(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023104835
(43)【公開日】2023-07-28
(54)【発明の名称】過飽和固溶軟磁性材料及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
C22C 38/00 20060101AFI20230721BHJP
H01F 1/147 20060101ALI20230721BHJP
B22D 27/02 20060101ALI20230721BHJP
【FI】
C22C38/00 303S
H01F1/147 166
B22D27/02 U
B22D27/02 A
【審査請求】有
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022035484
(22)【出願日】2022-03-08
(31)【優先権主張番号】202210054575.6
(32)【優先日】2022-01-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(71)【出願人】
【識別番号】505072650
【氏名又は名称】浙江大学
【氏名又は名称原語表記】ZHEJIANG UNIVERSITY
(74)【代理人】
【識別番号】110001139
【氏名又は名称】SK弁理士法人
(74)【代理人】
【識別番号】100130328
【弁理士】
【氏名又は名称】奥野 彰彦
(74)【代理人】
【識別番号】100130672
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 寛之
(72)【発明者】
【氏名】厳 密
(72)【発明者】
【氏名】呉 ▲ちん▼
(72)【発明者】
【氏名】陳 起明
(72)【発明者】
【氏名】金 佳瑩
【テーマコード(参考)】
5E041
【Fターム(参考)】
5E041AA02
5E041AA19
5E041CA01
5E041HB11
5E041NN01
5E041NN04
5E041NN18
(57)【要約】
【課題】本発明において過飽和固溶軟磁性材料及びその製造方法を提供し、それは金属の軟磁性技術に関するものである。
【解決手段】本発明の過飽和固溶軟磁性材料は、各成分の百分率においてFeが72.0~78.0at%であり、Siが12.0~18.0at%であり、Coが4.0~12.0at%であり、Tiが1.0~3.0at%である軟磁性合金を含む。前記製造方法において、溶解ガラス浄化方法または電磁サスペンデッド溶解方法を採用することにより、合金の安定な過冷却状態を獲得し、Ti過飽和固溶性体の形成を促進し、かつ過飽和固溶軟磁性材料の磁気結晶異方性常数と磁歪係数をゼロに接近させることができる。X線エネルギースペクトロメーターで測定した結果、過冷却凝固が実施されたTi元素がα-Fe(Si、Co)結晶粒子内に均等に分布していることがわかることができ、Tiの析出がない過飽和固溶合金を獲得することができる。本発明の過冷却凝固方法により獲得される過飽和固溶Fe-Si軟磁性合金は小さい抗磁力と高い導磁率を具備している。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
各成分の百分率において、Feは72.0~78.0at%であり、Siは12.0~18.0at%であり、Coは4.0~12.0at%であり、Tiは1.0~3.0at%である軟磁性合金を含むことを特徴とする過飽和固溶軟磁性材料。
【請求項2】
請求項1に記載の過飽和固溶軟磁性材料を製造する方法であって、溶解ガラス浄化方法と電磁サスペンデッド溶解方法のうち1つの方法により合金溶体の安定な過冷却状態を獲得することを特徴とする過飽和固溶軟磁性材料の製造方法。
【請求項3】
前記溶解ガラス浄化方法は、
(1)組成成分の比例により原料を秤量して取った後、真空環境または保護ガスにおいて前記原料に対してアーク溶解または誘導加熱溶解をすることにより合金原料を獲得するステップと、
