(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023105452
(43)【公開日】2023-07-31
(54)【発明の名称】生物由来核酸回収方法、および、生物由来核酸回収装置
(51)【国際特許分類】
G01N 1/04 20060101AFI20230724BHJP
C12M 1/00 20060101ALI20230724BHJP
【FI】
G01N1/04 H
C12M1/00 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022006286
(22)【出願日】2022-01-19
(71)【出願人】
【識別番号】000003609
【氏名又は名称】株式会社豊田中央研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100160691
【弁理士】
【氏名又は名称】田邊 淳也
(74)【代理人】
【識別番号】100167232
【弁理士】
【氏名又は名称】川上 みな
(72)【発明者】
【氏名】垣田 真奈美
(72)【発明者】
【氏名】田中 秀典
【テーマコード(参考)】
2G052
4B029
【Fターム(参考)】
2G052AB20
2G052AC03
2G052AD12
2G052BA17
2G052EA03
2G052ED01
2G052JA07
4B029AA09
4B029BB20
4B029CC02
4B029DG08
(57)【要約】
【課題】広い範囲を対象として陸上の生物に由来する核酸を回収する。
【解決手段】環境中から生物由来核酸を回収する生物由来核酸回収方法は、環境中の生物由来核酸を回収する対象である回収対象区域を設定し、前記回収対象区域において、回転体の表面を地表に接触させつつ回転させることによって、地表に存在する前記生物由来核酸を含む核酸含有堆積物を前記回転体の表面に付着させ、前記回転体から前記核酸含有堆積物を回収する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
環境中から生物由来核酸を回収する生物由来核酸回収方法であって、
環境中の生物由来核酸を回収する対象である回収対象区域を設定し、
前記回収対象区域において、回転体の表面を地表に接触させつつ回転させることによって、地表に存在する前記生物由来核酸を含む核酸含有堆積物を前記回転体の表面に付着させ、
前記回転体から前記核酸含有堆積物を回収する
生物由来核酸回収方法。
【請求項2】
請求項1に記載の生物由来核酸回収方法であって、さらに、
回収した前記核酸含有地表堆積物から核酸を抽出する工程を備える
生物由来核酸回収方法。
【請求項3】
環境中から生物由来核酸を回収するための生物由来核酸回収装置であって、
前記生物由来核酸回収装置の移動に伴って地表に接触しつつ回転し、地表に接触したときに、地表に存在する生物由来核酸を含む核酸含有堆積物が表面に付着される回転体と、
前記回転体の表面に付着した前記核酸含有堆積物を回収する回収体と、
を備える生物由来核酸回収装置。
【請求項4】
請求項3に記載の生物由来核酸回収装置であって、
前記回収体は、前記回転体の表面に接触して、前記回転体の表面に付着した前記核酸含有堆積物を回収する
生物由来核酸回収装置。
【請求項5】
請求項4に記載の生物由来核酸回収装置であって、
前記回収体は、回転体状部材、ブラシ状部材、および、はたき状部材のうちの少なくともいずれかを備える
生物由来核酸回収装置。
【請求項6】
請求項3に記載の生物由来核酸回収装置であって、
前記回収体は、前記回転体における地表に接触する表面を構成するように、前記回転体において着脱可能に設けられている
生物由来核酸回収装置。
【請求項7】
請求項6に記載の生物由来核酸回収装置であって、
前記回収体は、シート状に形成されている
生物由来核酸回収装置。
【請求項8】
請求項6または7に記載の生物由来核酸回収装置であって、
前記回収体は、ゴム、樹脂、不織布のうちの少なくともいずれかによって構成されている
生物由来核酸回収装置。
【請求項9】
請求項3から8までのいずれか一項に記載の生物由来核酸回収装置であって、
前記生物由来核酸回収装置を鉛直方向に投影して見たときの、前記生物由来核酸回収装置全体の面積に対する前記回転体の面積が8%以上である
生物由来核酸回収装置。
【請求項10】
請求項3から9までのいずれか一項に記載の生物由来核酸回収装置であって、さらに、
前記回転体と、外部の自律走行可能な走行体と、を接続する接続部材を備える
生物由来核酸回収装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、生物由来核酸回収方法および生物由来核酸回収装置に関する。
【背景技術】
【0002】
環境中に存在する生物種を調査あるいはモニタリングする方法として、環境中から生物由来核酸を回収し、回収した核酸を解析して、この核酸が由来する生物種を特定する方法が挙げられる。生物由来核酸とは、生物の遺伝情報を含み、生物から環境中へと放出された核酸であり、環境DNA等の環境中に存在する核酸に含まれる。このような生物由来核酸を環境中から回収して解析する方法としては、例えば、河川等の水域から採取した水試料(環境水試料)を、環境DNA分析に供する方法が知られている(例えば、特許文献1および特許文献2参照)。また、陸生哺乳類を検出する方法としては、定点カメラの映像解析結果と組み合わせて、カメラの近傍で土壌を採取(例えば、2mごとに深さ2cmで土壌をサンプリング)して、環境DNA解析を行う方法が知られている(例えば、非特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2017-99376号公報
【特許文献2】特開2020-92645号公報
