(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023105328
(43)【公開日】2023-07-31
(54)【発明の名称】表面孔及び/又は微細突起を備えたシリコン微粒子の製造方法
(51)【国際特許分類】
C01B 33/02 20060101AFI20230724BHJP
【FI】
C01B33/02 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022006070
(22)【出願日】2022-01-19
(71)【出願人】
【識別番号】800000068
【氏名又は名称】学校法人東京電機大学
(74)【代理人】
【識別番号】100151183
【弁理士】
【氏名又は名称】前田 伸哉
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 慶介
(72)【発明者】
【氏名】ミャッ エンダラ スュエ
【テーマコード(参考)】
4G072
【Fターム(参考)】
4G072AA01
4G072BB05
4G072BB15
4G072DD05
4G072EE01
4G072GG01
4G072GG03
4G072HH01
4G072JJ18
4G072JJ30
4G072KK01
4G072KK09
4G072LL06
4G072QQ06
4G072RR01
4G072RR03
4G072RR12
4G072UU02
4G072UU30
(57)【要約】
【課題】簡易な操作と安価な材料を用いる点はそのままに、スケールアップも容易なシリコン微粒子の表面加工方法を提供すること。
【解決手段】本発明のシリコン微粒子の表面加工方法は、フッ化水素酸及び遷移金属イオンを含む溶液にシリコン微粒子を浸漬することで、シリコン微粒子の表面に遷移金属粒子を析出させるとともに、当該析出に伴って、遷移金属粒子との接触部が酸化されたシリコン微粒子の表面をフッ化水素酸でエッチングする第一エッチング工程と、第一エッチング工程を経た混合液に酸化剤を添加してこれらを混合しながら反応させる第二エッチング工程と、を備え、第一エッチング工程にて、遷移金属イオンが、溶液中濃度として0.7mmol/L~40mmol/Lとなるように添加されることを特徴とする。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
フッ化水素酸及び遷移金属イオンを含む溶液にシリコン微粒子を浸漬することで、前記シリコン微粒子の表面に遷移金属粒子を析出させるとともに、当該析出に伴って、前記遷移金属粒子との接触部が酸化された前記シリコン微粒子の表面をフッ化水素酸でエッチングする第一エッチング工程と、
前記第一エッチング工程を経た混合液に酸化剤を添加してこれらを混合しながら反応させる第二エッチング工程と、を備え、
前記第一エッチング工程にて、前記遷移金属イオンが、溶液中濃度として0.7mmol/L~40mmol/Lとなるように添加されることを特徴とする表面孔及び/又は微細突起を備えたシリコン微粒子の製造方法。
【請求項2】
前記第二エッチング工程における反応時間が10~30分間であることを特徴とする請求項1記載の表面孔及び/又は微細突起を備えたシリコン微粒子の製造方法。
【請求項3】
前記第一エッチング工程で添加されるフッ化水素酸が、46質量%フッ化水素酸換算で10体積%~15体積%となるように溶液に添加されることを特徴とする請求項1又は2記載の表面孔及び/又は微細突起を備えたシリコン微粒子の製造方法。
【請求項4】
前記遷移金属が銀であることを特徴とする請求項1~3のいずれか1項記載の表面孔及び/又は微細突起を備えたシリコン微粒子の製造方法。
【請求項5】
