83よりも下方へ傾斜する角度に形成してもよい。これにより、当該平面83を降段した空気は、吹出口58に向かうにつれて、徐々に下方に偏向して拡散される。そのため、室内機10では、上面81に衝突することによる空気の急角度の偏向を抑制し、当該偏向に伴う圧力損失を低減することができる。
【0070】
なお、上述の実施の形態は、本開示における技術を例示するためのものであるから、特許請求の範囲またはその均等の範囲において種々の変更、置き換え、付加、省略などを行うことができる。
【産業上の利用可能性】
【0071】
本開示は、シロッコファンが設けられた室内機を備える空気調和機に適用可能である。具体的には、天井埋め込み型のダクト型室内機、天吊型室内機や床置型室内機等の冷凍サイクル装置、乾燥装置や給排気の換気装置等に、本開示は適用可能である。
【符号の説明】
【0072】
1 空気調和機
10 室内ユニット
35 送風機
52 シロッコファン
56 スクロールケーシング(ケーシング)
58 吹出口
62 舌部
80 段部
81 上面
83 平面
82 高段面(平面)
84 低段面(平面)
87 縁部
89 凹部
A 気流
H 高さ寸法
L1、W 幅寸法
L2 長さ寸法
S 空間