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特開2023-104924洋菓子用ミックス粉、生地および洋菓子
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023104924
(43)【公開日】2023-07-28
(54)【発明の名称】洋菓子用ミックス粉、生地および洋菓子
(51)【国際特許分類】
   A21D 10/00 20060101AFI20230721BHJP
   A21D 2/36 20060101ALI20230721BHJP
   A21D 2/26 20060101ALI20230721BHJP
   A21D 2/18 20060101ALI20230721BHJP
   A21D 13/80 20170101ALI20230721BHJP
   A21D 10/02 20060101ALI20230721BHJP
   A21D 13/066 20170101ALI20230721BHJP
   A21D 13/045 20170101ALI20230721BHJP
   A21D 13/047 20170101ALI20230721BHJP
   A23L 29/256 20160101ALI20230721BHJP
   A23L 29/262 20160101ALI20230721BHJP
【FI】
A21D10/00
A21D2/36
A21D2/26
A21D2/18
A21D13/80
A21D10/02
A21D13/066
A21D13/045
A21D13/047
A23L29/256
A23L29/262
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023006120
(22)【出願日】2023-01-18
(31)【優先権主張番号】P 2022005791
(32)【優先日】2022-01-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000114318
【氏名又は名称】ミヨシ油脂株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100218062
【弁理士】
【氏名又は名称】小野 悠樹
(74)【代理人】
【識別番号】100093230
【弁理士】
【氏名又は名称】西澤 利夫
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 将来
【テーマコード(参考)】
4B032
4B041
【Fターム(参考)】
4B032DB05
4B032DB06
4B032DB35
4B032DG07
4B032DG08
4B032DK02
4B032DK12
4B032DK14
4B032DK15
4B032DK16
4B032DK18
4B032DK21
4B032DK29
4B032DK32
4B032DK33
4B032DK35
4B032DP10
4B032DP12
4B032DP14
4B032DP40
4B032DP50
4B041LC03
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4B041LD10
4B041LH02
4B041LH10
4B041LH11
4B041LK02
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4B041LK15
4B041LK18
4B041LK22
4B041LK23
4B041LK24
4B041LK25
4B041LK28
4B041LK50
4B041LP01
4B041LP04
(57)【要約】
【課題】小麦粉を含有しない洋菓子用ミックス粉において、洋菓子の食感、ボリュームおよび結着性を良好にする。
【解決手段】小麦粉を含有しない洋菓子用ミックス粉であって、粉末状のたん白質素材とアルギン酸エステルと澱粉とを含み、たん白質の含有量が5.00~22.00質量%である洋菓子用ミックス粉。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
小麦粉を含有しない洋菓子用ミックス粉であって、
粉末状のたん白質素材とアルギン酸エステルと澱粉とを含み、
前記たん白質の含有量が5.00~22.00質量%である
洋菓子用ミックス粉。
【請求項2】
前記澱粉の糊化温度が50~70℃である
請求項1に記載の洋菓子用ミックス粉。
