(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023105415
(43)【公開日】2023-07-31
(54)【発明の名称】コンクリート部材のガラス化方法及びコンクリート製排水構造物並びにガラス化補修コンクリート部材
(51)【国際特許分類】
C04B 41/60 20060101AFI20230724BHJP
E04G 23/02 20060101ALI20230724BHJP
E03F 3/04 20060101ALI20230724BHJP
【FI】
C04B41/60
E04G23/02 A
E03F3/04 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022006211
(22)【出願日】2022-01-19
(71)【出願人】
【識別番号】504194878
【氏名又は名称】国立研究開発法人海洋研究開発機構
(71)【出願人】
【識別番号】000208204
【氏名又は名称】大林道路株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000000549
【氏名又は名称】株式会社大林組
(74)【代理人】
【識別番号】110001885
【氏名又は名称】弁理士法人IPRコンサルタント
(72)【発明者】
【氏名】川人 洋介
(72)【発明者】
【氏名】金井 大翔
(72)【発明者】
【氏名】光谷 修平
(72)【発明者】
【氏名】福本 勝司
(72)【発明者】
【氏名】香川 敦
【テーマコード(参考)】
2D063
2E176
4G028
【Fターム(参考)】
2D063BA19
2D063BA37
2E176AA01
2E176BB01
4G028AA02
(57)【要約】
【課題】レーザ照射によってコンクリート部材の任意の領域をガラス化する方法であって、レーザの定点照射による溶融部(ガラス層の種)の形成が不要であることに加えて、局所的なガラス化が可能であり、更に、コンクリートの爆裂を抑制することができる簡便かつ効率的なガラス化手法を提供する。また、本発明のガラス化手法によって得られる優れた耐食性や低い透水係数を有するコンクリート製排水構造物及びガラス化補修コンクリート部材を提供する。
【解決手段】コンクリート部材の任意の領域をガラス化する方法であって、コンクリート部材の表面にレーザを照射し、当該表面におけるレーザのビーム径を10~100μmとし、レーザの出力を100~1000Wとすること、を特徴とするコンクリート部材のガラス化方法。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
コンクリート部材の任意の領域をガラス化する方法であって、
前記コンクリート部材の表面にレーザを照射し、
前記表面における前記レーザのビーム径を10~100μmとし、
前記レーザの出力を100~1000Wとすること、
を特徴とするコンクリート部材のガラス化方法。
【請求項2】
前記レーザのパワー密度を10~50MW/cm2とすること、
を特徴とする請求項1に記載のコンクリート部材のガラス化方法。
【請求項3】
前記レーザの走査速度を100~1000mm/secとすること、
を特徴とする請求項1又は2に記載のコンクリート部材のガラス化方法。
【請求項4】
ファイバレーザを使用すること、
を特徴とする請求項1~3のうちのいずれかに記載のコンクリート部材のガラス化方法。
【請求項5】
前記コンクリート部材の前記表面に存在する亀裂の位置、形状及び大きさを特定する第一工程と、
前記亀裂に対して前記照射を施す第二工程と、を有すること、
を特徴とする請求項1~4のうちのいずれかに記載のコンクリート部材のガラス化方法。
【請求項6】
前記コンクリート部材をコンクリート製排水構造物とし、
前記コンクリート製排水構造物の底版上面及び/又は内壁面に対して前記照射を施すこと、
を特徴とする請求項1~4のうちのいずれかに記載のコンクリート部材のガラス化方法。
【請求項7】
前記コンクリート部材の透水係数を1×10-7cm/s以下とすること、
を特徴とする請求項1~6のうちのいずれかに記載のコンクリート部材のガラス化方法。
【請求項8】
底版上面及び/又は内壁面の少なくとも一部にガラス化層が形成されていること、
