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特開2023-104778リチウムイオン二次電池からの有価物の回収方法
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  • 特開-リチウムイオン二次電池からの有価物の回収方法 図1
  • 特開-リチウムイオン二次電池からの有価物の回収方法 図2
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023104778
(43)【公開日】2023-07-28
(54)【発明の名称】リチウムイオン二次電池からの有価物の回収方法
(51)【国際特許分類】
   H01M 10/54 20060101AFI20230721BHJP
   C22B 1/02 20060101ALI20230721BHJP
   C22B 1/00 20060101ALI20230721BHJP
   C22B 26/12 20060101ALI20230721BHJP
   C01B 25/45 20060101ALI20230721BHJP
   C01B 32/215 20170101ALI20230721BHJP
   B09B 3/40 20220101ALI20230721BHJP
   B09B 5/00 20060101ALI20230721BHJP
   B09B 3/30 20220101ALI20230721BHJP
【FI】
H01M10/54
C22B1/02
C22B1/00 601
C22B26/12
C01B25/45 Z
C01B32/215
B09B3/00 303Z
B09B5/00 A
B09B3/00 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022005974
(22)【出願日】2022-01-18
(71)【出願人】
【識別番号】510123518
【氏名又は名称】ENEOSホールディングス株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】899000068
【氏名又は名称】学校法人早稲田大学
(74)【代理人】
【識別番号】100105924
【弁理士】
【氏名又は名称】森下 賢樹
(72)【発明者】
【氏名】大川 直樹
(72)【発明者】
【氏名】杉原 伸彦
(72)【発明者】
【氏名】大和田 秀二
【テーマコード(参考)】
4D004
4G146
4K001
5H031
【Fターム(参考)】
4D004AA23
4D004BA05
4D004CA04
4D004CA08
4D004CA22
4D004DA03
4D004DA20
4G146AA02
4G146BA34
4G146CA02
4G146CA06
4G146CA08
4G146CA09
4G146CA11
4G146CA15
4G146CA20
4K001AA10
4K001AA34
4K001BA22
4K001CA01
4K001CA02
4K001CA11
5H031RR02
(57)【要約】
【課題】リチウムイオン二次電池から有価物を回収する新規な技術を提供する。
【解決手段】リチウムイオン二次電池からの有価物の回収方法は、大気における酸素濃度よりも低い酸素濃度の雰囲気下、電解液の熱分解温度以上、且つケースの溶融温度未満の温度で、リチウムイオン二次電池をケースごと加熱して熱処理物を生成し、熱処理物からケースに由来する第1熱処理物と、内容物に由来する第2熱処理物とを選別し、第2熱処理物を破砕して破砕物を生成し、少なくとも第1篩を用いて破砕物の篩別処理を実施し、第1篩の篩下からグラファイトを含む小粒物群を有価物として回収することを含む。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電解液および電極体を含む内容物と、前記内容物を収容する金属製のケースと、を備えるリチウムイオン二次電池からの有価物の回収方法であって、
前記電極体は、正極板と、樹脂製のセパレータと、負極板と、を有し、
前記正極板は、所定の正極活物質と、金属製の第1集電体と、を有し、
前記負極板は、グラファイトを含む負極活物質と、金属製の第2集電体と、を有し、
前記回収方法は、
大気における酸素濃度よりも低い酸素濃度の雰囲気下、前記電解液の熱分解温度以上、且つ前記ケースの溶融温度未満の温度で、前記リチウムイオン二次電池を前記ケースごと加熱して熱処理物を生成し、
