(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023104951
(43)【公開日】2023-07-28
(54)【発明の名称】交流電場を使用する、幹細胞に基づく療法におけるテラトーマ形成の予防及び処置
(51)【国際特許分類】
C12N 5/0789 20100101AFI20230721BHJP
【FI】
C12N5/0789
【審査請求】有
【請求項の数】21
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2023078094
(22)【出願日】2023-05-10
(62)【分割の表示】P 2021512746の分割
【原出願日】2019-10-23
(31)【優先権主張番号】62/749,305
(32)【優先日】2018-10-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(71)【出願人】
【識別番号】503115205
【氏名又は名称】ザ ボード オブ トラスティーズ オブ ザ レランド スタンフォード ジュニア ユニバーシティー
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【弁理士】
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【弁理士】
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】ミルウェイス・ワーダック
(72)【発明者】
【氏名】エドウィン・チャン
(72)【発明者】
【氏名】ジョセフ・シー・ウ
(72)【発明者】
【氏名】サンジヴ・サム・ガンビール
(57)【要約】
【課題】1つには、移植前の細胞から残存する未分化多能性幹細胞を、その分化した子孫細胞を残しながら選択的に取り除くこと。
【解決手段】分化した細胞が多能性幹細胞に由来する幹細胞に基づく療法の文脈において、本出願は、分化した子孫細胞のバッチ内に存続するおそれのある残存する多能性幹細胞を除去するためのアプローチについて開示する。このアプローチは、分化した細胞が治療で最終的に使用されるとき、テラトーマ腫瘍の形成を有利に予防する。これは、分化した子孫細胞のバッチ及び残存する多能性幹細胞を交流電場に一定期間曝露することにより実現され得る。交流電場の周波数及び場の強度は、交流電場への曝露に起因して多能性幹細胞が死滅する一方、分化した細胞は実質的に無傷のままであるような周波数及び場の強度である。これは、幹細胞に基づく療法で使用するための安全性が付与された分化した子孫細胞の精製バッチをもたらす。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
残存する多能性幹細胞を、分化した子孫細胞のバッチから除去することによって、幹細胞に基づくがん療法における医原性のテラトーマ腫瘍を予防する方法であって、前記方法が、
分化した子孫細胞の前記バッチ及び前記残存する多能性幹細胞を交流電場に或る期間曝露することであって、前記交流電場が、或る周波数及び或る場の強度を有し、
前記交流電場の前記周波数及び場の強度が、前記交流電場に前記期間曝露された結果として、前記多能性幹細胞が死滅し、前記幹細胞に基づく療法におけるその後の使用のために安全性が付与された分化した子孫細胞の精製バッチをもたらすようなものであり、
前記交流電場の前記周波数及び場の強度が、前記交流電場に前記期間曝露された分化した細胞が実質的に無傷のままであるようなものである、曝露すること、並びに
前記曝露することの後に、前記がんを処置するために、分化した子孫細胞の前記精製バッチを使用すること
を含む、方法。
【請求項2】
前記幹細胞に基づくがん療法が、白血病のための幹細胞に基づく療法である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記幹細胞に基づくがん療法が、リンパ腫のための幹細胞に基づく療法である、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
幹細胞に基づく療法におけるテラトーマの形成を予防するために、残存する多能性幹細胞を、分化した子孫細胞のバッチから除去する方法であって、前記方法が、
分化した子孫細胞の前記バッチ及び前記残存する多能性幹細胞を交流電場に或る期間曝露することであって、前記交流電場が、或る周波数及び或る場の強度を有し、
前記交流電場の前記周波数及び場の強度が、前記交流電場に前記期間曝露された結果として、前記多能性幹細胞が死滅し、前記幹細胞に基づく療法におけるその後の使用のために安全性が付与された分化した子孫細胞の精製バッチをもたらすようなものであり、
前記交流電場の前記周波数及び場の強度が、前記交流電場に前記期間曝露された分化した細胞が実質的に無傷のままであるようなものである、曝露すること
を含む、方法。
【請求項5】
前記精製バッチが、100,000個未満の多能性幹細胞を含有する、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記精製バッチが、10,000個未満の多能性幹細胞を含有する、請求項4に記載の方法。
【請求項7】
前記期間が、少なくとも12時間である、請求項4に記載の方法。
【請求項8】
前記期間が、少なくとも2日間である、請求項4に記載の方法。
【請求項9】
前記交流電場が、前記期間中に、少なくとも異なる2方向間で時間毎に切り替わる方向づけを有する、請求項4に記載の方法。
【請求項10】
前記交流電場が、50kHz~500kHzの周波数を有する、請求項4に記載の方法。
【請求項11】
前記交流電場が、少なくとも1V/cmの場の強度を有する、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記交流電場が、250kHz~350kHzの周波数、及び少なくとも1V/cmの場の強度を有する、請求項4に記載の方法。
【請求項13】
前記交流電場が、50kHz~500kHzの周波数、及び少なくとも1V/cmの場の強度を有し、前記期間が、少なくとも12時間である、請求項4に記載の方法。
【請求項14】
前記交流電場が、250kHz~350kHzの周波数、及び少なくとも1V/cmの場の強度を有し、前記期間が、少なくとも3日間である、請求項4に記載の方法。
【請求項15】
前記曝露することの後に、治療又は診断目的で、分化した細胞の前記バッチを使用することを更に含む、請求項4に記載の方法。
【請求項16】
前記曝露することの前に、分化した子孫細胞の前記バッチが、多能性幹細胞を増殖させること及び前記増殖した多能性幹細胞を分化した子孫細胞の前記バッチへと分化させることによって得られる、請求項4に記載の方法。
【請求項17】
前記曝露する工程が、in vitroで実施される、請求項4に記載の方法。
【請求項18】
前記曝露する工程が、in vivoで実施される、請求項4に記載の方法。
【請求項19】
前記多能性幹細胞が、人工多能性幹細胞、胚性幹細胞、がん幹細胞、及び胚性生殖細胞のうちの1つ又は複数を含む、請求項4に記載の方法。
【請求項20】
前記分化した子孫細胞が、心筋細胞又は心筋前駆体から構成される、請求項4に記載の方法。
【請求項21】
前記多能性幹細胞及び前記分化した子孫細胞が、ヒト細胞である、請求項4に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、参考としてそのまま本明細書に組み込まれている、2018年10月23日出願の米国仮特許出願第62/749,305号の利益を主張する。
【背景技術】
【0002】
再生医療は、年齢、疾患、損傷、又は先天性欠損症に起因して失われた組織又は臓器の機能を修復し、又はそれに置き換わる生きた機能的組織を創出するプロセスと関係する医療の流れを一変させる領域である。この分野は、外部の細胞、組織、又は臓器全体さえも導入して、組織と一体化させ、そしてその一部にすることにより、又は臓器全体を置き換えることにより、身体内の損傷を受けた組織及び臓器を修復し又はそれに置き換わる将来性を秘めている。重要なこととして、再生医療は、救命的な臓器移植を必要とする患者に対するドナー臓器不足を解消する可能性を有する。
【0003】
再生医療戦略を成功に導く1つの重要な点は、多能性幹細胞を含む幹細胞を単離及び生成する能力であった。胚性幹細胞(ESC又はES細胞)及び人工多能性幹細胞(iPSC又はiPS細胞)を含む多能性幹細胞は、疾患又は傷害により損傷を受けた組織と置き換えるのに必要とされる細胞型がいずれであっても、無制限に自己再生するその能力、及び身体内の任意の細胞型に分化するその能力を理由として、細胞に基づく療法に対する最有力候補である。この種の処置は、例えば、脳卒中、脊髄損傷、アルツハイマー病、パーキンソン病、又はその他の神経障害により損傷を受けたニューロンを置き換えるのに使用され得る。インスリンを生成するように成長させた膵臓細胞は、糖尿病を有する人々を処置し、また心臓細胞は心臓発作後の損傷を修復し得る。このリストには、おそらく受傷又は罹患したあらゆる組織が含まれ得る。幹細胞を通じてがんに対抗する免疫系を工学的に操作することにより、幹細胞処置はまた、身体そのものの細胞ががんに対抗するのに役立つようにも使用され得る。
【0004】
その治療上の将来性にもかかわらず、ヒト多能性幹細胞を臨床導入する場合、重要な安全上の懸念として、それがin vivoでテラトーマを形成する可能性が挙げられる。テラトーマは、分化プロセスから逸脱した残存する多能性幹細胞により治療用幹細胞由来の細胞が汚染され、その汚染により引き起こされた複雑な腫瘍である。少量であっても、未分化多能性幹細胞が組織内に注射されると(例えば、10,000個のES細胞が骨格筋内に注射されると)、テラトーマを引き起こし得る。例えば、Leeら、(2009) Cell Cycle 8: 2608~2612頁を参照されたい。従って、幹細胞療法がヒトでの使用において許可される前に、この障害を克服することが必要不可欠である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Leeら、(2009) Cell Cycle 8: 2608~2612頁
【非特許文献2】Yuasaら、(2005) Nat. Biotechnol. 23(5):607~11頁
【非特許文献3】Xuら、Regen Med. 2011 Jan;6(l):53~66頁
【非特許文献4】Mignoneら、Circ J. 2010 74(l2):2517~26頁
【非特許文献5】Takeiら、Am J Physiol Heart Circ Physiol. 2009 296(6):Hl793~803頁
【非特許文献6】Fujiwaraら、PLoS One. 2011 6(2):el6734
