(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023104781
(43)【公開日】2023-07-28
(54)【発明の名称】ガスセンサ
(51)【国際特許分類】
G01N 27/12 20060101AFI20230721BHJP
【FI】
G01N27/12 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022005978
(22)【出願日】2022-01-18
(71)【出願人】
【識別番号】504237050
【氏名又は名称】独立行政法人国立高等専門学校機構
(71)【出願人】
【識別番号】000105350
【氏名又は名称】KOA株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002468
【氏名又は名称】弁理士法人後藤特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】松嶋 茂憲
(72)【発明者】
【氏名】小畑 賢次
(72)【発明者】
【氏名】大田 由希子
(72)【発明者】
【氏名】井口 憲一
【テーマコード(参考)】
2G046
【Fターム(参考)】
2G046AA11
2G046AA12
2G046AA13
2G046BA09
2G046BB02
2G046BC03
2G046BE03
2G046FB02
2G046FC08
2G046FE02
2G046FE03
2G046FE07
2G046FE39
2G046FE49
(57)【要約】
【課題】ガスセンサの感度を向上すること。
【解決手段】本発明の一態様としてのガスセンサは、基材と、基材に配置された第1電極及び第2電極と、第1電極と第2電極とに接続されたガス検出部と、を備え、ガス検出部は、カルシウムフェライト及びジルコニウムを必須とし、アルミニウム、銀及びスズのうち少なくとも1種の金属元素を含む半導体酸化物から構成されている。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材と、
前記基材に配置された第1電極及び第2電極と、
前記第1電極と前記第2電極とに接続されたガス検出部と、を備え、
前記ガス検出部は、
カルシウムフェライト及びジルコニウムを必須とし、アルミニウム、銀及びスズのうち少なくとも1種の金属元素を含む半導体酸化物から構成された、
ガスセンサ。
【請求項2】
請求項1に記載のガスセンサであって、
前記半導体酸化物に含まれる鉄に対するモル分率で前記ジルコニウムの含有量が10モル%以下である、
ガスセンサ。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のガスセンサであって、
前記半導体酸化物に含まれる鉄に対するモル分率で前記ジルコニウムの含有量が3モル%以上7モル%以下である、
ガスセンサ。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか1項に記載のガスセンサであって、
前記半導体酸化物の全量に対する前記アルミニウム、前記銀及び前記スズのうち少なくとも1つの前記金属元素の含有量が1モル%である、
ガスセンサ。
【請求項5】
請求項1から4のいずれか1項に記載のガスセンサであって、
酸素濃度に対する前記半導体酸化物の抵抗値の両対数プロットの傾きが-0.7以上-0.3以下である、
ガスセンサ。
【請求項6】
請求項1から4のいずれか1項に記載のガスセンサであって、
前記半導体酸化物の窒素ガス中における抵抗値と酸素ガス中における抵抗値との比が、0.1以上0.2以下である、
ガスセンサ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガスセンサに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、オフィス内又は家庭内等の住環境、または、農業・バイオ関連分野等において、一酸化炭素、二酸化炭素又はNOx等の特定ガスを監視する需要が高まっている。これに伴い、これらの特定ガスを検出するガスセンサが提案されている(特許文献1参照)。
【0003】
特許文献1に記載されたようなガスセンサでは、ガスを検出するガス検出部として、酸化スズの微粒子を主成分とする半導体が用いられることが多い。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
酸化スズが単独で用いられたガスセンサでは、ガス検出感度が頭打ちになる。このため、例えば、CO2ガスを検出する場合には、CO2ガスとの反応性が高いとされるランタン(La)の酸化物(La2O3)によって酸化スズ微粒子の表面を被覆する等の処理を行うことで、所望の被検ガスに対する検出感度を高める試みが行われていた。
【0006】
しかしながら、要求される様々な使用環境(測定温度環境)に応じて良好な検知感度を備えたガスセンサを得ることは困難であり、依然として改良の余地があった。
【0007】
本発明は、半導体酸化物を用いたガスセンサにおいて、要求される様々な測定温度環境に応じて、それぞれ良好な検知感度を備えたガスセンサを得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、鋭意研究を重ねた結果、半導体酸化物の表面への被検ガスの吸着特性と、半導体酸化物の表面に形成された空間電荷層とが、被検ガスの検知性能に寄与することに着目し、本発明を完成するに至った。
【0009】
本発明のある態様によれば、基材と、前記基材に配置された第1電極及び第2電極と、前記第1電極と前記第2電極とに接続されたガス検出部と、を備え、前記ガス検出部は、カルシウムフェライト及びジルコニウムを必須とし、アルミニウム、銀及びスズのうち少なくとも1種の金属元素を含む半導体酸化物から構成されたガスセンサが提供される。
【発明の効果】
【0010】
上記態様によれば、カルシウムフェライト及びジルコニウムを必須とし、アルミニウム、銀及びスズのうち少なくとも1種の金属元素を共添加することにより、要求される様々な測定温度環境に応じて、それぞれ良好な検知感度を備えたガスセンサを得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】
図1は、本発明の実施形態に係るガスセンサを説明する平面図である。
【
図2】
図2は、従来の酸化スズ半導体におけるCO
2ガスの検知メカニズムを説明する模式図である。
【
図3】
図3は、空気中において、従来の酸化スズ半導体に形成される空間電荷層を説明する模式図である。
【
図4】
図4は、被検ガスとしてのCO
2ガス中において、従来の酸化スズ半導体に形成される空間電荷層を説明する模式図である。
【
図5】
図5は、空気中において、本実施形態に係るガスセンサのガス検出部に形成される空間電荷層を説明する模式図である。
【
図6】
図6は、被検ガスとしてのCO
2ガス中において、本実施形態に係るガスセンサのガス検出部に形成される空間電荷層を説明する模式図である。
【
図7】
図7は、半導体表面におけるCO
2ガスの検出メカニズムを説明する模式図である。
【
図8】
図8は、半導体表面において、O
2ガスがO
-として負電荷吸着する場合の検出メカニズムを説明する模式図である。
【
図9】
図9は、半導体表面において、O
2ガスがO