(2)合金原料を高温の石英ガラス管に送入した後、ガラス浄化剤で合金の上下表面を覆うステップと、
(3)合金と浄化剤が入っている石英ガラス管を高周波誘導コイルに挿入し、真空環境または保護ガスにおいて低パワー加熱を実施し、その場合、金属の導熱により浄化剤を溶解させかつ溶解した浄化剤で合金の表面を覆うステップと、
(4)加熱パワーを増加させることにより金属を溶解させ、加熱温度を1300~1500℃まで上昇させることにより合金溶体の過熱状態を形成し、その状態において2~5分間の保温を実施した後加熱を停止させることにより合金の温度が自然的に下がるようにするステップと、
(5)循環過熱ステップにおいて、合金に対して「加熱-保温-冷却-再加熱」を繰り返し、合金の過冷却状態を獲得するときまで赤外線測温装置で合金の温度を随時に測定し、加熱を停止させることにより合金の過冷却と凝固を獲得するステップとを含むことを特徴とする請求項2に記載の過飽和固溶軟磁性材料の製造方法。
【請求項4】
前記電磁サスペンデッド溶解方法は、
(1)組成成分の比例により原料を秤量して取った後、真空環境または保護ガスにおいて前記原料に対してアーク溶解または誘導加熱溶解をすることにより合金原料を獲得するステップと、
(2)合金原料の鋳塊をサスペンデッド電磁場に送入し、電磁場と誘導電流との間の相互作用により形成されるローレンツ力により、合金原料を加熱コイルの中心にサスペンデッド状態に安定に固定させるステップと、
(3)真空環境または保護ガスにおいて加熱コイルで加熱する方法により合金を溶解させ、加熱温度を1300~1500℃まで上昇させることにより合金溶体の過熱状態を形成し、その状態において2~5分間の保温を実施した後加熱を停止させることにより合金の温度が自然的に下がるようにするステップと、
(4)循環過熱ステップにおいて、合金に対して「加熱-保温-冷却-再加熱」を繰り返し、合金の過冷却状態を獲得するときまで赤外線測温装置で合金の温度を随時に測定することにより、合金の中心の凝固を獲得するステップと、を含むことを特徴とする請求項2に記載の過飽和固溶軟磁性材料の製造方法。
【請求項5】
前記ステップ(1)において、前記溶解の過程において電磁撹拌を起動させ、合金インゴットに対して溶解を4~6回実施することにより成分を均等に混ぜることを特徴とする請求項3に記載の過飽和固溶軟磁性材料の製造方法。
【請求項6】
前記ステップ(1)と(3)において、前記真空環境は気圧が5×10-3Paより小さい真空環境であり、前記保護ガスは純度が99.9vol%以上であるアルゴンガスまたはニトロゲンであることを特徴とする請求項3に記載の過飽和固溶軟磁性材料の製造方法。
【請求項7】
前記ステップ(2)中のガラス浄化剤は、59.0~75.0wt%のSiO2と15.0~31.0wt%のNa2SiO3を主要成分とし,4.0~7.0wt%のCaO、1.8~2.0wt%のMgO、1.0~2.0wt%のAl2O3と0.1~0.3%wt%のFe2O3を安定剤とすることを特徴とする請求項3に記載の過飽和固溶軟磁性材料の製造方法。
【請求項8】
前記ガラス浄化剤の製造方法において、SiO2とNa2SiO3の主要成分とCaO等の安定剤を所定の比例に混合させ、800~900℃下において5~8時間の焼成を実施することにより前記ガラス浄化剤の質量を合金原料の質量の20~25%にすることを特徴とする請求項7に記載の過飽和固溶軟磁性材料の製造方法。
【請求項9】
前記ステップ(1)において、前記溶解の過程において電磁撹拌を起動させ、合金インゴットに対して溶解を4~6回実施することにより成分を均等に混ぜることを特徴とする請求項4に記載の過飽和固溶軟磁性材料の製造方法。
【請求項10】