【請求項3】
前記澱粉が加工澱粉である
請求項1に記載の洋菓子用ミックス粉。
【請求項4】
セルロースエーテルを含む
請求項1に記載の洋菓子用ミックス粉。
【請求項5】
請求項1に記載の洋菓子用ミックス粉を使用した小麦粉を含有しない生地。
【請求項6】
請求項5の生地を焼成した洋菓子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、洋菓子に使用されるミックス粉に関する。
【背景技術】
【0002】
食物アレルギーの患者は年々増加傾向にある。2019年に消費者庁から発表された「食物アレルギー全国実態調査結果」によると、食物アレルギーの原因物質は多い順に、鶏卵が34.7%、牛乳が22.0%、小麦が10.6%となっており、この3大原因物質で全体の67.3%を占めている。
【0003】
この中でも小麦に関するアレルギーは、小麦に含まれるグルテニン、グリアジン、アルブミン、グロブリンといったたん白質が主たる原因物質であるとされている。特に小麦におけるグルテニンとグリアジンとは、両者を水分の存在下で反応させることで、アレルギーの原因となる網目状のグルテンを形成することで知られている。
【0004】
各種の洋菓子には、主原料として小麦粉が配合されている場合が多い。したがって、小麦に対するアレルギーを持つ人は多くの洋菓子を食すことができなかった。そこで、小麦に対するアレルギーを持つ人でも食すことができる、小麦粉を含有しない(いわゆるグルテンフリーの)菓子や菓子に使用されるミックス粉が従来から提案されている。
【0005】
しかし、小麦粉を使用しない菓子では、小麦粉を使用した菓子と比較して、良好な食感やボリュームが得られず、さらには結着性も悪くまとまりがないという問題があった。そこで、小麦粉を使用しない菓子において、食感、ボリュームおよび結着性を向上させる技術が提案されている。
【0006】
特許文献1および特許文献2には、小麦粉を使用しない菓子において食感を良好にする技術が開示されている。具体的には、特許文献1には小麦粉に代えて高アミロース米の炊飯米および米粉を使用した焼き菓子が開示されていて、特許文献2には小麦粉に代えて米粉を使用したケーキ用スポンジが開示されている。
【0007】
また、特許文献3および特許文献4には、小麦粉を使用しない菓子において食感およびボリュームを良好にする技術が開示されている。具体的には、特許文献3および特許文献4には、7大アレルゲン(卵、小麦、乳、えび、かに、そば、落花生)を含まない穀物類粉や芋類粉を使用した菓子用プレミックス粉が開示されている。
【0008】
さらに、特許文献5には、小麦粉を使用しない菓子において食感および結着性を良好にする技術が開示されている。具体的には、特許文献5には、小麦粉に代えて、玄米、発芽玄米または精白米と、大豆たん白とを含む焼き菓子用生地が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2019-170308号公報
【特許文献2】特開2005-341845号公報
【特許文献3】特開2019-013214号公報
【特許文献4】特開2019-013223号公報
【特許文献5】特開2016-123332号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかし、特許文献1-5の技術を用いた菓子では、食感、ボリュームおよび結着性について、依然として満足するものが得られておらず、改善の余地があった。以上の事情を考慮して、本発明では、小麦粉を含有しない洋菓子用ミックス粉において、当該洋菓子の食感、ボリュームおよび結着性を良好にすることを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記の課題を解決するため、以下の洋菓子用ミックス粉、生地および洋菓子が提供される。
<1>小麦粉を含有しない洋菓子用ミックス粉であって、
粉末状のたん白質素材とアルギン酸エステルと澱粉とを含み、
前記たん白質の含有量が5.00~22.00質量%である
洋菓子用ミックス粉。
<2>前記澱粉の糊化温度が50~70℃である
前記<1>の洋菓子用ミックス粉。
<3>前記澱粉が加工澱粉である
前記<1>または<2>の洋菓子用ミックス粉。
<4>セルロースエーテルを含む
前記<1>から<3>の洋菓子用ミックス粉。
<5>前記<1>から前記<4>に記載の洋菓子用ミックス粉を使用した小麦粉を含有しない生地。
<6>前記<5>の生地を焼成した洋菓子。
【発明の効果】
【0012】
