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特開2023-105366眼鏡レンズ用のベースレンズへの玉型形状の描画システム及び描画方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023105366
(43)【公開日】2023-07-31
(54)【発明の名称】眼鏡レンズ用のベースレンズへの玉型形状の描画システム及び描画方法
(51)【国際特許分類】
   G02C 7/02 20060101AFI20230724BHJP
   G02C 13/00 20060101ALI20230724BHJP
【FI】
G02C7/02
G02C13/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】19
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022006144
(22)【出願日】2022-01-19
(71)【出願人】
【識別番号】000219738
【氏名又は名称】東海光学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099047
【弁理士】
【氏名又は名称】柴田 淳一
(72)【発明者】
【氏名】太田 恵介
【テーマコード(参考)】
2H006
【Fターム(参考)】
2H006DA02
(57)【要約】
【課題】眼鏡レンズ用のベースレンズへ玉型形状を描画する際の従来の問題を解決できる眼鏡レンズ用のベースレンズへの玉型形状の描画システム及び描画方法等を提供すること。
【解決手段】眼鏡レンズ用のベースレンズへの玉型形状の描画システム1において、クライアントからの受注データに基づいた配置となるように前記玉型形状の外郭線の位置を算出するCPUと、CPUによって算出された玉型形状の外郭線の位置データに基づいてベースレンズLのレンズ面上に前記玉型形状の外郭線を描画するレーザー加工機18と、を備えるようにした。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
クライアントからの受注データに基づく玉型形状の外郭線がクライアントからの受注データに基づいた配置となるように前記玉型形状の外郭線の位置を算出する位置算出手段と、
前記位置算出手段によって算出された前記玉型形状の外郭線の位置データに基づいて前記ベースレンズのレンズ面上に前記玉型形状の外郭線を描画する描画手段と、を備えることを特徴とする眼鏡レンズ用のベースレンズへの玉型形状の描画システム。
【請求項2】
前記位置算出手段は、前記ベースレンズの心取り点位置の座標に対して前記玉型形状のフィッティングポイントの座標を一致させた状態で、前記玉型形状を前記ベースレンズに対して相対的に回転させるシミュレーションを実行し、クライアントからの受注データに基づいた配置となるかどうかを判断することを特徴とする請求項1に記載の眼鏡レンズ用のベースレンズへの玉型形状の描画システム。
【請求項3】
前記ベースレンズにおける初期の心取り点位置をレイアウト上のプリズム測定位置として、前記ベースレンズのレイアウト上の度数測定位置およびプリズム測定位置で検出した値と受注データに基づく値の誤差が出荷規格に収まっていた場合、受注データに基づく値にさらに近づくように心取り点位置の座標を補正することを特徴とする請求項2に記載の眼鏡レンズ用のベースレンズへの玉型形状の描画システム。
【請求項4】
眼鏡レンズ用のベースレンズの外観形状を撮像し、その外観形状データを取得する撮像手段を備え、同撮像手段によって取得した外観形状データに基づいて前記ベースレンズの外観不良部分の位置を算出する外観不良位置算出手段を備え、前記位置算出手段は前記外観不良位置算出手段によって算出された外観不良部分の位置が前記玉型形状の外郭線内に配置されないように前記玉型形状の外郭線の位置を算出することを特徴とする請求項1~3のいずれかに記載の眼鏡レンズ用のベースレンズへの玉型形状の描画システム。
【請求項5】
前記位置算出手段において、前記ベースレンズに対するクライアントからの受注データに基づいた前記玉型形状の外郭線の配置が可能なあらゆる位置に対して前記ベースレンズの外観不良部分の位置が含まれてしまうと判断された場合に、前記ベースレンズに対する前記玉型形状の外郭線の描画処理を行わないことを特徴とする請求項4に記載の眼鏡レンズ用のベースレンズへの玉型形状の描画システム。
【請求項6】
前記玉型形状の外郭線はクライアントからの受注データに基づく玉型形状を拡大した大きさで前記ベースレンズのレンズ面上に描画されることを特徴とする請求項1~5のいずれかに記載の眼鏡レンズ用のベースレンズへの玉型形状の描画システム。
【請求項7】
前記位置算出手段において、前記ベースレンズ内においてクライアントからの受注データに基づいて前記玉型形状の外郭線を配置することができないと判断された場合に、前記ベースレンズに対する前記玉型形状の外郭線の描画処理を行わないことを特徴とする請求項1~6のいずれかに記載の眼鏡レンズ用のベースレンズへの玉型形状の描画システム。
【請求項8】
クライアントからの受注データである玉型形状に基づいて玉型形状の配置領域の外郭線を算出する配置領域算出手段と、
前記配置領域算出手段によって算出された前記配置領域の外郭線の位置データに基づいて前記ベースレンズのレンズ面上に前記配置領域の外郭線を描画する描画手段と、を備えることを特徴とする眼鏡レンズ用のベースレンズへの玉型形状の描画システム。
【請求項9】
前記配置領域算出手段によって算出された前記配置領域の外郭線は単焦点レンズの乱視度数のない処方において、フィッティングポイントを中心とした円形であることを特徴とする請求項8に記載の眼鏡レンズ用のベースレンズへの玉型形状の描画システム。
【請求項10】
前記配置領域算出手段によって算出された前記配置領域の外郭線は単焦点レンズの乱視度数のある処方において、玉型形状の外郭線がクライアントからの受注データに基づいた配置となるように決定された第1の玉型形状に、同第1の玉型形状をフィッティングポイントを基準に180度回転させた第2の玉型形状を重ね合わせるシミュレーションを実行し、前記第1の玉型形状と前記第2の玉型形状の外郭線上のいずれかボクシングセンタから遠い位置となる点を結んだ線であることを特徴とする請求項8に記載の眼鏡レンズ用のベースレンズへの玉型形状の描画システム。
【請求項11】
前記ベースレンズは、受注データの情報を読み取り可能に備えた受注データ伝達部材とともに第1の搬送手段によって搬送され、受注データ取得手段によって前記受注データ伝達部材の受注データが取得されることを特徴とする請求項1~10のいずれかに記載の眼鏡レンズ用のベースレンズへの玉型形状の描画システム。
【請求項12】
前記ベースレンズを搬送する第2の搬送手段は、前記ベースレンズを撮像手段で撮像した後に前記描画手段の位置に搬送し、前記位置算出手段によって算出された前記玉型形状の外郭線の位置データに基づいて前記ベースレンズのレンズ面上に前記玉型形状の外郭線を描画することを特徴とする請求項1~11のいずれかに記載の眼鏡レンズ用のベースレンズへの玉型形状の描画システム。
【請求項13】
クライアントからの受注データに基づく玉型形状の外郭線が、クライアントからの受注データに基づいた配置となるように前記玉型形状の外郭線の位置を算出する位置算出工程と、を備え、
前記位置算出工程で算出された前記玉型形状の外郭線の位置データに基づいて前記ベースレンズのレンズ面上に前記玉型形状の外郭線を描画するようにしたことを特徴とする眼鏡レンズ用のベースレンズへの玉型形状の描画方法。
【請求項14】
前記ベースレンズの心取り点位置の座標に対して前記玉型形状のフィッティングポイントの座標を一致させた状態で、前記玉型形状を前記ベースレンズに対して相対的に回転させるシミュレーションを実行し、前記玉型形状がクライアントからの受注データに基づいた配置となるかどうかを判断することを特徴とする請求項13に記載の眼鏡レンズ用のベースレンズへの玉型形状の描画方法。
【請求項15】
