(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023104997
(43)【公開日】2023-07-28
(54)【発明の名称】多層反射膜付き基板、反射型マスクブランク、反射型マスク、及び半導体装置の製造方法
(51)【国際特許分類】
G03F 1/24 20120101AFI20230721BHJP
G03F 1/38 20120101ALI20230721BHJP
C23C 14/06 20060101ALI20230721BHJP
【FI】
G03F1/24
G03F1/38
C23C14/06 N
【審査請求】有
【請求項の数】15
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023085233
(22)【出願日】2023-05-24
(62)【分割の表示】P 2019549295の分割
【原出願日】2018-10-16
(31)【優先権主張番号】P 2017201189
(32)【優先日】2017-10-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000113263
【氏名又は名称】HOYA株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001508
【氏名又は名称】弁理士法人 津国
(72)【発明者】
【氏名】浜本 和宏
(72)【発明者】
【氏名】笑喜 勉
(57)【要約】
【課題】 多層反射膜に基準マークを形成した場合でも、多層反射膜の表面が汚染されることを防止することのできる、多層反射膜付き基板、反射型マスクブランク、反射型マスク、及び半導体装置の製造方法を提供する。
【解決手段】 多層反射膜付き基板10は、基板12と、基板12上に形成されたEUV光を反射する多層反射膜14とを含む。多層反射膜付き基板10の表面に、基準マーク20が凹状に形成されている。基準マーク20は、略中心に溝部21又は突起部23を有する。溝部21又は突起部23の平面視における形状は、基準マーク20の形状と相似又は略相似である。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板と、前記基板上に形成されたEUV光を反射する多層反射膜とを含む多層反射膜付き基板であって、
前記多層反射膜付き基板の表面に凹状に形成された基準マークを備え、
前記基準マークは、略中心に溝部又は突起部を有し、
前記溝部又は突起部の平面視における形状は、前記基準マークの形状と相似又は略相似であることを特徴とする、多層反射膜付き基板。
【請求項2】
前記基準マークの底部は、前記多層反射膜に含まれる複数の膜のうち少なくとも一部の膜が収縮したシュリンク領域と、前記多層反射膜に含まれる複数の膜のうち少なくとも一部の膜が互いに一体化したミキシング領域とを含み、
前記溝部又は突起部は、前記溝部又は突起部を除く前記基準マークの底部と比較して、相対的に前記ミキシング領域を多く含む、請求項1に記載の多層反射膜付き基板。
【請求項3】
前記溝部の深さ又は前記突起部の高さは、20nm以上である、請求項1または請求項2に記載の多層反射膜付き基板。
【請求項4】
前記溝部又は前記突起部の幅は、200nm以上10μm以下である、請求項1から請求項3のうちいずれか1項に記載の多層反射膜付き基板。
【請求項5】
前記基準マークの深さが30nm以上50nm以下である、請求項1から請求項4のうちいずれか1項に記載の多層反射膜付き基板。
【請求項6】
前記多層反射膜上に形成された保護膜を含み、
前記保護膜の表面に前記基準マークが形成されている、請求項1から請求項5のうちいずれか1項に記載の多層反射膜付き基板。
【請求項7】
前記多層反射膜の前記基板と反対側の表面層はSiを含む層である、請求項1から請求項6のうちいずれか1項に記載の多層反射膜付き基板。
【請求項8】
請求項1から請求項7のうちいずれか1項に記載の多層反射膜付き基板と、当該多層反射膜付き基板の上に形成された、EUV光を吸収する吸収体膜とを有する反射型マスクブランクであって、
前記吸収体膜に前記基準マークの形状が転写されている、反射型マスクブランク。
【請求項9】
請求項1から請求項7のうちいずれか1項に記載の多層反射膜付き基板と、当該多層反射膜付き基板の上に形成された、EUV光を吸収する吸収体膜パターンとを有する反射型マスクであって、
前記吸収体膜パターンに前記基準マークの形状が転写されている、反射型マスク。
【請求項10】
請求項9に記載の反射型マスクを使用して、半導体基板上に転写パターンを形成する工程を有する、半導体装置の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多層反射膜付き基板、反射型マスクブランク、反射型マスク、及び半導体装置の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年における超LSIデバイスの高密度化、高精度化の更なる要求に伴い、極紫外(Extreme Ultra Violet、以下、EUVと称す)光を用いた露光技術であるEUVリソグラフィーが有望視されている。ここで、EUV光とは、軟X線領域又は真空紫外線領域の波長帯の光を指し、具体的には波長が0.2~100nm程度の光のことである。EUVリソグラフィーにおいて用いられるマスクとして、反射型マスクが提案されている。反射型マスクは、ガラスやシリコンなどの基板上に、露光光を反射する多層反射膜が形成され、その多層反射膜の上に露光光を吸収する吸収体膜パターンが形成されたものである。パターン転写を行う露光機において、それに搭載された反射型マスクに入射した光は、吸収体膜パターンのある部分では吸収され、吸収体膜パターンのない部分では多層反射膜により反射される。そして反射された光像が、反射光学系を介してシリコンウエハ等の半導体基板上に転写される。
【0003】
リソグラフィー工程での微細化に対する要求が高まることにより、リソグラフィー工程における課題が顕著になりつつある。その課題の1つが、リソグラフィー工程で用いられるマスクブランク用基板等の欠陥情報に関する問題である。
【0004】
従来は、ブランクス検査等において、基板の欠陥の存在位置を、基板センターを原点(0,0)とし、欠陥検査装置が管理する座標を用いて、その原点からの距離で特定していた。このため、絶対値座標の基準が明確でなく、位置精度が低く、装置間でも検出のばらつきがあった。また、パターン描画時に、欠陥を避けてパターン形成用薄膜にパターニングする場合でも、μmオーダーでの欠陥の回避は困難であった。このため、パターンを転写する方向を変えたり、転写する位置をmmオーダーでラフにずらしたりして、欠陥を回避していた。
【0005】
このような状況下、例えばマスクブランク用基板に基準マークを形成し、基準マークを基準として欠陥の位置を特定することが提案されている。マスクブランク用基板に基準マークを形成することにより、装置毎に欠陥の位置を特定するための基準がずれることが防止される。
【0006】
露光光としてEUV光を使用する反射型マスクにおいては、多層反射膜上の欠陥の位置を正確に特定することが特に重要である。なぜなら、多層反射膜に存在する欠陥は、修正がほとんど不可能である上に、転写パターン上で重大な位相欠陥となり得るためである。
【0007】
多層反射膜上の欠陥の位置を正確に特定するためには、多層反射膜を形成した後に欠陥検査を行うことで、欠陥の位置情報を取得することが好ましい。そのためには、基板に形成された多層反射膜に、基準マークを形成することが好ましい。
【0008】
特許文献1には、多層反射膜の一部を除去することで凹状に形成された基準マークが開示されている。多層反射膜の一部を除去する方法としては、レーザアブレーション法やFIB(集束イオンビーム法)が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】国際公開WO2013/031863号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、多層反射膜の表面にレーザアブレーション法によって凹状の基準マークを形成した場合、レーザ加工時に発生した塵によって、多層反射膜の表面が汚染されることがある。多層反射膜の表面が汚染された場合、新たな異物欠陥が生じることがある。新たな異物欠陥が生じた場合、それが露光欠陥となる欠陥であれば、反射型マスクを作製したときに重大な問題が生じることがある。
【0011】
多層反射膜に凹状の基準マークを形成するために、多層反射膜を深さ方向にエッチングすることがある。多層反射膜を深さ方向にエッチングした場合、エッチングによって生じた凹部の側面では、多層反射膜の材料である、Mo/Si膜が露出する場合がある。エッチングによって生じた凹部の底部では、Mo膜が表面に露出する場合がある。また、エッチング反応物が側面や底部に付着することもある。多層反射膜に含まれる材料が露出した場合、基板の洗浄耐性が悪化する。反射型マスクブランクあるいは反射型マスクの製造工程には、基板の洗浄工程が含まれている。基板の洗浄耐性が悪化した場合、基板の洗浄工程において、基準マークの側面及び/又は底部の材料が溶出し、マーク形状の変動、エッジラフネスの増加などの位置精度の悪化、エッチング面からの膜剥がれ等の問題が生じることがある。また付着物は、洗浄工程により、剥がれ、再付着の汚染リスクがある。
