(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023010501
(43)【公開日】2023-01-20
(54)【発明の名称】機能最適化ミトコンドリア製剤
(51)【国際特許分類】
A61K 33/00 20060101AFI20230113BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20230113BHJP
【FI】
A61K33/00
A61P43/00 107
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】書面
(21)【出願番号】P 2021133697
(22)【出願日】2021-07-09
(71)【出願人】
【識別番号】515014222
【氏名又は名称】H2bank株式会社
(72)【発明者】
【氏名】石橋 徹
【テーマコード(参考)】
4C086
【Fターム(参考)】
4C086AA01
4C086AA02
4C086HA01
4C086MA01
4C086MA04
4C086NA14
4C086ZB22
(57)【要約】 (修正有)
【課題】再生医療あるいは、自己免疫疾患、加齢に伴う疾患、神経変性疾患に適用する手段を提供する。
【解決手段】水素ガス又は水素ガスを含む混合ガスあるいは水素分子あるいは水素原子を含む溶液を細胞あるいは組織に作用させることによって、あるいはキノン類を同時に摂取することによって、ミトコンドリアあるいは微生物を含む細胞の細胞膜にあって、電子伝達を担う複合体complex I,II,III,IVのそれぞれ、あるいはそれら一部あるいは全ての組み合わせが集合したsupercomplexの形成およびcomplex IIに影響を与え、その結果、キノン類が同複合体におけるキノン類結合部位あるいはそれ以外の部位から遊離しにくくなることによって、あるいは、上記細胞内部位により強くキノン類を含有させることによって、Q10などのキノン類を高い効率で利用し、細胞の機能を維持、改善、さらに効率化させる方法である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
水素ガス又は水素ガスを含む混合ガス、あるいは水素分子あるいは水素原子を含む溶液を作用させることによって、ミトコンドリアあるいは細胞(幹細胞および脂肪細胞由来のものを含む)、あるいは生体組織に、高効率にキノン類を取り込ませる方法、あるいは、同部位から遊離しにくくする、あるいは膜内部およびミトコンドリアマトリックスを含む部位におけるキノン類含有量を高める方法
【請求項2】
[請求項1]の水素ガス又は水素ガスを含む混合ガス、あるいは水素分子あるいは水素原子を含む溶液を作用させる方法において、ミトコンドリアあるいは微生物を含む細胞の細胞膜にあって、電子伝達を担う複合体complex I,II,III,IVのそれぞれ、あるいはそれら一部あるいはcomplex I,III,IVの組み合わせが集合したsupercomplexの形成に影響を与え、その結果、キノン類が同複合体におけるキノン類結合部位あるいはそれ以外の部位から遊離しにくくする、あるいは膜内部を含む同部位における含有量を高めることによって、キノンの抗酸化作用と電子伝達作用・酸化還元作用を強化する方法。
【請求項3】
[請求項1]の水素ガス又は水素ガスを含む混合ガス、あるいは水素分子あるいは水素原子を含む溶液を作用させる方法において、ミトコンドリアあるいは微生物を含む細胞の細胞膜にあって、電子伝達を担う複合体complex I,II,III,IVのそれぞれ、あるいはそれら一部あるいはcomplex I,III,IVの組み合わせが集合したsupercomplexの形成に影響を与え、あるいは膜電位に影響を与え、その結果、キノン類がミトコンドリア膜あるいは細胞膜から遊離しにくくする、あるいは膜内部を含む同部位における含有量を高めることによって、キノンの抗酸化作用と電子伝達作用を強化する方法。
【請求項4】
[請求項1]の水素ガス又は水素ガスを含む混合ガス、あるいは水素分子あるいは水素原子を含む溶液を作用させる方法において、ミトコンドリアあるいは微生物を含む細胞の細胞膜、電子伝達を担う複合体complex I,II,III,IVのそれぞれ、あるいはそれら一部あるいはcomplex I,III,IVの組み合わせが集合したsupercomplexなどに含まれるキノンの酸化還元状態に影響を与え、例えばラジカルあるいはイオンを含むキノン類の存在比率に影響を与えることによって、キノン類がミトコンドリア膜あるいは細胞膜から離しにくくする、あるいは膜内部を含む同部位における含有量を高めることによって、キノンの抗酸化作用と電子伝達作用を強化する方法。
【請求項5】