前記熱処理物から前記ケースに由来する第1熱処理物と、前記内容物に由来する第2熱処理物とを選別し、
前記第2熱処理物を破砕して破砕物を生成し、
少なくとも第1篩を用いて前記破砕物の篩別処理を実施し、前記第1篩の篩下から前記グラファイトを含む小粒物群を有価物として回収することを含む、
有価物の回収方法。
【請求項2】
前記熱処理物の生成における前記リチウムイオン二次電池の加熱温度は、前記セパレータの熱分解温度以上の温度である、
請求項1に記載の有価物の回収方法。
【請求項3】
前記第1篩は、目開きが0.063mm以下である、
請求項1または2に記載の有価物の回収方法。
【請求項4】
浮選により前記小粒物群を前記グラファイトを含む浮上物と、沈殿物とに分離し、
前記浮上物を有価物として回収することをさらに含む、
請求項1乃至3のいずれか1項に記載の有価物の回収方法。
【請求項5】
前記第1篩よりも目開きが大きい第2篩も用いて前記篩別処理を実施し、前記第2篩の篩上から前記第1集電体に由来する金属および前記第2集電体に由来する金属を含む大粒物群を有価物として回収することをさらに含む、
請求項1乃至4のいずれか1項に記載の有価物の回収方法。
【請求項6】
前記第2篩は、目開きが1.0mmである、
請求項5に記載の有価物の回収方法。
【請求項7】
前記正極活物質は、リン酸鉄リチウムを含み、
前記回収方法は、
前記第2篩を用いた篩別により、前記第2篩の篩上から前記大粒物群を回収するとともに、前記第2篩の篩下から篩下物を回収し、
前記第1篩を用いた前記篩下物の篩別により、前記第1篩の篩下から前記小粒物群を回収するとともに、前記第1篩の篩上から前記リン酸鉄リチウムを含む中粒物群を有価物として回収することをさらに含む、
請求項5または6に記載の有価物の回収方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウムイオン二次電池からの有価物の回収方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電気自動車やハイブリッド車等の普及にともない、車載用のリチウムイオン二次電池の需要が増えている。また、車載用に限らず、ノート型パソコン等の携帯端末用の電源としてもリチウムイオン二次電池の普及が進んでいる。これにともない、環境負荷の低減等の観点から、廃棄されるリチウムイオン二次電池から有価物を回収してリサイクルすることが望まれるようになってきた。例えば特許文献1には、リチウムイオン二次電池の焙焼物から有価物としてリチウムを回収する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2019-160429号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
リチウムイオン二次電池には、負極活物質としてグラファイトを含有するものがある。グラファイトを新たに製造する際は、原料を3000℃以上で加熱する黒鉛化処理が必要であり、大量のエネルギー消費を伴う。したがって、環境負荷低減等の観点から、グラファイトも回収してリサイクルすることが望まれる。
【0005】
本発明はこうした状況に鑑みてなされたものであり、その目的の1つは、リチウムイオン二次電池から有価物としてグラファイトを回収する新規な技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明のある態様は、電解液および電極体を含む内容物と、内容物を収容する金属製のケースと、を備えるリチウムイオン二次電池からの有価物の回収方法である。電極体は、正極板と、樹脂製のセパレータと、負極板と、を有し、正極板は、所定の正極活物質と、金属製の第1集電体と、を有し、負極板は、グラファイトを含む負極活物質と、金属製の第2集電体と、を有する。この回収方法は、大気における酸素濃度よりも低い酸素濃度の雰囲気下、電解液の熱分解温度以上、且つケースの溶融温度未満の温度で、リチウムイオン二次電池をケースごと加熱して熱処理物を生成し、熱処理物からケースに由来する第1熱処理物と、内容物に由来する第2熱処理物とを選別し、第2熱処理物を破砕して破砕物を生成し、少なくとも第1篩を用いて破砕物の篩別処理を実施し、第1篩の篩下からグラファイトを含む小粒物群を有価物として回収することを含む。
【0007】