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】Kevin Leempoel et al. A comparison of eDNA to camera trapping for assessment of terrestrial mammal diversity. Rroceedings of the Royal Society B. 2020 Jan 15, vol. 287(1918)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、水試料を分析する場合には、試料を採取した水域に生息する魚類や水鳥、あるいは、水域を訪れた動物などの核酸しか回収できないため、水域から離れて生息する陸生生物についても、生物由来核酸を回収して解析することが望まれていた。特に、水中では核酸は分解されやすい性質を有するため、比較的分解され難い乾燥状態で生物由来核酸が存在する陸上から生物由来核酸を回収することにより、網羅的に存在する生物種を調査・モニタリング可能になることが期待される。陸域の生物由来核酸の回収方法として、非特許文献1に記載のように解析対象として土壌を採取する場合には、広範囲にサンプリングを行うことが困難であった。そのため、広い範囲を対象として、陸上の生物に由来する核酸を回収できる技術が望まれていた。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示は、以下の形態として実現することが可能である。
(1)本開示の一形態によれば、環境中から生物由来核酸を回収する生物由来核酸回収方法が提供される。この生物由来核酸の回収方法は、環境中の生物由来核酸を回収する対象である回収対象区域を設定し、前記回収対象区域において、回転体の表面を地表に接触させつつ回転させることによって、地表に存在する前記生物由来核酸を含む核酸含有堆積物を前記回転体の表面に付着させ、前記回転体から前記核酸含有堆積物を回収する。
この形態の生物由来核酸回収方法によれば、設定された回収対象区域において、生物由来核酸回収装置が備える回転体の表面を地表に接触させつつ回転させることによって、地表に存在する生物由来核酸を含む核酸含有堆積物を回転体の表面に付着させて、核酸含有堆積物を回収する。このように、地表の核酸含有堆積物を回収するために、回転体を地表と接触させつつ回転させるという簡便な動作を行えばよいため、回収対象区域において、陸上の生物に由来する核酸を、広い範囲から網羅的にサンプリングすることが可能になる。また、地表から回収される核酸含有堆積物は、地表で生息する生物に由来する核酸だけでなく、大気中に放出された生物由来核酸も含み得るため、回収対象区域に生息あるいは滞在したより広い生物種の生物由来核酸を回収することが可能になる。
(2)上記形態の生物由来核酸回収方法において、さらに、回収した前記核酸含有地表堆積物から核酸を抽出する工程を備えることとしてもよい。このような構成とすれば、回収対象区域に生息あるいは滞在した生物について、偏りを抑えたより広い生物種の核酸を抽出することができる。
(3)本開示の他の一形態によれば、環境中から生物由来核酸を回収するための生物由来核酸回収装置が提供される。この生物由来核酸回収装置は、前記生物由来核酸回収装置の移動に伴って地表に接触しつつ回転し、地表に接触したときに、地表に存在する生物由来核酸を含む核酸含有堆積物が表面に付着される回転体と、前記回転体の表面に付着した前記核酸含有堆積物を回収する回収体と、を備える。
この形態の生物由来核酸回収装置によれば、生物由来核酸回収装置が備える回転体の表面を地表に接触させつつ回転させることによって、地表に存在する生物由来核酸を含む核酸含有堆積物を回転体の表面に付着させ、その後、回転体の表面に付着した核酸含有堆積物が回収体によって回収される。このように、地表の核酸含有堆積物を回収するために、回転体を地表と接触させつつ回転させるという簡便な動作を行えばよいため、陸上の生物に由来する核酸を、広い範囲から網羅的にサンプリングすることが可能になる。また、地表から回収される核酸含有堆積物は、地表で生息する生物に由来する核酸だけでなく、大気中に放出された生物由来核酸も含み得るため、より広い生物種の生物由来核酸を回収することが可能になる。
(4)上記形態の生物由来核酸回収装置において、前記回収体は、前記回転体の表面に接触して、前記回転体の表面に付着した前記核酸含有堆積物を回収することとしてもよい。このような構成とすれば、回収体を回転体の表面に接触させることにより、核酸含有堆積物を回収することができる。
(5)上記形態の生物由来核酸回収装置において、前記回収体は、回転体状部材、ブラシ状部材、および、はたき状部材のうちの少なくともいずれかを備えることとしてもよい。このような構成とすれば、回転体の表面に付着した核酸含有堆積物を回収体によって回収する動作を、効率よく行うことができる。
(6)上記形態の生物由来核酸回収装置において、前記回収体は、前記回転体における地表に接触する表面を構成するように、前記回転体において着脱可能に設けられていることとしてもよい。このような構成とすれば、回転体の表面に核酸含有堆積物を付着させた後に、回転体の表面を構成する回収体を取り外すことにより、核酸含有堆積物を回収することができる。
(7)上記形態の生物由来核酸回収装置において、前記回収体は、シート状に形成されていることとしてもよい。このような構成とすれば、回収体によって回転体の表面を構成すること、および、回転体において回収体を着脱することが容易になり、回収体を用いた生物由来核酸の回収効率を高めることができる。
(8)上記形態の生物由来核酸回収装置において、前記回収体は、ゴム、樹脂、不織布のうちの少なくともいずれかによって構成されていることとしてもよい。このような構成とすれば、地表に存在する核酸含有堆積物を、良好に回収体に付着させることができる。
(9)上記形態の生物由来核酸回収装置において、前記生物由来核酸回収装置を鉛直方向に投影して見たときの、前記生物由来核酸回収装置全体の面積に対する前記回転体の面積が8%以上であることとしてもよい。このような構成とすれば、回転体の面積を確保することにより、回転体を用いた生物由来核酸の回収効率を高めることができる。
(10)上記形態の生物由来核酸回収装置において、さらに、前記回転体と、外部の自律走行可能な走行体と、を接続する接続部材を備えることとしてもよい。このような構成とすれば、自律走行可能な走行体とは別体で設けられた回転体により、核酸含有堆積物を回収することができる。
本開示は、上記以外の種々の形態で実現可能であり、例えば、生物由来核酸の抽出方法や、生物由来核酸の解析方法などの形態で実現することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】生物由来核酸回収方法を表すフローチャート。
【