眼鏡レンズ用のベースレンズの外観形状を撮像し、その外観形状データを取得する撮像工程を備え、同撮像工程において取得した外観形状データに基づいて前記ベースレンズの外観不良部分の位置を算出し、算出された外観不良部分の位置が前記玉型形状の外郭線内に配置されないように前記玉型形状の外郭線の位置を算出することを特徴とする請求項13又は14に記載の眼鏡レンズ用のベースレンズへの玉型形状の描画方法。
【請求項16】
前記ベースレンズに対するクライアントからの受注データに基づいた前記玉型形状の外郭線の配置が可能なあらゆる位置に対して前記ベースレンズの外観不良部分の位置が含まれてしまう場合に、前記ベースレンズに対する前記玉型形状の外郭線の描画処理を行わないようにすることを特徴とする請求項13に記載の眼鏡レンズ用のベースレンズへの玉型形状の描画システム。
【請求項17】
前記玉型形状の外郭線をクライアントからの受注データに基づく玉型形状を拡大した大きさで前記ベースレンズのレンズ面上に描画するようにしたことを特徴とする請求項13~16のいずれかに記載の眼鏡レンズ用のベースレンズへの玉型形状の描画方法。
【請求項18】
前記ベースレンズに対して前記玉型形状の外郭線が前記ベースレンズ内においてクライアントからの受注データに基づいた前記玉型形状の外郭線の配置ができない場合に、前記ベースレンズに対する前記玉型形状の外郭線の描画処理を行わないようにすることを特徴とする請求項13~17のいずれかに記載の眼鏡レンズ用のベースレンズへの玉型形状の描画方法。
【請求項19】
クライアントからの受注データである玉型形状に基づいて玉型形状の配置領域の外郭線を算出する配置領域算出工程を備え、
前記配置領域算出工程で算出された前記配置領域の外郭線の位置データに基づいて前記ベースレンズのレンズ面上に前記配置領域の外郭線を描画するようにしたことを特徴とする眼鏡レンズ用のベースレンズへの玉型形状の描画方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は眼鏡レンズ用のベースレンズへの玉型形状の描画システム及び描画方法等に関するものである。
【背景技術】
【0002】
眼鏡レンズは、円形形状あるいは楕円形状の外周のベースレンズ(一般に丸レンズと呼称される)をフレーム形状に合わせて加工して作製する。そのフレーム形状に合わせて加工したレンズは一般に玉型レンズ、あるいは単に玉型と呼称されフレームに取り付けて眼鏡レンズとされる。一般にユーザーが眼鏡店でフレームを選択すると、そのフレームに基づく玉型形状データが他の受注データとともにクライアントとなる眼鏡店からレンズメーカーに送られ、レンズメーカーでは受注データに基づいてまずセミフィニッシュトレンズと呼称される前駆体のレンズを加工して当該ユーザーの眼に応じた光学特性のベースレンズを作製する。レンズメーカーは眼鏡店にこのベースレンズの状態で納品し、眼鏡店においてベースレンズを加工して玉型レンズを作製することもあり、レンズメーカー側で玉型レンズまで加工したレンズを眼鏡店に納品することもある。
ベースレンズを玉型加工する前の段階で玉型形状データの外郭線をベースレンズの表面あるいは裏面に線描しておくことで、後工程で玉型レンズに加工する際の指標とすることができる。このような丸レンズ1(ベースレンズ)の表面に線描する技術の一例として特許文献1を挙げる。特許文献1では丸レンズ1の表面に加工機によって玉型形状のけがき線2を入れ、その周囲を切断刃6で欠き取って最終的に玉型レンズを得るというものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007-156207号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来特許文献1のように玉型形状データの外郭線をベースレンズの表面に線描する場合には、ユーザーごとの受注データに対応したベースレンズを作製し、そのベースレンズに対して玉型形状を線描することとなる。しかし、従来では、ユーザー(装用者)ごとの受注データに対応したベースレンズに対して、例えば当該ユーザーに乱視度数が設定されている場合において乱視軸方向を考慮して加工機にセットしなければならない。つまり、加工機に対するベースレンズの回転位置(位相位置)を考慮しなければならず面倒であった。また、ベースレンズを加工機にセットする際にベースレンズを取り違えて、他のユーザーの玉型形状を加工してしまう可能性もある。また、ベースレンズに小傷や小突起(ブツブツ)や泡等の外観不良がないかどうかをチェックする必要があるが、従来ではそのような外観不良があれば玉型内に外観不良が入らないように玉型形状の配置を人が調整して加工していた。
しかし、そのような作業を作業者がするのは面倒であるし、また、数多くのベースレンズに対して1つずつバッチ式に実行するのは時間もかかってしまう。また、人為的なミスが生じるおそれもある。
本発明は、このような従来の技術に存在する問題点に着目してなされたものである。その目的は、眼鏡レンズ用のベースレンズへ玉型形状を描画する際の従来の問題を解決できる眼鏡レンズ用のベースレンズへの玉型形状の描画システム及び描画方法等を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するために第1の手段として、眼鏡レンズ用のベースレンズへの玉型形状の描画システムにおいて、クライアントからの受注データに基づいた配置となるように前記玉型形状の外郭線の位置を算出する位置算出手段と、前記位置算出手段によって算出された前記玉型形状の外郭線の位置データに基づいて前記ベースレンズのレンズ面上に前記玉型形状の外郭線を描画する描画手段と、を備えるようにした。
これによって、クライアントから提供されたユーザーの受注データに基づいて当該ユーザーの光学特性のベースレンズに玉型形状の外郭線を迅速かつ正確に描画することができ、加工の際の指標とすることができる。
「クライアントからの受注データに基づく」とはユーザーの眼鏡レンズを作製するためにクライアントから送られる玉型形状のデータである。本発明では受注データに基づく玉型形状は玉型形状データをそのまま使用した形状だけではなく、例えばその玉型形状を変形させる場合や、玉型形状を拡大する場合も受注データに基づく場合に含む。
「位置算出手段」は、例えば演算能力を備えたCPU(Central Processing Unit、中央処理装置)や各種メモリ等から構成されるコンピュータ装置がよい。位置算出手段は機械学習機能を備えることがよい。
「前記玉型形状の外郭線を描画する」は、例えば玉型形状の外郭線だけを単独で線描することだけでなく、例えば玉型形状をそれ以外の部分と塗り分けるような場合も含む。
「描画手段」は、例えば、レーザー加工機、NC加工機、あるいは例えばインクのような着色剤をレンズ面に塗布するプリンターのような印刷手段等がよい。
「クライアント」は、ユーザーからの注文で受注データをメーカーに送る、例えば眼鏡店である。
「受注データ」はユーザーの眼鏡レンズを作製するためのクライアントから送られる情報である。
所定のセミフィニッシュトブランクを切削加工してベースレンズを得るための受注データとしては、例えばレンズの屈折力、ベースカーブ値、レンズ度数、乱視軸、プリズム値等である。ベースレンズを玉型形状に加工する際の受注データとしては、上記に加えて玉型形状データ(フレームデータ)、フィッティングポイント(アイポイント)データ、瞳孔間距離等である。
ベースレンズの形状データはクライアントからの受注データに基づいて作製されたベースレンズを撮像したデータであってもよい。
これらの用語の定義は下記手段も同様である。
「玉型形状の外郭線の位置」はベースレンズの外郭線の内側に配置されることが一般的であるが、必ずしもベースレンズの外郭線の内側に配置されなくともよく、部分的にはみ出るように描画してもよい。
【0006】
また、第2の手段として、前記位置算出手段は、前記ベースレンズの心取り点位置の座標に対して前記玉型形状のフィッティングポイントの座標を一致させた状態で、前記玉型形状を前記ベースレンズに対して相対的に回転させるシミュレーションを実行し、前記玉型形状が前記ベースレンズの外郭線の内側に配置され、かつクライアントからの受注データに基づいた配置となるかどうかを判断するようにした。