本発明の洋菓子用ミックス粉によれば、小麦粉を含有しないにもかかわらず、洋菓子の食感、ボリュームおよび結着性を良好にすることが可能である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。
【0014】
本発明に係る洋菓子用ミックス粉(以下、単に「ミックス粉」と表記する)は、小麦粉を含有しない。ここでいう「小麦粉を含有しない」とは、小麦粉を実質的に含有しないことを意味し、完全に含有されていない場合(すなわち0の場合)に加えて、許容される範囲内で微量に含まれる場合の双方を包含する。小麦粉が微量に含まれる場合とは、ミックス粉における小麦粉の含有量が180ppm以下であり、好ましくは90ppm以下であり、より好ましくは18ppm以下である。
【0015】
ミックス粉が小麦粉を含有しないことから、当該ミックス粉を用いて製造した洋菓子はグルテンを含有しない。ここでいう「グルテンを含有しない」とは、グルテンを実質的に含有しないことを意味し、完全に含有されていない場合(すなわち0の場合)に加えて、許容される範囲内で微量に含まれる場合の双方を包含する。グルテンが微量に含まれる場合とは、洋菓子におけるグルテンの含有量が10ppm以下であり、好ましくは5ppm以下であり、より好ましくは1ppm以下である。なお、洋菓子におけるグルテンの含有量については、酵素免疫測定法によって測定することができる。
【0016】
具体的には、洋菓子用ミックス粉は、粉末状のたん白質素材とアルギン酸エステルと澱粉とを含み、ミックス粉におけるたん白質の含有量が5.00~22.00質量%である。本発明に係るミックス粉は、小麦粉を含有しないにも関わらず、洋菓子の食感、ボリュームおよび結着性を良好にすることができる。
【0017】
本発明において粉末状とは、微粉状、粉状、細粒状、顆粒状等の粉体を指し、平均粒子径が5μm~500μmであるものをいう。なお、平均粒径は、レーザー回折式粒度分布測定器などより得られるメディアン径(D50径)から求めることができる。
【0018】
洋菓子用ミックス粉に含有されるたん白質素材は、穀粉、および、精製たん白質の中から選択される1種以上であることが好ましい。
【0019】
穀粉としては、例えば、米、ヒヨコ豆、大豆、トウモロコシ、蕎麦、エンドウ豆、緑豆、あわ、ひえ、きび、じゃがいも等の各種の穀物の穀粉である。これらの穀物の中でも、洋菓子の食感、ボリュームおよび結着性を良好にする観点からは、米および大豆が好ましい。穀粉におけるたん白質の含有量は、例えば3.0質量%以上から40.0質量%以下で好ましく使用することができる。
【0020】
精製たん白質は、植物由来および動物由来の何れであってもよい。植物由来としては、上記のたん白質素材について例示した穀物を精製することで抽出したたん白質が使用できる。動物由来としては、牛、豚、魚、乳などを原料としたたん白質が使用できる。精製たん白質におけるたん白質の含有量は、例えば40.0質量%以上から90.0質量%以上で好ましく使用することができる。
【0021】
なお、穀粉および精製たん白質におけるたん白質の含有量については、公知であるものや市販品として既知であるものとしての含有量であってもよいし、測定したものであってもよい。測定する場合には、ケルダール法より測定される。
【0022】
ミックス粉におけるたん白質素材の含有量の下限値は、例えば10.00質量%以上であり、好ましくは30.00質量%以上であり、最も好ましくは50.00質量%以上である。ミックス粉におけるたん白質素材の含有量の上限値は、例えば97.00質量%以下であり、好ましくは75.00質量%以下であり、最も好ましくは70.00質量%以下である。
【0023】
アルギン酸エステルは、海藻から抽出される「アルギン酸」にプロピレングリコールがエステル結合した形の誘導体であり、海外では一般にPropylene Glycol Alginateという英語名か、その略称「PGA」として知られている。
【0024】
ミックス粉におけるアルギン酸エステルの含有量の下限値は、例えば0.10質量%以上であり、好ましくは0.30質量%以上であり、さらに好ましくは0.40質量%以上である。ミックス粉におけるアルギン酸エステルの含有量の上限値は、例えば1.50質量%以下であり、好ましくは1.00質量%以下であり、さらに好ましくは0.80質量%以下である。アルギン酸エステルの含有量を上記の範囲内にすることで、洋菓子の食感、ボリュームおよび結着性を良好にすることができる。
【0025】
