(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023104846
(43)【公開日】2023-07-28
(54)【発明の名称】バリア樹脂組成物
(51)【国際特許分類】
C08L 101/00 20060101AFI20230721BHJP
C08K 9/04 20060101ALI20230721BHJP
C08L 67/00 20060101ALI20230721BHJP
C08L 1/12 20060101ALI20230721BHJP
C08L 29/04 20060101ALI20230721BHJP
【FI】
C08L101/00 ZBP
C08K9/04 ZAB
C08L67/00
C08L1/12
C08L29/04
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022088130
(22)【出願日】2022-05-31
(31)【優先権主張番号】P 2022005036
(32)【優先日】2022-01-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】592135786
【氏名又は名称】株式会社平和化学工業所
(74)【代理人】
【識別番号】100082821
【弁理士】
【氏名又は名称】村社 厚夫
(74)【代理人】
【識別番号】240000327
【弁護士】
【氏名又は名称】弁護士法人クレオ国際法律特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】畠山 和幸
(72)【発明者】
【氏名】畠山 治昌
【テーマコード(参考)】
4J002
【Fターム(参考)】
4J002AA001
4J002AB021
4J002BE021
4J002CF061
4J002CF071
4J002CF181
4J002CF191
4J002DJ006
4J002FA006
4J002FB086
4J002GG01
4J002GG02
(57)【要約】
【課題】PETに劣らないバリア性を有するバリア樹脂組成物を提供すること。
【解決手段】生分解性樹脂層であって、層状ケイ酸塩を芳香族オニウム化合物で修飾した有機化粘土を10重量%以上添加してなるバリア樹脂組成物。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
生分解性樹脂組成物であって、層状ケイ酸塩を芳香族オニウム化合物で修飾した有機化粘土を、10重量%以上添加してなることを特徴とするバリア樹脂組成物。
【請求項2】
前記有機化粘土を、20重量%以上を添加してなることを特徴とする請求項1に記載のバリア樹脂組成物。
【請求項3】
前記有機化粘土を、30重量%以上を添加してなることを特徴とする請求項1に記載のバリア樹脂組成物。
【請求項4】
前記生分解性樹脂が、ポリヒドロキシブチレートなどの微生物が生産する樹脂、ポリカプロラクトン、ポリブチレンサクシネート、ポリブチレンアジペート、ポリブチレンサクシネート・アジペート、ポリエチレンサクシネート、ポリグリコール酸、ポリ乳酸、ポリビニルアルコールなどの化学合成樹脂、酢酸セルロース、天然物を変性した樹脂の中から選ばれたものであることを特徴とする請求項1~3のうちの一項に記載のバリア樹脂組成物。
【請求項5】
前記有機化粘土が、スメクタイト系粘土鉱物を有機化したものであることを特徴とする請求項1~3のうちの一項に記載のバリア樹脂組成物。
【請求項6】
前記芳香族オニウム化合物が、アリール基に含まれる炭素原子の数の合計が6個以上18個以下である第4級アンモニウム塩であることを特徴とする請求項1~3のうちの一項に記載のバリア樹脂組成物。
【請求項7】