このようなシミュレーションによって、効率的かつ迅速に玉型形状を正しくベースレンズ内に配置させることができる。このシミュレーションは、例えばコンピュータによる演算処理や例えばAI(人工知能)による機械学習によって実行してもよい。
「光学中心」は、眼鏡レンズの光学特性の基準となる位置であり処方のプリズム値が得られる眼鏡レンズ上の位置である。「心取り点位置」は、玉型加工する際に基準となる眼鏡レンズ上の位置であり、通常レイアウト上のプリズム測定位置である。玉型加工時には、装用者のフィッティングポイントを心取り点位置に合わせて加工を行う。出荷規格を満たす眼鏡レンズは許容誤差の範囲内で、レイアウト上のプリズム測定位置が光学中心であり、心取り点位置である。受注データにおいて偏心の指定がなければその位置は幾何中心となる。例えばプリズム指定が無い単焦点レンズの場合、偏心が無ければ幾何中心においてプリズム値は0とされる。また、偏心の指定があればその偏心位置においてプリズム値は0とされる。
これらの位置座標は、例えば平面座標で表すことがよい。その場合にx-y座標系で表してもよく、中心からの角度と距離(弧度法)で表してもよい。
また、第3の手段として前記ベースレンズにおける初期の心取り点位置をレイアウト上のプリズム測定位置として、前記ベースレンズのレイアウト上の度数測定位置およびプリズム測定位置で検出した値と受注データに基づく値の誤差が出荷規格に収まっていた場合、受注データのプリズム値に基づく値にさらに近づくように心取り点位置の座標を補正するようにした。
これによって受注データに基づいて作製したベースレンズが合格範囲に入っているかどうかをチェックでき、更により処方のプリズム値に近い場所を心取り点位置とすることでより正確な眼鏡レンズを作製することができるようになる。補正のシミュレーションは機械学習によって実行することがよい。
【0007】
また、第4の手段として、眼鏡レンズ用のベースレンズの外観形状を撮像し、その外観形状データを取得する撮像手段を備え、同撮像手段によって取得した外観形状データに基づいて前記ベースレンズの外観不良部分の位置を算出する外観不良位置算出手段を備え、前記位置算出手段は前記外観不良位置算出手段によって算出された外観不良部分の位置が前記玉型形状の外郭線内に配置されないように前記玉型形状の外郭線の位置を算出するようにした。
これによって、外観不良部分を検出し、その部分を避けて玉型形状の配置するようにできるため、ベースレンズの不良率を軽減することができる。
「撮像手段」は例えばデジタルカメラであり、撮像した画像をデジタルデータとして処理するため、コンピュータ装置を内蔵、あるいはコンピュータ装置に接続されていることがよい。カメラのレンズは物体側テレセントリックレンズ又は両側テレセントリックレンズであることがよい。カメラは照明装置を伴うことがよい。
「外観不良位置算出手段」は例えば演算能力を備えたCPU(Central Processing Unit:中央処理装置)や各種メモリ等から構成されるコンピュータ装置がよい。外観不良検出のシミュレーションは機械学習によって実行することがよい。
【0008】
また、第5の手段として、前記位置算出手段において、前記ベースレンズに対するクライアントからの受注データに基づいた前記玉型形状の外郭線の配置が可能なあらゆる位置に対して前記ベースレンズの外観不良部分の位置が含まれてしまうと判断された場合に、前記ベースレンズに対する前記玉型形状の外郭線の描画処理を行わないようにした。
つまり、どのように配置してもベースレンズを玉型に加工すると不良のレンズができてしまうことがシミュレーションの段階でわかった場合にはベースレンズに玉型形状の外郭線を描画しないようにする。例えば、ベースレンズの外観不良部分が多い場合にこのような場合が生じやすい。これによって、不具合のある眼鏡レンズが作製されてしまうことを防止することができる。
また、第6の手段として、前記玉型形状の外郭線はクライアントからの受注データに基づく玉型形状を拡大した大きさで前記ベースレンズのレンズ面上に描画されるようにした。
これによって、玉型形状の外郭線を目安として加工機で加工する際に、加工位置がずれて玉型形状の外郭線が玉型の内側に露出するような不具合が防止できる。玉型形状を拡大率は任意に調整できるとよい。
第7の手段として、前記位置算出手段において、前記ベースレンズ内においてクライアントからの受注データに基づいて前記玉型形状の外郭線を配置することができないと判断された場合に、前記ベースレンズに対する前記玉型形状の外郭線の描画処理を行わないようにした。
通常、玉型データを含む注文データにおいて仕上がり径の指定がなければラボ加工システムにより、ベースレンズの径は玉型が収まる大きさに決定される。
しかし、ブロッキングの際の位置ずれ等が原因で玉型がベースレンズに収まらない場合がある。
従来このような場合、2次加工を経た玉型加工工程で玉型が取れないという不具合が判明していたが、本発明を2次加工前の工程で実施すれば不具合のある眼鏡レンズを早期に検出することが可能となり、不要なコストを削減することができる。
上記において「描画処理を行わない」場合には、後処理において描画処理を行わなかったベースレンズを排除する排除手段を設けることがよい。また、そのような「描画処理を行わなかったベースレンズ」が存在することを報知する報知手段を設けることがよい。
排除手段は、例えばコンベヤ装置上にある描画処理を行わなかったベースレンズをコンベヤ装置の通常の流れから除くような制御をしたり、ロボットアームによってコンベヤ装置上から除いたり、ベースレンズに対する上記判断を実行した後に、コンベヤ装置上に戻さないようにしたりすることがよい。
報知手段は、例えばスピーカーからの音声やブザー等による音発生手段でもよく、例えばランプの点灯やコンピュータ装置のモニター上への表示等による目視可能な表示手段でもよい。
【0009】
第8の手段として、クライアントからの受注データである玉型形状の配置領域の外郭線を算出する配置領域算出手段と、前記配置領域算出手段によって算出された前記配置領域の外郭線の位置データに基づいて前記ベースレンズのレンズ面上に前記配置領域の外郭線を描画する描画手段と、を備えるようにした。
これは玉型形状の外郭線に基づいて玉型形状が配置可能な領域を算出し、それを描画することでベースレンズを玉型形状に加工する際の指標とするものであり、ベースレンズから玉型形状を作製する際に配置領域の外郭線を指標として加工位置をチェックすることができる。第8の手段は下記では実施の形態2が具体的に対応する。
「配置領域算出手段」は、例えば演算能力を備えたCPU(Central Processing Unit、中央処理装置)や各種メモリ等から構成されるコンピュータ装置がよい。配置領域算出手段は機械学習機能を備えることがよい。
第9の手段として、前記配置領域算出手段によって算出された前記配置領域の外郭線は単焦点レンズの乱視度数のない処方において、フィッティングポイントを中心とした円形であるようにした。
単焦点レンズにおける配置領域算出手段による配置領域の外郭線として算出される具体例である。乱視度数のない処方では玉型形状はフィッティングポイントを中心として回転して任意に配置できるため、領域の外郭線はこのように円で示すことができる。この円形はボクシングセンタを基準とした玉型形状の外郭線のもっとも遠い位置あるいはもっとも遠い位置近傍の点を半径とする円であることがよい。
第10の手段として、前記配置領域算出手段によって算出された前記配置領域の外郭線は乱視度数のある処方において、玉型形状の外郭線が前記ベースレンズの外郭線の内側に配置され、かつクライアントからの受注データに基づいた配置となるように決定された第1の玉型形状に、同第1の玉型形状をフィッティングポイントを基準に180度回転させた第2の玉型形状を重ね合わせるシミュレーションを実行し、前記第1の玉型形状と前記第2の玉型形状の外郭線上のいずれか前記ボクシングセンタから遠い位置となる点を結んだ線であるようにした。
同じく単焦点レンズにおける配置領域算出手段による配置領域の外郭線として算出される具体例である。
乱視度数のある処方では玉型形状はフィッティングポイントを中心として回転することはできないが、このように第1の玉型形状をフィッティングポイントを基準に180度回転させた第2の玉型形状を重ね合わせた状態の領域を配置領域とすることができる。
