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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023105367
(43)【公開日】2023-07-31
(54)【発明の名称】端子およびコネクタ
(51)【国際特許分類】
   H01R 4/18 20060101AFI20230724BHJP
【FI】
H01R4/18 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022006146
(22)【出願日】2022-01-19
(71)【出願人】
【識別番号】000227995
【氏名又は名称】タイコエレクトロニクスジャパン合同会社
(74)【代理人】
【識別番号】100100077
【弁理士】
【氏名又は名称】大場 充
(74)【代理人】
【識別番号】100136010
【弁理士】
【氏名又は名称】堀川 美夕紀
(72)【発明者】
【氏名】筒井 有機
【テーマコード(参考)】
5E085
【Fターム(参考)】
5E085BB03
5E085BB12
5E085CC03
5E085DD14
5E085EE01
5E085JJ35
5E085JJ50
(57)【要約】
【課題】座屈強度を確保しながら、板厚を薄くして小型化を図ることが可能な端子、およびその端子を備えたコネクタを提供すること。
【解決手段】
端子(1)は、本発明の端子(1)は、前後方向(x)に延在する端子部(10)と、端子部(10)よりも後方で電線(2)に圧着される圧着部(30(31,32))と、前後方向(x)に延在し、圧着部(30)および端子部(10)の間に介在する前側移行部(40)と、を備える。前側移行部(40)は、側面視において、圧着部(30)の下側の最前部(31F)に相当する第1の始点(SP1)と、端子部(10)の下側の最後部(10R)に相当し、第1の始点(SP1)よりも下方に位置する第1の終点(EP1)とを結ぶ第1の仮想線(VL1)に対して下側に拡大されている第1の拡大領域(A1)を含む。
【選択図】図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
前後方向(x)に延在する端子部(10)と、
前記端子部よりも後方で電線に圧着される圧着部(30)と、
前記前後方向に延在し、前記圧着部および前記端子部の間に介在する前側の移行部(40)と、を備え、
前記前側の移行部は、側面視において、
前記圧着部の下側の最前部(31F)に相当する第1の始点(SP1)と、前記端子部の下側の最後部(10R)に相当し、前記第1の始点(SP1)よりも下方に位置する第1の終点(EP1)とを結ぶ第1の仮想線(VL1)に対して下側に拡大されている第1の拡大領域(A1)を含む、端子(1)。
【請求項2】
前記第1の拡大領域(A1)の側面視の形状は、前記第1の始点(SP1)から、前記第1の仮想線(VL1)よりも下方に位置する第1の中間点(MP1)まで延びる第1の始点側直線(SL1)と、前記第1の中間点(MP1)から前記第1の終点(EP1)まで延びる第1の終点側直線(EL1)とによって与えられ、
前記前後方向に対する前記第1の始点側直線(SL1)の傾きは、前記前後方向に対する前記第1の終点側直線(EL1)の傾きよりも大きい、請求項1に記載の端子(1)。
【請求項3】
前記圧着部(30)には、ベルマウス(313)が形成され、
前記前後方向における前記第1の中間点(MP1)の位置は、前記前後方向における前記ベルマウスの端縁(313F)の位置に相当する、
請求項2に記載の端子(1)。
【請求項4】
前記前側の移行部(40)は、左側と右側とで非対称に形成されている、
請求項1から3のいずれか一項に記載の端子(1)。
【請求項5】
前記圧着部(30)は、前記端子部よりも後方で電線の芯線に圧着される芯線圧着部(31)と、前記芯線圧着部よりも後方で前記電線の被覆に圧着される被覆圧着部(32)と、を含み、
前記端子(1)は、前記前後方向に延在し、前記芯線圧着部および前記被覆圧着部の間に介在する後側の移行部(50)を備え、
前記後側の移行部は、側面視において、
前記芯線圧着部の下側の最後部(31R)に相当する第2の始点(SP2)と、前記被覆圧着部の下側の最前部(32F)に相当し、前記第2の始点(SP2)よりも下方に位置する第2の終点(EP2)とを結ぶ第2の仮想線(VL2)に対して下側に拡大されている第2の拡大領域(A2)を含む、
