(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023104898
(43)【公開日】2023-07-28
(54)【発明の名称】伝動用Vベルト及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
F16G 5/06 20060101AFI20230721BHJP
F16G 5/20 20060101ALI20230721BHJP
【FI】
F16G5/06 Z
F16G5/06 A
F16G5/20 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023002509
(22)【出願日】2023-01-11
(31)【優先権主張番号】P 2022005920
(32)【優先日】2022-01-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000006068
【氏名又は名称】三ツ星ベルト株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001841
【氏名又は名称】弁理士法人ATEN
(72)【発明者】
【氏名】柴田 将宜
(72)【発明者】
【氏名】逸見 祐介
(57)【要約】
【課題】耐側圧性に優れるとともに、屈曲性が良好であって、走行中の発熱が小さく、速比変化率が小さい伝動用Vベルト及びその製造方法を提供する。
【解決手段】ベルト幅方向の断面がV字状で、両側面1zに摩擦伝動面を有する伝動用Vベルト1に関して、ベルト外周側1yに積層された、伸張層3と、伸張層3の内周側に積層され、心線4aがベルト長手方向に沿って埋設された、芯体層4と、芯体層4の内周側に積層された、圧縮層5とを含み、伸張層3は、撚りコード2aがベルト幅方向と略平行に配列された、撚りコード配列層2を含み、撚りコード2aの1%伸び時荷重と撚りコード2aの配列密度とを掛けた値である、撚りコード配列層2の補強度を10000N/100mm以上とした。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ベルト幅方向の断面がV字状で、前記ベルト幅方向の両側に摩擦伝動面を有する伝動用Vベルトであって、
当該伝動用Vベルトの外周側に積層された、伸張層と、
前記伸張層の内周側に積層され、心線がベルト長手方向に沿って埋設された、芯体層と、
前記芯体層の内周側に積層された、圧縮層と、を含み、
前記伸張層は、撚りコードが前記ベルト幅方向と略平行に配列された、撚りコード配列層を含み、
前記撚りコードの1%伸び時荷重と前記撚りコードの配列密度とを掛けた値である、前記撚りコード配列層の補強度が、10000N/100mm以上である、伝動用Vベルト。
【請求項2】
前記撚りコード配列層は、一層のみである、請求項1に記載の伝動用Vベルト。
【請求項3】
前記撚りコード配列層は、前記伸張層にのみ含まれている、請求項1に記載の伝動用Vベルト。
【請求項4】
前記撚りコード配列層に配列された、前記撚りコードの直径は、0.5~0.9mmの範囲である、請求項1に記載の伝動用Vベルト。
【請求項5】
前記撚りコード配列層に配列された、前記撚りコードの配列密度は、100本/100mm~300本/100mmの範囲である、請求項1に記載の伝動用Vベルト。
【請求項6】
前記撚りコード配列層に配列された、前記撚りコードの撚り係数(下撚りの撚り係数および上撚りの撚り係数)は、0.1~5.0の範囲である、請求項1に記載の伝動用Vベルト。
【請求項7】
前記撚りコード配列層に配列された、隣り合う前記撚りコードの間の距離の平均値は、0.01~0.2mmの範囲である、請求項1に記載の伝動用Vベルト。
【請求項8】
前記芯体層に埋設された前記心線と、前記撚りコード配列層に配列された前記撚りコードとの間の距離は、0.05~0.5mmの範囲である、請求項1に記載の伝動用Vベルト。
【請求項9】
ベルト幅方向の断面がV字状で、当該ベルト幅方向の両側に摩擦伝動面を有する伝動用Vベルトの製造方法であって、
第1接着ゴムと、複数の撚りコードを平行に配列させた後に、当該撚りコードの長手方向と直交する方向に延びる連結糸で連結したスダレと、第2接着ゴムとを積層し、加熱及び押圧して、前記第1接着ゴム、前記スダレ、及び、前記第2接着ゴムが一体化した、撚りコード配列層用シートを作製する、撚りコード配列層用シート作製工程と、
円筒状の金型の外周上に、圧縮ゴム層用シート、接着ゴム層用シートを巻き付け、前記接着ゴム層用シートの上に、心線を螺旋状に巻き、更に、前記撚りコードの長手方向が前記金型の軸方向と略平行になるように、前記撚りコード配列層用シートを巻き付けて、未架橋スリーブを形成する、未架橋スリーブ形成工程と、
前記未架橋スリーブを架橋して架橋スリーブを形成する、架橋スリーブ形成工程と、
前記架橋スリーブを所定幅でカットし、ベルト幅方向の断面をV字状に加工して、伝動用Vベルトを得る、加工工程と、を含む、伝動用Vベルトの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ローエッジVベルトやローエッジコグドVベルトなどのローエッジタイプの伝動用Vベルト及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
摩擦伝動により動力を伝達するVベルトには、摩擦伝動面が露出したゴム層であるローエッジ(Raw-Edge)タイプ(ローエッジVベルト)と、摩擦伝動面(V字状側面)がカバー布で覆われたラップド(Wrapped)タイプ(ラップドVベルト)とがあり、摩擦伝動面の表面性状(ゴム層とカバー布との摩擦係数)の違いから用途に応じて使い分けられている。
【0003】
また、ローエッジタイプのベルトには、コグを設けないローエッジVベルトの他、ベルトの下面(内周面)のみにコグを設けて屈曲性を改善したローエッジコグドVベルトや、ベルトの下面(内周面)および上面(外周面)の両方にコグを設けて屈曲性を改善したローエッジコグドVベルト(ローエッジダブルコグドVベルト)がある。
【0004】
ローエッジVベルトやローエッジコグドVベルトは、主として、一般産業機械、農業機械の駆動、自動車エンジンでの補機駆動などに用いられる。また、他の用途として自動二輪車などのベルト式無段変速機に用いられる変速ベルトと呼ばれるローエッジコグドVベルトがある。