【非特許文献7】Dambrotら、Biochem J. 2011 434(l):25~35頁
【非特許文献8】Foldesら、J Mol Cell Cardiol. 2011 50(2):367~76頁
【非特許文献9】Wangら、Sci China Life Sci. 2010 53(5):58l~9頁
【非特許文献10】Chenら、J Cell Biochem. 2010 11 l(l):29~39頁
【非特許文献11】Janssensら、(2006), Lancet, 367: 113-121頁
【非特許文献12】Sherman、(2003) Basic Appl. Myol. 13: 11~14頁
【非特許文献13】Patelら、(2005) The Journal of Thoracic and Cardiovascular Surgery 130: 1631~38頁
【非特許文献14】Perriら、(2003) Circulation 107: 2294~2302頁
【非特許文献15】Dawnら、(2005) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 102, 3766~3771頁
【非特許文献16】Morizaneら、(2008), Cell Tissue Res., 33 l(l):323~326頁
【非特許文献17】Coutts and Keirstead (2008), Exp. Neurol., 209(2):368~377頁
【非特許文献18】Goswami and Rao (2007), Drugs, 10(10):713~719頁
【非特許文献19】Burnsら、(2006) Curr. Stem Cell Res. Ther., 2:255~266頁
【非特許文献20】Childsら、(2000), N. Engl. J. Med., 343:750~758頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
移植前の細胞から残存する未分化多能性幹細胞を、その分化した子孫細胞を残しながら選択的に取り除くいくつかの試みがなされてきた。この方法には、細胞傷害性抗体の使用(Tanら、2009年; Chooら、2008年)、特異的抗体セルソーティング(Tangら、2011年; Fongら、2009年)、自殺遺伝子の導入を含む遺伝子操作(Blumら、2009年; Schuldinerら、2003年)、薬理学的アプローチ(Leeら、2013年; Ben-Davidら、2013年; Linら、2017年)、及び放射線療法(Leeら、2017年)が含まれる。しかしながら、これらの方法のそれぞれは顕著な欠点、例えば高コスト(細胞傷害性抗体及び特異的抗体セルソーティング)、異なるロット間の変動(細胞傷害性抗体及び特異的抗体セルソーティング)、非特異的結合(細胞傷害性抗体)、遺伝子操作の必要性及び毒性遺伝子の安定な組み込み(遺伝子操作)、時間のかかる手順(遺伝子操作、特異的抗体セルソーティング、及び細胞傷害性抗体)、及び電離照射の使用(放射線療法)等を有する。多くの研究が、残存する多能性幹細胞からのテラトーマ形成の防止を試みたが、テラトーマ形成を取り除く臨床的に適用可能な戦略はいまだ開発されていない。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の1つの態様は、分化した子孫細胞のバッチから残存する多能性幹細胞を除去することにより、幹細胞に基づくがん療法における医原性のテラトーマ腫瘍を予防する第1の方法と関連する。第1の方法は、分化した子孫細胞のバッチ及び残存する多能性幹細胞を交流電場に一定期間曝露する工程を含む。交流電場は、(a)交流電場に一定期間曝露された結果として、多能性幹細胞が死滅し、それに起因して、幹細胞に基づく療法においてその後使用するために安全性が付与された分化した子孫細胞の精製バッチをもたらし、そして(b)交流電場に一定期間曝露された分化した細胞が実質的に無傷のままであるような周波数及び場の強度を有する。第1の方法は、曝露後に、がんを処置するために分化した子孫細胞の精製バッチを使用する工程も含む。
【0009】
第1の方法のいくつかの例では、幹細胞に基づくがん療法は、白血病のための幹細胞に基づく療法である。第1の方法のいくつかの例では、幹細胞に基づくがん療法は、リンパ腫のための幹細胞に基づく療法である。
【0010】
本発明の別の態様は、幹細胞に基づく療法においてテラトーマの形成を予防するために、分化した子孫細胞のバッチから残存する多能性幹細胞を除去する第2の方法と関連する。第2の方法は、分化した子孫細胞のバッチ及び残存する多能性幹細胞を交流電場に一定期間曝露する工程を含む。交流電場は、(a)交流電場に一定期間曝露された結果として、多能性幹細胞が死滅し、それに起因して、幹細胞に基づく療法においてその後使用するために安全性が付与された分化した子孫細胞の精製バッチをもたらし、そして(b)交流電場に一定期間曝露された分化した細胞が実質的に無傷のままであるような周波数及び場の強度を有する。
【0011】
第2の方法のいくつかの例では、精製されたバッチは、100,000個未満の多能性幹細胞を含有する。第2の方法のいくつかの例では、精製されたバッチは、10,000個未満の多能性幹細胞を含有する。第2の方法のいくつかの例では、精製されたバッチは、1,000個未満の多能性幹細胞を含有する。第2の方法のいくつかの例では、精製されたバッチは、100個未満の多能性幹細胞を含有する。第2の方法のいくつかの例では、一定期間は少なくとも12時間である。第2の方法のいくつかの例では、一定期間は少なくとも2日間である。第2の方法のいくつかの例では、交流電場は、一定期間中、少なくとも異なる2方向間で時間毎に切り替わる方向づけ(orientation)を有する。
【0012】
第2の方法のいくつかの例では、交流電場は50kHz~500kHzの周波数を有する。これらの例のいくつかにおいて、交流電場は、少なくとも1V/cmの場の強度を有する。
【0013】
第2の方法のいくつかの例では、交流電場は、250kHz~350kHzの周波数、及び少なくとも1V/cmの場の強度を有する。第2の方法のいくつかの例では、交流電場は、50kHz~500kHzの周波数、及び少なくとも1V/cmの場の強度を有し、並びに一定期間は、少なくとも12時間である。第2の方法のいくつかの例では、交流電場は、250kHz~350kHの周波数、及び少なくとも1V/cmの場の強度を有し、並びに一定期間は、少なくとも3日間である。
【0014】
第2の方法のいくつかの例は、曝露後に、治療又は診断目的で分化した細胞のバッチを使用する工程を更に含む。
【0015】
第2の方法のいくつかの例では、曝露前に、分化した子孫細胞のバッチは、多能性幹細胞を増殖させ、及び増殖した多能性幹細胞を分化した子孫細胞のバッチに分化させることにより得られる。
【0016】
第2の方法のいくつかの例では、曝露する工程は、in vitroで実施される。第2の方法のいくつかの例では、曝露する工程は、in vivoで実施される。第2の方法のいくつかの例では、多能性幹細胞は、人工多能性幹細胞、胚性幹細胞、がん幹細胞、及び胚性生殖細胞のうちの1つ又は複数を含む。第2の方法のいくつかの例では、分化した子孫細胞は、心筋細胞又は心筋前駆体から構成される。第2の方法のいくつかの例では、多能性幹細胞及び分化した子孫細胞は、ヒト細胞である。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】テラトーマ形成リスクを劇的に低下させる、幹細胞に基づく療法に対する1つの例示的アプローチの諸工程を図示するフローチャートを示す図である。
【
図2】
図2Aは、異なる周波数で交流電場に経時的に曝露されたH7ヒト胚性幹細胞(H7-ESC)のトリパンブルー細胞染色により評価された細胞数のカウントを、非暴露コントロールと比較して表す図である。
図2Bは、異なる周波数で交流電場に経時的に曝露されたH7-ESCについて
図2Aに示すデータの拡大版を示す図である。
【
図3】異なる周波数において交流電場に曝露されたヒトESC (H7系統)の経時的な細胞生存度を、非暴露コントロールと比較して表す図である。発光アウトプットは、細胞数と正の相関関係を有した(R
2=0.942)。RLUは相対的発光単位を表す。
【
図4】異なる周波数において交流電場に曝露された後、ESC由来の心筋細胞をトリパンブルー細胞染色により評価したときの細胞カウントを、非暴露コントロール心筋細胞と比較して表す図である。テストした5つの周波数のいずれについても、交流電場適用前後において心筋細胞カウントに有意差は認められなかった。
【
図5】
図5Aは、交流電場に曝露した後のESC由来心筋細胞の拍動速度を測定した収縮性アッセイの結果を、非暴露(非処置)コントロールと比較して表す図である。拍動速度は、交流電場に曝露されたESC-CMと曝露されなかったESC-CMとの間で有意差はなかった。
図5Bは、交流電場に曝露した後のESC由来心筋細胞の収縮速度を測定した収縮性アッセイの結果を、非暴露(非処置)コントロールと比較して表す図である。収縮速度は、交流電場に曝露されたESC-CMと曝露されなかったESC-CMとの間で有意差はなかった。
図5Cは、交流電場に曝露した後のESC由来心筋細胞の加速度を測定した収縮性アッセイの結果を、非暴露(非処置)コントロールと比較して表す図である。加速度は、交流電場に曝露されたESC-CMと曝露されなかったESC-CMとの間で有意差はなかった。
【
図6】
図6A~6Cは、生きたマウスにH7-ESCを細胞注射した後の異なる3時点におけるBLIシグナルを表す図である。交流電場で処置したESCを注射した側と非処置ESCを注射した側における、BLIシグナルの劇的な差異に留意されたい。交流電場で処置されたESCを注射されたマウスの左側腹部においてBLIシグナルは全く検出されなかった。
【
図7】
図7A~7Bは、交流電場に曝露されなかったコントロールESC (
図7A)、及び300kHzにおいて3日間の交流電場処置を受けたESC(
図7B)について細胞周期分析結果を表す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
様々な実施形態が、添付図面を参照しながら下記に詳記されており、同様の参照番号は同様の要素を表す。
【0019】
幹細胞に基づく療法に先立ち、残存する多能性幹細胞(テラトーマを誘発させ得る)のリスクを除去することは、これまではきわめて困難であった。本明細書に記載される実施形態は、この困難を克服する新規アプローチを使用する。
【0020】