請求項1から4のいずれか一項に記載の端子(1)。
【請求項6】
前後方向(x)に延在する端子部(10)と、
前記端子部よりも後方で電線の芯線に圧着される芯線圧着部(31)と、
前記芯線圧着部よりも後方で前記電線の被覆に圧着される被覆圧着部(32)と、
前記前後方向に延在し、前記芯線圧着部および前記被覆圧着部の間に介在する後側の移行部(50)と、を備え、
前記後側の移行部は、側面視において、
前記芯線圧着部の下側の最後部(31R)に相当する第2の始点(SP2)と、前記被覆圧着部の下側の最前部(32F)に相当し、前記第2の始点よりも下方に位置する第2の終点(EP2)とを結ぶ第2の仮想線(VL2)に対して下側に拡大されている第2の拡大領域(A2)を含む、端子(1)。
【請求項7】
前記第2の拡大領域(A2)の側面視の形状は、前記第2の始点(SP2)から、前記第2の仮想線(VL2)よりも下方に位置する第2の中間点(MP2)まで延びる第2の始点側直線(SL2)と、前記第2の中間点(MP2)から前記第2の終点(EP2)まで延びる第2の終点側直線(EL2)とによって与えられ、
前記前後方向に対する前記第2の始点側直線(SL2)の傾きは、前記前後方向に対する前記第2の終点側直線(EL2)の傾きよりも大きい、請求項6に記載の端子(1)。
【請求項8】
前記芯線圧着部(31)には、ベルマウス(314)が形成され、
前記前後方向における前記第2の中間点(MP2)の位置は、前記前後方向における前記ベルマウスの端縁(314R)の位置に相当する、
請求項7に記載の端子(1)。
【請求項9】
前記後側の移行部(50)は、左側と右側とで非対称に形成されている、
請求項6から8のいずれか一項に記載の端子(1)。
【請求項10】
請求項1から9のいずれか一項に記載の端子(1)と、
前記端子を保持するハウジング(6)と、を備える、コネクタ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、雌型の端子、および当該端子を備える電気コネクタに関する。
【背景技術】
【0002】
雌型端子は、相手端子と嵌合される端子部と、電線が圧着される圧着部とを備えている(例えば、特許文献1)。端子部は、典型的には角筒状に形成され、端子部の内側に相手端子が挿入される。端子部の内側には、相手端子に接触する接点ばねが配置される。圧着部は、端子部の後方に所定の長さで延在している。端子部と圧着部とは、一直線状に延びている移行部を介して接続されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2020-64807号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
端子をより一層小型化することが要請されている。そのため、端子の寸法を小さくしようとすると、特に、接点ばね等の内部構造を有した端子部の寸法を径方向に小さくしようとすると、板厚を薄くせざるを得ない。そうすると、コネクタハウジングへの挿入時等に座屈しない強度を端子に与えることが難しい。
そこで、本発明は、座屈強度を確保しながら、板厚を薄くして小型化を図ることが可能な端子、およびその端子を備えるコネクタを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の端子(1)は、前後方向(x)に延在する端子部(10)と、端子部よりも後方で電線に圧着される圧着部(30)と、前後方向に延在し、圧着部および端子部の間に介在する前側の移行部(40)と、を備る。
前側の移行部は、側面視において、圧着部の下側の最前部(31F)に相当する第1の始点(SP1)と、端子部の下側の最後部(10R)に相当し、第1の始点(SP1)よりも下方に位置する第1の終点(EP1)とを結ぶ第1の仮想線(VL1)に対して下側に拡大されている第1の拡大領域(A1)を含む。
【0006】
本発明の端子(1)において、第1の拡大領域(A1)の側面視の形状は、第1の始点(SP1)から、第1の仮想線(VL1)よりも下方に位置する第1の中間点(MP1)まで延びる第1の始点側直線(SL1)と、第1の中間点(MP1)から第1の終点(EP1)まで延びる第1の終点側直線(EL1)とによって与えられ、前後方向に対する第1の始点側直線(SL1)の傾きは、前後方向に対する第1の終点側直線(EL1)の傾きよりも大きいことが好ましい。
