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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023104838
(43)【公開日】2023-07-28
(54)【発明の名称】植物性ミルク飲料
(51)【国際特許分類】
   A23L 2/38 20210101AFI20230721BHJP
   A23L 2/60 20060101ALI20230721BHJP
   A23L 2/00 20060101ALI20230721BHJP
   A23C 11/06 20060101ALI20230721BHJP
【FI】
A23L2/38 C
A23L2/38 D
A23L2/60
A23L2/00 B
A23C11/06
A23L2/38 J
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022046764
(22)【出願日】2022-03-23
(31)【優先権主張番号】P 2022005694
(32)【優先日】2022-01-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000183484
【氏名又は名称】日本製紙株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100130812
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 淳
(74)【代理人】
【識別番号】100164161
【弁理士】
【氏名又は名称】三宅 彩
(72)【発明者】
【氏名】小笠原拓真
(72)【発明者】
【氏名】三原優子
(72)【発明者】
【氏名】橋本唯史
(72)【発明者】
【氏名】貞弘真歩
【テーマコード(参考)】
4B001
4B117
【Fターム(参考)】
4B001AC08
4B001AC20
4B001AC22
4B001AC43
4B001EC01
4B117LC03
4B117LG11
4B117LG24
4B117LG29
4B117LK11
4B117LL02
4B117LP01
(57)【要約】
【課題】本発明の目的は、豆乳、アーモンドミルク、オーツミルクといった植物性ミルク特有の不快な臭気、呈味を効果的にマスキングすることを課題とする。
【解決手段】ステビア抽出物を添加することで、植物性ミルク特有の不快な臭気、呈味を効果的にマスキングすることができるとともに、自然な甘味質を期待通り発揮させることができ、健康増進に貢献できる。本発明のマスキング剤として使用されるステビアは、植物由来であるため安全性が高く、植物性ミルクとの相性が良い。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
植物性ミルクとステビア抽出物とを含む、飲料
【請求項2】
前記植物性ミルクが豆乳、アーモンドミルク、オーツミルクである請求項1に記載の飲料
【請求項3】
前記ステビア抽出物が、α-グリコシル化ステビアであることを特徴とする請求項1、2に記載の飲料
【請求項4】
前記ステビア抽出物が、レバウディオサイドA誘導体(レバウディオサイドA及びその変性物)を50~100重量%、ステビオサイド誘導体(ステビオサイド及びその変性物)を0~50重量%含有していることを特徴とする請求項1~3いずれかに記載の飲料
【請求項5】
前記ステビア抽出物を、0.002重量%~0.2重量%の範囲で含有していることを特徴とする請求項1~4いずれかに記載の飲料。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は植物性ミルク飲料に関し、具体的には各植物性ミルク特有の不快な臭気、呈味を低減させた植物性ミルク飲料に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、世界規模で「食の多様化」が進み、次々と新たな食の素材やライフスタイルが出現している。特にこの数年、世界中で製品開発が活発になっているのが植物由来(プラントベース)の原料で作った食品や飲料である。例えば植物性ミルクは「ヴィーガン」と呼ばれる人たちの間で広まっている。また、次第に植物性ミルクは健康効果も注目され、さらに牛乳と比べ製造過程での環境負荷も少ない点も評価され、ヴィーガンではない人たちにも広がり始めた。さらに「乳製品アレルギー」を悩む人にとっても、周りと同じような食事を摂ることを可能にしてくれる食品として喜ばれている。
