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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023104775
(43)【公開日】2023-07-28
(54)【発明の名称】焼き菓子の製造方法
(51)【国際特許分類】
   A21D 2/08 20060101AFI20230721BHJP
   A21D 2/32 20060101ALI20230721BHJP
   A21D 13/00 20170101ALI20230721BHJP
   A21D 2/26 20060101ALI20230721BHJP
   A21D 2/16 20060101ALI20230721BHJP
   A21D 2/18 20060101ALI20230721BHJP
【FI】
A21D2/08
A21D2/32
A21D13/00
A21D2/26
A21D2/16
A21D2/18
【審査請求】未請求
【請求項の数】1
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022005968
(22)【出願日】2022-01-18
(71)【出願人】
【識別番号】390010674
【氏名又は名称】理研ビタミン株式会社
(72)【発明者】
【氏名】佐瀬 尚美
【テーマコード(参考)】
4B032
【Fターム(参考)】
4B032DB05
4B032DB13
4B032DB21
4B032DK09
4B032DK10
4B032DK12
4B032DK18
4B032DK21
4B032DK26
4B032DK34
4B032DK44
4B032DP08
4B032DP23
4B032DP40
(57)【要約】
【課題】蛋白質、油脂及び糖質を主原料とする生地を焼成する工程を含む焼き菓子の製造方法において、生地の硬さが低減され、得られる焼き菓子の食感が改善される焼き菓子の製造方法を提供する。
【解決手段】蛋白質、油脂及び糖質を主原料とする生地を焼成する工程を含む焼き菓子の製造方法であって、該生地は、下記成分(A)、(B)及び(C)から選ばれる1種以上が添加されている、焼き菓子の製造方法。
(A):ポリグリセリンの平均重合度が2~5のポリグリセリン不飽和脂肪酸エステル
(B):ソルビタン不飽和脂肪酸エステル
(C):レシチン
【選択図】 なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
蛋白質、油脂及び糖質を主原料とする生地を焼成する工程を含む焼き菓子の製造方法であって、該生地は、下記成分(A)、(B)及び(C)から選ばれる1種以上が添加されている、焼き菓子の製造方法。
(A):ポリグリセリンの平均重合度が2~5のポリグリセリン不飽和脂肪酸エステル
(B):ソルビタン不飽和脂肪酸エステル
(C):レシチン
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、焼き菓子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ウェイトトレーニング又はスポーツ後の蛋白質の摂取は筋肉の回復や筋肉量の維持に有効であると言われている。また、特に高齢層において、蛋白質の摂取不足により筋肉量が減少し、老化を早め、ロコモやサルコペニアとなる可能性が高くなることが知られている。このような蛋白質摂取の重要性が近年注目されていることから、日常的に蛋白質を効率的に摂取することを目的とした蛋白質強化食品の需要が高まっている。そして、蛋白質強化食品として、蛋白質を高度に配合した焼き菓子が開発され、販売されている。
【0003】
このタイプの焼き菓子に関する技術としては、例えば、分離大豆蛋白質等の大豆蛋白質素材に糖質を混合し、水を添加し、撹拌溶解した後、油脂を添加しながら撹拌して乳化後、さらに酸を添加・撹拌してエマルションとしたものを焼成することによる、大豆蛋白質を多く含む菓子様焼成食品の製造方法(特許文献1)、ミセラーカゼインを含む生地を調製し、当該生地を焼成する工程を含む焼成食品の製造方法であって、前記生地は、その固形分100gあたり蛋白質を15~60g含有し、前記蛋白質の60質量%以上がミセラーカゼイン又はミセラーカゼイン由来カゼイン蛋白質である製造方法(特許文献2)等が知られている。
【0004】
