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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023105244
(43)【公開日】2023-07-28
(54)【発明の名称】組織足場
(51)【国際特許分類】
   A61L 27/22 20060101AFI20230721BHJP
   A61L 27/24 20060101ALI20230721BHJP
   A61L 27/26 20060101ALI20230721BHJP
   C12M 3/00 20060101ALI20230721BHJP
   C12N 5/071 20100101ALI20230721BHJP
   C07K 14/78 20060101ALN20230721BHJP
【FI】
A61L27/22
A61L27/24
A61L27/26
C12M3/00 Z ZNA
C12N5/071
C07K14/78
【審査請求】有
【請求項の数】22
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2023095521
(22)【出願日】2023-06-09
(62)【分割の表示】P 2020501365の分割
【原出願日】2018-07-13
(31)【優先権主張番号】1711360.6
(32)【優先日】2017-07-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(71)【出願人】
【識別番号】519098040
【氏名又は名称】ラフト エンタープライジズ リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100078282
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 秀策
(74)【代理人】
【識別番号】100113413
【弁理士】
【氏名又は名称】森下 夏樹
(74)【代理人】
【識別番号】100181674
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 貴敏
(74)【代理人】
【識別番号】100181641
【弁理士】
【氏名又は名称】石川 大輔
(74)【代理人】
【識別番号】230113332
【弁護士】
【氏名又は名称】山本 健策
(72)【発明者】
【氏名】プラサド サワドカー
(72)【発明者】
【氏名】エレナ ガルシア-ガレタ
(57)【要約】
【課題】組織足場の提供。
【解決手段】組織足場、および組織足場を作製するための方法が提供される。組織足場は、エラスチンならびに必要に応じてフィブリンおよび/またはコラーゲンを含む。足場中のエラスチンは架橋され得る。架橋されているエラスチンは、好ましくは、可溶化エラスチンを含み、未分画のものである。本発明者らは、新規の経済的な生物学的に活性なエラスチン系材料およびそれらの製造方法を報告する。本発明は、エラスチン、例えば可溶化エラスチンを含む組成物を架橋することによる足場の形成に関する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
エラスチンまたはエラスチン誘導体;コラーゲン;およびフィブリンを含む組織足場であって、前記エラスチンまたはエラスチン誘導体が架橋されている、組織足場。
【請求項2】
前記コラーゲンおよび/またはフィブリンが架橋されている、請求項1に記載の組織足場。
【請求項3】
前記エラスチンが可溶化エラスチンを含む、請求項1または請求項2に記載の組織足場。
【請求項4】
前記エラスチンが不溶性エラスチンを含む、請求項1~3のいずれかに記載の組織足場。
【請求項5】
前記エラスチンが未分画のものである、請求項1~4のいずれかに記載の組織足場。
【請求項6】
凍結乾燥される、請求項1~5のいずれかに記載の組織足場。
【請求項7】
前記エラスチン誘導体がエラスチン様ペプチド(ELP)である、請求項1~6のいずれかに記載の組織足場。
【請求項8】
エラスチンまたはエラスチン誘導体;架橋剤;フィブリン;およびコラーゲンを含む、組成物。
【請求項9】
前記エラスチンが可溶化エラスチンを含む、請求項8に記載の組成物。
【請求項10】
前記エラスチンが未分画エラスチンである、請求項8または請求項9に記載の組成物。
【請求項11】
エラスチンを可溶化するための可溶化剤を含む、請求項8~10のいずれかに記載の組成物。
【請求項12】
前記エラスチン誘導体がエラスチン様ペプチド(ELP)である、請求項8~11のいずれかに記載の組成物。
【請求項13】
i)エラスチンまたはエラスチン誘導体ならびにii)コラーゲンおよび/またはフィブリンを含む組成物を架橋することを含む、方法。
【請求項14】
前記エラスチンが未分画のものである、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記エラスチンが可溶化エラスチンを含む、請求項13または請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記エラスチンが不溶性エラスチンを含む、請求項13~15のいずれかに記載の方法。
【請求項17】
前記エラスチン誘導体がエラスチン様ペプチド(ELP)である、請求項13~16のいずれかに記載の方法。
【請求項18】
請求項13~17のいずれかに記載の方法により取得された、組織足場。
【請求項19】
組織治癒、再生または修復の促進において使用するための、請求項1~7または18のいずれかに記載の組織足場。
【請求項20】
細胞が播種された、請求項1~7または18のいずれかに記載の組織足場。
【請求項21】
細胞を足場に播種することを含む方法であって、前記足場が、請求項1~7または18のいずれかで定義されるとおりである、方法。
【請求項22】
足場を含む細胞培養物または組織培養物であって、前記足場が、請求項1~7または18のいずれかで定義されるとおりである、細胞培養物または組織培養物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、組織足場、例えばエラスチン系組織足場、およびこのような足場を形成するための方法に関する。
【背景技術】
【0002】
エラスチンは、結合組織、例えば皮膚、脂肪、肺、腱、靭帯、動脈または軟骨に見られる細胞外構造タンパク質である。その主な機能は、伸張または収縮後の組織の形状を保持することであり、耐荷重特性を有する(Banga,1966;Gray,1973)。インビボでは、エラスチンは、(ELN遺伝子によりコードされる)タンパク質トロポエラスチンのアセンブリおよび架橋を通じて、弾性繊維形成のプロセスにより形成される。
【0003】
トロポエラスチンは、典型的には、多くのGly、Val、AlaおよびPro残基(これらは、多くの場合、いくつかのアミノ酸の反復、例えばGly-Val-Gly-Val-Pro、Gly-Val-Pro-Gly-ValおよびGly-Val-Gly-Val-Ala-Proで存在する)を有する疎水性ドメインと、多くのLysおよびAla残基(これらは、架橋において重要である)を有する疎水性ドメインとからなる。トロポエラスチンの架橋によるエラスチンの形成は、リシルオキシダーゼにより促進される。
【0004】
エラスチンは、ヒトにおいて最も安定な常駐タンパク質の1つであり、74年間の半減期を有する。その優れた構造的および生物学的特性は、組織工学用途で注目されている(Daamenら、2007)。例えば、エラスチンは弾性を組織および臓器に提供し、弾性が最も重要である場所、例えば血管、靭帯、肺、皮膚において豊富である。しかしながら、エラスチンは非常に不溶性のタンパク質であるので、生体材料としてそれを使用することが依然として課題である(Leachら、2005)。
【0005】
この課題を克服するために、シュウ酸による加水分解後に得られる可溶性エラスチンの一形態であるα-エラスチンについて、多くの既存の戦略が開発されている。しかしながら、このプロセスは高価で時間がかかり、総収量は最小である。その結果として、足場へのその臨床応用は疑問がある。
【0006】
いくつかの研究では、不溶性エラスチンを他の材料、例えばコラーゲンと混合することが報告されている(Ryan and O’Brien,2015)。しかしながら、得られる足場は、コラーゲンそれ自体と比較して弱い機械的特性および変化した生物学的反応を有する。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、新規の経済的な生物学的に活性なエラスチン系材料およびそれらの製造方法を報告する。
【0008】
本発明は、エラスチン、例えば可溶化エラスチンを含む組成物を架橋することによる足場の形成に関する。
【0009】
本発明はまた、架橋エラスチンを含む組織足場に関する。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明によれば、組織足場を形成するための方法であって、可溶化エラスチンを含む組成物を架橋することを含む方法が提供される。