ミックス粉に使用される澱粉としては、任意の原料から得られる澱粉、および、当該澱粉を加工した加工澱粉から選択される1種以上が使用できる。結着性および食感を良好にする観点からは、加工澱粉を使用することが好ましい。なお、ここでいう澱粉には、たん白質素材中に成分として含有される澱粉は含まず、たん白質素材とは別個にミックス粉に使用する澱粉材料である。
【0026】
澱粉の原料としては、米、キャッサバ(タピオカ)、トウモロコシ(コーン)、ジャガイモ等の植物が挙げられる。これらの中でも、洋菓子の食感、ボリュームおよび結着性を良好にする観点からは、米、キャッサバ(タピオカ)を原料とした澱粉が好ましい。加工澱粉は、酸処理、酵素処理、エステル化、エーテル化、架橋化、高周波処理、湿熱処理、放射線処理等の各種の加工が施された澱粉である。
【0027】
澱粉が糊化(α化)する糊化温度の下限値は、例えば50℃以上であり、好ましくは52℃以上であり、さらに好ましくは55℃以上である。澱粉の糊化温度の上限値は、例えば70℃以下であり、好ましくは68℃以下であり、さらに好ましくは65℃以下である。糊化温度が上記の範囲内にある澱粉を使用することで、ボリューム、結着性および食感を良好にする。
【0028】
糊化温度は、澱粉を所定の濃度(10質量%)になるように水に分散させた分散液を昇温した際の貯蔵弾性率に応じて測定される。糊化温度の測定には、動的粘弾性測定装置が使用される。分散液を25℃から98℃まで上昇するように25分間にわたり加熱する。そして、分散液の貯蔵弾性率が急激に上昇した時の温度を澱粉の糊化温度とする。
【0029】
ミックス粉における澱粉の含有量の下限値は、例えば3.00質量%以上であり、好ましくは10.00質量%以上であり、さらに好ましくは30.00質量%以上である。ミックス粉における澱粉の含有量の上限値は、例えば85.00質量%以下であり、好ましくは70.00質量%以下であり、さらに好ましくは50.00質量%以下である。澱粉の含有量を上記の範囲内にすることで、ボリューム、結着性および食感を良好にする。
【0030】
本発明に係るミックス粉は、ミックス粉を使用した生地(焼成前)における起泡性を良好にする観点から、さらにセルロースエーテルを含有することが好ましい。セルロースエーテルとしては、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)、メチルセルロース(MC)、エチルヘキシルエチルセルロース(EHEC)、ヒドロキシブチルメチルセルロース(HBMC)、ヒドロキシエチルメチルセルロース(HEMC)、カルボキシメチルセルロース(CMC)、ヒドロキシエチルセルロース(HEC)、ヒドロキシプロピルセルロース(HPC)などから選択される1種以上が使用できる。これらの中でも、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、メチルセルロースが好ましく、ヒドロキシプロピルメチルセルロースが特に好ましい。
【0031】
ミックス粉におけるセルロースエーテルの含有量の下限値は、例えば0.10質量%以上であり、好ましくは0.50質量%以上であり、さらに好ましくは0.70質量%以上である。ミックス粉におけるセルロースエーテルの含有量の上限値は、例えば3.00質量%以下であり、好ましくは2.00質量%以下であり、さらに好ましくは1.50質量%以下である。セルロースエーテルの含有量を上記の範囲内にすることで、洋菓子の食感、ボリュームおよび結着性に加えて、生地の起泡性も良好にすることができる。
【0032】
本発明に係るミックス粉には、以上の各成分の他に、本発明の効果を損なわない範囲内において、他の成分を配合することができる。このような他の成分としては、特に限定されるものではないが、例えば、乳製品、乳製品を酵素処理した呈味剤、乳等を主要原料とする食品、油脂、たん白質、卵、卵黄、糖質、塩類、酸味料、pH調整剤、抗酸化剤、香辛料、増粘剤、着色成分、フレーバー、香味油、酒類、酵素、アミノ酸、粉末油脂、乳化剤、酵母エキス、グリセリンなどが挙げられる。
【0033】