【0010】
また、第11の手段として、前記ベースレンズは、受注データの情報を読み取り可能に備えた受注データ伝達部材とともに第1の搬送手段によって搬送され、受注データ取得手段によって前記受注データ伝達部材の受注データが取得されるようにした。
これによって、加工対象となるベースレンズの受注データを受注データ取得手段によって取得し、位置算出手段はこの情報に基づいて当該ベースレンズとの関係で玉型形状の外郭線の位置を算出することができる。
「第1の搬送手段」は例えばロボットアームやコンベヤ装置やリフト装置等あるいはこれらの組み合わせがよい。
「受注データ伝達部材」は例えば、受注データのバーコードが記載されたレンズごとの帳票、例えば受注データが記憶された例えばカード状の電子部品としてのメモリ等であることがよい。受注データが受注データ伝達部自体にあっても、例えばバーコードを読み取ることでその情報との対応関係でコンピュータ装置のメモリ内に格納されているレンズデータから対応する受注データを呼び出すようにしてもよい。
「受注データ取得手段」は例えばバーコード読み取り機とこれに接続されたコンピュータ装置、例えばカードリーダー装置とこれに接続されたコンピュータ装置等であることがよい。
また、第12の手段として、前記ベースレンズを搬送する第2の搬送手段は、前記ベースレンズを前記撮像手段で撮像した後に前記描画手段の位置に搬送し、前記位置算出手段によって算出された前記玉型形状の外郭線の位置データに基づいて前記ベースレンズのレンズ面上に前記玉型形状の外郭線を描画するようにした。
このように撮像手段の下流に描画手段を配置することによって、流れ作業的にベースレンズに玉型形状の外郭線を描画することができ、作業効率がよい。
「第2の搬送手段」は例えばロボットアームやコンベヤ装置やリフト装置等あるいはこれらの組み合わせがよい。
【0011】
また、第13の手段として、クライアントからの受注データに基づくクライアントからの受注データに基づいた配置となるように前記玉型形状の外郭線の位置を算出する位置算出工程と、を備え、前記位置算出工程で算出された前記玉型形状の外郭線の位置データに基づいて前記ベースレンズのレンズ面上に前記玉型形状の外郭線を描画するようにした。
この手段は上記第1の手段の描画システムを方法的に記載したものであり、第1の手段と同様に、クライアントから提供されたユーザーの受注データに基づいて当該ユーザーの光学特性のベースレンズに玉型形状の外郭線を迅速かつ正確に描画することができる。
また、第14の手段として、前記ベースレンズの心取り点位置の座標に対して前記玉型形状のフィッティングポイントの座標を一致させた状態で、前記玉型形状を前記ベースレンズに対して相対的に回転させるシミュレーションを実行し、前記玉型形状が前記ベースレンズの外郭線の内側に配置され、かつクライアントからの受注データに基づいた配置となるかどうかを判断するようにした。
この手段は上記第2の手段を方法的に記載したものである。
また、第15の手段として、眼鏡レンズ用のベースレンズの外観形状を撮像し、その外観形状データを取得する撮像工程を備え、同撮像工程において取得した外観形状データに基づいて前記ベースレンズの外観不良部分の位置を算出し、算出された外観不良部分の位置が前記玉型形状の外郭線内に配置されないように前記玉型形状の外郭線の位置を算出するようにした。
この手段は上記第4の手段を方法的に記載したものである。
また、第16の手段として、前記ベースレンズに対するクライアントからの受注データに基づいた前記玉型形状の外郭線の配置が可能なあらゆる位置に対して前記ベースレンズの外観不良部分の位置が含まれてしまう場合に、前記ベースレンズに対する前記玉型形状の外郭線の描画処理を行わないようにした。
この手段は上記第5の手段を方法的に記載したものである。
また、第17の手段として、前記玉型形状の外郭線をクライアントからの受注データに基づく玉型形状を拡大した大きさで前記ベースレンズのレンズ面上に描画するようにした。
この手段は上記第6の手段を方法的に記載したものである。
また、第18の手段として、前記ベースレンズに対してベースレンズ内においてクライアントからの受注データに基づいた前記玉型形状の外郭線の配置ができない場合に、前記ベースレンズに対する前記玉型形状の外郭線の描画処理を行わないようにした。
この手段は上記第6の手段を方法的に記載したものである。
また、第19の手段として、クライアントからの受注データである玉型形状に基づいて玉型形状の配置領域の外郭線を算出する配置領域算出工程を備え、前記配置領域算出工程で算出された前記配置領域の外郭線の位置データに基づいて前記ベースレンズのレンズ面上に前記配置領域の外郭線を描画するようにした。
この手段は上記第8の手段を方法的に記載したものである。
【0012】
本願発明は以下の実施の形態に記載の構成に限定されない。上述の第1の手段~第19の手段に示した発明は任意に組み合わせることができる。例えば、第1の手段に示した発明の全てまたは一部の構成に第2の手段以降の少なくとも1つの発明の少なくとも一部の構成を加える構成としてもよい。また、上述の第1の手段~第19の手段に示した発明から任意の構成を抽出し、抽出された構成を組み合わせてもよい。本願の出願人は、これらの構成を含む発明について権利を取得する意思を有する。
また、意匠出願への変更出願により、全体意匠または部分意匠について権利取得する意思を有する。図面は本装置の全体を実線で描画しているが、全体意匠のみならず当該装置の一部の部分に対して請求する部分意匠も包含した図面である。例えば当該装置の一部の部材を部分意匠とすることはもちろんのこと、部材と関係なく当該装置の一部の部分を部分意匠として包含した図面である。当該装置の一部の部分としては、装置の一部の部材とてもよいし、その部材の部分としてもよい。
【発明の効果】
【0013】
本願発明では、クライアントから提供されたユーザーの受注データに基づいて当該ユーザーの光学特性のベースレンズに玉型形状の外郭線又は配置領域の外郭線を迅速かつ正確に描画することができ、ベースレンズを玉型形状に加工する際にこれら外郭線を指標とすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明の実施の形態1の描画システムの概要を説明する説明図。
図2】実施の形態1の描画システムに使用されるレンズ保持機構においてベースレンズを収容した状態の断面図。
図3】実施の形態1の描画システムの電気的構成を説明するブロック図。
図4】(a)及び(b)はプリズム誤差の補正を説明するための単焦点レンズで乱視度数のないレンズにおけるベースレンズとそのベースレンズ用の玉型形状の位置関係を説明する説明図。
図5】(a)及び(b)はプリズム誤差の補正を説明するための単焦点レンズで乱視度数のないレンズにおけるベースレンズとそのベースレンズ用の玉型形状の位置関係を説明する説明図。
図6】(a)は単焦点レンズで乱視度数のあるレンズにおいて耳側にプリズム値0.00となる位置が配置される位相状態、(b)は(a)を180度回転させて鼻側にプリズム値0.00となる位置が配置される位相状態を説明する説明図。
図7】(a)及び(b)はプリズム誤差の補正を説明するための単焦点レンズで乱視度数のないレンズにおけるベースレンズとそのベースレンズ用の玉型形状の位置関係を説明する説明図。
図8】(a)~(c)は外観不良の部分の座標の算出手法を説明する説明図。
図9】(a)及び(b)は累進屈折力レンズにおいてベースレンズに玉型形状を配置する際の配置手法を説明する説明図。
図10】実施の形態1の描画システムにおいてCPUが実行する刻印処理を説明するフローチャート。
図11】実施の形態1の描画システムにおいてCPUが実行する刻印処理を説明するフローチャート。
図12】Aは玉型形状にボクシングセンタを原点として15度ステップで24方向に延出した直線との交点を表示したシミュレーション画像、Bはフィッティングポイントからもっとも遠い交点までを半径として描いたシミュレーション画像。