2-として負電荷吸着する場合の検出メカニズムを説明する模式図である。
【
図10】
図10は、酸化物層が導入されたCaFe
2O
4に、酸素がO
-の状態で負電荷吸着した様子を説明する模式図である。
【
図11】
図11は、本実施形態に係る半導体酸化物の製造方法を説明する図である。
【
図12】
図12は、ガスセンサの評価を行うための評価試験装置を説明する模式図である。
【
図13】
図13は、ガスセンサの検出性能を評価するための回路構成を説明するための回路図である。
【
図14】
図14は、測定温度に対するCO
2ガスの検出感度の関係を示す図である。
【
図15】
図15は、供試体1の半導体酸化物(CaFe
2O
4)を用いたガスセンサのO
2濃度(P
O2)と抵抗値との関係を示す図である。
【
図16】
図16は、供試体2の半導体酸化物(5モル%Zr-CaFe
2O
4)を用いたガスセンサのO
2濃度(P
O2)と抵抗値との関係を示す図である。
【
図17】
図17は、供試体3の半導体酸化物(1モル%Al,5モル%Zr-CaFe
2O
4)を用いたガスセンサのO
2濃度(P
O2)と抵抗値との関係を示す図である。
【
図18】
図18は、供試体4の半導体酸化物(1モル%Ag,5モル%Zr-CaFe
2O
4)を用いたガスセンサのO
2濃度(P
O2)と抵抗値との関係を示す図である。
【
図19】
図19は、供試体5の半導体酸化物(1モル%Sn,5モル%Zr-CaFe
2O
4)を用いたガスセンサのO
2濃度(P
O2)と抵抗値との関係を示す図である。
【
図20】
図20は、各供試体のガスセンサのCO
2ガス検出感度と、抵抗値のO
2濃度依存性から導出された近似直線の傾きとの関係を示す図である。
【
図21】
図21は、各供試体のガスセンサにおける抵抗値のO
2濃度依存性から導出された近似直線の傾きと測定温度との関係を示す図である。
【
図22】
図22は、N
2ガス中にあるときのガスセンサの電気抵抗(R
N2)と、O
2ガスを含んだ雰囲気中に曝されたときのガスセンサの電気抵抗(R
O2)との抵抗比(R
O2/R
N2)と、測定温度との関係を示す図である。
【
図23】
図23は、N
2ガス中にあるときのガスセンサの電気抵抗(R
N2)と、O
2ガスを含んだ雰囲気中に曝されたときのガスセンサの電気抵抗(R
O2)との抵抗比(R
O2/R
N2)と、検出感度との関係を示す図である。
【
図24】
図24は、N
2ガス中にあるときのガスセンサの電気抵抗(R
N2)と、O
2ガスを含んだ雰囲気中に曝されたときのガスセンサの電気抵抗(R
O2)との抵抗比(R
O2/R
N2)に対する空乏層の厚みの変化を比較して表した図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
[ガスセンサ]
<ガスセンサの構成>
本発明の実施形態に係るガスセンサ10の一例について、図面を用いて詳細に説明する。
【0013】
図1は、本発明の実施形態に係るガスセンサ10のガス検出部14の一部を切り欠いた平面図である。
【0014】
図1に示すガスセンサ10は、基材11と、第1電極12と、第2電極13と、ガス検出部14とを有し、これらが平板状の基材11に形成された厚膜型センサである。
【0015】
基材11としては、絶縁性材料又は半絶縁性材料を用いることができる。絶縁性材料としては、アルミナ、二酸化ケイ素、ムライト、酸化マグネシウム或いはフォルステライト等の構造用セラミックス、又は、ガラス或いはサファイア等を用いることができる。また、半絶縁性材料としては、炭化ケイ素等を用いることができる。このほか、ガスセンサの基材として通常用いられる材料であれば、基材11として用いることができる。
【0016】
平板状の基材11を使用する場合には、基材11の厚さは、0.05mm以上1.0mm以下とすることができる。基材11としての強度の観点から、基材11の厚さは0.09mm以上であることが好ましい。また、放熱性の観点から、基材11の厚さは、1.0mm以下であることが好ましい。
【0017】
第1電極12及び第2電極13は、通常、電極として用いられる材料であれば用いることができる。導電性材料として、Cu、Al、Ag、Au、Pt、Ni、Cr又はSn等を好適に用いることができる。第1電極12及び第2電極13は、外部の電気回路等に電気的に接続するため、それぞれリード線(図示なし)等が取り付けられる。リード線は、例えばCu、Al、Ag、Au、Pt、Ni、Cr又はSn等の材料から選択することができる。
【0018】
本実施形態において、ガスセンサ10は、
図1に示すような、例えば、厚膜印刷型に形成されている。第1電極12及び第2電極13は、それぞれ櫛歯状に形成することができる。そして、第1電極12及び第2電極13は、基材11の表面において、第1電極12を構成する櫛歯12aの各々の間に、第2電極13を構成する櫛歯13aの各々が交互に入り込んで配置されている。ガスセンサ10は、厚膜印刷法に限らず、塗布や滴下等により膜状に形成されるものであってもよい。
【0019】
第1電極12及び第2電極13は、用いる金属元素に応じて、基材11の表面にスパッタリング法、イオンプレーティング法、真空蒸着法又はレーザアブレーション法を用いたパターン成膜等によって形成することができる。また、第1電極12及び第2電極13は、基材11の表面に、電極用材料を印刷により形成することもできる。また、このほか、ワイヤーボンディング等の接合方法を用いることもできる。
【0020】
第1電極12及び第2電極13の厚さは、0.05μm以上20μm以下とすることができる。検出ガスに対する検出性能の観点から、1μm以上、コストの観点から10μm以下であることが好ましい。
【0021】
第1電極12の櫛歯12aと第2電極13の櫛歯13aとの電極間距離は、80μm以上200μm以下である。また、第1電極12の櫛歯12a及び第2電極13の櫛歯13aの電極ライン幅L0と、第1電極12の櫛歯12a及び第2電極13の櫛歯13aの間隔Sとの比率(S/L0)は、0.27以上4.00以下とすることができる。センサ特性の観点から、0.80以上2.00以下であることが好ましい。
【0022】
ガス検出部14は、第1電極12と第2電極13とを電気的に接続するように、第1電極12の櫛歯12aと第2電極13の櫛歯13aに重ねて配置されている。ガス検出部14は、検出対象のガス分子を電気的に吸着可能な材料から構成されており、ガス分子の存在を、ガス分子の吸着に伴う抵抗値の変化を利用して検出するものである。
【0023】
本実施形態においては、ガス検出部14を構成する半導体酸化物の粉体を、バインダを用いてペースト状にし、スクリーン印刷法等を用いて基材11上に形成する。なお、ペーストには、ガラス等の絶縁性材料が混合されていてもよい。
【0024】
図1に示すガスセンサ10では、ガス検出部14は、第1電極12及び第2電極13の櫛歯間を覆うようにして、所定の長さL1及び幅W1の領域に塗布形成することができる。
【0025】
厚膜型のガスセンサ10において、ガス検出部14の厚さは、0.05μm以上10μm以下とすることができる。
【0026】
ガス検出部14は、
図1に示すように、第1電極12及び第2電極13に跨がって所定領域に塗布されていてもよいし、第1電極12と第2電極13との間にのみ塗布されていてもよい。なお、
図1には図示されていないが、基材11の表面に保護層が配置され、その保護層の表面に、第1電極12及び第2電極13が配置されていてもよい。
