(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023105168
(43)【公開日】2023-07-28
(54)【発明の名称】トラネキサム酸類結晶化抑制剤
(51)【国際特許分類】
A61K 31/195 20060101AFI20230721BHJP
A61K 47/32 20060101ALI20230721BHJP
A61K 47/36 20060101ALI20230721BHJP
A61K 47/10 20170101ALI20230721BHJP
A61P 17/00 20060101ALI20230721BHJP
A61K 8/44 20060101ALI20230721BHJP
A61Q 19/00 20060101ALI20230721BHJP
A61K 8/81 20060101ALI20230721BHJP
A61K 8/73 20060101ALI20230721BHJP
【FI】
A61K31/195
A61K47/32
A61K47/36
A61K47/10
A61P17/00
A61K8/44
A61Q19/00
A61K8/81
A61K8/73
【審査請求】有
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023094101
(22)【出願日】2023-06-07
(62)【分割の表示】P 2018007824の分割
【原出願日】2018-01-22
(31)【優先権主張番号】P 2017083170
(32)【優先日】2017-04-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000166959
【氏名又は名称】御木本製薬株式会社
(72)【発明者】
【氏名】椿 智子
(57)【要約】
【課題】
本発明の目的は、トラネキサム酸類を配合した製剤ではこれを収納した容器の口付近に付着すると、時間が経過するとともに水分が蒸発して硬い結晶が析出する現象が生じ、キャップの締りが悪くなったり、結晶が製剤に混入して使用感を損なうというような問題を生じていた。
【解決手段】
本発明者らが鋭意検討した結果、トラネキサム酸類を配合した製剤に、カルボキシビニルポリマーと、キサンタンガムと、アルギン酸塩より選択される2種以上の水溶性高分子を配合すると上記の問題が解決することがわかった。さらに、グリセリンを製剤の2~10重量%配合すると上記の問題点を解決し、且つ使用感でも優れた製剤を得ることができた。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
カルボキシビニルポリマーと、キサンタンガムと、アルギン酸塩より選択される2種以上の水溶性高分子を配合するトラネキサム酸類配合製剤。
【請求項2】
カルボキシビニルポリマーと、キサンタンガムの2種の水溶性高分子を配合する請求項1のトラネキサム酸類配合製剤。
【請求項3】
さらにグリセリンを含む多価アルコールを配合した請求項1乃至請求項3のいずれかに記載のトラネキサム酸類配合製剤。
【請求項4】
グリセリンの配合量が製剤の2~10重量%である請求項4に記載のトラネキサム酸類配合製剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トラネキサム酸類を配合した製剤に関する。
【背景技術】
【0002】
トラネキサム酸もしくはその誘導体またはその塩(トラネキサム酸類)は、肌荒れや色素沈着を抑制する作用を有することが知られており、化粧料等の皮膚外用製剤に配合させる成分としてよく用いられているが、トラネキサム酸は非常に結晶性が強く、化粧料等の製剤がこれを収納した容器の口付近に付着すると、時間が経過するとともに水分が蒸発して硬い結晶が析出する現象が生じ、キャップの締りが悪くなったり、結晶が製剤に混入して使用感を損なうというような問題を生じていた。
このための対応としていろいろな方法が試みられてきた。例えば、トラネキサム酸とともに、特定の界面活性剤(特許文献1~3)や、シリカ被覆酸化亜鉛(特許文献4)、ポリヒドロキシ酸(特許文献5)やイノシトールと多価アルコール(特許文献6)を製剤に配合させることで結晶析出を抑制したり、トラネキサム酸を配合する製剤を収納する容器の形状を工夫したりして、上記問題の解決が図られてきている。
また、グリセリン等の多価アルコールの配合量を高くすれば析出は抑えられるが官能面で使用に堪えない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2005-68076号公報
【特許文献2】特開2011-84551号公報
【特許文献3】特開2011-195460号公報
【特許文献4】特開2012-201660号公報
【特許文献5】特開2013-121955号公報
【特許文献6】特開2016-121092号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
