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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023105066
(43)【公開日】2023-07-28
(54)【発明の名称】組織治癒剤
(51)【国際特許分類】
   A61K 35/28 20150101AFI20230721BHJP
   A61L 27/36 20060101ALI20230721BHJP
   A61L 27/38 20060101ALI20230721BHJP
   A61P 29/00 20060101ALI20230721BHJP
   A61P 1/16 20060101ALI20230721BHJP
   A61P 9/00 20060101ALI20230721BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20230721BHJP
   C12N 5/0775 20100101ALI20230721BHJP
【FI】
A61K35/28
A61L27/36 300
A61L27/38 300
A61P29/00
A61P1/16
A61P9/00
A61P43/00 105
C12N5/0775
【審査請求】有
【請求項の数】1
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023092972
(22)【出願日】2023-06-06
(62)【分割の表示】P 2021132510の分割
【原出願日】2017-12-15
(31)【優先権主張番号】P 2016244724
(32)【優先日】2016-12-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】516380393
【氏名又は名称】有限会社大阪空気機械サービス
(71)【出願人】
【識別番号】513232130
【氏名又は名称】株式会社Regene Pharm
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【弁理士】
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100122301
【弁理士】
【氏名又は名称】冨田 憲史
(74)【代理人】
【識別番号】100157956
【弁理士】
【氏名又は名称】稲井 史生
(74)【代理人】
【識別番号】100170520
【弁理士】
【氏名又は名称】笹倉 真奈美
(72)【発明者】
【氏名】松山 晃文
(72)【発明者】
【氏名】大倉 華雪
(57)【要約】
【課題】間葉系組織由来細胞の組織治癒能をさらに向上させる。
【解決手段】生理活性ポリペプチドまたはLPSで処理された間葉系組織由来の接着性細胞および医薬上許容される担体を含む、組織治癒のための医薬組成物。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
本願明細書または図面に記載されたいずれかの発明。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、組織治癒のための医薬組成物およびその製造方法に関する。詳細には、薬剤処理された間葉系組織由来接着細胞を含む組織治癒剤およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
間葉系組織由来細胞が組織治癒に有用であることが示されている。なかでも間葉系幹細胞(MSC)は再生医療への臨床応用に向けて盛んに研究が行われている。例えば脂肪組織は幹細胞(ASC)の供給源とされており(非特許文献1)、ASCが様々な領域において治療効果があることが知られている(非特許文献2)。また、脂肪組織由来多系統前駆細胞(ADMPC)も肝疾患の治療に効果的であることが示されている(特許文献1)。
【0003】
このように、間葉系組織由来細胞が組織治癒を包含する再生医療において有用であることが示されているが、その治癒能のさらなる向上が望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開公報WO2008/153179
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Zuk PA, Zhu M, Ashjian P, et al. Human adipose tissue is a source of multipotent stem cells. Mol Biol Cell 2002; 13: 4279-4295.