を特徴とするコンクリート製排水構造物。
【請求項9】
前記ガラス化層の厚さが100~20000μmであること、
を特徴とする請求項8に記載のコンクリート製排水構造物。
【請求項10】
コンクリート部材の表面の少なくとも一部にガラス化層が形成されており、
前記ガラス化層を有する前記コンクリート部材の透水係数が1×10-7cm/s以下であること、
を特徴とするガラス化補修コンクリート部材。
【請求項11】
前記ガラス化層と前記コンクリート部材の接合強度が98N/cm2以上であること、
を特徴とする請求項10に記載のガラス化補修コンクリート部材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はコンクリート部材のガラス化方法及び当該ガラス化方法によって得られるコンクリート製排水構造物並びにガラス化補修コンクリート部材に関する。
【背景技術】
【0002】
レーザビームには質量が無いため、レーザ加工は基本的に無騒音かつ無振動で行うことができ、金属材の加工及び溶接等のみならず、コンクリート材への処理についても注目され、建築分野への適用可能性についての調査が開始されている。
【0003】
具体的には、シリカ成分を含むコンクリートや岩に対してレーザを照射すると、照射領域のシリカ成分が溶融してガラス化することが報告されており、当該現象を利用して、岩盤切削やコンクリート材への孔あけ及び表面処理等が検討されている。
【0004】
例えば、特許文献1(特開平6-80485号公報)においては、建築用材料基材の表面に無機物質を主成分とする表面付着材を配置し、レーザを照射することにより表面層を溶融し、強固な膜が形成された建築材料を得る表面処理方法が提案されている。
【0005】
上記特許文献1に記載のレーザ溶接装置においては、建築用材料基材と表面付着材の両方を溶融するため強固な硬化膜を作成することができ、建設用材料の表面に着色した硬化膜を容易に形成することや、建設用材料の表面に断熱、遮音効果を持たせることができる、としている。
【0006】
また、特許文献2(特開平11-19785号公報)においては、セメント硬化体にレーザを照射して、セメント硬化体の強度を低下させた脆弱層を形成した後に、当該脆弱層を除去することにより穿孔することを特徴とするセメント硬化体の穿孔方法が提案されている。
【0007】
上記特許文献2に記載のセメント硬化体の穿孔方法においては、低騒音・低振動の装置を用いて穿孔対象物たるセメント硬化体に十分強度を低下させた脆弱層を形成し、その後に当該脆弱層を除去するため、低速回転の機械式又は手動式の工具を用いて当該脆弱層を除去することができる。その結果、穿孔時における振動や騒音の発生を極力抑えることができ、穿孔時における作業環境及び周辺環境の改善を図ることができる、としている。
【0008】
また、本発明者も、特許文献3(国際公開第2020/026766号)においてレーザ照射を用いたガラスバルク体の製造方法を開示している。当該発明は、砂粒の集合体、岩石又はコンクリートに対してレーザ照射し、これらの砂粒の集合体、岩石又はコンクリートに含まれるシリカ(SiO2)成分を原料として、任意の領域に緻密なガラス層を連続的に形成させる簡便なガラスバルク体の製造方法を提供すること、を目的として、砂粒の集合体、岩石及びコンクリートはシリカ(SiO2)成分を含み、当該表面にレーザを定点照射し、溶融部を形成させる第一工程と、当該溶融部が連続して拡大する走査速度で前記レーザの照射位置を移動させ、ガラス層を形成させる第二工程と、を有し、第一工程と第二工程を連続して行うこと、を特徴とするガラスバルク体の製造方法、というものである。
【0009】
上記特許文献3に記載のガラスバルク体の製造方法においては、レーザの定点照射によってガラス層の種となる溶融部を形成した後、レーザの走査によって当該溶融部を連続して拡張することで、良好なガラスバルク体を得ることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開平6-80485号公報
【特許文献2】特開平11-19785号公報