「多能性」及び多能性幹細胞とは、そのような細胞が、生物内であらゆる種類の細胞に分化する能力を有することを意味する。用語「人工多能性幹細胞」は、胚性幹(ES)細胞と同様に、生物内であらゆる型の細胞に分化する能力を維持しながら長期間にわたり培養可能であるが、しかしES細胞(胚盤胞の内部細胞塊に由来する)とは異なり、分化した体細胞、すなわち、より狭い、より限られた可能性を有し、そして実験的操作が存在しない場合には生物内であらゆる型の細胞を誘発させることはできない細胞に由来する多能性細胞を包含する。iPS細胞は、核細胞質比が大きく、限られた境界及び顕著な核を有する平板なコロニーとして増殖するESC様の形態を有する。それに加えて、iPS細胞は、アルカリホスファターゼ、SSEA3、SSEA4、Sox2、Oct3/4、Nanog、TRA160、TRA181、TDGF1、Dnmt3b、FoxD3、GDF3、Cyp26al、TERT、及びZfp42を含む、但しこれらに限定されない、当業者にとって既知の1つ又は複数の重要な多能性マーカーを発現する。それに加えて、iPS細胞はテラトーマ形成能を有する。それに加えて、iPS細胞は、生物内で外胚葉、中胚葉、又は内胚葉組織を形成し、又はそれに寄付する能力を有する。
【0021】
図1は、テラトーマ形成リスクを劇的に低下させる幹細胞に基づく療法について、1つの例示的アプローチの諸工程を図示するフローチャートである。(略号: ESC -胚性幹細胞、iPSC -人工多能性幹細胞、PPSC -多能性幹細胞)。最初の4工程(すなわち、工程20~26)は、幹細胞に基づく療法に関する先行技術アプローチの対応する工程と類似している。先行技術アプローチに対する改善が、残りの工程(すなわち、工程30~35)に提示される。
【0022】
フローチャート(
図1)の導入ポイントは、プロセスが人工多能性幹細胞(iPSC)又は胚性幹細胞(ESC)のいずれに立脚するかに依存する。iPSCに立脚するプロセスの場合、プロセスは工程20より開始し、その場合、初期細胞集団を取得するために細胞が被験者から単離されるが、該初期細胞集団は、多能性幹細胞を生成し、それから幹細胞に基づく療法のための治療用細胞が派生することになるようにリプログラミングされることになる。或いは、細胞は異なるドナーから抽出/単離され得る。細胞は、対象(又はその他のドナー)から、例えば皮膚サンプルより、又は人から血液を抜き取ることにより最初に単離され得る。
【0023】
「開始細胞集団」又は「初期細胞集団」とは、体細胞、多能性に向けて核リプログラミングが施される、通常は一次又は非形質転換体細胞を指す。開始細胞集団は任意の哺乳動物種の細胞集団であり得るが、しかし特にヒト細胞を含む。開始細胞集団の供給源として、細胞療法を望む個人、研究にとって興味深い遺伝子欠陥を有する個人等が挙げられる。
【0024】
いくつかの実施形態では、再生目的で対象から得られるヒト細胞は、線維芽細胞、脂肪組織細胞、間葉細胞、骨髄細胞、胃細胞、肝細胞、上皮細胞、鼻腔上皮細胞、粘膜上皮細胞、濾胞細胞、結合組織細胞、筋肉細胞、骨細胞、軟骨細胞、胃腸管系細胞、脾臓細胞、腎細胞、肺細胞、精巣細胞、神経組織細胞等を含む、任意のヒト細胞型から選択され得る。いくつかの実施形態では、ヒト細胞型は、パンチ生検により対象から好都合に取得され得る線維芽細胞である。
【0025】
次に、工程22では、初期細胞集団が、人工多能性幹細胞(例えば、iPSC)が生成するようにリプログラミングされる。これは、関連する当業者にとって明白であろう様々なアプローチのいずれかを用いて実施され得る。本明細書で使用する場合、「リプログラミング因子」とは、すなわち、細胞に作用して転写を変化させ、これにより細胞を多能性(multipotency)又は多能性(pluripotency)に向けてリプログラミングする1つ又は複数の生物学的に活性な因子のカクテルを指す。リプログラミング因子は、細胞、例えば心疾患について目的とする家族歴又は遺伝子構造を有する個人に由来する細胞、例えば線維芽細胞、脂肪細胞等に対して、個別に又は単一の組成物として、すなわちリプログラミング因子の事前混合された組成物として提供され得る。因子は、同一のモル比で提供されてもよく、また異なるモル比で提供されてもよい。因子は、細胞を培養する過程で1回又は複数回提供され得る。いくつかの実施形態では、リプログラミング因子は、Oct3/4、Sox2、Klf4、c-Myc、Nanog、及びLin-28を非限定的に含む転写因子である。
【0026】
体細胞は、細胞を多能性に向けてリプログラミングするのに十分な組み合わせ及び量でリプログラミング因子(上記定義した通り)と接触する。リプログラミング因子は、個別に又は単一組成物として、すなわちリプログラミング因子の事前混合された組成物として体細胞に提供され得る。いくつかの実施形態では、リプログラミング因子は、ベクターの複数のコーディング配列として提供される。
【0027】
任意選択的に、遺伝子は、例えば機能喪失型突然変異を有する遺伝子と置き換え、マーカー遺伝子を提供する等のために、体細胞又は体細胞由来のiPS細胞に様々な目的で導入され得る。或いは、アンチセンスmRNA又はリボザイムを発現するベクターが導入され、これにより望ましくない遺伝子の発現をブロックする。遺伝子療法のその他の方法として、正常な前駆細胞が有利性を有し、そして選択圧を受けるのを可能にする薬物耐性遺伝子、例えば多剤耐性遺伝子(MDR)、又は抗アポトーシス遺伝子、例えばbcl-2等の導入が挙げられる。当技術分野において既知の様々な技術、例えば上記で議論したような、エレクトロポレーション、カルシウム沈降DNA (calcium precipitated DNA)、融合、トランスフェクション、リポフェクション、感染等が、標的細胞中に核酸を導入するのに使用され得る。DNAが導入される具体的な方法は重要でない。
【0028】
対象又はその他のドナーから単離され、そして人工多能性幹細胞を形成するようにリプログラミングされた(工程20~22と関連して上記したように)体細胞を用いて開始する代わりに、後続する工程で使用される多能性幹細胞は代替的アプローチを使用しても取得され得ることに留意すること。例として、そのような細胞を取得するための任意の従来アプローチを使用して胚性幹細胞を取得することが挙げられる。この状況では、
図1のフローチャートへの導入ポイントは、ESCが単離される工程20'であろう。
【0029】
上記したように、多能性幹細胞(PPSC)が取得された後に、工程24が実施される(すなわち、人工多能性幹細胞の場合工程20~22、又は胚性幹細胞の場合は工程20'を使用して)。この工程24では、関連する同業者により認識されるであろう様々なアプローチのいずれかを使用して、初期量の多能性幹細胞を増殖させる。例えば、意図した用途にとって十分大きい多能性幹細胞のバッチが取得されるまで、初期量の多能性幹細胞は培養され、そして適切な栄養媒体の補給を受け得る。
【0030】
次に、工程26では、多能性幹細胞のバッチを分化させて、所望の種類に分化した特別な細胞のバッチ(最終的に必要とされるであろう処置の性質に依存することになる)を形成する。例えば、最終目標が、心疾患を有する患者への心筋細胞の導入である場合、工程26の分化プロセスは、多能性幹細胞を心筋細胞に分化させるべきである。
【0031】
分化した細胞の例として、外胚葉(例えば、ニューロン及び線維芽細胞)、中胚葉(例えば、心筋細胞)、又は内胚葉(例えば、膵臓細胞)系統からの任意の分化した細胞が挙げられる。分化した細胞は、1つ又は複数のコリン作動性、セロトニン作動性、GABA作動性、グルタミン酸作動性の神経細胞、膵β細胞、神経幹細胞、ニューロン(例えば、ドパミン作動性ニューロン)、網膜神経節細胞、光受容体細胞(杆体錐体)、網膜色素上皮細胞、オリゴデンドロサイト、オリゴデンドロサイト前駆細胞、肝細胞、肝幹細胞、軟骨細胞、骨細胞、結合組織細胞、グリア細胞、アストロサイト、筋細胞、造血細胞、卵細胞若しくは精子細胞、ペースメーカー細胞、又は心筋細胞であり得る。
【0032】
本明細書に記載する方法は心筋細胞の産生に限定されないが、多能性幹細胞のバッチを心筋細胞のバッチに分化させる下記の例が例証目的で提示される。多能性細胞は、心筋細胞を非限定的に含む体細胞に分化させることができる。骨形成タンパク質(BMP)シグナリングの阻害は、心筋細胞(cardiac muscle cell)(又は心筋細胞(cardiomyocyte))の生成を引き起こし得、例えばYuasaら、(2005)、Nat. Biotechnol.、23(5):607~11頁を参照されたい。従って、1つの実施形態では、多能性細胞を、ノギンの存在下で、約2~約6日間、例えば約2日間、約3日間、約4日間、約5日間、又は約6日間培養した後、胚様体の形成が可能となり、そして該胚様体を約1週間~約4週間、例えば約1週間、約2週間、約3週間、又は約4週間培養する。
【0033】
心筋細胞の分化は、心臓作用剤、例えばアクチビンA及び/又は骨形成タンパク質-4等を培養物に含めることにより促進され得る(本明細書における実施例、本明細書において特に参考としてそれぞれ組み込まれるXuら、Regen Med. 2011 Jan;6(l):53~66頁; Mignoneら、Circ J. 2010 74(l2):2517~26頁; Takeiら、Am J Physiol Heart Circ Physiol. 2009 296(6):Hl793~803頁を参照)。そのようなプロトコールの例には、例えば、任意選択的にサイトカイン、例えばBMP4、VEGF、及びアクチビンA等の存在下で、Wntアゴニスト、例えばWnt 3A等を添加し、その後Wntアンタゴニスト、例えば可溶性frizzledタンパク質等の存在下で培養することも含まれる。しかしながら、心筋細胞分化を誘発する任意の適する方法、例えば本明細書において特に参考として組み込まれるFujiwaraら、PLoS One. 2011 6(2):el6734; Dambrotら、Biochem J. 2011 434(l):25~35頁により記載されるシクロスポリンA、Foldesら、J Mol Cell Cardiol. 2011 50(2):367~76頁により記載される等軸環状ストレッチ(equiaxial cyclic stretch)、アンジオテンシンII、及びフェニレフリン(PE)、Wangら、Sci China Life Sci. 2010 53(5):58l~9頁により記載されるアスコルビン酸、ジメチルスルホキシド、及び5-アザ-2'-デオキシシチジン、Chenら、J Cell Biochem. 2010 11 l(l):29~39頁により記載される内皮細胞等が使用され得る。
【0034】
細胞は、適切な発達段階(マーカーの発現及び所望の細胞型の表現型特性に基づき決定され得る)において採取される(例えば、約1~4週間において)。培養物は、目的とするマーカーの存否について染色することにより、形態学的判定による等して実験的にテストされ得る。細胞は、薬物選択、パニング、密度勾配遠心分離等によるポジティブ選択工程の前後において、任意選択的に富化される。