【非特許文献2】Japanese Journal of Transfusion and Cell Therapy, Vol. 59, No. 3: 450-456, 2013
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
間葉系組織由来細胞の組織治癒能をさらに向上させることが課題であった。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、生理活性ポリペプチドまたはLPS(リポ多糖)で処理された間葉系組織由来の接着細胞の組織治癒能が極めて高いことを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0008】
すなわち、本発明は以下のものを提供する。
(1)生理活性ポリペプチドまたはLPSで処理された間葉系組織由来の接着性細胞および医薬上許容される担体を含む、組織治癒のための医薬組成物。
(2)生理活性ポリペプチドが、炎症性サイトカイン、炎症性サイトカイン誘導ポリペプチド、増殖因子、ケモカイン、ホルモンおよびインターフェロンからなる群より選択される1種またはそれ以上のポリペプチドである(1)記載の医薬組成物。
(3)生理活性ポリペプチドが、インターフェロン-β(IFN-β)、インターフェロンガンマ(IFNγ)、インターロイキン-1アルファ(IL-1α)、インターロイキン-1ベータ(IL-1β)、インターロイキン-17A(IL-17A)、腫瘍壊死因子アルファ(TNFα)、腫瘍壊死因子ベータ(TNFβ)、I型インターフェロン(INF-I)、トランスフォーミング増殖因子β(TGFβ)、上皮成長因子(EGF)および線維芽細胞増殖因子(FGF)からなる群より選択される1種またはそれ以上のポリペプチドである(1)または(2)記載の医薬組成物。
(4)間葉系組織由来の接着性細胞が間葉系組織由来幹細胞(MSC)、脂肪組織由来多系統前駆細胞(ADMPC)、臍帯組織に由来する細胞、胞衣組織に由来する細胞、骨髄組織または滑膜組織に由来する細胞である(1)~(3)のいずれかに記載の医薬組成物。
(5)組織治癒が組織保護、組織・細胞傷害の修復、組織を構成する細胞の増殖促進、組織の炎症抑制または組織形状の再構築である(1)~(4)のいずれかに記載の医薬組成物。
(6)組織治癒が慢性期の疾患における組織治癒である(1)~(5)のいずれかに記載の医薬組成物。
(7)組織が肝組織または心組織である(1)~(6)のいずれかに記載の医薬組成物。
(8)組織治癒のための医薬組成物の製造方法であって、下記工程:
(a)間葉系組織由来の接着性細胞を生理活性ポリペプチドまたはLPSで処理し、次いで、
(b)工程(a)にて処理された細胞を医薬上許容される担体と混合する
を含む方法。
(9)生理活性ポリペプチドが、炎症性サイトカイン、炎症性サイトカイン誘導ポリペプチド、増殖因子、ケモカイン、ホルモンおよびインターフェロンからなる群より選択される1種またはそれ以上のポリペプチドである請求項1記載の方法。
(10)生理活性ポリペプチドが、インターフェロン-β(IFN-β)、インターフェロンガンマ(IFNγ)、インターロイキン-1アルファ(IL-1α)、インターロイキン-1ベータ(IL-1β)、インターロイキン-17A(IL-17A)、腫瘍壊死因子アルファ(TNFα)、腫瘍壊死因子ベータ(TNFβ)、I型インターフェロン(INF-I)、トランスフォーミング増殖因子β(TGFβ)、上皮成長因子(EGF)および線維芽細胞増殖因子(FGF)からなる群より選択される1種またはそれ以上のポリペプチドである(8)または(9)記載の方法。
(11)間葉系組織由来の接着性細胞が間葉系組織由来幹細胞(MSC)、脂肪組織由来多系統前駆細胞(ADMPC)、臍帯組織に由来する細胞、胞衣組織に由来する細胞、骨髄組織または滑膜組織に由来する細胞である(8)~(10)のいずれかに記載の方法。
(12)組織治癒が組織保護、組織・細胞傷害の修復、組織を構成する細胞の増殖促進、組織の炎症抑制または組織形状の再構築である(8)~(11)のいずれかに記載の方法。
(13)組織治癒が慢性期の疾患における組織治癒である(8)~(12)のいずれかに記載の方法。
(14)組織が肝組織または心組織である(8)~(13)のいずれかに記載の方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、極めて組織治癒能の高い医薬組成物が得られる。本発明の医薬組成物は、慢性期の組織傷害等における組織治癒に有用である。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1図1は、IL-1βで処理された脂肪組織由来多系統前駆細胞(ADMPC)のアディポネクチン産生量(左)と、IL-1βで処理されていないADMPCのアディポネクチン産生量(右)を比較した図である。縦軸はアディポネクチンの産生量を示す。