以上の構成要素の任意の組合せ、本開示の表現を方法、装置、システムなどの間で変換したものもまた、本開示の態様として有効である。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、リチウムイオン二次電池から有価物としてグラファイトを回収する新規な技術を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】リチウムイオン二次電池の模式図である。
図2】実施の形態に係る有価物の回収方法のフロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明を好適な実施の形態をもとに図面を参照しながら説明する。実施の形態は、本発明の技術的範囲を限定するものではなく例示であって、実施の形態に記述されるすべての特徴やその組み合わせは、必ずしも発明の本質的なものであるとは限らない。したがって、実施の形態の内容は、請求の範囲に規定された発明の思想を逸脱しない範囲において、構成要素の変更、追加、削除等の多くの設計変更が可能である。設計変更が加えられた新たな実施の形態は、組み合わされる実施の形態および変形それぞれの効果をあわせもつ。実施の形態では、このような設計変更が可能な内容に関して、「本実施の形態の」、「本実施の形態では」等の表記を付して強調しているが、そのような表記のない内容でも設計変更が許容される。実施の形態に記述される構成要素の任意の組み合わせも、本発明の態様として有効である。各図面に示される同一又は同等の構成要素、部材、処理には、同一の符号を付するものとし、適宜重複した説明は省略する。また、各図に示す各部の縮尺や形状は、説明を容易にするために便宜的に設定されており、特に言及がない限り限定的に解釈されるものではない。また、本明細書または請求項中に「第1」、「第2」等の用語が用いられる場合には、この用語はいかなる順序や重要度を表すものでもなく、ある構成と他の構成とを区別するためのものである。また、各図面において実施の形態を説明する上で重要ではない部材の一部は省略して表示する。
【0011】
本実施の形態は、リチウムイオン二次電池からの有価物の回収方法に係る。処理対象となるリチウムイオン二次電池は特に制限されず、製造過程で発生した不良品、寿命等で廃棄された使用済み品等を適宜採用することができる。リチウムイオン二次電池は、公知の構造を有する。図1は、リチウムイオン二次電池の模式図である。
【0012】
一例としてのリチウムイオン二次電池1は、電解液および電極体2を含む内容物4と、内容物4を収容する金属製のケース6と、を備える。リチウムイオン二次電池1の形態は特に制限されず、例えば1つまたは複数の電極体2が1つのケース6に収容された電池モジュールの形態をとる。また、リチウムイオン二次電池1の形状は特に制限されず、ラミネート型、円筒型、角型等が例示される。ケース6を構成する金属としては、アルミニウム、鉄、ステンレススチール等が例示される。好ましくは、ケース6はアルミニウムで構成される。電解液は、電解質および有機溶剤等を含有する。一例としての電解液は、六フッ化リン酸リチウム(LiPF)を通常1M程度含む非水溶剤および/またはカーボネート溶剤等である。
【0013】
電極体2は、正極板8と、樹脂製のセパレータ10と、負極板12と、を有する。正極板8および負極板12は、セパレータ10を挟んで積層されている。セパレータ10を構成する樹脂としては、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィンが例示される。正極板8および負極板12の形状は特に制限されず、シート状等が例示される。また、電極体2は、正極板8および負極板12のシートが複数枚積層された構造であってもよいし、正極板8および負極板12の帯が巻回された構造であってもよい。
【0014】
正極板8は、所定の正極活物質14と、金属製の第1集電体16と、を有する。正極活物質14は、第1集電体16の表面に塗布されて活物質層を形成している。正極活物質14としては、マンガン酸リチウム(LiMn)、コバルト酸リチウム(LiCoO)、ニッケル・コバルト・マンガン酸リチウム(NCM:LiNiCoMn(x+y+z=1))、ニッケル・コバルト・アルミニウム酸リチウム(NCA:LiNiCoAl(x+y+z=1))、リン酸鉄リチウム(LiFePO)、コバルトニッケル酸リチウム(LiCo1/2Ni1/2)、チタン酸リチウム(LiTiO)等が例示される。好ましくは、正極活物質14はリン酸鉄リチウムを含む。正極活物質14は、必要に応じて導電剤や結着樹脂と混合され得る。第1集電体16を構成する金属としては、ステンレススチール、ニッケル、アルミニウム、銅、チタン、タンタル等が例示される。好ましくは、第1集電体16はアルミニウムで構成される。