【0027】
ガスセンサ10の全体の寸法、長さL2及び幅W2は、ガスセンサ10の使用環境に応じたサイズに適宜設定することができる。
【0028】
なお、
図1には示されていないが、ガスセンサ10は、ガスセンサ10を検出対象のガスの検出温度まで加熱するヒータとともに用いられる。このヒータは、ガスセンサ10の基材11に一体的に形成されてもよい。
【0029】
<ガス検出部の説明>
本実施形態において、ガス検出部14は、酸素(O2)をO-状態で負電荷吸着させる酸化物層を形成することのできる半導体酸化物から構成されている。
【0030】
ガス検出部14は、カルシウムフェライト(CaFe2O4)粒子及びジルコニウム(Zr)を必須とし、アルミニウム(Al)、銀(Ag)及びスズ(Sn)のうち少なくとも1種の金属元素を含む半導体酸化物から構成されている。これにより、半導体酸化物の表面に、酸素の負電荷吸着を促進し、かつ、酸素をO-の状態で吸着させることが可能な酸化物層(Ag2O、Al2O3又はSnO2)を形成することができる。
【0031】
Zrの含有量は、CaFe2O4に含まれる鉄(Fe)に対するモル分率で、0モル%超10モル%以下である。
【0032】
Zrは、0モル%超近傍の少量であっても、CaFe2O4における三次元多孔質構造の形成に寄与することができる。Zrの含有量が増加するにつれて、三次元多孔質構造における微細孔の状態を良好にすることができるが、Zrの含有量が10モル%を超えると、ZrとCaFe2O4による三次元多孔質構造において、微細孔が形成されにくくなり、被検ガスの吸着性能が低下するため、被検ガスの検出性能が低下する。
【0033】
以上のように、CaFe2O4に良好な三次元多孔質構造を形成し、かつ、被検ガスの検出性能を高める観点から、Zrの含有量は、CaFe2O4のFeに対するモル分率で、3モル%以上7モル%以下であることが好ましい。
【0034】
また、Al、Ag及びSnのうち少なくとも1つの金属元素の含有量は、CaFe2O4の全量に対し、単独又はこれらの合計が0モル%超10モル%以下であることが好ましい。
【0035】
Al、Ag及びSnのうち少なくとも1つの金属元素の含有量が10モル%を超えると、ZrとCaFe2O4による三次元多孔質構造の形成が妨げられ、半導体酸化物粒子の表面積が小さくなるため、被検ガスの検出性能が低下する。
【0036】
本実施形態において、半導体酸化物は、好ましくは、ZrのほかにAl、Ag及びSnのいずれか1つの金属元素が単独で含有されたCaFe2O4であり、Al、Ag及びSnのいずれか1つの金属元素の含有量は、CaFe2O4の全量に対して1モル%である。
【0037】
<ガス検出部におけるガス検出メカニズムの説明>
(酸化スズ)
ここで、本願発明に係るガスセンサの対比として、酸化スズを主成分とする半導体酸化物をガス検出部に用いた従来のガスセンサについて説明する。
【0038】
酸化スズを主成分とする半導体酸化物をガス検出部に用いたガスセンサでは、CaOやLa2O3のような塩基性酸化物を酸化スズに添加することでCO2との相互作用を強めることで、検出性能を向上させる試みが為されてきた。しかしながら、酸化スズを用いたガスセンサでは、抵抗値の変化を効率よく検出できないという課題があった。これは、酸化スズによるガス検出メカニズムに起因する。
【0039】
すなわち、酸化スズがn型半導体酸化物であるため、酸化スズの表面において、下記の反応式(1)に示したCO2の吸着反応が生じると、酸化スズの表面における電子濃度が減少して電気抵抗が増加する。ここで、(ad)は、半導体酸化物の表面に負電荷吸着していることを示す記号である。
【0040】
O-(ad)+CO2+e- → CO3
2-(ad) ・・・(1)
【0041】
図2は、従来の酸化スズ半導体におけるCO
2ガスの検知メカニズムを説明する模式図である。
図3は、空気中において、従来の酸化スズ半導体に形成される空間電荷層を説明する模式図である。
図4は、被検ガスとしてのCO
2ガス中において、従来の酸化スズ半導体に形成される空間電荷層を説明する模式図である。
【0042】
酸化スズ半導体には、酸素の負電荷吸着により、空間電荷層(以下、空乏層と記す)が形成される。酸化スズ半導体に負電荷吸着した酸素と、被検ガスであるCO2とが反応することにより、空乏層の厚みは増大する。
【0043】
ところが、酸化スズ半導体に添加されたCaOのような塩基性酸化物では、特定温度以上において、CO2ガスの吸着よりもO2の脱離反応が優先的に進行する。このため、ガスセンサとしての測定可能温度が、当該特定温度以下の範囲(例えば、200℃から400℃)に限定される。
【0044】
また、このような測定可能温度の範囲では、上述したように、酸化スズ半導体に負電荷吸着した酸素と被検ガスとの反応により、空乏層の厚みが増大する。これにより、酸化スズ半導体自身が高抵抗になる。このため、酸化スズ半導体にCO2ガスが吸着して抵抗値が変化しても、CO2ガスの吸着による抵抗値の変化を捉えることが困難になる。
【0045】
(カルシウムフェライト)
本発明者らは、アルカリ土類金属を含むp型半導体のなかでも、カルシウムフェライト(CaFe2O4)を主成分とする酸化物をガスセンサのガス検出部として適用することにより、酸化スズ半導体よりもCO2ガスの検出感度が向上することに着目した。アルカリ土類金属のなかで、カルシウム(Ca)は、ストロンチウム(Sr)やバリウム(Ba)と比べて、イオン半径が小さいため、純物質の合成が行い易いという利点がある。また、CO2は、酸化性ガスであるため、CaFe2O4のような塩基性酸化物の表面とは、強く相互作用することができる。
【0046】
また、CaFe2O4は、p型半導体酸化物である。このため、上述した反応式(1)に示したCO2の吸着反応が進行すると、CaFe2O4においてホール(正孔)濃度が増大して電気抵抗が減少する。
【0047】
図5は、空気中において、本実施形態に係るガスセンサ10のガス検出部14に形成される空間電荷層(空乏層)を説明する模式図である。
図6は、被検ガスとしてのCO
2ガス中において、本実施形態に係るガスセンサ10のガス検出部14に形成される空間電荷層(空乏層)を説明する模式図である。
【0048】
ガス検出部14に、CaFe
2O
4にCO
2の吸着反応が生じると、CaFe
2O
4におけるホール(正孔)濃度が増大する。すなわち、CaFe
2O
4表面へのCO
2の負電荷吸着により、
図5に示す空乏層の状態から、
図6に示す空乏層の状態へと、CaFe
2O
4に形成された空乏層の厚みは減少する。
【0049】
このため、CaFe2O4の表面へのCO2ガスの吸着反応では、特定温度域(一例として、200℃から400℃)においても、CO2ガスの吸着による抵抗値の変化を効率よく捉えることができる。
【0050】
さらに、CaFe2O4におけるFeに対して、1~10モル%のZrを添加することにより、CaFe2O4の微粒子に三次元多孔質構造を形成することができる。これにより、比表面積が増大するため、被検ガスの検出感度を向上することができる。
【0051】
しかしながら、ガス検出部にCaFe2O4を用いた場合であっても、被検ガスの検出性能を実際の適用場面における種々の要求に応えるレベルに高めるには、依然として改良の余地があった。
【0052】
そこで、発明者らは、鋭意研究を重ねた結果、被検ガスの検出感度を、以下の考察に基づいて、更に向上し得るとの知見を得て、本実施形態に係る半導体酸化物の実現に至った。すなわち、以下のとおりである。