図2図1は、IL-1βで処理されたADMPCの幹細胞増殖因子(HGF)産生量(左)と、IL-1βで処理されていないADMPCのHGF産生量(右)を比較した図である。縦軸はHGFの産生量を示す。
図3図3は、非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)モデルマウスにおけるIL-1βで処理されたADMPCによる肝臓内線維の減少を示すシリウスレッド染色組織切片像である。左が担体投与群、中がIL-1β処理していないADMPC投与群、右がIL-1β処理したADMPC投与群の結果である。倍率は50倍である。
図4図4は、非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)モデルマウスにおけるIL-1βで処理されたADMPCによる肝組織の傷害の軽減を示すHE染色組織切片像である。左が担体投与群、中がIL-1β処理していないADMPC投与群、右がIL-1β処理したADMPC投与群の結果である。上段の倍率は50倍、下段の倍率は200倍である。
図5図5は、非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)モデルマウスにおける、IL-1βで処理されたADMPCおよびIL-1βで処理されていないADMPCによる肝組織の傷害の軽減を、NAFLD Activity Scoreを用いて比較した図である。p値はMann-Whitney's U検定による。
図6図6は、重症心筋梗塞モデル動物(ブタ)における、IL-1βで処理されたADMPCおよびIL-1βで処理されていないADMPCによる左室駆出率の改善を示す図である。縦軸(ΔEF%)は細胞投与前後の左室駆出率の変化(%)を示す。白棒は細胞を投与しなかったコントロール群、斜線棒はIL-1βで処理されていないADMPCを投与した群、黒棒はIL-1βで処理されたADMPCを投与した群を示す。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明は、1の態様において、生理活性ポリペプチドまたはLPSで処理された間葉系組織由来の接着性細胞および医薬上許容される担体を含む、組織治癒のための医薬組成物を提供する。ここで、生理活性ポリペプチドは、生体の特定の生理的調節機能に対して作用するポリペプチドである。ポリペプチドは、2つ以上のアミノ酸残基がペプチド結合を介して結合した物質をいう。LPSは様々な種類のものが知られており、いずれのLPSを用いてもよい。
【0012】
本発明で用いられる生理活性ポリペプチドは、その変異体も包含する。生理活性ポリペプチドの変異体は、間葉系組織由来接着細胞に作用させた場合に本発明の組織治癒に使用できる間葉系組織由来接着細胞を得ることができる活性を有するものである。
【0013】
変異体は、元のペプチドと比較して、ポリペプチドを構成するアミノ酸残基が置換、欠失または付加されているポリペプチドをいう。置換、欠失または付加されるアミノ酸残基の数は特に限定されない。例えば、置換、欠失または付加されるアミノ酸残基は1個~数個であってもよい。また例えば、変異体ポリペプチドは、元のポリペプチドに対してアミノ酸配列同一性が80%以上、好ましくは90%以上、例えば95%以上97%以上または99%以上のものであってもよい。さらに生理活性ポリペプチドの変異体は、ポリペプチドを構成するアミノ酸残基が修飾されているものであってもよい。修飾はあらゆる種類の標識であってよい。メチル化、ハロゲン化、配糖体化などの化学修飾であってもよく、蛍光標識や放射性標識などの標識付加であってもよい。また、生理活性ポリペプチドの変異体は、一部のアミノ酸残基がペプチド結合以外によって結合されているものであってもよい。
【0014】
本発明で用いられる生理活性ポリペプチドはいずれのものであってもよい。本発明で用いられる好ましい生理活性ポリペプチドとしては、サイトカイン、とりわけ炎症性サイトカイン、炎症性サイトカイン誘導ポリペプチド、増殖因子、ホルモンおよびインターフェロンからなる群より選択される1種またはそれ以上のポリペプチドが好ましい。炎症性サイトカインは、炎症の病態形成に関与しているサイトカインである。炎症性サイトカイン誘導ポリペプチドは、炎症性サイトカインの量を増加させる、あるいはその活性を高める作用を有するポリペプチドである。増殖因子は、生体内の特定の細胞の増殖や分化を促進するポリペプチドである。ケモカインは、Gタンパク質共役受容体を介してその作用を発現する塩基性タンパク質であり、サイトカインの一群である。ホルモンは、生体内で生成され、体液を通じて輸送され、特定の細胞、組織または器官の活動に影響する物質である。インターフェロンは、生体内でのウイルスや病原体、腫瘍細胞といった異物の侵入に応答して産生される一群のサイトカインである。様々な炎症性サイトカイン、炎症性サイトカイン誘導ポリペプチド、増殖因子およびインターフェロンは公知であり、いずれのものを用いてもよい。