前記芳香族オニウム化合物が、22~32個の炭素原子を含むベンジルジメチルアルキルアンモニウムであることを特徴とする請求項1~3のうちの一項に記載のバリア樹脂組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生分解性で低透湿性のバリア樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
近時、プラスチックによる海洋汚染やごみ処理が大きな問題になり、生分解性樹脂の容器や包装品が要求されている。一方、生分解性樹脂は、透湿性が高い問題がある。生分解性樹脂を容器材料や包装材料として使用した場合、PETやHDPEHの非生分解性樹脂のものに比較すると、透湿性や加工性で劣っている。そのため、透湿性の低い生分解性樹脂、すなわちバリア性を高めた生分解性樹脂の研究開発がなされている。
【0003】
ポリ乳酸等の生分解性樹脂に有機化粘土鉱物をコンパウンドすることによってガスバリア性及び水蒸気バリア性が高められることが知られている(例えば、特許文献1、段落0003参照)。
【0004】
しかし、産業界における生分解性樹脂における粘土鉱物の含有率は、7%以下と低く、ガスバリア性及び水蒸気バリア性が低い。この含有率を上げて水蒸気バリア性を高めることができない理由は、粘土鉱物を有機化するために使用したオニウム塩等の薬剤が未反応のまま残ってしまい、オニウムイオンが解離して容器収容物に何等かの影響を与える恐れがあるからである。また、生分解性樹脂における粘土鉱物の含有率が高くなると、成形された樹脂表面が肌荒れし、外観上好ましくないだけでなく、印刷剥離が発生して印刷による加飾も困難になることが予想されるからである。
【0005】
本発明者は、一例として、バリア樹脂組成物を、層状ケイ酸塩を含まない生分解性樹脂でラミネートするなどの方法によって、バリア樹脂組成物が成型品の表面に露出しないよう複合化することにより、上述したオニウム塩等の薬剤が未反応のまま残ってしまうことや、成形された樹脂表面の肌荒れ、印刷剥離が発生する等の問題の解決が可能であると推定し、生分解性を維持したままPETまたはそれ以下の低さのガスバリア性及び水蒸気バリア性を有するバリア樹脂組成物を開発することは産業上有益であると考え、本発明を行った。
なお、層状ケイ酸塩と有機化粘土との溶融混練の方法・条件の改善により、あるいは生分解性を減少させない量の化合物の添加等により上述した問題を解決することができることも推定される。
【0006】
生分解性バリア樹脂組成物の水蒸気透過率等について改良した従来技術は、以下の通りである。
(第1従来技術)(特許文献1)
生分解性樹脂の成形体のガスバリア性を向上させるとともに、該成形体の剛性を高め、生分解速度を高めるために、粘土鉱物の陽イオンを有機オニウムイオンでイオン交換して得られる有機変性粘土鉱物を樹脂に添加するが(段落0004)、粘土鉱物の陽イオンを有機イオンでイオン交換して得られる有機変性粘土鉱物は、樹脂の加水分解を促進して成形体の剛性を低下させる(段落0009)。この剛性の低下を抑えるため、樹脂と、置換または無置換のアルキル基を有するシラン化合物でシリル化された層状ポリケイ酸とを混練して樹脂組成物を造った。
【0007】
実施例(段落0091)は、ポリ乳酸に、マガディアイトの層間に存在するシラノール基の酸素原子に、ドデシル基を有するシリル基が結合した層状有機ケイ酸を添加し、溶融混練した組成物の酸素透過度を測定した。本実施例では層状有機ケイ酸塩の含有率は4質量%である。
【0008】
酸素透過度は、92cm3/m2・24h・atmであった。ポリ乳酸100%の酸素透過度は、200cm3/m2・24h・atmであった(段落0098)。従って、ポリ乳酸に前記層状有機ケイ酸を溶融混錬したことによる酸素透過度は、54 %減少し、46%になった。
【0009】
(第2従来技術)(特許文献2)
乳酸を主たる繰り返し単位とするポリエステルに、有機オニウムイオンで処理された膨潤性層状ケイ酸塩であるモンモリロナイトを3重量%分散させた生分解性ガスバリア材料である(段落0037)。