図13】Aは回転前の玉型形状にボクシングセンタを原点として15度ステップで24方向に延出した直線との交点を表示したシミュレーション画像、Bは180度回転させた玉型形状にボクシングセンタを原点として15度ステップで24方向に延出した直線との交点を表示したシミュレーション画像、Cは(a)と(b)のシミュレーション画像を重ねて表示したシミュレーション画像、Dは合成後のシミュレーション画像。
図14】実施の形態2の描画システムにおいてCPUが実行する刻印処理を説明するフローチャート。
図15】ベースレンズとベースレンズを蒸着装置にセットする際に使用する治具であって(a)は治具に従来の玉型形状が刻印されていないベースレンズを収容する前の状態を説明する説明図、(b)はセットした状態を説明する説明図、(c)は玉型形状が刻印されたベースレンズを治具にセットした状態を説明する説明図。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の玉型形状の描画システム及び描画方法の実施の形態について図面に従って説明をする。
(実施の形態1)
まず、図1に基づいて本実施の形態1の描画システム1の概要を説明する。
描画システム1はベースレンズ(丸レンズ)Lを搬送する第1の搬送手段としてのコンベヤ装置3と、コンベヤ装置3のラインの途中においてコンベヤ装置3に隣接する位置に設けられた領域である加工ブース4とを備えて構成されている。加工ブース4にはレンズ移送装置5が配設されている。レンズ移送装置5は回転するステージ6を備えている。ステージ6は第1のモーター7によって周方向に回転させられる(自転させられる)。本実施の形態1ではステージ6は図1において時計回り方向に回転する。
ステージ6の外周寄り下方位置には均等の間隔で複数の(本実施の形態1では8つの)レンズ保持機構8が配設されている。レンズ保持機構8はステージ6の回転に伴って周回する。図2(a)に示すように、レンズ保持機構8は内側の転動体9が転がり軸受け10によってケース11に対して回転可能に収容されている。ベースレンズLは転動体9の外周寄りに立設されたガイドバー12に包囲された収容空間S内に収容されるようになっている。レンズ保持機構8の転動体9は第2のモーター12によって回転させられる(自転させられる)。
【0016】
ステージ6の周囲には隠しマーク検出器15、レンズメーター16、レンズ撮像装置17、レーザー加工機18がステージ6の回転方向下流に向かって順に配置されている。
隠しマーク検出器15は累進屈折力レンズのレンズ面にマーキングされた隠しマーク(レイアウトマーク)を検出する装置である。レンズ保持機構8内に収容されるベースレンズLの回転方向の向き(位相)は様々であるため、位相を基準とする方向に統一する必要がある。隠しマーク検出器15は受注データを考慮しながら累進屈折力レンズの水平方向の指標となる隠しマークを検出し、その隠しマークに基づいて正しい位相に配置するために用いられる。隠しマークは測定位置やフレームの枠入れ等の便宜のための刻印であり、モールドからの転写またはセミフィニッシュトレンズにレーザー加工機によって施されている。隠しマーク検出器15の測定においては対象となるベースレンズLについて画像を取得し、画像の画素を輝度に基づいて判断して隠しマークの位置を検出する。隠しマーク検出器15はメインコンピュータ装置と接続され、メインコンピュータ装置(のCPU31)に制御される。
レンズメーター16はレンズのレンズ度数(S度数、C度数)、乱視軸、プリズム値等を測定するための装置である。レンズメーター16はメインコンピュータ装置と接続され、メインコンピュータ装置(のCPU31)に制御される。
レンズ撮像装置17は対象となるベースレンズLについて画像を取得し、受注データを考慮しながら画像の画素の状態を輝度に基づいて判断して画像の異常な部分を検出する装置である。異常な部分とは外観不良であり例えば小傷や小突起(ブツブツ)や泡等である。これらが存在する位置では通常と異なる輝度が算出される。レンズ撮像装置17はメインコンピュータ装置と接続され、メインコンピュータ装置(のCPU31)に制御される。
レーザー加工機18は、レーザー装置によってレンズ面を溶かして屈折率の異なる部分を形成させることで線描するための装置である。レーザー加工機18はメインコンピュータ装置と接続され、メインコンピュータ装置(のCPU31)に制御される。
加工ブース4内には複数の(本実施の形態1では2つの)第2の搬送手段としてのロボットアーム装置19が配置されている。ロボットアーム装置19は図示しないモーター、エアコンプレッサー等を備え、アーム19a先端の吸盤によってベースレンズLを吸着し移動させる。コンベヤ装置3の加工ブース4入り口に面した位置にはバーコード読み取り機20が配設されている。ロボットアーム装置19はメインコンピュータ装置と接続され、メインコンピュータ装置(のCPU31)に制御される。
ベースレンズLは左右一対が一組としてトレイ21に載置された状態でコンベヤ装置3上にトレイ21とともに置かれて搬送される。トレイ21の加工ブース4側を向いた側面位置には当該一組のベースレンズLの受注データが記された帳票23が吊り下げられている。帳票23には当該一組のベースレンズLの受注データがバーコード化されて表記されている。
【0017】
次に、このように構成される描画システム1の電気的構成について図3のブロック図に基づいて説明する。尚、本実施の形態1とは直接関係のない構成については図示を省略している。
描画システム1のメインコンピュータ装置は制御手段、位置決定手段、外観不良位置算出手段、配置領域算出手段を構成するCPU31を備えている。CPU31には上記システムを構成するレンズ移送装置5の第1のモーター7、レンズ保持機構8の第2のモーター12、隠しマーク検出器15、レンズメーター16、レンズ撮像装置17、レーザー加工機18、ロボットアーム装置19、バーコード読み取り機20等の各種装置がそれぞれ図示しないインターフェースを介して接続されている。また、CPU31にはレンズ移送装置5の回転位置(位相位置)を検出するロータリーエンコーダ39が図示しないインターフェースを介して接続されている。ロータリーエンコーダ39はレンズ移送装置5のステージ6の回転位置(位相)を検出する。
また、CPU31にはメモリとしてのROM32及びRAM33が接続されている。ROM32にはレンズ移送装置5を総括的に制御するためのアプリケーションプログラム、隠しマーク検出器15、レンズメーター16、レンズ撮像装置17、レーザー加工機18、ロボットアーム装置19、バーコード読み取り機20等を制御するためのアプリケーションプログラム等が格納されている。また、ROM32にはベースレンズの各種特性値(眼鏡レンズLの直径,床高,中心厚,コバ厚等,カーブ値,玉型形状,コーティングの種類を示す値等)が受注データのバーコードと対応付けられて格納されている。
RAM33はバーコード読み取り機20で読み取られた受注データ、レンズメーター16で測定されたレンズ度数やプリズム値、レンズ撮像装置17で撮像されたレンズの撮像データ、受注データや測定された値に基づいてCPU31が計算した数値等が一時的に記憶される。また、CPU31にはデータ入力手段としてのキーボード36及びマウス37と、データ出力手段、表示手段としてのモニター38、報知手段としてのブザー40がそれぞれ図示しないインターフェースを介して接続されている。
【0018】
上記のような電気的構成において、メインコンピュータ装置のCPU31は以下のような制御・演算等を実行する。
(1)基準となる位相へのレンズの配置
CPU31は、隠しマーク検出器15で取得された座標の輝度に基づいて隠しマークの位置を判断し、その隠しマークの位置に基づいてレンズ保持機構8上の基準方向(基準となる位相)に対する位相のズレ量を算出し、レンズ保持機構8の第2のモーター12を制御して転動体9を回転させ、累進屈折力レンズであるベースレンズLをレンズ保持機構8の基準となる位相に対して正しい位相状態となるように配置させる。
