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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023105157
(43)【公開日】2023-07-28
(54)【発明の名称】米糠乳酸菌発酵物の製造方法
(51)【国際特許分類】
   A23L 7/104 20160101AFI20230721BHJP
   A23L 7/10 20160101ALI20230721BHJP
   A23C 11/10 20210101ALI20230721BHJP
   C12N 1/20 20060101ALN20230721BHJP
   C12P 1/04 20060101ALN20230721BHJP
   C12P 19/14 20060101ALN20230721BHJP
【FI】
A23L7/104
A23L7/10 Z
A23C11/10
C12N1/20 A
C12P1/04
C12P19/14
【審査請求】有
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023093926
(22)【出願日】2023-06-07
(62)【分割の表示】P 2019057296の分割
【原出願日】2019-03-25
(71)【出願人】
【識別番号】591183625
【氏名又は名称】フジッコ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 静
(72)【発明者】
【氏名】小阪 英樹
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 利雄
(72)【発明者】
【氏名】難波 文男
(57)【要約】
【課題】乳酸菌由来の健康機能を有する菌体外多糖を多く含み、かつ、乳糖不耐症や乳アレルギーの人が摂取することができる米糠を用いた風味、食感に優れる米糠乳酸菌発酵物の製造方法を提供する。
【解決手段】米糠を原料とし、これを糖化酵素で糖化処理した米糠糖化物を、菌体外多糖を産生する乳酸菌を用いて発酵させることにより、菌体外多糖を多く含み、かつ、米糠に特有の不快臭、不快味を改善でき、さらに米糠由来の有用な栄養素も摂取できる。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
米糠を加水加熱によりα化し、これを糖化酵素を用いて糖化処理した後、菌体外多糖産生能を有する乳酸菌を用いて発酵させることを特徴とする固形ヨーグルト様の米糠乳酸菌発酵物の製造方法。
【請求項2】
前記乳酸菌がラクトコッカス・ラクティス・サブスピーシーズ・クレモリスFC(Lactococcus lactis subsp. cremoris FC, FERM AP-20185)であることを特徴とする請求項1記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、菌体外多糖を産生する乳酸菌を用いた米糠乳酸菌発酵物の製造方法に関する。
【0002】
ヨーグルト等の発酵乳に含まれる乳酸菌の一種には、菌体外多糖を産生することが知られており、菌体外多糖は整腸作用、免疫賦活作用、花粉症などのアレルギー発症抑制作用等の等の健康機能を有することが証明されている。
【0003】
本願出願人により分離された乳酸菌であるクレモリス菌により発酵させて得られるヨーグルト(商品名「カスピ海ヨーグルト」出願人登録商標、登録第5761425号)も、整腸作用、免疫賦活作用、肌機能改善作用、血糖値上昇緩和作用などの優れた健康機能を有し、その健康機能は、前記クレモリス菌が産生する菌体外多糖に由来することが本願出願人の研究から明らかになっている(特許文献1~3)。
【0004】
また、本願出願人は、前記クレモリス菌が産生する菌体外多糖の産生を高めるために、牛乳に乳清タンパクや大豆タンパクを加えて前記クレモリス菌で発酵させることにより、菌体外多糖の産生を高める方法(特許文献4)を開示しているが、さらなる当該菌体外多糖の産生を高める方法が求められている。
【0005】
ところで、ヨーグルトは様々な健康機能を有し、多くの人々がその健康効果を享受している一方で、乳糖不耐症や乳アレルギーの人はヨーグルトを摂取することができないため、乳糖不耐症や乳アレルギーの人が摂取でき、かつ、ヨーグルトに取って代わるヨーグルトの健康機能を有する食品の開発が望まれている。
【0006】
