(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023010487
(43)【公開日】2023-01-20
(54)【発明の名称】光束分離光学系
(51)【国際特許分類】
H04N 23/10 20230101AFI20230113BHJP
【FI】
H04N9/04 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】書面
(21)【出願番号】P 2021132472
(22)【出願日】2021-07-07
(71)【出願人】
【識別番号】515333271
【氏名又は名称】株式会社三井光機製作所
(72)【発明者】
【氏名】河野 景三
(72)【発明者】
【氏名】三井 辰郎
【テーマコード(参考)】
5C065
【Fターム(参考)】
5C065BB42
5C065CC01
5C065DD01
5C065EE01
5C065EE06
(57)【要約】
【課題】 光束分離プリズム、撮像素子等を備えた光束分離光学系であって、特に顕微鏡、内視鏡、暗視カメラなどで必要な赤外光像と可視光像とを取得するのに適した色再現性、演色性に優れた光束分離光学系を提供する。
【解決手段】 本発明における光束分離光学系は、レンズにより集光された画像光の可視光成分を反射分離により取得し、赤外光成分を透過分離させる可視光用プリズムと、前記可視光用プリズムにより透過分離された前記赤外光成分を透過させる赤外光用プリズムと、前記可視光成分を可視光映像信号に変換する撮像素子と、前記赤外光成分を赤外光映像信号に変換する撮像素子と、を備えた光束分離光学系であって、前記可視光用プリズムが、前記赤外光用プリズムより前記画像光の入射光側に配置されていることを特徴とする
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
レンズにより集光された画像光の可視光成分を反射分離により取得し、赤外光成分を透過分離させる可視光用プリズムと、
前記可視光用プリズムにより透過分離された前記赤外光成分を透過させる赤外光用プリズムと、
前記可視光成分を可視光映像信号に変換する撮像素子と、
前記赤外光成分を赤外光映像信号に変換する撮像素子と、を備えた光束分離光学系であって、
前記可視光用プリズムは、前記赤外光用プリズムより前記画像光の入射光側に配置されていることを特徴とする光束分離光学系。
【請求項2】
前記可視光成分は、赤色光成分、緑色光成分および青色光成分の色成分からなり、
前記色成分のそれぞれに対応した3個のプリズムと3個の撮像素子とを備えていることを特徴とする請求項1記載の光束分離光学系。
【請求項3】
前記赤色光成分を反射し出射する第一のプリズムと出射された赤色光成分を赤色光映像信号に変換する赤色用撮像素子と、
前記緑色光成分を反射し出射する第二のプリズムと出射された緑色光成分を緑色光映像信号に変換する緑色用撮像素子と、
前記青色光成分を反射し出射する第三のプリズムと出射された青色光成分を青色光映像信号に変換する青色用撮像素子と、
前記赤外光成分を入射し出射する第四のプリズムと出射された赤外光成分を赤外光映像信号に変換する赤外光用撮像素子と、を備えていることを特徴とする請求項2記載の光束分離光学系。
【請求項4】
前記色成分のそれぞれに対応したプリズムと撮像素子との間に赤外光帯域をカットし、前記色成分のそれぞれの帯域を取得する補正フィルタが配置され、
前記赤外光成分に対応したプリズムと撮像素子との間には、近赤外光帯域を取得する補正フィルタが配置されていることを特徴とする請求項3記載の光束分離光学系。
【請求項5】
前記近赤外光帯域を取得する補正フィルタは、色素負荷観察における観察対象物質の吸光波長を取り出すバンドパスフィルタであることを特徴とする請求項4記載の光束分離光学系。
【請求項6】
前記赤色用撮像素子、前記緑色用撮像素子および前記青色用撮像素子の出力信号は、可視光映像を構成するように画像処理され、前記近赤外光用撮像素子の出力信号は、赤外光映像を構成するように画像処理され、
画像処理された可視光映像および近赤外光映像は、同一画面上で別々にまたは重畳して表示されることを特徴とする請求項2記載の光束分離光学系。
【請求項7】