トラネキサム酸類配合製剤は有効な製剤であるにも関わらず、官能面での制限や結晶の抑制という点で問題があり、さらに長時間に結晶の析出が生じず、官能面でも制限が生じず広く様々な製剤で応用可能な製剤が望まれていた。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者は鋭意検討した結果、カルボキシビニルポリマーと、キサンタンガムと、アルギン酸塩より選択される2種以上の水溶性高分子を配合することによって、使用感も良好な状態でトラネキサム酸類の結晶析出を抑制できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0006】
トラネキサム酸は、トランス-4-アミノメチルシクロヘキサン-1-カルボン酸を指す。
トラネキサム酸の誘導体としては、特に限定されないが、エステル体やアミド体等が挙げられ、トラネキサム酸のエステルとしてはトラネキサム酸ラウリルエステル、トラネキサム酸ヘキサデシルエステル、トラネキサム酸セチルエステル等を、トラネキサム酸のアミド体としてはトラネキサム酸メチルアミド等を例示できる。
また、トラネキサム酸またはその誘導体の塩としては、ナトリウム塩、カリウム塩等のアルカリ金属塩;カルシウム塩、マグネシウム塩等のアルカリ土類金属塩;亜鉛塩;鉄塩;アンモニウム塩;アルギニン、ヒスチジン、リジン、オルニチン等の塩基性アミノ酸との塩;モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン等のアミンとの塩等が挙げられる。これらのうち、ナトリウム塩、カリウム塩、トリエタノールアミン塩、アルギニン塩が、皮膚外用剤として製剤を利用する場合は好ましい。
トラネキサム酸もしくはその誘導体またはその塩の配合量は特に制限はないが、結晶の析出が問題となるのは主に0.5重量%以上の場合である。
【0007】
カルボキシビニルポリマーは、アクリル酸重合体を主とする酸性ポリマーであり、市販のものを用いることができる。具体的には、たとえば、ハイビスワコー103,同104,同105(和光純薬工業株式会社製)、カーボポール(carbopol)シリーズ(BFGoodrich社製)等が挙げられる。
キサンタンガムは、Xanthomonas campestris菌の発酵作用により得られる多糖類であって、水溶性の増粘剤、ゲル化剤、乳化剤、分散・懸濁安定剤などとして使用されている。具体的には、ケルザン、ケルトロール、(以上、米国、ケルコ社製)、ロードポール(ローヌ・プーラン・ジャパン(株)製)、エコーガム(大日本製薬(株)製)、サンエース(三栄源エフエフアイ(株)製)などがある。
アルギン酸とは、マンヌロン酸とグルロン酸から構成され、1,4結合してなる直鎖状の酸性糖類であり、マンヌロン酸のホモポリマー画分、グルロン酸のホモポリマー画分、及びマンヌロン酸とグルロン酸がランダムに配列した画分が任意に結合したブロック共重合体であり、コンブやワカメに代表される褐藻類から抽出される。
水溶性塩には種々存在するが水への溶解度が高いこと等からナトリウム塩が汎用される。
【0008】
カルボキシビニルポリマーの配合量は、トラネキサム酸類やカルボキシビニルポリマーの種類や他の配合成分の種類や量、pHによって変化するが、結晶の析出を抑制する効果が発揮されるのは0.01重量%以上、好ましくは0.03重量%以上、より好ましくは0.05重量%以上を配合する。
キサンタンガムやアルギン酸塩の配合量は、トラネキサム酸類、キサンタンガムやアルギン酸塩の種類や他の配合成分の種類や量によって変化するが、結晶の析出を抑制する効果が発揮されるのは0.005重量%以上、好ましくは0.01重量%以上を配合する。
カルボキシビニルポリマー、キサンタンガム、アルギン酸塩の配合量の上限は、これらの種類や他の水溶性高分子等の配合量によって大きく異なるが、カルボキシビニルポリマーの場合は0.5重量%以下、キサンタンガムとアルギン酸塩はキサンタンガムとアルギン酸塩の合計量で2.0重量%以下が好ましく上限を越えると使用感が悪くなり、製剤の用途によっては期待する品質は得られない。
カルボキシビニルポリマー、キサンタンガム、アルギン酸塩以外の水溶性高分子の配合も問題ないが、カルボキシビニルポリマー、キサンタンガム、アルギン酸塩以外の水溶性高分子によってトラネキサム酸類の結晶の析出を抑制するにはカルボキシビニルポリマーとキサンタンガムとアルギン酸塩の2種以上の組み合わせに比較して、配合量を非常に多く必要とし、使用感が悪くなり、使用に堪えない。
さらに、発明者が検討した結果、カルボキシビニルポリマーとキサンタンガムの組合せ、カルボキシビニルポリマーとアルギン酸塩の組合せが本発明に特に有効であった。
また、これらの水溶性高分子の粘度は、トラネキサム酸類の結晶の析出に影響は少なく、水溶性高分子の配合量が比例的に影響するので、目的に応じて、これらの水溶性高分子のグレードを選択する。
【0009】
その他製剤に配合する原料は任意に選択すればよいが、多価アルコールを配合することは結晶の析出を抑えることになり有用である。特にグリセリンは有効で、他の多価アルコール、トラネキサム酸類、カルボキシビニルポリマー、キサンタンガム、アルギン酸塩他の配合成分の種類や量によって大きく変動するが、グリセリンを2~10重量%、さらに好ましくは5~10重量%配合するとトラネキサム酸類の結晶の析出を有意に抑制することがわかった。しかしながら、10重量%を越えると使用感が悪くなり、製剤の用途によっては期待する品質は得られない。