【0005】
図2に示すように、ベルト式無段変速機30は、駆動プーリ31と従動プーリ32に伝動用Vベルト1を巻き掛けて、変速比を無段階で変化させる装置である。各プーリ31、32は、軸方向への移動が規制又は固定された固定シーブ31a、32aと、軸方向に移動可能な可動シーブ31b、32bとからなり、これらの固定シーブ31a、32aと可動シーブ31b、32bとで形成されるプーリ31、32のV溝の幅を連続的に変更できる構造を有している。前記伝動用Vベルト1は、幅方向の両端面が各プーリ31、32のV溝の対向面と傾斜が合致するテーパ面で形成され、変更されたV溝の幅に応じて、プーリ半径方向の任意の位置に嵌まり込む。例えば、駆動プーリ31のV溝の幅を狭く、従動プーリ32のV溝の幅を広くすることにより、
図2の(a)に示す状態から
図2の(b)に示す状態に変更すると、伝動用Vベルト1は、駆動プーリ31側ではプーリ半径方向の外周側へ、従動プーリ32側ではプーリ半径方向の内周側へ移動し、各プーリ31、32への巻き掛け半径が連続的に変化して、変速比を無段階で変化できる。このような用途に用いる変速ベルトは、駆動プーリと従動プーリとの二軸間の巻き掛け回転走行だけでなく、プーリ半径方向への移動、巻き掛け半径の連続的変化による繰り返される屈曲動作など、高負荷環境での過酷な動きに耐用すべく特異的な設計がなされている。
【0006】
特に、近年では自動二輪車の高排気量化が進んでおり、ベルトが伝達する動力も増大している。伝達動力を高めるためには、ベルトの張力を上げる必要があるが、ベルトの張力を上げるとベルトの幅方向の中央付近が内周側へ沈み込んで変形する「座屈」や「ディッシング」と呼ばれる現象が発生しやすくなる。ディッシングが発生すると、心線とゴム層との界面に応力が集中するため、心線とゴム層との間で剥離が生じやすくなる。この現象は、特に心線の下側(内周側)で顕著であり、心線の下側で剥離が生じる現象は心線下剥離と呼ばれている。
【0007】
心線下剥離を抑制するためには、プーリのV溝の対向面からベルト幅方向に作用する力に対する抵抗力、すなわち耐側圧性を高めるのが有効である。具体的な対策としては、Vベルトの圧縮層や伸張層を形成するゴム組成物に短繊維を配合したり、コード、スダレ、織布などを埋設したりする方法が知られている。
【0008】
例えば、特許文献1には、圧縮層および伸張層に合成繊維フィラメント束を横方向に埋設した伝動用Vベルトが開示されている。フィラメント束の材質としては芳香族ポリアミドなどが例示され、モノフィラメントを多数集束して接着処理を施し、撚りをかけて硬化せしめた直径1.0~2mmのフィラメント束であってよいことが記載されている(p.4、p.5、p.7などを参照)。そして、発明の効果として、埋設されるフィラメント束の剛性が大きいためベルト横方向の変形が全くなく、ベルト側面の耐側圧性、伝達力を著しく向上できることが記載されている。
【0009】
また、特許文献2には、抗張体部の上下両側にベルト幅方向に剛性を付与する補強部材を付加したローエッジタイプのVベルトが開示されている。補強部材はコード、スダレ、または織布であってもよく、実施例ではスダレ(スダレコード)が付加されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】実開昭57-186735号公報
【特許文献2】実開平2-22434号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
上記特許文献1、2に記載された構成は、伝動用Vベルトの耐側圧性の向上に一定の効果を示すものの、屈曲性が低下したり発熱が増大したりするといった問題があった。また、伝動用Vベルトが変速ベルトとして使用される際に要求される特性のひとつとして速比変化率(駆動プーリと従動プーリとの回転数の比の変化率)があるが、速比変化率を小さく保つ効果も十分ではなかった。速比変化率が大きくなると、自動二輪車を運転中に表示される速度と実際の速度とに差が生じる原因となるため、安全性の面から問題があった。
【0012】
そこで、本願発明の課題は、耐側圧性に優れるとともに、屈曲性が良好であって、走行中の発熱が小さく、速比変化率が小さい伝動用Vベルト及びその製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、ベルト幅方向の断面がV字状で、前記ベルト幅方向の両側に摩擦伝動面を有する伝動用Vベルトであって、
当該伝動用Vベルトの外周側に積層された、伸張層と、
前記伸張層の内周側に積層され、心線がベルト長手方向に沿って埋設された、芯体層と、
前記芯体層の内周側に積層された、圧縮層と、を含み、
前記伸張層は、撚りコードが前記ベルト幅方向と略平行に配列された、撚りコード配列層を含み、
前記撚りコードの1%伸び時荷重と前記撚りコードの配列密度とを掛けた値である、前記撚りコード配列層の補強度が、10000N/100mm以上であることを特徴としている。
【0014】
上記構成によれば、撚りコードがベルト幅方向に配向しているため、伝動用Vベルトの屈曲性をあまり低下させることなく、耐側圧性を向上させることができる。
また、伸張層に、補強度が10000N/100mm以上である撚りコード配列層を含ませることにより、引張弾性率の大きい撚りコードを密に配列し、耐側圧性を大きく高めることが可能となる。これにより、本発明に係る伝動用Vベルトが、ベルト式無段変速機の変速ベルトとして使用される場合に要求される特性のひとつである、速比変化率(駆動プーリと従動プーリとの回転数の比の変化率)を小さくすることができる。例えば、この速比変化率を小さくした、本発明に係る伝動用Vベルトを、自動二輪車のベルト式無段変速機に使用した場合、走行中の発熱を小さくすることができるとともに、運転中に表示される速度と実際の速度との間の差を小さくすることができる。
【0015】
また、本発明は、上記伝動用Vベルトにおいて、前記撚りコード配列層が、一層のみであることを特徴としてもよい。
【0016】
撚りコード配列層の数が多くなると、伝動用Vベルトの屈曲性が低下しやすくなる。そのため、伝動用Vベルトにおいて、撚りコード配列層は一層のみとして伝動用Vベルトの屈曲性を確保することができる。
【0017】
また、本発明は、上記伝動用Vベルトにおいて、前記撚りコード配列層が、前記伸張層にのみ含まれていることを特徴としてもよい。