【0010】
水蒸気透過率は、62g/m2/d (100μm)であったが、モンモリロナイトを含有しない場合は158g/m2/d (100μm)であった。すなわち、膨潤性層状ケイ酸塩を3重量%包含する生分解性ガスバリア材料は、膨潤性層状ケイ酸塩を3重量%包含することによって水蒸気透過率が、60.8%減少し、39.2%になった。
【0011】
(第3従来技術)(特許文献3)
引き裂き強度等の機械的強度に優れ、ヒートシール性も良好な脂肪族ポリエステル組成物に関する。
【0012】
脂肪族ポリエステル(A)60~99.9重量%、及び層状ケイ酸塩を有機カチオンで処理した有機粘土複合体(B)40~0.1重量%を混錬した脂肪族ポリエステル組成物の水蒸気透過率及び酸素透過率を測定した(表2)。
有機粘土複合体(B)を5重量%包含する脂肪族ポリエステル(A)は、水蒸気透過率170g/m2/24hr、酸素透過率450cc/atm・m2・24hrである。この脂肪族ポリエステル(A)100%は、水蒸気透過率540g/m2/24hr、酸素透過率4000cc/atm・m2・24hrである。
従って、有機粘土複合体(B)の添加により水蒸気透過率は68.5%減少し、31.5%となった。また、有機粘土複合体(B)の添加により酸素透過率は88.8%減少し、11.2%となった。
【0013】
有機粘土複合体(B)を3重量%包含する脂肪族ポリエステル(A)は、水蒸気透過率90g/m2/24hr、酸素透過率800cc/atm・m2・24hrである。この脂肪族ポリエステル(A)100%の水蒸気透過率480g/m2/24hr、酸素透過率1700cc/atm・m2・24hrである。
従って、有機粘土複合体(B)の添加により水蒸気透過率は81.3%減少し、18.7%となった。また、有機粘土複合体(B)の添加により酸素透過率は有機粘土複合体の添加により酸素透過率は52.9%減少し、47.1%となった。
【0014】
(第4従来技術)(特許文献4)
ガスバリア性を高めることを目的とした、極性基を有する環状オレフィン系樹脂に、層間イオンを有する有機化処理ケイ酸塩を分散させたガスバリア性組成物を開示する。
【0015】
環状オレフィン系樹脂に、5重量%の有機化処理環状ケイ酸塩を溶融混練した組成物の
水蒸気透過率30-MVTRは、2.7g/m2・day(有機化過酸化物0.05重量%)、2.1g/m2・day(有機化過酸化物0.1重量%)、1.6g/m2・day(有機化過酸化物0.2重量%)であった。
有機化処理環状ケイ酸塩を溶融混練した組成物の水蒸気透過率30-MVTRは、4.1g/m2・dayであったから、5重量%の有機化処理環状ケイ酸を包含することによって、有機化過酸化物0.05重量%の場合、34.1%減少し、65.9%になり、有機化過酸化物0.1重量%の場合、48.8%減少し、51.2%になり、有機化過酸化物0.2重量%の場合、61.0減少し、39.0%になった。
【0016】
(第5従来技術)(非特許文献1)
第5技術は、生分解性ポリ乳酸と、有機的に変形された層状ケイ酸塩との混練による組成物の酸素ガス透過性の改善(減少)に関する。前記層状ケイ酸塩は複数のナノ複合体が試験された。
乳酸100%の酸素ガス透過性は、200ml・mm/m2・day・MPaである。最も酸素ガス透過性を改善(減少)させた層状ケイ酸塩のナノ複合体を混錬させた場合の酸素ガス透過性は、71ml・mm/m2・day・MPaであった。従って、ポリ乳酸に、有機的に変形された層状ケイ酸塩との混練による組成物の酸素ガス透過性の改善(減少)させたのは、64.5%減少し、35.5%になった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0017】
【特許文献1】特開2005-154553号
【特許文献2】特開2002-338796号
【特許文献3】特開2000-017157号