請求項1ないし請求項4記載の光束分離光学系を含む観察、解析用画像処理装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光束分離プリズム、撮像素子等を備えた光束分離光学系であって、特に顕微鏡、内視鏡、暗視カメラなどの赤外光像と可視光像とを取得するのに適した色再現性、演色性に優れた光束分離プリズム構成およびそれを利用した画像処理装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ビデオカメラや静止画カメラなどに使用される固体撮像素子の進歩により高解像度で、多種類の小型化された撮像装置が可能となり、可視光(カラー)撮影のみならず近赤外(NIR)、短波長赤外(SWIR)などの画像も撮影する広帯域のマルチスペクトルカメラで小型化された製品が種々開発されている。これらのマルチスペクトルカメラは、可視光画像に加えて赤外光による波長特性により暗視画像、霧中画像、皮膚下画像、水面下撮影などの画像が取得できるため監視カメラ、車載カメラ、医療用内視鏡カメラ、皮膚疾患観察カメラなど多種多様な用途に利用されている。
【0003】
特に、顕微鏡、ダーモスコープ、内視鏡などの医療用観察、診断装置としては従来放射線画像や近赤外光画像の取得、取得した画像のスペクトル解析などにより体内や表皮の病巣の観察を行っていたが、これらの画像は単色画像であり目視観察では色彩の変化が確認困難なため色素散布により血液中のヘモグロビンの分光画像を取得したり、R(赤色)、G(緑色)、B(青色)色分離による分光画像によりカラー画像を取得し目視観察を容易にする方法が種々開示されている(特許文献1など)。更に、特許文献2では、4板光束分離プリズムを用いてIR(近赤外)光像、可視光(カラー)画像を取得し、内視鏡へ適用する技術が開示されている。
【0004】
特許文献2における4板用分光プリズムにおいては、
図10に示すように、まず赤外光(IR)成分を最初に分離し、その後でカラー画像である青色(B)成分、緑色(G)成分、赤色(R)成分を取り出しカラー画像に赤外光画像を重畳することで、病巣の表皮状態がカラー画像として表示している。
【0005】
しかし、特許文献2に使用されている4色分解プリズムでは、可視光を形成するRGBの3色分解を行う前段階で赤外光成分を分離する構成であり、プリズムの入射光側に近赤外光分離プリズムが配置されている。そのため、近赤外光分離の干渉膜および近赤外光分離プリズムを透過する際の可視光成分への影響によりカラー再現性、演色性が向上しないという欠点がある。これは、近赤外光分離を可視光分離の前に行うことでRGBそれぞれのカラー分光特性に近赤外光成分が混在するのを回避する目的であると考えられるが、画像観察、分析用等に適用する場合、疾患、病理観察は主として目視で行われ、可視光画像の演色性が重要視されるため、可視光画像の画質向上が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2013-116353号公報
【特許文献2】特開2016-178995号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
この発明は、上述の状況に鑑みて提供されるものであって、本発明は、主として以下のような課題を解決する光束分離光学系および画像処理装置の提供を目的とする。
(1)赤外光成分および可視光成分を分離する光束分離プリズムの構成で、医療用顕微鏡、内視鏡、ダーモスコープ等に適した色再現性、演色性に優れた光束分離光学系を提供する。
(2)可視光像および赤外光像を取得する光束分離プリズムの構成で、赤外光分離時の角度依存性に伴うシェーディングを少なくした小型光束分離光学系及びそれを利用した画像処理装置を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
かかる課題を解決し上記目的を達成するために、本発明における光束分離光学系は、レンズにより集光された画像光の可視光成分を反射分離により取得し、赤外光成分を透過分離させる可視光用プリズムと、前記可視光用プリズムにより透過分離された前記赤外光成分を透過させる赤外光用プリズムと、前記可視光成分を可視光映像信号に変換する撮像素子と、前記赤外光成分を赤外光映像信号に変換する撮像素子と、を備えた光束分離光学系であって、前記可視光用プリズムが、前記赤外光用プリズムより前記画像光の入射光側に配置されていることを特徴とする。
【0009】
また、本発明における前記光束分離光学系は、前記可視光成分が、赤色光成分、緑色光成分および青色光成分の色成分からなり、前記色成分のそれぞれに対応した3個のプリズムと3個の撮像素子とを備えるように構成することができる。