【0018】
撚りコード配列層を芯体層の内周側に積層される圧縮層に設けた場合、伝動用Vベルトが屈曲する際に撚りコード同士が干渉することによって伝動用Vベルトの屈曲性が低下する場合がある。そこで、撚りコード配列層を芯体層の外周側に積層される伸張層にのみ設けることにより、伝動用Vベルトが屈曲する際に撚りコード同士が干渉することがなくなるため、伝動用Vベルトの屈曲性を良好に維持することができる。
【0019】
また、本発明は、上記伝動用Vベルトにおいて、前記撚りコード配列層に配列された、前記撚りコードの直径が、0.5~0.9mmの範囲であることを特徴としてもよい。
【0020】
撚りコードの直径が大きい場合は、伝動用Vベルトの屈曲性が低下しやすく、小さい場合は耐側圧性が十分に向上しない。
そこで、直径が0.5~0.9mmの撚りコードを使用することにより、伝動用Vベルトの屈曲性を良好に保つことができる。
【0021】
また、本発明は、上記伝動用Vベルトにおいて、前記撚りコード配列層に配列された、前記撚りコードの配列密度が、100本/100mm~300本/100mmの範囲であることを特徴としてもよい。
【0022】
撚りコードの配列密度が小さい場合は、撚りコード配列層の補強度を十分に向上できない虞がある。一方、撚りコードの配列密度が大きい場合は、伝動用Vベルトの製造工程において、撚りコード配列層に撚りコードを配列させるための工数が増加するので好ましくない。
そこで、撚りコードの配列密度を、100本/100mm~300本/100mmの範囲にすることにより、上記問題を解消し得る。
【0023】
また、本発明は、上記伝動用Vベルトにおいて、前記撚りコード配列層に配列された、前記撚りコードの撚り係数(下撚りの撚り係数および上撚りの撚り係数)が、0.1~5.0の範囲であることを特徴としてもよい。
【0024】
撚りコードの撚り係数が大きいと耐側圧性が十分に向上しない。一方、撚り係数が小さいとほつれやすくなるため、伝動用Vベルトの製造工程において、撚りコード配列層を作製する作業が困難となる。
そこで、撚りコードの撚り係数を、0.1~5.0の範囲にすることにより、上記問題を解消し得る。
【0025】
また、本発明は、上記伝動用Vベルトにおいて、前記撚りコード配列層に配列された、隣り合う前記撚りコードの間の距離の平均値が、0.01~0.2mmの範囲であることを特徴としてもよい。
【0026】
隣り合う撚りコードの間の距離が小さい場合は伝動用Vベルトの屈曲性が低下しやすく、隣り合う撚りコードの間の距離が大きい場合は伝動用Vベルトの耐側圧性が十分に向上しない場合がある。
そこで、隣り合う撚りコードの間の距離の平均値を、0.01~0.2mmの範囲にすることにより、上記問題を解消し得る。
【0027】
また、本発明は、上記伝動用Vベルトにおいて、前記芯体層に埋設された前記心線と、前記撚りコード配列層に配列された前記撚りコードとの間の距離が、0.05~0.5mmの範囲であることを特徴としてもよい。
【0028】
伝動用Vベルトは心線を中心として屈曲する。上記の心線と撚りコードとの間の距離が大きい場合、伝動用Vベルトを屈曲させる際の撚りコード配列層の変形量が大きくなるため、伝動用Vベルトの屈曲性が低下しやすくなる。一方、上記の心線と撚りコードとの間の距離が小さすぎると心線と撚りコードとが接触して損傷しやすくなる。
そこで、上記の心線と撚りコードとの間の距離を、0.05~0.5mmの範囲にすることにより、上記問題を解消し得る。
【0029】
また、本発明は、ベルト幅方向の断面がV字状で、当該ベルト幅方向の両側に摩擦伝動面を有する伝動用Vベルトの製造方法であって、
第1接着ゴムと、複数の撚りコードを平行に配列させた後に、当該撚りコードの長手方向と直交する方向に延びる連結糸で連結したスダレと、第2接着ゴムとを積層し、加熱及び押圧して、前記第1接着ゴム、前記スダレ、及び、前記第2接着ゴムが一体化した、撚りコード配列層用シートを作製する、撚りコード配列層用シート作製工程と、
円筒状の金型の外周上に、圧縮ゴム層用シート、接着ゴム層用シートを巻き付け、前記接着ゴム層用シートの上に、心線を螺旋状に巻き、更に、前記撚りコードの長手方向が前記金型の軸方向と略平行になるように、前記撚りコード配列層用シートを巻き付けて、未架橋スリーブを形成する、未架橋スリーブ形成工程と、
前記未架橋スリーブを架橋して架橋スリーブを形成する、架橋スリーブ形成工程と、
前記架橋スリーブを所定幅でカットし、ベルト幅方向の断面をV字状に加工して、伝動用Vベルトを得る、加工工程と、を含むことを特徴としている。
【0030】
複数の撚りコードは、1本1本が独立した状態であると、平行に配列させるのが困難であるため、あらかじめ、複数の撚りコードを平行に配列させた後に、当該撚りコードの長手方向と直交する方向に延びる連結糸で連結したスダレを用いることにより、伸張層に、撚りコードがベルト幅方向と略平行に配列された、撚りコード配列層を含む伝動用Vベルトの製造工程の効率化を図ることができる。
【発明の効果】
【0031】
耐側圧性に優れるとともに、屈曲性が良好であって、走行中の発熱が小さく、速比変化率が小さい伝動用Vベルト及びその製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【
図1】本実施形態に係る伝動用Vベルトを示す斜視断面図である。
【
図2】(a)、(b)は、本発明の一実施形態に係るコグ付きVベルトを無段変速機に適用した例を示す断面図である。
【
図3】
図1に示す伝動用VベルトのA-A断面の写真である。
【
図4】
図1に示す伝動用VベルトのA-A断面図である。
【
図5】伝動用Vベルトの製造方法に係る撚りコード配列層用シート作製工程の説明図である。
【
図6】比較例5に係る圧縮層に撚りコード配列層を含む伝動用Vベルトの断面図である。
【
図8】実施例に係る屈曲性試験の結果を示すグラフである。
【
図9】実施例に係る速比変化率の結果を示すグラフである。
【
図10】実施例に係る耐久走行試験のベルト側面温度の測定結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0033】
(伝動用Vベルト1の構成)
本発明の実施形態に係る伝動用Vベルト1は、
図1、
図3及び