【0015】
負極板12は、グラファイト(黒鉛)を含む負極活物質18と、金属製の第2集電体20と、を有する。負極活物質18は、第2集電体20の表面に塗布されて活物質層を形成している。第2集電体20を構成する金属としては、ステンレススチール、ニッケル、アルミニウム、銅、チタン、タンタル等が例示される。好ましくは、第2集電体20は銅で構成される。
【0016】
図2は、実施の形態に係る有価物の回収方法のフロー図である。本実施の形態の回収方法は、熱処理工程S101と、選別工程S102と、破砕工程S103と、篩別工程S104と、浮選工程S105とを含む。なお、浮選工程S105は省略されてもよい。また、必要に応じて他の工程が含まれてもよい。
【0017】
(熱処理工程)
熱処理工程S101では、低酸素濃度の雰囲気下、所定の温度範囲でリチウムイオン二次電池1が加熱される。一例としての熱処理工程S101では、低酸素濃度の雰囲気下、所定の温度範囲でリチウムイオン二次電池1が焙焼される。これにより、熱処理物が生成される。リチウムイオン二次電池1を熱分解することで、毒性を有する電解液等が無害化される。リチウムイオン二次電池1は、ケース6ごと加熱される。したがって、熱処理工程S101に先立ってリチウムイオン二次電池1を解体する必要がない。よって、有価物回収の作業性を高めることができる。また、作業者が毒性のある電解液に接触する可能性を減らすことができるため、有価物回収の安全性を高めることができる。
【0018】
本実施の形態における低酸素濃度は、大気における酸素濃度(約21体積%)よりも低い酸素濃度である。低酸素濃度雰囲気は、例えば炉内への酸素供給を規制可能な公知の熱分解炉、あるいは炉内へ不活性ガスを供給可能な公知の熱分解炉を用いることで実現することができる。不活性ガスとしては、窒素、アルゴン等が例示される。また、低酸素濃度雰囲気は、リチウムイオン二次電池1を酸素遮蔽容器に収容することでも実現できる。低酸素濃度雰囲気とすることで、回収対象物であるグラファイトが酸化して二酸化炭素に変化することを抑制することができる。これにより、グラファイトの回収率が低下することを抑制することができる。
【0019】
リチウムイオン二次電池1の加熱温度は、電解液の熱分解温度以上、且つケース6の溶融温度未満の温度である。一例として、電解液が六フッ化リン酸リチウムを含む非水溶剤で構成される場合、加熱温度は好ましくは160℃以上である。リチウムイオン二次電池1を電解液の熱分解温度以上に加熱することで、電解液をより無害化しやすくすることができる。
【0020】
好ましくは、リチウムイオン二次電池1の加熱温度は、セパレータ10の熱分解温度以上の温度である。セパレータ10の熱分解温度は、セパレータ10が熱分解して気体になる温度である。一般にセパレータ10の熱分解温度は、電解液の熱分解温度より高い。一例として、セパレータ10がポリエチレンまたはポリプロピレンで構成される場合、加熱温度は好ましくは400℃以上、より好ましくは550℃以上である。リチウムイオン二次電池1をセパレータ10の熱分解温度以上に加熱することで、熱処理物に混入する樹脂の量を減らすことができる。これにより、グラファイトを含む小粒物群への樹脂の混入を抑制することができ、よって小粒物群におけるグラファイトの品位を向上させることができる。
【0021】
ケース6の溶融温度は、ケース6を構成する金属の融点である。一例としてケース6がアルミニウムで構成される場合、加熱温度は好ましくは660℃未満、より好ましくは600℃以下である。リチウムイオン二次電池1をケース6の溶融温度未満に加熱することで、熱処理後においてもケース6の形状を維持しやすくすることができる。これにより、続く選別工程S102においてケース6に由来する第1熱処理物と内容物4に由来する第2熱処理物とが選別しやすくなり、よって有価物回収の作業性を高めることができる。
【0022】
加熱時間は特に制限されず、有価物の回収率や品位等が所望の程度となるように、また有価物の回収にかかるコストや時間等を考慮して、作業者が適宜設定することができる。加熱時間は、例えば1時間~5時間である。
【0023】
(選別工程)