図2】生物由来核酸回収装置を用いて生物由来核酸を回収する様子を表す説明図。
【
図3】生物由来核酸回収装置において生物由来核酸を回収する動作を表す説明図。
【
図4】生物由来核酸の抽出方法の一例を示すフローチャート。
【
図5】生物由来核酸の抽出方法の他の一例を示すフローチャート。
【
図6】生物由来核酸回収装置を用いて生物由来核酸を回収する様子を表す説明図。
【
図7】生物由来核酸回収装置を用いて生物由来核酸を回収する様子を表す説明図。
【
図8】環境DNAサンプルを解析した解析結果を示す説明図。
【発明を実施するための形態】
【0008】
A.第1実施形態:
(A-1)生物由来核酸回収方法の概要:
図1は、第1実施形態の生物由来核酸回収方法を表すフローチャートである。
図2は、生物由来核酸回収装置10を用いて、
図1に示す生物由来核酸回収方法の一部を実行する様子を模式的に表す説明図である。ここで、生物由来核酸とは、生物の遺伝情報を含む核酸として、生物を構成していた物質である。回収する生物由来核酸は、デオキシリボ核酸(DNA)とすればよいが、リボ核酸(RNA)を含む生物由来核酸を、回収および解析の対象としてもよい。本実施形態では、生物由来核酸を回収するために、生物由来核酸回収装置10を用いて、生物由来核酸を含む核酸含有堆積物を地表から回収している。核酸含有堆積物には、種々の生物体から剥がれた細胞や組織片、排泄物由来物質、生物の死骸に由来する物質(破片など)などが含まれる。地表に存在する核酸含有堆積物には、地表よりも上方(地表、地上、空中など)に存在する種々の生物種に由来する生物由来核酸が含まれる。以下では、
図1および
図2を用いて、生物由来核酸回収方法の概要について説明する。
【0009】
生物由来核酸を回収する際には、生物種の調査・モニタリングを行う調査者は、まず、生物由来核酸を回収する対象とするための回収対象区域を設定する(工程T100)。回収対象区域は、生息する生物種を調査・モニタリングする対象となる区域であり、設定した回収対象区域から生物由来核酸を回収して解析することにより、当該区域に生息する生物種を調査・モニタリングすることが可能になる。
【0010】
次に、調査者は、生物由来核酸回収装置を用意する(工程T110)。
図2(A)に示すように、本実施形態の生物由来核酸回収装置10は、走行用の車輪である回転体12を備える陸上移動体である。生物由来核酸回収装置10の構成については、後に詳しく説明する。なお、
図2(A)~
図2(C)では、生物由来核酸回収装置10が移動する方向を、白抜き矢印により示している。
【0011】
次に、調査者は、工程T100で設定した回収対象区域において、回転体12を地表に接触させつつ、生物由来核酸回収装置10を移動させる(工程T120)。
図2(B)および
図2(C)に示すように、生物由来核酸回収装置10を移動させる際には、生物由来核酸回収装置10の移動に伴って回転体12が地表20に接触しつつ回転して移動する。その結果、地表20に回転体12が押し当てられて、地表20に存在する核酸含有堆積物22が回転体12の表面に付着する。回収対象区域内において生物由来核酸回収装置10が移動する場所は、例えば舗装道路のように、地表20が平坦であって、回転体12と地表20との間の接触面積がより大きくなることが望ましい。ただし、土が露出する地表や、芝生等の植物が生えた地表等、種々の態様の地表を走行することとしてもよい。上記したような地表の態様の他、回転体12に核酸含有堆積物が付着する状態は、例えば、天候の影響を受ける。具体的には、例えば雨天の後には、地表の核酸含有堆積物が流されて消失していたり、晴天時とは異なる生物種が地表に表れたりすることにより、核酸含有堆積物の状態が変化し得る。回収した生物由来核酸を解析することにより、例えば、回収対象区域における生物種のモニタリングを繰り返し行う場合には、回収対象区域において核酸含有堆積物を回収する際の条件を揃えることが望ましい。
【0012】
工程T120において回転体12の表面に核酸含有堆積物を付着させる動作を開始した後、調査者は、工程T130において、回収対象区域内における生物由来核酸回収の動作が完了していないと判断するときには(工程T130;NO)、工程T120の動作を継続する。例えば、生物由来核酸回収装置10を回収対象区域内で移動させる際の移動距離や、生物由来核酸回収装置10の移動時間等が、予め定めた基準値に達したときに、生物由来核酸の回収の動作が完了したと判断することができる。あるいは、回収対象区域内で生物由来核酸回収装置10が移動するパターンを予め設定しておき、このパターンに従った移動が終了したときに、生物由来核酸の回収の動作が完了したと判断することができる。生物由来核酸回収装置10の移動距離を長くして、回転体12と地表20とが接触する機会が増えるほど、回転体12に付着する生物由来核酸の量を増加させることができる。
【0013】
工程T130において、回収対象区域内における生物由来核酸回収の動作が完了したと判断するときには(工程T130;YES)、調査者は、回転体12から生物由来核酸を回収する(工程T140)。回転体12から核酸含有堆積物を回収して、核酸含有堆積物から生物由来核酸を得る動作については、後に詳しく説明する。
【0014】
(A-2)生物由来核酸回収装置の構成:
図3は、第1実施形態の生物由来核酸回収装置10において、回転体12に付着した生物由来核酸を回収する動作を表す説明図である。
図3に示すように、生物由来核酸回収装置10は、生物由来核酸の回収に係る構成として、回転体12に加えて回収体30を備える。なお、既述した
図2では、回収体30の記載は省略している。以下では、生物由来核酸回収装置10の全体構成について説明すると共に、回転体12および回収体30を用いた生物由来核酸の回収に係る構成について順次説明する。
【0015】
本実施形態の生物由来核酸回収方法に用いる生物由来核酸回収装置10は、既述したように、走行用の車輪である回転体12を備える陸上移動体である。
図2では、生物由来核酸回収装置10は、回転体12である車輪を4つ備える四輪車としているが、三輪車、二輪車、あるいは一輪車とするなど、異なる構成としてもよい。生物由来核酸回収装置10は、電動機や内燃機関など、生物由来核酸回収装置10を移動させる動力源を搭載した自走式の移動体としてもよく、あるいは、外部から人力などの動力を付与することにより移動可能になる非自走式の装置であってもよい。以下では、自走式の装置と非自走式の装置を合わせて「移動体」と呼ぶ。