【0007】
本発明の端子(1)において、圧着部(30)には、ベルマウス(313)が形成され、前後方向における第1の中間点(MP1)の位置は、前後方向におけるベルマウスの端縁(313F)の位置に相当することが好ましい。
【0008】
本発明の端子(1)において、前側の移行部(40)は、左側と右側とで非対称に形成されていてもよい。
【0009】
本発明の端子(1)において、圧着部(30)は、端子部よりも後方で電線の芯線に圧着される芯線圧着部(31)と、芯線圧着部よりも後方で電線の被覆に圧着される被覆圧着部(32)と、を含み、端子(1)は、前後方向に延在し、芯線圧着部および被覆圧着部の間に介在する後側の移行部(50)を備え、後側の移行部は、側面視において、芯線圧着部の下側の最後部(31R)に相当する第2の始点(SP2)と、被覆圧着部の下側の最前部(32F)に相当し、第2の始点(SP2)よりも下方に位置する第2の終点(EP2)とを結ぶ第2の仮想線(VL2)に対して下側に拡大されている第2の拡大領域(A2)を含むことが好ましい。
【0010】
また、本発明の端子(1)は、前後方向(x)に延在する端子部(10)と、端子部よりも後方で電線の芯線に圧着される芯線圧着部(31)と、芯線圧着部よりも後方で電線の被覆に圧着される被覆圧着部(32)と、前後方向に延在し、芯線圧着部および被覆圧着部の間に介在する後側の移行部(50)と、を備える。後側の移行部は、側面視において、芯線圧着部の下側の最後部(31R)に相当する第2の始点(SP2)と、被覆圧着部の下側の最前部(32F)に相当し、第2の始点よりも下方に位置する第2の終点(EP2)とを結ぶ第2の仮想線(VL2)に対して下側に拡大されている第2の拡大領域(A2)を含む。
【0011】
本発明の端子(1)において、第2の拡大領域(A2)の側面視の形状は、第2の始点(SP2)から、第2の仮想線(VL2)よりも下方に位置する第2の中間点(MP2)まで延びる第2の始点側直線(SL2)と、第2の中間点(MP2)から第2の終点(EP2)まで延びる第2の終点側直線(EL2)とによって与えられ、前後方向に対する第2の始点側直線(SL2)の傾きは、前後方向に対する第2の終点側直線(EL2)の傾きよりも大きいことが好ましい。
【0012】
本発明の端子(1)において、芯線圧着部(31)には、ベルマウス(314)が形成され、前後方向における第2の中間点(MP2)の位置は、前後方向におけるベルマウスの端縁(314R)の位置に相当することが好ましい。
【0013】
本発明の端子(1)において、後側の移行部(50)は、左側と右側とで非対称に形成されていてもよい。
【0014】
本発明のコネクタは、上述の端子(1)と、端子(1)を保持するハウジング(6)と、を備える。
【発明の効果】
【0015】
本発明の端子によれば、前側および後側の移行部の少なくとも一方に拡大領域を備えることにより、拡大領域の分だけ移行部の断面積が増加されるので、板厚が薄いとしても端子に必要な座屈強度を担保することができる。そうすると、端子のより一層の小型化を図り、端子を備えたコネクタの小型化を促進することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】(a)は、本発明の実施形態に係る雌型端子の斜視図である。(b)は、当該端子の平面図である。
図2】(a)は、図1(a)に示す端子の下面図である。(b)は、図1(b)におけるIIb矢視断面図である。
図3】(a)は、図1(b)におけるIIIa矢視による側面図である。(b)は、図1におけるIIIb矢視による側面図である。
図4】(a)は、図3(a)のIVa部拡大図である。(b)は、(a)は、図3(b)のIVb部拡大図である。
図5】(a)および(b)は、移行部における拡大領域を詳細に説明するための側面模式図である。
図6】(a)および(b)は、比較例に係る端子の移行部を示す側面模式図である。
図7】(a)および(b)はそれぞれ、本発明の変形例に係る端子の移行部を示す側面模式図である。
図8】(a)および(b)はそれぞれ、別の変形例に係る端子の移行部を示す側面模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、添付図面を参照しながら、本発明の一実施形態について説明する。
〔端子の全体構成〕
