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▶ 株式会社ノエビアの特許一覧

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023104644
(43)【公開日】2023-07-28
(54)【発明の名称】多能性幹細胞分化抑制剤
(51)【国際特許分類】
   C12N 5/02 20060101AFI20230721BHJP
   C12N 5/10 20060101ALN20230721BHJP
【FI】
C12N5/02
C12N5/10
【審査請求】未請求
【請求項の数】1
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022005770
(22)【出願日】2022-01-18
(71)【出願人】
【識別番号】000135324
【氏名又は名称】株式会社ノエビア
(72)【発明者】
【氏名】鉄井 崇仁
【テーマコード(参考)】
4B065
【Fターム(参考)】
4B065AA90X
4B065BB34
4B065BD50
4B065CA44
4B065CA46
(57)【要約】
【課題】
本発明は、冬虫夏草を有効成分とする多能性幹細胞分化抑制剤を提供することを課題とする。
【解決手段】
冬虫夏草を有効成分とする多能性幹細胞分化抑制剤を提供する。
【選択図】 なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
冬虫夏草を有効成分とする多能性幹細胞分化抑制剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、冬虫夏草を有効成分とする多能性幹細胞分化抑制剤に関する。
【背景技術】
【0002】
幹細胞とは自己増殖能と多分化能をもつ細胞であり、幹細胞の未分化状態の維持は生体内の恒常性維持に非常に重要である。単球やマクロファージが過度に増加することで生じるサイトカインストームや、造血幹細胞が過度に増加することにより生じる白血病の予防・治療など様々な分野における活用が期待される。
しかしながら、幹細胞の未分化状態を維持する技術は十分に整っておらず、早期実現に向けた研究開発が日々行われている。
【0003】
冬虫夏草においてはフィラグリン産生促進剤(特許文献1)、PPAR活性化剤(特許文献2)、脂肪細胞の分化抑制剤及び脂肪細胞の肥大化抑制剤(特許文献3)などが研究開発されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2014-040398号公報
【特許文献2】特開2011-063557号公報
【特許文献3】特開2009-298701号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、冬虫夏草を有効成分とする多能性幹細胞分化抑制剤を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、冬虫夏草を有効成分とする多能性幹細胞分化抑制剤を提供する。
【発明の効果】
【0007】
冬虫夏草を有効成分とする本発明は、多能性幹細胞の未分化状態を維持し、分化を抑制する効果を発揮する。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下本発明を実施するための形態を説明する。
【0009】
多能性幹細胞とは、複数種の細胞に分化可能である多能性を有し、かつ、自己増殖能を併せもつ幹細胞を指す。多能性幹細胞には、特に限定されないが、例えば人工多能性幹細胞(induced pluripotent stem cell:iPS細胞)、胚性幹細胞(embryonic stem cell:ES細胞)、精子幹細胞(germline stem cell:GS細胞)、胚性生殖細胞(embryonic germ cell:EG細胞)、核移植により得られるクローン胚由来の胚性幹細胞(nuclear transfer ES cell:ntES細胞)、融合幹細胞などが含まれる。本発明において好ましい多能性幹細胞はiPS細胞である。
【0010】
本発明において使用可能な冬虫夏草は特に制限はなく、一般に知られている蝶蛾類鱗翅目および鞘翅目の昆虫又はその幼虫に寄生してその体内に菌核を形成し、夏季に宿主である昆虫又はその幼虫の体表面に子実体を形成するものであればよい。本発明においては特に好ましく使用可能な冬虫夏草として、コウモリ蛾科の幼虫(Hepialus armoricanus Ober.)に寄生してその体内に菌核を形成し、夏季に頭部から根棒状の子実体を形成するコルダイセプシネンシス(Cordyceps sinensis)が挙げられる。また、コルダイセプシネンシス以外の冬虫夏草としてはセミタケ(Oordyceps sobolifera B.)やサナギタケ(Cordyceps militaris Link)、ミミカキタケ(Cordyceps nutans Pat.)などが知られており、これらも本発明において好ましく使用できるものである。本発明の多能性幹細胞分化抑制剤に用いる冬虫夏草は子実体又は菌糸体の区別なく使用可能である。
【0011】
本発明において、冬虫夏草は生のまま抽出に供してもよいが、抽出効率を考えると、細切,乾燥,粉砕等の処理を行った後に抽出を行うことが好ましい。抽出は、抽出溶媒に浸漬して行う。抽出効率を上げるため撹拌を行ったり、抽出溶媒中でホモジナイズしたりしてもよい。抽出温度としては、5℃程度から抽出溶媒の沸点以下の温度とするのが適切である。抽出時間は抽出溶媒の種類や抽出温度によっても異なるが、4時間~14日間程度とするのが適切である。
【0012】
