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特開2023-104763半導体素子の製造方法、及び、半導体ウエハ加工装置
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  • 特開-半導体素子の製造方法、及び、半導体ウエハ加工装置 図1
  • 特開-半導体素子の製造方法、及び、半導体ウエハ加工装置 図2
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023104763
(43)【公開日】2023-07-28
(54)【発明の名称】半導体素子の製造方法、及び、半導体ウエハ加工装置
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/304 20060101AFI20230721BHJP
   H01L 21/301 20060101ALI20230721BHJP
【FI】
H01L21/304 611Z
H01L21/78 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022005951
(22)【出願日】2022-01-18
(71)【出願人】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(71)【出願人】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】520124752
【氏名又は名称】株式会社ミライズテクノロジーズ
(71)【出願人】
【識別番号】504139662
【氏名又は名称】国立大学法人東海国立大学機構
(71)【出願人】
【識別番号】000236436
【氏名又は名称】浜松ホトニクス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000110
【氏名又は名称】弁理士法人 快友国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】中林 正助
(72)【発明者】
【氏名】大原 淳士
(72)【発明者】
【氏名】長屋 正武
(72)【発明者】
【氏名】笹岡 千秋
(72)【発明者】
【氏名】恩田 正一
(72)【発明者】
【氏名】小島 淳
(72)【発明者】
【氏名】河口 大祐
(72)【発明者】
【氏名】杉浦 隆二
(72)【発明者】
【氏名】油井 俊樹
(72)【発明者】
【氏名】原 佳祐
【テーマコード(参考)】
5F057
5F063
【Fターム(参考)】
5F057AA04
5F057BA11
5F057BB05
5F057BB06
5F057CA11
5F057DA22
5F063AA05
5F063BA42
5F063BA43
5F063CC49
(57)【要約】
【課題】 変質層未形成領域が存在する場合に、従来よりも広い領域で半導体ウエハを適切に分割する。
【解決手段】 半導体素子の製造方法であって、半導体ウエハにレーザを照射することによって前記半導体ウエハの内部に前記半導体ウエハの表面に沿って伸びる変質層を形成する工程と、前記半導体ウエハの前記表面の外周部のうちで前記変質層が形成されていない変質層未形成領域を検出する工程と、前記外周部のうちの前記変質層未形成領域以外の領域を起点として前記半導体ウエハを前記変質層で分割する工程、を有する。
【選択図】図18
【特許請求の範囲】
【請求項1】
半導体素子の製造方法であって、
半導体ウエハにレーザを照射することによって、前記半導体ウエハの内部に前記半導体ウエハの表面に沿って伸びる変質層を形成する工程と、
前記半導体ウエハの前記表面の外周部のうちで前記変質層が形成されていない変質層未形成領域を検出する工程と、
前記外周部のうちの前記変質層未形成領域以外の領域を起点として、前記半導体ウエハを前記変質層で分割する工程、
を有する製造方法。
【請求項2】
前記半導体ウエハが、III-V族半導体または酸化ガリウムにより構成されている、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記半導体ウエハを分割する前記工程の前に、前記半導体ウエハの前記表面において前記半導体ウエハの外形円の中心を通るとともに特定結晶方向に沿って伸びる剥離ラインを特定し、