また、CPU31は、受注データから乱視があるレンズについてレンズメーター16で取得された検出データに基づいてレンズ保持機構8上の基準方向(基準の位相)に対する正しい乱視軸方向の位相となるようにレンズ保持機構8の第2のモーター12を制御して転動体9を回転させ、ベースレンズLが正しい位相状態となる位置に配置されるようにする。また、CPU31は、レンズメーター16で取得された検出値に基づいて当該レンズがレイアウト上の度数測定位置およびプリズム測定位置において受注データの(処方の)度数・プリズム値であるかどうかを判断する。この時、度数・プリズム値がレンズ出荷規格の許容範囲を超えていると判断すると、レーザー加工機18での加工対象としないようにする。また、プリズム値が許容範囲ではあるが処方とのズレがあると判断した場合には処方値に近づくように制御をする。
尚、累進屈折力レンズでもなく乱視もない単焦点レンズであれば回転方向にどのような位相で配置してもよい。
【0019】
(2)プリズム誤差の補正
上記(1)においてレンズメーター16で測定したプリズム値が許容範囲ではあるが処方とのズレがあると判断した場合に、CPU31が続いて実行するプリズム値を処方値に近づける制御について具体的に説明する。
CPU31はレイアウト上のプリズム測定位置においてレンズメーター16で取得された検出値と処方の値とを比較し、その差分が0となるようにレンズメーター16の図示しないモーターをフィードバック制御してレンズメーター16のノーズピースを処方値となる方向に移動させていく。つまり、プリズム誤差を補正することで光学中心を処方の値に近い位置に移動させる。
上記の隠しマーク検出器15あるいはレンズメーター16での測定によってレンズ保持機構8の基準方向(基準の位相)に対してベースレンズLが正しい位相となる位置に配置された状態を初期の光学中心位置を位置Aとする。位置Aは、レイアウト上のプリズム測定位置を原点にベースレンズLをレンズ保持機構8により回転させた状態を示す。CPU31は初期位置Aが半径1mmの円内でプリズム誤差が最小となる修正された光学中心となる位置Bを探す。半径1mmとしたのはこれ以上の位置に移動させると玉型がベースレンズLの外郭からはみ出てしまうおそれがあるからである。この位置Bは下記数1のプレンティスの式に基づいて決定される。
以下に具体的なある処方のレンズにプリズム誤差があるとして、その誤差を補正する例について説明する。
【0020】
【数1】
【0021】
例えば、単焦点レンズで乱視度数のないレンズの、プリズム処方がプリズム値0.00、処方度数としてS3.00が与えられているとする。このとき、初期位置Aで測定したところ、鼻側に0.25のインプリズムが測定されたとする。測定度数は乱視度数がないためS3.00である。この場合のプリズム誤差が最小となる位置Bは、上記プレンティスの式に数値を代入すると、0.25=(3.00*h)/10となり、h=0.8333・・となる。この値を小数点以下4桁で四捨五入する。ここから位置Bは位置Aから鼻側に0.8333mmの距離となる。この値は図4(a)に示すように半径1mmの円内に入っているため、プリズム誤差が最小となる位置として採用する。図4(b)に示すように玉型形状のフィッティングポイントFPは位置Bに配置される。
一方、処方によっては光学中心となるべき位置Bが半径1mmの円内に入らないケースがある。その場合には半径1mmの円内でもっともプリズム誤差が小さくなる位置を採用する。この位置が眼鏡レンズ上の心取り点位置であり、玉型形状のシミュレーションを行う際にはフィッティングポイントFPを心取り点位置に一致させて行う。
例えば、単焦点レンズで乱視度数のないレンズの、プリズム処方がプリズム値0.00、処方度数としてS3.00が与えられているとする。このとき、初期位置Aで測定したところ、鼻側に0.50のインプリズムが測定されたとする。上記プレンティスの式に数値を代入すると、0.50=(3.00*h)/10となり、四捨五入してh=1.6667となる。この位置はプリズム誤差が最小となる位置Bである。図5(a)に示すように、玉型形状のフィッティングポイントFPは位置Bに配置される。この場合に位置Bは半径1mmの円内に入らないため、図5(b)に示すように初期位置Aと位置Bを結ぶ直線状の円との交点を位置Cとして採用する。心取り点位置は位置Cに配置される。
【0022】
また、例えば単焦点レンズで乱視度数のあるレンズの、プリズム処方がプリズム値0.00、処方度数としてS-4.00、C-4.00、AX30が与えられているとする。この場合には乱視軸方向が考慮されるため、レンズメーター16で取得された検出値に基づいて上記(1)の説明のように、ベースレンズLは処方の乱視軸方向となるように配置される。このとき、初期位置Aで測定したところ、0.75のプリズムが測定されたとする。乱視軸方向に対する玉型形状の配置は180度反転させて配置が可能である。そのため、単焦点レンズで乱視度数のあるレンズでは図6(a)に示すような耳側(IN)と、図6(b)に示すような180度反転した場合の鼻側(OUT)のそれぞれ異なる方向にプリズム誤差が修正可能となる。上記プレンティスの式に数値を代入すると、0.75=(-8.00*h)/10となり、h=-0.9375となる。この値は半径1mmの円内に入っているため、プリズム誤差が最小となる位置として採用できる。眼鏡としては鼻側にオフセットする方がよいため、図6(b)の180度反転した向きが選択される。つまり、この例では幾何中心から約0.94mm耳側の位置を位置Bとする。図7(a)に示す玉型形状は図7(b)のように心取り点位置は鼻側に移動した位置Bに配置される。
【0023】
(3)外観不良の部分の座標の算出
CPU31は、レンズ撮像装置17で取得された異常な部分の座標の輝度に基づいて外観不良を判断し、受注データに基づくレンズの外郭形状に対する外観不良の部分の位置の座標を算出する。この際の外観不良位置の座標の基準は初期位置Aに基づく。つまり、補正された位置Bや位置Cを基準としない。
(4)ベースレンズへの玉型形状の配置
CPU31は、受注データに基づく玉型形状の外郭線がベースレンズの外郭線の内側に配置され、かつクライアントからの受注データに基づいた配置となるように前記玉型形状の外郭線の位置を算出する。これにはレンズの種類に応じて次のような計算が実行される。
イ)単焦点レンズで乱視度数のないレンズについて
乱視度数がないレンズでは乱視軸方向を考慮しなくともよいため、CPU31はベースレンズLの心取り点位置の座標に玉型形状のフィッティングポイントFPの座標を一致させ、フィッティングポイントFPを中心に玉型形状を回転させるシミュレーションを実行し、玉型形状の外郭線の内側にレンズ撮像装置17で検出された外観不良の部分の座標が配置されるかどうか(座標が重なるかどうか)を判断する。
具体的にはCPU31は図8(a)に示すように、プリズム誤差を修正したベースレンズLの心取り点位置の座標にこのベースレンズLの玉型形状を受注データに基づくフィッティングポイントFPの座標が重なるようにシミュレーションを実行し、図8(b)のようにフィッティングポイントFPを中心に玉型形状を回転させる。例えば、初期位置では外観不良の位置Gが玉型形状内に配置されているが、これを図8(c)のように玉型形状内に配置されないようにする。CPU31は玉型形状の外郭線上の基準となる座標位置を回転とともに計算し、すでに取得している外観不良の座標と比較して外観不良の座標が玉型形状の外郭線の内側にあるかどうかを判断する。
ロ)単焦点レンズで乱視度数のあるレンズについて
乱視度数があるレンズでは乱視軸方向を考慮しなければならないため、乱視度数のないレンズに比べて配置の自由度がない。CPU31はレンズメーター16で取得された当該レンズの受注データに基づいた乱視軸方向を考慮する必要がある。レンズ保持機構8上の基準方向に基づいて測定された乱視軸方向にプリズム誤差を修正したベースレンズLを配置させた後、ベースレンズLの心取り点位置の座標に玉型形状のフィッティングポイントFPの座標を一致させる。フィッティングポイントFPを中心に玉型形状を回転させるシミュレーションを実行するが、乱視軸方向が決まっているため、玉型形状は上下反転、つまり180度回転させた2つの方向のみに配置される。尚、ロ)では外観不良の検査は行わないが、行ってもよい。
ハ)累進屈折力レンズについて
累進屈折力レンズは乱視度数のあるレンズに比べてもさらに自由度がない。CPU31は隠しマーク検出器15で取得された水平基準位置を示す隠しマークの位置の座標を指標として玉型形状を配置する。累進屈折力レンズは図9(a)(b)に示すようにプリズム誤差を修正したベースレンズLに対して玉型形状の受注データに基づくフィッティングポイントFPの座標が左右の水平基準点Hの中点位置に配置される。