乳製品としては、脱脂乳、生クリーム、チーズ(ナチュラルチーズ、プロセスチーズなど)、バター、バターオイル、発酵乳、濃縮乳、脱脂濃縮乳、無糖れん乳、加糖れん乳、無糖脱脂れん乳、加糖脱脂れん乳、全脂粉乳、脱脂粉乳、クリームパウダー、ホエイパウダー、たん白濃縮ホエイパウダー、ホエイチーズ(WC)、ホエイたん白コンセントレート(WPC)、ホエイたん白アイソレート(WPI)、バターミルクパウダー、トータルミルクプロテイン、カゼインナトリウム、カゼインカリウムなどが挙げられる。糖質としては、マルトトリオースなどの三糖類、オリゴ糖、糖アルコール、澱粉分解物、イヌリン(アガベイヌリン等)などの多糖類や、ステビアやアスパルテームなどの甘味料などが挙げられる。抗酸化剤としては、L-アスコルビン酸、L-アスコルビン酸誘導体、トコフェロール、トコトリエノール、リグナン、ユビキノン類、キサンチン類、オリザノール、植物ステロール、カテキン類、ポリフェノール類、茶抽出物などが挙げられる。香辛料としては、カプサイシン、アネトール、オイゲノール、シネオール、ジンゲロンなどが挙げられる。増粘剤としては、カラギナン、キサンタンガム、グァーガム、などが挙げられる。着色成分としては、カロテン、アナトー、アスタキサンチンなどが挙げられる。
【0034】
ミックス粉におけるたん白質の含有量の下限値は、5.00質量%以上であり、好ましくは7.00質量%以上であり、さらに好ましくは10.00質量%以上である。ミックス粉におけるたん白質の含有量の上限値は、22.00質量%以下であり、好ましくは17.00質量%以下であり、さらに好ましくは14.00質量%以下である。たん白質の含有量を上記の範囲内にすることで、本発明に係るミックス粉を使用した洋菓子において、食感、ボリューム、結着性を良好にすることができる。
【0035】
なお、ミックス粉におけるたん白質の含有量は、ミックス粉における総量としての含有量である。
【0036】
ミックス粉におけるたん白質の含有量は、ミックス粉に含有されるたん白質を含有する材料(主にはたん白質素材)と、当該材料におけるたん白質の含有量とが既知である場合には、計算値として特定してもよい。また、ケルダール法を用いてミックス粉におけるたん白質の含有量を分析により特定してもよい。
【0037】
ミックス粉におけるたん白質に対するアルギン酸エステルの質量比(アルギン酸エステル/ミックス粉中たん白質)の下限値は、例えば0.008以上であり、好ましくは0.01以上であり、さらに好ましくは0.015以上である。(アルギン酸エステル/ミックス粉中たん白質)の上限値は、例えば0.200以下であり、好ましくは0.160以下であり、さらに好ましくは0.080以下である。(アルギン酸エステル/ミックス粉中たん白質)を上記の範囲内にすることで、本発明に係るミックス粉を使用した洋菓子において、食感、ボリューム、結着性を良好にすることができる。
【0038】
ミックス粉におけるたん白質素材に対する澱粉の質量比(澱粉/たん白質素材)の下限値は、例えば0.03以上であり、好ましくは0.10以上であり、さらに好ましくは0.30以上である。(澱粉/たん白質素材)の上限値は、例えば6.00以下であり、好ましくは4.00以下であり、さらに好ましくは1.00以下である。(澱粉/たん白質素材)を上記の範囲内にすることで、本発明に係るミックス粉を使用した洋菓子において、食感、ボリューム、結着性を良好にすることができる。
【0039】
本発明に係るミックス粉が使用される洋菓子としては特に限定されないが、例えば、ケーキ(フィナンシェ、バターケーキ、パウンドケーキ、スポンジケーキ、ホットケーキ、ブラウニー、ワッフル等)、イースト菓子(シュトーレン、パネトーネ、クグロフ、ブリオッシュ、ドーナツ等)、クッキー(アイスボックスクッキー等)、ビスケット、サブレ、パイ、ウエハース、クラッカー等が例示される。
【0040】
洋菓子は、本発明に係るミックス粉と他の各種の材料とを混錬した生地を加熱(焼成など)することで得ることができる。生地に配合されるミックス粉以外の材料としては、洋菓子の生地に通常配合される任意の材料であり、例えば、水、乳、乳製品、乳等を主要原料とする食品、たん白質、糖質(白糖等)、油脂(バター、マーガリン等)、香味油、卵(卵白等)、卵加工品、塩類、乳化剤、乳化起泡剤、ベーキングパウダー、イースト、イーストフード、カカオマス、ココアパウダー、チョコレート、ココナッツ(ココナッツパウダー、ココナッツファイバー、ココナッツミルク等)、キャラメルパウダー、コーヒー、茶類(紅茶、抹茶等)、野菜類、果物類、果実、果汁、ジャム、フルーツソース、豆類、きな粉、豆腐、豆乳、大豆たん白、膨張剤、甘味料、調味料、香辛料、着色料、フレーバー、酵素、酵母エキス、グリセリン等が挙げられる。
【0041】
洋菓子の生地におけるミックス粉の配合量は、洋菓子の種類に応じて適宜に設定される。生地におけるミックス粉の配合量の下限値は、例えば15.0質量%以上である。生地におけるミックス粉の配合量の上限値は、例えば45.0質量%以下である。
【0042】