前記半導体ウエハを分割する前記工程では、
前記剥離ラインの第1端部が前記変質層未形成領域ではない場合には、前記第1端部を前記起点として前記半導体ウエハを前記変質層で分割し、
前記剥離ラインの前記第1端部が前記変質層未形成領域である場合には、前記剥離ラインの前記第1端部とは反対側の第2端部を前記起点として前記半導体ウエハを前記変質層で分割する、
請求項1または2に記載の製造方法。
【請求項4】
前記半導体ウエハを分割する前記工程では、前記剥離ラインの前記第1端部と前記第2端部の両方が前記変質層未形成領域である場合には、前記半導体ウエハの前記表面において前記中心を通るとともに前記特定結晶方向とは異なる方向に沿って伸びるラインの端部を前記起点として前記半導体ウエハを前記変質層で分割する、請求項3に記載の製造方法。
【請求項5】
内部に半導体ウエハの表面に沿って伸びる変質層が存在している前記半導体ウエハを加工する半導体ウエハ加工装置であって、
変質層未形成領域検出機構と、
位置調整機構と、
分割機構、
を有し、
前記変質層未形成領域検出装置が、前記半導体ウエハの前記表面の外周部のうちで前記変質層が形成されていない変質層未形成領域を検出する工程を実行し、
前記位置調整装置が、前記外周部のうちの前記変質層未形成領域以外の領域が前記分割装置の分割起点に位置するように、前記半導体ウエハを前記分割装置にセットする工程を実行し、
前記分割装置が、前記分割起点を起点として前記半導体ウエハを前記変質層で分割する工程を実行する、
半導体ウエハ加工装置。
【請求項6】
前記位置調整機構が、
前記半導体ウエハの前記表面において前記半導体ウエハの外形円の中心を通るとともに特定結晶方向に沿って伸びる剥離ラインを特定し、
前記剥離ラインの第1端部が前記変質層未形成領域ではない場合には、前記第1端部が前記分割起点に位置するように前記半導体ウエハを前記分割機構にセットし、
前記剥離ラインの前記第1端部が前記変質層未形成領域である場合には、前記剥離ラインの前記第1端部とは反対側の第2端部が前記分割起点に位置するように前記半導体ウエハを前記分割機構にセットする、
請求項5に記載の半導体ウエハ加工装置。
【請求項7】
前記位置調整機構が、前記剥離ラインの前記第1端部と前記第2端部の両方が前記変質層未形成領域である場合には、前記半導体ウエハの前記表面において前記中心を通るとともに前記特定結晶方向とは異なる方向に沿って伸びるラインの端部が前記分割起点に位置するように前記半導体ウエハを前記分割機構にセットする、請求項6に記載の半導体ウエハ加工装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書に開示の技術は、半導体素子の製造方法、及び、半導体ウエハ加工装置に関する。
【0002】
特許文献1には、半導体ウエハをその表面に沿って分割することで、薄い半導体ウエハを得る技術が開示されている。この製造方法では、まず、半導体ウエハにレーザを照射することによって、半導体ウエハの内部にその表面に沿って伸びる変質層を形成する。変質層では、半導体ウエハの強度が低下する。次に、半導体ウエハの上面に対して下面から離れる方向に力を加えることによって、変質層で半導体ウエハを分割する。半導体ウエハを分割する工程では、半導体ウエハの外周部を起点として半導体ウエハが分割される。すなわち、半導体ウエハの外周部を起点として亀裂(すなわち、分割面)が生じることによって、半導体ウエハが分割される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】国際公開第2019/044588号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