【0016】
このような生物由来核酸回収装置10は、移動に係る運転を行う運転者が搭乗する有人の装置であってもよく、自動運転や遠隔操作ができる無人の装置であってもよい。自動運転や遠隔操作ができる無人の装置の場合には、生物由来核酸回収装置10全体をより小型化することが可能になる。そのため、有人の装置では侵入が困難となる狭隘な箇所にも侵入して、生物由来核酸を回収することが可能になる。また、生物由来核酸回収装置10は、生物由来核酸を回収するための専用装置として構成する他、一般用途の車両や、農業用途あるいは建設用途など、種々の用途の自走車両等の移動体を、基本構造として有していてもよい。
【0017】
生物由来核酸回収装置10が備える回転体12において、地表20と接する面積が大きいほど、
図1に示す生物由来核酸の回収の動作の1回当たりの核酸回収量、すなわち、核酸として取得できる情報量を増加させることができる。そのため、核酸回収量増加の観点からは、生物由来核酸回収装置10を鉛直方向に投影して見たときの、核酸回収装置10全体の面積に対する回転体12の面積は、1%以上とすればよく、8%以上とすることが望ましく、10%以上とすることがより望ましく、20%以上とすることがさらに望ましい。特に、生物由来核酸回収装置10を、生物由来核酸を回収するための専用機として構成する場合には、生物由来核酸回収装置10全体の面積に対する回転体12の面積を、比較的大きくすることが容易になる。
【0018】
回転体12は、生物由来核酸回収装置10の走行用の車輪としての使用に支障が無く、地表20に押し当てたときに核酸含有堆積物が付着可能な材料によって構成されていればよい。生物由来核酸を回収するために回転体12を再使用する場合には、前回使用時に付着した生物由来核酸が残留することを抑える処理、具体的には、回転体12を洗浄する処理や、塩素系漂白剤や核酸分解剤等を用いた核酸除去処理を繰り返し行うことができる材料により、回転体12を構成すればよい。回転体12は、例えば、ステンレス鋼やシリコーン樹脂等により基部を構成すると共に、少なくとも、地表に接触する表面を、ゴム、あるいは樹脂により構成すればよい。
【0019】
既述した
図3に示す回収体30は、回転体12の表面に接触して、回転体12の表面に付着した核酸含有堆積物を回収する部材である。回収体30は、回転体12の近傍に設けられており、生物由来核酸回収装置10が移動して、核酸含有堆積物を回転体12に付着させる動作を行う間は、回転体12の表面から離間した位置で保持される。そして、核酸含有堆積物を回転体12に付着させる動作が終了した後に、
図1の工程T140において、回転体12の表面に押し当てるように移動される。
【0020】
図3に示す生物由来核酸回収装置10では、回収体30は、生物由来核酸回収装置10に設けられた回転軸31を中心として任意の位置に回転されるアーム32の先端に設けられている。例えば、モータ等を用いてアーム32を予め設定された角度だけ回転させて、回収体30を回転体12に押し当て、その位置において回収体30を保持することとすればよい。あるいは、回収体30を、回転体12の上方で鎖状部材の先端に固定することによって吊り下げることとしてもよい。この場合には、例えば、回収体30を吊り下げる部材を鉛直方向に移動させることにより、回収体30を回転体12の上部に接触させ、回収体30の自重により回転体12に押し当てることとすればよい。このように回収体30を回転体12に押し当てた状態で、生物由来核酸回収装置10を、さらに移動させることにより、回転体12が回転して、回転体12の表面に付着した核酸含有堆積物が、回収体30に回収される。
【0021】
回収体30の形状は、回転体12に接触させることにより、回転体12表面に付着する核酸含有堆積物を回収可能であればよいが、回転体12と接触する表面積を大きくすることで、回転体12から回収体30に回収される核酸含有堆積物の回収量を増やすことが可能になる。回転体12と接触する表面積を確保する観点から、回収体30は、例えば、回転体状部材とすることができる。
図3では、回収体30を回転体状部材によって構成する場合を示している。
図3に示す回転体状部材としての回収体30は、円柱状に形成されており、円柱状の回収体30の中心軸と重なるように設けられた回転軸33がアーム32の先端に設けられている。そして、円柱状の回収体30の側面が回転体12に押し当てられると、回転体12の回転に伴って回収体30も回転し、回転体12の表面から回収体30へと核酸含有堆積物が転写されて回収される。このように、回転体形状である回収体30を用いることで、効率よく核酸含有堆積物を回収することができる。
【0022】
また、回収体30は、ブラシ状部材としてもよい。ブラシ状部材である回収体30の毛先部分を回転体12に押し当てることで、核酸含有堆積物を回収体30によって効率よく回収することができる。あるいは、回収体30は、はたき状部材としてもよい。具体的には、細長形状の布部材、あるいは、細長形状の樹脂製やゴム製のシート部材を、根元で束ねた形状の部材としてもよい。これにより、回収体30を構成する部材の面積の合計を大きく確保して、核酸含有堆積物を回収体30によって効率よく回収することができる。なお、回収体30は、上記とは異なる形状であってもよく、回転体12の表面に回収体30を接触させることで、回転体12表面に付着した核酸含有堆積物を回収することができる形状であればよい。
【0023】
回収体30を回転体12に押し当てつつ回転体12を回転させる際には、回転体12の回転を伴う生物由来核酸回収装置10の移動距離を長くするほど、回収体30による核酸含有堆積物の回収量を増やすことができる。なお、
図3では、複数の回転体12のうちの一つの回転体12に対して回収体30を配置する様子を示しているが、核酸含有堆積物を回収するための回転体12として用いるすべての車輪に対して、回収体30を設ければよい。また、一つの回転体12に対して、複数の回収体30を設けてもよい。
【0024】
(A-3)生物由来核酸の抽出および解析:
以下では、回収体30によって回収した核酸含有堆積物から生物由来核酸を抽出する動作、および、これを用いた解析の概要について説明する。
【0025】
図4は、生物由来核酸の抽出方法の一例を示すフローチャートである。