【0011】
本発明によれば、組成物を架橋することを含む方法であって、前記組成物が、エラスチンを可溶化し得る可溶化剤と接触されたエラスチンを含む方法が提供される。
【0012】
本発明によれば、a)エラスチンを、エラスチンを可溶化することができる可溶化剤と接触させること;およびb)工程a)において形成されたエラスチン組成物を架橋することを含む方法が提供される。
【0013】
本発明によれば、架橋可溶化エラスチンを含む組織足場が提供される。
【0014】
エラスチンは、天然源から抽出され得るかまたはそれに由来し得る。例えば、エラスチンは、哺乳動物供給源に由来し得る。哺乳動物供給源は、ウシ供給源、例えばウシ頸部靭帯またはヒト供給源であり得る。あるいは、エラスチンは、組換えエラスチンであり得る。
【0015】
エラスチンは、鎖間架橋により、非常に不溶性のタンパク質である。しかしながら、それは可溶化され得る(Daamen(2007))。可溶化エラスチンは、加水分解エラスチンまたはエラスチンペプチドとも称される。
【0016】
エラスチンを可溶化する一般的な方法は、それを0.25Mシュウ酸により100℃で処理するか、またはそれを80%エタノール中1M KOHで処理することを含む。加えて、弾性繊維を分解することができるタンパク質分解酵素(多形核白血球由来のセリン型エラスターゼおよび単球/マクロファージ起源のいくつかのメタロエラスターゼを含む)もまた、可溶化エラスチンをもたらす。エラスチンの加水分解形態の例は、以下の表に示されている。
【表A】
【0017】
シュウ酸加水分解後に得られるエラスチンペプチドを、酢酸でpH5.5に設定された10mM NaClを含む10mM酢酸ナトリウムへの懸濁後にコアセルベートし、37℃で加熱および遠心分離し得る。この結果として、2つの画分(α-エラスチン(粘性コアセルベート)およびβ-エラスチン(上清中))が形成される。
【0018】
先行技術は、他の成分、例えばコラーゲンと組み合わせて不溶性エラスチンを使用することに主に焦点を当てているか、またはシュウ酸による加水分解およびβ-エラスチンからの分離後に得られるα-エラスチン可溶性成分に焦点を当てている。しかしながら、驚くべきことに、本発明者らは、エラスチンの可溶化およびその可溶化工程の生成物の架橋が、有望で費用効果の高い組織足場を形成し得ることを見出した。このため、α-エラスチンおよびβ-エラスチンの分離または単離など、エラスチンの画分を分離または単離する必要がない。したがって、架橋された可溶化エラスチンは、粗製または未分画のものであると考えられ得る。有利なことに、本発明は、α-エラスチン画分の単離に関連する時間、不都合および費用を回避し得る。α-エラスチンおよびβ-エラスチンを分離する工程が回避され得るので、本発明はまた、総収量を改善し得る。
【0019】
本発明によれば、組織足場を形成するための方法であって、未分画可溶化エラスチンを含む組成物を架橋することを含む方法が提供される。
【0020】
本発明によれば、エラスチンを含む組成物を架橋することを含む方法であって、前記エラスチンが未分画のものであり、前記エラスチンが可溶化エラスチンを含む方法が提供される。前記方法は、エラスチンを、エラスチンの少なくとも一部を可溶化することができる可溶化剤と接触させ、次いで、得られた組成物を架橋することを伴い得る。
【0021】
したがって、未分画エラスチンは、1つまたはそれを超えるエラスチン画分が精製、単離、分離もしくは精錬されていない粗製エラスチンであり得るか、またはエラスチンと可溶化剤との接触から生じる1つまたはそれを超える異なる形態のエラスチンであり得る。例えば、1つもしくはそれを超える可溶性エラスチン画分が単離されなくてもよいし、または可溶性エラスチン画分から不溶性エラスチン画分が分離されなくてもよい。その結果として、組成物は、異なる可溶性形態のエラスチンを含み得る。組成物は、可溶化されていないエラスチンを含み得る。したがって、組成物は、可溶性形態および不溶性形態の両方のエラスチンを含み得る。例えば、可溶化剤との接触後、エラスチンは遠心分離に供されなくてもよい。可溶化剤との接触後、エラスチンは、分画、精製、単離、分離または精錬されなくてもよい。
【0022】
驚くべきことに、本発明者らは、エラスチンの分画を必要とせずに、有効なエラスチン系組織足場を形成し得ることを認識し、エラスチンの1つまたはそれを超える画分が単離され、続いて、単離された画分を使用して足場を形成する。例えば、本発明は、α-エラスチン画分の単離および利用を必要としなくてもよい。有利なことに、本発明は、エラスチンを分画するための従来の工程、例えば遠心分離および/またはコアセルベーションを必要としなくてもよい。また有利なことに、可溶性エラスチンおよび不溶性エラスチンの両方を含む組成物が使用され得る。これは、公知の方法よりも大きな利益を提供し得る。例えば、米国特許出願公開第2004/0136977号は、遠心分離を伴う水溶性エラスチンの単離を必要とする。日本特許出願公開2014183886号は、遠心分離を伴う不溶性エラスチンの一連の酸分画を必要とする。
【0023】
本発明は、例えば、リジルオキシダーゼによるトロポエラスチンの架橋によるトロポエラスチンの架橋を含む方法、またはこのような方法の生成物を包含しない。
【0024】
本発明の方法は、エラスチンを可溶化する工程を含み得る。これは、エラスチンを、エラスチンの少なくとも一部を可溶化することができる可溶化剤と接触させることを伴い得る。このため、本発明は、a)エラスチンを可溶化して、未分画可溶化エラスチンを含む組成物を形成すること;b)工程a)から得られた生成物を架橋することを含む方法を提供し得る。
【0025】
本発明によれば、a)エラスチンを可溶化して、可溶化エラスチンを含む組成物を形成すること;b)工程a)から得られた組成物を架橋することを含む方法が提供される。
【0026】
本発明によれば、a)エラスチンを可溶化剤と接触させて、可溶化エラスチンを含む組成物を形成すること;b)工程a)から得られた組成物を架橋することを含む方法が提供される。
【0027】
本発明によれば、可溶化剤と接触されたエラスチンを架橋することを含む方法であって、前記エラスチンが分画されていない方法が提供される。
【0028】
本発明によれば、エラスチンを含む組成物を架橋することを含む方法であって、前記エラスチンが、未分画のものであってかつ可溶化エラスチンを含む、方法が提供される。
【0029】
本発明によれば、架橋未分画可溶化エラスチンを含む組織足場が提供される。
【0030】
本発明によれば、架橋エラスチンを含む組織足場であって、架橋エラスチンを含む前記組成物が、可溶化エラスチンを含むエラスチンを含む製剤を架橋することにより形成されたものであり、前記エラスチンが分画されていない組織足場が提供される。
【0031】
本発明によれば、架橋エラスチンを含む組織足場であって、前記エラスチンが可溶化剤と接触されており、分画されていない組織足場が提供される。
【0032】
足場は、1~20%(w/v)エラスチン、例えば5~15%(w/v)エラスチン、例えば約10%(w/v)エラスチンを含む溶液から調製され得る。
【0033】
好ましくは、エラスチンは、酸、最も好ましくはシュウ酸との接触により可溶化されるかまたは可溶化されている。
【0034】
本発明によれば、エラスチンを可溶化する方法であって、エラスチンを、エラスチンの少なくとも一部を可溶化することができる可溶化剤と接触させることを含む方法が提供される。可溶化剤は、好ましくは酸、より好ましくはシュウ酸である。
【0035】
本発明によれば、エラスチンを可溶化する方法であって、エラスチンを酸、好ましくはシュウ酸と接触させることを含む方法が提供される。
【0036】
特に好ましい実施形態では、エラスチンは、100℃未満の温度、好ましくは50℃未満またはそれに等しい温度、より好ましくは15~30℃の温度、例えば室温で可溶化される。
【0037】
酸、好ましくはシュウ酸は、1M未満、好ましくは0.75M未満、より好ましくは0.5Mまたは0.5M未満であり得る。酸は、少なくとも0.25Mであり得る。例えば、酸は、0.2M~1M、例えば0.25M~0.75Mであり得る。
【0038】
本明細書に記載されるエラスチンを可溶化する方法は、シュウ酸を使用する確立されたエラスチン可溶化方法とは対照的である。シュウ酸を使用する従来のエラスチン可溶化方法は、100℃で行われる(例えば、Daamenら、(2007)を参照のこと)。しかしながら、本発明者らは、本発明の足場を形成するための有効な可溶化が100℃未満の温度で起こり得ることを見出した。理論に縛られるものではないが、本発明者らは、100℃未満の温度におけるシュウ酸による処理が、α-およびβ-エラスチンを含む混合物の形成をもたらし得ると仮定した。この場合、本発明の方法は、α-およびβ-エラスチンの架橋を含み得、本発明の足場は、架橋α-およびβ-エラスチンを含み得る。有利なことに、本発明者らは、α-エラスチン画分を単離するなど、可溶化画分を分離する必要がないこと、および可溶化エラスチンの粗混合物または未分画混合物を使用して、有効な足場を形成し得ることを認識した。