前記ステップ(1)と(3)において、前記真空環境は気圧が5×10-3Paより小さい真空環境であり、前記保護ガスは純度が99.9vol%以上であるアルゴンガスまたはニトロゲンであることを特徴とする請求項4に記載の過飽和固溶軟磁性材料の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属の軟磁性の技術に関し、特に、過飽和固溶軟磁性材料及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
Fe-Si合金は、使用量が最も多く、幅広く使用されている軟磁性材料であり、5G通信、電子情報及び国防産業等の分野に幅広く使用されている。軟磁性材料の性能を向上させるとき、軟磁性材料が外部の磁場の変化に迅速に反応することが求められるので、軟磁性材料は小さい抗磁力と高い導磁率を具備する必要がある。軟磁性合金の磁気結晶異方性常数と磁歪係数はその軟磁性合金の抗磁力を決定するイントリンシック特徴(intrinsic characteristics)である。現在、抗磁力を低減し、導磁率を増加させる最有効の方法は、遷移金属元素または非金属元素を添加することにより飽和磁歪係数λsと磁気結晶異方性常数K1を同時にゼロに接近させるものである。いろいろな合金元素において、TiはFe合金の磁気結晶異方性常数と磁歪係数を同時に低減することができるが、Tiがα-Fe内に存在する固溶性が非常に小さい(<1.0at%)ので、磁気結晶異方性と磁歪係数の調節効果に影響を与える。所定の製造方法でTi過飽和固溶体合金を製造することにより、Fe-Si合金の磁気結晶異方性常数と飽和磁歪係数をゼロに接近させることができる。従来の過飽和固溶体合金の製造方法は、主として、機械的合金化方法と溶体メルトクエンチング方法がある。その2つの方法を採用する場合、合金に大量の応力とディスロケーション(dislocation)等のような欠陥が形成が形成され、軟磁性性能に大きい影響を与えるおそれがある。また、その2つの方法により希望の形状とサイズを有している合金を製造することができず、粉末状合金と帯状合金しか製造することができない。
【0003】
過冷却凝固を実施するとき、異種核(heterogeneous nucleation)の増大を除去する過冷却方法により、合金溶体を迅速に凝固させることができる。過冷却の条件下において、溶体の凝固が平衡凝固(equilibrium solidification)から離れることにより溶質元素(solute elements)の固溶リミットを有効に拡大させ、単相(uniphase)が均等である過飽和固溶体合金を形成し、遅い冷却速度で合金の凝固を実施することにより内部応力を小さくすることができる。以上のとおり、過冷却凝固技術でTi過飽和固溶体が含まれているFe-Si合金を製造することは軟磁性性能を向上させる有効は方法である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の目的は、Fe-Si合金中の固溶性が低く、所定の軟磁性性能を獲得できないという技術的問題を解決するため、下記過飽和固溶軟磁性材料及びその製造方法を提供することにある。本発明の製造方法により製造される過飽和固溶軟磁性材料は、純元素(pure element)であるTiの析出(separate out)がない過飽和固溶体であり、抗磁力が小さいという高い軟磁性性能を具備している。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明において過飽和固溶軟磁性材料を提供する。その過飽和固溶軟磁性材料はつぎの技術的事項を有している。
本発明の過飽和固溶軟磁性材料は、各成分の百分率においてFeが72.0~78.0at%であり、Siが12.0~18.0at%であり、Coが4.0~12.0at%であり、Tiが1.0~3.0at%である軟磁性合金を含む。
【0006】
本発明において過飽和固溶軟磁性材料の製造方法を更に提供する。その過飽和固溶軟磁性材料の製造方法は溶解ガラス浄化方法と電磁サスペンデッド溶解方法のうち1つの方法により合金溶体の安定な過冷却状態を獲得する。
【0007】