前記酸化剤が過酸化水素であり、これが、前記第二エッチング工程にて30質量%過酸化水素水換算で0.3体積%~1.0体積%となるように添加されることを特徴とする請求項1~4のいずれか1項記載の表面孔及び/又は微細突起を備えたシリコン微粒子の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、表面孔及び/又は微細突起を備えたシリコン微粒子の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、太陽電池や蓄電池等といったエネルギー関連製品の分野を初めとした様々なデバイスにおいて、製品の機能向上を目的として、その製品を構成する部材に対してナノレベルの加工が行われることがある。これらの中でも、特に、シリコン(珪素)材料に関しては、半導体分野において長年にわたって蓄積されてきた微細加工技術を応用して、微細構造を有する様々な構造体の調製に用いられている。このような微細加工技術を応用した構造体の一例として、例えば特許文献1には、単結晶シリコン基板に対して、特定のテーパー角と深さを備えた微細な溝を研削加工により形成し、これをエッチングすることで鋭利な先端部を有する針状構造の規則配列体を得ることが提案されている。また、特許文献2には、シリコン基板上にナノ秒レーザを照射することにより、針状結晶突起や樹枝状結晶突起からなるナノレベルの微細構造を形成することが提案され、この微細構造を備えたシリコン材料が機械部品や電子部品用途に有用であるとされている。
【0003】
ここで、シリコンは、太陽電池における発電素子としても用いられており、この分野においても発電効率の向上を目的として、各種の微細表面加工が行われている。このような例として、特許文献3には、シリコンウエハ表面にエッチングを施すことにより、その表面にナノ孔状等の表面テクスチャを形成させることが提案されている。
【0004】
また、シリコンは、リチウムイオン二次電池における高容量負極材料としての用途が期待されている。しかしながら、シリコンは、リチウムイオンの挿入と脱離に伴って大きな体積変化を示すので、充電と放電を繰り返すうちに負極の劣化により二次電池の容量が低下する問題を有する。この問題を解決する手段の一つとして、例えば特許文献4には、SiO2粉末と塩化ナトリウムとの混合物を還元するとともに、還元により得られたシリコンにエッチングを施して微細構造を備えた多孔質シリコンを電極材料として用いることが提案されている。また、特許文献5には、多孔質シリコンウエハから多孔質シリコン粒子を調製し、これをリチウムイオン二次電池の負極として用いることが提案されている。
【0005】
このような状況のもと、本発明者らにより、金属支援化学エッチング法を応用してシリコン粒子の表面に微細な孔や突起を形成させる方法が提案されている(特許文献6及び7を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2008-114345号公報
【特許文献2】特開2006-231376号公報
【特許文献3】特表2017-504179号公報
【特許文献4】特表2017-520089号公報
【特許文献5】特開2016-051622号公報
【特許文献6】特開2020-059631号公報
【特許文献7】特開2020-059632号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記のように、シリコンに対して表面加工を行って、微細構造を形成させる手段が種々提案されている。しかしながら、この種の加工は、コストや手間のかかるものも多く、工業的に利用するには課題が多いのも事実である。一方で、本発明者らにより提案された、上記特許文献6及び7に示す手法は、簡易な操作と安価な材料を用いてシリコン微粒子の表面に微細な孔や突起を形成することができる点で、これまでのものと比べて優れていると言える。しかしながら、上記特許文献6及び7に示す手法ではスケールアップによる大量生産が難しく、この点で改良の余地があった。
【0008】