図4では、例えば比較的小さい回収体30を用いた場合であって、回収体30から直接核酸抽出を行う場合を示す。生物由来核酸を抽出する際には、まず、核酸含有堆積物が付着した回収体30を用意する(工程T200)。この回収体30は、
図1の工程T140で、回転体12から核酸含有堆積物を回収したものである。
【0026】
その後、上記回収体30を、液中で破砕して懸濁する(工程T210)。ここで用いる液は、細胞や組織を溶解する溶解バッファー(Lysis buffer)とすればよい。回収体30の破砕は、上記液中に、回収体30に加えて、例えばセラミックビーズ等を加えて攪拌することにより行えばよい。このようにして回収体30を破砕することにより、回収体30に付着した核酸含有堆積物が回収体30から剥がされると共に、核酸含有堆積物中の生物由来核酸が、回収体30が破砕された懸濁液中に溶出する。
【0027】
その後、生物由来核酸が溶出した上記懸濁液から、生物由来核酸を抽出する(工程T220)。生物由来核酸の抽出は、例えば、上記懸濁液を遠心分離して、生物由来核酸が溶解した液を上清液として回収し、適切なカラムを選択して不純物を除去し、その後、核酸を吸着するカラムを用いて生物由来核酸を精製すればよい。上記した不純物としては、例えば、後述するPCRの工程に含まれる反応を阻害する物質を挙げることができる。工程T210およびT220として示した核酸抽出の工程は、公知の方法であり、例えば、市販の土壌DNA抽出キットを用いることとしてもよい。
【0028】
図5は、生物由来核酸の抽出方法の他の一例を示すフローチャートである。
図5では、例えば比較的大きい回収体30を用いた場合であって、核酸抽出に先立って、回収体30に付着した核酸含有堆積物を濃縮する操作を行う場合を示す。生物由来核酸を抽出する際には、まず、工程T200と同様に、核酸含有堆積物が付着した回収体30を用意する(工程T300)。
【0029】
その後、用意した回収体30を、液中で洗浄する(工程T310)。ここで用いる液は、核酸分解酵素を含まない、ヌクレアーゼフリーバッファーや、ヌクレアーゼフリー水とすればよい。このような液中で回収体30を洗浄することで、回収体30から核酸含有堆積物が剥がれて上記液中に移り、懸濁液となる。その後、核酸含有堆積物を含む懸濁液をろ過して、核酸含有堆積物を含む残渣を得ることにより、フィルタ上で核酸含有堆積物を濃縮する(工程T320)。ここで用いるフィルタの孔径は、回収体30に付着した物質に含まれる核酸含有堆積物を、効率よく回収できるように適宜選択すればよい。核酸含有堆積物を濃縮するためのフィルタの孔径は、例えば、0.22~10μmとすることが好ましく、0.22~5μmとすることがより好ましい。ろ過の際には、例えば、真空ポンプを用いて陰圧にする、あるいは、ポンプを用いて加圧する等により、ろ過効率を高めればよい。
【0030】
なお、回収体30に付着した物質としては、生物由来核酸の抽出対象として用い難い不要な物質も含まれ得る。そのため、上記したろ過による核酸含有堆積物の濃縮の効率、および、その後の核酸抽出の効率を高めるために、核酸含有堆積物の濃縮のためのろ過に先立って、上記した不要な物質を除去することとしてもよい。不要な物質の除去のためには、上記した核酸含有堆積物の濃縮のために用いるフィルタよりも目の粗いフィルタ(例えば孔径100μm程度)を用いて、核酸含有堆積物の濃縮に先だって、上記懸濁液をろ過することとすればよい。そして、得られたろ液を、核酸含有堆積物の濃縮のためのろ過に供すればよい。上記不要な物質としては、例えば、葉などの比較的大きな植物の破片、昆虫等の生物の死骸、石等が挙げられる。
【0031】
工程T320において核酸含有堆積物が濃縮されたフィルタを得ると、次に、上記フィルタを、液中で破砕して懸濁する(工程T330)。この工程T330は、
図4の工程T210と同様の工程である。これにより、フィルタ上で濃縮された核酸含有堆積物がフィルタから剥がされると共に、核酸含有堆積物中の生物由来核酸が、フィルタが破砕された懸濁液中に溶出する。その後、生物由来核酸が溶出した上記懸濁液から、生物由来核酸を抽出する(工程T340)。工程T340は、
図4の工程T220と同様の工程である。
【0032】
このようにして抽出された生物由来核酸を用いて、公知の種々の方法により解析を行うことができる。例えば、定量PCR(qPCR;quantitative PCR)による特定の生物種の有無判定や存在量の定量などの、種特異的な解析を行うことができる。このとき、例えば、鳥類、哺乳類等、特定の生物種のグループに着目して適宜プライマーを選択してPCRを行うことで、上記特定の生物種のグループに絞り込んだ解析が可能になる。また、適切なプライマーを選択してPCRを行うことで、より広い範囲の生物種を一度に特定することも可能である。また、次世代シーケンサー等を用いて得られた塩基配列をデータベースと照合することにより、生物種の同定を行う網羅的解析を行うこととしてもよく、同種内でのハプロタイプ解析を行うこととしてもよい。このようにして、回収対象区域に生息あるいは滞在した生物情報を得ることができる。
【0033】
以上のように構成された本実施形態の生物由来核酸回収方法、および、生物由来核酸回収装置10によれば、設定された回収対象区域において、生物由来核酸回収装置10が備える回転体12の表面を地表20に接触させつつ回転させることによって、地表20に存在する生物由来核酸を含む核酸含有堆積物22を回転体12の表面に付着させ、その後、回転体12の表面に回収体30を接触させて、回転体12に付着した核酸含有堆積物22を回収体30によって回収する。このように、地表の核酸含有堆積物を回収するために、回転体を地表と接触させつつ回転させればよいため、回収対象区域において、陸上の生物に由来する核酸を、より広い範囲から網羅的にサンプリングすることが可能になる。具体的には、回転体12を用いて核酸含有堆積物を回収するため、回収対象区域において、実際にサンプルが採取される箇所の偏りを抑えることができる。例えば、土壌を採取対象物とする場合には、一般に、サンプルの採取箇所は回収対象区域内で分散されることになるが、本実施形態のように回転体12を用いて核酸含有堆積物22を採取する場合には、回収対象区域内において、連続的に広がるような、より広い範囲からのサンプリングが可能になる。そのため、回収対象区域についての生息する生物種の調査・モニタリング等の解析を、網羅的に行うことが可能になる。