しかしながら、このタイプの焼き菓子は、蛋白質の配合量を高めるとともに、蛋白質、油脂及び糖質を主原料とする場合、製造時に生地が硬くなりやすいため、作業性や成型性の点で製造ラインに適合し難い。更に、このように蛋白質、油脂及び糖質を主原料とする焼き菓子は、食感の「ひき」や「ねちゃつき」を感じやすい問題があり、これら問題の改善が求められていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2017-055724号公報
【特許文献2】国際公開第2018/180667号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、蛋白質、油脂及び糖質を主原料とする生地を焼成する工程を含む焼き菓子の製造方法において、生地の硬さが低減され、得られる焼き菓子の食感が改善される焼き菓子の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、上記課題に対して鋭意検討を行った結果、特定の乳化剤を生地に添加することにより、上記課題が解決することを見出し、この知見に基づいて本発明を成すに至った。
【0008】
即ち、本発明は、蛋白質、油脂及び糖質を主原料とする生地を焼成する工程を含む焼き菓子の製造方法であって、該生地は、下記成分(A)、(B)及び(C)から選ばれる1種以上が添加されている、焼き菓子の製造方法、からなっている。
(A):ポリグリセリンの平均重合度が2~5のポリグリセリン不飽和脂肪酸エステル
(B):ソルビタン不飽和脂肪酸エステル
(C):レシチン
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、蛋白質、油脂及び糖質を主原料とする生地を焼成する工程を含む焼き菓子の製造方法において、生地の硬さが低減され、得られる焼き菓子の食感が改善される。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明で用いられる蛋白質としては、例えば、カゼイン蛋白質、ホエイ蛋白質、大豆蛋白質、えんどう豆蛋白質、米由来の蛋白質、小麦由来の蛋白質等が挙げられる。これらの中でも、カゼイン蛋白質、ホエイ蛋白質、大豆蛋白が好ましく、ホエイ蛋白質が特に好ましい。これら蛋白質は、いずれか1種のみを単独で用いてもよいし、2種以上を任意に組み合わせて用いてもよい。
【0011】
本発明で用いられる油脂としては、例えば、ショートニング、マーガリン、ファットスプレッド、バター、ヤシ油、パーム油、液状油(例えば、大豆油、菜種油、綿実油、サフラワー油、ひまわり油、米油、コーン油、ゴマ油、及びオリーブ油等)等が挙げられる。これらの中でも、ショートニング、マーガリン、バターが好ましい。これら油脂は、いずれか1種のみを単独で用いてもよいし、2種以上を任意に組み合わせて用いてもよい。
【0012】
本発明で用いられる糖質としては、例えば、砂糖、蜂蜜、水あめ、ブドウ糖、果糖ブドウ糖液糖、還元麦芽糖、還元水飴、マルチトール、ソルビトール、キシリトール、エリスリトール、トレハロース、イソマルツロース、還元イソマルツロース、アガベシロップ等が挙げられる。これらの中でも、水あめ、蜂蜜、果糖ブドウ糖液糖、還元水飴が好ましい。これら糖質は、いずれか1種のみを単独で用いてもよいし、2種以上を任意に組み合わせて用いてもよい。
【0013】
本発明で成分(A)として用いられるポリグリセリンの平均重合度が2~5のポリグリセリン不飽和脂肪酸エステルは、平均重合度2~5のポリグリセリンと不飽和脂肪酸とのエステルであり、エステル化反応等自体公知の方法で製造される。該エステルは、好ましくはモノエステルであり、混合物であればモノエステルを50%以上、好ましくは80%以上、より好ましくは90%以上含むのが良い。
【0014】
成分(A)を構成する平均重合度2~5のポリグリセリンとしては、例えば、ジグリセリン(平均重合度2)、トリグリセリン(平均重合度3)、テトラグリセリン(平均重合度4)、ペンタグリセリン(平均重合度5)等が挙げられる。
【0015】
成分(A)を構成する不飽和脂肪酸としては、例えば、パルミトオレイン酸、オレイン酸、エライジン酸、リノール酸、γ-リノレン酸、α-リノレン酸、アラキドン酸、リシノール酸、縮合リシノール酸等が挙げられ、好ましくはオレイン酸である。
【0016】