好ましくは、前記溶解ガラス浄化方法は、(1)組成成分の比例により原料を秤量して取った後、真空環境または保護ガスにおいて前記原料に対してアーク溶解または誘導加熱溶解をすることにより合金原料を獲得するステップと、
(2)合金原料を高温の石英ガラス管に送入した後、ガラス浄化剤で合金の上下表面を覆うステップと、
(3)合金と浄化剤が入っている石英ガラス管を高周波誘導コイルに挿入し、真空環境または保護ガスにおいて低パワー加熱を実施し、その場合、金属の導熱により浄化剤を溶解させかつ溶解した浄化剤で合金の表面を覆うステップと、
(4)加熱パワーを増加させることにより金属を溶解させ、加熱温度を1300~1500℃まで上昇させることにより合金溶体の過熱状態を形成し、その状態において2~5分間の保温を実施した後加熱を停止させることにより合金の温度が自然的に下がるようにするステップと、
(5)循環過熱ステップにおいて、合金に対して「加熱-保温-冷却-再加熱」を繰り返し、合金の過冷却状態を獲得するときまで赤外線測温装置で合金の温度を随時に測定し、加熱を停止させることにより合金の過冷却と凝固を獲得するステップとを含む。
【0008】
好ましくは、前記電磁サスペンデッド溶解方法は、(1)組成成分の比例により原料を秤量して取った後、真空環境または保護ガスにおいて前記原料に対してアーク溶解または誘導加熱溶解をすることにより合金原料を獲得するステップと、
(2)合金原料の鋳塊(ingot making)をサスペンデッド電磁場に送入し、電磁場と誘導電流との間の相互作用により形成されるローレンツ力により、合金原料を加熱コイルの中心にサスペンデッド状態に安定に固定させるステップと、
(3)真空環境または保護ガスにおいて加熱コイルで加熱する方法により合金を溶解させ、加熱温度を1300~1500℃まで上昇させることにより合金溶体の過熱状態を形成し、その状態において2~5分間の保温を実施した後加熱を停止させることにより合金の温度が自然的に下がるようにするステップと、
(4)循環過熱ステップにおいて、合金に対して「加熱-保温-冷却-再加熱」を繰り返し、合金の過冷却状態を獲得するときまで赤外線測温装置で合金の温度を随時に測定することにより、合金の中心の凝固を獲得するステップと、を含む。
【0009】
好ましくは、前記ステップ(1)において、前記溶解の過程において電磁撹拌を起動させ、合金インゴット(ingot)に対して溶解を4~6回実施することにより成分を均等に混ぜる。
【0010】
好ましくは、前記ステップ(1)と(3)において、前記真空環境は気圧が5×10-3Paより小さい真空環境であり、前記保護ガスは純度が99.9vol%以上であるアルゴンガスまたはニトロゲンである。
【0011】
好ましくは、前記ステップ(2)中のガラス浄化剤は、59.0~75.0wt%のSiO2と15.0~31.0wt%のNa2SiO3を主要成分とし,4.0~7.0wt%のCaO、1.8~2.0wt%のMgO、1.0~2.0wt%のAl2O3と0.1~0.3%wt%のFe2O3を安定剤とする。
【0012】
好ましくは、前記ガラス浄化剤の製造方法において、SiO2とNa2SiO3の主要成分とCaO等の安定剤を所定の比例に混合させ、800~900℃下において5~8時間の焼成を実施することにより前記ガラス浄化剤の質量を合金原料の質量の20~25%にする。
【0013】
好ましくは、前記ステップ(1)において、前記溶解の過程において電磁撹拌を起動させ、合金インゴットに対して溶解を4~6回実施することにより成分を均等に混ぜる。
【0014】
好ましくは、前記ステップ(1)と(3)において、前記真空環境は気圧が5×10-3Paより小さい真空環境であり、前記保護ガスは純度が99.9vol%以上であるアルゴンガスまたはニトロゲンである。
【発明の効果】
【0015】