【0034】
また、本実施形態において地表20から回収する核酸含有堆積物は、地表で生息する生物に由来する核酸だけでなく、大気中に放出された生物由来核酸も含み得る。生物組織や排泄物等のように、生物由来核酸を含んでいて、ある程度の重量がある物質は、地表に集積するためである。そのため、本実施形態によれば、地表よりも上に存在する種々の生物種の解析が可能になる。例えば、土壌からのサンプリングであれば、得られる生物由来核酸は、サンプリングした土壌中に生息する生物由来の核酸に限られる可能性が高いが、本実施形態によれば、回収対象区域に生息あるいは滞在したより広い生物種の生物由来核酸を回収することが可能になる。特に本実施形態では、陸域の乾燥環境から核酸含有堆積物をサンプリングしており、例えば水域からサンプリングする場合に比べて、核酸がより安定して存在しうる環境からのサンプリングであるため、生物由来核酸の回収効率を高めることができる。
【0035】
なお、上記した第1実施形態では、生物由来核酸回収装置10は、回転体12に加えて回収体30を備えているが、異なる構成により生物由来核酸回収方法を実施してもよい。具体的には、回収体30を備えない移動体を生物由来核酸回収装置として用いて、この移動体が備える回転体12に核酸含有堆積物22を付着させ、その後、上記移動体とは別体で用意した回収用部材を用いて、移動体が備える回転体12から回収用部材へと、例えば手動にて核酸含有堆積物22を回収することによって、
図1の工程T140を実行してもよい。このとき、回転体12から核酸含有堆積物22を手動で回収するための回収用部材としては、例えば、第1実施形態で生物由来核酸回収装置10が備える回収体30の例として挙げた、回転体状部材、ブラシ形状、あるいは、はたき状部材を用いることが可能である。あるいは、綿棒様部材(スワブ状部材)としてもよく、回転体12表面からの核酸含有堆積物の回収が可能であればよい。
【0036】
B.第2実施形態:
図6は、第2実施形態の生物由来核酸回収装置110を用いて、
図1に示す生物由来核酸回収方法を実行する様子を模式的に表す説明図である。以下では、
図6および
図1に基づいて、生物由来核酸回収装置110を用いて生物由来核酸を回収する動作について説明する。
【0037】
図1の工程T110で用意される第2実施形態の生物由来核酸回収装置110は、回転体12に代えて回転体112を備え、回収体30に代えて、回転体112に含まれる回収体14を備える点以外は、第1実施形態の生物由来核酸回収装置10と同様の構成を有している。なお、第2実施形態では、生物由来核酸回収装置110が備える回転体を区別しないときには回転体112と総称し、区別するときには回転体112a、112bのように区別する。
【0038】
生物由来核酸回収装置110は、生物由来核酸回収装置110の移動に伴って地表に接触しつつ回転する走行用の車輪である回転体112を備える陸上移動体である。そして、生物由来核酸回収装置110は、
図6に示すような四輪車とする他、三輪車、二輪車、あるいは一輪車とするなど、異なる構成としてもよい。また、生物由来核酸回収装置110は、自走式の移動体であってもよく、非自走式の移動体であってもよい。また、生物由来核酸回収装置110は、有人の装置であってもよく、無人の装置であってもよい。
【0039】
生物由来核酸回収装置110が備える回転体112は、
図6(A)に示すように、回転体基部113と回収体14とを備える。回転体基部113は、生物由来核酸回収装置112の移動に伴って地表で回転する。回収体14は、回転体基部113における地表に対向する表面を被覆するように、回転体基部113に対して着脱可能に配置されて、回転体基部113の回転に伴って地表に接触するときに、地表に存在する生物由来核酸を含む核酸含有堆積物22が付着される部材である。
図6(A)では、回転体112aについては、回転体基部113に回収体14が取り付けられる前の様子を表しており、回転体112bについては、回転体基部113に回収体14が取り付けられた後の様子を表す。回収体14は、回転体基部113における地表に対向する表面を被覆できる形状であればよく、例えば、
図6(A)に示すように、回収体14をシート状に形成された部材として、このシート状部材を、回転体基部113における地表に対向する側面上に巻き付ける構成とすることができる。このとき、回転体基部113における地表に接触可能な側面の全周に回収体14を巻き付けることにより、また、回転体基部113における地表に接触可能な側面全体を覆うように回収体14を巻き付けることにより、回収体14における生物由来核酸を回収可能な面積を、より大きく確保することができる。回収体14は、シート状以外の形状としてもよく、例えば、回転体基部113の表面を覆うフィルム状としてもよい。あるいは、回収体14は、円筒状のスポンジ部材(発泡樹脂)によって形成して、回転体基部113の側面を覆うように回転体基部113にかぶせることとしてもよい。
【0040】
回収体14を構成する材料は、例えば、ゴム、樹脂、不織布のうちの少なくともいずれかとすることができる。回収体14を、帯電しやすい材料により形成する場合には、回収体14で発生する静電気を利用して、核酸含有堆積物が回収体14の表面に付着する効率を高めることができる。また、回収体14を、表面に比較的高い粘着性を有する樹脂やゴムにより形成する場合には、上記粘着性を利用して、核酸含有堆積物が回収体14の表面に付着する効率を高めることができる。回収体14を構成する材料は、核酸含有堆積物を回収するために回収体14が地表20に接触する際に、例えば土壌が有する水分等により変質し難い材料とすることが望ましい。また、回収体14の表面に、さらに、粘着性物質を配置して、核酸含有堆積物が回収体14の表面に付着する効率を高めることとしてもよい。
【0041】
回収体14であるシート状部材の厚みは、回転体基部113に巻き付けることができる柔軟性を確保する観点から、薄く形成することが望ましく、回転体基部113に巻き付けた状態で回転体112を回転させて核酸含有堆積物を付着させる動作に耐える強度を確保する観点から、厚く形成することが望ましい。回収体14の厚みは、回収体14を構成する材料の柔軟性や強度を考慮して、適宜設定すればよい。回収体14の厚みは、例えば、1mm以下とすることができる。
【0042】
回収体14は、回転体基部113に取り付けて固定するための取り付け部15を、端部に備えている(