【0039】
未分画可溶化エラスチンなどの可溶化エラスチンを含む組成物は、可溶化されていないいくつかのエラスチンを含み得ると認識される。したがって、組成物は、不溶性エラスチンおよび可溶性エラスチンの混合物を含み得る。
【0040】
したがって、本発明は、可溶性エラスチンおよび不溶性エラスチンを含む組成物を架橋することを含む方法を提供し得る。したがって、本発明は、架橋エラスチンを含む組織足場であって、前記エラスチンが可溶性エラスチンおよび不溶性エラスチンを含む組織足場を提供し得る。
【0041】
驚くべきことに、本発明者らは、有効な組織足場を取得するために、架橋すべきエラスチンの完全な可溶化が不要であり得ることを認識した。
【0042】
本発明によれば、不溶性エラスチンを含む組成物を架橋することを含む方法が提供される。
【0043】
本発明によれば、架橋不溶性エラスチンを含む組織足場が提供される。
【0044】
可溶化または酸との接触は、好ましくは、少なくとも30秒間、より好ましくは少なくとも1分間行われる。例えば、可溶化または酸との接触は、約1~3分間行われ得る。可溶化または酸との接触は、最大5分間行われ得る。これは、シュウ酸による従来のエラスチン処理(これは、典型的には約1時間行われる)とは対照的である(例えば、米国特許出願公開第2004/0136777号を参照のこと)。
【0045】
本発明によれば、エラスチンを酸、好ましくはシュウ酸と接触させることを含む方法が提供される。好ましくは、酸との接触は、100℃未満の温度、最も好ましくは50℃未満またはそれに等しい温度、より好ましくは15~30℃の温度、例えば室温または周囲温度で行われる。前記方法は、得られた生成物を架橋することをさらに含み得る。
【0046】
本発明によれば、組織足場を形成する方法であって、α-エラスチンおよびβ-エラスチンを含む組成物を架橋することを含む方法が提供され得る。
【0047】
本発明によれば、α-エラスチンおよびβ-エラスチンを含む架橋組成物を含む組織足場が提供され得る。
【0048】
架橋は、当業者に一般的に公知の多くの架橋剤または架橋技術、例えば化学的方法、放射線法およびデヒドロサーマル法のいずれか1つを使用して起こり得る。
【0049】
本明細書における「架橋」への言及は、共有結合的架橋に関する。好ましくは、架橋は、化学架橋剤を使用して非酵素的に達成される。
【0050】
架橋は、可溶化剤(例えば、シュウ酸などの酸)の存在下で起こり得る。このため、本発明は、エラスチン、可溶化剤および架橋剤を含む組成物を提供し得るかまたはそれを使用し得る。
【0051】
適切な化学架橋剤の例としては、カルボジイミドカップリング剤、例えばN-(3-ジメチルアミノプロピル)-N’-エチルカルボジイミド(EDC);N-ヒドロキシスクシンイミド(NHS)、アジドカップリング剤;ジイソシアネート架橋剤、例えばヘキサムエチレンジイソシアネート;エポキシド架橋剤、例えばエピクロルヒドリン、グリシジルエーテルおよびグリシジルアミン;ならびにアルデヒド架橋剤、例えばホルムアルデヒド、グルタルアルデヒドおよびグリオキサールが挙げられる。
【0052】
化学架橋剤は、N-(3-ジメチルアミノプロピル)-N’-エチルカルボジイミド(EDC)および/またはN-ヒドロキシスクシンイミド(NHS)を含み得る。
【0053】
化学架橋剤は、アルデヒド架橋剤、例えばホルムアルデヒド、グルタルアルデヒドおよびグリオキサールを含み得る。アルデヒド架橋剤は、改善された生体適合性を細胞外マトリックス組成物に提供するという利点を有し得る。好ましい実施形態では、アルデヒド架橋剤はグルタルアルデヒドである。架橋剤としてのグルタルアルデヒドの使用は、他のアルデヒドよりも迅速に最適架橋密度をもたらすという利点を提供し得、比較的高い密度の架橋を達成することもできる。好ましい例では、化学架橋剤はグルタルアルデヒドである。
【0054】
架橋工程の間、架橋剤は、約0.2~5%(v/v)、例えば0.5~3%(v/v)、好ましくは0.5~1.5%(v/v)、例えば1%(v/v)の量で存在し得る。
【0055】
架橋剤がグルタルアルデヒドまたはN-(3-ジメチルアミノプロピル)-N’-エチルカルボジイミド(EDC)および/またはN-ヒドロキシスクシンイミド(NHS)を含む場合、本発明の方法は、毒性軽減剤(例えば、リジンまたは水素化ホウ素ナトリウム)の添加をさらに含み得る。
【0056】
可溶化エラスチンを含む組成物を架橋する工程は、20℃~50℃、好ましくは約37℃の温度で行われ得る。架橋剤との接触またはインキュベーションは、典型的には、1分間~24時間(例えば、4時間)実施され得る。例えば、架橋は、約1時間または少なくとも1時間行われ得る。架橋は、CO、例えば少なくとも2%CO(体積で)、例えば2~10%CO(体積で)または約5%CO(体積で)の存在下で行われ得る。
【0057】
本発明によれば、エラスチンと、エラスチンを可溶化するための可溶化剤と、架橋剤とを含む組成物が提供される。
【0058】
本発明の方法は、可溶化エラスチンを含む組成物をキャストすることを含み得る。キャストは、可溶化エラスチンを含む組成物を所定の形状の型に適用することを含み得る。キャストは、架橋前またはその間に起こり得る。
【0059】
本発明の方法は、架橋後に凍結乾燥を含むことが好ましい。例えば、組成物を-80℃で、好ましくは一晩凍結し、次いで、約48時間凍結乾燥させ得る。好ましくは、凍結乾燥は少なくとも24時間行われる。
【0060】
本発明によれば、架橋エラスチンを含む組成物を凍結乾燥させることを含む方法が提供される。本発明によれば、可溶化架橋エラスチンを含む組成物を凍結乾燥させることを含む方法が提供される。例えば、架橋未分画可溶化エラスチンを含む組成物を凍結乾燥させることを含む方法が提供される。
【0061】
本発明によれば、組織足場を形成する方法であって架橋エラスチンを含む組成物を凍結乾燥させることを含み、架橋エラスチンを含む前記組成物が、可溶化エラスチンを含む未分画のエラスチンを含む製剤を架橋することにより形成されたものである方法が提供される。
【0062】
本発明によれば、a)エラスチンを可溶化すること;b)工程a)から得られた可溶化エラスチンを架橋すること;およびc)工程b)の生成物を凍結乾燥させることを含む方法が提供される。
【0063】
本発明によれば、a)エラスチンを可溶化すること;b)工程a)から得られた未分画可溶化エラスチンを架橋すること;およびc)工程b)の生成物を凍結乾燥させることを含む方法が提供される。
【0064】
本発明によれば、a)エラスチンを、エラスチンを可溶化することができる可溶化剤と接触させて、可溶化エラスチンを含む組成物を形成すること;およびb)工程a)において生産された組成物を架橋すること;およびc)工程b)の生成物を凍結乾燥させることを含む方法が提供される。
【0065】
本発明によれば、凍結乾燥架橋エラスチンを含む組織足場が提供される。
【0066】
本発明によれば、凍結乾燥架橋可溶化エラスチンを含む組織足場が提供される。
【0067】
本発明によれば、凍結乾燥架橋未分画可溶化エラスチンを含む組織足場が提供される。
【0068】
本発明によれば、架橋α-エラスチンおよびβ-エラスチンを含む組成物を凍結乾燥させることを含む方法が提供され得る。
【0069】
本発明によれば、凍結乾燥架橋α-エラスチンおよびβ-エラスチンを含む組織足場が提供され得る。
【0070】
本発明によれば、凍結乾燥架橋エラスチンを含む組織足場であって、前記架橋エラスチンが、可溶性エラスチンおよび不溶性エラスチンを含む組成物を架橋することにより形成されたものである組織足場が提供され得る。
【0071】
本発明の方法は、洗浄またはクリーニングして、可溶化および/または架橋に関与する薬剤を除去することを含み得る。洗浄は、好ましくは、可溶化後に行われる。特に架橋剤がアルデヒド架橋剤を含む場合、これは、還元剤との接触または還元剤による洗浄を含み得る。洗浄は、超音波クリーニングを含み得る。例えば、足場は、超音波クリーナーで水を使用して洗浄され得る。
【0072】
還元剤の存在は架橋プロセスを安定化し、増強された生物学的有効性を有する足場をもたらし得る。さらに、還元剤の存在は、組成物からの非還元架橋剤の浸出により引き起こされる細胞毒性効果を減少させる可能性がある。
【0073】
適切な還元剤の例としては、水素化ホウ素ナトリウムまたは類似のカルボニル基反応性を有する薬剤が挙げられる。還元剤は、典型的には、0.1%w/v~10%w/v(例えば、約1%w/v)の量で添加され得る。
【0074】
洗浄して、可溶化および/または架橋に関与する薬剤を除去する工程は、少なくとも5時間、好ましくは少なくとも8時間行われ得る。例えば、シュウ酸および未結合グルタルアルデヒドを除去するために、足場は、還元剤(例えば、水素化ホウ素ナトリウム)で約8時間洗浄され得る。好ましくは、足場は、還元剤と接触されながら撹拌または振盪される。
【0075】
還元剤との接触後、水、例えば蒸留水および/またはエタノールで洗浄することを伴い得るさらなる洗浄工程があり得る。これは、残存する未結合架橋剤またはシュウ酸を除去するために役立ち得る。
【0076】