【特許文献3】国際公開第2020/026766号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、上記特許文献1に記載の建設用材料及びその表面処理方法は、レーザ照射に対して成分等が調整された無機物質を主成分とする表面付着材を使用することが必須であり、レーザ照射によって当該表面付着材を溶融させ、建築用材料基材の表面に被覆するものである。即ち、上記特許文献1に記載の表面処理方法はレーザ照射を用いた無機物質の被覆方法であり、コンクリート部材の任意の領域をガラス化するものではない。
【0012】
また、上記特許文献2に記載のセメント硬化体の穿孔方法は、レーザ照射を用いてセメント硬化体に脆弱層を形成させるものであり、欠陥等の形成が抑制された緻密なガラス層を任意の領域に形成させる方法とは全く逆の方向性を有する技術である。更に、脆弱層を形成させるのは穿孔領域に相当する狭い領域に限定されることに加え、当該脆弱層を連続的に形成させる必要もない。
【0013】
更に、上記特許文献3に記載のガラスバルク体の製造方法においては、コンクリート部材の表面に良好なガラス化領域を形成することができるが、レーザの定点照射による溶融部をレーザの走査によって拡大していく必要があり、任意の領域を局所的にガラス化することは困難であった。加えて、比較的大きな領域に対してレーザ照射を施すため、コンクリート部材の爆裂を完全に抑制することが難しく、適用できるコンクリート部材及び作業環境が限定される。特に、コンクリート製排水構造物等の既設のコンクリート部材に適用し、十分な耐食性等を付与することは困難である。また、コンクリート部材の表面に開口部を有する亀裂に対して、正確かつ効率的に補修することも困難である。即ち、コンクリート製排水構造物の内面処理やコンクリート部材に存在する亀裂の補修等に好適に用いることができる簡便かつ効率的なガラス化手法は存在しない。
【0014】
以上のような従来技術における問題点に鑑み、本発明の目的は、レーザ照射によってコンクリート部材の任意の領域をガラス化する方法であって、レーザの定点照射による溶融部(ガラス層の種)の形成が不要であることに加えて、局所的なガラス化が可能であり、更に、コンクリートの爆裂を抑制することができる簡便かつ効率的なガラス化手法を提供することにある。また、本発明は、本発明のガラス化手法によって得られる優れた耐食性や低い透水係数を有するコンクリート製排水構造物及びガラス化補修コンクリート部材を提供することも目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明者は上記目的を達成すべく、コンクリート部材表面へのレーザ照射方法等について鋭意研究を重ねた結果、レーザのビーム径と出力を共に制御すること等が極めて重要であるということを見出し、本発明に到達した。
【0016】
即ち、本発明は、
コンクリート部材の任意の領域をガラス化する方法であって、
前記コンクリート部材の表面にレーザを照射し、
前記表面における前記レーザのビーム径を10~100μmとし、
前記レーザの出力を100~1000Wとすること、
を特徴とするコンクリート部材のガラス化方法、を提供する。
【0017】
本発明のコンクリート部材のガラス化方法においては、レーザのビーム径を10μm以上とすることで、産業的に利用可能な程度のガラス化の速度及び効率を確保することができる。一方で、レーザのビーム径を100μm以下とすることで、コンクリートの爆裂を抑制することができる。レーザのビーム径は20~90μmであることが好ましく、30~80μmであることがより好ましく、40~70μmであることが最も好ましい。
【0018】
また、本発明のコンクリート部材のガラス化方法においては、10~100μmのビーム径に対して、レーザの出力を100W以上とすることで、レーザの定点照射による溶融部(ガラス層の種)を形成させることなく、レーザ走査領域のコンクリート部材をガラス化することができる。一方で、レーザの出力を1000W以下とすることで、コンクリートの爆裂を抑制することができる。レーザの出力は200~900Wとすることが好ましく、300~800Wとすることがより好ましく、400~700Wとすることが最も好ましい。
【0019】