上記課題を解決するために、大豆を原料とした乳酸菌発酵物の提案が多くなされており、本願出願人においても、原料に豆乳を使用し菌体外多糖を産生する乳酸菌を用いて発酵させる豆乳発酵物の製造方法(特許文献5、6)を開示しているが、豆乳発酵物は青臭みや収斂味等があるため、一部の消費者の嗜好になじまないという問題が少なからずあった。
【0007】
そこで、乳及び大豆以外の原料を用いた風味に優れる新たな乳酸菌発酵物の開発が待たれており、その一つとして米糠を用いた乳酸菌発酵物及びその製造方法(特許文献7~9)が提案されているが、米糠には特有の不快臭、不快味(渋味、えぐ味、苦味)を有するため、さらなる風味の改善が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特許第3715640号公報
【特許文献2】特開2009-256312号公報
【特許文献3】特開2018-168082号公報
【特許文献4】特許第5060431号公報
【特許文献5】特開2015-192632号公報
【特許文献6】特許第6209177号公報
【特許文献7】特許昭61-53008号公報
【特許文献8】特開昭60-94057号公報
【特許文献9】特開平8-280341号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の課題は、乳酸菌由来の健康機能を有する菌体外多糖を多く含み、かつ、乳糖不耐症や乳アレルギーの人が摂取することができる米糠を用いた風味に優れる米糠乳酸菌発酵物の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本願発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、 米糠を原料とし、これを米麹で糖化処理した米糠糖化物を、菌体外多糖産生能を有する乳酸菌を用いて発酵させることにより、菌体外多糖を多く含むヨーグルト様の米糠乳酸菌発酵物、いわゆる米糠ヨーグルトができることを見出し、本発明を完成させるに至った。また、原料の米糠には、米糠に特有の不快臭、不快味(渋味、えぐ味、苦味)を有するが、本発明により得られる米糠乳酸菌発酵物においては、米麹と菌体外多糖産生能を有する乳酸菌によって、それらの不快臭、不快味が改善されることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0011】
すなわち、本発明は次の[1]~[2]の固形ヨーグルト様の米糠乳酸菌発酵物の製法方法に関する。
[1]米糠を加水加熱によりα化し、これを糖化酵素を用いて糖化処理した後、菌体外多糖産生能を有する乳酸菌を用いて発酵させることを特徴とする固形ヨーグルト様の米糠乳酸菌発酵物の製造方法に関する。
[2]前記乳酸菌がラクトコッカス・ラクティス・サブスピーシーズ・クレモリスFC(Lactococcus lactis subsp. cremoris FC, FERM AP-20185)であることを特徴とする[1]記載の製造方法に関する。
【発明の効果】
【0012】
本発明の方法によれば、米糠を原料とした菌体外多糖を多く含むヨーグルト様の米糠乳酸菌発酵物を提供できるため、乳糖不耐症や乳アレルギーの人がヨーグルトに含まれる菌体外多糖の健康効果を享受することができるようになる。
また、本発明の方法により得られる米糠乳酸菌発酵物は、米糠の不快臭、不快味が改善されているため、風味に優れた米糠乳酸菌発酵食品を提供することができる。
さらに、米糠には、各種のビタミンや、リジン等の必須アミノ酸、鉄分等のミネラル、食物繊維などが豊富に含まれていることから、本発明の方法により得られる米糠乳酸菌発酵物は、米糠由来の有用な栄養素も摂取することができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明を実施するための形態について説明する。本発明は、以下の記載に限定されるものではない。
【0014】
本発明の方法は、米糠原料と、米糠を糖化させるために米麹と、米糠の糖化物を乳酸菌発酵させるために菌体外多糖産生乳酸菌を用いる。
(米糠原料)
本発明においては、米糠を主原料として用いる。原料となる米糠は、玄米粒の外側の部分を言い、一般的には玄米を重量精米歩合90%程度以上で精米したときに得られる米糠が「赤糠」と呼ばれ、およそ重量精米歩合80~90%程度で精米したときに得られる米糠が「中白糠」と呼ばれ、およそ重量精米歩合80%未満で精米したときに得られる米糠が「白糠」と呼ばれ、区別される。