【0003】
我々日本人にとって最も身近で馴染みのある植物性ミルクは豆乳であるが、昨今では第3のミルクと言われるアーモンドミルクやオーツミルクといった製品が健康や美容への意識が高い方を中心に、「乳飲料に代わるミルク」として注目されている。
【0004】
豆乳、ライスミルク、ココナツミルク、アーモンドミルク等をはじめとした、堅果、穀物又は豆類由来の乳様液体である植物ミルクは、食物アレルギー等の健康上の理由あるいは宗教、思想又は信条上の理由により乳製品の摂取ができない人々のための牛乳の代用品として使用されるのみならず、栄養面から積極的な意義を有するものとして、近年注目されている。
【0005】
しかしながら、多くの植物性ミルクは独特の臭気と呈味を有しているため連用する際の妨げとなることもあり、かかる植物性ミルクを多量に配合する飲食品では、濃厚な味付けを行う等して植物性ミルク特有の不快な臭気、呈味を低減するために、マスキングする必要がある。
【0006】
マスキングの方法としては、一般に、香料等の添加により改良する方法や、砂糖や異性化糖などの糖類を用いて甘味を付与する方法、調味料や無機酸・有機酸を添加する方法などが採られている。
【0007】
しかし、香料の添加のみではプロテイン製品の不快な植物ミルクの呈味を十分に改善することは困難で、かつ過剰の添加はかえって製品全体の風味を損なわせる恐れがある。
【0008】
また糖類での甘味付けにより改善する方法においては製品の味わいのバランスを損ないやすく、特に糖類の場合はカロリーが付与されるので、近年の低カロリー志向にそぐわないばかりか、虫歯の誘発等の好ましくない結果を招く。
【0009】
カロリーを上昇させないために、例えばアーモンドのえぐみの改善には水溶性食物繊維および不溶性食物繊維が用いられている(特許文献1)。また、香味にすぐれた皮つきアーモンド粉砕品を含む飲料については、アーモンド粒子の平均粒子径をコントロールすることで、改善できることが記載されている(特許文献2)。さらには植物性ミルク飲料にベンゾチアゾールを添加することで、風味低下を抑制することが記載されている(特許文献3)。
しかしながら、いずれの方法も効果が十分でないためにさらなる改善が要望されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特許6539792号
【特許文献2】特開2020-80672号公報
【特許文献3】特開2021-176284号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明の目的は植物性ミルク特有の不快な臭気、呈味を低減させた飲料を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、上記課題に対して鋭意検討した結果、ステビアが、植物ミルク飲料特有の不快な呈味を効果的にマスキングできることを見出し、かかる知見に基づいてさらに研究を進めることによって本発明を完成するに至った。すなわち、本発明は以下の通りである。
すなわち本発明は、以下の[1]~[5]である。
[1] 植物性ミルクとステビア抽出物とを含む、飲料
[2] 前記植物性ミルクが豆乳、アーモンドミルク、オーツミルクである請求項1に記載の飲料
[3] 前記ステビア抽出物が、α-グリコシル化ステビアであることを特徴とする請求項1、2に記載の飲料
[4] 前記ステビア抽出物が、レバウディオサイドA誘導体(レバウディオサイドA及びその変性物)を50~100重量%、ステビオサイド誘導体(ステビオサイド及びその変性物)を0~50重量%含有していることを特徴とする請求項1~3いずれかに記載の飲料
[5] 前記ステビア抽出物を、0.002重量%~0.2重量%の範囲で含有していることを特徴とする請求項1~4いずれかに記載の飲料。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、植物ミルク特有の不快な呈味を効果的にマスキングできるとともに、自然な甘味を付与することができ風味を良好にすることができる。結果として低カロリーで自然な甘味質を期待通り発揮させることができ、健康増進に貢献できる。そして、本発明のマスキング剤として使用されるステビアは、植物由来であるため安全性が高く、植物性ミルクとの相性も良い。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下に本発明の詳細を説明する。
なお、特に記載のない場合「AA~BB%」という記載は、「AA%以上~BB%以下」を意味する。
【0015】