【0053】
半導体酸化物によって構成されたガス検出部の抵抗値の変化に基づいて被検ガスを検出するガスセンサでは、ガス検出部表面に負電荷吸着した酸素と被検ガスとの反応によって生じる半導体の導電率変化に基づいて、被検ガスを検出している。
【0054】
図7は、ガス検出部としての半導体表面におけるCO
2ガスの検出メカニズムを説明する模式図である。
【0055】
被検ガスが二酸化炭素(CO
2)の場合、
図7に示すように、CO
2ガスと、半導体表面に負電荷吸着した酸素(O
-(ad))との電気化学的な反応が生じる。すなわち、上記反応式(1)に示す反応が促進され、被検ガスを検出が可能となる。
【0056】
被検ガスが酸素(O2)の場合には、電気的に検出可能な導電率変化を伴う吸着反応として、反応式(2)及び反応式(3)が報告されている(N.Yamazoe, K.Suematsu, K.Shimanoe, Sensors and Actuators B, 163, 128-135(2012))。
【0057】
O2+2e- ⇔ 2O-(ad) ・・・(2)
O2+4e- ⇔ 2O2-(ad) ・・・(3)
【0058】
図8は、半導体表面において、酸素がO
-として負電荷吸着する場合の検出メカニズム(反応式(2)に対応する)を説明する模式図である。
図9は、半導体表面において、O
2ガスがO
2-として負電荷吸着する場合の検出メカニズム(反応式(3)に対応する)を説明する模式図である。なお、本実施形態においては、負電荷吸着した酸素(O
-(ad),O
2-(ad))を、文脈に応じて、単に、O
-又はO
2-のように、記号(ad)を省略して記載することがある。
【0059】
半導体表面において、
図8及び
図9に示した上記反応式(2)及び(3)による負電荷吸着反応が生じることにより、O
2ガスの検出が可能となる。
【0060】
また、被検ガスがCO2の場合には、上述した反応式(1)だけでなく、下記の反応式(4)が存在していることも考えられる。
【0061】
O2-(ad)+CO2 → CO3
2-(ad) ・・・(4)
【0062】
半導体酸化物表面へのCO2の吸着に対して、反応式(4)は、半導体の導電率変化を伴わないため、電気的に検出することができない。しかし、O2-(ad)は、O-(ad)に対して安定ではないことから、酸素がO2-状態で吸着した場合には、反応式(5)のように、酸化物表面ではO-状態で存在すると考えられる。
【0063】
O2-(ad) → O-(ad)+e- ・・・(5)
【0064】
カルシウムフェライトをガス検出部14に用いたガスセンサ10の表面状態は、ガス検出部14を厚膜印刷法等により形成した直後には、上記反応式(1)と反応式(4)による反応が進行し得る状態であり、一定期間が経過することにより、カルシウムフェライト表面に酸素がO-状態で存在する反応式(1)の反応を示す状態に遷移すると考えられる。
【0065】
通常、製造ライン等において、製品は、出荷前に性能試験等が行われる。このため、製品製造上は、反応式(1)の反応が進行し得る表面状態になるまでの一定期間、性能試験を待機することなく、早期に、出荷可能な状態(所望の表面状態)が得られることが求められる。それには、酸素の負電荷吸着反応として、酸素がO-(ad)及びO2-(ad)の状態になる反応式(2)及び(3)を促進させることができれば、被検ガスがO-サイトへ吸着した際の導電率変化を捉え易くなり、被検ガスの検出性能を高めることができる。
【0066】
そこで、発明者らは、ガス検出部14として適用されるCaFe2O4に、酸素(O2)を負電荷吸着し易く、且つ、導電率変化を伴う反応式(2)及び(3)を生じさせるような酸化物層を導入することを試みた。
【0067】
図10は、酸化物層が導入されたCaFe
2O
4に、酸素がO
-の状態で負電荷吸着した様子(以下、O
-,O
2-は負電荷吸着種を意味する)を説明する模式図である。
【0068】
本発明者らは、CO2ガスに対して、反応式(1)及び(4)を促進することのできる金属元素として、CaFe2O4にZrを必須成分として添加し、さらに、O-の吸着を促進する酸化物層を形成可能な金属元素として、アルミニウム(Al)、銀(Ag)、スズ(Sn)から選ばれる少なくとも1つの金属元素が半導体酸化物において、O-の吸着を促進する酸化物層を形成し得ると考えた。
【0069】
図10に示したように、Zrを必須成分として含有するCaFe
2O
4に導入されたアルミニウム(Al)、銀(Ag)、スズ(Sn)等による酸化物層は、O
-の吸着を促進する新たな吸着サイトを形成すると考えられる。なお、酸化物層は、
図10に示すように、半導体酸化物の粒子表面を完全に覆っている必要はなく、粒子表面に点在していればよい。
【0070】
また、本実施形態に係るガスセンサ10に適用される半導体酸化物において、N2ガス中にあるときのガスセンサの電気抵抗(RN2)と、所定の酸素濃度(PO2)に調整されたO2ガス中に曝されたときのガスセンサの電気抵抗(RO2)とを測定し、RO2とPO2の両対数プロットに基づく近似直線の傾きを算出する。得られた傾きは、酸素の吸着状態(O-又はO2-)を表す指標として用いることができる。
【0071】
酸素の吸着状態(O-又はO2-)を表す指標及び酸素の負電荷吸着量を表す指標については、後段にて説明する。
【0072】
[カルシウムフェライトの製造方法]
続いて、カルシウムフェライト及びジルコニウムを必須とし、アルミニウム、銀及びスズのうち少なくとも1種の金属元素を含む、本実施形態に係る半導体酸化物の製造方法について説明する。
【0073】
本実施形態に係る半導体酸化物の製造方法は、出発原料である複数種の金属イオンの混合溶液を作製する工程と、得られた混合溶液に有機酸を添加し、金属-有機酸錯体を含む前駆体溶液を調製する工程と、前駆体溶液を蒸発乾固して前駆体を得る工程と、前駆体に第1仮焼処理を行う工程と、第1仮焼処理の後に、第2仮焼処理を行う工程とを有する。
【0074】
本実施形態において、第1仮焼処理は、300℃以上600℃以下で、10分以上120分以下で仮焼する処理であり、第2仮焼処理は、600℃以上1400℃以下で、1時間以上24時間以下で仮焼する処理である。なお、第2仮焼処理においては、有効温度範囲のうち下限温度側においては、処理時間を上限側に設定することが好ましく、有効温度範囲のうち上限温度側においては、処理時間を下限側に設定することが好ましい。例えば、600℃の場合には、処理時間は、20時間以上にすることが好ましい。
【0075】
CaFe2O4の製造においては、出発原料であるCa及びFeを金属イオンとして溶解できるものであればよく、例えば、硝酸カルシウム(II)及び硝酸鉄(III)等の硝酸塩を使用することができる。このほか、炭酸塩を使用することもできる。また、金属酸化物であってもよい。
【0076】
Zrについては、塩化物、硝酸塩、酢酸塩等の金属塩が、または、アルコキシドが使用できる。溶媒として使用可能なアルコールへの溶解度が高いという観点から、アルコキシドを用いることが好ましい。
【0077】
Al、Ag及びSnについては、塩化物、硝酸塩、酢酸塩等の金属塩が使用できる。溶媒として使用可能なアルコールや水等への溶解度が高いという観点から、Al及びAgについては、金属硝酸塩を用いることが好ましい。一方、化学的に安定な硝酸塩を形成できないSnは、金属塩化物又は金属酢酸塩を用いることが好ましい。