【0015】
サイトカインとしては、IL-1α、IL-1β、IL-2~IL-35、OSM(オンコスタチンM)、LIF、CNTF、CT-1、TNF-α、TNF-β、BAFF、FasL、RANKL、TRAILなどが挙げられるが、これらに限定されない。炎症性サイトカインとしては、IL-1α、IL-1β、IL-6、IL-8、IL-12、IL-18、TNFαなどが挙げられるが、これらに限定されない。
【0016】
炎症性サイトカイン誘導ポリペプチドとしては、IL-17Aなどが挙げられるが、これらに限定されない。
【0017】
増殖因子としては、アクチビンA、ANGPTL5、BAFF、BD-2、BD-3、BNDF、BMP-1~7、DKK1、EGF、EG-VEGF、FGF-1~21、G-CSF、GM-CSF、HGF、IGF-1、IGF-2、血小板由来成長因子(PDGF)-AA、PDGF-AB、PDGF-BB、R-スポンジン-1~3、SCF、ガレクチン-1~3、GDF-11、GDNF、プレイオトロフィン、TGF-α、TGF-β、TPO(トロンボポエチン)、TSLP、血管内皮増殖因子(VEGF)、毛様体神経栄養因子(CNTF)などが挙げられるが、これらに限定されない。
【0018】
ケモカインとしては、CCL1~CCL28、CXCL1~CXCL10などが挙げられるが、これらに限定されない。
【0019】
ホルモンとしては、Calcitonin、Parathormone、Glucagon、Erythropoietin、Leptin、ANP、BNP、CNP、Oxytocin、Vasopressin、TRH(甲状腺刺激ホルモン放出ホルモン)、TSH(甲状腺刺激ホルモン)、CRH(副腎皮質刺激ホルモン放出ホルモン)、ACTH(副腎皮質刺激ホルモン)、GRH(性腺刺激ホルモン放出ホルモン)、FSH(卵胞刺激ホルモン)、LH(黄体形成ホルモン)、SOM(ソマトスタチン)、GRH(成長ホルモン放出ホルモン)、GH(成長ホルモン)、PRH(プロラクチン放出ホルモン)、PIH(プロラクチン抑制ホルモン)、Prolactin(プロラクチン)などが挙げられるが、これらに限定されない。
【0020】
インターフェロンとしては、IFN-α、IFN-β、IFN-γ、INF-I、などが挙げられるが、これらに限定されない。
【0021】
本発明で用いられる好ましい生理活性ペプチドは、炎症性サイトカイン、炎症性サイトカイン誘導ポリペプチド、増殖因子およびインターフェロンであり、これらのうちで好ましいものとしては、IFN-β、IFN-γ、IL-1α、IL-1β、IL-17A、TNFα、TNF-β、INF-I、TGFβ、EGFおよびFGFなどが例示されるが、これらに限定されない。
【0022】
組織の治癒は、組織を正常な状態に戻す、あるいは正常な状態に近づけることをいい、組織保護、組織・細胞傷害の修復、組織を構成する細胞の増殖促進、組織の炎症抑制、創傷治癒、組織形状の再構築などを包含する。本発明の医薬組成物中の細胞は、組織保護や組織を構成する細胞の増殖促進などに有用であることから、本発明の医薬組成物は、慢性期の疾患における組織治癒に好ましく用いられる。
【0023】
本発明の医薬組成物によって治癒される組織は、動物のあらゆる組織であり、特に限定されない。組織の例としては、肝臓、膵臓、腎臓、筋肉、骨、軟骨、骨髄、胃、腸、血液、神経、皮膚、粘膜、心臓、毛髪などが挙げられるが、これらに限定されない。本発明の医薬組成物によって治癒される好ましい組織は肝臓、神経、皮膚、粘膜、心臓などである。したがって、本発明の医薬組成物は、例えば肝硬変、肝炎、NASH(非アルコール性脂肪性肝炎)などの治療に好ましく用いられ、しかも慢性期の疾患に効果的である。
【0024】
本発明の医薬組成物の有効成分である細胞は、生理活性ポリペプチドまたはLPSで処理された間葉系組織由来の接着性細胞である。
【0025】
本発明の医薬組成物を、有効成分である細胞が由来する動物種と同種の対象に投与してもよく、異種の対象に投与してもよい。例えば、炎症性サイトカイン誘導剤で処理されたヒト由来の間葉系組織由来の接着性細胞を含む本発明の医薬組成物をヒト対象に投与してもよい。本発明の医薬組成物中の細胞は、投与される対象と同一人に由来するものであってもよく、投与される対象とは異なる人に由来するものであってもよい。