図4に示すように、ベルト外周側1yからベルト内周側1xに向かって、伸張層3、芯体層4及び圧縮層5が順次積層された構造を有している。芯体層4内には、ベルト長手方向に延在する心線4aが埋設されている。また、伸張層3は、複数の撚りコード2aがベルト幅方向と略平行に配列された、撚りコード配列層2を含んでいる。
【0034】
伝動用Vベルト1におけるベルト長手方向と直交する断面は、ベルト外周側1yからベルト内周側1xに向かってベルト幅が小さくなる逆台形形状である。即ち、伝動用Vベルト1は、ベルト幅方向の断面がV字状で、ベルト幅方向の両側面1zに摩擦伝動面を有する伝動用Vベルトである。また、伝動用Vベルト1におけるベルト内周側1xには、複数のコグ1aが形成されている。複数のコグ1aは、圧縮層5に形成されており、ベルト幅方向にそれぞれ延在しかつベルト長手方向に互いに離隔して配置されている。
【0035】
伸張層3(撚りコード2aを除く)、芯体層4(心線4aを除く)及び圧縮層5は、ゴム成分を含むゴム組成物で形成されている。さらに、圧縮層5を構成するゴム組成物は、短繊維を含む。なお、伸張層3を構成するゴム組成物も、短繊維を含んでいてもよいが必須ではない。
【0036】
ゴム成分としては、加硫又は架橋可能なゴムを用いてよく、例えば、ジエン系ゴム(天然ゴム、イソプレンゴム、ブタジエンゴム、クロロプレンゴム、スチレンブタジエンゴム(SBR)、アクリロニトリルブタジエンゴム(ニトリルゴム)、水素化ニトリルゴム等)、エチレン-α-オレフィンエラストマー、クロロスルフォン化ポリエチレンゴム、アルキル化クロロスルフォン化ポリエチレンゴム、エピクロルヒドリンゴム、アクリル系ゴム、シリコーンゴム、ウレタンゴム、フッ素ゴム、のうちの1種又は2種以上を組み合わせたものを用いてよい。好ましいゴム成分は、エチレン-α-オレフィンエラストマー(エチレン-プロピレン共重合体(EPM)、エチレン-プロピレン-ジエン三元共重合体(EPDM)等)、及び、クロロプレンゴムである。特に好ましいゴム成分は、クロロプレンゴムである。クロロプレンゴムは、硫黄変性タイプ及び非硫黄変性タイプのいずれでもよい。
【0037】
ゴム組成物に、添加剤を追加してもよい。添加剤としては、例えば、加硫剤又は架橋剤(又は架橋剤系)(硫黄系加硫剤等)、共架橋剤(ビスマレイミド類等)、加硫助剤又は加硫促進剤(チウラム系促進剤等)、加硫遅延剤、金属酸化物(酸化亜鉛、酸化マグネシウム、酸化カルシウム、酸化バリウム、酸化鉄、酸化銅、酸化チタン、酸化アルミニウム等)、補強剤(例えば、カーボンブラックや、含水シリカ等の酸化ケイ素)、充填剤(クレー、炭酸カルシウム、タルク、マイカ等)、軟化剤(例えば、パラフィンオイルや、ナフテン系オイル等のオイル類)、加工剤又は加工助剤(ステアリン酸、ステアリン酸金属塩、ワックス、パラフィン、脂肪酸アマイド等)、老化防止剤(酸化防止剤、熱老化防止剤、屈曲き裂防止剤、オゾン劣化防止剤等)、着色剤、粘着付与剤、可塑剤、カップリング剤(シランカップリング剤等)、安定剤(紫外線吸収剤、熱安定剤等)、難燃剤、帯電防止剤、のうちの1種又は2種以上を組み合わせたものを用いてよい。なお、金属酸化物は架橋剤として作用してもよい。また、特に芯体層4を構成するゴム組成物は、接着性改善剤(レゾルシン-ホルムアルデヒド共縮合物、アミノ樹脂等)を含んでよい。
【0038】
短繊維としては、例えば、ポリオレフィン系繊維(ポリエチレン繊維、ポリプロピレン繊維等)、ポリアミド繊維(ポリアミド6繊維、ポリアミド66繊維、ポリアミド46繊維、アラミド繊維等)、ポリアルキレンアリレート系繊維(例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)繊維、ポリエチレンナフタレート(PEN)繊維等の、C2-4アルキレンC6-14アリレート系繊維)、ビニロン繊維、ポリビニルアルコール系繊維、ポリパラフェニレンベンゾビスオキサゾール(PBO)繊維等の合成繊維;綿、麻、羊毛等の天然繊維;炭素繊維等の無機繊維、のうちの1種又は2種以上を組み合わせたものを用いてよい。ゴム組成物中での分散性や接着性を向上させるため、短繊維に、慣用の接着処理(又は表面処理)を施してよく、例えば、レゾルシン-ホルマリン-ラテックス(RFL)液等で短繊維を処理してよい。
【0039】
伸張層3、芯体層4及び圧縮層5を構成するゴム組成物は、互いに同じであってもよいし、互いに異なってもよい。また、圧縮層5だけでなく伸張層3にも短繊維が含まれる場合、圧縮層5及び伸張層3に含まれる短繊維は、互いに同じであってもよいし、互いに異なってもよい。
【0040】
芯体層4内には、心線4aが、ベルト長手方向にそれぞれ延在し、かつ、ベルト幅方向に所定のピッチで互いに離隔して螺旋状に埋設されている。
【0041】
心線4aは、例えば、マルチフィラメント糸を使用した撚り(例えば、諸撚り、片撚り、ラング撚り)コードからなる。心線4aの平均線径(撚りコードの直径)は、例えば、0.5~3mm、好ましくは0.6~2.0mm、さらに好ましくは0.7~1.5mm程度であってよい。
【0042】
心線4aを構成する繊維としては、短繊維として例示した繊維を用いてよい。高モジュラスの点から、心線4aを構成する繊維として、ポリアミド繊維(ポリアミド6繊維、ポリアミド66繊維、ポリアミド46繊維、アラミド繊維等)、ポリアルキレンアリレート系繊維(例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)繊維、ポリエチレンナフタレート(PEN)繊維等の、C2-4アルキレンC6-14アリレート系繊維)等の合成繊維;炭素繊維等の無機繊維を用いてよく、特に、ポリアミド繊維、ポリアルキレンアリレート系繊維を用いることが好ましい。これらの繊維は、複数のフィラメントを含むマルチフィラメント糸の形態で使用されてもよい。マルチフィラメント糸で構成される心線4aの繊度は、例えば、2000~10000dtex(特に4000~8000dtex)程度であってもよい。心線4aは、例えば1000~15000本、好ましくは1500~10000本、さらに好ましくは2000~6000本程度のフィラメントを含んでよい。心線4aに、短繊維と同様、慣用の接着処理(又は表面処理)を施してよい。
【0043】
伸張層3内には、複数の撚りコード2aが、ベルト幅方向と略平行に配列されている。なお、撚りコード2aがベルト幅方向と略平行に配列されているとは、撚りコード2aの長手方向がベルト幅方向に対して±5度の範囲にあることをいう。