選別工程S102では、熱処理物からケース6に由来する第1熱処理物と、内容物4に由来する第2熱処理物とが選別される。熱処理後もケース6の形状が維持されているため、第1熱処理物と第2熱処理物とを容易に選別することができる。また、熱処理工程S101で電解液が無害化されているため、第1熱処理物と第2熱処理物とを安全に選別することができる。第1熱処理物と第2熱処理物とを選別することで、続く破砕工程S103における第2熱処理物の破砕が容易になる。これにより、グラファイトの回収率および品位を高めることができる。
【0024】
(破砕工程)
破砕工程S103では、第2熱処理物が破砕される。これにより、破砕物が生成される。第2熱処理物の破砕処理には、一軸破砕機、二軸破砕機、湿式破砕機、ハンマー式破砕機、チェーン式破砕機、ボールミル等の公知の破砕機を用いることができる。
【0025】
(篩別工程)
篩別工程S104では、少なくとも所定目開きの第1篩を用いて破砕物の篩別処理が実施される。好ましくは、第1篩は、目開きが0.063mm(1/16mm)以下である。そして、第1篩の篩下からグラファイトを含む小粒物群(第1粒物群)が有価物として回収される。これにより、高品位且つ高回収率でグラファイトを回収することができる。第1篩を用いた篩別には、破砕工程S103で得られた破砕物を直に第1篩で篩別する場合と、第1篩とは目開きの異なる篩を用いて篩別された処理物を第1篩で篩別する場合とが含まれる。例えば、第1篩を用いた篩別には、第1篩より目開きの大きい篩を用いた篩別処理によって得られる篩下物を第1篩で篩別する場合が含まれる。なお、小粒物群には、第1篩より目開きが小さい篩の篩上物および篩下物の少なくとも一方が含まれてもよい。
【0026】
また、本実施の形態の篩別工程S104では、第1篩よりも目開きが大きい第2篩も用いて篩別処理が実施される。好ましくは、第2篩は、目開きが1.0mmである。そして、第2篩の篩上から第1集電体16に由来する金属および第2集電体20に由来する金属を含む大粒物群(第2粒物群)が有価物として回収される。これにより、高品位且つ高回収率で各集電体由来の有価金属を回収することができる。第2篩を用いた篩別には、破砕工程S103で得られた破砕物を直に第2篩で篩別する場合と、第2篩とは目開きの異なる篩を用いて篩別された処理物を第2篩で篩別する場合とが含まれる。例えば、第2篩を用いた篩別には、第2篩より目開きの大きい篩を用いた篩別処理によって得られる篩下物を第2篩で篩別する場合が含まれる。なお、大粒物群には、第2篩より目開きが大きい篩の篩上物が含まれてもよい。
【0027】
さらに、本実施の形態の篩別工程S104では、正極活物質がリン酸鉄リチウムを含む場合に、第1篩の篩上からリン酸鉄リチウムを含む中粒物群(第3粒物群)が有価物として回収される。具体的には、まず第2篩を用いた篩別により、第2篩の篩上から大粒物群が回収されるとともに、第2篩の篩下から篩下物が回収される。そして、第1篩を用いた当該篩下物の篩別により、第1篩の篩下から小粒物群が回収されるとともに、第1篩の篩上からリン酸鉄リチウムを含む中粒物群が有価物として回収される。なお、中粒物群には、第2篩より目開きが小さく第1篩より目開きが大きい篩の篩上物が含まれてもよい。
【0028】
つまり、第1篩の目開きが0.063mm、第2篩の目開きが1.0mmである場合、1.0mm超、1.0mm以下0.063mm以上、0.063mm未満の各分級点での少なくとも3段の篩分けがなされ、1段目で各集電体由来の金属が濃縮された大粒物群が分離され、2段目でリン酸鉄リチウムが濃縮された中粒物群が分離され、3段目でグラファイトが濃縮された小粒物群が分離される。これにより、グラファイトおよび各集電体由来の金属に加えて、リン酸鉄リチウムも高品位且つ高回収率で回収することができる。
【0029】
篩別処理には、公知の篩振とう機とJIS Z8801に準拠した標準篩との組み合わせ等を用いることができる。篩別処理は、複数回繰り返されてもよい。これにより、各有価物の品位および回収率をより高めることができる。
【0030】
(浮選工程)
浮選工程S105では、小粒物群に浮選処理が施される。これにより小粒物群から、グラファイトを含む粒子が有価物として回収される。浮選処理には、公知の浮選機を用いることができる。そして、浮選機により、小粒物群の懸濁液に気体が送り込まれながら懸濁液が攪拌される。これにより、小粒物群が浮上物(フロス、泡沫ともいう)と、沈殿物(テールともいう)とに分離される。浮上物および沈殿物には、それぞれ粒子が含まれる。浮上物には、グラファイトが含まれる。沈殿物には、リン酸鉄リチウムが含まれる。したがって、浮上物を回収することで、より高品位のグラファイトを得ることができる。また、沈殿物を回収することでリン酸鉄リチウムの回収率を高めることができる。