本発明は、ステビア抽出物と植物性ミルクを含有することを特徴とする飲料に関する。
【0016】
<ステビア抽出物>
本発明で使用するステビア抽出物は、キク科植物ステビアの葉部から抽出されるもので、ステビオサイド及びレバウディオサイドAを甘味の主成分として含有するものであり、ステビアに関しては産地や種に限定されることはない。抽出条件としては従来適応されてきたステビア甘味成分を取得する方法で良く、水、熱水、もしくは含水あるいは無水のメタノール、エタノールなどの有機溶媒にて抽出可能である。特には、抽出温度5~100℃、抽出時間1~ 24時間の範囲の条件で行うのが好ましい。また、特開昭51-23300号公報に記載されているように、水あるいは熱水抽出時に、甘味成分の抽出を効果的に行うために、石灰等でp H を1 0 程度に調整することがあるが、これらの補助薬剤の使用については、特に制限はない。
【0017】
上記方法にて取得したステビア抽出物は、抽出終了後、抽出液から残渣を分離除去したものを用いる。この残渣を分離する方法としては、自然沈降分離あるいは強制ろ過等から適宜選択できるが、効率を優先する場合には、加圧ろ過が好適である。残渣を分離除去した抽出液はこのままでも利用可能であるが、必要に応じて濃縮あるいは乾燥させて用いる。また、この濃縮液を水で希釈あるいは乾燥物を水に再溶解した後、吸着法、例えばイオン交換樹脂を用いて不純物を除去したものや、ハイポーラスポリマー( 例えば、アンバーライトX A D - 7 、オルガノ( 株) 製) のカラムに吸着させた後、親水性溶媒で溶出し濃縮したもの、あるいはこれらを乾燥させたものも使用できる。また、ステビア抽出物はステビア甘味料としてとして認可、販売されているものでも利用可能である。
【0018】
本発明のステビア抽出物(甘味料)は、ステビア抽出物全量に対し、レバウディオサイドAが50~100重量%の範囲で含まれることが好ましく、60~100重量%がさらに好ましい。
【0019】
また、ステビア抽出物全量に対し、ステビオサイドが0~50重量%の範囲で含まれることが好ましく、0~40重量%がより好ましい。
【0020】
また、ステビア抽出物全量に対し、レバウディオサイドA+ステビオサイドが50~100重量%の範囲で含まれることが好ましく、60~100重量%がさらに好ましく、70~100重量%がより好ましい。(なお、レバウディオサイドA+ステビオサイド+その他ステビア抽出成分=100重量%とする)レバウディオサイドAとステビオサイドが上記範囲にあることで、本発明の効果をより効果的に得ることができる。
【0021】
さらに、ステビア抽出物には、糖変性されたステビア抽出物も含むとする。ステビア抽出物が糖変性されている物としてはデキストリンなどを糖供与体として、α - グルコシル糖転移酵素を用いて糖を転移させたもの、及び付加した糖数をアミラーゼなどにより調節して製造したα - グルコシル化ステビア抽出物を用いることができる。具体的な製法については、特公平5 - 2 2 4 9 8 号公報、特公昭5 7 - 1 8 7 7 9 号公報に記載されている。酵素反応にて製造したα - グルコシル化ステビアは、樹脂等によってこれらを精製したものでも利用可能である。また、ステビア甘味料として認可、販売されているものでも利用可能である。
【0022】
その様なα-グルコシル化ステビアには、α-グルコシル基が1から15~20個程度付加した甘味成分が存在し、α-グルコシル平均付加数は特公平5-22498号公報や月刊フードケミカル1995年1月p.36に開示されているように次式(1)で求められる。
【0023】
その様なα-グルコシル化ステビアに含まれる、レバウディオサイドA誘導体(レバウディオサイドA及びその変性物)は、50~100重量%の範囲で含まれることが好ましく、50~90重量%がさらに好ましく、60~90重量%がより好ましい。
【0024】
またステビオサイド誘導体(ステビオサイド及びその変性物)は、0~50重量%の範囲で含まれることが好ましく、5~30重量%がさらに好ましく、5~20重量%がより好ましい。(なお、レバウディオサイドA誘導体+ステビオサイド誘導体+その他ステビア成分の誘導体=100重量%とする)
【0025】
またレバウディオサイドA誘導体+ステビオサイド誘導体は、50~100重量%の範囲で含まれることが好ましく、60~100重量%がさらに好ましく、70~100重量%がより好ましい。(なお、レバウディオサイドA誘導体+ステビオサイド誘導体+その他ステビア抽出成分の誘導体=100重量%とする)
【0026】