【0035】
「心筋前駆体」は、心筋細胞を含む子孫を誘導する能力を有する細胞として定義される。哺乳動物の心臓の発達期間中に生ずる心筋細胞の表現型は、一次(primary)心筋細胞、結節性(nodal)心筋細胞、伝導(conducting)心筋細胞、及び作動(working)心筋細胞に区別され得る。全ての心筋細胞は、筋節及び筋小胞体(SR)を有し、ギャップジャンクションにより結合しており、また自動性を示す。一次心臓管の細胞は、高自動性、低伝導速度、低収縮性、及び低SR活性により特徴付けられる。この表現型は、結節性細胞において主に存続する。対照的に、心房及び心室の作動心筋細胞は自動性を実質的に示さず、細胞間で十分に結合しており、十分に発達した筋節を有し、そして高いSR活性を有する。房室束、束枝、及び末梢心室伝導系にからの伝導細胞は、筋節の発達が不十分であり、SR活性が低いが、しかし十分に結合しており、また高自動性を示す。
【0036】
α-Mhc、β-Mhc、及び心筋トロポニンI、及び遅い骨格トロポニンIについて、分化したES細胞培養物において発達変化が観察されている。ES細胞培養物中で心室様細胞と心房様細胞とをそれぞれ区別するのに、Mlc2v及びAnfの発現が多くの場合使用されるが、ES由来の細胞(ESDC)においては、Anfが発現しているからといって、心房心筋細胞がもっぱら同定されるものではなく、またAnfは作動心筋細胞の一般的なマーカーであり得る。
【0037】
プロセス内のこの時点(すなわち、工程26の最後)において、所望の型(例えば、心筋細胞)の分化した子孫細胞のバッチが得られる。しかし、分化した子孫細胞は多能性幹細胞と関係するプロセスを使用して創出されたので、多能性幹細胞の全てが所望の細胞の型に分化したわけではない可能性がきわめて高い。これは、残存する多能性幹細胞が分化した細胞のバッチと混ざり合ったままである確率が高いことを意味する。従って、分化した子孫細胞のバッチが治療目的で使用される前に、分化した子孫細胞のバッチは、分化した細胞のバッチと混ざり合ったまま残存する多能性幹細胞を除去することにより精製されるべきである(好ましくは、可能な限り最大限度まで)。これは、分化した子孫細胞のバッチが幹細胞に基づく療法で最終的に使用されるとき、テラトーマ腫瘍の形成を防止するであろう。
【0038】
工程30においてこの精製が生ずる。より具体的には、工程30では、分化した子孫細胞のバッチは、その中に混り合ったあらゆる残存する多能性幹細胞と共に交流電場に一定期間曝露される。交流電場は、周波数及び場の強度特性を有する。交流電場の周波数及び場の強度は、交流電場に一定期間曝露された結果として、多能性幹細胞が死滅し、それに起因して、幹細胞に基づく療法においてその後使用するために安全性が付与された分化した子孫細胞の精製バッチをもたらすような周波数及び場の強度である。ところで、交流電場の周波数及び場の強度は、交流電場に一定期間曝露された分化した細胞が実質的に無傷のままであるような周波数及び場の強度でもある。
【0039】
重要なこととして、精製バッチが安全であるようにするために、多能性幹細胞の全てを殺傷する必要はない。むしろ、幹細胞に基づく療法で分化した子孫細胞の精製バッチを使用しても、テラトーマ形成について過度のリスクを引き起こさないであろうほどに数が十分小さい限り、少数の多能性幹細胞は存続してもよい。マウスの文脈で用いられる数値におけるこの例では、骨格筋内に注射するとき、多能性幹細胞は10,000個未満、また心筋内に注射するとき、多能性幹細胞は100,000個未満である。いくつかの好ましい実施形態では、多能性幹細胞の数は、可能な限り最大限度まで低下させる(例えば、1000個未満、又は100個未満多能性幹細胞)。
【0040】
電場について好適な代表的周波数及び場の強度を決定するために、一連の実験を実施した。この実験から、50kHz~500kHzの周波数、及び1~4V/cmの場の強度が、急速分裂性の多能性幹細胞を開始時の事前精製されたバッチから除去することによって分化した子孫細胞を精製するのに有効であることが明らかとなった。
【0041】
腫瘍処置電場療法(Tumor-treating fields)(TTField)は、中間周波数範囲(例えば、50~500kHz)内の低強度(例えば、1~4V/cm)交流電場を腫瘍に対して送り届けることにより作用する、固形腫瘍に対するFDA承認療法である。また、培養物にin vitroで、又は対象にin vivoでTTFieldを適用するためのアプローチは既知であるが、そのうちのいずれかが、分化した細胞のバッチを精製し、これによりテラトーマ腫瘍の形成を予防するために、残存する多能性幹細胞と混り合った分化した子孫細胞のバッチに交流電場を適用するのに使用され得る。TTFieldは交流電場であるので、残存する多能性幹細胞を含有する分化した子孫細胞のバッチから多能性幹細胞を除去するのに使用され得るアプローチの1例として、Novocure INOVITRO(商標)システムの使用が挙げられる。INOVITRO(商標)システムは、ソフトウェアにより制御されたTTField発生装置及び超高誘電率セラミックペトリ皿を備えたベースプレートから構成される。INOVITRO(商標)システムは、研究者が、各セラミック皿において、目標とするTTField強度及び周波数を設定できるようにし、本明細書に記載されるin vitro実験を実施するのに使用された。
【0042】
TTField in vitroアプリケーションシステムは、高誘電率セラミックのコアユニットを有する(すなわち、ニオブ酸マグネシウム鉛-チタン酸鉛[PMN-PT])ペトリ皿。2つの電極の対がTTFieldセラミック皿の底部に接着された回路基板に縦方向に印刷されており、こうすることで、皿の面に対して平行な縦の2方向から電場を適用することが可能となる。そのような設定は、交流電場に曝露されることになる分裂中期分散状態(metaphase-spread)の細胞の割合を最適化する。細胞分裂は時期を問わず生じ得るので、電場に長期間曝露することが最大効果を得るために必要とされる。
【0043】
セラミック皿をベースプレート(次に、正弦波発生装置(sinusoidal waveform generator)及び増幅器に接続したパワーボックスに繋がっている)に取り付けることにより、電極を通じて電流が流れる。この構成は、1~4V/cmの電場強度を有する50~500kHzの周波数範囲においてTTFieldを適用できるようにする。過剰の熱を分散させるために、TTField皿は、20~27℃に事前設定された温度制御式インキュベーター内部に保持される。セラミック皿のウェル内媒体温度は、皿底部の回路基板に印刷された温度プローブを介して、皿の温度を常にモニタリングすることにより制御した。電圧及び電流(INOVITRO(商標)システムにより、回路基板底部に適用された)について、コンピューター制御式の調節を通じて温度及び電場強度を一定に保った。
【0044】
INOVITRO(商標)システムを使用して、心臓幹細胞療法について実験するための代表的なワークフローをここに記載することにする。実験の性質に応じて、(a) ESC由来の心筋細胞又は(b) ESCのいずれかを、マトリゲルがコーティングされたカバースリップに播種した。カバースリップを、次に適切な培地(約2mL)で予め充填されたセラミック皿に移した。覆蓋をセラミック皿上に配置して、TTField実験中の蒸発を緩和した。次に、セラミック皿をTTFieldベースプレートに据付けた。ベースプレート上に配置された実験皿を、交流電場条件に置くための特製インキュベーターに移した。ベースプレートを、次にフラットケーブルコネクターを用いてTTField発生装置と接続した。Inovitro(商標)ソフトウェアを使用して処置のセッティングを設定した後、実験を開始した。1~4V/cmのいずれかに設定されたTTFieldを、Inovitro(商標)パワー発生装置を通じて適用した。選択したTTField周波数には、50kHz、100kHz、200kHz、300kHz、400kHz、及び500kHzが含まれた。TTField適用時のセラミック皿に対する目標温度は37℃であり、インキュベーション温度は20~27℃の範囲であった。実験全体を通じて、培養培地を24時間毎に手作業により交換した。処置期間は3~4日間のどこかであり、その後カバースリップを除去し、そして細胞数計測又は細胞生存度アッセイを実施した。コントロール皿を、37℃、95%の空気及び5%のCO2に設定された別の組織培養インキュベーター内に配置した。別途記載されない限り、全ての実験は、1条件当たり三重のサンプルで実施した。
【0045】
各実験において、同一数の細胞を各カバースリップ上に播種した。個々の実験に応じて、1カバースリップ当たり細胞50,000~500,000個の一連の播種密度を使用した。
【0046】
重要なこととして、本明細書に記載されるin vitro実験を実施するのにINOVITRO(商標)システムを使用したが、本明細書に記載される方法は、INOVITRO(商標)システムを使用して交流電場を適用することに限定されない。それとは裏腹に、交流電場は、INOVITRO(商標)システムと類似するシステムを含む、但しこれに限定されない様々な代替的アプローチ(但し交流電場が適用される細胞の量を増加させるためにサイズがスケールアップしている)のいずれかを使用して適用され得る。
【0047】
多能性幹細胞の種類には、胚性幹細胞(ESC)及び人工多能性幹細胞(iPSC)の両方が含まれる。また、本明細書に記載される実験は胚性幹細胞において実施されたが、結果は、その他の種類の多能性幹細胞にもやはり適用されるべきである。
【0048】
実験のいくつかにおいては、EFlaプロモーターの下で、ルシフェラーゼ及びトマトレッドを発現するレンチウイルスベクターを用いてH7-ESCをトランスフェクトした。トマトレッドは、適する波長の光が照射されたときにESCを可視化させるので、またルシフェラーゼは、細胞にとってルシフェリンが利用可能なときにESCを可視化させるので、このレンチウイルスベクターを用いて胚性幹細胞をトランスフェクトすることが有利であった。
【0049】
図2A及び
図2Bは、交流電場に50kHz、100kHz、200kHz、300kHz、400kHz、及び500kHzにおいて曝露したときのH7ヒト胚性幹細胞、並びに交流電場を適用しなかったコントロールの細胞数を経時的に測定した最初の実験の結果を表す。(
図2A及び
図2Bは、同一データを異なるY軸スケールで表す)。非処置のコントロールESCでは、インキュベーターに3日間置かれた後、その細胞数が3600%を超えて増加した。(すなわち、0日目のESC約45,000個[ベースライン]から3日目の細胞約170万個まで跳ね上がった)。(