【0031】
以上説明したように、本実施の形態に係る有価物の回収方法は、大気における酸素濃度よりも低い酸素濃度の雰囲気下、電解液の熱分解温度以上、且つケース6の溶融温度未満の温度で、リチウムイオン二次電池1をケース6ごと加熱して熱処理物を生成し、熱処理物からケース6に由来する第1熱処理物と、内容物4に由来する第2熱処理物とを選別し、第2熱処理物を破砕して破砕物を生成し、少なくとも第1篩を用いて破砕物の篩別処理を実施し、第1篩の篩下からグラファイトを含む小粒物群を有価物として回収することを含む。これにより、リチウムイオン二次電池1から高品位のグラファイトを高回収率で回収することができる。
【0032】
好ましくは、熱処理物の生成におけるリチウムイオン二次電池1の加熱温度はセパレータ10の熱分解温度以上の温度である。これにより、小粒物群におけるグラファイトの品位を向上させることができる。また、第1篩は、目開きが0.063mm以下である。これにより、小粒物群におけるグラファイトの品位および回収率の向上を図ることができる。
【0033】
また、本実施の形態の回収方法は、浮選により小粒物群をグラファイトを含む浮上物と、沈殿物とに分離し、浮上物を有価物として回収することをさらに含む。これにより、グラファイトをより濃縮させることができ、よって、回収されるグラファイトの品位をより向上させることができる。
【0034】
また、本実施の形態の回収方法は、第1篩よりも目開きが大きい第2篩も用いて篩別処理を実施し、第2篩の篩上から第1集電体16由来の金属および第2集電体20由来の金属を含む大粒物群を有価物として回収することをさらに含む。これにより、グラファイトだけでなく各集電体由来の金属も高品位且つ高回収率で回収することができる。好ましくは、第2篩は目開きが1.0mmである。これにより、各集電体由来の金属の品位および回収率の向上を図ることができる。
【0035】
また、本実施の形態の回収方法は、第2篩を用いた篩別により、第2篩の篩上から大粒物群を回収するとともに、第2篩の篩下から篩下物を回収し、第1篩を用いた篩下物の篩別により、第1篩の篩下から小粒物群を回収するとともに、第1篩の篩上からリン酸鉄リチウムを含む中粒物群を有価物として回収することをさらに含む。これにより、グラファイトおよび各集電体由来の金属に加えて、リン酸鉄リチウムも高品位且つ高回収率で回収することができる。
【0036】
実施の形態は、以下に記載する項目によって特定されてもよい。
[第1項目]
電解液および電極体(2)を含む内容物(4)と、内容物(4)を収容する金属製のケース(6)と、を備えるリチウムイオン二次電池(1)からの有価物の回収方法であって、
電極体(2)は、正極板(8)と、樹脂製のセパレータ(10)と、負極板(12)と、を有し、
正極板(8)は、所定の正極活物質(14)と、金属製の第1集電体(16)と、を有し、
負極板(12)は、グラファイトを含む負極活物質(18)と、金属製の第2集電体(20)と、を有し、
回収方法は、
大気における酸素濃度よりも低い酸素濃度の雰囲気下、電解液の熱分解温度以上、且つケース(6)の溶融温度未満の温度で、リチウムイオン二次電池(1)をケース(6)ごと加熱して熱処理物を生成し(S101)、
熱処理物からケース(6)に由来する第1熱処理物と、内容物(4)に由来する第2熱処理物とを選別し(S102)、
第2熱処理物を破砕して破砕物を生成し(S103)、
少なくとも第1篩を用いて破砕物の篩別処理を実施し(S104)、第1篩の篩下からグラファイトを含む小粒物群を有価物として回収することを含む、
有価物の回収方法。
[第2項目]
熱処理物の生成(S101)におけるリチウムイオン二次電池(1)の加熱温度は、セパレータ(10)の熱分解温度以上の温度である、
第1項目に記載の有価物の回収方法。
[第3項目]
第1篩は、目開きが0.063mm以下である、
第1項目または第2項目に記載の有価物の回収方法。
[第4項目]
浮選(S105)により小粒物群をグラファイトを含む浮上物と、沈殿物とに分離し、浮上物を有価物として回収することをさらに含む、
第1項目乃至第3項目のいずれかに記載の有価物の回収方法。