本発明によれば、a)エラスチンを可溶化すること;b)工程a)から得られた可溶化エラスチンを含む組成物を架橋すること;c)工程b)の生成物を凍結乾燥させること;およびd)工程c)の生成物を洗浄することを含む方法が提供される。
【0077】
本発明によれば、a)エラスチンを可溶化すること;b)工程a)から得られた未分画可溶化エラスチンを含む組成物を架橋すること;c)工程b)の生成物を凍結乾燥させること;およびd)工程c)の生成物を洗浄することを含む方法が提供される。
【0078】
本発明によれば、a)エラスチンを、エラスチンを可溶化することができる可溶化剤と接触させること;b)工程a)から得られた組成物を架橋すること;c)工程b)から得られた生成物を凍結乾燥させること;およびd)工程c)の生成物を洗浄することを含む方法が提供される。
【0079】
洗浄後、足場は滅菌され得る。いくつかの実施形態では、滅菌は、足場をエタノールおよびPBSで洗浄することを伴う。
【0080】
本発明によれば、a)エラスチンを可溶化すること;b)工程a)から得られた組成物を架橋すること;c)工程b)の生成物を凍結乾燥させること;d)工程c)の生成物を洗浄すること;およびe)工程d)の生成物を滅菌することを含む方法が提供される。
【0081】
本発明によれば、a)エラスチンを可溶化すること;b)工程a)から得られた未分画可溶化エラスチンを含む組成物を架橋すること;c)工程b)の生成物を凍結乾燥させること;d)工程c)の生成物を洗浄すること;およびe)工程d)の生成物を滅菌することを含む方法が提供される。
【0082】
本発明によれば、a)エラスチンを可溶化剤と接触させること;b)a)により生産された組成物を架橋すること;c)工程b)の生成物を凍結乾燥させること;d)工程c)の生成物を洗浄すること;およびe)工程d)の生成物を滅菌することを含む方法が提供される。
【0083】
好ましくは、本発明の足場は滅菌されている。
【0084】
本発明によれば、本発明による方法により取得されたかまたは取得可能な組織足場が提供される。
【0085】
いくつかの実施形態では、本発明の足場はヒドロゲルではない。
【0086】
本発明の方法および足場はまた、エラスチン誘導体または断片、例えば合成エラスチン配列系材料またはエラスチン様ペプチド(ELP)に適用可能であると想定される。ELPは、重要な反復エラスチン配列に基づく生体高分子である。例えば、ELPは、Val、Glyおよび/またはProを含むペンタペプチドまたはヘキサペプチドなどの反復ペプチドを有し得る。ELPは、ペンタペプチド反復VPGXG(Xは、プロリン以外の任意のアミノ酸(例えば、ValまたはIle)である)を使用して、エラスチンの弾性特性を有し得る(Zhangら、(2015),Daamen(2007))。
【0087】
本発明によれば、エラスチン誘導体または断片を架橋することを含む方法が提供され得る。
【0088】
本発明によれば、架橋エラスチン誘導体または断片を含む組織足場が提供され得る。
【0089】
本発明によれば、架橋エラスチン誘導体または断片を凍結乾燥させることを含む方法が提供され得る。
【0090】
本発明によれば、凍結乾燥架橋エラスチン誘導体または断片を含む組織足場が提供され得る。
【0091】
本発明の足場は、他の細胞外マトリックス成分を含み得る。
【0092】
本発明の足場は、コラーゲンを含み得る。その結果として、本発明によれば、エラスチンおよびコラーゲンを含む足場が提供される。
【0093】
本発明の足場は、フィブリンを含み得る。その結果として、本発明によれば、エラスチンおよびフィブリンを含む足場が提供される。
【0094】
本発明の足場は、コラーゲンおよびエラスチンを含み得る。その結果として、本発明によれば、エラスチン、コラーゲンおよびフィブリンを含む足場が提供される。
【0095】
好ましくは、エラスチンは可溶化されている。好ましくは、エラスチンは、未分画可溶化エラスチンである。エラスチンは未分画のものであり得る。エラスチンは、可溶化エラスチンを含み得る。エラスチンは、不溶性エラスチンを含み得る。
【0096】
本発明の足場は、エラスチンを含む組成物を、a)コラーゲンを含む組成物および/またはb)フィブリンを含む組成物と混合することにより形成され得る。
【0097】
コラーゲンを含有する組成物は、コラーゲンヒドロゲルを含み得る。例えば、コラーゲンヒドロゲルは、標準的な手順により形成され得る。80%ラット尾コラーゲンタイプIおよび10×最小必須培地を使用して、コラーゲンヒドロゲルを調製し、5Mおよび1M水酸化ナトリウムを使用して中和し、10×DMEM(ダルベッコ改変イーグル培地)を添加し得る。
【0098】
フィブリンを含有する組成物は、フィブリンゲルを含有し得る。フィブリンゲルは、標準的な手順により形成され得る。1mlのPBSに溶解した2%フィブリノゲンを用いてフィブリンゲルを調製し、次いで、0.1M CaClと共に1%トロンビンを添加し得る。
【0099】
本発明によれば、エラスチンを含む組成物(好ましくは、未分画可溶化エラスチンを含む組成物)を、コラーゲン(好ましくはコラーゲンヒドロゲル)を含む組成物および/またはフィブリン(好ましくはフィブリンゲル)を含む組成物と混合することを含む方法が提供される。
【0100】
本発明によれば、エラスチン(好ましくは未分画可溶化エラスチン)、コラーゲンおよび/またはフィブリンを含む組成物が提供される。組成物は、架橋剤を含み得る。
【0101】
エラスチンを含む組成物は、好ましくは、架橋工程の前に、コラーゲンを含む組成物および/またはフィブリンを含む組成物と混合される。その結果として、得られる足場は、架橋エラスチン、架橋コラーゲンおよび/または架橋フィブリンを含み得る。
【0102】
本発明によれば、エラスチンと;エラスチンを可溶化するための可溶化剤と;架橋剤と;フィブリンおよび/またはコラーゲンとを含む組成物が提供される。
【0103】
架橋は、本明細書で既に記載されているように進行し得る。例えば、架橋剤はグルタルアルデヒドを含み得、COの存在下で行われ得る。架橋剤は、エラスチン、コラーゲンおよび/またはフィブリノゲンを含む組成物に添加され得る。あるいは、架橋剤は、組成物を混合する前に、エラスチンを含む組成物、コラーゲンを含む組成物および/またはフィブリノゲンを含む組成物に添加され得る。例えば、エラスチンを含む組成物は、架橋剤を含み得る。エラスチンを含む組成物中の架橋剤の濃度は、エラスチンを含む組成物を、コラーゲンを含む組成物および/またはフィブリンを含む組成物と混合する場合に、濃度が、架橋が起こるために望ましいレベル(例えば、約1%v/v)であるようなレベル(例えば、3体積%)であり得る。
【0104】
架橋の前に、組成物は、本明細書に記載されるようにキャストされ得る。
【0105】
架橋が行われたら、足場は、本明細書に記載されるように凍結乾燥および/または洗浄され得る。
【0106】
エラスチン、コラーゲンおよび/またはフィブリノゲンの相対量は、異なる構造的特性、機械的特性および生分解特性を得られる足場に付与するように調整され得る。例えば、高い割合のエラスチンを含有する足場は、低い割合のエラスチンを有する足場と比較して高密度の構造ネットワーク、高い弾性および遅延した分解をもたらし得る。フィブリンの量の増加は機械的強度を増加させ、生分解速度を加速させ得る。コラーゲンの量の増加もまた、生分解速度を加速させ得る。エラスチン、コラーゲンおよび/またはフィブリノゲンの特定の組み合わせの使用はまた、足場の血管新生特性の増強を可能にし得る。
【0107】
本発明によれば、医薬として使用するための本発明の組織足場が提供される。
【0108】
本発明によれば、組織治癒、再生または修復を促進する方法であって、本発明の組織足場を患者に適用することを含む方法が提供される。例えば、足場は、創傷治癒または組織移植片(例えば、皮膚移植片)において使用され得る。本発明の足場は、軟組織再生または修復、例えば皮膚再生または血管組織再生に特に適用可能であり得る。例えば、足場は、脂肪、皮膚、血管移植片、心臓弁または肺組織工学において使用され得る。
【0109】
本発明によれば、組織治癒、再生または修復の促進において使用するための本発明の組織足場が提供される。
【0110】
本発明によれば、組織治癒、再生または修復を促進するための医薬の製造における本発明の組織足場の使用が提供される。
【0111】
本発明は、図面を参照して本明細書に実質的に記載される方法を提供し得る。
【0112】
本発明は、図面を参照して本明細書に実質的に記載される組織足場を提供し得る。
【0113】
本発明によれば、細胞が播種された本明細書に記載される足場が提供される。足場は、インビトロまたはエクスビボのものであり得る。細胞は、幹細胞、例えばヒト脂肪由来幹細胞(hADSC)であり得る。
【0114】
本発明によれば、本発明の足場に細胞を播種することを含む方法が提供される。
【0115】
本発明によれば、本明細書で定義される足場を含む細胞または組織培養物が提供され得る。
【0116】