【0078】
混合溶液の溶媒としては、脱イオン水、又は、メタノール、エタノール、アセチルアセトン或いはエチレングリコール等の有機溶媒を用いることができる。本実施形態においては、上記の金属塩或いは金属酸化物を良好に溶解させる観点から、エタノールを用いることが好ましい。
【0079】
上記の混合溶液を作製し、更に、金属イオンの総モル数と等量の有機酸を加える。有機酸としては、リンゴ酸、酒石酸、クエン酸、マロン酸等を好適に用いることができる。
【0080】
有機酸を加えることにより、Ca、Fe、Al、Ag及びSn等の金属イオンと安定なキレート錯体を形成することができる。また、混合溶液に有機酸を添加することにより、低温焼成が可能となり、得られる半導体酸化物の微粒子を調製できる。これにより、高比表面積の半導体酸化物の粉体が得られる。
【0081】
後の工程を経て得られるCaFe2O4の粒子を薄片状かつ粗大化させる観点から、リンゴ酸を用いることが好ましい。
【0082】
本実施形態において、Zrの添加量は、CaFe2O4に含まれるFeに対するモル分率で、10モル%以下であることが好ましく、3モル%以上7モル%以下であることがより好ましい。
【0083】
また、本実施形態においては、Al、Ag及びSnの各添加量は、CaFe2O4の全量に対するモル分率で、添加する金属元素が10モル%以下であることが好ましく、1モル%であることがより好ましい。
【0084】
図11は、本実施形態に係る半導体酸化物の製造方法を説明する図である。
【0085】
本実施形態においては、一例として、
図11に示すように、Caの硝酸塩1-aと、Feの硝酸塩1-bと、Zrのアルコキシド1-cとを含み、さらに、Alの金属硝酸塩、Agの金属硝酸塩及びSnの金属塩化物から必要に応じて選択される金属塩又は金属塩化物1-dを含む出発原料を、化学量論比で、エタノールに溶解した溶液を混合溶液2とする。
【0086】
混合溶液2に、有機酸としてリンゴ酸3を加えて、金属-リンゴ酸錯体溶液4を調製する。本実施形態においては、金属-リンゴ酸錯体溶液4を80℃~120℃の温度で1時間保持し、脱水又は脱エタノールを行う。次に、180℃~220℃の温度で、3時間保持する。これにより、硝酸塩の熱分解を促進する。
【0087】
続いて、金属-リンゴ酸錯体溶液4を蒸発乾固し、前駆固体5を作製する。大気中で300℃~500℃の温度で30分間保持し、前駆固体5の残留有機物を除去する。
【0088】
得られた前駆固体5に、第1仮焼処理を行う。この第1仮焼処理は、反応系中の炭酸、硝酸、リンゴ酸、エタノール等の残留有機物を除去するための処理である。第1仮焼処理の温度は、有機酸の熱分解温度を上回る温度とすることができる。この点から、本実施形態において、第1仮焼処理の温度は、300℃以上600℃以下で、10分以上120分以下とする。
【0089】
また、第1仮焼処理に続いて、第2仮焼処理を行う。第2仮焼処理では、高純度の半導体酸化物を得るための処理であり、600℃以上1400℃以下で、1時間以上24時間以下で仮焼処理する。
【0090】
仮焼処理の完了後、得られた前駆固体5を粉末状に粉砕し、半導体酸化物の粉体6を得る。
【0091】
以上の操作により、CaFe2O4及びZrを必須とし、Al、Ag及びSnのうち少なくとも1種の金属元素を含む半導体酸化物の粉体6を得る。
【0092】
[その他の実施形態]
以上、本発明の実施形態について説明したが、上記実施形態は、本発明の適用例の一部を示したに過ぎず、本発明の技術的範囲を上記実施形態の具体的構成に限定する趣旨ではない。
【0093】
例えば、ガスセンサ10の基材11の形状及び寸法は、
図1に示したものに限定されない。また、櫛歯12a及び13aの形状、及び櫛歯から繋がる電極部分の形状も
図1に示すものに限定されない。
【実施例0094】
本発明の実施形態に係る半導体酸化物を作製し、得られた半導体酸化物を用いて評価試験用のガスセンサを作製し、半導体酸化物のガス検出性能等を測定した。以下、供試体の作製方法及びその評価方法について説明する。
【0095】
[供試体の作製]
<半導体酸化物の作製>
・供試体1:CaFe
2O
4の作製
図13に示した工程にしたがってCaFe
2O
4を作製した。出発原料として、硝酸カルシウム(II)及び硝酸鉄(III)を用いた。脱イオン水に、これらの硝酸塩を溶解し、金属イオンの総モル数と等量のリンゴ酸を加え、金属-有機酸錯体溶液を準備した。この溶液を蒸発乾固することにより、前駆体粉体を得た。得られた前駆体粉体を空気中400℃で2時間の第1仮焼処理を行った。続いて、700℃で12時間の第2仮焼処理を行った。これにより、供試体1のCaFe
2O
4を得た。
【0096】
・供試体2:Zr添加CaFe2O4の作製
出発原料として、純度99%の硝酸カルシウム(II)四水和物(Ca(NO3)2・4H2O)、純度99%の硝酸鉄(III)九水和物(Fe(NO3)3・9H2O)及びZrブトキシド(ジルコニウム(IV)ブトキシド(85%1-ブタノール溶液))を用いた。
【0097】
これらについて、硝酸カルシウム、硝酸鉄、Zrアルコキシド及び有機酸(リンゴ酸)のモル比が1:1.9:0.1:3になるように各出発原料を調製し、これらを混合して金属-有機酸錯体溶液を得た。続いて、この溶液を蒸発乾固することにより、前駆体固体を得た。得られた前駆体粉体を空気中400℃で2時間の第1仮焼処理を行った。続いて、700℃で12時間の第2仮焼処理を行った。これにより、5モル%Zr-CaFe2O4(CaFe1.9Zr0.1O4)の半導体酸化物を得た。
【0098】
・供試体3:Zr,Al共添加CaFe2O4の作製
添加する異種金属としてジルコニウム(Zr)とアルミニウム(Al)を用いた。供試体2と同様にZrの添加量がCaFe2O4のFe成分に対して5モル%になるようにZrのアルコキシドを調製し、また、Alの添加量がCaFe2O4に対して1モル%になるように硝酸アルミニウム(III)を調製し、硝酸カルシウム(II)及び硝酸鉄(III)とともに混合した。第1仮焼処理及び第2仮焼処理の条件は、供試体1と同様にした。これにより、1モル%Al,5モル%Zr-CaFe2O4(化学組成:0.5モル%Al2O3-CaFe1.9Zr0.1O4)の半導体酸化物を得た。
【0099】
・供試体4:Zr,Ag共添加CaFe2O4の作製
添加する異種金属としてジルコニウム(Zr)と銀(Ag)を用いた。Zrの添加量がCaFe2O4のFe成分に対して5モル%になるようにZrのアルコキシドを調製し、また、Agの添加量がCaFe2O4に対して1モル%になるように硝酸銀(I)を調製し、硝酸カルシウム(II)及び硝酸鉄(III)とともに混合した。第1仮焼処理及び第2仮焼処理の条件は、供試体1と同様にした。これにより、1モル%Ag,5モル%Zr-CaFe2O4(化学組成:0.5モル%Ag2O-CaFe1.9Zr0.1O4)の半導体酸化物を得た。
【0100】
・供試体5:Zr,Sn共添加CaFe2O4の作製
添加する異種金属としてジルコニウム(Zr)とスズ(Sn)を用いた。Zrの添加量がCaFe2O4のFe成分に対して5モル%になるようにZrのアルコキシドを調製し、また、Snの添加量がCaFe2O4に対して1モル%になるように塩化スズ(II)を調製し、硝酸カルシウム(II)及び硝酸鉄(III)とともに混合した。第1仮焼処理及び第2仮焼処理の条件は、供試体1と同様にした。これにより、1モル%Sn,5モル%Zr-CaFe2O4(化学組成:1モル%SnO2-CaFe1.9Zr0.1O4)の半導体酸化物を得た。