グリセリン以外の多価アルコールも勿論配合できる。
例示すれば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、それ以上のポリエチレングリコール類、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、それ以上のポリプロピレングリコール類、1,3-ブチレングリコール、1,4-ブチレングリコール等のブチレングリコール類、ジグリセリン、それ以上のポリグリセリン類、ソルビトール、マンニトール、キシリトール、マルチトール等の糖アルコール類、グリセリン類のエチレンオキシド(以下、EOと略記)、プロピレンオキシド(以下、POと略記)付加物、糖アルコール類のEO、PO付加物、ガラクトース、グルコース、フルクトース等の単糖類とそのEO、PO付加物、マルトース、ラクトース等の多糖類とそのEO、PO付加物などの多価アルコールがが挙げられる。
【0010】
以上の原料とともに、油剤、界面活性剤、水溶性成分、薬剤等を必要に応じて、配合して作成する。
その他、配合する原料を例示すれば、、天然動植物油脂例えば、オリーブ油、ミンク油、ヒマシ油、パーム油、牛脂、月見草油、ヤシ油、ヒマシ油、カカオ油、マカデミアナッツ油等;蝋例えば、ホホバ油、ミツロウ、ラノリン、カルナウバロウ、キャンデリラロウ等;高級アルコール例えば、ラウリルアルコール、ステアリルアルコール、セチルアルコール、オレイルアルコール等;高級脂肪酸例えば、ラウリン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、オレイン酸、ベヘニン酸、ラノリン脂肪酸等;高級脂肪族炭化水素例えば、流動パラフィン、固形パラフィン、スクワラン、ワセリン、セレシン、マイクロクリスタリンワックス等;合成エステル油例えば、ブチルステアレート、ヘキシルラウレート、ジイソプロピルアジペート、ジイソプロピルセバケート、ミリスチン酸オクチルドデシル、イソプロピルミリステート、イソプロピルパルミテートイソプロピルミリステート、セチルイソオクタノエート、ジカプリン酸ネオペンチルグリコール;油溶性有効成分例えば、ビタミンE、カロット油;水溶性成分例えば、精製水、イオン交換水、天然水、水溶性高分子例えば、アルキル化カルボキシビニルポリマー、ポリアクリル酸ナトリウム、カルボキシメチルセルロース、ヒアルロン酸ナトリウム、アルギン酸ナトリウム;界面活性剤アニオン界面活性剤(アルキルカルボン酸塩、アルキルスルホン酸塩、アルキル硫酸エステル塩、アルキルリン酸エステル塩)、カチオン界面活性剤(アルキルアミン塩、アルキル四級アンモニウム塩)、両性界面活性剤:カルボン酸型両性界面活性剤(アミノ型、ベタイン型)、硫酸エステル型両性界面活性剤、スルホン酸型両性界面活性剤、リン酸エステル型両性界面活性剤、非イオン界面活性剤(エーテル型非イオン界面活性剤、エーテルエステル型非イオン界面活性剤、エステル型非イオン界面活性剤、ブロックポリマー型非イオン界面活性剤、含窒素型非イオン界面活性剤)、その他の界面活性剤(天然界面活性剤、タンパク質加水分解物の誘導体、高分子界面活性剤、チタン・ケイ素を含む界面活性剤、フッ化炭素系界面活性剤)、;薬剤例えば、コンキオリン加水分解物、ビタミンC、アラントイン、胎盤抽出物、エラスチン、アルブチン、コラーゲン、トリクロサン、トリクロロカルバン、グリチルリチン酸ジカリウム、メチルパラベン、ブチルパラベン;粉体例えば、例えばタルク、セリサイト、マイカ、カオリン、シリカ、炭酸カルシウム、メチルシロキサン網状重合体、アクリル樹脂球、ナイロン繊維、酸化亜鉛、酸化鉄、酸化ジルコニウム、群青、紺青などが挙げられる。
以上の原料を液状、クリーム状等必要な剤型を選択し、製剤を作成する。
【実施例0011】
次に実施例と比較例を挙げて本発明を詳細に説明する。
【表1】
【0012】
【0013】
【0014】
【0015】
なお、注は、以下の通りである。
注1)和光純薬社製 商品名ハイビスワコー105
注2)Lubrizol Advanced Materials社製 商品名ペムレンTR-1
注3)Lubrizol Advanced Materials社製 商品名カーボポールETD2020
注4)キッコーマンバイオケミファ社製 商品名ダックアルギンNSPHR
表の結晶の析出状態は、以下のように判定した。
ミニシャーレに0.1gを滴下、40℃恒温槽に24時間保管後、目視で確認した。
5=目視では結晶が確認できない。
4=目視で微量の結晶が確認できる。
3=目視で少量の結晶が確認できる。
2=目視である程度の量の結晶が確認できる。
1=目視で多量の結晶が確認できる。
【0016】
以上のように、トラネキサム酸もしくはその誘導体またはその塩を配合した製剤にカルボキシビニルポリマーと、キサンタンガムと、アルギン酸塩より選択される2種以上の水溶性高分子を配合するとトラネキサム酸類の結晶の析出が抑制されるが分かった。
さらにグリセリンを2~10重量%を配合することによってよりトラネキサム酸類の結晶の析出が抑制され、且つ使用感のよい製剤が得られることが分かった。
トラネキサム酸類を含有する製剤における、カルボキシビニルポリマーと、キサンタンガムと、アルギン酸塩より選択される2種以上を配合することを特徴とするトラネキサム酸類結晶化抑制剤。