半導体ウエハにレーザを照射する工程において、目標領域全体に変質層を形成できない場合がある。例えば、レーザ照射装置の設備異常によって、目標領域の一部に変質層を形成できない場合がある。また、半導体ウエハの表面に存在する異物によってレーザが遮られることで、目標領域の一部に変質層を形成できない場合がある。このように、変質層が形成されていない領域(以下、変質層未形成領域という場合がある)が存在すると、変質層未形成領域において半導体ウエハが適切に分割されない。さらに、変質層未形成領域が分割の起点に存在すると、変質層未形成領域だけでなく、変質層未形成領域に隣接する領域(すなわち、変質層が存在する領域)でも半導体ウエハが適切に分割されない現象が生じる。本明細書では、変質層未形成領域が存在する場合に、従来よりも広い領域で半導体ウエハを適切に分割できる技術を提案する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本明細書が開示する半導体素子の製造方法は、半導体ウエハにレーザを照射することによって前記半導体ウエハの内部に前記半導体ウエハの表面に沿って伸びる変質層を形成する工程と、前記半導体ウエハの前記表面の外周部のうちで前記変質層が形成されていない変質層未形成領域を検出する工程と、前記外周部のうちの前記変質層未形成領域以外の領域を起点として前記半導体ウエハを前記変質層で分割する工程、を有する。
【0006】
なお、「前記半導体ウエハの前記表面の外周部」は、半導体ウエハの平坦な表面の外周側の縁部を意味する。したがって、半導体ウエハの側面近傍のベベル部は、「前記半導体ウエハの前記表面の外周部」には含まれない。
【0007】
この製造方法では、半導体ウエハの表面の外周部のうちの変質層未形成領域以外の領域を起点として半導体ウエハを変質層で分割する。外周部の変質層未形成領域が分割の起点以外の位置に存在する場合には、変質層未形成領域に隣接する領域で半導体ウエハが適切に分割されない現象が生じることを抑制できる。したがって、この製造方法によれば、従来よりも広い領域で半導体ウエハを適切に分割することができる。
【0008】
また、本明細書は、内部に半導体ウエハの表面に沿って伸びる変質層が存在している前記半導体ウエハを加工する半導体ウエハ加工装置を提案する。この半導体ウエハ加工装置は、変質層未形成領域検出機構と、位置調整機構と、分割機構、を有する。前記変質層未形成領域検出装置が、前記半導体ウエハの前記表面の外周部のうちで前記変質層が形成されていない変質層未形成領域を検出する工程を実行する。前記位置調整装置が、前記外周部のうちの前記変質層未形成領域以外の領域が前記分割装置の分割起点に位置するように、前記半導体ウエハを前記分割装置にセットする工程を実行する。前記分割装置が、前記分割起点を起点として前記半導体ウエハを前記変質層で分割する工程を実行する。
【0009】
この半導体ウエハ加工装置によれば、従来よりも広い領域で半導体ウエハを適切に分割することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】半導体ウエハの平面図。
図2】半導体ウエハの側面近傍の部分の断面図。
図3】レーザ照射工程を示す断面図。
図4】レーザ照射工程を示す平面図。
図5】閉じている状態の分割機構の側面図。
図6】開いている状態の分割機構の側面図。
図7】変質層形成領域と変質層未形成領域を示す断面図。
図8】分割後の変質層形成領域と変質層未形成領域を示す断面図。
図9】比較例の分割工程における半導体ウエハのステージ52上の配置を示す平面図。
図10】比較例の分割工程における分割不良部98の分布の一例を示す平面図。
図11】半導体ウエハ加工装置のブロック図。
図12】変質層未形成領域検出機構により撮影された半導体ウエハの画像を示す図。
図13】変質層形成領域と変質層未形成領域の画像を示す図。
図14図13の画像を二値化した画像を示す図。
図15図14の画像にノイズ除去処理を実施した画像を示す図。
図16】分割起点決定工程の説明図。
図17】実施形態の分割工程において第1端部88aが分割起点の場合における半導体ウエハのステージ52上の配置を示す平面図。
図18】実施形態の分割工程において第2端部88bが分割起点の場合における半導体ウエハのステージ52上の配置を示す平面図。
図19】実施形態の分割工程において第3端部89aが分割起点の場合における半導体ウエハのステージ52上の配置を示す平面図。
【発明を実施するための形態】
【0011】
上述した製造方法においては、前記半導体ウエハが、III-V族半導体または酸化ガリウムにより構成されていてもよい。
【0012】