図6(A)参照)。取り付け部15は、回転体基部113上で回収体14を着脱可能であって、回転体基部113に回収体14を巻き付けた状態で回転体12を回転させて核酸含有堆積物を付着させる動作に支障が無い構成であればよく、種々の態様を採用可能である。例えば、取り付け部15は、接着剤を備えることとして、接着剤によって回収体14の端部同士を接着することとしてもよい。あるいは、取り付け部15は、回転体基部113の表面を覆う回収体14とは別体で設けた取り付け具としてもよい。取り付け部15は、単回使用を想定した部材としてもよいが、取り付け部15を再使用する場合には、前回使用時に付着した生物由来核酸が残留することを抑える処理、具体的には、取り付け部15を洗浄する処理や、塩素系漂白剤や核酸分解剤等を用いた核酸除去処理を繰り返し行うことができる材料により、取り付け部15を構成すればよい。取り付け部15は、例えば、ステンレス鋼や樹脂等により構成することができる。また、取り付け部15を再使用する場合には、前回使用時に付着した生物由来核酸が残留することを抑える処理を容易化するために、取り付け部15を液中に浸漬して上記処理を行うことが容易になるようなより単純な形状、例えば、回収体14の端部同士を回転体基部113ごと挟んで固定するクリップ形状とすることが望ましい。
【0043】
回転体基部113は、生物由来核酸回収装置110の走行用の車輪としての使用に支障が無い材料により構成すればよく、回転体基部113を再使用する場合には、前回使用時に付着した生物由来核酸が残留することを抑えるための既述した処理を繰り返し行うことができる材料により構成すればよい。回転体基部113は、例えば、ステンレス鋼やシリコーン樹脂等の樹脂材料により形成することができる。ただし、回転体基部113は、単回使用の部材としてもよい。
【0044】
上記のような生物由来核酸回収装置110を用いて生物由来核酸の回収を行う際には、
図1の工程T110において生物由来核酸回収装置110を用意した後、工程T120において、生物由来核酸回収装置110を回収対象区域内で移動させると、回転体112が備える回収体14の表面に、核酸含有堆積物22が付着する(
図6(B)参照)。そして、工程T130において回収動作が完了したと判断すると、工程T140において、回転体基部113から回収体14を取り外して、生物由来核酸を回収する。
図6(C)では、回転体112aについては回収体14が取り外された後の様子を表しており、回転体112bについては、回収体14が取り外される前の様子を表している。
【0045】
回収体14から生物由来核酸を回収して生物由来核酸を抽出する動作は、
図5と同様の方法によって行うことができる。このとき、回収体14を、ゴムや樹脂により構成する場合には、不織布等により構成する場合とは異なり、回収体14の内部に核酸含有堆積物が入り込むことがない。そのため、
図5の方法に従って、工程T310において回収体14を液中で洗浄する方法に代えて、第1実施形態の回収体30と同様の部材や綿棒様部材(スワブ状部材)等の他の部材を用いて回収体14の表面を拭き取って、上記他の部材によって回収体14から核酸含有堆積物を回収することとしてもよい。この場合には、
図4または
図5に示した方法により、上記他の部材から生物由来核酸を抽出すればよい。回収体14は、単回使用とすることが望ましいが、例えば、上記のように回収体14の内部に核酸含有堆積物が入り込まない回収体14を用いて、拭き取りにより核酸含有堆積物を回収する場合には、既述した生物由来核酸の残留を抑える処理が可能な材料により回収体14を構成することで、回収体14を再使用することとしてもよい。
【0046】
このような第2実施形態の生物由来核酸回収装置110を用いる場合であっても、地表の核酸含有堆積物を回収するために、回転体を備える生物由来核酸回収装置を用いるため、第1実施形態と同様の効果が得られる。
【0047】
C.第3実施形態:
図7は、第3実施形態の生物由来核酸回収装置210を用いて地表の核酸含有堆積物を回収する動作を表す説明図である。第3実施形態の生物由来核酸回収装置210は、生物由来核酸回収装置210の外部に設けられて地上で自律走行可能な走行体50に取り付けて用いられ、走行体50の移動に伴って地表20に接触しつつ回転し、地表20に存在する生物由来核酸を含む核酸含有堆積物が表面に付着される回転体40を備える。
【0048】
走行体50は、第1実施形態の生物由来核酸回収装置10や第2実施形態の生物由来核酸回収装置110と同様の、陸上移動体であり、第1実施形態および第2実施形態で説明したように、種々の態様を採用可能である。第1実施形態および第2実施形態では、移動体の走行用の車輪を、核酸含有堆積物を回収するための回転体として用いたが、第3実施形態の生物由来核酸回収装置210が備える回転体40は、生物由来核酸回収装置210が取り付けられた走行体50の走行用の車輪とは別部材である。
【0049】
図7に示す生物由来核酸回収装置210は、地表20に存在する核酸含有堆積物が表面に付着される回転体40に加えて、回転体40と走行体50とを接続する接続部材42を備える。本実施形態の接続部材42は、アーム状部材として構成されている。接続部材42は、一端が、走行体50に設けられた回転軸41に取り付けられて、回転軸41を中心として回転可能となっている。また、接続部材42の他端には、回転体40が設けられている。なお、接続部材42は、回転体40と走行体50とを接続できればよく、
図7に示すアーム状部材以外の形状としてもよい。
【0050】
走行体50に取り付けられた生物由来核酸回収装置210を、核酸含有堆積物の回収のために使用しないときには、例えば、図示しない係合部を用いて、回転体40が地表20から離間した状態で保持されるように、接続部材42を走行体50に係合させておけばよい。そして、生物由来核酸回収装置210を用いた核酸含有堆積物の回収を開始するときには、上記係合部による係合状態を解除して、回転体40を地表20に落下させればよい。
図7(A)では、回転体40が、回転軸41を中心とする接続部材42の回転に伴って下方に落下する様子を、下向き矢印により示している。これにより、走行体50の移動に伴って、回転体40は、地表20に接触しつつ回転し、その結果、地表20に存在する核酸含有堆積物が回転体40の表面に付着する。なお、核酸含有堆積物を回収する動作を開始する前後で、回転体40が地表20に接触する状態と接触しない状態との間で切り替えるための切り替え機構は、