【0012】
多層反射膜の表面にFIB法によって凹状の基準マークを形成する場合には、FIB法の加工速度は遅いために、加工に要する時間が長くなる。このため、要求される長さ(例えば550μm)の基準マークを作製することが困難となる。
【0013】
そこで、本発明は、多層反射膜に基準マークを形成した場合でも、多層反射膜の表面が汚染されることを防止することのできる、多層反射膜付き基板、反射型マスクブランク、反射型マスク、及び半導体装置の製造方法を提供することを目的とする。また、基板の洗浄耐性が悪化することを防止することのできる、多層反射膜付き基板、反射型マスクブランク、反射型マスク、及び半導体装置の製造方法を提供することを目的とする。さらに、基準マークの加工に要する時間を短くすることのできる、多層反射膜付き基板、反射型マスクブランク、反射型マスク、及び半導体装置の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記課題を解決するため、本発明は以下の構成を有する。
(構成1)
基板と、前記基板上に形成されたEUV光を反射する多層反射膜とを含む多層反射膜付き基板であって、
前記多層反射膜付き基板の表面に凹状に形成された基準マークを備え、
前記基準マークは、略中心に溝部又は突起部を有し、
前記溝部又は突起部の平面視における形状は、前記基準マークの形状と相似又は略相似であることを特徴とする、多層反射膜付き基板。
【0015】
(構成2)
前記基準マークの底部は、前記多層反射膜に含まれる複数の膜のうち少なくとも一部の膜が収縮したシュリンク領域と、前記多層反射膜に含まれる複数の膜のうち少なくとも一部の膜が互いに一体化したミキシング領域とを含み、
前記溝部又は突起部は、前記溝部又は突起部を除く前記基準マークの底部と比較して、相対的に前記ミキシング領域を多く含む、構成1に記載の多層反射膜付き基板。
【0016】
(構成3)
前記溝部の深さ又は前記突起部の高さは、20nm以上である、構成1または構成2に記載の多層反射膜付き基板。
【0017】
(構成4)
前記溝部又は前記突起部の幅は、200nm以上10μm以下である、構成1から構成3のうちいずれかに記載の多層反射膜付き基板。
【0018】
(構成5)
前記基準マークの深さが30nm以上50nm以下である、構成1から構成4のうちいずれかに記載の多層反射膜付き基板。
【0019】
(構成6)
前記多層反射膜上に形成された保護膜を含み、
前記保護膜の表面に前記基準マークが形成されている、構成1から構成5のうちいずれかに記載の多層反射膜付き基板。
【0020】
(構成7)
前記多層反射膜の前記基板と反対側の表面層はSiを含む層である、構成1から構成6のうちいずれかに記載の多層反射膜付き基板。
【0021】
(構成8)
構成1から構成7のうちいずれかに記載の多層反射膜付き基板と、当該多層反射膜付き基板の上に形成された、EUV光を吸収する吸収体膜とを有する反射型マスクブランクであって、
前記吸収体膜に前記基準マークの形状が転写されている、反射型マスクブランク。
【0022】
(構成9)
構成1から構成7のうちいずれかに記載の多層反射膜付き基板と、当該多層反射膜付き基板の上に形成された、EUV光を吸収する吸収体膜パターンとを有する反射型マスクであって、
前記吸収体膜パターンに前記基準マークの形状が転写されている、反射型マスク。
【0023】
(構成10)
構成9に記載の反射型マスクを使用して、半導体基板上に転写パターンを形成する工程を有する、半導体装置の製造方法。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、多層反射膜に基準マークを形成した場合でも、多層反射膜の表面が汚染されることを防止することのできる、多層反射膜付き基板、反射型マスクブランク、反射型マスク、及び半導体装置の製造方法を提供できる。また、基板の洗浄耐性が悪化することを防止することのできる、多層反射膜付き基板、反射型マスクブランク、反射型マスク、及び半導体装置の製造方法を提供できる。さらに、基準マークの加工に要する時間を短くすることのできる、多層反射膜付き基板、反射型マスクブランク、反射型マスク、及び半導体装置の製造方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【
図1】多層反射膜付き基板の断面を示す模式図である。
【
図2】多層反射膜付き基板の平面図、及び、基準マークの拡大図である。
【
図3】
図2に示す基準マークのB-B線断面図である。
【
図4】基準マークの略中心に突起部が形成された多層反射膜付き基板の断面図である。
【
図5】基準マーク及び溝部(又は突起部)の他の例を示す平面図である。
【
図6】多層反射膜付き基板の表面に凹状に形成された基準マークの断面を示すTEM画像である。
【
図7】反射型マスクブランクの断面を示す模式図である。
【
図8】反射型マスクの製造方法を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。
[多層反射膜付き基板]
図1は、本実施形態の多層反射膜付き基板の断面を示す模式図である。
図1に示すように、多層反射膜付き基板10は、基板12と、露光光であるEUV光を反射する多層反射膜14と、多層反射膜14を保護するための保護膜18とを備えている。基板12の上に多層反射膜14が形成され、多層反射膜14の上に保護膜18が形成されている。
【0027】
なお、本明細書において、基板や膜の「上に」とは、その基板や膜の上面に接触する場合だけでなく、その基板や膜の上面に接触しない場合も含む。すなわち、基板や膜の「上に」とは、その基板や膜の上方に新たな膜が形成される場合や、その基板や膜との間に他の膜が介在している場合等を含む。また、「上に」とは、必ずしも鉛直方向における上側を意味するものではなく、基板や膜などの相対的な位置関係を示しているに過ぎない。
【0028】
<基板>
本実施形態の多層反射膜付き基板10に使用される基板12としては、EUV露光の場合、露光時の熱による吸収体膜パターンの歪みを防止するため、0±5ppb/℃の範囲内の低熱膨張係数を有するものが好ましく用いられる。この範囲の低熱膨張係数を有する素材としては、例えば、SiO2-TiO2系ガラス、多成分系ガラスセラミックス等を用いることができる。
【0029】
基板12の転写パターン(後述の吸収体膜パターンがこれに対応する)が形成される側の主表面は、平坦度を高めるために加工されることが好ましい。基板12の主表面の平坦度を高めることによって、パターンの位置精度や転写精度を高めることができる。例えば、EUV露光の場合、基板12の転写パターンが形成される側の主表面の132mm×132mmの領域において、平坦度が0.1μm以下であることが好ましく、更に好ましくは0.05μm以下、特に好ましくは0.03μm以下である。また、転写パターンが形成される側と反対側の主表面は、露光装置に静電チャックによって固定される面であって、その142mm×142mmの領域において、平坦度が1μm以下、更に好ましくは0.5μm以下、特に好ましくは0.03μm以下である。なお、本明細書において平坦度は、TIR(Total Indicated Reading)で示される表面の反り(変形量)を表す値で、基板表面を基準として最小二乗法で定められる平面を焦平面とし、この焦平面より上にある基板表面の最も高い位置と、焦平面より下にある基板表面の最も低い位置との高低差の絶対値である。
【0030】
EUV露光の場合、基板12の転写パターンが形成される側の主表面の表面粗さは、二乗平均平方根粗さ(RMS)で0.1nm以下であることが好ましい。なお表面粗さは、原子間力顕微鏡で測定することができる。
【0031】
基板12は、その上に形成される膜(多層反射膜14など)の膜応力による変形を防止するために、高い剛性を有していることが好ましい。特に、基板12は、65GPa以上の高いヤング率を有していることが好ましい。
【0032】
<多層反射膜>
多層反射膜付き基板10は、基板12と、基板12の上に形成された多層反射膜14とを備えている。多層反射膜14は、例えば、屈折率の異なる元素が周期的に積層された多層膜からなる。多層反射膜14は、EUV光を反射する機能を有している。
【0033】
一般的には、多層反射膜14は、高屈折率材料である軽元素又はその化合物の薄膜(高屈折率層)と、低屈折率材料である重元素又はその化合物の薄膜(低屈折率層)とが交互に40~60周期程度積層された多層膜からなる。
多層反射膜14を形成するために、基板12側から高屈折率層と低屈折率層をこの順に複数周期積層してもよい。この場合、1つの(高屈折率層/低屈折率層)の積層構造が、1周期となる。
多層反射膜14を形成するために、基板12側から低屈折率層と高屈折率層をこの順に複数周期積層してもよい。この場合、1つの(低屈折率層/高屈折率層)の積層構造が、1周期となる。
【0034】