(5)ベースレンズへの玉型形状の刻印
CPU31は上記(4)において当該ベースレンズLに対する玉型形状の位置が決定されると、玉型形状の外郭線に沿った座標データに基づいてレーザー加工機18を制御して当該ベースレンズLに対して線描を刻印する動作を実行させる。
【0024】
次に、このような描画システム1におけるCPU31の実行する制御について描画システム1を構成する構成部材との関係で説明する。
ベースレンズLとともにコンベヤ装置3上に載置されたトレイ21が加工ブース4内に進入すると、CPU31は帳票23の受注データをバーコード読み取り機20によって読み取らせ、そのバーコード情報に基づいて当該トレイ21との関係でベースレンズLの受注データを取得する。
一方、CPU31はロボットアーム装置19を制御して所定位置まで進出してきたトレイ21上のベースレンズLを隠しマーク検出器15位置のレンズ保持機構8の転動体9内部の収容空間S内に収容させる。具体的にはロボットアーム装置19のアーム19a先端の図示しない吸盤でトレイ21上のベースレンズLを吸着し持ち上げ、アーム19aを回動させてレンズ保持機構8の上方位置で吸着状態を解除する。ベースレンズLはレンズ保持機構8内に落下して転動体9の収容空間S内に収容される。図1に示すようにレンズ保持機構8に保持されたベースレンズLはこの段階で隠しマーク検出器15の上方の測定位置に配置されている。以後は、CPU31は第1のモーター7を制御してレンズ移送装置5のステージ6を回転させ、隠しマーク検出器15→レンズメーター16→レンズ撮像装置17の測定位置にレンズ保持機構8を移動させていきそれぞれ必要な測定をさせ、測定結果に基づいてCPU31は必要な演算を実行する。そして、CPU31演算結果に基づいてレーザー加工機18において必要な刻印処理を実行させ、ロボットアーム装置19を制御してベースレンズLを再び当該ベースレンズLが載置されていたトレイ21上に戻すようにする。
その後、トレイ21はコンベヤ装置3を下流に移動させられるが、レーザー加工機18で刻印されなかった製品はそのベースレンズLが収容されていたレンズ保持機構8が記憶されることで、トレイ21上に戻された際にコンベヤ装置3上の位置が図示しないカメラで確認され、下流に流れた際に所定の位置で不良品として側方からプッシュロッドや揺動アーム等の機構によってコンベヤ装置3上から押しのけられて排除される。
1つのトレイ21に載置されたベースレンズLは左右一対で2つあるため、CPU31は第1のモーター7を制御してレンズ移送装置5のステージ6を回転させてレンズ保持機構8を1つ分進行させて、次のベースレンズLを隣接するレンズ保持機構8内に収容するよう制御する。
【0025】
次に、ベースレンズLに対して玉型形状を刻印するかどうかについてのCPU31の実行する処理について図10及び図11のフローチャートに基づいて説明する。
図10に示すように、CPU31はステップS1においてバーコード読み取り機20によって受注データを取得すると、ステップS2において受注データに基づいて搬送されてきたベースレンズLが単焦点レンズかどうかを判断する。ここで単焦点レンズである場合には処理はステップS3に移行する。一方、単焦点レンズではない、つまり累進屈折力レンズであると判断した場合には後述するステップS11に移行する。
CPU31はステップS2において搬送されてきたベースレンズLが単焦点レンズであると判断すると、ステップS3においてレンズメーター16で測定した値に基づいて必要な位相の補正を行う。位相の補正とはレンズ保持機構8に対してベースレンズLを基準となる正位置に配置させるためにレンズ保持機構8によって回転させる補正である。単焦点レンズに乱視がなければ位相の補正はない。次いでステップS4でベースレンズLが度数・プリズム値が所定の範囲内であるかどうか判断し、許容範囲内であると判断した場合に処理をステップS5に移行させる。一方、許容範囲を超えていると判断した場合にはステップS6で不良品であると判断し、その旨のブザー40での報知をしてレーザー加工機18に刻印処理をさせずに終了させる。
ステップS5に移行して上記の「(2)プリズム誤差の補正」によって心取り点位置の補正をし、次いでステップS7においてレンズ撮像装置17の撮像データと受注データに基づいて上記「(3)外観不良の部分の座標の算出」によって外観不良位置を取得する。次いでステップS8においてCPU31は上記「(4)ベースレンズへの玉型形状の配置」に従って玉型を外観不良の部分を避けて配置できるかどうかのシミュレーションを実行し、配置できると判断した場合にはステップS9に移行し、レーザー加工機18にベースレンズLの表面に玉型形状を刻印させる。一方、配置ができない場合、つまりCPU31が受注データに従った位置に玉型を配置するとその内部に外観不良の部分が含まれてしまうと判断した場合にはステップS10で不良品であると判断し、その旨のブザー40での報知をしてレーザー加工機18に刻印処理をさせずに終了させる。
【0026】
次に、上記ステップS2において搬送されてきたベースレンズLが単焦点レンズではない、つまり累進屈折力レンズであると判断した場合の処理について説明する。
図11に示すように、CPU31はステップS11において隠しマーク検出器15で測定した値に基づいて必要な位相の補正を行う。次いで、CPU31はステップS12においてベースレンズLが度数・プリズム値が所定の範囲内であるかどうか判断し、許容範囲内であると判断した場合に処理をステップS13に移行させ、配置領域の外郭を決定する。そして、ステップS14においてレーザー加工機18に配置領域の外郭形状をベースレンズLの表面に刻印させる。一方、許容範囲を超えていると判断した場合にはステップS15で不良品であると判断し、その旨のブザー40での報知をしてレーザー加工機18に刻印処理をさせずに終了させる。つまり、実施の形態1では累進屈折力レンズについてはプリズム誤差の補正も外観不良の部分の座標の算出も行わずに刻印処理が実行される。
【0027】
上記のように構成することで、本実施の形態1の描画システム1では次のような効果が奏される。
(1)コンベヤ装置3上の流れ作業によって、受注データに対応したベースレンズLに対して玉型形状を刻印することができるため、ベースレンズLに対する玉型形状の刻印処理が効率化する。
(2)外観不良のあるベースレンズLについて、すべて不良品として廃棄するのではなく、玉型形状のベースレンズL上の姿勢を変えることで外観不良を避けることができる場合には外観不良のあるベースレンズLであっても眼鏡レンズとして使用することができるため、資源が無駄にならない。
(3)ベースレンズLの光学中心が処方に近い最適な位置に補正されるため、より正確な眼鏡レンズを作製することができる。
(4)ベースレンズLに対して玉型形状を刻印する副次的効果として次のようなことが想定される。
ベースレンズLにハードコートやマルチコートを施すことがある。このようなコーティング処理は蒸着法によって行われることが多く、その際にはベースレンズLをベースレンズLの外形に対応したリング状の治具に納め、蒸着装置にセットする。図15(a)~(c)に示すように、治具41はベースレンズLを支えるための内側に突出した棚42を有している。ベースレンズLは治具41内に棚42によって支えられることとなる。この際にベースレンズLに玉型形状が刻印されていると、玉型形状が棚42にかかる位置まで外方に張り出している際に、図15(c)のように玉型形状が棚42に重ならないように配置することで玉型にコーティングされない部分が生じないようにすることができる。
【0028】
(実施の形態2)
まず、本実施の形態2の描画システム1の概要を説明する。実施の形態2の描画システム1も実施の形態1と同じ機械的構成及び電気的構成のシステムである。実施の形態2では制御・演算内容が実施の形態1のCPU31と若干異なる。そのため、以下では実施の形態1のCPU31と異なる点について詳しく説明し、その他は実施の形態1に準じ説明を省略する。