また、本発明のコンクリート部材のガラス化方法においては、前記レーザのパワー密度を10~50MW/cm2とすること、が好ましい。パワー密度を10MW/cm2以上とすることで、レーザの定点照射による溶融部(ガラス層の種)を形成させることなく、レーザ走査領域のコンクリート部材をより確実にガラス化することができる。加えて、産業的に利用可能な程度のガラス化の速度及び効率を確保することができる。また、パワー密度を50MW/cm2以下とすることで、コンクリートの爆裂をより確実に抑制することができる。パワー密度は15~45MW/cm2とすることがより好ましく、20~40MW/cm2とすることが最も好ましい。
【0020】
また、本発明のコンクリート部材のガラス化方法においては、前記レーザの走査速度を100~1000mm/secとすること、が好ましい。レーザの走査速度を100mm/sec以上とすることで、ガラス化の速度及び効率の確保と爆裂の抑制を同時に達成することができる。また、レーザの走査速度を1000mm/sec以下とすることで、ガラス化領域を安定して連続的に形成することができる。レーザの走査速度は300~800mm/secとすることがより好ましく、500~600mm/secとすることが最も好ましい。
【0021】
また、本発明のコンクリート部材のガラス化方法においては、ファイバレーザを使用すること、が好ましい。本発明のコンクリート部材のガラス化方法に用いるレーザの種類は、本発明の効果を損なわない限りにおいて特に限定されず、従来公知の種々のレーザを用いることができるが、ファイバレーザを用いることで、10~100μmのビーム径と100~1000Wのレーザ出力を容易に実現することができる。
【0022】
また、本発明のコンクリート部材のガラス化方法においては、前記コンクリート部材の前記表面に存在する亀裂の位置、形状及び大きさを特定する第一工程と、前記亀裂に対して前記照射を施す第二工程と、を有すること、が好ましい。コンクリート部材の表面に亀裂が存在する場合、当該亀裂の位置、形状及び大きさを第一工程において予め把握し、第二工程において当該亀裂に対して正確にレーザ照射を行うことで、当該亀裂のガラス化によるコンクリート部材を効率的かつ効果的に補修することができる。
【0023】
また、本発明のコンクリート部材のガラス化方法においては、前記コンクリート部材をコンクリート製排水構造物とし、前記コンクリート製排水構造物の底版上面及び/又は内壁面に対して前記照射を施すこと、が好ましい。コンクリート製排水構造物の底版上面及び/又は内壁面に対してレーザ照射を施してガラス化することで、耐食性に優れたコンクリート製排水構造物を極めて効率的に製造することができる。コンクリート製排水構造物は、本発明の効果を損なわない限りにおいて特に限定されず、従来公知の種々のコンクリート製排水構造物を対象とすることができ、例えば、コンクリート製桝、コンクリート製側溝及びコンクリート製ヒューム管等とすることができる。
【0024】
また、例えば、既設のコンクリート製排水構造物の内面処理としてプラスチックでライニングする場合、汚泥等によるコンクリート部材表面の汚れや水分が接着を阻害するが、本発明のコンクリート部材のガラス化方法においてはレーザ照射によってコンクリート製排水構造物の表面が汚泥ごと溶融してガラス化し、水分は瞬時に気化するため、これらの影響を殆ど受けない。その結果、既設のコンクリート製排水構造物に対しても好適に処理を施すことができる。
【0025】
更に、本発明のコンクリート部材のガラス化方法においては、前記コンクリート部材の透水係数を1×10-7cm/s以下とすること、が好ましい。コンクリート部材表面のガラス化、特に亀裂を有する表面のガラス化によって、コンクリート部材の透水係数を1×10-7cm/s以下とすることで、信頼性及び長期安定性に優れたコンクリート部材を得ることができる。コンクリート部材の透水係数は0.5×10-7cm/s以下とすることがより好ましく、0.1×10-7cm/s以下とすることが最も好ましい。
【0026】
また、本発明は、底版上面及び/又は内壁面の少なくとも一部にガラス化層が形成されていること、を特徴とするコンクリート製排水構造物、も提供する。なお、本発明における「ガラス化層」や「ガラス化領域」は、コンクリート部材の表面がガラス化されたものであり、当該コンクリート部材以外の原料を用いてガラス層を形成させたものではない。
【0027】
