(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023104721
(43)【公開日】2023-07-28
(54)【発明の名称】光合波器
(51)【国際特許分類】
G02B 6/12 20060101AFI20230721BHJP
【FI】
G02B6/12 331
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022005883
(22)【出願日】2022-01-18
(71)【出願人】
【識別番号】300081763
【氏名又は名称】セーレンKST株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003524
【氏名又は名称】弁理士法人愛宕綜合特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100075177
【弁理士】
【氏名又は名称】小野 尚純
(74)【代理人】
【識別番号】100113217
【弁理士】
【氏名又は名称】奥貫 佐知子
(74)【代理人】
【識別番号】100202496
【弁理士】
【氏名又は名称】鹿角 剛二
(74)【代理人】
【識別番号】100217869
【弁理士】
【氏名又は名称】吉田 邦久
(72)【発明者】
【氏名】矢部 勇多
(72)【発明者】
【氏名】姫野 明
(72)【発明者】
【氏名】堀井 浩一
(72)【発明者】
【氏名】川崎 修
(72)【発明者】
【氏名】岩端 一樹
(72)【発明者】
【氏名】亀井 洋次郎
(72)【発明者】
【氏名】吉田 哲文
【テーマコード(参考)】
2H147
【Fターム(参考)】
2H147AA04
2H147AB17
2H147BB02
2H147BE15
2H147CB03
2H147CD02
2H147EA14A
2H147EA14B
(57)【要約】
【課題】小型化を可能とすると共に、方向性結合器を安定した品質、精度で製造することが可能な光合波器を提供する。また、前記光合波器を含む画像投影装置を提供する。
【解決手段】波長の異なる複数の可視光をそれぞれの導波路から入力し、前記複数の可視光を方向性結合器によって合波した多重光を導波路から出力する光合波器であって、方向性結合器に接続する少なくとも1つの入力導波路及び出力導波路が共にテーパー構造を有することにより、光合破器の全長を短くして小型化を可能とすると共に、光結合導波路の導波路幅の誤差に対する合波効率の低下量を少なくして、安定した品質、精度で製造することが可能な光合波器を得る。
【選択図】
図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
波長の異なる複数の可視光をそれぞれの導波路から入力し、前記複数の可視光を方向性結合器によって合波した多重光を導波路から出力する光合波器であって、方向性結合器に接続する少なくとも1つの入力導波路及び出力導波路が共にテーパー構造を有することを特徴とする光合波器。
【請求項2】
前記テーパー構造が導波路の曲線部分に設けられている請求項1に記載された光合波器。
【請求項3】
前記方向性結合器における光結合部分の導波路幅が0.8~1.4μmである請求項1または2に記載された光合波器。
【請求項4】
前記波長の異なる複数の可視光が、少なくとも赤色光、緑色光及び青色光を含む請求項1~3のいずれか1つに記載された光合波器。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか1つに記載された光合波器を含む画像投影装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、波長の異なる複数の可視光をそれぞれの導波路から入力し、前記複数の可視光を方向性結合器によって合波した多重光を導波路から出力する光合波器であって、方向性結合器に接続する少なくとも1つの入力導波路及び出力導波路が共にテーパー構造を有することを特徴とする光合波器に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、眼鏡型端末や携帯型プロジェクタ等の画像投影装置において、複数のレーザダイオードを光源として用い、導波路を経由して前記光源からの可視光を合波して出力する光合波器が知られている(特許文献1を参照)。前記光合波器は、シリコン基板上に公知の化学気相成長法(CVD)やスパッタリング法等を用いて低屈折率及び高屈折率の酸化シリコン膜を積層形成した後、フォトマスクを用いたフォトリソグラフィー法によりパターニングを行い、高屈折率の酸化シリコン膜からなる導波路及び方向性結合器を形成した後、さらに低屈折率酸化シリコン膜を積層形成するという製造工程を経て製造される。
【0003】
ここで、前記光合波器を眼鏡のテンプル等に組み込むためにはテンプルより小型であることが望ましく、また、光合波器を構成する方向性結合器を作製する際に厳しい作製トレランスが要求されるため、歩留まりが低下するという問題があることから(特許文献2を参照)、前記方向性結合器を安定した品質、精度で製造する必要がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2013-195603号公報