図1図3に示す端子1は、全体として一方向に延在しており、電線2が圧着される。端子1には、延在している方向に沿ってタブ状の図示しない相手端子が嵌合される。端子1は、銅合金等の金属材料からなる薄板素材をプレス加工により打ち抜き、折り曲げることで、一体に形成されている。
【0018】
端子1は、前後方向xに延在する端子部10と、端子部10よりも後方で電線2に圧着される圧着部30とを備えている。単一または複数の端子1は、図3(a)および(b)に二点鎖線で示すハウジング6に収容されるとともに保持される。端子1およびハウジング6を備えてコネクタが構成される。
【0019】
本明細書において、端子1が延在している方向を前後方向xと定義する。端子1において相手端子が挿入される側を「前」、電線2が圧着される側を「後」と定義し、それぞれをF,Rで示す。左右方向yは前後方向xに対して直交しており、上下方向zは、前後方向xおよび左右方向yのいずれに対しても直交している。「上」および「下」は、各図における上・下に従い、それぞれをU,Dで示す。圧着部30に備わる圧着片が、電線2に圧着される前において突出している向きは、上方に相当する。
【0020】
〔端子部の構成〕
端子部10は、上壁12、下壁13、左壁14、および右壁15を備えて直方体の箱状の外観に形成され、矩形状の横断面を呈する。端子部10の内側には、図示しない接点ばねが設けられている。接点ばねは、端子部10の前端の開口11から挿入される相手端子と接触する。図示しない接点ばねは、上壁12から折り曲げられており、右壁15の支持部151に支持されている。
下壁13と右壁15とが蟻継ぎにより接合されるとともに(図2(a)参照)、支持部151の両側で上壁12の突起122,123が右壁15にかしめられることで、端子部10が成形されている。
なお、本実施形態の端子部10の構成は、一例であって、これに限られない。端子部10は、相手端子と接触して導通する機能を備えている限り、適宜に構成することができる。
【0021】
〔圧着部の構成〕
圧着部30は、図1図4に示すように、端子部10から後方に前側移行部40を介して連なっている。圧着部30は、電線2の被覆21から露出している図示しない芯線に圧着される芯線圧着部31と、芯線圧着部31よりも後方で被覆21に圧着される被覆圧着部32とを備えている。
芯線圧着部31は、下部310からそれぞれ立ち上がるとともに、左右方向yの中心に向けて巻き込まれ、芯線に食い込みつつ圧着される左圧着片311および右圧着片312を備えている。
被覆圧着部32は、芯線圧着部31から後方に後側移行部50を介して連なっている。被覆圧着部32は、下部320からそれぞれ立ち上がり、被覆21の外周部に圧着される左圧着片321および右圧着片322を備えている。
【0022】
芯線圧着部31は、圧着後において端子部10の内部の領域に収まるように、左右方向yおよび上下方向zのそれぞれの寸法が設定されている。圧着後の芯線圧着部31は、端子部10、および圧着後の被覆圧着部32のいずれに対しても、左右方向yに小さく、かつ上下方向zに小さい。
【0023】
芯線圧着部31にはそれぞれ、芯線への圧着に伴い、前方に向けて次第に上方へ突出する前ベルマウス313、および後方に向けて次第に上方へ突出する後ベルマウス314の少なくとも一方が形成されることが好ましい。そうしたベルマウス313,314によれば、芯線圧着部31により芯線に加えられる応力を分散させることができる。
本実施形態の芯線圧着部31には、前ベルマウス313および後ベルマウス314のいずれも形成されている。
なお、図4(a)に二点鎖線で示しているように、前ベルマウス313が芯線圧着部31に形成されていなくてもよい。後ベルマウス314も同様である。
【0024】
前ベルマウス313は、左圧着片311および右圧着片312にそれぞれ形成される。後ベルマウス314も同様である。本実施形態の前ベルマウス313は、前側移行部40の領域における上側に形成されているが、前ベルマウスが芯線圧着部31の領域に形成されていてもよく、また、両方の領域に亘り形成されていてもよい。また、本実施形態の後ベルマウス314は、後側移行部50の領域における上側に形成されているが、後ベルマウスが被覆圧着部32の領域に形成されていてもよく、両方の領域に亘り形成されていてもよい。
図1(b)には、端子1における下側を基準に前後方向xにおいて区分されている端子部10、前側移行部40、芯線圧着部31、後側移行部50、および被覆圧着部32のそれぞれの領域を示している。