本発明のコンクリート製排水構造物は、底版上面及び/又は内壁面の少なくとも一部にガラス化層が形成されており、従来一般的なコンクリート製排水構造物と比較して、耐食性が飛躍的に改善されている。ここで、ガラス化層はコンクリート製排水構造物が酸性の水と常時接する領域に形成されていることが好ましい。
【0028】
コンクリート製排水構造物は酸と反応すると劣化する。また、飲料工場等でアルカリ性の排水が排出される場合は、強化プラスチック管等を使用し、桝等のプラスチック部材を使用し難い部位においては、コンクリート部材にプラスチックをライニング等して、酸がコンクリート部材に作用しないようにする必要がある。これに対し、本発明のコンクリート製排水構造物においては、酸性の水に接する領域が化学的安定性に優れたガラス層で被覆されており、良好な耐食性が付与されている。
【0029】
本発明のコンクリート製排水構造物においては、前記ガラス化層の厚さが100~20000μmであること、が好ましい。ガラス化層の厚さを100μm以上とすることで、コンクリート製排水構造物に極めて良好な耐食性を付与することができ、20000μm以下とすることで、コンクリート製排水構造物の脆化やガラス化の処理コストを低減することができる。ガラス化層のより好ましい厚さは200~15000μmであり、最も好ましい厚さは300~10000μmである。
【0030】
本発明のコンクリート製排水構造物は、本発明のコンクリート部材のガラス化方法によって好適に得ることができる。
【0031】
更に、本発明は、コンクリート部材の表面の少なくとも一部にガラス化層が形成されており、前記ガラス化層を有する前記コンクリート部材の透水係数が1×10-7cm/s以下であること、を特徴とするガラス化補修コンクリート部材、も提供する。
【0032】
ガラス化層が形成された領域は本発明の効果を損なわない限りにおいて特に限定されないが、亀裂等の欠陥を有する領域をガラス化層とすることによって透水が効果的に抑制され、透水係数が1×10-7cm/s以下となっている。より好ましい透水係数は0.5×10-7cm/s以下であり、最も好ましい透水係数は0.1×10-7cm/s以下である。
【0033】
また、本発明のガラス化補修コンクリート部材においては、前記ガラス化層と前記コンクリート部材の接合強度が98N/cm2以上であること、が好ましい。接合強度が98N/cm2以上となっていることで、ガラス化補修コンクリート部材を信頼性が要求される用途にも好適に用いることができる。
【発明の効果】
【0034】
本発明のコンクリート部材のガラス化方法によれば、レーザの定点照射による溶融部(ガラス層の種)の形成が不要であることに加えて、局所的なガラス化が可能であり、更に、コンクリートの爆裂を抑制することができる簡便かつ効率的なガラス化手法を提供することができる。また、本発明は、本発明のガラス化手法によって得られる優れた耐食性や低い透水係数を有するコンクリート製排水構造物及びガラス化補修コンクリート部材を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【
図1】本発明のコンクリート部材のガラス化方法(コンクリート製排水構造物の製造方法)の模式図である。
【
図2】本発明のコンクリート部材のガラス化方法(コンクリート部材の補修方法)の模式図である。
【
図3】本発明のコンクリート製排水構造物(ガラス化コンクリート製排水構造物)の模式図である。
【
図4】本発明のガラス化補修コンクリート部材の模式図である。
【
図5】実施例1で用いたコンクリート部材の外観写真である。
【
図6】実施例1におけるレーザ照射後のコンクリート部材の外観写真である。
【
図7】実施例1における耐塩酸試験の状況を示す供試体の外観写真である。
【
図8】実施例2で用いたコンクリート部材の外観写真である。
【
図9】実施例2におけるレーザ照射後のコンクリート部材の外観写真である。
【発明を実施するための形態】
【0036】
以下、図面を参照しながら本発明のコンクリート部材のガラス化方法及びコンクリート製排水構造物並びにガラス化補修コンクリート部材の代表的な実施形態について詳細に説明するが、本発明はこれらのみに限定されるものではない。なお、以下の説明では、同一または相当部分には同一符号を付し、重複する説明は省略する場合がある。また、図面は、本発明を概念的に説明するためのものであるから、表された各構成要素の寸法やそれらの比は実際のものとは異なる場合もある。