上記[請求項1-4]の水素ガス又は水素ガスを含む混合ガス、あるいは水素分子あるいは水素原子を含む溶液を、細胞や個体に、場合によってはキノン類とともに作用させる(投与する)方法において、電子伝達を担う複合体complex I,II,III,IVのそれぞれ、あるいはそれら一部あるいはcomplex I,III,IVの組み合わせが集合したsupercomplexに影響を与え、その結果、キノン類が同複合体におけるキノン類結合部位あるいはそれ以外の部位から遊離しにくくする、あるいは含有量を高めることによって、キノンの抗酸化作用と電子伝達作用・酸化還元作用を強化し、あるいは酸化還元状態に影響を与え、例えばラジカルあるいはイオンを含むキノン類の存在比率に影響を与え、キノンの抗酸化作用と電子伝達作用を強化するとともに、例えば分裂しなくなった(老化)細胞(senescent cells)をapoptosisに導く(senolysis)か、quiescent cells、あるいは増殖または分化可能な細胞にreprogramすることによって、抗炎症あるいは抗老化を得る方法。
【請求項6】
[請求項1-5]において、キノン類とは、キノン誘導体あるいはベンゾキノン誘導体、およびイソプレン側鎖に切断を受けたユビキノン類を含むもの。これらキノン類あるいはキノン誘導体類は、ベンゾキノン部位がアニオンあるいはカチオン、あるいはラジカル状となったものでもよく、当該細胞あるいは組織から分泌あるいは放出されたキノン誘導体あるいはベンゾキノン誘導体、およびイソプレン側鎖に切断を受けたユビキノン類を含むものであってもよい。
【請求項7】
上記[請求項1-6]の水素ガス又は水素ガスを含む混合ガス、あるいは水素分子あるいは水素原子を含む溶液を、細胞や個体に、場合によってはキノン類とともに作用させる(投与する)方法において、電子伝達を担う複合体complex I,II,III,IVのそれぞれ、あるいはそれら一部あるいはcomplex I,III,IVの組み合わせが集合したsupercomplexに影響を与え、その結果、キノン類が同複合体におけるキノン類結合部位あるいはそれ以外の部位から遊離しにくくする、あるいは、ミトコンドリアや微生物におけるキノン類の合成量を高める、あるいは分解量を減少させることによって、含有量を高めることによって、キノンの抗酸化作用と電子伝達作用・酸化還元作用を強化し、あるいは酸化還元状態に影響を与え、例えばラジカルあるいはイオンを含むキノン類の存在比率に影響を与え、キノンの抗酸化作用と電子伝達作用を強化するとともに、例えば分裂しなくなった(老化)細胞(senescent cells)をapoptosisに導く(senolysis)か、quiescent cells、あるいは増殖または分化可能な細胞にreprogramすることによって、抗炎症あるいは抗老化を得る方法。
【発明の詳細な説明】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題およびそれを解決するための手段】
【0001】
本発明は、水素ガス又は水素ガスを含む混合ガスあるいは水素分子あるいは水素原子を含む溶液を、細胞あるいは組織あるいはミトコンドリアの膜に作用させることによって、老化した細胞、機能不全に陥った細胞、あるいは、増殖力のあるがん細胞を含む細胞、幹細胞および白色脂肪細胞を含む細胞あるいは組織におけるエネルギー変換効率を改善し、かつ抗酸化作用あるいは組織修復能を与えるための手段である。これらを用いることによって、COVID19感染症およびその後遺症への適用を含む抗炎症治療、その他の再生医療の向上に役立てるものであって、あるいは、リウマチなどの自己免疫疾患、変形性関節症や動脈硬化などの加齢に伴う疾患、アルツハイマー病やパーキンソン病などの神経変性疾患に適用するものである。
【背景技術】
【0002】
2019-2020年の論文報告によって(例えば、非特許文献1、2)、水素分子は、ミトコンドリアにおけるエネルギー代謝を適正化することによって、老化や慢性炎症などにおける、あるいはそれらを促進する不適切な活性酸素種の発生を抑制することが明らかとなってきた。
【0003】
この際、コエンザイムQ(ubiquinone,coenzyme Q,ヒトや哺乳類ではQ10やQ9、酵母やバクテリアでは、イソプレンテイルが短いもの)が電子伝達系における酸化還元反応において重要な役割を果たし、かつ、これらキノン類は、酸化物質に対し抗酸化作用を発揮することによって、細胞のhomeostasisを維持かつ細胞の機能を有効に発揮せしむるものである。
【0004】
例えばサプリメントとしてQ10(コエンザイムQ10)を摂取しても、細胞およびミトコンドリアの疎水性領域、特に細胞膜あるいはミトコンドリ膜(特に、膜の内外でプロトン濃度勾配とそれに伴う電位差を生じる内膜)に取り込まれ、かつ有効利用されなければならないが、その効率を最大限にする方法がこれまでの課題であった。
【0005】
本請求項における方法によって、例えばQ10などのキノン類がその電子伝達体あるいは酸化還元剤として有効に機能する疎水性の、特にミトコンドリア内膜、および電子伝達系を担う複合体complex I,II,III,IVおよびそれらが集合したsupercomplex複合体に、効率よくとどまらせることによって、Q10などのキノン類を高い効率で利用し、細胞の機能を維持、改善、さらに効率化させることができるものである。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Current Pharmaceutical Design,2019,25,946-955