なお、ここで重量精米歩合とは、以下の式(1)により求められた値である。また、下記の「白米」とは、下記精米後の玄米を意味する。
重量精米歩合(%)=(白米重量/玄米重量)×100 ・・・(1)
本発明においては、いずれの米糠でも用いることができる。特に中白糠を用いる場合は、最終の米糠乳酸菌発酵物に菌体外多糖が多く含まれ、かつ米糠の不快臭、不快味が殆どなく、風味に優れるため好ましい。白糠を用いる場合は、該発酵物の米糠の不快臭、不快味が殆どなく風味は優れる一方、健康機能を有する菌体外多糖の量が赤糠及び中白糠と比較して少ないものとなる。また、赤糠を用いる場合は、菌体外多糖の量は多い一方で、該発酵物の風味においては不快味が残るため、白糠及び中白糠と比較して風味は劣るものになる。
【0015】
(米麹)
本発明においては、米糠を糖化処理するために米麹を用いる。使用する米麹は、甘酒用米麹、または酒造用米麹の何れでもよく、特に限定されない。糖化処理において米麹を用いることにより、該発酵物中に含まれる菌体外多糖の産生量が多くなり、これにより該発酵物の不快臭、不快味を改善することができる。さらに、米麹を用いることで、糖化処理中に米麹による好ましい香気成分が生成し、これにより米糠の不快臭、不快味を改善することができる。
なお、米糠の糖化処理においては、α-アミラーゼ、グルコアミラーゼ等の糖化酵素を用いることもできるが、糖化酵素を用いた場合には該発酵物中に含まれる菌体外多糖の産生量が米麹を用いた場合と比べて少なくなり、また、米麹を用いた場合のような好ましい香気成分が生じないため、該発酵物において米糠の不快臭、不快味の改善度合が米麹と比べると劣るものになる。
【0016】
(菌体外多糖産生乳酸菌)
本発明においては、米糠の米麹による糖化物を発酵させるために菌体外多糖産生能を有する乳酸菌を用いる。乳酸菌は菌体外多糖産生菌であればよく特に限定されず、菌体外多糖産生菌を用いることで非菌体外多糖産生菌と比較して該発酵物の米糠の不快臭、不快味を改善することができる。
特に菌体外多糖が粘性を有する場合には、その粘性により米糠の不快臭、不快味をより効果的に改善することができ、例えば、菌体外多糖産生能を有する乳酸菌がラクトコッカス・ラクティス・サブスピーシーズ・クレモリスFC(Lactococcus lactis subsp. cremoris FC,FERM AP-20185)、ストレプトコッカス・サーモフィラスT38株(Streptococcus thermophiles T38,フジッコ株式会社所有)である場合には、該発酵物の米糠の不快臭、不快味を大きく改善することができる。ラクトコッカス・ラクティス・サブスピーシーズ・クレモリスFC(Lactococcus lactis subsp. cremoris FC,FERM AP-20185)は、独立行政法人産業技術総合研究所 特許生物寄託センターに寄託されている。
なお、本発明においては、菌体外多糖産生能を有する乳酸菌は、単独または二種以上を併せて用いてもよい。
【0017】
(製造方法)
本発明の方法においては、米糠を加水加熱によりα化した後、α化した米糠に米麹を用いて糖化処理することにより米糠糖化物を得て、該米糠糖化物に菌体外多糖産生能を有する乳酸菌を植菌し発酵させることにより完成する。
【0018】
(米糠のα化)
米糠に水を加えた後、加熱処理することにより米糠をα化する。該加熱処理は米糠に含まれるでん粉がα化できればよく、加熱条件(温度及び時間)は特に限定されないが、原料の米糠の殺菌処理を兼ねる場合には、80℃以上で該加熱処理することが好ましい。
また、加水量は米糠が十分に吸水できればよく特に限定されず、最終の該発酵物に合わせて調整することができる。例えば、該発酵物を固形ヨーグルト様の粘性物にする場合には、米糠1重量部に対して水を2~5重量部とすればよく、該発酵物をドリンクヨーグルト様の液状物にする場合には、加水量を増やして適宜調整する。
【0019】
(糖化処理)
α化した米糠に米麹を加えた後、適温で維持して糖化処理することにより米糠糖化物を得る。該糖化処理は米糠に含まれるでん粉が糖化すればよく、糖化条件(温度及び時間)は特に限定されないが、米麹に含まれるアミラーゼやプロテアーゼ等の酵素反応を促進させ、かつ、乳酸菌や腐敗菌による汚染を防ぐために処理温度は50~65℃で行うことが好ましい。例えば、糖化処理時間は4~24時間で適宜調整することにより、該米糠糖化物を得ることができる。得られた該米糠糖化物は、糖化反応を止めるために、加熱処理を行い、米麹に含まれる酵素を失活させる。