この構成によれば、半導体ウエハが光透過性を有するので、変質層未形成領域を検出し易い。
【0013】
上述した製造方法においては、前記半導体ウエハを分割する前記工程の前に、前記半導体ウエハの前記表面において前記半導体ウエハの外形円の中心を通るとともに特定結晶方向に沿って伸びる剥離ラインを特定してもよい。前記半導体ウエハを分割する前記工程では、前記剥離ラインの第1端部が前記変質層未形成領域ではない場合には前記第1端部を前記起点として前記半導体ウエハを前記変質層で分割し、前記剥離ラインの前記第1端部が前記変質層未形成領域である場合には前記剥離ラインの前記第1端部とは反対側の第2端部を前記起点として前記半導体ウエハを前記変質層で分割してもよい。
【0014】
この構成によれば、第1端部と第2端部のいずれを起点とする場合でも、分割工程におけるクラックを剥離ラインの方向に進展させることができる。このように、特定結晶方向にクラックを進展させることで、平坦な分割面を得ることができる場合がある。
【0015】
上述した製造方法においては、前記半導体ウエハを分割する前記工程では、前記剥離ラインの前記第1端部と前記第2端部の両方が前記変質層未形成領域である場合には、前記半導体ウエハの前記表面において前記中心を通るとともに前記特定結晶方向とは異なる方向に沿って伸びるラインの端部を前記起点として前記半導体ウエハを前記変質層で分割してもよい。
【0016】
この構成によれば、第1端部と第2端部の両方が変質層未形成領域である場合にも、変質層が存在する領域を起点として半導体ウエハを分割することができる。
【0017】
上述した半導体ウエハ加工装置においては、前記位置調整機構が、前記半導体ウエハの前記表面において前記半導体ウエハの外形円の中心を通るとともに特定結晶方向に沿って伸びる剥離ラインを特定し、前記剥離ラインの第1端部が前記変質層未形成領域ではない場合には前記第1端部が前記分割起点に位置するように前記半導体ウエハを前記分割機構にセットし、前記剥離ラインの前記第1端部が前記変質層未形成領域である場合には前記剥離ラインの前記第1端部とは反対側の第2端部が前記分割起点に位置するように前記半導体ウエハを前記分割機構にセットしてもよい。
【0018】
上述した半導体ウエハ加工装置においては、前記位置調整機構が、前記剥離ラインの前記第1端部と前記第2端部の両方が前記変質層未形成領域である場合には、前記半導体ウエハの前記表面において前記中心を通るとともに前記特定結晶方向とは異なる方向に沿って伸びるラインの端部が前記分割起点に位置するように前記半導体ウエハを前記分割機構にセットしてもよい。
【0019】
以下に、半導体素子の製造方法について、実施形態の製造方法と比較例の製造方法とを比較しながら説明する。図1は、加工対象の半導体ウエハ12を示している。半導体ウエハ12は、窒化ガリウムの単結晶により構成されている。半導体ウエハ12は、光透過性を有している。半導体ウエハ12の上面12aは、特定の結晶面(例えば、m面)によって構成されている。半導体ウエハ12の側面12dには、特定の結晶方向を示す2つのオリエンテーションフラット12n-1、12n-2が設けられている。図2は、半導体ウエハ12の側面12d近傍の部分の断面を示している。側面12d近傍には、傾斜した表面を有するベベル部22が設けられている。ベベル部22の表面は、側面12dに近づくほど半導体ウエハ12の厚みが薄くなるように傾斜している。図2の主要部20は、平坦な上面12aを有する部分である。したがって、主要部20とベベル部22の境界部は、上面12aの外周部24である。
【0020】
実施形態の製造方法と比較例の製造方法のいずれでも、半導体ウエハ12に対して、レーザ照射工程と半導体ウエハ分割工程を順に実施する。なお、レーザ照射工程の実施前の段階において、半導体ウエハ12に半導体素子構造またはその一部が形成されていてもよい。
【0021】