本発明に係るミックス粉を使用した生地(すなわちグルテンを含有しない生地)は、起泡性が良好になる。また、当該生地から成る洋菓子は、食感、ボリュームおよび結着性が良好であり、さらに、時間が経過しても離水を抑制でき、保油性にも優れる。
【0043】
以上の説明から理解される通り、本発明に係るミックス粉は、小麦粉を含有しないにもかかわらず、洋菓子の食感、ボリュームおよび結着性を良好にすることが可能である。
【0044】
なお、小麦アレルギーを有する場合、交差抗原性により大麦やライ麦などにもアレルギー症状を示すことがある。したがって、ミックス粉は、小麦粉の他に大麦粉やライ麦粉も含まないことが好ましい。本発明に係るミックス粉は、小麦粉だけでなく大麦粉やライ麦粉を含まなくても、洋菓子の食感、ボリュームおよび結着性を良好にすることができる。ただし、交差抗原性には個人差があり、小麦アレルギーを有するからといって、必ずしも大麦やライ麦について症状が現れるとは限らない。したがって、本発明では、ミックス粉が大麦粉やライ麦粉も含まないことは必須ではない。
【0045】
さらに、上述した通り、小麦だけでなく、鶏卵および牛乳も食物アレルギーの原因物質となる。したがって、ミックス粉はもちろんのこと、ミックス粉を使用する生地にも鶏卵(卵加工品含む)および牛乳(乳製品含む)の使用を避けたいという実情がある。本発明では、ミックス粉そのものだけではなく、ミックス粉を使用する生地にも鶏卵および牛乳を使用しなくても、洋菓子の食感、ボリュームおよび結着性を良好にできるという利点もある。ただし、本発明は以上の実施形態には限定されない。
【実施例0046】
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0047】
<スポンジケーキ>
以下の通り、スポンジケーキを作製した。
【0048】
(1-1)配合(g)(実施例1-23、比較例1-4)
表1、表2に記載のミックス粉 130.0
ベーキングパウダー 2.6
上白糖 81.0
水 169.0
乳化油脂 5.6
(ケークトロン、ミヨシ油脂社製)
(1-2)配合(g)(実施例24、25)
表1に記載のミックス粉 105.0
ベーキングパウダー 2.1
上白糖 80.0
水 133.0
【0049】
表1、表2に記載のたん白質素材の横の(数値)は、たん白質素材に含まれるたん白質の含量を示す。
【0050】
表1、表2に記載のアルギン酸エステルの詳細は下記の通りである。
アルギン酸エステル1(キミロイドHV、キミカ社製)
アルギン酸エステル2(キミロイドLLV、キミカ社製)
【0051】
表1、表2に記載の澱粉の詳細は下記の通りであり、素材の横の(数値)は糊化温度を示す。
米加工澱粉(N-DULGE811、イングレディオン社製)
タピオカ加工澱粉1(てらす100、王子コーンスターチ社製)
タピオカ加工澱粉2(N-DULGE320、イングレディオン社製)
タピオカ加工澱粉3(NATIONAL FRIGEX、イングレディオン社製)
タピオカ澱粉(MKK-100、松谷化学工業社製)
コーン澱粉(コーンスターチホワイト、雪和食品社製)
馬鈴薯加工澱粉(松谷ひょうたん、松谷化学工業社製)
タピオカ加工澱粉4(松谷マリーゴールド、松谷化学工業社製)
【0052】
表1、表2に記載のセルロースエーテルの詳細は下記の通りである。
ヒドロキシプロピルメチルセルロース1(SFE-4000、信越化学工業社製)
ヒドロキシプロピルメチルセルロース2(SE-50、信越化学工業社製)
ヒドロキシプロピルセルロース(HPC-H、日曹商事社製)
【0053】
(2-1)作製方法(実施例1-23、比較例1-4)
1.室温の水をミキサーボールに計量する。
2.乳化油脂を量り取り、ミキサー(KSM5、キッチンエイド社製)により2速で30秒間分散させる。
3.ミックス粉と上白糖の混合物を投入し、1速で30秒間分散させる。
4.ゴムへらで壁面の粉類を掻き落とす。
5.4速で比重0.45あるいは下がる限界まで起泡させる。
6.型紙を敷いた4号型に250グラム生地を量り取り、オーブン(ERーVD3000、東芝社製)により180℃で28分間焼成する。
7.評価のための試食や計測等は翌日行った。
(2-2)作製方法(実施例24、25)
1.室温の水をミキサーボールに計量する。
2.ミックス粉と上白糖の混合物を投入し、ミキサー(KSM5、キッチンエイド社製)により1速で30秒間分散させる。
3.ゴムへらで壁面の粉類を掻き落とす。
4.4速で比重0.45あるいは下がる限界まで起泡させる。
5.型紙を敷いた4号型に250グラム生地を量り取り、オーブン(ERーVD3000、東芝社製)により180℃で28分間焼成する。