【0026】
間葉系組織由来の接着性細胞であればいずれの細胞であっても本発明に用いることができる。間葉系組織由来の接着性細胞は市販されているものであってもよく、アメリカン・タイプ・カルチャー・コレクション(ATCC)(米国)、NITE(日本)などの機関から分譲されるものであってもよい。あるいは、間葉系組織由来の接着性細胞を間葉系組織から得てもよい。間葉系組織からの間葉系組織由来の接着性細胞の取得手段・方法は公知である。
【0027】
好ましい間葉系組織由来の接着性細胞としては、脂肪組織由来幹細胞(ASC)などの間葉系組織由来幹細胞(MSC)、脂肪組織由来多系統前駆細胞(ADMPC)、Muse細胞、骨髄組織、臍帯組織、羊膜組織、軟骨組織、骨膜組織、滑膜組織、骨格筋組織、胞衣組織に由来する細胞、幹細胞および間質細胞、ならびに経血細胞などが例示される。
【0028】
細胞を間葉系組織から得る場合は、いずれの間葉系組織から単離してもよい。間葉系組織としては、脂肪組織、骨髄組織、臍帯組織、羊膜組織、軟骨組織、骨膜組織、滑膜組織、骨格筋組織、胞衣組織、経血などが例示されるが、これらに限定されない。好ましい間葉系組織としては脂肪組織、骨髄組織、臍帯組織が挙げられ、特に脂肪組織は体内に含まれる量が多く、細胞を多く取り出せる点で好ましい。
【0029】
体内から間葉系組織を取り出して、培養容器中に組織を入れて培養し、容器に付着する細胞を選択的に取得することにより、接着性細胞を得ることができる。間葉系組織は、切除や吸引といった公知の手段・方法を用いて取り出すことができる。取り出した間葉系組織をそのまま培養してもよく、必要に応じて、取り出した間葉系組織を刻んだり、解したりした後、赤血球を除去し、得られた細胞集団を培養してもよい。これらの処理方法および手段、ならびに細胞培養手段・方法は公知であり、適宜選択することができる。間葉系組織由来の接着性細胞は、例えば培養容器に付着した細胞をトリプシンなどの酵素で処理することによって得てもよい。
【0030】
生理活性ポリペプチドまたはLPSでの間葉系組織由来の接着性細胞の処理は、細胞とサイトカインを公知の方法にて接触させることによって行うことができる。典型的には、適当濃度の生理活性ポリペプチドまたはLPSを含む培地にて、間葉系組織由来の接着性細胞を一定時間培養することにより、この処理を行うことができる。通常は、数ナノグラム/ml~数百ナノグラム/mlの炎症性サイトカインまたは炎症性サイトカインを添加した培地にて間葉系組織由来の接着性細胞を培養する。培養に使用する培地は公知のものでよい。培養時間、培養温度も適宜選択することができる。必要に応じて、間葉系組織由来の接着性細胞を培養して細胞数を増加させた後、生理活性ポリペプチドまたはLPSで処理してもよい。間葉系組織由来の接着性細胞の集団から所望の亜集団を得て、必要に応じて亜集団を培養して細胞数を増加させた後、生理活性ポリペプチドまたはLPSで処理してもよい。
【0031】
間葉系組織由来の接着性細胞を処理するために用いられる生理活性ポリペプチドまたはLPSは1種類であってもよく、2種類以上であってもよい。
【0032】
生理活性ポリペプチドまたはLPSで処理された間葉系組織由来の接着性細胞は組織修復に寄与する1種またはそれ以上の因子(組織治癒に関与するポリペプチド、成長因子、および/または酵素など)の発現および産生を増加させ、あるいはこれらを発現および産生するようになる。かかる因子としてはアディポネクチン、HGF、CSF2(GM-CSF)、CSF3(G-CSF)、LIF、MMPファミリーの因子、FGFファミリーの因子、ADAMファミリーの因子、アンジオポエチン様タンパク質ファミリーの因子、プレイオトロフィン、R-スポンジンファミリーの因子、VEGFファミリーの因子などが挙げられるが、これらに限定されない。CSF2やCSF3は、造血幹細胞の活性化のみならず、脳、心臓、肺、肝臓を含む多くの組織・臓器・器官で幹細胞増殖および/または血管新生にも関与することで組織修復に寄与しているので、これらの因子を多く発現および産生する細胞が好ましい。上記因子の発現や産生の増加は、処理前と比較して例えば10倍以上、好ましくは30倍以上、より好ましくは50倍以上、さらに好ましくは100倍以上であってもよい。
【0033】
本発明の医薬組成物は、上記のごとく生理活性ポリペプチドまたはLPSで処理した間葉系組織由来の接着性細胞を医薬上許容される担体と混合することにより製造することができる。医薬上許容される担体は様々なものが公知であり、適宜選択して使用できる。例えば、本発明の医薬組成物を注射剤として用いる場合は、精製水、生理食塩水、リン酸緩衝生理食塩水などの担体に細胞を懸濁してもよい。
【0034】