なお、多層反射膜14の最上層、すなわち多層反射膜14の基板12と反対側の表面層は、高屈折率層であることが好ましい。基板12側から高屈折率層と低屈折率層をこの順に積層する場合は、最上層が低屈折率層となる。しかし、低屈折率層が多層反射膜14の表面である場合、低屈折率層が容易に酸化されることで多層反射膜の反射率が減少してしまうので、その低屈折率層の上に高屈折率層を形成する。一方、基板12側から低屈折率層と高屈折率層をこの順に積層する場合は、最上層が高屈折率層となる。その場合は、最上層の高屈折率層が、多層反射膜14の表面となる。
【0035】
本実施形態において、高屈折率層は、Siを含む層であってもよい。高屈折率層は、Si単体を含んでもよく、Si化合物を含んでもよい。Si化合物は、Siと、B、C、N、及びOからなる群から選択される少なくとも1つの元素を含んでもよい。Siを含む層を高屈折率層として使用することによって、EUV光の反射率に優れた多層反射膜が得られる。
【0036】
本実施形態において、低屈折率材料としては、Mo、Ru、Rh、及びPtからなる群から選択される少なくとも1つの元素、あるいは、Mo、Ru、Rh、及びPtからなる群から選択される少なくとも1つの元素を含む合金を使用することができる。
【0037】
例えば、波長13~14nmのEUV光のための多層反射膜14としては、好ましくは、Mo膜とSi膜を交互に40~60周期程度積層したMo/Si多層膜を用いることができる。その他に、EUV光の領域で使用される多層反射膜として、例えば、Ru/Si周期多層膜、Mo/Be周期多層膜、Mo化合物/Si化合物周期多層膜、Si/Nb周期多層膜、Si/Mo/Ru周期多層膜、Si/Mo/Ru/Mo周期多層膜、Si/Ru/Mo/Ru周期多層膜などを用いることができる。露光波長を考慮して、多層反射膜の材料を選択することができる。
【0038】
このような多層反射膜14の単独での反射率は、例えば65%以上である。多層反射膜14の反射率の上限は、例えば73%である。なお、多層反射膜14に含まれる層の厚み及び周期は、ブラッグの法則を満たすように選択することができる。
【0039】
多層反射膜14は、公知の方法によって形成できる。多層反射膜14は、例えば、イオンビームスパッタ法により形成できる。
【0040】
例えば、多層反射膜14がMo/Si多層膜である場合、イオンビームスパッタ法により、Moターゲットを用いて、厚さ3nm程度のMo膜を基板12の上に形成する。次に、Siターゲットを用いて、厚さ4nm程度のSi膜を形成する。このような操作を繰り返すことによって、Mo/Si膜が40~60周期積層した多層反射膜14を形成することができる。このとき、多層反射膜14の基板12と反対側の表面層は、Siを含む層(Si膜)である。1周期のMo/Si膜の厚みは、7nmとなる。
【0041】
<保護膜>
本実施形態の多層反射膜付き基板10は、多層反射膜14の上に形成された保護膜18を備えてもよい。保護膜18は、吸収体膜のパターニングあるいはパターン修正の際に、多層反射膜14を保護する機能を有している。保護膜18は、多層反射膜14と後述の吸収体膜との間に設けられる。
【0042】
保護膜18の材料としては、例えば、Ru、Ru-(Nb、Zr、Y、B、Ti、La、Mo、Co又はRe)化合物、Si-(Ru、Rh、Cr又はB)化合物、Si、Zr、Nb、La、B等の材料を使用することができる。また、これらに窒素、酸素又は炭素を添加した化合物を用いることができる。これらのうち、ルテニウム(Ru)を含む材料を適用すると、多層反射膜の反射率特性がより良好となる。具体的には、保護膜18の材料は、Ru、又は、Ru-(Nb、Zr、Y、B、Ti、La、Mo、Co又はRe)化合物であることが好ましい。保護膜18の厚みは、例えば、1nm~5nmである。保護膜18は、公知の方法によって形成できる。保護膜18は、例えば、マグネトロンスパッタリング法やイオンビームスパッタ法によって形成できる。
【0043】
多層反射膜付き基板10は、さらに、基板12の多層反射膜14が形成されている側とは反対側の主表面上に、裏面導電膜を有してもよい。裏面導電膜は、静電チャックによって多層反射膜付き基板10あるいは反射型マスクブランクを吸着する際に使用される。
【0044】
多層反射膜付き基板10は、基板12と多層反射膜14との間に形成された下地膜を有してもよい。下地膜は、例えば、基板12の表面の平滑性向上の目的で形成される。下地膜は、例えば、欠陥低減、多層反射膜の反射率向上、多層反射膜の応力補正等の目的で形成される。
【0045】
<基準マーク>
図2は、本実施形態の多層反射膜付き基板10の平面図である。
図2に示すように、略矩形状の多層反射膜付き基板10の4つの角部の近傍には、欠陥情報における欠陥位置の基準として使用できる基準マーク20がそれぞれ形成されている。なお、基準マーク20が4つ形成されている例を示しているが、基準マーク20の数は4つに限らず、3つ以下でもよいし、5つ以上でもよい。
【0046】
図2に示す多層反射膜付き基板10において、破線Aの内側の領域(132mm×132mmの領域)は、反射型マスクを製造するときに吸収体膜パターンが形成されるパターン形成領域である。破線Aの外側の領域は、反射型マスクを製造するときに吸収体膜パターンが形成されない領域である。基準マーク20は、好ましくは、吸収体膜パターンが形成されない領域、すなわち、破線Aの外側の領域に形成される。
【0047】
図2に示すように、基準マーク20は、略十字型形状を有している。略十字型形状を有する基準マーク20の一本の線の幅W1は、例えば、1000nm以上10μm以下である。基準マーク20の一本の線の長さLは、例えば、100μm以上1500μm以下である。
図2では、略十字型形状を有する基準マーク20の例を示しているが、基準マーク20の形状はこれに限定されない。基準マーク20の形状は、例えば、平面視略L字型であってもよい。
【0048】
図2に示すように、基準マーク20は、略中心に溝部21を有する。溝部21の平面視における形状は、基準マーク20の形状と相似又は略相似である。具体的には、溝部21の平面視における形状は、略十字型となっている。略十字型形状を有する溝部21の一本の線の幅W2は、好ましくは、200nm以上10μm以下であり、より好ましくは、300nm以上2000nm以下である。溝部21の幅W2は、基準マーク20の幅W1よりも小さい。なお、ここでいう「相似又は略相似」とは、幾何学的に相似な形状だけでなく、幾何学的に厳密に相似でなくても、全体として類似した形状を含む。
【0049】
図3は、
図2に示す基準マーク20のB-B線断面図であり、基準マーク20の断面構造を模式的に示している。
図3に示すように、本実施形態の多層反射膜付き基板10では、多層反射膜付き基板10の断面(多層反射膜付き基板10の主表面に垂直な断面)を見たときに、基準マーク20が多層反射膜付き基板10の表面に凹状に形成されている。ここでいう「凹状」とは、多層反射膜付き基板10の断面を見たときに、基準マーク20が多層反射膜付き基板10の表面よりも下方に向けて例えば段差状あるいは湾曲状に凹むようにして形成されていることを意味する。
【0050】
また、基準マーク20の略中心には、溝部21が凹状に形成されている。ここでいう「凹状」とは、多層反射膜付き基板10の断面を見たときに、溝部21が基準マーク20の表面20aよりも下方に向けて例えば段差状あるいは湾曲状に凹むようにして形成されていることを意味する。
【0051】
基準マーク20の表層22には、保護膜18に含まれる元素のうち少なくとも1つの元素と同一の元素が含まれてもよい。例えば、基準マーク20の表層22には、Ru、Nb、Zr、Y、B、Ti、La、Mo、Co、Re、Si、Rh、及びCrからなる群から選択される少なくとも1つの元素が含まれてもよい。基準マーク20の表層22には、好ましくは、保護膜18に含まれる元素と同一の元素であるルテニウム(Ru)が含まれている。基準マーク20の表層22に含まれている元素の種類は、例えば、EDX(エネルギー分散型X線分析)によって特定することができる。
【0052】
基準マーク20の表層22には、保護膜18に含まれる元素のうち少なくとも1つの元素と同一の元素の酸化物が含まれていてもよい。例えば、基準マーク20の表層22には、Ru、Ru-(Nb、Zr、Y、B、Ti、La、Mo、Co又はRe)化合物、Si-(Ru、Rh、Cr又はB)化合物、Si、Zr、Nb、La、及びBからなる群から選択される少なくとも1つの元素又は化合物の酸化物が含まれていてもよい。
【0053】
保護膜18にRu又はRuNbが含まれており、保護膜18に基準マーク20を形成する場合、基準マーク20の表層22には、Ru又はRuNbの酸化物が含まれてもよい。例えば、基準マーク20の表層22には、RuO及びRuNbOのうち少なくとも1つが含まれていてもよい。
【0054】
なお、基準マーク20の「表層22」とは、例えば、基準マーク20の表面から深さ2nmまでの領域のことを意味する。
【0055】
保護膜18にRu又はRu化合物が含まれている場合には、多層反射膜14の基板12と反対側の表面層14aは、Siを含む層(Si膜)であることが好ましい。基準マーク20をレーザ加工する際の熱によって、基準マーク20の表層22においてRuとSiが反応してRuSiが形成されるため、多層反射膜付き基板10の洗浄耐性が向上するためである。