本発明の足場は、120μm未満の平均細孔径を有し得る。本発明の足場は、100μm未満の平均細孔径を有し得る。本発明の足場は、10μmまたはそれを超える平均細孔径を有し得る。本発明の足場は、20μmまたはそれを超える平均細孔径を有し得る。例えば、本発明の足場は、10~120μmの平均細孔径を有し得る。本発明の足場は、20~100μmの平均細孔径を有し得る。
【0117】
細孔径分布は、コラーゲンおよび/もしくはフィブリンをエラスチンに含めることにより、または各成分の相対量を変更することにより変化され得る(例えば、図14および15を参照のこと)。
【0118】
本発明の足場は、80μmまたはそれ未満のモード細孔径を有し得る。例えば、モード細孔径は、60μmまたはそれ未満であり得る。モード細孔径は、1μmまたはそれを超え得る、例えば10μmもしくはそれを超え得るかまたは20μmもしくはそれを超え得る。例えば、モード細孔径は、1~80μm、例えば1~60μm、20~60μmまたは1~60μmの範囲であり得る。
【0119】
一例では、モード細孔径は、1~20μmの範囲であり得る。別の例では、モード細孔径は、20~40μmの範囲であり得る。一実施形態では、モード細孔径は、40~60μmの範囲であり得る。
【0120】
足場の特徴、例えば細孔径および孔隙率は、容易に利用可能な適切なソフトウェアを使用して計算され得る。例えば、ND(「Nearest Distance」)は、前記平均サイズ、および多孔質足場中の細孔とそれらの最近傍との間の距離を計算するために開発されたImageJプラグインである(Haeriら、(2015))を参照のこと)。DiameterJは、細孔パラメータを測定するために使用され得るImageJプラグインの別の例である。足場の顕微鏡画像(例えば、SEM画像)は、インプットとして使用され得る。
【0121】
本発明の足場の全孔隙率は、少なくとも25%であり得る。例えば、全孔隙率は、少なくとも40%であり得る。
特定の実施形態では、例えば、以下が提供される:
(項目1)
組織足場を形成するための方法であって、エラスチンを含む組成物を架橋することを含み、前記エラスチンが、未分画のものであってかつ可溶化エラスチンを含む、方法。
(項目2)
エラスチンを可溶化する工程を含む、項目1に記載の方法。
(項目3)
組織足場を形成するための方法であって、未分画可溶化エラスチンを含む組成物を架橋することを含む、方法。
(項目4)
エラスチンを可溶化して、未分画可溶化エラスチンを含む組成物を形成する工程を含む、項目3に記載の方法。
(項目5)
シュウ酸との接触により、前記エラスチンが可溶化されるかまたは可溶化されている、先行するいずれかの項目に記載の方法。
(項目6)
前記エラスチンが、100℃未満の温度で可溶化されるかまたは可溶化されている、先行するいずれかの項目に記載の方法。
(項目7)
前記エラスチンを可溶化する前記工程が、50℃未満またはそれに等しい温度で行われるかまたは行われている、項目6に記載の方法。
(項目8)
前記エラスチンを可溶化する前記工程が、15~30℃の温度で行われるかまたは行われている、項目7に記載の方法。
(項目9)
架橋される前記組成物が不溶性エラスチンを含む、先行するいずれかの項目に記載の方法。
(項目10)
組織足場を形成するための方法であって、可溶性エラスチンおよび不溶性エラスチンを含む組成物を架橋することを含む、方法。
(項目11)
架橋される前記組成物がコラーゲンおよび/またはフィブリンを含む、先行するいずれかの項目に記載の方法。
(項目12)
未分画可溶化エラスチンならびにa)コラーゲンおよび/またはb)フィブリンを含む組成物を架橋することを含む、項目3もしくは項目4または項目3もしくは項目4に従属するいずれかの項目に記載の方法。
(項目13)
前記コラーゲンがコラーゲンヒドロゲルの形態である、項目11~12のいずれかに記載の方法。
(項目14)
前記フィブリンがフィブリンゲルの形態である、項目11~13のいずれかに記載の方法。
(項目15)
前記架橋が化学架橋を含む、先行するいずれかの項目に記載の方法。
(項目16)
前記架橋が、前記組成物をアルデヒド架橋剤と接触させることを含む、項目15に記載の方法。
(項目17)
前記アルデヒド架橋剤がグルタルアルデヒドである、項目16に記載の方法。
(項目18)
前記架橋が25℃~50℃の温度で行われる、先行するいずれかの項目に記載の方法。
(項目19)
前記架橋がCOの存在下で行われる、先行するいずれかの項目に記載の方法。
(項目20)
前記架橋が2~10%COの存在下で行われる、項目19に記載の方法。
(項目21)
前記架橋が1~24時間行われる、先行するいずれかの項目に記載の方法。
(項目22)
架橋未分画可溶化エラスチンを含む組成物を凍結乾燥させることを含む、項目3もしくは項目4または項目3もしくは項目4に従属するいずれかの項目に記載の方法。
(項目23)
可溶化および架橋後に、凍結乾燥が行われる、先行するいずれかの項目に記載の方法。
(項目24)
組織足場を形成する方法であって、架橋エラスチンを含む組成物を凍結乾燥させることを含み、必要に応じて、架橋エラスチンを含む前記組成物が、未分画のものであってかつ可溶化エラスチンを含むエラスチンを含む製剤を架橋することにより形成されたものである、方法。
(項目25)
架橋未分画可溶化エラスチンを含む組成物を凍結乾燥させることを含む、項目24に記載の方法。
(項目26)
洗浄して、可溶化および/または架橋に関与する薬剤を除去することを含む、先行するいずれかの項目に記載の方法。
(項目27)
凍結乾燥および洗浄することを含み、凍結乾燥後に前記洗浄が行われる、項目26に記載の方法。
(項目28)
洗浄して、可溶化および/または架橋に関与する薬剤を除去する前記工程が、還元剤で洗浄することを含む、項目26または項目27に記載の方法。
(項目29)
前記還元剤が、水素化ホウ素ナトリウムまたは類似のカルボニル基反応性を有する薬剤を含む、項目28に記載の方法。
(項目30)
洗浄して、可溶化および/または架橋に関与する薬剤を除去する前記工程が少なくとも5時間、好ましくは少なくとも8時間行われる、項目26~29のいずれかに記載の方法。
(項目31)
前記足場を滅菌することを含む、先行するいずれかの項目に記載の方法。
(項目32)
前記足場をエタノールと接触させることを含む、項目31に記載の方法。
(項目33)
a)エラスチン、前記エラスチンを可溶化することができる可溶化剤および架橋剤、またはb)エラスチンおよび架橋剤を含む組成物であって、前記組成物中の前記エラスチンが、未分画のものであってかつ可溶化エラスチンを含む、組成物。
(項目34)
未分画可溶化エラスチンおよび架橋剤を含む、組成物。
(項目35)
コラーゲンおよび/またはフィブリンを含む、項目33または項目34に記載の組成物。
(項目36)
項目1~32のいずれかに開示される方法により取得されたかまたは取得可能な組織足場。
(項目37)
架橋エラスチンを含む組織足場であって、前記架橋エラスチンが、未分画のものであってかつ可溶化エラスチンを含むエラスチンを含む組成物を架橋することにより形成されたものである、組織足場。
(項目38)
架橋未分画可溶化エラスチンを含む、組織足場。
(項目39)
架橋エラスチンを含む組織足場であって、前記架橋エラスチンが、可溶性エラスチンおよび不溶性エラスチンを含む組成物を架橋することにより形成されたものである、組織足場。
(項目40)
前記架橋エラスチンが、不溶性エラスチンを含む組成物を架橋することにより形成されたものである、項目37に記載の組織足場、または不溶性エラスチンを含む、項目38に記載の組織足場。
(項目41)
コラーゲンおよび/またはフィブリンを含む、項目37~40のいずれかに記載の組織足場。
(項目42)
凍結乾燥されている、項目37~41のいずれかに記載の組織足場。
(項目43)
滅菌されている、項目37~44のいずれかに記載の組織足場。
(項目44)
組織再生、組織治癒または組織修復を促進するための方法であって、項目36~43のいずれかに記載の組織足場を、それを必要とする患者に適用することを含む、方法。
(項目45)
軟組織再生または修復を促進するためのものである、項目44に記載の方法。
(項目46)
組織再生、組織治癒または組織修復の促進において使用するための、項目36~43のいずれかに記載の組織足場。
(項目47)
軟組織修復を促進するための、項目46に記載の使用のための組織足場。
(項目48)
エラスチンを可溶化するための方法であって、エラスチンをシュウ酸と100℃未満の温度で接触させることを含む、方法。
(項目49)
エラスチンをシュウ酸と50℃未満の温度、好ましくは15~30℃の温度で接触させることを含む、項目48に記載の方法。
(項目50)
前記エラスチンを前記酸と5分間またはそれ未満、好ましくは1~3分間接触させる、項目48または項目49に記載の方法。
(項目51)
エラスチンを可溶化するための方法であって、エラスチンをシュウ酸と5分間またはそれ未満接触させることを含む、方法。
(項目52)
前記エラスチンをシュウ酸と100℃未満の温度で接触させる、項目51に記載の方法。
(項目53)
エラスチンをシュウ酸と50℃未満の温度、好ましくは15~30℃の温度で接触させることを含む、項目52に記載の方法。
(項目54)