本発明の医薬組成物の剤形は特に限定されず、液剤、半固形剤、固形剤であってよい。本発明の医薬組成物の投与方法も限定されず、局所注射、静脈注射、輸液などにより行ってもよく、患部に塗布する等であってもよく、カテーテルにより患部に投与してもよく、外科的手法により肝臓などの組織に直接移植してもよい。本発明の医薬組成物を細胞シート、細胞塊、重層化細胞シートなどの形態として移植してもよい。
【0035】
本発明の医薬組成物の投与経路および投与量は、治癒すべき組織の種類や部位、疾患の程度、対象の状態などを考慮して適宜決定することができる。
【0036】
本発明の医薬組成物は、生理活性ポリペプチドまたはLPSで処理した間葉系組織由来の接着性細胞以外の細胞を含んでいてもよい。
【0037】
本発明は、さらなる態様において、組織治癒のための薬剤の製造のための、生理活性ポリペプチドまたはLPSで処理された間葉系組織由来の接着性細胞の使用を提供する。
【0038】
本発明は、さらなる態様において、生理活性ポリペプチドまたはLPSで処理された間葉系組織由来の接着性細胞の、組織治癒のための使用を提供する。
【0039】
本発明は、さらなる態様において、生理活性ポリペプチドまたはLPSで処理された間葉系組織由来の接着性細胞を対象に投与することを含む、組織治癒必要とする対象における組織治癒方法を提供する。
【0040】
本発明は、さらにもう1つの態様において、
組織治癒のための医薬組成物の製造方法であって、下記工程:
(a)間葉系組織由来の接着性細胞を生理活性ポリペプチドまたはLPSで処理し、次いで、
(b)工程(a)にて処理された細胞を医薬上許容される担体と混合する
を含む方法
を提供する。
【0041】
本発明は、さらにもう1つの態様において、間葉系組織由来の接着性細胞を生理活性ポリペプチドまたはLPSで処理することを含む、組織治癒のための細胞を製造する方法を提供する。
【0042】
以下に実施例を示して本発明をさらに詳細かつ具体的に説明するが、実施例は本発明を限定するものではない。
【実施例0043】
実施例1.IL-IβによるADMPCの処理効果
(1)実験方法
(i)ヒト対象からの脂肪組織の採取
インフォームドコンセントを受けた女性6人から脂肪吸引手術中に廃棄される余分な脂肪組織の提供を受けた。プロトコールは、Kobe University Graduate School of Medicine Review Boards for Human Researchに準ずるものであった。
【0044】
(ii)ADMPCの単離および培養
脂肪組織を刻み、次に、0.008% リベレース(Roch Lifescience)含有ハンクス緩衝塩類溶液(HBSS)中、37℃のウォーターバスにて振盪しながら1時間消化した。消化産物をCell Strainer(BD Bioscience)で濾過し、800xgにて10分間遠心した。リンパ球分離液(d=1.077)(Nacalai tesque)を用い、比重法により赤血球を除去し、得られたADMPCを含む細胞集団を、10% ウシ胎児血清(Hyclone)を含むDMEM中に細胞を播種して細胞を付着させた後、洗浄し、EDTAで処理して、ADMPCを得た。次に、ADMPCを、培地(60% DMEM-低グルコース、40% MCDB201、10μg/mL EGF、1nM デキサメサゾン、100μM アスコルビン酸、および5%FBS)にてヒトフィブロネクチンコートディッシュに播種し、3から8継代し、培養ADMPCを得た。
【0045】
(iii)IL-1β処理
IL-1βを10ng/mlとなるように、培地(60% DMEM-低グルコース、40% MCDB201、10μg/mL EGF、1nM デキサメサゾン、100μM アスコルビン酸、および5%FBS)に添加した。上の2.で得られた培養ADMPCを、上記IL-1β含有培地にて72時間培養し、培地中に産生されたアディポネクチンおよび肝細胞増殖因子(HGF)を測定した。アディポネクチンの測定はabcam社のELISAキット(カタログ番号ab99968)を用いて行った。HGFの測定はR&D System社のELISAキット(カタログ番号DHG00)を用いて行った。コントロール系では、IL-1βを添加しない上記培地でADMPCを培養した。
【0046】
(2)実験結果
アディポネクチン産生量の測定結果を図1に示す。IL-1β処理されなかったADMPCからのアディポネクチン産生は認められなかったのに対し、IL-1β処理されたADMPCからアディポネクチンが産生されることが確認された。
【0047】
HGF産生量の測定結果を図2に示す。IL-1β処理されなかったADMPCからのHGF産生量と比べて、IL-1β処理されたADMPCからのHGF産生量は約1.7倍に増加していた。