6.評価のための試食や計測等は翌日行った。
【0054】
(3)糊化温度
表1、表2に記載の澱粉について、下記の通り、糊化温度を測定した。
澱粉を水に分散させて10質量%の分散液を調整した。以下の測定装置および条件で分散液を測定して、横ばいに推移している貯蔵弾性率が急激に上昇した時の温度を澱粉の糊化温度とした。表1、表2に測定した糊化温度を記載する。
測定装置:動的粘弾性測定装置(装置名:MCR302、アントンパール社)
測定治具:直径25ミリメートルパラレルプレート(プレート名:PP25、アントンパール社)
サンプル厚み:1ミリメートル
せん断ひずみ:0.3%,1ヘルツ
温度:25~98℃,25分間
【0055】
(4)評価
スポンジケーキについて以下の評価を行った。
【0056】
[ボリューム]
ケーキ中央部の高さを計測した。評価基準は下記の通りである。
ボリュームは3点以上を合格とした。
5点:60mm以上
4点:55mm以上60mm未満
3点:50mm以上55mm未満
2点:45mm以上50mm未満
1点:45mm未満
【0057】
[結着]
スポンジケーキをちぎって評価をおこなった。評価基準は下記の通りである。
結着は3点以上を合格とした。
5点:ケーキをちぎる際に良好なつながりを感じる。
4点:ケーキをちぎる際につながりを感じる。
3点:ケーキをちぎる際のわずかにつながりを感じる。
2点:ケーキをちぎる際のつながりが弱く、表皮が内装から浮いている。
1点:ケーキをちぎる際のつながりが弱く、型紙をはがす際に表皮が崩れる。
【0058】
[食感]
食感の官能評価は、下記のように選抜されたパネルによって行った。
パネル候補に対し、五味(甘味、酸味、塩味、苦味、うま味)の識別テスト、味の濃度差識別テスト、食品の味の識別テスト、基準臭覚テストを実施し、その各々のテストで適合と判定された20~40代の男性8名と女性12名をパネルとして選抜した。
官能評価を実施するにあたりパネル全体で討議し、各評価項目の特性に対してすり合わせを行って、各パネルが共通認識を持つようにした。また、官能評価におけるパネルの偏りを排除し、評価の精度を高めるために、サンプルの試験区番号や内容はパネルに知らせず、ランダムに提示した。スポンジケーキを、20℃にて一晩置いた後、パネル20名にて、試食を行い、<ざらつき><ふんわり><ぬるつき>を以下の基準で評価した。
食感は3点以上となったものを合格とした。
【0059】
<ざらつき>
5点:20人中17~20人がざらつきを感じないと答えた
4点:20人中13~16人がざらつきを感じないと答えた
3点:20人中9~12人がざらつきを感じないと答えた
2点:20人中5~8人がざらつきを感じないと答えた
1点:ざらつきを感じないと答えたのは20人中4人以下であった
【0060】
<ふんわり>
5点:20人中17~20人がふんわりしていると答えた
4点:20人中13~16人がふんわりしていると答えた
3点:20人中9~12人がふんわりしていると答えた
2点:20人中5~8人がふんわりしていると答えた
1点:ふんわりしていると答えたのは20人中4人以下であった
【0061】
<ぬるつき>
ここで言うぬるつきとは、粉を練り固めたような食感であり、口内にまとわりついて口溶けが悪くなる食感をいう。
5点:20人中17~20人がぬるつきが無いと答えた
4点:20人中13~16人がぬるつきが無いと答えた
3点:20人中9~12人がぬるつきが無いと答えた
2点:20人中5~8人がぬるつきが無いと答えた
1点:ぬるつきが無いと答えたと答えたのは20人中4人以下であった
【0062】
[離水]
スポンジケーキをビニール袋内において20℃で一晩保管した後、袋表面と、ケーキ表皮の状態を確認し評価した。評価基準は下記の通りである。
離水は3点以上を合格とした。
5点:袋に水分が付着しない
4点:袋に水分がほとんど付着しない
3点:袋に水分がやや付着している
2点:袋に水分が多量に付着しており、手でケーキ表皮に触れると表皮が剥がれる 1点:ケーキ表皮が袋に付着して剥がれる
【0063】
[起泡性]
焼成前の生地について比重を測定した。評価基準は下記の通りである。
比重は0.45を目標とし、最終的に到達した比重によって評価した。起泡性は2点以上を合格とした。
3点:最終比重0.499以下であり、起泡性は非常に良好である。
2点:最終比重0.500~0.549であり、起泡性は良好である。
1点:最終比重0.550以上であり、起泡不足である。
【0064】
【表1】
【表2】
【0065】