【0037】
(1)コンクリート部材のガラス化方法
本発明のコンクリート部材のガラス化方法は、コンクリート部材の表面にレーザを照射し、コンクリート部材の任意の領域をガラス化する方法であって、レーザの定点照射による溶融部(ガラス層の種)の形成が不要であることに加えて、局所的なガラス化が可能であり、更に、コンクリートの爆裂を抑制することができる。以下、本発明のコンクリート部材のガラス化方法を用いてコンクリート製排水構造物を製造する場合とコンクリート部材を補修する場合を代表例として、詳細に説明する。
【0038】
(1-1)コンクリート製排水構造物の製造
図1に、本発明のコンクリート部材のガラス化方法を用いてコンクリート製排水構造物を製造する場合の模式図を示す。
図1においては、コンクリート製排水構造物がコンクリート製桝であり、既設の場合を示している。
【0039】
コンクリート製排水構造物2は地中に埋設されており、上部はマンホール4で覆われているのが一般的である。また、コンクリート製排水構造物2は塩化ビニール製等の排水管6と接続されている。
【0040】
コンクリート製排水構造物2の内面に対して、ビーム径を10~100μm、レーザの出力を100~1000Wとする条件でレーザを照射することで、照射領域に良好なガラス化領域を形成させることができる。コンクリート製排水構造物2が既設の場合であり、排水管6等に接続されている場合であっても、レーザ発振器8からのレーザを走査することで容易に処理を行うことができる。なお、コンクリート製排水構造物2に対して工場施行する場合は、コンクリート製排水構造物2を回転等させてレーザを走査してもよい。
【0041】
レーザの照射領域(ガラス化領域)は、コンクリート製排水構造物2の底版上面及び内壁面とし、水と接触する領域を網羅することが好ましく、桝内設計水位以上を想定することがより好ましい。コンクリート製排水構造物の底版上面及び内壁面に対してレーザ照射を施してガラス化することで、耐食性に優れたコンクリート製排水構造物を極めて効率的に製造することができる。コンクリート製排水構造物は、本発明の効果を損なわない限りにおいて特に限定されず、従来公知の種々のコンクリート製排水構造物を対象とすることができ、例えば、コンクリート製桝、コンクリート製側溝及びコンクリート製ヒューム管等とすることができる。
【0042】
コンクリート製排水構造物2の表面におけるレーザのビーム径を10μm以上とすることで、産業的に利用可能な程度のガラス化の速度及び効率を確保することができ、例えば、既設のコンクリート製排水構造物2に対して処理を施す場合であっても、夜間のみで対応することもできる。一方で、当該ビーム径を100μm以下とすることで、コンクリートの爆裂を抑制することができ、現場施工においても十分に安全性を確保することができる。レーザのビーム径は20~90μmであることが好ましく、30~80μmであることがより好ましく、40~70μmであることが最も好ましい。
【0043】
また、10~100μmのビーム径に対して、レーザの出力を100W以上とすることで、レーザの定点照射による溶融部(ガラス層の種)を形成させることなく、レーザ走査領域のコンクリート部材をガラス化することができる。一方で、レーザの出力を1000W以下とすることで、コンクリートの爆裂を抑制することができる。レーザの出力は200~900Wとすることが好ましく、300~800Wとすることがより好ましく、400~700Wとすることが最も好ましい。
【0044】
また、レーザのパワー密度は10~50MW/cm2とすることが好ましい。パワー密度を10MW/cm2以上とすることで、レーザの定点照射による溶融部(ガラス層の種)を形成させることなく、レーザ走査領域のコンクリート製排水構造物2の内面をより確実にガラス化することができる。加えて、産業的に利用可能な程度のガラス化の速度及び効率を確保することができる。また、パワー密度を50MW/cm2以下とすることで、コンクリートの爆裂をより確実に抑制することができる。パワー密度は15~45MW/cm2とすることがより好ましく、20~40MW/cm2とすることが最も好ましい。
【0045】