前記シュウ酸が0.2M~1Mである、項目48~53のいずれかに記載の方法。
(項目55)
項目48~54のいずれかに記載の方法により取得されたかまたは取得可能な組成物。
(項目56)
項目55で定義される組成物を架橋することを含む、方法。
(項目57)
i)エラスチン;ならびにii)コラーゲンおよび/またはフィブリンを含む組織足場であって、前記エラスチンが架橋されている、組織足場。
(項目58)
前記コラーゲンおよび/またはフィブリンが架橋されている、項目56に記載の組織足場。
(項目59)
前記エラスチンが可溶化エラスチンを含む、項目57または項目58に記載の組織足場。
(項目60)
前記エラスチンが不溶性エラスチンを含む、項目57~59のいずれかに記載の組織足場。
(項目61)
前記エラスチンが未分画のものである、項目57~60のいずれかに記載の組織足場。
(項目62)
i)エラスチン、ii)架橋剤;ならびにiii)フィブリンおよび/またはコラーゲンを含む、組成物。
(項目63)
前記エラスチンが可溶化エラスチンを含む、項目61に記載の組成物。
(項目64)
前記エラスチンが未分画エラスチンである、項目62~63のいずれかに記載の組成物。
(項目65)
エラスチンを可溶化するための可溶化剤を含む、項目62~64のいずれかに記載の組成物。
(項目66)
i)エラスチンならびにii)コラーゲンおよび/またはフィブリンを含む組成物を架橋することを含む、方法。
(項目67)
前記エラスチンが未分画のものである、項目66に記載の方法。
(項目68)
前記エラスチンが可溶化エラスチンを含む、項目66または項目67に記載の方法。
(項目69)
前記エラスチンが不溶性エラスチンを含む、項目66~68のいずれかに記載の方法。
(項目70)
組織治癒、再生または修復の促進において使用するための、項目57~60のいずれかに記載の組織足場。
(項目71)
組織再生、組織治癒または組織修復を促進するための方法であって、項目57~61のいずれかに記載の組織足場を、それを必要とする患者に適用することを含む、方法。
(項目72)
細胞が播種された、項目36~43または57~61のいずれかに記載の組織足場。
(項目73)
細胞を足場に播種することを含む方法であって、前記足場が、項目36~43または57~61のいずれかで定義されるとおりである、方法。
(項目74)
足場を含む細胞または組織培養物であって、前記足場が、項目36~43または57~61のいずれかで定義されるとおりである、細胞または組織培養物。
【0122】
本発明の例は、添付の図面を参照してほんの一例として記載される。
【図面の簡単な説明】
【0123】
図1図1は、不溶性エラスチン(A)を0.5Mシュウ酸と混合し(B)、1%GTAで架橋し、37℃で1時間インキュベートし(C)、-80℃で一晩凍結し(D)、48時間凍結乾燥させた(E)エラスチン足場製造プロセスを示す;
図2図1は、架橋剤なし(A)または架橋剤あり(B)で製造した足場を示す;
図3図2は、PBS中で28日経過後における架橋剤なし(A)および架橋剤あり(B)の足場安定化研究を示す;
図4図3は、足場上で成長する脂肪由来幹細胞(ADSC)に関する1(A)、3(B)および7日目(C)のlive/deadアッセイを示し、緑色の点は生細胞を示す;
図5図4は、1、3および7日目におけるalamar blueを使用した細胞増殖アッセイを示す;
図6図6は、エラスチン足場の走査型電子顕微鏡(SEM)画像を示す;
図7図7は、異なる複合足場(3A=コラーゲン/エラスチン/フィブリン2:1:1;3B=エラスチン/コラーゲン/フィブリン2:1:1;3C=フィブリン/コラーゲン/エラスチン2:1:1;3D=フィブリン/コラーゲン/エラスチン1:1:1)に関する1、3および7日目のlive/deadアッセイを示す;
図8図8は、複合足場(3A=コラーゲン/エラスチン/フィブリン2:1:1;3B=エラスチン/コラーゲン/フィブリン2:1:1;3C=フィブリン/コラーゲン/エラスチン2:1:1;3D=フィブリン/コラーゲン/エラスチン;1:1:1)に関する細胞増殖アッセイ(alamar blue活性)を示す;
図9図9は、個々の各組み合わせA)3A=コラーゲン/エラスチン/フィブリン2:1:1、B)3B=エラスチン/コラーゲン/フィブリン2:1:1、C)3C=フィブリン/コラーゲン/エラスチン2:1:1、D)3D=フィブリン/コラーゲン/エラスチン1:1:1のフィブリルネットワークおよび細孔構造の差異を示すSEM画像を示す;
図10図10は、0秒(A)、4秒(B)、9秒(C)時点のエラスチン足場のぬれ性および水接触角毎秒測定(D)を示す;
図11図11は、エラスチン系足場の水接触角毎秒測定を示す;
図12図12は、一定期間にわたるエラスチン足場の加速分解プロファイルを示す;
図13図13は、エラスチン系複合足場の加速分解プロファイルを示す;
図14図14は、エラスチン足場のSEM画像(50倍および1000倍)および0~120+μmの細孔%を示す;
図15図15は、エラスチン系複合足場の細孔径パターンを示す;
図16図16は、エラスチン足場の機械的試験を示す:試験前足場(A)、試験後足場(B)、足場の応力分布(C)およびエラスチン足場の破壊強度(D)(***は、p<0.0001の統計的有意性を示す);
図17図17は、エラスチン系複合足場の機械的特性を示す;
図18図18は、胚(ED)12日目のエラスチン足場の絨毛尿膜(CAM)の発達(A)、総血管面積(B)、CAM分析のための処理画像(C)および分枝点の数(D)を示す;
図19図19は、エラスチン系複合足場の血管面積(%)を示す;
図20図20は、エラスチン足場の遺伝子発現プロファイルを示す;
図21図21は、エラスチン系複合足場の遺伝子発現プロファイルを示す;
図22図22は、エラスチン/コラーゲン足場とエラスチン/フィブリン足場との間の膨張比の差異を示す;
図23図23は、エラスチン/コラーゲン足場とエラスチン/フィブリン足場との間の分解プロファイルの差異を示す;
図24図24は、SEMを使用したエラスチン/コラーゲン足場およびエラスチン/フィブリン足場の微細構造を示す;
図25図25は、エラスチン/コラーゲン足場およびエラスチン/フィブリン足場の細孔径分布を示す;
図26図26は、エラスチン/コラーゲン足場およびエラスチン/フィブリン足場のlive/deadアッセイの結果を示す;ならびに
図27図27は、12日目のエラスチン/コラーゲン足場およびエラスチン/フィブリン足場の血管面積を示す。
【実施例0124】
実施例1-エラスチン足場
製造方法および材料
不溶性のエラスチン粉末は、Sigmaから入手した(エラスチンの供給源は、ウシ頸部靭帯に由来していた)(図1A)。100mgの不溶性エラスチン粉末を1mlの(新たに調製した)0.5Mシュウ酸(C)と室温で混合した(図1B)。
【0125】
タンパク質を架橋するために、ホモ二官能性架橋剤である1%グルタルアルデヒド(GTA)(v/v)を溶液に添加した(図1C)。溶液を24ウェルプレートのウェルにキャストし、37℃、5%COで1時間インキュベートした(図1C)。
【0126】
混合物を-80℃で一晩凍結し(図1D)、48時間凍結乾燥させて、足場を形成した(図1E)。
【0127】
製造した足場を室温にし、pH=10.4の0.1Mグリシン緩衝液で洗浄し(各15分間の2回の洗浄)、トリス-グリシン緩衝液で15分間洗浄した。過剰のシュウ酸および未結合グルタルアルデヒドを除去するために、足場をシェーカー上、0.1%w/v水素化ホウ素ナトリウム(NaBH)(還元剤)で約8時間洗浄した。
【0128】
続いて、足場を蒸留温水(60℃)で15分間洗浄し、蒸留水でそれぞれ30分間にわたって2回洗浄して、足場から残存未結合グルタルアルデヒドを除去した。
【0129】
滅菌のために、足場を70%エタノールで15分間洗浄し、次いで、PBSで洗浄した。
構造完全性および安定性
【0130】
製造した架橋エラスチン足場は損なわれていなかった(図2B)。しかしながら、非架橋足場は破壊/分解された(図2A)。
【0131】
PBS中、37℃および5%COで28日間の架橋ありおよび架橋なしの足場を比較することにより、インビトロ足場安定化研究を行った。PBS中では、28日後に非架橋足場(図3A)は解体/分解されたが、対照的に、架橋足場は損なわれていなかったことが見出された(図3B)。これは、この製造方法が一体的な足場を有効に生成したことを示している。
生物学的活性
【0132】
足場の有効性および生物学的活性を評価するために、脂肪由来幹細胞(ADSC)を標準的な培養条件下で培養した(すなわち、2%MesenPRO RS(商標)成長サプリメント(ThermoFisher,UK)および1%ペニシリン/ストレプトマイシン(Sigma-Aldrich,UK)を補充したMesenPRO RS(商標)基本細胞培養培地(ThermoFisher,UK)中、37℃、5%COにおけるインキュベーション)。50000個の細胞を直径6mmの足場に播種し、1、3および7日間培養した。それぞれlive/deadアッセイおよびalamar blueアッセイを使用して、細胞の生存および成長を研究した。ADSCは生存しており、1日目までに足場に接着し、3および7日目に非凝集形態を示した(図4)。加えて、細胞は非凝集挙動を維持し、紡錘体形態構造を示したが(図4)、これは、それらが、培養期間中にそれらの幹特性を保持していることを示唆している。