図2B)テストした周波数のなかで、最高のESC殺傷率を示した周波数は300kHzであった。交流電場に長期間曝露すると、実質的に全てのESCが根絶するであろうと考えられている。
【0050】
図3は、異なる周波数の交流電場に曝露したときの、ESCの細胞生存度を経時的に表す。生存度は、交流電場療法開始前のベースライン時、及び交流電場療法開始後の3日目において、Cell Titer Gloアッセイから得られる発光シグナルに基づき決定した。非処置コントロールESCでは、インキュベーターに3日間置かれた後、その発光アウトプットが450%を超えて増加した。しかしながら、表示した5周波数の全てにおいて、交流電場が3日間適用されたESCは実質的に完全に根絶された。(100kHz、200kHz、300kHz、400kHz、及び500kHzに対する
図3のデータポイントは、ゼロに非常に近い数値に全て重なっていることに留意すること)。最高のESC殺傷率を示した周波数は300kHzであった(ベースラインの開始時の値と比較したとき、99.9%を超える細胞殺傷率)。細胞数は発光アウトプットと相関関係を有した(R2 = 0.942)。RLUは相対的発光単位を表す。
【0051】
別の実験では、明視野像も、交流電場の胚性幹細胞に対する効果を観察するのに使用した。この実験では、実験開始前のベースラインにおいて、ESCの皿の明視野像を取得した。いくつかの皿を、周波数300kHzの交流電場に3日間曝露した一方、その他の皿(すなわち、コントロール皿)については、同一期間交流電場に曝露しなかった。実験終了時に、皿の明視野像を目視観察し、交流電場に曝露されなかった皿では胚性幹細胞の量が急速に増加したが、しかし交流電場に曝露された皿では完全に根絶されたように見えることが判明した。
【0052】
これらの実験は、多能性幹細胞を上記周波数の交流電場に曝露すれば、多能性幹細胞を死に至らしめることを示している。
【0053】
多能性幹細胞に由来する分化した細胞を、同一周波数の交流電場に曝露したときに何が生じるか確認するための追加の実験を実施した。より具体的には、この実験では、異なる5周波数(50、100、200、300、及び400kHz)で3日間、交流電場を細胞に適用した前後において、ESC由来の心筋細胞(ESC-CM)の皿を目視観察した。それに加えて、交流電場を適用した3日間の前後においてコントロール皿を目視観察した。皿を目視観察したが、交流電場適用前後の心筋細胞ウェルにおいて特筆すべき顕著な差は認められなかった。
【0054】
目視観察に付加して、細胞数計測も実施し、また
図4は、ESC由来の心筋細胞(ESC-CM)について、異なる周波数の交流電場に曝露した後の細胞数計測の結果を表す。3日間の最後に、トリパンブルー細胞数計測アッセイを使用して細胞数計測を実施した。細胞数計測により、交流電場の適用前後における心筋細胞カウントの差異は、テストした5周波数のいずれについても統計的に有意ではなかったことが判明した。
【0055】
ESC由来の心筋細胞では、交流電場を適用した前後の両方において、インタクトな機能的表現型を示す拍動も認められた(すなわち、交流電場を原因とする有害効果は認められなかった)。
【0056】
交流電場曝露後に、ESC由来の心筋細胞において拍動間変動の減少も観察されたが、電気機械特性の改善が観察されたということは、より成熟した心筋細胞プロファイルを示唆し得ることを表している。
【0057】
図5A~
図5Cは、300kHzの交流電場曝露後のESC由来の心筋細胞、並びに交流電場に曝露されなかったコントロールESC-CMの拍動速度、収縮速度、及び加速度を測定した収縮性アッセイの結果を表す。交流電場に曝露されたESC-CMと曝露されなかったESC-CMとの間で、心筋細胞の拍動速度、収縮速度、及び加速度において統計的有意差は見出されなかった。これは、心筋細胞は交流電場による危害を受けなかったという、追加の証拠を提供する。
【0058】
総じて、これらの実験は、幹細胞由来の分化した細胞(例えば、心筋細胞)のバッチを上記周波数の交流電場に曝露しても、細胞は実質的に無傷のままであることを示している。特に、分化した子孫細胞(交流電場による危害を受けなかった、例えば
図4を参照)について観察された結果は、幹細胞(交流電場に曝露されたときに死滅した、例えば
図3を参照)について観察された結果とは際立って対照的である。
【0059】
図6A~
図6Cは、約500,000個のヒトH7-ESCをマウスの右脇腹内に細胞注射した後の3つの異なる時点におけるBLIシグナルを表す(
図6A: 1日目、
図6B: 3日目 及び
図6C: 7日目)。異なる3時点におけるBLIシグナルは、マウスの左側腹部内に注射された交流電場処置済みのESC(300kHzにおいて、3日間の交流電場処置)、及びマウス左肩甲骨内へのマトリゲルのみの注射(本発明のコントロールとして供された)についても示されている。交流電場処置済みのESC注射側と非処置ESC注射側との間で、BLIシグナルが劇的に異なることに留意されたい。交流電場処置済みのESCが注射されたマウスの左側腹部において、BLIシグナルは全く検出されなかった。発光シグナルを、1秒当たり、1平方センチ当たり、1ステラジアン当たりの光子数(光子数/秒/cm
2/sr)として、ラジアンス単位で数値化した。これは、多能性幹細胞を交流電場に曝露すると、in vivoでテラトーマが形成されないところまで多能性幹細胞の数が低下することを示している。
【0060】
図7A~
図7Bは細胞周期分析結果を表し、非処置のコントロールESC(
図7A)との比較において、300kHzにおいて3日間の交流電場処置を受けたESC(
図7B)は、細胞周期のG2/Mチェックポイントにおいて停止したことを示している。これは、急速分裂細胞、例えば幹細胞及び腫瘍細胞等に対する交流電場の作用機序について重要な示唆をもたらす。
【0061】
「処置」とは、治療的処置、及び予防的(prophylactic)又は防御的(preventative)措置の両方を指す。処置を必要とする者には、すでに障害を有する者の他、障害から防御されるべき者が含まれる。
【0062】
「哺乳動物」とは、処置目的においては、ヒト、飼育動物や家畜、及び動物園、スポーツ、又はペット動物、例えばイヌ、ウマ、ネコ、ウシ等を含む哺乳動物として分類されるあらゆる動物を指す。いくつかの好ましい実施形態では、哺乳動物はヒトである。
【0063】
本出願は、幹細胞に基づく療法においてテラトーマ腫瘍が形成されるのを防止するために、分化した子孫細胞のバッチから残存する多能性幹細胞を除去する方法について記載する。いくつかの実施形態では、本明細書に記載する方法により精製された細胞集団は、細胞107個中1個未満が多能性細胞の特性を有するところまで精製される。いくつかの実施形態では、本明細書に記載される方法により精製された細胞集団は、多能性幹細胞が100,000個未満しか存在しないところまで精製される。いくつかの実施形態では、本明細書に記載される方法により精製された細胞集団は、多能性幹細胞が10,000未満しか存在しないところまで精製される。いくつかの実施形態では、本明細書に記載される方法により精製された細胞集団は、多能性幹細胞が1,000個未満しか存在しないところまで精製される。いくつかの実施形態では、本明細書に記載される方法により精製された細胞集団は、多能性幹細胞が100個未満しか存在しないところまで精製される。
【0064】
In vitroでの実施形態の場合、細胞集団は、分化した細胞と多能性細胞との混合物を含むことが疑われる任意の集団を含み得る。特に興味深いものとして、治療剤として調製された分化した細胞、例えば目的とする経路に分化した細胞の培養物が挙げられ、該分化した細胞は幹細胞に由来し、そして残存する幹細胞は分化した細胞のバッチ内に存在し得る。
【0065】
分化した子孫細胞のバッチから多能性細胞を除去する場合、ふさわしい溶液が分散又は懸濁用として使用され得る。そのような溶液は、一般的に平衡塩類溶液、例えば低濃度、一般的に5~25mMの許容されるバッファーと共に、ウシ胎仔血清又はその他の天然に存在する因子が好都合に添加された、通常生理食塩溶液、PBS、Hankの平衡塩類溶液等である。好都合なバッファーとして、HEPES、リン酸バッファー、乳酸バッファー等が挙げられる。
【0066】
多能性細胞は、細胞を媒体中で懸濁し、任意選択的に細胞を表面に接着させることにより、細胞の複合混合物から取り除かれ得る。細胞は、次に中間周波数範囲(50~500kHz)内の低強度交流電場に一定期間付される。
【0067】
いくつかの実施形態では、交流電場の周波数は、約200kHz~約400kHz、約250kHz~約350kHzであり、また約300kHzであり得る。いくつかの実施形態では、場は少なくとも1V/cmである。いくつかの実施形態では、場は1~4V/mである。その他の実施形態では、場の強度の組み合わせが、例えば2つ若しくはそれより多くの周波数を同時に組み合わせて、及び/又は2つ若しくはそれより多くの周波数を異なる時間に適用する等して適用される。
【0068】
曝露は、少なくとも12時間、少なくとも24時間、少なくとも36時間、少なくとも48時間、又は少なくとも72時間、又はそれより長い時間継続し得る。
【0069】
いくつかの実施形態では、細胞培養物はin vitroで培養された人工臓器を含むが、その場合、例えば1つ又は複数の異なる組織型又は組織層が同時培養され、臓器が身体内に移植される前に多能性細胞を除去するために、人工臓器は交流電場への曝露により処置される。
【0070】
いくつかの実施形態では、交流電場は、非限定的にアルキル化剤等を含む、分裂細胞を標的とする有効用量の薬剤と併用される。アルキル化剤はマクロ分子、例えばがん細胞のDNA等のアルキル化を通じて作用することが既知であり、また通常強力な求電子剤である。この活性は、DNA合成及び細胞分裂を途絶することができる。本明細書における使用に適するアルキル化試薬の例として、シクロホスファミド、イホスファミド、クロラムブシル、エストラムスチン、塩酸メクロレタミン、メルファラン、及びウラシルマスタードを含む、ナイトロジェンマスタード、並びにその類似体及び誘導体が挙げられる。アルキル化剤のその他の例として、スルホン酸アルキル(例えば、ブスルファン)、ニトロソウレア(例えば、カルムスチン、ロムスチン、及びストレプトゾシン)、トリアゼン(例えば、ダカルバジン及びテモゾロミド)、エチレンイミン/メチルメラミン(例えば、アルトレタミン及びチオテパ)、及びメチルヒドラジン誘導体(例えば、プロカルバジン)が挙げられる。カルボプラチン、シスプラチン、及びオキサリプラチンを含むアルキル化様の白金含有薬がアルキル化剤の群に含まれる。
【0071】