【0056】
保護膜18にRu又はRu化合物が含まれ、多層反射膜14の表面層14aがSiを含む層の場合であって、保護膜18に基準マーク20を形成する場合、基準マーク20の表層22には、例えば、RuSi及びRuSiOのうち少なくとも1つが含まれていてもよい。
【0057】
図3に示すように、基準マーク20の底部には、多層反射膜14に含まれる複数の膜のうち少なくとも一部の膜が収縮したシュリンク領域24が形成されている。基準マーク20の底部とは、凹状の表層22よりも下方であって、基板12の上面までの領域を意味する。
【0058】
シュリンク領域24では、多層反射膜14に含まれる複数の膜のうち、少なくとも一部の膜の厚みが収縮している。例えば、多層反射膜14が、厚さ3nmのMo膜と、厚さ4nmのSi膜を周期的に積層したMo/Si多層膜である場合、1周期のMo/Si膜の厚みは、7nmである。シュリンク領域24では、例えば、1周期のMo/Si膜の厚みが、7nmから6nmに収縮している。この場合、収縮前の厚みは7nmであり、収縮後の厚みは6nmであるから、多層反射膜14の厚みの収縮率は約86%である。シュリンク領域24において、多層反射膜14の厚みの収縮率は、好ましくは75%以上95%以下であり、より好ましくは、80%以上90%以下である。
【0059】
シュリンク領域24では、多層反射膜14に含まれる複数の膜のうち少なくとも一部の膜が収縮しているが、多層反射膜14の積層構造は維持されている。多層反射膜14の積層構造が維持されていることは、例えば、多層反射膜付き基板10の断面のTEM画像によって容易に確認できる。
【0060】
図3に示すように、基準マーク20の底部の中央部付近であって、シュリンク領域24の上方には、多層反射膜14に含まれる複数の膜のうち少なくとも一部の膜が互いに一体化したミキシング領域26が形成されている。ミキシング領域26では、多層反射膜14に含まれる複数の膜が、基準マーク20をレーザ加工した際の熱によって互いに反応して一体化している。例えば、多層反射膜14がMo/Si多層膜である場合、ミキシング領域26では、Mo膜とSi膜が反応してMoSiが生成されている。
【0061】
ミキシング領域26は、基準マーク20の底部の中央部付近に形成されやすいが、中央部以外の部分に形成されることもある。ミキシング領域の厚さは、200nm以下が好ましく、150nm以下がより好ましい。ここでいうミキシング領域26の厚さとは、ミキシング領域26の垂直方向の厚さの最大値を意味する。また、
図3ではミキシング領域26が形成されている例を示しているが、レーザ加工の条件等によっては、ミキシング領域26が形成されないこともある。
【0062】
ミキシング領域26では、多層反射膜14に含まれる複数の膜が一体化しているため、多層反射膜14の積層構造は維持されていない。多層反射膜14に含まれる複数の膜が一体化していることは、例えば、多層反射膜付き基板10の断面のTEM画像によって容易に確認できる。
【0063】
図3に示すように、凹状に形成された基準マーク20の深さD1は、好ましくは、30nm以上50nm以下である。深さD1とは、多層反射膜付き基板10の表面から、基準マーク20の底部の最も深い位置までの垂直方向の距離のことを意味する。
【0064】
図3に示すように、凹状に形成された溝部21の深さD2は、好ましくは、20nm以上であり、より好ましくは、30nm以上である。深さD2とは、基準マーク20の表面から、溝部21の底部の最も深い位置までの垂直方向の距離のことを意味する。
【0065】
図3に示すように、凹状に形成された基準マーク20の傾斜角θは、好ましくは25度未満であり、より好ましくは3度以上10度以下である。傾斜角θとは、基準マーク20の断面を見たときに、基準マーク20の表層22の延長線22aと、多層反射膜付き基板10の表面10aとがなす角度を意味する。
【0066】
基準マーク20の形成方法は、特に制限されない。基準マーク20は、例えば、多層反射膜付き基板10の表面にレーザ加工によって形成することができる。レーザ加工の条件は、例えば、以下の通りである。
レーザの種類(波長):紫外線~可視光領域。例えば、波長405nmの半導体レーザ。
レーザ出力:1~120 mW
スキャン速度:0.1~20 mm/s
パルス周波数:1~100 MHz
パルス幅:3ns~1000s
【0067】
基準マーク20をレーザ加工する際に使用するレーザは、連続波でもよく、パルス波でもよい。パルス波を用いた場合、連続波と比較して、基準マーク20の深さD1が同程度であっても、基準マーク20の幅W1をより小さくすることが可能である。また、パルス波を用いた場合、連続波と比較して、基準マーク20の傾斜角θを大きくすることが可能である。このため、パルス波を用いた場合、連続波と比較して、よりコントラストが大きく、欠陥検査装置や電子線描画装置によって検出し易い基準マーク20を形成することができる。
【0068】
溝部21は、レーザ加工によって基準マーク20を形成する際に、同時に形成することができる。例えば、レーザ加工によって基準マーク20を形成する際に、基準マーク20の底部の一部が熱によって除去される。その結果、基準マーク20の底部に、凹状の溝部21が形成される。溝部21は、レーザ出力及び/又はパルス周波数を調整することにより、形成することができる。
【0069】
図4は、基準マーク20の略中心に突起部23が形成された多層反射膜付き基板10の断面図である。
図4に示すように、基準マーク20の略中心には、上述の溝部21の代わりに、突起部23が形成されてもよい。突起部23は、基準マーク20の表面から上方に突出している。突起部23の平面視における形状は、基準マーク20の形状と相似又は略相似であり、略十字型である。突起部23の一本の線の幅W2は、好ましくは、200nm以上10μm以下であり、より好ましくは、300nm以上2000nm以下である。突起部23の幅W2は、基準マーク20の幅W1よりも小さい。突起部23の高さH1は、15nm以上であり、好ましくは、20nm以上であり、より好ましくは、30nm以上である。高さH1とは、基準マーク20の表面から、突起部23の頂部の最も高い位置までの垂直方向の距離のことを意味する。
図4に示す基準マーク20の深さD1は、好ましくは、30nm以上50nm以下である。
【0070】
突起部23は、レーザ加工によって基準マーク20を形成する際に、同時に形成することができる。例えば、レーザ加工によって基準マーク20を形成する際に、基準マーク20の底部の一部が移動して上方に突出する。その結果、基準マーク20の底部に、凸状の突起部23が形成される。突起部23は、レーザ出力及び/又はパルス周波数を調整することにより、形成することができる。
【0071】
前述したように、基準マーク20の底部は、多層反射膜14に含まれる複数の膜のうち少なくとも一部の膜が収縮したシュリンク領域24と、多層反射膜14に含まれる複数の膜のうち少なくとも一部の膜が互いに一体化したミキシング領域26とを含む。
図3に示すように、基準マーク20の底部に溝部21が形成される場合、溝部21は、溝部21を除く基準マーク20の底部と比較して、相対的にミキシング領域26を多く含む。
図4に示すように、基準マーク20の底部に突起部23が形成される場合、突起部23は、突起部23を除く基準マーク20の底部と比較して、相対的にミキシング領域26を多く含む。「相対的にミキシング領域を多く含む」とは、例えば、溝部21又は突起部23の膜厚方向におけるミキシング領域26の厚さの割合が、溝部21又は突起部23以外の基準マーク20の底部のミキシング領域26の厚さの割合よりも大きいことを言う。
【0072】
図5は、基準マーク20及び溝部21(又は突起部23)の他の例を示す平面図である。
図5(a)に示すように、基準マーク20の形状が略十字型である場合、溝部21又は突起部23の形状は、基準マーク20と相似又は略相似の略十字型である。
図5(b)に示すように、基準マーク20の形状が略I字型である場合、溝部21又は突起部23の形状は、基準マーク20と相似又は略相似の略I字型である。
図5(c)に示すように、基準マーク20の形状が略L字型である場合、溝部21又は突起部23の形状は、基準マーク20と相似又は略相似の略L字型である。
図5(d)に示すように、基準マーク20の形状が略円形である場合、溝部21又は突起部23の形状は、基準マーク20と相似又は略相似の略円形である。
【0073】
図6は、多層反射膜付き基板10の表面に凹状に形成された基準マーク20の断面を示すTEM画像である。
図6に示す基準マーク20の平面視における形状は、略円形である。基準マーク20の底部には、凸状の突起部23が形成されている。突起部23の平面視における形状は、基準マーク20と相似又は略相似の略円形である。
【0074】
図6に示すように、基準マーク20の底部には、多層反射膜14に含まれる複数の膜のうち少なくとも一部の膜が収縮したシュリンク領域24が形成されている。基準マーク20の底部の中央部付近であって、シュリンク領域24の上方には、多層反射膜14に含まれる複数の膜のうち少なくとも一部の膜が互いに一体化したミキシング領域26が形成されている。突起部23は、突起部23を除く基準マーク20の底部と比較して、相対的にミキシング領域26を多く含む。