【実施例0048】
実施例2.IL-1β処理されたADMPCのインビボでの組織治癒効果-肝組織傷害の軽減
(1)実験方法
ヒト対象からの脂肪組織の採取、ADMPCの単離および培養、およびIL-1β処理を実施例1と同様にして行ったが、培地中のIL-1β濃度を5ng/mlとした。
【0049】
IL-1βで処理したADMPCを担体に懸濁し、1.2x10個/mlとした。これをNASHモデルマウス(STAM(登録商標)マウス)に投与し、肝組織の治癒について調べた。動物を以下の3群に分けた:IL-1βで処理したADMPC投与群(n=9)、IL-1βで処理していないADMPC投与群(n=9)、および担体投与群(n=10)。試験開始時に各群の動物にストレプトゾトシンを皮内投与し、通常食を与え、4週目から9週目にかけて高脂肪食を与え、9週目に安楽死させた。ADMPC(3x10個/kg)および担体の投与は6週目に1回行った。得られた肝組織切片をシリウスレッド染色およびヘマトキシリン-エオシン(HE)染色に供した。
【0050】
(2)実験結果
(i)肝組織切片のシリウスレッド染色
試験開始9週目に得たマウスの肝組織切片のシリウスレッド染色の結果を図3に示す。担体を投与したマウスおよびIL-1βで処理していないADMPCを投与したマウスの肝臓と比較して、IL-1βで処理したADMPCを投与したマウスの肝臓において、シリウスレッドにて染色される肝臓内線維の沈着が減少したことが確認された。
【0051】
(ii)肝組織切片のHE染色
試験開始9週目に得たマウスの肝組織切片のHE染色の結果を図4に示す。担体を投与したマウスおよびIL-1βで処理していないADMPCを投与したマウスの肝臓と比較して、IL-1βで処理したADMPCを投与したマウスの肝臓において、空胞化に代表される肝組織の傷害が軽減されたことが確認された。
【0052】
(iii)NAFLED activity score(E. M. Brunt et al. Hepatology. 2011 March; 53(3): 810-820)による肝組織治癒効果の評価
試験開始9週目に得たマウスの肝組織の傷害の程度を、NAFLED activity scoreに従って評価した。NAFLED activity scoreの評価方法を表1に示す。
【表1】
【0053】
結果を図5に示す。担体を投与したマウスおよびIL-1βで処理していないADMPCを投与したマウスの肝臓と比較して、IL-1βで処理したADMPCを投与したマウスの肝臓のNAFLD Activity scoreは有意に低く、空胞化、炎症、脂肪化に代表される肝組織の傷害が大幅に軽減されたことが確認された。
【0054】
これらの結果から、IL-1βで処理したADMPCは、傷害を受けた組織の治癒に効果的であり、組織の保護、組織・細胞傷害の修復、組織の炎症抑制、組織を構成する細胞の増殖促進に資するものであることがわかった。これらの組織治癒が行われることによって、組織形状の再構築や創傷治癒が可能になると考えられる。しかも、これらの効果は、ストレプトゾトシンおよび高脂肪食により肝障害を誘発されたマウスにおいて見られたことから、IL-1βで処理したADMPCは、慢性期の疾患における組織治癒に効果的であるといえる。
【実施例0055】
実施例3.IL-1β処理されたADMPCのインビボでの組織治癒効果-心機能の改善
(1)実験方法
2段階塞栓・再還流法にて8週齢のブタを用いて重症心筋梗塞モデルを作製した。具体的には、大腿動脈から経皮経管的に6Fのガイドカテーテルを左冠動脈入口部にかけ、そこからガイドワイヤーを第1対角枝(AHA分類の#9)に挿入し、ガイド下にてバルーニング(閉塞再開通)でプレコンディショニングを行った。1週間後、ガイドワイヤーを左冠動脈前下降枝(AHA分類の#6~#8)に挿入し、左冠動脈回旋枝分岐部直下の左前下降枝(AHA分類の#6)にてバルーニング(閉塞再開通)を行い、心筋虚血流域を得た。その4週間後(最初の閉塞再開通からは5週間後)に心臓超音波検査にて心駆出率が40%以下の個体を重症心不全モデルとして試験に供することとした。
【0056】
2回目の塞栓・再還流から4週間後に、対象コントロール(細胞非投与)群、活性化していない細胞(ADMPC)、IL-1βにて活性化した細胞(72時間培養)(IL-1β活性化ADMPC)を3×10個/体重kg、カテーテルにて経冠動脈に投与した。ADMPCおよびIL-1β活性化ADMPCの調製は実施例1と同様にして行った。投与直前、投与後3カ月にて心臓MRIを施行し(Signa EXCITE XI TwinSpeed 1.5T Ver.11.1, GE Healthcare)、解析ソフトとしてCardiac Vx (GE Healthcare)を用い、拡張末期左室容積と収縮末期左室容積を計測した。