追加の薬剤として、葉酸、ピリミジン、プリン、及びシチジンの類似体及び誘導体を挙げることができるが、但しこれらに限定されない。本明細書における使用に適する薬剤のうち、葉酸群のメンバーとして、メトトレキサート(アメトプテリン)、ペメトレキセド、並びにその類似体及び誘導体が挙げられるが、但しこれらに限定されない。本明細書における使用に適するピリミジン剤として、シタラビン、フロクスウリジン、フルオロウラシル(5-フルオロウラシル)、カペシタビン、ゲムシタビン、並びにその類似体及び誘導体が挙げられるが、但しこれらに限定されない。本明細書における使用に適するプリン剤として、メルカプトプリン(6-メルカプトプリン)、ペントスタチン、チオグアニン、クラドリビン、並びにその類似体及び誘導体が挙げられるが、但しこれらに限定されない。本明細書における使用に適するシチジン剤として、シタラビン(シトシンアラビノシド)、アザシチジン(5-アザシチジン)、並びにその類似体及び誘導体が挙げられるが、但しこれらに限定されない。
【0072】
本明細書における使用に適する抗有糸分裂剤として、ビンカアルカロイド様のビンブラスチン、ビンクリスチン、ビンデシン、ビノレルビン、並びにその類似体及び誘導体、並びにポドフィロトキシン(エトポシド、テニポシド、並びにその類似体及び誘導体が含まれるが、但しこれらに限定されない)が挙げられるが、但しこれらに限定されない。本明細書における使用に適する抗腫瘍剤として、ベロマイシン(belomycin)、ダクチノマイシン、ドキソルビシン、イダルビシン、エピルビシン、マイトマイシン、ミトキサントロン、ペントスタチン、プリカマイシン、並びにその類似体及び誘導体が挙げられるが、但しこれらに限定されない。本明細書における使用に適するカンプトテシン類似体及び誘導体として、カンプトテシン、トポテカン、及びイリノテカンが挙げられる。
【0073】
集団中に残存する多能性細胞の数は、例えば、一定量の集団に含まれるテラトーマ形成細胞の存在について培養すること、又は多能性のマーカーについて分析することにより、例えばマーカー、例えばOct-4、Sox2、Nanog、KLF4、TRA-1-60/TRA-1-81/TRA-2-54、SSEA1、SSEA4等の存在について染色することにより評価され得る。例えば、一定量の細胞は、多能性を示唆するそのようなマーカーのうちの1つ又は複数に結合する抗体を用いて染色され得る。抗体が細胞の懸濁物に添加され、そして利用可能な細胞表面抗原と結合するのに十分な期間インキュベートされ、そしてそのような抗体に結合する細胞が定量される。
【0074】
上記で定義した通り、交流電場に曝露された分化した子孫細胞は、実質的に無傷のままである。しかし、これは全体的な見地から分析され、また分化した子孫細胞のわずかな部分は死ぬ可能性があることに留意されたい。好ましくは、分化した子孫細胞の5%未満しか死なない。代替的実施形態では、分化した子孫細胞の10%、15%、又は25%未満が死ぬ。換言すれば、分化した子孫細胞の若干の殺傷を認め得るが、しかし精製プロセス後の分化した子孫細胞の生存率が、少なくとも75%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、又はそれ超であるのが望ましい。
【0075】
分化した子孫細胞の精製バッチ(残存する多能性幹細胞を欠く)は、細胞の生存能を維持する任意の適する媒体に再懸濁され得る。ウシ胎仔血清が高頻度で添加されたdMEM、HBSS、dPBS、RPMI、イスコフ培地等を含む、様々な培地が市販されており、そして細胞の性質に基づき使用され得る。
【0076】
分化した子孫細胞の精製バッチは直ちに使用され得る。或いは、細胞は液体窒素温度で凍結され、そして長期間保存され、解凍され、また再使用可能であり得る。そのような場合、細胞は、通常10%のDMSO、50%の血清、40%の緩衝化された媒体、又はそのような凍結温度において細胞を維持するための、当技術分野で一般的に使用されるいくつかのその他のそのような溶液中で凍結されることになり、そして凍結された細胞を解凍するための、当技術分野において一般的に公知の方式で解凍される。
【0077】
図1に戻ると、分化した子孫細胞の精製バッチは、工程35において対象を処置するために治療的に使用され得る、又は診断目的で使用され得る。療法は疾患原因の処置を狙いとし得るが、或いは、療法は疾患又は状態の効果を処置するためであり得る。誘発された細胞は、対象内の傷害部位若しくはその近傍に移植され得る、又は細胞が傷害部位に移動若しくはそこを目指すのを可能にする方式で、細胞は対象に導入され得る。移植された細胞は、損傷を受け又は受傷した細胞と有利に置き換わることができ、そして対象の全体的な状態を改善可能にする。いくつかの例では、移植された細胞は組織の再生又は修復を刺激し得る。
【0078】
分化した子孫細胞は、幅広い範囲の疾患又は障害に罹患した対象に移植され得る。変性性心疾患、例えば虚血性心筋症、伝導障害、及び先天性欠損症等は、再生細胞療法から利益を享受する可能性があり、例えばJanssensら、(2006), Lancet, 367: 113-121頁を参照されたい。
【0079】
いくつかの実施形態では、分化した子孫細胞の精製バッチは、多能性幹細胞集団からin vitroで分化した心筋細胞を含む。交流電場で処置した後のESC由来の心筋細胞において、拍動間変動の減少が認められ、より成熟した心筋細胞プロファイルを示唆する電気機械特性の改善を実証することが判明した。いくつかの実施形態では、心筋細胞は、交流電場に曝露されなかった類似的に分化した心筋細胞と比較して、構造的及び機能的成熟の増強を示す。
【0080】
心筋細胞と関係するそのような実施形態では、分化した心筋細胞又は心筋細胞前駆細胞集団の精製バッチは、注射によりそれを必要としている対象の心臓に投与され得る。1つの実施形態では、注射は心筋内注射である。当業者は、心臓は機能性の筋肉であるので、心筋内注射により心臓幹細胞を送り届ける長所について熟知している。心筋内注射は、心臓の収縮運動に起因して注射した細胞が失われるのを最低限に抑える。或いは、処置される細胞は、注射により経心内膜的又は経心外膜的に投与可能である。1つの実施形態では、カテーテルに基づくアプローチが、経心内膜注射を送り届けるのに使用される。カテーテルを使用すれば、胸腔を開くことが必要とされるような、より侵襲的な送り届ける方法が排除される。当業者が理解するように、最適な回復時間は最低限度の侵襲手技により可能となるであろう。カテーテルアプローチは、NOGAカテーテル又は類似したシステム等の技術の使用と関係し得る。NOGAカテーテルシステムは、目的とするエリアの電気機械式のマッピングの他、目標を定めた注射を送り届け又は被標的エリアを治療薬で含侵するのに使用可能である伸縮自在針(retractable needle)を提供することにより、誘導式の投与を容易にする。本明細書に記載される方法は、注射を送り届けるためのそのようなシステムの使用を通じて実施可能である。当業者は、本明細書に記載される方法と共に使用可能であるイメージングシステム及びカテーテルで送り届けるシステムを一体化することにより、標的を定めた処置を実現する能力も備えた代替システムを認識するであろう。NOGA及び類似したシステムの使用に関する情報は、例えばSherman、(2003) Basic Appl. Myol. 13: 11~14頁; Patelら、(2005) The Journal of Thoracic and Cardiovascular Surgery 130: 1631~38頁;及びPerriら、(2003) Circulation 107: 2294~2302頁に見出され得る。別の実施形態では、幹細胞由来の心臓細胞は、冠内投与経路により投与可能である。当業者は、Dawnら、(2005) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 102, 3766~3771頁に記載されている方法を含む、本明細書に記載される方法と共に利用可能であるその他の有用な送り届ける方法又は移植方法を認識するであろう。
【0081】
神経学的疾患又は障害に罹患した対象は、再生細胞療法から利益を享受する。いくつかのアプローチでは、分化した子孫細胞の精製バッチは、神経学的状態、例えばアルツハイマー病、パーキンソン病、多発性硬化症、脳梗塞、脊髄損傷、又はその他の中枢神経系障害を処置するために、傷害部位に移植される神経幹細胞又は神経細胞であり、例えばMorizaneら、(2008), Cell Tissue Res., 33 l(l):323~326頁; Coutts and Keirstead (2008), Exp. Neurol., 209(2):368~377頁; Goswami and Rao (2007), Drugs, 10(10):713~719頁を参照されたい。
【0082】
内皮細胞は、例えば末梢動脈疾患において、血管構造及び機能を改善し、血管新生を強化し、並びに潅流を改善する際に有用である。膵島細胞(又はランゲルハンス島の初代細胞)は、糖尿病(例えば、1型糖尿病)に罹患している対象に移植することができ、例えばBurnsら、(2006) Curr. Stem Cell Res. Ther., 2:255~266頁を参照されたい。いくつかの実施形態では、膵β細胞が糖尿病(例えば、1型糖尿病)に罹患している対象に移植される。その他の例では、肝細胞又は前駆体が、肝疾患、例えば肝炎、硬変症、又は肝不全に罹患している対象に移植される。
【0083】
造血細胞又は造血幹細胞(HSC)は、血液のがん、又はその他の血液若しくは免疫の障害に罹患している対象に移植され得る。造血細胞又はHSCにより処置される可能性のある血液のがんの例として、急性リンパ芽球性白血病、急性骨髄芽球性白血病、慢性骨髄性白血病(CML)、ホジキン病、多発性骨髄腫、及び非ホジキンリンパ腫が挙げられる。多くの場合、そのような疾患に罹患している対象は、急速分裂性の血液細胞を殺傷するために照射及び/又は化学療法処置を受けなければならない。本明細書に記載される方法に由来するHSCをこのような対象に導入することは、枯渇した細胞のリザーバーを蘇生させるのに役立ち得る。いくつかのケースでは、分化転換により派生した造血細胞又はHSCは、がんに直接抵抗するために、やはり使用され得る。例えば、同種異系HSCの移植は、腎がんの処置において将来性を示し、例えばChildsら、(2000), N. Engl. J. Med., 343:750~758頁を参照されたい。いくつかの実施形態では、同種異系又は自系であっても、誘発細胞に由来するHSCは、腎臓又はその他のがんを処置するために対象に導入され得る。誘発細胞に由来する造血細胞又はHSCも、血球以外の細胞又は組織、例えば筋肉、血管、又は骨を生成又は修復するために対象に導入され得る。そのような処置は、多数の障害に対して有用であり得る。