【0101】
<ガスセンサの作製>
基材として、アルミナ基板を用い、電極材料として金(Au)を用い、上記供試体1-5のそれぞれを用いてガス検出部14を作製し、
図1に示した厚膜型のガスセンサを作製した。
【0102】
第1電極12の櫛歯12a及び第2電極13の櫛歯13aの間隔Sを80μmに設定し、第1電極12の櫛歯12a及び第2電極13の櫛歯13aの電極ライン幅L0を200μmに設定した。また、第1電極12及び第2電極13の櫛歯の数を、ともに17本とした。すなわち、櫛歯の数は、合計34本であり、櫛歯12aと櫛歯13aとの間の数は33箇所であった。
【0103】
塗布の後、150℃で10分間乾燥させた後、700℃で2時間の熱処理を行って、供試体としてのガスセンサを得た。
【0104】
<半導体酸化物の粉体のX線回折測定>
得られた供試体1-5の半導体酸化物の粉体について、結晶構造を確認するために、粉末X線回折(XRD)測定を実施した。XRDパターンによれば、得られた供試体1-5のそれぞれは、主成分がZrを含有するCaFe2O4であり、供試体ごとに、異種元素として、Al、Ag及びSnのいずれかを含む半導体酸化物の粉体であることが確認できた。
【0105】
[ガスセンサの評価]
(評価回路)
図12は、ガスセンサの評価を行うための評価試験装置20を説明する模式図である。評価試験装置20は、ガスセンサ30を密封する試験管21と、ガスセンサ30に接続された白金からなるリード線22,23と、ガスセンサ30に接続されたリード線22,23をカバーする石英管24と、試験管21を加熱するためのヒータ25とを備える。リード線22,23は、それぞれ第1電極12,第2電極13(
図1参照)に接続されている。
【0106】
試験ガスは、試験ガスボンベ26a,26b,26c,26dから、ガス流量を調整するためのマスフローメータ27a,27b,27c,27dを介して、試験管21に供給される。
【0107】
ガスセンサ30による検出結果は、エレクトロメータを介してPCに入力されている。PCは、ガスセンサ30からの検出結果の解析、ヒータ25の温度管理、マスフローメータ27a~27dにおけるガス流量の制御等を実行している。
【0108】
なお、ガスセンサ30は、
図1に示したガスセンサ10に準拠して作製したものである。
【0109】
図13は、評価試験装置20に適用した、ガスセンサ30(ガスセンサ10)の検出性能を評価するための回路構成を説明するための回路図である。
【0110】
供試体1-5のそれぞれを用いて作製されたガスセンサと外部抵抗とを直列接続した回路に対して、検出対象のガスとして、酸素(O2)、窒素(N2)及び合成乾燥空気により希釈したCO2(ガス濃度:5000ppm)等の種々の被検ガス及び温度条件において、所定電圧を印加したときの抵抗値の変化を測定した。
【0111】
(CO2の検出感度)
被検ガスとしてCO2を用いる試験では、供試体1-5のそれぞれを用いて作製されたガスセンサに、測定温度下において、合成乾燥空気中に濃度5000ppmのCO2を0.10dm3/minの流量にて流通させてCO2濃度を増加させることによって生じるガスセンサにおける抵抗値の変化を測定した。なお、測定温度は、250℃~500℃に設定した。
【0112】
合成乾燥空気中にあるときのガスセンサの電気抵抗(Rair)と、CO2ガスを含んだ合成乾燥空気中に曝されたときのガスセンサの電気抵抗(RCO2)とを測定し、抵抗変化率ΔRCO2(%)を下記式により算出した。本実施形態において、抵抗変化率ΔRCO2(%)は、ガス検出感度を意味する。
【0113】
抵抗変化率 ΔRCO2(%)=(RCO2-Rair)/Rair
【0114】
測定温度(横軸)と抵抗変化率(縦軸)との関係は、
図14に示した。
【0115】
(半導体酸化物表面における酸素の吸着状態の評価)
半導体酸化物の抵抗値と検出雰囲気における酸素分圧との関係に基づいて、半導体酸化物の表面における酸素の吸着状態を評価できることが報告されている(N.Yamazoe, K.Suematsu, K.Shimanoe, Sensors and Actuators B, 163, 128-135(2012))。
【0116】
この報告によれば、下記の式(6)に示すように、半導体酸化物の抵抗値がPO2
1/2に比例するときは、電気化学反応式(7)が進行しており、半導体酸化物の表面にO-が負電荷吸着された状態である。
【0117】
R∝PO2
1/2+C1(Cn:定数) ・・・(6)
O2+2e- → 2O-(ad) ・・・(7)
【0118】
また、下記の式(8)に示すように、半導体酸化物の抵抗値がPO2
1/4に比例するときは、電気化学反応式(9)が進行しており、半導体酸化物の表面にO2-が負電荷吸着された状態である。
【0119】
R∝(PO2
1/2+C2)1/2+C3=PO2
1/4+C4 ・・・(8)
O2+4e- → 2O2-(ad) ・・・(9)
【0120】
以上のように、酸素分圧と抵抗値との関係から、半導体酸化物の表面における酸素の吸着状態を予測することができる。
【0121】
そこで、半導体酸化物の表面における酸素の吸着状態を被検ガスとして酸素及び窒素を用い、上記知見に基づいて評価した。
【0122】
供試体のガスセンサに、N2ガス、O2ガス及びN2とO2の混合ガスのそれぞれを0.10dm3/minの流量にて流通させた。N2ガス中にあるときのガスセンサの電気抵抗(RN2)と、所定の酸素濃度(PO2)に調整されたO2ガス中に曝されたときのガスセンサの電気抵抗(RO2)とを測定した。なお、測定温度は、300℃~450℃に設定した。
【0123】
得られた結果であるRN2について、RN2とPO2の両対数プロットを算出し、プロットに基づく近似直線の傾きを算出した。こうして得られる傾きは、酸素の吸着状態(O-又はO2-)を表す指標として用いることができる。
【0124】
各供試体を用いたガスセンサにおける、検知雰囲気中のO
2ガス濃度と、抵抗値の変化との関係は、
図15から
図19に示した。
【0125】
また、各供試体のガスセンサのCO
2ガス検出感度と、抵抗値のO
2濃度依存性から導出された近似直線の傾きとの関係を
図20に示した。
【0126】
一方、O2ガスの負電荷吸着の割合は、O2ガス或いはN2ガスを用いて、N2ガス中におけるガスセンサの抵抗値と、O2ガス中におけるガスセンサの抵抗値との比を用いて評価した。
【0127】
供試体のガスセンサに、N2ガスを0.10dm3/minの流量にて流通させながら、ガスセンサの抵抗値の変化を測定した。同様に、O2ガスを0.10dm3/minの流量にて流通させた。N2ガス中にあるときのガスセンサの電気抵抗(RN2)と、O2ガスを含んだ雰囲気中に曝されたときのガスセンサの電気抵抗(RO2)とを測定した。なお、測定温度は、300℃~450℃に設定した。測定結果のRN2とRO2とからガスセンサの抵抗比(RO2/RN2)を、O2の負電荷吸着量とした。
【0128】
各供試体のガスセンサにおける抵抗値のO
2濃度依存性から導出された近似直線の傾きと測定温度との関係を
図21に示した。また、N
2ガス中にあるときのガスセンサの電気抵抗(R
N2)と、O
2ガスを含んだ雰囲気中に曝されたときのガスセンサの電気抵抗(R