このように、伝動用Vベルト1において、撚りコード2aがベルト幅方向に配向しているため、伝動用Vベルト1の屈曲性をあまり低下させることなく、耐側圧性を向上させることができる。
【0044】
ここで、本発明では、伝動用Vベルト1において、複数の撚りコード2aと、この撚りコード2aのベルト内周側1xのゴム組成物及びベルト外周側1yのゴム組成物を含む層を、撚りコード配列層2と定義している。本実施形態では、伸張層3自体が、撚りコード配列層2として構成されている。
【0045】
なお、伝動用Vベルト1において、撚りコード配列層2は、少なくとも伸張層3に含まれていればよいが、伸張層3にのみ含まれていることが好ましい。撚りコード配列層2を芯体層4のベルト内周側1xに積層される圧縮層5に設けた場合、伝動用Vベルト1が屈曲する際に撚りコード2a同士が干渉することによって伝動用Vベルト1の屈曲性が低下する場合がある。そこで、撚りコード配列層2を芯体層4のベルト外周側1yに積層される伸張層3にのみ設けることにより、伝動用Vベルト1が屈曲する際に撚りコード2a同士が干渉することがなくなるため、伝動用Vベルト1の屈曲性を良好に維持することができる。
【0046】
また、撚りコード配列層2の補強度(撚りコード2aの1%伸び時荷重と撚りコード2aの配列密度とを掛けた値)は、10000N/100mm以上であり、好ましく12000N/100mm以上、より好ましくは14000N/100mm以上であることが望まれる。
【0047】
このように、伸張層3に、補強度が10000N/100mm以上である撚りコード配列層2を含むことにより、引張弾性率の大きい撚りコード2aを密に配列し、耐側圧性を大きく高めることが可能となる。これにより、伝動用Vベルト1が、後述するベルト式無段変速機30の変速ベルトとして使用される場合に要求される特性のひとつである、速比変化率(駆動プーリ31と従動プーリ32との回転数の比の変化率)を小さくすることができる。例えば、この速比変化率を小さくした、伝動用Vベルト1を、自動二輪車のベルト式無段変速機30に使用した場合、走行中の発熱を小さくすることができるとともに、運転中に表示される速度と実際の速度との間の差を小さくすることができる。
【0048】
撚りコード配列層2の補強度の値を高めるためには、撚りコード2aを形成する繊維材料、撚りコード2aの太さ、撚りコード2aの配列密度を適切に選定する必要がある。
好適な繊維材料としては、伝動用Vベルト1の心線4aを形成するために汎用される材料、例えば、ポリアミド繊維(ポリアミド6繊維、ポリアミド66繊維、ポリアミド46繊維、アラミド繊維等)、ポリアルキレンアリレート系繊維(例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)繊維、ポリエチレンナフタレート(PEN)繊維等の、C2-4アルキレンC6-14アリレート系繊維)、ポリパラフェニレンベンゾビスオキサゾール(PBO)繊維、炭素繊維などが例示できる。中でも、撚りコード2aの1%伸び時荷重を大きくできる点からアラミド繊維、PBO繊維、炭素繊維が好ましく、価格や接着処理の容易性の点からアラミド繊維が特に好ましい。
【0049】
また、伝動用Vベルト1において、撚りコード配列層2の数が多くなると、伝動用Vベルト1の屈曲性が低下しやすくなる。そのため、伝動用Vベルト1において、撚りコード配列層2は一層のみとして伝動用Vベルト1の屈曲性を確保することが好ましい。
【0050】
また、撚りコード配列層2の補強度の値を高めるためには、撚りコード2aの太さを大きくするか、撚りコード2aの配列密度を高くする必要があるが、撚りコード2aの太さが大きすぎる場合は屈曲性が低下する虞があり、撚りコード2aの太さが小さすぎる場合は、撚りコード2aの配列密度を高くしても撚りコード配列層2の補強度が十分に向上しない虞がある(耐側圧性が十分に向上しない)。そのため、撚りコード2aの太さ(直径)の平均値は、0.5~0.9mmの範囲であることが好ましい。
なお、撚りコード2aの太さの平均値は、伝動用Vベルト1の側面に現れた撚りコード2aの断面の中から任意の20本を選定し、そのそれぞれについて、最も長い直径である長径と、最も短い直径である短径との算術平均値を該撚りコード2aの直径として、20本の撚りコード2aの直径の算術平均値として定める。
【0051】
また、撚りコード2aの配列密度は、100本/100mm~300本/100mmの範囲であることが好ましい。撚りコード2aの配列密度が小さい場合は、撚りコード配列層2の補強度を十分に向上できない虞がある。一方、撚りコード2aの配列密度が大きい場合は、伝動用Vベルト1の製造工程において、撚りコード配列層2に撚りコード2aを配列させるための工数が増加するので好ましくない。
なお、撚りコード2aの配列密度は、伝動用Vベルト1を任意の位置で100mmの長さにカットして、そこに含まれる撚りコード2aの本数を数え、100mm長さあたりの撚りコード2aの本数として定める。
【0052】
また、撚りコード配列層2を形成する撚りコード2aの撚り係数(下撚りの撚り係数および上撚りの撚り係数)は、0.1~5.0の範囲であることが好ましい。撚りコード2aの撚り係数が大きいと耐側圧性が十分に向上しない。一方、撚り係数が小さいとほつれやすくなるため、伝動用Vベルト1の製造工程において、撚りコード配列層2を作製する作業が困難となる。
なお、撚り係数は、「撚り係数=[撚り数(回/m)×√繊度(tex)]/960」の式によって算出する。
【0053】
また、撚りコード配列層2に配列された、隣り合う撚りコード2aの間の距離(A寸法:
図4参照)の平均値は、0.01~0.2mmの範囲であることが好ましい。隣り合う撚りコード2aの間の距離(A寸法)が小さい場合は伝動用Vベルト1の屈曲性が低下しやすく、隣り合う撚りコード2aの間の距離(A寸法)が大きい場合は伝動用Vベルト1の耐側圧性が十分に向上しない場合がある。
なお、撚りコード配列層2に配列された、隣り合う撚りコード2aの間の距離(A寸法)の平均値は、伝動用Vベルト1の側面に現れた撚りコード2aの断面の中から隣り合う撚りコード2aを2本1セットとして任意の20セットを選定し、各セット内での撚りコード2aと撚りコード2aの間の距離(撚りコード2a間のベルト長手方向の最短距離)を測定し、20セット分の算術平均値として定める。
【0054】