【0084】
対象に対する処置の投与数は変化し得る。分化した子孫細胞の精製バッチを対象に導入することは単発事象であり得るが、しかし特定の状況では、そのような処置は、限られた期間しか改善を誘発しない可能性があり、継続的な一連の反復処置を必要とし得る。その他の状況では、効果が観察される前に、細胞の複数回投与が必要とされ得る。正確なプロトコールは、疾患又は状態、疾患ステージ、及び処置される個々の対象のパラメーターに依存する。
【0085】
細胞は、下記の経路、すなわち非経口、静脈内、動脈内、筋肉内、皮下、経皮的、気管内、腹腔内、又は脊髄液中のいずれかにより対象に導入され得る。
【0086】
分化した子孫細胞の精製バッチは、任意の生理学的に許容される媒体中に投与され得る。例えば、移植される組織内で該分化した子孫細胞が増殖及び/又は組織化するのを支援するために、該分化した子孫細胞は単独で、又は好適な基材若しくはマトリックスと共に提供され得る。細胞は注射、カテーテル等により導入され得る。細胞は、解凍したら使用できるように液体窒素温度において凍結され、そして長期間保管され得る。凍結される場合には、細胞は、10%のDMSO、50%のFCS、40%のRPMI 1640媒体中に通常保管されることになる。ひとたび解凍されると、細胞は、増殖因子及び/又は前駆細胞の増殖や分化と関連する間質細胞を使用することにより増殖し得る。
【0087】
上記したin vitroでの実験は、上記周波数、場の強度、及び期間を使用して実施したが、これらのパラメーターは変化し得る。例えば、周波数は50~500kHzであり得、電場強度は0.5~5V/cmであり得、そして期間はいずれにせよ12時間よりも長い時間であり得る。
【0088】
本明細書に記載されるInovitro(商標)システムを使用するin vitro実験では、交流電場の方向を、直角な2方向間において1秒間隔で切り替えた。しかし代替的実施形態では、交流電場の方向は、より高速(例えば、1~1000msの間隔)、又はより低速(例えば、1~100秒の間隔)で切り替えられる。
【0089】
本明細書に記載されるInovitro(商標)システムを使用するin vitroでの実験では、2次元空間において、交互順で、互いに90°の間隔をおいて配置された2つの電極の対にAC電圧を印加することにより、交流電場の方向を直角2方向の間で切り替えた。しかし代替的実施形態では、電極の対を再配置することにより、直角ではない2方向間で、又は3方向以上の間で(追加の電極の対が提供されることを前提とする)、交流電場の方向を切り替えることができる。例えば、交流電場の方向は、3方向間で切り替えることができ、その各方向は専用の電極の対を配置することにより決定される。任意選択的に、これら3つの電極の対は、得られた場が3次元空間において互いに90°の間隔を置いて配置されるように配置され得る。その他の代替的実施形態では、場の方向は一定のままである。
【0090】
Inovitro(商標)システムは、皿の側壁の外部表面に配置された導電性電極を使用し、そして側壁のセラミック材料は誘電体として作用するので、本明細書に記載されるInovitro(商標)システムを使用するin vitroでの実験では、電場を培養物に容量的にカップリングさせた。しかし代替的実施形態では、電場は、容量性のカップリングを用いずに細胞に直接適用され得る(例えば、導電性電極が、側壁の外部表面の代わりに側壁の内部表面に配置されるように、Inovitro(商標)システム構成を修正することにより)。
【0091】
本明細書に記載される方法は、テラトーマの発症を予防し、又はすでに発症を開始したテラトーマを処置するために、生きた対象の身体の標的領域に交流電場を適用することにより、in vivoの文脈においても適用可能である。これは、例えば生きた対象の身体に交流電場を適用するNovocure Optuneシステム(又はその変化型)を使用して達成され得る。例えば、参考として本明細書に組み込まれている米国特許第7,565,205号を参照されたい。この状況では、電極は、対象の身体上に配置され、又は対象の身体内に移植され(例えば、対象の皮膚の直下又は標的領域の近傍)、そして対象の身体の標的領域内で交流電場を惹起するために、AC電圧がこれら電極間に印加される。任意選択的に、交流電場の方向づけは、2つ以上の異なる方向間で定期的に切り替えることができる。
【0092】
このin vivoでの状況では、多能性幹細胞は、テラトーマの形成を予防し、又は既存のテラトーマを処置するために、in vivoで取り除かれる。これは、多能性幹細胞を交流電場に一定期間曝露することにより達成され、該交流電場はある周波数及び場の強度を有する。交流電場の周波数及び場の強度は、交流電場に一定期間曝露された結果として、多能性幹細胞の数が、(a)テラトーマの形成を予防し、又は(b)すでに形成されたテラトーマを処置するのに十分少数となるまで多能性幹細胞を死滅させるような周波数及び場の強度である。交流電場の周波数及び場の強度は、交流電場に曝露された対象の身体内の分化した細胞が、実質的に無傷のままであるような周波数及び場の強度である。
【0093】
実験
下記の実施例は、本明細書に記載される方法をどのように実践するか、そのやり方を当業者に完全開示及び説明するために提示されるが、但し本発明者らがその発明とみなすものの範囲を制限するようには意図されず、また下記の実験が実施された全て又は唯一の実験であることを表しているとも意図されない。使用した数(例えば、量、温度等)に関して正確を期すための努力が払われているが、しかし若干の実験誤差及び変動を認めるべきである。別途明記しない限り、部分は、重量部であり、分子量は重量平均分子量であり、温度はセ氏温度であり、及び圧力は大気圧又はその近傍である。
【実施例0094】
カバースリップへの細胞の播種。ヒト多能性幹細胞(ヒト胚性幹細胞[ESC]及びヒト人工多能性幹細胞[iPSC]を含む)を、10μMのROCK阻害剤Y-27632が添加されたEssential 8 (E8)培地内で維持した。ESC(WA07 [H7]系統)又はiPSCを、6ウェルプレート内の直径が22mmのガラス又はプラスチックカバースリップの中央に播種した。カバースリップは、従来型の組織培養インキュベーター(37℃、95%の空気、5%のCO2)内で、37℃において少なくとも1時間、予めDMEM/F12にて1:200に稀釈されしたマトリゲルでコーティングされていた。細胞がカバースリップに接着したら、10μMのROCK阻害剤Y-27632が添加されたE8培地、合計2mLを各ウェルに加えた。細胞回収時に、培地を1~2日間、毎日交換した後、カバースリップをInovitro(商標) TTFieldデバイス(Novocure Inc.社、Haifa、イスラエル)のセラミック皿に移した。
【0095】
ヒトESC又はiPSC由来の心筋細胞(ESC-CM又はiPSC-CM)を播種する手順は、播種後の回収期間が、明らかな自然拍動が観察されるまでより長く(約5日間)続いた点を除き、多能性幹細胞の手順と類似した。ESC-CM及びiPSC-CMについても、B27サプリメント+インスリンを含有するRPMI 1640媒体中で維持した。拍動する心臓細胞の1つの単層をカバースリップ上で可視化した後、腫瘍処置分野の実験を開始した。細胞の画像化を、Leica DM IL LED倒立蛍光顕微鏡(Leica Microsystems社、Buffalo Grove、IL)又はRevolve顕微鏡(Echo laboratories社、San Diego、CA)を使用して実施した。
【0096】
自動化された細胞カウンターを使用するトリパンブルー細胞数計測アッセイ法。2mLのPBSで2回洗浄した上で培地を除去することにより、セラミック皿内のカバースリップを細胞数計測用に調製した。カバースリップを次に6ウェルプレートに移すと、直ちに0.5mLのトリプシン-LE (TrypLE)を加えた。剥離細胞を、10μMのROCK阻害剤Y-27632が添加された4.5mLのE8培地(ESC及びiPSCの場合)、又はB27サプリメント+インスリンを含有するRPMI 1640培地(ESC-CM及びiPSC-CMの場合)を含有する15mLファルコンチューブ内で懸濁した。細胞を室温、300gにおいて5分間遠心分離した。ペレットが取得されたら、上清をアスピレーター吸引し、そして細胞を細胞数計測用として10mLのEssential 8培地又はRPMI 1640培地内で再懸濁した。
【0097】
細胞培養物の懸濁物を混合した後、10μLの一定量を取り出し、そして1.5mLエッペンドルフチューブ中に配置した。0.4%のトリパンブルー溶液、10μLを、次に細胞培養物の一定量に添加し、上下にピペッティングすることにより混合し、そして細胞数計測スライドの1つのウェル中に負荷した。細胞の数を、LUNA-FLデュアル蛍光自動細胞カウンター(Logos Biosystems社、Annandale、VA、米国)を使用して計測した。実験条件(例えば、コントロール[TTF無し]、50kHz、100kHz、200kHz、300kHz、400kHz、及び500kHz)毎に、3回の技術的反復実験から、生細胞及び死細胞カウントの合計を計算し、平均化した。オリジナルの細胞懸濁物から、1:10希釈係数に基づき、合計細胞カウントを外挿した。
【0098】
CELLTITER-GLO 2.0アッセイ法を使用する細胞生存度の定量測定。ヒト多能性幹細胞及び幹細胞由来の心筋細胞の細胞生存度を、CellTiter-Glo 2.0アッセイ法(Promega社、Madison、WI、米国)を使用して定量的に測定した。CellTiter-Glo 2.0アッセイ法は、代謝的に活性な細胞の存在を示唆するATP存在量を定量することにより、培養物中の生存細胞の数を決定するための均質な方法を提供する。ルシフェリンの一酸素原子添加は、Mg2+、ATP (生存細胞が寄与する)、及び分子状酸素の存在下でルシフェラーゼにより触媒される。各ウェル中に存在する細胞培養培地の容積に等しいCellTiter-Glo 2.0試薬の容積を加えた(例えば、0.5mLのCellTiter-Glo 2.0試薬を、細胞を含有する0.5mLの媒体に加えた)。内容物をオービタルシェーカー上で2分間混合して細胞溶解を誘発した。6ウェルプレートを、室温で10分間インキュベーションして、発光シグナルを安定化させた。その後、各ウェルから50μlを白色96ウェルプレートに三重で移した。発光を、1秒の積分時間刻みを使用して、Synergy HTXマルチモードプレートリーダー(BioTek社、Winooski、VT、米国)上で記録した。BioTek Gen5 3.03ソフトウェアを発光シグナルの分析に使用した。
【0099】