該糖化処理において、α化した米糠に対して加える米麹の量は、特に限定されず、該糖化処理に要する時間や最終的に得られる米糠乳酸菌発酵物の風味や物性を考慮して適宜決定することができる。
また、該糖化処理を促進し、該米糠糖化物を均質化するために、該糖化処理の前後で均質化処理することができる。
また、該米糠糖化物は、次工程の乳酸菌発酵する前に、遠心分離または濾過により、油脂成分を除去してもよく、乳酸菌発酵前に油脂成分を分離、除去することで、油脂成分の酸化、分解による酸敗、有毒化を防ぐことができ、最終の該発酵物の風味劣化を抑えることができる。
【0020】
(乳酸菌発酵)
該米糠糖化物に菌体外多糖産生能を有する乳酸菌を植菌後、発酵処理することにより米糠乳酸菌発酵物を得る。
該発酵処理においては、発酵条件(温度及び時間)は、特に限定されず、使用する乳酸菌の至適生育温度の範囲で行えばよく、最終的に得られる米糠乳酸菌発酵物の風味や物性を考慮して適宜決定することができる。
また、該発酵処理における該米糠糖化物に植菌する乳酸菌の量は、特に限定されず、乳酸菌発酵に要する時間や最終的に得られる米糠乳酸菌発酵物の風味や物性を考慮して適宜決定することができる。例えば、該米糠糖化物に対して、乳酸菌数が10(cfu/g)以上、好ましくは10~10(cfu/g)の範囲で含まれるように植菌することにより、効率よく乳酸発酵させることができる。例えば、該米糠糖化物100重量部に対して、乳酸菌数が10(cfu/g)以上であるスターターを0.1~10重量部、好ましくは1~5重量部を植菌する。
なお、上記スターターが、ラクトコッカス・ラクティス・サブスピーシーズ・クレモリスFCである場合、その至適温度が25℃前後であるため、該米糠糖化物100重量部に対して、乳酸菌数が10(cfu/g)以上であるスターターを3重量部植菌した場合には、25℃で3~72時間発酵させることで該米糠乳酸菌発酵物を得ることができる。
また、該米糠乳酸菌発酵物は、必要に応じて均質化処理することができ、均質化処理により、口当たりがなめらかでとろみがある該米糠乳酸菌発酵物を得ることができる。
該米糠乳酸菌発酵物は、米糠に特有の不快臭、不快味(渋味、えぐ味、苦味)が改善され、風味に優れており、さらに、菌体外多糖産生能を有する乳酸菌が産生する菌体外多糖の粘性により、口当たりなめらかなで食感にも優れたものになる。
【0021】
また、本発明の方法により得られる米糠乳酸菌発酵物は、必要に応じて、さらに、甘味料、果肉、果汁、香料、酸味料等の添加物を加えることができ、これにより様々な味付けのヨーグルト様の食品、ヨーグルト様の飲料等にすることもできる。
【0022】
かくして、本発明の方法によって、乳酸菌由来の健康機能を有する菌体外多糖を多く含み、かつ、米糠に特有の不快臭、不快味(渋味、えぐ味、苦味)が改善され、さらに米糠の有用な栄養素を豊富に含んだ米糠乳酸菌発酵物を得ることができる。
【実施例0023】
以下、実施例により本発明を説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0024】
(材料及び条件)
本発明の実施例及び比較例は、特記しないかぎり、下記の材料及び条件を用いて行った。
米糠のα化は、米糠1重量部に対して水5重量部を合わせた後、85℃10分間、撹拌しながら加熱してα化し、α化した米糠液を得た。
なお、米糠は酒造会社提供の中白糠(重量精米歩合82~88%)を使用し、米糠の対照として、米粉(「半鐘屋の米粉」株式会社半鐘屋製)を用いた。
次に、米糠の糖化処理は、米糠100重量部に対して米麹50重量部を、前記α化した米糠液に加えて、55℃15時間、撹拌しながら糖化処理した後、85℃30分間、加熱処理して米麹に含まれる酵素を失活させ、米糠糖化液を得た。なお、米麹は市販されている甘酒用米麹(「プラス糀 米こうじ」マルコメ株式会社製)を使用した。
また、米麹の対照として、米麹と同重量部のα化米(「アルファ米」株式会社コダマ製)と、液化、糖化酵素としてα-アミラーゼ(「ユニアーゼBM-8」ヤクルト薬品工業株式会社製:64,000unit/g)を0.05重量部と、グルコアミラーゼ(「ユニアーゼ30」ヤクルト薬品工業株式会社製:2,000unit/g)を0.1重量部を使用し、前記α化した米糠液にα化米とα-アミラーゼを加えた後、約30分で室温から85℃に到達するように加熱し、これを60℃以下に冷却した後、グルコアミラーゼを加え、米麹の場合と同様に、55℃15時間で糖化処理した後、85℃30分間、加熱処理して米糠糖化液を得た。