【0133】
alamar blue活性、細胞代謝アッセイにより、細胞増殖を定量的に測定し、1、3および7日目に分光光度計を使用して、570nmの吸光度を測定した(n=3/各時点)(図5)。
走査電子顕微鏡法
【0134】
超音波クリーナーによりエラスチン足場を蒸留水で3分間洗浄して塩を除去し、凍結乾燥機で24時間乾燥させた。足場をスタブにマウントし、真空下においてカーボンでスパッタコーティングした。5kVで作動させたPhilips XL 30 Field Emission SEMの二次電子検出器を使用して、すべての画像を取得し、平均作動距離は10mmであった。
【0135】
図6Aおよび6BのSEM画像は、エラスチン足場が均一な構造を有し、多孔質性であることを示す。図6Aは50倍の倍率であり、図2は250倍の倍率である。
考察
【0136】
本出願の優先日時点では、5mgのウシ頸部靭帯由来不溶性エラスチンは69.70イギリスポンド(E1625)であるのに対して、1mgの可溶性α-エラスチンは、商業供給業者のSigma(商標)からだと272.50イギリスポンド(E6527)かかるので、これは、非常に費用効果が高くて時間効率の良いエラスチン足場製造方法である。
【0137】
live/deadアッセイの結果により、細胞が紡錘体形態構造(これは、ADSCの特徴の1つである)を維持していたことが示された。本発明の範囲内のエラスチン足場を使用することにより、ADSCは接触阻害挙動(Majdら、2011)を有するので、本発明者らは、7日目まで接触阻害挙動を維持することができた(図4)。この細胞形態は、いかなる分化も受けずに、ADSC表現型および多能性特徴を維持し得る(Zhang and Kilian,2013)。alamar blue吸光度の増加は、一定の細胞増殖の指標である。これらの結果はまた、製造した足場が細胞に対して非毒性であったことを示している。
実施例2-エラスチン/コラーゲン/フィブリン足場
製造方法および材料
【0138】
チューブ1:エラスチン粉末(9.7%w/v)+0.5Mシュウ酸+3%グルタルアルデヒド(w/v)。
【0139】
チューブ2:コラーゲンヒドロゲル-80%ラット尾コラーゲンタイプI(v/v)(First Link,Birmingham,UK)および10%の10×最小必須培地(Invitrogen,Paisley,UK)を使用して調製し、5Mおよび1M水酸化ナトリウム(Sigma-Aldrich,Dorset,UK)を使用して中和し、10×DMEMを添加した。
チューブ3:フィブリンゲル-1mlのPBSに溶解した2%フィブリノゲン(w/v)を用いて調製し、原線維形成のために、0.1M CaCl2と一緒に1%トロンビン(w/v)を添加した。
【0140】
チューブ1~3を様々な比で混合し、キャストし、次いで、37℃、5%COで1時間インキュベートした。3本のチューブを混合した後の最終体積は常に1mlであり、次いで、これをキャストした。
・2:1:1(コラーゲン/エラスチン/フィブリン)の足場の場合、500μlのチューブ2を250μlのチューブ1および250μlのチューブ3と混合した(本明細書では足場3Aとも称される)。
・2:1:1(エラスチン/コラーゲン/フィブリン)の足場の場合、500μlのチューブ1を250μlのチューブ2および250μlのチューブ3と混合した(本明細書では足場3Bとも称される)。
・2:1:1(フィブリン/エラスチン/コラーゲン)の足場の場合、500μlのチューブ3を250μlのチューブ1および250μlのチューブ2と混合した(本明細書では足場3Cとも称される)。
・1:1:1の足場の場合、333.3μlの各チューブを混合し、キャストした(本明細書では足場3Dとも称される)。
【0141】
混合物を48時間凍結乾燥させた。
【0142】
洗浄:第1に、トリス-グリシン緩衝液による15分間の洗浄。第2に、過剰の未結合グルタルアルデヒドを除去するために、足場をシェーカー上、0.1%w/v水素化ホウ素ナトリウム(NaBH)(還元剤)で約8時間洗浄した。
生体適合性
【0143】
各複合足場の生体適合性を評価するために、1つの足場当たり50000個の脂肪由来幹細胞(ADSC)を播種し、最大7日間培養した。それぞれlive/deadアッセイおよびalamar blueアッセイを使用して、播種後1、3および7日目の細胞の生存および増殖を研究した。
【0144】
例として、3成分足場の結果は、ADSCが生存しており、足場に接着し(図7)、7日目まで増殖していた(図8)ことを示している。2成分足場(すなわち、エラスチンおよびコラーゲンまたはエラスチンおよびフィブリンを含む足場)において、同じ結果が観察された。
微細構造
【0145】
SEMを使用して、各足場の微細構造を研究した。3成分足場の結果(図9)により、各足場の組み合わせは、ユニークな超微細構造フィブリルネットワークおよび細孔径を有することが示された。2成分足場についても、同様の観察を行った。この構造変化は、ADSCの挙動および分化ならびに足場の生物力学的特性を変化させ得る(Ghasemi-Mobarakehら、(2015)を参照のこと)。
実施例3-水接触角(WCA)
【0146】
実験設定を開発することにより、エラスチン足場のぬれ性を調査し、30μLの蒸留水滴を各足場に分配し、いくつかの画像を0~5秒の時間間隔で撮影した。0秒の時間は、液体媒体(水)との初期接触時間とみなした。ヤング式を使用してWCAを計算し、水-足場境界から水滴の接線および周囲まで角度を測定した(Fu et al(2014))。計算WCAは、水-物質相互作用の実証である。
【0147】
0秒時点のエラスチンの計算WCAは102±7.75°であり、それは、4秒時点では73.88±5.90°に減少した。時間と共に、WCAは経時的に減少し続け、9秒時点で0°に達したが、これは、エラスチン足場の完全なぬれ性を示す(図10)。
【0148】
しかしながら、エラスチンを他の天然ポリマー、例えばフィブリンおよびコラーゲンと異なる比で組み合わせることにより、3A(0秒時点で68.18±3.38°から3秒時点で0°)、3C(0秒時点で67.46±4.51°から4秒時点で0°)のWCAは変化し、4秒までに完全なぬれ性を示した。興味深いことに、3B(0秒時点で112.34±5.37°から10秒時点で99.32±14.55°)および3D(0秒時点で120.18±5.36°から10秒時点で113.23±8.93)のWCA(図11)は、10秒時点であっても完全なぬれ性を示さなかったので疎水性であり、>90°の任意の材料については疎水性であると考えられるため、エラスチン、3Aおよび3Cの足場は親水性の性質を示し、水に対して高い凝集性を示し、9秒までに完全なぬれ性を獲得したが、足場3Bおよび3Dは親水性の性質を示し、水に対する凝集性が低かった。
実施例4-トリプシン分解の加速
【0149】
足場の安定性を測定するために、1×トリプシンを使用することにより、加速分解プロファイルを行った。XS205 Mettler Toledo(登録商標)デジタルスケールを使用して、足場の初期重量を測定した。足場を、1×トリプシンを含む24ウェルプレートに入れ、37℃および5%COでインキュベートした。各時点において、足場を蒸留水で洗浄し、凍結乾燥させ、重量を測定した。
【0150】
分解のパラメータとして、正味の重量変化を測定した。インビトロ加速分解の結果により、1日目からエラスチン足場は分解したことが示された(136.06±11.90mg)。5日目までに、重量は25%減少し、この傾向は継続し、42日目までに、足場は70%分解した(図12)。
【0151】
3A、3Cおよび3Dについて、エラスチン系コポリマーの分解プロファイルは同一であった。7日目までに、ほぼ40%の足場が分解し、このパターンは、足場のほぼ70%が分解した42日目まで継続した。しかしながら、50%のエラスチンを有する3Bは最も安定な足場であり、42日目までの分解は55%であった(図13)。これは、各組織タイプの再生特性に応じて、異なる分解パターンのエラスチン系足場を様々な組織工学用途に使用し得ることを示している。
実施例5-構造物性
【0152】
細孔径範囲および孔隙率を測定するために、64-bit Java(登録商標) 1.6.0(NIH,USA)にバンドルされているImageJを使用して、すべてのSEM画像を定量的に分析した。閾値関数を使用して、足場のすべての細孔を視覚化した。加えて、粒子分析関数である摩擦面積を使用した。
【0153】
足場の計算細孔径率は0~120+μmの範囲であり、28%の細孔は0~19μmの範囲であり、48%の細孔は20~79μmの範囲であり、残りの24%は80~120+μmの範囲であり(図14)、足場の全孔隙率は48%であった。
【0154】