【特許文献4】特開2017-043676号
【非特許文献】
【0018】
【非特許文献1】Macromol. Rapid Commun. 2003, 24, [Biodegradable Polylactide and Its Nanocomposites : Opening a New Dimension for Plastics and Composites] No.14 Table 4
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0019】
従来技術のポリ乳酸水蒸気バリア性を高める技術よれば、水蒸気バリア性は、上述したように、ポリ乳酸の本来の水蒸気バリア性の50%~30%になることが予想できるが、仮に50%~30%になったとしても、PET容器の水蒸気バリア性に比べるとまだまだ劣り、産業界において実用化されず、技術開発も低調化している。
【発明の目的】
【0020】
本発明は、従来技術の上述した課題に鑑みなされたものであって、生分解性樹脂でありながらPETに劣らない水蒸気バリア性を有するバリア樹脂組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0021】
本発明は、
生分解性樹脂層であって、層状ケイ酸塩を芳香族オニウム化合物で修飾した有機化粘土を、10重量%以上添加してなることを特徴とするバリア樹脂組成物
である。
本発明の実施態様は、以下の通りである。
前記有機化粘土を、20重量%以上を添加してなることを特徴とする。
前記有機化粘土を、30重量%以上を添加してなることを特徴とする。
前記生分解性樹脂が、ポリヒドロキシブチレートなどの微生物が生産する樹脂、ポリカプロラクトン、ポリブチレンサクシネート、ポリブチレンアジペート、ポリブチレンサクシネート・アジペート、ポリエチレンサクシネート、ポリグリコール酸、ポリ乳酸、ポリビニルアルコールなどの化学合成樹脂、酢酸セルロース、天然物を変性した樹脂の中から選ばれたものであることを特徴とする。
前記有機化粘土が、スメクタイト系粘土鉱物を有機化したものであることを特徴とする。
前記芳香族オニウム化合物が、アリール基に含まれる炭素原子の数の合計が6個以上18個以下である第4級アンモニウム塩であることを特徴とする。
記芳香族オニウム化合物が、22~32個の炭素原子を含むベンジルジメチルアルキルアンモニウムであることを特徴とする。
【発明の効果】
【0022】
本発明のバリア樹脂組成物によれば、生分解性樹脂でありながらPET樹脂に劣らない水蒸気バリア性を有するバリア樹脂組成物を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】
図1は、本発明の実施例のバリア樹脂組成物を成形した多層樹脂容器の部分切断部を含む斜視図である。
【
図2】
図2は、
図1の点線で囲む領域IIの拡大説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
本発明で使用される生分解性樹脂としては、ポリヒドロキシブチレートなどの微生物が生産する樹脂、ポリカプロラクトン、ポリブチレンサクシネート、ポリブチレンアジペート、ポリブチレンサクシネート・アジペート、ポリエチレンサクシネート、ポリグリコール酸、ポリ乳酸、ポリビニルアルコールなどの化学合成樹脂、さらに酢酸セルロース、熱可塑化澱粉などの天然物を変性した樹脂が使用可能である。
本発明で使用される有機化粘土としては、層状ケイ酸塩を芳香族オニウム化合物で修飾したものであり、芳香族オニウム化合物として、「BDMS(ベンジルジメチルアルキルアンモニウム)」が例示でき、前記「アルキル基」は炭素数13~23が例示でき、より具体的な例として、「ベンジルジメチルステアリルアンモニウム」が例示できる。層状ケイ酸塩としては、例えばモンモリロナイト、サポナイト、ヘクトライト、バイデライト、スティブンサイト等のスメクタイト系粘土鉱物を挙げることができる。また、これらの粘土鉱物を主成分とする粘土、例えばモンモリロナイトを主成分とするベントナイトを層状ケイ酸塩として使用してもよい。