【0010】
また、本発明における前記光束分離光学系は、前記赤色光成分を反射し出射する第一のプリズムと出射された赤色光成分を赤色光映像信号に変換する赤色用撮像素子と、前記緑色光成分を反射し出射する第二のプリズムと出射された緑色光成分を緑色光映像信号に変換する緑色用撮像素子と、前記青色光成分を反射し出射する第三のプリズムと出射された青色光成分を青色光映像信号に変換する青色用撮像素子と、前記赤外光成分を入射し出射する第四のプリズムと出射された赤外光成分を赤外光映像信号に変換する赤外光用撮像素子と、を備えるように構成することができる。
【0011】
また、本発明における前記光束分離光学系は、前記色成分のそれぞれに対応したプリズムと撮像素子との間に赤外光帯域をカットし、前記色成分のそれぞれの帯域を取得する補正フィルタが配置され、前記赤外光成分に対応したプリズムと撮像素子との間には、近赤外光帯域を取得する補正フィルタが配置されているように構成することができる
【0012】
また、本発明における前記光束分離光学系は、前記近赤外光帯域を取得する補正フィルタが、色素負荷観察における観察対象物質の吸光波長を取り出すバンドパスフィルタであるように構成することができる
【0013】
また、本発明における前記光束分離光学系は、前記赤色用撮像素子、前記緑色用撮像素子および前記青色用撮像素子の出力信号が、可視光映像を構成するように画像処理され、前記近赤外光用撮像素子の出力信号は、赤外光映像を構成するように画像処理され、画像処理された可視光映像および近赤外光映像は、同一画面上で別々にまたは重畳して表示されるように構成することができる
【0014】
また、本発明における前記光束分離光学系は、観察、解析用画像処理装置に適用するように構成することができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明で開示された光束分離光学系は、可視光成分を反射分離するプリズムが、赤外光成分を透過分離するプリズムより画像光の入射光側に配置される構成となっているため、可視光成分は先に反射光として反射分離され、赤外光成分は透過光として取得される。このようなプリズム構成により、可視光を先に分離するため赤外光分離のための干渉膜による影響を受けず、該干渉膜の角度依存性が少なくなりカラーシェーディングが減少し、結果として色再現性、演色性が向上する。
【0016】
また、赤外光は透過光として取得するため反射分離により取得した可視光成分のバックフォーカスを調整した後に、赤外光側でのバックフォーカスはバンドパスフィルタや楔ギャップを利用して調整することが可能となり、バックフォーカス調整およびバンドパスフィルタの入れ替えが容易となること、赤外光映像単独でのオートフォーカス化などが可能となること、更に、赤外光の光路パスに自由度があるため赤外光用プリズムを短くすることで全体を小型化し得るなど、種々の効果を有する。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本発明による実施例1の光束分離光学系の構成例を示す説明図である。
【
図2】本発明による実施例1の変形構成例を示す説明図である。
【
図3】本発明による可視光プリズムの反射透過特性を示す説明図である。
【
図4】本発明による可視光補正フィルタの特性を示す説明図である。
【
図5】本発明による赤外光補正フィルタの特性を示す説明図である。
【
図6】本発明による実施例2の光束分離光学系の構成例を示す説明図である。
【
図7】本発明による実施例2の変形構成例を示す説明図である。
【
図8】本発明による光束分離光学系と従来品とのRGB各チャンネル毎シェーディング減少効果の測定比較図である。
【
図9】本発明の赤外光撮像素子および補正フィルタの取付構成例を示す図である。
【
図10】従来例の4板式光束分離光学系を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明に係る光束分離光学系およびそれらを備えた画像処理装置または撮像装置の実施形態について、図面を参照して詳細に説明する。本発明は、医療用顕微鏡やダーマスコープなどの医療用カメラおよび業務用カメラの観察、分析に用いる光束分離光学系を想定しているがこれらに限定されるものではない。また、以下の実施例に記載されているいずれの説明図や図面も本発明の説明用に概略的または模式図として描かれており、実際の寸法や形状は特に限定するものではない。また、実施例で用いているシステム構成、ブロック図、寸法、材質、形状、その相対配置および使用例は特に記載がない限り発明の技術的範囲をそれらのみに限定する趣旨のものではない。