【0025】
芯線圧着部31および被覆圧着部32により電線2が端子部10に圧着されている状態で、ハウジング6に形成されている図示しないキャビティに後方から端子1が挿入されると、ハウジング6に形成されている図示しないランスに端子1が係止される。
本実施形態は、キャビティへの挿入時、あるいは、キャビティに収容されている端子部10が前側から後側へと押される逆挿入時等において座屈しない強度を確保しつつ、板厚をより一層薄くすることが可能な端子1を提供する。
【0026】
〔前側移行部の構成〕
前側移行部40は、特に図4および図5に示すように、芯線圧着部31と端子部10との間に介在している。前側移行部40の寸法は、芯線圧着部31の下側の最前部31Fから端子部10の下側の最後部10Rに向かうにつれて次第に左右方向yおよび上下方向zに拡大している。
前側移行部40は、端子部10の下壁13、左壁14、および右壁15からそれぞれ後方に連なる下壁43、左壁44、および右壁45を備えている。上方に向けて開放されている左壁44と右壁45との間には、ハウジング6に形成されている図示しないランスが配置される。
下壁43、左壁44、および右壁45はそれぞれ、芯線圧着部31の下部310、左圧着片311の前ベルマウス313、および右圧着片312の前ベルマウス313に連なっている。
【0027】
前ベルマウス313の前端313F(端縁)の位置で、前ベルマウス313は、左壁44の上端44Uおよび右壁45の上端45Uからそれぞれ、少なくとも、芯線圧着部31による圧着に必要な寸法だけ突出している。図4(b)に示すように、右壁45の上下方向zの厚さは、端子部10の突起122の位置に合わせて、左壁44の上下方向zの厚さよりも低く設定されている。一方、左壁44は、前ベルマウス313の前端313Fの位置から前方に向かうにつれて次第に高くなっている。左壁44の高さの増加に伴い、前側移行部40の断面積が増加している。
【0028】
典型的な前側移行部40について言えば、例えば端子部10の突起122等に起因して、左右いずれかにおける上下方向zの厚さや形状に制約がある場合でも、左右対称に形成される。それに対し、本実施形態においては、左右の一方のみ、つまり左壁44側だけでも上下方向zの厚さを上側に増加させて前側移行部40の断面積を増加させている。そのため、本実施形態の前側移行部40は、左側と右側とで非対称に形成されている。
なお、後側移行部50についても、典型的には左右対称に形成されるところ、後述するように、左右非対称に形成されている。
但し、本実施形態には限らず、前側移行部40および後側移行部50が左右対称に形成されていてもよい。
【0029】
前側移行部40の下側の構成について説明する。上下方向zにおける前側移行部40の寸法が芯線圧着部31から端子部10に向かうにつれて下側へ拡大しているところ、左壁44の下縁44Eの形状の前後方向xに対する傾きが、図5(a)に矢印で示すように、二段階に亘り変化している。
左壁44の下縁44Eの形状は、右壁45の下縁45Eにも対称に表れる。つまり、前側移行部40の下側の形状は、左右対称に形成されている。
【0030】
前側移行部40の下側の構成を詳細に説明するため、第1の仮想線VL1を仮定する。第1の仮想線VL1は、図5(a)、(b)のような端子部10の側面視において、芯線圧着部31の下側の最前部31Fに相当する第1の始点SP1と、端子部10の下側の最後部10Rに相当する第1の終点EP1とを結ぶ直線である。第1の終点EP1は、第1の始点SP1よりも下方に位置している。
【0031】
前側移行部40の下側の形状は、図5(b)に示すように、第1の始点SP1から、第1の中間点MP1まで延びる第1の始点側直線SL1と、第1の中間点MP1から第1の終点EP1まで延びる第1の終点側直線EL1とによって与えられている。なお、プレス成形後のスプリングバック等により、直線SL1,EL1のそれぞれが厳密には直線ではない場合も許容される。
第1の中間点MP1は、第1の仮想線VL1よりも下方に位置している。また、前後方向xにおける第1の中間点MP1の位置は、前後方向xにおける前ベルマウス313の前端313Fの位置に相当する。
【0032】