【0025】
(第1実施例及び試験)
本発明の第1実施例のバリア樹脂組成物は、ポリ乳酸(PLA)と、層状ケイ酸塩を芳香族オニウム化合物で修飾した有機化粘土とを、有機化粘土の含有率が10%、20%、30%となるように混合し、溶融混練した。ポリ乳酸は、樹脂グレードがTP4000及びTE2000である。有機化粘土は、ベンジルジメチルステアリルアンモニウムで修飾した有機化ベントナイト(修飾量33.4%、d001底面感覚19.2オングストローム、トルエン(メタノール1%)中での膨潤力34.5ml/2g)である。
【0026】
前記基材を、K-トロン社製重量式軽量フィーダによって混練押出機に供給した。混練押出機は、STEER社製の同方向回転二軸混練押出機である。溶融混練された原料は、井元製作所製50トン手動油圧真空加熱プレス機によって圧縮成形され、日東精機製作所製30トン手動プレス機によって直径70mmのシートに打ち抜き加工され、冷却して試験片を形成した。
前記試験片はJIS Z 0208カップ法に準拠し、40℃・90%RHにより透湿度試験を行った。
【0027】
(第2実施例及び試験)
本発明の第2実施例のバリア樹脂組成物は、ポリブチレンサクシネート(PBS)を基材としたコンパウンド樹脂と、層状ケイ酸塩を芳香族オニウム化合物で修飾した有機化粘土とを、有機化粘土の含有率が10%、20%、30%となるように混合し、溶融混練した。前記芳香族オニウム化合物としては、ベンジルジメチルステアリルアンモニウムが例示される。
【0028】
前記基材を、第1実施例と同じく、K-トロン社製重量式軽量フィーダによって混練押出機に供給した。混練押出機は、STEER社製の同方向回転二軸混練押出機である。溶融混練された原料は、井元製作所製50トン手動油圧真空加熱プレス機によって圧縮成形され、日東精機製作所製30トン手動プレス機によって直径70mmのシートに打ち抜き加工され、冷却して試験片を形成した。
【0029】
前記試験片はJIS Z 0208カップ法に準拠し、40℃・90%RHにより透湿度試験を行った。
【0030】
(比較例)
本発明の産業上の利用性を確認するために、第1実施例及び第2実施例と同一の構成のポリエチレンテレフタレート(PET)100%の試験片を作成し、第1実施例及び第2実施例と同一の透湿度試験を行った。
【0031】
第1実施例の試験結果は、以下の通りである。透湿度の単位は、g/m2・24hである。
生分解性樹脂 樹脂グレード 粘土鉱物 透湿度
ポリ乳酸 TP4030(100%) 8.6
ポリ乳酸 TP4000(90%) (10%) 2.5(29.1%)
ポリ乳酸 TP4000(80%) (20%) 1.2(14.0%)
ポリ乳酸 TP4000(70%) (30%) 0.1(0.1%)
ポリ乳酸 TE2000(90%) (10%) 3.2(37.2%)
ポリ乳酸 TE2000(80%) (20%) 2.5(29.1%)
ポリ乳酸 TE2000(70%) (30%) 1.0(11.6%)
(樹脂グレードはユニチカ株式会社の製品のグレードを示す。)
【0032】
第2実施例の試験結果は、以下の通りである。透湿度の単位は、g/m2・24hである。
生分解性樹脂 樹脂グレード 粘土鉱物 透湿度
ポリエチレンサクシネート ZM9B02(100%) 24.0
ポリエチレンサクシネート ZM9B02(90%) (10%) 5.3(22.1%)
ポリエチレンサクシネート ZM9B02(80%) (20%) 2.0(8.3%)
ポリエチレンサクシネート ZM9B02(70%) (30%) 0.3(1.3%)
(樹脂グレードは三菱ケミカル株式会社の製品のグレードを示す。)
【0033】