また、芯体層4に埋設された心線4aと撚りコード配列層2に配列された撚りコード2aとの間の距離(B寸法:
図4参照)は、0.05~0.5mmの範囲であることが好ましい。伝動用Vベルト1は心線4aを中心として屈曲する。上記の心線4aと撚りコード2aとの間の距離(B寸法)が大きい場合、伝動用Vベルト1を屈曲させる際の撚りコード配列層2の変形量が大きくなるため、伝動用Vベルト1の屈曲性が低下しやすくなる。一方、上記の心線4aと撚りコード2aとの間の距離(B寸法)が小さすぎると心線4aと撚りコード2aとが接触して損傷しやすくなる。
なお、芯体層4に埋設された心線4aと撚りコード配列層2に配列された撚りコード2aとの間の距離(B寸法)は、伝動用Vベルト1の側面に現れた心線4aが最も太い箇所において、芯体層4に埋設された心線4aと撚りコード配列層2に配列された撚りコード2aとの間の距離(撚りコード2aと心線4aとの間のベルト厚み方向の最短距離)として定める。
【0055】
(ベルト式無段変速機30)
伝動用Vベルト1は、
図2に示すように、ベルト式無段変速機30に適用可能である。
【0056】
ベルト式無段変速機30は、伝動用Vベルト1が嵌合されるV字状のV溝31x、32xをそれぞれ有する駆動プーリ31及び従動プーリ32を含む。伝動用Vベルト1は、駆動プーリ31と従動プーリ32とに張力をかけて巻回され、伝動用Vベルト1の両側面1zと駆動プーリ31及び従動プーリ32それぞれのV溝31x、32xを画定する両側面31z、32zとが接触した状態で、走行される。このときに生じる両側面間の摩擦力により、駆動プーリ31のトルクが伝動用Vベルト1を介して従動プーリ32に伝達される。
【0057】
駆動プーリ31及び従動プーリ32は、それぞれ、回転軸31t、32tを有する固定シーブ31a、32aと、固定シーブ31a、32aに対して回転軸31t、32tに沿った方向に移動可能に取り付けられた可動シーブ31b、32bとを含む。可動シーブ31b、32bが固定シーブ31a、32aに対して回転軸31t、32tに沿った方向に移動することで、固定シーブ31a、32aと可動シーブ31b、32bとの間に形成されたV溝31x、32xの幅が変化する。このようなV溝31x、32xの幅の変化に応じて、V溝31x、32xにおける伝動用Vベルト1の位置が変化する。例えば、
図2(a)に示す状態から
図2(b)に示す状態に(即ち、V溝31xの幅を狭く且つV溝32xの幅を広く)すると、伝動用Vベルト1は、V溝31xにおいては回転軸31tから離れる方向に、V溝32xにおいては回転軸32tに近づく方向に移動する。これにより、駆動プーリ31及び従動プーリ32における伝動用Vベルト1の巻回半径が変化する。ベルト式無段変速機30は、このように巻回半径を連続的に変化させることで、変速比を無段階で変化させるように構成されている。
【0058】
(伝動用Vベルト1の製造方法)
次いで、伝動用Vベルト1の製造方法について説明する。
【0059】
予め、伸張層3(撚りコード配列層2)となる撚りコード配列層用シートを作製する(撚りコード配列層用シート作製工程)。具体的には、
図5に示すように、複数の撚りコード2aを平行に配列させた後に、複数の撚りコード2aの長手方向と直交する方向に延びる連結糸(不図示)で連結したスダレ22を作製する。そして、平板上に、伸張層3(撚りコード配列層2)のゴム組成物で構成された第1接着ゴムシート21を載置し、この第1接着ゴムシート21の上にスダレ22を積層し、更に、スダレ22の上に、第1接着ゴムシート21と同じ構成の第2接着ゴムシート23を積層し、熱プレス機で加熱及び押圧して、第1接着ゴムシート21、スダレ22、及び、第2接着ゴムシート23が一体化した、撚りコード配列層用シートを作製する。
【0060】
複数の撚りコード2aは、1本1本が独立した状態であると、平行に配列させるのが困難であるため、あらかじめ、複数の撚りコード2aを平行に配列させた後に、撚りコード2aの長手方向と直交する方向に延びる連結糸で連結したスダレ22を用いることにより、伸張層3に、撚りコード2aがベルト幅方向と略平行に配列された、撚りコード配列層2を含む伝動用Vベルト1の製造工程の効率化を図ることができる。連結糸は撚りコード2aと比較して細く、低密度で配置するため、物性などに大きな影響を与えることなく、撚りコード2aを配列させた状態で保持することができる。
【0061】
また、第1接着ゴムシート21及び第2接着ゴムシート23は、後述する接着ゴム層用シート(芯体層4の一部)と同じゴム組成物を用いることが可能であるが、必ずしも同一でなくてもよい(異なるゴム組成物を使用してもよい)。
【0062】
次に、外周面に、伝動用Vベルト1のコグ1aを成形する凹凸が設けられた円筒状のドラム(金型)を用い、当該ドラムの外周面上に、圧縮層5となる圧縮ゴム層用シートを巻き付け、この圧縮ゴム層用シートの上に、芯体層4における圧縮層5と接触する部分となる接着ゴム層用シートを巻き付ける。そして、接着ゴム層用シートの上に、心線4aを螺旋状に巻き付ける。更に、撚りコード配列層用シート作製工程で作製した、撚りコード配列層用シートを、撚りコード2aの長手方向がドラムの軸方向と略平行(心線4aの長手方向と撚りコード配列層用シートの撚りコード2aの長手方向とが直交するような方向)になるように巻き付けて、未架橋スリーブを形成する(未架橋スリーブ形成工程)。
【0063】
次に、未架橋スリーブの外側に加硫ジャケットを被せてドラムを加硫缶に設置し、温度120~200℃(特に150~180℃)程度で未架橋スリーブを架橋して、架橋スリーブを形成する(架橋スリーブ形成工程)。
【0064】
次に、加硫ジャケット及び架橋スリーブを加硫缶から抜き取った後、架橋スリーブを所定幅にカットし、ベルト幅方向の両側面1zを所定のV角度(V字状)が得られるようにカッター等で切断することで、伝動用Vベルト1を形成する(加工工程)。
【0065】
上記製造方法により、伸張層3(撚りコード配列層2)において複数の撚りコード2aがベルト幅方向と略平行に配列された伝動用Vベルト1を作製することができる。
【0066】
(その他の実施形態)
(1)上記実施形態では、伝動用Vベルト1において、撚りコード配列層2は、伸張層3にのみ含まれている例について説明したが、撚りコード配列層2は、伸張層3及び圧縮層5の両方に含まれていてもよい。
【0067】