図4(a))に示すように、前後方向xに対する第1の始点側直線SL1の傾きの角度θは、前後方向xに対する第1の終点側直線EL1の傾きの角度θよりも大きい。その角度の大きさの関係を維持しつつ、ハウジング6のキャビティに端子1を収容可能であり、かつ加工が可能な範囲(0°~90°)で、角度θ,θを適宜に変更することができる。
第1の始点側直線SL1および第1の終点側直線EL1により、前側移行部40は、第1の仮想線VL1に対し、下側に拡大されている第1の拡大領域A1(図5(b))を含んでいる。第1の拡大領域A1には斜線パターンが付されている。
前後方向xに対する第1の始点側直線SL1の傾きは、前後方向xに対する前ベルマウス313の側面視における傾きと同等に設定されている。但し、その限りではなく、前ベルマウス313の傾きと、第1の始点側直線SL1の傾きとが異なっていてもよい。
【0033】
〔後側移行部の構成〕
後側移行部50は、図3(a)、(b)に示すように、芯線圧着部31と被覆圧着部32との間に介在している。後側移行部50の寸法は、芯線圧着部31の下側の最後部31Rから被覆圧着部32の下側の最前部32Fに向かうにつれて次第に左右方向yおよび上下方向zに拡大している。
【0034】
後側移行部50は、被覆圧着部32の下部320、左圧着片321の後ベルマウス314、および右圧着片322の後ベルマウス314からそれぞれ後方に連なる下部53、左壁54、および右壁55を備えている。左壁54と右壁55との間は、上方に向けて開放されている。
下部53、左壁54、および右壁55はそれぞれ、被覆圧着部32の下部320、左圧着片321、および右圧着片322に連なっている。
【0035】
後ベルマウス314の後端314R(端縁)の位置で、後ベルマウス314は、左壁54の上端54Uおよび右壁55の上端55Uからそれぞれ、少なくとも、被覆圧着部32による圧着に必要な寸法だけ突出している。図3(b)に示すように、右壁55の高さは、被覆圧着部32の右圧着片322の位置に合わせて、後ベルマウス314の後端314Rから後方に向かうにつれて次第に低くなっている。一方、左壁54は、後ベルマウス314の後端314Rの位置から後方に向かうにつれて次第に高くなっている。左壁54の高さの増加に伴い、後側移行部50の断面積が増加している。
【0036】
後側移行部50の下側は、上述の前側移行部40の下側の形状に対し、前後対称の形状に構成されている。
図3(a)に、後側移行部50の左壁54の下縁の形状を示しているように、後側移行部50の下側の形状は、前後方向xに対する傾きが二段階に亘り変化している。左壁54の下側の形状は、右壁55の下側にも対称に表れる。
【0037】
図3(a)のような端子部10の側面視において、芯線圧着部31の下側の最後部31Rに相当する第2の始点SP2と、被覆圧着部32の下側の最前部32Fに相当する第2の終点EP2とを結ぶ第2の仮想線VL2を示す。第2の終点EP2は、第2の始点SP2よりも下方に位置している。
【0038】
後側移行部50の下側の形状は、第2の始点SP2から、第2の中間点MP2まで延びる第2の始点側直線SL2と、第2の中間点MP2から第2の終点EP2まで延びる第2の終点側直線EL2とによって与えられている。第2の中間点MP2は、第2の仮想線VL2よりも下方に位置している。また、前後方向xにおける第2の中間点MP2の位置は、前後方向xにおける後ベルマウス314の後端314Rの位置に相当する。
【0039】
前後方向xに対する第2の始点側直線SL2の傾きは、前後方向xに対する第2の終点側直線EL2の傾きよりも大きい。その傾きの大きさの関係を維持しつつ、第2の始点側直線SL2および第2の終点側直線EL2それぞれの傾きの角度を適宜に変更することができる。
第2の始点側直線SL2および第2の終点側直線EL2により、後側移行部50は、第2の仮想線VL2に対し、下側に拡大されている第2の拡大領域A2を含んでいる。
前後方向xに対する第2の始点側直線SL2の傾きは、前後方向xに対する後ベルマウス314の側面視における傾きと同等に設定されている。但し、必ずしもその限りではなく、後ベルマウス314の傾きと、第2の始点側直線SL2の傾きとが異なっていてもよい。
【0040】
〔本実施形態の作用効果〕
以下、比較例を参照しつつ、端子1の座屈強度に係る作用効果を説明する。
図6(a)、(b)はいずれも、本実施形態に対する比較例を示している。図6(a)に示す前側移行部40-1は、本実施形態の前側移行部40よりも前後方向xに長い。図6(b)に示す前側移行部40-2の前後方向xの寸法は、本実施形態の前側移行部40の前後方向xの寸法と同等である。