本発明は、以上の状況に鑑みてなされたものあり、簡易な操作と安価な材料を用いる点はそのままに、スケールアップも容易なシリコン微粒子の表面加工方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、以上の課題を解決するために鋭意検討を重ねた結果、金属支援化学エッチング法において、遷移金属塩の添加方法やエッチングの反応時間をコントロールすることにより上記の課題が解決されることを見出した。シリコン微粒子の表面加工を行うエッチング処理は、処理対象が微粒子であるがゆえに、エッチングによる微粒子の消失の問題がつきまとう。すなわち、表面加工の程度を高くしようとしてエッチングの反応速度を高めたり、反応時間を長くしたりすると、シリコン微粒子が溶解してしまって歩留まりが低下する危険性が高くなる。このため、特許文献6及び7に示す表面加工においては、エッチング液に含まれる各成分の濃度を低く維持して粒子の溶解を抑制しつつ、その代わりにシリコン微粒子に不純物をドープして電子密度をコントロールする等の手法を用いてエッチングを行っていた。このような背景から、特許文献6及び7に示す表面加工ではスケールアップをするのが困難だった。
【0010】
その後、本発明者らは、金属支援化学エッチング法による表面加工においてスケールアップも可能な方法を模索していたところ、金属支援化学エッチング法で用いる遷移金属塩の濃度を所定の範囲にすることで、シリコン微粒子の溶解を抑制しつつ、表面加工処理のスケールアップを行うことが可能になることを見出した。本発明はこのような知見をもとになされたものであり、以下のようなものを提供する。
【0011】
(1)本発明は、フッ化水素酸及び遷移金属イオンを含む溶液にシリコン微粒子を浸漬することで、上記シリコン微粒子の表面に遷移金属粒子を析出させるとともに、当該析出に伴って、上記遷移金属粒子との接触部が酸化された上記シリコン微粒子の表面をフッ化水素酸でエッチングする第一エッチング工程と、上記第一エッチング工程を経た混合液に酸化剤を添加してこれらを混合しながら反応させる第二エッチング工程と、を備え、上記第一エッチング工程にて、上記遷移金属イオンが、溶液中濃度として0.7mmol/L~40mmol/Lとなるように添加されることを特徴とする表面孔及び/又は微細突起を備えたシリコン微粒子の製造方法である。
【0012】
(2)また本発明は、上記第二エッチング工程における反応時間が10~30分間であることを特徴とする(1)項記載の表面孔及び/又は微細突起を備えたシリコン微粒子の製造方法である。
【0013】
(3)また本発明は、上記第一エッチング工程で添加されるフッ化水素酸が、46質量%フッ化水素酸換算で10体積%~15体積%となるように溶液に添加されることを特徴とする(1)項又は(2)項記載の表面孔及び/又は微細突起を備えたシリコン微粒子の製造方法である。
【0014】
(4)また本発明は、上記遷移金属が銀であることを特徴とする(1)項~(3)項のいずれか1項記載の表面孔及び/又は微細突起を備えたシリコン微粒子の製造方法である。
【0015】
(5)また本発明は、上記酸化剤が過酸化水素であり、これが、上記第二エッチング工程にて30質量%過酸化水素水換算で0.3体積%~1.0体積%となるように添加されることを特徴とする(1)項~(4)項のいずれか1項記載の表面孔及び/又は微細突起を備えたシリコン微粒子の製造方法である。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、簡易な操作と安価な材料を用いる点はそのままに、スケールアップも容易なシリコン微粒子の表面加工方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】
図1は、実施例1及び2の表面孔シリコン微粒子のSEM画像である。
【
図2】
図2は、実施例3及び4の微細突起シリコン微粒子のSEM画像である。
【
図3】