(2)上記実施形態では、伝動用Vベルト1のベルト内周側1x及びベルト外周側1yには補強布を備えない構成について説明したが、伝動用Vベルト1のベルト内周側1xまたは/およびベルト外周側1yに補強布を備えた構成にしてもよい。補強布は、例えば織布、広角度帆布、編布、不織布等(好ましくは織布)の布材からなる。補強布は、布材に接着処理(例えば、RFL液で浸漬処理)を施し、ゴム組成物を布材にすり込むフリクション加工や、シート状のゴム組成物と布材とを積層する加工を行った後に、伸張層3の表面または/および圧縮層5の表面に積層されてよい。
【実施例0068】
下記表1~表3に記載した構成・材料により製造した、ベルト内周側にコグを有する変速ベルトであるローエッジコグドVベルト(実施例1~2、比較例1~5:伝動用Vベルト)について、屈曲性試験、速比変化率、耐久走行試験を行い、試験後の各伝動用Vベルトを比較した。
【0069】
【0070】
【0071】
クロロプレンゴム:デンカ(株)製「DCR-45」
アラミド短繊維:帝人(株)製「コーネックス」、平均繊維長3mm、平均繊維径14μm
ナフテン系オイル:日本サン石油(株)製「SUNTENE410」
カーボンブラックHAF:東海カーボン(株)製「シースト3」
老化防止剤(オクチルジフェニルアミン):精工化学(株)製「ノンフレックスOD-3」
加硫促進剤MBTS(ジ-2-ベンゾチアゾリルジスルフィド):大内新興化学工業(株)製「ノクセラーDM」
加硫促進剤TMTD(テトラメチルチウラムジスルフィド):大内新興化学工業(株)製「ノクセラーTT」
シリカ:東ソー・シリカ(株)製「Nipsil VN3」
【0072】
(心線)
心線には、1100dtexのポリエチレンテレフタレート(PET)繊維束を2本合わせて撚り係数3.0で下撚りした下撚り糸を3本合わせ、撚り係数3.0で上撚りした総繊度6600dtexの諸撚りコードに、接着処理を施したものを使用した。
【0073】
(撚りコード配列層を形成するための撚りコード(実施例1~2、比較例4~5))
実施例1~2及び比較例4~5に係る撚りコード配列層を形成する撚りコードには、1100dtexのパラ系アラミド繊維束(帝人(株)製「トワロン2100」(登録商標))を撚り係数3.8で下撚りした下撚り糸を3本合わせ、撚り係数2.8で上撚りした総繊度3300dtexの諸撚りコードに接着処理を施し、連結糸で連結してスダレ状としたものを使用した。
【0074】
(撚りコード配列層を形成するための撚りコード(比較例2、比較例3))
比較例2及び比較例3に係る撚りコード配列層を形成する撚りコードには、1670dtexのパラ系アラミド繊維束(東レ・デュポン(株)製「ケブラー29」)を撚り係数4.7で下撚りした下撚り糸を2本合わせ、撚り係数6.7で上撚りした総繊度3340dtexの諸撚りコードに接着処理を施し、連結糸で連結してスダレ状としたものを使用した。
【0075】
(ローエッジコグドVベルト(伝動用Vベルト)の作製(実施例1および比較例2~4))
まず、金属製の平板上に第1接着ゴムシート(厚み0.5mm)を乗せ、その上に撚りコードを連結糸で連結したスダレを乗せ、さらにその上に別の第2接着ゴムシート(厚み0.5mm)を乗せた後、温度100℃で5分間押圧することにより第1接着ゴムシート、スダレ、及び、第2接着ゴムシートを一体化させ、撚りコード配列層用シートを作製した。
【0076】
次に、外周面に凸部と凹部とが交互に配された円筒状のコグ付き金型に圧縮ゴム層用シートを巻き付け、可撓性ジャケットを被せた後、金型を加硫缶に設置し、温度100℃で15分間押圧することにより圧縮ゴム層用シートを金型の凹部に圧入し、コグ形状を形成した。金型を加硫缶から取り出して可撓性ジャケットを外した後、コグ形状が形成された圧縮ゴム層用シートの上に、接着ゴム層用シートを巻き付けた。その上に心線を螺旋状にスピニングし、さらにその上にあらかじめ作製しておいた撚りコード配列層用シートを撚りコードの長手方向と心線の長手方向とが略直角となるような方向で巻き付けて未架橋スリーブを形成した。この未架橋スリーブに可撓性ジャケットを被せた後、金型を加硫缶に設置し、温度170℃、時間20分で架橋して架橋スリーブを得た。この架橋スリーブをカッターで所定幅にカットし、V字状に切断して、ベルト内周側にコグを有する変速ベルト(伝動用Vベルト)であるローエッジコグドVベルト(サイズ:上幅20.6mm、厚み(内周側コグ山部から外周までの距離)7.8mm、V角度31度、コグ高さ3.8mm、ベルト外周長さ799mm)を作製した。
【0077】
(ローエッジコグドVベルト(伝動用Vベルト)の作製(比較例5))
外周面に、凸部と凹部とが交互に配された円筒状のコグ付き金型に圧縮ゴム層用シートを巻き付け、この圧縮ゴム層用シートの上に、上記工程で作製した、撚りコード配列層用シートを撚りコードの長手方向と心線の長手方向とが略直角となるような方向で巻き付けた。そして、この撚りコード配列層用シートの上に、心線を螺旋状にスピニングし、さらに、芯体層における伸張層と接触する部分となる接着ゴム層用シート、及び、伸張層となる伸張ゴム層用シートを巻き付けて、未架橋スリーブを形成した。この未架橋スリーブに可撓性ジャケットを被せた後、金型を加硫缶に設置し、温度170℃、時間20分で架橋して架橋スリーブを得た。この架橋スリーブをカッターで所定幅にカットし、V字状に切断して、ベルト内周側にコグを有する変速ベルト(伝動用Vベルト)であるローエッジコグドVベルト(サイズ:上幅20.6mm、厚み(内周側コグ山部から外周までの距離)7.8mm、V角度31度、コグ高さ3.8mm、ベルト外周長さ799mm)を作製した(
図6参照)。
【0078】
(ローエッジコグドVベルト(伝動用Vベルト)の作製(実施例2))
外周面に、凸部と凹部とが交互に配された円筒状のコグ付き金型に圧縮ゴム層用シートを巻き付け、この圧縮ゴム層用シートの上に、上記工程で作製した、撚りコード配列層用シートを撚りコードの長手方向と心線の長手方向とが略直角となるような方向で巻き付けた。そして、この撚りコード配列層用シートの上に、心線を螺旋状にスピニングし、さらにその上に上記工程で作製しておいた撚りコード配列層用シートを撚りコードの長手方向と心線の長手方向とが略直角となるような方向で巻き付けて未架橋スリーブを形成した。この未架橋スリーブに可撓性ジャケットを被せた後、金型を加硫缶に設置し、温度170℃、時間20分で架橋して架橋スリーブを得た。この架橋スリーブをカッターで所定幅にカットし、V字状に切断して、ベルト内周側にコグを有する変速ベルト(伝動用Vベルト)であるローエッジコグドVベルト(サイズ:上幅20.6mm、厚み(内周側コグ山部から外周までの距離)7.8mm、V角度31度、コグ高さ3.8mm、ベルト外周長さ799mm)を作製した。