【0041】
前側移行部40-1の下側形状は、前後方向xに対して一定の角度をなして一方向に延びる直線L1により与えられている。前側移行部40-2の下側の形状も、同様の直線L2により与えられている。直線L1,L2のいずれも、第1の始点SP1と、第1の終点EP1とを結ぶ第1の仮想線VL1に一致しているので、前側移行部40-1,40-2のいずれも、第1の仮想線VL1に対し、下側に拡大されている第1の拡大領域A1を含んでいない。
【0042】
座屈強度は、使用される材料が同一であれば、断面積と長さ(前後方向xの寸法)により決まる。本実施形態の端子1によれば、第1の拡大領域A1により前側移行部40の断面積が拡大される。また、第2の拡大領域A2により後側移行部50の断面積が拡大される。したがって、板厚が極めて薄いとしても、断面積が拡大されている分、端子1の座屈強度を高め、挿入時等に座屈しない強度を担保することができる。
【0043】
座屈は、長さ方向(x)において断面積がより小さい位置、特に、長さ方向において断面積が急激に変化している段差等を起点として起こり易い。
図6(a)に示す比較例の端子1-1の前側移行部40-1は、本実施形態の前側移行部40と比べて前後方向xに長い。その上、本実施形態および比較例のそれぞれの断面積が切り替わる段差の箇所に引いた破線の矢印(図5(a)および図6(a))の長さの相違から、前側移行部40-1の上下方向zの厚さは本実施形態の前側移行部40の上下方向zの厚さよりも薄く、その分、前側移行部40-1の断面積は本実施形態の前側移行部40の断面積よりも小さい。
そのため、端子1-1の板厚が薄いと、挿入時等に必要な座屈強度を確保できず、端子1-1に加えられる前後方向xへの圧縮力により、例えば一点鎖線で示すように端子1-1が段差の箇所を起点X1として座屈する可能性がある。
【0044】
端子1-1と比べて短い図6(b)の端子1-2も、板厚が極めて薄い場合には、例えば、芯線圧着部31の下側の最前部31Fの位置を起点X2として座屈する可能性がある。
本実施形態と同様に、前側移行部40-2の後側に二点鎖線で示すように前ベルマウス313を形成する場合は、例えば、前側移行部40-2に対して段差をなしている前ベルマウス313の前端の下側の位置を起点X3として端子1-2が座屈する可能性がある。
【0045】
図5(a)の破線矢印および図6(b)の破線矢印の長さの相違から、本実施形態の前側移行部40の上下方向zの厚さは、第1の拡大領域A1の分、前側移行部40-2の上下方向zの厚さよりも増加している。そのため、本実施形態の前側移行部40の断面積は、前側移行部40-1の断面積よりも大きい。したがって、本実施形態の端子1は、同一材料および同一長さの比較例の端子1-2と比べて座屈強度が高い。
【0046】
座屈は、必ずしも端子部10と芯線圧着部31との間で発生するとは限らず、芯線圧着部31と被覆圧着部32との間で発生する可能性もある。そのため、後側移行部50が前側移行部40と同様に構成され、第2の拡大領域A2を含むことで断面積が拡大されていることによっても、端子1の座屈強度を確保することができる。
【0047】
以上で説明したように、本実施形態の端子1によれば、前側および後側の移行部40,50の少なくとも一方に拡大領域A1,A2を備えることにより、板厚が極めて薄いとしても端子1に必要な座屈強度を担保することができる。そのため、端子1のより一層の小型化を図り、端子1を備えたコネクタの小型化を促進することができる。
【0048】
本実施形態の第1の拡大領域A1(図5(b))の端縁は、始点側直線SL1と終点側直線EL1との交点に相当する第1の中間点MP1において、第1の仮想線VL1から最も離れている。この第1の中間点MP1は、前後方向xにおいて、前ベルマウス313と前側移行部40との段差313Sの位置にある。そのため、前側移行部40は、段差313Sの位置で第1の仮想線VL1に対して最大に拡大されている。
同様に、後側移行部50も、第2の中間点MP2の位置に相当する後ベルマウス314と被覆圧着部32との段差314Sの位置で第2の仮想線VL2から最大に拡大されている。
座屈の生じ易い、断面積が切り替わる段差313S,314S等の箇所に第1の中間点MP1または第2の中間点MP2が位置しており、仮想線VL1,VL2よりも下側へ断面積が十分に拡大されていることによれば、座屈強度をより十分に担保することができる。