メインコンピュータ装置のCPU31は実施の形態1のCPU31の「(1)基準となる位相へのレンズの配置」と「(2)プリズム誤差の補正」については同様の制御・演算等を実行する。しかし、「(3)外観不良の部分の座標の算出」については算出しない、あるいは算出してもその算出値を用いない制御となる。実施の形態2ではすでに外観不良がチェックされた後のベースレンズLを用いることがよい。
実施の形態2のCPU31は、玉型形状に関する受注データ(玉型形状データ、フィッティングポイント、ボクシングセンタ等)に基づいて玉型形状の回転・合成を実行し配置領域の外郭を決定する。そして、配置領域の外郭をレーザー加工機18によって配置領域の外郭に沿ってベースレンズLの表面に刻印する。玉型形状の回転及び合成手法は次の通りである。
【0029】
(1)単焦点レンズで乱視のない場合の計算
イ)受注データに基づく当該ベースレンズLの玉型形状データをシミュレーションし、ボクシングセンタを原点とした24方向(15度ステップ)に対応する玉型形状との交点までの距離rを求める。図12Aはシミュレーションの結果としての画像である。
ロ)ここで玉型形状の座標を、ボクシングセンタを原点とした座標系からフィッティングポイントを原点とした座標系に変換する。
変換前のフィッティングポイントの座標を(x0, y0)、玉型形状の座標を(x, y)としたとき、変換後の玉型形状の座標(x', y')は下記の数2の式で表される。
【0030】
【数2】
【0031】
ハ)変換後の玉型形状の座標を用いてフィッティングポイントを原点とした24方向に対応する玉型形状との交点までの距離r'を求め、最大となるr'maxを記憶する。
二)フィッティングポイントを原点とした半径r'maxの円を求める。円の座標(x'', y'')は下記数3の式で示す。図12Bはシミュレーションの結果としての画像である。この円が玉型形状を配置できる領域となる。
【0032】
【数3】
【0033】
(2)単焦点レンズで乱視のある場合の計算
イ)受注データに基づく当該ベースレンズLの玉型形状データをシミュレーションし、ボクシングセンタを原点とした24方向(15度ステップ)に対応する玉型形状との交点までの距離rを求める。回転前のボクシングセンタを原点とした玉型形状の座標を(x、y)とし、フィッティングポイントの座標を(x0、y0)とおく。フィッティングポイントを原点とした回転後の玉型形状の座標(X、Y)を下記数4の式で求める。これは乱視のある(乱視軸のある)レンズでは180度回転させた2つの姿勢での配置が可能であるからである。図12A,Bにそれぞれ回転前と回転後の玉型形状のシミュレーション画像を示す。
【0034】
【数4】
【0035】
ロ)回転後の座標は元々の24の方向に180度を加算したことになるので、回転後の座標を元々の24の方向の角度θに対応した座標に入れ替え、これを座標(X'、Y')とする。
ハ)座標(X'、Y')においてボクシングセンタを原点とした24方向に対応する距離r'を求める。
ニ)各方向ごとに採用座標X'', Y''を決定する。
r'> rの場合は回転後の入れ替え座標(X'、Y')を採用し、r'< rの場合は回転前の座標(x、y)を採用する。つまり、距離rと距離r'のいずれかボクシングセンタから遠い方の距離の座標を結んだ領域が玉型形状を配置できる領域となる。
図13Cに回転前と回転後の玉型形状のシミュレーション画像を重ねて示す。ニ)の計算を行った結果のシミュレーション画像が図13Dとなる。
【0036】
次に、ベースレンズLに対して玉型形状を刻印するかどうかについてのCPU31の実行する処理について図14のフローチャートに基づいて説明する。
図10に示すように、CPU31はステップS11においてバーコード読み取り機20によって受注データを取得すると、ステップS12において受注データに基づいて搬送されてきたベースレンズLが単焦点レンズかどうかを判断する。ここで単焦点レンズである場合には処理はステップS13に移行する。一方、単焦点レンズではない、つまり累進屈折力レンズであると判断した場合には処理は終了する。つまり、実施の形態2の処理では単焦点レンズのみを対象としているためである。
CPU31はステップS12において搬送されてきたベースレンズLが単焦点レンズであると判断すると、ステップS13においてレンズメーター16で測定した値に基づいて必要な位相の補正を行う。単焦点レンズに乱視がなければ位相の補正はない。次いでステップS14でベースレンズLが度数・プリズム値が所定の範囲内であるかどうか判断し、許容範囲内であると判断した場合に処理をステップS15に移行させる。一方、許容範囲を超えていると判断した場合にはステップS16で不良品であると判断し、その旨のブザー40での報知をしてレーザー加工機18に刻印処理をさせずに終了させる。
ステップS15に移行して上記の「(2)プリズム誤差の補正」によって心取り点位置の補正をし、次いでステップS17において配置領域の外郭を決定する。そして、ステップS18においてレーザー加工機18に配置領域の外郭形状をベースレンズLの表面に刻印させる。
【0037】
上記のように構成することで、本実施の形態2の描画システム51では、単焦点レンズについて玉型形状データに基づいて配置が可能な領域が刻印されるため、作業者が実際に玉型に加工する際の指標とすることができる。
【0038】
上記実施の形態は本発明の原理およびその概念を例示するための具体的な実施の形態として記載したにすぎない。つまり、本発明は上記の実施の形態に限定されるものではない。本発明は、例えば次のように変更した態様で具体化することも可能である。
・上記実施の形態2は単焦点レンズを対象としているため、フローチャートは当初から累進屈折力レンズについて判断をしないような制御であってもよい。
・上記の描画システム1の構成は一例であり、他の形態で実施するとは自由である。例えば、隠しマーク検出器15とレンズメーター16の順序を入れ替えてもよい。また、搬送手段としては上記のようなコンベヤ装置3やロボットアーム装置19以外を用いるようにしてもよい。上記ではステージ6周囲に複数のレンズ保持機構8を配置する構成であったが、ステージ6以外の構成で実現するようにしてもよい。
・描画手段としてはレーザー加工機18以外に、レーザーではない刃物を使用して加工する加工機でもよく、印刷機による描画であってもよい。
・上記ではレーザー加工機18によって刻印(線描)したが、塗りつぶしのような手段でもよい。例えば印刷機であれば塗りつぶしは容易である。
・上記実施の形態ではベースレンズLに対する玉型形状の外郭線は、玉型形状の位置が確定した際には受注データ通りの倍率で刻印(描画)したが、CPU31は玉型形状データの外郭線の座標位置を外方に移動させて玉型形状を例えば1.1倍や1.2倍程度にわずかに大きくして描画手段であるレーザー加工機18に刻印させるように拡大制御してもよい。このように玉型形状の外郭線を拡大することで玉型加工機の加工誤差によって刻印した部分がフレームに玉型を取り付けた際に内側に露出してしまうような不具合を防止することができる。
・上記実施の形態1も実施の形態2も同じ機械的構成であったが、例えば実施の形態2ではレンズ撮像装置17を設置せずに構成するようにしてもよい。
・上記実施の形態2において配置領域を算出する際にボクシングセンタを原点とした24方向の交点を用いたが、24点でなくともよい。例えばもっと細かく交点を設定して算出することでより滑らかな配置領域の外郭線のカーブ形状を加工することができる。
・上記実施の形態2においてカーブを滑らかにするために補間計算によるカーブ形状のスムージング処理を行ってもよい。
・報知手段はブザー40以外に、ランプを点灯させたり、モニター38の画面に表示させたり、帳票として出力してもよい。
・上記では刻印処理をしなかったベースレンズLを検出して自動的に排除するようにしていたが、作業者が取り除くようにしてもよい。
【符号の説明】
【0039】
1…描画システム、18…描画手段としてのレーザー加工機、31…位置算出手段、配置領域算出手段としてのCPU、L…ベースレンズ。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12A
図12B
図13A
図13B
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図15