実施形態の製造方法と比較例の製造方法において、レーザ照射工程は共通である。レーザ照射工程では、図3に示すように、半導体ウエハ12の内部で焦点Sが形成されるように半導体ウエハ12にレーザLを照射する。なお、図3では上面12a側から半導体ウエハ12にレーザLを照射しているが、下面12b側から半導体ウエハ12にレーザLを照射してもよい。焦点Sの位置では半導体ウエハ12が加熱されて分解されることによって変質層90が形成される。すなわち、変質層90は、結晶欠陥層であり、窒化ガリウムが分解されて析出したガリウム等によって構成された層である。ここでは、矢印100に示すように、焦点Sを半導体ウエハ12の上面12aに平行に移動させる。これによって、半導体ウエハ12の内部に、上面12aに平行に伸びる変質層90を形成する。また、ここでは、図4の破線矢印に示すように、半導体ウエハ12全体を走査するように焦点Sを移動させることによって、半導体ウエハ12の横方向のほぼ全域に変質層90を形成する。変質層90では、半導体ウエハ12の変質層90以外の部分(すなわち、結晶領域)よりも、半導体ウエハ12の強度が低い。
【0022】
なお、レーザ照射工程において、レーザLがベベル部22の表面で反射または屈折してベベル部22内に変質層90を形成できない場合がある。また、レーザ照射工程では、主要部20の横方向の全域に変質層90が形成される。しかしながら、レーザ照射工程において異常が生じることで、主要部20の一部に変質層90が形成されない場合がある。例えば、レーザ照射装置の設備異常によって、主要部20の一部に変質層90が形成されない場合がある。また、例えば、半導体ウエハ12に付着している異物によってレーザLが遮蔽されることで、主要部20の一部に変質層90が形成されない場合がある。以下では、半導体ウエハ12を上側から見たときに、変質層90が形成されている領域を変質層形成領域92といい、変質層90が形成されていない領域を変質層未形成領域94という。
【0023】
(比較例の半導体ウエハ分割工程)
次に、比較例の半導体ウエハ分割工程について説明する。半導体ウエハ分割工程は、図5、6に示す分割機構50を用いて実施される。分割機構50は、ステージ52と回転板54を有している。回転板54は、回転軸56を中心に回転することができる。回転板54は、図示しないモータによって回転させられる。回転板54が回転することで、分割機構50が開閉される。比較例の半導体ウエハ分割工程では、まず、分割機構50が開いている状態で、ステージ52上に半導体ウエハ12が載置される。ここでは、半導体ウエハ12の下面12bがステージ52に固定される。例えば、真空吸着によって、下面12bをステージ52に固定することができる。また、粘着テープ、接着剤等によって、下面12bをステージ52に固定してもよい。次に、回転板54を回転させて分割機構50を閉じ、回転板54の下面を半導体ウエハ12の上面12aに固定する。例えば、真空吸着によって、上面12aを回転板54に固定することができる。また、粘着テープ、接着剤等によって、上面12aを回転板54に固定してもよい。次に、図6に示すように回転板54を回転させて分割機構50を開く。すると、半導体ウエハ12の上側部分12Uが半導体ウエハ12の下側部分12Lから離れる方向に引っ張られる。すると、変質層90で亀裂が生じ、半導体ウエハ12が分割される。言い換えると、上側部分12Uが下側部分12Lから剥離される。その結果、厚みが薄い上側部分12Uが得られる。
【0024】
(比較例の半導体ウエハ分割工程の問題点)
図7に示すように、変質層未形成領域94には変質層90が存在していない。このため、変質層未形成領域94内では半導体ウエハ12を意図した形状に分割することができない。例えば、図8に示すように、変質層未形成領域94内では亀裂が変質層90の深さからずれて形成される。このため、図8では、変質層形成領域92よりも変質層未形成領域94で、上側部分12Uの厚みが薄くなっている。また、変質層形成領域92よりも変質層未形成領域94で、上側部分12Uの厚みが厚くなる場合もある。また、変質層未形成領域94内では、分割面に凹凸が生じる。以下では、分割面(すなわち、亀裂)が意図した形状になっていない領域を、分割不良部98という。
【0025】