【0075】
基準マーク20は、多層反射膜14の表面にレーザ加工によって形成することができる。この場合、多層反射膜14の表面に基準マーク20を形成した後、基準マーク20の表面に保護膜18を形成してもよい。
基準マーク20は、多層反射膜14の表面に保護膜18を形成した後、保護膜18の表面にレーザ加工によって形成することもできる。
【0076】
基準マーク20は、例えば、FM(フィデュシャルマーク)として使用できる。FMとは、電子線描画装置によってパターンを描画する際に、欠陥座標の基準として使用されるマークである。FMは、通常、
図2に示すような十字型形状である。
【0077】
例えば、多層反射膜付き基板10に基準マーク20を形成した場合には、欠陥検査装置によって基準マーク20の座標及び欠陥の座標を高精度に取得する。次に、多層反射膜付き基板10の保護膜18の上に、吸収体膜を形成する。次に、吸収体膜の上に、レジスト膜を形成する。吸収体膜とレジスト膜との間には、ハードマスク膜(あるいはエッチングマスク膜)が形成されてもよい。多層反射膜付き基板10の表面に形成された凹状の基準マーク20は、吸収体膜及びレジスト膜に転写されるか、又は、吸収体膜、ハードマスク膜及びレジスト膜に転写される。そして、電子線描画装置によってレジスト膜にパターンを描画する際に、レジスト膜に転写された基準マーク20が、欠陥位置の基準であるFMとして使用される。
【0078】
したがって、多層反射膜付き基板10に形成された基準マーク20は、欠陥検査装置によって検出可能な程度に高いコントラストを有している必要がある。欠陥検査装置としては、例えば、検査光源波長が266nmであるレーザーテック社製のEUV露光用のマスク・サブストレート/ブランク欠陥検査装置「MAGICSM7360」、検査光源波長が193nmであるKLA-Tencor社製のEUV・マスク/ブランク欠陥検査装置「Teron600シリーズ、例えばTeron610」、検査光源波長が露光光源波長の13.5nmと同じであるABI(Actinic Blank Inspection)装置がある。また、吸収体膜及びその上のレジスト膜に転写された基準マーク20は、電子線描画装置によって検出可能な程度に高いコントラストを有している必要がある。さらに、基準マーク20は、座標計測器によって検出可能な程度に高いコントラストを有していることが好ましい。座標計測器は、欠陥検査装置によって取得された欠陥の座標を、電子線描画装置の基準座標に変換することができる。したがって、多層反射膜付き基板10を提供されたユーザーは、基準マーク20に基づき、欠陥検査装置により特定した欠陥位置と、描画データとを容易かつ高精度に照合することが可能となる。
【0079】
基準マーク20をFMとして使用することにより、欠陥座標を高精度に管理することができる。例えば、電子線描画装置によってFMを検出することにより、欠陥座標を電子線描画装置の座標系に変換することができる。そして、例えば、欠陥が吸収体膜パターンの下に配置するように、電子線描画装置によって描画されるパターンの描画データを補正することができる。これにより、最終的に製造される反射型マスクへの欠陥による影響を低減することができる(この手法は、欠陥緩和(defect mitigation)プロセスと呼ばれる)。
【0080】
基準マーク20は、AM(アライメントマーク)としても使用できる。AMは、欠陥検査装置で多層反射膜14上の欠陥を検査した際に欠陥座標の基準として使用できるマークである。しかし、AMは、電子線描画装置によってパターンを描画する際には直接使用されない。AMは、円形、四角形、又は十字型等の形状とすることができる。
【0081】
多層反射膜14上にAMを形成した場合には、多層反射膜14上の吸収体膜にFMを形成するとともに、AM上の吸収体膜を一部除去することが好ましい。AMは、欠陥検査装置及び座標計測器で検出可能である。FMは、座標計測器及び電子線描画装置で検出可能である。AMとFMの間で相対的に座標を管理することによって、欠陥座標を高精度に管理することができる。
【0082】
[反射型マスクブランク]
図7は、本実施形態の反射型マスクブランク30の断面を示す模式図である。上述の多層反射膜付き基板10の保護膜18上にEUV光を吸収する吸収体膜28を形成することによって、本実施形態の反射型マスクブランク30を製造できる。
【0083】
吸収体膜28は、露光光であるEUV光を吸収する機能を有する。すなわち、多層反射膜14のEUV光に対する反射率と、吸収体膜28のEUV光に対する反射率との差は、所定値以上となっている。例えば、吸収体膜28のEUV光に対する反射率は、0.1%以上40%以下である。多層反射膜14で反射された光と、吸収体膜28で反射された光との間には、所定の位相差があってもよい。なお、この場合、反射型マスクブランク30における吸収体膜28は、位相シフト膜と呼ばれることがある。
【0084】
吸収体膜28は、EUV光を吸収する機能を有し、かつ、エッチング等により除去可能であることが好ましい。吸収体膜28は、塩素(Cl)系ガスやフッ素(F)系ガスによるドライエッチングでエッチング可能であることが好ましい。このような機能を吸収体膜28が有する限り、吸収体膜28の材料は、特に制限されない。
【0085】
吸収体膜28は、単層でもよく、積層構造を有してもよい。吸収体膜28が積層構造を有する場合、同一材料からなる複数の膜が積層されてもよく、異なる材料からなる複数の膜が積層されてもよい。吸収体膜28が積層構造を有する場合、材料や組成が膜の厚み方向に段階的及び/又は連続的に変化してもよい。
【0086】
吸収体膜28の材料は、例えば、タンタル(Ta)単体、又は、Taを含む材料が好ましい。Taを含む材料は、例えば、TaとBを含む材料、TaとNを含む材料、TaとBと、O及びNのうち少なくとも1つとを含む材料、TaとSiを含む材料、TaとSiとNを含む材料、TaとGeを含む材料、TaとGeとNを含む材料、TaとPdを含む材料、TaとRuを含む材料、TaとTiを含む材料等である。
【0087】
吸収体膜28は、例えば、Ni単体、Niを含む材料、Cr単体、Crを含む材料、Ru単体、Ruを含む材料、Pd単体、Pdを含む材料、Mo単体、及び、Moを含有する材料からなる群から選択される少なくとも1つを含んでもよい。
【0088】
吸収体膜28の厚みは、好ましくは、30nm~100nmである。
吸収体膜28は、公知の方法、例えば、マグネトロンスパッタリング法や、イオンビームスパッタリング法などによって形成することができる。
【0089】
本実施形態の反射型マスクブランク30において、吸収体膜28の上に、レジスト膜32が形成されてもよい。
図7にはこの態様が示されている。レジスト膜32に電子線描画装置によってパターンを描画及び露光した後、現像工程を経ることによって、レジストパターンを形成することができる。このレジストパターンをマスクとして吸収体膜28にドライエッチングを行うことによって、吸収体膜28にパターンを形成することができる。
【0090】
多層反射膜付き基板10の表面に形成された凹状の基準マーク20を電子線描画装置によって容易に検出できるように、基準マーク20の上方のレジスト膜32を局所的に除去してもよい。除去の態様は、特に制限されない。また、例えば、基準マーク20の上方のレジスト膜32及び吸収体膜28を除去してもよい。
【0091】
本実施形態の反射型マスクブランク30において、吸収体膜28とレジスト膜32との間に、ハードマスク膜が形成されてもよい。ハードマスク膜は、吸収体膜28をパターニングする際のマスクとして使用される。ハードマスク膜と吸収体膜28は、エッチング選択性が互いに異なる材料によって形成される。吸収体膜28の材料がタンタルあるいはタンタル化合物を含む場合、ハードマスク膜の材料は、クロム又はクロム化合物を含むことが好ましい。クロム化合物は、好ましくは、Crと、N、O、C、及びHからなる群から選択される少なくとも一つとを含む。
【0092】
[反射型マスク]
本実施形態の反射型マスクブランク30を使用して、本実施形態の反射型マスク40を製造することができる。以下、反射型マスク40の製造方法について説明する。
【0093】
図8は、反射型マスク40の製造方法を示す模式図である。
図8に示すように、まず、基板12と、基板12の上に形成された多層反射膜14と、多層反射膜14の上に形成された保護膜18と、保護膜18の上に形成された吸収体膜28とを有する反射型マスクブランク30を準備する(
図8(a))。つぎに、吸収体膜28の上に、レジスト膜32を形成する(
図8(b))。レジスト膜32に、電子線描画装置によってパターンを描画し、さらに現像・リンス工程を経ることによって、レジストパターン32aを形成する(
図8(c))。
【0094】
レジストパターン32aをマスクとして、吸収体膜28をドライエッチングする。これにより、吸収体膜28のレジストパターン32aによって被覆されていない部分がエッチングされ、吸収体膜パターン28aが形成される(
図8(d))。
【0095】