O2)との抵抗比(R
O2/R
N2)と、測定温度との関係を
図22に示し、抵抗比(R
O2/R
N2)と、検出感度との関係を
図23に示した。また、抵抗比(R
O2/R
N2)に対する空乏層の厚みの変化の説明を
図24に示した。
【0129】
[評価結果]
(CO
2の検出感度結果)
図14は、測定温度に対するCO
2ガスの検出感度の関係を示す図である。
【0130】
図14によれば、各供試体1-5を用いたガスセンサの空気(air)中におけるCO2検出感度の温度依存性が示されている。合成乾燥空気中(すなわち、CO
2が0ppm)から濃度5000ppmのCO
2ガスを所定流量にて流通させると、ガスセンサにおける抵抗値が合成乾燥空気中の値よりも減少した。
【0131】
これは、反応式(1)により、CaFe2O4表面のホール濃度が増大し、電気抵抗値が減少したためであると考えられる。何れの供試体においても、測定温度350℃近傍において、CO2ガスに対して最も高い検知感度を示す傾向があることがわかった。
【0132】
また、測定温度350℃付近では、Zrに、Al、Ag又はSnを共添加する(供試体3-5)ことで、CO2検出感度の大幅な向上が確認された。Zrに、Al、Ag又はSnが共添加された半導体酸化物(供試体3-5)は、カルシウムフェライトのみ(供試体1)やZrが単独で添加されたカルシウムフェライト(供試体2)に比べて検知感度が良好になる測定温度範囲が存在する。
【0133】
このため、Zrとともにカルシウムフェライトに添加する金属元素をAl、Ag及びSnから選択することにより、設定する測定温度範囲に応じて、ガスセンサを良好な検知感度に調整することができる。
【0134】
特に、ZrとともにカルシウムフェライトにAlを添加した場合には、他の2つの金属元素と比較して広い温度領域(300~400℃)で良好な検知感度を示す。これにより、ガスセンサの良好な検知感度を得るために加熱環境を厳密に制御することが不要となるため、簡易な装置により、ガスセンサを良好な検知感度で作動できる。
【0135】
また、ZrとともにカルシウムフェライトにAgを添加した場合には、他の2つの金属元素と比較して、250℃付近の低い温度領域から良好な検知感度を示す。このため、300~400℃で良好な検知感度を示すガスセンサに比べて、省電力に寄与することができる。また、適用可能な温度領域が下がるため、使用環境を広げることができる。
【0136】
このように、Zrとともに添加する金属元素を適宜選択することにより、望ましい検知感度を有するガスセンサを使用環境に応じて提供できる。
【0137】
(半導体酸化物表面における酸素の吸着状態の評価)
図15は、供試体1の半導体酸化物(CaFe
2O
4)を用いたガスセンサのO
2濃度(P
O2)と抵抗値との関係を示す図である。
【0138】
供試体1のガスセンサでは、O
2濃度(P
O2)が増大すると、抵抗値が減少した。これは、電気伝導度が増大したことを示す。
図15に示された両対数プロットに基づく近似直線の傾きによれば、供試体1の半導体酸化物は、P
O2
1/4に比例する。これは、供試体1の半導体酸化物の表面に吸着する酸素は、O
2-状態となって吸着していることを示唆している。
【0139】
図16は、供試体2の半導体酸化物(5モル%Zr-CaFe
2O
4)を用いたガスセンサのO
2濃度(P
O2)と抵抗値との関係を示す図である。
【0140】
供試体2のガスセンサでは、O
2濃度(P
O2)が増大すると、抵抗値が減少した。これは、電気伝導度が増大したことを示す。
図16に示された両対数プロットに基づく近似直線の傾きから、供試体2の半導体酸化物は、350℃から450℃の範囲では、P
O2
1/4とP
O2
1/2の間の所定数に対して比例関係があると考えられる。
【0141】
また、350℃では、概ね、PO2
1/2に比例する傾向がある。このことから、350℃から450℃の範囲において、供試体2の半導体酸化物の表面に吸着する酸素は、O2-とO-状態の両方が存在していることを示唆している。
【0142】
このことから、供試体2の半導体酸化物によれば、Zrが添加されたことにより、供試体1の半導体酸化物に比べて、O-状態での吸着反応が促進されていると考えられる。したがって、CaFe2O4にZrを添加することにより、比表面積の増加だけでなく、CO2ガスの吸着反応サイトとなるO-サイトの生成を促進することができる。
【0143】
図17は、供試体3の半導体酸化物(1モル%Al,5モル%Zr-CaFe
2O
4)を用いたガスセンサのO
2濃度(P
O2)と抵抗値との関係を示す図である。
【0144】
供試体3のガスセンサでは、O
2濃度(P
O2)が増大すると、抵抗値が減少した。これは、電気伝導度が増大したことを示す。
図17に示された両対数プロットに基づく近似直線の傾きから、供試体3の半導体酸化物は、350℃から450℃の範囲では、P
O2
1/4とP
O2
1/2の間の所定数に対して比例関係があると考えられる。
【0145】
また、300℃付近においては、PO2
1/2に比例する傾向がある。このことから、供試体3の半導体酸化物は、350℃から450℃の範囲では、主に、O2-の状態で吸着しており、300℃付近では、主に、O-の状態で吸着していることが示唆された。
【0146】
したがって、供試体3の半導体酸化物によれば、CaFe2O4にZrとともにAlを添加することにより、300℃~400℃、望ましくは300~350℃において、CO2ガスの吸着反応サイトとなるO-サイトの生成を促進することができる。
【0147】
図18は、供試体4の半導体酸化物(1モル%Ag,5モル%Zr-CaFe
2O
4)を用いたガスセンサのO
2濃度(P
O2)と抵抗値との関係を示す図である。
【0148】
供試体4のガスセンサでは、O
2濃度(P
O2)が増大すると、抵抗値が減少した。これは、電気伝導度が増大したことを示す。
図18に示された両対数プロットに基づく近似直線の傾きから、供試体4の半導体酸化物は、350℃~450℃の範囲では、P
O2
1/4とP
O2
1/2の間の所定数に対して比例関係があると考えられる。
【0149】
また、300℃付近では、PO2
1/2に比例する傾向がある。このことから、供試体4の半導体酸化物は、350℃から450℃の範囲では、主に、O2-の状態で吸着しており、300℃付近では、主に、O-状態で吸着していることが示唆された。
【0150】
したがって、供試体4の半導体酸化物によれば、CaFe2O4にZrとともにAlを添加することにより、300℃~350℃において、CO2ガスの吸着反応サイトとなるO-サイトの生成を促進することができる。
【0151】
図19は、供試体5の半導体酸化物(1モル%Sn,5モル%Zr-CaFe
2O
4)を用いたガスセンサのO
2濃度(P
O2)と抵抗値との関係を示す図である。
【0152】
供試体5のガスセンサでは、O
2濃度(P
O2)が増大すると、抵抗値が減少した。これは、電気伝導度が増大したことを示す。
図19に示された両対数プロットに基づく近似直線の傾きから、供試体5の半導体酸化物は、400℃では、概ね、P
O2
1/2に比例する傾向がある。
【0153】
このことから、供試体5の半導体酸化物は、400℃において、酸素のほとんどがO-の状態で吸着していることが示唆された。
【0154】