図3は、実施例5及び6のハイブリッドシリコン微粒子のSEM画像である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明に係る表面孔及び/又は微細突起を備えたシリコン微粒子(以下、本発明のシリコン微粒子とも呼ぶ。)の製造方法の一実施態様について説明する。なお、本発明は、以下の実施態様に限定されるものでなく、本発明の範囲において適宜変更を加えて実施できる。
【0019】
本発明の表面孔及び/又は微細突起を備えたシリコン微粒子の製造方法は、フッ化水素酸及び遷移金属イオンを含む溶液にシリコン微粒子を浸漬することで、上記シリコン微粒子の表面に遷移金属粒子を析出させるとともに、当該析出に伴って、上記遷移金属粒子との接触部が酸化された上記シリコン微粒子の表面をフッ化水素酸でエッチングする第一エッチング工程と、上記第一エッチング工程を経た混合液に酸化剤を添加してこれらを混合しながら反応させる第二エッチング工程と、を備える。
【0020】
本発明のシリコン微粒子の製造方法では、シリコン微粒子の表面に表面孔及び/又は微細突起を形成させる。「表面孔及び/又は微細突起を形成」とは、シリコン微粒子表面に、表面孔のみを形成させる、微細突起のみを形成させる、又は表面孔及び微細突起の両方を形成させるという意味である。表面孔の形成されたシリコン微粒子は、複数の孔がシリコン微粒子の表面に形成され、多孔粒子と呼べる状態になる。微細突起の形成されたシリコン微粒子は、複数の突起がシリコン表面に形成され、金平糖のような形状となる。
【0021】
本発明のシリコン微粒子の製造方法は、シリコン微粒子を溶液中でエッチングすることで表面孔や微細突起をその表面に形成させる。原料となるシリコン微粒子としては、10nmからサブミクロン程度の粒径を備えた粉末状のものを用いるのが好ましい。シリコン微粒子としては、シリコンの粉末であればどのようなものでも好ましく用いられ、半導体素子の生産過程で生じるシリコンウエハの切削粉(これには産業廃棄物であるシリコンスラッジも含まれる。)や、珪石を還元して得られたシリコンを粉砕したものであってもよい。特に好ましくは、プラズマを用いてシラン化合物を気相にて還元したものや切削粉等の廃シリコンが挙げられ、これらのものは市販品を入手して用いてもよい。なお、シリコン微粒子は、アンドープシリコンでもドープシリコンでもよいが、アンドープシリコンであることが好ましい。
【0022】
本発明のシリコン微粒子の製造方法では、微粒子表面に表面孔や微細突起を形成させるためのエッチングとして、金属支援化学エッチング法を用いる。これは、エッチング液中に遷移金属イオンとフッ化水素酸とを共存させてシリコン微粒子をエッチングすることで、次のような過程を経て表面孔や微細突起のような構造をシリコン微粒子表面に形成させる。
【0023】
まず、遷移金属イオン及びフッ化水素酸を含む溶液中にシリコン微粒子を浸漬させると、フッ化水素酸がシリコン微粒子の表面を覆う酸化膜(SiO2)を溶解し、これを除去する。それにより、シリコン微粒子の表面にはシリコン(Si)が露出し、このシリコンが溶液中の遷移金属イオンと接触する。すると、シリコンに含まれる電子が遷移金属イオンへ受け渡され、遷移金属イオンはその場で遷移金属の粒子核となってシリコン表面に付着する一方で、遷移金属の粒子核とシリコンとの接触部では、シリコンが電子を失って局所酸化されることになる。局所酸化されたシリコンは、溶液中に含まれるフッ化水素酸により除去され、その後、その箇所にてさらに遷移金属イオンによる酸化を受けて、遷移金属の粒子核が成長する。この反応が繰り返されることにより、シリコン表面にて遷移金属粒子がシリコン表面を掘り進むかのようにシリコン微粒子の内部へ挿入されて行き、その箇所に孔が形成される。そして、このような孔の形成がシリコン表面にて疎らに生じれば、複数の表面孔の形成されたシリコン微粒子となるし、密に生じれば、孔と孔の間に残されたシリコンが突起状となって残り、表面に複数の微細突起の形成されたシリコン微粒子となる。こうした孔の形成密度は、エッチング液中の遷移金属イオン濃度に依存するため、エッチング液に含まれる遷移金属イオンの濃度を調節することで、表面孔を有するシリコン微粒子と微細突起を有するシリコン微粒子とを作り分けることができることになる。なお、両者の中間的な条件でエッチングを行うと、表面孔と微細突起の両方を備えたシリコン微粒子を形成させることも可能である。