また、レーザの走査速度は100~1000mm/secとすることが好ましい。レーザの走査速度を100mm/sec以上とすることで、ガラス化の速度及び効率の確保と爆裂の抑制を同時に達成することができる。また、レーザの走査速度を1000mm/sec以下とすることで、ガラス化領域を安定して連続的に形成することができる。レーザの走査速度は300~800mm/secとすることがより好ましく、500~600mm/secとすることが最も好ましい。
【0046】
また、レーザの照射にはファイバレーザを使用することが好ましい。照射に用いるレーザの種類は、本発明の効果を損なわない限りにおいて特に限定されず、従来公知の種々のレーザを用いることができるが、ファイバレーザを用いることで、10~100μmのビーム径と100~1000Wのレーザ出力を容易に実現することができる。
【0047】
更に、コンクリート製排水構造物2の内面に形成されたガラス化層の厚さは100~20000μmであることが好ましい。ガラス化層の厚さを100μm以上とすることで、コンクリート製排水構造物2に極めて良好な耐食性を付与することができ、20000μm以下とすることで、コンクリート製排水構造物2の脆化やガラス化の処理コストを低減することができる。ガラス化層のより好ましい厚さは200~15000μmであり、最も好ましい厚さは300~10000μmである。
【0048】
(1-2)コンクリート部材の補修
図2に、本発明のコンクリート部材のガラス化方法を用いてコンクリート部材を補修する場合の模式図を示す。
【0049】
本発明のコンクリート部材のガラス化方法を用いてコンクリート部材を補修する場合は、コンクリート部材10の表面に存在する亀裂12の位置、形状及び大きさを特定する第一工程と、亀裂12に対して照射を施す第二工程と、を有することが好ましい。
【0050】
コンクリート部材10の表面に亀裂12が存在する場合、亀裂12の位置、形状及び大きさを第一工程において予め把握し、第二工程において亀裂12に対して正確にレーザ照射を行うことで、コンクリートのガラス化によって亀裂12の開口部を塞ぎ、亀裂12から水が侵入することによる鉄筋14の錆びを防止することができる。
【0051】
コンクリート部材10の透水係数は1×10-7cm/s以下とすることが好ましい。コンクリート部材10表面のガラス化、特に亀裂12を有する表面のガラス化によって、コンクリート部材10の透水係数を1×10-7cm/s以下とすることで、信頼性及び長期安定性に優れたコンクリート部材10を得ることができる。コンクリート部材10の透水係数は0.5×10-7cm/s以下とすることがより好ましく、0.1×10-7cm/s以下とすることが最も好ましい。
【0052】
なお、レーザの照射条件等は、コンクリート製排水構造物を製造する場合と同様であるが、亀裂12の開口部をより確実に塞ぐため、同じ領域に対してレーザ照射を重畳させてもよい。また、コンクリート部材10の補修は現場施工となることから、補修に要する時間の削減とコンクリートの爆裂の防止は極めて重要となる。
【0053】
(2)コンクリート製排水構造物
図3に、本発明のコンクリート製排水構造物(ガラス化コンクリート製排水構造物)の模式図を示す。
図3においては、コンクリート製排水構造物がコンクリート製桝の場合を示している。
【0054】
ガラス化コンクリート部材20は、コンクリート製排水構造物2の底版上面及び内壁面にガラス化領域22が形成されていることが好ましく、ガラス化領域22が水と接触する領域を網羅することがより好ましい。また、水と接触する領域については、桝内設計水位以上を想定することが好ましい。
【0055】
コンクリート製排水構造物2の底版上面及び内壁面にガラス化領域22が形成されていることで、ガラス化コンクリート部材20には優れた耐食性が付与されている。コンクリート製排水構造物2は、本発明の効果を損なわない限りにおいて特に限定されず、従来公知の種々のコンクリート製排水構造物を対象とすることができ、例えば、コンクリート製桝、コンクリート製側溝及びコンクリート製ヒューム管等とすることができる。
【0056】
(3)ガラス化補修コンクリート部材
図4に、本発明のガラス化補修コンクリート部材の模式図を示す。ガラス化補修コンクリート部材30は、コンクリート部材10の表面に達した亀裂12の開口部がガラス化領域22で塞がれたものである。
【0057】