【特許文献2】特開2019-035876号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、小型化を可能とすると共に、方向性結合器を安定した品質、精度で製造することが可能な光合波器を提供することである。また、前記光合波器を含む画像投影装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、波長の異なる複数の可視光をそれぞれの導波路から入力し、前記複数の可視光を方向性結合器によって合波した多重光を導波路から出力する光合波器であって、方向性結合器に接続する少なくとも1つの入力導波路及び出力導波路が共にテーパー構造を有することを特徴とする光合波器を提供する。
ここで、前記テーパー構造は、導波路の厚みを同一に保ったまま、導波路の幅が徐々に小さくなる、または導波路の幅が徐々に大きくなる構造を意味する。
【0007】
前記テーパー構造が導波路の曲線部分に設けられていることが好ましい。
【0008】
前記方向性結合器における光結合部分の導波路の幅が0.8~1.4μmであることが好ましい。
【0009】
前記波長の異なる複数の可視光が、少なくとも赤色光、緑色光及び青色光を含むことが好ましい。
【0010】
前記光合波器を含む画像投影装置であることが好ましい。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、眼鏡型端末や携帯型プロジェクタ等の画像投影装置用途等に使用することが可能な小型の光合波器を提供することができる。本発明の光合波器は、必要に応じて上記以外に照明、バックライト等のさまざまな用途にも用いることができるが、前記眼鏡型端末や携帯型プロジェクタ等の画像投影装置用途に用いることが好ましい。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図2】本発明における方向性結合器の概要を示す図である。
【
図3】方向性結合器の導波路幅が異なり、且つ光結合導波路の内側面間距離を同じにした場合の伝搬光の光強度を示す図である。
【
図4】本発明における、光結合導波路の中心間距離を2.8μmで固定したときの導波路結合長と導波路幅の関係を表す図である。
【
図7】実施例1の導波路幅の誤差と合波効率の関係を表す図である。
【
図8】比較例1の導波路幅の誤差と合波効率の関係を表す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明を実施するための実施例について、図面を参照しながら説明する。なお、本発明は以下の実施例に限られるものではない。
【0014】
図1は、従来の方向性結合器の概要を示す図であり、波長1を有する入力光101、及び波長1と異なる波長2を有する入力光102を左方向から導波路に入力すると、それぞれ曲線部分104を通過し、光結合導波路105に導かれる。光結合導波路105における2つの導波路の断面形状は正方形または長方形である。前記2つの導波路は光結合導波路長106、光結合導波路の内側面間距離107、及び光結合導波路の中心間距離108を有している。また、導波路幅109はすべて同一である。
【0015】
光結合導波路105において、2つの導波路が近距離で隣接していることから、異なる2つの波長を有する光は互いの導波路を行きつ戻りつ移行しながら伝搬した後、合波して多重出力光103が出力される。ここで、波長の異なる2つ以上の光が1つの導波路に結合して混在している状態を合波という。
【0016】
図2は、本発明における方向性結合器の概要を示す図であり、導波路の幅が変化するテーパー構造が曲線部分104に設けられており、光結合導波路105の幅110は、入力光部分及び出力光部分の導波路の幅109より小さくなっている。ここで、光結合導波路の内側面間距離107、中心間距離108の記載は省略した。
【0017】
図3は、
図2の方向性結合器の光結合導波路105における入力光が伝搬する光強度の波(伝搬光強度波)の繰り返し周期を示す図である。縦軸は最大値を100%とする光強度の値、横軸は光結合導波路長106を表す。光結合導波路の内側面間距離107を1.0μmに固定し、実線は「光結合導波路の内側面間距離107/光結合導波路の導波路幅109/光結合導波路の中心間距離108」を「1.0μm/1.2μm/2.2μm」と仮定した場合、破線は「1.0μm/1.8μm/2.8μm」と仮定した場合について、周知の電磁場解析法であるビーム伝搬法(BPM)を用いたシミュレーション結果である。
ここで、「光結合導波路の内側面間距離107」+「光結合導波路の導波路幅109、110」=「光結合導波路の中心間距離108」の関係式が成り立つ。
【0018】
光強度の極大値(100%)は、入力光が当該導波路に存在せず、隣接する導波路に100%移行している状態を表しており、極小値(0%)は、入力光が当該導波路に100%存在し、隣接する導波路には移行していない状態を表す。
【0019】
図3から、光結合導波路の内側面間距離107を不変とし、導波路幅109、110を小さくした場合、中心間距離108を小さくすることができ、光結合導波路105における入力光の伝搬光強度波の繰り返し周期が早くなることから、方向性結合器の長さを小さくできることがわかる。
【0020】
図4は、
図2の方向性結合器の光結合導波路105において、導波路厚みを1.6μm、導波路(高屈折率の酸化シリコン)と周囲のクラッド(低屈折率の酸化シリコン)との屈折率差を1.1%と仮定した場合における、それぞれ青色光(B)、緑色光(G)及び赤色光(R)について、光結合導波路の中心間距離を2.8μmで固定した時の光結合導波路長106と光結合導波路幅109、110の関係をシミュレーションした結果を表す図である。
【0021】
光結合導波路幅が0.8~1.4μmの範囲における光結合導波路長の傾きが小さいことから、上記光結合導波路幅であれば、光結合導波路長の製造誤差の許容範囲が広いことがわかる。したがって、光結合導波路幅は0.8~1.4μmであることが好ましい。また、1.0~1.2μmであることがより好ましい。