なお、エッチングガスとしては、例えば、Cl2,SiCl4,CHCl3,CCl4等の塩素系ガス、これら塩素系ガス及びO2を所定の割合で含む混合ガス、塩素系ガス及びHeを所定の割合で含む混合ガス、塩素系ガス及びArを所定の割合で含む混合ガス、CF4,CHF3,C2F6,C3F6,C4F6,C4F8,CH2F2,CH3F,C3F8,SF6,F等のフッ素系ガス、これらフッ素系ガス及びO2を所定の割合で含む混合ガス、フッ素系ガス及びHeを所定の割合で含む混合ガス、フッ素系ガス及びArを所定の割合で含む混合ガス等を使用することができる。
【0096】
吸収体膜パターン28aが形成された後、例えば、レジスト剥離液によりレジストパターン32aを除去する。レジストパターン32aを除去した後、酸性やアルカリ性の水溶液を用いたウェット洗浄工程を経ることによって、本実施形態の反射型マスク40が得られる(
図8(e))。
【0097】
[半導体装置の製造方法]
本実施形態の反射型マスク40を使用したリソグラフィーにより、半導体基板上に転写パターンを形成することができる。この転写パターンは、反射型マスク40の吸収体膜パターン28aが転写された形状を有している。半導体基板上に反射型マスク40によって転写パターンを形成することによって、半導体装置を製造することができる。
【0098】
図9を用いて、レジスト付き半導体基板56にEUV光によってパターンを転写する方法について説明する。
【0099】
図9は、パターン転写装置50を示している。パターン転写装置50は、レーザープラズマX線源52、反射型マスク40、及び、縮小光学系54等を備えている。縮小光学系54としては、X線反射ミラーが用いられている。
【0100】
反射型マスク40で反射されたパターンは、縮小光学系54により、通常1/4程度に縮小される。例えば、露光波長として13~14nmの波長帯を使用し、光路が真空中になるように予め設定する。このような条件で、レーザープラズマX線源52で発生したEUV光を、反射型マスク40に入射させる。反射型マスク40によって反射された光を、縮小光学系54を介して、レジスト付き半導体基板56上に転写する。
【0101】
反射型マスク40に入射した光は、吸収体膜パターン28aのある部分では、吸収体膜に吸収されて反射されない。一方、吸収体膜パターン28aのない部分に入射した光は、多層反射膜14により反射される。
【0102】
反射型マスク40によって反射された光は、縮小光学系54に入射する。縮小光学系54に入射した光は、レジスト付き半導体基板56上のレジスト層に転写パターンを形成する。露光されたレジスト層を現像することによって、レジスト付き半導体基板56上にレジストパターンを形成することができる。レジストパターンをマスクとして半導体基板56をエッチングすることにより、半導体基板上に例えば所定の配線パターンを形成することができる。このような工程及びその他の必要な工程を経ることで、半導体装置が製造される。
【0103】
本実施形態の多層反射膜付き基板10によれば、基準マーク20をレーザ加工する際に発生した塵によって、多層反射膜14の表面が汚染されることを防止することができる。多層反射膜14の表面がレーザアブレーションによって除去されないためであると考えられる。
【0104】
また、基準マーク20の略中心に溝部21又は突起部23が形成されるため、電子線や検査光に対する基準マーク20のコントラストを高く維持することができる。したがって、基準マーク20の傾斜角θが小さい場合であっても、電子線描画装置や欠陥検査装置によって基準マーク20を検出することが可能である。
【0105】
本実施形態の多層反射膜付き基板10によれば、基準マーク20の表面に、多層反射膜14の材料が露出することを防止することができる。したがって、洗浄耐性に優れた多層反射膜付き基板10、反射型マスクブランク30、及び反射型マスク40を製造することができる。
【0106】
本実施形態の多層反射膜付き基板10によれば、FIB法を用いた場合よりも基準マークの加工に要する時間を短くすることが可能である。
【実施例0107】
以下、本発明のさらに具体的な実施例について説明する。
(実施例1)
SiO2-TiO2系のガラス基板(6インチ角、厚さが6.35mm)を準備した。このガラス基板の端面を面取り加工、及び研削加工し、更に酸化セリウム砥粒を含む研磨液で粗研磨処理した。これらの処理を終えたガラス基板を両面研磨装置のキャリアにセットし、研磨液にコロイダルシリカ砥粒を含むアルカリ水溶液を用い、所定の研磨条件で精密研磨を行った。精密研磨終了後、ガラス基板に対し洗浄処理を行った。得られたガラス基板の主表面の表面粗さは、二乗平均平方根粗さ(RMS)で、0.10nm以下であった。得られたガラス基板の主表面の平坦度は、測定領域132mm×132mmにおいて、30nm以下であった。
【0108】
上記のガラス基板の裏面に、以下の条件で、CrNからなる裏面導電膜をマグネトロンスパッタリング法により形成した。
(条件):Crターゲット、Ar+N2ガス雰囲気(Ar:N2=90%:10%)、膜組成(Cr:90原子%、N:10原子%)、膜厚20nm
【0109】
ガラス基板の裏面導電膜が形成された側と反対側の主表面上に、Mo膜/Si膜を周期的に積層することで多層反射膜を形成した。
【0110】
具体的には、MoターゲットとSiターゲットを使用し、イオンビームスパッタリング(Arを使用)により、基板上に、Mo膜及びSi膜を交互に積層した。Mo膜の厚みは、2.8nmである。Si膜の厚みは、4.2nmである。1周期のMo/Si膜の厚みは、7.0nmである。このようなMo/Si膜を、40周期積層し、最後にSi膜を4.0nmの膜厚で成膜し、多層反射膜を形成した。
【0111】
多層反射膜の上に、Ru化合物を含む保護膜を形成した。具体的には、RuNbターゲット(Ru:80原子%、Nb:20原子%)を使用し、Arガス雰囲気にて、DCマグネトロンスパッタリングにより、多層反射膜の上に、RuNb膜からなる保護膜を形成した。保護膜の厚みは、2.5nmであった。
【0112】
保護膜の上に、レーザ加工によって、基準マークを形成した。
レーザ加工の条件は、以下の通りであった。
レーザの種類:波長405nmの半導体レーザ
レーザの出力:30mW(連続波)
スポットサイズ:430nmφ
【0113】
基準マークの形状及び寸法は、以下の通りであった。
形状:略十字型
深さD1:40nm
幅W1:2μm
長さL:1mm
傾斜角θ:5.7度
【0114】
基準マークの略中心には、溝部が形成された。溝部の形状及び寸法は、以下の通りであった。
形状:略十字型(基準マークと略相似形状)
深さD2:30nm
幅W2:450nm
長さL:1mm
【0115】
基準マークの断面を、透過型電子顕微鏡(TEM)によって撮影した。その結果、凹状の基準マークの底部には、多層反射膜に含まれる複数の膜のうち少なくとも一部の膜が収縮したシュリンク領域が形成されていた。また、基準マークの底部の溝部及びその付近であって、シュリンク領域の上方には、多層反射膜に含まれる複数の膜のうち少なくとも一部の膜が互いに一体化したミキシング領域が形成されていた。シュリンク領域では、多層反射膜に含まれる1周期のMo/Si膜の厚みが、7.0nmから6.0nmに減少していた。また、溝部の膜厚方向におけるミキシング領域の厚さの割合が、溝部以外の基準マークの底部のミキシング領域の厚さの割合よりも大きかった。
基準マークの表層を、EDX(エネルギー分散型X線分析)によって分析した。その結果、基準マークのシュリンク領域の表層には、保護膜に含まれている元素と同一の元素である、Ru及びNbが含まれていた。また、酸素(O)も検出されたため、基準マークの表層にはRuNbOが含まれていると考えられる。また、基準マークの溝部を含むミキシング領域の表層には、Ru、Nb、Si、Mo、及びOが含まれていたため、RuNbO、RuSi又はMoSi等が含まれていると考えられる。
【0116】
欠陥検査装置(レーザーテック株式会社製、ABI)を用いて、多層反射膜付き基板の欠陥検査を行った。欠陥検査では、保護膜の上に凹状に形成された基準マークを基準として、欠陥の位置を特定した。その結果、欠陥の個数は、従来のFIB法によって基準マークを形成した場合よりも、減少していた。
【0117】
多層反射膜付き基板の保護膜の上に吸収体膜を形成し、反射型マスクブランクを製造した。具体的には、TaBN(厚み56nm)とTaBO(厚み14nm)の積層膜からなる吸収体膜を、DCマグネトロンスパッタリングにより形成した。TaBN膜は、TaBターゲットを使用し、ArガスとN2ガスの混合ガス雰囲気における反応性スパッタリングにより形成した。TaBO膜は、TaBターゲットを使用し、ArガスとO2ガスの混合ガス雰囲気における反応性スパッタリングにより形成した。
【0118】
吸収体膜に転写された凹状の基準マークを、電子線描画装置によって検出した。その結果、基準マークを検出可能であり、吸収体膜に転写された基準マークが、電子線描画装置によって検出可能な程度に十分なコントラストを有していることを確認することができた。
【0119】