【0024】
なお、本実施態様では、シリコン粉末に含まれるシリコン微粒子を解砕する解砕工程を上記の第一エッチング工程の前に行い、シリコン微粒子表面から遷移金属粒子核を除去する除去工程を上記の第二エッチング工程の後で行う。これら解砕工程及び除去工程は任意工程となる。以下、各工程について説明する。
【0025】
[解砕工程]
まずは解砕工程について説明する。この工程では、原料となるシリコン粉末を水中へ分散させ、この混合液に適切な外力を作用させて混合液中のシリコン粉末を解砕させる。このような外力を供給する装置としては、一般的な撹拌装置の他、市販の超音波ホモジナイザーを好ましく挙げることができる。
【0026】
超音波ホモジナイザーによる処理を行う場合、シリコン粉末を水に分散させて適当な容器に収容し、市販の超音波ホモジナイザー装置の破砕ホーンを分散液に接触させて解砕を行えばよい。このときのシリコン微粒子と水との混合割合としては、シリコン微粒子300mgあたり水44mL程度を挙げることができ、超音波ホモジナイザーによる解砕条件としては、発振周波数20kHz、出力400W、最大振幅30%、発振時間(ON/OFF)10秒/5秒、処理時間5分程度を挙げることができるが、これらの条件は適宜設定すればよい。
【0027】
なお、上記分散液においては、水に代えて又は水とともに、アルコール等の親水溶媒を用いてもよい。また、シリコン粉末としては、既に説明したように、市販のものを用いることができる。
【0028】
こうした解砕工程を経ることにより、混合液に分散されたシリコン粉末がシリコン微粒子へと解砕される。シリコン微粒子を含む混合液は、第一エッチング工程に付される。
【0029】
[第一エッチング工程]
第一エッチング工程は、フッ化水素酸及び遷移金属イオンを含む溶液にシリコン微粒子を浸漬することで、上記シリコン微粒子の表面に遷移金属粒子を析出させるとともに、当該析出に伴って、上記遷移金属粒子との接触部が酸化された上記シリコン微粒子の表面をフッ化水素酸でエッチングする工程である。
【0030】
本実施態様では、上記解砕工程を経た混合液にフッ化水素酸及び遷移金属イオンを添加することで、上記「フッ化水素酸及び遷移金属イオンを含む溶液にシリコン微粒子を浸漬」した状態となる。上記解砕工程を行わない場合には、適切な量の水にシリコン微粒子を加えて混合液とし、この混合液へフッ化水素酸及び遷移金属イオンを添加すればよい。この場合の水の量としては、既に説明したように、シリコン微粒子300mgあたり水44mL程度を挙げることができる。なお、フッ化水素酸及び遷移金属イオンの添加順序は、いずれが先でもよく、特に限定されない。
【0031】
上記遷移金属としては、銅、銀、金、鉄等が挙げられ、これらの中でも銀が好ましく挙げられる。これらの遷移金属は、遷移金属塩の状態で混合液中へ添加され、遷移金属イオンとなる。このような遷移金属塩としては、塩酸塩、硝酸塩、硫酸塩等が挙げられ、これらの中でも硝酸塩が好ましく挙げられる。
【0032】
溶液中における遷移金属イオンの濃度は、0.7mmol/L~40mmol/Lである。既に述べたように、溶液中における遷移金属イオンの濃度が、シリコン微粒子表面に形成される形状が表面孔となるか微細突起となるか、あるいはそれら両方を備えたものになるのかを決める要素となる。概ね、遷移金属イオンの濃度が10mmol/L付近を境として、これよりも低濃度だと表面孔が形成され、これよりも高濃度だと微細突起が形成される。そして、境となる10mmol/L付近では、これらを両方備えたハイブリッド型となる。なお、遷移金属イオンの濃度が30mmol/L程度の高濃度側であっても、後述する第二エッチング工程での反応時間を短くすることでハイブリッド型とすることができる。