【0022】
本発明における導波路厚みは1.0~3.0μmであることが好ましく、1.2~2.5μmであることがより好ましく、1.4~2.0μmであることがさらに好ましい。
また、本発明における前記屈折率差は0.5~2.0%であることが好ましく、0.7~1.8%であることがより好ましく、1.0~1.5%であることがさらに好ましい。
光の伝搬において、導波路厚みが1.0μm未満の場合、または前記屈折率差が0.5%未満である場合、導波路における光の閉じ込めが弱くなり、光を閉じ込めたまま導波路を曲げることが困難となること、及び導波路構造の微小な乱れに敏感に反応して損失が増大すること等、実用的な導波路機能が損なわれる。逆に、導波路厚みが3.0μmを超える場合、または前記屈折率差が2.0%を超える場合、単一モード動作が失われ、複数のモードの光が伝わる多モード導波路となる。多モード導波路では、各モードに対する結合特性が大きく異なることから、導波路伝搬光の各モードのパワーの割合を制御することは困難であるので、本発明のような方向性結合器を活用する分野での使用は難しくなる。
【実施例0023】
図5(a)は、本発明の実施例1の光合波器の図である。導波路幅が1.8μmである3本の導波路に対し、左側の上から青色光(B)、赤色光(R)及び緑色光(G)を入力し、最初に青色光(B)及び赤色光(R)が、導波路の曲線部分に設けられたテーパー構造により、導波路幅が1.8μmから1.2μmに変化した後、光結合導波路の導波路幅が1.2μm、光結合導波路の内側面間距離が1.0μmの第1の方向性結合器を用いて合波され、次に、緑色光(G)が、導波路の曲線部分に設けられたテーパー構造により、導波路幅が1.8μmから1.2μmに変化した後、上記合波光と光結合導波路の導波路幅が1.2μm、光結合導波路の内側面間距離が1.0μmの第2の方向性結合器を用いて合波され、最終的に右側の1番下の導波路に設けられたテーパー構造により、導波路幅が1.2μmから1.8μmに変化した後、青色光(B)、赤色光(R)及び緑色光(G)の合波光を出力する、全長1305μmの光合波器を得ることができる。テーパー構造は導波路の直線部分に設けてもよいが、光合波器の全長を小さくできることから曲線部分に設けることが好ましい。
【0024】
ここで、
図5(a)の赤色光(R)の導波路における第1の方向性結合器の出力導波路、及び第2の方向性結合器の入力導波路の接続部分の形状について、導波路幅が1.2μmから1.8μm及び1.8μmから1.2μmに変化するように、それぞれの方向性結合器の入力側と出力側の導波路形状を左右対称のテーパー構造としてもよいが、前記接続部分の長さが大きくなることから、前記左右対称のテーパー構造を採用せずに1.2μmの導波路幅として接続する等、それぞれの方向性結合器の入力側と出力側の導波路を左右非対称の形状としてもよい。したがって、
図5(a)においては、前記接続部分の導波路幅を1.2μmから1.5μmに変化した後、再び1.2μmとする前記左右非対称の形状とした。複数の方向性結合器を用いた光合波器の場合、方向性結合器を安定した品質、精度で製造すると共に光合波器の小型化を可能とするため、それぞれの方向性結合器の接続部分に前記左右対称のテーパー構造を採用せず、前記複数の方向性結合器の入力側と出力側の導波路形状が左右非対称となる形状を用いることが好ましい。
【0025】
また、
図5(b)は、
図5(a)における、それぞれ赤色光(R)、緑色光(G)及び青色光(B)について、下側から光が入力し、上側から光が出力する場合の光結合のシミュレーション結果を示す図である。
【0026】
実施例1の光合波器における、それぞれ赤色光(R)、緑色光(G)及び青色光(B)の入力光強度を100%とした場合の出力光強度の割合は、99%、93%及び95%であった。
【0027】
図6(a)及び
図6(b)は、導波路の幅を全て1.8μmとし、光結合導波路の内側面間距離が上記実施例1と同じである構造を有する比較例1の光合波器の図及び光結合のシミュレーション結果を示す図であり、全長1950μmの合波器を得ることができる。
【0028】
比較例1の光合波器における、それぞれ赤色光(R)、緑色光(G)及び青色光(B)の入力光強度を100%とした場合の出力光強度の割合は、87%、85%及び87%であった。
【0029】
図5、
図6の比較より、実施例1は、比較例1に比べ、幅の狭い導波路を使用することで光結合導波路の中心間距離を小さくすることが出来るため、光合破器の全長を短くすると共に、入力光強度に対する出力光強度の割合も大きくすることができることがわかる。
【0030】
図7は、実施例1の光結合導波路の導波路幅を1.20μmとした場合に対する導波路幅の誤差に対する合波効率の関係を示す。導波路幅が細くなる場合は負の誤差、太くなる場合は正の誤差である。誤差±0.10μmにおける合波効率は88%以上であることがわかる。
ここで、合波効率は、導波路に入力された波長の異なる複数の可視光のそれぞれの光強度を100%とした場合に対し、多重出力光において、合波して出力される前記複数の可視光のそれぞれの光強度の割合を意味する。
【0031】
図8は、
図7と同様に比較例1の光結合導波路の導波路幅を1.80μmとした場合に対する導波路幅の誤差に対する合波効率の関係を示す。誤差±0.10μmにおける合波効率は65%以上であることがわかる。
【0032】
図7、
図8の比較より、実施例1は、比較例1に対して光結合導波路の導波路幅の誤差に対する合波効率の低下量を少なくすることができることから、安定した品質、精度を実現できることがわかる。