本発明の効果を確認することができるようにするため、ポリエチレンテレフタレート(PET)によって前記試験と同じ条件で水蒸気透過試験を行って、以下の結果を得た。
生分解性樹脂 湿度
ポリエチレンテレフタレート(100%) 2.7
【0034】
本発明のバリア樹脂組成物は、多層樹脂容器の成形材料として使用することにより、その利点を有効に応用できる。以下に、その多層樹脂容器について説明する。
多層樹脂容器10は、
図1及び
図2に示すように、生分解性樹脂を基材として層状ケイ酸塩を芳香族オニウム化合物で修飾した有機化粘土鉱物を10重量%以上含むバリア樹脂組成物14と、バリア樹脂組成物14の内側に設けられ、前記有機化粘土鉱物を含まない内側生分解性層16を有する。
【0035】
基材層12は、ポリ乳酸(PLA)、ポリブチレンサクシネート(PBS)、ポリヒドロキシアルカノエート(PHA)、ポリブチレンアジペートテレフタレート(PBAT)、ポリカプロラクトン(PCL)、ポリビニルアルコール(PVA)、ブテンジオールビニルアルコール(BVOH)、変性デンプン樹脂、デンプン混合樹脂、酢酸セルロース等が例示される生分解性樹脂の層である。
バリア樹脂組成物14は、生分解性樹脂のポリ乳酸(PLA)、ポリブチレンサクシネート(PBS)、ポリヒドロキシアルカノイエート(PHA)、酢酸セルロースに、芳香族オニウム化合物のアンモニウム塩によって有機化処理された層状ケイ酸塩をコンパウンドした生分解性樹脂バリア樹脂である。バリア樹脂組成物14は、約10重量%の有機化粘土鉱物を包含している。
【0036】
内側生分解性層16は、粘土鉱物を含まない。内側生分解性層16は、バリア樹脂組成物14のおける層状ケイ酸塩を有機化処理した芳香族オニウム化合物の残余や層状ケイ酸塩が充填内容物に接触することを阻止する作用もなす。
内側生分解層は、用途により要求される分解速度が異ならせる。例えば、牛乳のように賞味期限の短い用途の場合、分解速度が速い樹脂を使用できる。化粧品・医薬部外品などは、3年以上の使用期限が必要なため、最低3年は分解が始まらないようにする必要がある。
応用例として、ボトル内層と外層を分解しにくい生分解性樹脂とすることが知られているL-乳酸比率の高いポリ乳酸や、カルボジイミドにより分解抑制されたPBSやPHAや、あるいは酸性~中性環境下ではほとんど分解しない酢酸セルロースなどにより構成することによって、化粧品のように使用期限が長い用途にも対応可能である」
【0037】
生分解性バリア樹脂組成物14と内側生分解性層16との間には、それらの間の剥離を防ぐため、接着層(図示せず)を設けることも可能である。
【0038】
本発明の作用効果を確認するため、さらに以下の参考実験を行った。
(実験方法)
実験方法は、生分解性樹脂と有機化処理された層状ケイ酸塩を、2軸押出機(STEER社製同方向回転二軸押出機Omega30H(登録商標)(φ30, L/D=60))にて溶融混錬を実施し、ペレット化した。得られたペレットから圧縮成形により200mm×200mmの平板を作成し、次いで打抜き加工にて円盤試験片(φ70mm)を作製し、湿度試験法(JIS Z 0208カップ法準拠)を実施した。
【0039】
(参考実験1)
生分解性樹脂として、三菱ケミカル(株)製PBS(ポリブチレンサクシネート)コンパウンドZM9B02(登録商標)、有機化処理された層状ケイ酸塩にトリメチルアルキルアンモニウムで有機化処理したベントナイト、またはトリメチルアルキルアンモニウムで有機化処理した層状ケイ酸塩、例えばクニミネ工業(株)製クニビス110(登録商標)を使用した。
生分解性樹脂に対する層状ケイ酸塩の配合比は、50重量%とした。
【0040】
(参考実験2)
生分解性樹脂として、三菱ケミカル(株)製PBS(ポリブチレンサクシネート)コンパウンドZM9B02(登録商標)、有機化処理された層状ケイ酸塩に(株)ホージュン製エスベンE(登録商標)を使用した。(株)ホージュン製エスベンE(登録商標)は、トリメチルアルキルアンモニウムで有機化処理されたベンナイト、またはトリメチルアルキルアンモニウムで有機化処理したベントナイトである。