[第5項目]
第1篩よりも目開きが大きい第2篩も用いて篩別処理を実施し(S104)、第2篩の篩上から第1集電体(16)に由来する金属および第2集電体(20)に由来する金属を含む大粒物群を有価物として回収することをさらに含む、
第1項目乃至第4項目のいずれかに記載の有価物の回収方法。
[第6項目]
第2篩は、目開きが1.0mmである、
第5項目に記載の有価物の回収方法。
[第7項目]
正極活物質(14)は、リン酸鉄リチウムを含み、
回収方法は、
第2篩を用いた篩別(S104)により、第2篩の篩上から大粒物群を回収するとともに、第2篩の篩下から篩下物を回収し、
第1篩を用いた篩下物の篩別(S104)により、第1篩の篩下から小粒物群を回収するとともに、第1篩の篩上からリン酸鉄リチウムを含む中粒物群を有価物として回収することをさらに含む、
第5項目または第6項目に記載の有価物の回収方法。
【実施例0037】
以下、本発明の実施例を説明するが、実施例は本発明を好適に説明するための例示に過ぎず、なんら本発明を限定するものではない。
【0038】
使用済みの車載用バッテリーパックを収集した。このバッテリーパックは、複数個のリチウムイオン二次電池が筐体に収容された構造を有する。リチウムイオン二次電池は、矩形状のアルミニウム製ケースと、正極活物質としてのリン酸鉄リチウムを正極集電体としてのアルミニウム箔に塗布した正極板と、ポリエチレンまたはポリプロピレンからなるセパレータと、負極活物質としてのグラファイトを負極集電体としての銅箔に塗布した負極板とを有する。リチウムイオン二次電池は、重量が約6.3kg、寸法が縦146mm、横387mm、高さ5.7mmであった。
【0039】
バッテリーパックに電気負荷装置(型式RZ-100-10B、山菱電機社製)を接続し、放電処理を施した。なお、放電処理は、塩水浸漬等の他の公知の方法が採用されてもよい。放電処理の後、バッテリーパックを解体してリチウムイオン二次電池を取得した。
【0040】
このリチウムイオン二次電池を熱分解炉(小型炭化炉、型式CYT-1700、カーボンファイバーリサイクル工業社製)の炭化ボックスに投入した。そして、リチウムイオン二次電池を550℃以上600℃以下の温度範囲で1.5時間加熱し、熱処理物を得た。得られた熱処理物を手作業でケース由来の第1熱処理物と内容物由来の第2熱処理物とに選別した。
【0041】
続いて、プッシャー式一軸破砕機(ドラゴンシュレッダーDS4080、商研社製)を用いて第2熱処理物を破砕した。破砕条件は、刃の回転数を80rpmとし、排出口に設けられるスクリーンのサイズをφ40mmとした。得られた破砕物に対し、篩振とう機(型番1038-A、吉田製作所社製)と網篩(試験用ふるいJIS Z8801、東京スクリーン社製)とを用いて篩別処理を施した。
【0042】
具体的には、まず上から順に目開き16.0mm、8.0mm、4.0mm、2.0mmの篩を篩振とう機にセットした。そして、破砕物を目開き16.0mmの篩に載せ、20分間振とうして篩い分けした。続いて、上から順に目開き1.0mm、0.5mm(1/2mm)、0.25mm(1/4mm)、0.13mm(1/8mm)、0.063mmの篩を篩振とう機にセットした。そして、目開き2.0mmの篩の篩下物を目開き1.0mmの篩に載せ、20分間振とうして篩い分けした。
【0043】
篩別処理を実施した後、目開き1.0mm~16.0mmの篩の篩上物を大粒物群として回収した。また、目開き0.063mm~0.5mmの篩の篩上物を中粒物群として回収した。また、目開き0.063mmの篩の篩下物を小粒物群として回収した。各粒物群について、XRF装置(ZSX Primus(WDX)、リガク社製)を用いて、蛍光X線分析により成分を分析した。測定条件は、Rh管球とし、測定雰囲気を真空とし、測定面をφ10mmとし、測定範囲(測定対象元素)をB~Uとした。この分析結果から、第2熱処理物におけるアルミニウム、銅、リン酸鉄リチウムおよびグラファイトの各分配率を100%としたときの各粒物群における各成分の分配率と、各成分の品位とを算出した。なお、グラファイトに関する値は、各粒物群に含まれる炭素(カーボン)の原子量割合に基づいて算出した。リン酸鉄リチウムに関する値は、各粒物群に含まれる鉄の原子量割合に基づいて算出した。
【0044】