下式:
左室駆出率=100x(拡張末期左室容積-収縮末期左室容積)/(拡張末期左室容積)
を用いて左室駆出率(%EF)を算出し、投与後3か月値と投与直前値との差をΔEF(%)として表した(図6)。
【0057】
(2)実験結果
図6に示す通り、対照群では左室駆出率が減少したのに対して、細胞を投与した2群では左室駆出率は改善しており、特にIL-1βにて活性化した細胞を投与し場合、左室駆出率が著しく改善した。
【0058】
これらの結果は、IL-1βで処理したADMPCは、重症の心筋梗塞によって傷害を受けた心組織を治癒し、心機能を著しく改善することを示すものである。
【実施例0059】
実施例4.各種生理活性ポリペプチドによる各種間葉系組織由来の接着性細胞の処理効果
(1)実験方法
試供細胞として、臍帯由来間葉系幹細胞(臍帯由来MSC)、脂肪組織由来幹細胞(ADSC)、膝軟骨滑膜由来間葉系幹細胞(滑膜由来MSC)、脂肪組織由来多系統前駆細胞(ADMPC)、胞衣由来間葉系幹細胞(胞衣由来MSC)および骨髄由来間葉系幹細胞(骨髄由来MSC)を用いた。生理活性ポリペプチドとしては各種のサイトカイン、ケモカイン、成長因子およびホルモンを用いた。
【0060】
試供細胞としてADMPCを用いる場合は、生理活性ポリペプチドとしてサイトカイン(IL-1α、IL-1β、IL3~IL35、オンコスタチンM、LIF、CNTF、CT-1、TNFα、TNFβ、BAFF、FasL、RANKL、TRAIL、INF-α、IFN-β、IFN-γ)、ケモカイン(CCL1~CCL28、CXCL1~CXCL10)、成長因子(AvinA、ANGPLT5、BD-2、BD-3、BDNF、BMP-1~BMP-7、DKK1、EGF、EG-VEGF、FGF-1~FGF-21、G-CSF、HGF、IGF-1、IGF-2、PDGF-AA、PDGF-BB、R-スポンジン-1、R-スポンジン-2、R-スポンジン-3、SCF、ガレクチン1、ガレクチン2、ガレクチン3、GDF-11、GDNF、プレイオトロフィン、TGFα、TGFβ、TPO、TSLP、VEGF)およびホルモン(カルシトニン、パラスロモン、グルカゴン、エリスロポイエチン、レプチン、ANP、BNP、CNP、オキシトシン、バソプレッシン、TGH、TSH、CRH、ACTH、GRH、FSH、LH、SOM、GRH、GH、PRH、プロラクチン)を用いた。試供細胞としてADSC、胞衣由来MSC、滑膜由来MSC、骨髄由来MSC、臍帯由来MSCを用いる場合は、生理活性ポリペプチドとしてIL-1α、IL-1β、TNFα、TNFβ、IFN-β、IFN-γ、FGF15を用いた。以下、生理活性ポリペプチドを「薬剤」という。
試供細胞を、薬剤添加培地(最終濃度100ng/mL)および薬剤非添加培地(コントロール)にて培地交換を行い、更に3日間(72時間)継続培養を行った。培地交換72時間後にRLT Buffer 600uLを添加して回収、RNA抽出した。
RLT Bufferサンプルは、RNeasy Mini Kit / QIAGENを用いて全RNAを抽出し、全RNAを100ng/uLになるように調製後、1アレイ当たり全RNA 150ngからラベルされたcRNAを合成した。合成したラベルされたcRNAは濃度・収量・Cy3取込率を算出し、合成サイズ(200-2000ntを増幅)を測定した。ラベルされたcRNA 600ngを60℃でフラグメンテーションを形成させ、65℃、17時間でハイブリダイゼーションを行い、アレイを洗浄してスキャンした。
コントロールサンプルと薬剤添加サンプル(1種類)のどちらかの条件で測定値の信頼できるプローブを抽出し、コントロールサンプルと比較して、発現差15倍以上のプローブを抽出した。
【0061】
(2)実験結果
薬剤での処理後に、処理前と比較して発現が15倍以上上昇したmRNAとその上昇倍率を表2~表7に示す。
【表2】
【表3】
【表4】
【表5-1】
【表5-2】
【表6】
【表7】
【0062】
いずれの実験においても、生理活性ポリペプチドで処理された間葉系組織由来の接着性細胞において組織治癒に関与するポリペプチド、成長因子、および/または酵素の発現が高まったことが確認された。生理活性ポリペプチドと間葉系組織由来の接着性細胞の多くの組み合わせにおいて、CSF2および/またはCSF3が発現し、しかも高発現する傾向が見られた。これらの結果から、本発明において、広範な種類の生理活性ポリペプチドおよび間葉系組織由来の接着性細胞を使用できることがわかった。
【産業上の利用可能性】
【0063】
本発明は、組織治癒のための医薬品の分野および組織治癒を必要とする疾病の研究分野などにおいて有用である。
図1
図2
図3
図4
図5
図6