欠陥検査装置(レーザーテック株式会社製、M8350)を用いて、吸収体膜上の欠陥検査を行った。欠陥検査では、吸収体膜の上に凹状に転写された基準マークを基準として、欠陥の位置を特定した。その結果、欠陥の個数は、従来のFIB法によって基準マークを形成した場合よりも、減少していた。
【0120】
上記で製造した反射型マスクブランクの吸収体膜上に、レジスト膜を形成した。電子線描画装置を用いて、欠陥検査によって得られた欠陥情報に基づいてレジスト膜にパターンを描画した。パターンを描画した後、所定の現像処理を行い、吸収体膜上にレジストパターンを形成した。
【0121】
レジストパターンをマスクとして、吸収体膜にパターンを形成した。具体的には、フッ素系ガス(CF4ガス)により、上層のTaBO膜をドライエッチングした後、塩素系ガス(Cl2ガス)により、下層のTaBN膜をドライエッチングした。
【0122】
吸収体膜パターン上に残ったレジストパターンを、熱硫酸で除去することで、実施例1に係る反射型マスクが得られた。こうして得られた反射型マスクを露光装置にセットし、レジスト膜を形成した半導体基板上へのパターン転写を行う場合、反射型マスク起因の転写パターンの欠陥も無く、良好なパターン転写を行うことができる。
【0123】
(実施例2)
SiO2-TiO2系のガラス基板(6インチ角、厚さが6.35mm)を準備した。このガラス基板の端面を面取り加工、及び研削加工し、更に酸化セリウム砥粒を含む研磨液で粗研磨処理した。これらの処理を終えたガラス基板を両面研磨装置のキャリアにセットし、研磨液にコロイダルシリカ砥粒を含むアルカリ水溶液を用い、所定の研磨条件で精密研磨を行った。精密研磨終了後、ガラス基板に対し洗浄処理を行った。得られたガラス基板の主表面の表面粗さは、二乗平均平方根粗さ(RMS)で、0.10nm以下であった。得られたガラス基板の主表面の平坦度は、測定領域132mm×132mmにおいて、30nm以下であった。
【0124】
上記のガラス基板の裏面に、以下の条件で、CrNからなる裏面導電膜をマグネトロンスパッタリング法により形成した。
(条件):Crターゲット、Ar+N2ガス雰囲気(Ar:N2=90%:10%)、膜組成(Cr:90原子%、N:10原子%)、膜厚20nm
【0125】
ガラス基板の裏面導電膜が形成された側と反対側の主表面上に、Mo膜/Si膜を周期的に積層することで多層反射膜を形成した。
【0126】
具体的には、MoターゲットとSiターゲットを使用し、イオンビームスパッタリング(Arを使用)により、基板上に、Mo膜及びSi膜を交互に積層した。Mo膜の厚みは、2.8nmである。Si膜の厚みは、4.2nmである。1周期のMo/Si膜の厚みは、7.0nmである。このようなMo/Si膜を、40周期積層し、最後にSi膜を4.0nmの膜厚で成膜し、多層反射膜を形成した。
【0127】
多層反射膜の上に、Ru化合物を含む保護膜を形成した。具体的には、RuNbターゲット(Ru:80原子%、Nb:20原子%)を使用し、Arガス雰囲気にて、DCマグネトロンスパッタリングにより、多層反射膜の上に、RuNb膜からなる保護膜を形成した。保護膜の厚みは、2.5nmであった。
【0128】
保護膜の上に、レーザ加工によって、基準マークを形成した。
レーザ加工の条件は、以下の通りであった。
レーザの種類:波長405nmの半導体レーザ
レーザの出力:60mW (パルス波:500kHz)
スポットサイズ:430nmφ
【0129】
基準マークの形状及び寸法は、以下の通りであった。
形状:略十字型
深さD1:40nm
幅W1:2μm
長さL:1mm
傾斜角θ:5.9度
【0130】
基準マークの略中心には、突起部が形成された。突起部の形状及び寸法は、以下の通りであった。
形状:略十字型(基準マークと略相似形状)
高さH1:20nm
幅W2:300nm
長さL:1mm
【0131】
基準マークの断面を、透過型電子顕微鏡(TEM)によって撮影した。その結果、凹状の基準マークの底部には、多層反射膜に含まれる複数の膜のうち少なくとも一部の膜が収縮したシュリンク領域が形成されていた。また、基準マークの底部の突起部及びその付近であって、シュリンク領域の上方には、多層反射膜に含まれる複数の膜のうち少なくとも一部の膜が互いに一体化したミキシング領域が形成されていた。シュリンク領域では、多層反射膜に含まれる1周期のMo/Si膜の厚みが、7.0nmから6.0nmに減少していた。また、突起部の膜厚方向におけるミキシング領域の厚さの割合が、突起部以外の基準マークの底部のミキシング領域の厚さの割合よりも大きかった。
基準マークの表層を、EDX(エネルギー分散型X線分析)によって分析した。その結果、基準マークのシュリンク領域の表層には、保護膜に含まれている元素と同一の元素である、Ru及びNbが含まれていた。また、酸素(O)も検出されたため、基準マークの表層にはRuNbOが含まれていると考えられる。また、基準マークの突起部を含むミキシング領域の表層には、Ru、Nb、Si、Mo、及びOが含まれていたため、RuNbO、RuSi又はMoSi等が含まれていると考えられる。
【0132】
欠陥検査装置(レーザーテック株式会社製、ABI)を用いて、多層反射膜付き基板の欠陥検査を行った。欠陥検査では、保護膜の上に凹状に形成された基準マークを基準として、欠陥の位置を特定した。その結果、欠陥の個数は、従来のFIB法によって基準マークを形成した場合よりも、減少していた。
【0133】
多層反射膜付き基板の保護膜の上に吸収体膜を形成し、反射型マスクブランクを製造した。具体的には、TaBN(厚み56nm)とTaBO(厚み14nm)の積層膜からなる吸収体膜を、DCマグネトロンスパッタリングにより形成した。TaBN膜は、TaBターゲットを使用し、ArガスとN2ガスの混合ガス雰囲気における反応性スパッタリングにより形成した。TaBO膜は、TaBターゲットを使用し、ArガスとO2ガスの混合ガス雰囲気における反応性スパッタリングにより形成した。
【0134】
吸収体膜に転写された凹状の基準マークを、電子線描画装置によって検出した。その結果、基準マークを検出可能であり、吸収体膜に転写された基準マークが、電子線描画装置によって検出可能な程度に十分なコントラストを有していることを確認することができた。
【0135】
欠陥検査装置(レーザーテック株式会社製、M8350)を用いて、吸収体膜上の欠陥検査を行った。欠陥検査では、吸収体膜の上に凹状に転写された基準マークを基準として、欠陥の位置を特定した。その結果、欠陥の個数は、従来のFIB法によって基準マークを形成した場合よりも、減少していた。
【0136】
上記で製造した反射型マスクブランクの吸収体膜上に、レジスト膜を形成した。電子線描画装置を用いて、欠陥検査によって得られた欠陥情報に基づいてレジスト膜にパターンを描画した。パターンを描画した後、所定の現像処理を行い、吸収体膜上にレジストパターンを形成した。
【0137】
レジストパターンをマスクとして、吸収体膜にパターンを形成した。具体的には、フッ素系ガス(CF4ガス)により、上層のTaBO膜をドライエッチングした後、塩素系ガス(Cl2ガス)により、下層のTaBN膜をドライエッチングした。
【0138】
吸収体膜パターン上に残ったレジストパターンを、熱硫酸で除去することで、実施例2に係る反射型マスクが得られた。こうして得られた反射型マスクを露光装置にセットし、レジスト膜を形成した半導体基板上へのパターン転写を行う場合、反射型マスク起因の転写パターンの欠陥も無く、良好なパターン転写を行うことができる。
【0139】
(実施例3)
SiO2-TiO2系のガラス基板(6インチ角、厚さが6.35mm)を準備した。このガラス基板の端面を面取り加工、及び研削加工し、更に酸化セリウム砥粒を含む研磨液で粗研磨処理した。これらの処理を終えたガラス基板を両面研磨装置のキャリアにセットし、研磨液にコロイダルシリカ砥粒を含むアルカリ水溶液を用い、所定の研磨条件で精密研磨を行った。精密研磨終了後、ガラス基板に対し洗浄処理を行った。得られたガラス基板の主表面の表面粗さは、二乗平均平方根粗さ(RMS)で、0.10nm以下であった。得られたガラス基板の主表面の平坦度は、測定領域132mm×132mmにおいて、30nm以下であった。
【0140】
上記のガラス基板の裏面に、以下の条件で、CrNからなる裏面導電膜をマグネトロンスパッタリング法により形成した。
(条件):Crターゲット、Ar+N2ガス雰囲気(Ar:N2=90%:10%)、膜組成(Cr:90原子%、N:10原子%)、膜厚20nm
【0141】
ガラス基板の裏面導電膜が形成された側と反対側の主表面上に、Mo膜/Si膜を周期的に積層することで多層反射膜を形成した。
【0142】
具体的には、MoターゲットとSiターゲットを使用し、イオンビームスパッタリング(Arを使用)により、基板上に、Mo膜及びSi膜を交互に積層した。Mo膜の厚みは、2.8nmである。Si膜の厚みは、4.2nmである。1周期のMo/Si膜の厚みは、7.0nmである。このようなMo/Si膜を、40周期積層し、最後にSi膜を4.0nmの膜厚で成膜し、多層反射膜を形成した。
【0143】
Mo/Si多層膜からなる多層反射膜の上に、レーザ加工によって、基準マークを形成した。
レーザ加工の条件は、以下の通りであった。
レーザの種類:波長405nmの半導体レーザ
レーザの出力:30mW(連続波)