大粒物群において、アルミニウムの分配率は86.8%、銅の分配率は98.1%、リン酸鉄リチウムの分配率は4.69%、グラファイトの分配率は8.94%であった。また、大粒物群において、アルミニウムの品位は41.3%、銅の品位は40.0%、リン酸鉄リチウムの品位は8.48%、グラファイトの品位は7.32%であった。この結果から、大粒物群にはアルミニウムおよび銅が濃縮されたことが確認された。よって、大粒物群を回収することで、集電体由来の金属を高品位且つ高回収率で回収できることが確認された。
【0045】
中粒物群において、アルミニウムの分配率は10.8%、銅の分配率は1.55%、リン酸鉄リチウムの分配率は84.4%、グラファイトの分配率は22.9%であった。また、中粒物群において、アルミニウムの品位は2.81%、銅の品位は0.35%、リン酸鉄リチウムの品位は83.6%、グラファイトの品位は10.3%であった。この結果から、中粒物群にはリン酸鉄リチウムが濃縮されたことが確認された。よって、中粒物群を回収することで、リン酸鉄リチウムを高品位且つ高回収率で回収できることが確認された。
【0046】
小粒物群において、アルミニウムの分配率は2.4%、銅の分配率は0.35%、リン酸鉄リチウムの分配率は10.91%、グラファイトの分配率は68.16%であった。また、小粒物群において、アルミニウムの品位は1.47%、銅の品位は0.16%、リン酸鉄リチウムの品位は25.6%、グラファイトの品位は72.7%であった。この結果から、小粒物群にはグラファイトが濃縮されたことが確認された。よって、小粒物群を回収することで、グラファイトを高品位且つ高回収率で回収できることが確認された。
【0047】
また、小粒物群と、補収剤としてのケロシンと、起泡剤としてのメチルイソブチルカルビノール(MIBC)とを純水に添加し、送気量を0.3~2.0L/分、pHを自然pH(pH9.05)として、10分間の浮選処理を実施した。浮選処理の後、浮上物および沈殿物をそれぞれ回収した。回収した浮上物は、乾燥機で乾燥させた後にメノウ乳鉢で粉砕した。また、回収した沈殿物から吸引濾過により固体成分を抽出した。そして、固体成分を乾燥機で乾燥させた後にメノウ乳鉢で粉砕した。
【0048】
各粉砕物について、XRD装置(RINT-ULTIMAiii、リガク社製)を用いて、X線回折により成分を分析した。測定条件は、X線源をCuKα線(Niフィルター使用)とし、出力を40kV,40mAとし、検出器としてDtex/ultraを用い、スキャン方法を2θ/θ連続スキャンとし、測定範囲を10°~90°とし、計測時間を10deg/minとした。この分析結果から、各粒物群の場合と同様に、アルミニウム、銅、リン酸鉄リチウムおよびグラファイトの分配率と品位とを算出した。
【0049】
浮上物において、アルミニウムの分配率は0.71%、銅の分配率は0.23%、リン酸鉄リチウムの分配率は5.62%、グラファイトの分配率は66.7%であった。また、浮上物において、アルミニウムの品位は0.57%、銅の品位は0.15%、リン酸鉄リチウムの品位は8.82%、グラファイトの品位は78.3%であった。よって、浮上物を回収することで、より高品位のグラファイトを回収できることが確認された。
【0050】
沈殿物において、アルミニウムの分配率は1.67%、銅の分配率は0.07%、リン酸鉄リチウムの分配率は5.25%、グラファイトの分配率は1.49%であった。また、沈殿物において、アルミニウムの品位は9.94%、銅の品位は0.31%、リン酸鉄リチウムの品位は61.7%、グラファイトの品位は12.8%であった。よって、沈殿物を回収することで、リン酸鉄リチウムの回収率を高められることが確認された。
【0051】
なお、上述した各粒物群におけるグラファイトの分配率および品位には、セパレータ等の炭素含有物質に由来する炭素分も含まれている可能性がある。しかしながら、当該炭素分を除いたとしても、小粒物群におけるグラファイトの分配率および品位は、依然として中粒物群および大粒物群における分配率および品位よりも高い。したがって、小粒物群の回収により、高品位且つ高回収率でのグラファイトの回収が可能である。浮上物におけるグラファイトの分配率および品位についても同様である。
【符号の説明】
【0052】
1 リチウムイオン二次電池、 2 電極体、 4 内容物、 6 ケース、 8 正極板、 10 セパレータ、 12 負極板、 14 正極活物質、 16 第1集電体、 18 負極活物質、 20 第2集電体、 S101 熱処理工程、 S102 選別工程、 S103 破砕工程、 S104 篩別工程、 S105 浮選工程。
図1
図2