エラスチンを他のポリマーと組み合わせた場合、3Aでは、70%の細孔は0~59内に存在し、残りの50%は60~120+μmの範囲であった。3Bでは、細孔の大部分(65%)は20~59μmの範囲であったが、3Cでは、細孔パターンは均一であり、55%の細孔は20~59μmの範囲であった。しかしながら、3Dでは、75%の細孔は0~59μmの範囲であった(図15)。
【0155】
細孔および孔隙率は、血管新生および栄養素の拡散において重要な役割を果たす。結果は、エラスチン系足場を様々な組織工学用途に使用し得ることを示唆している。
実施例6-機械的特性
【0156】
二軸バイオテスター(CellScale Biomaterials Testing,Canada)を使用して、エラスチン足場を破損まで試験した。このシステムは、細胞播種足場の試験中に足場の乾燥を防止するために、温度制御培地槽を有する2つの高性能アクチュエータを含む。リアルタイム応力分布を分析するために、試験結果の取得および処理のための時間同期高解像度CCDカメラを使用した。
【0157】
0日目のエラスチン足場の湿潤機械的特性は154±1mNであり、hADSC細胞を28日間播種した後、足場の強度は、185.5±1.5mNに有意に(p<0.0001)増加した(図16)。これは、足場に播種した細胞が、組織再構築機構により足場の機械的完全性を増大させることを実証している。
【0158】
3Aの計算破壊強度は74.33±3.78mNであり、3Bについては119.33±33.12mNであり、3Cについては103.34±20.23mNであり、3Dについては71.68±4.72mNである。これは、別のコポリマーを添加した後、エラスチンの機械的特性が減少することを実証している。これは、ポリマーの非フィブリル配置によるものであると考えられる(Lakeら、(2012))。
実施例7-血管新生
【0159】
商業的供給業者から病原体除去受精卵を入手し、38℃、湿度40~45%で3日間インキュベートした。胚3日目(ED3)に、ex ovoガラスボウルセットアップを構築して胚培養物を成長させ、37.5℃、3%COおよび80~85%の範囲の平均湿度で維持した(3)。ED9に、エラスチン足場を発達中の絨毛尿膜(CAM)に配置して血管の浸潤を可能にし、ED12に、ホームオフィスガイドラインにしたがって胚を安楽死させ、足場を切除し、4%グルタルアルデヒドで固定し、分析した。
【0160】
ED10の総計算血管面積は4.78±2.12%であり、ED11に、この血管面積は6.01±3.34%に増加したが、この増加は統計的に有意ではなかったが、多くの毛管網を有する2つの大きな血管を発達させた。この傾向は、引き続きED12において継続し、計算血管面積は8.34±2.67%であった(図18)。
【0161】
エラスチンをフィブリンおよびコラーゲンと異なる比で組み合わせた場合、12日目までに、総血管面積%が増加した。計算%血管面積は、3Aについては12.97±0.61%であり、3Bについては11.33±1.52%であり、3Cについては14.41±0.67%であり、3Dについては16.52±0.57であった(図19)。したがって、ポリマーの組み合わせを使用して、エラスチンの血管新生特性を増強することは有益であると思われる。CAMアッセイは、エラスチン系足場への血管浸潤を理解するためのエクスビボバイオリアクターとして機能した。足場は、0μm~120+μmの範囲の細孔分布を有し、血管浸潤の血管新生促進物質として作用することを考慮する。
実施例8-細胞分化
【0162】
エラスチン足場上のヒト脂肪由来細胞(hADSC)分化経路を理解するために、1mm当たり合計5×10個の4継代目hADSCを足場に播種した。1、7、14日目に、TRIzol(Invitrogen,Paisley,UK)法を使用することによりRNAを単離し、分光光度計(Spectronic Camspec Ltd,Garforth,UK)を使用することにより全RNA収量を定量した。Precision nanoscript 2逆転写キット(Primer Design,Southampton,UK)を使用してcDNA合成を行い、カスタムデザインの合成プライマー(表1)(Primer Design,Southampton,UK)を用いて定量PCRを実施した。
【表1】
【0163】
間葉系特異的分化マーカーである脂肪生成マーカー(CEBPAおよびPPARG)、骨形成マーカー(RUNX2)、筋原性マーカー(MYOD1)、軟骨形成マーカー(SOX9)およびMSCマーカー(OCT4およびREX1)の遺伝子発現をhADSCにおいて研究した。
【0164】
エラスチン足場上のhADSCの分化プロファイル。OCT4、CEBPA、PPARGおよびMYOD1は、7および14日目において、1日目と比較して0.03~0.04単位有意なアップレギュレーションの同一傾向を示した(p<0.0001)。しかしながら、14日目において、7日目と比較して有意なアップレギュレーションはなかった。RUNX2は、いかなる傾向も示さなかった。SOX9は、上記で報告されているすべての他の足場と同一の3つの時点すべてにおいて、無視可能な発現(<0.027)を示したが、それは、14日目(0.025、p<0.05)において、1日目(0.027)と比較して有意なアップレギュレーションを示した。REX1は、7日目において、最初のダウンレギュレーションを示し(0.036~0.028、p<0.0001)、続いて14日目において、有意なアップレギュレーション傾向を示した(0.031、p<0.0001)(図20)。
【0165】
3Aでは、Oct-4は、7および14日目(0.028、p<0.0001)において、1日目(0.031)からの有意なダウンレギュレーションを示した。Rex-1は、7(0.026、p<0.0001)および14(0.029、p<0.0001)日目において、1日目(0.031)と比較して有意にダウンレギュレートした。しかしながら、14日目の発現は、7日目よりも有意に高かったのに対して(p<0.0001)、MyoD-1は0.032で一定であった。CEBPは、7日目において、わずかなアップレギュレーションを示し(p<0.05)、14日目において、0.025に有意にダウンレギュレートした(p<0.0001)。3Bでは、Oct-4、RUX-2およびCEBPは、7および14日目において、比較して有意なダウンレギュレーションを示し(p<0.0001)、7および14日目の発現間に有意差はなかった。3Cでは、Oct-4は、日目の0.030から14日目の0.029への着実かつ有意なダウンレギュレーションを示した(p<0.001)。Rex-1およびRUNX-2は、1日目の0.032から7日目のそれぞれ0.030および0.029に有意にダウンレギュレートした(p<0.0001)。3Dでは、Oct-4、CEBP、PPAR-γおよびMyoD-1は、7および14日目において、1日目と比較して0.04~0.06単位有意なダウンレギュレーションの同一傾向を示した(p<0.0001)
実施例9-2成分エラスチン系足場
・エラスチン/コラーゲン-1:1の比
・エラスチン/フィブリン-1:1の比
【0166】
実施例2に示されているように、エラスチン、コラーゲンおよびフィブリンを調製した。
・膨潤比
【0167】
図22は、エラスチン/コラーゲン足場とエラスチン/フィブリン足場との間の膨張比の差異を示す。膨潤比は、溶媒とポリマーとの間の相互作用の指標である。それは、2つの相間の親和性およびエンタルピーの交換を示す。ポリマー内部の架橋密度が高いほど、膨潤特性は低くなり、その逆も同様である。以下の式
【数1】
(式中、Mは足場の乾燥重量であり、Mは足場の湿潤重量である)を用いて、乾燥質量および湿潤質量から、エラスチンおよびその複合物の膨潤比(SR)を測定した。2mlの蒸留水に浸漬することにより、足場の湿潤質量を測定した。デジタルスケール(XS205 Mettler Toledo(登録商標))を用いて乾燥質量および湿潤質量を測定し、式(1)を使用してSRを計算した。
・分解
【0168】
図23は、エラスチン/コラーゲン足場とエラスチン/フィブリン足場との間の分解プロファイルの差異を示す。実験プロトコールは、実施例4に記載されているものと同じであった。
・微細構造
【0169】
図24は、SEMを使用したエラスチン/コラーゲン足場(A)およびエラスチン/フィブリン足場(B)の微細構造を示す。
・細孔径分布
【0170】
図25は、エラスチン/コラーゲン足場およびエラスチン/フィブリン足場の細孔径分布を示す。
・生物学的活性
【0171】
図26は、エラスチン/コラーゲン足場およびエラスチン/フィブリン足場のlive/deadアッセイの結果を示す。実験プロトコールは、実施例1に記載されているものと同じであった。
・血管新生
【0172】
図27は、12日目のエラスチン/コラーゲン足場およびエラスチン/フィブリン足場の血管面積を示す。実験プロトコールは、実施例7に記載されているものと同じであった。
参考文献
【化1】
【化2】
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20
図21
図22
図23
図24
図25
図26
図27
【配列表】
2023105244000001.app
【外国語明細書】