図7とは異なる機構を採用してもよい。
【0051】
このような切り替え機構を設けることにより、例えば、回転体40を用いた核酸含有堆積物の回収の動作を行うことが適切ではない箇所を走行体50が走行するときには、回転体40が地表20から離間する状態で保持し、上記動作に適した箇所では回転体40を地表20に接触させるという切り替え動作を、容易に行うことが可能になる。なお、生物由来核酸回収装置210は、核酸含有堆積物を回収する動作を行う際に、その都度、走行体50に取り付けることとしてもよい。
【0052】
図7では、生物由来核酸回収装置210が備える回転体40は、走行体50の進行方向後方に取り付けることとしたが、進行方向前方に取り付けることとしてもよい。走行体50の側方に回転体40を取り付ける、すなわち、走行体50の幅方向にはみ出すように回転体40を取り付けることも可能である。ただし、このような場合には、走行体50の幅が増大することにより、走行体50が侵入できる場所に制限を受ける可能性があり、また、走行体50の走行および回転体40の回転の安定性が低下しやすいため、核酸含有堆積物の回収効率が低下する可能性がある。そのため、接続部材42は、走行体50の前方あるいは後方にはみ出すように回転体40を取り付ける、あるいは、走行体50を鉛直方向に投影して見たときに、走行体50の外周の内側に回転体40が配置されるように回転体40を取り付けることが望ましい。
【0053】
なお、生物由来核酸回収装置210においては、回転体40を地表20に押し付ける力を、回転体40の自重によって得ることとしてもよく、あるいは、接続部材42によって、回転体40を地表20に向かって押し当てる力を加えることとしてもよい。
【0054】
生物由来核酸回収装置210における回転体40は、第1実施形態の回転体12と同様の構成として、核酸含有堆積物を回転体40の表面に直接付着させて、その後、第1実施形態の回収体30と同様の部材や綿棒様部材(スワブ状部材)等の他の部材を用いて回転体40の表面を拭き取って、上記他の部材から、核酸含有堆積物を回収することとしてもよい。また、生物由来核酸回収装置210において、第1実施形態の回収体30と同様の回収体を設け、このような回収体によって、回転体40の表面から核酸含有堆積物を回収することとしてもよい。あるいは、あるいは、回転体40は、第2実施形態の回転体112と同様に回転体基部113および回収体14を備えることとして、走行体50の走行に伴って核酸含有堆積物を回収体14に付着させた後、回転体40から回収体14を取り外すことによって、核酸含有堆積物を回収することとしてもよい。このとき、回転体40、回収体30、回転体基部113、あるいは回収体14を構成する材料は、第1実施形態および第2実施形態と同様に選択することができる。そして、
図4あるいは
図5に示す方法によって、上記した回収体30や回収体14に対応する部材から核酸含有堆積物を回収すると共に、生物由来核酸を抽出すればよい。
【0055】
このような第3実施形態の生物由来核酸回収装置210を用いる場合であっても、地表の核酸含有堆積物を回収するために、回転体を備える生物由来核酸回収装置を用いるため、第1実施形態と同様の効果が得られる。
【実施例0056】
本開示の生物由来核酸の回収方法に従って生物由来核酸を環境中から回収し、得られた生物由来核酸から生物種の同定を行った。具体的には、愛知県内の2箇所の20km区間を回収対象区域として設定した。そして、2021年4月と2021年6月に、各々の回収対象区域において、生物由来核酸の回収を行った。ここでは、上記した各々の20km区間において、
図2に示す生物由来核酸回収装置10であって、表面がゴム製の回転体12を備える生物由来核酸回収装置10を移動させ、回転体12の表面に核酸含有堆積物を付着させた。その後、回転体12に付着した核酸含有堆積物を、化学繊維で構成された回収用部材を押し当てて回収し、
図4の方法に従って、上記回収用部材から生物由来核酸を抽出した。工程T140においては、市販の土壌サンプル用DNA抽出キット(NucleoSpin Soil、タカラバイオ株式会社)(NucleoSpinは登録商標)を用いて、上記回収用部材からDNA抽出を行った。
【0057】
上記キットを用いて得られた核酸抽出液を、回収対象区域の環境DNAサンプルとし、所定のプライマー(既存の鳥類ユニバーサルプライマー)を用いて、PCR法により12SrRNA配列を増幅した。増幅にはKapa Hifi PCR Kit(KAPABIOSYSTEMS社製)を用い、PCRは4反復行った。さらに、配列解析用のインデックスを付加するためのPCRを行い、PCR産物のビーズ精製を行った。その後、次世代シーケンサーにより配列取得を行った。使用したシーケンサーは、Illumina iSeq100(イルミナ株式会社製)(iSeqは登録商標)である。
【0058】
図8は、上記の環境DNAサンプルを解析した解析結果を示す説明図である。取得した配列については、DNA解析用のパイプラインであるMiFish Pipeline により生物種を抽出し、さらに、得られた配列についてBLAST相同検索を行うことにより、生物種の同定を試みた。その中で、データベースとの相同性が97%以上の生物種のみを、
図8においてリスト化している。
図8では、属のレベルで生物種を同定した結果を示した。
図8に示すように、本開示の生物由来核酸の回収方法により、陸生の多種多様な鳥類が生息する、あるいは滞在したことを確認することができた。また、比較的近隣である2箇所の回収対象区域において、夏(6月)よりも春(4月)の方が生息する鳥類の種類が多いという同様の結果が得られた。
【0059】
本開示は、上述の実施形態等に限られるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲において種々の構成で実現することができる。例えば、発明の概要の欄に記載した各形態中の技術的特徴に対応する実施形態中の技術的特徴は、上述の課題の一部又は全部を解決するために、あるいは、上述の効果の一部又は全部を達成するために、適宜、差し替えや、組み合わせを行うことが可能である。また、その技術的特徴が本明細書中に必須なものとして説明されていなければ、適宜、削除することが可能である。