【実施例0019】
図1は、本発明による光束分離光学系の実施例1を示す説明図である。光束分離プリズム1は、ビデオカメラ装置内に配置され、レンズ2により撮影された画像光束は、プロテクトガラス3を介して光束分離プリズム1へ入射する。このプロテクトガラス3は、医療用として使用する場合、洗浄可能とするもので、プリズム光学系への塵、不純物の侵入を防止するものあり、可視光帯域および赤外光帯域での波長特性を有するものでない。
【0020】
実施例1は、可視光用青色(B)成分、緑色(G)成分、赤色(R)成分および赤外光(IR)成分を分離し取り出す4板撮像素子に適用されるプリズム構成を示している。画像光束は、最初の青色分離プリズム4(P1)に入射し、青色成分反射分離面5において青色成分の波長帯域は反射光として反射され、それ以外の帯域成分は透過し、次段以降のプリズムへ入射する。
【0021】
青色分離プリズム4(P1)の反射分離面5により反射された青色成分光は、プリズム4の内側の反射面6により全反射するようにプリズム形状が構成されており、反射面6で全面反射された青色成分光は補正フィルタ7を介して、青色用撮像素子8へ入射する。撮像素子8は、入射した青色成分光を電気信号に変換し、青色光映像信号を出力する。なお、補正フィルタ7は、青色光帯域を選択的に取り出し、それ以外の赤外光などの不要な帯域はカットする特性を有するフィルターであり、利用目的によりトリミングフィルタ、BPF(バンドパスフィルタ)などを含むものである。
【0022】
青色分離プリズム4(P1)を透過した透過光成分は、青色帯域以外の波長帯域成分(緑色帯域、赤色帯域、赤外光帯域)であり、青色分離プリズム4の後段に配置された緑色分離プリズム9(P2)へ入射する。その入射光は、プリズム9の緑色成分反射分離面10において緑色成分の波長帯域が反射光として反射され、それ以外の帯域成分は透過し、次段以降のプリズムへ入射する。
【0023】
緑色分離プリズム9(P2)の反射分離面10により反射された緑色成分光は、プリズム9の内側の反射面11により全反射するようにプリズム形状が構成されており、反射面11で全面反射された緑色成分光は補正フィルタ12を介して、緑色用撮像素子13へ入射する。撮像素子13は、入射した緑色成分光を電気信号に変換し、緑色光映像信号を出力する。なお、補正フィルタ12は、緑色光帯域を選択的に取り出す特性を有するフィルターである。
【0024】
緑色分離プリズム9(P2)を透過した透過光成分は、青色および緑色帯域以外の波長帯域成分(赤色帯域、赤外光帯域)であり、緑色分離プリズム9の後段に配置された赤色分離プリズム14(P3)へ入射する。その入射光は、プリズム14の赤色成分反射分離面15において赤色成分の波長帯域が反射光として反射され、それ以外の帯域成分は透過し、次段以降のプリズムへ入射する。
【0025】
赤色分離プリズム14(P3)の反射分離面15により反射された赤色成分光は、プリズム14の内側の反射面16により全反射するようにプリズム形状が構成されており、反射面16で全面反射された赤色成分光は補正フィルタ17を介して、赤色用撮像素子18へ入射する。撮像素子18は、入射した赤色成分光を電気信号に変換し、赤色光映像信号を出力する。なお、補正フィルタ17は、赤色光帯域を選択的に取り出す特性を有するフィルターである。
【0026】
赤色分離プリズム14を透過した透過光成分は、青色、緑色、および赤色帯域以外の、赤外光帯域のみであり、この赤外光帯域成分は赤外光透過プリズム19(P4)を透過して出射し、赤外光用補正フィルタ20を介して、赤外光用撮像素子21へ入射する。撮像素子21は、入射した赤外光成分光を電気信号に変換し、赤外光像信号を出力する。なお、この赤外光用補正フィルタ20は、利用目的により所望の赤外光帯域を取り出すバンドパスフィルタであり、例えば医療解析用色素負荷検査などでは、特定の色素(ヨウ素など)の吸光度特性に合わせた波長帯域を主として取り出すフィルタなどで構成される。
【0027】