成分(A)としては、例えば、ポエムDO-100V(商品名;ジグリセリンモノオレイン酸エステル;ポリグリセリンの平均重合度2;理研ビタミン社製)、SYグリスターMO-3S(商品名;テトラグリセリンモノオレイン酸エステル;ポリグリセリンの平均重合度4;阪本薬品工業社製)、サンソフトA-171E(商品名;ペンタグリセリンモノオレイン酸エステル;ポリグリセリンの平均重合度5;太陽化学社製)等が商業的に製造および販売されており、本発明ではこれらを用いることができる。
【0017】
本発明で成分(B)として用いられるソルビタン不飽和脂肪酸エステルは、ソルビタンを主成分とするソルビトールの分子内縮合物と不飽和脂肪酸とのエステル化生成物である。
【0018】
成分(B)を構成する不飽和脂肪酸としては、例えば、パルミトオレイン酸、オレイン酸、エライジン酸、リノール酸、γ-リノレン酸、α-リノレン酸、アラキドン酸、リシノール酸、縮合リシノール酸等が挙げられ、好ましくはオレイン酸である。
【0019】
成分(B)としては、ソルビタンオレイン酸エステル(商品名:ポエムO-80V;理研ビタミン社製)等が商業的に製造及び販売されており、本発明ではこれを用いることができる。
【0020】
本発明で成分(C)として用いられるレシチンは、糧種子又は動物原料から得られるリン脂質〔例えば、フォスファチジルコリン、フォスファチジルエタノールアミン、フォスファチジルイノシトール、フォスファチジン酸又はこれらの酵素処理物(例えば、フォスファチジルコリンの酵素分解物であるリゾフォスファチジルコリン等)〕を主成分とするものであり、例えば、油脂を含む液状又はペースト状レシチン、液状又はペースト状レシチンから油脂を除去し乾燥した粉末レシチン、液状レシチンを分別精製した分別レシチン又はレシチンを酵素で処理した酵素分解レシチン若しくは酵素処理レシチン等が挙げられる。
【0021】
成分(C)としては、例えば、トプシチン(商品名;ペースト状レシチン;カーギルジャパン社製)、レシマールEL(商品名;酵素分解レシチン;理研ビタミン社製)等が商業的に製造・販売されており、本発明ではこれらを用いることができる。
【0022】
本発明に係る焼き菓子の原材料としては、主原料である蛋白質、油脂及び糖質並びに成分(A)、(B)及び(C)の他、副原料として、例えば、穀粉類、水、食塩、牛乳、濃縮乳、生クリーム、脱脂粉乳、練乳、チーズ等の乳製品、果実及び果実加工品、ココアパウダー、ナッツ類、洋酒類、乳化剤〔但し、成分(A)、(B)及び(C)に該当するものを除く。〕、膨張剤、液卵、その他呈味原料等を用いることができる。
【0023】
本発明の焼き菓子の製造方法は、蛋白質、油脂及び糖質を主原料とする生地を焼成する工程を含み、該生地は、上記成分(A)、(B)及び(C)から選ばれる1種以上が添加されたものである。
【0024】
上記生地の調製方法及び焼成方法に特に制限はなく、慣用の装置を用いて、常法により製造することができる。慣用の装置を用いて、常法により製造することができる。例えば、上記主原料、副原料及び成分(A)、(B)及び(C)から選ばれる1種以上をミキサーで混合して生地を調製した後、成型(ロール、ワイヤーカット、ルートプレス、ロータリーモルダー、デポジッター、ステンシル等)し、その後焼成して焼き菓子を製造することができる。
【0025】
上記生地100質量%中、主原料の合計の割合は、50~99.9質量%、好ましくは70~99.7質量%である。
【0026】
上記生地において、主原料の合計量100質量%に対する蛋白質、油脂及び糖質の割合は、蛋白質が10~45質量%、好ましくは25~40質量%であり、油脂が20~45質量%、好ましくは20~40質量%であり、糖質が10~70質量%、好ましくは20~55質量%である。
【0027】
上記生地100質量%中、成分(A)、(B)及び(C)から選ばれる1種以上の添加量は、0.1~1.5質量%であり、好ましくは0.3~0.8質量%である。
【0028】
上記の生地の調製では、成分(A)、(B)及び(C)から選ばれる1種以上を直接生地に添加しても良く、又はこれら成分と他の成分とを自体公知の方法により予め混合し製剤化したものを生地に添加して用いても良い。当該他の成分としては、油脂、乳化剤〔但し、成分(A)、(B)又は(C)に該当するものを除く。〕等が挙げられる。
【0029】
以下、実施例をもって本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【実施例0030】
[焼き菓子の製造及び評価]
(1)原材料
1)ホエイ蛋白質(商品名:PROGEL800;日本新薬社製)