本発明の過飽和固溶軟磁性材料に遷移金属(transition metal)元素Tiを添加することにより合金の磁歪係数(The magnetostriction coefficient)と磁気結晶異方性(Magnetocrystalline anisotropy)常数を調節することができる。他の遷移金属と比較してみると、Tiは磁歪係数と磁気結晶異方性常数を同時に低減し、調節の効果を向上させ、磁気稀釈(magnetic diluter)作用を小さくすることができる。本発明は、Fe、Co、Si、Ti等のいろいろな元素の組成比例を適合にすることにより、磁歪係数と磁気結晶異方性常数をゼロに接近させ、合金の飽和磁化強度を確保することができる。
【0016】
本発明の過飽和固溶軟磁性材料は溶解ガラス浄化方法または電磁サスペンデッド溶解方法による迅速冷却凝固方法を採用することにより、Ti元素の固溶性(solid solubility)を増加させ、Ti元素による磁性性能の調節効果を向上させることができる。従来の機械的合金化(Mechanical Alloying)方法と溶体メルトクエンチング(melt spinning)方法と比較してみると、本発明において遅い冷却速度で合金の凝固を実施することができるので、内部応力(internal stress)とディスロケーション(dislocation)等のような欠陥の形成を避け、軟磁性性能を向上させることができる。
【0017】
以上のとおり、本発明において過冷却凝固方法で過飽和固溶軟磁性材料を獲得することにより、過飽和固溶軟磁性材料の磁歪係数と磁気結晶異方性常数をゼロに接近させ、小さい抗磁力と高い導磁率(magnetic permeability)を具備している高い軟磁性性能を獲得することができる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
(実施例1)
過飽和固溶(Solid solution)軟磁性材料(soft magnetic material)の各成分(原子)の百分率において、Feは72.0at%であり、Siは16.0%であり、Coは11.0at%であり、Tiは1.0at%である。その軟磁性合金の製造方法はつぎのステップを含む。
【0019】
(1)組成成分の比例により、総重量が40.0gである純鉄(pure iron)粒子、純コバルト(Pure cobalt)、純チタニウム(Pure Titanium)及び純多結晶シリコン(Pure Polysilicon)塊状原料を秤量して取った後、その原料をアーク溶解炉(Electric arc melting furnace)内に送入する。つぎに、高純度アルゴンガス(Argon gas)を保護ガスとするアーク溶解炉において、溶解を4回実施することにより成分が均等に混ぜられる合金原料を獲得する。
【0020】
(2)ガラス浄化剤の焼成を実施する。59.0wt%のSiO2、31.0wt%のNa2SiO3、7.0wt%のCaO、1.8wt%のMgO、1.0wt%、Al2O3と0.2wt%のFe2O3を混合させた後、800℃の温度下において5時間の焼成を実施することによりガラス浄化剤を獲得する。
【0021】
(2)0.6gの合金原料と1.2gのガラス浄化剤を高温の石英ガラス管(Quartz glass tube)に送入した後、ガラス浄化剤で合金の上下表面を覆う。
【0022】
(3)合金と浄化剤が入っている石英ガラス管を高周波誘導コイルに挿入し、気圧が5×10-3Paより小さい真空において、低パワー加熱を実施する。その場合、金属の導熱により浄化剤を溶解させ、かつ溶解した浄化剤で合金の表面を覆う。
【0023】
(4)加熱パワーを増加させることにより金属を溶解させる。つぎに、加熱温度を1350℃まで上昇させることにより合金溶体の過熱状態を形成し、その状態において2分間の保温を実施した後、加熱を停止させる。それにより合金の温度が自然的に下がるようにする。
【0024】
(5)合金を1350℃まで加熱し、その状態において2分間の保温を実施した後、加熱を停止させる。「加熱-保温-冷却-再加熱」を繰り返し、赤外線測温装置で合金の温度を随時に測定することにより、合金の過冷却温度が150℃以下にならないようにする。つぎに、加熱を停止させることにより合金の過冷却と凝固を獲得する。