したがって、供試体5の半導体酸化物によれば、CaFe2O4にZrとともにSnを添加することにより、350℃~400℃において、CO2ガスの吸着反応サイトとなるO-サイトの生成を促進することができる。
【0155】
次に、酸素の吸着状態(O
-又はO
2-)を表す指標について説明する。
図20は、各供試体のガスセンサのCO
2ガス検出感度と、抵抗値のO
2濃度依存性から導出された近似直線の傾きとの関係を示す図である。
【0156】
図20は、傾きが-0.5となる領域、すなわち、酸素がO
-で吸着する領域において、CO
2ガスの検出感度が最大となることを示している。O
-は、Oに対して安定であるが、O
2-は、O
-に対して安定ではないことから、酸素がO
2-の状態で吸着しても、半導体酸化物の表面では、O
-の状態に変化する反応が生じている。
【0157】
図20によれば、傾きを-0.5に近づけることができれば、半導体酸化物に吸着する酸素のうち多くをO
-の状態にすることができ、検知ガスの検知性能を向上させることができる。このことから、本実施形態に係るガスセンサ10は、酸素の吸着状態(O
-又はO
2-)を表す指標である傾きが-0.75~-0.25の範囲であれば、良好な検知性能を示すことができる。
【0158】
図21は、各供試体のガスセンサにおける抵抗値のO
2濃度依存性から導出された近似直線の傾きと測定温度との関係を示す図である。
【0159】
図21によれば、測定温度が400℃~450℃では、供試体1の半導体酸化物を除く殆どの供試体において、吸着酸素の状態を表す指標となる傾きの値が、-0.25となる。すなわち、酸素が、主に、O
2-の状態で吸着することを示唆している。
【0160】
また、350℃~400℃では、供試体2及び供試体5の半導体酸化物において、傾きが-0.5となる。すなわち、酸素の殆どが、O-の状態で吸着することを示唆している。
【0161】
300℃~350℃では、供試体3及び供試体4の半導体酸化物において、傾きが-0.5となる。すなわち、酸素が、主に、O-の状態で吸着することを示唆している。
【0162】
以上によれば、300℃~400℃において、窒素ガス中におけるガスセンサの抵抗値RN2と酸素ガス濃度PO2の両対数プロットに基づく近似直線の傾きが-0.3~-0.7の範囲になるような半導体酸化物であれば、この傾きに対応する測定温度域において作動させることにより、高い検知性能を発揮するガスセンサが得られる。
【0163】
したがって、CaFe2O4に添加する金属元素として、Zrと組み合わせる金属元素をAl,Ag,Snから適宜選択することにより、要求される測定温度において、半導体酸化物への酸素の吸着状態(O-又はO2-)を表す指標としての傾きを-0.5近傍(例えば、-0.3~-0.7)にすることができる。すなわち、酸素をO-の状態で吸着し得る半導体酸化物を要求される測定温度に応じて作製することができる。これにより、半導体酸化物を用いて構成されるガスセンサの検知感度を向上させることができる。
【0164】
次に、酸素の負電荷吸着量を表す指標について説明する。
図22は、N
2ガス中にあるときのガスセンサの電気抵抗(R
N2)と、O
2ガスを含んだ雰囲気中に曝されたときのガスセンサの電気抵抗(R
O2)との抵抗比(R
O2/R
N2)と、測定温度との関係を示す図である。
【0165】
発明者らは、本実施形態に係るガスセンサに適用される半導体酸化物において、O2の負電荷吸着量を表す指標として、半導体酸化物の窒素ガス中における抵抗値RN2と酸素ガス中における抵抗値RO2との抵抗比(RO2/RN2)に着目した。本実施形態において、抵抗比(RO2/RN2)は、酸素の負荷電荷吸着によって半導体酸化物に形成される空間電荷層(以下、空乏層と記す場合がある)の厚みを表す指標として用いることができる。
【0166】
図22によれば、Al,Ag又はSnのいずれかと、Zrとが共添加された供試体2-5の半導体酸化物では、O
2の負電荷吸着量を示す抵抗比(R
O2/R
N2)が、供試体1の半導体酸化物の抵抗比(R
O2/R
N2)に比べて大幅に減少している。これは、Al,Ag又はSnのいずれかと、Zrとが共添加されたCaFe
2O
4における酸素の負電荷吸着量が増大していることを示唆するものである。
【0167】
また、これにより、CaFe2O4に添加する金属元素として、Zrと組み合わせる金属元素をAl,Ag,Snから適宜選択することにより、要求される測定温度において検知感度が良好となる半導体酸化物を作製することができる。
【0168】
図23は、N
2ガス中にあるときのガスセンサの電気抵抗(R
N2)と、O
2ガスを含んだ雰囲気中に曝されたときのガスセンサの電気抵抗(R
O2)との抵抗比(R
O2/R
N2)と、検出感度との関係を示す図である。また、
図24は、N
2ガス中にあるときのガスセンサの電気抵抗(R
N2)と、O
2ガスを含んだ雰囲気中に曝されたときのガスセンサの電気抵抗(R
O2)との抵抗比(R
O2/R
N2)に対する空乏層の厚みの変化を比較して表した図である。
【0169】
図23によれば、Al,Ag又はSnのいずれかと、Zrとが共添加された供試体2-5の半導体酸化物は、Zrを添加したCaFe
2O
4による半導体酸化物(供試体2)と遜色の無いCO
2の検出感度を得られる条件があることが示唆された。
【0170】
例えば、供試体2において、抵抗比(RO2/RN2)が0.1~0.2の範囲にあると、空乏層による半導体酸化物の抵抗値の変化が抑制されて、CO2ガス等の被検ガスの吸着による抵抗値の変化に影響の無い程度に抑えることができると考えられる。
【0171】
半導体酸化物によって構成されたガス検出部の抵抗値の変化に基づいて被検ガスを検出するセンサでは、CO2ガスの吸着による空乏層の厚みの変化が電気抵抗値の変化として検出される。このため、負電荷吸着量が多く、空乏層の厚みが大きすぎる場合には、CO2ガスの吸着反応サイトとなるO-の状態となった吸着酸素とCO2とが反応しても、抵抗値の変化が小さくなると予想される。
【0172】
図23の結果によれば、0.1≦R
O2/R
N2≦0.2となる場合に、CO
2ガスの濃度変化に対する空乏層の厚みの変化が大きくなると考えられる。したがって、N
2ガス中にあるときのガスセンサの電気抵抗(R
N2)と、O
2ガスを含んだ雰囲気中に曝されたときのガスセンサの電気抵抗(R
O2)との抵抗比(R
O2/R
N2)が0.1≦R
O2/R
N2≦0.2となるような半導体酸化物を作製することにより、空乏層の厚みが大きくなりすぎることを抑制し、半導体酸化物の表面へのCO
2ガス等の被検ガスの吸着による抵抗値の変化を捉え易くなる。
【0173】
Zrを添加したCaFe
2O
4による半導体酸化物(供試体2)は、良好な三次元多孔質構造を形成しており、多孔質化による比表面積の増大による影響と、CO
2ガスの吸着による空乏層の厚みの変化が抑制されることにより検知感度が良好であると考えられる。供試体2の半導体酸化物に、Zrとは別の金属元素が共添加されると、本来であれば、良好な三次元多孔質構造を形成または維持しにくくなるために、検知感度が低下すると予想される。しかし、
図23によれば、供試体3~5の半導体酸化物は、Zrを単独添加した供試体2と同程度の空乏層変化であることを示しており、良好な検知感度を維持できている。これは、Zrに共添加する金属元素として、Al,Ag,Snを選択した場合には、三次元多孔質構造を大きく崩すことなく、半導体酸化物の多孔質性を良好に維持できている可能性が高いからである。