このように、第一エッチング工程での遷移金属イオンの濃度と第二エッチング工程での反応時間に応じて、シリコン微粒子の表面状態を表面孔(エッチングの程度が低い)→ハイブリッド(エッチングの程度が中間)→微細突起(エッチングの程度が高い)と変化させることができる。溶液中における遷移金属イオンの濃度が上記の範囲であることにより、シリコン微粒子表面への表面孔又は微細突起が良好に形成されつつ、シリコン微粒子の溶解が抑制される。溶液中における遷移金属イオンの濃度としては、1mmol/L~30mmol/Lをより好ましく挙げることができる。
【0033】
溶液中に添加されるフッ化水素酸は、市販のフッ化水素酸溶液である46質量%フッ化水素酸換算で、上記溶液中濃度が10体積%~15体積%となるように添加されることが好ましい。
【0034】
遷移金属イオン及びフッ化水素酸が添加された混合液は、室温(15℃~30℃程度)にて適宜撹拌されることによりエッチング反応が進行する。撹拌時間としては概ね1分間程度を例示できるが、特に限定されない。得られた混合液は、第二エッチング工程に付される。
【0035】
[第二エッチング工程]
第二エッチング工程は、上記第一エッチング工程を経た混合液に酸化剤を添加してこれらを混合しながら反応させる工程である。第一エッチング工程にて、遷移金属イオンとシリコン微粒子との間での電子のやり取りによりシリコン微粒子が局所的に酸化され、次いで酸化されたシリコンがフッ化水素酸で溶解されることで局所的なエッチングが生じることは既に述べた通りである。しかしながら、遷移金属粒子がシリコン微粒子の表面で生成されるに連れて電子の供給が徐々に飽和するため、シリコン微粒子の局所エッチングが生じにくくなり、多孔化や微細突起化に必要な細孔深度を大きくすることができなくなる。そこで、第二エッチング工程では、酸化剤を混合液へ追加で添加する。これにより、遷移金属粒子内の電子が過酸化水素により奪われ、シリコン微粒子内部の深さ方向への局所エッチングが促進される。
【0036】
酸化剤としては、特に限定されないが、過酸化水素水が好ましく挙げられる。酸化剤として過酸化水素水を用いる場合、市販の過酸化水素水である30質量%過酸化水素水換算で、上記混合液中濃度が0.3体積%~1.0体積%となるように添加されることが好ましい。過酸化水素水の添加量がこの範囲であることにより、シリコン微粒子表面への表面孔又は微細突起が良好に形成されつつ、シリコン微粒子が完全に溶解されてしまうのが抑制されるので好ましい。より好ましくは、混合液50mLあたり30質量%過酸化水素水を0.3mL程度添加することを挙げられるが、特に限定されない。
【0037】
過酸化水素水の添加された混合液は、室温(15℃~30℃程度)にて撹拌される。この間、シリコン微粒子の表面ではエッチングにより、表面孔や微細突起が形成されることになる。なお、既に述べたように、微細突起は、多数の表面孔が隣接して形成されることで形成されるので、これを形成するにはシリコン微粒子が高度にエッチングされる必要がある。このため、シリコン表面に微細突起を形成させる場合には、表面孔を形成させる場合に比べてより長時間の反応時間を確保する必要がある。シリコン表面に表面孔を形成させるには、この反応時間を10分間程度確保するのが望ましい。また、シリコン表面に微細突起を形成させる場合や、微細突起と表面孔の両方を形成させる場合には、10~30分間程度反応させることが望ましい。なお、この反応時間は一例であり、エッチングの進行状況に応じて適宜調整して、目的となる表面構造がシリコン表面に形成されるようにすればよい。
【0038】
上記の反応後、混合液へ水を適量添加することでフッ化水素酸や過酸化水素の濃度を低下させ、エッチング反応を停止させる。その後、混合液に含まれるシリコン微粒子は、除去工程に付される。
【0039】
[除去工程]
除去工程は、上記第二エッチング工程を経たシリコン微粒子から、遷移金属粒子を除去する工程である。