スポットサイズ:430nmφ
【0144】
基準マークの形状及び寸法は、以下の通りであった。
形状:略十字型
深さD1:40nm
幅W1:2μm
長さL:1mm
傾斜角θ:5.7度
【0145】
基準マークの略中心には、溝部が形成された。溝部の形状及び寸法は、以下の通りであった。
形状:略十字型(基準マークと略相似形状)
深さD2:30nm
幅W2:450nm
長さL:1mm
【0146】
基準マークの断面を、透過型電子顕微鏡(TEM)によって撮影した。その結果、凹状の基準マークの底部には、多層反射膜に含まれる複数の膜のうち少なくとも一部の膜が収縮したシュリンク領域が形成されていた。また、基準マークの底部の溝部及びその付近であって、シュリンク領域の上方には、多層反射膜に含まれる複数の膜のうち少なくとも一部の膜が互いに一体化したミキシング領域が形成されていた。シュリンク領域では、多層反射膜に含まれる1周期のMo/Si膜の厚みが、7.0nmから6.0nmに減少していた。また、溝部の膜厚方向におけるミキシング領域の厚さの割合が、溝部以外の基準マークの底部のミキシング領域の厚さの割合よりも大きかった。
基準マークの表層を、EDX(エネルギー分散型X線分析)によって分析した。その結果、基準マークの表層には、多層反射膜に含まれている元素と同一の元素である、Mo及びSiが含まれていた。また、酸素(O)も検出されたため、基準マークの表層にはSiO又はMoSiOが含まれていると考えられる。
【0147】
多層反射膜の表面に基準マークを形成した後、多層反射膜の上に、Ru化合物を含む保護膜を形成した。具体的には、RuNbターゲット(Ru:80原子%、Nb:20原子%)を使用し、Arガス雰囲気にて、DCマグネトロンスパッタリングにより、多層反射膜の上に、RuNb膜からなる保護膜を形成した。保護膜の厚みは、2.5nmであった。
【0148】
欠陥検査装置(レーザーテック株式会社製、ABI)を用いて、多層反射膜付き基板の欠陥検査を行った。欠陥検査では、多層反射膜の上に凹状に形成された基準マークを基準として、欠陥の位置を特定した。その結果、欠陥の個数は、従来のFIB法によって基準マークを形成した場合よりも、減少していた。
【0149】
多層反射膜付き基板の保護膜の上に吸収体膜を形成し、反射型マスクブランクを製造した。具体的には、TaBN(厚み56nm)とTaBO(厚み14nm)の積層膜からなる吸収体膜を、DCマグネトロンスパッタリングにより形成した。TaBN膜は、TaBターゲットを使用し、ArガスとN2ガスの混合ガス雰囲気における反応性スパッタリングにより形成した。TaBO膜は、TaBターゲットを使用し、ArガスとO2ガスの混合ガス雰囲気における反応性スパッタリングにより形成した。
【0150】
吸収体膜に転写された凹状の基準マークを、電子線描画装置によって検出した。その結果、基準マークを検出可能であり、吸収体膜に転写された基準マークが、電子線描画装置によって検出可能な程度に十分なコントラストを有していることを確認することができた。
【0151】
欠陥検査装置(レーザーテック株式会社製、M8350)を用いて、吸収体膜上の欠陥検査を行った。欠陥検査では、吸収体膜の上に凹状に転写された基準マークを基準として、欠陥の位置を特定した。その結果、欠陥の個数は、従来のFIB法によって基準マークを形成した場合よりも、減少していた。
【0152】
上記で製造した反射型マスクブランクの吸収体膜上に、レジスト膜を形成した。電子線描画装置を用いて、欠陥検査によって得られた欠陥情報に基づいてレジスト膜にパターンを描画した。パターンを描画した後、所定の現像処理を行い、吸収体膜上にレジストパターンを形成した。
【0153】
レジストパターンをマスクとして、吸収体膜にパターンを形成した。具体的には、フッ素系ガス(CF4ガス)により、上層のTaBO膜をドライエッチングした後、塩素系ガス(Cl2ガス)により、下層のTaBN膜をドライエッチングした。
【0154】
吸収体膜パターン上に残ったレジストパターンを、熱硫酸で除去することで、実施例3に係る反射型マスクが得られた。こうして得られた反射型マスクを露光装置にセットし、レジスト膜を形成した半導体基板上へのパターン転写を行う場合、反射型マスク起因の転写パターンの欠陥も無く、良好なパターン転写を行うことができる。
【0155】
(比較例1)
SiO2-TiO2系のガラス基板(6インチ角、厚さが6.35mm)を準備した。このガラス基板の端面を面取り加工、及び研削加工し、更に酸化セリウム砥粒を含む研磨液で粗研磨処理した。これらの処理を終えたガラス基板を両面研磨装置のキャリアにセットし、研磨液にコロイダルシリカ砥粒を含むアルカリ水溶液を用い、所定の研磨条件で精密研磨を行った。精密研磨終了後、ガラス基板に対し洗浄処理を行った。得られたガラス基板の主表面の表面粗さは、二乗平均平方根粗さ(RMS)で、0.10nm以下であった。得られたガラス基板の主表面の平坦度は、測定領域132mm×132mmにおいて、30nm以下であった。
【0156】
上記のガラス基板の裏面に、以下の条件で、CrNからなる裏面導電膜をマグネトロンスパッタリング法により形成した。
(条件):Crターゲット、Ar+N2ガス雰囲気(Ar:N2=90%:10%)、膜組成(Cr:90原子%、N:10原子%)、膜厚20nm
【0157】
ガラス基板の裏面導電膜が形成された側と反対側の主表面上に、Mo膜/Si膜を周期的に積層することで多層反射膜を形成した。
【0158】
具体的には、MoターゲットとSiターゲットを使用し、イオンビームスパッタリング(Arを使用)により、基板上に、Mo膜及びSi膜を交互に積層した。Mo膜の厚みは、2.8nmである。Si膜の厚みは、4.2nmである。1周期のMo/Si膜の厚みは、7.0nmである。このようなMo/Si膜を、40周期積層し、最後にSi膜を4.0nmの膜厚で成膜し、多層反射膜を形成した。
【0159】
多層反射膜の上に、Ru化合物を含む保護膜を形成した。具体的には、RuNbターゲット(Ru:80原子%、Nb:20原子%)を使用し、Arガス雰囲気にて、DCマグネトロンスパッタリングにより、多層反射膜の上に、RuNb膜からなる保護膜を形成した。保護膜の厚みは、2.5nmであった。
【0160】
保護膜の上に、FIB法によって、基準マークを形成した。
FIBの条件は、以下の通りであった。
加速電圧:50kV
ビーム電流値:20pA
【0161】
基準マークの形状及び寸法は、以下の通りであった。
形状:略十字型
深さD1:40nm
幅W1:2μm
長さL:1mm
傾斜角θ:86度
【0162】
基準マークの底部には、溝部も突起部も形成されなかった。
【0163】
基準マークの表層を、EDX(エネルギー分散型X線分析)によって分析した。その結果、基準マークの表層には、保護膜に含まれている元素と同一の元素である、Ru及びNbが含まれておらず、Mo及びSiが検出された。基準マークの表層には、保護膜が残存していないため、多層反射膜の材料が露出していたと考えられる。
【0164】
欠陥検査装置(レーザーテック株式会社製、ABI)を用いて、多層反射膜付き基板の欠陥検査を行った。欠陥検査では、保護膜の上に凹状に形成された基準マークを基準として、欠陥の位置を特定した。その結果、欠陥の個数は、実施例1~3よりも大幅に増加していた。基準マークをFIBによって加工した際に発生した塵によって、多層反射膜の表面が汚染されたことが原因であると推察される。
【0165】
多層反射膜付き基板の保護膜の上に吸収体膜を形成し、反射型マスクブランクを製造した。具体的には、TaBN(厚み56nm)とTaBO(厚み14nm)の積層膜からなる吸収体膜を、DCマグネトロンスパッタリングにより形成した。TaBN膜は、TaBターゲットを使用し、ArガスとN2ガスの混合ガス雰囲気における反応性スパッタリングにより形成した。TaBO膜は、TaBターゲットを使用し、ArガスとO2ガスの混合ガス雰囲気における反応性スパッタリングにより形成した。
【0166】
欠陥検査装置(レーザーテック株式会社製、M8350)を用いて、吸収体膜上の欠陥検査を行った。欠陥検査では、吸収体膜の上に凹状に転写された基準マークを基準として、欠陥の位置を特定した。その結果、欠陥の個数は、実施例1~3よりも大幅に増加していた。
【0167】
上記で製造した反射型マスクブランクの吸収体膜上に、レジスト膜を形成した。電子線描画装置を用いて、欠陥検査によって得られた欠陥情報に基づいてレジスト膜にパターンを描画した。パターンを描画した後、所定の現像処理を行い、吸収体膜上にレジストパターンを形成した。
【0168】
レジストパターンをマスクとして、吸収体膜にパターンを形成した。具体的には、フッ素系ガス(CF4ガス)により、上層のTaBO膜をドライエッチングした後、塩素系ガス(Cl2ガス)により、下層のTaBN膜をドライエッチングした。
【0169】
吸収体膜パターン上に残ったレジストパターンを、熱硫酸で除去することで、比較例1に係る反射型マスクが得られた。こうして得られた反射型マスクを露光装置にセットし、レジスト膜を形成した半導体基板上へのパターン転写を行う場合、反射型マスク起因の転写パターンの欠陥が実施例1~3よりも多くなるため、良好なパターン転写を行うことが困難である。