また、図5、6において、側面52aは回転軸56から遠い方のステージ52の側面を示しており、側面52bは回転軸56に近い方のステージ52の側面を示している。回転板54を回転させて半導体ウエハ12を分割するときには、側面52a近傍では側面52b近傍よりも回転板54の上昇量が大きい。したがって、図6の矢印102に示すように、半導体ウエハ12において亀裂が側面52a側から側面52b側に向かって進展する。このため、図9に示すように、半導体ウエハ12の外周部24のうちで側面52aに最も近い箇所が、半導体ウエハ12の実質的な分割起点12sとなる。すなわち、分割起点12sは、ステージ52と半導体ウエハ12との位置関係によって決まる外周部24上の点である。比較例の半導体ウエハ分割工程においては、図9に示すように、分割起点12sに変質層未形成領域94が存在する場合がある。分割起点12sに変質層未形成領域94が存在する状態で半導体ウエハ12を分割すると、図10に示すように変質層未形成領域94だけでなく変質層未形成領域94の後に亀裂が生じる領域96(すなわち、変質層未形成領域94に対して側面52b側で隣接する変質層形成領域92)でも分割不良部98(すなわち、図10の斜線部)が発生する。すなわち、変質層70が存在する領域96で、半導体ウエハ12が変質層70からずれた位置で分割される。このように、比較例の半導体ウエハ分割工程では、分割起点12sに変質層未形成領域94が存在する場合に、変質層未形成領域94だけでなくそれに隣接する領域96でも半導体ウエハ12を適切に分割できないという問題が生じる。
【0026】
(実施形態の製造方法)
実施形態の製造方法では、半導体ウエハ分割工程の前に、変質層未形成領域検出工程、分割起点算出工程、及び、角度調整工程を実施する。すなわち、実施形態の製造方法では、変質層未形成領域検出工程、分割起点算出工程、角度調整工程、及び、半導体ウエハ分割工程を順に実施する。
【0027】
図11は、変質層未形成領域検出工程、分割起点算出工程、角度調整工程、及び、半導体ウエハ分割工程を実施する半導体ウエハ加工装置30を示している。半導体ウエハ加工装置30は、ウエハ搬入部32、変質層未形成領域検出機構34、ウエハ角度調整機構36、分割機構50、制御装置40、及び、分割起点決定装置42を有している。制御装置40と分割起点決定装置42は、演算回路によって構成されている。半導体ウエハ加工装置30が有する分割機構50は、図5、6に示す分割機構50と等しい。図示していないが、半導体ウエハ加工装置30は、半導体ウエハ加工装置30の内部で半導体ウエハ12を搬送する搬送機構を有している。
【0028】
ウエハ搬入部32は、半導体ウエハ加工装置30に対して半導体ウエハ12を出し入れする部分である。ウエハ搬入部32に搬入された半導体ウエハ12は、変質層未形成領域検出機構34へ搬送される。
【0029】
変質層未形成領域検出機構34は、変質層未形成領域検出工程を実施する。変質層未形成領域検出機構34は、カメラを有しており、半導体ウエハ12を上面12a側から撮影する。図12は、変質層未形成領域検出機構34によって撮影された半導体ウエハ12の画像である。上述したように、半導体ウエハ12は光透過性を有しており、半導体ウエハ12の外観から変質層90を観察することができる。例えば、図12の画像においては、グレーの領域が変質層90(すなわち、変質層形成領域92)であり、白い領域が変質層未形成領域94である。変質層未形成領域検出機構34は、撮影した画像に基づいて変質層形成領域92と変質層未形成領域94を特定する。図13~15は、変質層形成領域92と変質層未形成領域94の拡大画像である。図13は、カメラによって撮影された画像である。図13において、グレーの領域が変質層形成領域92であり、白い領域が変質層未形成領域94である。変質層未形成領域検出機構34は、カメラによって撮影された画像の各画素の輝度値を、白とグレーの間の値を閾値として二値化した画像を算出する。例えば、変質層未形成領域検出機構34は、図13の画像を二値化した画像として、図14の画像を算出する。次に、変質層未形成領域検出機構34は、二値化した画像に対してノイズ除去処理を実施する。例えば、変質層未形成領域検出機構34は、図14の画像に対してノイズ除去処理を実施することで、図15に示す画像(すなわち、白と黒の微小領域が除去され、白領域と黒領域の境界線が平滑化された画像)を算出する。変質層未形成領域検出機構34は、ノイズ除去処理実施後の画像のうち、黒い領域を変質層形成領域92として特定し、白い領域を変質層未形成領域94として特定する。変質層未形成領域検出機構34は、変質層未形成領域94の座標範囲を算出する。変質層未形成領域94の座標範囲は、xy座標系にて表される座標範囲である。変質層未形成領域検出機構34は、算出した座標範囲を分割起点決定装置42へ送信する。変質層未形成領域検出工程が終了すると、半導体ウエハ12は、ウエハ角度調整機構36へ搬送される。