【0040】
本工程において、上記第二エッチング工程を経たシリコン微粒子は、酸処理を受け、遷移金属粒子が除去される。具体的には、混合液中に含まれるシリコン微粒子は、混合液のまま又は混合液から濾別された状態で酸水溶液中に投入されて浸漬される。これにより、遷移金属粒子がシリコン微粒子から酸水溶液へと移行する。このときに用いられる酸水溶液としては希硝酸水溶液が好ましく挙げられ、また、そのときの処理方法としては濾取したシリコン微粒子を10分間程度酸水溶液に浸漬させることが挙げられる。
【0041】
本工程において酸処理を受けたシリコン微粒子は、濾別される。濾別されたシリコン微粒子の表面には、表面孔及び/又は微細突起が形成されている。
【0042】
なお、既に述べたように、本発明は、以上の実施態様に限定されるものではなく、本発明の範囲において適宜変更を加えて実施することができる。
【0043】
例えば、上記の実施態様では、300mgのシリコン微粒子に対して処理を行ったが、本発明によれば、300mgのシリコン微粒子に対して反応溶液量を50mL程度の比率とすることで任意にスケールアップして処理を行うことも可能である。
【0044】
本発明の製造方法で調製されたシリコン微粒子の表面には、表面孔及び/又は微細突起が形成されている。このため、太陽電池における活性層のように、半導体として大きな表面積の求められる用途や、リチウムイオン二次電池の負極活物質のように、膨張と収縮を繰り返す用途等に好ましく用いられる。
【実施例0045】
以下、実施例を示すことにより本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は、以下の実施例に何ら限定されるものではない。
【0046】
[実施例1]表面孔シリコン微粒子の調製1
市販のシリコン粉末300mgを純水44mL中に加え、超音波ホモジナイザー処理を行った。超音波ホモジナイザー処理の条件は、発振周波数20kHz、出力400W、最大振幅30%、発振時間(ON/OFF)10秒/5秒、処理時間5分とした。得られた分散液に、市販の46質量%フッ化水素酸5.7mL及び硝酸銀8.5mgを添加し、室温にて撹拌速度50rpmで1分間撹拌した。このとき、混合液中の銀イオン濃度は、約1mmol/Lとなる。その後、市販の30質量%過酸化水素水0.3mLを混合液に加え、10分間撹拌した。反応終了後、固体を濾別し、さらに純水100mLを流し込んでこれを洗浄した。濾取したシリコン微粒子を希硝酸(1mol/L)10mLに加え、10分間放置した後に純水を加えて数十秒間超音波解砕することで表面孔シリコン微粒子を得た。
【0047】
[実施例2]表面孔シリコン微粒子の調製2
市販のシリコン粉末300mgを純水44mL中に加え、超音波ホモジナイザー処理を行った。超音波ホモジナイザー処理の条件は、発振周波数20kHz、出力400W、最大振幅30%、発振時間(ON/OFF)10秒/5秒、処理時間5分とした。得られた分散液に、市販の46質量%フッ化水素酸5.7mL及び硝酸銀84.9mgを添加し、室温にて撹拌速度50rpmで1分間撹拌した。このとき、混合液中の銀イオン濃度は、約10mmol/Lとなる。その後、市販の30質量%過酸化水素水0.3mLを混合液に加え、10分間撹拌した。反応終了後、固体を濾別し、さらに純水100mLを流し込んでこれを洗浄した。濾取したシリコン微粒子を希硝酸(1mol/L)10mLに加え、10分間放置した後に純水を加えて数十秒間超音波解砕することで表面孔シリコン微粒子を得た。
【0048】
[実施例3]微細突起シリコン微粒子の調製1