【0025】
製造した合金をX線エネルギースペクトロメーター(X-ray energy spectrometer)で測定した結果、Ti元素がα-Fe(Si、Co)結晶粒子(crystalline grain)内に均等に分布していることがわかる。製造した合金を静的ヒステリシスループ(static hysteresis loop)で測定した結果、製造された合金の飽和磁化強度(saturation magnetization)が168.0emu/gに達し、抗磁力(coercive force)が0.340eに達することがわかる。
【0026】
(実施例2)
過飽和固溶軟磁性材料の各成分(原子)の百分率において、Feは75.0at%であり、Siは14.0%であり、Coは9.0at%であり、Tiは2.0at%である。その軟磁性合金の製造方法はつぎのステップを含む。
【0027】
(1)組成成分の比例により、総重量が60.0gである純鉄粒子、純コバルト、純チタニウム及び純多結晶シリコン塊状原料を秤量して取った後、その原料をアーク溶解炉内に送入する。つぎに、アーク溶解炉内の気圧を4×10-3Paより小さい真空にし、溶解の過程において電磁撹拌(electromagnetic stirring)を起動させる。溶解を6回実施することにより成分が均等に混ぜられる合金原料を獲得する。
【0028】
(2)ガラス浄化剤の焼成を実施する。71.7wt%のSiO2、20.0wt%のNa2SiO3、4.0wt%のCaO、2.0wt%のMgO、2.0wt%、Al2O3と0.3wt%のFe2O3を混合させた後、900℃の温度下において8時間の焼成を実施することによりガラス浄化剤を獲得する。
【0029】
(2)8.0gの合金原料と2.0gのガラス浄化剤を高温の石英ガラス管に送入した後、ガラス浄化剤で合金の上下表面を覆う。
【0030】
(3)合金と浄化剤が入っている石英ガラス管を高周波誘導コイルに挿入し、高純度のニトロゲン(nitrogen)を保護ガスとする環境において、低パワー加熱を実施する。その場合、金属の導熱により浄化剤を溶解させ、かつ溶解した浄化剤で合金の表面を覆う。
【0031】
(4)加熱パワーを増加させることにより金属を溶解させる。つぎに、加熱温度を1300℃まで上昇させることにより合金溶体の過熱状態を形成し、その状態において3分間の保温を実施した後、加熱を停止させる。それにより合金の温度が自然的に下がるようにする。
【0032】
(5)合金を1300℃まで加熱し、その状態において3分間の保温を実施した後、加熱を停止させる。「加熱-保温-冷却-再加熱」を繰り返し、赤外線測温装置で合金の温度を随時に測定することにより、合金の過冷却温度が200℃以下にならないようにする。つぎに、加熱を停止させることにより合金の過冷却と凝固を獲得する。
【0033】
製造した合金をX線エネルギースペクトロメーターで測定した結果、Ti元素がα-Fe(Si、Co)結晶粒子内に均等に分布していることがわかる。製造した合金を静的ヒステリシスループで測定した結果、製造された合金の飽和磁化強度が175.0emu/gに達し、抗磁力が0.300eに達することがわかる。
【0034】
(実施例3)
過飽和固溶軟磁性材料の各成分(原子)の百分率において、Feは73.0at%であり、Siは14.5%であり、Coは10.0at%であり、Tiは2.5at%である。その軟磁性合金の製造方法はつぎのステップを含む。
【0035】
(1)組成成分の比例により、総重量が60.0gである純鉄粒子、純コバルト、純チタニウム及び純多結晶シリコン塊状原料を秤量して取った後、その原料をアーク溶解炉内に送入する。つぎに、アーク溶解炉内の気圧を5×10-3Paより小さい真空にし、電磁撹拌を起動させる。溶解を6回実施することにより成分が均等に混ぜられる合金原料を獲得する。