ここで、青色分離プリズム4(P1)と緑色分離プリズム9(P2)との間にはエアギャップ22が設けられて光路の相互干渉を防止している。同様に、緑色分離プリズム9(P2)と赤色分離プリズム14(P3)との間にもエアギャップ23が設けられている。このエアギャップ22および23は、ギャップ間隔が5から10μmで構成されている。また、赤色分離プリズム14(P3)と赤外光透過プリズム19(P4)とは密着されて赤外光成分を透過させており、エアギャップを設ける必要はない。本実施例では青色(B)、緑色(G)、赤色(R)の順に可視光成分を反射により取得しているが、それぞれの可視光成分の取得順はいずれの順番でも構わない。ここで重要なことは、青色(B),緑色(G),および赤色(R)から成る可視光成分が赤外光(IR)成分より前段で取得され、赤外光成分がレンズから可視光プリズムの透過光として透過光軸(X―X’)上で取得される点である。また、それぞれのエアギャップを構成するプリズムの各面には反射防止膜(AR)が施されている。この反射防止膜はプリズムと空気との屈折率の相違により生じる反射を防止し、反射による画像への影響を阻止するためのものである。
【0028】
可視光成分の反射膜である青色分離プリズム4(P1)における青色反射分離面5、緑色分離プリズム9(P2)における緑色反射分離面10、赤色分離プリズム14(P3)における赤色反射分離面15は、金属膜の蒸着コーティングや誘電体多層膜のコーティングにより形成されている。金属薄膜としては、アルミニュウム(Al)や金(Au)などのアルミコートや金コートが用いられ、また、誘電体膜としては積層誘電体膜を用いる事ができる。本発明のプリズム構成では可視光成分を先にプリズム反射により取得し、赤外光成分は透過により取得しているため、いずれの反射材料や方式であっても許容範囲は広いが、当然、取得する波長帯域別に反射ロスが少なく、角度依存性が少ないものが好ましい。
【0029】
図3にそれぞれの光束分離プリズムの反射・透過特性の一例を示す。
図3(a)は、青色分離プリズズム4(P1)の反射分離面5の反射・透過特性を示す。ここでの青色波長反射成分は、略485nm以下の波長を反射させ、それ以上の波長成分である緑色成分、赤色成分、赤外光成分を透過させている。
図3(b)は、緑色分離プリズズム9(P2)の反射分離面10の反射・透過特性を示す。ここでの緑色波長反射成分は、略600nm以下の範囲の波長を反射させ、それ以外の波長成分である赤色成分および赤外光成分を透過させている。また、
図3(c)は、赤色分離プリズズム14(P3)の反射分離面15の反射・透過特性を示す。ここでの赤色波長反射成分は、略670nm以下の範囲の波長を反射させ、それ以上の波長成分である赤外光成分を透過させている。
【0030】
上述の通り、各プリズムの反射特性は、可視光成分であるR、G、Bそれぞれの波長特性を含む帯域の波長を反射分離して取り出すが、反射材やコーティングのばらつきにより所望帯域以外の波長成分(赤外光成分を含む)が混在する可能性があるため、それぞれの可視光分離プリズムの出射面と撮像素子との間に補正フィルタを設けることが望ましい。
図4は、可視光成分R、G、Bそれぞれの補正透過特性の一例を示している。この実施例においては、青色成分と緑色成分とのクロスポイントは、略480nmであり、緑色成分と赤色成分とのクロスポイントは、略575nmである。
【0031】
また、赤外光透過プリズム19の出射面と赤外光用撮像素子21との間には赤外光用補正フィルタ20を設けることが望ましい。
図5は、赤外光用補正フィルタ20の透過特性の一例を示している。この赤外光用フィルタ20は、近赤外光(NIR)および短波長赤外光(SWIR)の波長帯域へ適用可能であるが、それぞれの赤外光補正特性を有するフィルタを使用目的に応じて適用する。
図5では、インドシアニングリーン(ICG)検査法などで用いられる860nmの吸光度近傍を取り出すフィルタの特性例を示している。撮像装置が顕微鏡や皮膚疾患観察用ダーモスコープなどでは、このフィルタ20は、観察する利用目的によりバンドパスフィルタ(BPF)として入れ替えたりすることで種々の血管内成分の赤外光帯域に吸光度特性を有する色素負荷検査等にも適用することができる。
【0032】
図2に示すプリズム構成は、
図1に示す4板撮像素子用プリズムの変形構成であり、
図1に相当する各部材には同じ番号が付されている。
図1では、赤色分離プリズム14(P3)の反射赤色光成分がプリズム内の全反射面16により全反射されて出射し、赤色補正フィルタ17を介して赤色用撮像素子18で取得している。そのため、赤色用撮像素子18の赤色光映像は他の青色光映像、緑色光映像、赤外光映像と同じ正像として取得することができるのに対し、