コンクリート部材10の表面に亀裂12が存在する場合、亀裂12の位置、形状及び大きさを第一工程において予め把握し、第二工程において亀裂12に対して正確にレーザ照射を行うことで、コンクリートのガラス化によって亀裂12の開口部を塞ぎ、亀裂12から水が侵入することによる鉄筋14の錆びを防止することができる。
【0058】
ガラス化補修コンクリート部材30の透水係数は1×10-7cm/s以下とすることが好ましい。コンクリート部材10表面のガラス化、特に亀裂12を有する表面のガラス化によって、ガラス化補修コンクリート部材30の透水係数を1×10-7cm/s以下とすることで、信頼性及び長期安定性に優れたガラス化補修コンクリート部材30を得ることができる。ガラス化補修コンクリート部材30の透水係数は0.5×10-7cm/s以下とすることがより好ましく、0.1×10-7cm/s以下とすることが最も好ましい。
【0059】
また、ガラス化補修コンクリート部材30においては、ガラス化層とコンクリート部材10の接合強度が98N/cm2以上であることが好ましい。接合強度が98N/cm2以上となっていることで、ガラス化補修コンクリート部材30を信頼性が要求される用途にも好適に用いることができる。
【0060】
以上、本発明の代表的な実施形態について説明したが、本発明はこれらのみに限定されるものではなく、種々の設計変更が可能であり、それら設計変更は全て本発明の技術的範囲に含まれる。
【実施例0061】
≪実施例1≫
シングルモードファイバーレーザを用い、表1に示す組成を有する円盤状のコンクリート部材の表面にレーザを照射した。当該コンクリート部材の外観写真を
図5に示す。コンクリート部材の表面におけるレーザビーム径は43μm、レーザ出力は500Wとした(パワー密度:34.45MW/cm
2)。また、レーザの走査速度を260mm/secとし、コンクリート部材表面の全面に対してレーザを照射した。なお、レーザ走査のピッチ幅は0.05mmとし、レーザの定点照射は行っていない。
【0062】
【0063】
レーザ照射後のコンクリート部材の外観写真を
図6に示す。コンクリート部材の表面全体が変色しており、表面全体がガラス化されていることが分かる。なお、ガラス化したコンクリート部材は評価のために切断しており、外観写真における3本の縦線は当該切断に起因するものである。
【0064】
ガラス化領域の耐食性を評価するために、ガラス化領域をコンクリート部材から破砕分離し、耐塩酸試験に供した。具体的には、ガラス化領域破砕片の重量を気乾状態で計測した後、シャーレに入った実験用塩酸(10%)に30分間浸漬して反応状況を観察したところ、ガラス化領域破砕片からの発泡は僅かであり、反応が穏やかであることが確認された。次いで、30分間浸漬後のガラス化領域破砕片の重量を気乾状態で計測し、重量変化を評価した。なお、これらの評価は5つのガラス化領域破砕片について行った。得られた重量変化の結果を表2に示す。
【0065】
【0066】
比較として、ガラス化を施していないコンクリート部材についても、上記と同様にして耐食性を評価した。コンクリート部材破砕片を実験用塩酸(10%)に30分間浸漬して反応状況を観察したところ、コンクリート部材破砕片から多くの気泡が発生し、激しく反応が進んでいる様子が観察された。得られた重量変化の結果を表2に示す。
【0067】
ガラス化したコンクリート部材とガラス化していないコンクリート部材について、実験用塩酸(10%)に浸漬前、浸漬中及び浸漬後の外観写真を
図7に示す。ガラス化していない場合は浸漬後のコンクリート部材の表面が溶解によって荒れているが、ガラス化した場合は殆ど変化していない。表2の重量変化についても、ガラス化した場合は変化が小さく、ガラス化領域は極めて良好な耐食性を有していることが分かる。
【0068】
≪実施例2≫
図8に示す表面に亀裂を有するコンクリート部材に対してレーザ照射を施し、当該亀裂の開口部にガラス化領域を形成させた。コンクリート部材の組成は実施例1と同様である。
【0069】
レーザ照射の前工程として、コンクリート部材表面の亀裂の位置、形状及び大きさを把握し(第一段階)、実施例1と同様のレーザ照射条件を用いて当該亀裂に沿ってレーザを照射した(第二段階)。レーザ照射後のコンクリート部材の外観写真を
図9に示す。亀裂に沿ってガラス化領域が形成され、開口部が塞がっていることが分かる。