市販のシリコン粉末300mgを純水44mL中に加え、超音波ホモジナイザー処理を行った。超音波ホモジナイザー処理の条件は、発振周波数20kHz、出力400W、最大振幅30%、発振時間(ON/OFF)10秒/5秒、処理時間5分とした。得られた分散液に、市販の46質量%フッ化水素酸5.7mL及び硝酸銀169mgを添加し、室温にて撹拌速度50rpmで1分間撹拌した。このとき、混合液中の銀イオン濃度は、約20mmol/Lとなる。その後、市販の30質量%過酸化水素水0.3mLを混合液に加え、10分間撹拌した。反応終了後、固体を濾別し、さらに純水100mLを流し込んでこれを洗浄した。濾取したシリコン微粒子を希硝酸(1mol/L)10mLに加え、10分間放置した後に純水を加えて数十秒間超音波解砕することで微細突起シリコン微粒子を得た。
【0049】
[実施例4]微細突起シリコン微粒子の調製2
市販のシリコン粉末300mgを純水44mL中に加え、超音波ホモジナイザー処理を行った。超音波ホモジナイザー処理の条件は、発振周波数20kHz、出力400W、最大振幅30%、発振時間(ON/OFF)10秒/5秒、処理時間5分とした。得られた分散液に、市販の46質量%フッ化水素酸5.7mL及び硝酸銀84.9mgを添加し、室温にて撹拌速度50rpmで1分間撹拌した。このとき、混合液中の銀イオン濃度は、約10mmol/Lとなる。その後、市販の30質量%過酸化水素水0.3mLを混合液に加え、30分間撹拌した。反応終了後、固体を濾別し、さらに純水100mLを流し込んでこれを洗浄した。濾取したシリコン微粒子を希硝酸(1mol/L)10mLに加え、10分間放置した後に純水を加えて数十秒間超音波解砕することで微細突起シリコン微粒子を得た。
【0050】
[実施例5]ハイブリッドシリコン微粒子の調製1
市販のシリコン粉末300mgを純水44mL中に加え、超音波ホモジナイザー処理を行った。超音波ホモジナイザー処理の条件は、発振周波数20kHz、出力400W、最大振幅30%、発振時間(ON/OFF)10秒/5秒、処理時間5分とした。得られた分散液に、市販の46質量%フッ化水素酸5.7mL及び硝酸銀84.9mgを添加し、室温にて撹拌速度50rpmで1分間撹拌した。このとき、混合液中の銀イオン濃度は、約10mmol/Lとなる。その後、市販の30質量%過酸化水素水0.3mLを混合液に加え、20分間撹拌した。反応終了後、固体を濾別し、さらに純水100mLを流し込んでこれを洗浄した。濾取したシリコン微粒子を希硝酸(1mol/L)10mLに加え、10分間放置した後に純水を加えて数十秒間超音波解砕することで、表面孔と微細突起とを備えたハイブリッドシリコン微粒子を得た。
【0051】
[実施例6]ハイブリッドシリコン微粒子の調製2
市販のシリコン粉末300mgを純水44mL中に加え、超音波ホモジナイザー処理を行った。超音波ホモジナイザー処理の条件は、発振周波数20kHz、出力400W、最大振幅30%、発振時間(ON/OFF)10秒/5秒、処理時間5分とした。得られた分散液に、市販の46質量%フッ化水素酸5.7mL及び硝酸銀254.8mgを添加し、室温にて撹拌速度50rpmで1分間撹拌した。このとき、混合液中の銀イオン濃度は、約30mmol/Lとなる。その後、市販の30質量%過酸化水素水0.3mLを混合液に加え、10分間撹拌した。反応終了後、固体を濾別し、さらに純水100mLを流し込んでこれを洗浄した。濾取したシリコン微粒子を希硝酸(1mol/L)10mLに加え、10分間放置した後に純水を加えて数十秒間超音波解砕することで、表面孔と微細突起とを備えたハイブリッドシリコン微粒子を得た。
【0052】
実施例1及び2の表面孔シリコン微粒子、実施例3及び4の微細突起シリコン微粒子、並びに実施例5及び6のハイブリッドシリコン微粒子のそれぞれについて、走査電子顕微鏡(SEM)を用いてその表面状態を観察した。その画像を
図1~3にそれぞれ示す。
図1は、実施例1及び2の表面孔シリコン微粒子のSEM画像であり、
図2は、実施例3及び4の微細突起シリコン微粒子のSEM画像であり、
図3は、実施例5及び6のハイブリッドシリコン微粒子のSEM画像である。
【0053】
図1~3に示すように、本発明によれば、簡便な手順でシリコン微粒子の表面に表面孔構造や微細突起構造が形成できることが理解できる。