【非特許文献2】Biochemical and biophysical Research Communications,2020,522,965-970
【実施例0007】
哺乳類の培養細胞株より抽出したミトコンドリアに、Q10を作用させ、水素分子をあらかじめ含有させておいた水素水を加え、その反応液あるいはミトコンドリアを界面活性剤で処理し(ミトコンドリアのみを先に界面活性剤で処理する場合もある)、イソプロピルアルコールを加え、可溶分Q10を抽出し、分析した。また、あらかじめ上記水素水あるいは水素ガスによって、細胞に水素分子を作用させておいてミトコンドリアを抽出し、Q10を作用させ、上記方法にてQ10を抽出した。また、抽出液としてメタノール、エタノール、イソプロパノールあるいはヘキサン(hexane)、あるいはそれらの混合液を用いて抽出した場合、Q10可溶分を回収し分析、場合によっては乾燥させ、イソプロパノールなどに再溶解させたものを分析した。
【0008】
HPLC(high performance liquid chromatography)に、例えば、Shiseido CQ-C,CQ-S,CQ-Rなどのカラムを用いて、Q10を単離し、定量した。その結果、水素分子を反応液あるいはミトコンドリアに作用させたサンプル、あるいはミトコンドリア抽出前に水素分子を作用させたサンプルにおけるQ10において、水素を作用させなかった場合に比べ、抽出キノン量が約30-70%減少していた。このことは、上記抽出作業をしたのにもかかわらず、すなわち、アルコール類や界面活性剤でミトコンドリアあるいは細胞膜を変性させても、上記水素分子を作用させたミトコンドリアあるいは細胞膜から溶出しにくくなること、キノン分子がミトコンドリア、あるいは電子伝達系を担う複合体complex I,II,III,IVおよびそれらが集合したsupercomplex複合体などから、キノン類が分離されなかった、すなわち高い含有量を維持させたことを意味する。
水素分子は非常に安定で、分子は生体内の通常の状態では解離しないが、本発明者等が見いだしたところによれば、特にミトコンドリアのcomplex IとIIIにおいて、例えば、水素分子が電子とプロトンに解離することによって、逆流あるいは停滞することによって活性酸素の発生源となっている電子およびプロトンの流れに整流作用を与えた結果による可能性がある。また、それによってもたらされる水素によるミトコンドリアの電子の流れの整流作用は、活性酸素の発生自体を抑制する結果として、生体の血管内皮細胞機能を改善することを突き止めている。キノンは、ミトコンドリおよび細胞膜において、酸化防止、ひいては老化防止のために重要な役割を果たすことが明らかになっており、本法によって、キノンの生体作用とその能力を向上させることができると考えられる。
本発明とその背景となる新規知見によって、水素摂取、またはキノン類と水素の摂取によるbeneficialな生体作用をより明快に得ることができ、新たな水素とキノン類の摂取方法などに寄与することができる。さらに重要なことは、これにより、これまで細胞外からのコントロールが困難であったミトコンドリアが担う電子伝達機能という生命のエネルギー代謝の根源をなす部分について、その病的状態を健全化するための創薬にも役立つので、その産業上の有効性は計り知れない。
水素分子が持つ生体内特性を活かした本方法を用いることによって、ミトコンドリアひいては脂肪細胞などの呼吸状態を改善させ、脂肪滴など資質を蓄えた白色脂肪細胞を、褐色あるいはベージュ脂肪細胞に変換あるいは分化させ、例えば摘出した白色脂肪細胞を褐色化あるいはベージュ化させた上で生体内に戻し、個体全体のエネルギー代謝を改善し、老化、糖尿病や高脂血症、動脈硬化、心臓血管障害などに対する改善策とする方法を、その重症化のリスクとなるCOVID-19感染症に対する予防および重症化阻止、あるいは治療法として与える応用は、2020年現在極めて重要である。
すなわち、本発明による水素分子が持つ生体内特性を活かした方法をもたらす水素分子あるいは、それに加えてキノン類を摂取することは、老化、糖尿病や高脂血症、動脈硬化、心臓血管障害などに対して、その個体全体のエネルギー代謝を改善するための新たな方法を与える。したがって、本発明は副作用のない医療あるいは健康増進方法として、極めて有効であり、特に、代謝障害、血管内皮機能不全状態にあるリスクの高い人々に危険な過剰炎症状態を引き起こし、生命予後を増悪させるCOVID-19感染が引き起こす重症化を予防し、あるいはそれによって引き起こされる後遺障害などへの改善方法を与えることが期待され、今後も流行しうる代謝状態の弱者を重症化させる感染症対策にとっても基本的な情報を与えるものであり、健康上の利点のみならず、その公衆衛生状、医療対策上、そして医療および健康維持産業上の有効性は計り知れない。