表1、表2に示される通り、本発明に係るミックス粉を使用した実施例1-25では、食感、ボリュームおよび結着性の全てが良好であった。さらに、実施例1-25では、離水が抑制でき、さらに生地の起泡性も良好であることが確認できた。
【0066】
それに対して、たん白質の含有量が5.00~22.00質量%の範囲外にある比較例1,2、アルギン酸エステルを含有しない比較例3、および、澱粉を含有しない比較例4では、食感、ボリュームおよび結着性の全てを満足することはできなかった。
【0067】
実施例1~4を比較すると、たん白質の含有量が10.00~14.00質量%の範囲内にあると、食感、ボリュームおよび結着性がさらに良好になることが確認できた。
【0068】
実施例1,13~17を比較すると、特に、糊化温度が55~65℃の範囲内にある澱粉を使用すると、食感、ボリュームおよび結着性がさらに良好になることが確認できた。
【0069】
実施例1と実施例22とを比較すると、特に、セルロースエーテルを含有すると、食感、ボリューム、結着性、離水および起泡性の全てがさらに良好になることが確認できた。
【0070】
実施例23、25では2種類の加工澱粉を併用する場合でも良好な焼成品が得られることが確認できた。実施例23、25は、使用した馬鈴薯加工澱粉とタピオカ加工澱粉を2:1で混合した際の糊化温度は56℃であった。
【0071】
<パウンドケーキ>
以下の通り、パウンドケーキを作製した(実施例26、27、比較例5、6)。
【0072】
(1)配合量(g)
表3に記載のミックス粉 200.0
ベーキングパウダー 2.0
上白糖 150.0
水 114.0
マーガリン 150.0
(クレッシェンド、ミヨシ油脂社製)
【0073】
(2)作製方法
1.20℃に調温したマーガリンと上白糖をミキサーボールに計量する。
2.ミキサー(KSM5、キッチンエイド社製)により1速で30秒間攪拌し、ゴムへらでボール内壁を掻き落とす。
3.4速で比重0.70までミキシングする。
4.2速で攪拌しながら水を徐々に加える。
5.ミックス粉を投入して1速で30秒間攪拌する。
6.ゴムへらでよく混ぜ合わせ、型に350グラム量り取り、オーブン(ERーVD3000、東芝)により180℃で40分間焼成する。
7.評価のための試食や計測等は翌日行った。
【0074】
(3)糊化温度
澱粉の糊化温度の測定は、スポンジケーキの場合と同様である。
【0075】
(4)評価
パウンドケーキについて以下の評価を行った。
【0076】
[ボリューム]
ケーキ中央部の高さを計測した。評価基準は以下の通りである。
ボリュームは3点以上を合格とした。
4点:55mm以上
3点:50mm以上55mm未満
2点:45mm以上50mm未満
1点:40mm以上45mm未満
【0077】
[結着]
パウンドケーキをちぎって評価をおこなった。評価基準は以下の通りである。
結着は3点以上を合格とした。
5点:ケーキをちぎる際に良好なつながりを感じる。
4点:ケーキをちぎる際につながりを感じる。
3点:ケーキをちぎる際のわずかにつながりを感じる。
2点:ケーキをちぎる際のつながりが弱く、表皮が内装から浮いている。
1点:ケーキをちぎる際のつながりが弱く、型紙をはがす際に表皮が崩れる。
【0078】
[食感]
スポンジケーキと同様に、パネル20名による官能評価を行った。食感については<ざらつき><ふんわり><ぬるつき>の3つの項目について行った。<ざらつき><ふんわり><ぬるつき>における評価基準は、スポンジケーキの場合と同様である。
【0079】
[保油性]
ケーキにおける油の染み出しの状態を評価した。評価基準は以下の通りである。
保油性は3点以上を合格とした。
4点:油の染み出しが少ない状態。
3点:油の染み出しがやや少ない状態。
2点:油の染み出しがやや多く、焼成品外相が油で揚がった状態。
1点:油の染み出しが多く、焼成品内相まで油で揚がった状態。
【0080】
【表3】
【0081】
表3に示される通り、本発明に係るミックス粉を使用した実施例26、27では、食感、ボリュームおよび結着性の全てが良好であった。さらに、実施例26、27では、保油性も良好であることが確認できた。
【0082】
それに対して、たん白質の含有量が5.00~22.00質量%の範囲外にある比較例5、および、アルギン酸エステルを含有しない比較例6では、食感、ボリュームおよび結着性の全てを満足することはできなかった。
【0083】
以上の説明から理解される通り、本発明に係るミックス粉を使用した洋菓子は、食感、ボリュームおよび結着性の全てについて良好である。