【0030】
分割起点決定装置42は、変質層未形成領域94の座標範囲を受信すると、分割起点算出工程を実施する。分割起点算出工程では、分割起点決定装置42は、まず、変質層未形成領域検出機構34で撮影された画像(例えば、図12の画像)からオリエンテーションフラット12n-1、12n-2を検出する。次に、分割起点決定装置42は、オリエンテーションフラット12n-1、12n-2の位置及び角度を基準にして、図16に示す第1剥離ライン88を特定する。第1剥離ライン88は、上面12aにおいて半導体ウエハ12の外形円の中心12cを通るとともに特定結晶方向に沿って伸びるラインである。半導体ウエハ12の外形円は、半導体ウエハ12の外形(すなわち、輪郭)のうちで円弧の形状を有する部分である。また、特定結晶方向は、予め決められた結晶方向であり、分割起点決定装置42に記憶されている結晶方向である。特定結晶方向としては、その結晶方向に亀裂が進行したときに分割面が平坦となり易い結晶方向を採用することができる。分割起点決定装置42は、第1剥離ライン88を特定すると、第1剥離ライン88の一方の端部を第1端部88aとして特定し、第1剥離ライン88の他方の端部を第2端部88bとして特定する。第1端部88aと第2端部88bは、第1剥離ライン88と外周部24との交点である。次に、分割起点決定装置42は、変質層未形成領域検出機構34で算出された変質層未形成領域94の座標範囲に基づいて、第1端部88aと第2端部88bが変質層未形成領域94であるか否かを判定する。分割起点決定装置42は、第1端部88aが変質層未形成領域94でない場合には、第1端部88aを分割起点として決定する。分割起点決定装置42は、第1端部88aが変質層未形成領域94である場合であって第2端部88bが変質層未形成領域94でない場合には、第2端部88bを分割起点として決定する。また、分割起点決定装置42は、第1端部88aと第2端部88bの両方が変質層未形成領域94である場合には、図16に示すように第1剥離ライン88とは異なる第2剥離ライン89を特定し、第2剥離ライン89の一方の端部(以下、第3端部89aという)を分割起点として特定する。なお、第2剥離ライン89は、中心12cを通るとともに第1剥離ライン88とは異なる結晶方向に沿って伸びるラインである。
【0031】
分割起点決定工程が終了すると、角度調整工程が実施される。角度調整工程では、ウエハ角度調整機構36で半導体ウエハ12の角度が調整され、その後、半導体ウエハ12が分割機構50のステージ52上に搬送される。ウエハ角度調整機構36と分割機構50は、制御装置40によって制御される。ウエハ角度調整機構36は、回転可能なステージを有している。角度調整工程では、まず、ウエハ角度調整機構36のステージ上に半導体ウエハ12が載置される。すると、制御装置40が、ウエハ角度調整機構36のステージによって半導体ウエハ12を中心12c周りに回転させる。これによって、半導体ウエハ12の分割機構50に対する角度が調整される。角度調整後の半導体ウエハ12は、分割機構50のステージ52上に搬送される。図17に示すように、第1端部88aが分割起点として決定されている場合には、制御装置40は、分割機構50のステージ52上で第1端部88aが分割起点12sとなるように半導体ウエハ12の角度を調整する。すなわち、外周部24の中で第1端部88aが側面52aの最も近くに位置するように、半導体ウエハ12の角度を調整する。また、図18に示すように、第2端部88bが分割起点として決定されている場合(すなわち、第1端部88aが変質層未形成領域94である場合)には、制御装置40は、分割機構50のステージ52上で第2端部88bが分割起点12sとなるように半導体ウエハ12の角度を調整する。また、図19に示すように、第3端部89aが分割起点として決定されている場合(すなわち、第1端部88aと第2端部88bが変質層未形成領域94である場合)には、制御装置40は、分割機構50のステージ52上で第3端部89aが分割起点12sとなるように半導体ウエハ12の角度を調整する。このように、角度調整工程では、分割起点12sに変質層未形成領域94が位置しないように、半導体ウエハ12の角度が調整される。