【0049】
また、本実施形態においては、左側および右側の一方のみ、つまり左壁44側、左壁54側だけでも上下方向zの厚さを上側に増加させて、前側移行部40および後側移行部50の断面積を増加させることによっても、座屈強度がより十分に担保されている。
【0050】
座屈強度を担保するため、移行部40,50の長さや圧着部31,32の長さを短くするとしても、加工や接続品質等に係る理由から、それぞれに必要な最小限の長さがあるため、短くできない場合がある。端子部10の長さも同様である。
ここで、図6(a)に示すように前側移行部40-1が長いとしても、例えば二点鎖線で示すように、芯線圧着部31の上側の最前部31UFよりも後方に、芯線圧着部31の下側の最前部31F-1を設定するとともに、最前部31F-1に相当する始点SP1-1と終点EP1とを結ぶ仮想線に対して拡大領域A1-1を付加することによれば、端子1-1の断面積を増加させて必要な座屈強度を確保することが可能となる。
【0051】
〔変形例〕
上記実施形態では、前後方向xにおいて、第1の中間点MP1の位置と、前ベルマウス313の前端313Fの位置とが一致しているが、それに限られない。前後方向xにおける第2の中間点MP2と後ベルマウス314の後端314Rとの位置関係も同様である。
例えば、前後方向xにおける前ベルマウス313の寸法が、上記実施形態(図5(a))と比べ、図7(a)に示すように短い場合や、図7(b)に示すように長い場合には、第1の中間点MP1の位置と、前ベルマウス313の前端313Fの位置とが前後方向xにシフトしている。
【0052】
また、例えば図8(a)に示すように、前後方向xに対する始点側直線SL1の傾きの角度θ1-1が上記実施形態における始点側直線SL1の傾きの角度θよりも大きい場合は、第1の拡大領域A1の形状が上記実施形態における形状とは相違しているとともに、中間点MP1の位置と、前ベルマウス313の前端313Fの位置とが前後方向xにシフトしている。
【0053】
ところで、第1の拡大領域A1の形状は、直線に限らず、湾曲した線により与えられていてもよい。第2の拡大領域A2の形状も同様である。
図8(b)に示す第1の拡大領域A1の形状は、第1の始点SP1と第1の終点EP1とを結ぶ湾曲線CLにより与えられている。湾曲線CLは、下方に向けて凸の形状に湾曲している。
【0054】
図7(a)、(b)および図8(a)、(b)のいずれに示す形態も、前側または後側の移行部40,50に適用することができ、いずれの形態であっても、前後方向xにおいて断面積が変化する箇所の付近に拡大領域A1,A2等が存在することで、移行部の断面積を増加させて端子の座屈強度を担保することができる。
【0055】
上記以外にも、本発明の主旨を逸脱しない限り、上記実施形態で挙げた構成を取捨選択したり、他の構成に適宜変更したりすることが可能である。
【符号の説明】
【0056】
1,1-1,1-2 端子
2 電線
6 ハウジング
10 端子部
10R 最後部
11 開口
12 上壁
13 下壁
14 左壁
15 右壁
21 被覆
30 圧着部
31 芯線圧着部
31F 最前部
31R 最後部
32 被覆圧着部
32F 最前部
40 前側移行部
43 下壁
44 左壁
44E 下縁
44U 上端
45 右壁
45E 下縁
45U 上端
50 後側移行部
53 下部
54 左壁
54U 上端
55 右壁
55U 上端
122,123 突起
151 支持部
310 下部
311 左圧着片
312 右圧着片
313 前ベルマウス
313F 前端(端縁)
313S 段差
314 後ベルマウス
314R 後端(端縁)
314S 段差
320 下部
321 左圧着片
322 右圧着片
A1 第1の拡大領域
A2 第2の拡大領域
CL 湾曲線
EL1 第1の終点側直線
EL2 第2の終点側直線
EP1 第1の終点
EP2 第2の終点
L1,L2 直線
MP1 第1の中間点
MP2 第2の中間点
SL1 第1の始点側直線
SL2 第2の始点側直線
SP1 第1の始点
SP2 第2の始点
VL1 第1の仮想線
VL2 第2の仮想線
X1,X2,X3 起点
x 前後方向
y 左右方向
z 上下方向
θ,θ 角度
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8