生分解性樹脂に対する層状ケイ酸塩の配合比は、50重量%とした。
【0041】
(参考実験3)
生分解性樹脂として、三菱ケミカル(株)製PBS(ポリブチレンサクシネート)コンパウンドZM9B02(登録商標)、有機化処理された層状ケイ酸塩にベンジルジメチルステアリルアンモニウムで修飾した有機化ベントナイトを使用した。生分解性樹脂に対する層状ケイ酸塩の配合比は50重量%とした。
【0042】
(参考実験4)
生分解性樹脂として、三菱ケミカル(株)製PBS(ポリブチレンサクシネート)コンパウンドZM9B02(登録商標)、有機化処理された層状ケイ酸塩にベンジルジメチルステアリルアンモニウムで修飾した有機化ベントナイトを使用した。生分解性樹脂に対する層状ケイ酸塩の配合比は30重量%とした。
【0043】
(参考実験5)
ユニチカ(株)製PLA(ポリ乳酸)TP4030(登録商標)、有機化処理された層状ケイ酸塩にベンジルジメチルステアリルアンモニウムで修飾した有機化ベントナイトを使用した。生分解性樹脂に対する層状ケイ酸塩の配合比は50重量%とした。
【0044】
(参考実験6)
生分解性樹脂として、ハイケム(株)製PHBV(PHA系の生分解性樹脂)(登録商標)、有機化処理された層状ケイ酸塩にベンジルジメチルステアリルアンモニウムで修飾した有機化ベントナイトを使用した。生分解性樹脂に対する層状ケイ酸塩の配合比は50重量%とした。
【0045】
参考実験の評価を行うために、参考比較実験を行った。
(参考比較実験1)
三菱ケミカル(株)製PBS(ポリブチレンサクシネート)コンパウンドZM9B02(登録商標)を使用して、圧縮成形によるシートを作成し、次いで打抜き加工にて円盤試験片(φ70mm)を作製し、湿度試験法(JIS Z 0208カップ法準拠)を実施した。
【0046】
(参考比較実験2)
非生分解性樹脂として汎用的に使用されているPET樹脂を使用して、圧縮成形によるシートを作成し、次いで打抜き加工にて円盤試験片(φ70mm)を作製し、湿度試験法(JIS Z 0208カップ法準拠)を実施した。
【0047】
(参考比較実験3)
ユニチカ(株)製PLA(ポリ乳酸)TP4030を使用して、圧縮成形によるシートを作成し、次いで打抜き加工にて円盤試験片(φ70mm)を作製し、湿度試験法(JIS Z 0208カップ法準拠)を実施した。
【0048】
(参考比較実験4)
ハイケム(株)製PHBVを使用して、圧縮成形によるシートを作成し、次いで打抜き加工にて円盤試験片(φ70mm)を作製し、湿度試験法(JIS Z 0208カップ法準拠)を実施した。
【0049】
参考実験1~4及び参考比較実験1,2の結果を以下に表1に示す。
【表1】
【0050】
参考実験5及び参考比較実験2,3の結果を以下に表2に示す。
【表2】
【0051】
参考実験4,6及び参考比較実験2,4の結果を以下に表3に示す。
【表3】
【0052】
前記参考実験により、芳香族オニウム塩で修飾された層状ケイ酸塩が生分解性樹脂中における分散が良好であり、バリア性を向上できることが確認された。
参考比較実験1(PBSコンパウンド100%)に対する参考実験4(層状ケイ酸塩30%)の水蒸気透過度は、2.5%であり、PET樹脂の水蒸気透過度の22.2%(4分の1)である。
参考比較実験3(PLA100%)に対する、参考実験5(層状ケイ酸塩50%)の水蒸気透過度は、5.8%(17分の1)であり、PET樹脂の水蒸気透過度の18%(5.5分の1)である。
前記参考実験により、芳香族オニウム塩で修飾された層状ケイ酸塩を添加したPHBVでは、水蒸気の透過が検出されることはなかった。
【符号の説明】
【0053】
10 多層樹脂容器
12 基材層
14 バリア樹脂組成物
16 内側生分解性層