【0079】
(ローエッジコグドVベルト(伝動用Vベルト)の作製(比較例1))
撚りコード配列層用シートの代わりに伸張ゴム層用シート(圧縮ゴム層用シートと同じ組成)を積層する以外は実施例1と同様にして、同じサイズのローエッジコグドVベルトを作製した。
【0080】
(試験条件)
[屈曲性試験]
図7に示すように、実施例1~2及び比較例1~5に係るローエッジコグドVベルト(伝動用Vベルト)を、150mmの間隔を空けて上下に配した2枚の金属板61、62の間に配置した。この時点での上側の金属板61の位置を初期位置とする。オートグラフ((株)島津製作所製「AGS-J10kN」)を用いて上側の金属板61を200mm/分の速度で下降させて、金属板を下降させるのに必要な力を記録した。その結果を
図8のグラフ及び表3に示した。金属板を下降させるのに必要な力(圧縮力)が小さい程、屈曲性が良好であると判断できる。金属板の下降量と該時点での圧縮力の関係を
図8のグラフに示している。
なお、屈曲性の評価に関しては、下降量100mm時の圧縮力が、25N以下であれば、〇(良好)と判断し、25Nより大きく30N以下であれば△(やや難あり)と判断し、30Nより大きければ×(許容不可)と判断した。
【0081】
[速比変化率]
速比変化率の測定は、直径69.5mmの駆動プーリと、直径144.5mmの従動プーリとからなる2軸走行試験機を用いて行なった。この2つのプーリに、実施例1~2及び比較例1~5に係るローエッジコグドVベルト(伝動用Vベルト)を掛架し、軸荷重を600N、駆動プーリの回転数を4500rpmとし、25℃の雰囲気下にて走行させた。駆動プーリの負荷が0N・mから10N・mまでになるよう従動プーリの負荷をスイープし(駆動プーリの負荷を基準として従動プーリの負荷をスイープ)、その間の駆動プーリおよび従動プーリの回転数の変化を測定した。下記式により、速比変化率を計算した。その結果を
図9のグラフ及び表3に示した。速比変化率が小さいほど、変速ベルトとして使用した際に駆動プーリと従動プーリの回転数の比を設計値に近く保つことができ、自動二輪車などの表示速度と実際の速度との差を小さくすることができる。
速比変化率(%)=[(当該負荷における駆動プーリ回転数/当該負荷における従動プーリ回転数)/(負荷0N・m時の駆動プーリ回転数/負荷0N・m時の従動プーリ回転数)-1]×100
なお、速比変化率の評価に関しては、負荷10N・m時の速比変化率が、3%以下であれば、〇(良好)と判断し、3%より大きく3.6%以下であれば△(やや難あり)と判断し、3.6%より大きければ×(許容不可)と判断した。
【0082】
[耐久走行試験]
耐久走行試験は、速比変化率の測定と同じレイアウト、すなわち、直径69.5mmの駆動プーリと、直径144.5mmの従動プーリとからなる2軸走行試験機を用いて行なった。この2つのプーリに、実施例1~2及び比較例1~5に係るローエッジコグドVベルト(伝動用Vベルト)を掛架し、軸荷重を500N、駆動プーリの回転数を6000rpm、従動プーリの負荷を6kWとし、25℃の雰囲気下にて伝動用Vベルトの寿命まで走行させた。また、走行中、ベルトの側面温度を非接触式温度計で測定し、発熱性の評価を行った。今回の試験では、故障モードは全て心線下剥離となっており、心線下剥離のベルト長手方向の長さが3mm以上となった時点で寿命と判断し、試験を終了した。ベルトの側面温度の測定結果を
図10のグラフ及び表3に示した。
なお、ベルトの側面温度の評価に関しては、走行時間48時間でのベルトの側面温度が、100℃以下であれば、〇(良好)と判断し、100℃より大きく115℃以下であれば△(やや難あり)と判断し、115℃より大きければ×(許容不可)と判断した。
【0083】
【0084】
屈曲性試験に関し、伸張層に撚りコード配列層を備える実施例1~2は、撚りコード配列層を備えない比較例1と同程度の屈曲性を有しており、撚りコード配列層は屈曲性を低下させないことが確認された。
【0085】
速比変化率に関し、伸張層に補強度の高い撚りコード配列層を備える実施例1~2は、撚りコード配列層を備えない比較例1、伸張層に撚りコード配列層を備えるが補強度の低い比較例2~4、及び、圧縮層に補強度の高い撚りコード配列層を備えるが伸張層に撚りコード配列層を備えない比較例5と比較して、速比変化率が小さいことが確認された。伸張層に補強度の高い撚りコード配列層を備えることで耐側圧性が向上し、伝動用Vベルトがプーリに落ち込むことが抑制されたためと考えられる。これにより、変速比を設計値に近く保つことができ、自動二輪車などに使用した場合に表示される速度と実際の速度との差を小さくすることが可能となる。
【0086】
耐久走行試験に関し、伸張層に補強度が高い撚りコード配列層を備える実施例1~2の耐久時間は、撚りコード配列層を備えない比較例1と比較して格段に長かった。
これに対して、伸張層に撚りコード配列層を備えるものの、撚りコード配列層を形成する撚りコードの1%伸び時の荷重が小さい比較例2および比較例3、撚りコードの配列密度が小さい比較例2および比較例4は、伸張層における撚りコード配列層の補強度が低いためか、耐久時間が十分に向上しなかった。
また、圧縮層に補強度の高い撚りコード配列層を備えるが伸張層に撚りコード配列層を備えない比較例5は、撚りコード配列層を備えない比較例1の耐久時間と同程度であったことから、圧縮層に補強度の高い撚りコード配列層を備えたとしても耐久時間の向上はほぼ見込めないことが分かった。
また、実施例1~2ではベルトの側面温度も最も低く保たれており、ゴムの熱劣化も起こりにくくなっていると考えられる。これは、耐側圧性が高いために伝動用Vベルトの変形が抑制されるとともに、屈曲性も良好に保たれている効果によるものと考えられる。実施例1~2では、従来両立が難しいと考えられてきた耐側圧性の向上と屈曲性とを両立できていることが確認できた。
【0087】
以上、伝動用Vベルトが、補強度の高い撚りコード配列層を備えることにより、耐側圧性に優れるとともに、屈曲性が良好であって、走行中の発熱が小さく、速比変化率が小さいといった効果を発揮することが確認できた。