2)ショートニング(商品名:エンブレム;ミヨシ油脂社製)
3)水あめ(スドージャム社製)
4)ココアパウダー(商品名:純ココア;富澤商店社製)
5)ジグリセリンモノオレイン酸エステル(商品名:ポエムDO-100V;ポリグリセリンの平均重合度2;理研ビタミン社製)
6)テトラグリセリンモノオレイン酸エステル(商品名:SYグリスターMO-3S;ポリグリセリンの平均重合度4;阪本薬品工業社製)
7)ペンタグリセリンモノオレイン酸エステル(商品名:サンソフトA-171E;ポリグリセリンの平均重合度5;太陽化学社製)
8)ソルビタンオレイン酸エステル(商品名:ポエムO-80V;理研ビタミン社製)
9)ペースト状レシチン(商品名:トプシチン;カーギルジャパン社製)
10)酵素分解レシチン(商品名:レシマールEL;理研ビタミン社製)
11)グリセリンモノオレイン酸エステル(商品名:エマルジーOL-100H;理研ビタミン社製)
12)デカグリセリンオレイン酸エステル(商品名:ポエムJ-0381V;ポリグリセリンの平均重合度10;理研ビタミン社製)
13)ソルビタンパルミチン酸/ステアリン酸エステル(商品名:ポエムS-60V;理研ビタミン社製)
【0031】
(2)焼き菓子生地の配合
上記原材料を用いて調製した焼き菓子生地1~10の配合を表1及び2に示す。このうち、表1の焼き菓子生地1~6は本発明に係る実施例であり、表2の焼き菓子生地7~9はそれらに対する比較例であり、焼き菓子生地10は、乳化剤を使用しない対照である。
【0032】
【表1】
【0033】
【表2】
【0034】
(2)生地の調整
縦型ミキサー(製品名:万能混合撹拌機;5コート;品川工業所社製)にてショートニング132.0gを低速で1分間混合した。これに水あめ198.0gを加え、低速で1分間混合した後、ホエイ蛋白質180.0g、ココアパウダー90.0g及び乳化剤3.0gを加え、低速で3分間混合し、603.0gの焼き菓子生地1~9及び600.0gの焼き菓子生地10を得た。
【0035】
(3)生地の硬さの評価
(2)で得た焼き菓子生地1~10のそれぞれの生地をまとめ、めん棒を用いて厚さ10mmに伸ばし、直径29mmの円型に型抜きして成型した生地各5個について硬さの評価試験を実施した。試験は、テクスチャーアナライザー(型式:TA.XT plus TEXTURE ANALYSERS;Stable Micro Systems社製)を使用して所定の条件(直径10mmの円柱型プローブ:P/10;進入速度:3mm/sec)で各生地の中央部分を圧縮し、生地表面から7.0mmの深さまで圧縮するまでの圧縮強度(g)を積算して仕事量(g・s)とした。5個の生地全てについて前記試験を行い、5回の試験で求めた仕事量の平均値を算出し、焼き菓子生地10の仕事量の平均値を100として、それに対する相対値を焼き菓子生地1~9について求めた。このような試験を生地の調製直後と調整から2時間後にそれぞれ実施した。結果を表3に示す。
【0036】
【表3】
【0037】
表3の結果から明らかなように、本発明の実施例である焼き菓子生地1~6は、対照の焼き菓子生地10に比べて結果の数値が十分に低く、生地の硬さが十分に低減していた。これに対し、比較例の焼き菓子生地7~9は、対照の焼き菓子生地10に比べて結果の数値があまり低くなく、生地の硬さが十分に低減していなかった。
【0038】
(4)生地の焼成
(2)で得た焼き菓子生地1~10のそれぞれの生地をまとめ、めん棒を用いて厚さ10mmに伸ばし、幅×長さ=20×100mmにカットして成型した生地をオーブン(上火200℃;下火200℃)で4分間焼成した。焼成後、得られた焼き菓子の粗熱をとり、焼き菓子1~10を得た。
【0039】
(5)食感の評価
焼き菓子1~10を喫食し、食感について官能試験を行った。官能試験では、表4に示す評価基準に従い「歯切れ」「サクミ」「口溶け」の評価項目について10名のパネラーで評価を行い、評点の平均点を求めた。更に、これら評価項目の平均点の合計を求めた。結果を表5に示す。
【0040】
【表4】
【0041】
【表5】
【0042】
表5の結果から明らかなように、本発明の実施例である焼き菓子1~6は、対照の焼き菓子10に比べて「歯切れ」「サクミ」「口溶け」の評価項目の平均点の合計の数値が高く、食感が十分に改善していた。これに対し、比較例の焼き菓子7~9は、同数値が対照の焼き菓子10とほぼ同程度であり、食感の改善が十分ではなかった。