図2での実施例では、赤色分離プリズム24(P3)の赤色反射分離面15で反射された赤色反射光成分は直接プリズム外へ出射し、赤色補正フィルタ17を介して、赤色用撮像素子18へ入射する。したがって、赤色撮像素子18で得られる赤色光像は、反転した裏像となって取得される。
【0033】
このようなプリズム構成では、プリズム形状が簡素であり、製造上の利点も考えられるが、赤色光映像を正像として取得するには、画像反転手段(図示せず)により反転させて画像処理する必要がある。なお、このプリズム構成において、赤色光成分は赤色分離反射面15で反射するのみで緑色分離プリズムに面した面での全反射を行っていないので緑色分離プリズム9(P2)と赤色分離プリズム24(P3)との接触面、および赤色分離プリズム24(P3)と赤外光透過プリズム25(P4)との接触面とはそれぞれ密着されておりエアギャップを設ける必要はない。
入射光束は、最初に可視光分離プリズム61(P1)へ入射し、可視光成分反射面63で可視光成分が反射され、それ以外の光束成分(主として赤外光成分)は透過する。反射分離された可視光成分は、可視光補正フィルタ64を介して可視光用撮像素子65へ入射する。可視光撮像素子65は、カラー映像を取得する場合、単板カラー撮像素子で構成され、ベイヤー配列フィルタなどでフィルタリングして取得した青色(B)、緑色(G)、赤色(R)の3原色信号を順次映像信号として取り出す。
可視光分離プリズム61(P1)を透過した赤外光成分は、赤外光透過プリズム62(P2)より赤外光用補正フィルタ66を介して赤外光用撮像素子67へ入射する。赤外光用撮像素子67では、入射した赤外光を赤外光映像信号として取り出す。この実施例2においても可視光成分は、赤外光成分を取得する前段階で取得され、赤外光は透過光軸X-X’上で取得される構成となっている。これにより、実施例1と同様の効果を得ることができる。
前述の実施例1および実施例2においては、4板撮像素子用光束分離プリズムおよび2板撮像素子用光束分離プリズムを説明したが、可視光成分と赤外光成分を分離する光束分離光学系であれば、それ以外の多板式撮像素子用光束分離光学系に適用することもできる。
また、レンズ・バックフォーカス微調整に際しては、従来のように赤外光成分を最初に分離する赤外光分離プリズムが存在する場合、赤外光分離プリズムが可視光成分のバックフォーカス調整に影響するため、赤外光分離プリズムの干渉膜の影響により可視光成分のバックフォーカス微調整に影響を与えていた。しかし、本発明においては、まず可視光成分である青色成分(B)、緑色成分(G)、赤色成分(R)のバックフォーカスの微調整を赤外光分離プリズムの影響を受けることなく行うことができる。
更に、赤外光成分の取得は、レンズ入射光束の光軸X-X’上でおこなわれるため、可視光成分の各成分のバックフォーカスのズレに影響することがない。従って、赤外光領域のバンドパスフィルタ(BPF)を自由に入れ替えることも可能となる。このことは、前述の通り、医療用ICS(インドシアニングリーン)検査法などで赤外光成分に吸光度を有する波長を取り出すバンドパスフィルタを適用し、色素負荷検査などで用いるのに極めて好都合である。
更に、赤外光成分のバックフォーカスはその光学パス精度が厳密でなくても取得可能であるため、赤外光成分を光軸X-X’上で取得する本発明の方式では赤外光成分透過プリズム(P4)を短くすることで光束分離プリズムへの入射から赤外光撮像素子までのプリズム全長を短縮することもできる。
また、顕微鏡などでの赤外光領域のバックフォーカスずれを可視光成分のバックフォーカスとは関係なく調整できるため、赤外光成分画像取得において赤外光単独でのオートフォーカスを可能とすることができる。この赤外光でのオートフォーカス機能は、暗視カメラでの夜間撮影、雲や霧中を透視しての撮影などにも適用することが可能である。本発明による光束分離光学系では、赤外光像とカラーシェーディングの影響を少なくした演色性に優れた可視光(カラー)像とが同時に取得できるため、赤外光像および可視光像を別々に顕微鏡やモニター上に表示して比較、観察、分析を行ったり、また、赤外光像による皮下部分観察、霧・雲中を透過した映像、暗視映像を取得し、同時に取得したカラー画像を赤外光像に重畳してモニター上に表示することでより鮮明な画像の観察、分析などの処理を行う画像処理装置、各種マルチスペクトルカメラ等に適用することができる。