抽出溶媒としては、水の他、メタノール,エタノール,プロパノール,イソプロパノール等の低級アルコール、1,3-ブチレングリコール,プロピレングリコール,ジプロピレングリコール,グリセリン等の多価アルコール、エチルエーテル,プロピルエーテル等のエーテル類、酢酸エチル,酢酸ブチル等のエステル類、アセトン,エチルメチルケトン等のケトン類などの極性有機溶媒を用いることができ、これらより1種又は2種以上を選択して用いる。また、生理食塩水,リン酸緩衝液,リン酸緩衝生理食塩水等を用いてもよい。
【0013】
また、前述の抽出工程において発生する残渣をそのまま、あるいは酵素処理後濾過したもののうち濾液をそのまま、又は乾燥させたもの、あるいは酵素処理後濾過したもののうちの残渣を細切,乾燥,粉砕等の処理を行ったものを用いてもよい。
【0014】
前述の工程により得られたものをそのまま用いることもできるが、その効果を失わない範囲で、脱臭、脱色、濃縮などの精製操作を加えたり、カラムクロマトグラフィーなどを用いて分画物として用いたりしてもよい。これらの精製物や分画物はこれらから溶媒を除去することによって乾固物とすることもでき、さらにはアルコールなどの溶媒に可溶化した形態、あるいは乳剤の形態など、用時に溶媒に溶解して用いることもできる。また、リポソーム等のベシクルやマイクロカプセル等に内包させて用いることもできる。
【0015】
さらに公知の安定剤、賦形剤、結合剤等の添加物質をともに含有し、本発明の多能性幹細胞分化抑制剤とすることができる。添加物質としては本発明の効果を損なわないものであれば特に限定されないが、デンプン、デキストリン、粉末セルロース、結晶セルロース、セルロース誘導体、ショ糖脂肪酸エステル、乳糖、アラビアガム、マンニトール、トレハロース、グルコース、ゼラチン、二酸化ケイ素等を単独で又は組み合わせて利用することが可能である。中でもデキストリンを用いることが好ましい。
【0016】
本発明の多能性幹細胞分化抑制剤の剤型については、特に限定されず、固体状、半固体状、又は液体状のいずれであってもよい。
【実施例0017】
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、これにより本発明の範囲が限定されるものではない。なお、配合量は特に断りのない限り質量%である。
【0018】
まず、実施例等に用いる冬虫夏草の調製方法を示す。
【0019】
[冬虫夏草]
本発明の実施例で使用した冬虫夏草は、下記の手順で調製したものを使用した。
1.冬虫夏草(Cordyceps sinensis)10gを乾燥後粉砕する。
2.熱水で90分間抽出後ろ過し、濾液を乾燥させることでエキスAとする。
3.2のろ過工程における残渣を酵素処理し、ろ過したもののうち濾液を酵素処理末、残渣を微粉砕化したものをエキスBとする。
4.エキスAにデキストリンを混合し、6gとなるように質量調整を行ったものをエキス末とする。
5.エキスBに倍量のデキストリンを加え製剤性を高めたものを加工粉末とする。
6.上記工程により製造されたエキス末・酵素処理末・加工粉末を混合し、冬虫夏草として使用する。
【0020】
[多能性幹細胞分化抑制作用]
ヒトiPS細胞を、増殖培地を用いてマトリゲルコートした60mmdishに起眠し、COインキュベーター(37℃、5%CO、湿潤、以下同様)で培養した。12well plateをマトリゲルでコートし、その上に50~200μmのヒトiPS細胞塊が10~20個/cmとなるように増殖培地を用いて播種した。市販のキット(STEMdiff Hematopoietic kit)を用いて、ヒトiPS細胞を中胚葉へ、中胚葉を未熟な造血幹細胞へ、未熟な造血幹細胞を造血幹細胞へ、造血幹細胞を単球へと分化させた。具体的には、播種翌日(Day 1)、Medium Aで培地を全量交換し、中胚葉分化を開始させた。中胚葉分化開始翌日(Day 2)、Medium Aで培地を半量交換した。中胚葉分化3日後(Day 3) に、冬虫夏草を添加したMedium Bで培地を全量交換し、造血幹細胞分化を誘導した。造血幹細胞分化2日目(Day 5)、前述の冬虫夏草添加Medium Bで培地交換した。造血幹細胞分化4日後(Day 7)に、冬虫夏草を添加したMedium Cで培地を全量交換し、単球分化を誘導した。単球分化3日目(Day 10)、6日目(Day 13)、9日目(Day 16)、12日目(Day 19)、15日目(Day 22)にそれぞれ前述の冬虫夏草添加Medium Cで培地を全量交換すると共に、細胞上清を回収した。回収した細胞上清に含まれている浮遊細胞について、FCM解析を行った。細胞はCD34抗体(造血幹細胞のマーカー)、CD14抗体(単球のマーカー)及び死細胞染色試薬で処理後、2%FBS添加PBSで洗浄・懸濁して、フローサイトメーターで解析を行った。結果を表1および表2に示す。
冬虫夏草非添加群と陽性対照/冬虫夏草添加群の差を、冬虫夏草非添加群をコントロールとしたStudent’s t-testにより検定した。有意水準は両側5%とした。
【0021】
【表1】
【0022】
【表2】
【0023】
表1及び表2に示した通り、冬虫夏草を添加した場合、中胚葉から未成熟な造血幹細胞へ、未成熟な造血幹細胞から造血幹細胞へ、造血幹細胞から単球へと分化する過程の中でCD34陽性細胞(造血幹細胞)率およびCD14陽性細胞(単球)率がいずれも減少した。以上のことより、冬虫夏草は未成熟な造血幹細胞にて分化を抑制し、未分化状態を維持することが分かった。未成熟な造血幹細胞は様々な細胞に分化し得る多能性をもつことが知られている。従って、冬虫夏草は多能性幹細胞の未分化状態を維持し、分化を抑制する効果を発揮することが分かった。以上のことより、本発明の多能性幹細胞分化抑制剤は多能性幹細胞の未分化状態を維持し、分化を抑制する効果を発揮する。