【0032】
角度調整工程が終了すると、制御装置40は、分割機構50を制御して半導体ウエハ分割工程を実施する。実施形態の半導体ウエハ分割工程でも、比較例の半導体ウエハ分割工程と同様に、分割起点12sを起点として半導体ウエハ12が変質層90で分割される。すなわち、半導体ウエハ12の下面12bがステージ52に固定され、半導体ウエハ12の上面12aが回転板54に固定された状態で、制御装置40が分割機構50のモータを駆動して回転板54を回転させる。その結果、図6に示すように、半導体ウエハ12が分割される。
【0033】
上述したように、実施形態の製造方法では、分割起点12sに変質層未形成領域94が位置しないように半導体ウエハ12がステージ52上に載置される。したがって、半導体ウエハ分割工程では、図10に示すように分割起点12sに位置する変質層未形成領域94から隣接する領域96にかけて分割不良部98が生じることが防止される。例えば、図18、19のように分割起点12s以外の位置に変質層未形成領域94が存在する場合には、変質層未形成領域94内では分割不良部が発生するものの、変質層未形成領域94に隣接する変質層形成領域92で分割不良が発生することを抑制できる。
【0034】
上記のように半導体ウエハ12を上側部分12Uと下側部分12Lに分割することで、厚みが薄い上側部分12Uを得ることができる。したがって、上側部分12Uに対して電極形成、ダイシング等を行うことで、厚みが薄い半導体素子を製造することができる。また、下側部分12Lは、半導体素子の製造に再利用することができる。
【0035】
なお、上述した実施形態では、半導体ウエハ12が窒化ガリウムによって構成されていた。しかしながら、半導体ウエハ12が窒化ガリウム以外のIII-V族半導体、または、酸化ガリウムによって構成されていてもよい。これらの材料は透明性を有するので、半導体ウエハの外観から変質層未形成領域と変質層形成領域を特定し易い。
【0036】
また、上述した実施形態では、制御装置40と分割起点決定装置42が別の演算回路によって構成されていたが、制御装置40と分割起点決定装置42が1つの演算回路によって構成されていてもよい。
【0037】
また、上述した実施形態では、ウエハ角度調整機構36が分割機構50とは別に設けられていた。しかしながら、ウエハ角度調整機構36と分割機構50が同じ装置によって実現されてもよい。例えば、分割機構50のステージ52がウエハ角度調整機能を有していてもよい。
【0038】
また、上述した実施形態では、分割起点決定装置42が剥離ライン88、89を算出し、剥離ライン88、89の端部を分割起点として決定した。しかしながら、分割起点に変質層未形成領域が位置しなければ、分割起点をどのような方法で決定してもよい。
【0039】
また、上述した実施形態では、カメラで撮影した画像に基づいて変質層未形成領域を検出したが、透過型のレーザセンサ等によって変質層未形成領域を検出してもよい。
【0040】
実施例のウエハ角度調整機構36と半導体ウエハを分割機構50へ搬送する搬送機構は、位置調整機構の一例である。
【0041】
以上、実施形態について詳細に説明したが、これらは例示にすぎず、特許請求の範囲を限定するものではない。特許請求の範囲に記載の技術には、以上に例示した具体例をさまざまに変形、変更したものが含まれる。本明細書または図面に説明した技術要素は、単独あるいは各種の組み合わせによって技術有用性を発揮するものであり、出願時請求項記載の組み合わせに限定されるものではない。また、本明細書または図面に例示した技術は複数目的を同時に達成するものであり、そのうちの1つの目的を達成すること自体で技術有用性を持つものである。
【符号の説明】
【0042】
12:半導体ウエハ、12s:分割起点、24:外周部、88:第1剥離ライン、88a:第1端部、88b:第2端部、89:第2剥離ライン、89a:第3端部、90:変質層、92:変質層形成領域、94:変質層未形成領域
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