【0036】
(2)10.0gの合金原料をサスペンデッド電磁場(Suspended electromagnetic field)に送入し、電磁場と誘導電流との間の相互作用により形成されるローレンツ力(Lorentz Force)により、合金原料を加熱コイルの中心にサスペンデッド状態に安定に固定させる。
【0037】
(3)気圧が4×10-3Paより小さい真空において、加熱コイルによる誘導加熱方法により合金を1400℃まで加熱し、その状態において5分間の保温を実施した後、加熱を停止させる。それにより合金の温度が自然的に下がるようにする。
【0038】
(4)合金を1400℃まで加熱し、その状態において5分間の保温を実施した後、加熱を停止させる。「加熱-保温-冷却-再加熱」を繰り返し、赤外線測温装置で合金の温度を随時に測定することにより、合金の過冷却温度が350℃以下にならないようにする。それにより合金の中心の凝固を獲得する。
【0039】
製造した合金をX線エネルギースペクトロメーターで測定した結果、Ti元素がα-Fe(Si、Co)結晶粒子内に均等に分布していることがわかる。製造した合金を静的ヒステリシスループで測定した結果、製造された合金の飽和磁化強度が170.0emu/gに達し、抗磁力が0.280eに達することがわかる。
【0040】
(実施例4)
過飽和固溶軟磁性材料の各成分(原子)の百分率において、Feは78.0at%であり、Siは15.0%であり、Coは4.0at%であり、Tiは3.0at%である。その軟磁性合金の製造方法はつぎのステップを含む。
【0041】
(1)組成成分の比例により、総重量が50.0gである純鉄粒子、純コバルト、純チタニウム及び純多結晶シリコン塊状原料を秤量して取った後、その原料をアーク溶解炉内に送入する。つぎに、アーク溶解炉内の気圧を4×10-3Paより小さい真空にし、電磁撹拌を起動させる。溶解を6回実施することにより成分が均等に混ぜられる合金原料を獲得する。
【0042】
(2)12.0gの合金原料をサスペンデッド電磁場に送入し、電磁場と誘導電流との間の相互作用により形成されるローレンツ力により、合金原料を加熱コイルの中心にサスペンデッド状態に安定に固定させる。
【0043】
(3)高純度アルゴンガスを保護ガスとする環境において、加熱コイルによる誘導加熱方法により合金を1500℃まで加熱し、その状態において5分間の保温を実施した後、加熱を停止させる。それにより合金の温度が自然的に下がるようにする。
【0044】
(4)合金を1500℃まで加熱し、その状態において4分間の保温を実施した後、加熱を停止させる。「加熱-保温-冷却-再加熱」を繰り返し、赤外線測温装置で合金の温度を随時に測定することにより、合金の過冷却温度が400℃以下にならないようにする。それにより合金の中心の凝固を獲得する。
【0045】
製造した合金をX線エネルギースペクトロメーターで測定した結果、Ti元素がα-Fe(Si、Co)結晶粒子内に均等に分布していることがわかる。製造した合金を静的ヒステリシスループで測定した結果、製造された合金の飽和磁化強度が178.0emu/gに達し、抗磁力が0.190eに達することがわかる。
【0046】
<付記1>
各成分の百分率において、Feは72.0~78.0at%であり、Siは12.0~18.0at%であり、Coは4.0~12.0at%であり、Tiは1.0~3.0at%である軟磁性合金を含むことを特徴とする過飽和固溶軟磁性材料。
【0047】
<付記2>
溶解ガラス浄化方法と電磁サスペンデッド溶解方法のうち1つの方法により合金溶体の安定な過冷却状態を獲得することを特徴とする付記1に記載の過飽和固溶軟磁性材料の製造方法。
【0048】
<付記3>
前記溶解ガラス浄化方法は、(1)組成成分の比例により原料を秤量して取った後、真空環境または保護ガスにおいて前記原料に対してアーク溶解または誘導加熱溶解をすることにより合金原料を獲得するステップと、
(2)合金原料を高温の石英ガラス管に送入した後、ガラス浄化剤で合金の上下表面を覆うステップと、