収縮性アッセイ。幹細胞由来心筋細胞の収縮性測定を、腫瘍処置電場療法を適用する前後においてSony SI8000ライブセルイメージングシステム(Sony Biotechnology社、San Jose、CA)により評価した。ESC-CM又はiPSC-CMを、様々な交流電場周波数(例えば、50kHz、100kHz、200kHz、300kHz、400kHz、及び500kHz)において72時間処置した。コントロール皿には交流電場を一切適用しなかった。高性能ビデオカメラ(時間的及び空間的忠実性が高い、細胞の動きを捕捉するための固有のモーションベクターソフトウェアを利用する)を使用してデータを取得した。画像取得後、細胞の動きの変位及び程度を、Sony Biotechnology社により開発された動き検出アルゴリズムを使用して計算した。対象領域(ROI)を単一細胞又は心臓細胞のクラスターに配置し、そして様々な収縮及び弛緩パラメーターを計算した。
【0100】
蛍光活性化セルソーティング(FACS)及び細胞周期分析。FACS及び細胞周期分析試験では、所定の交流電場実験条件後のH7 ESCを採取し、そしてPBSで洗浄した。次に、氷冷70%エタノール中、-20℃において2時間、細胞を固定した。固定後、遠心分離により細胞を収集し、そして10μg/mLのヨウ化プロピジウム(PI)、100μg/mLのRNase A、及び0.05%のトリトンX-100を含有するPBS、1.0mLを用いて染色した。細胞を、PI溶液中、遮光、室温において15分間インキュベートし、そしてPBSで1回洗浄し、0.5mlのPBS中に再懸濁し、そしてGuava FACSアナライザー(EMD Millipore社、Burlington、MA)のInCyteソフトウェアを使用して生細胞及び死細胞について、またGuava細胞周期分析ソフトウェアを使用して細胞周期状態について評価した。生細胞/死細胞及び細胞周期状態を測定するためのFlowJoソフトウェア(Tree Star社、Ashland、OR)を使用して結果を分析した。
【0101】
ヒト多能性幹細胞(hESC及びhiPSC)の培養及び維持
iPSCの生成。下記の転写因子: Oct4、Sox2、Nanog、及びcMycを担持する非組み込み型センダイウイルスベクターを使用して健康なヒトドナーから得られた皮膚線維芽細胞をiPSCにリプログラミングした。
【0102】
ESCの培養及び維持。この実験で使用したヒトESC系統は、EFlaプロモーターの下でルシフェラーゼ及びトマトレッドを発現するレンチウイルスベクターでトランスフェクトされたWA07 (H7)系統であった。これまでの記載の通り、化学的に定義されたE8媒体を使用して、マトリゲルコーティングプレート(ES適性有り、BD Biosciences社、San Diego、CA)上で、ESCを90%コンフルエンスまで増殖させた。媒体を毎日交換し、そして3~4日毎に細胞をEDTAに通した(Thermo Fisher Scientific社、CA)。アポトーシスを防止するために、播種前に細胞を解離させて10μMのROCK阻害剤Y-27632を添加した。
【0103】
心臓への分化。ヒト多能性幹細胞を90%コンフルエンスまで増殖させ、その後Burridgeら(2014)、Burridgeら(2015)にこれまで記載されたように、拍動性心筋細胞に分化させた。心臓マーカー、例えばトロポニンT及びαアクチニン等について細胞を染色するフローサイトメトリーに基づき、80~90%の心臓細胞純度が得られた。要するに、0日目、細胞に、基本培地(RPMI 1640 [Thermo Fisher Scientific社]及び2%のB27サプリメント(インスリンを含まない)[Thermo Fisher Scientific社])を添加すると共に、6μMのCHIR-99021 [Selleck Chemicals社]、グリコーゲンシンターゼキナーゼ3βの選択的阻害剤(カノニカルWntシグナリング経路を活性化させる)を加えた。2日目、培地を、CHIR99021が添加されない基本培地に交換した。3日目、細胞を、5μMのIWR-l [Selleck Chemicals社]、Wntアンタゴニストを用いて2日間処理した。5日目及びそれ以降採取するまで1日置きに、培地を新鮮な基本培地に交換した。単一の細胞に解離させるために、心筋細胞に、10×TrypTEを37℃において10分間加えた。解離後、ESC-CM又はiPSC-CMを、新たにマトリゲルがコーティングされた6ウェルプレート上、10%のノックアウト血清サプリメント、インスリンを含むB27サプリメント、及び1μMのチアゾビビンが添加されたRPMI 1640媒体中に再播種した。
【0104】
マウスへの細胞注射。メス免疫不全ヌード(NU/NU)マウスを、2%のイソフルランで麻酔し、そしておよそ500,000個のH7 ESCを皮下に注射した。H7 ESCをマトリゲル100μL中で懸濁した後、28ゲージ注射針を使用してマウスの右脇腹内に注射した。更に、交流電場処置されたH7 ESC (すなわち、300kHzにおいて3~4日間処置したESC)を、マウス左側腹部の皮下に注射した。左肩甲骨内へのマトリゲル単独注射を、本発明のコントロールとして使用した。室温でマトリゲルが固化するのを防止するため、注射前にシリンジを氷上で保持した。全ての動物手順について、実験動物飼育に関するスタンフォード管理パネル(Stanford Administrative Panel on Laboratory Animal Care)の承認を受けた。
【0105】
細胞の生存及びテラトーマ形成を評価するための移植細胞の生物発光イメージング(BLI)。本試験過程において、細胞増殖を追跡するためにBLIを実施した。In-vivo BLIを、IVISスペクトル画像システム(LifeSciences社、Alameda、CA)上で、細胞注射後最長5週間実施した。細胞の生存及び増殖を、細胞移植後0、1、3、7日目において、及び7日毎に最長35日間モニタリングした。1グラムのD-ホタルルシフェリンカリウム塩を、23mLのPBSで稀釈し、そしてこの混合物のうちの300μlを、28ゲージインスリン注射針を使用して腹腔内投与した。腹腔内注射後10分経過したら、動物を、1秒~5分の取得ウィンドウを使用して20分間画像化した。リビングイメージソフトウェア(Living images software)(Caliper LifeSciences社、バージョン 4.3.1)を、異なる時点で生物発光画像を分析するのに使用した。ROIを細胞注射部位及びコントロール領域から取り出した。発光シグナルを、1秒当たり、1平方センチ当たり、1ステラジアン当たりの光子数(光子/秒/cm2/sr)として、ラジアンス単位で数値化した。
【0106】
テラトーマ外移植及び組織学。テラトーマが直径約15mmのサイズまで成長した後、マウスを安楽死させ、そしてテラトーマを切除し、4%のパラホルムアルデヒドを用いて固定し、そしてパラフィン切片化及びH&E染色用として病理学コアラボに送付した。
【0107】
統計分析。統計分析を、GraphPad Prism (バージョン7.04)及びSPSS (IBM社、バージョン21)を使用して実施した。P<0.05に設定された有意性レベルαを有した検定を有意とみなした。別途明記しない限り、データは平均値±標準偏差として報告される。
【0108】
材料のリスト。下記の材料を、本明細書に記載される実験で使用した:ファルコン6-ウェル透明平底プレート(Corning社、カタログ番号: 353046); Essential 8(商標)培地(ThermoFisher Scientific社、カタログ番号: A1517001); RPMI 1640培地(ThermoFisher Scientific社、カタログ番号: 11875093);リン酸緩衝生理食塩水、10×溶液、Fisher BioReagents(商標) (Thermo Fisher Scientific社、カタログ番号: BP3994); CHIR-99021 (Selleck社、カタログ番号: S2924); IWR-l (Selleck社、カタログ番号: S7086); B-27(商標)サプリメント(50×)、無血清(ThermoFisher Scientific社、カタログ番号: 17504044); B-27(商標)サプリメント、インスリン無し(ThermoFisher Scientific社、カタログ番号: A1895601); Corningマトリゲル増殖因子低下型(ThermoFisher Scientific社、カタログ番号: 356231); TrypLE(商標)セレクト酵素(10×)、フェノールレッド無し(ThermoFisher Scientific社、カタログ番号: A1217701); BD Lo-Dose U-100インスリンシリンジ0.5mL (ThermoFisher Scientific社、カタログ番号: 329461); CellTiter-Glo 2.0 (Promega社、カタログ番号: G9242);パラホルムアルデヒド20%溶液EMグレード(Electron Microscopy Sciences社、カタログ番号: 15713-S);ヨウ化プロピジウム (Sigma - Aldrich社、カタログ番号: P4170); RNase A (Thermo Fisher Scientific社、カタログ番号: EN0531);トリトンX-100 (Sigma - Aldrich社、カタログ番号: X100); XenoLight D-ルシフェリンカリウム塩(PerkinElmer社、カタログ番号: 122799); DM IL LED倒立蛍光顕微鏡(Leica Microsystems社、Buffalo Grove、IL); Revolve顕微鏡(Echo laboratories社、San Diego、CA); Sony SI8000ライブセルイメージングシステム(Sony Biotechnology社、San Jose、CA).; Synergy HTXマルチモードプレートリーダー(BioTek社、Winooski、VT、米国); LUNA-FLデュアル蛍光自動細胞カウンター(Logos Biosystems社、Annandale、VA、米国).; Guava easyCyte HTフローサイトメーター(EMD Millipore社、Burlington、MA); Inovitro(商標) in-vitro TTFieldデバイス(Novocure Inc.社、Haifa、イスラエル)
【0109】
【0110】
本発明は、特定の実施形態を参照しながら開示されたが、記載された実施形態に対して非常に多くの修正、改変、及び変更が、添付の特許請求の範囲で定義するような、本発明の領域及び範囲から逸脱せずに可能である。従って、本発明は記載された実施形態に限定されないこと、しかし本発明は下記の特許請求の範囲及びその等価物の言語により定義される全ての範囲を有することが意図されている。