最後に、米糠糖化液の乳酸菌発酵処理は、米糠糖化液100重量部に対して乳酸菌スターター3重量部(乳酸菌数10cfu/g)を加えて、クレモリス菌の場合は25℃8時間、サーモフィラス菌の場合は37℃6時間、それぞれ乳酸菌発酵処理して米糠乳酸菌発酵物を得た。発酵終了後の米糠乳酸菌発酵物を10℃に冷却保管し、下記官能評価に供した。
なお、乳酸菌は、菌体外多糖産生菌として、ラクトコッカス・ラクティス・サブスピーシーズ・クレモリスFC株(以下、クレモリスFCという。)と、ストレプトコッカス・サーモフィラスT38株(フジッコ株式会社所有)(以下、サーモフィラスT38という。)を、対照となる非菌体外多糖産生菌として、ラクトコッカス・ラクティス・サブスピーシーズ・クレモリスC4株(フジッコ株式会社所有)(以下、クレモリスC4という。)を使用した。
【0025】
(評価方法)
上記方法で得られた本発明の実施例及び比較例において、次の方法により評価した。
〔官能評価〕
米糠乳酸菌発酵物の官能評価は、五味識別検査において味覚優良者として選抜され、訓練された嗜好性官能評価パネラー14名によって行い、米糠乳酸菌発酵物をスプーンで5回かき混ぜたものを口に入れ、風味と食感を評価した。
風味は、不快臭・不快味(渋味、えぐ味、苦味)と、好ましい風味(甘み、良好な香り)の有無と強弱について、食感は、一般的なヨーグルトと比較した場合の粘性(とろみ)の有無と強弱について、表1に基づき5段階評価した。各パネラーの評点の平均値を、表2の示す評価基準に従って総合評価した。
【0026】
【表1】
【0027】
【表2】
【0028】
実施例1,2、比較例1,2: 菌体外多糖産生菌と非菌体外多糖産生菌との比較
下記表3に示す条件で、原料に中白糠とし、これを米麹を用いて糖化して得られた米糠糖化液に、各種乳酸菌を植菌し乳酸菌発酵した後、得られた米糠乳酸菌発酵物について段落〔0025〕に示す方法により官能評価を行った。
【0029】
【表3】
【0030】
表3の結果から、菌体外多糖産生菌を用いて乳酸菌発酵することにより、米糠乳酸菌発酵物の粘性が増加するだけでなく、米糠に特有の不快臭・不快味(渋味、えぐ味、苦味)が改善され、風味、食感において優れたものになることがわかった。
また、クレモリスFCを用いた場合は、米粉と比べても遜色ない程度まで米糠の不快臭、不快味を改善できることが分かった。
【0031】
実施例1,比較例3: 米糠の糖化処理の比較
下記表4に示す条件で、原料に中白糠とし、これを米麹、又は糖化酵素とα化米を用いて糖化して得られた米糠糖化液に、乳酸菌クレモリスFCを植菌し乳酸菌発酵した後、得られた米糠乳酸菌発酵物について段落〔0025〕に示す方法により官能評価を行った。
【0032】
【表4】
【0033】
表4の結果から、米糠を糖化処理するときに米麹を用いることにより、酵素処理したものと比べて米糠乳酸菌発酵物の粘性が増加し、米糠に特有の不快臭・不快味(渋味、えぐ味、苦味)も改善され、風味が大きく向上して、食感、風味ともに優れたものになることが分かった。
【0034】
実施例1、比較例1: 菌体外多糖の産生量の比較
実施例1の米糠乳酸菌発酵物と、比較例1の米粉乳酸発酵物において、発酵前から発酵後に増加した多糖量(差分)を菌体外多糖量として、以下の方法で各発酵物100g当りの菌体外多糖量を測定した。
1)タンパク除去: それぞれの糖化液(発酵前)と発酵物(発酵後)100gに20%(V/V)トリクロロ酢酸を同量添加した懸濁物を遠心分離(15,000rpm,10分間)して上清を回収し、これを再度同条件で遠心分離して上清を得た。
2)多糖画分の回収: 上清から油脂を除去したものに、1.5倍量の4℃エタノールを添加、混和した後、遠心分離(15,000rpm,20分間)し、上清を捨て、多糖画分を回収した。
3)精製: 多糖画分に、4℃60%(V/V)エタノールを添加、混和した後、遠心分離(15,000rpm,20分間)し、上清を捨てた。これを再度繰り返して多糖画分を回収した。
4)多糖の定量: 多糖画分をフェノール硫酸法を用いて、比色法で定量した。
【0035】
【表5】
【0036】
表5の結果より、本発明の方法による米糠乳酸菌発酵物には、米粉乳酸菌発酵物と比べて菌体外多糖が多く含まれていることが明らかとなった。
【産業上の利用可能性】
【0037】
本発明の方法により、健康機能を有する菌体外多糖を多く含み、米糠に特有の不快臭、不快味を改善し、風味と食感に優れた、米糠由来の有用な栄養素も摂取することができる米糠乳酸菌発酵物を提供することができる。