(3)合金と浄化剤が入っている石英ガラス管を高周波誘導コイルに挿入し、真空環境または保護ガスにおいて低パワー加熱を実施し、その場合、金属の導熱により浄化剤を溶解させかつ溶解した浄化剤で合金の表面を覆うステップと、
(4)加熱パワーを増加させることにより金属を溶解させ、加熱温度を1300~1500℃まで上昇させることにより合金溶体の過熱状態を形成し、その状態において2~5分間の保温を実施した後加熱を停止させることにより合金の温度が自然的に下がるようにするステップと、
(5)循環過熱ステップにおいて、合金に対して「加熱-保温-冷却-再加熱」を繰り返し、合金の過冷却状態を獲得するときまで赤外線測温装置で合金の温度を随時に測定し、加熱を停止させることにより合金の過冷却と凝固を獲得するステップとを含むことを特徴とする付記2に記載の過飽和固溶軟磁性材料の製造方法。
【0049】
<付記4>
前記電磁サスペンデッド溶解方法は、(1)組成成分の比例により原料を秤量して取った後、真空環境または保護ガスにおいて前記原料に対してアーク溶解または誘導加熱溶解をすることにより合金原料を獲得するステップと、
(2)合金原料の鋳塊をサスペンデッド電磁場に送入し、電磁場と誘導電流との間の相互作用により形成されるローレンツ力により、合金原料を加熱コイルの中心にサスペンデッド状態に安定に固定させるステップと、
(3)真空環境または保護ガスにおいて加熱コイルで加熱する方法により合金を溶解させ、加熱温度を1300~1500℃まで上昇させることにより合金溶体の過熱状態を形成し、その状態において2~5分間の保温を実施した後加熱を停止させることにより合金の温度が自然的に下がるようにするステップと、
(4)循環過熱ステップにおいて、合金に対して「加熱-保温-冷却-再加熱」を繰り返し、合金の過冷却状態を獲得するときまで赤外線測温装置で合金の温度を随時に測定することにより、合金の中心の凝固を獲得するステップと、を含むことを特徴とする付記2に記載の過飽和固溶軟磁性材料の製造方法。
【0050】
<付記5>
前記ステップ(1)において、前記溶解の過程において電磁撹拌を起動させ、合金インゴットに対して溶解を4~6回実施することにより成分を均等に混ぜることを特徴とする付記3に記載の過飽和固溶軟磁性材料の製造方法。
【0051】
<付記6>
前記ステップ(1)と(3)において、前記真空環境は気圧が5×10-3Paより小さい真空環境であり、前記保護ガスは純度が99.9vol%以上であるアルゴンガスまたはニトロゲンであることを特徴とする付記3に記載の過飽和固溶軟磁性材料の製造方法。
【0052】
<付記7>
前記ステップ(2)中のガラス浄化剤は、59.0~75.0wt%のSiO2と15.0~31.0wt%のNa2SiO3を主要成分とし,4.0~7.0wt%のCaO、1.8~2.0wt%のMgO、1.0~2.0wt%のAl2O3と0.1~0.3%wt%のFe2O3を安定剤とすることを特徴とする付記3に記載の過飽和固溶軟磁性材料の製造方法。
【0053】
<付記8>
前記ガラス浄化剤の製造方法において、SiO2とNa2SiO3の主要成分とCaO等の安定剤を所定の比例に混合させ、800~900℃下において5~8時間の焼成を実施することにより前記ガラス浄化剤の質量を合金原料の質量の20~25%にすることを特徴とする付記7に記載の過飽和固溶軟磁性材料の製造方法。
【0054】
<付記9>
前記ステップ(1)において、前記溶解の過程において電磁撹拌を起動させ、合金インゴットに対して溶解を4~6回実施することにより成分を均等に混ぜることを特徴とする付記4に記載の過飽和固溶軟磁性材料の製造方法。
【0055】
<付記10>
前記ステップ(1)と(3)において、前記真空環境は気圧が5×10-3Paより小さい真空環境であり、前記保護ガスは純度が99.9vol%以上であるアルゴンガスまたはニトロゲンであることを特徴とする付記4に記載の過飽和固溶軟磁性材料の製造方法。