その様なステビア抽出物および/またはα-グルコシル化ステビア抽出物は、植物性ミルクに0.002~0.2重量%の範囲で含まれることが好ましく、0.005~0.15重量%がより好ましく、0.01 ~0.1重量%がさらに好ましい。
【0027】
ステビア抽出物が本範囲にあることで、植物性ミルクにナチュラルで甘味やさわやかな甘味を付与しつつ、植物ミルクに起因する独特な風味を抑制(マスキング効果を発揮)することができ、本発明の効果に優れることができる。
【0028】
本発明 に用いる植物性ミルクとは、例えば、各種ナッツ(アーモンド等)、大豆、オート麦、エンドウ豆、ヘンプ、ルピン豆、そら豆、ひよこ豆、大麦、小麦、米、ひえ、あわ、カナリーシード、テフ、キアヌ、又は亜麻仁を原料としたミルクを例示することができ、特に大豆を原料とした豆乳、アーモンドを原料としたアーモンドミルク、オート麦を原料意図したオーツミルクはステビア抽出物との相性が良い。この植物性ミルクとして、原料メーカーが提供する、或いは市販の植物性ミルクを購入し、本発明に用いることにしてもよい。
【0029】
また本発明にかかる植物性ミルクはpHがほぼ中性であることが好ましく、例えば4.5~8.0であることが好ましく6.0~7.5であることが特に好ましい。これは植物性ミルクに含まれるタンパク質等の安定性と、良好な風味の理由からである。
【0030】
ここで、本発明における植物ミルク及びステビア抽出物を含む飲料は、さらに、コーヒー抽出物を含有することもできる。本発明におけるコーヒー抽出物とは、コーヒー豆由来の成分を含有する液体。例えば、粉砕した焙煎豆を水や温水を用いて抽出した溶液(以下、抽出液ともいう)、又は、該溶液を濃縮したコーヒーエキスや該溶液を乾燥させたインスタントコーヒーを含む。
【0031】
また、本発明に係る植物性ミルク及びステビア抽出物を含む飲料は、本発明を損なわない範囲であれば、一般的に使用されうる、ステビア以外の甘味料や香料、各種栄養成分、各種植物抽出物、着色料、希釈剤、酸化防止剤等の食品添加物を含有させても良い。
【0032】
本発明に係る植物性ミルク飲料及びステビア抽出物を含むは、甘味料や香料、各種栄養成分、各種植物抽出物、着色料、希釈剤、酸化防止剤等の食品添加物を適宜混合することで得られる。本発明の植物性ミルク及びステビア抽出物を含む飲料においては、その製造工程において、適宜必要に応じて均質化処理や殺菌処理を加えて行うことができる。均質化処理は通常、ホモジナイザーを用いて行うことができる。均質化条件は特に限定されず、常法に従うことができる。
殺菌処理の方法は特に限定されず、通常のプレート式殺菌、チューブラー式殺菌、レトルト殺菌、バッチ殺菌、オートクレーブ殺菌等の方法を採用することができる。
殺菌処理後の本発明の植物ミルク含有飲料を容器に充填する方法としては、例えば、飲料を容器にホットパック充填し、充填した容器を冷却する方法、又は容器充填に適した温度まで飲料を冷却して、あらかじめ洗浄殺菌した容器に無菌充填する方法により行うことができる。
【0033】
以下に具体的な実施例を示すが、本発明はこれに限定されるものではない。
[植物性ミルク及びステビア抽出物を含む飲料の甘味質および異味・特異臭のマスキング性の判定基準]
官能試験は、10人のパネラーで以下の表Aおよび表Bの基準に基づいて判定し、その平均を算出して評価結果とした。
【0034】
甘味質判定基準
【0035】
【表A】
【0036】
異味・特異臭のマスキング性判定基準
【0037】
【表B】
【0038】
[実施例1~3、比較例1~4]
表1に記載の配合比(全量100mL)で3種の市販植物性ミルク
( 1 ) 豆乳 マルサンアイ社販売、製品名「濃厚10%国産大豆の無調整豆乳」
( 2 ) アーモンドミルク 江崎グリコ社販売、製品名「アーモンド効果 砂糖不使用」
( 3 ) オーツミルク ダノンジャパン社販売、製品名「alproオーツミルク 砂糖不使用」
に対して、α-グルコシル化ステビアとして「SKスイートGRA(日本製紙株式会社製)」または砂糖を添加した溶液を調製した。他素材として「ベンゾチアゾール(富士フィルム和光株式会社製)」を濃度500ppbとなるように添加したものを調製した。これら植物性ミルクの官能評価を行った。結果を表1に示す。なおBRIXとは甘味強度の指標であり、水100mlに砂糖1gが溶解している水溶液のBRIXは1である。
【0039】
表1の結果から明らかなように、ステビア抽出物を添加することで植物性ミルクが発する特有の臭不快な気、呈味をマスキングすることができ、その甘味質は自然で良好なものであった。
【0040】
植物性ミルクの組成と官能評価結果
【0041】
【表1】